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公 衆 衛 生 審 議 会 意 見 書
「精神病床の設備構造等の基準について」

平成12年12月13日



はじめに

 精神医療の提供体制に関しては、医療法により規定されているが、その医療法について、医療をとりまく状況の変化を踏まえ、今後とも良質な医療を効率的に提供することができるよう、改正案が平成12年10月3日に国会に提出され、同年11月30日に成立した。これに伴い、これまで、昭和33年に厚生省事務次官通知により定められていた精神病院の設備構造等の基準についても見直しを行い、同法の施行規則に盛り込むこととなり、その基準についての検討が必要となった。
 病床の種別ごとの設備構造等の基準に関しては、専ら医療審議会で検討されることとされているが、精神病床の基準に関しては、その専門性から公衆衛生審議会に付託され、当部会において検討することとなった。
 このため、平成12年6月22日に開催された当部会において、「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」を設置し、当該専門委員会としては、6回に渡って議論を重ねて報告書をとりまとめ、その報告書について、さらに当部会において審議を行い本意見書をとりまとめた。
 今後、本意見書の内容が、精神病床の設備構造等の基準に関する厚生労働省令の作成に向けての作業に充分に反映されることを期待する。

平成12年12月13日

公衆衛生審議会精神保健福祉部会
部会長 高橋 清久


1.基本的考え方

○ 精神病院の設備構造の基準に関して、現状では、精神病床以外の一般の病床と同じく、病床面積が4.3平方メートル、廊下幅が1.2m(両側居室1.6m)となっているが、現在の国民の生活水準にふさわしい療養環境という観点から、病床面積や廊下幅について、入院患者に快適な環境で医療サービスが提供されるよう見直すことが必要である。

○ 精神病院の人員配置の基準については、昭和33年の厚生省事務次官通知により、精神病院以外の一般の病院に比べて、緩やかな基準となっている。具体的には、主として精神病の患者を入院させる病院にあっては、医師数は患者48人に1人、看護婦等の数は患者6人に1人となっている。現在の精神医療を取りまく背景は、入院患者や国民が期待するニーズ、また医療職種の人数などの医療資源に関して、現行の医療法上の人員配置の基準を設定した時点のそれとは、大きく変化してきており、現在の精神医療に求められるニーズや整備し得る医療資源の量を踏まえて、時代に相応しい医療を確保できる人員配置の基準とすることが求められる。

○ 特に、医療法上の旧規定による総合病院(内科、外科、産婦人科、耳鼻科、眼科を有する100床以上の病院。以下「総合病院」という。)に設置されている精神病棟においては、精神疾患以外の重度の身体的疾患(以下「合併症」という。)を持つ入院患者に対する医療を提供する機能や、地域において単科の精神病院との連携による一体的な精神医療の提供が求められていること、また、現行の医療法上、精神病院以外の一般の病床と同じ基準により人員が整備されていることを踏まえると、総合病院や大学病院(大学医学部附属病院。ただし、特定機能病院及び単科の精神病院を除く。以下同じ。)の精神病棟においては、少なくとも新たな医療法上の一般病床と同じ人員配置の水準を確保すべきと考えられる。

○ また、早期の社会復帰を目指した積極的な医療の提供が求められていること、救急医療、児童・思春期精神医療、老年期痴呆やうつ病に対する医療、精神作用物質による急性中毒又はその依存症に対する医療などの多様なニーズに応じた専門医療の提供が望まれていること、さらに措置入院や精神保健福祉法第34条に基づく移送制度による医療保護入院などの政策的に必要な医療の充実を図るべきことなど、精神医療を取りまく現状を踏まえると、今後、こうした医療を提供するための人員配置の基準のあり方について、検討を進めていくことが求められる。なお、措置入院などの政策的に必要な医療の提供のあり方については、公私の役割分担なども含め幅広く検討することが必要である。

○ なお、精神病床の設備構造等の現状について論じるにあたって、医療の提供側からの認識のみならず、現に医療を受けている精神障害者の側からの認識を重視して検討する必要がある。

2.設備構造の基準

○ 具体的な設備構造の基準としては、新たな医療法上の療養病床の基準である病床面積6.4平方メートル以上、廊下幅1.8m以上(両側居室2.7m)と同等とするべきである。なお、機能訓練室やデイルームなど、精神科医療の特性を踏まえた設備の面積に関して、その算定のあり方については、今後、検討が必要である。

○ また、1室当たりの病床数や、病室内の病床の配置についても、現在の国民の生活水準に照らして、入院患者のプライバシーの確保の観点から十分配慮されることが求められる。

○ 精神病院の設備構造に関して、現行の施行規則においては、「危害防止のための」など、精神障害者の人権上の観点から、適切でない考え方が盛り込まれている。したがって、新たな施行規則を作成するにあたっては、精神障害者の人権を最大限に尊重した規定とすべきである。

3.人員配置の基準

(1)医師

○ 精神科医師数については、医師・歯科医師・薬剤師調査によれば、平成8年が1万93人、平成10年が1万586人であり、このうち病院に勤務している精神科医師数は、平成8年が9千327人、平成10年が9千783人であり、病院に勤務する精神科医師は、年間約200人が増加している。

○ 現在の医療法の人員配置の水準を満たしていない医療機関は、平成10年度医療監視結果によると、1千193の精神病院のうち346病院、全体の29%となっている。また、充足率が80%未満の病院は、145病院、全体の12.2%の現状にある。

○ 現在の医療法の主として精神病の患者を入院させる精神病院の人員配置の基準である患者48人に1人の基準を達成するためには、推計によれば、少なくとも約700名の医師を新たに確保することが必要である。

○ さらに、精神病床以外の一般の病床と同等の患者16人に1人の基準を達成するためには、推計によれば、少なくとも約1万5千人の医師を新たに確保することが必要であり、精神科医師の年間の増加人数を踏まえると、短期間に患者16人に1人の基準を達成することは難しいものと考えられる。

○ しかしながら、合併症を有する患者等の治療のためには、必要な病床数を確保するとともに、その病床について、精神病床以外の一般の病床と同等の基準とするべきであると考えられる。平成8年患者調査によれば、精神疾患以外の疾病による人口10万対入院者数が合計で約1千人であり、これから推計すると合併症に対応する病床として少なくとも3千500床を確保する必要がある。

○ 一方、一定の診療科目を有する総合病院の精神病床は、約2万床がある。

○ 総合病院の精神病棟における精神科医師の配置状況については、日本総合病院精神医学会の調査によれば、全体の54%の病院が、既に、精神病床以外の一般の病院の人員配置基準である患者16人に1人の医師が充足されており、81%の病院が患者32人に1人の医師が充足されている現状にある。

○ したがって、総合病院や大学病院の精神病棟においては、合併症に対応する役割も果たす施設として、精神病院以外の一般の病院と同等の水準を確保することが必要であると考えられる。

○ なお、今回、総合病院や大学病院の精神病棟に患者16人に1人の医師の配置基準を求めているが、今後は、早期の社会復帰を目指した積極的な医療を提供する病棟や、措置入院患者を入院させるなどの政策的な役割を担う病棟などについては、精神病床の機能分化の実態や地域精神医療の基盤整備の状況に即して、医師の配置基準の見直しを行っていくことが求められる。

○ そのためにも、精神科医師の養成確保が必要であり、大学教育や卒後臨床研修における精神科の充実強化や、精神科医療が研修医等にとって魅力あるものとなるよう診療内容のさらなる充実が求められる。

(2)看護婦等

○ 精神病床のみを有する病院の看護婦等の人数については、平成10年医療施設調査(動態調査)・病院報告によれば、平成8年が6万9千974人、平成9年が7万2千62人、平成10年が7万4千132人であり、年間約2千人以上が増加している現状にある。

○ 現在の医療法上の看護婦等の人員配置の基準を満たしていない医療機関について は、平成10年度医療監視結果によると、1千193施設のうち53病院、全体の
4.4%となっている。また、充足率が80%未満の病院は、10病院、全体の
0.8%となっている。

○ 診療報酬上の看護婦等の配置については、医療法上の基準以上の配置が定められており、例えば精神科急性期治療病棟Aが適用されている病棟においては、看護婦等が患者2.5人に1人、精神科急性期治療病棟Bが適用されている病棟においては、看護婦等が患者3人に1人となっている。平成10年の精神保健福祉課調によると、看護婦等の配置状況が、患者3人に1人以上となっている病院は、全体の36.3%、患者4人に1人以上で61.3%、患者5人に1人以上で76.9%である。

○ このような実態を踏まえると、現在の主として精神病の患者を入院させる病院における患者6人に1人という看護の基準を引き上げるべきであると考えられる。

○ 看護婦及び准看護婦の確保について、約4割の病院が患者4人に1人の水準を確保していない現実を踏まえると、患者5人に1人を確保することが限度であるとの意見もあったが、主として精神病の患者を入院させる病院について、全ての病院に患者4人に1人の看護婦等を配置したと仮定すると、約7万6千人の看護婦等が必要であるが、現在の看護婦等が約7万4千人であることを踏まえると、患者4人に1人以上の水準を確保すべきである。

○ 一方、総合病院における精神病棟に関しては、日本総合病院精神医学会の調査によれば、調査を行った病院の93%が既に患者3人に1人以上の看護体制となっている現状から類推すると、患者3人に1人以上の水準の確保は、可能なものと考えられる。

○ しかしながら、人員配置の基準を満たすための看護婦確保については、看護教育の中で実習などを通じて精神科看護の重要性や魅力について看護学生に対する啓発と教育を行うこと、奨学資金の貸与制度を充実すること、就職に向けての説明会を積極的に開催すること、看護婦等が働きがいのある精神病院づくりを行うことなどの対策が必要と考えられ、関係者の努力が求められる。

(3)薬剤師

○ 精神病床のみを有する病院の薬剤師の人数については、平成10年医療施設調査(動態調査)・病院報告によれば、平成8年が2千756人、平成9年が2千820人、平成10年が2千869人であり、年間約50人が増加している現状にある。

○ 現在の主として精神病の患者が入院する病院における薬剤師の人員配置の基準である患者150人に1人の基準を満たしていない医療機関は、平成10年医療監視結果によれば、全体の27.2%である。

○ 新たな医療法上の薬剤師の配置の基準としては、一般病床においては患者70人に1人、療養病床においては患者150人に1人となっている。

○ 精神病床における薬剤師の配置の基準として、一般病床と同等の基準とした場合、推計によれば、現在の2倍程度の数の薬剤師が必要となるが、薬剤師配置基準は、平成13年12月を目途に見直すことになっており、精神病床における配置基準についても、その際、改めて見直すことになるので、当面、療養病床における基準と同等とすることが適切と考えられる。

○ しかし、総合病院や大学病院の精神病棟にあっては、合併症を有する患者に対する医療を提供することが多いという意味からは、他の診療科と処方の内容は同等であり、新たな医療法上の一般病床と同等の患者70人に1人の水準を確保することが求められる。

○ 将来的には、精神病院に入院する患者の高齢化による合併症への対応など、精神病院における薬剤の種類や処方の件数が増加することが予測される。また、向精神薬も相互作用等による重大な副作用を生じる危険性があり、薬剤師が、薬剤使用の安全確保及び治療効果の向上に、寄与できるよう配慮する必要がある。その一方で外来患者に対する処方において医薬分業が推進されることにより、病院で調剤する必要性が減少することも予測されることから、今後、精神医療における調剤の状況について把握し、薬剤師の配置基準を見直すことが必要である。

4.おわりに

○ この報告書は、精神病床の機能分化が未だ成熟していない状況や長期入院患者の療養のあり方が未だ具体的に提言されていない状況の中で、精神病床の設備構造等の基準のあり方をとりまとめたものである。

○ したがって、地域精神保健福祉対策の充実を喫緊の課題として取り組むとともに、より良質な精神科医療を提供するために、精神病床の機能分化や長期入院患者の療養のあり方を含め、21世紀の精神医療の方向性について、別途、検討を開始し、人員配置に関する経過措置の期間とされている医療法施行後5年の間に一定の方向を示すべきである。

○ そのためには、

・ 精神病床の機能分化のあり方
・ 早期の社会復帰を目指した積極的な医療、措置入院患者を入院させるなどの政策的に必要な役割を担う医療、児童思春期や精神作用物質による急性中毒又はその依存症の患者等のための専門的な医療等を提供するための体制整備のあり方
・ 地域精神保健福祉対策の充実等による、長期入院患者の解消に向けての具体的な対策
・ 国民が利用しやすい精神科医療の環境整備に向けての方策
・ 公私の病院の役割分担
など、21世紀の精神医療がどうあるべきかについて明確な理念を掲げつつ、検討を行うべきである。

○ その上で、提言を踏まえた計画を策定し、それを国民の前に示しながら、精神病床の設備構造等の基準を見直して行くことが必要である。



【資料】

資料1 精神科医師数(医師・歯科医師・薬剤師調査より)

  平成6年 平成8年 平成10年
総 数 9,514 10,093 10,586
病院に勤務 9,024 9,327 9,783
診療所に勤務 1,570 1,901 2,060
注)病院と診療所に従事している場合、各々に重複計上している。


資料2 精神病院における医師の充足率別病院数(平成10年度医療監視結果より)

  60%
未満
60%
〜70%
70%
〜80%
80%
〜90%
90%
〜100%
100%
以上
病院数 51 51 43 98 103 847
累積% 4.3% 8.5% 12.2% 20.4% 29.0% 100%
注)精神病院数:1,193施設


資料3 旧医療法上の旧規定による総合病院に勤務する精神科医1人当たりの病床数
 (日本総合病院精神医学会調より:1999年139施設を調査)

  1〜16人 16〜32人 32〜48人 48人以上
割合 54% 27% 13% 6%


資料4 精神病院における看護婦の充足率別病院数(平成10年度医療監視結果より)

  60%
未満
60%
〜70%
70%
〜80%
80%
〜90%
90%
〜100%
100%
以上
病院数 1 3 6 17 26 1,140
累積% 0.1% 0.3% 0.8% 2.3% 4.4% 100%
注)精神病院数:1,193施設


資料5 看護婦等の配置状況(平成10年精神保健福祉課調::1,663施設)

  3対1以上 4対1以上
病院数(累積) 603 1,020
36.3% 61.3%


資料6 精神病床のみを有する精神病院の看護婦等の人数の年次推移
(平成10年医療施設調査(動態調査)・病院報告より)

  平成8年 平成9年 平成10年
看護婦等の人数 69,974 72,062 74,132


資料7 精神病床のみを有する精神病院の薬剤師の人数の年次推移
(平成10年医療施設調査(動態調査)・病院報告より)

  平成8年 平成9年 平成10年
薬剤師の人数 2,756 2,820 2,869


精神病床の設備構造等の基準に関する検討経過

○ 公衆衛生審議会精神保健福祉部会

・ 6月22日(木) 「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」の設置の決定
・12月11日(月) 同専門委員会の報告及び公衆衛生審議会の意見のとりまとめ

○ 精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会

第1回 7月24日(月) 設備構造及び人員配置の現状等について検討
第2回 8月 7日(月) 関係者(当事者)からの意見聴取
第3回 8月21日(月) 基準案の検討(議論のためのメモ)
第4回 9月12日(火) 基準案の検討(報告書のたたき台)
第5回 11月14日(火) 基準案の検討(報告書のたたき台)
第6回 12月 5日(火) 報告書案の検討


「精神病床の設備構造等の基準に関する専門委員会」委員名簿

  池上 直己 (慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教授)
  池原 毅和 (全国精神障害者家族会連合会常務理事)
  伊藤 哲寛 (全国自治体病院協議会常務理事)
  伊藤 弘人 (国立医療・病院管理研究所医療経済研究部主任研究官)
  岡谷 恵子 (日本看護協会専務理事)
  金子 晃一 (日本総合病院精神医学会)
吉川 武彦 (国立精神・神経センター精神保健研究所長)
  末安 民生 (日本精神科看護技術協会)
  竹島 正 (国立精神保健研究所精神保健計画部長)
  津久江一郎 (日本精神病院協会副会長)
  西島 英利 (日本医師会常任理事)
  野中 邦子 (茨城県精神医療審査会委員)
  山崎 學 (医療法人慈光会病院院長)

○は委員長(五十音順、敬称略)


公衆衛生審議会精神保健福祉部会委員名簿

  浅井 昌弘 (慶應義塾大学医学部精神神経科学教授)
  阿彦 忠之 (山形県村山保健所長)
  池原 毅和 (全国精神障害者家族会連合会常務理事)
  伊藤 哲寛 (全国自治体病院協議会常務理事)
  大熊 由紀子 (朝日新聞論説委員)
  岡谷 恵子 (日本看護協会常務理事)
  北川 定謙 (埼玉県立大学学長)
  吉川 武彦 (国立精神・神経センター精神保健研究所長)
  木下 敬之助 (全国市長会評議員(大分市長))
  窪田 彰 (日本精神神経科診療所協会理事)
  小西 聖子 (武蔵野女子大学人間関係学部教授)
  佐野 光正 (静岡県精神保健福祉センター所長)
  白倉 克之 (国立療養所久里浜病院院長)
  高杉 豊 (大阪府健康福祉部長)
高橋 清久 (国立精神・神経センター総長)
  津久江一郎 (日本精神病院協会副会長)
  富永 清次 (全国町村会理事)
  西島 英利 (日本医師会常任理事)
  新田 勇 (東芝顧問)
  牧野田恵美子 (日本女子大学人間社会学部教授)
  町野 朔 (上智大学法学部教授)
  谷中 輝雄 (全国精神障害者社会復帰施設協会会長)
  吉澤 雅子 (日本弁護士連合会高齢者・障害者の権利に関する委員会委員)

○は部会長(五十音順、敬称略)


照会先
厚生省大臣官房障害保健福祉部精神保健福祉課
(森 内線3056)


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