平成12年7月
生活環境審議会水道部会
1.水道に関する課題
○ 96%を超える高い普及率に達し、国民の生活及び社会の諸活動全体の基盤として不可欠な存在となっている水道については、引き続き、安全に飲める水の安定的な供給という基本的な水準を確保しつつ、それぞれの地域の利用者が求める、より高い水準での供給を目指す必要がある。
○ 水道は、循環資源である水を利用するものであり、より良好な原水を安定して得るためには、水の循環系が健全に機能していることが重要である。しかし、水源の水質汚濁や流域での様々な化学物質の流入、近年の少雨化傾向による水資源の安定性の低下など、水循環全体に係る問題が生じており、水道にとっての課題となっている。
○ 水道水の安全に関しては、クリプトスポリジウム等の病原性微生物による新たな健康被害が生じており、また、水道として監視が必要な化学物質等が増加するなど、水質管理が高度化・複雑化しており、その取り組みの強化が課題となっている。また、水道法の規制対象となっていない水道において、感染症の発生など衛生上の問題が生じており、これらの管理の徹底を図ることも重要である。
○ 水道水の安定供給に関しては、渇水や震災時にも、一定のサービス水準を確保するため、水源の安定性の向上、施設の耐震化、配水池容量の増強、緊急時の給水拠点の整備等による施設水準の向上が課題となっている。
○ 加えて、水道施設の老朽化が全国的に進んでおり、それに伴う施設の事故による断水等の被害がしばしば発生するなど、施設の計画的な更新が緊急の課題となっている。
2.施策の基本的な方向
○ 利用者である国民の立場から、より安心して利用できる水道を実現するためには、広く健全な水循環の視点から、関係者と連携した取り組みを強化するとともに、水道固有の取り組みについて、政策的な財政支援の充実や関係する法制度の充実を図るなど、総合的な施策を推進する必要がある。
○ 健全な水循環の観点からは、水源の水質管理の強化、水資源の効率的な利用・調整の推進、取排水体系の見直し等の施策につき、関係者との連携を強化し、総合的な取り組みを推進する必要がある。また、これらの取り組みを通じて、上下水道によって形成される人為的な水循環も含めた流域の総合的な水管理について、水道の立場からも積極的に検討する必要がある。
○ 水道事業に対する財政支援は、受益者負担の原則から、一律ではなく、政策措置として限定的に行われており、従来は、ダム等の水資源開発施設の整備や、これを軸とした広域水道の整備に重点を置いて行われてきたが、水質管理の強化、渇水や震災に備えた施設水準の向上、老朽化施設の更新等がより重要な課題となっており、これらに対する政策的な支援を強化する方向で見直す必要がある。
○ また、上記の課題に的確に対応するためには、水道事業はもとより、一般に利用される水道全体について、管理体制の充実・強化を図る必要があり、その観点から、水道事業における経営基盤の強化を通じた管理体制の充実、水道法上の未規制水道における管理体制の強化等について、制度的な手当を検討する必要がある。
○ 以下では、より安心して利用できる水道を実現する上で、緊急に取り組むべき水道固有の施策について、主として制度的な面から検討を行い、当面講ずるべきものを整理することとする。
3.水道事業の経営基盤の強化を通じた管理体制の充実
○ 水道事業は、市町村経営を原則として、高い普及率と安心して飲める水道を全国で実現してきたが、現在約1万1千の事業があり、その大半は経営基盤の脆弱なものであるため、先に述べた課題に対応する上で、多くの事業が技術上、財政上の困難に直面している。
○ 技術面では、水質管理の高度化・複雑化に伴い、常時安全な水を供給するために必要な職員の確保、設備の充実等の体制の充実が必要となっているが、十分な取り組みがなされない場合、安全な水道水の供給に支障が生じることが懸念される。
○ また、財政面では、全般に水需要が頭打ちとなり、料金収入の伸びが期待できない中で、水質管理の強化、渇水や震災に備えた施設水準の向上、老朽化施設の更新など、いずれも収益の増加につながならない投資を着実に行っていく必要があるが、適切な時期に十分な投資が行えない場合、老朽化に伴う施設の事故等による断水や水質基準違反の発生が懸念される。
○ 水道事業者の自己責任が強く求められる中、自立した水道として、その責任を果たすための取り組みを着実に実施するには、技術及び財政の両面について安定した基盤を有することが不可欠であり、水道事業者にとって経営基盤の強化が急務と言える。
○ 経営基盤を強化するための水道事業の運営形態には、
○ 水道事業者が、それぞれの事情に応じて、最適な運営形態を選択できるよう、その制度上の選択肢を充実させる観点から、以下の方向で、検討を進める必要がある。
○ さらに、水道事業者における経営基盤強化の取り組みを推進する観点から、ガイドラインの策定等による技術的な支援や、国庫補助等の財政的な支援の充実を検討する必要がある。
4.水道法上の未規制水道における管理体制の強化
(1)利用者の多い未規制水道における管理体制の強化
○ 水道法による規制は、罰則を伴う強い規制措置を内容とするものであり、個人の用途に近い小規模な水道は対象としておらず、一定以上の多数の者に対して飲用に適する水を供給する事業又は施設に限定して適用されている。
○ 水道事業以外の自家用等の水道(専用水道)については、居住者に着目して、100人を超える居住者に給水する施設のみを規制対象としているが、居住者を持たない水道の中には、学校やレジャー施設の水道など、給水能力が大きく、利用者の多い施設があり、管理の不徹底から感染症の集団発生を引き起こしている事例もみられることから、その管理体制の強化を図る必要がある。
○ そのため、専用水道として現在規制されている施設と、同等以上の給水能力を持つ水道については、居住者の有無に関わらず、専用水道としての規制を適用し、管理の徹底が図られる方向で検討する必要がある。
(2) 受水槽水道における管理体制の強化
○ 水道事業者から水の供給を受けている、ビル等の建物内の水道(受水槽水道)は、マンション等における給水のための一般的な施設として、全国で90万件近く設置されている。このうち、簡易専用水道(受水槽の有効容量10m3超)としての規制を受ける約18万件の施設では、設置者に対して管理基準の遵守と管理状況の検査の受検が義務づけられているが、受検率は約85%にとどまっており、管理に問題のある施設も一部にみられる。また、規制を受けていない約71万件の小規模施設(10m3以下)においては、管理の不徹底による衛生上の問題がみられることが多く、利用者の多くが水質面での不安を感じている。
○ 給水栓(蛇口)まで水道事業者が責任を持って関与している一般家屋の給水装置と異なり、ビル等の受水槽水道については、水道事業者は制度上関与しない整理となっているが、どちらも水道事業者から供給された水を実際に利用するための設備であり、同じ役割を持つものであることから、水道利用者の立場を考えれば、受水槽水道であっても、安心して水が利用できる仕組みを検討する必要がある。
○ 比較的規模の小さな受水槽水道についての有効な対策として、受水槽を介さずに給水栓まで連続して給水を行う直結給水の導入が、都市の水道事業者を中心に推進されており、直結給水にすれば水道事業者が給水栓まで責任を持って関与することになり、水質面の不安が解消されることから、その普及を積極的に支援していくことが重要である。しかし、一方で、現に多くの者が利用している受水槽水道の設置数は、なお漸増している現状にあり、受水槽水道の管理体制の強化も併せて推進する必要がある。
○ そのためには、特に現在規制の行われていない小規模の受水槽水道について、設置者による管理の徹底を促すような、実効ある仕組みを検討する必要がある。その際、水道事業者が、給水設備に関する専門的な知識を有していること、水の供給者であること、設備として同じ役割を持つ給水装置に必要な関与を行っていること等を考慮すれば、水道事業者が適切に関与することにより、実効ある仕組みが可能になると考えられる。
○ その方向としては、水道事業者の関与により、受水槽水道の規模によらず管理状況の検査が実施され、管理の徹底が促されることが望ましいが、具体的な関与の程度、そのために必要な権限等については、給水装置に対する水道事業者の関与の現状と、簡易専用水道に対する現行の指定検査機関の検査体制及び衛生行政の関与の現状を踏まえて、関係者と十分調整する必要がある。
5.その他
○ 水道事業者が、料金収入を基礎に必要な投資を行っていく上で、水道利用者の理解は不可欠であり、そのためには、利用者に対して事業に関するコスト等の客観的な情報を、分かりやすい形で提供することが極めて重要である。
また、水道の水質に関する情報など、水道利用者が知りたい情報についても、積極的な提供が求められている。そのため、水道事業者の責務として、水道利用者に対する情報提供を制度上位置づけ、積極的に行っていくことを検討する必要がある。
○ 水道事業における水質管理の重要性が増すとともに、業務の負担も大きくなっており、水質管理をより効率的・合理的に実施することが必要となっている。そのため、水道事業者が、水道利用者の理解を得ながら、毎年度、水道水質管理のための計画を策定し、これに基づく水質管理を行い、その結果を公表していくことを検討する必要がある。