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知的障害者の高齢化対応検討会報告書

平 成 1 2 年 6 月
知的障害者の高齢化対応検討会

はじめに

 我が国における65歳以上人口の比率は、1980年には9.1%であったものが、1999年には16.7%に達し、急速な勢いで高齢化が進んでいる。
 知的障害者についても、入所更生施設の利用者のうち、60歳以上の者の比率が、1985年には2.3%だったものが、1999年には8.8%になるなど、高齢化が着実に進行している。
 このような中で、2000年度からは、高齢者介護サービスの充実を図るために介護保険制度が発足し、また、個人の自立を基本としその選択を尊重した制度を確立するとともに、地域での生活を総合的に支援するための地域福祉の充実に向けた「社会福祉基礎構造改革」への動きが始まっている。それらの改革に併せて、知的障害者福祉法が改正され、同法の目的として、「知的障害者の自立と社会経済活動への参加の促進」が明記されることになった。
 このような背景を踏まえつつ、本検討会においては、知的障害者の高齢化に対応して、地域生活の支援と施設における支援の両面から、今後どのような保健福祉サービスや配慮が求められるか、また、高齢者施策との関係をどう考えるかを中心に検討を行ったものである。検討期間の制約もあり、本報告書では、基本的な方向を示すに留まった部分もあるが、それらについては、関係者による更なる検討に期待したい。

1.地域生活支援について

 高齢化した知的障害者については、従来、心身の変化に応じた健康の保持や安定した生活に力点が置かれ、入所施設による処遇を重視する傾向があったが、一定の支援があれば、地域生活も可能であり、それがノーマライゼーションの理念にも沿うものである。そのため、今後は、地域での主体的な生活の確保を支援する施策を積極的に推進すべきである。

(1)住まいについて

・高齢化した知的障害者についての地域での生活支援については、小グループの生活単位であるグループホームや福祉ホームを積極的に活用すべきである。
・グループホームについては、就労要件が撤廃され、かつ、ホームヘルパーを派遣できるようになったことにより、高齢の知的障害者も利用しやすくなったが、健康管理など支援内容の検討が必要である。また、利用料の低廉な公営住宅の積極的な利用を図っていく必要がある。
・福祉ホームについても、就労要件が撤廃され、かつ、ホームヘルパーを派遣できるようになったが、今後、一層の普及を図っていくためには、現在10名の最低定員の見直しを含む職員体制の在り方について検討していく必要がある。
・アパート等の民間住宅の確保が困難な、単身の知的障害者について、公営住宅の利用の道を開くとともに、優先入居の対象としても検討していく必要がある。

(2)在宅福祉サービスについて

・在宅福祉サービスについては、利用者にとって使い勝手のよい制度にしていくとともに、自己決定を尊重する考え方から、サービスのメニューを豊富にするという観点が重要である。
・ホームヘルプサービスについては、対象が重度者から中軽度者にまで拡大されたが、今後、量と質についての充実が課題である。特に、知的障害者の障害特性に十分理解のあるホームヘルパーの養成・研修を進めていくことが肝要である。
・デイサービスについては、施設要件が緩和されたが、学校の空き教室の活用や入所施設等への併設の促進により、実施施設を増やしていく必要がある。また、健康の維持・増進に資するような、高齢化に対応したメニューを検討すべきである。
・地域生活の一つの支援方策として、配食サービスが考えられるが、高齢者向けの配食サービスと一体的な実施を検討していく必要がある。その際、知的障害者施設の給食設備を活用することも考えられる。
・移送サービスについては、現行のホームヘルプサービスの外出介護の要件緩和を含めて検討していく必要がある。
・知的障害者が、様々な福祉サービスを適切かつ円滑に利用できるよう、サービスの内容や利用手続きについて、本人にもわかりやすいパンフレットを作成する等、情報提供のあり方に配慮すべきである。

(3)余暇活動等の支援について

・生活の質(QOL)の向上の観点から、余暇活動や本人によるボランティア活動等の支援のあり方について検討していく必要があるが、その際、小グループ単位での活動の支援を考慮すべきである。
・個人の余暇活動等の支援については、ホームヘルパーによる外出介護やボランティアによる付き添い等を積極的に活用することも考えられる。
・余暇活動等の場としては、老人福祉センターや一般の福祉センター、各種会館等の施設を、幅広く円滑に利用できるよう配慮すべきである。

(4)地域での支え合いについて

・地域の人々が知的障害者を正しく理解し、地域で支援していくための広報、啓発活動の在り方について検討する必要がある。
・知的障害者の活動を支援するボランティアの育成を図っていく必要がある。
 その際、障害児(者)地域療育等支援事業のコーディネーター事業を活用することが考えられる。

(5)就労及び退職について

・高齢になっても働く意欲のある人には、就労の場を用意していく必要がある。そのために、事業主の理解を促進するための研修等を、労働省との連携を図りながら、積極的に行っていくべきである。
・退職等による離職後の生活維持に関しては、各種年金・手当制度の他、生活保護制度等の活用が考えられる。このため、知的障害者相談員や生活支援ワーカー等は、これらの制度についての十分な知識を有し、その利用について適切な援助を行えるようにする必要がある。

(6)権利擁護について

・権利擁護の観点から、知的障害者が福祉サービス(契約締結等を含む。)を利用しやすいように支援していく必要がある。
・成年後見制度を補完する「地域福祉権利擁護事業」について、知的障害者の地域生活の支援のために、福祉サービスの利用援助のほか、金銭管理や苦情解決も含めて、いかに有効に活用していくかが今後の課題である。
・今回、「福祉サービス利用援助事業」が第二種社会福祉事業に位置づけられ、都道府県社会福祉協議会以外にも社会福祉法人や公益法人、特定非営利活動法人(NPO)等多様な主体がこの事業を実施できるようになったことから、今後、各種団体による積極的な取り組みが望まれる。
・「障害者110番」運営事業なども、権利擁護を図るものとして制度化されているが、知的障害者の利用の促進を図るため、電話番号を記したカードの配付等適切な情報提供が求められる。

(7)健康管理と医療について

・市町村が実施している老人保健法に基づく「健康診査」の機会が十分得られるよう、配慮する必要がある。また、障害児(者)地域療育等支援事業の中の「訪問による健康診査」も積極的な活用が望まれる。
・生活習慣病やその合併症のリスクを抑えるために、食生活の改善等の予防的な措置や周囲の人々を含めた健康教育を推進していく必要がある。そのために、保健婦の積極的な活用を図るべきである。
・また、高齢化に伴う疾病やリスクに対応していく必要がある。そのために、医療保険制度等における訪問看護制度の積極的な利用が考えられる。
・保健婦や訪問看護婦等が、知的障害者の障害特性についての十分な理解をもって業務に従事できるよう、その研修についても考慮する必要がある。
・知的障害者が医療(歯科を含む)を受けやすい体制のあり方についても、今後の課題として検討する必要がある。

(8)相談・支援体制の整備について

・生活支援ワーカーが、通勤寮のほかに、更生施設や授産施設に配置されるようになり、また、グループホームや福祉ホームを利用している重度の障害者にまで支援の対象が広がること等を踏まえ、その計画的増員を図っていくとともに、業務の見直しをする必要がある。その際、生活支援ワーカーは、入所施設から地域生活に移行した知的障害者の生活のフォローアップの役割も期待される。
・知的障害者相談員について、その活動の活性化を図っていく必要がある。
 なお、現在、原則として、相談員は知的障害者の保護者を委嘱している都道府県が多いが、保護者以外の者も委嘱することを検討する必要がある。

2.知的障害者施設における高齢化への対応について

 知的障害者施設については、入所者のニーズに応じて、様々な機能を施設に付加する傾向があったが、これからは、高齢化への対応を含めて、施設外のサービスを積極的に利用していく必要がある。同時に、施設の構造設備や職員配置の面で、高齢化に対応した配慮が必要である。

・入所更生施設は、通過施設としての役割を有しているが、入所者の高齢化の進展や身体障害との重複化を踏まえ、建物の構造・設備等について、バリアフリー化を含め、生活の質を向上させる視点が求められる。また、地域生活への移行の観点からも、個室化やユニット化を進める必要がある。そのために、施設整備に係る補助基準面積を見直すべきである。
・身体障害との重複化等により、入所者の身体介護のニーズが増大していることを踏まえ、職員配置基準上の直接処遇職員として、介護職員を算入できるようにすることについて検討する必要がある。
・生活習慣病の予防、口腔衛生管理等の健康管理対策が重要であり、それらを含む保健医療体制の在り方について、今後検討していく必要がある。
・その際、嘱託医について、高齢化に伴う様々な疾病に対応できるようにする観点から、その基準(精神科の診療に相当の経験を有する者)を見直す必要がある。また、協力医療機関の確保についても配慮する必要がある。
・高齢知的障害者の援助については、個々の入所者にあった多様なプログラムに基づき、柔軟に対応することが重要である。
・施設から地域に移行した知的障害者について、地域生活の継続が困難になった場合の対応として、再入所をしやすくする仕組みを作ることにより、地域生活への移行が積極的に行われるようにすべきである。
・授産施設や通所施設についても、入所更生施設に準じて、高齢化への対応が求められる。

3.高齢者施策の活用と連携について

 高齢知的障害者も、高齢者サービス(介護保険サービスを含む。以下同じ。)を円滑に利用できるようにする必要がある。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)については、障害者生活支援体制加算により、そのようなことに配慮した仕組みが導入されたが、今後とも、高齢の知的障害者が、高齢者サービスを利用しやすくする観点からの配慮が求められる。

・デイサービスについては、より身近なところで利用できるようにするため、知的障害者の障害特性に配慮しつつ、身体障害者や高齢者のデイサービス施設の利用を図っていく必要がある。
・職員研修等を通じて、高齢者サービスの中に、問題行動への対応など知的障害者サービスのノウハウを取り入れ、また、知的障害者サービスの中に、身体介護の方法など高齢者サービスのノウハウを取り入れていく必要がある。
・養護老人ホームや軽費老人ホーム(ケアハウスも含む。)等の利用年齢については、知的障害者の一部に早期老化の傾向があることを踏まえ、弾力的な運用を検討する必要がある。
・ケアハウス等について、特に必要がある場合には、保護者と共に障害者本人も一緒に利用することができるようにしたり、あるいは、知的障害者施設に保護者が利用できる高齢者施設等を併設するなど、保護者の高齢化にも留意した対応を検討する必要がある。
・知的障害者施設に高齢者施設を併設することにより、知的障害者が、そのニーズの変化に応じて、円滑に高齢者施設を利用できるようにすることも考慮する必要がある。
・知的障害者の福祉ニーズに総合的に対応していくために、障害児(者)地域療育等支援事業の「コーディネーター」と在宅介護支援センターや介護保険制度の介護支援専門員との連携を図っていくことが重要である。なお、在宅介護支援センターに、「コーディネーター」の活動の拠点を併設することも考えられる。
・介護保険の要介護認定においては、知的障害者について、その状況を特記事項に記載するなどにより、全体像の把握に努めた上で、介護の必要度に応じた適正な判定をする必要がある。

おわりに

 ノーマライゼーション及び自己決定の実現のために、利用者の選択を尊重し、利用者とサービス提供者との間で対等な関係を確立するなど、個人としての尊厳を重視した、利用者本位の考え方に立つ新しい利用制度へ移行しようとしている中で、知的障害者の高齢化への対応の在り方を検討する機会を得たことは、大変意義深いことである。
 知的障害者の高齢化について考える場合、乳幼児期、児童期、青年期、成人期、中年期及び高齢期という各ライフステージに目を向ける必要があるが、高齢期の課題に適切に対応し、「質の高い生活」を保障するためには、それ以前の各ライフステージにおける本人の課題やニーズに対して、どのような援助が提供できていたかが大きな鍵となる。そして、各ライフステージに応じたサービスの充実と次のステージへの移行を容易にするサービスの連続性が確保されなければならない。
 この意味で、高齢化に対応した施策を考えるということは、若年の障害者の施策のあり方も同時に考えることになるものであり、この報告書での提言は、独り高齢の知的障害者のみならず、若年の知的障害者施策にも共通するものもが多く含まれていることを、改めて指摘しておきたい。
 この報告書で提言した事項については、可能なことから、順次実施に移していただければ幸いであるが、障害保健福祉行政の枠を超え、高齢者福祉行政や住宅行政、労働行政に関連する事柄も含まれているので、それら関係部局との連携した取組みを期待するものである。


知的障害者の高齢化対応検討会委員名簿

(五十音順,敬称略)

氏 名 所 属
  今 村 理 一 社福)みづき会理事長・東京福祉大学特任教授
  牛 谷 正 人 滋賀県甲賀郡障害者地域生活支援センター ケアマネージャー
  大 林 美 秋 特別養護老人ホーム「船尾苑」施設長
  小 野 沢 昇 知的障害者更生施設「こがね荘」施設長
北 沢 清 司 東海大学教授・(社福)全日本手をつなぐ育成会副理事長
吉 川 武 彦 国立精神・神経センター 精神保健研究所所長
  白 井 俊 子 世田谷区立知的障害者就労支援センター「すきっぷ」所長
  末 光 茂 (社福)旭川荘専務理事
  玉 井 弘 之 (財)日本知的障害者福祉協会常任理事
  丹 下 芳 典 全国老人福祉施設協議会制度政策委員長
  遅 塚 昭 彦 埼玉県健康福祉部長寿社会政策課主査
  中 野 敏 子 明治学院大学教授
  中村はる子 老人複合施設「ベルホーム」施設長
  新 堀 裕 二 埼玉県社会福祉事業団 花園児童学園・同花園学園園長
  橋 本 泰 子 大正大学教授
  前 田 大 作 ルーテル学院大学教授
  室 崎 富 恵 (社福)いわみ福祉会理事長
  山 梨 昭 三 前平塚市健康福祉部障害福祉課長

※ ◎は座長、○は副座長である.


問い合わせ先 厚生省障害福祉部障害福祉課
担 当 轟(内3031)、大 塚(3033)


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