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日 時: | 平成10年 5月27日(水) 10:00〜12:00 |
場 所: | 中央合同庁舎共用第7会議室 |
1 開会
2 資料確認
3 議 題
4 閉会
平成10年5月27日
資料1 | 妊孕能を有する日本人正常男子における生殖機能について −妊娠女性のパートナーにおける生殖機能調査より− 聖マリアンナ医科大学泌尿器科 岩本 晃明 |
資料1−1 | 正常男性における生殖機能調査の概要 |
資料1−2 | 現在までの経過 |
資料2 | 日本人の精液性状の現状について 帝京大学医学部泌尿器科学教室 押尾 茂 |
資料3 | 内分泌かく乱化学物質(EDC)と各種がんとの関連 −疫学的知見(Epidemiological Evidencea)− 国立がんセンター研究所臨床疫学研究部 津金 昌一郎 |
資料4 | ダイオキシンと子宮内膜症 東京大学医学部 武谷 雄二 |
資料5 | 平成10年度補正予算案(内分泌かく乱物質関係) |
資料6 | 本検討会の今後の開催予定(案) |
資料7 | 平成9年度厚生科学研究 内分泌かく乱化学物質に関する研究班の概要 国立医薬品食品衛生研究所毒性部長 井上 達
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(注) | 資料1−1、資料1−2及び津金委員発表の資料の一部については厚生省3階の行政相談室にて閲覧可能となっております。 |
資料1 |
平成10年5月
聖マリアンナ医科大学泌尿器科 岩本 晃明
1996年からヨーロッパ諸国を中心に、正常男性における生殖機能の国際調査が始まった。調査の目的は、自然妊娠した女性のパートナー、すなわち妊孕能が確認されている正常男性の生殖機能について、精液所見、精巣サイズ、血中ホルモン濃度、およびカップルのライフスタイルや健康についての情報を分析し、現在の正常男性の生殖機能に関するデーターベースを作成することである。この国際共同研究に日本も1997年11月より参加し、共通のプロトコールにしたがって調査を進めている。目標300例のうち、現在までに調査の済んでいる100例のデータについて一部の解析を行ったので中間報告する。
1.背 景
この半世紀でヒトの精子が半減した、あるいは質が低下したという報告が話題となり、原因として内分泌かく乱物質等、生活環境中の化学物質の影響が懸念示唆されている。動物実験による毒性試験ではダイオキシン、PCB、DDT他の内分泌かく乱作用を持つ化学物質が低用量で精子形成障害を引き起こし、尿道下裂、停留精巣、精巣腫瘍等の発症率を高めることが確認されており、次世代にも影響を及ぼすことが報告されているが、ヒトへの影響については不明な点が多い。ヒト精子数の減少傾向については否定的な報告もあり、事実、精子数が減っていたとしても、それが男性生殖機能の低下につながるのかどうか、また、内分泌かく乱物質の関与が実際にあるのかどうか、ヒトの場合まだ結論が出ていない。しかしながら、マスメディアを介しさまざまな情報が氾濫する中、内分泌かく乱物質との関連で男性の生殖能力が危機的な状況にあるという一般市民の危惧感はかなり強く、科学的で冷静な判断を可能にする確かな情報が求められている。
ヒト精子の減少に関しては、1974年に米国のNelson & Bungeが精管結紮前の男性400人を調べ、平均精子数が予想外の低値を示したことを発表して話題になったことがあるが、同じく米国のMacLeodがそれを批判し、さらに1979年の論文でに精子数に減少傾向は見られないと発表したことから一旦は決着がついたかに見えた。最近のヒト精子に関する論争の発端は、デンマークのSkakkebaekらのグループによる論文(Carlsen et al, 1992)で、1938年以降の世界中の科学文献を調査した結果、最近50年間に精子数は50%も減少しているというショッキングな内容だった。
この論文ならびに後続の精子の質低下を示す多くの報告は、最近の内分泌かく乱物質等に関する話題とも関連して、一層の危機感を伴って「ヒト精子問題」の議論を再燃させる結果となった。一方、そうした結論を疑問視する報告も多数あり、結論が出ていないのは前述の通りである。
ヒト精子に関するこれまでの研究は、主に欧米諸国の精子銀行におけるAID(非配偶者間人工授精ドナー)の記録や病院の不妊外来を訪れた患者から得たデータを用いた疫学調査に基づくもので、条件設定や測定ならびに解析の方法等に問題点が多いことが以前より指摘されていた。その問題解決の糸口を求めてSkkakebaekらの提唱により、妊孕能を有する男性を対象とした生殖機能の国際調査の実施が決定し、1996年10月、調査のためのプロトコール、指針ならびに細則(付録)が公表された。その年、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、スコットランドでの調査が始まり、日本は1997年11月より、川崎市の聖マリアンナ医科大学(泌尿器科ならびに産婦人科)を拠点に調査を開始した。米国も今秋より参加することが決まっている。
過去における日本人男性の精液調査は、医学生や自衛隊員などを対象とした小規模な例がわずかに報告されているのみである。今回のような調査はこれまで日本はもとより世界中でも行われたことがない。
2. 正常男性における生殖機能調査の概要
国際共同研究「妊娠女性のパートナーを対象とした正常男性生殖機能調査」のプロトコールおよび一般的な指針については資料1−1を参照されたい。日本での調査の概要を以下に示す。
調査対象者: 聖マリアンナ医科大学とその関連病院等で妊娠が確認され、妊娠継続中のカップルからボランティアを募る。
対象者の条件: 現在の妊娠が正常の性交によって成立し、何ら不妊治療を行っていないカップル。パートナーについては本人とその母親が日本生まれの20歳から44歳までの男性であること。
方 法: 調査項目は、妊婦とパートナー男性への質問票によるアンケート調査(その母親の妊娠中における薬物、飲酒、喫煙等に関する質問事項を含む)、男性に対する生殖器の診察(精巣のサイズや精索静脈瘤の有無等)、精液検査および採血である。精液は48時間以上の禁欲期間をおきマスターベーションにて清潔な容器に採取する。検査項目は、精液量、精子濃度、運動率(WHO基準によるA〜Dの4段階)、奇形率(スメアー標本を作製しパリとコペンハーゲンの研究所に送付し2カ所で形態を検査する)等で顕微鏡下に目でカウントしている。血液はホルモン活性 (FSH, LH, T, free T, Inhibin B, SHBG, total serum estrogen bioactivity, E2)等の測定(コペンハーゲンにおいて実施)に使用するほか、今後、内分泌かく乱化学物質に関する要因を測定解析するために一部を凍結保存する。アンケート調査票はコペンハーゲンに送り解析されると同時に私たちも解析する。なお、調査にあたってはプロトコールの示す通り(ヘルシンキ宣言II準拠)、ボランティアに対する倫理上の配慮として、同意を得ること、秘密厳守、結果の告知をするかどうかの確認等が義務づけられている。本調査は聖マリアンナ医科大学倫理委員会の承認のもとに行われている。
3.現在までの経過 (資料1−2参照)
100例の年齢分布は20代26名、30代66名、40代8名である。年代別の精液所見は20代、30代、40代の順にそれぞれ、平均精液量が3.1, 3.1, 2.9 ml、平均精子濃度[図(表)-1]は70.5, 88.6, 72.3 ×106/mlで全例の平均は82.6×106/mlであった。平均運動率[図(表)-2]は 56, 55, 47%で全例の平均は54%であった。図−3に妊孕能を有する日本人男性100人の精子濃度分布を示す。これらのデータは左方に偏った非対称な分布を示し、全体の平均精子濃度は82.6×106/mlであったが、中央値(メジアン)は61.6×106/mlとそれより低く、全体の51%が20×106/ml以上80×106/ml未満の範囲にあった。精子濃度のWHO正常基準下限値20×106/mlを下回る例が100名中15名(15%)、精子濃度、運動率ともにWHO基準を満たさなかった例が9名(9%)含まれていた。また、精巣サイズ両側共18ml未満が5例あり、うち3例の精子濃度が20×106/mlを下回っていた。不妊の原因の一つとされる左側精索静脈瘤を、軽度29例、中等度4例、高度3例に認めた。高度の精索静脈瘤の1例は精子濃度がWHO基準を下回っていた。なおその他の精巣腫瘍、尿道下裂等の生殖器系の異常は認められなかった。
4.参考文献
Auger J, et al: Decline in semen quality among fertile men in Paris during the past 20 years. N Engl J Med 332: 281-285, 1995
Carlsen E, et al: Evidence for decreasing quality of semen during past 50 years. Br Med J 305: 609-613, 1992
Farrow S:Falling sperm quality: fact or fiction? Br Med J 309: 1-2, 1994
Fish H, et al: Semen analyses in 1283 men from the United States over a 25-year period: no decline in quality.
Fertil Steril 65:1009-1014, 1996
Irvine D,S: Falling sperm quality. Br Med J 209: 476, 1994
MacLeod J and Wang Y: Male fertility potential in terms of semen quality: A review of the past, a study of the present. Fertil Steril 31:103-116, 1979
Nelson CMK and Bunge RG: Semen analysis: evidence for changing parameters of male fertility potential. Fert Steril 25, 503-507, 1974.
Olsen GW, et al: Have sperm counts been reduced 50 percent in 50 years? A statistical model revisited Fertil Steril 63: 887-893, 1995
Paulsen CA, et al: Data from men in greater Seattle area reveals no downward trend in semen quality: further evidence that deterioration of semen quality is not geographically uniform. Fertil Steril 65:1015-1020, 1996
Sharpe R and Skakkebaek NS: Are oestrogens involved in falling sperm counts and disorders of the male reproductive tract? Lancet 341:1392-1395, 1993
資料2 |
帝京大学医学部泌尿器科学教室
押尾茂
【目的】1992年のCarlsenらによる精液性状が過去50年間で半減したという報告以来、その結果については多くの議論がある。しかしながら、日本人の精液性状についてのデータは1982年の昭和大学による20代を対象としたものと1984年の札幌医科大学によるより広い年齢の報告の2つがあるのみである。そこで、今回我々は生殖年齢にある健康なボランティアを対象にしてその精液性状の検討を行った。
【方法】1996年4月から1998年3月までの2年間に、健康なボランティア94例を対象として検討した。年齢は20〜53歳(31.8±10.4歳)である。3日間以上禁欲後、用手法で採取した精液を常温で充分に液化させた後、採集後1時間以内に一般精液検査をWHO(1992)の基準に準拠して行った。
【結果】精子数の年齢による相違を検討する目的で、提供者を20歳代50名(20〜26歳22.6±1.5歳)と中年群44名(37〜53歳:42.4±4.4歳)の2群に分けた。精液検査の結果を平均値で示すと、精液量は20歳代で2.4ml、中年群で2.8ml、精子濃度は45.8×106/ ml、78.0×106/ ml、運動率27.2%、28.0%、正常形態率は52.0%、63.5%、生存率79.0%、77.9% であった。なお、最終的にWHOの基準でnormozoospermia と判定されたものは、20歳代では50例中2例(4%)、中年群では44例中4例(9%)であった。
【考察および結論】今回検討した精液性状の中で、年代にかかわらず運動率の低下が著しいことが認められたが、この原因は明らかではない。また、年代間に認められた差異の原因も不明である。今回の研究では、対象例数も限られ、また、提供者の居住地域も東京近郊のみであることから、今後、例数の増加と地域差の検討が課題となろう。
本研究の主な問題点
今後の主な研究課題
資料3 |
II.個人として観察
1.症例対照間の過去の暴露レベル比較(症例対照研究):
・がん患者のEDC 暴露の有無・量 vs 対照のEDC 暴露の有無・量
例)精巣癌患者と対照について、母親の妊娠時のホルモン剤使用の有無や量の調査
*コホート研究内症例対照研究
例)コホート内で発症した乳がん患者と未発症対照について、保存血清中の DDE濃度を測定
*暴露情報は研究開始時点でとられている
2.暴露レベル間の将来のがん罹患率比較(コホート研究):
・EDC 暴露 (+)群 ・高暴露群の罹患率 vs EDC暴露 (-) 群・低暴露群 の罹患率
例)職業暴露や事故による暴露を受けたコホートの追跡調査
*暴露情報を過去に遡って収集し、現時点までの罹患を調査=歴史コホート研究
3.暴露レベルとがん(健康影響)との断面的関連
(1)症例対照間の現在の暴露レベル比較:がん患者の EDC暴露量 vs 対照のEDC 暴露量
例)乳がん患者と対照について、脂肪組織中のDDE 濃度を測定
(2)暴露レベル間の現在のがん(遺伝子変異)保有率比較: EDC暴露(+) 群のがん保有率 vs EDC暴露(-) 群のがん保有率
例)EDC 高暴露者と低暴露者について、p53 遺伝子の変異を調査
III.介入実験
1.無作為化試験: EDC 負荷群と非負荷群の将来のがん罹患率比較
例)妊婦を無作為に2群に分け、それぞれ DES とプラセボを投与し、それぞれの母親から生まれた子供を追跡調査( 1950年代)
2.非無作為化試験: EDC 負荷群と非負荷群の将来のがん罹患率比較
指標
A.がん:乳房、膣、精巣、前立腺
B.暴露
○ 影響を与える暴露量:閾値の有無、用量反応関係(直線 or S状)
○ 影響を受ける側の 遺伝的素因:代謝に係わる酵素の遺伝的多型、感受性の違いなど
○ 交絡因子 (Confounding factor):EDC 暴露とがんの両者に関連する要因
例)食事からの EDC 暴露量と乳がんの関連におけるエネルギー摂取量
○ 生体内エストロゲン環境に影響を与える要因
・ 内因性ホルモン:食事の変化(低繊維食)、体内脂肪量の増加
・ 外因性ホルモン(合成ホルモン):経口避妊薬、家畜へのホルモン剤の使用
・ 植物性エストロゲン:食事の変化(大豆製品の摂取量 − 日本は横這い)
*体内エストロゲン暴露抑制効果
・ その他の食事からのエストロゲン:乳製品の増加
がん統計に関する主な資料
がんの統計編集委員会・編:がんの統計 1997 、がん研究振興財団(東京)、1997
富永祐民他・編:がん・統計白書 −罹患/死亡/予後−1993 、篠原出版(東京)、 1993
Parkin DM, et al. eds: Cancer incidence in five continents volume VI, IARC Scientific Publications No. 120, International Agency for Research on Cancer, Lyon, 1992.
Coleman MP, et al. eds: Trends in cancer incidence and mortality, IARC Scientific Publications No. 121, International Agency for Research on Cancer, Lyon, 1993.
Ries LAG, et al. eds: SEER Cancer Statistics Review, 1973-1995 (Preliminary Edition) , National Cancer Institute, Bethesda , 1998.
前立腺がん
罹患率
・ 推定罹患率( 1992):男性 10万当り15.7 、推定罹患数( 1992):9088、 死亡数 (1995): 5399
・ 年齢階級別罹患率:50歳以降に主として発症する高齢者のがん
1. 年齢調整罹患率の年次推移
・日本:一貫して上昇傾向
・欧米:上昇傾向。米国SEERでは1990 年代になって減少傾向
*前立腺がんスクリーニング(触診、血清PSA)検査など診断による発見増加の影響
2. 年齢調整罹患率(IARC Sci. Publ. No.120)の地理的差違
・日本:6つの地域登録で 6.6 - 10.0
*欧米に比較して極めて低値
・米国:SEER 白人 61.8、黒人 82.0 、ハワイ 白人 62.8、日系 34.4、中国系 28.0
・欧州:仏 24.9-37.9、英 23.1-31.5、スイス 34.2-53.1 、スウェーデン 50.2、デンマーク 29.9
・アジア:中国 0.8-1.7、インド 2.1-6.9、香港 7.6
前立腺がんのリスク要因
・テストステロンなどのホルモン環境
・脂肪の過剰摂取、ビタミンAの低摂取などの食事要因
・性活動、精管切除術?
EDCとの関連
II.2 コホート研究
・カナダ農業従事者のコホート研究:除草剤散布面積と前立腺がん死亡と弱いが統計的有意な関連 (Morrison H, et al. Am J Epidemiol 1993)
・コークス炉従業員のコホート研究:コークス炉排気の暴露と前立腺がん死亡との関連 (Costantino JP et al. J Occup Environ Med 1995)
精巣がん
罹患率
・推定罹患率( 1988):男性10 万人当たり1.4 、推定罹患数(1992): 810、死亡数 (1995):100
・年齢階級別罹患率: 20〜30歳代 に主に発症する若年性がん。20歳代のがんとしては最頻。
1. 年齢調整罹患率の年次推移
2. 年齢調整(世界人口)罹患率 (IARC Sci. Publ. No.120) の地理的差違
精巣がんのリスク要因
・停留睾丸(低アンドロゲン)、母親の外因性ホルモン使用
・外傷、ウィルス感染?
EDCとの関連
I.1 時間的分析
・北欧の母乳中 DDE濃度は1970 年頃より一貫して減少 − 罹患率は上昇 → 矛盾 (Ekbom A, et al. Lancet 1996)
−米国の1970 年〜1990 年にかけての罹患率上昇は、1910 年生まれから1940 年生まれにかけての初産年齢の低下と連動。また、1940 年生まれより初産年齢が再び高齢化し始めたのと、近年の罹患率の低下傾向が連動 (Henderson BE, et al. JNCI 1997)
I.2 空間的分析
・北欧4カ国の母乳中 DDE 濃度は同レベル − 罹患率は4倍の差 → 矛盾 (Ekbom A, et al. Lancet 1996)
II.1 症例対照研究
・精巣がんの症例対照研究:精巣がんと母親のホルモン剤使用が関連 (Henderson BE, et al. Int J Cancer 1979) (Depue RH, et al. JNCI 1983)
III.1 無作為比較試験
・DES投与妊婦の男児とプラセボ投与妊婦の男児各 250名 の長期追跡研究:精巣がん罹患症例はない (Gill WB, et al. J Urol 1979, Wilcox AJ, et al. N Engl J Med 1995)
乳がん
罹患率
・推定罹患率( 1992):女性10 万人当たり43.4 、推定罹患数(1992): 27,360、死亡数 (1995) :7819
・年齢階級別罹患率: 40歳代後半と60 歳 代の2峰性のピークを持つ。
1. 年齢調整罹患率の年次推移
・日本:上昇傾向
・欧米:上昇傾向。米国 SEERでは1990 年代になってから横這い傾向。
*乳がんスクリーニング(マンモグラフィー)検査など診断による発見増加の影響
2. 年齢調整(世界人口)罹患率(IARC Sci. Publ. No.120)の地理的差違
・日本:6つの地域登録で 17.6-27.8
*欧米に比較して低値
・米国:SEER 白人 89.2、黒人 65.0 、ハワイ 白人 99.3、日系 64.0、中国系 75.6
・欧州:仏 55.4-67.3、英 56.1-71.8、スイス 60.9-73.5 、スウェーデン 62.5、デンマーク 68.6
・アジア:中国 9.5-21.5、インド 18.2-24.6、香港 32.3
乳がんのリスク要因
・初産年齢遅い、初潮年齢早い、閉経年齢遅い、出産経験無し、
・エネルギーの過剰摂取、野菜摂取量少ない、アルコール摂取
・肥満
・経口避妊薬などの外因性エストロゲン摂取
・乳がんの家族歴有り
EDCとの関連
I.2 空間的分析
−米国4地域でのエコロジカル研究: 1987 年乳がん死亡率と同年の国民健康調査で得られた乳がんのリスク要因やマンモグラフィー使用との関連を検討 − 乳がんの地域差はこれらの要因の地域差で説明可能 (Sturgeon SR, et al. JNCI 1995)
−米国サンフランシスコと他の地域でのエコロジカル研究:サンフランシスコの乳がんの高罹患率は、知られているリスク要因の保有状況により説明可能 (Robbins AS, et al. JNCI 1997)
II.1 症例対照研究
・米国女性1.5 万人の コホートでの保存血清を用いた症例対照研究: 58 名の乳がん患者( 血清保存後1〜6ヶ月後 に診断)と171 名の対照者間で、交絡因子を補正して血清DDEとPCBs 濃度との関連を検討 − 血清 DDE 濃度の高さは有意に乳がん発症と関連 、血清PCBs 濃度は関連なし (Wolff MS, et al. JNCI 1993)
・米国女性5.7 万人のコホートでの保存血清を用いた症例対照研究: 150 名(白人、黒人、アジア人各 50)の乳がん患者と 150 名の対照間で、交絡因子を補正して血清 DDEとPCBs 濃度との関連を検討 − 血清 DDE濃度とPCBs 濃度は、乳がん発症と関連なし (Krieger N, et al. JNCI 1994)
・米国ミシガンの事故でPBBs (Polybrominated biohenyls)が 混入した餌で飼育 された家畜を食した女性2千人のコホートでの保存血清を用いた症例対照研究: 20 名の乳がん患者と 290 名の対照間で、交絡因子を補正して血清 PBBs 濃度との関連を検討 − 血清 PBBs 濃度が高さは、乳がん発症と関連(少数例 で有意差なし) (Henderson AK, et al. Epidemiology 1995)
II.2 コホート研究
・PCBs に職業的に暴露した女性労働者のコホート研究:乳がん死亡の増加を認めず
(Brown DP. Arch Environ Hlth 1987)
II.3 断面研究
・乳がん患者の診断後の脂肪組織や血清の DDT、DDE、PCBs 量を 対照と比較した複数の研究:結果は一致しない
III.1 無作為比較試験
・乳がんの高危険群米国人 1.3万人 を無作為に2群に分けタモキシフェンかプラセボを4年間投与した結果、タモキシフェン投与により 69 例の乳がん発症を予防したが、 19 例の子宮体がんが余分に発症 (NCI CancerNet information)
資 料 4 |
子宮内膜症とは本来子宮の内腔をおおっている子宮内膜組織と形態的に類似した組織が子宮以外の部位で発生・発育し月経困難症、性交痛、不妊症などの症状を伴うことが多いが時には不妊症の検査の際に偶然発見されることもある。過去20〜30年の間に増加の一途にあるといわれ平成9年度の厚生省の研究班の調査結果では少なくとも12万人以上の女性が本疾患のために治療を受けていることが確認されている。以前は子宮筋層の中に子宮内膜様組織が発生するものを内性子宮内膜症と呼び子宮以外の部位に発生するもの(外性子宮内膜症)と区別していたが最近では前者は子宮腺筋症と称し、後者のみを子宮内膜症と呼称することが国際的な取り決めとなっている。両者は恐らく発生原因が異なり近年著しく増加しているのは子宮内膜症であり今回は子宮腺筋症には触れないこととする。
子宮内膜症とダイオキシンとの関連が突然話題に上ったのはRier SEら(1)の仕事である。彼女らはRhesusサルを用いて4年間ダイオキシンを投与、その後10年間経過を観察したところ無投与群、連日5ppt投与群、25ppt投与群で子宮内膜症の発生率は各々2/6(33%)、3/7(43%)、5/7(71%)と確認した。なお25ppt群では実験の中途で三匹が子宮内膜症で死んでいる。
しかしながらダイオキシンと同じ受容体(aryl hydrocarbon receptor)を介して作用するとされているPCB compoundをRhesusサルに投与(6年間)したArnold DLら(2)の研究ではむしろ無処置群(6/16;37%)の方が投与群(16/64;25%)より子宮内膜症の発生率が高い傾向にありしかも投与量と内膜症の進行度との関連も見られなかった。なおこの研究で用いたサルは80匹でありRierの4倍である。なおサルを用いた研究ではこの二つの論文以外にはダイオキシンと子宮内膜症の関連を見たものは現在のところ見あたらない。
サルの子宮内膜症の人の子宮内膜症の病因解明のモデルとしての妥当性を以下に論ずる。先ず自然に発生する頻度は約25〜35%であり少なくとも一般にヒトでの発生率(多く推定して5〜10%)と比較しかなり高い頻度である。またサルの生殖年令の期間は3才〜25才程度だが11才過ぎより子宮内膜症が発生され閉経に至るまで年令と共にその頻度が高くなるという事実は(3)ヒトの観察(30〜34才がピーク)と大きく異なる。また子宮内膜症の症状、発生部位などにも両者で相違点が多い。ヒトでは月経困難症や下腹痛、腰痛などを特徴とするがサルではこれに加えて便秘、嘔吐、食欲低下、体重減少、腹部腫瘤の触知などが高率にみられ人と比較し臨床的にははるかに重症といえる。また発生部位もヒトでは骨盤が中心であるがサルでは腸管にも比較的多発し特に胃・小腸など上腹部にも好発する点はヒトと大きく異なる。腸管の病変は時に致命的であり、そのためサルで自然発症した子宮内膜症の約30%がその進行の結果死亡する。一方ヒトでは例外的に致命的なこともある程度であり両者の進行様式は明らかに異なる。
サルにおいてダイオキシンの投与は生殖能の低下、流産、死産と関係することが知られておりRierの実験においてダイオキシン投与群では記述はないが分娩回数が減少していることも考えられる。妊娠・分娩の経験のないことが子宮内膜症のリスクとなるので仮にダイオキシンが子宮内膜症の発生に関わっていたにしても、生殖能の低下を介した間接的機序も否定できない。
その他の動物実験モデルとしてはマウスやラットを用いたものがある(4、5)。
卵巣機能を保持した場合ダイオキシンを投与されたマウス及びラットでは子宮の移植片が増大し少なくとも子宮内膜の増殖に関しては促進的であった。但しダイオキシン投与動物では肝の腫大、胸腺の萎縮などが観察され少なくともヒトにおける臨床像とは大きく異なるものである。また興味あることに去勢したマウスでエストロゲンを投与し子宮内膜症の発育をみるとダイオキシンを併用投与することによりむしろ発育が抑制されているという報告もある(6)。
以上によりマウスにおいてはダイオキシンの子宮内膜に対する増殖作用は併存するエストロゲン作用の程度により促進的または抑制的に作用すると推定される。
さらにマウス・ラットでは子宮内膜症の自然発生はなく子宮の組織切片を人為的に腹腔内に移植したものであり、子宮に対する薬剤の反応性を調べるモデルとはなるが当該物質の子宮内膜症の発生の誘導能の検索に適しているのかの疑問ももたれる。
ヒトにおいてはダイオキシンと子宮内膜症との関係を取り扱った論文は極めて乏しい。Boydらは15名の子宮内膜症例で22種のダイオキシン、フランおよびPCB同族体について分析し進行度とこれらの物質との濃度に関連を見いだせなかった(7)。一方不妊女性において子宮内膜症を有する44例中8例(18%)にて血中にダイオキシンが検出されたが子宮内膜症を伴わないと35例中1例(3%)であり子宮内膜症例の方が検出率が高いという報告もある(8)。これ以外には客観的評価に耐える観察はない。
以上、ヒト及び動物実験を通じダイオキシンと子宮内膜症との因果関係を論ずるには余りにdataが希少でしかも一貫性に欠けているといわざるを得ない。
ヒトの病因を考察するための適当なモデルがないことが両者の関連性の解析を困難にしている一因である。従って現時点では結論の導出は無理であるが少なくともヒトにおける子宮内膜症の発生リスクは月経、妊娠、分娩歴、女性のライフスタイルなどで説明しうる部分が大きく、ダイオキシン類がその発生を規定する強力な因子とはいい難い。今後ダイオキシンによるエストロゲンの作用の修飾機序などの解明や広範かつプロスペクティブな臨床疫学研究を通じ両者の関連の有無が明白になるであろう。
<文献>
(1)Rier SE, Martin DC, Bowman RE et al.:Fund.Applied Toxic 1993 11:799~810
(2)Arnold DL, Bryce F, Stapley R et al:Fd ChemToxic,1993 31:799~810
(3)Coe CL, Lemieux Am, Rier SE et al, : J.Gerontology----
(4)Jhonson KL, Cummings AM, Birnbaum LS: Environ.Health.Perspect
1997,105:750~755
(5)Cummings AM, Metcalf JL, Birnbaum L:
Toxicol.Applied.Pharmacol.1996:138:131~139
(6)Foster WG, Ruka MP,Garean P et al:
Cand.J.Physiol.Pharmacol.1997.75:1188~1196
(7)Boyd----------
(8)Mayani A, Barel S, Soback S: Human.Reprod.1997:12:373~375
資料5 |
項 目 名 | 金 額 | 事 業 概 要 |
内分泌かく乱物質の人体影 響に関する研究 |
10億円 | 1.背景 農薬・工業用化学物質・汚染物質等の中にはホルモン様の作用を有するものがあり、これら物質による内分泌系のかく乱、生殖や発ガンへの影響が危惧されている。 この内分泌かく乱物質問題についてはOECDから早急な研究成果が求められるなど、国際的な問題となっていることに鑑み、我が国においても緊急的に研究を推進。 2.事業概要 (1)内分泌かく乱物質と疑われている物質に関する研究 (1) 食品等からの暴露量に関する研究、 (2) 繁殖等への影響に関する動物を用いた研究、 (3) 吸収、分布、代謝、排泄等の体内での動態に関する動物を用いた研究 (2)その他の化学物質に関する研究 内分泌かく乱作用の可能性のあるものを選別するための超高速自動分析装置に関する調査研究 |
内分泌かく乱物質の検出・ 分析設備の整備 |
5億円 | 内分泌かく乱物質の食品や生体への蓄積の有無、その結果としての生物個体、細胞や組織、細胞内器官等への影響の解析技術の研究を進めるための機器整備 |
資料6 |
第3回 | 平成10年7月1日(水) 午前10:00〜12:00 |
第4回 | 平成10年9月2日(水) 午前10:00〜12:00 |
第5回 | 平成10年10月16日(金) 午前10:00〜12:00 |
問い合わせ先 厚生省 生活衛生局 食品化学課 TEL:[現在ご利用いただけません]
資料7 |
平成10年05月27日
1. 経 緯
化学物質の中には、内分泌ホルモン様の機能をもち、生体内に取り込まれたのちに、内分泌機能を中心に広範な障害性をもつものがある。これがヒトや生態系に深刻な影響を及ぼしている可能性があるとの報告がある。これを巡って解決すべき一連の課題が、報道等で“内分泌かく乱”問題あるいは“環境ホルモン”問題などと呼称されている「内分泌障害性化学物質問題」である。
内分泌障害性化学物質に関する問題は、欧米においても大きな問題になっている。経済開発協力機構(OECD)や世界保健機構(WHO)などの国際機関を通じ、各国が共同で、この問題の本質を明らかにするために必要な研究や対応すべき施策に取り組みつゝある。
わが国に於いてもかかる問題を検討するため、以下に述べる「内分泌かく乱化学物質に関する研究」、および「環境エストロジェン様化学物質に関する研究」のそれぞれに関する研究班が設立され、必要な調査ならびに研究が実施されてきた。
2. 研究費目とそれぞれの検討事項
2-1. 内分泌かく乱化学物質に関する研究 (次項 3-1.を参照)
平成8年度厚生科学研究班「化学物質のクライシスマネジメントに関する研究」において内分泌障害性化学物質が検討され、その際の今後の検討事項として早期に対処すべき項目として以下の3項目が指摘され、検討した。
1) 内分泌かく乱性の疑念のもたれる化学物質 の毒性に関する文献調査研究
2) 内分泌障害性化学物質の作用機構に関する研究
3) 暴露対象としてのヒト健常者の精子測定に関する研究
2-2. 環境エストロジェン様化学物質に関する研究(次々項 3-2.を参照)
平成8年度、EUおよびOECDが開催した内分泌障害性化学物質に関する各国間協議に対応して、主として試験法の開発を目的に厚生科学研究班が設立された。検討課題としては、以下の3項目について検討した。
1) 試験管内試験法に関する検討
2) 個体レベル試験法に関する検討
3) 新しい試験法の導入と開発
3. 研究の概要
3-1. 内分泌かく乱化学物質に関する研究
1) 内分泌障害性に疑念のもたれる化学物質の毒性に関する文献調査研究
研究班発足当時、内分泌障害性の疑念がもたれ、米国に於いて取り上げられていた約70種類の化学物質について、1992〜1997年に報告された文献をもとにその毒性影響等について評価を実施した。
その結果、農薬などについては、過去に既にデータの評価等がなされているものが多く、調査した期間に新規に知見が収集された物質は少なかった。
これに対し、産業化学物質については、リスク評価がなされているものは少なく、内分泌障害作用を及ぼす等の知見を示す文献が散見された。
今後は、更に情報を収集し、毒性インベントリーとして利用可能なものにしていく方策を検討する予定である。
2) 内分泌障害性化学物質の作用機構に関する研究
この課題では、次の5研究テーマについて研究を実施した。
2-1) 天然、植物および合成エストロジェンのラット乳腺の修飾と乳がん発生に及ぼす影響に関する研究
研究目的:
本研究では、発がんの標的臓器を乳腺として、主として若年期に発達する乳腺原基を指標として、天然エストロジェン,植物エストロジェン及び合成エストロジェンを投与し、乳腺原基の形態を定量的に測定する。更に、DNA合成、エストロジェン受容体(ER)の発現を形態学的,分子生物学的に検討する。
研究経過:
エストロジェンの乳癌発生における増殖機構の役割,味噌及びその関連物質、特にインフラボン体などに及ぼす効果について研究を実施。一方、エストロジェン(17β‐E2)を用いて下垂体、甲状腺の腫瘍化と増殖関連の機構解明について研究を実施。
2-2) 環境エストロジェン物質の新しいアッセイ系としての下垂体腫瘍株の検討に関する研究
研究目的:
環境エストロジェン物質の簡便なアッセイ系として下垂体腫瘍株の増殖を指標にする系を検討する。
材料と方法:
エストロジェンに反応して増殖をする下垂体腫瘍株を培養し、ビスフェノールA(BPA)、メトキシクロル(MC)、ジブロモ酢酸(DA)、ヘキサクロロシクロヘキサン(HC)を加え、増殖アッセイを実施。また、F344ラットヘ細胞移植し腫瘍形成をみることで、in vivoでの環境エストロジェン物質の作用も検討。
結果と考察:
下垂体腫瘍株増殖アッセイでは、BPAがl0-6M、MCが10-5Mでエストロジェン活性を示した。また、ラットでの移植腫瘍形成でもBPAは有意の促進を示し、本細胞系の有用性が示された。
2-3) 環境エストロジェン物質の相互作用及びPK-AやcAMPの系との相互作用に関する検討
材料と方法:
ヒト乳癌細胞MCF-7にERE-lucレポーターを導入し、これに、BPA、MC、DA、HCおよびTPA、8Br-cAMPを組み合わせて投与した。ラット下垂体腫瘍細胞の増殖アッセイは2-2)のとおり。
結果と考察:
MCF-7細胞でのEREレポーターアッセイおよび下垂体細胞増殖アッセイの結果、いずれの環境エストロジェン物質間にも相乗作用は観察されず相加効果にとどまった。環境エストロジェン物質とTPAおよびcAMPとの相互作用については、前者では作用はなく、後者では相加的であった。受容体コファクターとの相互作用についても今後の検討が必要である。
2-4) 高次系(ホメオスタシス維持機構)としての神経系に対する内分泌障害性化学物質の影響に関する研究
研究目的:
内分泌障害性化学物質の神経系(発生過程を含む)に与える影響を検討する。これは内分泌障害性化学物質が、内分泌系のみならず、関連する高次系(ホメオスターシス維持機構)、すなわち神経系と免疫系に作用する可能性を念頭に、その中で特に前者に主眼をおいて検討するものである。
研究方法:
殆どのホルモンがプレイオトロピズム脚注 を特徴とすることが明らかになっており高次系としての神経系に主眼を置き、試験管内実験と動物実験の両面から、神経系への内分泌障害性化学物質の影響の解析を進めた。
a) 試験管内実験として、応答検出系の確立の基盤整備:
b) 動物実験として、本年度は既存遺伝子改変動物の高感度検出系としての評価を主体に行った。
現在、ホルモン応答遺伝子導入マウス作成のための準備を行っている。
2-5) 内分泌かく乱化学物質のエストロジェン代謝に及ぼす影響
エストロジェンの主代謝経路の一つはC−2またはC一4位が水酸化されてカテコールエストロジェン(CE)となる経路である。CEの一部はさらに生体内でO-キノン体(CEQ)に酸化されるが、近年3、4-エストロゲンキノンであることが明らかにされている。生体内で生成したCEQはDNAなどの生体高分子と反応し発がんや発生異常に関与すると考えられている。同時に一定の確率でグルタチオン(GSH)とも反応する。GSH抱合体はさらに代謝を受け、尿中にはCE・N−アセチルシステイン抱合体(メルカプツール酸)として排泄されるか、あるいはカテコール-O-メチルトランスフェラーゼでメチル化され、対応するモノメチル体として排泄されると考えられる。
CE‐N−アセチルシステイン抱合体と、CEおよび15α一ヒドロキシエストロゲンなどの尿中代謝物の同時分析法を確立し、内分泌かく乱化学物質がエストロジェンの代謝に及ぼす影響を物質レベルで把握することはエストロジェンのリスクマーカーの発見、およびスクリーニングに有用であると考える。現在、これらの抗血清を作製し、極微量分析法の検討を行っている。
まとめ:
これら5テーマのいずれも、新規の簡便な検出法の開発が対象と考えられ、さらに検討が必要な部分に対し、研究を進めてゆく予定である。
3) 暴露対象としてのヒト健常者の精子測定に関する研究
緒 言:
内分泌かく乱化学物質の暴露系として、ヒト健常者の精子に関する測定等を、わが国のみならずデンマーク等の欧州各国と同一の基準で検討し、相違点の分析、及びその原因の検討などを実施することとした。
平成9年度には自然妊娠した妊婦のパートナーについて調査を実施した。
形態検査および疫学的調査等の評価解析は、次年度、目標ケース数の達成とともに実施の予定である。
背 景:
過去50年間にわたり、男性の生殖機能は、かなり低下しているとの報告が数多くなされている。最近は、精子数が減少している他、精巣腫瘍、尿道下裂、停留精巣等の疾患の発生率も高くなっている旨の報告もなされるようになっている。これらの変化が引き起こされる原因は不明であるものの、その原因の一つに環境因子、特に生体内でホルモン様の作用を有し、本来のホルモンの働きを撹乱する物質(内分泌かく乱化学物質)によるものが挙げられている。
内分泌かく乱化学物質は、胎児期に多く暴露されることで、精巣機能障害、尿道下裂、停留精巣、精巣腫瘍の発生の増加など、男性の生殖機能を障害する原因になるとの仮説がある。ここでは、内分泌かく乱化学物質により生殖影響を受ける部位として精子を取り上げ、暴露の指標としての可能性を追求する。
生殖機能の測定等:
自然妊娠した妊婦のパートナーの生殖機能について実態を調査し、現在我が国における正常男性の生殖機能のスタンダードを検討する。その後、既に実態調査が実施されているデンマーク、スコットランド、フランス、フィンランド等のヨーロッパ諸国とデータを比較し、それらの相違点の分析、原因の検討を実施する。更に、これが暴露指標として利用できるかどうかの可能性を検討する。
対象者:
聖マリアンナ医科大学等で妊娠が確認され、妊娠経過を継続しているカップル。
対象者の条件:
20〜40才の男性。男性とその母親が日本で生まれていること。男性の診察、精液検査、採血が妊娠の16週から出産前後までに行われること。現在の妊娠は正常の性交によりなされ、何ら不妊治療を行っていないカップルであること。
方 法:
妊婦には、質問表に回答。パートナーの男性には、質問表の回答の他、通常不妊外来で行っている生殖器の診察、精液検査、採血(ホルモン測定のため)等を実施する。なお、試験計画書は、他国との間の比較ができるようにするため、すでに実態調査が実施されているヨーロッパ諸国で行われているものと同一にする。また、精液、血液サンプルはデンマーク、フランスの研究所に送付し、測定結果の統一化を図る。
現在の状況:
岩本報告参照
3-2. 環境エストロジェン様化学物質に関する研究
経過概要:
各国での内分泌障害性化学物質に関する問題意識の昂揚に照らして、平成8年より情報の収集、検討を行った。EU及び米国科学技術委員会などによってまとめられた各国の産官機関よりその時期まで、またその後に、発行された内分泌障害性化学物質に関する文書の主なものは全部で18点あり、末尾に資料として添付する。
連合王国サリーのオートランド・パーク・ホテルで平成8年12月に、化学物質による内分泌障害に関するヨーロッパ連合会議が開かれ、
研究課題:
1) 試験管内試験法に関する検討
a) 酵母を用いたレポーターアッセイ法
b) MCF-7細胞の増殖を指標とした試験系の導入とレポーター・アッセイ系
2) 個体レベル試験法に関する検討
a) 子宮の肥大反応に関する鋭敏な試験系開発
卵巣摘出マウス(C57BL/6 )におけるエストロジェンの子宮重量、細胞回転およびアポトーシスに関する検討を実施。実験は、8週令〜12週令のマウスより両側卵巣を摘出後7日目より3日ないし14日間エストラジオールを皮下投与し、屠殺前3日間BrdU経飲水投与後、子宮重量、BrdU標識率、およびTUNEL法によるアポトーシスの検出を行った。その結果、3日目における子宮重量は14日目のそれの90%に達していたが、浮腫が著明であった。この事は3日目までの変化はエストラジオールによる血管透過性亢進による変化が主体であり、子宮の細胞増殖に基づく変化は弱い事が示唆された。これは、後述する乳腺の結果とも一致している。この3日暴露プロトコルでは、血管透過性作用のある化合物が偽陽性結果を招来する可能性が示唆された。
b) 乳腺の肥大反応に関する鋭敏な試験系開発、など
卵巣摘出マウス(C57BL/6 )におけるエストロジェンの乳腺形態に及ぼす影響からその作用を検出する試験法の検討を実施。乳腺は、whole mount法により乳腺全体を包埋、染色、透徹し、導管の分岐及びエンドバッド形成の定量的観察を実施。実験は、8週令〜12週令のマウスより両側卵巣を摘出後7日目より3日ないし14日間エストラジオールを皮下投与。その結果、3日目においては、乳腺の変化は軽微であり、少なくとも5日以上の増殖刺激が必要であることが示唆された。刺激が十分に長ければ、子宮を対象としたアッセイよりも定量化が容易である点で優れていると考えられた。
3) 新しい試験法の導入と開発
a) ギャップ結合細胞間コミュニケーション阻害試験の応用
種々の発がんプロモーターが細胞間連絡を障害する事が知られている。一方、内分泌障害性物質は、遺伝子障害性が殆どない事が知られており、発がんプロモーターとして作用する事が想定されている。本研究では、種々の内分泌障害性物質について、その細胞間連絡に対する影響の検討を実施。その結果、調べた限りの種々の内分泌障害性物質で、細胞間連絡に対する阻害効果が観察された。尚この実験では、複合作用として、見掛け上の相乗効果が観察されている。
3.考 察
OECD、WHOなどにおいて、種々の試験法が提案され、国際的にそのバリデーションが開始されようとしている中、本研究班では、それらに対応すべく、いくつかの研究項目に対して検討を行ってきた。その結果、比較的単純な方法においても、メカニズムに関連して、更に検討を要する事項が残されている事が判明した。
内分泌障害性化学物質の作用機序は様々である。
それら個々の物質についてエンドポイントでくくることはたやすいが、相加効果や相乗効果などの理論問題を考慮すると問題の解決は難しい。特に、受容体結合後のシグナル伝達過程などについては更なる検討のための方法が対象となる。今後は上記の如き問題点を端緒に更に検討を進めたい。
結論:
環境エストロジェンのエストロジェン様作用物質個々の相互作用については、検討された幾つかのエンドポイントから見た限りでは、相乗作用は見られなかった。しかしながら相加効果や、エストロジェンとその他の物質との間の作用については、注意深く観察する必要が有る。
また、一口に卵巣摘出マウスを用いた子宮増殖といっても、そこには血管透過性など科学的解析が未だ及んでいない不確定要因が存在しており、かかる諸点についても注意して検討してゆく必要が有るものと考える。
4. 発 表:
菅野 純、相賀裕美子、井上 達:化学物質の生物毒性試験−内分泌障害性を中心に− 組織培養工学 1998 in press.
井上 達:エンドクリン問題の現状と今後の動向. 食品衛生研究 48:47-61, 1998.
井上 達:エンドクリン問題の最近動向<化学物質による環境リスク対策(3)>環境研究、No. 106、24-35、1997.
Trosko JE, Inoue T. Oxidative stress, signal transduction, and intercellular communication in radiation carcinogenesis. Stem Cells, 15(suppl 2): 59-67, 1997.
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Fujimoto N, Watanabe H, Ito A. Up-regulation of the estrogen receptor by triiodothyronine in rat pituitary cell lines. J Steroid Biochem Molec Biol 61: 79-85, 1997.
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Fujimoto, N. Watanabe, H. and Ito, A.: UP-regulation of the estrogen receptor by triiodothyronine in rat pituitary cell Iines. J. Steroid Biochem. Molec. Biol. 61:79-85, 1997.
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添付資料:各国の産官機関より発行された内分泌障害性化学物質に関する主な文書
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Environmental Endocrine Disrupters: Background and review of conclusions and research recommendations from previous assessments and reports. The Workshop on Environmental Endocrine-Disrupting Chemicals (London, 2-4 December 1996)
2. Overview of the purpose, conclusions reached and recommendations arising from individual assessments. Danish Environemntal protection agency (DEPA) report on male reproductive health and environmental chemicals with estrogenic effects (Miljoprojkt nr. 290): March 1995.
3. Institute for environment and health (IEH) assessment on environmental oestrogens: consequences to human health and wildlife (Assessment A1): July 1995.
4. German Federal Environmental Agency: Endocrinically active chemicals in the environemnt (TEXTE 3/96): January 1996.
5. United States environmental protection agency (EPA) sponsored workshop: Research needs for the risk assessment of health and environmental effects of endocrine disrupters: August 1996.
6. US EPA Workshop: Development of a risk strategy for assessing the ecological risk of endocrine disrupters: May 1996.
7. International school of ethology (ISE) 11th workshop, Erice, Sicily: Environmental endocrine disrupting chemicals: Neural, endocrine, and behavioural effects: 1996.
8. Toppari J, et al. Male reproductive health and environmental xenoestrogens. Environ Health Perspect 104(Suppl 4), 741-776, 1996.
9. Ankley GT, et al. Development of a research strategy for assessing the ecological risk of endocrine disruptoers. Reviews in Toxicol 1: 231-267, 1997.
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11. OECD Test Guidelines Programme: Appraisal of Test Methods for Sex-Hormone Disrupting Chemicals. Call for Comments, on April, 1997.
12. JCIA: A Study on Chemicals which Affect the Endocrine Systems., June 1997.
13. Health Council of the Netherlands: Hormone disruptors in humans. April 1997.
14. Natl Sci Technol Council: The health and ecological effects of endocrine disrupting chemicals. a framework for planning., November 1996.
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16. Gray Jr. LE, et al. Endocrine screening methods workshop report: detection of estrogenic and androgenic hormonal and antihormonal activity for chemicals that act via receptor or steroidogenic enzyme mechanisms. Repro Toxicol 11: 719-750, 1997.
17. Arctic Monit & Assess Program: Arctic Pollution Issues: A state fo the arctic environment report. Oslo 1997.
18. Ritter L, et al. Persistent organic pollutants, an assessment report on: DDT-Aldrin-Dieldrin-Endrin-Chlordane-Heptachlor-Hexachlorobenzene-Mirex-Toxaphene- Polychlorinated bisphenyls- Dioxins and Furans. IPCS, December 1995.
連絡先 生活衛生局 食品化学課 TEL:[現在ご利用いただけません]
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