第4回中央社会福祉審議会
社会福祉構造改革分科会議事要旨
1.日時: |
平成10年1月27日(火)14:00〜 |
2.場所: |
厚生省特別第一会議室 |
3.出席委員 |
(五十音順) |
阿部、天野、石井、板山、上村、喜多、木村、永松、乳井、野中、福武、堀田、三浦、八代、山口、吉村の各委員 |
4.議事
- (1)第3回の議事要旨を案のとおり了承
(2)福祉人材確保対策室長による資料説明
5.審議の概要
(発言1)
- ○ 福祉への需要が多様化し、利用しなければならない人の数、範囲が拡大してきている中、弱者救済中心の措置制度には、現状のままでは様々な問題が出てきている。サービス提供についても、いろいろと制約が大きい。施設、制度、運営の在り方について見直すことは時宜を得ていると思う。
与えられたサービスに対して代価を支払うことのできる医療と比べて、福祉施設は一定のサービスの水準、評価することに難しさがある。広く国民が、それぞれの生活水準で施設を共用し、一定のサービスが受けられるような仕組みに変えていく必要がある。
- ○ 施設整備について、民間活力の活用を図っていく中で、社会福祉法人は医療法人と異なり、本部会計と施設会計に分離されていることで問題が生じている。
- ○ 施設整備のための借入金の利子の一定部分を地方公共団体が利子補給している場合があるが、経済状況の変化により円滑に返済が進まない現状にあり、返済が滞ればサービスの低下も避けられない。今の設置基準で十分なサービス提供が確保できるかどうか、まず見直す必要がある。
- ○ 措置制度から契約制度に移行した場合、弱者に対する権利擁護の仕組みが必要になるし、併せてサービスの多様化に伴う負担について、弱者に対する配慮が必要となる。
- ○ 社会福祉法人の行政依存体質を改善するとともに、自助努力すれば報われるような制度とすることが必要である。
(発言2)
- ○ 措置制度から保育所の入所制度、介護保険制度へと社会福祉制度が自由化、弾力化の方向に進んでいるのに、長年、措置制度になじんだ社会福祉法人の意識改革が遅れている。行政も、法人に対する規制を強化するだけである。それぞれ意識改革が必要ではないか。
- ○ 生活保護施設、老人福祉施設、障害者福祉施設の間で収入認定、費用徴収のあり方に相違がある。これからは利用者負担についてはできるだけ負担を同じようにすることを考える必要がある。
- ○ 施設整備のための減価償却を認め、法人主体の会計にする必要がある。また、施設整備費の法人負担分は、制度上は4分の1だが、実態はそれを上回っている。あまり精緻な補助はやめて、ある程度大まかな補助ということで定額補助とするのも1つの考え方ではないかと思う。
- ○ 社会福祉法人の会計を企業や他の公益法人に近いものに改め、法人が施設を経営していることを明らかにする必要がある。例えば減価償却を認めて、建物の価値を実勢額にて表示することなどである。資産が過大評価されることは、情報公開の時代には不都合であると思う。
(発言3)
- ○ 行政処分でやっているサービスを全部契約によるサービスに切り替えれば、全てスムーズに行くとは必ずしも限らないと思う。何かもう少し規範となるようなものを議論しなければうまくいかないのではないか。
- ○ 措置制度をやめることによって公費負担が大きく後退し、特に国費が大きく減るし、都道府県を含めて地方公共団体がその減少分を肩代わりさせられるおそれはないのか。地方分権委員会でも人件費補助等の一般財源化や国庫補助の廃止がいわれ、自治省も地方税の制限税率廃止の方針といわれている。ますます後退する公費を誰が負担するのかは問題の一つである。
- ○ 施設整備費の負担として、設置者は4分の1負担に加え、単価差等による超過負担があるが、十分に改善されていない。実際に賄えないようでは、契約によるサービス提供は進まないと思う。
例えば、国は、保育所の人件費について、毎年ベースアップ分をみているというが、措置費の中の保母の給料月額は勤続7年〜8年程度に相当であり、実際勤続20年以上の保母が多くいる現実とは大きな差がある。単価をそのままにして差額は市町村負担といっても難しいのではないか。このような点の分析も必要ではないのか。
(発言4)
- ○ 老人福祉と保育所を措置だからといって同列に見ることはやめてはどうか。
少子化問題は、国全体の基本問題として国や地方公共団体が取り組み、もっと思い切った支援対策を講じて、次の世代に子供がもっと生み育てられるようにするべき課題であると思う。
- ○ 施設整備費の設置者負担分の償還を寄附金や地方公共団体の利子補給などで補えという時代ではない。施設整備の補助単価が抑えられているため、名目の補助率が2分の1であっても、実際はもっとそれに満たない金額しか補助していない可能性が多分にあると思う。現況に照らして設置基準、補助単価、補助率を設定しないと実態を反映しないものになる。
また、補助金を抑制する一方で内容的に厳しく指導するだけでは、設置者がやむなく抜け道を捜すような状況に陥らないとは言いきれない。
- ○ 施設の設置者も、ボランティア精神でやっている面があるが、水や空気だけで生きられる訳ではないので、一定の収入がきちんと保障され、入所者の面倒が安心してみられる制度にする必要がある。
- ○ 施設の高齢者が預貯金を子供に遺して亡くなっているのは問題である。入所者の親族には相続権等を放棄してもらい、代わりに、財産がなくなっても公費で最後まで面倒を見るようにすべきでないか。
(発言5)
- ○ 措置費の中で、老人、保育、生保の比重が大きいが、この内、老人福祉や児童福祉については介護保険制度の導入、児童福祉法の改正が行われたところである。この分科会では、それらを除いた身体障害者、精神薄弱者、婦人保護等の福祉の在り方について議論することになるのか。障害者福祉を議論するとしたら、弱者の権利擁護とか、障害者に選択や自由契約が果たして可能なのかなど基本的な点を議論する必要がある。
それとも、高齢者介護や保育所利用の在り方についても議論するのか。その場合、制度改正後の仕組みを前提として議論するのかなどについて共通認識にしておく必要があるのではないか。
(発言6)
- ○ 措置制度の見直しに当たっては、契約に基づいて利用者に原資を返すということを大原則として確立する必要がある。このことは、保育にも適用する必要がある。
- ○ 施設整備については、新しい公設民営方式とでもいうように、市町村、社会福祉法人、民間企業を問わず事業の実施主体が借り入れをして施設をつくり、運営主体に貸し出す方式にする方がよいのではないか。
- ○ 社会福祉法人の在り方については、2種類に分けて考えてはどうかと思う。
まず、障害者福祉や救貧的事業など福祉の基盤を支えるような事業を行う法人を第1種社会福祉法人とし、この場合、現行の措置費、施設整備費を基本的に守るものとする。
次に、自由度が高く市場原理に近い社会福祉法人を第2種社会福祉法人としてつくる。第2種社会福祉法人と民間企業との違いは、税制、益金処分、拠点数の部分で制限などつけてはどうかと思う。
また、これから新たに設立する社会福祉法人については、土地を寄附しなくてもよい、運営のみ行う社会福祉法人があってもよいと思う。
- ○ 以上のようにすれば、セーフティネットの部分もきちんと押さえつつ、社会福祉法人の自由度を高め、広く普遍主義的な介護、保育などにできるのではないか。
(発言7)
- ○ 福祉制度の見直しで一番大切なのは、いかにして入所者やサービスを受ける人に対し、より良いサービスを提供するかという観点から制度を考えることを出発点とすることである。この点からみて措置より契約のほうが選択の自由が働き、よりよいサービスが提供されると思う。ただし、契約方式にすれば全て解決するということでもない。
- ○ 人がいろいろな活動を行う場合、基本的には利益を上げたいのが普通の動機である。利益を上げるためには、お客が来るようにサービスを向上させなければならないので、利益を上げる動機そのものは決して悪いことではない。ただし、これは競争が行われていることが前提であり、地域に施設が1つでは独占になりやすいので、施設を増やして競争を作り出すことが必要である。
- ○ 非営利で経営している者の動機として、社会的名誉や個人の満足感、ボランティア精神などがあるが、社会的名誉が欲しくてやっている人の中には、問題のある人もいると思う。むしろ入所者の喜びが自分の喜びであるという精神でやっている人は良いサービスを提供していることが多い。入っている人の喜びが運営に反映される仕組みをつくることが大切である。これに対し現状では、入所者の満足を評価する仕組みがなく、施設長の善意に頼っている状況にあるので、これも改める必要がある。
- ○ 施設整備の設置者負担4分の1を借入金や寄附金で賄う仕組みは、返済に苦労している施設の場合にはサービスの低下につながるおそれがある。こういう制度を続けるならば、償還金の出所とかサービスの質をよくチェックする必要があると思う。
(発言8)
- ○ 措置制度の見直しに当たっては、競争条件を導入して、多様なサービス提供者が現れる環境づくりが大切である。バウチャー制度についても前向きの検討が必要であると思う。
- ○ 最近注目されているPFIについても検討してはどうかと思う。PFIとは、従来、公的部門が設計なり建設なり運営・維持というものを民間に任せてはどうかということで、イギリスで行われている制度であり、具体的には、建設や維持管理のコスト、サービスの内容等を総合的に民間と比較して、民間のほうが優れていれば民間委託するという考え方である。
- ○ 建築基準法が仕様基準から性能基準に変わるということで建設省の方で検討が進んでいる。これは、柱の材質とか窓枠の比率とかをいちいち定める考え方から、一定程度の地震なり火災なりに耐える強度を持っていれば材質等は問わないという、性能で決める考え方に変わるというものである。社会福祉においても、施設の整備や運営について非常に詳細な規定があるが、こういった弾力的な考え方を取り入れることもできるのではないか。
(発言9)
- ○ 国から市町村への負担転嫁の例として保母の例が出ているが、国の単価より実態の給料のほうが高いとしても、全部を国が負担するとすれば、国の負担とは、すなわち他の県民・市民の税負担になる。したがって、そういう実態を全部転嫁するという考えでよいかどうか考える必要がある。
今後の福祉は、より現場に近いところで行われることになるので、従事者の給与が適正な水準かどうか見直す必要がある。もっと民営化を進めるなどコスト引き下げの努力をすることが基本であって、実態のままの支払いを認め他の県市の税への転嫁を全国にやりだしたらきりがない。現場での苦労は分かるが、再編によってコストを抑えるため知恵が非常に重要なのではないか。
(発言10)
- ○ 単価が倍だから、公費で負担すべきといっているのではなく、基準単価がいつまでも勤続7年程度の水準のままでいっているのが実態に反しているのではないかと指摘したまでである。
また、自治体独自の配置基準の上乗せ等に対する負担を国に求めているものでもない。
(発言11)
- ○ 措置制度は、創設時と比べて社会の状況が相当変わってしまったので問題点が多いのは事実だが、これまで、何故そうなってきたのかをきちんと押さえる必要がある。福祉サービスが全部サービスになじむかどうかまで立ち入って検討すべきで措置制度が全て悪いかどうか、もう少し議論が必要と思う。
- ○ 措置は、もともとは生活保護の問題に遡る。これは、憲法25条で最低生活を国の責任で保護するため措置制度で行うことにしたもので、その他の福祉も生活保護との連動で最低生活を営み得ると同じような意味で公の責任で行うこととしてきた。しかし、その後に非貨幣的なニードの拡大に対し、従来の生活保護の仕組みをそのまま肥大化させてきた。したがって、利用者選択が可能なニーズも不可能なニーズも一緒にしたままであるために問題が生じており、そこを整理する必要がある。
- ○ 今までは、措置のやり方について、非常に固く考えてきたためにいろいろ問題が出てきた。措置が全部悪いというのではなく、措置制度の欠陥を明確にすると同時に、措置をどのように運用すれば利用者の意向を十分に反映できるかなど、もう少し議論をしなければならないのではないか。
- ○ 市場の論理からでてくる福祉の論理というものもあり得ると思うがは、現実には非常に問題が多いのではないかと思うので、幅広い論議が必要である。
(発言12)
- ○ 自己負担については、定率1割負担になる介護保険と、介護保険の対象にならない福祉サービスとの整合性をどう図るかが課題である。
- ○ 例えば、老人保健施設のように同じ事業をしていても、社会福祉法人、医療法人、民法法人等設置主体によって施設整備への補助も、運営規定も、税制もみんな違うのが現状である。制度間の格差をできるだけなくす必要があるのではないか。
- ○ 施設整備費について、今までの福祉の考え方を見直し、収入の一部から償還することを認めると思うことに賛成である。市場原理を導入する場合には、この点は不可欠ではないか。補助金だけに頼る時代は終わったと思う。
- ○ 社会福祉事業を見直しに当たっては、それが社会保障の見直しそのものにつながっていく分野もあるとの視野をもって議論を進めていく方がよいと思う。
6.日程等
次回は、2月10日(火)を予定していることを確認して閉会。
以上
問い合わせ先
厚生省社会・援護局企画課
電 話 (直)03-3591-9867