00/05/24 第3回健やか親子21検討会議事録 第 3 回 健 や か 親 子 21検 討 会 厚生省児童家庭局母子保健課 第3回健やか親子21検討会議事次第 平成12年5月24日 (水) 14時30分〜17時40分 霞が関東京會館 1 開会 2 委員紹介 3 議事 (1)「育児不安の解消と子どもの心の安らかな成長の促進」について (2)「思春期保健の強化と健康教育の推進」について (3)その他 (資料) 1 育児関係議論たたき台 2 思春期関係議論たたき台 3 健やか親子21主要課題について (参考資料) ○ 健やか親子21検討会資料集2 ○ 健やか親子21検討会資料集3 ○大平課長補佐  定刻になりましたので、ただいまから第3回「健やか親子21」検討会を開催いたしま す。先生方には、大変お忙しい中お集まりいただきまして、ありがとうございます。  まず初めに、本日初めて出席の委員の先生を紹介させていただきます。 長井委員でございます。 ○長井委員  皆様、初めまして。結局、私も2回参加させていただけませんでした。会社の方とな かなか交渉がつかずに、大阪の方から東京までですと丸一日かかる訳ですけれども、よ うやく今回から出席させていただきます。  民間の一産業医の立場で、今回この委員を引き受けたときに果たして私に一体どれほ どの実力があるのか。委員の皆様の顔ぶれを拝見しましても、とても私のような者がこ こに出て意見を述べる立場ではないと最初は敬遠しておりましたが、実際のところ、こ の研究会で私は3つの視点で意見を考えていきたいと思っております。  1つ目には、私自身は産業医という企業の中の産業保健を扱っている医者であります 。産業保健ということ自体、皆様にはなかなか御理解いただけないかと思いますけれど も、その内容が「健やか親子」というところにどう反映出来るかというと恐らく子ども たちの育っている現状を、いろいろな議事を見せていただきまして、皆様の意見の中で もあったかと思うのですけれども、結局のところは大人たちの今の現状が子どもに反映 されている。そういうことであれば、私の見ている産業保健の多くは父親ですけれども 、もちろん母親も増えてきております。そういう中でもちろん新卒の方々の今までの健 康観とか育ってきた背景もありますけれども、そういうものを見ていましたら、企業の 現状をこちらでお伝えすることによって子どもたちの将来に役立つ情報提供が出来るの ではないか。その点がまず1つです。  それから、私自身は臨床経験は産婦人科の方から始まりました。産婦人科の方から始 まっている訳ですけれども、産業医になろうともともと思っておりましたので、働く女 性の健康管理とは一体どういうことかということが私のライフワークにあります。ただ し日常は働く社員の方々の、特に今はメンタルヘルスの問題です。電通事件などいろい ろありましたから、そういうことに時間がとられまして、なかなか研究という形では進 んでいないのですけれども、その中で去年、労働省の方とこういう会にも参加させてい ただいて、母性健康管理の推進等にもかかわらせていただいています。  なぜ若い私がここに出るかというと、もちろん皆さんはいろいろな研究をされている のですけれども、恐らく産業保健の立場では女性の視点で働くことを生涯にわたって考 えようという研究者がなかなかおりませんでした。ですから、私がやりたいと一言言っ ただけでも随分珍しがられまして、そういうことでぶしつけですけれども、私の立場で ここに参加させていただいていると思っております。  もう1つには、自分自身が子育て中ということでいろいろな現実が見えておりますの で、その点からも現状の母親たちの声を反映させられたらなと思っております。よろし くお願いいたします。 ○大平課長補佐  ありがとうございました。  それでは、平山座長に以後の議事の進行をよろしくお願いいたします。 ○平山座長  よろしくお願いいたします。  ただいま今日初めて御出席の長井委員から自己紹介もちょうだいいたしましたので、 よろしくお願いいたします。  それでは、議題に入りたいと存じますが、前回は「健やか親子21」の主要課題の1つ の「育児不安の解消と子どもの心の安らかな成長の促進」、一番時間のかかりそうな部 分について検討していただきましたが、時間切れのために積み残しがございました。今 回は初めにこの課題を追加して何人かの先生方の御意見をちょうだいしたいと思います し、その後で「思春期保健の強化と健康教育の推進」について検討していただきたいと 存じております。  それでは最初に、事務局から今日配っていただいてある資料の確認をお願いいたしま す。 ○椎葉課長補佐  それでは、本日の資料の確認をさせていただきます。まず議事次第です。この議事次 第に本日の資料がついておりますので、御確認していただければと思います。  1枚めくっていただくと検討委員会の名簿がございます。今回、下から2番目の日本 医師会の常任理事が小池先生から雪下先生へとかわっております。  それから資料1、議論のたたき台「育児不安の解消と子どもの心の安らかな成長の促 進」そして資料2、「思春期保健」でありまして、資料3はこの「健やか親子21」の主 要課題について第1回の検討会に出したものでございます。  次に、参考資料ですが、資料集が2つございまして、資料集2は、女の子が2人載っ ているのが思春期保健対策のもので、主に文部省から御提出いただいた資料です。そし て検討会資料集3は犬が載っているものでございますが、これは先生方からいただいた 思春期保健対策と育児不安の解消のいろいろな意見、資料集です。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。そろっておりますね。  それでは、議題1の「育児不安の解消と子どもの安らかな成長の促進」に入りたいと 思いますが、事務局から御説明をお願いいたします。 ○椎葉課長補佐  それでは、先生方から御提出いただきました御意見、それから資料につきまして簡単 に御説明いたします。  資料集3です。各委員から意見をいただいておりますけれども、この中で育児不安に 関しましては 335ページからでございます。   337ページの巷野先生からの御意見でございます。「案」に対しての追加発言という ことで、子育て、育児不安の出発はほんのささいなことから始まるといったことや育児 を楽しくしていく方向に転換させることが基本である。そして、親子に触れ合う機会の 多い医師、保健婦などの人間的な温かい心が大事であるという御意見をいただいており ます。 澤委員からのご意見は 341ページでございます。これは東京都の保健所長会の母子保 健部会の意見をまとめたものでございますが、家庭内での父親の役割や中・高校生の体 験学習の実施、そして育児保険制度という事柄につきまして御意見をいただいておりま す。 清水先生の御意見ですが、 345ページです。児童精神科医のお立場からさまざまなこ とが載っておりますが、これは後ほど清水先生の方から御説明いただければと思います 。 そして、 367ページでございます。藤内委員からの意見でございまして、主に目標値 についての御意見です。前回出したたたき台でございますけれども、アウトカム指標が ないということで、こういったアウトカム指標を入れたらどうかという御提案で、これ ももしよろしければ後ほど御説明いただければと思います。 そして、 379ページからは徳永委員からの御意見で、内容は 381ページでございます 。1つ目でございますけれども、「国際化」も育児不安の原因となっているという点を 入れてほしい。同じく目標値の設定でございますけれども、「地域保健に関するハイリ スク集団へのケアシステム構築保健所数」は具体的な内容を書いたらどうか。それから 虐待について、そして母乳哺育についての御意見。母乳哺育についてはプレッシャーを 与えるのではないかという御意見でございます。それから、育児不安指標は大事だとい うことで、こういう御意見と主に虐待予防の取り組み、保健所などを中心といたしまし た薬物乱用・依存などの相談といった保健所のいろいろな取り組みなどを御紹介いただ いております。 401ページの中野委員からの御意見でございます。親子の心の問題が重要だというこ とで、そしてその中でも産後うつ病の深刻さが強調されるべきである。そのたたき台の 中に産後うつ病について今後の重要なキーワードになるという御意見です。思春期保健 についてもいただいておりますけれども、これは思春期保健のところで御紹介いたした いと思います。 続きまして、 345ページの樋口委員は、 453ページから主に児童相談所におけます虐 待対策についてかなり細かい詳しい内容で、それぞれ虐待の種類、大きく分けて4種類 ございますけれども、それぞれどういう年代に多く発生するかという記載がございます 。そして、その中でも児相における取り組みにつきまして 463ページですが、今後、虐 待対策と予防対策の児童相談所の取り組みにつきまして地域に密着した機関・施設との 連携体制の構築。次の 464ページ、時代の変化に対応した相談・援助が出来る専門能力 を向上させるべきである。それから前回のたたき台にはなかったのですけれども、子ど もの傷ついた心の治療のための方策や虐待してしまった保護者の治療のための方策、そ して法律の整備の必要性ということについて御意見をいただいております。 467ページからは、櫃本委員からの御意見でございます。たたき台に関して、特に地 域医療・地域保健などに関して地域福祉という概念のことや心の問題のスクリーニング はあくまでも子育て支援の相談・カウンセリングの場であるという御意見。 470ページ では、関係者の役割について、国民運動を展開させるためには国民を一番最初に持って きて、それへの支援という形で地方公共団体・国といった形の方がよろしいのではない かという御意見などをいただいております。 そして最後ですが、 473ページからが前川委員からの資料提供でございます。これは 保健所等で行いますハイリスク集団に対するケアシステムの幾つかの事例につきまして 未熟児に対するケアの推進、健診のチェックリストなどについて、たたき台に載ってい る事項を補完する資料集の御提供をいただいております。 ページが前後いたしました。思春期の項に入ってしまいましたが、5ページです。岩 永委員から、育児不安の解消につきまして御意見をいただいておりまして、この「育児 不安の解消」というのは適切ではないのではないか。そして、この「健やか親子21」の 目的に関して「育児不安の解消」は余りにも目先の現象対策のようではないか、もっと 未来に向かって安心して楽しく子育てが出来るという目標を考えて検討する必要がある のではないかという御意見でございました。 以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。 それでは、本日の課題の1つ「育児不安の解消と子どもの心の安らかな成長の促進」 でございますが、時間の関係で何人かの先生にこれから補足的に御発言をお願いしたい と思います。  まず、産婦人科医のお立場から中野先生にお願いしたいのですが、恐縮ですが5分く らいをめどにお願いいたします。 ○中野委員  そうしましたら、先ほど御紹介いただきました私のメモの中で病態モデルを明確にし ながら動いていくというのもストラテジーかと思いまして、産後うつ病というキーワー ドをという提案をいたしました。そうしますと、三、四分でその根拠だけを簡単に申し 上げたいと思います。  御存じのことばかりで恐縮には思いますが、生殖、特にリプロダクションに前後する 時期は女性にとっての精神機能障害を起こす大変頻度の高いハイリスクの時期でありま す。その中でプレ・コンセプショナルな話に続いてコンセプション、つまり妊娠が始ま りますと妊娠うつ病、妊娠中の不安、さらにはポストパータムではポピュラーなマタニ ティ・ブルーズ、そして産後うつ病へといういろいろなエポックが並んでまいります。 その中でマタニティ・ブルーズが一般に大変有名ですが、日本の今の頻度は25%ぐらい です。しかし、これは大体三、四日すると自然に消退しますので、病気という対応は普 通はいたしません。  問題になりますのは、マタニティ・ブルーズが頻度的な意味での相関が産後うつ病と 高いところにあります。国際比較しますと、マタニティ・ブルーズは日本で25%、イギ リスで70%ございます。その後に控えている相関が高いポストパータム・デプレッショ ン(産後うつ病)は日本で15%、イギリスで15%、これは変わりがないのです。したが って、日本のマタニティ・ブルーズも潜在的能力は持ちつつ、日本の女性方は表明して いらっしゃらない。恐らく比較社会文化的なことがあるのでありましょう。そういう位 置づけをいたしますと、産後うつ病の手がかりとしてのマタニティ・ブルーズという意 味が新しく出来るのだろうと思います。  ところで肝心なのは産後うつ病ですが、どうしてかといいますと、簡単に言いますと 次世代への影響です。1つはエモーショナルな発達不全、これは既に常識になっていま す。2つ目、最近のデータが出始めましたのがインテレクチュアル、つまり知的障害が メンタル・リタデーションというほどではありませんが、ノーマル・ポピュレーション の下の方に落ちる。集団をとりますと、やはり有意差を持って低い。初期のアタッチメ ント行動等々を介して、その次の世代の知的な能力、認知能力の低下が起こるのが何せ 一番大きな悩みといいましょうか、ポイントだろうと思います。そういうことでこれに あえて光を当てまして、それを注目する中から恐らく周辺あるいはノーマル・ポピュ レーションへの手当てという展開が起こるのではないかという意味でそれを出してみま した。  ストラテジー等々につきましては私たちのグループで一生懸命検討していますが、大 きくはまず施設型の手当てをすること、もう1つは地域型の手当てをすること、この2 つです。人材としては距離あるいはサービスの立場等々を考えますと、コメディカルス タッフの養成によるということを考えなければいけない。そうするためには教育、つま り文部省等々で面倒を見ていらっしゃるコメディカルの教育課程の中にどのように入れ るか、卒後の研修課程をどうつくるかという問題に取り組まなければいけないだろう。 こういうストラテジーを考えています。  簡単ですが、4点に絞ってお話しいたしました。 ○平山座長  ありがとうございました。  中野先生はここ数年来、厚生科学研究の方で母子のメンタルヘルスシステムづくりに ついて班長として積極的に研究を進めていただいておりましたので、その資料を含めて 今お話しいただいたところですが、中野先生に直接御質問がありましたらお願いいたし ます。  それでは、またいろいろそのうちに御討議いただきますが、続きまして児童精神科の お立場から清水先生、お願いいたします。 ○清水委員  育児不安の一番悲惨な結果が虐待に読み取れると思います。ここで私は虐待に限って 考えてみたいと思います。  児童虐待の予防や背景分析は結構研究されている。早期発見・早期介入も地域差がか なり大きいですけれども、それなりにこうやれば出来るということが明らかになってき ております。早期発見・早期介入のシステムは小児科医と弁護士とNPOが協力してや っていらっしゃるのですけれども、発見された後どうするかというところは、日本では まだほとんど手がつけられていないと思います。小児科に入院させたとしても、あるい は外傷があった場合に外科系に入院しているとしても、ある一定の期間が来れば子ども は町へ戻っていく訳です。 虐待された子どもが背負っている大きなトラウマに対してどこが治療的手だてをする のかというと、今はほとんどないのが実情です。私の勤めております病院は児童精神科 の専門病院で80ベッドあるのですけれども、こういう児童精神科の入院施設は全国で12 カ所しかありません。合計しても 600ベッド余りです。これではどうにもならないとい うことがあります。  それから、児童精神科入院施設に準ずるというのでしょうか、ある程度トラウマ治療 が可能な施設として情緒障害児短期治療施設がございます。情短施設と略称されており ますが、これは施設長に児童精神科医が座り、入所児10人に対して1人の臨床心理技術 者が配置されることが施設基準として法的に決まっております。これをもう少し増やし ていかなければいけないのではないか。これは真野児童家庭局長もあちこちでご発言な さっているところですけれども、現実には全国で17カ所しかございません。これを増や すということならば、現実味ある行政施策であろうと思います。児童精神科病院をつく るとなりますと、大変な経費を必要とします。私どものところのように80ベッドで11億 円ぐらいの経費がかかりまして、健康保険で入ってくるお金は5億 5,000万円ぐらいで すから大変な赤字で、今の時代に地方自治体にそれを期待することは不可能である。け れども、情短であれば可能であろういうところを強調したいと思います。  実際に救い出された被虐待児がどこに措置されるかというと、乳児であれば乳児院で すし、それ以上の年齢であれば児童養護施設などですが、児童養護施設は非常に人員不 足で、とても対応し切れないと悲鳴を上げておられます。三重県での実態調査は資料集 に入れておきましたので、後でごらんいただければと思います。  何が大変かといいますと、トラウマを抑え込んでいる被虐待児はとりあえずは育て直 しをすればよろしいでしょうけれども、パーソナリティ障害を残したような子どもは施 設全体を引っかき回してしまう。他の子どもたちを振り回す、施設職員を分断して敵対 関係を築き出すなど、大変なことが起こりやすい。それで施設がギブアップしてしまう のです。真野局長の御発言に期待し、全国で情短施設が増えることを期待しておりま す。 ○平山座長  ありがとうございました。  何か御質問の方はいらっしゃいますか。 ○神谷委員  清水先生がおっしゃったように児童精神科用のベッドが 500ベッドぐらいしかないと いうことで、それは現実だと思うのですが、先ほどの中野先生がお触れになったマタニ ティ・ブルーズにしても、あるいは児童精神科に関連した子どもたちを実際に診る先生 を探そうとしても、児童精神科医は本当に少ないのですけれども、これが少ない一番の 原因は何ですか。 ○清水委員  端的に表現すれば児童精神科医の職場がないからです。医師になりたての研修医レベ ルでは、精神科を選択した人たちの中に子どもに関心を持つ医師は結構おります。けれ ども、研修を受ける場所がまずない。全国に12カ所の児童精神科病院があると申し上げ ましたけれども、研修指定病院になっているのは、私どものところだけなのです。それ から、研修後の段階としてレジデント制度を持っているのは国立国府台病院だけです。 そこで研修をして次にどこで勤めることが出来るかとなると、全くないに等しいのです 。  例えば全国 174カ所の児童相談所は児童精神科医療の視点と技術を希望していらっし ゃるのですけれども、常勤医として精神科医がいる児相が10カ所しかございません。昨 今のように被虐待例がどんどん増えてくるという時代であれば、すべての児相に精神科 医を配置するのは非常に現実的な話だと思うのですけれども、それを実現いたしますと 児童精神科医に 164名の職場が出来る訳です。それから17カ所の情短があると申しまし たけれども、47都道府県と12の政令市に1カ所ずつ情短が出来たとすれば、あと40人の 精神科医のポジションが増える。そういうことを進めていくことが現実的であって、そ うなれば必ず確実に増えます。 ○平山座長  渡辺先生、今のお話に何か御意見はございますか。 ○渡辺委員  清水先生が構造的な日本の現状をお話しくださったと思うのですけれども、まさに私 自身も、変な言い方ですけれども妻子を養わなくて済んだから児童精神科医が出来たと 思いますが、職場はないです。ですから、職場として私が勤めたのは小児科医として、 精神科医として、神経内科医として、老人リハビリテーション病院としてです。ですか ら、かなりクリエイティブなエネルギッシュな人が物すごい時間をかけて自分の場をつ くらなければいけないのですけれども、それは次の世代にそういうことをさせる気持ち はないくらい大変なことですね。今おっしゃった清水先生の御指摘はまず早急に児童精 神科医も、それからみんなも考えていかなければいけない問題で、職場が増えればそこ に進みたい人は幾らでもいると思います。 ○平山座長  ありがとうございました。  情短施設は確かにほかの施設に比べるとまだまだ極端に少な過ぎる感じでございます ね。  ほかにございましょうか。 ○中野委員  先ほどお願いいたしましたパートナーというのは恐らくリエゾン精神医学というジャ ンルだろうと思います。日本精神医学会の会員から計算して 6,000人から 7,000人、そ のうちの大変少ない数しかそれを御専門にしていらっしゃらないというので、全数サー ビスを日本でやると 120万に対応出来ないという状況があります。それも先ほどコメデ ィカルというものを研究班で試している一つの理由でありまして、何とかスーパーバイ ジングしていただいてでも違う人材を確保する道を別途につくらなければいけないだろ うと思っています。 ○平山座長  ありがとうございました。  それでは、時間のこともありますので次の先生にお願いしたいと思います。目標値の 問題もございますが、こういうことも含めまして徳永先生と藤内先生からお話を伺いた いと思います。徳永委員、お願いいたします。 ○徳永委員  実際に保健所あるいは保健福祉センターで育児不安の親子に接している観点から目標 値について意見を述べさせていただきたいと思います。  この目標値について特に私どもが気になったのは、育児不安の項目のところで母乳哺 育が挙げられているのですが、こういう母乳哺育という目標値が挙がることによって地 域の保健婦たちは率を上げなければいけないのではないかという思考パターンになるこ とが危惧される訳です。ですから、私はこの目標値についてはここに挙げることはいか がかなと思っております。保健所等の電話相談の中に母乳が出ないとか体重が増えない という相談で電話がかかってくると、育児不安あるいは産後うつがあるかもしれない母 親だということをうまくキャッチ出来ないために栄養指導をしてお母さんを追い込んで しまう。そして、お母さんが子どもを連れて心中したという事例もありましたので、私 はこの辺を少し検討していただきたいと思います。  もう一つは、虐待あるいは育児不安へのフォローアップをどうするかというところで 保健所ハイリスク家庭訪問が挙げられています。家庭訪問は大変大事な介入の一つだと 思います。ただ、保健所と書いてあると、母子の訪問は特に市町村保健婦が中心になっ てかかわっていかなければならないところでもありますので、ハイリスク家庭訪問とい うぐあいにして、家庭訪問の実施率をもっと上げるようにしていってほしいと思ってお ります。実際に統計を見てみますと、母子の訪問は今までかなりないがしろにされてき ている部分もありまして、訪問が全くされていない市町村もあります。ところが、虐待 あるいは育児不安が発見出来るような保健所あるいは保健福祉センターになりますと、 家庭訪問の率が非常に上がってきて、何があっても保健婦は訪問をしてお母さんと関係 づくりをしなければいけないという意識に対応方法も変わってきますので、この辺はと ても大事な指標かなと考えております。  それから、ハイリスク集団へのケアシステムを構築するということで、このハイリス ク集団については特に保健所等が役割を負っていかなければいけないと思います。その 中で育児不安の母親のグループミーティングを保健所で整備していく、そういう不安を 持っているお母さんが身近なところへ出かけていって、そこで同じ悩みを持つ母親と出 会ったり自分のいろいろな不安を話す場を設定していくことがそういうお母さんたちの 不安解消にとても効果を上げている訳です。そういうところを明確に打ち出していただ きたいと考えております。  もう一つ、ケアシステムの中で育児支援をネットワークキングしていくことがとても 大事なことでありますし、保健婦だけではなくて保育士あるいは児童館等の子どもにか かわる施設や関係者をネットワークキングすることも必要ではないかと思っております 。育児不安の視点で健診等にかかわりますと発見される例が非常に増えているというの は、現実にそういう取り組みをしている保健所、保健福祉センターもありますので、私 はこの辺を明確にしていった方がいいと思っております。  以上です。 ○平山座長  ありがとうございました。  申し上げるまでもありませんけれども、東京23区や政令市は保健所と市町村の区別が ないような形で、それ以外のところでは保健所から直接家庭訪問というと未熟児訪問か 特別な例に限られてしまうので、この辺の気づきなどのシステムをどうするかというの が問題になると思います。  それでは、引き続いて藤内先生、お願いいたします。 ○藤内委員  目標値の設定について少し意見を述べさせていただきたいと思います。  たたき台で設定されておりました目標値の幾つかはアウトカム指標、こういう基盤整 備であったり親に対する健康教育であったり、あるいは保健サービスであったり、そう したサービスを提供することによってどういう状況を達成するか。 367ページを開いて いただきたいのですが、そういうアウトカムの指標が実は少ないと感じました。この 「健やか親子21」は最初に説明がありましたとおり「健康日本21」の母子保健版です。 「健康日本21」はそういうアウトカム指標をきちんと設定しているのが今までの我が国 における保健計画の中でも特筆すべき特徴だと思います。そういう意味で「健やか親子 21」についても可能な限りアウトカム指標を盛り込むことが必要だろうと考えます。   367ページにお示しした四角の中の指標と申し上げましょうか、これは市町村の母子 保健計画あるいはエンゼルプランに盛り込まれた指標を例示したものですが、こういう 母子保健の相談事業あるいは今出た育児サークルを展開することによって例えば子育て が楽しいと答えた母親の割合、あるいは一つ飛ばして自分一人で子どもを育てているの だという圧迫感を感じているお母さんの割合が減る、そうしたことが事業のアウトカム として出てくる。そうしたことを目標設定することが重要だろうと思います。  平成8年から9年にかけて全国で母子保健計画が策定され、 2,260自治体についてこ の研究班で調査させていただいたのですが、そのうちの9%に相当する 212の自治体で こうしたアウトカム指標が設定されておりました。それらの自治体に対して計画をつく った後はどうかというフォローをしてみたところ、こういうアウトカム指標を設定した 自治体では、それぞれの関係機関あるいはそれぞれの専門職種がこの事業は何のために するのかということがアウトカム指標を設定したことで明確になった。つまり、事業の 実施市町村数や、これを行っている保健所の数ももちろん基盤整備として重要な目標で すが、それだけ設定すると事業の目的はともかくやっていればいいということになりか ねません。そういう意味でそれぞれの事業が何のためかという目的を明確にする意味で も、こういうアウトカム指標が重要だろうと思います。  次の 368ページをお開きいただきたいのですが、全国の母子保健計画やエンゼルプラ ンを見たときにアウトカム指標はこういう上位と下位のアウトカム指標、そして事業量 の指標という3つの階層の指標が保健計画には定められています。上位のアウトカム指 標は結果的に事業によって達成すべき目指す姿ということになります。ここでは育児不 安の解消ということが挙げられましたが、前回、岩永委員からも御指摘がありましたよ うに、育児不安の解消そのものは実は困難であり、育児不安は多かれ少なかれあるもの だと思います。そういう意味で育児不安を感じている母親の割合という設定は少し無理 があるのではないか。つまり、育児不安を全く感じていないお母さんはほとんどいない ということになりますので、そういう意味で 369ページにお示ししたような育児不安を 評価する一つの指標といいますか、調査票なりの開発が必要かもしれません。   369ページにお示ししたのはお茶の水女子大の牧野カツコ先生が作成されたものを少 し改変したものですけれども、最初に3問は非常に肯定的な、うまく育てられていると か何とか育っているなど子育てに対して非常に肯定的な感想を持っているかどうか。4 問から8問の後半の5問は、逆にこれが育児不安の具体的な状況といいますか、具体的 な中身になるのかもしれませんが、どうしていいか分からないとかイライラしてしまう とか、一人で子育てしている圧迫感、同じことの繰り返し、我慢ばかりしているなど、 こういう構成で聞く訳です。ただ、これらを全部聞く、あるいはそれを乳幼児健康診査 の問診に入れることには問題があろうかと思います。そういう意味で、アウトカム指標 として前半のいわゆる肯定的な感想を持っている、つまり子育てが楽しいと感じている お母さんの割合、あるいは後半の中から例えば一人で子どもを育てているという圧迫感 を感じている母親の割合など、そうしたものをアウトカム指標として設定することが必 要かと思います。  そして、その下位のアウトカム指標ということになりますが、こういう状況を達成す るために、 368ページの上の囲みの中にありますが、例えば父親が育児や家事に協力し てくれると答える母親の割合、あるいは父親の育児への協力に満足している母親の割合 など、それを達成するための条件としての指標が必要かと思います。  これらのアウトカム指標についてはこういう場で細々議論するのが時間的に可能かど うかということもございますが、先ほど紹介いたしましたように全国の母子保健計画や エンゼルプランでどういう指標が設定されているかをうちの研究班で平成9年度から調 査しており、そうしたアウトカム指標の設定がどういう効果をもたらしたかということ を今年度研究するようにしております。その中で本当に全国の「健やか親子21」に盛り 込むに値するようなアウトカム指標を抽出出来れば、このたたき台といいますか、こう いう目標値の設定にも役に立てていただけるのではないかなと考えております。 ○平山座長  ありがとうございました。  今のお話のように目標値を立てるとすると、まずベースラインサーベイを全国的にや る必要があるということでございますね。今のお話の中でお名前が出ましたけれども、 岩永先生、何かございますか。 ○岩永委員  質問しようと思っていたのですけれども、例えば 368ページの参考のところに「上位 のアウトカム指標、下来のアウトカム指標」と書いてありますね。これはもう少し複雑 な形でいろいろな指標が絡み合って達成すると思います。 もう一つ、下位のアウトカム指標を達成するために参考のところには「事業量」と書 いてありますけれども、事業量もあるでしょうし、事業量を達成するために先ほどから お話が出ているような小児精神科医の数、あるいは父親を対象とした育児教室を開催出 来る人材がどのぐらい整っているのか、あるいはそういう場所はどういうところに必要 なのかという枠組みが出来ると思うんです。 そういう枠組みをつくるためにここにいろいろな専門家の人がいらっしゃる訳ですか ら、それぞれの方が発言してこういうところが重要だ、自分の立場から言うとこういう ところが重要だという発言になってしまって、みんながそういう発言になるけれども、 本来はどれも必要な項目であって、どれが強調されるべきかという優先性は、平山先生 が今おっしゃったように現状をきちんと把握して決まっていくと思いますけれども、そ ういう構造化が必要なのではないかと思うのですけれども、藤内先生、いかがでしょう か。 ○藤内委員  まさに御指摘のとおり上位、下位と示しましたが、例えば下位のアウトカム指標も上 位のアウトカム指標とどれが最も関連性が強いか、あるいは相関が強いかということも ベースラインサーベイの中でもし出来れば、子育てが楽しいと感じられる母親の割合を 増やすためには例えば父親のこういうサポートが必要なのか、あるいは気軽に相談出来 る人の存在が必要なのか、その辺のどれが最も重要なのかということをある程度評価出 来ると思います。それを達成するための事業や事業量、そしてそれを達成するための基 盤整備という感じで必要なものをブレイクダウンしていけるのではないかと思います。 ○岩永委員  もしそういう形で枠組みが出来るとすれば、こういう場こそそういう枠組みをいろい ろな専門性の人たちが出し合って考えていく形でいかないと、前回もそういう雰囲気だ ったのですけれども総論的な話になって、具体的にどういう指標を挙げていったらいい のか、そういうものがどういう枠組みになるべきなのかという姿が見えてこないと思う んです。そうしないと、先ほども出てきた母乳が子育ての不安のどこに位置づけられる かというと、もしかしたら育児不安という視点から見たときに、あるいは思春期の何と かというときには余り重要ではない指標ではないかということも出てくるかもしれない という気がするのですけれども。 ○平山座長  その辺は問題があると思いますが、この指標を実際に考えるのはもう少し時間をいた だいて、その上でまたディスカッションさせていただきたいと思います。 ○櫃本委員  指標のとらえ方ですけれども、最初に徳永委員のお話があったように、たばこを「健 康日本21」の指標にしたときに半減ということですごく反発がありましたが、目標数値 という目標がみんなそれを目指してやっていく目標なのか、それとも我々が提案してい るのは一つの指標をもってそれをモニタリングしながら評価していくものなのかという 整理が、「健康日本21」の流れからいけば国民にその目標に向いていけとみんなが働き かけるということは既に否定されている訳ですね。流れとして我々専門家がいろいろ支 援していく中で、評価していく中での指標というものが当然あって、そういうものを出 していきながら一部これは明らかに数値として目標にしなければならないもの、先ほど 言った専門家の数をどうする、施設をどうするという目標設置はしていく必要があるか もしれませんが、多くのものが、例えば母乳について全員母乳ということではなくて、 基本的に母乳が選択できる中で母乳の割合が増えれば、それはそれで対策の一つの成果 だろうという見方で本来は指標が見られるべきだろうと思うんです。それがいざ目標指 標ということがひとり歩きしてしまうと無理やり、それこそ「健康日本21」を踏まえて いろいろな評論家が勝手なことを言っていましたけれども、多くはまた国民にファッシ ョ的に刺激するのかという誤解を受けてしまう訳です。その点を再度この中で確認しな がら、あくまでこれは国民に対して提案するものであって、刺激するものでない、目標 数値もそういうものだということを理解すれば、母乳の評価指標についても問題ないだ ろうと思います。  岩永先生からはこの中で議論というお話がありましたけれども、恐らくこの中でいき なり議論をしても、この指標の問題については非常に時間を要する。ただ、ここで議論 されたたたき台がある程度形になれば、これをもとに作業部会なりで評価指標を出し て、それを提案する中で修正していくという作業をしないと、いきなりここであれがい い、これがいいとやっても、基本的に総論のディスカッションが出来れば、それを割と 客観的に拾い上げて対策の部分やアウトカムの部分についての整理をしたらどうか。そ れはすべて出来上がっていなくて、これから並行に進んでいけばどうかなと思うのです けれども、その点はいかがなものでしょうか。 ○平山座長  ありがとうございました。  いずれにしましても、どの程度にいつの時点から並行するかどうかを含めまして、目 標値については事務局でもお考えいただいて、後日まとめて検討する機会を持ちたいと 思いますので、よろしくお願いいたします。  「健康日本21」のたばこはいろいろなファクター、別のものがあって難しかったよう でございますけれども、それは置いておきまして、まだいろいろ御意見があると思いま すが、事務局の方で前回出していただいたたたき台を修正したものを用意していただい ておりますので、ここでその御説明をいただきたいと思います。 ○椎葉課長補佐  それでは、資料1でございます。前回のたたき台と変更した部分につきましては、加 筆したものが下線で、削除したものは削除の印が載っておりますので、簡単に御説明い たします。  1ページですが、産褥期の不安や産後うつ病についての記載を入れております。国際 化も育児不安の一環だということで、国際化も入れてございます。  次の2ページ目は、子育ての取り組みの基本的な方向の中に子育ての基本、巷野先生 から出していただいた意見を記載してあります。また、下の方には産後うつ病について の問題、対応の必要性を記載しております。  3ページ下線部ですけれども、専門職のほんの一言が親を勇気づけるということにつ いて専門職として医師、助産婦、コメディカルの方や保育士などを含めて記載してあり ます。  そして4ページには、産後うつ病についても記載しております。  5ページの(2)は、これまで「児童虐待予防対策」というくくりとなっていました が、治療(ケア)も含めた対策ということで「予防」を消しております。また樋口委員 からの御指摘で児童虐待の年代による差などについて記載してございます。そして、5 ページの下から2番目に、被虐待児を発見、救出した後の保護・治療・養育の対策につ いて記載してございます。  そして6ページ、大きなところで言いますと(3)その他ですが、今の学生は兄弟姉 妹が少ないということで体験学習の重要性、24時間の専門家による電話相談について、 これは清水先生からの御指摘ですけれども、NPOの活用について。ドメスティック・ バイオレンスについてはアルコール対策とかなり似ているということで、この連携も必 要と記載いたしました。それから関係者の役割ですが、これは櫃本委員からの御指摘で 、最初に国民を持ってきおります。  次のページですが、それを支援する地方公共団体は地域の課題や地域特性を重視しな がら住民を支援するという位置づけで記載しております。そして、国の役割も地域など を支援するのだというように書きぶりを改めております。その他、委員の方々からの御 指摘が幾つかあったことを記載してございます。  そして、最後の目標値のところですが、これにつきましては別途事務局の方でたたき 台を出しまして別の場で検討をさせていただきます。最後のページはアウトカムの指標 です。これは藤内委員から御指摘があったものをそのまま書いておりますが、こういう アウトカム指標につきましてもどのようにしたらいいかを検討いたしまして、別途この 会議に出したいと思っております。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  前回お配りさせていただいたたたき台をこれまでにちょうだいして事務局に届いてい る御意見の分を小修正して今ごらんいただいている訳でございますが、今この場でごら んになっただけでは細かいところまでお目通しいただけないかと思いますけれども、今 説明していただいた修正版たたき台につきまして何か御意見がございましたらいただき たいと思います。 ○戸田委員  8ページにございます専門団体に関してですけれども、私ども母親の立場といたしま すと、いろいろな専門家の先生がいらして、妊娠・出産・産褥、それから育児期、いろ いろ別の方々と触れる機会があるのですけれども、それぞれの専門の方々はベストを尽 くされているとは思うのですが、母親の方は絶えず違う意見、違う指導を受けることが 多々ありまして、非常に混乱すると同時に、母乳に関してもそうですけれども、実はお 母さんに聞きますと出来れば母乳をあげたいという人がほとんどでありまして、母乳が 医学的にできない方の割合は多く見積もったとしても3〜5%であることを考えると、 母乳哺育がうまく出来ないというのは、例えば病院の中でのケアあるいは産後のいろい ろなサポートの中で母親のサポートグループとの出会いがなかったとか正しい情報がな かったとか、伝承的に言われておりますいろいろな食べ物の制限という、エビデンスに 乏しいさまざまな専門家からさまざまな意見が出てくることで混乱が起きている状況が あると思います。  ですから、私といたしまして専門団体に非常に強くお願いいたしたいことは末端まで の質レベルの向上と、提供する情報内容に関しましては、心のケアに関してもエビデン スに基づいたものであるということ。そして、その情報の出どころは膨大な量の研究成 果を踏まえたものでなければならないことを考えますと、国なりきちんとした請け負え る専門団体がこれをきちんと整理し、そしてその専門団体のレベル向上のためにその情 報を利用する。そして、それが末端まで行き届く。これは専門家の育成の段階でも非常 に大切なことではないかと思います。  以上です。 ○平山座長  ありがとうございました。  おっしゃるとおり専門家の間にも正反対の意見があって、我々でさえ戸惑うことがな い訳ではありませんが、巷野先生、その辺で何か御意見ございますか。 ○巷野委員  子育てというのは何が正しいのか分からない面が相当ございますし、選択肢がたくさ んございます。ですから指導という考え方よりも、むしろお母さん方を援助してお母さ ん方が楽しく子育てが出来る雰囲気を与えてやる、あとはお母さんにお任せするという 方向でありたいと私は思っております。私もあちこちに書いたのですが、指導というこ とになりますとどうしてもこちらが上になって一つの方向に持っていきやすい訳ですが 、その辺に幾らでもサンプルが転がっている、そういうものにお母さん方がどうやって 気がついてくれるかということのように思う訳でございます。  ただいまのお話は非常に賛成でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  ほかにございましたら、どなたでもお願いいたします。 ○北村委員  6ページ目に育児不安をもたらす原因の一つにドメスティック・バイオレンスの問題 が取り上げられておりますけれども、ドメスティック・バイオレンスが引き起こされる 背景は非常に多様でして、それをあたかもアルコール対策を行えばDVが解消されると いう書き方は余りにもDVを認識していない人の書き方ではないだろうかという気がし ます。そういう意味で私は、あえてここにアルコール対策だけを挙げるのはやや筋が違 うだろう。今、DVにかかわるような法律、ストーカーの問題等々、議員立法が出され ておりますし、DV法を出す出さないということも含めた対応が国会でもなされており ますけれども、例えばシェルターの存在を周知する、あるいは法的なサポートがあり得 ることを周知するということも含めてDVの問題などは語る必要がある訳でして、この アルコールの下線部分はあえて取るべきだと私は認識します。 ○平山座長  ありがとうございました。また事務局でお考えください。  ちょっと伺いますけれども、このドメスティック・バイオレンスは文字どおり考える と家庭内暴力のようで、児童虐待もこの中に入ってしまうような気がしないでもないの ですけれども、この辺は何か定義があるのですか。 ○北村委員  今、広く話題になっているのは女性に対する暴力という特にドメスティックですけれ ども、家庭内にとどまらず、夫から妻、あるいは恋人から恋人へというあたりをおおむ ねドメスティック・バイオレンスという形で定義しているのだろうと思います。子ども から親へというのはかつて大きく話題になりましたけれども、これも含めてDVとは今 は定義していないと私は認識しております。 ○平山座長  ありがとうございました。 ○岩永委員  2点ですけれども、まず1つは書き方が最初に問題認識という形で来ています。思春 期の方も問題認識が一番最初に来ている訳ですけれども、問題としてとらえるというこ とはそこに一つの理想像のようなものがあるからここが問題として認識されるというこ とだと思うんです。だから、ある意味では当然と言えば当然なんです。これを読めば何 を目指しているかは見えるのですけれども、最初に数行ぐらいでもいいですから、母親 が安心して子育てとか父親の役割等々、ここに書かれていることの本来の姿、後の方に 方向の位置づけと書いてありますけれども、それは最初に持ってくるべきだろうと私は 思います。  もう1つは、医療の病気の治療などを言うには一般解があるんですね。ここが痛けれ ばその原因はここにあるという、1足す1はどこに行っても2だという一般解があると 思うのですけれども、育児や教育の分野は一般解ではなくて固有解ですよね。だれかの 子育てがうまくいって、子育てで不安を持っていた人、家庭内暴力などにしてもある方 法で解決したからといって、それはよそでも同じ方法で解決するとは限らないというの が固有解、そこでしか答えを見つけられないということです。その中には何か本質があ るから、そういうことを研究されている方はその中の共通は何なのかというように見て いく。でも、それはあくまでもその要因であって、一般解としてはなかなか見つけられ ない。そういうことをベースにした論調で母子の問題をとらえないと、一つの答えが出 るとそれは全国どこにでも共通するという雰囲気がもしこの中に流れてくると、それは 違うのではないかという気がします。どこがそうかと言われると今すぐ難しいのですけ れども、そういうところはどうなのでしょうかということです。 ○平山座長  ありがとうございました。  事務局から何かお答えはありますか。 ○藤崎母子保健課長  今、岩永先生が2点おっしゃられた訳ですが、1点目に関して、そもそもこの「健や か親子21」を何で始めたかということがあると思うんです。20世紀に日本の母子保健は かなりよくやってきた、その上でこれから先どういうビジョンをつくっていくのかとい うところで残された課題や新しい問題、それから予防的な対応をとらえて、それに対し てどう対応していくのかということが問題認識になっているので最初に問題認識と立て た訳です。ただ、これは書き方の問題ですし、最終的な報告書の姿としてそれぞれの柱 立てのところに、あるいはそれを包含する最初の総論のところに基本的にどういうもの を目指していくのかということを入れていくことは特に問題ないと考えておりますので 、その辺はまた具体的な御提案があれば大いに議論していただければと思います。  それから個々の問題の方、2点目はもう一回言っていただけますか。 ○岩永委員  例えば家庭内暴力でも児童虐待でも、何か原因があるから結果があるというとらえ方 ですね。そのときにある原因はどこにも共通するとは考えにくいのが教育や子育ての分 野だと思うんです。そういう意味です。 ○藤崎課長  わかりました。基本的に私どもが案として出させていただいたのはこういう考え方で す。そういう大きな問題認識があって、日本全体としてそういうことに対応していくべ きではないかという方向性をまず確認して、オールジャパンでいけばそういうものをい くだろう。ただ、それが思春期の問題にしても親子の心の問題にしても小児科医の問題 にしても、地域によって違うだろうと思います。そのうちのどれをどういう計画でやっ ていくのかは、それぞれの地方自治体なり各団体が取捨選択していただきながら進めて いく。そういうトータルなビジョンを提示していくのだろうというのが我々の考え方で す。  そのときにただビジョンだけを提示してもなかなか進みませんから、可能な限りそれ を一般解に近い形で考えられるものを専門家が大勢集まっていただく中で出していって 、それを取捨選択しながらどういうふうに進めていくかをお考えいただければいいのか なと。したがって、最終報告が出た後の我々というか国の方の一つの宿題は、そういう ことの参考になるような事例集なりマニュアルの情報をどれだけ御提供出来るか。ある いは調査研究を進めて、その基礎になるようなものをどう提供出来るかというところに あって、それをどう料理するかはそれぞれの自治体なり専門家の御判断になるのではな いかと考えています。 ○岩永委員  ちょっと違うところがあるのですけれども、今のはよく分かりました。そのこととも う一つ、この中で対策を立てて実際にそれが動き出すのは保健所、市町村だと思うので すが、その際にこの中の理念的なところとして当事者自身の価値観、当事者自身の判断 力を高めていくという視点が必要なのではないかということを言いたかった訳です。 ○藤崎課長  それはおっしゃるとおりだと思いますし、恐らくこの後の進め方の中でもヘルスプロ モーションの理念などが出てくると思いますが、そのようにして進められていくべきも のだろうと考えております。 ○平山座長  ありがとうございました。 ○櫃本委員  アルコールの問題ですが、恐らくドメスティック・バイオレンスがアルコールという ことではなくて、いろいろな意味でアルコール問題が育児不安にかなり関係があるのだ ろうということで、ただドメスティックは一つの例として挙げたんです。それがこうい うふうにつながったのかなと。それはそれとして、アルコール問題について全部除いて しまうと、アルコール対策はそういう意味で子育て問題にかなり大きく影響しているの ではないかとは思うのですけれども、これを除いてしまってけりをつけてしまわれると ちょっと寂しいなと。 ○北村委員  DVがアルコール対策によって解消し得るのだろうという印象……。 ○櫃本委員  そういう意味ではないです。だから、先ほど岩永先生が言われているのと多少関連し ているのかなと思ったのですけれども。 ○北村委員  例えば独立させるならばいいのではないでしょうか。 ○櫃本委員  そう言っていただければ助かります。 ○平山座長  確かにアルコールの問題は児童虐待とも絡みますし、いろいろなところに影を落とし ますので、その辺を踏まえてよろしくお願いいたします。  ほかにも御意見あるいは御発言したい先生方がおられると思いますけれども、次の議 題が控えておりますので、恐縮でございますが、次に進めさせていただきます。  育児不安の解消と子どもの問題につきましては座長が一応お預かりして、本日の検討 とこれまでの検討を踏まえまして事務局でたたき台の最終のまとめをつくるように努力 したいと思います。それでよろしゅうございますか。  また先生方からもさらにメモなどを送っていただければ、それをぜひ参考にさせてい ただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。また、先ほど御意見が出まし た目標値については後日まとめて検討していただく場を設けたいと思います。これもよ ろしくお願いいたします。  それでは、議題2の「思春期保健の強化と健康と健康教育の推進」の議題に入りたい と思います。まず、事務局から御説明ください。 ○椎葉課長補佐  それでは、資料の御説明をいたします。  2種類あります。検討会資料集2、女の子が2人載っているものでございます。これ は文部省から御提出いただいた資料です。今日は文部省の大場室長が見えられておりま すので、後ほど御説明をお願いしたいと思います。そして、資料集3でございます。こ の7ページ以降が各先生方からいただいた思春期問題の意見もしくは資料です。これを 簡単に御説明いたします。  まず9ページでございますが、岡本委員からの提出資料です。思春期保健の強化につ いて全中・高校生に助産婦、思春期指導員による「生命の出前講座」を行う。実際に学 校に出かけていきまして、助産婦さんなどからいろいろな教育をしていただくというこ とでございます。  10ページは、そういう学校に行くとともに、そこに行けば子どもたちがほっとリラッ クス出来るような憩いの場としての思春期センターの設立はどうかという提案をいただ いております。また、目標値につきましては「生命の出前講座」を専門職が外に出かけ ていって全中学生、全高校生でやるということなどについて御意見をいただいておりま す。  そして具体的なものですけれども、13ページ以降は助産婦会による思春期相談開設や 、実際に群馬県などで行われた資料につきまして御提出をいただいております。  次に、北村委員からの意見です。35ページでございます。思春期保健の強化につきま して若者委員会の設置、思春期相談の専門外来の充実、家族計画クリニック・STDク リニックの全国的な展開、またおもしろい考え方でございまして、ピアカウンセラー、 ピアカウンセリング、また啓発、教育、それから若者への避妊具の無料提供プログラム ということにつきまして資料をいただいております。かなり大規模な資料をいただいて おりますので、これは後ほど北村委員の方から御説明をいただきたいと思います。  続きまして、 135ページです。巷野委員から御提出の意見でございます。まず、思春 期保健ですけれども、人には思春期があるということの意義と理解をしていただくとい うこと。次のページですが、思春期問題の予防のために特に小学中学年を中心として取 り組んだらどうかという御意見でございます。  古平委員からの意見ですけれども、 139ページでごす。特に思春期につきまして社会 や学校に対する提案。次の 140ページで、他人のつき合いに強い子に育てるなどいろい ろなことがございまして、これも後ほど古平委員の方から御説明いただければと思いま す。   147ページは、澤委員からの提出資料です。特に保健所を中心とする取り組みにつき ましていただいておりますが、地域への還元の難しさといった問題点や、今日は基本的 なコンセプトが学校と保健の連携が難しいということをどの資料でもいただいているの ですが、その難しさ。それから、若者に対する情報発信基地の発展。特にエイズや薬物 、飲酒、喫煙という情報の提供でございます。思春期相談に関しましては引きこもりと いう問題についての対策で、保健所の家族への支援等につきまして御意見をいただいて おります。それから、エイズにつきましての取り組みと、池袋保健所の方でやっており ますエイズ資料館というパンフレットについても別途提供いただいております。  清水委員は、 153ページでございます。思春期問題について特に心身統一体であると いうことで心の問題を中心に、またこれもかなりの資料をいただいておりまして、これ も清水先生の方から後ほど御説明いただければと思います。  続きまして、 237ページです。藤内委員からの意見でございまして、実際に保健所で 思春期保健などをやっていて、そういう目標値についての具体的な御提案をいただいて おります。特にQOLの目標や、次の 238ページで、健康に関する目標値、生活習慣、 学習目標という各項目ごとにこういう目標はどうかということで御提出いただいており ます。また、 240ページからは実践しているライフスキル教育についての資料をいただ いています。  続きまして、 247ページは徳永委員御提出の資料です。思春期の保健対策の問題につ きまして、薬物乱用について保健所のいろいろな啓発、相談体制の整備についていただ いております。そして 248ページには心の問題に関する引きこもりや家庭内暴力、不登 校といった問題についての取り組みや性の問題についての取り組みについて資料をいた だいております。   265ページですけれども、戸田委員からの提出資料でございます。特に思春期保健に つきましては病気ではなく健康に焦点を当てた医療・社会形成の視点を持った対応が必 要であるという御指摘で、次の 266ページからに提案が5つ出されています。例えば提 案1ですが、まさにお互いの生命と性を尊重し合って、青春というのは心の変化も含め て理解を深める「いのちの教育」プログラムの開発。提案2でありますが、学校教育や 地域の情報提供の場を利用した積極的な知識の普及など。 268ページですけれども、 バースエデュケーションの推進。それから、社会的弱者に対するいろいろな啓蒙。そし て、先ほどの御発言にもございますけれども、いろいろなエビデンスに基づいた情報 データベースの作成、公開ということについて御意見をいただいており、資料も後ろに つけてございます。  続きまして櫃本委員でございますが、 305ページでございます。思春期につきまして 学校の受け入れが大事だということで幾つか、大場室長には耳の痛い点と思われますが 、こういった御指摘。学校は地域に対して閉鎖的ではないか、学校長の判断による格差 が大きい。今度は地域保健の問題でありますが、思春期の問題に対する現状把握が出来 ていない、学校保健委員会が低調ではないかという御意見が出されております。  続きまして 309ページですが、美濃輪委員からの御指摘で、これは実際に学校現場で 問題となっていることについて詳しくいただいております。対策としては社会の浄化や 家族へのサポート体制、教育、関係機関との連携ということでございまして、これも後 ほど美濃輪委員の方から御説明いただければと思います。また、生徒や保護者、職員の 実態調査の資料もいただいております。  最後ですが、前回配付された渡辺委員からの資料でございますけれども、少子化時代 の精神療法につきまして育児環境の変化や少子化の問題点などを踏まえながら子どもの 世代間伝達などにつきましての資料です。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  それでは、思春期に多方面からかかわっていただいている先生方が大勢おられますが 、御意見、追加御発言なりをしていただきたいと思います。ただ、時間が限られており ますので、とりあえずこちらで指名させていただきますので御勘弁ください。後でまた 議論の時間がとれると存じます。  では、最初に文部省の大場室長にお見えいただいております。文部省から資料をちょ うだいしていますので、それに基づきまして文部省としての取り組みを御説明くださ い。 ○大場健康教育企画室長  文部省の大場でございます。学校保健は母子保健と密接に連携させていただいて、こ れまでもずっと施策を進めてきたところです。この会議もそういう訳で第1回からオブ ザーバーとして私どもも参加させていただきました。大変に興味を持って皆さんの御意 見を拝聴し、特に学校に対する要望は大変強いなと思って第1回から伺っていたところ でございます。  また、私事になりますけれども、私の長女が昨年パリで生まれまして、あちらで5カ 月まで育ったことから、日本の育児の仕方、出産の仕方を含めてあちらと日本は大分違 うなと、この会議に来てその辺も大変おもしろく思って聞いていたところでございます 。  さて、今日は学校保健に関する施策等を中心に基本的なことについて、学校が閉ざさ れているという意見も多数ございますので恐らく学校の中の話や教育行政は余り御承知 ではないということを前提にいたしまして、お話をさせていただきたいと思います。  まず、健康教育の充実でございますけれども、学校におきます教育課程は文部省の定 めます学習指導要領において示されております。文部省では時代の変化に対応するため 、平成10年12月に小学校及び中学校について、高等学校につきましては平成11年3月に 改訂しております。そして、平成14年度から小・中について、翌15年度から高等学校に ついて、新しいものが適用されることになっております。ただ、今年から移行期という ことで小中高すべてについてどちらを使ってもいいことになっています。。ですから、 今は並行して古い指導要領を使っている学校もあれば、あるいは新しい指導要領を使っ ている学校もあるという状況になっております。  この学習指導要領の改訂でございますけれども、元をただすと平成8年7月に文部省 の中央教育審議会で、子どもたちに「生きる力」をつける必要があるという認識から、 学校、家庭、地域が相互に連携しつつ、ゆとりを確保していく中で生きる力を育んでい くべきとしたところに始まっております。「生きる力」とは、1つにはよりよく問題を 解決する能力、そして豊かな人間性とたくましく生きるための健康や体力と定義されて おります。その中の1つに健康が入っている訳でございまして、学校保健を中核とした 健康教育の一層の充実が求められたと言えると思います。  これを受けて文部省の保健体育審議会、これも資料集に入っているようでございます けれども、健康教育に関しては、健康の大切さを認識出来るようにするとともに、近年 における食生活を始めとする生活習慣の乱れや生活習慣病、心の健康、喫煙、飲酒、薬 物乱用、性の逸脱行動などの健康課題に適切に対応するためには、早い時期からの保健 学習の実施とヘルスプロモーションの考え方を生かした健康教育を推進する必要がある ことが提言されております。  これらを受けまして平成10年7月には教育課程審議会、これは教育課程を検討する会 議でございますけれども、この審議会の答申が出されました。その中で、児童生徒に対 し生涯にわたり心身ともに健康な生活を送るための基礎的な健康や体力を育むことは極 めて大切なことであり、体育科、保健体育科、家庭科などの各教科、道徳、特別活動及 び総合的な学習の時間において体験的な活動等を通して健康の大切さや自分の体に気づ き、広く健康の課題に対処出来るように指導を充実する必要があると報告されたところ でございます。体育、健康教育の学習につきましては生涯にわたって運動に親しみ、基 礎的体力を高めることを重視するとともに、新たに小学校中学年から保健に関する内容 を指導することとしました。これを受けまして新しい学習指導要領では、学校保健を中 核とした学校における健康教育が一層充実されることになりました。ただ、近年の学校 週5日制などによりまして授業時間数が縮減されてきております。しかしながら、保健 体育につきましては従来どおり小学校から高校を通して必修となっております。  また、この教育課程審議会の答申は、学校外の専門家の活用を非常に重視している内 容になっております。書いている中身を読み上げますと、「児童生徒の発達段階等を考 慮し、一人一人の興味・関心を生かした指導や学習内容の理解や習熟程度に応じ弾力的 に学習集団を編成したり学級編制を弾力的に行うなど、個に応じた指導の工夫・改善を 一層進める必要がある。その際、異なる教科間の教師の協力も含め、ティーム・ティー チングなどの指導を一層進めるとともに特別非常勤講師等による授業を積極的に実施し たり、保護者と地域の人々の協力を得ることも大切である」と指摘し、学校外の指導者 を積極的に活用するよう求めております。  専門家の活用につきましては、一つには学校外の専門家がチームを組んで行いますテ ィーム・ティーチングという方法があります。皆さんごらんになっているかもしれませ んけれども、NHKの朝のテレビ小説「私の青空」で学校栄養職員が一緒に教えている 授業がございます。あれがティーム・ティーチングです。また、専門家を非常勤講師と して採用し、単独で授業を行わせる特別非常勤講師制度もあります。ティーム・ティー チングにつきましては特段手続等は必要なく、学校の判断で来てくださいと言われれば 、そこにおいでいただいて授業をやっていただければそれでいい訳で、面倒な手続きは 要りません。特別非常勤講師制度につきましても、平成10年の教育職員免許法の改正に より小学校における対象が全教科に拡大されたということがあります。また、従前です と、教員免許の授与権者である都道府県教育委員会の許可が必要だったのが、この改正 によりまして届け出制に変わり、手続が簡素化されております。この会議におきまして もいろいろな先生方から健康教育に専門家を活用すべきであるという御意見をたくさん いただいておりますが、地域の学校に、そういう授業も提案していただければよろしい のではないかと思うところでございます。  また、学校内の専門性を有する人材、先ほど申し上げた学校栄養職員、養護教諭が学 校にいる訳でございます。こういうものの活用につきましても、例えば養護教諭につい てはもちろんティーム・ティーチング出来る訳でありますけれども、同じ教育職員免許 法の改正により、学校の判断によって3年以上の勤務経験を有する者につきましては兼 職発令をすることによって保健の授業を担当することが出来るようになっております。  次に学習指導要領の改訂の内容を、簡単ではありますけれども御説明させていただき たいと思います。  小中高の保健につきましては、先ほどの保健体育審議会の答申で指摘されましたよう に、ヘルスプロモーションの考え方を生かして生涯を通じてみずからの健康を適切に管 理し、改善していく資質や能力の基礎を培い、実践力を育成することとしております。 この改善に当たりまして特に留意された点は、1つは心の健康の問題、そして食生活を 初めとする生活習慣の乱れ、生活習慣病の問題、4番目は薬物乱用の問題、5番目は性 に関する問題等、そして6番目は感染症の新たな課題、最後に7番目として自然災害等 における安全の確保でございます。  こういう点に留意しつつどういう改訂が行われたかということを御紹介いたしますと 、まず小学校につきましては先ほど御紹介したとおり、5年生から保健の授業が始まっ ていたのが3年生から始めることとなった訳でございます。これは資料の40ページにあ りますが、ごらんいただけますでしょうか。  そこにありますように、3・4年生におきましては食生活を始めとする生活習慣の乱 れ、児童生徒の発育・発達の早期化に対応するため、健康的な生活習慣の形成及び身体 の発育・発達に関する内容を取り扱うこととした訳でございます。  41ページ以降が小学校5・6年生の内容です。これは大幅に改善され、例えば病気予 防において生活習慣病の予防及び薬物乱用防止を新たに取り扱うことといたしました。 具体的には生活習慣病と食事とのかかわり、また薬物乱用に関しては有機溶剤、シン ナーの心への影響を中心に覚醒剤等にも触れることとしております。  資料の42ページ以降に続くはずですが、42ページ以降は解説書になってしまっている ようです。インターネットの文部省のホームページに学習指導要領が全部載っておりま すので、ぜひ興味のある方は42ページ以降に載っているべきものをごらんいただけたら 幸いでございます。  そしてまた、この5年生・6年生では心の健康を独立させた単元といたしまして、心 の発達、心身相関、不安や悩みの対象、心のかかわり方についても取り扱うこととして おります。  次に、中学校でございますが、発育・発達や性に関する内容につきましては二次性徴 に関する内容を小学校に移しております。心身の機能の発達の順序性、呼吸器・循環器 を中心とし、生殖に関する機能の成熟を重視することといたしております。また、騒音 に関する内容を削除し、疾病の応急処置を高等学校に移行・統合することとしておりま す。  健康な生活行動の実践、生活習慣病の予防の視点を重視し、食生活を始めとする生活 習慣の乱れに対応するため、食事や運動などの重要性について充実したところでありま す。また、薬物乱用防止については覚醒剤や大麻等の心身への影響や依存症について取 り扱うこととしました。  性に関しましては、思春期における自分らしさの形成、ストレスの対処に重点を置く こととし、また性の問題行動への対処として性的成熟に関する正しい理解や行動選択の 重要性について取り扱うこととしております。また、疾病の予防に関する内容でエイズ など性感染症の予防についても取り扱うこととしたところであります。  最後に、高等学校について大きな点を4点ばかり紹介いたしますと、重複を避けるた め、理科や家庭などと重複する内容を削っておりますのが1つ。それから、健康を保 持・増進するためには単なる知識理解だけではなく、個人の適切な意志決定や行動選択 が重要であることについて取り扱うこととしたこと。3つ目に、エイズ、出血性大腸菌 感染症など感染症の新たな課題について取り扱うこととしたこと。4つ目として、自己 の可能性を最大限に生かして自己を高めていくことの大切さや欲求、ストレスへの対処 に重点を置いたということでございます。  今回の学習指導要領の改訂の目玉の一つとして、総合的な学習の時間が導入されてお ります。これは各学校の創意工夫を生かして何をやってもいいという時間ですけれども 、学習時間数は小学校の3・4年生が年間 105時間、5・6年生が 110時間、中学校は だんだん増えていくと申しますか、学年によって若干違うのですけれども、70時間から 130時間、高校の場合は3年間を通して 155時間から 210時間と、学校によってもばらつ きが出るようなプログラム構成になっております。先ほど申し上げたとおり何をやって もいい訳ですけれども、学習指導要領は国際理解や情報などを例示しています。国際理 解ということで巷では小学校で英語をやってもいい、小学校で英語が始まるというよう な曲解された報道もされておりますけれども、それと並びまして環境、福祉・健康が挙 がっております。福祉・健康に関しては例えばエイズ、歯と口の健康、薬物乱用防止な どについて保健の範囲を超えて一人一人の興味・関心等を大切にしつつ社会とのかかわ り、人権なども視野に入れて幅広く学習することが期待されているところであります。  皆様の関心が高いと思われます性教育につきましては、今御紹介しました学習指導要 領に基づいて体育科、保健体育科、道徳、特別活動など学校の教育活動全体を通じて行 うこととされております。そのねらいといたしましては、人間尊重を基盤として児童生 徒の発達段階に応じて性に関する科学的知識を理解させるとともに、児童生徒が健全な 異性観を持ち、これに基づいて望ましい行動がとれるようにすることとされています。 文部省におきましては教員がより実践的に取り組んでいただけるよう、モデル地域によ る実践研究を推進するとともに、「学校における性教育の考え方、進め方」という冊子 をつくって、全国の学校、4万幾つあるのですけれども全部の学校に配っております。  これは今日持ってきていますので、回覧いたしますからご覧になってください。これ は学校に配っただけではなくて、出版社のぎょうせいから市販もされております。どな たでも入手出来るようにもしております。  次に、この資料の最初に紹介されております中央教育審議会の答申をごく簡単に御紹 介いたしますと、これは平成10年6月に出された大変広範な答申ですけれども、「新し い時代を拓く心を育てるために−次世代を育てる心を失う危機」と題された、心をテー マに取り上げた答申であります。この答申では学校、地域、家庭の連携を特に強く求め ておりまして、従来の答申とは異なって、この資料の4ページ以降にありますように第 2章全体が家庭のあり方に言及しております。出されたときに報道等では、文部省は家 庭にまで口を出したと言われたところでありました。  そして、13ページ以降には地域との連携を取り上げまして、まず最初に母子保健の機 会を積極的に生かすことについてさまざまな提言が行われているところであります。  ここには資料として載っている訳ではありませんけれども、昨今、新聞・マスコミを 特ににぎわしております少年の問題行動への対応といたしまして、文部省内でプロジェ クトチームをつくって検討していましたが、このほどまとまって一昨日発表したところ でございます。新聞等でごらんになった方もいらっしゃるかと思いますけれども、その 中で学校保健と関係するものとして1つには、心理の専門家や精神科医、厚生省の担当 官の方も来ていただくのですが、専門家会合を設置して検討するということ。それから 、学校にスクールカウンセラーを置くことについて、今は調査研究でやっている訳です けれども、夏ころまでに結論を得るということ。それから「教師のための心の健康の理 解と対応」という冊子を全国の学校に配布すること。今年2月に出たもので、これは学 校保健会でつくったもので、これを教育委員会まで配布していたのですけれども、学校 まで配布することといたしました。これも市販される予定でございます。これも今回覧 いたしますので、目を通してください。  それから、心の健康問題への取り組みに関する実践事例集を作成すること。それから これは先ほど精神科医の職場がないというお話と関係すると思うのですが、今、各学校 には学校医が非常勤の形で置かれております。それは学校保健法で設置が義務づけられ ているもので、これはすべての学校で私立も含めてでありますけれども、この学校医の 中に精神科医を置いてはいかがか、あるいは地域に配置する形での調査研究も行っては いかがかということも含まれています。  最後に、資料の 331ページ以降でありますが、心の健康と生活習慣に関する調査研究 を今行っておりまして、実は委員の山縣先生に大変お世話になっております。これによ って、心の健康問題について学校の先生が適切な指導が出来るための資料が出来ればと いうことで進めているところでございます。  簡単でありますが、以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  かつては厚生省側と文部省側は大体6歳ぐらいを境目に、学校に行くようになると文 部省の方の学校保健法というふうに区分けされてしまっているような感じでしたけれど も、私の感じでは中教審の幼児期からの心の教育のあり方についての答申以降、例えば 地域の母子保健のサービスの場で文部省がつくられた家庭用のしつけの小冊子を配布さ れたり、両省の担当官が定期的な会合を開かれたりということで、子どもの問題を大分 風通しよくやっていただいていると伺っております。  今御説明いただきましたが、我々は何年生のときにどんなことを習っているのかを案 外知らないものですから、これをごらんいただきまして、こういうことをやっているの かとかこういうことを知らないまま学校を出るのかとか、いろいろなことがあると思い ます。御参考にしていただきながら、またこれからのディスカッションに活用していた だければありがたいと思います。  それでは、ほかに何人かの先生方から補足した御発言をいただきたいと思います。恐 縮ですが、5分ぐらいをめどにお願いしたいと思います。  まず、思春期外来などを実施されている北村先生に、思春期の子どもたちが直面して いる問題の現状についての御発言をお願いいたします。 ○北村委員  5分という時間でございますが、私の資料は35ページから用意させていただきました 。拝見しますとどうも順番が乱れているところがございまして、そのあたりはぜひごら んいただいて並べ変えていただけたらと思っております。  最初に「取り組むべき施策と課題」と書きましたが、通常物を考えるときは「現状と 課題」がある訳でございまして、38ページでございます。  産婦人科医あるいは公衆衛生をやってきた者の立場で、特に思春期の心の問題という よりもリプロダクティブ・ヘルスという視点から思春期をとらえてきた立場といたしま すと、先ほど来アウトカム指標の問題が話題になっていますが、10代の20歳未満の人工 妊娠中絶は1998年のデータで女子人口千対 9.1という数字が出ました。1997年が 7.9で すから、8を超え一挙に 9.1になったという状況でございます。  さらに性感染症などを見ましても、特にクラミジアなどでは私どもの姉妹団体が集め ております東京都内の産婦人科から寄せられる検体からは、15歳から19歳の女子で産婦 人科を訪れて検査をした人、クラミジアを疑うのは本人であったり医者であったりする 訳ですけれども、その人たちについて見ますと、驚くことに4人に1人がクラミジア陽 性であるという現実がございます。  長い間、実に20年を超えて若い人たちに対する性教育に取り組んできた者としては実 はその2つが性教育を進める上での目標であった訳でありますけれども、現実を見る限 りにおいて私の仕事はほとんど役に立たなかった。これは私だけではなくて、恐らくリ プロダクティブ・ヘルス、望まない妊娠、あるいはSTD対策ということを課題にして 行われてきた性教育が果たしていかほどの意味を持ったのだろうかということに疑問を 抱かざるを得ません。  現状を見ましても、東京都のデータですけれども、高校3年生の女子の性交経験率は 4割に至り、例えば避妊ひとつをとっても初めてセックスをしたときに避妊をしたかと 問うと、5割程度が「した」と答えるような状況でありますし、さらに2度目以降常に 避妊をしたかという問いかけについては2割程度にまで下がってしまうという現状があ る訳でございます。これでは結果として望まない妊娠、そして性感染症などが拡大する ことは火を見るより明らかでありまして、きっと今までの対応の仕方では事態は変わり 得ないということをここにいらっしゃる委員の先生方は十分に認識すべきではないだろ うかという感じがしてなりません。  そういう意味で果たして一体どんな対応がなされるべきなのかということで、今、世 界的に非常に話題になっているのが「取り組むべき施策と課題」の第1に挙げました youthcommitteeの設定であります。このユースはだれをユースと言うのか、だれを招き 入れるのか、だれの意見を聞くのかというあたりについてはいろいろ議論のあるところ でしょうけれども、世界は今、6月にもニューヨークで1995年に開かれた北京会議プラ ス5の議論が行われておりますけれども、このユースがこういう政策決定の場にぜひ参 画べきである。  ここで思春期の議論をしている私たちももうおじさん、おばさんであって、思春期は 遠い昔の話であります。そのおじさん、おばさんたちの議論がそのまま若者たちに向け られて若者たちを動かし得るかということになりますと、これはとてもかなわぬことで ありまして、むしろ我々は謙虚に若者たちにひざまずくというか頭を下げて、我々が考 える思春期保健対策が君たちにとっていかなる意味を持つのか、あるいはこれは有益な 施策になるのかどうかということを、私は早急にもここでの議論を踏まえてやってみた いなという感じがしております。  さらに、避妊の問題などがいろいろ取り上げられる中で低用量ピルという若者たちに とてはとても有益な避妊法が発売されても、なお一向に普及するような動きが見えない という大変残念な現状があります。また、世界的な動きの中では、若者たちにとっての 最後の避妊手段として緊急避妊法を徹底的に知らせるべきであるし、それを受けとめる ことの出来る施設を早急につくるべきだということが話題になっております。緊急避妊 というのは、レイプされたとか避妊に失敗したとか避妊出来なかった人たちに対して、 一例は72時間以内に高用量のピルを処方するという方法でありますけれども、もちろん 中には5日以内であるならば子宮内避妊具を挿入するということもありますけれども、 こういう対処の仕方があることを若者たちが知らない。あるいは、こういう対処の仕方 があることを残念ながら指導者であるべき産婦人科医などが十分認識していないという 現状を踏まえて家族計画クリニック、あるいはSTDクリニックなどを早急に全国的に 展開していく必要があるだろうと考えております。  さらに、権威だけで指導してきた我々の指導の仕方、親から子どもあるいは教師から 子ども、保健婦から子どもというやり方ではなくて、権威主義によらないピアカウンセ リング、仲間を使ってのカウンセリングシステムをつくっていくことが今まで不足して いたのではないだろうかという気がしてなりません。  5番目では広報・啓発の話を書いておりますけれども、最近若者たちの間で非常に視 聴率の高い「伝説の教師」というものがございます。そこに登場する松本人志はとても 影響力のあるタレントですが、彼が若者たちに向かって「コンドームなんか使うことは 神への冒涜である」ということを平気でのたまう訳であります。コンドームを使わない 方がはるかに気持ちいいということを平気でのたまう訳でありまして、こういうことが 若者たちに相当な影響力を与えている可能性がありますので、私はメディア・リテラ シーという言葉を最近盛んに使うのですけれども、メディアの情報をうのみにするので はなくて、メディアの情報に対して批判的・批評的な気持ちでとらえることの出来る教 育を積極的に進めていく必要があるだろう。性に関してはメディアからの影響を相当受 けているものですから、メディアを批判する力、メディア・リテラシー教育の醸成を積 極的に行っていく必要があるという感じがしております。  さらに、若者への避妊具の無料提供というのはもう世界の常識でありまして、若者た ちの人工妊娠中絶を何とかしたいならばこのぐらい踏み込んだ施策があるべきだろうと 思います。また、他の国との比較をしてみても、15歳から19歳の若者たちの妊娠が出産 に向かう確率は極めて低い。若者たちにもリプロダクティブ・ヘルス・ライツが当然あ るべきであって、数少ないけれども産みたいと考える若者たちがいてもいい訳ですが、 現状は残念ながら親や社会からのプレッシャーの中で中絶を選択せざるを得ないような 状況がございます。  私は文部省なども数少ない事例とはいえ、そういう子どもたちが妊娠・出産・育児を しようと考えたときに、その子どもたちの教育のチャンスが奪われることのない、例え ば妊娠学校あるいは未婚者であっても教育の機会を奪われることのない学校の建設とい うか、そういう社会的な準備をそろそろすべきではないだろうかという感じがしており まして、そのあたりを含めて施策あるいは課題として取り組むべきものを提案させてい ただいた訳でございます。 ○平山座長  どうもありがとうございました。  それでは、引き続きまして児童精神科の分野で思春期の心の問題について対応をいろ いろしていただいております清水先生、お願いいたします。 ○清水委員  私のコメントは資料集の 153、 154ページにまとめてございまして、関連資料を添付 してございます。 最初に、椎葉課長補佐もおっしゃったように精神・身体・社会的統一体としての思春 期という、言ってみれば中学生や高校生へのレクチャーで言うようなことをあえて申し 上げたのは、この会議の第1回で、思春期という本検討会4大柱の1本に語られている ことは性と薬物依存だけでしたので、非常に衝撃を受けました。やはり中学レベルのこ とを一つ語っておかなければいけないと思った訳です。 私は精神科医ですから心の側から思春期を見ておりますけれども、心だけを見ていて も我々の商売は成り立ちません。体の急激な変化に彼らがどうつき合っているのか、あ るいは友人関係、社会全体からの影響にどう対処しているのかを見ていかねばいけない 訳です。今、北村委員からも性の問題を盛んに語っていただいて緊急性があるのはよく 分かるのですけれども、心と体と社会性という三方向の見方の関連をしっかり押さえな ければいけないと思います。 それから、社会変動、社会風潮からの影響を最も受けやすい年ごろであるということ も注意しておかなければいけません。 神戸市須磨区や佐賀市の少年が事件を起こし、すぐ対応策をという短絡的な行政施策 は余り好ましくないと思います。資料のどこかで自殺が増えていると書かれていました けれども、決して統計的有意差を持って子どもの自殺が増えている訳ではありません。 自殺に関して言えば、統計的有意差を持って増えているのはむしろ中年のリストラ自殺 です。その辺の短絡性は注意しなければいけないと思います。 しらけ云々と語られ続けているように思春期の子どもたちの本当の姿が見えなくなっ てきております。私も臨床医として35年ぐらい思春期とつき合ってまいりましたけれど も、彼らは仮面をかぶるようになっております。それは姿を見せたくないというあの世 代の一つの自衛策ではないかとも思います。 それから、学校精神保健が難しいとおっしゃる方が多いのですが、私は決して難しい ことだとは思っておりません。昭和43年から教育の現場へ出かけて学校精神保健をやっ てきた者として、そんなに難しいことではないと思います。ただ、これは文部省が旗を 振ってこうやりましょうということでやるべき方策ではないと思います。心の問題を全 国一律に実施するのは危険だと私は思います。 これはそれぞれの地域において心ある心の臨床家、カウンセラーであっても精神科医 であってもよろしいですが、それと具体的には保健室、養護教諭との連携によって、こ ういう公の場の表現としてはよろしくないですけれどもゲリラ的に事を進めていくしか ないと思います。そうすると一部の地域では学校精神保健が進み、ほかの地域では放っ ておかれることが起こるかもしれませんが、これはやむを得ないことでしょう。それぐ らいの覚悟と慎重さがないと、心の問題は大きな危険をはらむのではないかと思いま す。 ○平山座長  ありがとうございました。 引き続いて御意見をいただいてしまいますが、次に学校現場においてはどういう健康 教育をしていただいているのか、具体的にお話しいただきたいと思います。美濃輪先生 、お願いいたします。 ○美濃輪委員  美濃輪でございます。よろしくお願いいたします。  私の方は 309ページから書いておりますけれども、私は現場の人間ですので、すべて 学者の先生方の書いたものなどを見ないで、子どもたちをここ数年見ているなかで考え て資料をつくりました。保健学習の内容については文部省の方からお話があったとおり でございますが、私は現場におきましてここ20年、子どもたちの心のあり方に非常に心 を傷めてまいりました。キレる子どもたち、学級崩壊、校内暴力、対教師暴力と、現実 に毎日のように何かしら問題がございます。また、不登校や保健室登校生徒がいたり、 職員はいろいろな場面でかかわっております。一養護教諭が保健室では支え切れないく らいの問題に直面してまいりました。  少子化傾向に伴いながら親の過保護とか過干渉であったり、自分の考えを持たない指 示待ち人間みたいな、また無気力な子どもたちが中学にもたくさん入学してまいります 。年々幼くて、昨日も内科検診をやったのですが、事前にプリントを配っておき、担任 の先生からお話もしていただいているにもかかわらず、お医者さんの前にぼーっと立っ ていて、何をするのかわからないような子どもたちばかりです。ですから、そういう子 どもたちに考える力とか生きる力とか生き抜く力とか自殺するなとか、そういうことを 教えるのは並大抵のことではないなと思います。授業の理解度も小学校で7割、中学で 5割、高校で3割、大体理解出来る子がこのぐらいしかいない中で健康教育をと言われ ても今の時間数ではとても足りないのが現状だと思います。  出来れば算数や数学のように小学校1年生から保健の教科を一本立ちさせて専門のス タッフをつけてやっていかなければ、体育の実技と保健学習で年間90時間というのが新 指導要領に盛られていますけれども、週に 2.5時間ですね。その中で「何をやれ」とい うのかという話を今日体育の先生からも聞いてきましたけれども、実技も足りない。子 どもたちが1日6時間、机の上に張りついて体を動かさなかったらやっていけない、キ レるのも当たり前ではないかということも言われています。  保健指導を道徳などでとれと文部省では言っています。私は「ぜひ下さい。」とお願 いして何とかやっていますけれども、事実年間各学年10時間位とれている学校は少ない のではないでしょうか。本校は性教育に6時間ぐらい、中学3年生は特別時間割といい まして卒業の前に多少時間があります。その中でもとっておりますけれども、年間の中 でそれを確保していける学校は本当にごく少数ではないかなと思っております。  また、たばこ、シンナー、薬物、食事や性教育、エイズも含めてやることはたくさん あるのですけれども、現実、何か社会問題が起きると、例えばエイズが10年前に出てき たときに学校は何をやっているのだと。小学生、中学生の実際に性交もしていない子ど もたちにエイズを危ないと教える教育ではないと言いながら、どのように切り込んでい くか私たちとしては悩みでした。大人社会で起きている現象をすべて子どもたちに教育 すれば 100%予防出来るというのは安易な考え方ではないか。もう少し社会を浄化して もらうような、先ほど北村先生がおっしゃったようなメディアの問題にもしっかり取り 組んでいってほしいと思います。  また今、本校でも一番の悩みは心の教育です。不登校も10年前から比べると3倍、保 健室登校も約5倍に増えています。これは横浜市の中学校の養護教育研究会が10年前か ら毎年調べているデータによります。また、保健室登校を10人抱えている職員も実際に 近くにおります。そういう中で兼任発令を出したから養護教諭は、健康教育もやれ、不 登校・保健室登校生徒も見ろ、健康診断もやれ、宿泊行事にもすべてついていけといわ れても養護教諭が1人ではとてもではないけれども本当に出来ない現状です。これは分 かっていただきたいなと思います。  ですから養護教諭の複数制を何十年も前から要求していますけれども、それについて はお金がないということで複数になるような兆しは全然ございません。先生方自体もカ ウンセリング研修などをしながら心の問題に対応しようと思ってもそういう時間もとれ なくて、養護教諭と一般教諭すら共通理解をすることは大変難しい状態です。本当に本 音で、腹を割って話し合いをしていかないと1人の子どもを見ていくことはなかなか出 来ないという現状です。本当に早く学校カウンセラーの全校配置と保健相談室の設置等 も望みたいところです。  先ほど関係機関との連携というところで学校保健委員会の問題も出されていましたが 、学校医の先生方、それから歯科校医の先生方をお呼びしてお話を聞いたり、またPT Aの方でも保健所から栄養士を呼んで弁当づくりの講習会などをやっていますが、直接 外部の方が来てすぐ子どもに授業というのは小中学校では非常に難しいのではないかと 思います。まず見学というか、子どもたちの実態を見ていただいて、言葉一つを教える のに非常に時間がかかる時代になってきたのではないかと思います。ですから、文部省 で出された資料は何時間で教えろと言っているのかと、私はこの資料集を見ているだけ で本当に頭が痛くなるような状況です。  また、私たちは衛生管理者もやっております。そういう中で職員の健康管理も非常に 厳しいものがあります。学級崩壊においてうつ病になってしまっている職員もおります し、そういう中で健康教育が本当にしっかり出来る条件整備をしていただけたらと思い ます。よろしくお願いいたします。 ○平山座長  ありがとうございました。大変な実情をお話しいただきました。  それでは、地域で思春期相談を実際にやっていらっしゃいます看護職のお立場で、助 産婦でいらっしゃる岡本先生、お願いいたします。 ○岡本委員  家族計画協会でも何十年とやっておられるのですが、日本助産婦会本部でも助産婦の ボランティアによる思春期の電話相談等を始めて最近分かったことは、今は男の子が非 常に悩んでいるという現状があり、それへの対策が要るのではないかと思います。それ から「生命の出前講座」と言っているのでが、群馬県の方で小学校、中学校等へ講義に 行かせていただいて、これは支部としての取り組みで割といい評価を得ております。  美濃輪先生からも養護教員の現状をお聞きして、各支部においても、講師派遣という ことで個々に依頼されまして、私も何回か伺ったのですけれども、やはり条件の厳しさ は非常に感じます。例えば時間的にも50分1回だけで話してくださいとか、避妊のこと も含めて命の尊厳までをたった1回50分でどのように話そうかという困難さもございま す。  今回提案させていただきましたのは、性の問題に関しては命の尊厳から入っていくの が一番スムーズにいきやすいということと、ほかの先生方の提案もありましたけれども 、そのときに実際に赤ん坊を見せたり、あるいはそれが現実的に難しければ赤ちゃんの 人形を抱っこしたり、あるいはある病院では新生児室に来てもらってガラス越しだけれ どまず見てもらって、後で抱っこするという形のかなり実感していただくような教育か ら入って、次第に妊娠あるいは中絶の問題が将来の自分の母性にどういう影響を及ぼす かというところにいきますと、あるいは男の子にもそういう教育をしますと、今度から 自分の問題として避妊も考えようということが感想としては出てきております。  もう1つは、北村先生がおっしゃいましたように、都内女子高校3年生の4割が性交 体験があり、にきれい事では済まされない現状があります。本当に避妊が当たり前のこ ととして保護者にも教育者にも、あるいは生徒同士にも、受け入れられる必要がありま す。私が思うには、女性用のコンドームも出てきましたが、男の子も女の子もコンドー ムをずっと持っていておかしくないという感覚が普及するところまでいくようなもっと 具体的な施策が要るのではないかと感じています。  家族計画協会の方でも教育者を養成されておりますし、助産婦教育の中ではそのこと にアプローチ出来る教育が既に組み込まれておりますので、ぜひまた御活用いただけた らと思っています。厳しい現状の中ですけれども、ぜひ養護教員の先生方と相談しなが ら少しでも一緒にそういう大事さを説いていけたらと思っています。 ○平山座長  ありがとうございました。  それでは、御指名させていただく最後に小児科医のお立場から思春期の健康教育に対 しての御意見を古平先生、お願いいたします。 ○古平委員  美濃輪先生のお話を聞いていて、思春期の教育問題などには余り触れられないかなと いう気持ちもいたしましたが、私のページを見ていただきたいのですけれども、 137 ページでございます。   140ページの真ん中から少し下のあたりが空欄になってございます。ここがIIという ことで、「家庭・親への提案」が抜けております。書き加えていただきたいと思いま す。  思春期の問題、社会、学校、家庭・親、それから本人と分けなければいけないのでは ないかと思うのですけれども、時間にも限りがありますので、まず心配な兆候を示した 場合、これは 140ページの上から8行目にありますが、すぐ相談出来る優秀な相談者を 養成してほしいということでございます。まず養護教諭の方に相談する場合が一番多い のではないかと思うのですが、それからスクールカウンセラーがいらっしゃるところ、 今までお子さんがかかりつけになっていて、出来たら小児科医、かかりつけのお医者さ んで結構ですけれども、そういう方に相談してほしい。  実際に私も何人かの方に相談を受けました。そして、相談を受ける内容で一番多いの は思春期の場合ですと 141ページの IIIの「個人に対する提案」という項目の上の「心 配な兆候とは摂食異常、心身症、ひきこもり、不登校、脅迫観念、不安症など」の相談 です。そして、私たちは自分の無力を非常に感じます。そういう問題に対していい指導 が出来ない。それは今まで小児科医が心身症的なもの、それから心に関係した病気に対 して教育を受けていないというか経験を受けていないということでありまして、私がこ こで提案いたしたいのは、何の職業でもそうだと思いますけれども、医師というのは経 験を積んでいかないと一人前にはなっていかないということでございます。  そして今、私が一番痛感いたしますのは、日本の病院で思春期外来、思春期病棟を持 っている病院が幾つあるか、ほとんどないのではないかと思うんです。私は30年前にニ ューヨークの余り大きな病院ではないモンテフィオ・ホスピタルというところで小児科 のレジデントをやったのですけれども、そこで既に小児科・思春期外来があり、思春期 病棟。これは非常に明るい、そして淡い色彩を持った非常に清潔感のある病棟でござい まして、そういうところならば、あのバスジャックをした少年も入院を嫌がらなかった のではないかと思います。今が追い風を受けている非常にいい時期だと思いますので、 こういう思春期外来、思春期病棟が開設されればいいなと思ってまいったのですけれど も、清水先生のお話をお聞きしますと、そういう機会がないので専門家が育っていない ということなので、ぜひこの追い風を利用してそういう外来病棟をつくっていただく。 人が集まって、教育が出来る機会をぜひ利用していただきたいと思います。  今までのお話と、実際に私のクリニックに来る子どもたちを診ておりますと、全く状 況判断が出来ない子になっています。先ほど美濃輪先生がおっしゃいましたけれども、 医師の前に来てただつっ立っているだけ、自分で胸を広げるとか、今何を求められてい るのか、何をしなければいけないのかということすら判断出来ない子が多くなっており ます。それから本当に自分の思っていることを発言出来ないというか、口に出せない。 言うことも、余りはっきりしたことが言えていないのではないかということでございま す。ですから、私は「健やか親子21」の、今回の思春期の問題も予防という方に重点を 置いていただきたい。予防ということは自立し、そして人間関係がうまく出来る、人に 思いやれる、人の気持ちが理解出来るような青少年に育てていただければ、思春期のと きもある程度いい状態の子どもたちが多いのではないかと思います。  それで私の提案ですけれども、これからたびたび発言させていただきたいと思うので すが、一番分かりやすくて一番有効ではないかと思うのが、前回も書いたのですけれど も3人子政策。3人は産んでいただきたい。どうしてかというと、1つには大勢の子ど もの中でもまれて育ってほしい。それから、弟、妹の弱い子どもたちの世話を見ること が大事だということ。それと母子密着という子どもに非常に期待感をかけ過ぎる弊害を なくしてもらえる。子どもが3人いたら、父親が家庭の仕事を手伝わないでいられない 状態になるのではないかということもあります。性格というものは生まれた順序によっ てかなり違うということでございます。  今、日本におりますのはほとんど1人か2人っ子です。そうすると、長男・長女型の 性格ばかりで均一化していくのではないか。ますますこれから単一民族で単一性格の者 ばかり育つ同じような国民が出来てしまうのではないか。これには多様性のある3番目 、4番目、少なくとも3人目の方は産んでいただきたい。そのためには社会全体がこれ をサポートしなければいけない。育児手当や住宅手当、奨学金制度、そういうものでサ ポートしてぜひ3人子政策を打ち上げて、たくましい子ども、優しい子ども、自立した 子どもが育つような日本になっていただきたいと思います。  以上です。 ○平山座長  ありがとうございました。  それでは、ここで例によってではありませんが、事務局の方で議論のたたき台をつく っていただいておりますので、まずそれを御説明いただいて、その後で先生方の御発言 をいただきたいと思います。 ○椎葉課長補佐  それでは、資料2です。議論の時間を増やすために簡単に御説明いたします。  まず1ページです。問題認識でございますけれども、思春期は人間の一生の間で身体 的・精神的発達の最も目覚ましい時期ということで、この時期は身体上の不定愁訴が増 えたり、社会に向ける目や生きる意義に対する意識・疑問などが膨らんでくる時期だと いうこととで、家庭や学校・地域において適切な相談・支援が必要であるということで ございます。  次ですが、自分自身に対する自信を持つこととともに、大人や社会に対する反抗心も 芽生える時期でございます。こういう中で今の児童は心の成長の糧となる生活体験や自 然体験が少ないということで、ともするとエネルギー処理が不十分なために思春期特有 の心や体の問題が生じたり反社会的な行動などの問題を引き起こすこともあるというこ とも記載しています。例示でございますが、そういう事例の一つに性の逸脱行動や中絶 、性感染症、薬物乱用といった思春期の健康をむしばんでいる問題がある。併せて、心 の問題で不登校、心身症というものがある。  性の問題に目を転じますと、家庭や学校・地域を通じていろいろな情報提供をしてき た訳ですけれども、思春期の悩みを解決に導くほどのものではなかった。また、連携の 不足も指摘されております。  最後ですが、性行動の特徴といたしまして今いろいろな性情報が氾濫していること。 それから、どうも身近な友人に遅れをとりたくないというピアプレッシャーの問題があ る。そして、避妊法が十分に行われていないということで、望まない妊娠のリスクや性 感染症のリスクが高いといった思春期の性行動の問題があります。こういう中でマスコ ミや身近な友人などから提供される前から、思春期の男女に対して性に関する正確な知 識を学ぶ機会をいろいろな機会を通じて積極的に提供することが重要ではないか。  そして、関連することとして最近の子どもの規範意識が低下している。また、親の問 題で思春期の子どもからどうも逃げている。逃げなくで正面から向かえる親となるよう な支援も必要ではないか。  その次ですが、思春期の問題は現在の健康問題だけではなくて、生涯にわたる問題や 配偶者や子どもに対しての影響を及ぼし、社会的にも看過出来ない問題ではないか。こ れは社会の反映であり、時代的な刻印を受けているということで大変難しい問題である けれども、改善に向けた努力をしなければならないということであります。  そして座りは悪いですが、児童精神科の記述がありまして、諸外国に比べると思春期 の心の問題に対応するための体制が貧弱である。21世紀の主要な取り組み課題としてこ れを位置づけて集中的に取り組む必要があるという意思表示でございます。そして、こ ういう思春期の問題については中学までは学校における問題が中心ということで、学校 と家庭や地域、医療、警察などの関係機関との密接な連携のもとに対策が推進される必 要があるということでございます。  取り組みの方向性ですけれども、そういった連携のもとに教育や啓発普及・相談を行 うことでございますが、これまで同種の試みが必ずしも十分な成果を上げていない。十 分に量的な拡大を図るとともに質的転換を図ることが重要である。 量的拡大に関しては、各分野での取り組みの強化とさまざまなキャンペーンの強化、 それからボランティアグループなどの活動やマスコミの協力もいただく。質的な転換に 関しては、効果的なメッセージを提供するための教材や媒体、教育手法の開発が急がれ る。それから、行動変容につながるようなもの。そして、性教育につきましては避妊方 法も含めたより踏み込んだ説明をする必要がある。また、乳幼児と触れ合うようなポジ ティブな理解を促進するアプローチも重要であるということでございます。  そして、親に対しては教育・支援についてシステム化していろいろやっていこう。そ して、これらの取り組みについては人材の確保・担保が必要である。カウンセラーや児 童精神科医療の提供体制の整備も重要だという認識でございます。  具体的な取り組みですけれども、2つに分けております。1つは思春期特有の健康問 題対策で、家庭・学校・地域と連携した重層的な体制で行われる必要があるということ で、家庭においては家庭が思春期保健対策を進めていく上での大きな基盤である特に各 種の対策を進める際に思春期の子どもの特徴に対する理解を深めることが大事だという ことです。 学校におきましては、先ほど文部省の方から御説明がありましたけれども、学校が一 体的に健康教育に取り組む際のことにつきまして、まず1つ目は学校の指導体制の点で す。校長先生のリーダーシップのもとにいろいろな方々の総力を挙げて行うことと、そ れから次は教科指導や特別活動などの教える内容についての展開、学校外の専門家から 学ぶ機会を増やす。また、教育の内容につきましては具体的で、特に子どもたちの心に 響くような教材を使う、もしくは外部でのボランティア体験学習といった外に出ていく ようなものも必要であろう。  次が連携の問題です。  その次は学校の相談体制の強化ということで、いろいろな教職員のカウンセリングマ インドの強化、スクールカウンセラーの設置や養護教諭の複数の設置や保健室の相談機 能の強化、専門の相談室の整備も必要であるということです。  また、地域保健医療に関しましては母子保健活動や保育活動などを利用して積極的に 児童に触れ合えるようなボランティアの場を提供することや専門家の積極的な派遣、P TAなどと連携した親に対する教育。  それから、地域の相談体制の強化ということで保健所における強化や医療機関におけ る思春期外来、思春期病棟などの専門的な医療機関の整備。また、電話相談などを行う NPOの支援が求められる。  その他として、同僚のピアプレッシャーへの対応ということもかんがみ、若者委員会 とかピアカウンセラーなどの同年代の仲間を巻き込んだ取り組みといったものも検討が 必要かなと。学校に行っていない子どもの問題行動もかなりありまして、そういうアプ ローチとして親に対するカウンセリングや助言等の支援体制がまず必要ではないか。そ れからマスコミの有害情報の問題ですけれども、これについての対応が必要だというこ とでございます。  2つ目が心の問題対策でして、これもまず家庭における取り組みということで、異常 サインが出てくる。これを見逃さないような親に対する学習の機会の提供がございま す。  学校におきましては学校におけるカウンセリング機能。不登校対策につきましては、 不登校について心の成長の助走期ととらえて学校内外の専門家を利用した補充指導や不 登校の子どもたちの野外体験学習の実施など、ゆとりを持った対応を推進していくこと が今後必要であろうということです。  地域におきましては、保健所などを使いまして学校保健と連携してさまざまなことを やっていく。例えば保健所デイケアを思春期の心の問題を抱えた児童を対象とすること なども考えられるということです。  児童精神科につきましては個別に書いてあり、我が国の医療体制の不十分さ、診療報 酬上の適用の問題や医療法上の標榜化の問題といったもの、また育成の問題、医療機関 の整備。清水先生の御指摘にもあったのですが、医科大学における講座もないというこ とでその整備、児童相談所への配置、また学校における活用などがなされる必要がある ということでございます。  関係者の役割ですけれども、これは国民、地方公共団体、国、専門団体、あと民間団 体と書いてあります。  目標値の設定については別途、御検討いただこうと思っていますが、藤内委員から幾 つかの目標値の案が出されております。例えば健康の目標として自殺、中絶、10代の出 産、不登校の割合や性行為感染症の罹患率、たばこの問題などいろいろありますけれど も、こういうものが指標として考えられ得るかなということです。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  思春期をめぐるいろいろな問題点や対策などを洗い出して整理していただいておりま す。これについてここが違うとか、あるいはここにアクセントを置くべきだとか、いろ いろ御意見があると思いますので、よろしくお願いいたします。 ○田中委員  私、実は保健体育の学習指導要領の改訂の協力者会議のメンバーだったのですけれど も、その際に母子保健は週2日制になって時間数がなくなるので精選の名のもとにかな り切り捨てられた。私は母子保健学部長だからまかりならないと言ったのですけれども 流れで逆らえなかったということがあって、文部省は余り積極的でなかったのではない か。 もう1つは、体の仕組みや疾病に対して余り重要視されていないというか、教えられ ていない。我々でも小児科医や保護者に対してもほとんど教育効果が上がっていないと いう結果が出ていて、どちらかというと社会的問題、例えば飲酒、薬物乱用、エイズ、 O-157、こういう問題を教えていて、いわゆる本来の病気についてはほとんど教えられ ていない。その原因としては、学校の先生が医者でもないし看護婦でもないので、自分 たちは教えにくいということで、どうも病気については余り教えられていないのではな いかという心配があると私は感じています。 そういう意味で飲酒などいろいろなことがありますが、本当の意味で子どもたちが必 要なこと、あるいは出産や育児に必要なことについては十分教え切れていないのではな いかということで、今回の学習指導要領の改訂の中でも時間数がないということで一番 必要なものが教えられないことを非常に気にしている訳です。私の考えが違うのかもし れないのですけれども、そんなことを思いました。  もう1つ、体験学習は非常にいいと思うのですけれども、本当に全部の高校生が保育 園に行って抱っこするのがいいのか。その際に言うことを聞いてくれればいいのですけ れども、例えば大泉門がぺこぺこするとおもしろいといういたずらをしてみたりするよ うなことが起きるのではないかということで、家庭内においても子どもたちがいるの で、何も学校がわざわざ連れていってやる必要はない。電車に乗っても子どもがいる訳 ですから、そういうことを考えれば、どうも今の体験学習について安易過ぎないかと考 えています。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。  体験学習はいろいろ御意見があると思いますが、まず御意見を伺っておきましょう。 ○柳澤委員  今度の中心テーマは思春期ですけれども、冒頭に書いてある思春期の定義が女子に関 することだけであって、男女両方に通じるような全体としての定義にしないといけない と思います。二次性徴の開始から成熟に至るまでです。 ○平山座長  ありがとうございます。この辺はよろしくお願いします。 ○櫃本委員  地域保健の立場からということで、私も 305ページに1枚物で書いているのですけれ ども、とにかく学校保健との連携が出来ない、やりたくても拒まれる、やっていても校 長がかわった途端に出来なくなる。それがまさに切実な問題としてあります。何とか 我々は突破口をどこかで開いていきたい。オープンになれば、保健所や市町村はかなり 取り組んでいく意思はあります。恐らく医療機関もそうだろうと思います。この学校の 閉鎖的な部分をどうやって除いていくかということを厚生省の中でどう考えていくか、 我々都道府県、地方レベルで考えていくかいうことがすごく大事だと思います。  一方でこれだけすばらしい要領をつくられている。恐らく自信を持ってやられている のだと思いますが、最初に大場室長がヘルスプロモーションということを言われたけれ ども、ここにはヘルスプロモーションのかけらもないと思うんです。全部やらせる、教 える。私は北村先生のお話にすごく感動して聞いていたのだけれども、先生のお話には ヘルスプモローションが根幹にある。そういう展開を地域保健がしようとしているとき に、学校ではせっかくの要領の考え方がおりてきたときには方法論でやらせるという、 しかも決まった時間の中でぎゅうぎゅうでやらせる。先ほど本をちらちら見たのですけ れども、地域保健とか保健所とか市町村、あるいは地域の医療機関と書いてあるのは少 しあるだけで、「必要に応じて」としか書いていない。それだけ地域の資源は学校にと っては次の次の話であって、家庭に入り込んでも、直接何も学校が入り込まなくても、 そういういろいろな資源を使うことからやっていくべきで、その一番典型的な例が学校 保健委員会がほとんど地域で活性化されていない。これは典型的だと思います。  それから子どもの世界にも子どもが主役になるという発想、北村先生の話には常にそ れがあると思うのですけれども、子どもが主役になるという部分が欠けた教育であれば 、それは絶対にうまくいかないだろうと思います。  繰り返しになるのですけれども、学校がオープンにされれば恐らくいろいろなところ に人材が広がっていきますけれども、今まで学校の中ですべて解決しようとしてきたツ ケが今残っている。  ちょっときつい言い方になりまして、済みません。 ○平山座長  今おっしゃったのは私もそのように思っております。確かに文部省の御意見があると 思いますので、何かあれば伺いたいと思いますけれども、ヘルスプロモーションという のは学校保健でも今かなり大事にしているはずでありまして、例えば東京都の学校保健 審議会はヘルスプロモーションの立場から学校における健康診断の場を健康教育の場と 心得て、これを養護教諭と学校医だけに任せておかないで、校長以下全員がいいチャン スということで取り組んでほしいということを出しているのですけれども、時間に追わ れる学校がなかなか思うように動いてくれない。一方、これも申し上げるまでもなく母 子保健法の中に学校保健との連携をよくとりなさいと書いてあるのだから、市町村長は 学校との連携の仲立ちをしてくれなければ困るのだなと思うのですけれども、その辺な ども含めまして大場先生、1人で防戦しなければいけないお立場で申し訳ないのですけ れども、今の御質問の中で何かお返事出来ることがございましたらお願いいたします。 ○北村委員  あわせて質問ですけれども、若者たちにとって受験問題は非常に深刻な問題で、それ がいろいろなところに影響を及ぼしているのだろうと思います。例えばゆとりの教育が 話題になっている中で、これは私立の中高にはどの程度まで影響力を及ぼすものなのか 。公的な学校ではゆとり教育を一方でしながら、このときとばかり私立の学校が受験教 育に専念するというのでは若者たちが心おきなくゆとり学習など出来ようはずがない訳 でありまして、文部省が受験問題をどういうとらえ方をしているのか、このあたりにと ても興味があるのですけれども。 ○巷野委員  今の関連で、受験問題にも関連するのですが、1ページの真ん中あたりに「エネル ギー処理」という言葉。私も短い文章でここに書かせていただきましたけれども、思春 期というのはまさにエネルギーの塊で、しかも心が未熟、その中で何をしていいか分か らなくて、それが殺人などいろいろな問題を起こしていると思うんです。昔は思春期を 、高等学校でしたらデカンショで力を昇華したし、中にはスポーツなどいろいろなこと で消費しておりました。今はそういう機会がない。それどころか自分の嫌な勉強の方を しなければならないということで、そのエネルギーの発散が出来ていないのではないか と思うんです。  この間からあります17歳前後の殺人その他を見てみますと、人口の割から言うと田舎 の方で起こっております。それについてこの間テレビを見ておりましたら、渋谷で若い 女性にマイクを向けて「君たち、どう思う?」と聞いたら、あんなダサいことはしない 、東京では我々は幾らでも遊ぶことがある。髪の毛を染めたり、高い靴を履いたり、い ろいろなことができる。時にはたばこを吸うでしょう、時にはお酒も飲むでしょう、都 会ではいろいろなことが出来るのですけれども、田舎では発散出来ないために起こって いるということも考えられなくもない。思春期の子どものエネルギーをどうやって発散 させたらいいかということも教育の中でお考えになっていただきたいなと思う訳です。 ○平山座長  ありがとうございました。  それでは大場先生、お差し支えない範囲、あるいはお返事出来る範囲でお願いしま す。 ○大場室長  たくさん御意見を寄せられたので順番にお答えしたいと思います。最初の方で北村先 生から学校で育児する高校生などを受け入れるようなところをつくってはいかがかとい う御意見があったところですけれども、こういう学校は確かにアメリカなどでは既にあ りますね。日本でやるかどうかという問題ですが、私個人的にはそもそもは社会全体と して共働きなどの問題も含めて考えていく問題ではないかと思います。特に共働きの家 庭などでは保育園に預けても、病気になればその受け入れ先が今はないですね。また、 どちらかが休んで面倒を見るとか子どものおじいちゃん、おばあちゃんに預ける、ある いはベビーシッターを雇うという受入態勢がない中で全体として考えていくべき問題か なと思います。特に学校でこういうことをやってしまうのは10代の妊娠を奨励するよう なものではないか。これまで先生の方でもそういうふうにまでお考えだとは思わないの ですけれども、そういう問題もあるのではないかと思います。  美濃輪先生からは学校現場の大変な話をお伺いいたしました。この話は私たちに向け られているのか、あるいはほかの委員に向けられているのか分からないのですけれども 、このようなご苦労は、私どもはいろいろな養護教員の先生から聞いておりまして、必 ずしも美濃輪先生の学校だけではないと承知しております。実際にこの資料集2の 335 ページ以下に保健室登校が大変増えているという調査結果も出ておりまして、学校現場 では大変苦労しているということはこういう数にもあらわれている訳でございます。そ ういった中で学級崩壊の問題にも少し触れられていたのですが、これも大変難しい問題 です。ただ、報告書によりますと7割は教師に問題があるということがこの間出ており ました。しかも、小人数のクラスでも起こる、あるいは小規模の学校でも起こるという ことで必ずしも人数だけの問題ではないと報告されており、教員の資質向上の必要性も 指定されているところです。  もちろん教員の定数改善も従来から進めてきております。本当はなるべく早期に改善 していくのがいいのでしょうが、予算がなくてそう簡単には進められない。日本は意外 と貧乏なんですね、先進国になったといってもなかなか金がない訳ですから。とはいえ 、今行っています第6次の定数改善計画(高校については第5次)で初めて養護教諭の 複数制が導入されました。従来は養護教諭は学校に1人だったのが、この計画で30学級 以上のところについては2人置くということが初めて導入された訳であります。次の第 7次計画については先週末に発表されたところでありまして、次期計画でも養護教諭の 改善については進めていくということを御提言いただいておりますので、今年の予算要 求の段階で実際の配置についてどの程度改善するかということについても当然検討され ることであります。  さらに、原則として、学級数に応じて教員の配置数が決まっている訳ですけれども、 次の改善計画におきましては指導上大変だったり、少人数が望ましいクラスなどには教 員をたくさん配置することも出来るような、地方における裁量も増やすような方向で検 討しているところであります。  スクールカウンセラーの話は、先ほど私の冒頭の説明でも申し上げましたけれども、 夏までに方向を出すということで検討を進めています。、しかしながらカウンセラーの 資格の問題、これは主として9割は臨床心理士で、それ以外にも精神科医などいるので すけれども、資格を持っている方はなかなかいらっしゃらという問題があり、すぐに全 部配置することは難しい。今、臨床心理士は全部合わせても 7,000人程度、ところが学 校は全国で4万数千校あります。全部に配置するにはとても足りない状況で、もちろん 臨床心理士はスクールカウンセラーをやっているばかりではありませんので、そういう 問題もあるということでなかなかすぐには解決出来ない問題があります。  それから、健康教育になかなか充てる時間がない、この時間ではとても足りないとい うお話がありました。これは田中先生の御指摘とも関連すると思うのですが、時間数の 配分というのはなかなか難しい問題で、これは北村先生の御意見、御質問とも関係する のですが、現在、学校の授業時間数はむしろ減らす方向で、その枠の中でいかに健康教 育に配分していくかということが問題になっていると思います。もちろんどの教科の先 生方も自分の教科の時間が足りないとおっしゃっています。特に国民の関心が一番高い と感じるのは、新聞でよく話題にされる英語の学習です。小学校から英語という議論も ある訳で、私個人的にはこれは大反対ですけれども、そういった議論もある中でいかに 時間を確保していくかは大変難しい問題だと思っております。  今、保健は幸いなことに小学校から高校まで必修です。しかしながら、大検という制 度では選択科目になっていて、学校で勉強すれば必修ですが、大検で大学に行く場合に は必修になっていないという問題もあります。どの教科が重要かという整理も大変難し い問題で、当然いろいろな方がいらっしゃって自分の分野は皆さん大切ですので、その 時間数が減るのはけしからんとかもっと増やせという御意見がたくさん来る訳で、大変 苦労する訳であります。先ほど母子保健が削除されたという指摘については、私の冒頭 の説明にありましたとおり、教科間の整理をさせていただいたものであります。つまり 、家庭科の中で扱う母子保健と育児など保健の領域がダブっていたため、整理した訳で ありまして、なくなったということではありません。ただ、全体としては時間数が減っ たのは事実であります。しかしながら、ゆとりの教育ということで全体の時間数を減ら している方向にありますので、こういうものもいたし方ないのではないか、全体の中で はそういった流れではなかったかなと思う次第であります。  次に、私立学校の問題でありますが、確かに公立学校は週5日制が実現されたものの 私立学校では一部は実施しない。むしろここぞとばかりに力を入れて受験勉強をやらせ ることも実際にあります。文部省の方からはこういうものは必ずしも望ましくないとい うことで5日にしてくださいとお願いしている訳ですけれども、私学は私立であります から、当然そちら側の事情もありまして、実際に私立学校の経営の問題とかかわります から、必ずしも強制は出来ません。それとあわせて一部の親はもっと厳しく教えてほし い、もっと時間たっぷり教えてほしいということも当然言う訳で、そういう需要もある 中で減らないという需要と供給の問題があります。マーケットの中で私学は生きている 訳でありますので、そういった問題が当然ある訳でございます。  受験問題についてですが、受験は大変厳しいというお話があったのですが、日本の受 験はそんなに厳しいかというと、一部の人には大変厳しいのですけれども、その一方で 現在大学進学率は50%を超えて、希望者が希望すればどこかの大学には必ず入れる状況 になっております。これはユニバーサル化の時代、大学のユニバーサル化と言いますけ れども、そういう中で選びさえしなければどこかの大学には必ず行ける状況になってお り、個人的な見解も入りますが、諸外国と比べると、例えばフランスなどは受験勉強が かなり厳しいです。同国の高校生を見ていると大学受験資格であるバカロレアには相当 勉強しないと通らないし、日本のように高校生が部活動に熱中して、3年生の途中まで 余り勉強しない生徒が大学に行くなどということはフランスでは考えられないような状 況です。日本の場合は厳しいかということについては、厳しいところもあれば、必ずし もそうでもないとも言えるのではないかと思っております。  専門的な話についてはうちの調査官の田嶋から答えさせたいと思います。 ○田嶋教科調査官  先ほどから学校保健との連携についていろいろ問題が出ておりますが、特に地域の医 療機関あるいは関係機関との連携ということが大きな問題となっているのではないかと 思います。このことについては、学習指導要領改訂の中学校・高等学校の部分でも取り 上げられております。新学習指導要領(高等学校・保健)の中で項目を改めまして、今 までは「保健・医療の制度」で切っていたものが、「保健・医療制度及び地域の保健・ 医療機関」という形でより具体的に明示されております。その中で「生涯を通じて健康 を保持・増進するためには、我が国の保健・医療制度や機関について知り、地域の保健 所、保健センター、医療機関などを適切に活用することが重要であること。」と明示し ております。生徒には教科保健でそのことについて指導することになっております。  また、心の相談活動においては、先ほども先生方からご提言がありましたように、今 重点的に進めておりますのが、専門家並びに関係機関との連携の在り方ということであ ります。いろいろな調査研究委員会を文部省でも立ち上げておりますが、その中でも発 達障害などがいろいろな問題行動の根底に影響しているのではないかということをもと に、学校における相談活動等において養護教諭及び一般の教員に対して、資質向上を図 る研修について文部省の施策として取り組んでおります。この点について、一つひとつ の施策について挙げますと時間的に余裕がないので説明を省かせていただきますが、先 生方が言われております連携ということに関して、文部省でも積極的に推進していくこ となしに問題解決はあり得ないのではないかという姿勢で進めております。  以上で終わりにさせていただきます。 ○平山座長  ありがとうございました。  文部省への御質問はまだまだあるのかもしれませんが、時間のバランスの関係で御丁 寧な御説明をいただいたことにさせていただきます。  このたたき台をめぐりましてほかの御意見、何でも結構ですが。 ○柳澤委員  文部省への質問ではないのですけれども、関係があるので。これを見ますと、教育に 関してあくまで家庭、学校、地域という三極の構造になっているのですけれども、先日 、文部省のある方の特別講演をあるセミナーで拝聴しましたところ、今、文部省が考え ている教育改革、つまり21世紀初頭の初等・中等教育に関しては従来のそういう枠組み を根本から見直して変えていくということでした。私自身も大変感心したというか、目 からうろこが落ちるような思いで聞いたのですけれども、そういう点があるとすると、 この提言が例えば学校教育あるいは文部省との関連を問題にする場合に、文部省の方は 教育についてのとらえ方が既に先に進んでいるという可能性はないかどうか。漠然とし た言い方で申し訳ないのですけれども、文部省が考えておられる教育の方向性と、それ に比べると遅れたとらえ方を示す可能性はないかどうか。 ○平山座長  こちら側がですか。 ○柳澤委員  そうです。 ○平山座長  これは去年の暮れに出ております新エンゼルプラン、8項目か何かで厚生省の役割、 文部省の役割、労働省の役割が分かるようになっていましたが、今日出ているお話の内 容から見ると、文部省のお話でも我々の理解でも新エンゼルプランから言えば大体並行 して進んでいると思うのですけれども、そう考えてよろしいでしょうね。 ○藤崎課長  教育について新しいビジョンはそれなりにいろいろあるだろうと思いますが、平山先 生が今言われたように昨年暮れに出た政府全体の少子化対策に対する流れとは特に背馳 していないと思っております。それよりも、むしろ本質的な議論としては具体的な取り 組み、思春期問題に対してどうしていくかというフレームをどう考えるかということだ ろうと思います。一応ここでたたき台としてお示ししたものが健康問題については家庭 、学校、地域と組んでみた訳ですが、これが妥当なのかどうか。こういう切り方ではむ しろ効果が上がらないという御指摘であればどんどん出していただいて、こういうふう にしたらいいということでいけばいいのだろうと思います。決してこれにこだわるとい う意味ではございません。 ○平山座長  ありがとうございます。  これは私の理解ですけれども、今日、文部省から資料をいただいた2〜3年前に出た 中教審の幼児期からの心の教育を考える委員会の答申の特徴が、今まで文部省なり学校 は学校で何か問題が起こってもなるべく学校の中で解決してしまおうという姿勢の強い 習慣があったけれども、神戸の悲惨な事件以降、学校だけでは対応出来なくなったとい う認識が文部省の方にも出てきて、文部省としては初めてしつけの部分を家庭でやって くださいと。ただ親だけにそれを押しつけるのではなくて、地域が家庭を支援してくだ さいという形を初めて打ち出した。つまり、家庭並びに地域の育児機能の回復を文部省 としては初めて言い出したと理解しているのですが、それはそれでよろしゅうございま すか。 ○大場室長  必ずしも初めてとは言えないでしょうが、これだけ強く出したのは初めてではないか と思います。 ○平山座長  ありがとうございました。 ○北村委員  このたたき台全体ですけれども、今までと何が違うのか、これで何が変わるのか、こ れが全体を見ての私の疑問であります。どこに斬新さがあるのか。例えば学校の部分で は文部省が提案しているものをただ羅列しただけであって、どこに工夫があるのか。 我々はとてもこんなものを出す訳にいかないというのが思春期の問題にかかわってきた 者の私の印象です。  国がこれをもって一体どんな努力をしようとするのか。仕事というのは常に予算が必 要なのでしょうけれども、さほど予算を使わずとも従来やっていることをただ追認して いけば事が済むという姿勢では、今の思春期に切り込むことはとても出来ないと私は思 います。ベビーシッターは学校では出来ないという文部省の室長の話ですけれども、く しくも性教育をすると性行動が加速するという「寝た子を起こすな」に近い発言に私は いささか戸惑いを覚えました。  決してたくさんの子どもたちが出産を望んでいる訳ではない、出産というのはそう容 易なことではないのであります。苦しいものがたくさんある訳であります。しかし、15 歳の女の子が妊娠し出産しても、その子どもをどうしたらいいのか、周辺のサポートを 全く得られないまま17歳のパートナーが林の中に捨ててしまったような事件に代表され るように、日本の子どもたちは産みたくても産めない状況にある。すべて中絶しろとい うのか。しかし、産みたいと考える子どもたちがいてもちっとも不思議ではない。その 子どもたちをサポートするような体制がつくられていないことに問題意識を持っている のであって、そういうサポートが出来るという姿勢があれば、あるいはそういう施設が 仮にあればそのような事件は起こらなかったのではないだろうかという気がする訳です 。もし仮にそういう施設をつくろうものならば若者たちがどんどん子どもを産むという ことになったら、これは少子化対策にまさに願ってもいないことでありまして、だとし たらどんどんつくるべきだという考えもある訳でありまして、私はいささか失望したと いうのが思春期対策のまとめであります。 ○平山座長  この議論のたたき台は今まで言われていることを整理して、これを種に議論して、あ るいはどこを進めればいいか、先ほど申し上げたアクセントをつけたらよろしいかとい うものを出していただくためのたたき台と私は理解していますので、御遠慮なくどんど んつけ足しをしていただければいいと思います。 ○北村委員  例えば私は専門的な立場でかなり具体的に出した訳です。例えば避妊具を無料にせよ ということはどこにも書いていない訳でありまして、もし母子保健課がリプロダクティ ブ・ヘルス・ライツという立場で若者たちの望まない妊娠を何とかすべきだと考えるな らば、そこぐらいまで踏み込む必要がある。あるいは産婦人科医を学校医の中に組み入 れるというような提言をもっと積極的にしていかなければいけないのではないかという 気がしてならない訳であります。 ○平山座長  避妊具を無料で配るという途上国の援助のようなことを日本でもやる必要があるのか どうか、これもまた御議論があると思いますが。 ○櫃本委員  北村先生のお話に関連する一番コアのところで、先ほど私も申し上げたのですけれど も、思春期の子どもたちを主役にするか迷える小羊にするか、そこを基本的に押さえな いと、思春期の子どもたちの一つの人格を認めるということがどこかでうたわれていな いと、結局このままになってしまうと思うんです。北村先生のようにその接点が多い人 は見えている部分が随分ある。ただ、その方法論について全部にうたうかどうかは別に して、提案としてはあるのだろう。ただ、根本で文部省のつくっている学習指導要領み たいに導くというスタイルで考えている以上は思春期問題は解決しないだろう。それは ヘルスプロモーションという考え方をいかに思春期の子どもたちにも当てはめていくか 、その部分を一番最初にうたっておくべきである。それでこそこの「健やか親子21」の 意義があるのだろう、それからスタートしていくというふうに思うんです。多少それは 危険性があっても、いろいろな危険性が含まれていても、そこを思い切って踏み込んで いかない限りは、小手先のいじり方で改善はなされないのではないかと思います。 ○平山座長  ありがとうございます。  結局、10年後の指標を考えようという話が出ているのは、少なくとも21世紀 100年間 の計画は我々の頭では出来ませんので、当面10年間について何をやるべきかということ をこの場で考えてもらって、10年間の予算要求をしていく種がこの報告書の中に盛り込 まれていることが行政が希望している中身だろうと私は理解しています。コンドーム無 料配布は別として、それが入ってもいいのですけれども、そういう意味で新しいアイデ アがありましたらぜひ次回までにまたお出しいただいて、そういうものを羅列していろ いろな立場の方々からこれは無理だ、これはかえって悪い、いいなど、いろいろな御意 見がいただければありがたいと思います。  ほかに今日言っておこうという御意見がございましたらお願いいたします。北村先生 と櫃本先生に任せておくと、それで終わりになってしまいますので。 ○長井委員  このいろいろなプランを見せていただきまして、これが本当に子どもたちに実行され ていれば、私たちは産業保健の場で社員にヘルスプロモーションの意識を今一生懸命や っている訳ですけれども、あと半分ぐらいの労力が減るのかなという気がして非常に期 待出来るのですが、こういう思春期の問題を考えたときに結局私たちが現場で耳にして いますのは、子どもたちがもちろん主役ですけれども、それを本来支えるべき家庭の親 たちに全くゆとりがないというのを私は実感しています。  この中にどのようにそれを入れたらいいのか今の場では思いつかないのですが、親た ちがこれだけいろいろなサポート体制があると分かって利用したくても、例えば予約を とれるから病院にいついつ来なさいとしていただいても、行けるのはもしかしたら専業 主婦の母親ぐらいであって、父親はとてもではないけれども会社を休んで行けませんと いうことですし、ましてや会社の中でうちの子どものことで悩んでいるなどとは恐らく 口が裂けても絶対に言えない訳です。  親たちが今抱えている心の問題そのものは結局子どもに反映しているのではないかと いう気がしますので、こちらの場で私が展開することなのか、あるいは私の持ち場の中 で子どもたちのことをもう少し何か入れないといけないのかは今日この場では分かりま せんけれども、次回までに考えみたいと思いました。 ○平山座長 先ほどの新エンゼルプランの中でとにかく企業風土の改善といいますか、変えなけれ ばと政府が珍しくはっきり言っているので、そういう問題を絡めた母子の健康づくり、 健康の回復等々、ぜひよろしくお願いいたします。  ほかにございませんでしょうか。 ○渡辺委員  思春期の子どもたちを主体として認めるかどうかは結論がはっきりしていると思いま す。思春期は大人としての人格の基礎がきちんと出来る時期ですから、絶対に思春期の 子どもたちが主体だと思います。私自身が現在こういう仕事をしているのも思春期にそ の心構えが出来た訳ですから、子どもたちの主体性は絶対的に保障しなければと思いま す。それが出来るかどうかは、私たちが思春期の子どもたちを、未完成でも人類の将来 を担っていく大事な若い仲間として人間として向き合っていくという姿勢を私たちが持 ち得るかどうかだと思います。思春期の問題は私たちの現在の大人同士のあり方に問い かけてくるので、非常に難しい問題だと思うんです。  その意味で私自身は、思春期の子どもと向き合うときには必ずおじけづく。それは、 子どもたちのキレたり自殺行為をしたりする問題以前に、私たちが仲間である大人の逸 脱行為や不正行為に一人の人間としてきちんと話し合うことが出来ない。つまり、身近 な職場の中の男女や、上下の話し合い、あるいは家庭の中の夫婦の話し合いが全然出来 ていない日本ですね。それぐらい日本は大人が忙しく働くことによって高度経済成長を 遂げたけれども、私たち大人が思春期の子どもたちより幼い未熟性を持ちながら疲れて いる。この問題と向き合わなかったら、思春期の子どもたちを主体として認められない と思うんです。自分たちが人間としての主体性を発揮出来て、それが心地よくて豊かな ら、思春期の子どもたちにごく自然に主体性を認めることが出来ると思うんです。  こういう場でみんな発言しにくいと思うけれども、こういう場でこそ私たちが思った ことを言い、いろいろな本音を出して、オーケストラのようなハーモニーを作っていか ないと、何のために集まったか分からないと思います。特に女性がもっと本音を言うべ きです。今日は女性の性の問題が出たのに、私たち女性が発言しないで男性の北村先生 などに発言していただいて本当に恥ずかしいと思います。息子の性的な逸脱行為を母親 として許さない、それは仲間である若い女性への同じ女性としての一つの礼儀であると 言い尽くせる家庭をつくるくらい私たち女性がもう少し自由になったら、この問題はも う少し変わると思います。 ○平山座長  ありがとうございました。  思春期の子どもたちを主体にということは思春期の子どもたちにやらせたいことを何 でもやらせろということではありませんので、その辺をよく考えながら対応を考えてい かなければいけないと今のお話を聞きながらも思います。  文部省の学習指導要領の改訂の中でも国語などを割合大事にしているというお話を伺 ったときに、国語を大事にする理由は発表力と人の言うことをよく聞くという人間関係 の基本が国語だから大事にするという御説明を聞いたことがありまして、そういう意味 では渡辺先生のお話などにも通じる部分があるのだなと今思い出したところでございま す。  もういただいた時間になってまいりましたが、ぜひという御発言はございましょうか 。もしよろしければ、まだ次がございますので、この議題は次回で再度検討させていた だきたいと思います。事務局の方で今日の検討を踏まえまして、またたたき台の修正を していただきたいと思いますが、たたき台については先ほどの話がありましたようにぜ ひこういう新しい面を盛り込めという点の御注文を事務局に、メモの格好で結構でござ いますから出していただきますようにお願い申し上げます。  こちらにも最後に目標値の討議材料を書いていただいてありますが、これは別途また 検討させていただきたいと存じます。  さらに3つ目の課題でございます子どもの体の健やかな発達を図るための環境整備に ついても次回にはその部分についても入らせていただきたいと考えておりますので、よ ろしくお願いしたいと思います。  次回の日程等につきまして事務局からの御連絡をお願いいたします。 ○椎葉課長補佐  次回課題ですが、子どもの体の健やかな発達ではなくて妊娠・出産・不妊への支援で 、シナリオが間違えていました。  次回は「健やか親子21」の議題の3つ目、「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確 保と不妊への支援」とさせていただきます。そして、本日のたたき台に対する御意見な どにつきまして、それから次回の「妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊へ の支援」につきましての御意見、資料につきましては大変申し訳ございませんが、次回 はどうしても6月中に開催したいと考えておりまして、出来れば6月9日までに事務局 あてファックスもしくは郵送、メール等で送っていただければと思います。それをまと めまして、またたたき台として御提出したいと考えております。  次回の日程ですけれども、今日、日程調整の紙を机の上に置いてございます。これを 記入してファックスもしくは今日でも構いませんけれども、母子保健課までお送りいた だければと思います。それに基づきまして10月までの計画を立てまして次回にはお示し したいと思います。  以上でございます。 ○平山座長  ありがとうございました。これを御利用いただきまして、日程の調整に御協力をお願 い申し上げます。なるべく大勢の先生に御出席していただきたいと思います。  それでは、なかなか司会が不手際で十分御意見をいただく時間がとれなかったような 気がして申し訳ございませんでしたが、これをもちまして本日の検討会を終わらせてい ただきたいと思います。次回またよろしくお願いいたしますし、今の御説明ですと殊に 周産期関係の先生方、特によろしくお願いいたします。  どうもありがとうございました。課長、御挨拶をお願いいたします。 ○藤崎課長  長時間にわたりまして、御審議ありがとうございます。また、今回もちょうど終盤に 至りまして非常に緊張感のある会議となりまして、大変ありがとうございます。  3回目ということで大体いつも忙しいスケジュールですが、一つのパターンが出来て きたかなということでございますのでよろしくお願いいたします。今日の思春期の点に つきましては私どもも今日のたたき台で十分とは考えておりませんし、とりあえず並べ てはみましたが、北村先生が言われるように、切り込んだ本当の意味での10年先を見越 した提言としてもう少しメリハリのついたもの、ダイナミックな取り組みをしていくも のでなければ思春期問題は解決出来ないだろうという認識を持っております。そういう 意味では予算的に来年、再来年どうなるかということは現時点で確約は出来ませんが、 10年先を見越した形での大胆な提言をしていただくつもりでおりますので、先生方には どしどし御意見をいただきたいと思います。次回にはそれを踏まえた上でのたたき台を お示し出来ると思います。  もう1点でございますが、今日は文部省から大場室長にも前の席に御一緒にお座りい ただいた訳ですが、私どもも今日のこの進め方は大変画期的だったと考えております。 思春期問題を初めとした今回の心の問題に関しましては厚生省、文部省とが中央で連携 をとって多くの方にどうメッセージを発するかということが大変大きな命題だろうと私 どもも理解しております。そういう中で文部省から大変強い理解と御協力をいただいて おりますので、どういう形になるかは分かりませんが、学校保健と地域保健あるいは医 療との連携その他がこの報告書を出す過程で強くこういう形で連携していく、こういう ふうに地方あるいは関係機関に両省でメッセージを出すという、具体的な形で目に見え るような形でお示しすることが出来るのではないかと思っておりますのでその点をぜひ 期待していただきたいと思っております。  本日は長時間ありがとうございました。                                     (了) +------------------------------------+ |照会先: 児童家庭局母子保健課 | |  03−3503−1711(代表)| |   椎 葉(内3173) | +------------------------------------+