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ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害
に係る身体障害認定に関する検討報告書


平成9年12月

障害認定に関する検討会

目 次

はじめに

I ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害に係る身体障害認定基準

1 障害程度等級

2 障害程度等級認定基準・要領[13歳以上]

(1) 障害程度等級認定基準
(2) 認定要領

3 障害程度等級認定基準・要領[13歳未満]

(1) 障害程度等級認定基準
(2) 認定要領

資料 サーベイランスのためのAIDS診断基準

II 「障害認定に関する検討会」の開催状況


III 「障害認定に関する検討会」委員名簿


は じ め に

「障害認定に関する検討会」は、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害を身体障害に認定する際の具体的な基準等を定めるために、平成9年5月に設置され、以後、9回にわたり審議を行ってきた。
今般、その検討結果がまとまったのでここに報告する。

I ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害に係る身体障害認定基準

1 障害程度等級

1級 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活がほとんど不可能なもの
2級 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活が極度に制限されるもの
3級 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により日常生活が著しく制限されるもの
4級 ヒト免疫不全ウイルスによる免疫の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

2 障害程度等級認定基準・要領[13歳以上]

(1)障害程度等級認定基準

1級   ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
1. CD4陽性Tリンパ球数が200/μl以下で表1の6項目以上に該当する状態
2. 回復不能なエイズ合併症のため介助なくしては日常生活がほとんど不可能な状態
2級   ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
1. CD4陽性Tリンパ球数が200/μl以下で表1の3項目以上に該当する状態
2. エイズ発症の既往があり表1の3項目以上に該当する状態
3. CD4陽性Tリンパ球数に関係なく表1の1から4までの1つを含む6項目以上に該当する状態
3級 ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
1. CD4陽性Tリンパ球数が500/μl以下で表1の3項目以上に該当する状態
2. CD4陽性Tリンパ球数に関係なく表1の1から4までの1つを含む4項目以上に該当する状態
4級 ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
1. CD4陽性Tリンパ球数が500/μl以下で表1の1項目以上に該当する状態
2. CD4陽性Tリンパ球数に関係なく表1の1から4までの1つを含む
2項目以上に該当する状態

表1 検査所見・日常生活活動制限

1 白血球数について3,000/μl未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続く

2 Hb量について男性12g/dl未満、女性11g/dl未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続く

3 血小板数について10万/μl未満の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続く

4 ヒト免疫不全ウイルス-RNA量について5,000コピー/ml以上の状態が4週以上の間隔をおいた検査において連続して2回以上続く

5 一日1時間以上の安静臥床を必要とするほどの強い倦怠感および易疲労が月に7日以上ある

6 健常時に比し10%以上の体重減少がある

7 月に7日以上の不定の発熱(38゜C以上)が2か月以上続く

8 一日に3回以上の泥状ないし水様下痢が月に7日以上ある

9 一日に2回以上の嘔吐あるいは30分以上の嘔気が月に7日以上ある

10 表2に示す日和見感染症の既往がある

11 生鮮食料品の摂取禁止等の日常生活上の制限が必要である

12 軽作業を越える作業の回避が必要である


表2 日和見感染症

1 口腔内カンジダ症(頻回に繰り返すもの)

2 赤痢アメーバ症

3 帯状疱疹

4 単純ヘルペスウイルス感染症(頻回に繰り返すもの)

5 糞線虫症

6 伝染性軟属腫

7 その他

(2)認定要領

ア ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の確認方法

「サーベイランスのためのAIDS診断基準」(厚生省エイズサーベイランス委員会,1994)を準用する(資料参照)。具体的には、次のいずれかに該当する場合にヒト免疫不全ウイルス感染とする。
1) 酵素抗体法(ELISA)又はゼラチン粒子凝集法(PA)といったHIVの抗体スクリーニング検査法の結果が陽性で、かつWestern blot法又は蛍光抗体法(IFA)といった確認検査法の結果も陽性であった場合
2) 抗原検査、ウイルス分離、PCR法等の病原体に関する検査によりHIV感染が認められた場合

イ CD4陽性Tリンパ球数の測定

4週以上の間隔をおいた連続する2回の検査値の平均値のこれまでの最低値とする。

ウ 白血球数、Hb量、血小板数、ヒト免疫不全ウイルス-RNA量の測定における、4週以上の間隔をおいた連続する2回の検査の時期は、互いに一致している必要はなく、これまでの最低値とする。

エ エイズ発症の診断基準

エイズ発症の診断は、「サーベイランスのためのAIDS診断基準」(厚生省エイズサーベイランス委員会,1994)による。

オ エイズ合併症

「サーベイランスのためのAIDS診断基準」(厚生省エイズサーベイランス委員会,1994)が採択した特徴的症状としてあげられている合併症を意味する。

カ 期間・回数・症状等の確認

7日等の期間、一日3回等の回数、10%等の数値、下痢・嘔気・嘔吐・発熱の症状の確認は、カルテにもとづく医師の判断によるものとする。

キ 日・週・月の取り扱い

特別の断りがない限り以下によるものとする。
1日:0時から翌日の0時前まで(以下同じ)を意味する。
1週:連続する7日を意味する。
1月:連続する30日を意味する。暦月ではない。

ク 回復不能なエイズ合併症

エイズ合併症が回復不能に陥った場合をいい、回復不能の判定は医師の判断による。

ケ 日中

就寝時以外を意味する。

コ 月に7日以上

連続する30日の間に7日以上(連続していなくてもかまわない)を意味する。

サ 日常生活上の制限

生鮮食料品の摂取制限以外に、生水の摂取制限、長期にわたる密な治療、厳密な服薬管理、人混みの回避が含まれる。

シ 軽作業

デスクワーク程度の作業を意味する。


3 障害程度等級認定基準・要領[13歳未満]

(1)障害程度等級認定基準

1級 ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次に該当するもの
表3のA群に規定する症状のうち1項目以上を示すもの
2級   ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
表3のB群に規定する症状のうち1項目以上を示すもの
表4に定める免疫学的分類において「重度低下」に該当するもの
3級   ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次のいずれかに該当するもの
表3のC群の症状のうち2項目以上を示すもの
表4に定める免疫学的分類において「中等度低下」に該当するもの
4級 ヒト免疫不全ウイルスに感染していて、次に該当するもの
表3のC群に規定する症状のうち1項目以上を示すもの

表3 ヒト免疫不全ウイルス感染の臨床症状

A群 「サーベイランスのためのAIDS診断基準」(厚生省エイズサーベイランス委員会,1994)が採択した特徴的症状
B群   A群又はC群以外の症状
30日以上続く好中球減少症(<1,000/μl)
30日以上続く貧血(<Hb 8g/dl)
30日以上続く血小板減少症(<100,000/μl)
1か月以上続く発熱
反復性又は慢性の下痢
生後1か月以前に発症したサイトメガロウイルス感染
生後1か月以前に発症した単純ヘルペスウイルス気管支炎、
肺炎又は食道炎
生後1か月以前に発症したトキソプラズマ症
6か月以上の小児に2か月以上続く口腔咽頭カンジダ症
10 復性単純ヘルペスウイルス口内炎(1年以内に2回以上)
11 回以上又は2つの皮膚節以上の帯状疱疹
12 菌性の髄膜炎、肺炎又は敗血症(1回)
13 ノカルジア症
14 播種性水痘
15 肝炎
16 心筋症
17 平滑筋肉腫
18 HIV腎症
C群 リンパ節腫脹 (2カ所以上で0.5cm以上。対称性は1カ所とみなす)
肝腫大
脾腫大
皮膚炎
耳下腺炎
反復性又は持続性の上気道感染
反復性又は持続性の副鼻腔炎
反復性又は持続性の中耳炎

表4 年齢区分毎のCD4陽性Tリンパ球数及び全リンパ球に対する割合に基づく免疫学的分類

  児の年齢
免疫学的
分 類
1歳未満
/μl(%)
1〜6歳未満
/μl(%)
6〜13歳未満
/μl(%)
正 常 ≧1,500(≧25) ≧1,000(≧25) ≧500(≧25)
中等度低下 750-1,499(15-24) 500-999(15-24) 200-499(15-24)
重度低下 <750(<15) <500(<15) <200(<15)

(2)認定要領

ア 小児のヒト免疫不全ウイルス感染の確認方法

13歳未満の小児のHIV感染の証明は、13歳以上に準じる。
ただし、周産期に母親がHIVに感染していたと考えられる生後15カ月未満の小児については、HIV抗体確認検査が陽性であっても、それだけではHIV感染の有無は判定できないので、次の1)又は2)のいずれかに該当する場合にヒト免疫不全ウイルス感染とする。
1) 抗原検査、ウイルス分離、PCR法等の病原検査法が陽性である場合
2) 血清免疫グロブリンの高値に加え、リンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数の減少、CD4陽性Tリンパ球数/CD8陽性Tリンパ球数比の減少といった免疫学的検査所見のいずれかを有し、HIV感染以外にその原因が認められない場合

イ 小児のHIV感染の臨床症状

1) B群の臨床症状については、その所見や疾患の有無、反復性について判定すること
2) C群の臨床症状についても、1)と同様に判定するものであること

ウ 年齢区分毎の免疫学的分類

当該小児の免疫能を評価するには、CD4陽性Tリンパ球数又はCD4陽性Tリンパ球の全リンパ球に対する割合を用いるものとし、双方の評価が分類を異にする場合には重篤な分類により評価すること。


「障害認定に関する検討会」の開催状況


○平成9年5月 1日 第1回障害認定に関する検討会開催

・エイズ訴訟和解経過
・現状の障害認定の考え方
・エイズ感染者の状況

○平成9年6月10日 第2回障害認定に関する検討会開催

・HIV感染者の病態

○平成9年7月15日 第3回障害認定に関する検討会開催

・患者ヒアリング

○平成9年9月16日 第4回障害認定に関する検討会開催

・MSWヒアリング
・ HIV感染者の症例研究

○平成9年10月2日 第5回障害認定に関する検討会開催

・ HIV感染者の症例研究
・ 現行の障害認定基準について

○平成9年11月4日 第6回障害認定に関する検討会開催

・症例研究のまとめ
・免疫機能の障害認定方針について

○平成9年11月18日 第7回障害認定に関する検討会開催

・身体障害者に対する諸施策
・HIV感染者の身体障害認定基準について

○平成9年11月25日 第8回障害認定に関する検討会開催

・HIV感染者の身体障害認定基準について
・診断書の様式について

○平成9年12月11日 第9回障害認定に関する検討会開催

・ 障害認定に関する検討会報告書(案)について
・ 診断書の様式(案)について


障害認定に関する検討会委員名簿
(障害保健福祉部)
氏 名 職 名
大 国 真 彦 日本大学名誉教授
大 坪 修 元虎ノ門病院腎センター部長
津 山 直 一 国立身体障害者リハビリテーションセンター名誉総長
横 山 巌 北里大学医療衛生学部教授
岡 慎 一 国立国際医療センター病院エイズ治療・研究開発センター臨
床研究開発部長

木 村 哲
東京大学医学部感染制御学教室教授
白 阪 琢 磨 国立大阪病院臨床研究部ウイルス研究室長兼総合内科医長
根 岸 昌 功 東京都立駒込病院感染症科医長
吉 崎 和 幸 大阪大学健康体育部健康医学教授

◎は座長


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