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今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)

(平成9年12月9日)

身体障害者福祉審議会
中央児童福祉審議会障害福祉部会
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
合同企画分科会

(目 次)

はじめに

I. 障害者の現状

1. 概況

2. 身体障害者

3. 精神薄弱者

4. 精神障害者

II. 基本的理念

1. 障害者の自立と社会経済活動への参画の支援

2. 主体性・選択性の尊重

3. 地域での支え合い

III. 基本的な施策の方向

1. 障害者の地域生活支援施策の充実

2. 障害保健福祉施策の総合化

3. 障害特性に対応する専門性の確保

4. 障害の重度・重複化、高齢化への対応

5. 障害者の権利擁護と参画

IV 具体的な施策の方向

1. 障害者の地域での生活支援

(1) 障害者の需要への的確な対応

(1)在宅保健福祉サービスの充実
(2)施設機能の活用
(3)地域における総合相談窓口の確立
(4)医療的支援
(5)介護保険制度との関連での整理
(2) 介護する家族等への支援
(3) 各種サービスの相互利用
(4) 社会参加の促進
(5) 地域での支え合いの推進
(6) 福祉機器の研究開発・普及の促進

2. 障害者施設体系

(1) 施設体系の整理

(1)施設の現状
(2)検討の視点
(3)施設類型に関する当面対応すべき課題
(2) 施設における障害の重度・重複化、高齢化への対応
(3) 地域の中での施設の機能の発揮
(1)障害種別間の施設利用の弾力化と統合
(2)施設の小規模化
(3)施設における在宅サービス支援機能の強化
(4) 施設での処遇の充実
(5) 施設のサービスの質の確保
(6) 小規模作業所の位置付け

3. 障害保健福祉サービスの提供体制
(1) 市町村におけるサービス提供体制の一元化

(1)障害児、精神薄弱者の福祉サービス決定権限の市町村への移譲
(2)精神障害者の福祉サービスの市町村における対応の強化
(3)障害者保健福祉サービスの市町村一元化
(2) 適切な機能分担によるサービス提供体制の構築
(1) 市町村域
(2) 障害保健福祉圏域
(3) 都道府県域
(3) 利用者本位のサービス提供の仕組み
(4) 費用徴収の在り方

4. 障害特性に対応する専門的な支援方策

(1) 専門的機関の在り方

(1) 更生相談所等の在り方
(2) 精神保健福祉センターの在り方
(2) 専門職の養成と生涯研修体制の整備
(3) 障害特性に応じた施策の充実
5. 障害者の権利擁護

(1) 障害者の権利擁護の方策
(2) 用語と資格欠格条項の見直し

6. その他

(1) 障害者関係審議会の在り方
(2) 障害者の保健福祉サービスに関する総合法制
(3) 障害認定・範囲についての整理
(4) 難病を有する者への対応
(5) 障害保健福祉研究の促進
(6) 障害者の所得保障
(7) 関連施策との連携


今後の障害保健福祉施策の在り方について(中間報告)

平成9年12月9日

身体障害者福祉審議会
中央児童福祉審議会障害福祉部会
公衆衛生審議会
精神保健福祉部会
合 同 企 画 分 科 会

はじめに

○ 我が国の障害者施策は、1981年の「国際障害者年」、1982年の「障害者に関する世界行動計画」、1983年から10年間の「国連・障害者の十年」、更に1993年から10年間の「アジア・太平洋障害者の十年」等の国際的な動向の中で大きな進展を見せてきた。
このような中で、「障害者に関する長期計画」(昭和57年3月決定)、「障害者対策に関する新長期計画」(平成5年3月決定)という基本となる計画が策定された。平成5年12月にはこれらの動きを背景として障害者の自立と社会参加の一層の促進を図るため、「心身障害者対策基本法」が「障害者基本法」に改められた。さらに、平成7年12月に決定された「障害者プラン〜ノーマライゼーション7か年戦略〜」においてこれらの具体化が図られている。

○ 厚生省においても、障害者の保健福祉施策を積極的に推進する体制づくりを行うため、従来、障害者の年齢及び障害種別により社会・援護局、児童家庭局、保健医療局に分かれていた組織を見直し、平成8年7月に大臣官房に障害保健福祉部を設置し、総合的かつ横断的な保健福祉施策を推進する組織体制が構築された。

○ これらを踏まえ、障害者保健福祉施策全般について、総合的に見直しを行うため、平成8年10月に、身体障害者福祉審議会、中央児童福祉審議会障害福祉部会及び公衆衛生審議会精神保健福祉部会にそれぞれ企画分科会を設置し、同年11月から合同で審議を開始した。
当合同企画分科会においては、当面の目標として「障害者プラン」を強力に推進していくという前提に立ちつつ、主として以下の3つの視点に立って今後の障害保健福祉施策の在り方について検討を進めてきた。
第1に、身体障害、精神薄弱、精神障害の3つの障害種別に係る施策の総合化を図ることである。これまで3つの障害種別ごとに障害特性に応じた施策が講じられてきたが、一方では施策間の整合性の確保や障害の共通性に着目した施策も求められている。
第2に、介護保険制度の導入を踏まえ障害者施策の再整理を図ることである。介護保険制度は高齢者の介護を対象としているため、従来障害者施策で対応していた部分との整理や若年障害者への介護サービス水準との比較という問題を提起しているが、これだけではなく、保険制度の特性としての利用者の権利性、サービス受給の選択性、費用負担の在り方等といった点についても障害者施策における整理が必要である。
第3に、戦後50年を経て21世紀を迎えようとする中での社会経済の変 化、国民意識の変化への対応を図ることである。戦後の経済成長を経る中で、国民の生活は一定水準の豊かさが確保され、医療の進歩等により感染症を原因とする障害が減少しているが、高齢化の中で慢性疾患を原因とする障害の増加、重度・重複化が見られるなど障害についての状況も大きく異なってきている。また、障害者の自立を求める意識が強まる一方で、社会全体にあっても障害者が地域の中で生活することは自然なことという意識に変わりつつある。
こうした中で、地方公共団体が主体となり、地域の実情にあった取組みが行われるようにするという地方分権の流れが強まり、障害者基本法により市町村障害者計画の策定が求められるなど市町村の果たすべき役割が大きくなってきていることを踏まえ、市町村が障害者計画に基づき障害者施策を進めていくための方向を示すということについても留意しながら検討を行ってきた。
さらに、民間の活力を活かすための規制緩和等の行政改革、利用者本位で効率的にサービスを提供する制度への再編成を目指す社会保障構造改革、現下の厳しい財政状況の打開を目指す財政構造改革等の障害者施策全体を取り巻く情勢もにらみつつ、検討を行ってきた。

○ 以上のことを踏まえて、当合同企画分科会においては、14回にわたり鋭 意審議を行い、中間的な報告の取りまとめを行った。
この取りまとめは3つの障害分野に共通する課題を中心に検討を行ったこともあり、精神障害者の保健・医療については踏み込んだ論議を行っていないが、「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律」については、平成5年の改正法附則において平成11年を目途として見直しを行うこととされており、公衆衛生審議会精神保健福祉部会において、この点を含め検討が行われる予定である。
また、中央社会福祉審議会においては、社会福祉事業の在り方等当合同企画分科会における審議事項と深く関連する事項について議論が開始されたところである。
当合同企画分科会としては、これらの検討と整合性を図ることにも留意しつつ、本中間報告に示した主要な論点についてさらに検討を深めていきたい。
こうした検討が一層有意義なものとなるよう本中間報告をもとに各方面で活発な議論が行われ、当合同企画分科会に建設的な意見が寄せられることを期待するものである。


I. 障害者の現状

1. 概況

・ 障害者は、高齢化の影響もあって年々増加し、現在、身体障害、精神薄弱又は精神障害を有する者を合計すると約500万人にのぼっている。
・ 障害は、人の生涯の中でいつでも生じうることであり、また、家族、友人など自らと関係のある人も含めて考えれば、誰にとっても身近なことであり、特別のことではない。
・ 障害者は、保護される対象として捉えられるべきではなく、「障害者の権利宣言」(昭和50年12月9日国連総会決議)に謳われているすべての権利を享受すべき主体である。近年においては自らの能力を最大限発揮し、自らの意思と力で生活を築いていきたい、施設の中の生活から地域の中で障害のない者と同様に生活し、家族からも自立して社会へ積極的に参画したいという要求が強まっている。また、障害者は個人の尊厳にふさわしいサービスを保障される権利を有する一方で、社会の構成員としての役割を果たし、社会に貢献することも求められている。
社会全体の意識も、「国連・障害者の十年」などの取組みにより、障害者が地域の中で共に生活することは自然なことであり、制度や建物の設備・構造なども障害者に配慮したものにするという考え方に大きく変わりつつある。
しかしながら、障害者を取り巻く社会の仕組みなどは障害者にとって不利なものが多く、また、障害者を特別視する意識も依然見られ、今後ともこれらの改善が必要である。

2. 身体障害者

(1)全体状況

・ 身体障害者は、平成3年実態調査等によれば、在宅者280.3万人、施設入所者14.5万人で合計約295万人であり、その内訳は、18歳未満の身体障害児が、9.2万人(在宅者8.1万人、施設入所者1.1万人)、18歳以上の身体障害者が285.6万人(在宅者272.2万人、施設入所者13.4万人)となっている。
・ 在宅者272.2万人について障害の種類別に見ると、視覚障害が35.3万人(13.0%)、聴覚・言語障害が35.8万人(13.2%)、肢体不自由が155.3万人(57.1%)、内部障害(心臓障害、じん臓障害、呼吸器障害、ぼうこう又は直腸障害、小腸障害)が45.8万人(16.8%)となっており、肢体不自由が半数以上を占めている。

(2)重度化・重複化の傾向

・ 在宅者のうち、1、2級の重度の障害者は、視覚障害が20.3万人(57.5%)、聴覚・言語障害が10.6万人(29.6%)、肢体不自由が54.0万人(34.8%)、内部障害が24.3万人(53.1%)となっており、視覚障害および内部障害が際だっているが、他の障害についても重度化の傾向がみられる。また、重複障害のある者は、12万人(4.4%)であるが、これについても増加傾向にあり、全体として重度・重複化の傾向が伺われる。
・ 身体障害者療護施設の入所者の10%、身体障害者通所授産施設利用者の23.2%が療育手帳を所持しているなど、身体障害と精神薄弱が重複している者が相当数見られる。

(3)高齢化の傾向

・ 在宅者を年齢階級別に見ると、65歳以上の者が48.8%であり、ほぼ半数が高齢者となっている。この傾向はさらに強くなっており、近年の状況は、65歳未満の障害者の数はほぼ一定であるものの、65歳以上の障害者の増加により障害者全体の数が増加している状態で、障害者の高齢化が伺われる。
・ また、障害の発生年齢を年齢階級別にみると、65歳以上の者を中心に中途障害者が増加する一方、0〜3歳の乳幼児期の発生も27.8万人(10.2%)あり、比較的高い割合を占めている。

(4)障害の原因の変化

・ 障害原因としては、疾病を原因とするもの(58.3%)が事故(労働災害、交通事故等)によるもの(19.3%)を大きく上回っている。この傾向は、戦後変わっていない。疾病の原因については、感染症によるものの割合は低下し、心疾患、糖尿病、悪性腫瘍等による障害の増加が見られるなど、戦後の疾病構造の変化を反映している。

3. 精神薄弱者

(1)全体状況

・ 精神薄弱者は、平成7年精神薄弱児(者)基礎調査によれば、在宅者29.7万人、施設入所者11.6万人、合計41.3万人となっている。
・ このうち、18歳未満の精神薄弱児は、9.6万人(在宅者8.5万人、施設入所者1.1万人)、18歳以上の精神薄弱者は、30.1万人(在宅 者19.6万人、施設入所者は10.5万人)となっている。

(2)年齢構成の変化

・ また、平成2年精神薄弱児(者)福祉対策基礎調査の結果と比較すると、総数では38.5万人から41.3万人と増加しているが、18歳未満の精神薄弱児は1.9万人の減となっており、逆に18歳以上の精神薄弱者は4.6万人の増となっている。この変化は、寿命の延びや少子化に由来するものと考えられる。
・ 在宅者の年齢構成比をみると、18歳未満が平成2年で35.2%であったものが平成7年には28.8%に、18歳以上39歳未満が37.5%から43.1%に、40歳以上が21.8%から22.6%(うち60歳以上が4.1%から4.6%)となっており、加齢による高齢化が進行している。

(3)重度化・重複化の傾向

・ 障害の程度を在宅者で見ると、平成7年基礎調査では、最重度が12.5%、重度30.7%、中度29.5%、軽度24.1%と最重度・重度の者が4割を超えている状況にあり、最重度・重度の在宅者に対する地域を基盤とした生活支援の必要性が高まっている。
・ さらに、自傷、他害等の行動障害を有する者、自閉症の者やてんかん等を併せ有する者が相当数見られ、これらの障害の特性に応じた施策の在り方が課題となっている。
・ また、在宅者のうち18.2%の5.4万人が身体障害者手帳を所持している(うち1、2級の者が63.9%)とともに、平成6年社会福祉施設等調査によれば、精神薄弱関係施設の入所者のうち身体障害者手帳を所持する者は、精神薄弱者更生施設(入所)で17.9%、精神薄弱者授産施設(入所)で9.9%となっており、精神薄弱と身体障害が重複している者が相当数存在する状況にある。

(4)障害の原因の変化

・ 精神薄弱の原因疾患としては、先天性疾患、周産期の呼吸障害及び血管障害によるものが多く、かつて主たる原因疾患であった感染症は減少している。また、新生児の救命率が医学の進歩に伴い改善されてきたが、中枢神経の障害を残し精神薄弱となる者もいる。

4 精神障害者

(1)全体状況

・ 精神障害者は、平成5年患者調査によれば、入院患者33万人、在宅患者124万人、合計157万人となっている。
・ 疾病別分類では、老年期及び初老期の器質性精神病7万人、精神分裂病45万人、そううつ病18万人、その他の精神病6万人、神経症44万人、アルコール精神病等3.6万人、その他の非精神病性精神障害8.4万人、てんかん25万人となっている。

(2)入院の長期化

・ わが国の精神障害者の平均在院日数は326日とアメリカ13日、ドイツ35日、イギリス217日に比べ非常に長いことが指摘されている。
・ また、平成8年日本精神病院協会総合調査によれば、入院期間1年未満が24.3%、1年以上5年未満が25.7%、5年以上10年未満が14.3%、10年以上が32.2%となっている。この比率は、昭和58年当時(1年未満24.0%、1年以上5年未満26.6%、5年以上10年未満15.7%、10年以上32.1%;厚生省精神衛生実態調査)とほぼ同様であり、この10年間に精神障害者の社会復帰が進んでいないことを示している。

(3)年齢構成の変化

・ 平成5年の調査で精神障害者の年齢構成比をみると、20歳未満14万人(9.0%)、20歳以上65歳未満113万人(72.0%)、65歳以上30万人(19.0%)となっている。
・ 平成元年の調査では、入院患者(34.6万人)のうち65歳以上の患者は7.2万人(21%)であったが、平成8年の調査では65歳以上の患者は9.5万人(28%)であり、入院患者の高齢化が進んでいることを示している。

(4)その他

・ 平成8年の調査では、入院患者のうち精神分裂病患者は、3年以上の入院患者では73.0%、10年以上の入院患者では80.0%となっており、入院期間が長期化するに従い精神分裂病の占める割合は高くなっている。
・ 精神障害者保健福祉手帳所持者は、平成9年10月末現在9.3万人であり、精神障害についての偏見が依然強いこと、手帳制度創設後まだ間もないこと及び手帳取得によって受けられる公共交通機関の運賃割引制度等の優遇措置が少ないことから少数に止まっている状況であるので、引き続き制度の理解を求め、また、各種優遇措置を充実することにより、普及を図っていく必要がある。
・ 精神障害者や精神疾患に対する差別や偏見は依然強く、精神科医療の早期受診や精神障害者の社会復帰を妨げる大きな原因となっている。
・ 利用できる精神障害者社会復帰施設の利用定員は、生活訓練施設1385人分、福祉ホーム560人分、授産施設2060人分、福祉工場60人分と未だ少ない。

II. 基本的理念

1. 障害者の自立と社会経済活動への参画の支援

・ 障害者施策の基本は、障害者が生涯のあらゆる段階において能力を最大限発揮し、自立した生活を目指すことを支援すること及び障害者が障害のない者と同様に生活し、活動する社会を築くことである。
・ 障害者が生活者として暮らしていく上では、地域での自立が必要である。障害の重度化・重複化によって自らの努力だけでは自立が困難な者が増加してきている。これまでの施策の進展により、重度・重複障害者の自立も次第に可能になってきているが、これらの者の自立に向けた施策の一層の推進が必要である。
・ リハビリテーションは、障害者の側において自らの能力を高めるものであるが、必ずしも職業復帰や経済的自立のみを目標とするのではなく、生活の自立をはじめとするあらゆる意味での自立、社会活動への参画、主体性の確立等広範な領域にわたる目標設定が可能であり、障害者の状態によって様々な目標の持ち方があると考えることが必要である。このためには、障害者の障害の特性や程度に見合ったリハビリテーションを支える地域の人的、物的な社会資源や施策の充実を図ることが必要である。
・ また、物理的、制度的、社会的な障壁をなくすこと(バリアフリー化)により、様々な仕組みや社会資源をすべての人々に利用可能とする機会均等化を図っていかなければならない。これらが相まって全人間的復権が図られ、ノーマライゼーションが実現される社会を目指して、「障害者の機会均等化に関する標準規則」(平成5年12月20日国連総会決議)、「精神障害者の保護及び精神保健の改善のための諸原則」(平成3年12月17日国連総会決議)等を尊重しながら、障害者があらゆる社会経済活動へ参画する「完全参加と平等」に向けた取組みを進めていくことが必要である。

2. 主体性・選択性の尊重

・ 障害者が保護の対象としてではなく、一人の生活者として自らの生活を自らの意思で選択・決定し、築いていきたいという考え方は、特に成人した者にとっては当然のことである。
・ このことを踏まえ、障害者ができる限り、主体的に自立生活を送れるようにするための選択肢を広げ、生活の質(QOL)の向上を実現できるように施策を推進することが必要である。
・ 介護保険制度においては利用者の権利性、選択性が確保されることとなっているが、公費による障害者施策においても障害の状況に応じた適切なサービスを用意し、十分な情報提供を行うとともに、福祉サービスを有料で購入することも含め、障害者が権利としてサービスを選択できるような仕組みにしていくことが必要である。
・ また、障害者は、様々な面で不利な条件下に置かれており、人権尊重の観点から、生活支援、権利擁護等の様々な面で、社会全体の取組が必要である。
・ 一方では、障害者も社会を構成する個人としての権利と責任を自覚し、社会の構成員としての役割を担い、社会に寄与していくことが求められている。

3.地域での支え合い

・ 障害者に対する支援は、各種の行政サービスや機会の提供、障害者に配慮したまちづくりなどの地域環境の整備を行うことがまず必要である。この場合、地域の中で生活していく上では保健福祉サービスも身近な市町村で受けられるようにすることが必要である。
・ また、心の通いあう地域社会の支援や障害者同士の支え合い、ボランティア活動などの幅広い支援活動が重要である。
・ 特に障害の特性から人間関係をつくり、社会に適応していくことが困難な者については、社会の理解、受け入れを進めるため、行政や障害者福祉関係者は、地域に広く働きかけを行っていくべきである。
・ さらに地域の様々な施設の活用、住民参加の促進、民間事業者の参加によるサービス提供主体の拡大により、障害者の住む地域の福祉基盤を厚くすることが必要である。


III.基本的な施策の方向

1.障害者の地域生活支援施策の充実

・ 障害者の自立と社会参加を支援する上で、身近な地域における保健福祉サービス等の社会資源の充実が重要であり、今後ともこのための諸施策を進めていくことが必要である。
・ この場合、障害者の需要に的確に対応したサービス種目や施設の整備、福祉機器の開発普及等を図るとともに、在宅で障害者を介護する家族等への支援も充実すべきである。
・ また、地域の資源としての障害者施設が有する専門機能の有効活用、関係機関の連携、民間事業者の参加の拡大等により、的確かつ効率的なサービス提供が図られることが必要である。

2. 障害保健福祉施策の総合化

・ 障害児、身体障害者、精神薄弱者及び精神障害者に対する施策はこれまで各障害種別ごとに施策の充実が図られてきた。このため、施策の実施体制についても障害種別により相違があるが、障害者が地域の中で生活を送れるようにするためには、身近なところで適切な保健福祉サービスを受けられるようにするという観点からその見直しを行うことが必要である。
・ このためには、都道府県による支援や障害特性に応じた専門性を確保しつつ、障害者が市町村において地域の実情に応じて総合的に調整されたサービスを受けられるような体制づくりが必要である。このため、保健福祉サービスの決定の権限を市町村に揃えるとともに、総合的な相談の実施等、障害の種別を超えた総合的な施策を推進するため、各制度間の施策の整合性を図るべきである。
・ 市町村においてサービスを提供する上で、障害者施設の有する施設設備や専門的な知識、経験等を地域に開放し活用していくことが有用であるが、入所施設の整備については、市町村域、都道府県域の中間に位置し、二次医療圏及び老人保健福祉圏域を参考に、広域市町村圏、福祉事務所等の行政機関の管轄区域等を勘案して設定される複数市町村を含む広域圏域(障害保健福祉圏域)での適正な配置を行い、市町村と施設相互間の協力関係を構築するとともに、障害者施設に係るサービスはこの圏域内で需要に応えられるようにすることが必要である。
・ 生涯を通じた各段階において、予防、早期発見、早期療育、治療、リハビリテーション、在宅保健福祉サービス、施設福祉サービス、社会参加促進事業といったサービスが適時、適切に提供される体制の確保が重要である。これらと教育施策や雇用施策が相まって、生活・教育・労働の場面で可能な限り早期かつ円滑に障害者の自立と社会参加が図られるようにする必要がある。
・ また、合併症を有する障害者、内部障害者等医学的管理を必要とする障害者が増加傾向にあり、障害と疾病の境界がはっきりしなくなりつつある。このため、保健、医療、福祉の分野の施策の連携強化がますます必要となっており、児童相談所、更生相談所、福祉事務所、障害者施設、精神保健福祉センター、保健所、市町村保健センター、精神病院、一般病院、診療所等の関係諸機関の連携の緊密化も求められている。

3. 障害特性に対応する専門性の確保

・ 市町村で総合的なサービスを提供できるようにするとともに、障害種別ごとの特性に対応する施策も充実していくためには、特に、専門的機関による支援体制の強化を図ることが必要である。このため、県域単位で設けられている身体障害者更生相談所、精神薄弱者更生相談所、精神保健福祉センター等を中心に総合的なリハビリテーション体制を整備していくことが必要である。
・ また、障害特性に応じた需要を満たすためには、これに対応しうる専門職を関係諸機関に配置するとともに、これら専門職の研修体制の整備を図ることが必要である。

4. 障害者の重度・重複化、高齢化への対応

・ 障害の重度・重複化の傾向が見られる中で、重度の身体障害と精神薄弱が重複した障害者、医学的管理を必要とする障害者、強度の行動障害のために処遇が困難な障害者などについて、施設サービス及び在宅サービスのそれぞれの場面での適切な対応に関して検討する必要がある。
・ また、高齢化の進展の中で、介護を必要とする高齢者が増加しており、これに対しては介護保険制度の創設により対応を図ることとしている。障害者施策においては、「障害者プラン」により介護保険制度による給付と比較して遜色のないサービスを提供することとしているが、介護保険との関係でサービスの提供方法や費用負担の在り方についても検討が必要である。

5. 障害者の権利擁護と参画

・ わが国はこれまで社会構造、生活観等から権利意識を強く持つ社会ではなかったが、今後、地域及び施設においても、障害者の人権の尊重や権利擁護についての啓発を進めることや、権利が侵害され、障害者から申し立てがあった場合等において、迅速かつ適切に対応できる仕組みを整備していくことが必要である。
・ 特に最近、就労あるいは、施設入所している障害者の財産権や人権を侵害する事件が発生しており、障害者の財産管理を支援するシステムの整備や権利擁護に関する相談事業の強化が必要である。
・ また、障害者の権利擁護のための基盤として、意思伝達や情報確保の手段が保障されるようにするため、手話通訳者、要約筆記者の養成・派遣・設置、字幕放送、解説放送、点字による文書や録音物の作成、情報機器の研究開発
・ 普及等の充実を図っていくことが必要である。
・ 加えて、障害者が家庭生活を築き、子供を養育できるようにする環境整備を図ることも障害者の人権の尊重という観点から重要である。
・ さらに、今後、障害者の当事者活動の強化を支援するとともに、行政施策の決定に当事者の意向が十分に反映されるように、障害者施策推進協議会や関係審議会への障害者等の積極的な参画などを推進していくことも、障害者の権利擁護の推進に寄与するものと考えられる。

IV 具体的な施策の方向

1. 障害者の地域での生活支援

(1) 障害者の需要への的確な対応

(1)在宅保健福祉サービスの充実

・ 障害者が地域で生活できるようにするためには、「障害者プラン」にお いて示されているように訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)、地域生活援助事業(グループホーム)等様々な施策の展開が必要である。保健福祉施策においては、障害者の需要に応じた多様な施策が必要であるが、特に重度・重複の障害者に対する施策の充実が求められており、在宅の重度身体障害者に対して、ケアグループ(介助サービス等を提供する者)が身体障害者療護施設等の支援を受けながら介助サービスを提供する自立支援事業等の拡充を含め、夜間においても必要な介護が受けられる体制の整備についても検討すべきである。
・ 精神障害者の在宅支援施策としては、訪問看護事業、精神病院における日帰り介護・活動(デイケア)事業、精神障害者地域生活支援事業等が行われているが、他の障害種別に比べると取り組みが遅れている状況にある。このため、これまで行われていない訪問介護事業(ホームヘルプサービス)を中心に、その実施について、必要性、対象者、内容、実施主体と提供体制等について総合的に検討すべきである。
・ また、障害者の健康管理及び新たな健康問題の発生予防のためには、市 町村保健センター等における健康診査、健康相談及び健康教育の充実を検討すべきである。

(2)施設機能の活用

・ 障害者施設は、障害者への保健福祉サービスを提供するための施設設備とともに知識、技能、経験、人材を擁しているが、こうした資源を活用して、施設入所者のみならず、地域で生活する障害者の生活支援を行うことも当然の役割であると位置付けることが必要である。このため、今後は可能な限り、障害者施設に訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)等の機能を付加することを施設整備の条件とすることが必要である。
・ また、地域の障害者及びその家族等の様々な需要については、施設と利 用者との直接契約により、利用者にも相応の負担を求めつつ、施設の自主性と創意工夫を発揮したきめ細かなサービスが提供されることを推奨するとともに、在宅者が施設機能を機動的・弾力的に利用できるようにすることが必要である。

(3)地域における総合相談窓口の確立

・ 障害保健福祉圏域を単位として整備される地域生活(療育)支援センターは、在宅障害者に対して、在宅福祉サービスの利用援助、社会資源の活用、当事者相談、情報提供等を総合的に行い、障害者や家族の地域における生活を支援するものであり、一層の整備が必要である。
・ また、施設においても地域の障害者に対する相談・支援機能を持つようにするとともに、地域生活(療育)支援センター相互間及びこれと施設や第一次的な相談窓口である市町村等との相互連携を充実することが必要である。

(4)医療的支援

・ 身体障害の各障害については、更生医療・育成医療が実施されている。 しかしながら、在宅障害者全般について見ると、必要な医療サービスの提供が受けられる医療機関の確保が困難な場合も少なくなく、情報提供など医療の確保の方途についても検討すべきである。また、病院等から退院した在宅脳卒中患者等が寝たきりになることを防止するため、リハビリテーション機能を有する障害者施設の地域開放等地域におけるリハビリテーションの推進を図るべきである。
・ 障害種別を問わず、高齢化等に伴い様々な疾病を併せ有する障害者が増加している。特に精神障害者については、緊急性や専門性の高い身体合併症に対応する総合的かつ専門性の高い治療体制の整備が急がれ、必要な医療サービスの体制整備に向けて検討し、推進することが必要である。
・ また、障害者に対する在宅医療、訪問看護事業も進めるべきである。

(5)介護保険制度との関連での整理

・ 障害者に対する介護サービスについては、障害者プランの着実な推進を図ることにより障害者特有の需要にも配慮しつつ、高齢者のサービスと比較して遜色のないようにしていくことが基本である。
・ この場合、障害の程度・状況に応じて標準的なサービス量を示すことも検討すべきである。また、介護保険で示されている給付内容で、障害者施策において未実施である訪問入浴等については、その導入について検討すべきである。
・ 介護保険においては、介護支援サービス(ケアマネジメント)を実施することとしているが、障害者に対する在宅サービスにおいても様々な事業を適切に組み合わせ、総合的に調整のとれたサービスを提供するための体制整備を進めるべきである。

(2)介護する家族等への支援

・ 障害者を介護・養育する家族等がその負担軽減のために一時的なサービスを利用できる事業(いわゆるレスパイト(respite)サービス)を進めるべきである。
・ このため、短期入所生活介護事業(ショートステイ)について、日中のみ又は夜間のみの利用、短期入所者が学校や通所施設に通う場合の送迎の実施などの弾力的な運用を行うこととすべきである。また、日中のみの利用については通所施設においても実施できることとすべきである。更に、利用手続きについても、実施主体が予め包括的な利用登録を受けた上で、利用者とサービス提供者との間での調整に委ねる等できる限り弾力的な仕組みとすべきである。
・ また、こうした事業を行う施設が近隣にない場合においては、障害児や行動障害を有する者を1人で家庭に残したまま保護者が一定時間外出することは、中軽度者であっても困難な場合もあることから、このようなサービス需要への対応方策についても、検討すべきである。
・ これらの事業による対応以外に、障害者の親同士の間での助け合い活動等について、試行的事業を実施し、事業の効果、評価を行うことを検討すべきである。

(3) 各種サービスの相互利用

・ 障害者の訪問介護事業(ホームヘルプサービス)については、高齢者の事業と一体となって行われているが、障害者に対する事業を「障害者プラン」に沿って拡大していくことが必要である。また、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)については、利用者の利便性等を勘案して、最寄りの施設、資源を利用できるよう、障害種別にかかわりなく、相互利用の途を拡げていくべきである。
・ 地域生活援助事業(グループホーム)において精神薄弱者と精神障害者との共同利用を促進することは、世話人等の援助者による障害特性に応じた対応の可否、共同利用する場合の長所・短所の整理が必要であるが、当面、事業主体と利用者相互の合意ができる場合に共同利用ができる途を開くことが望ましい。
・ 地域生活援助事業(グループホーム)を身体障害者を対象とした事業類型として実施するかどうかについては、福祉ホームの弾力的運用での対応、身体障害者にとっての必要性等について更に検討すべきである。
・ さらに、高齢者施策においても、新ゴールドプラン(新高齢者保健福祉推進十か年戦略)により在宅福祉サービスの整備が急速に進められており、障害者の利用の利便性を勘案し、高齢者に対するサービスの障害者による利用の促進を検討すべきである。

(4)社会参加の促進

・ 様々な障害の特性や専門性に配慮しつつ、障害種別ごとに行われている社会参加促進事業を総合化するとともに、中央及び都道府県単位で実施している「身体障害者社会参加促進センター運営事業」を拡充し、障害者全体を対象とする「障害者社会参加推進センター運営事業」に改めて、広く障害者の社会参加を促進すべきである。
・ 一方で、障害者の自由な社会経済活動を可能とするためには、住宅、道路、公共・準公共建築物、交通機関、通信情報網(公衆電話・ファックス)などの生活基盤が改善される必要があり、地域においてさらに障壁をなくす(バリアフリー化)等の障害者に配慮したまちづくりを推進する必要がある。
・ また、情報化社会の進展に対応して障害者が的確に情報伝達等ができるよう、障害者同士、障害者団体間の情報交換の場として障害者情報網「ノーマネット」及び「点字情報ネット」の活用や各障害者団体の情報網の活発化、視覚障害者団体等による点字図書、盲人用録音物の普及活動、聴覚障害者団体等による手話通訳、要約筆記の普及活動に対する支援等についても推進する必要がある。
・ さらに、引き続き「障害者の日」の活動などの啓発や障害者スポーツ大会等を行うほか、障害者のリーダー養成や障害当事者活動の支援を強化するとともに、障害者等の障害者施策推進協議会や関係審議会への積極的な参画の推進、行政との意見交換の実施等を通じて、障害者の意見が施策に反映されるように努めるべきである。

(5) 地域での支え合いの推進

・ 市町村域よりもさらに小さな身近な地域で、地域住民が協力して行う地域での支え合い活動(コミュニティ・ケア)を推進すべきである。
・ このためには、地域住民や当事者間の組織化及び連絡調整において、地域の施設、地域生活(療育)支援センターが重要な役割を有しており、相談事業をはじめとして在宅サービスの調整の実施等機能強化を図ることが必要である。
・ 社会福祉協議会や民生・児童委員、身体障害者相談員、精神薄弱者相談員、各種ボランティア等の活動についても身近な地域ごとに行われるようその推進を図っていくことが必要である。
・ また、災害時において障害者が安全を確保できるようにするため、地域住民やボランティア組織による協力体制を整備すること等が必要である。
・ なお、障害者の地域生活を広く支えていくために、地域における医療、福祉、教育、雇用等の関係機関の連携のための体制整備を図ることが必要である。

(6) 福祉機器の研究開発・普及の促進

・ 福祉機器については、補装具及び日常生活用具について給付事業が実施されているほか、「福祉用具の研究開発及び普及の促進に関する法律」により、福祉用具の研究開発、普及の促進が図られている。
・ このうち、補装具、日常生活用具については、その区分の適否、利用者の経済的負担の在り方、現行品目の必要性等の課題があり、公的給付の概念・範囲も含め、給付制度全体の在り方について更に検討が必要である。
・ 補装具の給付手続においては、身体障害者更生相談所の判定手続を経る必要があるが、その簡素・合理化を図るとともに、厚生大臣による特別基準承認手続についても簡素化すべきである。
・ 今後の研究開発の重点としては、特にコミュニケーションや就労等社会参加を促進する上で効果的な用具について優先されるべきであり、このため、研究開発が必要な種類、機能等についての調査を行う必要がある。この調査結果等を踏まえ、国立身体障害者リハビリテーションセンターにおける研究や各種研究開発助成制度において、積極的に採り上げるべきである。
・ 民間企業や障害者施設等により新規に開発・考案された福祉用具について、一定の評価を行った上で、有効なものについては広く情報提供していくシステムを確立することが必要である。
・ また、障害者が本人の身体状況に適合する福祉用具を使用できるようにするため、適合調整を行う専門職員の養成・研修の充実が必要である。

2. 障害者施設体系

(1) 施設体系の整理

(1) 施設の現状

・ 身体障害者更生援護施設については、障害種別、障害の程度、施設の目的に応じて19種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は1394カ所、在所者数は4.3万人となっている。施設は、社会復帰をめざす訓練の場としての更生施設、作業の場としての授産施設、常時介護を必要とする者を対象とする生活の場としての療護施設等に大きく分けられているが、療護施設の待機者が多い一方で更生施設の入所率が低く、また、施設種別が細分化しすぎていること等の問題がある。
・ 精神薄弱者援護施設については、施設の目的により7種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は2449カ所、在所者数は12.6万人となっているが、地域的な偏在がみられるとともに、入所率が100%に近く、施設整備の着実な推進が必要である。施設は、更生施設、授産施設等に分けられるが、更生施設については長期滞留化が進み、待機者も増加している。
・ 障害児施設については、児童福祉施設の中で、障害種別、施設の目的等により、10種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によると、施設数は816カ所、在所者数は3.8万人となっている。少子化の影響等により、障害児施設では一般に入所率が低くなっているが、重症心身障害児施設の入所率は高く需要が多い。
・ 精神障害者社会復帰施設については、施設の目的等により5種類に分けられ、平成8年社会福祉施設等調査によれば、施設数285カ所、在所者数4000人となっているが、利用率は高くない。施設の利用方式の特色としては、保健所の斡旋により利用者と施設とが直接利用契約を結ぶ方式をとる点で、措置として行われる身体障害者更生援護施設等の場合とは異なっている。
・ 以上のように、障害者施設は、各障害類型別、種別ごとに作られているなど制度の仕組み等が異なることから、障害種別を超えた相互利用が難しいといった問題がある。

(2)検討の視点

・ 施設の体系化は、具体的需要をどの施設が担うのかという行政施策の整理を図る上で有用であり、近年の動向も踏まえ、以下の視点からの検討が必要である。
ア. 障害者の年齢や能力に応じた施設の在り方を考えることが必要である。
・ 乳幼児期に障害を有するに至った者にとっては、障害児施設は乳幼児に行う早期療育により障害の軽減と能力を最大限に伸ばす役割を担い、さらに成長に従い、保育所の障害児保育や学齢期の養護学校等が大きな役割を担い、卒業後においては障害の度合いに応じた就労・活動・生活の場としての障害者施設が重要な役割を担うことになるが、こうした流れに沿った適切な施設の在り方を検討すべきである。
・ 主として重度の中途障害者が利用する施設については、利用者の実態を勘案し、地域生活を目指した社会生活力を高めるための援助等その処遇の在り方を検討すべきである。
・ 障害者の生活の場についても、生涯の各段階において、障害の度合いや社会生活力の度合いに応じ、公営住宅や一般のバリアフリー住宅などとの役割分担も踏まえて施設体系を検討すべきである。
・ 高齢化した障害者の処遇の在り方については、高齢者施策での対応も含め、検討すべきである。

イ. 医療の関わりがどの程度必要かという観点から施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者施設には、重症心身障害児施設、肢体不自由児施設等のように医療サービスと福祉サービスを一体として提供するもののほか、入院治療は必要ないが日常生活において常時の介護を要する者を対象とする身体障害者療護施設や医療的処置に引き続く機能訓練等において 医療と密接な関係を有する身体障害者更生施設があるが、障害の重度・重複化に伴う医療との関係の在り方について検討が必要である。
・ このため、身体障害者更生施設と専門的なリハビリテーション機能を有する病院との関係など障害者施設と医療機関との関わりの中でそれぞれの施設の役割、連携の在り方を考えることが必要である。

ウ. 就労、活動との関係の中で施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者の就労、活動については、授産施設、福祉工場の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用が可能な者については、労働行政との連携の下に適切な移行を図るとともに、「生きがい活動」的な日帰り介護・活動事業(デイサービス)や小規模作業所等との関係の中での位置付けについても考えることが必要である。
・ また、更生施設においても就労、活動といった点をどこまで担うのか考えることが必要である。

エ 地域に根ざした施設の在り方を考えることが必要である。
・ 先進諸国の例をみると、障害者が普通に地域で生活できるようにするというノーマライゼーションの観点から、地域から切り離された大規模施設ではなく、施設を小規模なものとして地域社会に根づいたものにすべきであるとの考え方に基づき、重度の障害者施設等についても地域生活援助事業(グループホーム)のように小規模化してこれを身近な地域に配置し、そこから訓練施設に通所したりその他の地域の様々な資源を活用していくという流れがある。
・ 我が国においてこのような仕組みをただちに取り入れるか否かについては慎重な検討を要するが、こうした観点を踏まえ、障害者施設について一層の小規模化を図るとともに、今後、生活の場と活動の場を分離し、生活施設から訓練、作業、生きがい活動等のため他施設に通所できるような方途を検討すべきである。
・ また、障害者施設が「地域の宝」としてその資源が地域で活用されるようにするため、訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、日帰り介護・活動事業(デイサービス)、短期入所生活介護事業(ショートステイ)、地域生活(療育)支援センター等の様々な機能を備えることが必要である。
・ さらに、災害等の緊急時において地域の障害者の避難場所、障害者に必要な用具の備蓄場所等としての機能を果たすようにすべきである。

オ. 生活の質(QOL)を高めるという観点からの施設の在り方を考えることが必要である。
・ 障害者の生活の質を高めるという観点から、個室化、夫婦のための居室の設置等施設における処遇の充実、職員配置の見直し等が必要である。
・ 特に、情報化の進展等時代の変化に対応して、障害者への情報提供及び障害者間の情報交換の促進、障害者の創造力の発揮や生活を豊かにすることに資する文化・芸術活動、障害者の健康・体力の維持、増強を図るスポーツの振興、レクリエーション(余暇活動)等のより積極的な社会活動を進めるという観点からの施設の在り方を考えることが必要である。
・ このため、視聴覚障害者情報提供施設、身体障害者福祉センターの活用や、各種放送・文化施設、スポーツ施設などを障害者が容易に使えるような条件整備を図るべきである。

(3)施設類型に関する当面対応すべき課題

ア. 身体障害者更生援護施設について
・ 身体障害者療護施設については、最重度の身体障害者の生活の場として入所者が安心して、かつ、生きがいをもって生活できるよう処遇内容の充実に努めることが必要である。また、待機者が多いことを踏まえ、施設整備を進めるとともに、入所基準等の明確化を図るべきである。また、通所部門の充実等により在宅での生活の支援や地域生活への移行を促進すべきである。
・ 訓練の場という性格と就労の場という性格を併せ持つ授産施設については、平成4年の「授産施設制度のあり方検討会」(社会・援護局、児童家庭局、保健医療局の3局長の私的懇談会)の提言、社会経済情勢の変化等を踏まえ、そのあり方を検討すべきである。
・ また、併せて、「授産」等の名称についても見直しを検討すべきである。
・ 重度障害者への対応のため、医療機関との連携や施設における医療的な処遇の在り方についても検討が必要である。

イ. 精神薄弱者援護施設について
・ 精神薄弱者更生施設については、一定期間を限定して指導・訓練及び評価判定をすることを目的とする施設として明確に位置付けることを検討すべきである。
・ 介護を中心とした処遇が不可欠な重度・重複の精神薄弱者、加齢により日常生活動作能力(ADL)が低下した精神薄弱者等、一定期間を限定した訓練指導になじまない者であって、在宅福祉サービスを利用しても地域生活が困難な者については、日常生活上の生活支援及び生きがい活動支援を目的とする生活施設の形態を創設し、障害者の態様に応じた処遇を確保できるよう検討すべきである。
・ 一定時間以上継続して作業に従事できる者については、福祉的就労の場として授産施設を、また、さらに作業能力のある者については福祉工場の利用を促進することが必要である。
・ 以上の施設類型については、いずれも入所及び通所による利用が可能なものとすべきである。
・ 生活の場と活動の場を可能なものは分離していくという観点から、生活の場となる精神薄弱者の地域生活援助事業(グループホーム)の利用要件を緩和することが望ましいので、その就労要件については、障害基礎年金等の確実な収入が見込まれる場合には撤廃すべきである。また、通勤寮、福祉ホームの就労要件を撤廃し、これらの入所者が日中の活動のため授産施設等へ通所できるようにすることについて検討する必要があるが、この場合、通勤寮等の施設の性格や公費負担の在り方を検討すべきである。
・ 高齢化等に伴い、様々な合併症を有する入所者が増加しているので、入所者に対する適切な医療を確保するため、近隣の医療機関との連携を強化することが必要である。

ウ. 精神障害者社会復帰施設等について
・ 精神障害者社会復帰施設については、生活訓練施設、授産施設等の4つの類型が相互に利用できる形態となっており、生活と活動の場の分離が図られていることから、今後もこの形態を基本とすべきである。
・ 一方で、利用者と施設の直接契約型の施設であり、保健所の役割は斡旋に留まっていることから、今後、施設の設置や社会復帰施設の利用調整に関する地方公共団体等の役割の強化についても検討すべきである。
・ さらに、介護を中心とした処置が必要な精神障害者、日常生活動作が低下した精神障害者等のため、介護機能のついた施設形態を研究すべきである。
・ なお、精神障害者については、長期入院患者のうち、当面は社会復帰が望めず、引き続き入院治療が必要な者に対しては、医療の保障された生活の場を提供するための施設の在り方について、入院患者の療養上の必要なサービス、施設・人材等サービスの提供方法等の面から検討すべきである。
・ 精神障害者社会復帰施設の整備は、他の障害種別の施設に比べその遅れが指摘されており、引き続き整備を図る必要があるが、精神障害者や精神疾患に対する差別と偏見が整備の進まない原因の一つとなっている。地域住民の反対により、社会復帰施設が建設できない例が一部にあり、対応策を検討すべきである。

(2) 施設における障害の重度・重複化、高齢化への対応

・ 重度・重複の障害者については、地域の施設が満員のため待機を余儀なくされたり、障害の特性に応じた適切なサービスを受けられる施設が地域に存在しない等の事例が少なからず見られる。このため、身体障害者更生援護施設、精神薄弱者援護施設においては、重度・重複障害者への適確な対応が図れるよう、施設設備、人員面の配置の強化等の機能の充実を図ることが必要である。
・ 特に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等のうち入院治療は必要ないが日常生活において常時の介護を必要とする障害者については、これまで受け皿が不十分であり、今後、身体障害者療護施設において、特別に必要な施設、設備を整備する等の改善を図るなどの施策を講じるべきである。
・ また、重度施設、重度棟、重度加算については、混合処遇の長所を生かす等の観点から、重度障害者個人に着目した重度加算に一本化することも検討すべきである。

(3) 地域の中での施設の機能の発揮

(1)障害種別間の施設利用の弾力化と統合

・ 障害児通園施設について、当面現行の施設種別を維持しつつ、異なる障害のある児童を受け入れられるように、「相互利用」の制度化を図るべきである。さらに、将来的には障害児通園施設(仮称)として一本化することを検討すべきである。
・ 授産施設等について、精神障害者施設と他の障害種別の施設の相互利用を進めるべきである。さらに、将来的には、共同利用を前提とした施設形態を検討すべきである。

(2)施設の小規模化

・ 重度身体障害者更生援護施設及び重度身体障害者授産施設の最低定員を他の入所施設並みに引き下げるなど、身近な地域に施設を設置しやすくするように検討すべきである。
・ この場合、事業の効率性、財源の有効活用も考慮することが必要である。

(3)施設における在宅サービス支援機能の強化

・ 障害者施設はこれまでにも述べたように、地域の在宅支援の拠点や危機対応の役割を担い、「地域の宝」として位置付けられるようにすることが重要であり、今後とも、在宅福祉サービス事業の機能の付加等によりその充実を図るべきである。
・ 在宅障害者及び在宅介護者の支援のため、各施設が独自に利用者の需要に応えるべく創意工夫をこらして実施する自主事業については、利用者との自由契約により実施できることを明確化し、その促進を図るべきである。
・ また、施設が地域の資源として活用されるためには必要な地域に計画的に整備されることが必要である。このため施設整備が円滑に行えるための条件整備についても検討すべきである。

(4) 施設での処遇の充実

・ 障害者の施設における生活の質(QOL)を高める観点から、設備基準を見直し、居室の個室化等を推進すべきである。
・ 障害の特性に配慮しつつ、障害種別間の施設整備や人員配置の基準の整合性を図る観点から、特に精神障害者社会復帰施設を中心に基準を見直すべきである。また、行動障害を有するため常時監護を必要とする精神薄弱者に対しては、強度行動障害児者特別処遇事業が試行的に行われてきたが、その成果を踏まえつつ、関係機関との連携を図り、一般的な施策として普及を図るべきある。
・ 情報化への対応をも含めて、障害者施設が試行的・先進的な取組みが可能となるよう、施設職員の研修を充実するなど資質の向上を図るとともに、入所者の処遇計画を、芸術、文化、スポーツ、情報等の観点から充実することが必要である。

(5) 施設のサービスの質の確保

・ 障害者施設、精神病院等のサービスの質の確保を図るため、施設・設備や人員配置などの基準を定めているが、その見直しについて検討することが必要である。
・ さらに施設におけるサービスの質の確保と向上を図るためには、サービス内容に関する情報を公開し、利用者による適切なサービスの選択を可能にすることが必要であり、施設におけるサービスを客観的に評価する基準及び仕組みについて検討が必要である。

(6) 小規模作業所の位置付け

・ 小規模作業所は授産施設や日帰り介護・活動事業(デイサービス)等の待機者を中心に、養護学校卒業者等に活動の場を提供するとともに、病院や施設を退院・退所した障害者が地域で生活するための受け皿や障害者やボランティアの交流の接点になる等、障害者の社会参加や地域での支え合いの場としても機能している。
・ 小規模作業所は、法制度外の仕組みとして、事業主体、事業内容等多様な形態をとりながら、障害種別にかかわりなく受け入れる等創意工夫による柔軟な事業を実施しており、設置数は飛躍的に増大しつつある。しかしながら、小規模作業所は、高齢化している家族が運営の中心となっているところも多いなど人的、財政的な基盤が安定しておらず、運営の安定化が課題となっている。
・ このための方策としては、まず、授産施設等の分場方式の活用や日帰り介護・活動事業(デイサービス)への移行による法定施設(法定事業)化を推進することが必要であり、そのための各種の要件緩和をさらに行うべきである。その際、法定事業化の前提条件のひとつである設置運営主体の法人化が円滑にできるよう社会福祉法人の要件の緩和についても検討すべきである。
・ また、小規模作業所の中には、地域の様々な活動の場となっているものもあることから、このような機能に着目した新たな事業形態も検討すべきである。
・ さらに、これらの施策の対象となるべく準備段階にあったり、あるいは自らの判断でこれらの施策の対象とならないような小規模作業所についてもその役割を積極的に評価し、地方公共団体の自主的単独事業として地方交付税措置等により、その支援を行っていくことが必要である。

3. 障害保健福祉サービスの提供体制

(1) 市町村におけるサービス提供体制の一元化

(1)障害児、精神薄弱者の福祉サービス決定権限の市町村への移譲

・ 身体障害者の福祉サービス決定権限については、平成2年の福祉8法改正により、平成5年度に従来の市及び都道府県(町村部)から市町村に移譲されたが、身近な地域で福祉サービスを受けられるようにするという観点から、所要の準備期間をおいた上で、障害児、精神薄弱者についても同様に市町村に移譲すべきである。
・ この場合、受け皿となる町村の人材の確保、円滑な事業の実施等を図るため、広域的な観点から都道府県が市町村を支援する体制の整備を行うことが必要である。その際には障害保健福祉圏域との役割分担も整理が必要である。
・ これに際しては、児童については成長するという視点からの専門性の確保や、ノーマライゼーションの観点から一般児童対策における障害児の位置付けにも留意すべきである。
・ また、特に市町村保健センターで実施されている乳幼児健診事業や各種の保健事業との十分な連携が図れるようにすべきである。

(2)精神障害者の福祉サービスの市町村における対応の強化

・ 精神障害者の福祉サービスは、保健所において斡旋する等これまで都道府県が施策の中心となっているが、身近な地域でサービスを受けやすくするため、地域における精神障害者福祉の推進のほか、精神障害者社会復帰施設の設置、入所の斡旋等についても所要の準備期間をおいた上で、市町村が行えるようにすべきである。
・ この場合、市町村の専門性の確保、都道府県等のバックアップ体制の在り方、市町村の財政的及び人的な負担増に対する支援、保健所の行うサービスとの関係についても検討を行うべきである。

(3)障害者保健福祉サービスの市町村一元化

・ 上記により、市町村において全ての種別の障害者の保健福祉サービスを実施することにより、総合的で調整のとれた障害者のサービスが提供されるようにすべきである。
・ この場合、特に町村におけるサービス提供体制の強化が必要であり、町村合併、一部事務組合等による取り組みが望まれる。
・ さらに、障害の種別により講ずる施策は異なるが、障害者という共通性に着目して、市町村において障害者の生活を支援する上で第一次的な相談窓口の役割を果たせるよう体制を整備し、これを核として、福祉事務所、市町村保健センター、障害者福祉施設、医療機関等の保健福祉資源との連携を図り、総合的なサービスを提供していく方途を検討すべきである。

(2) 適切な機能分担によるサービス提供体制の構築

障害者の保健福祉サービスを実施する上では、地域での支え合い活動の推進とともに、障害者プラン等で示されているように、以下のとおり、市町村域、障害保健福祉圏域、都道府県域において、適切な機能分担を図ることが必要である。

(1)市町村域

・ 身近な地域で障害者に対する第一次的な相談窓口となり、在宅・施設入所サービスの決定の主体として、関係機関と適切な連絡調整を図りつつ、障害者の需要に対応し適切に組み合わせたサービスを提供する。また、高齢者の在宅介護支援センター等との連携にも配慮する。
・ 特に、在宅保健福祉サービスの供給、障害者社会参加促進事業を推進する。
・ 総合的、計画的なサービス提供のため、障害者の需要の実態を調査・把握して、市町村障害者計画の策定を行う。
なお、市町村障害者計画の策定と障害者及び障害者福祉事業の従事者を含む市町村の障害者施策推進協議会の設置の促進が望まれる。

(2)障害保健福祉圏域
・ 障害保健福祉圏域は、市町村だけでは対応困難な各種のサービスを面的・計画的に整備することにより、広域的なサービス提供網を築くため、都道府県の医療計画における二次医療圏や老人保健福祉圏域を参考に、広域市町村圏、福祉事務所、保健所等の都道府県の行政機関の管轄区域等を勘案しつつ、複数市町村を含む広域圏域として設定する。
・ 障害保健福祉圏域では、市町村圏域だけでは対応が困難である入所施設(身体障害者療護施設、精神薄弱者更生施設等)を適正に配置するとともに、精神障害者社会復帰施設を整備し、広域的に活用することによって、施設サービスがこの圏域内で対応できるようにする。
・ さらに、障害保健福祉圏域内の中核的役割を担う入所施設や通所施設等においては、障害種別ごとに地域生活(療育)支援センターを付設する等、施設機能を生かした専門的な相談を行うこととし、障害種別を超えた相互利用も行えるようにする。
・ 都道府県の支援の下で、一部事務組合、共同事業等の方法も活用して、複数市町村による広域的対応により施設等の計画的整備を推進する。
・ 二次医療圏、老人保健福祉圏域との関係にも配慮しつつ、これに応じた医療機関、保健所等との連携を図る。

(3)都道府県域

・ 都道府県は、市町村に対する支援、市町村間や障害保健福祉圏域間の調整、精神医療の体制整備等、より広域性、専門性の高い分野の業務を行う。
・ その一環として、都道府県は市町村、障害保健福祉圏域におけるサービスを総合的に支援するため、基幹的な更生施設等の施設機能、専門的なリハビリテーション機能を有する病院のような医療機能、更生相談所等のような相談、判定機能等を併せ持つ総合リハビリテーションセンターを設けることが必要である。 ・ また、障害者社会参加推進センターを設置するとともに、広域的な社会参加促進事業を実施する。

(3) 利用者本位のサービス提供の仕組み

・ 現行の障害者施設入所等の措置の仕組みは、市町村又は都道府県の実施機関が、障害者の需要を判定してこれに必要なサービスを提供する施設への措置(行政処分)により入所又は通所させ、施設の運営に要する費用は公的に負担し、一部を負担能力に応じ利用者から徴収する仕組みをとっている。
・ このように、現行の仕組みは、公的責任により障害者に必要かつ適切なサービスが確実に提供されるという点で大きな役割を果たしてきたと言える。一方で、提供されるサービスの内容に関し情報提供が十分に行われず、サービスの選択や利用しやすさの面で問題があり、また、事業の効率性や創意工夫を促す誘因に欠ける点でも問題があるとの指摘がある。
・ このため、利用者が選択できる選択肢を増やし、利用者に対する情報提供を十分行うとともに、利用者の選択を尊重して、利用者本位のサービスが提供できるような仕組みの在り方を検討すべきである。
・ 検討に当たっては、介護保険の方式や平成9年の児童福祉法改正により導入された新たな保育所の入所方式を参考とするとともに、公的責任による適切なサービスの確保にも留意すべきである。
・ また、利用者の幅広い要望に応えるためには、障害者の自立に向けて各種活動を行っている障害当事者団体、民間事業者、住民参加の団体等の多様な提供主体によるサービス提供の促進を検討すべきである。

(4)費用徴収の在り方

・ 介護保険制度の導入に伴い、負担能力に応じた制度とされている障害者費用徴収制度の在り方について検討することが必要である。その際、障害者サービス受給者の介護保険への円滑な移行、障害の種別間の均衡及び施設入所者と在宅障害者との均衡、応益負担的な考え方の導入の観点からの検討が必要である。
・ サービスの提供方法や提供主体の多様化に伴う障害者の利用者負担の在り方についても検討が必要である。

4. 障害特性に対応する専門的な支援方策

(1) 専門的機関の在り方

(1)更生相談所等の在り方

・ 市町村での障害者の保健福祉サービスの一元化を進める中で、市町村等を支援していくため、各都道府県に設置される更生相談所等の専門的機能を充実・強化していくことが必要である。このためには、専門職の配置、研修の強化等が重要である。
・ また、市町村への支援をより強化するため、身体障害者更生相談所、精神薄弱者更生相談所、児童相談所(障害児部門)等の統合、再編、連携等の検討を行うとともに、既に述べたように、施設機能、医療機能、相談・判定機能等を併せ持つ総合リハビリテーションセンターの整備を行うことについても検討すべきである。
・ また、更生相談所の名称については、地方公共団体の自主性を尊重することや他の施設との統合が可能であるということを明確にすべきである。
・ 身体障害者福祉司、精神薄弱者福祉司の名称についても、専門性の確保に留意しつつ、弾力的な名称の使用を可能とすべきである。併せて、精神薄弱者の施設入所措置権等の市町村への権限移譲の際にその役割等の見直しを行うべきである。

(2)精神保健福祉センターの在り方

・ 精神障害者の福祉施策を今後市町村でも進めていく場合に、精神保健福祉センターは市町村間の問題の調整機能等を担うようにすべきである。
・ また、睡眠障害に関する相談、覚醒剤慢性中毒者の機能回復訓練等保健所、市町村保健センターでは対応が困難な専門的な事項や先駆的な事業を中心に行うこととすべきである。
・ さらに、保健所とも連携を図りつつ、人材養成及び資質の向上のための研修機能、総合的な調査・研究機能について充実することが必要である。
・ 更生相談所等とも相互に援助しあえるよう、それぞれの機能・組織の見直しや統合等も検討すべきであり、併せて、精神保健福祉センターの名称については、地方公共団体の自主性を尊重すべきである。
・ さらに、精神保健福祉相談員についても弾力的な名称の使用を可能にするとともに、専門性の強化等を図ることが必要である。

(2)専門職の養成と生涯研修体制の整備

・ 障害の特性に応じたリハビリテーション等の需要に対応する専門職として、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、理学療法士、作業療法士、視能訓練士、言語聴覚士、手話通訳士、生活訓練専門職等があるが、公的団体が自主的に行う養成も含め、これらの専門職の養成を積極的に推進すべきである。
・ また、それぞれの専門職がその知識・技術を高めていくためには、研修水準毎に生涯研修体制を整備するとともに、地域や施設においてこれらの専門職が活動できる場の整備が必要である。
・ さらに、当事者相談員、点訳奉仕員、手話奉仕員等のボランティア、各種障害者関係相談員についても障害の特性に応じた人材の育成を図るべきである。

(3)障害特性に応じた施策の充実

・ 各障害の特性に応じて、文字情報、音声情報、手話通訳、要約筆記等の情報伝達(コミュニケーション)や情報提供に係る施策の充実を図るべきである。
・ 各障害の特性に対応できる訪問介護事業(ホームヘルプサービス)、外出介護員(ガイドヘルパー)、手話通訳等の充実・強化を検討すべきである。
・ 各障害の特性に応じた福祉機器の研究開発、普及を図るべきである。

5. 障害者の権利擁護

(1) 障害者の権利擁護の方策

・ 近年、精神薄弱者等障害者に対する人権侵害事件が頻発している。精神薄弱者等は、自己の権利を主張、行使することが困難な場合が多く、自己の財産についても、これを適切に保管し、有効に活用することが困難である。また、他者からの権利侵害を受けやすく、また自らが侵害された権利の回復を図ることも困難な場合が多い。
・ このため、労働行政や文部行政との連携を強化するとともに、福祉事務所等における対応要領を整備する必要がある。また、障害者の入所施設についても、入所者の権利を尊重する生活支援の指針や入所者預り金の管理に関する指針の策定を行う必要がある。
・ また、人権侵害事件の未然防止や早期発見のため、障害者やその家族等の相談に随時対応する相談事業の実施や関係機関の連携を進めるとともに、関係施設職員の研修を各都道府県で実施することが必要である。
・ さらに、法務省で検討中の「成年後見制度」の動向を見ながら、都道府県等における先駆的な取り組みも参考としつつ、身近な所で手軽に総合的な相談や財産管理支援サービスをすみやかに提供できる機関の設置や相談に応じる人材の確保等について検討を進めるべきである。
・ 障害者の権利擁護のための基盤として、聴覚障害者に対する手話通訳者、要約筆記者の養成・派遣など、意思伝達手段が保障されるようにすべきである。
・ なお、施設に入所している障害者等の権利擁護を図るため、施設内の処遇等について苦情の申し立てを受け付ける機関の設置についても、今後の検討課題である。

(2) 用語と資格欠格条項の見直し

・ 「精神薄弱」の用語については、関係者の意見を踏まえ、早急に見直しを行うべきである。
・ 「寮母」等の施設職員の名称等についても見直しを検討すべきである。
・ 精神障害者、聴覚障害者等障害者に係る各種資格制度等における欠格条項については、その実態調査を行い、見直しを推進すべきである。
・ 障害者に対する誤解や偏見を除去し、障害者の自立と社会参加の促進を図るため、地域住民に対する正しい知識の啓発普及や施設と地域住民との交流等を一層推進することが必要である。

6. その他

(1) 障害者関係審議会の在り方

・ 障害保健福祉施策についての総合的な施策を引き続き検討するため、障害者関係3審議会・部会については「障害保健福祉審議会」(仮称)として統合すべきである。
・ また、新たな審議会は、施策の総合性と障害特性に応じた検討が行えるような体制とすべきである。
・ この場合、中央障害者施策推進協議会、中央児童福祉審議会及び中央社会福祉審議会との関係の整理等についても十分留意すべきである。

(2) 障害者の保健福祉サービスに関する総合法制

・ 障害者施策の不均衡の是正、いわゆる谷間の障害への対応等の観点から、総合法制の制定を求める声があるが、法の内容が必ずしも明確になっておらず、また、各制度の中でも充実強化すべき課題も多く、制度体系の在り方の検討、関係者の合意には時間を要することから、中長期的な検討課題とすべきである。
・ この場合、総合法制の長所とされる点については、当面、現行法制度の中で可能な限り取り込んで行くべきである。

(3) 障害認定・範囲についての整理

・ 機能障害に着目した障害認定から、生活障害やサービスの必要性に着目した障害認定とするという考え方については、認定手法に関する知見の集積や現行の手帳制度との整合性の確保等に関し十分な検討が必要であり、慢性疾患との概念整理、等級の見直しも含めさらに検討が必要である。
・ 自閉症、てんかん及び高次脳機能障害については、以下の整理が考えられる。
ア. 自閉症
自閉症については、精神薄弱者福祉施策の中でサービスが提供されており、さらに医療の必要性に応じ精神保健福祉法で対応しているが、知的能力の障害というより人間関係の障害のために生活適応ができないという自閉症の特性を踏まえつつ、自閉症に関する処遇方法の研究・開発等施策の充実を図るべきである。
イ. てんかん
てんかんについては、精神保健福祉法において需要に応じた福祉施策の充実を図るべきである。この場合、例えば日常生活用具の交付等が考えられる。
ウ. 高次脳機能障害
身体障害を伴わない高次脳機能障害(若年性痴呆等)については、精神保健福祉法において必要な福祉サービスを充実すべきである。ただし、当面、精神薄弱者に類似した障害の状態にある者については、精神薄弱者施設等の利用を行えるようにする方途も検討すべきである。
・ さらに、障害者に係る各種施策における認定の在り方に関し、それぞれの目的・趣旨を踏まえつつ、その整合性について研究すべきである。

(4) 難病を有する者への対応

・ 難病を有する者に対して、関連施策として訪問看護事業、訪問介護事業(ホームヘルプサービス)等適切な在宅サービスの提供を推進すべきである。また、難病による障害を有する者のうち、入院治療は必要ないが在宅での介護が困難な者に対しては、障害者施設への入所による適切な介護サービスの提供を推進すべきである。
・ また、在宅福祉サービスの実施に当たっては、保健所が行う専門的保健サービスとの連携を図ることが必要である。

(5) 障害保健福祉研究の促進

・ 身体障害者、精神薄弱者、精神障害者に関する研究を、国立更生援護施設等を活用しつつ、保健、福祉等の領域に偏らず学際的かつ総合的に推進すべきである。
・ 科学的な調査及び情報に則った障害保健福祉施策を遂行するために必要な調査研究を行い、特に、三障害共通の課題を対象とした横断的な研究を積極的に推進すべきである。
・ 福祉機器、リハビリテーション技術等を含め、障害に関する研究情報システムの整備充実を図り、研究情報の伝達が円滑に行われるようにすべきである。
・ 身体障害者手帳等は各種サービスの対象者としての証明としてだけではなく、多様な情報を記録して広く活用できるようにするため、カード化について研究すべきである。

(6) 障害者の所得保障

・ 障害者の所得保障の水準とサービスの利用者負担の関係について検討すべきである。
・ 障害無年金の問題については、幅広い観点から検討すべきである。

(7) 関連施策との連携

・ 養護学校に通学する障害を有する学童等の重度化・重複化、学校外での障害児の健全育成への対応、学校と医療機関との連携等の課題等について文部省と連携をとりながら検討を行うべきである。なお、学校の余裕教室に係る障害者サービスへの活用に関する指導の徹底や手続きの簡素化、養護学校義務化前に学齢期を終えたために不就学となっている者や中途退学者への教育の機会の提供、障害者への高等教育の機会の拡大等についても、文部省において検討が行われることが望まれる。
・ 更生施設・授産施設・福祉工場における就労と一般企業における雇用との間の円滑な移行や、通勤寮、地域生活援助事業(グループホーム)利用者に対する生活面での支援と職場定着のための支援との連携を図るべきである。
また、障害者の雇用促進や就労している障害者の権利擁護を図るための福祉・労働関係機関の緊密な連絡の確保を図るべきである。
今後、精神障害者の就労促進が大きな課題となるが、その推進方策について、厚生省と労働省において連携をとりながら検討すべきである。
・ 建設省と連携をとりながら、障害者プランに沿って公営住宅の優先入居枠の拡大、バリアフリー住宅の建設促進及び歩道の段差解消や広い歩道の整備促進等が図られるようにすべきである。
・ 災害に対して脆弱な障害者に対し、関係省庁とも連携をとりながら、安否確認の実施、緊急時の情報提供及び避難・安全対策等の整備を図るべきである。


(照会先)
  障害保健福祉部企画課
   担 当 松岡、片石
   内 線 3011、3089
   直 通 3501-4880

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