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年金積立金の運用の
基本方針に関する研究会
報 告




平成10年6月30日




目  次


1.基本的考え方

(1)運用の目的
(2)運用における制約条件の考慮
(3)保険料拠出者の意見の反映
(4)受託者責任の徹底
(5)情報開示の徹底

2.政策的資産構成割合の策定

(1)政策的資産構成割合の策定に当たっての留意点
(2)運用対象とする資産
(3)政策的資産構成割合の策定方法
(4)政策的資産構成割合の見直し
(5)政策的資産構成割合からの乖離許容幅
(6)政策的資産構成割合への移行

3.運用に当たっての留意事項

(1)リスク管理のための最大限の努力
(2)運用費用の合理的な支出
(3)個別銘柄株の選択や議決権の行使の制限
(4)市場への資金投入の分散化
(5)同一企業発行銘柄への投資の制限
(6)運用手法(運用スタイル)
(7)金融派生商品の利用の制限
(8)その他

(別紙1)公的年金のALM分析の枠組み

(別紙2)政策的資産構成割合策定の具体的な手順

(別紙3)政策的資産構成割合の例(参考)

委員名簿

照会先
 年金局運用指導課 伊藤善典
 電話 [現在ご利用いただけません](内線3348)
 夜間 03−3501−3450


年金積立金の運用の基本方針に関する研究会報告

1.基本的考え方

(1)運用の目的

現行公的年金制度の下における年金積立金の運用の目的は、世代間の負担の不公平を是正するため、その運用収入によって将来の保険料負担の増加を抑制し、年金制度・財政運営の安定化に資することとされている。
 年金積立金は年金給付に充てるため強制徴収した保険料の集積であり、その運用収入の如何によって将来の保険料負担が影響を受けることから、年金積立金は専ら保険料拠出者の利益のために運用されなければならない。

(2)運用における制約条件の考慮

年金積立金は、長期的な総合収益の確保を目指して効率的に運用することが求められているが、公的年金の場合、年金加入者及び受給者が将来にわたり年金給付を確実に受けることができるよう、安全確実に運用を行い、年金財政の安定を実現することが最優先の課題である。そのためには、運用リスク(運用収益の変動)を管理することなど、特に次のような制約条件に留意する必要がある。

ア.安定的な財政運営の確保(運用リスクの管理)

年金積立金の運用には、他の資産運用と同じく運用リスクが伴うので、運用収益が予定していた運用収入を上回り、最終保険料率の引下げを可能とする場合があるものの、一方で、予定していた運用収入を下回り、最終保険料率の引上げにつながる可能性もあり、安定的な年金財政運営に支障をきたすおそれがある。
 ある水準の収益を得るためには、それに相応するリスクを負担しなければならないということが市場の原理である。したがって、保険料拠出者の保険料負担の軽減のためにはある程度の運用リスクを負担することが必要であるが、安定的な年金財政運営のためには、運用結果によって最終保険料率の大きな変動につながることがないようにすることが重要である。特に運用収益の大幅な下方変動による保険料率の予期せざる引上げは保険料拠出者にとって大きな負担となることから、下方変動のリスクを管理し、最終保険料率の引上げの可能性をできるだけ小さく抑制することが不可欠である。

イ.実質的な運用収益の確保

現行制度の下では、年金給付額は物価や賃金の上昇に応じて改定されるので、これに対応した実質的な運用収益の確保を目指すことが必要である。

ウ.年金給付のための現金(キャッシュフロー)の確保

現在は、保険料収入が年金給付費を上回っているため、運用収益はすべて年金積立金として積み立てられているが、今後、制度の成熟化に伴い、年金給付費が保険料収入を上回り、運用収益等を年金給付に充てていくことが予想されるため、これに見合う現金(キャッシュフロー)を確保することが必要となる。

エ.市場への影響に対する配慮

現在預託されている年金積立金は、財投機関に対して長期資金として貸し付けられており、財政投融資制度の改革により資金運用部への預託が廃止されても、市場に投入される資金が一挙に増加するものではない。
しかし、年金積立金の市場運用額は、徐々に増加し、将来大きな額になる可能性があるため、市場規模を考慮するとともに、その運用によって市場の価格形成や民間の投資行動を歪めないよう配慮しなければならない。

(3)保険料拠出者の意見の反映

年金積立金の運用は、その成果もリスクも保険料拠出者に帰属することから、保険料拠出者の利害に直結する問題である。したがって、運用の基本方針の策定に当たっては、保険料拠出者の意見を反映させるべきである。

(4)受託者責任の徹底

運用に当たっては、責任体制の明確化を図るとともに、安全確実かつ効率的な運用という観点以外の政策的な判断や政治的意図が入り込むことがないようにしなければならず、年金積立金の運用に関わるすべての者に受託者責任(忠実義務及び注意義務、すなわち、運用の基本方針に基づき、保険料拠出者の利益のみのために忠実に、それぞれの立場にふさわしい専門家としての注意を払って運用を行うこと)を徹底することが必要である。

(5)情報開示の徹底

運用に当たっては、保険料拠出者の理解を得ながら実施していく必要があること等から、運用の基本方針(政策的資産構成割合を含む。)及びその策定の考え方と過程、資産額及び資産構成割合の状況、運用収益率等について、定期的及び随時にわかりやすく情報開示を行い、説明責任の遂行と透明性の確保を図っていかなければならない。

2.政策的資産構成割合の策定

(1)政策的資産構成割合の策定に当たっての留意点

政策的資産構成割合の策定に当たっては、1に述べた年金積立金の運用の基本的考え方を踏まえ、次の点に留意する必要がある。

ア.年金積立金の運用には市場変動等様々な原因に起因するリスクが不可避であるので、分散投資を行うとともに、特に運用収益の下方変動のリスクの管理に最大限の注意を払う。
 このために、年金積立金の運用上の制約条件を踏まえ、保険料拠出者の許容できる保険料率の変動を考慮しながら、効率的な運用を目指す。

イ.期待収益率が予想される物価や賃金の上昇率を上回る資産構成割合とし、実質的な運用収益の確保を目指す。

ウ.年金給付に必要となる現金(キャッシュフロー)を効率的に確保できるよう、インカム(債券利子、株式配当等)及び流動性(換金性)に配慮した資産構成割合とする。

エ.市場の資金配分や民間の投資行動を歪めないよう、各種資産の市場規模を考慮した資産構成割合とする。

(2)運用対象とする資産

(1) 分散投資の必要性

年金積立金の運用については、運用リスクの管理、効率的な運用、市場への悪影響の防止等の観点から、積立金の規模、各国市場の循環的変動等を考慮し、特定の国、資産、市場への集中を避け、国際的視野に立った分散投資を基本とする。
 ただし、具体的資産構成割合の策定に当たっては、各国の合理的な投資家が自国市場への投資割合を大きくしていること(ホームカントリー・バイアス)等を考慮する必要があろう。

(2) 運用対象資産

リスクに見合った収益率が期待でき、流動性に問題がないと考えられる資産であって、その特性に関する情報が十分に開示されているものについては、その種類、発行者の国籍及び通貨建ての種類を問わず、運用対象となりうることを基本とする。
 なお、今後、新たに出現する資産については、市場の規模や資産の特性を検討した上、運用対象としての適否を判断する。
 それぞれの運用対象資産については、次のような点に留意することが必要である。

ア.国内債券

国債市場を中心とする国内債券市場は規模が大きく、流動性が高いこと、債券は確定利付きであり、一般に元本保証があること、また、国内債券は年金給付に必要な自国通貨での現金収入の確保が容易であること等から、国内債券はいわゆる安全資産として重要な運用対象である。一般の投資家においても、安全性が要求される運用では、国内債券が中心となる。

イ.国内株式

長期的・平均的にみれば、株式収益率は債券収益率を上回ることが期待されるので、長期的観点から組入れを行う。ただし、株式収益率は、結果的には、必ずしも債券収益率を上回るとは限らない。

ウ.外国債券・外国株式

各国の債券、株式等に分散投資することの効果は大きく、また、巨額の資金投入に伴う国内市場への影響を小さくすることができる。外国債券の収益率については、長期的に内外金利の裁定が働く場合又は先物等により完全に為替リスクのヘッジ(回避)を行う場合、国内債券と同程度の収益率にしかならないとして外国債券に投資する必要はないという考え方もあるが、上述のように年金積立金の規模等を考えると、内外の債券市場への分散投資を考慮する必要がある。その場合、為替変動に対しては、金融派生商品(デリバティブズ)の活用等により、合理的なリスク管理に努めるものとする。
 ただし、為替変動リスク及び一部の国々における市場や制度の未整備、政治的不安定や突然の政策変更等のリスクについては、慎重に対応する。

エ.短期金融資産

年金積立金を実際に各種市場に投入するまで時間がかかること、給付に充てるための現金を準備する必要があること等から、一定量を保有する。

(3)政策的資産構成割合の策定方法

政策的資産構成割合の策定に当たっては、別紙1及び2のとおり、現代投資理論に基づくリスクとリターンの効率性の追求を基礎としつつ、年金財政について資産と負債の総合分析(ALM分析)を行い、どのような資産の組み合わせが適当かを検討する。具体的には、いくつかの政策的資産構成割合の候補の中から、次の点を考慮して総合的に判断し、最適なものを選択することになる。政策的資産構成割合の具体例については、別紙3のとおり。

ア.期待収益率の水準
イ.収益率が下方変動した場合の最終保険料率引上げの可能性
ウ.現金収入確保の容易さ
エ.市場に与える影響

(4)政策的資産構成割合の見直し

政策的資産構成割合については、運用に当たっての長期の目標として策定するものであるが、経済・金融構造の変化や市場動向を踏まえ、5年ごとの財政再計算時に見直すことが適当である。
 なお、財政再計算期と次の財政再計算期との間においても、政策的資産構成割合策定の前提条件に大きな変化がみられるときは、見直しを行うことが必要である。

(5)政策的資産構成割合からの乖離許容幅

運用に当たっては、政策的資産構成割合を維持すべく努めることとなるが、 資産を時価で管理すること、市場動向に応じた運用を行うこと等から、運用 の基本方針が想定した期待収益率やリスクの水準からあまり乖離しない範囲 内で、政策的資産構成割合からの一定の乖離許容幅を設定する。

(6)政策的資産構成割合への移行

年金積立金の預託義務を廃止した後の新たな仕組みの下での運用は、新規資金の投入により運用資産を徐々に増加させていくことになる。また、市場への影響や財政投融資制度との関係に配慮するとともに、廃止される年金福祉事業団の運用資産の承継の在り方を検討した上、政策的資産構成割合への移行は段階的に行うこととなる。
 このため、政策的資産構成割合を目標として、これに円滑に移行していくための年次計画を策定することが必要である。

3.運用に当たっての留意事項

(1)リスク管理のための最大限の努力

運用リスクの管理に際しては、最新の投資理論、資産運用に関する技術、従来の経験等を活用し、最大限に努力する必要がある。
 また、運用に当たっての権限と責任を明確化するとともに、資産管理機関(カストディアン)の適切な監視、監査の充実等を行い、不測の損失が生じないようにする。

(2)運用費用の合理的な支出

民間運用機関に支払う報酬・手数料等運用に要する費用の支出については、運用収益の増加見込みとの対比等の観点から、合理的に判断することが求められる。

(3)個別銘柄株の選択や議決権の行使の制限

株式運用において、個別銘柄の選択は、企業経営や他の投資家に与えうる影響を考慮し、国(公的機関を含む。以下同じ。)が直接行わないこととする。
 また、正当な投資収益を確保するために議決権を留保し必要に応じて行使することは、投資収益を目的とする株主としての当然の権利であるが、国が直接議決権を行使する場合、国が民間企業の経営を支配する、あるいはこれに影響を与えようとしているといった懸念を生じさせるおそれがあるので、国が直接行うのではなく、運用を委託した民間運用機関の判断に委ねることとする。ただし、その場合の具体的な在り方については、更に検討を行うことが必要である。

(4)市場への資金投入の分散化

市場の価格形成や民間の投資行動を歪めないよう、また、有価証券の売買に伴う市場の価格変動(マーケット・インパクト)を避けるため、市場への資金の投入に当たっては、特定の時期に集中しないよう配慮する。

(5)同一企業発行銘柄への投資の制限

発行企業の破綻による損失の回避、市場や企業への悪影響の防止等の観点から、同一企業が発行する有価証券の保有については、年金資産額又は各企業の発行総額(総数)の一定割合を超えないようにする。

(6)運用手法(運用スタイル)

年金積立金は巨額であること、運用に伴う費用をできるだけ低く抑える必要があること等から、パッシブ運用(市場平均並の収益を目指す運用)を中心とするが、市場が必ずしも常に効率的ではないという認識の下に、アクティブ運用(市場平均を上回る収益を目指す運用)も組み合わせて運用する。

(7)金融派生商品の利用の制限

実際の運用に当たっての金融派生商品(デリバティブズ)の活用については、原資産の価格変動のヘッジや代替、為替変動のヘッジ等を目的とし、投機的な運用とならないよう、厳格かつ適切な制約を設定する。
 なお、今後の金融技術革新の成果を速やかに取り込むことが重要であり、その動向について常に研究を行う。

(8)その他

年金積立金の実際の運用に当たっては、運用の基本方針を踏まえ、短中期的な投資政策、民間運用機関の選定・評価方法、運用対象資産の具体的範囲等を含む詳細な運用の指針を定めることが必要である。

別紙1

公的年金のALM分析の枠組み

[負債側の検討]

1.年金積立金の特性を踏まえた運用目的の検討

2.財政見通し上の年金特別会計の予定積立金の額、毎年度の給付支払額や保険料収入額の検討

3.年金積立金の特性を踏まえた運用上の制約条件の検討
(1) リスク管理の方法
(2) リスク許容度(最終保険料率の引上げの可能性の許容範囲等)

[資産側の検討]

1.運用対象資産の特性の検討
(1) 期待収益率
(2) 標準偏差
(3) 資産間の相関関係
2.資産側からみた運用上の制条件の検討(運用対象資産の市場規模等)
3.1及び2を踏まえた実際に用可能な資産構成案の仮設定
(有効フロンティアの導出)

[シミュレーションの実施]

複数の政策的資産構成割合の候補について、シミュレーションを繰り返し、
次の点を検討
(1) 資産額や最終保険料率の確率分布、予定積立金額を下回った場合の最
終保険料率の引上幅等
(2) 給付に必要な現金確保の容易さ
(3) 積立金の各資産市場に占める割合

[政策的資産構成割合の検討]

期待収益率、リスク許容度、市場への影響等の観点から、望ましい資産
構成割合案を検討

[政策的資産構成割合への移行計画の検討]

財投改革のあり方を想定しながら、政策的資産構成割合への移行計画を検討

(注)財投改革の進め方については、現在、大蔵省で検討中

別紙2

政策的資産構成割合策定の具体的な手順

1.負債側の検討

(1)負債構造の把握

年金審議会における年金制度設計の検討結果に基づき、次の点を確認

ア.年金財政再計算において予定する年金特別会計における年金積立金 (予定積立金)の額
イ.年金特別会計における給付に充当するために必要な現金の額

(2)運用上の制約条件の検討

財政運営上の観点から、次のような運用上の制約条件を検討

ア.最終保険料率の引上げの確率や幅の抑制
イ.年金給付の改定に応じた実質的な運用収益の確保
ウ.年金給付のための現金の確保

2.資産側の検討

(1)個別資産の期待収益率・標準偏差・相関係数の予測

○ 債券、株式等個別資産の期待収益率については、広く利用されているビルディング・ブロック方式(収益率を構成する様々な要素を積み上げて、各資産の期待収益率を算出する方式)により、予測

○ 個別資産の収益率変動の標準偏差及び各資産の収益率間の相関係数につ いては、過去の長期の実績を使用

(2)運用上の制約条件の検討

資産の性格や市場の観点から、運用上の制約条件を検討

ア.年金給付に備え、インカム(債券利子等)や流動性に配慮した資産構成にするとともに、一定の短期金融資産を保有すること。
イ.外国資産への配分に当たっては、各国投資家の自国市場の割合を高める傾向(ホームカントリー・バイアス)等を考慮すること。

(3)有効フロンティアの導出

個別資産の期待収益率、標準偏差等を使用し、制約条件を課した上で、有効フロンテイア(最も効率的な資産の組み合わせを示す曲線)を導出

3.シミュレーションの実施

(1)資産構成割合の抽出

有効フロンティア上から、政策的資産構成割合の候補となりうる複数の資産構成割合を抽出

(2)シミュレーション結果の検討

(1) 運用結果の確率分布の確認

各資産構成割合の収益率を確率的に変動させる方法(モンテカルロ・シミュレーション)により、上記1(2)の観点から、次の事項を確認

ア.資産額の分布及びそれに対応した最終保険料率の分布
イ.予定積立金額に対する不足が生ずる確率
ウ.実際の資産額が予定積立金額を下回る場合の平均資産額に対応した最終保険料率
エ.特定の確率で生じうる最終保険料率引上げの大きさ(バリュー・アット・リスク)

(2) 現金確保の容易さの確認

年金特別会計で毎年の給付に必要となる現金と資産から生ずるインカムの額を確認

(3) 市場に対する影響の検討

各資産構成割合における個々の資産の資産額を市場規模と比較検討

4.政策的資産構成割合の決定

上記の検討結果から候補となりうる数とおりの資産構成割合を選び、財政再計算における運用利回りの見込みを念頭に置きながら、その中の一つを、保険料拠出者の期待収益率とリスクに対する考え方を踏まえて、政策的資産構成割合として決定

以上の手順は、わかりやすさという観点から、年金資金運用において広く用いられている手順を応用したものであり、リスク管理の手法等について更に研究が進められ、実用化が図られたものについては、積極的に取り入れ、より完成度の高い政策的資産構成割合となるよう、努めていくことが必要である。

別紙3

政策的資産構成割合の例(参考)

[策定に当たって置いた仮定]

1.負債(財政見通し)について

積立金、保険料率等について、以下の仮定を置いて財政計算を行い、検証した。

(1) 厚生年金について、現行制度を前提

(2) 新人口推計対応の平成6年財政再計算結果の枠組みを使用し、経済的要素については、下記のように設定

物価上昇率 1.0% (平成6年財政再計算時 2.0%)
標準報酬上昇率 2.5% ( 〃 4.0%)

(3) 積立金の額は、厚生年金基金の代行部分を除いて試算。なお、厚生年金基金は、現行制度を前提

(4) 段階保険料率の引上時期及び幅については、平成6年財政再計算時のまま固定

2.資産について

(1) 個別資産の期待収益率を推計する前提として、実質経済成長率1.5%、物価 上昇率1.0%と想定。その上で、過去の実績や各種機関の予測を参考に、個別資産の長期の期待収益率を予測(備考1)

(2) 個別資産の収益率の標準偏差及び収益率の間の相関係数については、過去25年の実績に基づき設定(備考1)

(3) 有効フロンティア導出に当たっては、次のような条件を設定

ア.短期金融資産=5%
イ.国内株式≧外国株式

(4) 各資産の市場規模については、名目経済成長率等で拡大していくと仮定

(備考2)

3.シミュレーションについて

現段階では、年金制度改正や財政投融資制度改革の内容等が明らかでないので、次のような仮定を置いて実施

(1) 厚生年金積立金全額が当初から市場運用されるとして計算。したがって、財政投融資改革に伴う経過措置については、別途検討することが必要
(2) 予定利率(割引率)と期待収益率の関係については、次の2とおりを設定

a.予定利率=期待収益率
b.予定利率=4%

(3) 最終保険料率に与える影響をみるため、平成6年財政再計算において最終保険料率となる時期(2024年10月)の数値を確認

(備考)1.個別資産の期待収益率・標準偏差・相関係数の予測

  短期資産 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式
期待収益率 2.5 4.0 6.5 4.5 7.0
標準偏差 3.2 5.5 19.8 15.3 22.0




  短期資産 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式
短期資産 1.0000        
国内債券 0.2228 1.0000      
国内株式 0.0019 0.1999 1.0000    
外国債券 0.1339 -0.0421 -0.2332 1.0000  
外国株式 -0.0955 -0.0083 -0.0718 0.7429 1.0000

2.市場規模の将来推計(仮定試算)

推計方法は、次のとおり。

(1) 国内債券のうち、国債については、大蔵省資料に基づき試算。また、現行の資金運用部貸付残高に相当する財投債(250兆円)が発行されるものと仮定

(2) 上記以外の資産は、国内外とも、名目経済成長率2.5%と仮定し、それで単純に伸ばした。

(兆円)

  1996年 2010年 2015年 2023年 構成比
短期資産 117 170 190 230 2%
国内債券 439 870 920 1,020 10%
国内株式 274 380 430 520 5%
外国債券 2,147 3,030 3,430 4,180 43%
外国株式 1,928 2,720 3,080 3,760 39%
合計 4,905 7,170 8,050 9,710 100%

(注)1996年の数値については、次のとおり。
1.短期資産は、コール、手形、債券現先、CD、CP、TB、FBの合計
2.国内債券・外国債券については、ソロモン・スミス・バーニー社
「How Big Is The World Bond Market」(1997年9月)による。
3.国内株式については、東証第1部時価総額(1997年末)
4.外国株式については、モルガン・スタンレー・キャピタル・インターナショナルの推計総時価総額を基に年金資金運用研究センター算出

[資産構成割合 I]

期待収益率 4.2% 標準偏差 5.0% シャープの測度 ※ 0.346
資産構成(%) 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
80
財政再計算上の予定 積立金の予定(2024年時点) 最終保険料率の予定
(1)予定利率=期待収益率の場合 147.0兆円 34.9%
(2)予定利率=4%の場合 131.5兆円 35.4%

※シャープの測度は、標準偏差1単位当たりの超過収益率(期待収益率−短期金利)

(運用の結果)
確率分布 5%il 25%il 平均 75%il 95%il
資産額(兆円) 52.6 98.6 146.7 186.2 268.6
最終保険料率 (1)予定利率=期待収益率の場合 36.1 35.5 34.9 34.4 33.4
(2)予定利率=4%の場合 36.2 35.7 35.2 34.7 33.8




(1)予定利率=期待収益率の場合(2024年時点)  
  予定積立金額を下回る確率 55%
(2)予定利率=4%の場合
(2024年時点)
予定積立金額を下回る確率 46%
予定積立金額の50%以下になる確率 9%

予定積立金額を下回る場合
の最終保険料率の平均 (%)
(1)予定利率=期待収益率の場合 35.5( +0.6% )
(2)予定利率=4%の場合 35.8( +0.4% )

特定の確率で、引き
上げることが必要と
なる保険料率の幅の
最低限(%)
(1)予定利率=期待収益率 5%の確率 1.2
25%の確率 0.6
(2)予定利率=4%の場合 5%の確率 0.9
25%の確率 0.4

インカム(債券利子等)の額
(2015年時点)
全資産 5.6兆円
(国内のみ) (5.0兆円)

各資産市場に占める年金積立金の割合
(2010年〜2015年)
国内債券市場 13〜15%
国内株式市場 2%程度

(特徴)
(1) 予定利率=期待収益率とする場合
・ 予定利率が低いた
め、当初の最終保険料率の設定がII・IIIより高い。
・ 予定積立金額を下回
る確率は55%で、II・IIIとほぼ同じ。
・ 収益率が低迷し、予定積立金額
に対し不足が生ずる場合、5%の確率で最終保険料率を1.2%以上引き上げる
必要が生ずる。
(2) 予定利率=4%とする場合
・ 予定積立金額を下回
る確率は46%となり、II・IIIに比べて大きい。
・ 予定積立金額の50%
以下となる確率は9%で、II・IIIとほぼ同じ。
(3) その他
・ 債券の割
合が多いので、インカムは、II・IIIに比べて大きい。

[資産構成割合 II]
期待収益率 4.5% 標準偏差 5.5% シャープの測度 ※ 0.364
資産構成(%) 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
70 10 10
財政再計算上の予定 積立金の予定(2024年時点) 最終保険料率の予定
(1)予定利率=期待収益率の場合 166.5兆円 34.3%
(2)予定利率=4%の場合 131.5兆円 35.4%

※シャープの測度は、標準偏差1単位当たりの超過収益率(期待収益率−短期金利)

(運用の結果)
確率分布 5%il 25%il 平均 75%il 95%il
  資産額(兆円) 55.1 109.7 166.6 212.1 313.5
最終保険料率 (1)予定利率=期待収益率の場合 35.9 35.1 34.3 33.6 32.2
(2)予定利率=4%の場合 36.2 35.6 35.0 34.4 33.3




(1)予定利率=期待収益率の場合(2024年時点)  
  予定積立金額を下回る確率 55%
(2)予定利率=4%の場合
(2024年時点)
予定積立金額を下回る確率 37%
予定積立金額の50%以下になる確率 8%

予定積立金額を下回る場合
の最終保険料率の平均 (%)
(1)予定利率=期待収益率の場合 35.1( +0.8% )
(2)予定利率=4%の場合 35.8( +0.4% )

特定の確率で、引き
上げることが必要と
なる保険料率の幅の
最低限(%)
(1)予定利率=期待収益率 5%の確率 1.6
25%の確率 0.8
(2)予定利率=4%の場合 5%の確率 0.9
25%の確率 0.2

インカム(債券利子等)の額
(2015年時点)
全資産 5.5兆円
(国内のみ) (4.8兆円)

各資産市場に占める年金積立金の割合
(201
国内債券市場 12〜13%
国内株式市場 4%程度

(特徴)
(1) 予定利率=期待収益率とする場合
・ 予定積立金額を下回る確率は55%で、I・IIIとほぼ同じ。
・ 収益率が低迷し、予定積立金額に対し不足が生ずる場合、5%の確率で最終保険料率を1.6%以上引き上げる必要が生ずる。
(2) 予定利率=4%とする場合
・ 予定積立金額を下回る確率は37%で、Iよりも小さい。
・ 予定積立金額の50%以下となる確率は8%で、I・IIIとほぼ同じ。
(3) その他
・ インカムの額は、債券が少ないため、Iと比べて小さい。
・ シャープの測度(上記※を参照)は、I・IIIと比べて大きい。

[資産構成割合 III]
期待収益率 4.8% 標準偏差 6.2% シャープの測度 ※ 0.362
資産構成(%) 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
65 15 15
財政再計算上の予定 積立金の予定(2024年時点) 最終保険料率の予定
(1)予定利率=期待収益率の場合 186.0兆円 33.7%
(2)予定利率=4%の場合 131.5兆円 35.4%

※シャープの測度は、標準偏差1単位当たりの超過収益率(期待収益率−短期金利)

(運用の結果)
確率分布 5%il 25%il 平均 75%il 95%il
資産額(兆円) 53.8 116.3 186.2 238.7 366.3
最終保険料率 (1)予定利率=期待収益率の場合 35.8 34.8 33.7 32.8 30.8
(2)予定利率=4%の場合 36.2 35.5 34.7 34.1 32.7




(1)予定利率=期待収益率の場合(2024年時点)  
  予定積立金額を下回る確率 56%
(2)予定利率=4%の場合
(2024年時点)
予定積立金額を下回る確率 32%
予定積立金額の50%以下になる確率 7%

予定積立金額を下回る場合 (1)予定利率=期待収益率の場合 34.7( +1.0% )
(2)予定利率=4%の場合 35.8( +0.4% )

特定の確率で、引き
上げることが必要と
なる保険料率の幅の
最低限(%)
(1)予定利率=期待収益率 5%の確率 2.1
25%の確率 1.1
(2)予定利率=4%の場合 5%の確率 0.9
25%の確率 0.2

インカム(債券利子等)の額
(2015年時点)
全資産 5.1兆円
(国内のみ) (4.8兆円)

各資産市場に占める年金積立金の割合
(201
国内債券市場 12〜13%
国内株式市場 6〜 7%

(特徴)
(1) 予定利率=期待収益率とする場合
・ 予定利率が高く、当初の最終保険料率の設定は、I・IIと比べて低い。
・ 予定積立金額を下回る確率は56%で、I・IIとほぼ同じ。
・ 収益率が低迷し、予定積立金額に対し不足が生ずる場合、5%の確率で最終保険料率を2.1%以上引き上げる必要が生ずる。
(2) 予定利率=4%とする場合
・ 予定積立金額を下回る確率は32%であり、I・IIと比べて小さい。
・ 予定積立金額の50%以下になる確率は7%で、I・IIとほぼ同じ。
(3) その他
・ インカムの額は、債券が少ないため、I・IIと比べて小さい。

[全額債券運用 IV]
期待収益率 4.0% 標準偏差 5.5% シャープの測度 ※ 0.275
資産構成(%) 国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
100
財政再計算上の予定 積立金の予定(2024年) 最終保険料率の予定
(1)予定利率=期待収益率の場合 131.5兆円 35.4%
(2)予定利率=4%の場合 131.5兆円 35.4%

※シャープの測度は、標準偏差1単位当たりの超過収益率(期待収益率−短期金利)

(運用の結果)
確率分布 5%il 25%il 平均 75%il 95%il
資産額(兆円) 36.3 82.5 131.6 170.6 256.5
最終保険料率 (1)予定利率=期待収益率の場合 36.4 35.9 35.3 34.9 33.9
(2)予定利率=4%の場合 36.4 35.9 35.3 34.9 33.9




(1)予定利率=期待収益率の場合(2024年時点)  
  予定積立金額を下回る確率 55%
(2)予定利率=4%の場合
(2024年時点)
予定積立金額を下回る確率 55%
予定積立金額の50%以下になる確率 16%

予定積立金額を下回る場合 (1)予定利率=期待収益率の場合 35.9( +0.5% )
(2)予定利率=4%の場合 35.9( +0.5% )

特定の確率で、引き
上げることが必要と
なる保険料率の幅の
最低限(%)
(1)予定利率=期待収益率
の場合
5%の確率 1.1
25%の確率 0.6
(2)予定利率=4%の場合 5%の確率 1.1
25%の確率 0.6

インカム(債券利子等)の額 (2015年時点) 5.6兆円

各資産市場に占める年金積立金の割合
(201
国内債券市場 15〜18%
国内株式市場

(特徴)
(1) 資産構成の効率性
・ I〜IIIに比べ、期待収益率は低いにもかかわらず、標準偏差(リスク)が高く、非効率である。
(2) 予定利率=期待収益率とする場合
・ 予定利率が低く、当初の最終保険料率の設定は、I〜IIIと比べて高い。
・ 5%の確率で最終保険料率を1.1%以上引き上げる必要が生ずる。
(3) 予定利率=4%とする場合
・ 予定積立金額を下回る確率は55%で、I〜IIIと比べて大きい。
・ 予定積立金額の50%以下になる確率は16%で、I〜IIIと比べ大きい。
(4) その他
・ インカムの額は、債券が多いため、I〜IIIと比べて大きい。

(参考)資産構成割合I〜III一覧

(資産構成割合の属性)
  I II III
期待収益率(%) 4.2 4.5 4.8
標準偏差(%) 5.0 5.5 6.2
シャープの測度 (期待収益率-短期金利)/標準偏差 0.346 0.364 0.362
資産構成(%) 国内債券 80 70 65
国内株式 10 15
外国債券
外国株式 10 15
短期資産
財政再計算上の積立金の
予定 (兆円)
(1)予定利率=期待収益率 147.0 166.5 186.0
(2)予定利率=4% 131.5 131.5 131.5
財政再計算上の最終保険
料率の予定 (%)
(1)予定利率=期待収益率 34.9 34.3 33.7
(2)予定利率=4% 35.4 35.4 35.4

(運用の結果)
資産額の確率分布(兆円) 5%il 52.6 55.1 53.8
25%il 98.6 109.7 116.3
平均 146.7 166.6 186.2
75%il 186.2 212.1 238.7
95%il 268.6 313.5 366.3
最終保険料率の
確率分布(%)
(1)予定利率=期待
収益率
5%il 36.1 35.9 35.8
25%il 35.5 35.1 34.8
平均 34.9 34.3 33.7
75%il 34.4 33.6 32.8
95%il 33.4 32.2 30.8
(2)予定利率=4% 5%il 36.2 36.2 36.2
25%il 35.7 35.6 35.5
平均 35.2 35.0 34.7
75%il 34.7 34.4 34.1
95%il 33.8 33.3 32.7
予定積立金額を下回る確
率(2024年)(%)
(1)予定利率=期待収益率 55 55 56
(2)予定利率=4% 46 37 32
予定積立金額の50%以下になる確率
予定積立金を下回る場合
の最終保険料率の平均(%
(1)予定利率=期待収益率 35.5 35.1 34.7
(2)予定利率=4% 35.8 35.8 35.8
特定の確率で、引
き上げることが必
要になる保険料率
の幅の最低限 (%)
(1)予定利率=期待
収益率
5%の確率 1.2 1.6 2.1
25%の確率 0.6 0.8 1.1
(2)予定利率=4% 5%の確率 0.9 0.9 0.9
25%の確率 0.4 0.2 0.2
インカム(債券利子等)の額
(2015年) (兆円)
全資産 5.6 5.5 5.1
(国内のみ) (5.0) (4.8) (4.8)
各資産市場に占める年金積立金の割合国内債券 13〜15 12〜13 12〜13
国内株式 2 程度 4 程度 6〜7

委 員 名 簿

座長若杉 敬明東京大学大学院経済学研究科教授
稲葉 延雄日本銀行企画局参事
榊原 茂樹神戸大学経営学部教授
田村 正雄(株)野村総合研究所資産運用システム本部
年金マネージメント研究会事務局長
寺田 徳厚生年金基金連合会常務理事
福岡 道生日本経営者団体連盟専務理事
桝本 純日本労働組合総連合会生活福祉局長
三浦 良造一橋大学商学部教授
森平爽一郎慶応義塾大学総合政策学部教授
米澤 康博横浜国立大学経営学部教授


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