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公衆衛生審議会伝染病予防部会 基本問題検討小委員会

新しい時代の感染症対策について中間報告


>平成9年6月30日

ー構 成ー

1.はじめに…………………………………………………………………………1

2.見直しの背景……………………………………………………………………1

3.基本的方向・視点………………………………………………………………2

(1)人権の尊重と個人に対する感染症の予防・治療に重点を置いた対策…2
(2)感染症類型の再整理と発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に
   立った迅速・的確な対応……………………………………………………2
(3)上記の視点を実現するための法体系の整備………………………………3

4.新しい時代の感染症対策………………………………………………………3
(1)法律の目的……………………………………………………………………3
(2)国と地方公共団体の責務……………………………………………………4
(3)医療関係者の責務……………………………………………………………4
(4)国民の責務……………………………………………………………………5
(5)総合的対策の推進……………………………………………………………5
(6)良質かつ適切な医療の提供・感染拡大の防止……………………………6

(1)良質かつ適切な医療の提供………………………………………………6
(2)対応の必要な感染症の分類………………………………………………8
(3)人権の尊重と実効性の確保の両立を図った感染拡大の防止…………9
(4)原因不明の感染症に対する特例的措置…………………………………12
(5)医療費の負担のあり方……………………………………………………13
(7)動物への対応(人畜(獣)共通感染症対策)……………………………14

5.新しい感染症対策を推進していくための体制整備…………………………15

(1)国と地方の役割分担…………………………………………………………15
(2)検疫機能の再構築と国内防疫との連携……………………………………16

6.新しい法体系の検討に当たっての留意点……………………………………19

7.今後の審議に向けて………………………………………………………………19



1.はじめに

 本委員会は、平成8年7月に開催された公衆衛生審議会伝染病予防部会において、今後の感染症対策の見直しについて検討することを目的として設置が定められ、平成8年10月に第1回委員会を開催して以降、計12回に及ぶ審議、医学及び法律の各作業班(ワーキンググループ)における随時の検討を続けてきた。今般、その中間的な取りまとめを行い、その結果を中間報告として公衆衛生審議会伝染病予防部会に対して報告する。

2.見直しの背景

 近年の感染症を取り巻く状況を考えてみると、エイズ、エボラ出血熱、狂牛病等の新興感染症やこれまで制圧したと考えられていた結核、マラリア等の再興感染症が世界的に問題となっている。国際交流の活発化や航空機による迅速大量輸送により、感染症は地球上のあらゆる地域から、事例は稀であっても、短時間のうちに国内に持ち込まれるおそれがあること、また水際防疫により海外からの感染症の侵入を防ぐことには限界があること等から、我が国においても、感染症の流行に備えて新しい対策を確立する必要がある。また、過去におけるハンセン病患者をはじめとする感染症患者に対する差別や偏見が行われた事実やらい予防法が平成8年に廃止されるに至った経緯への深い反省と、過去において重大な脅威となっていた感染症の多くが治療により軽症にとどまり、隔離といった対策を一律に講ずる必要がなくなった現状認識に基づいて、国民の健康保持と患者・感染者の人権の尊重との両立、原因不明の感染症の発生時における適時・即応の危機管理と人権の尊重というややもすれば二律背反的な要請の両立を図らなければならない。
 現行の伝染病予防法は本年で制定以来100年を経過した。この間、国民生活や公衆衛生水準の向上、国民の健康・衛生意識の向上、医学・医療の進歩、高齢者等の増加による易感染者の増加、人権の尊重及び行政の公正透明化への要請等、感染症対策の体系構築の前提となった諸環境は大きく変化しており、これらを踏まえて新しい時代の感染症対策を検討していく必要がある。

3.基本的方向・視点

 現行の伝染病予防法は明治30年(1897年)に制定されたものである。今回、現代社会に即した制度の検討を進める際に、中心となる基本的方向・視点として、

(1)人権の尊重と個人に対する感染症の予防・治療に重点を置いた対策
(2)感染症類型の再整理と発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応
(3)上記の視点を実現するための法体系の整備

にまとめることができる。

(1)人権の尊重と個人に対する感染症の予防・治療に重点を置いた対策

 現行の伝染病予防法は、明治30年に「伝染病の防御の機を失せず病毒の襲来を防ぎ病勢の頓挫を期すべく予防上至上の効果を収むべきを信ずる」との趣旨で制定されたものである。現行法は、コレラの年間患者数・死亡者数が10万人を超える年もあるといった制定当時の状況を背景に、伝染病の拡大防止といった集団の感染症予防に重点を置いたものであり、基本的人権の尊重に配慮した法律とは言い難い。今回の見直しに当たっては、患者や無症状の保菌者を含む感染者を社会から切り離すといった視点で捉えるのではなく、患者の人権を尊重し個人の感染症の予防・治療に重点を置いた対策が求められ、一人一人が安心して医療を受けることができ健康な生活を営むことができる権利、個人の意思の尊重、自らの個人情報を知る権利と守る権利等の趣旨について具体化できるよう検討する必要がある。

(2)感染症類型の再整理と発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応

 今日においては、数万人単位でコレラの患者・死亡者が発生するといった事態は現実的に想定し難く、また、過去において死亡者数が多かった感染症の多くが治療により軽症にとどまるようになったことから、隔離等の対策を一律に講ずる必要はなくなっている。一方で、国際交流の活発化や航空機による大量輸送時代の到来といった時代背景に伴い、原因不明の感染症、重篤な感染症及び感染力の強い感染症の発生・拡大の危険性が指摘されており、危機管理の観点から、迅速かつ的確な措置を講じることができる体系が求められる。

(3)上記の視点を実現するための法体系の整備

 上記の基本的方向・視点を具体化するためには、感染症、医療機関、行動制限、手続保障等に関する施策類型の体系化や、国、都道府県及び市町村、また検疫と国内防疫について、現有の人的・組織的資源とその限界を踏まえつつ、適切な拡充方策を考慮した上での今後のあるべき体制整備と連携に資する法体系の検討が必要である。また、実効ある感染症対策を講じていく上で国内外を含めた感染症情報を継続的かつ的確に収集・分析し、その結果を国民に対して提供・公開できる体制(サーベイランス体制)の充実・強化が必要であり、この観点からも国、地方公共団体等の各機関の役割分担と連携に資する法体系の検討が必要である。

 以上のことから、本委員会としては、感染症対策の見直し作業を引き続き行うこととし、伝染病予防法の改正を中心にすえた法体系の再構築を行うことを提言する。

4.新しい時代の感染症対策

(1)法律の目的

 新しい感染症予防に関する法律の目的として、本委員会で議論してきた感染症の発生予防と拡大防止、患者・感染者の人権の尊重、患者の治療、個人の感染症予防といった内容を盛り込むことを検討する。また、保健医療分野の関連法令では一般に、「公衆衛生の向上及び増進に寄与」との文言が盛り込まれているが、個人の感染症予防に重点を置く観点から、「国民の健康保持」の趣旨についても新法の目的に含むことができるかどうか併せ検討する。

(2)国と地方公共団体の責務

 今後の感染症対策においては、感染症予防を効果的に実施するとともに、患者の自由の制限を必要最小限で均衡のとれたものに限り、個人情報を保護するといった面で人権を尊重する必要がある。そのためには、感染症対策の実施主体である国、地方公共団体が担うべき役割・責務を明確にするとともに、国と地方公共団体の施策に協力する医師、国民の努力義務等についても規定に盛り込むことを検討する必要がある。
 国及び地方公共団体については、感染症予防に必要な総合的な施策を企画・実施するとともに、医療体制等所要の感染症予防対策を講ずること、教育活動等を通じて医師等の医療関係者や一般国民に対して、診療、就学、就業、交通機関の利用等の場面において患者・感染者の人権を損うことがなく、社会で共生できるよう、正しい知識を普及すること等が求められる。特に、国は、地方公共団体が講ずる感染症予防対策の確立を人材面、設備面の両面から積極的に支援することが必要である。また、感染症に関する情報の収集・分析とその結果について医師等の医療関係者や一般国民への提供・公開に努めるとともに、国と地方公共団体、地方公共団体相互の連携に努めるべきことを盛り込むことが必要である。さらに、国及び地方公共団体が、感染症予防のために患者・感染者の自由の制限を行うときは、人権を損うことのないようにしなければならないとの趣旨を盛り込む必要がある。

(3)医療関係者の責務

 医師等の医療関係者については、患者・感染者への良質かつ適切な医療の提供と感染症の拡大防止といった観点から、国及び地方公共団体の行う業務に協力するように努めるべきであるとの内容を盛り込む必要がある。また、患者・感染者の人権を損うことのないように努めるべきとの趣旨の規定を設ける必要がある。

(4)国民の責務

 感染症の発生及び拡大の防止に向けては、行政が施策を講ずるだけではなく、国民の側においても、感染症の予防について正しい知識を持ち、手洗いの励行等感染症に対して自らが予防していく姿勢、また感染した場合には、速やかに医師の診療を受けるといった自助努力が求められる。また、患者・感染者が生活の諸場面において差別を受けることがないように配慮する必要がある。
 患者・感染者については、感染症が社会に拡大しないように努める責務があり、人に感染症の病原体を感染させる可能性が著しく高い行為をしてはならない、医師の指示の遵守に努めなければならないといった規定の検討を行う必要がある。

(5)総合的対策の推進

 国、都道府県及び市町村、医師会等の医療関係団体、医療機関等の関係者が互いに密接な連携を図ることができるよう、国における基本指針の策定、都道府県における予防計画の策定といった措置を通じて、感染症対策の総合的な推進を図ることが必要である。
 国における感染症予防の基本指針においては、感染症予防に係る関係機関の取組と連携、高度安全病棟(床)等の医療体制の確保、原因不明の感染症の発生時や特定の感染症の集団発生に対応できる危機管理体制の確立、国民の感染症予防についての意識向上に向けての働きかけ等を盛り込むものとする。
 都道府県における感染症予防計画においては、関係分野との連携を図った予防対策の推進、感染症患者の集団発生時の危機管理体制の確立、二次医療圏域又は保健所圏域ごとの医療体制の確保、住民への予防啓発等を盛り込むものとする。

(6)良質かつ適切な医療の提供・感染拡大の防止

(1)良質かつ適切な医療の提供

 感染症患者に対する医療は、抗生物質等の積極的な治療手段がない時代においては隔離等の行動制限に付随するものとしての認識がなされてきた。しかし今日において、個人の感染症予防の積み上げの結果としての集団の感染症予防や早期社会復帰の要請、人権の尊重等に向けて、感染症患者に対して良質かつ適切な医療を提供し、重症化を防ぐといった視点が最も重要視されている。同時に、感染症患者に対する治療の目的には、早期の適切な治療により病原体の感染力を減弱・消失させるといった面があることも考慮しておかなければならない。すなわち、患者に対して医療機関で早期に良質かつ適切な医療を提供することは、患者自身にとって不可欠であるとともに、周辺への感染拡大の防止につながり、患者と周囲の人々の人権が守られることにつながる。さらに、医療の提供に当たっては、治療を目的に入院した患者等がMRSA感染症等の院内感染の危険にさらされないような配慮が必要である。
 以上のことから、新しい感染症対策の中で「良質かつ適切な医療の提供」を中核となる柱として考えるべきであり、これまでの伝染病予防法の主な対象であったコレラ、赤痢等はもちろんのこと、我が国における患者発生の可能性は極めて少なくても、ウイルス性出血熱やペスト等の重篤な感染症の患者に対して、良質かつ適切な医療を提供できる体制の整備を進めて行くべきである。現行の伝染病予防法においては、市町村の伝染病院等の設置義務が規定されているが、現実には対象感染症に応じた機能について全ての伝染病院等が効果的・効率的に運用されているとは言い難い面がある。したがって、実際の各感染症の患者発生数等に配慮した病棟(床)を地域の実情に応じて再整理していくことが必要であるが、感染症の患者を適切に治療していく医療機関の人材面・設備面の両面からの整備が重要であり、病棟(床)の機能に応じた国・地方公共団体の関与が求められる。
 なお下記に列挙した各施設の設置・整備を行って行く上で、実際に活動していく医師、看護婦等の医療関係者の教育・研修や感染症専門医の育成、感染症に関する医学教育や一般医療機関の医師等に対する生涯教育の充実、新しい診断・治療法の開発のための研究の推進及び必要な指針の作成が求められる。

(ア)高度安全病棟(床)
 ウイルス性出血熱やペスト等の患者に対して、集中治療室的な機能を有し、かつ、医師等の医療関係者や他の入院患者等への感染拡大を防止できる環境の中で良質かつ適切な医療等を提供できる体制を施設設備面及び人員組織面で備えた高度安全病棟(床)を全国に数カ所整備し、類似の機能を既に有する施設との連携を図った効果的な運用を図るべきである。また当該患者の治療に当たっては、患者の症状・病態が経時的に変化することから同一の感染症であっても柔軟な対応を図ることができるように総合的な診療機能を有する病院に併設することが望ましい。なお当該病棟(床)の対象感染症患者の発生時においては、国としての感染症危機管理の観点に立った対応が必要であることから、高度安全病棟(床)は国の指定によるなど、その設置・整備・運営に当たっては、国が積極的に関与することが求められる。

(イ)感染症病棟(床)
 コレラや赤痢等の患者に対して適切な治療等を提供することができる機能を備えた感染症病棟(床)を原則として各都道府県の二次医療圏域ごとに1カ所整備し、既に各市町村に設置されて有効に機能している施設との連携を図りつつ効果的な運用を図るべきである。なお感染症病棟(床)は都道府県の指定等によるものとし、その設置・整備・運営に当たっては都道府県と国が積極的に関与することが求められる。

(ウ)一般医療機関
 上記の病棟(床)での医療は必要ではないが、易感染者から引き離すことが必要な感染症患者の場合、医療機関の管理者と当該患者の入院契約に基づいた入院・医療を提供することが考えられる。この場合、標準的な治療方法や一定の接触制限のあり方等について予め国において指針等で定め、公表しておくとともに、適切かつ客観的な情報提供の下で患者が医師から十分な説明を受けた上での同意(インフォームド・コンセント)に基づいた入院・医療が提供されることが求められる。

(エ)各医療機関の連携、搬送体制
 高度安全病棟(床)の対象感染症の患者が発生した場合において、全国各地から短時間で患者を高度安全病棟(床)に移送できるような搬送体制を整備するとともに、感染症病棟(床)の対象感染症等の患者が集団で発生した場合等を想定して、各都道府県の二次医療圏域を越えた連携・搬送体制を含めた関係機関の協力体制を構築しておくことが求められる。

(2)対応の必要な感染症の分類

 現行の伝染病予防法においては、法定伝染病、指定伝染病及び届出伝染病の3種類が規定されており、必要に応じて追加・削除が行われてきた。しかし、近年の新興・再興感染症の出現、医学・医療の進歩等に応じて感染症の拡大防止のための必要最小限で均衡がとれた行動制限等が求められ、この要請に即した感染症の再整理が必要である。
 なお、医学・医療の進歩や生活様式の変化への対応、現段階において予想されない感染症の出現に備えて、感染症の分類や必要な対応について弾力的に追加・削除・緩和等ができるものとしておくことが重要である。

○国民に情報を提供・公開することにより、発生・拡大を防止すべき感染症 (1号感染症)

 (例)麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎、百日咳、破傷風、A群溶連菌咽頭炎、インフルエンザ、髄膜炎菌性髄膜炎、エイズ、性感染症(梅毒、淋病、性器クラミジア症、性器ヘルペス、尖形コンジローム)、A型・B型・C型・E型肝炎、MRSA感染症、レジオネラ症、クリプトスポリジウム症、ランブル鞭毛虫症

○状況に応じて就業制限等の行動制限を実施することにより、発生・拡大を防止すべき感染症(2号感染症)

 (例)腸管出血性大腸菌感染症

○状況に応じて入院等の行動制限を実施することにより、発生・拡大を防止すべき感染症(3号感染症)

 (例)細菌性赤痢、腸チフス、パラチフス、コレラ、ポリオ、アメーバー赤痢、ジフテリア、狂犬病

○原則として入院等の行動制限を実施することにより、発生・拡大を防止すべき感染症(4号感染症)

 (例)ペスト、ラッサ熱、エボラ出血熱、マールブルグ病、クリミア・コンゴ出血熱、Bウイルス病

○感染症の疑いが強いが、原因が確定されない(できない)ことから、必要な感染予防・治療法が決定されない疾病(原因不明の感染症)

(3)人権の尊重と実効性の確保の両立を図った感染拡大の防止

 新しい感染症対策において、人権の尊重について十分認識するとともに、近年の感染症の問題が量的な面で減少してきた状況を踏まえ、拡大防止を実現する手段として、国民に対する規制的措置を中心にすえた考え方から、各個人の感染症予防・治療対策の積み上げを通じた社会全体の感染症予防を図る考え方に重点を移すことが重要である。この意味では、第一義的には、患者が医師から十分な説明を受けた上での同意に基づいた医療の提供が図られるべきである。
 しかし、感染症から国民の健康を守るためには、感染症の類型に応じた実効性のある拡大防止を図る必要があるが、他方で患者の人権を損うことのないよう、患者の行動制限措置の種類、程度を必要最小限で均衡の取れたものとするとともに、患者の人権を保障するための手続規定を設けることが必要である。具体的には、現行の伝染病予防法における「伝染病予防上必要と認めるときは市町村長が患者を収容する」(第7条)といった一般的抽象的な規定を改め、(ア)人権保障の観点に立った事前・事後の行政手続、(イ)感染症の重篤性、感染力等による類型に応じた必要最小限で均衡の取れた行動制限、(ウ)所要の権利制限に対する補償、について法律上明確に規定することを検討すべきである。

(ア)人権保障の観点に立った事前・事後の行政手続
 入院命令等の措置が講ぜられる際の事前手続として、措置が講ぜられる理由の告知及び事後に不服を申し立てることができる旨の告知をするなど、患者の人権を保障するための規定を設ける必要がある。その際、感染症患者の症状の悪化と社会への感染拡大の危険性から、どの程度迅速な手続とすることが可能かを検討するとともに、経過的な措置として、医師の患者への自発的な入院を促す勧告を位置づけることについても検討が必要である。なお、的確・慎重な判断を行うためには行政担当者への研修を十分に行うことが必要であるが、併せて、事前に専門家を含む第三者機関の意見を聴くことも考えられる。その場合にも、感染症患者の症状の悪化と感染症の急速な拡大に迅速に対応していくという観点を踏まえて、検討を加える必要がある。
 事後の手続として、命令に対して不服申立て等の手続保障を図ることを検討すべきである。その際、不服申立の審査が迅速・公正に行われるような手続を設ける必要がある。

(イ)感染症の重篤性、感染力等による類型に応じた必要最小限で均衡の取れた行動制限
 本委員会においては、行動制限の代表例として入院命令の検討を重ねているが、行動制限を必要最小限で均衡の取れたものにするために、時間的制限を付した一時的入院などの新たな類型の行動制限を設けることについて、今後の検討が必要である。
 本中間報告においては、とりあえず現行の伝染病予防法に規定されている各行動制限について、検討に当たっての留意点を概観し、今後の更なる検討に資することとする。

○清潔方法、消毒義務(第5条、第6条)
 各措置の効果、方法、程度等について、感染症の類型ごとに検討を行う必要がある。

○患者の収容(第7条)、隔離(第8条)、就業制限(第8条の2)
 入院命令とその実効性を確保する措置(本委員会においては人権尊重の観点 から「収容」、「隔離」の用語を避け、入院命令とその実効性を確保する措置 として検討してきた)、就業制限については、感染症の分類に従って、必要最 小限で均衡のとれた行動制限の発動となるよう検討してきた。
なお、患者等の入院が感染症の拡大防止の観点から差し迫って必要な場合に ついては、医師による入院勧告、都道府県知事(実質は保健所長)による入院 命令の規定を設けることの検討を進めるべきであるが、感染症病棟(床)等に おいて、感染症が特定できるまでの間の入院や入院継続の是非を決定する権限 の付与のあり方について検討を続けることとする。
また、入院等の行動制限がなされる場合にあっても、患者が良質かつ適切な 医療を受けられることを保障するとともに、患者が精神的に不安定な状況に追 い込まれないよう、例えば通信・面会の自由の保障について配慮すること等を 通じて、可能な限り個人としての生活を営み、通常の社会生活にも参加できる ようにしていく必要がある。

○交通遮断(第8条)、船舶汽車電車の検疫(第18条)
 今日において、これらの措置の発動される事例は想定し難く、かつ、各措置 を講ずることによって多人数に大きな行動制限がかかることから、措置が限定 的に必要とされる場面を想定した上で、効果、方法、程度等について、感染症 の類型ごとに検討を行う必要がある。

○患者及び死体の移動制限(第9条)、汚染物件の使用等の制限(第10条)、 死体の埋葬(第11条)
 本措置の効果、方法、程度等について、感染症の類型ごとに検討を行う必要 がある。

○知事の行う予防措置(第19条)
 知事の行う予防措置について、例えば、健康診断(検便を含む。)について は上記各規定と同様の検討を行うことに加え、特に検査を受ける者の人権を侵 害することのないように明確で合理的な仕組みを検討する必要がある。

(ウ)所要の権利制限に対する補償
 新しい法体系において、行動制限等の措置が講じられたことにより生ずる損失についての補償について、以下の考え方に沿って検討を進める必要がある。
行動制限によって生じた経済的損失について、従来通り、生活が困窮した者に対する生活費の支給といった考え方で検討することとする。
財産権に関する損失について、現行の伝染病予防法第19条の2のような補償に関する規定を整備する必要がある。その際、財産権を有する者の責めに帰すべき事由により取り壊しを余儀なくされた場合には補償を要しないこととするかどうか等も検討する。
また、原因不明の感染症の疑いで特例的な措置を講じた場合(下掲)の補償のあり方についても検討を要する。

(4)原因不明の感染症(疑いを含む)に対する特例的措置

 近年、世界各地において新たな感染症が出現する中で、日本国内においても、感染症が疑われる原因不明の疾病が発生し、原因確定までの間に感染症の拡大といった面で相当な被害を引き起こすことが想定される。こうした感染症に対して、被害の発生・拡大を極力抑えることができるよう、普段から国において海外の感染症情報等の収集、分析を行い、感染症が発生した場合にその原因を迅速に特定できるようにしていく必要がある。
 しかし、万一原因不明の感染症が発生した場合に備え、原因が特定できるまでの間、感染力が強く、又は症状が重篤になりうる感染症(3号感染症及び4号感染症)の取扱いに準じた行動制限(入院命令等)の措置や感染源及び感染経路対策を講ずることができる制度体系を検討すべきである。その際、疫学調査等の結果に基づいて迅速な行政措置を講じることができるよう、適切な判断基準及び判断手続を予め明確にしておく必要がある。また、具体的に措置を発動するに至った判断過程の公開も検討するとともに、当該判断や措置発動の前提となった諸条件が変化した場合の措置継続の必要性の判断について、的確・慎重に行うため、専門家を含む第三者機関の意見を聴くといった手続を盛り込むことも検討すべきである。
 行動制限等の措置を発動するにあたっては、予め明確化された措置要件に従って行政担当者が判断することになるが、感染症と疑われる原因不明の疾病が措置要件に当たるかどうかを判断することは容易ではない。その結果、行動制限の措置や注意喚起の情報提供を行う公務員が過大な権限行使をしたとして責任を追及されることをおそれて萎縮し、感染拡大を防止できないようなことが生じないようにすることが必要である。そのための制度的手当の一つとして、公務員が定められた手続に従って権限を行使し、故意又は重大な過失がない場合には、民事上及び刑事上の法的責任が生じないという規定を設けること等も、その必要性を含め検討すべきである。

(5)医療費の負担のあり方

 現行の伝染病予防法においては、法律に基づいて隔離された患者の医療費を公費負担としているが、その背景としては患者に対して確実に医療を受けさせる必要があったこと、伝染病に対する医療を強力に推進していくことが社会的に緊急の課題であったこと等が考えられる。一方、伝染病予防法の類似法律である結核予防法においては、平成7年に行われた法律の一部改正により、従来の公費負担の仕組みを一般の疾病の場合と同様に、まず医療保険制度を適用し、その基盤の上に公費による負担を組み合わせた仕組みに改正されたが、これは近年の公衆衛生水準や医療水準の飛躍的向上、国民皆保険制度の整備と給付率の向上など公費を負担する前提となる諸環境が大きく変化したことが背景として挙げられる。
 したがって、今回の感染症対策の見直しの中で、医療保険制度の充実、伝染病院等の設置の実態、感染症患者に対する診断・治療方法等の進歩、他法における医療費負担との整合性等の観点から、これまでの公費負担を中心とした施策について、より有効に活用する方向について検討する必要がある。その際、医療費への公費負担の目的、入院命令等の行政措置を伴う医療における実効性の確保、外来診療の取扱い、医療保険財政への影響等についても併せて検討しておくことが求められる。

(7)動物への対応(人畜(獣)共通感染症対策)

 近年、新興・再興感染症の問題の一つに人畜(獣)共通感染症が挙げられているが、その背景として、航空機をはじめとした交通手段の発達による人間と動物の移動の増大、生活様式の多様化による感染機会の拡大がある。前者については、動物の輸入時における対策や侵入動物対策の強化、後者に対しては人畜(獣)共通感染症についての国民への情報提供と実験用動物や愛玩動物など多岐にわたって感染源になり得る動物からの感染防止といった面からの対策の必要性について検討していくべきである。特に人畜(獣)共通感染症において人間への感染防止を目的とした法律は基本的に狂犬病予防法のみであり、サル、アライグマ、鳥類等の病原体を持ち込みやすい動物に対して輸入時に安全性を確保するための方策の必要性が専門家の間で指摘されている。
 諸外国の中には下記に示すような輸入動物対策等の人畜(獣)共通感染症対策が講じられている例があるが、我が国においても、これまでの経緯や実情も踏まえ、さらに検討を進める必要がある。

[参考:海外における主な対策例等]

○輸入動物対策

 ヒト以外の霊長類(サル等)については、数多くの輸入動物の中でもウイルス性出血熱を媒介する可能性が高く、危険性が高いと考えられており、ヒト以外の霊長類を中心として、輸入についての規制措置を実施している国(米国、イギリス等)がある。また侵入動物対策として、現在、改正の作業が進められている国際保健規則(IHR)の改正案の中には、港湾・空港周辺の衛生管理の強化と侵入動物対策の徹底等が盛り込まれる予定である。

○調査・サーベイランス(情報の収集・分析とその結果の国民への提供・公開)

 輸入された動物の追跡調査とサーベイランス、人畜(獣)共通感染症の患者・感染者情報の収集に努めている国(イギリス等)がある。

○感染症にかかりやすい特定職種群への定期検診

 動物輸入業者、実験施設の動物管理者その他の動物取扱従事者については、人畜(獣)共通感染症にかかりやすい特定職種群と位置づけ、これらのものに対して、定期検診を含めた衛生管理を実施している国(イギリス、米国等)がある。

○感染拡大防止のための緊急対応体制の整備

 感染性の強い人畜(獣)共通感染症が発見された場合、人については「医療の確保」や「必要最小限の行動制限」によって対応が可能であるが、動物についても隔離、処分といった措置を実施している国がある(イギリス等)。

5.新しい感染症対策を推進していくための体制整備

(1)国と地方の役割分担

 感染症予防対策の機能的、効果的な実施を図ることができるよう、国、都道府県及び市町村においては、各感染症情報の報告・相談、対策の指導・支援といった各般の連携を深めるとともに、医師会等の医療関係団体や医療機関の関係者の協力を得ながら、各々の役割を次のとおり見直し、強化していくことが必要である。
 国においては、国全体としての感染症対策の指針作成、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理センター(CDC)、開発途上国等との感染症対策に関する国際協力、感染症情報の収集、分析とその結果の国民への提供・公開、感染症の集団発生や原因不明の感染症の発生に備えての危機管理体制の確立を軸としつつ、高度安全病棟(床)の整備・運営への関与、感染症発生地域等への専門家の集中的派遣、集団発生時における周辺都道府県への協力要請、原因不明の感染症が発生した場合において、都道府県、保健所等との連携を図った迅速・的確な対応が実施できる体制の整備、さらには、感染症対策の専門医、検査技師等の医療関係者の育成・研修に併せて、平成9年4月に改組された国立感染症研究所の機能強化を行い、組織化された体制で研究・情報機能等の感染症対策の実施を担うものとすべきである。
 都道府県においては、二次医療圏域又は保健所圏域ごとの医療資源、市町村の感染症予防体制等を見渡せる立場にあることから、都道府県全体及び各二次医療圏域又は保健所圏域ごとの総合的対策を担うものとすべきである。すなわち、感染症予防計画を策定するとともに、感染症病棟(床)等の設置について、都道府県が市町村と連携を図りながら医療体制の確保に努める必要がある。また、地方衛生研究所の感染症対策面における機能強化について、国(感染症研究所)、保健所との連携を図りながら進めることが必要である。なお、政令指定都市、中核市といった大都市については、都道府県に準じた取扱いとすることを検討する必要がある。
 保健所においては、地域における感染症対策の技術的専門組織としての機能が期待されていることから、専門的判断の必要な施策を講じるとともに、新たな感染症対策においては、従来より形式的には市町村長の権限とされている患者の収容といった行動制限について、より専門的な知識・経験を有する保健所が第三者機関の意見を尊重して判断を行い、必要な措置を講ずる体系を検討すべきである。さらに、保健所には、管内における感染症患者の発生状況の把握と対策の立案、管内感染症情報の一元的把握といった役割が求められる。
 市町村については、住民に最も身近にある一方、必ずしも専門知識を有する職員の確保が容易ではないといった実情も踏まえ、保健所からの助言・支援を得ながら地域に密着した清潔方法の指導と消毒の施行、鼠族、昆虫等の駆除、家用水の提供といった役割を中心に担うこととする。

(2)検疫機能の再構築と国内防疫との連携

 検疫機能を考えたとき、海外からの入国者数の増加、海外旅行の形態及び入国元の多様化、航空機による迅速大量輸送時代の到来等、その取り巻く環境は現在の検疫法公布当時と比べて大きく変化している。また検疫と国内防疫は、これまで必ずしも十分な連携が図られていない状況にあったと考えられる。したがって、我が国における検疫のあり方を考えていく上で、国内防疫との連携強化についても視野に入れていく必要があるが、我が国の検疫機能がこれまで果たしてきた役割や我が国が周囲を海で囲まれているといった実情を踏まえながら、状況の変化に対応した検疫機能のあり方について検討を進めていく必要がある。

(1)感染症対策の総合的体系の中での検疫機能の位置づけ

 感染症対策の全体像を見据えた上で、その中における検疫機能と国内防疫機能の位置づけを整理するとともに、国立感染症研究所の活用を視野に入れながら、諸外国の例も参考にして、感染症に関する研究機能及び情報収集機能と検疫機能を総合的体系の中に位置づけ、連携方策も含めた関係のあり方について検討して行く必要がある。

(2)危機管理に対応できる検疫体制

 航空機による迅速大量移動等により短時間の国際移動が頻繁・大量になってきたことから、海外で感染した患者が潜伏期間中に日本国内に入ってくる可能性とともに、ウイルス性出血熱等のこれまで日本国内では想定されなかった感染症の侵入の危険性等、検疫のあり方において危機管理の重要性が高まってきている。したがって、諸外国の例も参考にして危機管理に対応できる検疫体制の確立に向けて検討していく必要があるが、その際には併せて下記の留意事項についても配慮することが不可欠である。

[留意事項]

○海外の感染症情報の迅速かつ詳細な把握と分析体制の整備

 危機管理に適切に対応できる検疫を目指した場合、海外における感染症発生 情報の迅速かつ詳細な把握と分析体制の整備が必要である。

○危機管理対応時の対応体制の整備

 実際に危機管理が必要な事態に際しては、専門家(臨床医、研究者、疫学者、行政官等)による対応体制が必要となることが想定される。したがって、国立 感染症研究所の機能を活用するとともに海外からの入国者の93%が集中する 4つの空港を中心とした検疫機能の危機管理対応能力の整備のあり方について 検討する必要がある。

○海外渡航者に対する出国前から入国後までの一連の対応

 病原体の伝播者になり得る海外渡航者に対して、個人情報の保護に十分に配 慮しつつ、出国前から入国後までの様々な段階における各種感染症の情報提供、 健康相談の機能の充実・強化について検討する必要がある。

○国内防疫と連携した追跡調査

 潜伏期間中に国内に入った感染症患者について個人情報の保護に十分に配慮 しつつ、追跡調査し、必要な対応を迅速に図るため、検疫機関と国内防疫機関 の連携のあり方について検討していくことが必要である。

○国際保健規則の改正作業を視野に入れた検疫・防疫対策の立案

 現在、改正作業が進められている国際保健規則の改正案を視野に入れて、今 後さらに追加すべき事項があれば、必要に応じての追加措置が図られるような 柔軟な対応が求められる。

○研究・研修の充実

 世界的に新興・再興感染症が問題となる中で、検疫・防疫に携わる者につい て、危機管理に対応できる専門性の確保を図っていくことが重要である。その ため、これらの者の研究・研修の充実等を行うことによる国立感染症研究所、 検疫機関の充実強化のための方策について検討する必要がある。

6.新しい法体系の検討に当たっての留意点

 新しい法律においては、現行の伝染病予防法及び各感染症予防関連法について、各規定の意義と課題について整理するとともに、法律の目的、人権の尊重と危機管理型の感染症対策といった今日的な課題を明確に位置づけ、課題への対応を図るためにどのように具体化していくかといった整理・検討が必要である。また、現行では、伝染病予防法、結核予防法、性病予防法、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律等の感染症予防関連法が各々の目的、適用の範囲、期待される機能をもって分立している。新たな法体系の検討に当たっては、個別の感染症ごとの立法ではなく、一元化することが差別偏見の抑止に有用であるとの意見に留意しつつ、法体系の統合の意義、限界、問題点等について焦点を当てながら、進めていくことが必要である。

7.今後の審議に向けて

 これまで12回にわたって本委員会で審議された論点を中心に、可能な限り新しい感染症対策の体系が展望できることを目的として中間報告のとりまとめを行ったものである。審議過程においては、国内外を含めた感染症情報を収集・分析し、その結果を国民に対して提供・公開することの重要性が認識された。また、伝染病予防法の見直しを中心に、基本的方向・視点、良質かつ適切な医療の提供・感染拡大の防止、国と地方の役割分担等、議論が深まり具体的な検討に進むことができるように整理できた課題がある一方で、施策の方向性のみの検討にとどまっている課題や、感染症対策と食品保健対策との密接な連携及び役割分担についての論点等も残されている。
 本委員会としては、昨年10月からの審議経過を踏まえ、今後、事務局・厚生省より検討課題及び手順についての整理を得た上で、感染症患者等からの意見を幅広く聴くこと等を通じて必要な検討・審議を積み重ね、本年12月を目途に本委員会としての最終報告を公衆衛生審議会伝染病予防部会に提出することといたしたい。



(参考)

平成9年6月30日

公衆衛生審議会伝染病予防部会基本問題検討小委員会

新しい時代の感染症対策について(中間報告)要旨

1.はじめに

 伝染病予防法(明治30年制定)の改正を中心とした感染症対策の抜本的見直しを目的として、平成8年10月から公衆衛生審議会伝染病予防部会基本問題検討小委員会(委員長:国立国際医療センター研究所長 竹田美文)において、計12回の審議を重ねてきたところであるが、今般、その中間的な取りまとめを行い、公衆衛生審議会伝染病予防部会に中間報告として報告するものである。

2.見直しの背景

(1)新興・再興感染症等に対する健康危機管理の必要性
(2)公衆衛生をめぐる環境の変化への対応
(3)実効ある感染拡大の防止と人権の尊重との両立への要請

3.基本的方向・視点

(1)人権の尊重と個人に対する感染症の予防・治療に重点を置いた対策
(2)感染症類型の再整理と発生・拡大を阻止するための危機管理の観点に立った迅速・的確な対応
(3)上記の視点を実現するための法体系の整備

4.新しい時代の感染症対策

(1)法律の目的

 感染症の発生予防と拡大防止、患者・感染者の人権の尊重、患者の治療、個人の感染症予防、国民の健康保持の内容・趣旨を新法の目的に含むことを検討する。
(2)国と地方公共団体の責務

 感染症予防に必要な総合的な施策を企画・実施するとともに、医療体制等所要の感染症予防対策を講ずること、教育活動等を通じて医師等の医療関係者や一般国民に対して患者・感染者の生活の諸場面で人権を損うことがなく、社会で共生できるように、正しい知識を普及すること等を進めるものとする。

(3)医療関係者の責務

 国及び地方公共団体の行う業務に協力するように努めるとともに、患者の人権を損なうことのないように努めるべきとの趣旨を設ける。

(4)国民の責務

 感染症に対して自らが予防していく姿勢等が求められるとともに、患者・感染者が生活の諸場面において差別を受けることがないように配慮する必要がある。

(5)総合的対策の推進

 国、都道府県及び市町村、医師会等の医療関係団体、医療機関等の関係者が互いに密接な連携を図ることができるよう、国における基本指針の策定、都道府県における予防計画の策定といった措置を通じて、感染症対策の総合的な推進を図る図ることが重要である。

(6)良質かつ適切な医療の提供・感染拡大の防止

○医療供給体制の整備

・ウイルス性出血熱等の患者に対する医療を提供できるよう、国の積極的 な関与により高度安全病棟(床)を全国に数カ所整備
・コレラ等の患者に対する医療を提供できるよう、都道府県の積極的な関 与により感染症病棟(床)を各都道府県の二次医療圏域単位で整備

○感染症の類型に応じ、感染拡大防止と患者等に対する最小限の行動制限

(1)国民への情報提供による発生・拡大を防止すべき感染症
(例)インフルエンザ、麻疹、風疹、性感染症等
(2)状況に応じ就業制限等の行動制限を実施することにより発生・拡大を防 止すべき感染症
(例)腸管出血性大腸菌感染症
(3)状況に応じ入院等の行動制限を実施することにより発生・拡大を防止すべき感染症
(例)コレラ、細菌性赤痢、腸チフス等
(4)原則として入院等の行動制限を実施することにより発生・拡大を防止すべき感染症
(例)エボラ出血熱、ペスト等

○人権の尊重と実効性の確保の両立を図った感染拡大の防止

・人権保障の観点に立った事前・事後の行政手続
・感染症の重篤性、感染力等による類型に応じた必要最小限で均衡のとれた行動制限
・所要の権利制限に対する補償

○原因不明の感染症(疑いを含む)に対する特例的措置

 原因不明の感染症が発生した場合には、原因が特定できるまでの間、感染力が強く、又は症状が重篤になる感染症の取扱いに準じた行動制限の措置を講ずることができる制度体系を検討すべきであるが、判断基準の明確化と判断過程の公開、判断に当たっての第三者機関の関与等について、検討すべきである。

○医療費の負担のあり方

 医療保険制度の充実、伝染病院等の設置の実態、感染症患者に対する診断・治療方法等の進歩、結核予防法等の類似法律における医療費負担との整合性等の観点から、これまでの公費負担を中心とした施策について、より有効に活用する方向について検討する必要がある。

(7)動物への対応(人畜(獣)共通感染症対策)

 動物の輸入時における対策や侵入動物対策の強化、人畜(獣)共通感染症についての国民への情報提供と実験用動物や愛玩動物など多岐にわたって感染源になり得る動物からの感染防止といった面からの対策について、諸外国の例を参考に、我が国のこれまでの経緯や実情を踏まえて、さらに検討を進める必要がある。

5.新しい感染症対策を推進していくための体制整備

(1)国と地方の役割分担

 感染症予防対策の機能的、効果的な実施を図ることができるよう、国、都道府県、保健所及び市町村について、各々の役割を見直し、強化していくことが必要である。

(2)検疫機能の再構築と国内防疫との連携

 検疫機能を取り巻く状況は検疫法公布当時と比べて大きく変化しているが、我が国の実情も踏まえながら、(1)感染症対策の総合的体系の中での検疫機能の位置づけ、(2)危機管理に対応できる検疫体制のあり方等について検討を進めて行く必要がある。

6.新しい法体系の検討に当たっての留意点

 現行では、伝染病予防法、結核予防法、性病予防法、後天性免疫不全症候群の予防に関する法律等の感染症予防関連法が各々の目的、適用の範囲、期待される機能をもって分立しているが、一元化の方向について、法体系の統合の意義、限界、問題点等について焦点を当てながら検討を進めていくことが必要である。

7.今後の審議に向けて

 本委員会としては、昨年10月からの審議経過を踏まえ、今後、事務局・厚生省より検討課題及び手順についての整理を得た上で、感染症患者等の意見を聴くこと等を通じて必要な検討・審議を積み重ね、本年12月を目途に本委員会としての最終報告を公衆衛生審議会伝染病予防部会に提出することとする。


 問い合わせ先 厚生省保健医療局エイズ結核感染症課
    担 当 野村、堀江(内2373)
    電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
        (直)03-3595-2257
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