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平成12年5月12日

病院前救護体制のあり方に関する検討会報告書(概要)


はじめに

 病院前救護における医療の質を確保するという観点からメディカルコントロール体制の確立と、救急救命処置による効果評価に基づく処置内容の検討、さらに、これらに見合う教育体制のあり方について検討を行った。

1.病院前救護体制におけるメディカルコントロールについて

(1)病院前救護体制におけるメディカルコントロールと評価について

 「メディカルコントロール」とは、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間において、救急救命士等に医行為の実施が委ねられる場合、医行為を医師が指示または指導・助言並びに検証してそれらの医行為の質を保障することを意味するものである。

(2)メディカルコントロール体制の確立

 メディカルコントロールは病院前救護体制の拡充に必須であることから二次医療圏単位または都道府県単位で実施することが望ましい。これを支援するため都道府県や地域の救急医療協議会が主体となって体制の整備に努めるべきである。

2.地域における病院前救護体制を支える体制作り

(1)病院前救護体制を構築する主体となる救急医療協議会について

 すべての都道府県に都道府県単位の協議会を設置し、また、二次医療圏単位ですべての地域に救急医療協議会を設置することが必要である。

(2)地域の救急医療体制及び救急搬送先の確保体制について

 救急医療情報センターについては地域医師会等の協力を得て、医療機関による応需情報の入力の改善を促進するとともに、住民からの健康・医療相談並びに医療機関及び消防機関からの受け入れ医療機関の照会への対応等を積極的に行う必要がある。

3.救急救命士の業務内容について

ア.電気的除細動
 メディカルコントロール体制を地域で確立することが急務である。左記の体制が地域医師会等の医療関係者の了解の下に確立されることを前提として、医学的な見地からは、必ずしも同時進行性の指示に限る必要はないと考えられる。
イ.器具を用いた気道確保・薬剤の投与
 気管内挿管と薬剤の投与を救急救命士の業務として位置づけることについては時期尚早である。
ウ.今後の対応
 上記の対応を可能とするため、関係機関においては各地域ごとに、メディカルコントロール体制等を確立することが急務であり、これらが地域で確保された後に必要な手続きに着手すべきである。

4.救急救命士の教育と養成

 メディカルコントロールについての教育をより一層充実するとともに、特に資格取得後の病院内実習を充実し、医師等の他の医療従事者との円滑な信頼関係を構築することが重要である。

5.心肺蘇生法の啓発・普及

 心肺蘇生法を官民挙げて啓発・普及に努めるとともに、 我が国における心肺蘇生法の標準化を早期に実現し、講習実施機関ごとに同じ手法で 講習が実施できるよう、講習テキスト等の標準化を図る必要がある。


病院前救護体制のあり方に関する検討会報告書

平成12年5月


目  次

はじめに

1.病院前救護体制におけるメディカルコントロールについて

(1) 病院前救護体制におけるメディカルコントロールと評価について
ア.病院前救護に関するメディカルコントロールの不在
イ.救急業務において実施されている処置及び指示体制の実態
ウ.メディカルコントロールとは
(2) 病院前救護におけるメディカルコントロール体制の確立
ア.直接的メディカルコントロール(オンライン・メディカルコントロール)のあり方
イ.間接的メディカルコントロール(オフライン・メディカルコントロール)のあり方

2.地域における病院前救護体制を支える体制作り

(1) 病院前救護体制を構築する主体となる救急医療協議会について
ア.現状と課題
イ.救急医療協議会(二次医療圏単位)の機能強化
(2) 地域の救急医療体制及び救急搬送先の確保体制について
ア.救急医療体制の一元化について
イ.救急医療情報センター(広域災害・救急医療情報システム)について
(3) 病院前救護体制への医療機関の取り組み
ア.現状と課題
イ.病院前救護体制への医療機関の積極的な参加・支援方策

3.救急救命士の業務内容について

(1) 救急救命士の業務に対するこれまでの評価

(2) 救急救命士の業務内容の充実

ア.電気的除細動
イ.器具を用いた気道確保
ウ.薬剤の投与
エ.その他の救急救命処置
オ.今後の対応
(3) 救急救命処置録の内容と開示について

4.救急救命士の教育と養成

(1) 現状と課題
ア.救急救命士の卒前教育及び国家試験
イ.救急救命士の就業前教育及び生涯教育
ウ.救急救命士の養成体制
(2) 救急救命士の教育内容(生涯教育を含む)及び養成体制の充実方策

5.心肺蘇生法の啓発・普及

6.その他の事項

(1) ドクターヘリの導入

(2) 病院前救護体制の充実を実現するための支援

今後の展望

(参考)
  平成11年度医療技術評価総合研究事業
  「プレホスピタル・ケアの向上に関する研究」


はじめに

 我が国の病院前救護体制の向上をめざして、平成3年に救急救命士制度が導入され、まもなく10年目を迎えようとしている。これまでに約17,000人の救急救命士が登録され、消防機関においては救急救命士の資格を持つ職員数が約7,500人となった。
 救急救命士制度の意義は、医師の指示の下で「救急救命処置」を行う救急救命士が消防機関内の資格としてではなく、病院前救護体制の充実を図るために、国家資格を有する新たな医療関係職種として位置付けられたことである。
 病院前救護における救急救命士による医療の提供が法的に位置付けられた一方、病院前における医療の質を確保するという観点からは、これまで救急救命士制度が運用されてきた中で救急救命士が救急救命処置を実施する際の医師の指示体制のみならず、平時からの継続した教育体制や救急救命処置の事後評価をも含めた、いわゆる「メディカルコントロール」の体制は全国的に整備されておらず、今後はこの「メディカルコントロール」の体制を充実強化することが救急医療及び救急搬送業務に携わる関係者に課された火急の責務である。
 本検討会は、平成7年の行政監察結果に基づく勧告や平成9年の救急医療体制基本問題検討会報告書において、救急救命士の業務内容の見直しを行うべきとの指摘を受け、効果的なメディカルコントロール体制の確立と、救急救命処置の効果評価に基づく業務内容の検討、さらに、これらに見合う教育体制のあり方について、平成11年6月より5回にわたり検討を行った。


1.病院前救護体制におけるメディカルコントロールについて

(1) 病院前救護体制におけるメディカルコントロールと評価について

ア.病院前救護に関するメディカルコントロールの不在

○ 平成3年に創設された救急救命士制度の下で、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間において、救急救命士が医師の指示により医行為の一部を行うことを業とすることが可能となったが、制度導入以降、救急救命士が行う医行為の質的なレベルを保障する制度的枠組みが明確にされないまま今日に至った。また、救急救命士を含めた救急隊員が救急医療体制において果たす役割に関する議論は必ずしも十分に尽くされてこなかった。
○ また、我が国における病院前救護の主たる担い手は消防機関の救急隊であるため、医療機関及び行政機関の衛生主管部局は、病院前救護に必ずしも深く関与をしてこなかった。また、医療界及び医学界も、救急救命士の特定行為実施に係る指示を、単なる処置実施の「許可」として理解し、「メディカルコントロール」による医療の質の確保という認識が乏しかった。
○ 救急救命士法においては、救急救命士が行う全ての救急救命処置は医師の指示(具体的な指示を含む)が必要となっているが、事後評価を含めた効果的なメディカルコントロールが発揮されていない。また、救急救命士以外の救急隊員が行う応急処置も医師の指導・助言の下に実施する必要がある。

○ 医療の質の確保及び評価が社会的要請として重要視されてきている今日、病院前救護においても医療の質の確保及び評価が必要である。

イ.救急業務において実施されている処置及び指示体制の実態

○ 救急救命士が特定行為を行う際は救急救命士法第44条第1項に基づき「医師の具体的な指示」が必要となっているが、多くの場合、傷病者が心肺停止状態にあると疑った時点から医師への連絡を試みるわけではなく、特定行為を実施できる段階までに準備が整った後に初めて医師に指示要請を行っている。そのため、指示を出す医師の側も救急救命士からの指示要請に、その内容を吟味する間もなく実施の許可を出さざるを得ない状況になっている。また、一方では、救急救命士からの指示要請に対して、漫然と形式的な指示を行う医師も散見される。

○ 傷病者の病態に応じて、救急現場で心肺蘇生や救急救命処置を可能な限り実施するもの、また、最低限の処置にとどめて早急な搬送を行うものとを病態や救急現場の状況に応じた医学的な判断に基づいて区別して対応を行うべきとの指摘がある。
○ 救急現場又は搬送途上において救急救命士が特定行為を行う際、全ての特定行為を実施する等、当該傷病者に対して必ずしも医学的に必要でない救急救命処置を試みるあまりかえって搬送時間が長くなっているという指摘がある。

○ 救急救命士はその業務を行う場が医療機関内ではなく医療機関に搬送するまでの間であり、医師とともに業務を行う機会に乏しいことから、医療機関内において医師との直接の指示または指導の下に業務を行う他の医療関係職種(例:看護婦・士、助産婦、臨床工学技士等)とは異なる環境にあり、医師の指示と消防機関における指揮命令系統との関係が曖昧になっている。

○ 我が国の救急救命士制度のモデルとなった米国の病院前救護体制は、厳正な医師のメディカル・コントロールの下にパラメディックが医行為を行い、整備された生涯教育システムによってパラメディックの資質が担保されている。しかしながら、我が国においては、一部の先駆的な消防本部を除き、救急救命士が行った処置内容は、医学的な検証が不十分なまま放置され、救急救命士が相互に情報交換を行っているにすぎない。特に、救急救命士が少数の多くの地域においては、適切な指導者が存在せず、救急隊員としての経験は重ねても、救急救命士としての資質を高めることが困難な状況にある。

ウ.メディカルコントロールとは

 病院前救護体制における「メディカルコントロール」とは、救急現場から医療機関へ搬送されるまでの間において、救急救命士等が医行為を実施する場合、当該医行為を医師が指示又は指導・助言及び検証してそれらの医行為の質を保障することを意味するものである。すなわち、病院前救護においてメディカルコントロールは、傷病者の救命率の向上や合併症の発生率の低下等の予後の向上を目的として、救急救命士を含めた救急隊員の質を確保するものであることから、地域の病院前救護体制の充実のための必須要件であるとみなすことができる。

 メディカルコントロールは、下記のように整理される。

<直接的メディカルコントロール>(オンライン・メディカルコントロール)

 医療機関又は消防本部等の医師が電話、無線等により救急現場又は搬送途上の救急隊員と医療情報の交換を行い、救急隊員に対して処置に関する指示、指導あるいは助言等を与えること、又は救急現場において救急隊員に直接口頭で指示、指導あるいは助言等を行うことを意味する。

 (例示)

・プロトコールにない症状等に遭遇した場合の医学的な助言
・プロトコールから外れる処置の是非に関する医学的な判断
・傷病者の状態が急変した場合に行うべき処置の助言、指示
・特定行為の具体的な指示
・消防本部の指令職員が救急要請を受けた場合の医学的な判断
・消防本部等に常駐する医師に助言、指導等を仰ぐ 等

<間接的メディカルコントロール>(オフライン・メディカルコントロール)

 a.前向き(事前)の間接的メディカルコントロール

 (例示)

・地域の救急医療のニーズに応じた地域の救急医療体制の構築への医師の積極的な参加
・救急隊員の教育カリキュラムの作成、教育の実施及び評価
・救急救命士の資格取得後の病院実習等のカリキュラムの作成、実施及び評価
・ 救急現場及び搬送途上での処置・搬送のプロトコール(手順書)の策定
・重症度の判定及び搬送先医療機関選別の基準の作成
・消防本部等の指令職員の教育
・指令室における救急要請の受信から情報の収集を経て搬送優先順位の決定に係るプロトコールの策定
・電話によるCPRの口頭指導のプロトコールの策定 等

 b.後ろ向き(事後)の間接的メディカルコントロール

 (例示)

・救急隊員の救急活動記録(救急救命処置録を含む)の検討・評価
・救急隊員の判断、医行為等に関する記録・転帰の観点からの質の向上策及び検証
・救急活動の医学的評価に基づくプロトコールの再検討
・生涯教育、危機管理教育を含む救急隊員の医療の質の向上策の検討
・評価結果の救急隊員、救急救命士教育、実習へのフィードバック 等

(2) 病院前救護におけるメディカルコントロール体制の確立

ア.直接的メディカルコントロール(オンライン・メディカルコントロール)のあり方

○ 原則として、救急業務に直結する直接的メディカルコントロールは二次医療圏単位で実施することが望ましい。これを支援するため、(1)傷病者の観察方法及び医療情報の収集方法、(2)医療情報の通信による伝達方法、(3)救急救命処置に関する医師の指示のあり方、(4)疾患別・病態別の現場における処置方法、(5)搬送方法及び医療機関の選別等に関するプロトコール等を各都道府県の救急医療協議会において地域の実情を考慮して決定し、都道府県が主体となって体制の整備に努めるべきである。

○ 直接的メディカルコントロールのあり方の一つとして、救急医療に精通した医師が消防機関の指令室等に常駐する形態(例:東京都、横浜市、京都市)が考えられる。この場合、常駐する医師は救急医療に専従しているとともに病院前救護に精通し、通信による救急救命士への指示や災害時の危機管理に関する一定の資質を有していることが望ましい。また、消防機関の救急隊員においても、必要な場面では医師の指示または指導・助言を受ける必要がある。メディカルコントロールが単に「特定行為の具体的な指示」に限定されないことから、上記の形態を採用する場合の常駐する医師の数は、管轄地域における救急要請の数等を十分に考慮する必要がある。
○ 政令指定都市や、救命救急センターが地域の救急医療の中心的な役割を果たしている地域以外の地域では、上記のような形態での直接的メディカルコントロール体制の確立は事実上困難であり、地域の基幹となる病院群をネットワーク化して直接的メディカルコントロール体制を構築することも考えられる。
○ 上記の地域においては、地域の基幹的な救急医療機関で救急医療に専従する医師の中から、メディカルコントロールを担う医師を地域の救急医療協議会等において選定し、これらを担う医師のネットワーク化と消防機関との連携を推進することが必要である。各救急医療機関でメディカルコントロールに直接関与する医師は救急医療に精通している等の資質が求められる。また、こうした地域におけるオンライン・メディカルコントロールには、情報通信機器を活用した画像診断等(テレメディスン)が重要な役割を果たすものと考えられ、画像転送システムやデジタルMCA無線等の通常の電話回線以外の通信システムを必要に応じ導入すべきである。
○ また、上記のような地域におけるメディカルコントロール体制の構築は地域全体で一体的に取り組むことが必要であるという観点から、救急救命士への指示は必ずしも搬送先となる医療機関に限定されるべきではないとの認識を関係者間で共有すべきである。
○ 既に一部の地域においては、消防機関の救急車やドクターカーが医療機関内あるいは敷地内に常駐しており、これらの救急自動車が関わる病院前救護においては医療機関内からオンライン・メディカルコントロールを発揮しているところもある(例:札幌市、船橋市等)。この場合は、基幹救急医療機関による特定の救急隊員・救急救命士に対するオンライン・メディカルコントロールが実施されているといえる。今後は、このような救急医療機関の施設内に、又は、隣接して、消防機関の指令室を補完する機能を有する部署を設置し、地域全体のメディカルコントロールの主体として機能することが望ましい。

イ.間接的メディカルコントロール(オフライン・メディカルコントロール)のあり方

○ 病院前救護の実務に関するオフライン・メディカルコントロールは、都道府県単位で完結することが望ましい。
○ オンライン・メディカルコントロールを実施する際のプロトコールの策定、救急隊員・救急救命士が実施した応急処置及び救急救命処置、救急隊の救急活動記録(救急救命士が作成する救急救命処置録を兼ねる)の内容の吟味とこれに基づく評価等といった、オフライン・メディカルコントロールは、主として地域のメディカルコントロールを担う医師が実施し、地域の救急医療協議会がその体制を支える役割を担うべきである。

○ 救急隊員・救急救命士の教育カリキュラムや資格取得後の研修カリキュラム等の策定は国が責任を持って行うものであるが、具体的な教育・研修内容については、病院内実習を担当する医療機関や指導医等の確保等も含めて、都道府県が主体的に行う必要がある。

○ 消防機関において救急業務を行う救急救命士に対する指示は、業務全体の遂行に係る指揮命令は救急隊長等によってなされるものであるが、医学的な判断及び実施した処置に係る検証についてはオンライン、オフラインの別にかかわらず医師によるメディカルコントロールによってなされるものであることを関係者は十分に認識する必要がある。特に救急救命士養成所の教員は、救急救命士を教育する重要な責務を担っており、医療従事者としての自覚を芽生えさせるために、メディカルコントロールについての体系的な教育を実施することが求められる。


2.地域における病院前救護体制を支える体制作り

(1) 病院前救護体制を構築する主体となる救急医療協議会について

ア. 現状と課題

○ 平成9年12月の「救急医療体制基本問題検討会報告書」において、二次医療圏単位で救急医療体制を完結するとともに、「二次医療圏ごとの協議会(行政(消防機関を含む)、医師会、歯科医師会、医療機関、地域住民によって構成される)等の救急医療に関する恒常的な協議の場を設け、より効果的な救急医療の提供につき検討し、評価をすることが望ましい。」とされている。また、上記検討会の中間報告(平成9年6月)における同様の指摘に基づき、平成9年8月に厚生省及び消防庁により都道府県に対して通知がなされ、救急医療協議会の設置が促されてきた。
○ 平成12年1月現在の厚生省調査によると、都道府県単位の協議会は40ヶ所(85.1%)で開催回数は年平均1.8回、二次医療圏単位の協議会は277ヶ所(76.9%)で開催回数は年平均1.6回となっており、地域における取り組みは一部の地方公共団体を除き、不十分である。

○ 救急医療協議会の役割が救急病院の認定に係るもののみとなっていたり、消防機関における救急業務高度化のみが主たる議題となっている等、内容的に必ずしも救急医療体制全般にわたる協議がなされていない。また、救急医療体制や救急業務を評価する場となっておらず、運営が形骸化しているものが多く見受けられる。
○ 地域によっては、二次医療圏ごとの医療計画を検討・作成するために設置された地域保健医療協議会若しくは保健所運営協議会において救急医療に関する協議が行われているもの、又は地域保健医療協議会若しくは保健所運営協議会に救急医療部会等といった部会を設置して救急医療に関する協議を行っているものがあり、既存の医療関係の協議会との組織的・機能的整合性を図る必要がある。

イ.救急医療協議会(二次医療圏単位)の機能強化

○ 地域における病院前救護体制を支える基盤整備として、すべての都道府県に都道府県単位の協議会を設置し、また、二次医療圏単位ですべての地域に救急医療協議会を設置することが必要であり、厚生省、自治省消防庁、都道府県の衛生主管部局・消防主管部局、市町村消防本部、医師会等の関係機関及び各地域の基幹的な救急医療機関が相互に協力してこれに取り組むべきである。

○ 救急医療協議会の設置に当たっては、地域の実情に応じ、救急医療協議会を地域保健医療協議会等の既存の医療関係の協議会の部会や複数の消防本部単位による協議会として設置すること等、弾力的な組織化を図るとともに、既存の協議会との組織的・機能的整合性を図る必要がある。

○ 救急医療協議会は、地域における救急医療体制の構築のための調整機能を有するのみならず、救急救命士を含む救急隊員への指示・指導・助言及び生涯教育のあり方についても総合的に協議し、地域の病院前救護体制におけるメディカルコントロールの中核となる必要がある。

○ また、救急医療協議会を構成する地域を管轄する保健所は、地域の健康危機管理体制の中核機関として位置付けられていることから、地域の実情に応じ、当該協議会の事務局機能を担うとともに、地域における救急医療の量的及び質的な提供状況を把握・評価を行い、関係機関を調整して地域の救急医療の確保に努めること等、地域の救急医療に深く関与する必要がある。
(2) 地域の救急医療体制及び救急搬送先の確保体制について

ア.救急医療体制の一元化について

○ 平成10年3月の救急病院等を定める省令の改正、同年6月の医療法第30条の4に基づく医療計画作成指針の改正により、都道府県が作成する医療計画に基づいた救急病院の認定を含めた救急医療体制の構築、すなわち救急医療体制の一元化を行うための環境整備がなされたが、医療計画において救急医療体制の一元化を図っている地方公共団体は東京都や大阪府等ごくわずかにとどまっており、現状は住民や消防機関からもわかりやすい体制となっていない。
○ 救急医療体制の一元化を行っていない地方公共団体は、医療関係者や消防機関の協力を得つつ早急に一元化に向けた検討を実施するとともに、厚生省においても地域における救急医療体制の一元化の達成に向けて、弛まない技術的な支援を行うべきである。

イ.救急医療情報センター(広域災害・救急医療情報システム)について

○ 現在、救急医療情報システムは39都道府県に整備されており、そのうち30道県では大規模災害時に都道府県域を越えた情報発信・受信が可能な広域災害・救急医療情報システムへの機能強化がなされている。

○ しかし、医療機関側の応需情報等の入力状況が必ずしも芳しくなく、消防機関に導入されていないか、又は導入されていてもほとんど活用されていない事例が見受けられることから、地域医師会等の協力を得て、医療機関による応需情報の入力の改善を促進するとともに、住民からの健康・医療相談並びに医療機関及び消防機関からの受け入れ医療機関の照会への対応等を積極的に行う必要がある。また、将来的には受け入れ医療機関の調整等の新たな役割を担うことが期待されるため、地域の実情に応じ救急医療情報センターへ医師を配置すること等、その機能強化及び消防機関との役割分担について検討する必要がある。

(3) 病院前救護体制への医療機関の取り組み

ア.現状と課題

○ 現在、厚生省補助金によるドクターカーの運営は全国51ヶ所で実施されているが、その運用形態はほとんどが病院間搬送が中心で、消防機関との密接な連携が図られていない。
○ 市立札幌病院や市立船橋医療センターにおいては救急ワークステーション方式を採用し、医師と救急隊員の協働によるドクターカーシステムを運用することを通じて医療機関内における計画的な救急隊員の教育が行われており、これらはメディカルコントロールの将来的な方向性を示す先駆的な取組として高く評価される。
○ フランスではメディカルレギュレータの調整に基づき、必要に応じ病院等の救急車が出動しており、院外心肺停止患者については国際的に見ても高い救命率が得られている。我が国においても消防機関と密接に連携したドクターカーの運営を行う必要があり、同時に救急医療機関に従事する医師の病院前救護体制への十分な理解と積極的な参画が求められる。

イ.病院前救護体制への医療機関の積極的な参加・支援方策

○ 病院前救護体制においてメディカルコントロールを充実させるためには、救急救命士を共に医療に従事する者として理解し、その資質の向上に情熱を持って指導する医師を地域で確保する必要がある。しかしながら現状では、救急救命士の生涯教育等に関心が深い医師が不足していることから、行政、大学、医療機関及び学会等の関係団体は、早急にメディカルコントロールの担い手にふさわしい医師の養成に努める必要がある。

○ 救急隊と医療機関とが協力して病院前救護に取り組む方策として、札幌市や船橋市において実施されている救急ワークステーション方式とともに、今後は実働する救急隊を救命救急センター等の地域の基幹となる救急医療機関に配置し、症例に応じて医師が救急隊と共に救急現場へ出動する形態を積極的に推進すべきである。

○ 「救急医療対策事業実施要綱」が平成11年10月に改正され、救命救急センターは、24時間体制で、即座に医師が救急救命士への指示を行う体制が必須とされたことから、その他の救急救命士への指示を求められている救急病院においても、24時間体制で即座に対応できる体制を整え、あるいは、時間帯によっては、救命救急センターに指示責任を委ねること等により、早急に全国すべての地域に迅速な指示体制を完備すべきである。

○ また、上記要綱の改正により、「救急救命士等に対する救急医療の臨床教育」の項目が新たに追加されたことから、救急救命士及び救急救命士養成所の学生に対する教育は救命救急センターの運営体制を評価する上で重要な指標であり、救命救急センターにおいては、これらの教育について積極的な受け入れ体制の確保が求められる。

○ さらに、地域の救急医療体制の構築に大きな役割を果たしている先駆的な地域医師会にならい、全ての地域医師会は、今後とも積極的に病院前救護体制に関与すべきである。


3.救急救命士の業務内容について

(1) 救急救命士の業務に対するこれまでの評価

○ 救命効果検証委員会の調査分析結果によれば、病院外における心原性の心肺停止傷病者のうち、病院到着後よりも病院到着前に心拍再開したものの方が3か月後の生存率は高く(40.4%)、消防機関による救急事案覚知から除細動を実施するまでの時間が短くなるにつれて傷病者の生存率が向上しており、心停止後における早期の除細動が傷病者の予後を大きく左右している。

○ 山村らの厚生科学研究(別紙「参考」参照)は、「現状では必要な体制が整っていないため、具体的な体制づくりについて、早急に検討を行うべきである。」と指摘し、「救急救命士の特定行為における事後検証が今後のプレホスピタル・ケアの方向性を探る上で重要となる。」と事後評価の重要性を説いている。また、日本救急医学会の調査においてもメディカル・コントロールの重要性が指摘されている。

○ 日本臨床救急医学会の調査研究によると、「救急現場における気管内挿管の有効性については結論がでていないものの、病院内での医師による心肺蘇生では必ず気管内挿管が選択されていることを考えると、十分に習熟しているのであれば気管内挿管による気道確保が優れているのは間違いないと言える。(中略)気管内挿管を確実に行えるようになるには相当の教育訓練が必要であり、救急救命士に対する気管内挿管の実習を担当する医療機関の協力が得られるかどうかに問題がある。」との報告がある。

○ 病院外において救急救命士が、心肺停止状態の傷病者に対する薬剤の投与や、心肺停止に陥っていない外傷等の傷病者に対する輸液等を行うことにより予後が改善するといった科学的根拠については、倫理上の問題から、客観的なデータを得ることは困難な状況にある。

○ その他の個別の救急救命処置の実施と傷病者の予後との関連に着目した調査研究はなされておらず、救急救命処置の実施の是非といった観点からだけではなく、傷病者の病態を観察・評価する能力の向上といった観点からの評価を行う必要がある。

(2) 救急救命士の業務内容の充実

 特定行為に係る指示要請を行う時機については、時間的な損失を可能な限り少なくし、効率的な医師の指示体制を確保する必要がある。

ア.電気的除細動

○ 救命効果検証委員会の調査分析結果により、早期の除細動が傷病者の予後改善に極めて効果的であることが明らかになっている。しかし、除細動を実施するに当たって、救急救命士と指示を行う医師との信頼関係が醸成されていることが必須であり、さらに、除細動の適応や手技等に関する生涯教育体制や、除細動の実施に係る検証・評価を医師により必ず行うこと等のメディカルコントロール体制を地域で確立することが急務である。上記の体制が地域医師会等の医療関係者の了解の下に確立されることを前提として、医師の指示の下に行うものとされている半自動式除細動器による除細動の実施については、医学的な見地からは、必ずしも同時進行性の指示に限る必要はないと考えられる。
○ また、乳幼児や低体重の傷病者に対しては、半自動式除細動器を用いて成人と同様のプロトコールに沿った除細動は実施が困難なことから、これらは従来どおり除細動に必要な熱量等の医師の具体的な指示の下に除細動を実施すべきである。

イ.器具を用いた気道確保

○ 前述の厚生科学研究において指摘がなされているように、病院外での心肺停止傷病者に対する、救急救命士等の医療従事者による気管内挿管を実施することの重要性が指摘されているが、同時に、気管内挿管に係る教育内容をこれまで以上に充実するとともに、資格取得後に手術室等における気管内挿管の実習が可能となるような受け入れ側の協力体制等、気管内挿管実施のための基盤整備の構築が必要である。
 これらを総合的に勘案すると、気管内挿管を救急救命士の業務として位置付けることについては時期尚早であり、今後上記のメディカルコントロール体制を整えるとともに、多角的見地からの検討を行うことが適当である。

○ 気道の維持及び人工換気の方法において、現在行われているバッグ・マスク法は、これを正しく実施すれば十分にその目的を達成できるものであり、気管内挿管の実施が可能となるまでは、バッグ・マスク法の意義を再確認するとともに、その技術の習熟に努めるべきである。

ウ.薬剤の投与

○ 心肺停止状態の傷病者に対する乳酸加リンゲル液以外の薬剤の投与については、十分なメディカルコントロール体制が確立していない現状において救急救命士の業務として位置付けることは時期尚早である。将来的には、今後の問題については、メディカルコントロール体制の方向性が確保されれば、教育、研修内容を含め多角的見地からのを検討を行うことが適当である。

エ.その他の救急救命処置

○ 医師の具体的指示を必要としない救急救命処置についても、現行の業務内容を勘案しつつ、その指示体制のあり方を含めて今後更に検討を深めていく必要がある。

オ. 今後の対応

○ 上記の対応を可能とするため、関係機関においては各地域ごとに、教育基盤整備、指示体制、除細動実施後の評価等のメディカルコントロール体制等を地域医師会等との連携を基に確立することが急務であり、これらが地域で確保された後に必要な手続きに着手すべきである。

(3) 救急救命処置録の内容と開示について

○ 救急救命処置録へ記載すべき事項は救急救命士法施行規則に定められているが、具体的な記載様式は定められておらず、また、消防機関の救急救命士が救急救命処置録を記載する場合は特定行為に関する記載のみでよいとされている。このため、現状では救急救命処置録に記載された事項だけでは十分な評価を行うことが困難である。

○ 今後は救急救命処置録に記載すべき内容について、救急救命処置の記録及び事後評価を行う際に必要かつ十分なものとなるよう、記載すべき事項の再検討を行うとともに、新たに救急救命処置録の様式を策定してその啓発・普及に努めるべきである。

○ また、医療現場における診療情報を積極的に患者に提供すべきであるとの考えが強まってきた状況を踏まえ、平成10年の「カルテ等の診療情報の活用に関する検討会報告書」において、「診療情報の患者への提供は、医療や人権についての国民の意識が高まり、情報化の進展した今日の社会においては不可避の要請であり、これを積極的に推進すべきである。」との指摘がなされており、社団法人日本医師会においても患者と医師との間の信頼関係を構築する手段として、患者への積極的な診療情報の提供を推進している。

○ 救急救命士が救急救命処置を実施する場合は、救急現場という一刻を争う状況にあるが、可能な限り傷病者又はその家族等に対して実施する処置の内容に関して十分な説明を行うとともに、救急救命士及び救急救命士が所属する機関においては、搬送後においても、搬送を行った傷病者から求めがあった場合には、当該傷病者への救急救命処置録等の情報提供を積極的に推進すべきである。

○ また、平成11年4月の厚生省通知により、救急救命士を含めた医療従事者が作成する諸記録を電子媒体により保存することが可能となったことから、救急救命処置録の電子媒体による記録及び保存の方法等について、関係機関はいわゆる電子カルテの開発・普及状況等を踏まえつつ、電子媒体による救急救命処置録の記載及び保存に関する技術開発を積極的に行うべきである。


4.救急救命士の教育と養成

(1) 現状と課題

ア.救急救命士の卒前教育及び国家試験

○ 現在、厚生大臣が指定する救急救命士養成所として、救急救命士法第34条第1号に基づくもの(学校法人等が設置)が9校、同条第2号に基づくもの(防衛庁が設置)が3校及び同条第4号に基づくもの(消防関係機関が設置)が12校が設置されている。また、救急救命士の養成を目的とし、同条第3号に基づき厚生大臣の指定する科目を履修可能な大学も2校ある。
○ 臨床実習の中核を占める病院内実習については、平成10年3月に消防庁・厚生省・日本医師会・日本救急医学会が委員会を設置して作成した「病院内実習ガイドライン」に基づく実習が実施されている。

○ 現行の教育カリキュラムは、救急救命士に必要な知識及び技能を教育する内容としては詳細な医学的側面に偏重し、救急搬送上の問題点に的確に対応できるものとはなっていない等の指摘がある。

○ また、現在政府の規制緩和推進3か年計画(改定)(平成11年3月30日閣議決定)において、「カリキュラム等を規制している国家試験受験資格付与のための養成施設の指定制度を見直し、各大学等が社会のニーズに適切に対応した多様な医療技術者等の養成ができるようにする。」とされており、これに基づき、厚生省が所管する医療関係職種において、養成カリキュラムの大綱化及び指定科目制度の導入(救急救命士は法制定時より措置済み)が進められている。

○ 救急救命士国家試験は現在毎年2回実施されているが、厚生省が所管する他の医療関係職種の国家試験は全て毎年1回の実施である。また、国家試験問題作成についても負担軽減方策の検討が試験委員等より求められている。

イ.救急救命士の就業前教育及び生涯教育

○ 平成11年度より、救急救命士養成所における病院内実習及び消防機関に従事する救急救命士の就業前における病院内実習の時間数の延長及び内容の充実化が実施され、現在それぞれ80時間以上及び160時間以上の病院内実習が行われている。

○ また、一部の消防機関では病院内実習等の長期の生涯教育を通じ、将来的に指導者として後輩救急救命士の教育に当たる救急救命士の養成を行っている。

ウ.救急救命士の養成体制

○ 消防機関における救急救命士は、各都道府県からの負担金により設立された財団法人救急振興財団が設置する養成所において、年間1,000人の養成を行っており、さらに、都府県及び政令指定都市が独自に設置する養成所において約460人が養成されている。

○ 自治省消防庁では救急救命士が各救急隊に少なくとも一人配置することを目標として救急救命士の養成を推進しているが、上記の養成所において年間養成される人員が1,500人程度であることから、一部の消防本部を除き、上記の目標に必要な救急救命士が量的に満たされていない状況となっている。
○ 地方公共団体の管轄内の養成計画が達成されていないため、財団法人救急振興財団が設置する養成所における定員枠以上の養成を希望している地方公共団体は多い。また、地方公共団体の管轄内における救急救命士の養成を推進するため、新たに救急救命士養成所を設立する地方公共団体もある。

○ また、学校法人等が設置する養成所を卒業して救急救命士の資格を取得後、消防本部に採用される者が増加しつつある。

(2) 救急救命士の教育内容(生涯教育を含む)及び養成体制の充実方策

○ 救急現場における医師の指示は救急救命士が医療関係職種である以上必須のものであることから、メディカルコントロールについての教育をより一層充実するとともに、特に資格取得後の病院内実習を充実し、医師等の他の医療従事者との円滑な信頼関係を構築することが重要である。

○ また、これまでの卒前の教育カリキュラムを抜本的に見直し、救急救命士に真に必要な知識及び技能を修得させることを目指し、大綱化の方向に沿った新たなカリキュラムを関係者及び有識者等の意見を踏まえて作成することが必要である。また、それに併せて現行の国家試験出題基準についても見直しを行う必要がある。

○ さらに、他職種と比較して一般教育科目や基礎医学科目の時間数が極めて少ないことに鑑み、カリキュラムを改定する際はこれらについても十分な措置を講ずるべきである。

○ 標準テキストについてもその構成及び内容を抜本的に見直すとともに、学校・養成所における教育内容の多様性を促進する観点から、今後、監修主体を含めてそのあり方について検討する必要がある。

○ 国家試験については、将来的な年1回実施の実現を含めた国家試験のあり方について、他職種における国家試験改善に向けた検討を考慮しつつ、関係者の理解を得ながら検討を継続していく必要がある。

○ 救急救命士の地域的な偏在を解消し、全国的に救急救命士養成を推進する観点から、地方公共団体の設置する各養成所において救急救命士の養成枠に余裕がある場合については、管轄外の消防本部からの職員を受け入れる等効率的な救急救命士の養成を推進する必要がある。

○ また、救急救命士養成に要する経費の削減及び人的資源の効率的活用を図る観点から、学校法人等の救急救命士養成所を卒業し、救急救命士資格を取得した者を消防機関が採用することも、救急救命士を量的に充足するための一つの方策である。


5.心肺蘇生法の啓発・普及

○ 救命効果検証委員会の調査結果で明らかなように、目撃された心原性の院外心肺停止傷病者に対して、バイスタンダーによる早期の心肺蘇生法の実施が傷病者の生存率の向上に最も大きく関与している。

○ これにより、バイスタンダーによる心肺蘇生法の実施が重要であることは論を待たないが、心肺蘇生法の講習を実施する機関(消防機関や日本赤十字社等)ごとに実施方法が異なっているため、継続した講習の受講を阻害する一因となっている。

○ 我が国においては、1992年のAHA(アメリカ心臓協会)ガイドラインの改定を機に社団法人日本医師会が中心となって心肺蘇生法のガイドラインが作成されたが、その採用は講習実施主体に委ねられたため、いまだに標準化が達成されていないのが現状である。

○ その後、財団法人日本救急医療財団の中に厚生省、文部省、消防庁、警察庁等の関係省庁、日本医師会、日本救急医学会、日本麻酔学会、日本循環器学会等の関連学会及び消防機関、日本赤十字社等の関係団体によって構成される「心肺蘇生法委員会」が平成11年7月に発足し、本年度中に我が国における心肺蘇生法の標準化とその講習方法の確立し、引き続き蘇生法一般の研究開発を行うこととしている。

○ 今後はこれまで以上に心肺蘇生法の官民挙げての啓発・普及に努めるとともに、我が国における心肺蘇生法の標準化を早期に実現し、講習実施機関ごとに同じ手法で 講習が実施できるよう、講習テキスト等の標準化を図る必要がある。


6.その他の事項

(1) ドクターヘリの導入

○ 救急医療体制基本問題検討会報告書において、「都道府県及び二次医療圏単位の協議会を活用し、救急搬送にヘリコプターを効率的に運用できるよう体制を整える必要がある。」と指摘されており、傷病者の予後を向上させるためには、病院前救護体制における救急搬送時間の短縮化を図ることが急務であるとともに、必要に応じ医師が搭乗して救急現場に出動することが可能なドクターヘリを導入し、全国展開する必要がある。

○ 厚生省においては平成11年度より「ドクターヘリ試行的事業」を開始し、東海大学医学部附属病院及び川崎医科大学医学部附属病院の各救命救急センターに救急専用ヘリを配備し、毎月20件程度の救急搬送を実施している。また、東京消防庁のように救急専用ヘリを導入し、ヘリコプター基地周辺の救急医療機関から医師をピックアップして救急現場に出動する方式を取り入れているところもある。
○ ドクターヘリの実用化をめざし、内閣官房において関係省庁の連携の下、全国展開に向けた検討が進められており、本年2月には航空法施行規則が改正され、消防機関等の要請等により活動するヘリコプターが臨時離着陸場等に着陸する際は事前の申請が不要になる等、ドクターヘリ推進のための環境整備が整いつつある。

(2) 病院前救護体制の充実を実現するための支援

○ 二次医療圏単位でのメディカルコントロール体制を構築するため、救急救命士に指示を与え事後評価を行う医師等の地域のメディカルコントロールを担う医師に対し正当な報酬が支払われるよう、関係機関はその実現に向けて努めるべきである。


今後の展望

 心肺停止患者の救命率を向上させるためには、救命効果検証委員会の調査分析結果から明らかなように、救急現場又は搬送途上における心拍再開の割合を高めることが喫緊の課題である。また、科学的な根拠に基づき、充実したメディカルコントロールの下で、必要な資質を備えた救急救命士による救急救命処置の高度化を図ることは、大きな社会的要請となっている。行政機関等の関係機関及び関係者は、本報告書における指摘事項について、引き続き施策の企画立案及び実施に積極的に取り組み、メディカルコントロール確立のために必要な財源措置を講ずるなど早急に救急救命士制度を含めた病院前救護体制の基盤整備を更に充実させ、地域社会の要請に応えるべきである。
 本報告書における指摘事項の趣旨を踏まえ、すべての関係者は、病院前救護体制が、地域住民が日々安心して暮らせる社会を構築していく基本(セイフティ・ネット)であることを再認識する必要がある。その上で、既存の価値観や権益にとらわれず、地域住民の生命・健康を第一に考えた、「健康大国日本」にふさわしい病院前救護体制が構築されることを願ってやまない。

(参考)

平成11年度医療技術評価総合研究事業
「プレホスピタル・ケアの向上に関する研究」

Endotracheal Intubation & Confirmation
─気管内挿管とその確認法─

主任研究者: 山村 秀夫 (財団法人日本救急医療財団)
分担研究者: 美濃部 堯 (財団法人日本救急医療財団)
研究協力者: 中川 隆 (名古屋市立大学病院救急部)
谷川 攻一 (福岡大学救命救急センター)
金子 高太郎 (県立広島病院救命救急センター)

【結語】

1:プレホスピタル・ケアにおける気道管理の手段として,気管挿管の必要性は明かであるが,現状では必要な体制が整っていないため,具体的な体制づくりについて,早急に検討を行うべきである。

2:救急救命士が気管内挿管を行うことについては,下記ような要件等が満たされ、必要な体制が整うことが条件となる。

1):養成所または病院実習における教育研修プログラムを構築する。具体的にはマネキンによる挿管実技訓練に加え,麻酔指導医のもと手術室で,EDDとETCO2検出器の併用による気管内の確認法も含めた気管内挿管の訓練を受ける。

2):地域救急指導医は所轄消防本部と緊密な連携のもとに,気管挿管実施を含めた救急救命士による医療行為について監督体制を敷く。特に救急指導医は教育研修プログラム作成に中心的に携わるとともに,救急救命士の適正について判断し,救急救命士の行う医行為について詳細な事後検証を行うことにより,最良のプレホスピタル・ケアが行えるよう指導責任を持つこととする。

3:一地域に留まらず,全国規模での救急救命士の特定行為における事後検証やEBM確定のために弛まぬデータ集積を行うことが重要であり,共通のデータ・フォーマット/テンプレートの作成および記録,さらにその解析が今後のプレホスピタル・ケアの方向性を探る上で重要となる。


病院前救護体制のあり方に関する検討会委員名簿

(敬称略)

  石 原 哲 全日本病院協会常任理事
  宇 都 木 伸 東海大学法学部教授
大 塚 敏 文 日本医科大学理事長
  小 濱 啓 次 川崎医科大学救急医学教授
  篠 田 伸 夫 全国町村議会議長会事務総長
(前救急振興財団副理事長)
  嶋 森 好 子 日本看護協会常任理事
  滝 澤 秀 次 郎 神奈川県衛生部長
  奈 良 昌 治 社団法人日本病院会副会長
  白 谷 祐 二 東京消防庁救急部長
  前 川 和 彦 東京大学医学部救急医学教授
  南 砂 読売新聞解説部主任
  宮 坂 雄 平 社団法人日本医師会常任理事
  山 内 伸 一 仙台市消防局警防部長
  山 中 郁 男 聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院
救命救急センター長
※ ◎印は座長

(計14名)


問い合わせ先 厚生省健康政策局指導課
担 当 土居、宇都、小柳(内線2559、2550、2554)
電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
   (直)03-3595-2194


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