少子化に関する基本的考え方について
−人口減少社会、未来への責任と選択−
人口問題審議会
(平成9年10月)
−目次−
I はじめに −少子化は我が国社会への警鐘
II 少子化の現状と将来の見通し
1 持続的な出生数の減少
2 避けられない人口減少社会
III 少子化の影響 −概ねマイナス面の影響−
1 経済面の影響
- (1) 労働力人口の減少と経済成長への影響 −経済成長率低下の可能性−
(2) 国民の生活水準への影響 −現役世代の手取り所得が減少する可能性−
(1) 高齢化の進展に伴う現役世代の負担の増大
(2) 現役世代の手取り所得の低迷
2 社会面の影響
- (1) 家族の変容 −単身者や子どものいない世帯が増加する−
(2) 子どもへの影響 −子どもの健全成長への影響が懸念される−
(3) 地域社会の変容 −基礎的な住民サービスの提供も困難になる−
IV 少子化の要因とその背景
1 少子化の要因
- (1) 未婚率の上昇(晩婚化の進行と生涯未婚率の上昇)
−育児の負担感、仕事との両立の負担感等が女性の未婚率を上昇させている−
(1) 未婚率上昇の現状
(2) 未婚率上昇の要因
|
1. |
育児の負担感、仕事との両立の負担感 |
ア) |
固定的な雇用慣行と企業風土によるもの |
イ) |
固定的な男女の役割分業によるもの |
ウ) |
母親の孤立やそれに伴う孤独感や不安感 |
エ) |
長時間通勤等の勤務形態によるもの |
オ) |
利用しやすい育児サービスがないこと |
カ) |
結婚や子育てにかかる機会費用の上昇 |
2. |
個人の結婚観、価値観の変化 |
ア) |
女性の経済力の向上によるもの |
イ) |
性の自由化、家事サービスの外部化によるもの |
ウ) |
子どもを持つ意義の変化によるもの |
エ) |
世間のこだわりの減少によるもの |
オ) |
独身の自由への欲求によるもの |
3. |
親から自立して結婚生活を営むことへのためらい |
ア) |
親との同居の下での快適な生活 |
イ) |
結婚前の生活水準の維持 |
4. |
その他 |
ア) |
女性主導の確実な避妊法が普及していないこと |
イ) |
過疎農山村部における男性の結婚難 |
(2) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開き
−育児の負担感、仕事との両立の負担感のほか、経済的負担なども理想の子ども数を持たない要因−
(1) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数の現状
(2) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開きの要因
|
1. |
子育てに関する直接的費用と機会費用の増加 |
2. |
子どものよりよい生活への願望 |
3. |
その他 |
ア) |
不妊による場合 |
イ) |
高齢出産への不安 |
2 少子化の要因の背景
−個人の生き方の多様化、女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業や雇用慣行等がある−
- (1) 社会の成熟化に伴う個人の多様な生き方の表れ
(2) 女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業意識と雇用慣行、それを支える企業風土の存在
(1) 女性の社会進出と出生率の低下
(2) 女性の多様な生き方を阻むもの
(3) 快適な生活の下での自立に対するためらい
(1) 成人しても親離れできない状況
(2) 従来の生き方をゆるがすものとする見方
(3) 結婚に対する自由度の高まりの表れとする見方
(4) 現在、そして将来の社会に対する不安感
V 少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方
1 少子化の影響への対応
- (1) 経済面の影響への対応
−年齢や性別による垣根を取り払う新たな雇用環境の創出等が必要−
(1) 就労意欲を持つあらゆる者が就業できる雇用環境の整備
|
1. |
高齢者、障害者、女性の就業環境の整備 |
2. |
年齢や性別による垣根を取り払う雇用環境の整備 |
3. |
終身雇用・年功序列賃金体系の下での固定的な雇用慣行の見直し |
4. |
労働力需給の不適合の解消 |
(2) 企業の活力・競争力、個人の活力の維持
|
1. |
高付加価値型の新規産業分野の創出 |
2. |
国際的に魅力のある事業環境の創出 |
3. |
一定範囲内での公的負担、少子・高齢社会にふさわしい財政構造
|
(3) 公平かつ安定的な社会保障制度の確立
|
1. |
現役世代と将来世代の給付と負担の公平と将来への不安の解消 |
2. |
疾病や要介護状態の防止と高齢期における社会参加
|
(2) 社会面の影響への対応
−地方行政体制の整備や教育内容の改善が必要−
(1) 地方行政体制の整備、地域の活性化
(2) 子どもの独創性と社会性を養う教育と健全育成
|
1. |
独創性のある人材の育成 |
2. |
子どもの社会性を養う仕組みづくり |
2 少子化の要因への対応
- (1) 少子化の要因への対応の是非
−個人の望む結婚や出産を阻む要因を取り除く対応を図るべき−
(1) 少子化の要因への対応はすべきでないとする考え方
|
1. |
具体的考え方 |
2. |
個人の問題とする考え方についての意見 |
3. |
地球人口との関係からの考え方についての意見 |
4. |
対応の効果との関係からの考え方についての意見 |
(2) 少子化の要因への対応をすべきとの考え方
(3) 子どもを育てることについての社会的責任
(4) 少子化の要因への対応に当たっての留意事項
(5) 少子化の要因への対応と外国人の受入れとの関係
(2) 少子化の要因への対応のあり方
−固定的な男女の役割分業や雇用慣行を是正し、子育て支援の効果的な推進を図る−
(1) 固定的な男女の役割分業や仕事優先の固定的な雇用慣行の是正
|
1. |
意識・慣行・制度の是正 |
ア) |
制度の見直しと国民の意識や企業風土の見直し |
イ) |
個人の生活と仕事の両立を誰もが尊重し合う方向での取組 |
2. |
今後検討すべき課題 |
ア) |
仕事優先に関わるもの |
イ) |
女性の就業に関わるもの |
ウ) |
就業形態の多様化に関わるもの |
エ) |
いわゆる正社員と短時間労働者、非就業者との公平性、中立性に関わるもの |
(2) 子育てを支援するための諸施策の総合的かつ効果的な推進
|
1. |
エンゼルプランの推進 |
ア) |
子育てと仕事の両立支援の推進 |
イ) |
家庭における子育て支援 |
ウ) |
子育てのための住宅及び生活環境の整備 |
エ) |
ゆとりある教育の実現と健全育成の推進 |
オ) |
子育て費用の軽減 |
2. |
少子化の要因への対応という観点からみた留意事項 |
ア) |
子育てにかかる機会費用の上昇への対応 |
イ) |
仕事と育児の両立支援 |
ウ) |
核家族化、都市化の進展への対応< |
エ) |
子育てのための経済的負担軽減措置 |
オ) |
子育ての持つ楽しみや喜びの再確認 |
カ) |
乳幼児期における女性の就労支援方策 |
3. |
今後検討すべき課題 |
ア) |
雇用環境の改善に関わるもの |
イ) |
子育て支援に関わるもの |
(3) 今後、更に議論が深められるべき課題
|
1. |
不妊が原因で子どもができない男女への対応等 |
2. |
多様な形態の家族のあり方 |
VI おわりに −人口減少社会を「ゆとりと潤いのある社会」に−
I はじめに −少子化は我が国社会への警鐘−
(人口減少社会の到来)
近年、我が国の合計特殊出生率は急速に低下し、平成2年(1990年)にはいわゆる「1.57ショック」という言葉を生んだ。その後、さらに出生率は低下し、人口を長期的に維持するために必要な水準を大幅に下回る状況となっている。このことは、低い出生率の下で子どもの数が減るという少子化が進行する中で、生産年齢人口が減少し、次いで総人口までが減少し続ける社会になることを意味しており、人口減少社会の到来は現実のものとなりつつある。
また、少子化の進行と平均寿命の伸長とが相まって急速に人口の高齢化が進んでおり、我が国は未だ人類が経験したことのない少子・高齢社会−若年者と高齢者の人口構成割合が従来とは極端に異なった社会−を迎えようとしている。
少子化と高齢化の進行は将来の我が国の社会経済に様々な深刻な影響を与えると懸念されるが、少子化は我が国社会のあり方に深く関わっており、社会への警鐘を鳴らしていると受け止めなければならない。
(将来展望を明らかにすることは未来の世代への責務)
このような認識に立って、将来の我が国のあり方として、どのような社会を望ましいと考え、それを後世に残すのかという展望を明らかにし、そのためにいかに対応していくのかを国民全体の問題として明らかにする必要がある。このことは、今を生きる我々の世代の未来の世代に対する責務でもある。
人口減少社会の姿としては、今までに比べ相当厳しい状況が予測される。したがって、経済構造改革、社会保障構造改革、財政構造改革等現在進行中の諸般の構造改革を始めとする改革を思い切って実行していかなければならない。しかし、これらの構造改革を実行するとしてもなお人口減少社会の姿は楽観できるものではない。
このため、固定的な男女の役割分業や雇用慣行など社会全体のあり方に深く関連する少子化の背景を幅広い視点に立って見極めながら、これらの構造改革とあわせてさらに、個人(男女)の自立と自己実現が図られるような男女共同参画社会を目指すなど社会全体のあり方に関わる改革に取り組んでいく必要に迫られている。
(これまでの審議の経過)
当審議会は、こうした問題意識から、本年2月以降、各界有識者からの意見聴取、全国各地で開催された「少子社会を考える市民・道府県民会議」への参加等を行った。それらを踏まえつつ、広く国民全体で議論していただくことを目的として少子化と人口減少社会への対応に関する基本的考え方をとりまとめたのでここに報告する。
II 少子化の現状と将来の見通し −人口減少社会の到来は目前−
1 持続的な出生数の減少
近年、我が国の出生率は急激に低下し、昭和40年代(1970年前後)に はほぼ2.1程度で安定していた合計特殊出生率(注)は、平成7年 (1995年)には、現在の人口を将来も維持するのに必要な水準(人口置換 水準)である2.08を大きく下回る1.42となっている。
こうした出生率の低下により、昭和40年代後半(1970年代前半)には 200万人を超えていた出生数は、平成7年(1995年)には約120万人 と6割程度の水準まで減少している。持続的な出生数の減少は、昭和50年代 後半(1980年代前半)から、将来を担う15歳未満の子どもの数の減少を もたらした。当時、2700万人を超え人口の24%を占めていた15歳未満 の子ども数は、平成7年(1995年)には約2000万人と人口の16%を 占めるに過ぎない状況になっている。
同時に、我が国では諸外国に類を見ない速度で高齢化も進行している。65歳以上人口割合は、昭和40年代後半(1970年代前半)には7%台で推移していたものが、平成7年(1995年)には約15%と、約25年間で2倍になっており、これに要した年数は、フランスの114年間、スウェーデンの82年間、比較的短いイギリスの46年間やドイツの42年間に比べてもはるかに短い。
この結果、近年我が国の人口構成は大きく変化してきた。
(注) |
15歳から49歳までの女子の年齢別出生率を合計したもので、1人の女性が仮にその年次の年齢別出生率で一生の間に子どもを産むとした場合の平均子ども数。したがって、一般に、結婚年齢が上昇し第1子出産年齢が上昇し続けている場合には大きく低下、やがて結婚年齢が安定し第1子出産年齢も安定した場合にはある程度回復、といった性格があることに留意する必要がある。合計出生率とも言う。 |
2 避けられない人口減少社会
平成9年(1997年)1月に発表された「日本の将来推計人口(国立社会保障・人口問題研究所)」の中位推計によれば、出生率は現在の水準に比べある程度回復するものの、人口置換水準まで向上することは見込まれず、このような低い出生率水準の下で子ども数が減るという少子化が進行する中で、生産年齢人口が減少し、総人口が持続的に減少していくことが予測されている。
具体的には、我が国の生産年齢人口(注)は1995年を頂点に既に減少しており、引き続き総人口も2007年を頂点に減少に転じ、その後も減少し続ける。そして、2050年には、総人口は約1億人と現在の約1億2600万人に対し2割程度の減となり、一方、65歳以上人口割合は平均寿命の伸長と相まって2025年には27%、2050年には32%に達すると見込まれている。
(注) |
ここでいう生産年齢人口は、従来の慣行にしたがって15歳から64歳までの人口として捉えている。
ただし、この捉え方については、我が国社会の実態に合わないものとして20歳から64歳までの
人口として捉えることが適当である、との意見がある。
なお、生産年齢人口をこのように捉えた場合の頂点は1998年と見込まれているが、いずれにせよ、総人口の減少がはじまる前に減少に転ずる。 |
また、今後、出生率が現在の水準に比べ相当程度向上するとの高位推計の下でも、少子化の進行は避けられない見込みとなっている。
出生率が現在の水準でさえも維持することはできないという低位推計の場合には、2050年の総人口は、9200万人と1億人を割るまでに減少し、現在の人口に比べ3割近い減となると見込まれている。
当審議会においては、こうした将来の見通し−すなわち、少子化の進行は避けられないこと−を議論の前提として、少子化の影響、少子化の要因とその背景、少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方等について考え方を整理した。
III 少子化の影響 −概ねマイナス面の影響−
(現行制度の下での予測)
仮に、現行の諸制度を改革せず、現在までの傾向が続き、少子化が進行した場合、その影響の主なものとして、以下のような点が予測され、あるいは指摘されている。
1 経済面の影響
(1) 労働力人口の減少と経済成長への影響 −経済成長率低下の可能性−
(労働力人口の減少)
少子化の進行は、とりわけ生産年齢人口の減少をもたらし、労働力人口の減少につながる。
平成9年(1997年)6月に労働省が行った将来の労働力人口の推計によれば、現在約6700万人の労働力人口は、2005年以降減少に転じ、2025年には約6300万人まで減少すると見込まれている。
(労働力人口の年齢構成の変化)
また、現在約13%である労働力人口全体に占める60歳以上の労働者の割合は、高齢者雇用を促進する現行諸施策による効果を見込んだ上で、2025年には約21%に達し、労働力人口の年齢構成も大きく変化する。
この労働力人口の年齢構成の変化は、高齢者の場合には、個人差はあるものの短時間勤務を希望する割合が高いことを勘案すれば、実労働時間数を考慮した場合における労働力供給の一層の減少をもたらすことが懸念される。こうした状況の下で、例えば、介護や看護等高齢化に伴い、今後、ますます需要が増大する分野における労働力の確保への影響も懸念される。
(経済成長率低下の可能性)
労働力の制約は、一般に貯蓄を取り崩すと考えられる退職者の割合の増加に伴う貯蓄率の低下と相まって投資を抑制し、労働生産性の上昇を抑制する要因になる。
労働力供給の減少と労働生産性の伸び悩みが現実のものとなれば、今後、経済成長率は傾向的に低下する可能性がある。
(2) 国民の生活水準への影響 −現役世代の手取り所得が減少する可能性−
(1) に述べたような労働力供給の減少と労働生産性の伸び悩みによる経済成長の鈍化と、高齢化の進展に伴い避けることができないと見込まれる社会保障費の負担の増大は、国民の生活水準に大きな影響を及ぼす。
- (1) 高齢化の進展に伴う現役世代の負担の増大
- 少子化の進行は、平均寿命の伸長と相まって、人口に占める高齢者の割合を高め、少子・高齢社会をもたらすことになる。この結果、年金、医療、福祉等の社会保障の分野において、現役世代の負担が増大し、世代間の所得移転を拡大させる大きな要因となる。
厚生省が平成9年(1997年)9月に行った社会保障に係る給付と負担の将来推計によれば、65兆円(1995年度)の社会保障給付費が、2025年度には、名目価格で216兆円〜274兆円となる見通しであり、国民所得に占める社会保障給付に係る負担の割合は、18.5%から29.5%〜35.5%まで上昇することが予測されている。
仮に、社会保障給付以外の支出に係る公費負担の対国民所得比が、現在の水準(約20%)のまま推移したとしても、現行制度のまま推移した場合の将来の国民所得に占める公的負担(租税負担及び社会保障負担)の割合、すなわちいわゆる国民負担率は、約50%〜56%と50%を超える水準に至る。
また、財政赤字が将来の公的負担の増加をもたらすことにも留意する必要がある。
- (2) 現役世代の手取り所得の低迷
- 現在課題となっている諸般の構造改革に取り組まず、現状のまま推移した場合には、人口1人当たり所得の伸びの低下といわゆる国民負担率の上昇によって、現役世代の税・社会保険料を差し引いた手取り所得は減少に転じるという厳しい予測もある。
現役世代にとって、働くことが生活水準の向上に結びつかないような社会では、生産・消費の両面で、経済・社会の活力が阻害される危険性が大きいという深刻な状況になる。
2 社会面の影響
(1) 家族の変容 −単身者や子どものいない世帯が増加する−
単身者や子どものいない世帯が増加し、少子化が進行する中で、社会の基礎的単位である家族の形態も大きく変化するとともに多様化する。とりわけ単身者の増加は、家族をそもそも形成しない者の増加を意味しており、「家族」という概念そのものの意味を根本から変えていく可能性さえある。また、単身高齢者の増加は介護その他の社会的扶養の必要性を高める。子どものいない世帯の増加は、家系の断絶などを招き、先祖に対する意識も薄れていくという可能性もある。
(2) 子どもへの影響 −子どもの健全成長への影響が懸念される−
子ども数の減少による子ども同士、特に異年齢の子ども同士の交流の機会の減少、過保護化などにより、子どもの社会性がはぐくまれにくくなるなど、子ども自身の健やかな成長への影響が懸念される。
(3) 地域社会の変容 −基礎的な住民サービスの提供も困難になる−
少子化の進行による人口の自然減により、現在においても人口減少が始まっている地域は少なくなく、この傾向はさらに拡がりを見せ、人口の減少は特定地域の現象ではなく全国的に進行すると見込まれる。過疎化もその中でさらに進行することとなろう。その結果、2025年には、ほとんどの都道府県で65歳以上人口割合が3割前後となるなど、これまで急速に過疎化・高齢化が進んできた農山漁村のみならず、広い地域で過疎化・高齢化が進行すると予想される。
このため、現行の地方行政の体制のままでは、例えば、福祉サービスや医療保険の制度運営にも支障を来すなど市町村によっては住民に対する基礎的なサービスの提供が困難になると懸念される。
また、今後、大都市部においても急速な高齢化が見込まれることから、それに伴う諸問題が顕在化することが予想される。
(概ねマイナス面の影響)
このように、少子化の影響としては、家族の変容などに関しては意見が分かれるものの、上記のような概ねマイナス面の影響と考える指摘が多い。
ただし、例えば、生活面では、環境負荷の低減、大都市部等での住宅・土地問題や交通混雑等過密に伴う諸問題の改善などゆとりある生活環境の形成、一人当たりの社会資本の量の増加、教育面では、密度の濃い教育の実現や受験競争の緩和などプラス面の影響を指摘する意見があることに留意する必要がある。
こうした指摘に対しては、あくまで短期的な影響であって、経済成長の低下が生活水準の低下をもたらす以上やはり生活にゆとりはなくなるとする意見、人口減少に伴い教育サービスの供給も制約され密度の濃い教育にはつながらないとする意見がある。
いずれにせよ、少子化が社会全体の様々な局面において、計り知れない大きな影響を与えることは間違いない。
IV 少子化の要因とその背景
少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方を検討する前提として、少子化の要因とその背景を分析しておく必要がある。
1 少子化の要因
(1) 未婚率の上昇(晩婚化の進行と生涯未婚率の上昇)
−育児の負担感、仕事との両立の負担感等が女性の未婚率を上昇させている−
少子化をもたらしている近年の出生率低下の主な要因としては、晩婚化の進行が挙げられる。なお、生涯未婚率の上昇が近年の出生率低下に与えている影響はそれほど大きくないが、将来の出生率低下の大きな要因になることが見込まれている。
- (1) 未婚率上昇の現状
- (年齢別未婚率の推移)
- 年齢別に未婚率の推移を見ると、男女とも上昇傾向にあり、晩婚化が進行している。特に、男子の25歳〜34歳、女子の20歳〜29歳で著しい。これに伴い、平均初婚年齢は男女ともに上昇している。また、生涯未婚率(50歳時の未婚率)も上昇傾向にある。
- (出生率への影響)
- 我が国の婚外出生割合は1%程度で、5割前後のスウェーデン、デンマーク、3割強のイギリス、フランスなどの諸外国と比べ極めて低く、我が国ではほとんどの場合結婚が出産の前提となっている。また、個人差はあるが、女性の妊よう性(妊娠しやすさ)は年齢が高くなれば低下がみられ、出産できる年齢にも一定の限界がある。こうしたことを考慮すると、晩婚化の進行が近年の出生率の低下を招いている主たる要因になっているとともに、生涯未婚率の上昇傾向が持続することにより将来の出生率低下の大きな要因になることが見込まれる。
- (2) 未婚率上昇の要因
- (高い結婚願望の下での未婚率の上昇)
- 結婚して一人前とか、結婚するのが当たり前といったような社会的な圧力が弱まるとともに、結婚が家や親のためでもない個人中心的なものへ変化する中で、結婚の自由度が高まっている。一方、自らの結婚に関しては、未婚の男女いずれもその約9割が「いずれ結婚するつもり」であるとし、また、国際的に比較して、男女ともに「女性の結婚」に対して肯定的に捉える傾向が高いにもかかわらず、未婚率が上昇している。
女性の晩婚化の原因や子どもに対する価値観に関する世論調査の結果などから、未婚率上昇の要因の主なものとして、以下のようなことが指摘されている。
- 1.育児の負担感、仕事との両立の負担感
- ア)固定的な雇用慣行と企業風土によるもの
- 雇用安定を支えてきた終身雇用制の下で長時間労働、遠隔地への転勤等を当然とし、家庭よりも仕事を優先させることを求める固定的な雇用慣行とそれを支える企業・行政機関等の組織の風土(以下「企業風土」という。)が維持される一方で、女性の社会進出が進み、働く女性が自らが望む仕事を続けるためには、独身の方が都合がよいと考えること。
- イ)固定的な男女の役割分業によるもの
- 男性は仕事のみを行っていればよく、家事・育児は女性が行うのが当然という根強い固定的な男女の役割分業意識や、国際的に見て、夫の家事・育児への参加時間が極めて少ないという男性の家事・育児への参画が進まない実態が、結婚生活に対する女性の負担感を大きくしていること。今後増大が見込まれている介護負担が、家庭においては、現在ほとんど女性によって担われていることが、女性の将来的な負担感を高めている側面があること。
また、男性も男女の役割分業意識が強いため、自ら家事・育児に参画をしてまで、結婚し、子どもを持とうとはしない場合が多いこと。
- ウ)母親の孤立やそれに伴う孤独感や不安感
- 核家族化・都市化の進展により、育児に親族や近隣の支援も受けにくくなっていることが、上記のような状況とも相まって、母親を孤立させ、その孤独感や不安感が増大し、特に手のかかる乳幼児期を中心に育児の心理的、肉体的負担を過重なものとしている。
また、学童期にあっても、地域は従来のように安心して子どもが遊べる場でなくなってきつつあり、他人の子を叱るような気風も失われ地域の人間関係が希薄になっている中で親の負担や不安感を大きくさせていること。
- エ)長時間通勤等の勤務形態によるもの
- 都市化・被用者化の進展により、長時間通勤を要し、就業時間に裁量がきかないなどの勤務形態が、育児負担を重くしていること。
- オ)利用しやすい育児サービスがないこと
- 働く女性の需要に適合した育児サービスが利用しにくいこと。
- カ)結婚や子育てにかかる機会費用の上昇
- 上記のような現状の下で、女性の平均賃金上昇と相まって、結婚や子育てを選択することによって継続就業を断念した結果、失うこととなる利益(結婚や子育てにかかる機会費用)が上昇していること。
- 2.個人の結婚観、価値観の変化
- ア)女性の経済力の向上によるもの
- 女性の家庭外就労が進み、女性の経済力が向上した結果、女性が生活のために結婚する必要を従来ほど感じなくなってきたこと。また、女性が仕事に生きがいを感じるようになってきたこと。
- イ)性の自由化、家事サービスの外部化によるもの
- 性の自由化、家事サービスの外部化により、男性の側にも結婚を必要とする意識が薄れてきたこと。
- ウ)子どもを持つ意義の変化によるもの
- 年金制度の充実、老親扶養に対する意識の変化等により、子どもを家の跡継ぎであるとか、老後生活の支えとして考える意識が薄れ、老後生活を支える存在として子どもを持つ意義が低下し、その前提として結婚する必要性が低くなってきたこと。
- エ)世間のこだわりの減少によるもの
- 結婚に対する世間のこだわりが少なくなり、特に都市部を中心に結婚しない、結婚を急がない生き方を選択しやすくなったこと。
また、社会の結婚圧力が弱まり、見合いなども減少している一方で、例えば、「異性の友達がいない」若者が4割も存在するなど、異性との付き合いが苦手な若者が多いこと。
- オ)独身の自由への欲求によるもの
- 様々な生活面のサービス普及による利便性の向上や若者文化の隆盛が独身生活の魅力を高め、独身の自由を求めるようになったこと。
- 3.親から自立して結婚生活を営むことへのためらい
- 独身の理由を見ると、「適当な相手とめぐり会わない」が男女とも最も多い。「適当な相手」については様々な要素があると思われるが、現在の若者の置かれた以下のような状況も未婚率上昇の要因として考えられる。
- ア)親との同居の下での快適な生活
- 資産や経済力を持った親と同居し続けることによって、自ら収入を得ていても親から経済的援助を受けあるいは生活費の支出を免れていたり、食事や洗濯など親に身の回りの世話をしてもらっていたりしつつ、個室を持ち親からの干渉は受けない。このような自由かつ快適な生活が、一部に親から自立して結婚生活を営むことをためらわせる風潮となっている。
- イ)結婚前の生活水準の維持
- 女性が重視する結婚相手の条件として人柄に次いで経済力が挙げられている。ア)のような状況の下で、特に専業主婦を望む女性にとって、結婚しても生活水準を低下させないためには、男性が相当高収入である必要があり、結婚の条件を高める要因の一つとなっている。
- 4.その他
- ア)女性主導の確実な避妊法が普及していないこと
- 女性主導の確実な避妊法が普及していないため、女性が妊娠について自ら決めることが困難である。生涯にわたる健康や、主体的な生活設計に対する女性の不安が、結婚への敷居を高くしている。
- イ)過疎農山村部における男性の結婚難
- 過疎農山村部において家業を継ぐ男性にとって、結婚を望んでも配偶者を得にくい状況がある。
(2) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開き
−育児の負担感、仕事との両立の負担感のほか、経済的負担なども理想の子ども数を持たない要因−
- (1) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数の現状
- 夫婦の理想子ども数は、意識調査では平均2.6人であるのに対し、平均出生児数は2.2人となっており、一定の開きが存在している。
なお、夫婦の平均出生児数及び平均理想子ども数ともに昭和50年代前半以降ほぼ同水準で推移していることから、この開きは、厳密には近年の出生率の低下を招いている直接的な要因とは言えないが、人口減少社会への対応のあり方を検討する際に考慮すべき事項として分析を加えることとした。
- (2) 夫婦の平均出生児数と平均理想子ども数との開きの要因
- 理想の子ども数を持とうとしない理由に関する意識調査の結果などから、平均出生児数と平均理想子ども数との開きの要因の主なものとして、(1) (2)1.に述べたような育児に対する負担感、家事・育児と仕事との両立に対する負担感が挙げられるが、あわせて次のような子育てに係る経済的負担などが挙げられる。
- 1.子育てに関する直接的費用と機会費用の増加
- 子育てに関する直接的費用が増加していること。とりわけ、子どもを家の跡継ぎであるとか、老後の支えとする考え方が薄れ、子どもは生きがいであるとか、家庭を明るく楽しくしてくれる存在であるといった意識が強くなっており、教育を始めとして子どもに手をかけ、お金をかけること自体が意味を持つようになっていることが、一層子育ての直接的費用の増加を招いていること。また、先に述べたように子育てを選択することによって継続就業を断念した結果、失うこととなる利益(子育てにかかる機会費用)が増加していること。
- 2.子どものよりよい生活への願望
- 子どもによりよい生活をさせたいと願う親にとって、教育にお金をかけたり、不動産を相続させるためには、子ども数が少ない方がよいと考えること。
- 3.その他
- ア)不妊による場合
- 子どもを持ちたい意思があるにもかかわらず、不妊が原因で子どもができない場合があること。
- イ)高齢出産への不安
- 高齢出産に対する不安感があること。
なお、過激な競争によるストレスの増大や性の自由化に伴い、リビドー(性的衝動の基になるエネルギー)が低下し、これが要因となっているのではないか、との見方もある。
(継続就労型の女性が多数派ではない現状)
なお、以上に掲げた少子化の要因を考えるに際しては、女性の就労意欲は高まっているものの、現状の男女の役割分業の中で妻は家庭にあって家計をとりしきることができるという日本の慣習の下で、依然、専業主婦を希望する者も少なくないこと、また、就労する場合にも、家事・育児との両立を図ろうとする者は増加してきているものの、厳しい現行の雇用環境の下では継続就業型の就業を目指す女性は多数派とは言えない、ということにも留意する必要がある。
2 少子化の要因の背景
−個人の生き方の多様化、女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業や雇用慣行等がある−
(我が国社会全体の状況に関連)
これまでに見た少子化の要因の分析を踏まえると、その背景には以下に述べるように、経済社会の成長の過程でどの国においても見られるような個人の多様な生き方の表れという側面がある一方、家庭や企業活動における固定的な男女の役割分業の下で、物質的な生産と消費の拡大を志向し、それを享受してきた我が国社会全体の状況が深く関連していると考えられる。
(1) 社会の成熟化に伴う個人の多様な生き方の表れ
- 経済が成長し社会が成熟する過程で、個人が多様な生き方を目指すのは先進諸国にほぼ共通して見られ、未婚率上昇はその表れとも言える。
(2) 女性の社会進出とそれを阻む固定的な男女の役割分業意識と雇用慣行、それを支える企業風土の存在
- (1) 女性の社会進出と出生率の低下
- 出生率の低下は、(1)に述べたような状況の下で、個人の多様な生き方が是とされ、女性の社会進出が進行してきた過程において、結婚や育児がその大きな障害となっていることによりもたらされている側面が強い。
- (2) 女性の多様な生き方を阻むもの
- しかし、それは女性の社会進出自体を問題とするのではなく、女性の多様な生き方が実現されるべきであるにもかかわらず、男性は仕事のみを行い、家事・育児は女性が担うのが当然という固定的な男女の役割分業意識やその実態、家庭よりも仕事優先を求める固定的な雇用慣行や企業風土などが依然として根強いために、結果として結婚や育児が女性を中心に個人の自由を束縛し、多様な生き方を阻んでおり、このことが結婚や育児に対する負担感や不安感につながっていることに問題があると整理すべきである。
また、このことは、これまでの転職、再就職を困難、不利にし、女性を短期間就労者とみなす男性中心型の終身雇用、年功序列賃金体系などの固定的な雇用慣行のあり方そのものの見直しを問いかけていると考えられる。
(3) 快適な生活の下での自立に対するためらい
- (1) 成人しても親離れできない状況
- また、上記に指摘したように、親との同居によって快適な生活を享受しているような場合、いずれは結婚し、子どもを持ちたい気持ちはあっても、なかなかそういう気持ちになれず、成人しても親離れできない状況(子離れできない親側の状況も考えられる。)がある。
このような状況に象徴されるように、少子化は、社会が豊かになる過程において、快適な生活への欲求、あるいは、新たに独立した家庭生活を営むことに対する漠然とした不安感などから、経済的にも精神的にも、自立を選択しようとしないという生き方やそれを許容する風潮がもたらしている一面があるともみることができるのではないか。また、傷つくことを怖れ、他人と深く関わることを避けようとする若者が増えていることにも起因しているのではないか、という指摘や、見合い結婚が少なくなってきたにもかかわらず、男女が互いに愛し、尊重し合いながら交際を深めるという意識や風土が醸成されていないという指摘もある。
- (2) 従来の生き方をゆるがすものとする見方
- こうした生き方や風潮に対しては、成人すれば誰もが社会人として親から独立し、自らの責任により子どもを育て家庭を営むという、従来、当然と受け止められてきた生き方や社会のあり方をゆるがすものとして懸念を示す見方もある。
- (3) 結婚に対する自由度の高まりの表れとする見方
- 一方、こうした現象は、結婚に対する自由度が高まる中で、結婚を急がず、じっくりとよりよい結婚相手を選ぶことが可能になったことの表れであり、否定的にのみ捉えられるべきではない、との見方もある。
(4) 現在、そして将来の社会に対する不安感
このほか、近年の出生率の低下は、日本全体を覆う閉塞感、年金や介護など老後に対する不安感、あるいは、いじめ問題や地域の治安の悪化などをもたらしているストレス社会に対する漠然とした不安感を反映しているのではないか、という指摘がある。
V 少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方
(21世紀半ばには相当深刻な状況)
予想される人口減少社会の姿をどのように考えるかについては、多様な意見があり、また、計量的な予測については一定の仮定を置いて行ったものであることに留意する必要はある。
しかし、先に述べたように、少子化が社会全体の様々な局面において計り知れない影響を及ぼすことは間違いなく、2025年時点における社会の見通しは、現在取り組んでいる各般の構造改革を相当思い切って実行したとしても、予測としては楽観視できるものではない。ましてや、その後更に少子化と高齢化が進行すると見込まれている21世紀半ばには相当深刻な状況となることが予想される。
(急がれる人口減少社会への対応)
もとより、人口が持続的に減少し続けるとともに高齢化が進展するというこれまで経験したことのない社会を迎えることが確実に見込まれる以上、人口減少社会に対する展望を示していくことは、将来世代に対する責任でもあり、少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方について、少子化の影響への対応、少子化の要因への対応の両面からの検討を急がなければならない。
1 少子化の影響への対応
人口減少社会への対応を議論するに当たっては、まず、少子化のマイナス面の影響を最小限にするため、各般の対応を確実に実行しなければならない。
(1) 経済面の影響への対応
−年齢や性別による垣根を取り払う新たな雇用環境の創出等が必要−
- (1) 就労意欲を持つあらゆる者が就業できる雇用環境の整備
- 1.高齢者、障害者、女性の就業環境の整備
- 人口減少社会が活力あるものとなるよう、労働力人口減少の緩和が必要である。労働力供給の減少は、女性や高齢者などの労働力に対する需要を喚起する。このため、これまで就労意欲があってもその意欲と能力が必ずしも活かされていたとは言い難い高齢者や障害者が生き生きと就業できるとともに、女性が円滑に就業できる環境を整備することが重要である。
- 2.年齢や性別による垣根を取り払う雇用環境の整備
- また、就労意欲を持つあらゆる者が、個人の選択に応じた多様な働き方で就業できるような雇用環境を整備することが今後の方向であり、年齢や性別による垣根を取り払う新たな雇用環境を創り出すことが求められる。女性の就業環境の整備に際しては、女性の就業が一層の出生率の低下につながることのないよう、仕事と育児の両立を可能とする支援策の充実を図ることが特に重要である。
- 3.終身雇用・年功序列賃金体系の下での固定的な雇用慣行の見直し
- 人口の高齢化を考えると、とりわけ高齢者雇用のあり方は極めて重要な課題である。高齢者の就労意欲は高まってきているのにもかかわらず、終身雇用制度・年功序列型賃金体系と一体となった採用時の年齢制限や定年制が、結果として高齢者の就業を阻んできており、多様な就業形態を認めないこのような固定的な雇用慣行のあり方を見直すべき時期に来ている。
このような雇用慣行を見直す中で、今後は、健康であり、本人が希望する限り、高齢者がその意欲と能力に応じて働き続け、自己実現と社会 貢献ができるような社会を作っていくことが求められる。
- 4.労働力需給の不適合の解消
- さらに、こうした対応や能力開発、職業情報の提供などを通じて、労働力人口の年齢構成の変化に伴い今後拡大が懸念される労働力需給の不適合の解消を図り、効率性が発揮される社会としていく必要がある。
- (2) 企業の活力・競争力、個人の活力の維持
- 1.高付加価値型の新規産業分野の創出
- 今後、我が国の経済活力を維持していくためには、労働生産性の一層の向上が必要である。このため、上記(1)に述べたように労働力人口減少を緩和するための対応を進めるとともに、技術革新、人材育成を進め、高付加価値型の新規産業分野の創出を図ることが必要である。
- 2.国際的に魅力のある事業環境の創出
- また、国際的な大競争が本格化し、企業が国を選ぶ時代の中で、物流、エネルギー、情報通信等の抜本的な規制緩和などによる高費用構造の是正、企業の経営資源の最適活用を図るための企業組織制度の見直し、良質な雇用機会の創出、競争制限的な取引慣行の是正等を推進することにより、国際的に魅力ある事業環境を創出することが重要である。
- 3.一定範囲内での公的負担、少子・高齢社会にふさわしい財政構造
- さらに、少子・高齢化の進展により、いわゆる国民負担率の上昇は避けられないが、個人や企業の活力や意欲が損なわれることのないよう、公的負担を国民経済の中で一定の適切な範囲内に止め、私的負担との均衡を図る必要がある。
また、将来の世代に不合理な財政負担を残さぬよう財政収支の健全化に取り組むとともに、硬直化した歳出構造を見直し、少子・高齢社会にふさわしい財政構造を実現する必要がある。
- (3) 公平かつ安定的な社会保障制度の確立
- 1.現役世代と将来世代の給付と負担の公平と将来への不安の解消
- 少子・高齢化の進展に伴い、社会保障に係る負担の増大は避けられないが、介護に対する不安等新たな課題に着実に対応しつつ、現役世代と将来世代の給付と負担の公平が図られるよう、年金制度、老人保健制度を含む医療保険制度を中心に給付と負担の適正化を図ることが必要である。特に、公的年金制度については、人口構成の変化により、将来世代の負担が過重にならない安定的なものとする視点が重要である。
将来に向けて、介護や年金についての国民の不安を解消することは、次の世代を安心して産み育てられるようにするという観点からも重要なことである。
- 2.疾病や要介護状態の防止と高齢期における社会参加
- また、健康づくりの推進、予防医学の重視やリハビリテーションの充実、食生活などの生活習慣の改善に取り組むことによって、できる限り疾病や要介護状態になるのを避け、医療費や介護費用負担そのものの軽減を図ることも必要である。
さらに、地域におけるボランティア活動など高齢期においても多様な社会参加を推進することも重要である。
(2) 社会面の影響への対応 −地方行政体制の整備や教育内容の改善が必要−
- (1) 地方行政体制の整備、地域の活性化
- 1.地方行政体制の整備
- 住民に対する基礎的なサービスの提供水準を維持する観点から、例え ば、市町村合併の推進や広域行政の推進を図るなど、地方が責任をもっ て円滑に住民サービスを提供するという観点に立って、地方行政体制の 整備を行っていく必要がある。
- 2.地域の活性化
- また、基本的にほとんどの地域で人口が減少する中で、いかに地域を 活性化させるかという観点からも、住民の多様な要請に応え、住民自身 の積極的な参加を得ながら質の高い自立的な地域社会を形成していくた め、地域連携の推進等既存の行政単位の枠を超えた広域的な対応が求め られる。
- (2) 子どもの独創性と社会性を養う教育と健全育成
- 1.独創性のある人材の育成
- 学校教育においては、知識の一方的な教え込みに偏りがちな教育を改め、子どもたちが自ら学び自ら考える力を身につけることができるような教育、体験的な学習や個性を尊重する教育の充実など教育内容・方法などの改善を図る必要がある。このような教育は、独創性のある人材の育成にも資することが期待される。
- 2.子どもの社会性を養う仕組みづくり
- また、家庭や地域社会の人々、様々な関係機関や団体などが互いに理解し協力し合いながら、子どもの豊かな体験の場や機会を提供するとともに、子ども同士の集団形成を支援し、子どもの社会性を養う機能を社会的に支える仕組みづくりを進める必要がある。このことは、地域の治安状態に対する親の不安の解消にもつながる。
(関係審議会等における検討)
以上は、少子化の影響への対応という観点から、考えられる主な対策の柱とその基本的な考え方を示したものであるが、これらの対策については、必ずしも少子化の影響への対応という観点のみから論じるのは適当ではないと考えられる。
したがって、現在進行中の各般の構造改革を推進することを始めとして、今後、各専門の関係審議会等において、少子化の影響への対応という視点を踏まえながら、更に検討が進められ、その検討結果に基づき、適切な対応がなされるべきである、と考える。
2 少子化の要因への対応
(1) 少子化の要因への対応の是非
−個人の望む結婚や出産を阻む要因を取り除く対応を図るべき−
- (1) 少子化の要因への対応はすべきでないとする考え方
- 1.具体的考え方
- 人口減少社会への対応に関しては、少子化の影響への対応にとどめるべきであって少子化の要因への対応はすべきでないとする以下のような考え方がある。
- ア)結婚するしない、産む産まないは個人が決めるべき問題である。
イ)地球規模では人口は増加していることを考えると、日本の少子化はむしろ望ましい。
ウ)結婚や出産という個人的な問題への対応の効果はあまり期待できない。
- 2.個人の問題とする考え方についての意見
- 1.ア)の考え方については、先に述べたとおり、大部分の者が結婚を望み、結婚すれば理想子ども数を平均2.6人としている現状の下において、基本的には「個人が結婚をし子どもを持つことを望んでいるにもかかわらず、これを妨げている要因を除去すること」の必要性までを否定するものではないと考える。
- 3.地球人口との関係からの考え方についての意見
- 1.イ)の考え方については、地球規模では人口は増加していても、日本が人口の増加までを目指すのではなく、著しい人口減少社会になるのを避けようとするのであれば、現在の国際社会の枠組みを前提とし、これから日本が国際社会において貢献する必要があることを考えあわせると、批判を受けるようなことではないと考えられる。
- 4.対応の効果との関係からの考え方についての意見
- 1.ウ)の考え方については、個人が望む結婚や出産を妨げる要因への対応を図り、それを取り除くことができれば、その結果としての出生率の回復への効果は一定程度期待できるはずだと考える。それは、例えば、北欧諸国など男女の共同参画の進んだ諸外国における最近の出生率は1980年代に比べ高い水準となっていることからもうかがえる。
- (2) 少子化の要因への対応をすべきとの考え方
- 先に述べたとおり、少子化の影響への対応を相当思い切ってするとしてもなお、21世紀半ばまでを視野に入れると、人口減少社会の姿は相当深刻な状況となることが予想される。個人が望む結婚や出産を妨げる要因を取り除くことができれば、それは個人にとっては当然望ましいし、その結果、著しい人口減少社会になることを避けることが期待されるという意味で社会にとっても望ましい。
このような観点から、少子化の影響への対応とともに、少子化の要因への対応についても行っていくべきである、というのが当審議会の基本的な考え方である。
この場合、戦前・戦中の人口増加政策を意図するものでは毛頭なく、妊娠、出産に関する個人の自己決定権を制約してはならないことはもとより、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応はとられるべきではない、ということが基本的な前提である。
- (3) 子どもを育てることについての社会的責任
- 子どもは、次代の社会の担い手となるという意味で社会的な存在であることを認識し、また、高齢者の扶養が公的年金制度により社会化され、介護については公的介護保険制度の導入により社会的な支援を深めようとしている状況も考慮すれば、子どもを育てることを私的な責任(家族の責任)としてだけ捉えるのではなく、社会的な責任である、との考え方をより深めるべきである。
この考え方については、子育ては親の責任であるという基本をゆるがせにすることにつながるという意見もある。
いずれにせよ、我が国社会として、今後「子どもを育てること」に対して、どれだけ社会的に支援し、公的に関与していくべきかの判断にも関わり、また、家族観にも関わる重要な問題でもあり、今後、国民的な議論を更に深めていく必要がある。
- (4) 少子化の要因への対応に当たっての留意事項
- また、少子化の要因への対応に当たっては、下記のような指摘があることに留意する必要がある。
- 1.子どもを持つ意志のない者、子どもを産みたくても産めない者を心理的に追いつめるようなことがあってはならないこと。
2.国民のあらゆる層によって論じられるべきであること。
3.文化的社会的性別(ジェンダー)による偏りについての正確な認識に立ち、そのような偏向が生じないようにすること。例えば、女性は当然家庭にいるべき存在といった認識に立たないこと。
4.優生学的見地に立って人口を論じてはならないこと。
- (5) 少子化の要因への対応と外国人の受入れとの関係
- なお、少子化の要因への対応を論ずるに当たっては、労働力人口の減少等少子化の影響への対応としての外国人の受入れの是非についての方針をまず明確化すべきではないか、とする意見がある。
しかしながら、少子化の影響への対応としての外国人の受入れを考慮するとしても、出生率の低下を補完できるほどの急速かつ大規模な外国人の受入れは現実的でないのみならず、我が国の一方的な事情により、外国人の受入れを所与の前提として政策を論じることは適当ではなく、その方針の如何にかかわらず、少子化の要因への対応を図っていく必要がある、と考える。
(2) 少子化の要因への対応のあり方
−固定的な男女の役割分業や雇用慣行を是正し、子育て支援の効果的な推進を図る−
(結婚や出産の妨げとなっている要因への対応)
少子化の要因への対応のあり方を論ずるに当たっては、繰返しになるが、妊娠、出産に関する個人の自己決定権を制約してはならないことはもとより、男女を問わず、個人の生き方の多様性を損ねるような対応はとられるべきではない。
したがって、少子化の要因への対応としては、以下に述べるように、これまでの我が国社会全体のあり方を問い直す中で、すべての個人が、自ら結婚や出産を望んだ場合には、それが妨げられることのないよう、結婚や出産の妨げとなっている社会の意識、慣行、制度を是正していくとともに、子育てを支援するための諸方策の総合的かつ効果的な推進を図ることが重要である。
- (1) 固定的な男女の役割分業や仕事優先の固定的な雇用慣行の是正
- 1.意識・慣行・制度の是正
- ア)制度の見直しと国民の意識や企業風土の見直し
- 少子化の要因への対応としては、現状においてとりわけ女性がその自由な意思で個人の生き方を選択することを妨げている固定的な男女の役割分業の実態や家庭よりも仕事を優先することを求める固定的な雇用慣行を問い直し、これを是正することに取り組むべきである。
その際、生き方の選択自体は個人の自由であって直接関与すべきではなく、その選択によって、租税負担や社会保険料負担に不平等が生ずることのないよう中立的な制度に改めることにとどめるべき、との意見がある。
しかし、男女の役割分業や仕事一筋の生き方を選択することは個人の自由であることは確かだが、そういう生き方が慣行となって、それとは違った生き方を選択しようとする者の妨げになっている以上、それはもはや単に個人の生き方だけの問題として片付ける訳にはいかない。また、これらの実態や慣行は、社会の中で長い間に培われ、相当根強いものがあると考えられ、租税負担や社会保険料負担に関する制度の是正のみで速やかにその変革を図ることは現実的には困難であることも想像できる。
- イ)個人の生活と仕事の両立を誰もが尊重し合う方向での取組
- したがって、固定的な男女の役割分業の実態や雇用慣行を是正するためには、制度はもちろんであるが、それを支えている国民の意識や企業風土そのものを問い直し、個人の生活と仕事の両立を誰もが尊重し合い、仕事の仕方も工夫するという方向での取組を行うことも必要と考える。
- 2.今後検討すべき課題
- 以上のような認識に立って、制度、慣行面において今後検討が必要な課題として、以下のものが挙げられる。
- ア)仕事優先に関わるもの
- ・ 長時間残業、休日出勤、年休取得の未消化
・ 産休、育休取得がその後の昇進等に響くような人事慣行
・ 同僚・顧客との付き合いなどの慣習による勤務時間外における拘束時間の長さ、家に仕事を持ち帰っての残業
- イ)女性の就業に関わるもの
- ・ 結婚退職、出産退職の慣行
・ 中高年齢女性のいわゆる正社員としての中途採用枠の少なさ
- ウ)就業形態の多様化に関わるもの
- ・ 終身雇用制とそれを支える賃金体系、昇進制度、退職金等
・ 新卒中心の一括採用形態
- エ)いわゆる正社員と短時間労働者、非就業者との公平性、中立性に関わるもの
- ・ 企業における扶養(配偶者)手当のあり方
・ 所得税における配偶者控除制度のあり方
・ 年金制度及び医療保険制度における被扶養配偶者の位置付けのあり方
- (2) 子育てを支援するための諸施策の総合的かつ効果的な推進
- 1.エンゼルプランの推進
- 子育て支援のための施策としては、既に「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(エンゼルプラン)が策定され、以下のような基本的方向の下で重点施策が展開されている。
- ア)子育てと仕事の両立支援の推進
- ・ 育児休業制度の充実や労働時間の短縮の推進等雇用環境を整備。
・ 低年齢児保育の拡充など保育サービスの整備を図るとともに保育所制度の改善
・見直しを含めた保育システムの多様化・弾力化。
- イ)家庭における子育て支援
- ・ 男女共同参画社会をつくりあげていくための環境づくりなどを含め、家庭生活における子育て支援策を強化。
・ 安心して出産できる母子保健医療体制を整備するとともに、地域子育てネットワーク(連携体制)づくりを推進。
- ウ)子育てのための住宅及び生活環境の整備
- ・ 良質な住宅の供給を促進することによる生活様式に応じた住宅の確保。
・ 子どもの健全な成長を支えるため、遊び等の場、スポーツ施設、社会教育施設、文化施設等を整備するとともに、子どもにとって安全な生活環境を整備。
- エ)ゆとりある教育の実現と健全育成の推進
- ・ 子育て家庭の子育てに伴う心理的な負担を軽減するための、ゆとりある教育を実現。
・ 青少年団体の諸活動、文化・スポーツ活動等の推進による多様な生活・文化体験の機会の提供、子ども同士や高齢者との地域社会におけるふれあい、ボランティア体験などを通じて子どもが豊かな人間性を育めるような家庭や社会の環境づくりを推進。
- オ)子育て費用の軽減
- ・ 子育てに伴う家計の負担の軽減を図るとともに、社会全体としてどのような支援方策を講じていくか検討。
- 2.少子化の要因への対応という観点からみた留意事項
- 先に整理を行った少子化の要因についての対応という観点からみた場合、子育て支援についての施策を進める上で特に次のことに留意すべきである。
- ア)子育てにかかる機会費用の上昇への対応
- 女性の社会進出が進行し、女性の平均賃金が上昇する中で、子育てを選択することによって継続就業を断念した結果、失うこととなる利益(子育てにかかる機会費用)が上昇していることを考慮すると、仕事と育児の両立のために、雇用環境を改善すると同時に多様な保育サービス等を確保することが特に重要である。
- イ)仕事と育児の両立支援
- 仕事と育児の両立を望むのは、一部の継続就業志向の女性に限られるので、その支援方策を講じても、その効果は一部における限定的なものとなるのではないか、との指摘がある。
しかし、各種の意識調査では、継続就業を望ましいと考える女性の割合は着実に増加する傾向にあり、また、仮に出産や育児の際の休業制度や保育制度が整っていれば継続就業を望む女性の割合は相当程度増加する、といった結果が見られる。
また、少子化の影響への対応として、労働力人口の減少という局面において、女性の就労の拡大が時代の要請となることを考えあわせれば、仕事と育児を両立させるための支援方策は着実に推進していかなければならない。
- ウ)核家族化、都市化の進展への対応
- 核家族化、都市化の進展により、育児に親族や近隣の支援も受けにくくなっており、また、地域の治安にも不安が高まっていることから、家庭における子育ての精神的、肉体的負担を軽減することも重要である。
- エ)子育てのための経済的負担軽減措置
- 子育てに伴う養育費や教育費などの経済的負担の大きさが理想の子ども数を持たない理由の一つとなっていることから、子育てを社会全体として支援するとともに、子どもの有無や数に応じた公平性を図るという観点から児童手当の充実や租税負担の軽減など子育て世代の経済的負担軽減措置について検討する必要があるという意見がある。
また、出生率回復への効果という面では、経済的負担軽減措置よりも、仕事と育児を両立させるための支援方策の方がはるかに有効であるという意見もある。これらの意見については、それぞれの方策の持つ意義、現実的な可能性や効果を総合的、多面的に考慮し、検討する必要性があろう。
- オ)子育ての持つ楽しみや喜びの再確認
- 子どもを育てることの大変さ、仕事と育児の両立の困難さが強調されるあまり、子育ての持つ本来的な楽しみや喜びといったものが忘れ去られるような風潮を懸念する意見がある。また、これまでの仕事一筋の生き方の中で、父親は子育ての楽しみや喜びを体験する貴重な機会を失っているという指摘もある。
子育てには様々な苦労や困難があることは確かであるが、また大きな楽しみや喜びもあり、それを再確認することも必要である。そのためには、男女共に生涯学習など様々な機会を通じて、子どもを育て家庭を営む喜びや意義を理解したり、学ぶことも有益であろう。
- カ)乳幼児期における女性の就労支援方策
- 子どもの健全な発達という観点から、乳幼児期においては母親は育児に専念すべきであり、したがって、少なくとも乳幼児期の子どもを持つ女性の就労を支援することは好ましくない、とする意見もある。
しかし、父親はもとより、様々な保育サービス、地域社会などが一体となって、母親とともに育児を支えることができれば、母親にのみ育児される場合より、様々な人たちの愛情の中ではぐくまれ、むしろ子どもの健全な発達にとって望ましいとも言える。また、歴史的にみて、例えば大家族制の下で農業が主流であった時代は、母親も生産労働に従事していたように、母親がひとりで育児に専念しその負担が重くなったのは、都市化、被用者化が進んだ時期以降のことである、との指摘もある。
こうしたことにかんがみれば、乳幼児期における女性の就労支援方策を講ずることは否定されるべきものではない、と考える。もとより、子どもの福祉に最大限の配慮が払われ、これが確保されるべきは当然である。
- 3.今後検討すべき課題
- 以上のような留意点を踏まえ、今後さらに検討が必要な課題として、以下のものが挙げられる。
- ア)雇用環境の改善に関わるもの
- ・ 育児休業制度の定着促進(育児休業給付の活用促進)、企業による独自の育児休業の充実(期間の延長、育児休業給付の充実)
・ 代替要員の確保による育児休業を取得しやすい環境整備
・ 職場における保育サービス等への支援の充実
・ 勤務時間制の弾力化、勤務形態の多様化(フレックスタイム(弾 力的勤務時間)制、在宅勤務やサテライトオフィス(企業が通勤負 担の軽減を目的に通常の勤務地より自宅に近い場所に設置する事務 所)勤務など職住一体又は職住近接勤務)
・ 短時間労働者の良好な処遇・労働条件の確保
・ 就業コースの多様化、復職後の就業コース変更の多様化
・ 派遣労働者の積極活用
- イ)子育て支援に関わるもの
- ・ 低年齢児保育を中心とする保育需要への対応
・ 公的な保育サービスを受けることができない者に対する支援
・ 延長保育、休日保育、病児保育等多様な保育サービスの提供
・ 学童保育の整備
・ 職住近接の住宅の整備、職場に近い住宅への子育て世帯優先入居
・ 専業主婦(夫)家庭における子どもの一時保育等育児者の精神的、 肉体的負担を軽減する措置
・ 専業主婦をはじめ、子育てに対する不安や孤立感を持つ親に対す る子育て相談等子育てを地域で支援していく仕組みづくり
・ 家庭教育に関する相談、情報提供体制の整備等
・ 子育て世帯に対する経済的負担軽減措置のあり方
・ 年金制度における対応のあり方
- なお、以上の課題を検討するに当たっては、現行施策も含め、効果に ついての分析、見直しを行い、より効果的な推進を図る必要がある。
また、雇用環境の改善に関しては、その結果、企業が仕事と育児の両 立を望む者の採用そのものを手控えることにつながらないようにする、 という視点が重要である。
- (3) 今後、更に議論が深められるべき課題
- 1.不妊が原因で子どもができない男女への対応等
- 子どもを持ちたいのに不妊が原因で子どもができない男女は、相当数存在していると考えられる。人工授(受)精など生命倫理に関わる面もあり、その点については慎重な議論が必要であり、また、子どもを産みたくても産めない者を心理的に追いつめるようなことがないよう十分留意しつつ、不妊治療の研究の推進などを検討していくことが必要である。
頻繁な妊娠中絶による健康破壊や女性主導の避妊法の普及していないことなどの状況を踏まえ、女性が生涯にわたり主体的に健康を維持できるような支援のあり方を検討する必要がある。
- 2.多様な形態の家族のあり方
- 選択的夫婦別姓や通称使用の拡大、同棲など多様な形態の家族のあり 方についての社会的な寛容度を高めることが、長期的に婚姻率ひいては出生率の回復につながる可能性についても議論を深める必要がある。
この点に関しては、選択的夫婦別姓は我が国社会の根幹に関わるものであり、慎重に考えるべきとの意見もある。
また、婚外子の問題については、我が国の民法が法律婚主義を採用していることなどを踏まえつつ、今後、国民的な議論を進めていくとともに、制度における婚外子であるが故の不利益的取扱いの是正や婚外子に対する社会的偏見の解消を図っていく必要がある。
VI おわりに −人口減少社会を「ゆとりと潤いのある社会」に−
少子化が今後の我が国社会全体に及ぼす様々な計り知れない影響にかんがみ、少子化の背景や要因を幅広い視点に立って見極めながら、それへの政策的な対応を真剣に考える必要がある。
(少子化は現在及び未来の我が国社会全体の状況に関連)
少子化の要因は多岐にわたるが、少子化は、基本的には、家庭や企業活動における固定的な男女の役割分業の下で、経済の成長と発展を強く志向し、その恩恵を享受してきた我が国社会全体の状況が深く関連しており、また、個人が子どもを産み育てることを負担と考え、更には未来の社会に対する様々な不安を感じていることを反映しているとも言えよう。
(未来に希望を感じる社会の展望の必要性)
このような状況については、今後、更に掘り下げた議論や調査並びに学際的な研究を行い、その過程で政府、地方自治体はもとより、国民一人ひとり、家庭、地域、企業それぞれが考えていくと同時に、我が国社会への警鐘として重く受け止め、個人が子どもを産み育てることを負担と感じることなく未来に希望を感じることのできる社会の展望を示さねばならない。
(少子化への対応)
人口減少社会においては、人口が増加し続けてきたこれまでの時代に形成された諸制度や慣行は見直されなければならない。このため、まず、現在進められつつある経済構造改革、社会保障構造改革、財政構造改革などの構造改革を確実に実行し、少子化の影響への対応をする必要がある。
あわせて、子どもを産み育てる上で様々な不安や負担を感じるようになっているこれまでの我が国社会全体のあり方を問い直し、少子化の要因への対応をする必要がある。少子化の要因への政策的対応は、労働、福祉、保健、医療、社会保険、教育、住宅、税制その他多岐にわたるが、中核となるのは、固定的な男女の役割分業や雇用慣行の是正と、育児と仕事の両立に向けた子育て支援である。これらを着実に推進しつつ、それを基点としてその他の関連施策全般に展開していくことが求められている。
(性別や年齢による垣根を取り払う新たな雇用環境の創出)
とりわけ、企業等が定年制や終身雇用、年功序列型賃金などの固定的な雇用慣行を改め、女性や高齢者などあらゆる個人がその意欲に応じて就労できるよう性別や年齢による垣根を取り払う新たな雇用環境を創出していくことは、少子化の影響への対応、少子化の要因への対応両面の観点から極めて重要な課題であり、人口減少社会への対応の基本となるべきものと考える。
(新しい家族像を基本に据えた新しい地域社会、企業風土)
そして、このような取組を行うことは、男女が互いに尊敬し合って、喜びや愛情をはぐくみあえるような社会、個人(男女)の自立や自己実現と他者への貢献が両立するような男女共同参画社会の実現を目指すということである。我々は、男女が共に育児に責任を持つとともにその喜びも分かち合えるような新しい家族像を基本に据えて、家庭における子育ての孤立感や不安を受け止めることのできるような新しい地域社会、仕事と家事・育児さらには介護とを両立しつつその意欲や能力が活かされるような新しい企業風土を形成しなければならない。それは、次世代育成への社会的な連帯を図る、という形で我が国社会の新たな枠組みの構築を目指すということでもある。
(ゆとりと潤いの感じられる社会)
このようにして実現される社会は、仕事と育児の両立に配慮が払われ、男女共にその能力が最大限に活かされるような、人口減少社会に対応した新たな効率性が発揮される社会である。また、出生率の回復への期待とともに、結婚や子育てに希望が持て、子育ての持つ本来的な楽しみや喜びを夫婦ともに実感できるゆとりと潤いの感じられる社会であると言える。
(未来に希望の持てる安心できる社会)
当審議会は、こうした取組を通じて、将来に対する国民の様々な不安を取り除き、未来に希望を持てる安心できる社会を構築していくことが人口減少社会への対応として最も重要と考える。
しかし、我が国の人口問題を考える場合に、地球規模での人口問題に対する視点も忘れてはならない。世界人口は1950年の約25億人から現在は57億人と倍以上に膨れ上がり、2050年代には約100億人に至ると予想されている。このような人口増が、地球環境や地球資源に及ぼす影響も考慮し、環境・資源問題への取組も求められる。
また、外国人の受入れについては、我が国経済社会に大きな問題が生じることも懸念されることから、安易な考え方に立ってなしくずし的に行われることのないよう、その是非や方法について、関係の場で正面から十分に議論すべきである。
(本報告書の性格)
この報告書は、少子化の背景や要因等につき、少子化がもたらす人口減少社会への対応のあり方等について様々な論点や考え方を整理したものである。
もとより、少子化、そして人口減少社会をどう考え、将来の我が国社会はどのようにあるべきと考えるかは、「はじめに」においても述べたように、最終的には国民の責任であると同時に国民の選択である。
今後、本報告書を少子化、そして人口減少社会に関する国民的な議論の出発点として、国民のあらゆる層や関係各方面において大いに議論がなされ、来るべき人口減少社会への対応に関する国民的合意が形成され、今後の我が国が目指すべき社会に向けて、政府、地方自治体をはじめ企業、地域社会、そして家族、個人それぞれの幅広い国民的な取組が進むことを望むものである。
問い合わせ先 厚生省大臣官房政策課調査室
担 当 橋本(内2258)
電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
(直)03-3595-2159