98/03/18 第7回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録      第7回厚生科学審議会先端医療技術評価部会議事録 1.日 時:平成10年3月18日 (水) 14:00〜16:30 2.場 所:全国社会福祉協議会 第4・5会議室 3.議  事:生殖医療に関する意見聴取 4.出席委員:高久史麿部会長 (委員:五十音順:敬称略)     軽部征夫 曽野綾子    (専門委員:五十音順:敬称略)         入村達郎 金城清子 廣井正彦 松田一郎 森岡恭彦 山崎修道 ○事務局  それでは、定刻になりましたので、ただいまから第7回厚生科学審議会先端医療技術 評価部会を開催いたします。  本日は、木村委員、寺田委員、柴田委員が御欠席です。あと、若干の委員の方がお遅 れになっておられるようでございます。  なお、今回は、議事を公開で開催することといたしております。  最初に、配付資料につきまして事務局から御説明申し上げます。皆様の机上の袋に入 っているかと思いますけれども、本日御出席の各団体から生殖医療に関する御見解の概 要を事前にいただいておりまして、それを「生殖医療に関する見解の概要」といたしま して正式な資料として提出いたしております。その他、2つの団体の方、「SOSHIREN 女のからだから」様並びに「からだと性の法律をつくる女の会」様から説明用の参考資 料をいただいておりますので、その2種類をお付けしております。  それから、委員の皆様方のお手元に「大学等におけるクローン研究について(中間報 告)」という冊子をお配りしているかと思いますが、これは文部省の学術審議会の関係 の資料でございます。本日の資料ではございませんけれども、文部省から、是非、委員 の皆様方に参考資料として一度お読みいただければということでいただいておりますも のですから、この場を借りて配付をさせていただいております。  それでは、部会長、よろしくお願いいたします。 ○高久部会長  本日の議題に入りたいと思います。本日は、生殖医療問題につきまして、関係する団 体の皆様方、専門家の皆様方をお招きして御意見を伺うことになっております。皆様方 御出席いただきまして、どうもありがとうございました。  まず、事務局の方から本日の出席者の方々のご紹介をよろしくお願いします。 ○事務局  それでは、御紹介を申し上げます。  本日は、「からだと性の法律をつくる女の会」より芦野由利子さん、津和慶子さんに お越しいただいております。それから、「SOSHIREN 女のからだから」より米津知子さ ん、大橋由香子さんに御出席いただいております。それから、「DPI女性障害者ネッ トワーク」より堤愛子さん、篠原由美さんに御出席いただいております。それから、 「フィンレージの会」より鈴木良子さん、伊藤妙子さんに御出席いただいております。 それから、「優生思想を問うネットワーク」より代表の矢野恵子さん、仲山桂子さんに 御出席いただいております。以上の皆様方でございます。  なお、本日、多くの団体にお越しいただいておりますこと、及び各団体からの発表後 に、一定の時間、質疑あるいは意見交換の時間を確保したいというふうに考えておりま す。そういったことから、誠に申し訳ございませんが、当初の説明につきましては、各 団体それぞれ15分ずつ程度で御説明を終了されるようにお願いいたします。なお、その 段階で説明が不十分な場合におきましては、質疑応答の時間で補足説明をしていただけ ますように、どうか御協力のほどよろしくお願いいたします。以上でございます。 ○高久部会長  それでは、16時半までということになっておりますので、よろしくお願いいたしたい と思います。まず、「からだと性の法律をつくる女の会」から御説明をよろしくお願い いたします。 ○からだと性の法律をつくる女の会(芦野)  「からだと性の法律をつくる女の会」の芦野でございます。今日は、このような形で 審議会の委員の皆様と意見交換をする場が持てたことを大変うれしく思っております。  まず初めに、ごく簡単に「からだと性の法律をつくる女の会」について御説明いたし ます。この会は、1970年代以降から、避妊や中絶を中心として女性の人権という視点か ら性や生殖に関する様々な問題を考え、行動してきた女性たちを中心に、1996年、すな わち優生保護法が一部改正され、母体保護法になりました年につくられました。その目 的は、堕胎罪と母体保護法を廃止して、新たに女性の自己決定権を尊重、保障する避 妊・不妊手術、人工妊娠中絶に関する法律をつくること及びそのために必要な環境整備 をすることでございます。なお、詳しくは、説明用参考資料2及び今お手元にお配りい たしましたピンクのリーフレットを御覧ください。 私たちの主張は、既にお手元にお配りしてございます「生殖医療に関する意見書」に あるとおりでございますが、私たちが主張したいことの要点をまず最初に申し上げたい と思います。その後で、なぜそう思うかということを御説明申し上げたいと思います。 私たちが主張したいことの要点は6つほどございます。その1つは、まず、現在の人 工妊娠中絶に関する法制度、すなわち堕胎罪と母体保護法という二重構造からなる法制 度が本質的に女性のからだと性の自己決定権を保障するものではないということ。2つ 目に、したがって、女性の自由意思による決定を尊重した避妊・不妊手術、人工妊娠中 絶に関する新しい法律が必要であるということ。3つ目に、母体保護法に「胎児条項」 を導入することは、国が生命に優劣をつけ、人間を選別することであり、優生保護法時 代への逆行であること。4つ目に、出生前診断を推進し「胎児条項」を導入するために 女性の自己決定を言うことは優生的思想のすり替えにすぎないということ。5つ目でご ざいますが、出生前診断をはじめ、先端生殖医療技術には病気や障害に否定的に働く力 が内在しており、したがって、これら医療技術の使用は可能な限り抑制的な方向に向か うべきこと。そして最後に、健康とは何か、この再検討が必要であるということでござ います。  実は、今日はOHPを使って御説明申し上げたかったんですけれども、機械の準備が 御無理ということでございましたので、OHPで御一緒に御覧いただきたかった資料を 「説明用参考資料2」にコピーしていただきました。  そこで、まず7ページを御覧ください。これは、女性のからだと性、あるいは性と生 殖に関する自己決定権というのは一体何だろう、女性は何を希望しているのかというこ とを簡潔に描いた図です。御覧のように、歴史的に、かつ残念ながら現在進行型でもそ うですけれども、性と生殖に関する部分が女性自身のものになっておりません。したが って、この図で申しますと、上の図の「NOT HERS」の「 NOT」の部分を取り除き、私自 身のものにしたい。女性の自己決定権を簡潔に御説明しますと、この図のようになりま す。それでは、女性のものでなければ誰のものなのかといえば、この図によりますと男 性の道徳家や政治家や法律家というふうにございますが、この図はオリジナルは外国の 方が書いた図なものですから、私は、これにさらに宗教というものを付け加えたいと思 います。 なお、8ページを御覧ください。今の図を別の形で見てみますと、これは構造的に家 父長制や男性中心の道徳や宗教や人口政策・優生政策というものによって、女性のから だと性が管理され支配されてきたことだと言えます。それは、とりもなおさず、女性の からだと人権の侵害にほかなりません。では、具体的にこれはどういう形であらわれて いるかと申しますと、避妊や不妊手術や中絶の強制あるいは半強制であり、逆に出産を 強要することであり、あるいは買売春や性暴力。それから、アフリカや中近東・アジア の一部でも行われていると言われ、1億人以上の女児や女性が被害に遭っていると言わ れます女性性器切除というような問題がございます。このように国や第三者によって女 性の性やからだが管理、支配されることに対し女性自身がNOと言うこと。そうした管理 や支配から自由でいられることが女性たちの考える「女性の自己決定権」なのです。そ れは、世界的な女性運動の中では、「私のからだは私のもの」というスローガンでずっ とあらわされてきております。  9ページを御覧ください。前の8ページで御覧いただきましたように、性と生殖に関 する問題には、買売春や性暴力、女性性器切除の問題なども幅広く含まれますが、今日 のこの会議の本題であり、また、女性の自己決定権の最も中心的な課題でもあるのが、 産むか産まないかの選択の自由だと思います。  私達は、この選択に関する女性の自己決定権を次のように定義出来るのではないかと 思っております。それは、「子どもを産むか産まないか、産むとしたら、いつ、誰と、 何人産むかを、いかなる強制や差別や暴力も受けず自由に選ぶ権利」である。その権利 は、国籍や階級、人種、民族、宗教、障害の有無、セクシュアリティ、婚姻関係の有無 などにかかわらず、社会・経済・法律・政治的に保障されるべきである、ということで ございます。これは、私たち日本の女性だけの考えではございませんで、この分野で地 球規模で活動をしている女性たちの間で共有されている考えと言っていいと思います。  なお、私たちの意見書の中で「リプロダクティブ・ライツ」という言葉を使っており ますので、そのことについてごく簡単に御説明しておきたいと思います。これは、御存 知のように、1994年の国際人口開発会議及び翌年開かれました第4回世界女性会議によ って提唱された概念でございますが、「リプロダクティブ・ライツ」という言葉自体は 女性運動の中から生まれた言葉というふうに考えてよろしいと思います。「リプロダク ティブ・ライツ」は一般には「性と生殖に関する権利」というふうに訳されております けれども、もう少し砕けて言えば、それは正に「からだと性に関する女性の自己決定 権」と言ってよろしいと思います。これにつきましては、日本政府も1996年に「男女共 同参画2000年プラン」というものを出しまして、リプロダクティブ・ライツと併せて、 リプロダクティブ・ヘルスに関する取り組みが必要であるということをうたっておりま す。つまり、今、日本政府もこの問題に関してはコミットしている状態にございます。 10ページを御覧ください。これは皆さん御承知のことですし、時間の制限もあります ので、ごく簡単に御説明したいと思いますが、先ほど申し上げました中絶を管理する法 律の二重構造がここに書いてあります。つまり堕胎罪によっていかなる理由があろうと も中絶は認められていないけれども、堕胎罪で処罰されない条件を母体保護法が定めて いるという構造です。これは言葉をかえれば、女性が、いつ、何人子どもを産むか産ま ないかを選ぶ自由が本質的に否定されていることであり、それは国や医師や男性主導に よって決められているということです。10ページの右の図は、優生保護法が1996年に母 体保護法に変わったことによって、何がどう変わったのかということを図式化したもの です。一言で言えば、これも皆様よく御存知のように、優生的理由が削除されたという ことです。 11ページに移りますと、ここには「からだと性に関する女性の自己決定権」をもう一 つ別の角度で見たときに、日本の状況はどうなっているかをあらわしてございます。障 害があるかないかによって女性が分断されてきたという歴史が日本にはございます。障 害のある女性に対しては、産むべきではないという社会の抑圧が働き、かつ法的強制力 があった訳です。これが、旧優生保護法における優生手術であり、なお、これが拡大解 釈されて、法律にさえない子宮摘出が行われているというような現実も報告されており ます。これについては、なお詳しい御報告がほかのグループの方からあるかと思います 一方、障害のない女性に対しては、産むべし、それも障害のない子を産むべしという社 会の抑圧、法的強制力が働いている。それが堕胎罪です。これらのことは、女のからだ が生命の質の選別の場にされているということを意味しています。出生前診断を手段と して「胎児条項」が導入されれば、女のからだが生命の質の選別の場になることがさら に強化され、それはすなわち優生保護法時代に逆行することであると思います。このこ とを私たちは大変危惧しております。したがって、「胎児条項」に反対という立場をと っております。 それでは、私たちが望む女性の自己決定権というものはどのように実現出来るのだろ うかということを12ページで御説明したいと思います。ここにリストアップいたしまし たように、女性の自己決定権を保障するためにはたくさんの環境整備が必要だと私たち は考えております。考えてみますと、女性に限らず、個人が自分のからだを自分で管理 し、からだの主人公になること、つまり自己決定権を行使することは人間として一番基 本的な権利ではないかと思うんですけれども、ただ、それは抽象的な概念にすぎない訳 ですから、それを本当に実現するためには、さまざまな環境整備が必要になる訳です。 今日の本題に戻しますと、とりあえず12項目を挙げてみましたが、勿論、これはもっ と細分化出来ると思いますし、他の角度からいろいろな環境整備が付け加えられ得るも のだと思います。とりあえずは読み上げてみたいと思います。 まず最初に、性教育が必要だと思います。それも、女と男の平等な人間関係と性の自 己決定権を基本に置いた性教育です。それから、2つ目にからだと性の相談所が必要だ と思います。3つ目に避妊の選択肢の拡大。産むか産まないかを選ぶ自由を得るために は、これが不可欠な要因です。ところが、日本では、御存知のように、低用量ピルが未 だに認可されておりません。この1、2、3ともに、日本の状況は大変に遅れておりま す。一口で申し上げれば、この分野では日本は優れて後進国であると言ってもよろしい かと思います。4つ目に、産みたい人が産み育てられる環境。これは、言いかえれば、 産みたくない人に産めというプレッシャーがかからない環境です。そのためには、労働 環境や保育施設や伝統的な性別役割分担などの見直しが当然必要になってまいります。 5つ目に、障害をもつ子どもを産み育てられる環境。そして6つ目に、障害をもつ女性 が産みたいときに子どもを産み育てられる環境でございます。7つ目に、不妊のために 産めない女性に対する社会的抑圧のない環境。ちなみに、これは必ずしも優先順位によ って番号を付けている訳ではございません。8つ目に、医療従事者によるインフォーム ド・コンセント/チョイスの徹底でございます。これについては、従来の審議会の議論 の中でも様々な意見が交わされているようですけれども、これを徹底するためにも、医 療従事者の教育・再教育が不可欠だと思います。9番目に、遺伝性疾患や病気や障害、 不妊に対する差別・偏見をなくす努力をするべきであると思います。10番目に、情報公 開制度を徹底すること。今日、このような形で私たちが審議会の委員の皆様と意見交換 が出来ること、こういうことも含めまして、広く情報公開をしてほしいと私たちは思っ ております。11番目に、政策決定過程への女性の参画です。これは、優生保護法改正の 時などに特に痛感したことですが、女性のからだや性に関する法律であるにもかかわら ず、そこに女性の参画がほとんどないということがこれまで日本で起こってきた現実で す。ここでは政策決定過程というふうに大ざっぱに書きましたけれども、当然、このよ うな審議会の場での女性の参画も少なくとも50%は必要だというふうに思っております ところが、大変残念なことに、私、この部会の委員の皆様の性別割合を見てまいりまし たら、13名の委員の方々の中で女性はわずかに2名で2割にも達しておりません。女性 の委員、しかも、この問題に深く関心を持っている女性委員を是非増やしていただきた いと、この場を借りてお願いしたいと思います。そして最後に、これまで何度か申し上 げました新しい法律づくりでございます。堕胎罪・母体保護法をなくして新しい法律を つくることです。  このように、女性の自己決定権を保障し、実現するためには、様々な環境整備が必要 な訳で、それが単純に、中絶されてもよい胎児あるいは疾患をリストアップし、それを 国が法律で規定して、その場合の中絶は女性の自己決定に任せるということ、そこに女 性の自己決定が矮小化されてはならないと思います。つまり、「胎児条項」の導入が、 イコール女性の自己決定権の保障ではないというふうにこの場を借りて再度強く訴えた いと思います。  そろそろ時間がまいりましたので、最後に健康とは何かということに触れて私の発表 を終わりたいと思います。これは、私たちの会の議論の中で出てきた問題でございます これも既に御存知のように、健康とは何かというのは、WHO(世界保健機関)が次の ように定義しております。「健康とは、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態 (WELL- BEING) にあることで、単に病気や障害がないということではない。」しかし それでは、病気や障害があると健康ではないのだろうかという疑問が出てまいります。 そこで、私たちは、もう一つの定義といいますか、更にこれを一歩越えた健康に対する 新しい捉え方が必要ではないかというふうに考えました。ちなみに、それはこのように 表現されるだろうというふうに考えます。「健康とは、仮に病気や障害があっても、そ の人なりの良好な状態があることを尊重し、一人一人がよりよい状態で自立的に生きて いけること」、そういう状態を意味するということでございます。 以上です。時間の制限がある中で、たくさん言いたいことがございましたので、ずい ぶん早口になってしまいました。お聞き取りにくい点があったかもしれませんけれども 何とぞ御勘弁ください。ありがとうございました。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、2番目に「SOSHIREN 女のからだから」 の方々から御説明よろしくお願いいたします。 ○SOSHIREN 女のからだから(米津) 私たちのグループ「SOSHIREN 女のからだから」は、1982年に優生保護法が改定され ようとしたときに、反対の声を挙げて活動を始めました。女性のからだ、性と生殖が国 の人口政策・優生政策の道具として使われてきたことの不当性を訴えて、私たちのから だのことは私たち自身で決めるということを主張してきました。このことは、障害の有 無にかかわらず、誰にでも備わっている人権の一部ですし、その力が私達にはあると思 っています。その立場から、堕胎罪・優生保護法の廃止を求め、生殖医療技術について も関心を持って発言をしてきました。私たちの意見は、今日配られました「生殖医療に 関する見解の概要」の3ページにあります。これを皆様が読んでくださると信じて、こ れに沿って話をします。  私は2つのことを言いたいんです。1つは、「自己決定権」という言葉が私たちが願 いを込めてきたものと全く違う使われ方をしているということ。もう1つは、この先端 医療技術評価部会は優生保護法の改正を反映していないのではないかということ。この 2つを言いたいと思います。  私たちの社会は、今も芦野さんから話がありましたように、国民優生法や優生保護法 というように、優生学に基づく法律が60年近くにわたって存在しました。堕胎罪は、つ くられてからもうすぐ120年たちます。今も存在しています。こうした法律が女性を人口 を操作する道具として位置づけてきましたし、それと共に、からだや性や生殖について の情報あるいは手段が女性には与えられずに、専門家が握っています。そして、女性に は大事なことを決める力はない、責任を引き受ける力がないかのように扱ってきていま す。つまり、道具としておくために、女性が自分から判断する機会や手段を取り上げら れていると思います。そのあり方というのは、現在の生殖医療のあり方にも非常にはっ きり出ていると思います。このようなことを土台にして、障害をもつ女性が子宮を摘出 されたり、強制的な不妊手術を受けさせられたり、つまり性と生殖が、あるいは本人の 意思が否定されるという状況がありました。そして、障害をもたない女性も堕胎罪に非 常に苦しんできました。戦後になっても、つい一昨年までは「優生」という目的を持っ た法律のもとでしか、産まないという選択が出来なかったんです。今の母体保護法でも 自分の意思だけでそれをすることは出来ません。病気や障害のない子どもを時代の要請 に応じて産むことが女の価値だというような価値観がつくり上げられてきて、その責任 が母親にかかるという形で、女性に対する非常に強いプレッシャーになっています。優 生思想は、女性差別と障害者差別の固まりだと思います。どちらにとっても苦しくて悲 しくて、だから私たちは怒りをもって抗議してきたんです。 性と生殖という大切な部分を他者に抑えられていて女性の自立はないと思います。私 達は自分のからだについて知りたいし、大切にしたいし、大事なことは自分で決めたい それが出来ます。障害があろうがなかろうが、誰でもそうだと考えています。女性の自 己決定権を回復したいというのが私たちの願いですが、今までも非常に厚い壁を感じて きました。私たち女性を自立させまいという態度があるように感じられてなりません。 情報が提供されていない、あるいは不安になるような情報しか提供されない。そうして おいて、専門的なことは分からないだろうと言う。それから、社会的支援が充実しない ままで、選んだことの責任は個人がとりなさいというようなことが強調されます。人間 というのは社会的な動物ですし、人生の中で困難に遭遇しないということはあり得ませ ん。そういうときに助け合って生きるのは当然です。困難に出会ったら、誰かの支援を 受けることは恥ではないし、誰にとっても必要なことです。でも、そうした支援ではな くて、私たちを不安に追い込む状況があり、その不安の出口に、今、出生前診断や胎児 条項が置かれて、それに招き寄せられているとしか思えません。こういう状況を私は大 変危惧して、強く抗議したいと思います。 私たちが、自分たちが決定する、選択するということについて何が必要と思っている かということは、意見の概要の3ページの真ん中あたりに書いてありますので、読んで ください。  最近になって、「自己決定権」とか「女性の選択」という言葉が非常に頻繁に耳に入 るようになりました。一方では、国が行うなら優生思想だけれども、個人がする選択は 優生思想ではないという言い方も耳にします。出生前診断や「胎児条項」が必要だとい う方たちが、そのときに限って、まるでその主張を正当化するためにこれらの言い方を 使われているように聞こえます。これは、私たちが今まで願いをこめて言ってきたこと と全く逆の意味ですし、私たちの願いと逆の方向に向かって利用するものではないかと 思い、非常に心外に思っています。  そして、この厚生科学審議会先端医療技術評価部会に優生保護法の改正が反映されて いないのではないかということを続けて言いたいと思います。私たちが長いこと廃止を 求めてきた優生保護法は、まだ不完全な形ではあると思いますが、2年前にようやく改 正がされました。ここに持ってきていますので、「優生保護法の一部を改正する法律案 要綱」の一部を読みます。最初に書いてある第一「改正の趣旨」というところです。 「この法律の目的その他の規定のうち不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基 づく部分が障害者に対する差別となっていること等にかんがみ、これらの規定の見直し を行うこと。」とあります。ですけれども、この改正が行われたときに、政府も厚生省 もこの趣旨を国民に対して広く明らかにしませんでした。ですから、改正がされたとい うこと自体、知らない人がたくさんいます。そして、優生思想に対する反省が社会に共 有されていません。私は、今までこの部会の議事録を読んだり、出来るときには傍聴を してきましたが、そうやって見ている限り、この部会の中で優生思想に対する反省、改 正したのだということが反映されているとは思えなかったんです。  科学技術というものは無色透明なものではないと思います。社会に差別や偏見があれ ば、それを反映しますし、それを強調してしまうおそれもあります。改正の趣旨が共有 されていない社会、つまり、未だに堕胎罪があり、障害者が歓迎されていなくて、女性 に対しては健康な子どもを産みなさいという圧力がある社会では、出生前診断の情報も 「胎児条項」に関する議論も、障害のある子どもを産んではいけないという意味を持っ て人々の耳に伝わります。むしろ優生思想を一層強めるおそれがある訳です。情報提供 も議論も公になされるならば、そのことを認識した上で、そうしたバイアスを取り除く 努力、配慮をもってなされるべきではないかと思います。ですが、先端医療技術評価部 会にはその配慮が欠けているのではないでしょうか。ここは厚生省が行っている審議会 ですから、ここにおられる審議官はそのことをどういうふうに考えていらっしゃるか。 私は今日は意見を言いにきたんですけれども、後で私は審議官の意見を聞きたいと思い ます。  私は、この部会がどうあるべきかということを考えました。優生保護法の改正の趣旨 をもう一度思い出していただきたいと思います。国は、障害者を排除する政策をとらな いという決意をしたんです。未だに根深い優生思想をなくす方向に向けて、私たちの社 会が今、医療技術、生殖医療をどう扱えばよいか。国、医療、市民がそれぞれ何をすべ きかということを真剣に考える時だと思います。先ほどからも言っていますように、情 報の提供のされ方というのは、され方によっては、それがある方向性を持ちますから、 優生思想を深めることがないように配慮を十分した上で、十分な情報を市民の側に流し それから意見が双方向で行われる、つまり提供されるだけではなくて、私たちがそれを 聞いて、またそれに対して意見を返す、あるいは情報を出す、そういった双方向の情報 交換、意見交換が十分行われる必要があります。そういう場所を設定していくというの がこの審議会部会の役割ではないでしょうか。私は、そういうことをこの部会に努力し ていただきたいと思います。  まだまだ言いたいことはたくさんありますが、3ページの私たちの意見の概要の後半 の方に、(1) から(10)まで、私たちが医療と国に対して提言することを書きました。時 間があれば読みたいのですが遠慮します。是非読んでください。生殖医療にかかわらず どのような技術も、その社会から誰かを排除したり差別をするという方向に向かって使 われてはいけないということと、(10)に書きました「胎児の障害を理由とする中絶条項 は作らないこと」ということを特に強調したいと思います。 ○SOSHIREN 女のからだから(大橋) 今、米津の方が話したことを踏まえた上で、私は妊娠した女性、それから、これから 子どもが欲しいと思っているカップルへの影響ということを考えたいと思います。私自 身の妊娠・出産の体験、あるいはSOSHIRENの活動や仕事を通じて、これから子どもを産 もうとしている人に接する機会が多くあります。そこで感じるのは、今回この先端医療 技術評価部会でも審議の対象になっている出生前診断技術の開発が、赤ちゃんに障害や 病気があったらどうしようという不安を人々に与えている、そういう作用を強めている のではないかと思います。今のような形で出生前診断、とりわけ血清マーカーテストと いう簡単に出来ると言われている技術が進んでいくと、妊娠や出産という営みが、お腹 が大きくなったり胎動を感じたりして、楽しい、待ち遠しいものだというよりは、辛く てしんどい、緊張を強いられる、そういう営みになっていってしまうのではないかとい う危惧を感じます。 今、日本では、多くの母親が子育てを楽しいと感じられないというふうに指摘されて います。様々な調査や、あるいはいろいろな電話相談等々でも、小さい子どもたちを抱 える母親の悩みがよく訴えられています。「公園デビュー」という言葉まであってとて もプレッシャーを感じている。私が思うのは、今、子育てを楽しく感じられないという 母親の状況が、こういう出生前診断がどんどん進むことによって妊娠状態にまで逆上っ ていくのではないか、そんなふうに感じます。私たちがSOSHIREN が活動していく中でも 高齢出産ということで出生前診断を勧められたり、あるいは妊娠と気づかずに薬を飲ん でしまったので、こういう検査があるというふうに勧められて、羊水検査を受けてしま った。でも、その結果を聞く段になって、なぜこんな検査を受けたのだろうかという後 悔や心の葛藤、悩み、そういう妊婦さんの声を聞くことが度々あります。こういう出生 前診断は、妊娠した女性を助けるというよりは、苦しめる結果になってきているのでは ないかと思います。とりわけ、血清マーカーテストの技術は、本当に使用を一時ストッ プするべき検査ではないかと思います。私たち大人の人間もそうですけれども、いろい ろな人間がいます。それと同じように、いろいろな赤ちゃんが生まれてくるということ を私たちはもっと確認する必要があるのではないでしょうか。病気や障害をもった赤ち ゃんが生まれることもあるし、お産やその後のことで障害をもったり病気をもつという 可能性は誰にでもある訳です。そういうことを余り情報として提供せず、そして現実に 障害をもっている家族がどのような暮らしをしているのか、どういった支援体制がある のかについては、ほとんど情報として妊娠している女性やカップルには与えられていま せん。その中で、今、トリプルマーカーと言われるような血清マーカーテストが進んで いるのです。 今、例えば母子健康手帳と一緒に付いてくるいろいろな副読本とか、あるいは妊産婦 雑誌等々でいろいろな情報が得られるようになっていますけれども、もし赤ちゃんに障 害があったらどうなるのだろうということについて、否定的な意味ではなくて、実際に どういう生活、どういう暮らし、あるいはどういうサポート体制があるのか、そういっ たことについての情報は知らされません。そして、診断技術だけが進んでいます。  簡単には比較出来ませんけれども、女性が仕事を続けながら妊娠・出産することを考 えてみたいと思います。例えば10年、20年前に妊娠した女性が母子健康手帳の副読本な どを手にしたときに、仕事を続けながら妊娠、出産、子育てをするという情報は非常に 少なかったように思います。一方で母子一体の原則や、「3歳までは母親の手で」とい うことが強調されて、妊娠したら仕事を辞めるのが当然のように書かれていた。それが ここ10年、20年で大分変わってきたと思います。育児休業制度もできました。働きなが ら子育てをするということについて、こういう制度もある、こういう支援制度もある、 こうやっている先輩達がいるという情報が幾らか出てくることで、それに勇気づけられ る人はかなり増えてきていると思います。 同じようにと言えるかどうか分かりませんが、障害があっても育てていける、障害が あっても大丈夫、そういう情報をもっともっと広めることが今必要なのではないでしょ うか。そういった情報提供や制度作りがないままに、そして、今、米津が言ったように 優生保護法時代の優生政策への反省がないままに検査法ばかりが進んでいくということ は、「個人の選択」を隠れ蓑にした新しい優生政策になってしまうのではないかと私は 思います。優生保護法の何が問題であったのか、なぜ差別だったのか。生まれるべき命 と生まれるべきではない命を国が選別してきたことの問題点、その歴史に向き合うので あれば、これからどうしたら優生的な政策をなくせるかということこそを国はやってほ しいと思うし、生殖技術のことを考えるのであれば、そういった社会的な状況、情報の 提供、差別をなくしていくこと、そういうことをしないままの検査の導入は優生政策に なってしまうと私は思います。 舌足らずですが、これで終わります。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、引き続きまして、「DPI女性障害者ネ ットワーク」の方々から御意見をお伺いしたいと思います。よろしくお願いします。 ○DPI女性障害者ネットワーク(堤)  私たちはDPI女性障害者ネットワークです。DPIというのは障害者インターナシ ョナルという意味で、国際組織でDPI日本会議という団体があるのですが、その中で 女性同士の連帯というか、声を集めようということで1986年に結成された団体です。女 性障害者の自立促進と優生保護法撤廃ということをメインテーマにして1986年に結成さ れました。今日は、篠原の方から先に意見を少し述べてもらった後に、私の方でも意見 を述べるという順番で行っていきたいと思っています。よろしくお願いします。 ○DPI女性障害者ネットワーク(篠原)  DPI女性障害者ネットワークの篠原です。よろしくお願いします。  まず最初に伝えたいことは、私は障害をもっている私自身が好きだということです。 もう少し突き詰めて言えば、好きになりかけてきたところかなというところです。中 学・高校と育ってくる時代には、自分がすごく嫌いになった時代もありました。「優生 保護法」という言葉を聞いた時点とか、社会が私を見る目とか、そういうものからくる ものだったと思います。ですけれども、その頃の年代というのは、私は双子ですけど、 双子の姉も、大体その時期というのは自分自身が嫌いな人間がすごく多いんです。だか ら、私だけじゃないと思うんですけど、それこそ太っている、背が低い、鼻が低い、目 が悪い、そういう理由とか、女性だったら胸が小さいということで自分が嫌いという人 がすごくいました。だから、私だけではないんですけど、私は最近、どんなふうに生ま れて育っても、育ってくる過程においては、自分のことを嫌いだったり好きだったりす る過程がどうしてもあるんだなということを感じています。 さっきもありましたように、私は双子で育ったので、35年間の姉との関係の中で、姉 は私のことをすごく羨ましがります。障害をもっているということで人間関係がすごく 広かったり、障害を持っていても自分よりすごく行動力が大きかったり、姉は親が決め た学校に行き、短大に行き、結婚をし、子どもを産みました。その中で、私は姉とは全 然違い、自分で高校も選び、小学校すら私は選びました。親と別れて暮らす生活を自分 から選びました。それでも、学校に行きたいといって選びました。その中で、私が自分 で何でも選んでいく人生を見て、姉は私を羨ましがります。でも、私もやはり姉が羨ま しいです。結婚して、子どもをもって、家を建てて、一般にいう幸せな家庭を築いてい ると感じたときに幸せそうだなと思います。だから、2人が2人ともどちらもがすごく 羨ましがり合って、いつも「いいね。私はこうだ、私はああだ」と言いながら育ってき ています。その中で本当に思うのは、姉の生活もいいなと思うけど、私は自分の生活は いいなと思っています。2人の中で思うのは、障害の有無で人生が不幸だとか幸せだと いうのは決して言えないなということを思っています。  私は、姉と比較してよく言われます。「あなたは障害をもっているから」と言葉の頭 に付けられてものをよく言われます。でも、障害をもっているからこそ、こんなことが 出来るんだよと、本当にそういう感じです。1つの価値観では絶対に人の人生の幸・不 幸は変えられません。ましてや、生まれる前の命を障害や病気をもっているからどうだ こうだとは絶対に言えないと思います。生まれてくる命は、幸せになろうとする力を持 って生まれてくると信じた上に立ってほしいと思います。障害や病気をもって生まれて くる子が不幸だとか、その周りの人が大変だからという理由づけは何の価値も持たない と思います。  私たちが欲しいのは、その命が障害や病気をもっているからどうこうして欲しいとい うことではありません。その障害や病気についての知識、それから社会におかれている いろいろな情報、精神的なサポート、いろいろな面での情報が欲しいんです。病気を完 全になくすることを欲しいと言っている訳じゃないんです。そのために、この社会には どんな子どもが生まれてきても当然だというところに立って、私たちが本当に欲しいの は、障害や病気をもっている子ども、それから家族、周りの人への精神的なサポートも 含めた環境づくりです。命を生かすために出生前診断やいろいろな技術を是非使って欲 しいと思います。 ○堤(DPI女性障害者ネットワーク)  私は、先月、この部会を傍聴しまして、それ以来、これは是非言いたいというふうに ずっと温めてきたことがあります。それは、この先端医療技術評価部会の中にこういう 場を設けてくださったことがとても嬉しかったということです。それは、1つは、ここ にいる委員の皆さんに私達の生の声を聞いてもらえるということがあります。それとも う1つ、私にとって本当にものすごく大きかったのは、いろいろな女性団体や障害者団 体や家族の会や、そういった人たちが一堂に会して、その思い、意見を確認し合えるチ ャンスをつくってくれたということ。私は1か月前にはそれが本当に嬉しくて、いろい ろなところでこの結果を話しています。  例えば、何が嬉しかったかというと、重症心身障害児をもつ家族や精神障害や、それ からダウン症や筋ジストロフィーや、青い芝の会の仲間たち、脳性麻痺の仲間たちは本 当に古くから付き合いのある仲間たちですけれども、そういった人たちが、障害の種類 であるとか、家族であるとか、いろいろな立場を越えて、本当にみんなが一致して障害 をもっていることは不幸ではないというふうに言い切っていたこと。それから、障害の ある子どもたち、あるいは障害のある家族と暮らすということが、ごく当たり前の普通 なことだというふうにみんなが言い切っていたことです。それで、「胎児条項」の導入 には絶対反対だということをみんなが言い切っていたことです。私は、そのことが本当 に何よりもすごく嬉しかったです。  私は、自分が脳性麻痺の障害者として生まれて育つ中で、障害が不幸なことだとか、 かわいそうなことだという眼差しやメッセージをたくさん受けてきました。そういう中 で、それは優生保護法にも関係しますけれども、障害をもっている自分はほかの人より 劣った価値の低い人間だというふうに思い込まされてきたことは、はっきり言って、と ても辛いことだと自分では思っているし、幼稚園とか学校の入園や入学を拒否されてき たり、変な歩き方だというふうに子どもたちにからかわれたり、今でも電車やバスに自 由に乗れない、そういったようなことは辛いし、悔しいことでもあります。だけど、同 時に、障害をもつことで人の優しさとたくさん触れたり、障害があるとか無いとか全く 関係のない日常の中で、それこそ本を読んだり、音楽を聞いたり、友達と旅行に行った り、恋をしたり、スポーツをしたり、仕事の達成感なども含めて、楽しいこと、ワクワ クするということも山ほどあります。そういった辛いことも楽しいことも全部ひっくる めて、私がそれが人生の醍醐味だと思っています。そういった人生の醍醐味があるとい うことは、今、篠原の方からも話したように、それは障害があるとか無いということと は全く関係ないと思っています。  私は、割と小さい頃から楽天的なせいなのか、「足が悪くてかわいそうだね」という ふうに周りから言われていても、「別に私は足が悪くても、生きているのは面白いよ」 というふうに言い返すような子どもでした。だけど、親とか、あるいは周りの大人たち に「あなたは障害が軽いからそんなことが言えるんだ。じゃ、寝たきりだったらどうす るの。知的障害だったらどうするの。本人はまだいいかもしれないけど、障害者を抱え た家族って大変なんだよ」といろいろなことを言われて、そういう言い方の中で、だか ら障害をもつことは不幸なんだということを一生懸命伝えようとする周囲の人たちを山 ほど感じてきました。私は、確かにそういった言葉に対して一つ一つ言い返してはこれ なかったけれども、でも、思春期の頃に筋ジストロフィーで障害が進行していって、命 も短いと言われる子どもたちの手記の中で、からだが不自由になっていっても、命が短 くても、生まれてきた意味は十分にあるし、不幸じゃないという言葉を読んで、それを 私の心の中で一つの支えとしてやってきた、そういう思春期もあります。  大人になってから、私は、障害は不幸じゃないという仲間達とたくさん出会ってきま した。今、私の仲間達は、隣にいる篠原さんや、その他後ろで傍聴してくださっている 多くの人達というのは、自分が出来ないことは出来ないと言って助けを求めることがで きます。近づき合って支え合うことで行きたいところにも行くし、本当に私の仲間達は 全国にも行くし、世界中にも出て行っています。障害の重い人達もどこへでも行ってい るし、仕事を持ち、結婚をし、子どもを産んで、それこそ傍聴している仲間の中には障 害児が産まれると分かって、それでも子どもを産んでいる仲間達もいます。そういう意 味で人生を充実させて楽しんでいます。  この時代を障害者として生きる面白さというのを私はものすごく感じています。だか ら、先月この場で、今迄「それはあなたが障害が軽いからだ」とか「口が達者だから だ」とか、いろいろな言い方をされてきたけれども、そうじゃなくて、どんなに障害が 重くても、いろいろな障害種別を越えて、やはり障害をもって生きることは不幸じゃな いし、障害者を家族にもつことも不幸じゃない、そういう声をこの中で聞けたことは私 は本当に嬉しかったです。活字じゃなくて、生の声としていろいろな人の声を聞けたと いうことがすごく嬉しかったので、それは、仮にこれから障害は不幸だという価値観が どんなに強く広がったとしても、それを変えるだけの広がりを今、私たちはつくり出し ているというふうに思えて、そのことがすごく嬉しかったです。だから、今日、私がこ の場で言いたいことは、本当にそれがすごく嬉しかった、こういう場をつくってくれて 嬉しかったという感謝と同時に、障害をもつことも、障害者を家族としてもつことも、 どちらも決して恐いことじゃないんだよということを、本当に多くの人に、この場にい る委員の皆様にも、それから日本中の人達にも心からそれを伝えたいというふうに思っ ています。だから、絶対に「胎児条項」は入れないでほしいんです。障害をもって生ま れることは絶対不幸じゃないし、障害者と共に生きることも決して不幸じゃないという ことを本当に伝えたいと思っています。  子どもの頃に「足が悪くても人生が面白い」と言った私に対して、「それはあなたの 障害が軽いからだよ」云々というふうに言って、障害が軽いとか重いというふうに分け るような言い方というのはあった訳ですけれども、優生保護法のことで、厚生省に優生 保護法をなくしてほしいと言っていた時代に、厚生省の人たちは「自分たちもなくした いんだけど、女性団体が反対するからね」というような感じでよく私たちは言われまし た。だけど、女性団体の人たちもなくしたかった訳です。こう言うと、あなた達はいい けど、こうこうこうなんだと、人の意見を分断していくような方向というのが世の中で はまだまだ強い。私は、それはすごく悲しいと思っています。それは、私たち自身も、 女性団体から、産む産まないは女性が決めるんだというふうに言われたときに、「じゃ 胎児も障害児と判ったら中絶することも女性が決めるの」と言って反発していた時代も ありました。ただ、今、私達はちゃんとみんなで共通認識として持っていますけれども 女性は五体満足な子どもを産まなくては一人前ではないとか、女性のからだを通して優 生思想を実現しようという戦時中からの国の政策が障害者と女性を対立させてきたんだ というふうに思っています。そして、産んでいい女とか産んではいけない女という分断 をつくって、障害者と女性を対立させてきたんだということに私達は気づいています。  今、単純に思っていることは、これは先ほど別の団体の方もおっしゃっていますけれ ども、産むか産まないか、また、いつ産むか、そして自分のからだのことは女性が決め ていいことなんです。あらゆる命は、障害があるとかないとか関係なく、すべて生まれ てくる意味を持って生まれてくる訳だし、全く同じ価値を持って生まれているのだから どのような子どもを産もうと、産んだ女性が罪悪感を感じたり責められたりする必要は 全くないし、生まれてきた子どもも、障害のあるなしで自分は価値が低いとか、そうい うふうに思う必要は全くない。堂々と生きていっていいんだということをつくづく思い ます。  最後にもう一つ強調したいことがあるんですけれども、例えば家族制度や男尊女卑の 強い社会の頃には、生まれてくる子どもが男の子であるか女の子であるかということが その子どもや家族の生活に対してすごく大きな意味を持っていた時代がありました。で も、私達の社会は私たちの知恵と力でその問題を克服してきたと思います。日本人類遺 伝学会の「遺伝カウンセリング・出生前診断に関するガイドライン」の中に、出生前診 断で胎児の性別が分かる技術が今ありますよね。でも、遺伝病診断のために検査が行わ れる場合を除き、胎児の性別を告知してはならないというガイドラインを設けています ね。それを設けているというのは、一部の遺伝病診断のために云々というところを除く と、私はすごいことだなと思うんです。今の時代は、生まれてくる子が男の子であって も女の子であっても構わないじゃないか。男であるとか女であるとか、そういうところ で差別をしてはならない。そういうふうに私たちの社会が勝ち取ってきた価値観のあら われがそのガイドラインの中に出ていると私は思っています。  だから、逆に言えば、私は障害の有無もその程度のことだよということをすごく言い たいです。ただ、はっきり言って、昔の時代に男か女かが大きな意味を持ったぐらいの 大変なものが、今の社会の障害の有無ということの中にはあるということも悔しいけど 認めています。それだけ障害者差別が根強い社会だということは分かっています。だけ ど、男の子である、女の子であるということが大して意味を持たないというふうに私達 の社会が勝ち取ってきたように、障害があるなしは関係ないだけの、そういった社会を つくり出す力を私たちみんなが持っているんです。私は、そのことは本当に強く感じて います。  だから、繰り返しになりますけれども、障害者を産むことも障害者として生きること も決して恐いことじゃない。それは、前回と今回、ここのヒアリングに集まった人達の 意見がこれだけ確固たる意思を持ってみんなの中に広がっていることがすごく証明して いると思います。だから、私達は、いろいろな障害をもつ人、いろいろなからだをもっ ている人達、そして知的障害とか精神障害とか、例えば問題と言われるからだや心をも った人たちとも近づき合って、支え合って、共に生きていけるだけの力を持っています だからこそ、障害の有無を調べるための出生前診断はやめてほしいし、「胎児条項」は 絶対につくらないでほしいんです。私は、優生保護法がなくなったことを高く評価して います。いろいろ問題はあるけれども、優生的文言をなくしたことは、厚生省の人たち も含めて、私たちの知恵と力の結晶だと思っているし、だから絶対に「胎児条項」を入 れないという知恵も持ってほしいと思います。そして、21世紀に向けて、ここにいるみ んなで本当に力を合わせて、障害児を産むことは恐くないんだと言える社会をつくって いきたいと心から思っています。 以上で終わります。 ○高久部会長 どうもありがとうございました。それでは、「フィンレージの会」の方、よろしくお 願いします。 ○鈴木 (フィンレージの会) 「フィンレージの会」の鈴木良子と申します。今回の「見解の概要」を提出する前に 意見書を出して、そのときに団体の概要を添えたのですが、今日の配付資料の中には付 いていないようなので、まず先に「フィンレージの会」の説明をさせていただきます。 「フィンレージの会」というのは、1991年に、晶文社という出版社から『不妊−いま 何が行われているのか』という本が出版されました。これは翻訳書だったんですけれど も、当時、不妊の女性の声を集めたレポートというのはまだ非常に少なくて、書店で売 られているものは不妊の解説書が多かった訳ですから、私も、この本が出たときに非常 に衝撃を受けた一人です。この本の出版をきっかけに、不妊の当事者からかなり手紙が 翻訳グループあてに届きました。「本当に私もこういう状況で苦しんでいるんです」と いう当事者からの悩みの声がほとんどで、誰にも分かってもらえないという悩みを共有 するためにも、これは何か会の活動が必要ではないかということで、1991年2月に「フ ィンレージの会」が発足いたします。以来、8年目に入っていますけれども、現在の会 員数は全国に1,230名程。事務所は東京の中目黒にありまして、会員総数の半数は関東地 域という感じになっております。この運営は、代表者は特に置かず、十数名のスタッフ により民主的に運営されております。  活動としては、2ヶ月に1回のニューズレターの発行、それから中目黒の事務所にお いて月に1〜2回、「井戸端会議」と私たちは呼んでいるのですが、例えば「今日、病 院でこんなことがあってね」というようなことで、いろいろなことをおしゃべりし合う 井戸端会議というのを月に1〜2回やっております。また、随時、例えば養子について 薬について、検査についてのセミナー等もこれまで行ってきました。フィンレージは本 部・支部という関係ではなくて、いま現在、各地に自主グループも20ほど出来ておりま して、全国各地でそういった不妊の問題への取り組みということが広がりを見せており ます。そうしたスタッフとして活動に携わってきました中で私たちが感じてきたことを 今日はお話しさせていただきたいと思っております。  まず、今回の意見募集をいただきまして、とにかくみんながこれだけは言ってきてく れというふうに何人もが言ったこと、それは生殖医療補助技術全般に関わることですけ れども、とにかく医療現場に説明がない、情報がない、カウンセリングがないというこ とでした。もっときちんと説明してほしい、カウンセリングの場を設けてほしいという 声が会員の中で非常に多く寄せられております。技術の各論については、ここ(*概 要)に書いてありますので後で読んでいただきたいのですが、今日は書いていないこと をお話ししたいので、むしろ読まずに聞いていただけますでしょうか。  まず1つ目は、今言った繰り返しになりますが、そういった生殖医療補助技術全般に ついての説明の無さということです。例えば、1993年に私達会員に対しての治療アン ケートというものを行いました。877人の体験、声が回収されたんですけれども、そこの 記述欄には、「妊娠すればいいんだから、いちいち説明などしません」、薬の副作用に ついては「そんなに言うなら、もう治療しませんよと言われた」あるいは、「こちらの 言うとおりに飲んでいればいいんです、と言われました」というような声が非常に多く 寄せられております。中には、カウンセリングと称して医師への謝礼を説明しただけと いう病院さえありました。これは1993年のデータですけれども、この状況はそんなに変 わっていないのではないかというのが私たちの実感です。 今回の先端医療技術評価部会で、こういった技術についての現状の安全性というのが テーマの1つになっている訳ですが、それらの分かっている範囲での技術の安全性、リ スク、成功率や見通し、こうしたことが受けるカップルに明示されているかというと、 本当にそうではないなというふうに思っております。例えば現在、体外受精で赤ちゃん が生まれる率、赤ちゃんを抱いて家に帰れる率というような表現もしますけれども、こ れは治療周期、いわゆるチャレンジ当たりで計算すると、平均でだいたい11%程度にな ります。しかし、多くの病院や新聞等で発表されているのは、胚移植あたり、つまり胚 が出来て子宮に戻せたときの妊娠率です。この後で、例えば流産率が普通より非常に高 いことなどはほとんど載っていなかったりしますし、この妊娠率そのものが時には30% だったり40%、あるいは先日の新聞などには「うちの病院は受精率が90%である」とい うような表示が載っていたりしまして、私達は「一体何が本当なの」と非常に迷う訳で す。実態とずいぶんかけ離れているということです。診察室に入りますと、中には「大 丈夫です。あなたを必ずお母さんにしてあげますよ」と太鼓判を押す医師もいますし、 「一発妊娠でいきましょう」と言うような医師もいます。体外受精、顕微授精というの は、ようようそこまでたどり着き、苦しい選択の中でがんばろうと思って行く訳で、そ うした言葉に希望を託すのですが、結果は、結局は9割が妊娠出来ずに終わっていって しまう。本当に心身ともに疲れ果てているというのが現実だと思っております。この他 排卵誘発剤の使用による長期的な副作用、例えば癌との関係ですとか、更年期が一体ど うなってしまうんだろうという声も非常に多いんですが、これらについても、今のとこ ろ、ほとんど情報がありません。  2つ目は、不妊治療と出生前診断の関連ですけれども、ここでも、今現在、体外受精 や顕微授精といった技術によって妊娠した女性に対して、羊水検査が勧められていると いう現実があります。私個人も、会員から「羊水検査を勧められたんだけど、鈴木さん どうしようか」という相談を何度か受けたことがあります。特に顕微授精の場合は必ず 羊水検査を勧めるという病院も出てきたようです。1〜2個の精子を選んで、卵の中に 送り込むという作業が一体何をもたらすのか、そのあたりがまだよく分かっていないと いうのがどうやら理由のようですけれども、顕微授精という技術そのものが、そもそも そうしたリスクをはらんでいるんだということがカップルに十分に説明されていません やはりみんな「顕微なら可能性があるかもしれませんよ」といった言葉に希望を託して 受けているというのが現実で、ここでも決定的にインフォームド・コンセントが欠けて おります。勿論、技術について議論をしていただくのは、私達は本当にこういう場が出 来てうれしいとは思っているんですけれども、やはり現場の実態を踏まえた上で議論し ていただきたいということ。そして、とにかくこの場を借りて、医療現場にはきちんと したインフォームド・コンセントと情報公開ということを望んでいきたいと思っており ます。  AID(非配偶者間人工授精)、それから多胎・減数手術、卵・受精卵提供、代理母 ということについては、概要の方に簡単に意見を書いておきましたので読んでください  ここに書いてある以外のこと、問題は、どうして私達はこうしたいろいろな課題のあ る生殖技術を用いて子どもを望むのかという点だというふうに思っております。お集ま りの委員の皆様も、例えば代理母とか精子提供といった問題を考えるときに、そんな技 術を使ってまで一体どうしてそんなに子どもを欲しがるんだろうというふうに思ってい らっしゃる方も実はいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、本当に一体どうして 私は子どもが欲しいんだろうということを自分に何度も何度も問いかけてきました。私 個人は、例えば子どもを育てることをしてみたいとか、大家族への憧れといったものも あった訳ですが、こうした理由というのは実は非常に表層的なものかなというふうに思 っています。現実には、その人の人生観、子ども観、家族観、果ては死生観、その人の 生と死といったものが不妊という問題に絡んでいる。それが横糸であるならば、そこま で当事者を追い込んでいく文化・社会のあり方というのが実は縦糸としてあります。  少し具体例をお話ししたいんですけれども、ここにお集まりの皆さんは、失礼ですが きっと年齢的にはお嫁さんとかお孫さんとか、そんなことがあってもおかしくないとい うお年の方もいらっしゃると思うのですが、現実にそうした人がもし不妊であったら、 こういう状況になるかもしれませんということで、少しそんなことをイメージしながら 聞いていただければと思います。  まず、ある女性が初対面の女性に言われた言葉です。「どうして子どもをつくらない の?えっ、出来ないの!どっちが悪いの?あなた、御主人?病院に行って検査した?そ う、あなたが悪いの」ここまで一気にきます。「子どもはまだ?」という問いかけはよ くあるんですが、実はその後に「結局、原因は何なの?」みたいな、人のプライバシー にヅカヅカ踏み込んでくるような言葉が後に続いているんです。私もこれに似た言葉を しょっちゅう投げつけられた経験もあります。「早くお父さん、お母さんを安心させて あげなさいよ」というのはかわいい方で、「遊んでいないで早く子どもをつくれ。いく ら仕事が出来ても子ども一人産まないんじゃ一人前じゃない」、「つくらないんじゃな いんです。欲しいのに出来ないんです」という言葉を心の中で何度叫んだことか。私の 場合は「二度とそんなことは言わないでほしい」というふうに親戚の前である日爆発し ましてきちんと言いましたので、そういうことはなくなりましたけれども、そういうこ とを言えずにじっと耐えている方はずいぶん多いと思います。  夫婦のベッドにまでヅカヅカ踏み込んでくるような言葉もありますね。「やり方を知 らないんじゃないか。下手くそ。俺が一発で仕込んでやるから嫁さんを貸してみろ」、 あるいは男性本人に対しても「子ども一人つくれないなんて情けない男だ。君は種なし スイカだ」と。夫の親、親類縁者というのは、跡継ぎ問題も絡むのでもっと辛辣になり ます。「幾ら見かけがいいといっても、子ども一人産めないんじゃどうしようもない。 役立たずの嫁だ」、「あんたはデブで、チビで、足が短いから子どもが出来ないんだ」 「産めなければこの家の者ではない」、「産まない嫁は世間の恥になるから外に出なく ていい」と外出禁止令を出された人もいます。実の母親からも、例えば月経の問題で 「あんたなんか女じゃない」とか「産めないなんて人並みじゃない」と責められ続けて いる方もいます。 また、今、2人目不妊という問題も非常に多いんですけれども、ある人がやっとの思 いで1人目を出産して、病室に夫のお母さんがお見舞いに来てくれたんです。開口一番 「女は3人産んで一人前だからね」とベッドで言われたそうです。「女は産んで一人 前」という通念が本当にどれだけ私たちを苦しめているか。少子化が騒がれる中で、産 み育てるのは社会的責任であり、その責任を果たさなかった人にはペナルティが科せら れて当然というような主張もどうやら出てきている昨今です。  不妊に悩む人たちは、こうした外的や内的なプレッシャーの中で、この苦しみから逃 れるには子どもを産むしかないんだ、子どもをつくるしかないんだ、そういうふうに思 い詰めて病院の門を叩いているということ、技術に望みを託すのも、そうした背景があ ってこそだということをまず知っていただきたい。技術の中で逆に傷ついていくことも あります。繰り返される人工授精。「私はパンダや牛じゃない!」と表現した人もいま した。「人間としての尊厳を失っていく」と表現した人もいます。人工授精を40回以上 受けて、もう数が分からなくなったという人もいました。「体外受精を10回受けたけれ ども妊娠しない。一体どこまでやればいいんですか」とポロポロ泣いた人もいます。 雑誌や新聞などでは、技術によって子どもを得た、その喜びを語る手記などもずいぶ ん掲載されているんですけれども、やはりこうした光だけではなく、影の部分もきちん と知った上での議論を望んでおります。現在、秋田県と新潟県で排卵誘発剤の副作用事 故による裁判が起きております。どちらも体外受精を受ける準備として排卵誘発剤を使 用して、1人は死亡、1人は半身不随という後遺症を背負いました。これも氷山の一角 ではないかというふうに私たちは思っております。  以上です。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。最後になると思いますけれども、「優生思想を問う ネットワーク」の方、よろしくお願いします。 ○優生思想を問うネットワーク(矢野)  「優生思想を問うネットワーク」の矢野といいます。まず最初に、私たちの団体はど ういう団体かということを少しお話しさせていただいて、それから、仲山の方から今考 えていることをお話しします。それと、最後に私の方からもう一度お話しさせていただ きたいというふうに思っています。  まず、私達は、優生保護法とか生殖医療における優生思想に関心を持つ団体ですけれ ども、もともとは障害者と女性が障害胎児の中絶というような問題について、どうして いつも対立してしまうんだろうということ、それがいつも顔を突き合わせている人たち の間で、これは自分たちがお互いにもっとちゃんと考えていきましょう、お互いが相手 を批判したりするだけではなくて、認め合っていく、理解していくということが大切じ ゃないかということでつくられてきたグループです。そういう中で、優生保護法の問題 これは1996年に改定されたんですけれども、変わった母体保護法の問題、堕胎罪の問題 それと、勿論、出生前診断の問題やそれによる障害胎児の中絶をどういうふうにしてい ったらいいんだろうか。また、最近よく「胎児条項」ということが話題になっている。 これはどういうふうに考えていったらいいんだろうかというようなことを自分達の中で 考えたり、いろいろな取り組みをしています。その中で、学者さんも勿論来ていただい たこともありますけれども、障害者本人、それから障害者の親の方々、そういうごく普 通の生活をしている人達の話が私たちの意識を非常に変えてきたと思うし、そういう取 り組みの中で、障害者と女性が全く対立する必要もなくて、きちんとお互いを認めてい くことが出来れば、そういう問題を解決していくことが出来るんだということを自信を 持って確認することが出来たと思っています。 それでは、仲山の方からお話しします。 ○優生思想を問うネットワーク(仲山) 仲山です。自分が思っていることをしゃべりたいと思います。自分が二十歳ぐらいの ときだと思うんですけれども、優生保護法というものを知りまして、何てひどい法律だ ろうというふうに思って、やはり優生保護法というものは、自分も障害者で、自分を否 定されているものだと思いました。それで、1996年に優生保護法から母体保護法に改正 されて、第一条にあった「不良な子孫の出生防止」というものが無くなって、1つ前進 したなというふうに自分は思っていましたが、それは1つの前進だけど、そうかといっ て、自分としては全然変わっていないなというふうに感じています。それは、出生前診 断とか、日本産科婦人科学会が着床前診断を進めていこうというのを見たりする中で、 やはり全然変わっていないんだなというふうに思っています。  それと、よく言われるんですけど、ちょっと話がずれるかもしれないですが、私が1 人で新幹線に乗ったり、街に出たりしたときに、地元で1人暮らしをしているんですけ ど、「車イスで、若いのに大変じゃねぇ。」と言われるんだけれども、「何が大変なん じゃろうか。勝手に周りが決めよるだけじゃん。別に大変じゃないのに。」と思うんで す。自分が話す事によって「あぁ、そういう考えもあるんだ」と気付いてほしくて、そ う言われる度に「大変じゃない」と相手に言い続けているんだけれども、なかなかすっ と分かってもらえません。そんなくり返しで自分としてはしんどくて困る時もあります  それと、自分は日常的に介護者を入れながら生活していますから、自分がどういうこ とをして動いているかという話をしたりするんですけど、今回も「厚生科学審議会に行 ってくるんだよ」と言ったら、「えっ、それ何」というような言葉が出てきて、説明す るのにも一苦労です。その原因の1つに、一般に公開しているというふうに言われるん ですけど、インターネットですよね。インターネットを持っていない者は情報が遅くな ったりするので、これは一般公開ではないと自分は思っています。だから、本当に公開 してください。それを強く言いたいです。 ○優生思想を問うネットワーク(矢野)  それでは、続けて言います。先ほど仲山の方から、優生保護法が変わっても何も変わ っていないと思うというような話があったと思うんですけど、本当に私もそう思います 「優生保護法」という名前すらよく知られていないし、それが変わって母体保護法にな ったということも知らないし、また、それはどうして変わったのかということもよく知 られていないと思うんです。先ほどどなたかが読んでくださった改定の趣旨に、差別を なくすんだよ、障害者に対する差別はいけないんだよということがちゃんと明記されて いるにもかかわらず、そういうことについての論議はほとんどされていなかったんじゃ ないかと思うんです。  そういう優生保護法の時代に、どんどん出生前診断の技術が幾つも幾つも開発されて きて、そして件数が増えてきているというのが現状だと思うんです。だから、本当に差 別をなくすんだ、それはいけなかったんだというふうに思うのであれば、安全性がどう とか、確実性がどうとか、あるいは件数が増えてきていますねとか、これでは法的にも 考えないといけませんねというレベルでの論議をする以前に、出生前診断というのが本 当に障害者にとっては差別ではないのかということをきちんと捉えて考えていただきた いと思うし、また、優生保護法の時代に、強制不妊手術とか、また、今も続いています けれども、女性障害者の子宮摘出の問題などもまだあると思うんです。そういったこと について、きちんと考えていただきたい。そういう中で、出生前診断というのはどうい うふうにしていったらいいんだろうかということをこれから考えていただきたいと思う んです。  私たちが出生前診断についていろいろなお医者さんなどに話を聞くと、学会の会告と かガイドラインをよく見るんですけれども、そういう中に、重篤な疾患を有する場合は やむを得ないではないかというふうな表現がよくされているんです。でも、私達の実感 障害者の仲間同士の付き合いからいくと、重篤とか、軽度とか、そういうことは関係が ない。その人本人の人生の生き方とか、その人から受ける個性ということに、障害の重 篤さということは全く関係がない。親やお医者さんが、これはとても重い病気だし、余 り長く生きられないしというふうなことを思っているかもしれないけれども、それに反 して何十年も生きていらっしゃる方もいるし、また、実際に生きるとか生きないという ことじゃなくて、生き方というものは、重篤でかわいそうということじゃなくて、本人 自身がどういうふうに生き方を選んでいくかということだと思うんです。  そういうことをきちんと捉えてほしいし、ただ病気の症状とか、介護のしんどさとか そういったことで重篤さというものをランクづけしていく。そして、生まれない方が幸 せという形で出生前診断をして障害胎児の中絶を認めていくということはやはりおかし いと思うし、不幸か幸せかというのは本人が感じることだし、それは一人一人、悲しい 目に遭えば不幸だと思うときもあるだろうし、楽しいことがあれば幸せだと思うし、そ れは障害のない人も、ある人も同じだと思うんです。だから、障害があることだけで生 まれない方が幸せだというふうに思ってしまう、決めつけてしまうというのは、それは 障害者自身の思いというものを無視しているというふうに思います。それは、本人が生 まれて生きていく中で感じることであると思います。ですから、障害とか疾患の重篤さ によって、そういう場合は出生前診断とか、それによる障害胎児の中絶を認めてもいい んじゃないかという論議はやはりおかしいんじゃないかというふうに思います。  それと、そういうときに、お医者さんと話をしたりしていると、「自分たちは診断す るだけであって、当事者の方がその結果どうするかを決めるんですよ」とおっしゃるん です。だけど、お医者さん自身が、障害についての医学的な情報は持っていたとしても その人達がどんなふうに生きているかということはほとんど知らないことが多いし、大 変だから、そういう子は生まれない方がいいというふうに思っていらっしゃるお医者さ んも多いんです。そういう中で結果を告げられる。それで、やはり社会の中で障害者に 対しての負のイメージというものがすごく大きいし、大変な苦労があるという不安を持 っていらっしゃる方がたくさんいます。本当は、もっともっと障害者が世の中にどんど ん出ていって、そして社会の中でごく当たり前に付き合っていくことが出来れば、そう いうイメージもどんどん変わっていくと思うんですけれども、残念ながら、まだまだそ ういう状況にありません。  そういう中で、「あなたのお腹の子どもは障害をもっていますよ」ということ、そし て、お医者さんが何か難しげな症状を言ったり、こういうふうな症状があります、こう いうふうな危険がありますみたいなことをたくさん言われたら、誰でも「どうしよう か」というふうに悩んでしまうし、やはりこれは堕そうかというふうに思われる方も多 いと思うんです。そういう中での個人の選択というのは本当の意味での選択にならない し、一方的に障害胎児を中絶していくという方向に流れるしかない、そういう現状だと 思うんです。そういう中で、個人の選択だから優生思想ではないということは言えない んじゃないかと私は思います。  そういうことについて、ではどうしていったらいいのかということですけれども、今 高齢出産の人が増えたりして、不安を抱いていらっしゃる方がたくさんいると思います また、さっきも言いましたけれども、障害児に対してのイメージというものを思いつか ない人がたくさんいます。そういう人たちが、自分が子どもを産むというときにいろい ろな不安を抱く。つい出生前診断を受けてしまうということ。そして、もしそういうこ とが分かったとしたら、どうしたらいいんだろうというふうにオロオロしてしまう。で も、一方で、そういう人たちに対して、ただ医学的な知識を言うだけではなくて、障害 児を抱えて、確かに最初は非常にショックを受けたし、不安にも思ったし、オロオロし た。でも、その子を育てていく中で、障害児を育てているからこそ楽しいことがある。 価値観が変わってきた。そういうふうにおっしゃる家族に私たちはたくさん出会いまし た。そういう人たちの話を現在不安に思っていらっしゃる方々に伝えていただきたい。 そういうことをやっていくことが大切じゃないかと思います。  また、既に障害児を抱えていて、介護が大変なんです。でも、次の子ももし同じ障害 をもっていたら、あるいは別の障害でもいいですけれども、障害をもっていたら、自分 達の生活が大変なんですというふうなことをおっしゃる方はたくさんいます。そういう 方達の声を、親のニーズがあるという形で、では出生前診断をやりましょうというふう におっしゃるお医者さんもいます。でも、私はそうではないと思います。やはりそうい う人達を支えていく社会体制がないからこそ、そういう親御さんが不安に思ったり、次 の子をどうしようと悩んだりする訳です。だから、障害があるかないかによって子ども の振り分けをしていくという方向ではなくて、一緒に生きていきましょうという方向で これからの対策を考えていくことが大切ではないか。そういう中で出生前診断とか障害 胎児の中絶ということをなくしていく、そういう努力をまずするべきではないかと私は 思います。  ですから、今「胎児条項」のお話などが上ってきているようですけれども、それは私 達は絶対におかしいと思います。絶対にやってほしくありません。今までの議事録を読 ませていただいても、そういう話が出てきて、その中に、今、中絶が出来る期間が21週 までということですけれども、21週を過ぎても障害をもっている場合はどうするのか、 産まざるを得ないのかという話がよく出てきて、こういうのを読んでいると、「え、障 害をもっている場合だけ中絶期間をもっと延ばすの。」というふうに思ってしまう訳で す。そういう方向に絶対にやってほしくない。国が障害があるという理由で中絶を認め ていくということは、私たちは絶対に反対です。また、現在広がりつつある母体血清 マーカーテストとか着床前診断など、新たな出生前診断をどんどん進めていくというこ とは絶対にするべきではない。先ほども言ったように、むしろ逆にいろいろな努力をす ることで、出生前診断、それによる障害胎児の中絶ということをもっともっとなくして いく。障害児も一緒に生きていきましょうと、そういう社会をつくっていくべきだと私 たちは思っています。 それと、最後に、こういう議論をされることは本当に重要だとは思うんですけれども これからどのようにされるのかということが非常に気になります。私たちは意見を言う 機会をつくっていただいて言えた訳ですけれども、では、これからはどのように審議を 進められていくのだろうかということで質問という形でさせていただきたい。今までの 議事録を読ませていただきますと、7月ぐらいに中間報告をまとめるというふうなこと も書いてありましたけれども、それはどのようにされるおつもりでしょうかということ それから、今はこのように申込みをすれば公開ということになっておりますけれども、 今後も公開をするのでしょうか。私たちが皆様方の審議の内容を実際に聞くことが出来 るのでしょうか。あるいは、こういうところだけではなくて、もっと広く広く一般の 方々の意見を聞いていく、そして討議をしていく。例えば、公開シンポというふうな形 のものをされることがあるのでしょうか。そういったことについて御質問させていただ きたいと思います。  以上です。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。ちょうど50分間程ありますので、これから質疑の時 間にさせていただきたいと思います。委員の方々から御説明された方々に対する御質問 がありましたら、どうぞおっしゃってください。 それから、最後に、これからどうするのかというお話がありました。この先端医療技 術評価部会は基本的に公開ということになっておりますので、初めから公開をしていま すから、原則は公開ということになるというふうに私は考えておりますが、この事につ いては委員の皆様方からいろいろ御意見をお伺いして最終的には決めたいと思います。 7月に中間的なとりまとめということを事務局の方で一応考えているようですが、どう いう形になるのかということはまだ何も決まっていないと思います。いろいろな方々の 御意見をお伺いしているというのが現状です。私の方からお答え出来るのはそういうこ とです。 ○伊藤審議官  米津さんから私に御質問がありましたので、最初にそのことについてお答えをさせて いただきます。  優生保護法の改正の経緯については、皆さん方、よく御承知のとおりです。端的に言 うと、人工妊娠中絶についての国民的な合意は非常に難しい訳です。したがって、従来 から厚生省は国民的な合意が出来れば法律改正しますというのが基本的なスタンスだっ た訳ですが、先般の優生保護法の改正は、国会議員の先生方が議員立法でやっていただ いた訳でございます。端的に言うと、優生思想のところだけ、合意に達する部分につい て切り離して改正したというふうに私は理解しております。  次に、厚生科学審議会の先端医療技術評価部会をそもそもどういう形で運営していく かということについてですが、私ども厚生省から先端医療技術評価部会の委員の方々に 審議をお願いするときの基本的な考え方は、あらかじめ何か決まった方向で審議をして いくという形ではなくて、審議をしていくテーマが最先端の医療技術と社会との関わり ということについて、医療技術の開発の方が先行している訳です。生殖補助技術や着床 前診断などで医療関係者が現場で非常に悩んでおられるし、障害をもった方、それから いわゆる国民的な合意がないままに現実が先行していくということについて、国として どう対応すべきなのか。  通常、審議会に検討をお願いする場合は、こういうテーマについて審議をしてくれと いうお願いをするのですが、当部会について言いますと、最初に御参集いただいたとき に、この部会としてどういうテーマについて審議をしていくのかという点について審議 していただき、大きく分けて4点の検討項目というのを整理をさせていただきました。 例えば何か問題を解決するために、それは国が法律という形でやるのか、専門家の団体 がガイドラインという形でやるのか、そもそも国が関与しない方がいいのか、いろいろ な選択肢を幅広く予断を持たないで審議をお願いしたいというのが基本方針です。  したがって、この審議経過におきましても、医療の専門家団体だけではなくて、法律 関係の団体、それから障害者の団体、女性団体から幅広く意見をお伺いしながら、そこ で合意というか、そこで審議を進めながら、ヒアリングをしながら、どういうまとめ方 が出来るか。ですから、あらかじめ予断を持たない形で進めていくという基本方針でや っている。そのことをお答え申し上げて、米津さんの御質問についての回答にさせてい ただきたいと思います。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。ほかにどなたか御質問は。 ○事務局  事務局から、先ほどの公開の件につきまして少しだけ補足させていただきたいと思い ます。  公開というのは、いろいろな方法があろうかと思うんですが、閣議決定等で極力公開 を進めるという中の公開の中には、今日のような議事の公開というやり方と、議事録の 公開というやり方、2つのものが認められております。私どもの審議会は、原則公開を 進めていく中で、基本的には議事録の公開をきちんと行うというような方法をとってい る訳でございますが、このような場等にふさわしい、特に議事も公開した方が望ましい というケースもございますので、そういう場合にはアドホックに議事の公開ということ もやっているという状況でございます。ただ、常時、議事の公開ということにつきまし ては、会場の関係でありますとか、あるいは取り扱う中身等によりまして若干制約があ る場合もございますものですから、議事録は公開をするということで公開というものの 最低限の担保はさせていただいているというような状況でございます。事務的に補足さ せていただきます。 ○高久部会長  それでは、どなたか御質問、御意見おありでしょうか。 ○金城委員  皆さん、どうも御苦労さまでした。また、「胎児条項」は絶対反対だということも大 変重く受けとめております。  それで、どなたに伺っていいか分からないんですが、一番最初になさった「からだと 性の法律をつくる女の会」の方に伺ったらいいと思うんですけれども、現在の母体保護 法では大変おかしなことになっているんですよね。ですから、私は堕胎罪なんてなけれ ばいいと思うんですけれども、堕胎罪がある。そして、ある一定の要件に該当するとき には中絶をしてよろしいということになっている訳ですね。その中絶をしてよろしいと いう理由の大変大きなところが経済的理由ですね。ですから、一定の期間までは産むか 産まないかは女が決めるということですけれども、経済的理由ということで、理由がな ければ中絶は出来ない訳ですね。そういうことになりますと、今、大変極端な解釈では 正常な胎児については中絶をしていいけれども、異常があるときにはだめだというよう なことをおっしゃる方もいる訳です。そういうことで、最終的には、やはり一定の期間 までは産むか産まないかを決めるのは女性だということだと思うのですが、そういうこ とを貫けるようにしていくには、今の法律のどこに手を入れたらいいというふうにお思 いですか。 ○からだと性の法律をつくる女の会(津和)  また補足をメンバーから申していただきますけれども、私達が今、新しい法律をつく りたいというふうに言っておりますのはその点なんです。1つは、今の母体保護法も優 生部分が優生保護法のときに取り外されたにしても、結局は今、先生がおっしゃったよ うな、中絶をするということが条件付きとなっています。経済的な理由ということを非 常に広範に解釈をされているというような側面のやりくりの中で決めているという現状 になっております。しかし、その中で私達は、女性が最終的にあくまでも自分の責任に よって決めることが出来るということを明記した法律をつくるべきだと考えております 現在は、今のような条件及び医師の判断によって中絶が認められているにすぎない訳で す。  ただ、今の先生のお話の中にありましたように、胎児に異常があった場合に中絶する ことが出来るというような優生保護的な部分、それを新しく盛り込もうとしている「胎 児条項」については、私たちは強く反対をしておりますし、先ほどから述べた自己決定 権ということは、むしろ私達自身が自分の人生をどう決めていくのか。そのことを選択 することが出来るというのは、障害をもっても、もっていなくても、そして産む産まな いも自分たちが選択することが出来る基盤を社会的につくるということなしには、それ を女性の自己決定権であるというふうに迫るということは、今、障害児の排除の方向に しか作用していかないのではないか。そのことを非常に強く危惧しているということを 申し上げたかった訳でございます。  それと、事前に産む産まないを決定するためには、からだと性についての相談所、自 分たちのからだの負担とか、あるいは、これを本当に育てていくためにどんな支援が必 要であるのか。どういう家族とのコミュニケーションをつくっていったらいいのか。ま た、望まない妊娠を防ぐための避妊の手段の問題、そうした本当の意味での相談の場と いうものが必ず必要である。そのことも法律の中に盛り込んでいきたいというふうに考 えております。 ○からだと性の法律をつくる女の会(芦野)  今の金城委員の御質問に対してですけれども、結論を申し上げれば、堕胎罪の存在を そのままにして、いかなる明快な答えもあり得ないと思います。現在は「胎児条項」が ないのに、胎児に異常があれば暗に中絶をしている現実が確かにあります。それでは困 るので、胎児に異常がある場合、何らかの疾患をもっている場合に中絶をしてもいいと いう国のお墨付きが欲しい。そのために「胎児条項」が欲しいという意見が出ている訳 です。中絶手術をする立場にあるお医者さん達から、そういう声が大分強く起きている のを私も承知しておりますが、結局、堕胎罪で処罰されるということがあるから、「胎 児条項」が必要になってくるという訳で、私は、そういうことをおっしゃるのであれば むしろ私達と一緒に堕胎罪をなくすために行動をとってほしいというふうに思っており ます。以上です。 ○高久部会長  他にどなたか御質問ありますか。 ○金城委員  今、「フィンレージの会」の方が実際に治療を受けた方々の意見を踏まえて話をいた だいたので大変参考になったんですけれども、皆さんの提言の中に、「情報公開、イン フォームド・コンセント、カウンセリングの徹底」というようなことがありますね。そ れから、2番目として、「生殖技術の安全性、女性のからだへの影響についての問題」 それから3番目に「登録管理、情報公開を行い」と、こういうことがあるんですが、例 えば3番目について、登録管理、情報公開は現になされているんですね。ただ、今のよ うな状況ではなかなか皆さんの御要望に沿えるようなことが大変難しいんじゃないかと 思うんです。  例えば、インフォームド・コンセントということも、お医者さんはインフォームド・ コンセントが要らないなんて思っている方は今はないんです。この間、不妊の治療をな さっているお医者様がお集まりになって、インフォームド・コンセントをどうして確立 したらいいかとか、カウンセリングをどうしたらいいかというようなお話をするシンポ ジウムもあったぐらいです。ですから、今は体制としてはそういうところが非常に変わ ってきている。ところが、現実には、今、あなたがおっしゃったような「私のところへ 来れば絶対大丈夫ですよ」というようなことがあると私は思っています。ですから、単 にこういうことだけではなく、やはり法律か何かで必ず事前にカウンセリングをしなけ ればいけないと。しかも、カウンセリングという場合に、病院で提供する方ではなく、 病院とは関係のないような第三者機関がやるとか、もうちょっと具体的にやらないとな かなかこういう御要望が達せられないような気がするんです。現実に皆さん、いろいろ 困っていらっしゃる中で、どんなふうにしていったらいいか。何か御提言がありました ら、もうちょっと加えていただきたいと思うのですが。 ○フィンレージの会(鈴木)  カウンセリングの具体的な内容について、例えば今、厚生省の『生涯を通じた女性の 健康支援事業』という中で、不妊専門相談センターという事業がいくつかの自治体で既 に始まっていますけれども、その相談センターの内容について、私達はこんな相談が欲 しいんですというようなことを、厚生省児童家庭局母子保健課の方に提出したりという ような活動を続けております。ですから、ここで私たちが欲しいカウンセリングについ てつらつら述べることは(時間がないので)差し控えたいんです。いずれにしても、大 ざっぱな話では、基本的に私たちの言うカウンセリング、インフォームド・コンセント は、子どもを産ませるための相談、説明ということではありません。不妊相談イコール 治療相談というふうに思っている方が恐らく多いと思うんですが、不妊の悩みというの は、先ほど言いましたように、社会的な側面に支配されている部分が非常に強いという こと。勿論、治療相談もQ&A式の、例えば「成功率はどのぐらいですか」という質問 にきちんと答えていくということが一方では非常に大事ですけれども、それだけでは対 応し切れない部分がどうしても残っていきます。  私達は、不妊の背景や不妊のカップルの心理といったものを十分に理解して、不妊と いう問題の中で、非常に傷ついていった女性や男性としての性アイデンティティの問題 自分への信頼感、それから人間としての尊厳ですとか、そういったものを十分に取り戻 していくこと。そして、そういう中で一緒に、この技術をどう考えようか、どこまで受 けようかというようなことを共に考えてくれ、寄り添いながら歩いていく、自己決定に 至るまでの、その葛藤だらけの道のりに寄り添ってくれるようなカウンセリングが欲し いということを申し述べたいのです。  もちろん、先ほど金城先生から御指摘いただいたように、非常に良心的なドクター、 インフォームド・コンセントについての気運というものが高まっていることは私も分か ってはおります。そうしたドクターが非常に増えてきました。ただ、総体として、まだ 現状は先ほど述べたようなものであるということ。結局、私たちの方にいろいろな声が 舞い込んでくる訳です。中には、ドクターといい関係で二人三脚をしながら治療にゆっ くり歩いていくという方も多くはなっていますけれども、それはまだまだ少数派だとい うことが私たちの認識です。  それから、(医療施設の)登録管理についてのご指摘ですが、これも、登録施設の名 前は公表されていますけれども、現実にそういった看板がその病院に掛かっている訳で はありませんし、施設名の公表というのはほとんど学会誌だけです。それから、先ほど の成功率に関しても、ほとんど学会誌のみの発表です。一般の人間がどれだけそういっ た専門誌を読みますでしょうか。そういった感じで、非常に広くという意味では非常に 情報が不足しているのです。それから、例えば登録管理といったところで、ここ(*概 要)に指摘しましたけれども、受精卵を使い回している、姉妹の卵提供なら受け付けて いるといった噂が会員からは寄せられております。つまり、登録管理といっても、全然 拘束が効いていない訳ですね。それは学会のガイドラインでもそうですし、廣井先生は 頷いていらっしゃいますが、そのあたりをどうしていくのか。そうした水面下での問題 を私達の側から告発するとか、されるとか、そういった関係ではなくて、例えばAID (非配偶者間人工授精)のことも含めて、このことをどうしたらいいのか、どういうカ ウンセリングであればお互いに非常に納得した上で治療を進めていけるのかということ を、こういった場をたくさん設けながら、むしろ一緒に考えていきたいと思っているん です。以上です。 ○からだと性の法律をつくる女の会(芦野)  今のカウンセリングに関して、一言審議会の委員の皆様にお願いしたいことがござい ます。  確かに、カウンセリングについては、前回の議事録を拝見しますと、ずいぶん議論が なされていたように思います。そこでもどなたかがおっしゃっていたように思うんです が、御存知のように、今、カウンセリングは収入に結びつきませんね。したがって、現 場で仮にお医者さんがカウンセリングをしたいと思っても、保険が適用されませんから ついその部分を省いてしまうという現状があるということを私は何人ものお医者さんか ら直接聞いております。カウンセリングは、別に生殖医療の分野だけではなくて、医療 の現場すべてにおいて必要だと思うんです。したがって、お願いしたいことと申します のは、勿論、この審議会は健康保険制度を審議する場でないことは百も承知の上で、是 非この審議会としても、「カウンセリングに健康保険の適用を」ということを御提言い ただきたいというふうに思います。以上です。 ○高久部会長  その点に関しましては、前々回だったでしょうか、そういう関係の方々から強い要望 がありました。委員の皆さん方の議論の結果にもよりますが、そういうことを要望する ことは十分に可能だと考えております。議事録をお読みになってお分かりだと思います が、前々回の時に弁護士の方々に御出席いただいて御意見を聞いたのですが、医学的、 経済的理由ということで、異常のある胎児を中絶することは法律違反です。現場のドク ターは法律で罰せられると弁護士の方ははっきりおっしゃっていました。罰せられるこ とを犯して現実には人工妊娠中絶が行われているということを前々回のヒアリングで、 この部会のメンバーは改めて確認をしました。  他にどなたか。 ○森岡委員  これは「からだと性の法律をつくる女の会」の方に、そのほかの方でもいいですけれ ども、子どもを産むか産まないかは女性の1つの選択で、女性が決定してやればいいん じゃないかという御意見がある。一方において、私たちが非常に悩むのは、22週以後に なりますと胎児にとっても何とかすれば子どもとして育つ可能性はある訳で、胎児の尊 厳とか人権というのはどうなるのかという問題です。胎内にいる胎児を産むか産まない かというのは、単に親だけの決定権で済むのかどうか。いつもそれについて悩むんです けれども、そういう点に関してはどうですか。 ○SOSHIREN 女のからだから(米津) 単に産むか産まないかという瀬戸際の問題ではなくて、私達はまず自分のからだがど ういう機能をもっているかとか、今は子どもをもちたくないというときに、どういう方 法を用いれば自分の意思を通せるのかという基本的なところからよく知っておく必要が あると思います。その部分の情報とか教育とか、知るという部分が非常に欠落したまま いよいよどん詰まりになったところで、さあどうするんだという決断を迫られていると いうのが現状だと思います。私達は、いろいろな状況をよく知って考えるチャンスがあ れば、子どもを持ちたいか否か、否ならどうやって避けるか、それはちゃんと分かりま す。人間というのは失敗する動物ですから、十分に避妊をしたつもりでも妊娠をしてし まうということはありますけれど、自分のからだをよく知っていれば、早い時期にそれ は分かると思います。それでもなおかつ、何かしらの事情で、子どもをもつことができ なくなったとか、気づくのが遅くなったときも、その状況において、その人が何が出来 るかというところで考えるほかないと私は考えています。つまり、国が何らかの規制を したりということではなく、私たちは自分達の知恵というか、判断力で、そこのところ はそれぞれの場で解決していけるものではないだろうかと考えています。他にも意見が あると思いますので、私はそれだけ言いたいと思います。つまり、そういう選択に立ち 至る以前に私たちは性に関する情報や教育、判断する力を養うとか、もっとたくさんや ることがあるし、その力はあるということです。  それから、さっき審議官がお答えをくださいまして、どうもありがとうございました 私は、国が優生保護法の優生部分をなくしたということの認識を持って先端医療技術評 価部会での検討をしていただきたいと言いたかったんです。現場のお医者さん達が非常 に悩んでいらっしゃるということは、私も何回かシンポジウムなどでお医者さん達の意 見を聞いて感じました。医療というものが人間を救わなければいけないというふうに進 んできて、病気や障害というものが人生にあってはならない汚点のように考えられてい ますと、その病気を治すことが出来ないときに、その病気や障害を目の前にして、非常 に困惑して苦しんでいる患者さんを前にすると、お医者さんというのはとても悩むんだ ろうと思います。ただ、人生に困難はあってはいけないとか、病気や障害は絶対にあっ てはいけないという考えでいきますと、これはほとんど出口がないというか、やはり診 断して治せないものは、そもそもそういうものをもっている人間が生まれてこない方が いいのではないかという考えに行き着いてしまうのではないかというふうに不安に思い ます。 私は素人ですからよく分かりませんけれども、どれだけ手を尽くしても、遺伝的な病 気をもって生まれてくる人間はなくなってしまうということはないというふうに聞いて います。生まれてきてから後も、様々な理由で私達は障害をもったり病気をもったりし ます。そして、最後には死にます。これは誰も逃れられません。こうしたことを困難と 感じるのは確かですが、それと共に生きられない人間もいないと思います。それを排除 しなければいけないというふうに考えたときに、患者も悩み、人々も悩み、医師も悩ん で、その方向に胎児診断とか「胎児条項」というものが出てくるならば、それは違って いるのではないか。そういう困難を私たちは助け合いながらどうやって乗り越えていけ るか。避けられないものもある、それは決して不幸というものではないです。支援をさ れなかったら不幸かもしれないけれども、困難をもってしまうこと自体は不幸ではない お医者さんが現場ですごく苦しいなら、私はお医者さんにカウンセリングがあったらい いと思います。つまり「胎児条項」や出生前診断に逃げ込むのではなくて、患者と共に 時に悩んだり、自分の悩みをぶつけたり、そして共に生きていくという方向で出口を見 つけ出すためには、私はお医者さんの悩みというのは、「胎児条項」ではなく、吸い上 げる場所があるといいと思います。 ○高久部会長 今は、高血圧の人が2,000万人、糖尿病の人が500万人いるとか言われてますが、医師 は必ずしも病気を治さなければならないというふうには考えていないと思います。高血 圧とか糖尿病とか動脈硬化があっても、なるべくクオリティ・オブ・ライフを上げよう ということが一般的になっています。産婦人科のお医者さんが困っておられるのは、そ ういうことではなくて、御両親が人工妊娠中絶を希望されたときに、それが明らかにな ると処罰される理由で人工流産をしなければならないということに悩んでおられるとい うふうに私はヒアリングのときにお聞きしました。ちょっと誤解がおありではないかと 思います。 ○森岡委員 要するに、母親の自己決定というのはどこまで及ぶのかというのが非常に問題なんで すね。母親が産む産まないを決めれば、そういうことだけですべてがいくか。そうする と、それでは良くないという場合、何をもってそれを制限するか。それが一番我々の悩 みなんです。例えば、母親が実際に出生前診断をしてくれと言ったときに、もし医師が 「それはだめだ。」と言って説き伏せて、事実、その検査をしなかったために障害児が 生まれて訴えられるというケースが出てくるんです。誰もが先端医療技術を利用する権 利があるということも出てくる訳です。また、現実的に日本で出来なければ外国へ行っ てやるとか、そういういろいろな複雑な問題が起こってきて、本当に当事者の自己決定 だけでこういう問題は解決するのかという悩みを医者は持っている訳です。 ○からだと性の法律をつくる女の会(芦野)  少し考え方がすれ違っているように思うんですけれども、私たちは、個人の性と生殖 に関する国の介入というのは、個人の性と生殖に関する自己決定権を権利として保障す るという形でない場合には、国の介入はあるべきではない、最小限にとどめるべきであ るというふうに基本的に思うんです。高久部会長がおっしゃったことですけれども、先 ほど私が金城委員にお答えしたことの繰り返しになりますが、結局、そのときに、だか ら国が生命の質を選別する「胎児条項」を持ってくるというふうに私達は考えない訳で す。そうではなくて、まず堕胎罪をなくすということ、これが最優先の事項だろうと思 うんです。先程、森岡委員がおっしゃいましたことは胎児の母体外生育可能性のことだ と思うんですけれども、この問題は私達も新しい法律をつくる過程の中で十分認識し、 かつ議論しております。正直申し上げて、まだ法案はこれをもって最終のものにすると いうところに至っておりません。私達も、これは生命に関わる問題でもありますから、 非常に悪戦苦闘しつつドラフトをつくっている最中で、今この時点で明確な答えがまだ 出しきれないというのが現状です。胎児に母体外生育能力があれば、実質上、妊娠を満 期まで待たずとも、胎児が生きて生まれてきてしまうケースは確かにある訳ですから、 それは中絶しようとしていた女性の望む結果ではありません。とすれば、そのときに何 を考えるべきかとなりますと、生まれてきた子どもが十分生きられるような支援体制と 申しますか、そのような環境づくりを考えていくべきだろう。そちらの方からの発想が 必要だろうというふうに考えております。 ○高久部会長  他にどなたか。 ○廣井委員  私は産婦人科医なものですから、今日のお話は大変強く感じております。この意見を 出来るだけ日本産科婦人科学会の先生方にもお伝えしたいと思っております。特に、 「フィンレージの会」で盛んに言われました事につきましては、私も生殖医療を進めて いる者の一人として大変頭が痛く感じました。先ほどからお話がありますように、私ど もは、今、インフォームド・コンセントをほとんど経てやっているはずなんです。学会 でも夫婦に限るということに決めておりますから、必ず戸籍抄本ないしは住民票で夫婦 であるということを確認するものを全部取っている訳です。ですから、インフォーム ド・コンセントを結構時間をかけてやっているはずですけれども、もしそういうことが あれば、学会としていろいろ注意したいと思いますが、学会の方のヒアリングがあった ときもそうですけれども、学会ではガイドラインをつくって、そのガイドラインの中に 罰則がないというところが大きな問題になります。ところが、法律家の団体の人たちの 御意見もお聞きしますと、やはり罰則をつくるべきだというような意見も出ております アメリカ的なものとしては、御承知のとおり、余り法律でがんじ絡めにしない。ヨーロ ッパは割合きちんとやってきている。ということで、日本は中間的でどちらかというと アメリカに近いような格好できているんですけれども、どちらがいいか、法律の先生方 の御意見などをお聞きしながら、恐らくかなり厳しいものになる可能性も出ております ので、私どもは会告を十分注意するようにということで会員の先生方にも連絡している ところであります。 ○松田委員  私は小児科の医者です。障害をもつ子どもたちと生活をすることが他の人よりも多い だろうと思います。つまり、産婦人科の先生よりも多いだろうと思います。したがって 先ほどのトリプルマーカーテストの問題についても、確かにまだまだ現状では不満足と いいますか、大変問題があるというふうに思っていまして、日本人類遺伝学会でもその 問題についてのガイドラインをつくりましたし、それから、検査会社のヒアリングをや りまして、それをまとめたものをもうすぐ発表しようと思っています。そういったこと で、すべてのことに関して決して皆様方と意見を異にするというふうには考えていませ ん。  そこで、1つ、トリプルマーカーテストの問題もそうでしょうけれども、先ほどから 遺伝カウンセリングという話が出ています。情報を伝えるというのは、医者があること を行うときに、こうこうこうですよというお話で、「フィンレージの会」の方もおっし ゃったように、実際に治療に当たる方がするということになります。それから、出生前 診断の場合には、カウンセリングするというのは、それを受けるか受けないかとか、そ ういういろいろな問題が起きていますね。特に、トリプルマーカーの場合には、そこの ところが非常にあいまいになっていて大変問題だと思うんです。したがって、ここで大 きな問題になってきているのは、私個人の意見を言わせてもらえれば、カウンセリング をする人と出生前診断をする人が同じ人間であるところに大きな問題があるんじゃない かと思うんです。つまり、第三者がカウンセリングをして、そしていろいろな話をする 例えばドイツなどの場合は、まずカウンセラーのところへ行って話を聞く。それから、 出生前診断を受けた後、実際に人工流産したいといったときに、「本当にしたいんです か。」ということを何回か聞く。その途中でプロライフ(pro-life派 中絶絶対反対 派)、つまり絶対反対というのが大体20%ポピュレーションの中にいます。絶対、出生 前診断をすべきではない、絶対、妊娠中絶すべきではないというのが大体20%です。私 の統計によれば、日本は大体そのぐらいです。その方たちの意見を一応聞くというプロ セディア(手順、手続き)をして、さらに確かめたものを行うというようなことをドイ ツではやっています。したがって、いいとか悪いとかの問題ではなくて、方法論として どういうものが一番大事なのか。本当に今までお話しいただいたことをまとめて考えた 場合に、方法論としてどういうことが大事なのかということを提案していただきたいと いうふうに思います。  最後に、先ほど「SOSHIREN 女のからだから」の方のお話でちょっと誤解があったよ うな気がいたしますけれども、遺伝性の疾患はなくなることはないと聞いているという ふうにおっしゃっていました。私は小児科の医者ですけれども、遺伝学をやっています ので、特にオルニチントランスカルバミラーゼという酵素の異常は、日本の国ではほと んど私のところに相談がきます。私が実際にやるのではなくて、相談を受けている話を するのですけれども、今までに18例の患者さんについて依頼されて検査をしてさしあげ ました。勿論、インフォームド・コンセントをとっていますけれども、この病気の場合 女の子でも発症しますけれども、男の子の場合はかなりひどい状態になります。男の子 の患者さんの約半分は1週間以内に発症して、1ヶ月、うまくいっても6ヶ月以内に必 ず亡くなります。ほとんど亡くなってしまいます。これは全く酵素活性がありませんか ら、どんなことをやっても生きていけない。ところが、3分の1の人は生きていくこと は出来ます。場合によっては、同じ遺伝子を持っていながら、65歳で全く何でもない人 もいます。したがって、遺伝子を調べることによって病気の程度が分かります。今まで 私が16例やったうちで、6例の男の子の患者さんが見つかっていて、そのうちの3例は 生後6ヶ月の間に亡くなってしまうということが分かって、前のお子さんは調べていな いから分かりませんけれども、この方たちは中絶していますけれども、残りの3名の方 は、私が遺伝子を調べて、この患者さんたちはちゃんと大きくなっていけるということ をお母さんと話をして、産むとすぐ治療を始めました。そして現在、3人共普通の子ど もとして小学校に通っています。ですから、出生前診断とか中絶を全部一からめにして 話をすると、所々に綻びが出てきます。そういうことを一言言っておきたいと思います ○高久部会長  どうもありがとうございました。他にどなたか。 ○入村委員  私は、基礎医学の研究者といったらいいでしょうか、今日の議論を他の立場から聞い ているんですが、今の松田先生のお話の最後のポイントとかなり近いのですが、先ほど 米津さんが出口がないということをちょっとおっしゃいました。これは、私たちのよう な医療というか、私は癌とかアレルギーの治療が専門ですけれども、先を見て何か新し い良いことがないだろうかということをやっている立場から見ますと、出生前診断でも そうですけれども、今は勿論分かって、出口がないこともあるんですけれども、もし将 来的にある段階で、こういうことが分かったら途中で治療がしていけるということが分 かってくる可能性というのはたくさんあるし、研究をしている人はそういうことを考え ながら研究をしている訳ですね。そういう可能性があるというときに、そこまでを考え ようという立場をとるというのは皆さんはどうお考えになるか。つまり、今は勿論分か らないけれども、将来的に分かるようになる可能性がある。だから、それを調べていく ためにも、いろいろなインフォメーションを得ていくことは非常に大事じゃないかと思 うんですが、その辺はいかがでしょうか。 ○DPI女性障害者ネットワーク(堤)  今の件ですけれども、それは研究で治る可能性もあるということを含めておっしゃっ ている訳ですね。その可能性も1つの可能性だと思いますが、先ほどの松田先生のお話 の中でも、最後の結末が私はちょっと引っかかっていて、共通する問題があるような気 がするんです。つまり、個別的なある遺伝性疾患については研究次第で治るかもしれな いし、なくなることもあるかもしれませんけれども、トータルで言っているのは、ある 遺伝性疾患が仮に消えたとしても、別の遺伝性疾患がまた出てくる可能性もある。つま り、障害をもつ人は何らかのいろいろな形を変えて絶えずこの社会の中にいるという前 提で私たちは思っています。研究次第では治るという可能性もあるけど、治らないとい う可能性もあります。治らないという可能性も含めたときに、治らないことが出口がな い訳じゃないんです。治らないという前提を含めて、それでも一緒に生きていくための 出口をどうつくるかということなので、治るという可能性と治らないという可能性と両 方見てほしいんです。  私たちは、治すこととか障害をよくすることとか、そういう視点でばかり、本当に子 どもの頃はそういう価値観だけでやられてきたという思いがあって、治ることがいいこ とだと言われたら、治らない障害は悪いことだというふうに、そういう価値観がずっと あったと思うし、今もあると思うんです。そうじゃなくて、治らないままでもいいし、 治る場合もある、そういう両方の視野を持って、でも、治らないことも出口がないこと じゃなくて、一緒に生きていけることなんだよということを言いたいと思います。 ○入村委員  私が言っているのはちょっと見方が違って、人間というか、生物は、何かまずいこと が起こると、それを自分で治すメカニズムというのが大概あるんです。医療行為という のは、それをちょっと助けているだけだと思うんです。だから、生物の中にある、まず いことを治していくものというのは、私は本当は専門でないから余り大きなことは言え ないんですが、そういうことはちょっと研究をしているとすぐに見えてくるんです。そ ういうものを見ていきたいと私自身は思っているものですから、さっきのようなことを 申し上げたんです。 ○DPI女性障害者ネットワーク(堤)  つまり、人間とか生物の持っている自然治癒力ということだと思うんです。私は自然 治癒力はあると思っていて、自然治癒力というのはバランスを取り戻すことだと思うん です。私は、バランスという中には、1人の人間の個体の中にも、大きく言ってしまえ ば、動物界とか生物界とか宇宙の中でも、例えば足がなければ、なくなったところでバ ランスを人間は取り戻していきますよね。そういったことだと思うので、足が生えてく るだけがよくなることじゃなくて、足がなくなったら、なくなった中でのバランスのと り方というのが人間の持つ自然治癒力だというふうに私は捉えていますので、私はどち らの可能性も否定する訳じゃないですけれども、足が動かなかったら動くようにすると いうバランスだけが余りにも語られていると思うんです。足が動かないままでとってい くバランスとか生き方もやはり認めてほしいと思います。 ○入村委員  別に認めていない訳じゃないんですけれども。 ○高久部会長  先ほど高血圧とか糖尿病の方は、何も治らなくても、その病気をもってたくさんの方 が生きておられる。 ○堤(DPI女性障害者ネットワーク)  まさしくそのとおりです。 ○高久部会長  障害の方々も同じことで、それは皆さん、そういうふうにお考えになっていると思い ます。 ○SOSHIREN女のからだから(大橋) でも、糖尿病などと違って、障害のある場合は、それこそ優生保護法の時代に、そう いう存在はあってはいけないんだというのが延々と歴史をかけてみんなの意識の中に浸 透してきている訳ですよね。だから、研究者や医者や科学者が、今、入村委員がおっし ゃったような問題意識でやっていらしても、現実の世の中というのは違う作用がある訳 です。だから、そこの社会的意識やそれを支える制度を何とかしないといけないという ことを言っているのであって、森岡委員も、母親の方から胎児に障害があったら中絶し たいと言われた、そこも自己決定だけでいいのかみたいなことをおっしゃいましたけれ ども、そこで「自己決定権」では不充分だから何か別の規則を、という発想は危険だと 思います。私達はプロライフ(中絶絶対反対派、胎児の生命尊重からきたネーミング) ではないので、人工妊娠中絶ということは私は最後の手段として保障すべきだと思いま すが、今、なぜトリプルマーカーテストのことを問題にしているかというと、一旦、自 分が産むという方向で妊娠状態を受け入れている人に対してそういう検査をしていると ころが問題なんです。ダウン症の人たちの中から、こういう検査をしてほしいという声 が出ている訳ではないということは前回の傍聴の席に来て分かりました。そういう検査 を誰が望んでいるのでしょうか。だから、本当に妊娠した女性やカップルのニーズなの かということでも疑問ですし、今の出生前診断が非常に「女性の自己決定権」という言 葉を借りて、ある人たちを排除していく方向に確実に働いてきているんじゃないかとい うことに非常に危機感を感じています。 ○フィンレージの会(鈴木)  今の発言にも関連して、多分、入村委員がおっしゃったのは、基礎医学の研究者とし て臨床応用をどうしていくかということで、研究者としての誘惑というのは私、それは 非常に分かるような気はするんです。ただ、現実に臨床の場でどういうふうにしていく か、実はこの先端医療技術評価部会で問われているのはまさにその点じゃないでしょう か。 ○高久部会長  おっしゃるとおりだと思います。 ○フィンレージの会(鈴木)  だから、先ほど言ったそういうことを患者のニーズということですり替えていくのは 不妊治療でも患者のニーズがあるからということで、例えば円形精子細胞による顕微授 精など、まだ実験動物の段階でしかやられていなかったものが現場で使われていく訳で すが、そういう現実が、ドクターとか社会の倫理観というところだけで今現実におさま っていかないところが問題であって、そのことをむしろ私たちはこれから話し合いたい と思うんです。 ○優生思想を問うネットワーク(矢野)  先ほど出生前診断について、カウンセリングをする人とお医者さんとが別の方がいい そういうふうにすべきだということをおっしゃいましたが。 ○松田委員  すべきだとまでは言いませんけれども、そういうものを含めて、何かいい提案はない でしょうかと言った訳です。 ○優生思想を問うネットワーク(矢野)  私はそういうふうに思います。今のカウンセリング制度というのは非常に不十分です し、また、インフォームド・コンセントといいますか、現場のお医者さんたちがどれほ ど患者さんたちとちゃんとコミュニケーションをとっているかということも非常に不十 分なものがあると思います。それが現実だと思います。ただ、私は思うんですけれども そういうカウンセリング制度、あるいはインフォームド・コンセント、そういったもの を勿論、現場の方々でいろいろ制度を整えて努力されていくことは賛成ですけれども、 だからといって、こういう制度を整えた上で出生前診断をしましょうということでいい のかなと思うんです。やはり今の現実の世の中というのは、障害者に対して非常に偏見 もありますし、生き難い世の中です。そういう子どもたちを産むことについては、非常 にとまどう方々も多いです。負のイメージしか持ち得ない人も多いです。そういう中で 幾ら情報を伝えても、言葉によって伝えられる情報というのは、いい情報は少ない訳で すよね。だから、そういうことを整えたからといって、出生前診断をやっていいですよ ということには決してならないし、それだけではなくて、もっと社会全体の制度という もの、障害者を支える制度というものをつくっていく、そういうことがなされないと障 害胎児の中絶ということはなくなっていかないと思います。 ○DPI女性障害者ネットワーク(堤)  委員の方の質問に1つだけ答えていないのがあると思いますので、そこだけ簡単に付 け加えさせて終わらせていただければと思います。森岡委員が先ほど出生前診断を断っ たことで障害児が生まれた場合に訴えられるようなケースもあるという危惧をおっしゃ っていらっしゃいましたね。もし訴えられた場合、私が本当に望むのは、訴えられると いうことに怯えるのではなくて、障害のある子が生まれても幸せに生きているというた くさんの事例をきちんと言うことで、つまり障害のある子は生まれてはいけないという 側に立つんじゃなくて、障害者が生まれてもいいじゃないかという側に是非立ってほし い。どちらの側に立つかというとき、訴えられるということに対しても、やはり障害児 が生まれてもいいという側に是非立ってほしいということを付け加えたいと思います。 ○高久部会長  どうもありがとうございました。実際には裁判で負けて、そのドクターは賠償を払わ されたという事例がございました。これは付け加えですけれども。 ○DPI女性障害者ネットワーク(堤)  世の中変わりますから。 ○高久部会長  それでは、団体の方々どうもありがとうございました。 それでは、これで第7回先端医療技術評価部会を終わらせていただきます。どうもあ りがとうございました。 ○事務局  事務局から簡単に事務連絡をさせていただきます。次回は4月24日金曜日午後2時半 から、今のところの予定では厚生省の特別第1会議室において開催をいたすことにして おります。  なお、委員の皆様方には、4月から7月迄の開催通知をお手元にお配りしております ので、期日までに御出欠の御連絡をお願いいたします。 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 坂本(内線3804) 電 話 (代表)03-3503-1711 (直通)03-3595-2171