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平成10年3月に開幕された長野パラリンピック冬季競技大会は、日本選手団のめざましい活躍もあり成功裡に終幕した。
「障害を持ちながらも厳しい訓練により自己の能力を可能な限り高め、必死にゴールを目指す姿は、堂々としていて、爽やかであった。国民は、このような姿に人間の持つ素晴らしい可能性を見出し、声を出し、手を叩いて応援をした。選手がゴールを駆け抜けたとき、深い感動が襲ってきた。」
これは長野パラリンピック冬季競技大会を通じて多くの国民が感じたことであろう。これを契機としてスポーツやリハビリテーションに取り組もうと決心した
障害者や高齢者も少なくなかったはずである。
本懇談会は、以上の状況を受け、選手、スポーツ関係者、JOC、経済界、マスコミ、学識者からなる多彩な委員により、本年4月より、障害者スポーツのあり方について幅広い観点から議論を行ってきた。
その議論を踏まえ、今後の障害者スポーツの方向性と、取り組むべき課題についてまとめたので報告する。
1 障害者スポーツの意義
わが国で積極的に障害者スポーツが行われるようになったのは、昭和39年に東京で開催された東京パラリンピック以降であった。当時の日本選手は身体障害者更生施設の入所者であり、病院の患者等であった。その後、病院、施設の中で、医学的リハビリテーション(機能回復訓練)の一環としてスポーツが取り入れられてきたのである。
昭和40年からは、国民体育大会(秋季大会)が開催された地で身体障害者の全国スポーツ大会が開催されるようになり、次第に訓練の延長としてではなく、スポーツをスポーツとして楽しむという意識が生まれてくるようになった。
1981年(昭和56年)の国連の国際障害者年及びこれに続く障害者の十年を契機として、「完全参加と平等」のもと、スポーツを含む社会参加への気運が高まってきた。
また、国際的にも、近年、より競技性の高い障害者スポーツの大会が開催され、わが国からも選手として参加する障害者が増加してきている。
このような多面的な変化を受けて、障害者のスポーツに対する意識も、リハビリテーションの延長という考え方から、日常生活の中で楽しむスポーツ、競技するスポーツへと広がってきた。この意味で、障害のない人達にとってのスポーツの意義と障害者にとってのスポーツの意義は、ここにいたって一体化してきたものといえる。
これまで障害者スポーツは、(1)リハビリテーション(機能回復訓練)の手段として、(2)健康増進や社会参加意欲を助長するものとして、(3)障害や障害者に対する国民の理解を促進するものとして、その普及が図られ、大きな効果を上げてきた。
障害を受け、病院、施設等を経て地域生活ができるようになるまでの道程は、これからも変わるものではないが、今後は、重度障害者の参加にも配慮しつつ、スポーツが生活をより豊かにするという視点に立って、生活の中で楽しむことができるスポーツ、さらに競技としてのスポーツを積極的に意義づけることが必要である。
このことが、スポーツの分野におけるノーマライゼーションの理念に沿うものと考える。
2 今後の障害者スポーツの推進方策
(1)基本的な考え方
1で述べたような経緯もあり、障害者がスポーツをスポーツとして楽しむための環境づくりや、競技スポーツに対する支援は、まだ緒についたばかりである。
障害者がスポーツを生活の中で楽しむことができるようにするためには、市町村よりもさらに身近な地域で障害者も障害のない人とともにスポーツを楽しむことができるような機会を設けることや、地域にある公共的なスポーツ施設の利用を容易にすること、地域における障害者スポーツの指導者を養成してスポーツ施設に配置すること等が必要である。
競技スポーツについては、障害者の興味・関心を高め、障害者スポーツ全体の振興に大いに貢献することが期待されることから、国際的にも活躍できるような選手の選抜システムの確立や障害者スポーツ団体の組織作りなど、競技力向上のための体制整備に早急に取り組む必要がある。
これらを推進していく上では、厚生省と文部省等の緊密な連携を図るとともに、障害者スポーツ団体が、(財)日本体育協会、(財)日本オリンピック委員会等の協力を得て、水準の高い大会運営や選手強化が行えるような体制を確立する等の必要がある。
(2)具体的課題
現在、障害者スポーツの指導者については(財)日本身体障害者スポーツ協会を中心に、初級、中級、上級等の養成が行われているが、その役割は、例えば初級は身近な地域、中級は都道府県とその活動地域等により区分されている。今後においては、地域における楽しむスポーツから全国レベルの競技スポーツまでのそれぞれの場面で障害者スポーツの指導者が機能するよう、その役割を対象者のレベルに応じたものに見直すとともに、初級は主として地域で、中級以上は(財)日本身体障害者スポーツ協会が養成するようにすることが適当である。その場合、(財)日本体育協会や一般の競技団体が行う指導者養成と連携できる仕組みを検討することも必要である。
さらに、トップレベルの選手に対する指導については、(財)日本オリンピック委員会等の協力を得ることも必要である。
わが国で開催されている障害者スポーツの大会は競技により開催の回数にばらつきがあり、また、パラリンピックの競技種目の一部は実施されていないなどの現状があるので、競技人口にも配慮しつつ、これらの競技会の全国レベル、ブロックレベル等での開催を奨励すべきである。
また、障害者のスポーツ大会への参加機会は障害のない人と比べて少ないことから、できるだけその機会を拡充する必要がある。このため、上記のような措置とともに、例えば一般のスポーツ大会に障害者特有のスポーツが取り入れられるようにすることも検討されるべきである。
なお、障害者が共に競えるような一般のスポーツ競技に障害者が積極的に参加していくこともノーマライゼーションの促進に寄与するところが大であろう。
障害者がスポーツを楽しむためには、身近な地域にスポーツのできる施設があることが必要である。このため、公共スポーツ施設等を中心に障害者が利用しやすいようにアクセスの改善を行う必要がある。その際、公共スポーツ施設等において障害者スポーツの指導が円滑に行われるよう、地域の障害者スポーツの指導者の活用を検討する必要がある。
また、一般のスポーツ指導者が障害者スポーツについても指導できるよう、障害の特性や障害者スポーツに関する知識を深める機会を確保するための措置についても検討することが望まれる。
さらに、障害者が選手として練習を行うことができる拠点スポーツ施設を一定の地域ごとに定めるようにしていくことや、将来構想として、障害者スポーツに係る医・科学研究機能、指導者養成研修機能等を兼ねた拠点施設を整備することについて検討することも考えられる。
障害者スポーツについては、地方公共団体が中心となって行われているほか、(財)日本身体障害者スポーツ協会、都道府県の障害者スポーツ協会、競技別団体等により行われているが、障害者スポーツ協会が設置されていない県等についてその設置の促進を図るとともに、一般の競技団体との連携・協力に十分留意しつつ、競技別団体の育成等を図るべきである。
また、今後の競技スポーツの振興を図る上では、パラリンピックを初めとする国際競技大会への積極的参加を推進していくことと併せ、(財)日本オリンピック委員会との連携も図りつつ、国際的な競技スポーツの動向に的確に対応できるよう、日本パラリンピック委員会に相当する組織を確立することが必要である。当面、この組織は(財)日本身体障害者スポーツ協会の中に明確な部署を設けて位置付け、逐次その機能を充実していくことが適当である。
選手強化に際して重要なことは、競技人口の拡大を図るとともに、競技団体等が行う地区予選会等の競技大会を通じて選手の選抜がなされるようにすることである。
選抜された選手の強化方策は、競技力が最も向上する方法が採られるべきである。そのためには、その競技と、障害の特性をよく理解しているコーチ・競技用具担当者等で構成される強化訓練チームの体制を整備することが必要である。なお、このチームには、(財)日本オリンピック委員会等からのコーチの派遣等についても、積極的に協力を得ていく必要がある。
さらに、国際大会や強化合宿(国内、国外)等に参加する選手の経済的、精神的負担を軽減するため、国等の支援について検討することや、企業等から理解と協力を得るようにすることが必要である。
国際的にはパラリンピックに知的障害者が参加し、また、知的障害者の国際大会が定期的に開催されるなど、知的障害者のスポーツも国際化してきている。このような状況の中で、これからは、知的障害者等を含む障害者全体のスポーツという観点で、障害者スポーツの振興を図る必要がある。
このためには、これまで身体障害者スポーツの振興の役割を担ってきた(財)日本身体障害者スポーツ協会の基盤を活用し、関係団体の協力のもと、指導者の養成や、大会の開催等について、その充実を図ることが最も有効である。
また、具体的な試みとしてジャパンパラリンピックへの知的障害者の参加が進められているが、現在別々に開催されている全国身体障害者スポーツ大会とゆうあいピック(全国精神薄弱者スポーツ大会)について、21世紀の初頭を目途に、競技性も加味しつつ統合実施を行うべきである。
障害者スポーツにおける競技用具の研究開発・改良は、競技成績の向上につながるばかりでなく、より多くの障害者が生活の中でスポーツを楽しめるようにするという観点からも、競技用具の研究開発・改良によって蓄積された技術が、障害者が生活の中で用いる福祉機器の軽量化や耐久性の向上等にも応用することができるという視点からも重要である。
競技用具の研究開発・改良には、研究者、指導者、選手、製作者などからなる専門の委員会等を設置し、継続して競技用具の研究開発・改良を行える体制を整備することが必要である。
パラリンピック等の成績優秀者に対しては、オリンピックの成績優秀者と同様の顕彰制度が整えられつつある。
しかし、現在パラリンピックのメダリストには報奨金は、制度化されていない。
この問題の検討にあたっては、障害者スポーツにはこれまで述べてきたとおり多くの解決すべき課題があることから、まずはこれらの課題に優先的に取り組む必要がある。その他、国際的にも競技種目のレベルが一定していないといった問題の検討も必要である。
また、オリンピックの報奨金は(財)日本オリンピック委員会の自主財源により行われていることから、自主財源の安定的確保などの努力を重ね、これらが整った段階で、再度、(財)日本身体障害者スポーツ協会などの関係者において検討されることが望ましい。
長野パラリンピックの日本選手団の活躍を、テレビや新聞が大きく取り上げ報道したことから、障害者スポーツを広く国民に啓発することができた。
競技スポーツを中心とした情報の提供が、障害者スポーツ全体の啓発に与える影響は非常に大きいものと考えられ、この意味でマスメディアが積極的な役割を果たすことが期待される。
これに資するため、障害者スポーツに関する各種情報を提供できるようにするとともに、選手のプライバシー等に配慮しつつ、パラリンピック選手等をマスメディアが起用しやすいようにするための環境整備について検討する必要がある。
障害者スポーツの振興については、厚生省と文部省が協調して施策を推進していくべきであり、以上に述べた具体的課題に取り組んでいく上では、両省が定期的・継続的に協議する機会を設けることなどによって、その連携を一層強め、行政として積極的に対応していくことも不可欠である。
例えば、指導者の養成確保やスポーツ組織の育成、選手強化などに関して必要となる、障害者スポーツ団体と一般の競技団体等との連携・協力について、厚生・文部両省が適切な連絡調整の役割を果たす必要がある。
また、スポーツ分野におけるノーマライゼーションの実現に向け、各種スポーツ大会への障害者の参加機会の確保などについて、団体レベルでの連絡・協力の進展状況を踏まえつつ、両省が協力して検討していくことが必要である。
おわりに
以上の諸課題について、本懇談会として一定の方向性をまとめたが、特に、これまで十分な体制とはいえなかった障害者の競技スポーツを中心としてより具体的な検討が、選手をはじめとする障害当事者などを含めた関係者により、引き続き行われることが必要である。検討の場については、(財)日本身体障害者スポーツ協会より、その準備があることが提案されていることを付言しておく。
また、障害者スポーツに対する支援を拡充、強化する観点から、当懇談会での議論と並行して、平成10年度補正予算において、「障害者スポーツ支援基金」が社会福祉・医療事業団に設けられることとなったが、今後、この基金が本懇談会の提言も踏まえつつ活用され、障害者スポーツの振興に大きく寄与することを期待する。
さらに、今年度法制化された「スポーツ振興くじ」の収益金による助成にあたっても、障害者スポーツの振興のため、十分な支援が行われることも期待する。
(敬称略、五十音順)
氏 名 | 役職名 |
青 木 利 元 | (社)経済団体連合会社会貢献推進委員会社会貢献基盤整備専門部会長 (明治生命保険相互会社社会貢献役) |
牛 窪 多喜男 | アトランタパラリンピック金メダリスト(柔道) |
大 森 彌 | 東京大学大学院総合文化研究科長・教養学部長 |
大日方 邦 子 | 長野パラリンピック金メダリスト(アルペンスキー) |
川 原 貴 | 東京大学大学院総合文化研究科助教授 |
中 川 一 彦 | 筑波大学教授体育科学系 |
中 島 武 範 | (財)日本身体障害者スポーツ協会常務理事 |
乳 井 昌 史 | 読売新聞社論説委員 |
初 山 泰 弘 | 国立身体障害者リハビリテーションセンター総長 国際パラリンピック委員会執行委員 |
藤 原 進一郎 | 武庫川女子大学教授 (財)日本身体障害者スポーツ協会技術委員長 |
八 木 祐四郎 | (財)日本オリンピック委員会専務理事 |
合 計 | 11名 |
連絡先 障害保健福祉部企画課社会参加推進室 TEL[現在ご利用いただけません] 角田(内線3073) 田中(内線3073) 小山(内線3074)
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