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平成13年2月5日

管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会報告書について


I 経緯

 今般の栄養士法改正の趣旨を踏まえ、高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士を養成することができるよう、平成12年10月より「管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会」(座長:小林修平和洋女子大学教授)を開催し、管理栄養士・栄養士養成のカリキュラム、教員の数及び資格要件、施設・設備等の見直しについて検討を進め、その内容を報告書としてとりまとめた。

II 概要

1.検討の背景

 生活習慣病の増加などの国民の健康課題に対応した管理栄養士を養成するため、平成12年3月に、栄養士法の改正が行われ、これまで「複雑困難な栄養の指導等」とされていた管理栄養士の業務について、「傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導」、「個人の身体状況、栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導」、「特定多数人に対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善上必要な指導等」と明文化された。
 管理栄養士が保健医療サービスの担い手として、その役割を十分に発揮するためには、高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を行う必要があり、このため平成14年4月の法施行に向け、管理栄養士養成施設カリキュラム等の見直しを図るために、検討を進めた。

2.検討の基本的考え方

 基本的視点:高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を図る。

(1)管理栄養士として必要な知識及び技術が系統的に修得でき、養成施設がカリキュラム編成に積極的に取り組めるよう、カリキュラムの体系化を図る。
(2)臨床栄養を中心とした専門分野の教育内容の充実、演習や実習の充実強化を図る。
(3)専門分野の教育内容の充実強化に対応できるよう、教員に関する事項を見直すとともに、施設・設備の見直しを行う。

 さらに、栄養士免許取得という観点から管理栄養士、栄養士養成カリキュラムの整合性を図りつつ、それぞれの専門性を明確にするため、管理栄養士養成施設とともに、栄養士養成施設のカリキュラム等についても見直しを行った。

3.管理栄養士養成施設のカリキュラム等について

 カリキュラムについては、「専門基礎分野」と「専門分野」に大別し、教育の内容については、従来の教育科目の規定から、「教育内容」による表記とともに「教育目標」を提示することとした。
 「専門基礎分野」については「社会・環境(人間や生活)と健康」「人体構造と機能、疾病の成り立ち」「食べ物と健康」を教育内容として位置づけた。「専門分野については「基礎栄養学」「応用栄養学」「栄養教育論」「臨床栄養学」「公衆栄養学」「給食経営管理論」を教育内容として位置づけた。
 また栄養評価・判定に基づいた適正な栄養管理を行うために、専門分野を横断した総合的な能力を養うことをねらいとする「総合演習」の設定や、実践活動の場で直接人に接する実習を推進することをねらいとする「臨地実習」の充実を図るとともに、教員の数及び資格要件、施設・設備についても、専門分野の充実強化を図る観点から見直しを行った。

4.栄養士養成施設カリキュラム等について

 カリキュラムについては、「社会生活と健康」「人体の構造と機能」「食品と衛生」「栄養と健康」「栄養の指導」「給食の運営」について教育目標を示し、それに応じて教員の数及び資格要件、施設・設備についても見直しを行った。


「管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会」報告書

【目 次 】
1.検討の背景
2.検討の基本的考え方
3.管理栄養士養成施設のカリキュラム等について
1)管理栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標について
2)教員の数及び資格要件について
3)施設・設備について
4.栄養士養成施設カリキュラム等について
1)栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標について
2)教員の数及び資格要件について
3)施設・設備について
5.おわりに

1.検討の背景

 近年、がん、心臓病、脳卒中、糖尿病等の生活習慣病が国民の健康問題の大きな課題となっている。これら疾患の発症と進行を防ぐには、生活習慣の改善、なかでも食生活改善が重要であり、栄養指導に求められる知識や技能は高度化・専門化している。
 平成10年6月には、新しい時代が求める栄養士像の形成に向けての検討結果として、「21世紀の管理栄養士等あり方検討会」報告書がとりまとめられた。そこでは、管理栄養士の業務の一部として傷病者への栄養指導を明確化することのほか、教育科目の充実、管理栄養士国家試験の改善、生涯教育の充実等が必要であることの提言がなされた。
 このような状況の中、平成12年3月、栄養士法の一部改正が行われ、これまで「複雑困難な栄養の指導等」とされていた管理栄養士の業務について、「傷病者に対する療養のため必要な栄養の指導」、「個人の身体状況、栄養状態等に応じた高度の専門的知識及び技術を要する健康の保持増進のための栄養の指導」、「特定多数人に対して継続的に食事を供給する施設における利用者の身体の状況、栄養状態、利用の状況等に応じた特別の配慮を必要とする給食管理及びこれらの施設に対する栄養改善上必要な指導等」と明文化された。また、管理栄養士の資格が「登録制」から「免許制」とされ、管理栄養士国家試験の受験資格の見直しにより専門知識や技能の一層の高度化が図られることとされた。
 管理栄養士が保健医療サービスの担い手として、その役割を十分に発揮するためには、高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を行う必要があり、このため平成14年4月の法施行に向け、管理栄養士養成施設カリキュラム等の見直しを図ることを目的とし、平成12年10月から「管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会」を開催し、具体的な検討を進めてきた。今般、次のとおり検討の結果をとりまとめたので報告する。

2.検討の基本的考え方

 高度な専門的知識及び技術を持った資質の高い管理栄養士の養成を基本的視点とし、下記の点に留意して検討を進めた。

(1)管理栄養士として必要な知識及び技術が系統的に修得でき、養成施設が教育内容の充実強化並びに効果的な教育をねらいとしたカリキュラム編成に積極的に取り組めるよう、カリキュラムの体系化を図ること。

(2)栄養評価・判定に基づく適切な指導を行うための高度な専門的知識及び技術全般を修得できるよう、臨床栄養を中心とした専門分野の教育内容の充実、演習や実習の充実強化を図ること。

(3)専門分野の教育内容の充実強化に対応できるよう、教員に関する事項を見直すとともに、施設・設備の見直しを行うこと。

 さらに、栄養士法上、管理栄養士の免許は、栄養士免許の取得を前提としているため、管理栄養士養成の課程では、栄養士としての養成をあわせて行うことになるが、一方で、管理栄養士、栄養士にはそれぞれの専門性があることから、各々の養成カリキュラムにその専門性を反映させる必要がある。このため、栄養士免許取得という観点から管理栄養士、栄養士養成カリキュラムの整合性を図りつつ、それぞれの専門性を明確にするため、管理栄養士養成施設とともに、栄養士養成施設のカリキュラム等についても見直しを行うこととした。

3.管理栄養士養成施設のカリキュラム等について

1)管理栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標 について

 管理栄養士養成施設カリキュラムの改正にあたっては、(1)管理栄養士が果たすべき多様な専門領域に関する基本となる能力を養うこと、(2)管理栄養士に必要とされる知識、技能、態度及び考え方の総合的能力を養うこと、(3)チーム医療の重要性を理解し、他職種や患者とのコミュニケーションを円滑に進める能力を養うこと、(4)公衆衛生を理解し、保健・医療・福祉・介護システムの中で、栄養・給食関連サービスのマネジメントを行うことができる能力を養うこと、(5)健康の保持増進、疾病の一次、二次、三次予防のための栄養指導を行う能力を養うことを基本的な考え方とした。
 これらの基本的考え方を踏まえ、カリキュラムについては、管理栄養士の専門性を高めることをねらいとし、その基盤となる「専門基礎分野」、高度で専門的な知識や技術を修得するための「専門分野」に大別した。また教育の内容については、従来詳細に規定された「教科科目」ごとに単位数の規定がなされていたが、各養成施設において教育目標に応じた教育内容の充実を図ることができるよう、「教育内容」による表記とし、あわせて「教育目標」を提示することとした。これにより、各養成施設においては、「教育内容」に示された領域の中で、「教育目標」に向けた独自の教科科目の設定を行い、それぞれの教科科目の単位数についても各養成施設の独自性を生かして設定することが可能となる。
 「専門基礎分野」については、「専門分野」における知識や技術を修得するための基盤となるものであり、管理栄養士という専門職種を目指す動機付けにつながることをねらいとし、「社会・環境(人間や生活)と健康」「人体の構造と機能、疾病の成り立ち」「食べ物と健康」を教育内容として位置づけた。
 「社会・環境(人間や生活)と健康」においては、人間や生活について理解を深め、社会や環境と健康の関わりについて理解すること、「人体の構造と機能、疾病の成り立ち」においては、人体の構造や機能を系統的に理解するとともに、主要疾患の成因、病態、診断、治療等を理解すること、「食べ物と健康」においては、食品の各種成分や人体に対しての栄養面や安全面等への影響や評価を理解することを教育目標とした。
 「専門分野」については、管理栄養士としての専門性を高めるために必要とされる「基礎栄養学」「応用栄養学」「栄養教育論」「臨床栄養学」「公衆栄養学」「給食経営管理論」を教育内容として位置づけた。いずれの教育内容においても、栄養評価・判定に基づいた企画、実施、評価の総合的なマネジメントを行うことのできる能力を養うという基本的考え方を踏まえた教育目標とした。
 「基礎栄養学」においては、栄養とは何か、その意義を理解することを目標とし、「応用栄養学」においては、身体状況や栄養状態に応じた栄養管理の考え方を理解することを目標とした。特に「応用栄養学」においては、妊娠や発育、加齢など人体の構造や機能の変化に応じた栄養状態の特徴を十分に理解することにより、栄養状態の評価・判定(栄養アセスメント)の基本的な考え方を修得するとともに、健康増進、疾病予防に寄与する栄養素の機能等を理解し、それらの健康への影響に関するリスク管理の基本的考え方や方法について理解することを目標とした。
 「栄養教育論」においては、健康・栄養状態、食行動、食環境等の評価・判定に基づき、栄養教育プロラグムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントする能力を養うこととし、そのために必要とされる健康・栄養教育に関する理論と方法を修得し、行動科学やカウンセリングの理論と応用についても理解することを目標とした。
 「臨床栄養学」においては、傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいた適正な栄養管理を行う能力を養うこととし、栄養アセスメントに基づいた栄養ケアプランの作成、実施、評価に関する総合的なマネジメントの考え方を理解し、具体的な栄養状態の評価・判定、栄養補給、栄養教育、食品と医薬品の相互作用について修得した上で、医療・介護制度やチーム医療における管理栄養士の役割について理解することを目標とした。特に近年高齢者に対する適正な栄養管理の必要性が増していることなど、ライフステージや疾患別の具体的な栄養管理方法の修得が求められているので、様々な身体状況(口腔状態を含む)や栄養状態に応じた栄養管理についても十分理解できる教育内容とすることが必要である。
 「公衆栄養学」においては、地域や職域等における保健・医療・福祉・介護システムの栄養関連サービスに関するプログラムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントする能力を養うこととし、栄養疫学、栄養政策の企画・評価について理解し、社会資源の活用や栄養情報の管理、コミュニケーションの管理などの仕組みについて理解することを目標とした。
 「給食経営管理論」においては、給食運営や関連の資源を総合的に判断し、栄養面、安全面、経済面全般のマネジメントを行う能力を養うこととし、マーケティングの原理や応用について理解するとともに、組織管理などマネジメントの基本的な考え方や方法を修得することを目標とした。
 「実験・実習」については、必要な技能を修得することをねらいとするものであり、教育効果を高めるためには講義の内容とどう組み合わせて行うかが重要であるので、教育目標を達成するために有効に運用できるよう、専門基礎分野全体での設定とした。専門分野についても教育内容全体を通した設定とし、各教育内容についてはそれぞれ1単位以上を行うものとした。
 また、栄養評価・判定に基づいた適正な栄養管理を行うためには、専門分野の各教育内容ごとに修得した知識、技能を統合する能力が必要とされることから、専門分野の各教育内容を包含する演習を行うこととし、これを「総合演習」として位置づけた。
 さらに「臨地実習」については、従来の校外実習という表記を改め、学内で修得する知識・技術を栄養管理の実践の場面に適用し、理論と実践を結びつけて理解できることをねらいとし、充実強化を図ることとした。特に栄養評価・判定が行われる場で直接人に接する実習を推進するよう、臨床栄養を中心とし、公衆栄養、給食経営管理のいずれかで(いずれか1つの分野でも可)4単位とした。なお、4単位には栄養士免許取得に係る校外実習1単位(給食の運営)が含まれるものである。また臨地実習施設については、実習指導者にふさわしい管理栄養士が従事している施設であることはいうまでもなく、将来的には実習指導者の研修や実習生を指導できる施設の認定についても検討すべきである。
 また単位数については、従来は「専門基礎分野」に位置づけられる科目に比重が置かれていたが、管理栄養士としての専門性を高めるためには「専門分野」に比重が置かれるべきものであり、臨床栄養を中心とした「専門分野」の充実を図ることとした。最終的に、「専門基礎分野」については38単位、「専門分野」については44単位とし、総単位数としての82単位は、管理栄養士の専門性を高めるために最低限確保すべき単位であると考えられる。
 なお、教育内容及び目標は別表1のとおりである。

2)教員の数及び資格要件について

 別表1に掲げる各教育内容を教授するのに適当な教員を有し、別表2に示すとおり、「専門基礎分野」を担当する専任教員については3人以上とし、また「人体の構造と機能、疾病の成り立ち」については、「主要疾患の成因、病態、診断、治療等を理解する」ことが教育目標としてあげられており、今回のカリキュラム改正の主旨でもあるので、専任教員のうち1人は医師であることが必要である。「専門分野」を担当する専任教員については各教育内容ごとに1人以上とし、「管理栄養士又は管理栄養士と同等の知識及び経験を有する者」であることが必要である。
 専任の助手の数は5人以上とし、このうち3人以上は専門分野を担当する者とし、専門分野を担当する助手は管理栄養士であることが必要である。

3)施設・設備について

 施設については、教育上必要な専用の研究室、実験・実習室とともに、栄養教育、臨床栄養、給食経営管理の実習を行うのに必要な設備を備えた専用の実習室を有することとし、必要な設備としては別表3の設備を備えることが望ましい。また、精密機器室、情報処理室を有することが望ましい。

4.栄養士養成施設カリキュラム等について

1)栄養士養成施設カリキュラム改正の基本的考え方、教育内容及び目標について

 栄養士養成カリキュラムの改正にあたっては、(1)栄養士が果たすべき専門領域に関する基本となる能力を養うこと、(2)栄養士に必要とされる知識、技能、態度及び考え方の総合的能力を養うこと、(3)栄養の指導や給食の運営を行うために必要な能力を養うことを基本的考え方とした。
 これらの基本的考え方を踏まえ、カリキュラムについては「社会生活と健康」「人体の構造と機能」「食品と衛生」「栄養と健康」「栄養の指導」「給食の運営」について教育目標を示し、専門的な知識及び技術の修得を図ることとした。
 「社会生活と健康」においては、社会や環境と健康との関係を理解するとともに、保健・医療・福祉・介護システムの概要について理解することを目標とした。
 「人体の構造と機能」においては、人体の仕組みについて構造や機能を理解し、食事、運動、休養などの基本的生活活動や環境変化に対する人体の適応について理解することを目標とした。
 「食品と衛生」においては、食品の各種成分の栄養特性について理解するとともに、食品の衛生管理の方法について修得することを目標とした。
 「栄養と健康」においては、栄養とは何か、その意義と栄養素の代謝及びその生理的意義を理解するとともに、性、年齢、生活・健康状態等における特徴及び各種疾患における基本的な食事療法について修得することを目標とした。
 「栄養の指導」においては、個人、集団及び地域レベルでの栄養指導の基本的役割や栄養に関する各種統計について理解するとともに、基本的な栄養指導の方法について修得することを目標とした。
 「給食の運営」においては、給食業務を行うために必要な食事の計画や調理を含めた給食サービス提供に関する技術を修得することを目標とし、校外実習1単位以上を含むものとした。また、給食業務に関するコンピュータを用いた情報処理の方法についても修得することが望ましい。
 教育内容及び目標については、別表4のとおりである。

2)教員の数及び資格要件について

 別表4に掲げる各教育内容を教授するのに適当な教員を有し、別表5に示すとおり、「社会生活と健康」「人体の構造と機能」「食品と衛生」を担当する教員については1人以上とし、「栄養と健康」「栄養の指導」「給食の運営」を担当する専任教員については各教育内容ごとに1人以上とし、「管理栄養士又は管理栄養士と同等の知識及び経験を有する者」であることが必要である。また「人体の構造と機能」を担当する教員のうち1人は医師であることが必要である。
 専任の助手の数は3人以上とし、このうち2名は管理栄養士であることが必要である。

3)施設・設備について

 施設については、教育上必要な専用の実験・実習室を有することとする。なお、集団給食実習室については必要な設備を備えた専用の実習室を有することとし、必要な設備としては別表6の設備を備えることが望ましい。

5.おわりに

 管理栄養士等の資質の向上をねらいとし、その教育養成における教育内容の充実強化を図るためには、カリキュラム、施設・設備の整備とともに、実際に教育を担う教員の養成に対する認識を深め、教員自身の資質の向上を図ることが極めて重要となる。社会の変化や国民の要請に的確に対応し、社会に貢献できる管理栄養士等を養成するために、どのような教育目標を設けるべきか、本来この答えを出すのが養成施設の教員の責務であるとも考えられる。教員の資質の向上については、教員自身の自己研鑽が必要であるとともに、教員の研修等環境整備が進められることも必要である。
 また、今回の検討過程において、教育目標に対応した教育内容をどう表記するかについて、「栄養学」と「応用栄養学」、「栄養指導」と「栄養教育」、「給食管理」と「給食経営管理」など、現行の教科科目名と新たな教育内容の表記の間で様々な議論がみられたが、管理栄養士養成という観点から専門分野に関する新たな学問体系について検討を進めるためには、教育内容が専門分野に値するものとして評価されるよう、各教育内容における研究の充実を図り、その専門性を明確にすることが必要である。
 一方、教育効果の高い、充実した臨地実習を実現するためには、実習指導者を含めた質の高い受け入れ施設の確保が必要であり、実習指導者の研修や施設の認定などについても具体化されることが望まれる。
 管理栄養士については今後もますます高度化・専門化した資質が求められることから、果たして4年の修業年限で十分であるかという議論も含め、管理栄養士等を取り巻く環境の著しい変化に常に対応していくための継続的な議論とその具体的方策の提示が必要とされる。
 そのためには、養成施設の自主的・自発的な取組みが不可欠であり、関係団体及び関係学会等関係者の理解と協力を得て、本報告書が提示した教育目標に向けた養成が着実に実現されるとともに、今後も社会の変化に対応すべく高度化・専門化に向け、必要に応じ随時、教育目標の見直しが行われるよう、養成施設を横断した教育内容及び目標についての継続的な検討が行われるよう切に望むものである。



別表1 管理栄養士養成施設のカリキュラム(教育内容及び目標)

  教育内容 単位数 教育目標
講義
又は
演習
実験
又は
実習
専門
基礎
分野
社会・環境(人間や生活)
と健康
10 〔目標〕人間や生活についての理解を深めるとともに、社会や環境が人間の健康をどう規定し左右するか、あるいは人間の健康を保持増進するための社会や環境はどうあるべきかなど社会や環境と健康の関わりについて理解する。

・人間や生活を生態系に位置づけて理解する。
・人間の行動特性とその基本的メカニズムを理解する。
・社会や環境と健康との関係を理解するとともに、社会や環境の変化が健康に与える影響を理解する。
・健康の概念、健康増進や疾病予防の考え方やその取り組みについて理解する。
・健康情報の利用方法、情報管理や情報処理について理解する。
・保健・医療・福祉・介護システムの概要を理解する。
人体の構造と機能
疾病の成り立ち
14 〔目標〕
1)人体の構造や機能を系統的に理解する。
・正常な人体の仕組みについて、個体とその機能を構成る遺伝子レベル細胞レベルから組織・器官レベルまでの構造や機能を 理解する。
・個体として人体が行う食事、運動、休養などの基本的活活動の機構、並びに環境変化に対する対応機構を理解する。

2)主要疾患の成因、病態、診断、治療等を理解する。
・生活習慣病、栄養疾患、消化器疾患、代謝疾患、感染症免疫・アレルギー疾患、腎疾患等の概要を理解する。
・疾病の発症や進行を理解する。
・病態評価や診断、治療の基本的考え方を理解する。
・人体と微生物や毒性物質との相互関係について理解し病原微生物の感染から発症、その防御の機構を理解する
食べ物と健康 〔目標〕食品の各種成分を理解する。また、食品の生育・生産から、加工・調理を経て、人に摂取されるまでの過程について学び、人体に対しての栄養面や安全面等への影響や評価を理解する。

・人間と食べ物の関わりについて、食品の歴史的変遷と食物連鎖の両面から理解する。
・食品の栄養特性、物性等について理解する。
・新規食品・食品成分が健康に与える影響、それらの疾病予防に対する役割を理解する。
・栄養面、安全面、嗜好面の各特性を高める食品の加工や調理の方法を理解して修得する。
・食品の安全性の重要性を認識し、衛生管理の方法を理解する。
小計 28 10  
 
 
 
専門
分野
基礎栄養学 *1) 〔目標〕栄養とは何か、その意義について理解する。
健康の保持・増進、疾病の予防・治療における栄養の役割を 理解し、エネルギー、栄養素の代謝とその生理的意義を理解す る。
応用栄養学 〔目標〕身体状況や栄養状態に応じた栄養管理の考え方を理解する。
妊娠や発育、加齢など人体の構造や機能の変化に伴う栄養状態等の変化について十分に理解することにより、栄養状態の評価・判定(栄養アセスメント)の基本的考え方を修得する。また、健康増進、疾病予防に寄与する栄養素の機能等を理解し、健康への影響に関するリスク管理の基本的考え方や方法について理解する。
栄養教育論 〔目標〕健康・栄養状態、食行動、食環境等に関する情報の収集・分析、それらを総合的に評価・判定する能力を養う。また対象に応じた栄養教育プログラムの作成・実施・評価を総合的にマネジメントできるよう健康や生活の質(QOL)の向上につながる主体的な実践力形成の支援に必要な健康・栄養教育の理論と方法を修得する。特に行動科学やカウンセリングなどの理論と応用については演習・実習を活用して学ぶ。さらに身体的、精神的、社会的状況等ライフステージ、ライフスタイルに応じた栄養教育のあり方、方法について修得する。
臨床栄養学 〔目標〕傷病者の病態や栄養状態の特徴に基づいて、適切な栄養管理を行うために、栄養ケアプランの作成、実施、評価に関する総合的なマネジメントの考え方を理解し、具体的な栄養状態の評価・判定、栄養補給、栄養教育、食品と医薬品の相互作用について修得する。特に各種計測による評価・判定方法やベッドサイドの栄養指導などについては実習を活用して学ぶ。また医療・介護制度やチーム医療における役割について理解する。さらにライフステージ別、各種疾患別に身体状況(口腔状態を含む)や栄養状態に応じた具体的な栄養管理方法について修得する。
公衆栄養学 〔目標〕地域や職域等の健康・栄養問題とそれを取り巻く自然、社会、経済、文化的要因に関する情報を収集・分析し、それらを総合的に評価・判定する能力を養う。また、保健・医療・福祉・介護システムの中で、栄養上のハイリスク集団の特定とともにあらゆる健康・栄養状態の者に対し適切な栄養関連サービスを提供するプログラムの作成・実施・評価の総合的なマネジメントに必要な理論と方法を修得する。さらに各種サービスやプログラムの調整、人的資源など社会的資源の活用、栄養情報の管理、コミュニケーションの管理などの仕組みについて理解する。
給食経営管理論 〔目標〕給食運営や関連の資源(食品流通や食品開発の状況、給食に関わる組織や経費等)を総合的に判断し、栄養面、安全面、経済面全般のマネジメントを行う能力を養う。マーケティングの原理や応用を理解するとともに、組織管理などのマネジメントの基本的な考え方や方法を修得する。
総合演習 *2) 〔目標〕専門分野を横断して、栄養評価や管理が行える総合的な能力を養う。
臨地実習   *3) 〔目標〕実践活動の場での課題発見、解決を通して、栄養評価・判定に基づく適切なマネジメントを行うために必要とされる専門的知識及び技術の統合を図る。
小計 32 12  
  合計 60 22  
82
*1)教育内容ごとに1単位以上とする。
*2)1単位は校外実習の事前・事後指導としても可。
*3)給食の運営の校外実習1単位を含む。


別表2 管理栄養士養成施設の教員の数及び資格要件

  教育内容 専任教員の数及び資格要件
教員 社会・環境(人間や生活)と健康 ・3人以上
「人体の構造と機能、疾病の成り立ち」を担当する専任教員のうち1人は、医師であること
人体の構造と機能
疾病の成り立ち
食べ物と健康
基礎栄養学及び
応用栄養学
・教育内容ごとに1人以上
・専門分野を担当する専任教員は、管理栄養士又は管理栄養士と同等の知識及び経験を有する者であること
栄養教育論
臨床栄養学
公衆栄養学
給食経営管理論
助手 ・5人以上
 うち3人以上は、専門分野を担当すること
・専門分野を担当する助手は、管理栄養士であること


別表3 管理栄養士養成施設の施設・設備

施設 教育上必要な専用の研究室、実験・実習室を有すること。
栄養教育実習室

臨床栄養実習室

給食経営管理実習室(実習食堂を含む)

精密機器室、情報処理室を有することが望ましい。
設備 栄養評価(臨床栄養を含む)に関する設備 ・計測用器具(身長計、体重計等)
・検査用器具(血圧計、採尿・採血用具一式等)
・健康増進関連機器(エルゴメーター、体脂肪計等)
・体力・疲労検査用器具
・エネルギー消費の測定機器
・臨床、生化学検査の測定機器
・要介護者等に対する食事介助等の機器及び器具
・経腸・静脈栄養用具一式
・ベッド
・標本及び模型(組織標本、人体解剖模型、人体骨格模型、人体内蔵模型等)
・栄養評価・情報処理のためのコンピュータ
栄養教育等に関する設備 ・視聴覚機器(スライド映写機、オーバーヘッドプロジェクター、教材用ビデオテープ、VTR装置一式等)
・栄養教育用フードモデル(各種)
給食経営管理に関する設備 ・HACCP概念に基づいた大量調理の衛生管理マニュアルに沿った調理施設設備(原則としてドライシステム)
・品質管理、作業管理測定機器
・冷温配膳車
・新調理システム用機器(クックチルシステム等)


別表4 栄養士養成施設のカリキュラム(教育内容及び目標)

教育内容 単位数 教育目標
講義
又は
演習
実験
又は
実習
社会生活と健康 〔目標〕社会や環境と健康との関係を理解するとともに、保健・医療・福祉・介護システムの概要について修得する。公衆衛生学、社会福祉概論を含むものとする。
人体の構造と機能 〔目標〕人体の仕組みについて構造や機能を理解し、食事、運動、休養などの基本的生活活動や環境変化に対する人体の適応について修得する。解剖学、生理学、生化学を含むものとする。
食品と衛生 〔目標〕食品の各種成分の栄養特性について理解するとともに、食品の安全性の重要性を認識し、衛生管理の方法について修得する。食品学(食品加工学を含む)、食品衛生学を含むものとする。
栄養と健康 10*) 〔目標〕栄養とは何か、その意義と栄養素の代謝及び生理的意義を理解するとともに、性、年齢、生活・健康状態等における栄養生理的特徴及び各種疾患における基本的な食事療法について修得する。栄養学、臨床栄養学概論を含むものとする。
栄養の指導 〔目標〕個人、集団及び地域レベルでの栄養指導の基本的役割や栄養に関する各種統計について理解する。また基本的な栄養指導の方法について修得する。栄養指導論、公衆栄養学概論を含むものとする。
給食の運営 〔目標〕給食業務を行うために必要な、食事の計画や調理を含めた給食サービス提供に関する技術を修得する。調理学、給食計画論、給食実務論を含むものとする。また、校外実習1単位以上を含むものとする。
小計 36 14  
合計 50  
*)「栄養と健康」「栄養の指導」において1単位以上、「給食の運営」においては学内実習1単位以上、校外実習1単位以上とする。


別表5 栄養士養成施設の教員の数及び資格要件

  教育内容 専任教員の数 及び資格要件 教員の資格要件 (非常勤にも適用)
教員 社会生活と健康 ・1人以上 ・「人体の構造と機能」を担当する教員のうち1人は、医師であること
人体の構造と機能
食品と衛生
栄養と健康 ・教育内容ごとに1人以上
・専任教員は管理栄養士又は管理栄養士と同等の知識及び経験を有する者であること
 
栄養の指導
給食の運営
助手 ・3人以上
 そのうち2人は管理栄養士であること
 


別表6 栄養士養成施設の施設・設備

施設 教育上必要な専用の実験・実習室を有すること。
給食実習室(実習食堂を含む)
設備 給食実習機器・用具 ・調理機器、加熱調理機器、配膳・配食用機器、洗浄用機器、格納棚、調理用具
・給食計画・実務のためのコンピュータ


(参考)

【検討会の開催状況】

第1回 平成12年10月25日(水)
第2回 平成12年11月16日(木)
第3回 平成12年12月 1日(金)
第4回 平成13年 1月29日(月)

【管理栄養士・栄養士養成施設カリキュラム等に関する検討会名簿】

(50音順)
○座長

 足達 淑子 (あだち健康行動学研究所所長)
 五十嵐 脩 (茨城キリスト教大学教授)
○小林 修平 (和洋女子大学教授)
 小山 秀夫 (国立医療・病院管理研究所医療経済研究部長)
 鈴木 久乃 (女子栄養大学教授)
 高橋 正侑 (ノートルダム清心女子大学教授)
 田中 平三 (東京医科歯科大学教授)
 中村 丁次 (聖マリアンナ医科大学病院栄養部長)
 武藤 泰敏 (椙山女学園大学教授)
 八倉巻 和子 (大妻女子大学教授)
 山崎 文雄 (聖徳栄養短期大学教授)
 山本 茂 (徳島大学教授)
 渡辺 昌 (東京農業大学教授)


問い合わせ先
厚生労働省健康局総務課生活習慣病対策室 古畑、河野
  内線:2343,2344
  電話:03-5253-1111(代表)
     03-3595-2245(直通)

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