00/03/31 先端医療技術評価部会個人情報保護の在り方専門委員会 第1回厚生科学審議会先端医療技術評価部会 疫学的手法を用いた研究等における個人情報の保護の在り方に関する専門委員会 議事次第 1.日  時:平成12年3月31日(金)15:00 〜17:00 2.場  所:法曹会館 高砂の間(2階) 3.出席委員:高久史麿委員長        (委員:五十音順:敬称略) 寺田雅昭        (専門委員:五十音順:敬称略) 青木國雄  大島 明  櫻井秀也  高津和子  田中平三           堀部政男  丸山英二  南 砂 4.議 事: 1.専門委員会の目的等について 2.疫学研究の現状等について 3.疫学の学術的意義について(田中委員より報告) 4.個人情報保護に関する国内外の状況について(堀部委員より報告) 5.生命倫理の観点からみた疫学研究の課題について(丸山委員より報告) 6.その他 5.配付資料: 資料1 疫学的手法を用いた研究等における個人情報の保護等の在り方の検討について 資料2 疫学の現状等について 資料3 我が国における個人情報保護システムの在り方について(中間報告)      (平成11年11月高度情報通信社会推進本部個人情報保護検討部会) 資料4 人を対象とする研究と生命倫理 6.参考資料 参考資料1 厚生省組織令、厚生科学審議会令、厚生科学審議会運営規定 参考資料2 厚生科学審議会組織図 参考資料3 厚生科学審議会先端医療技術評価部会疫学的手法を用いた研究等における      個人情報の保護等の在り方に関する専門委員会名簿 ○事務局 ただいまから第1回厚生科学審議会先端医療技術評価部会疫学的手法を用いた研究等 における個人情報の保護等の在り方に関する専門委員会を開催いたします。 本日は第1回目の専門委員会でございますので、本日御出席の委員の皆様の御紹介を させていただきます。 まず、正面の委員長席に既にお座りいただいている委員は、自治医科大学学長の高久 史麿先生でございます。 それから、青木先生から時計回りに御紹介をさせていただきます。名古屋大学名誉教 授の青木國雄委員です。 次に、大阪府立成人病センター調査部長の大島明委員です。 その左手、社団法人日本医師会常任理事の櫻井秀也委員は本日お見えいただける御連 絡をいただいておりますが、若干遅れられていらっしゃるようでございます。 それから、その左手でございますが、健康日本21推進フォーラム事務局長の高津和 子委員でいらっしゃいます。 その次ですが、東京医科歯科大学教授の田中平三委員でいらっしゃいます。 続きまして、こちらの列の前手の方からでございますけれども、国立がんセンター総 長の寺田雅昭委員でございます。 それから、寺田委員に向かいまして左手側に中央大学法学部教授の堀部政男委員がお 見えになる予定でおりますけれども、会議が重なっていらっしゃるようで若干遅れると いう御連絡をいただいております。 それから、その左手が神戸大学法学部教授の丸山英二委員です。 それから、その左手が読売新聞社解説部次長の南砂委員でいらっしゃいます。 それから、慶応大学法学部教授の安冨潔委員は本日御欠席という御連絡をいただいて おります。 まず、委員会を開催するに当たりまして、堺科学技術担当審議官が出席しております のでごあいさつをさせていただきます。 ○堺審議官 科学技術担当審議官の堺でございます。今回は、役人言葉で申しわけございませんが 年度末の本当のぎりぎりの慌ただしい中、御参集いただきましてありがとうございま す。心より感謝申し上げる次第でございます。 21世紀の厚生行政の中で、とりわけ健康に関わる行政というのは科学的根拠に基づい て行う行政、Evidence Based Health Policy 、そういうことではないかということでご ざいます。そういうことを進めるということが強く要望されているわけでございます。 また、多くの自治体というものは多数の地域住民を対象とした疾病に関する追跡調査 を実施いたしまして、健康状態などのデータを利用して疾病の原因を探るというような ことによりまして、予防方法あるいは治療方法を明らかにするということを目的とした 疾病登録事業でございますとかコホート研究というものを実施しております。 一方、個人情報保護ということにつきましては御案内のとおり、昨年11月に内閣に設 けられました高度情報通信社会推進本部の個人情報保護部会におきまして「我が国にお ける個人情報保護システムの在り方について」という中間報告が取りまとめられたとこ ろでございます。この報告を受けて、2001年を目途として個人情報保護法を策定すると いう方針が明らかにされているわけでございます。 冒頭申し上げましたように、これからの厚生行政、とりわけヘルスに関する行政とい うものは科学的根拠に基づくことが大切だというふうに言われております中で、この個 人情報の保護を図り、人権保護のための適切な対応を図りながら研究を推進していくと いうことが必要になってくるというふうに思うわけでございます。 このために、疫学的手法を用いた研究を行う研究者や、研究機関が遵守すべき指針と いうものを策定する必要がございまして、厚生科学審議会先端医療技術評価部会に本専 門委員会を設置することといたしました。個人情報の保護に配慮しながら、科学的根拠 に基づいた健康行政というものを推進するためには、どのように研究を進めていくべき なのかということ、これが個人情報保護基本法というものが策定されようとする中でど う調和を図っていくかということが非常に大切なことではないかと思っております。 決して私どもとしては研究を阻害しようというつもりは毛頭ございませんし、また積 極的に推進してほしいというふうには思っておるわけでございますが、それにつけても 人権の保護あるいは個人情報の保護というものをしっかりと図っていかないと、せっか く出たデータというものが世に認められない。間違った変なふうに誤解を受けてしまう ことにもなりかねないということでございます。また、貴重なデータがないと繰り返し になりますが、これからの行政はどういうふうにやっていったらいいのかというデータ が得られないという悩みもございます。どうぞよろしくお願いしたいと思います。あり がとうございました。 ○事務局 厚生科学審議会令によりまして、厚生科学審議会会長豊島会長より、本専門委員会の 委員長に高久委員が指名されておりますので、これからの議事は高久委員にお願いいた します。よろしくお願いいたします。 ○高久委員長 高久でございます。今、審議官の御説明のように、確かに疫学的な手法を用いる研究 と、個人情報の保護との兼合いをどうするのかということは極めて重要な問題でありま す。また、同時に現在も既にこういう研究が進行中ですので、できるだけ早くこの問題 についてガイドラインの様なものをつくる必要があると思っていますが、私自身は疫学 的研究を行ったことがございません。幸い御専門の委員の方々がいらっしゃいますので 専門の方々から御意見をお伺いしながら、この委員会として国民一般に納得していただ ける報告を是非つくりたいと思いますのでよろしくお願いします。 最初に、事務局から配布資料の確認をよろしくお願いします。 ○事務局 それでは、お手元にお配りしております資料を確認させていただきます。落丁、乱丁 等がございましたら事務局の方に御連絡をいただければと思います。 初めに、「議事次第」、1枚でございます。 それから、座席表を入れさせていただいております。 それから、資料といたしまして資料1「疫学的手法を用いた研究等における個人情報 の保護等の在り方の検討について」と題しました1枚紙。 それから資料2「疫学の現状等について」、3枚の留めたものでございます。 ただいま櫻井委員がお見えですので御紹介申し上げます。社団法人日本医師会常務理 事の櫻井秀也委員でいらっしゃいます。 ○櫻井委員 どうも遅れまして申しわけありません。よろしくお願いいたします。 ○事務局 引き続きまして、資料の確認をさせていただきます。資料3「我が国における個人情 報保護システムの在り方について(中間報告)平成11年11月高度情報通信社会推進本部 個人情報保護検討部会」という表題の付きました23枚ほどのものが1つございます。 それから、資料4 生命倫理の観点から見た疫学研究の課題に関しまして、丸山先生 からいただきました「人を対象とする研究と生命倫理」という表題の付きました1枚の 資料がございます。 それから参考資料1としまして、厚生省組織令、厚生科学審議会令、と関係する例規 集、参考資料2としまして厚生科学審議会の組織図、参考資料3といたしまして本日お 集まりいただきましたこの専門委員会の委員の先生方の名簿を付けさせていただいてお ります。 それから、若干事務的でございますが、新しく厚生科学審議会専門委員に御就任いた だきました先生方には本日付で発令されておりますので辞令を入れさせていただいてお ります。また、既に専門委員あるいは審議会委員に御就任いただいている先生につきま しては、この専門委員会に所属するという豊島会長名の御連絡がございます。 それから、後ほど一番最後に申し上げますけれども、今後の会の日程につきまして、 日程調整のための連絡用の文書、ファックス用の紙が1枚入っております。以上でござ います。 ○高久委員長 この専門員会を進めるに当たりまして、委員長代行として寺田委員をお願いしたいと 思います。寺田先生よろしいでしょうか。よろしくお願いいたします。 また、この委員会で審議あるいは配布される資料、議事録などについては、原則とし て公開としたいと考えています。ただ、プライバシーの問題とか、あるいは知的所有権 に関する部分は非公開にしたいと思いますので、その点をよろしく御了承お願いしたい と思います。  御了承がいただければ、今から公開ということで傍聴の方に入室していただきます。 (傍聴者入室) ○高久委員長 それでは、まず最初に議題の1、専門委員会の目的と今後のスケジュールということ で事務局の方からお願いします。 ○事務局 それでは、資料1について御説明申し上げたいと思います。 まずこの専門委員会の目的でございますけれども、あらかじめ資料をお配りさせてい ただきましたが、疫学的手法を用いて行われる医学研究等における生命倫理の配慮、個 人情報の保護など、人権保護への適切な対応を図る。このために、研究者やその機関が 遵守すべき指針を策定するということを目的と考えております。 また、2番でございますけれども、その指針の適用の対象でございますが、医学分野 等における生命科学研究のうち、患者と被験者に由来する資料または情報を用いる研究 これをとりあえず臨床的研究というふうに呼ばせていただこうと考えておりますけれど も、その臨床研究に指針を適用することを前提に検討を進める。特に一番問題となると 考えております複数の機関が共同して実施する臨床的研究を念頭に置いた御検討を賜り たいというふうに考えております。 下のイメージ図でございますけれども、研究と一般の医療行為というのがまず大きく 大分類として分かれるのであろう。研究の中に臨床的研究と動物とを用いる非臨床的研 究に分けることができるというふうに考えておりますが、このうち臨床的研究を今回御 議論いただく。特に複数の機関の共同によって実施される、例えば地域がん登録でござ いますとかコホート研究とか、こういうものを念頭に置きつつ御議論を賜りたいという ふうに考えております。 主な課題といたしましてはインフォームド・コンセントなど生命倫理への配慮の問題 個人情報の保護とその利活用の問題、倫理審査委員会の在り方の問題、カウンセリング の問題、症例報告など、一般的な人権保護の問題、こういうものを事務局としては考え ておりますが、このほかにもあれば是非御議論賜りたいと思っております。 また、スケジュールといたしましては指針案を6月を目途に策定いただければ非常に ありがたいというふうに考えておりますし、その指針案につきましては国民からの意見 の公募、言うなればパブリック・コメントを行わせていただきまして、それらの意見も 参考にこの秋を目途にこの委員会としての成案をおつくり願いたいというふうに考えて おります。 また、この専門委員会におきます議論を整理をするということから、研究 班をつくってもらいたいと考えておりまして、この委員会の委員のお1人でございます 丸山神戸大学法学部教授に主任研究者になっていただいて、研究班という形で議論を整 理し、そのペーパーをまとめていただいて、またこの委員会に上げてこの委員会で御検 討願うということで進めさせていただきたいと考えております。以上でございます。 ○高久委員長 今、事務局の方から議論の対象と、具体的には丸山先生を中心とするワーキンググ ループをつくって、そこでいろいろ議論を整理をするための案をつくっていただきた い。2つの提案がありましたが、何か御質問、御意見ございましょうか。 では、丸山先生御苦労様ですがよろしくお願いしたいと思います。 ○寺田委員 確認ですが、これは疫学というのが表へ出ていますが、今のお話を聞きますと臨床研 究全般にわたるというふうに理解してよろしいんですか。 ○高久委員長 疫学的手法を用いた研究ですから、予防・診断・治療、医薬品や医療用具の臨床試験 などについては検討の対象としない事に決めておきたい。ですから、疫学的手法を用い て行われる医学研究、特にその中で複数の機関が共同して実施する疫学的研究に焦点を 絞った。全部やると大変ですから。そういう意味で青木先生、大島先生、田中先生など に御参加いただいたわけです。 ○寺田委員 例えばの話、くどいようですけれども、臨床である薬は効くか効かないかは入らない わけですか。 ○高久委員長 それは入らないと思っています。 ○寺田委員 そうすると書き方がちょっとおかしいと思いますが。 ○事務局 医薬品医療用具の臨床試験ということの取扱いだろうというふうに考えておりますが これはいわゆる治験として薬事法の下で先生方御承知のとおりGCPという手続にのっ とって実施がされておりますので、その薬事法の下にあるものについてはこの場で重複 した議論を行っていただく必要はないのではなかろうかというふうに考えている次第で ございます。 ○寺田委員 疫学的なことはよくわかるんですけれども、臨床的研究で疫学的手法を用いるといい ますと、例えばグルコースならばグルコースの量が上がったとか、下がったとか、そう いう研究をやると、これは対象になるわけですね。 ○事務局 そのとおりでございます。いわゆる介入研究というのもこの対象になってまいるわけ でございます。ですから、除外されますのは端的に申し上げますと薬事法の規制下にあ る、GCPの規制下にある医療用具医薬品の研究であるというふうに考えております。 ○高久委員長 かなり広いですね。そうすると、多施設でやる治験でない医薬品の臨床的研究があり ますが、それも入るわけですね。 ○寺田委員 もう一つだけ質問してよろしいですか。しつこいようですが、今、問題になっており ますゲノムの倫理委員会をやっていますが、当然ですけれども、あれとの整合性もここ では持ってやらないといけないわけですね。 ○事務局 ゲノムの研究につきましては、先端医療技術評価部会の中で現在御検討願っておりま す。それで、これと整合性をとれればそれが一番ありがたいと考えておりますし、また この臨床研究という観点から付け加えることがある、あるいは一部を適用しないことが あるということは当然出てまいるんだろうというふうに考えております。ですから、一 つの大きな指標となるものとして、同じこの先端医療技術評価部会の中で御検討願うわ けでございますので、そういう意味では一つの大きな参考資料になるんだろうというふ うに考えております。 ○高久委員長 ゲノムの研究には疫学的手法が当然入るわけですし、多施設になるからうまく調整し ないとならないですね。 しかし、実際にはコホート研究、そういうことが一番大きな問題になる。そういうふ うに考えていますが、今、寺田委員がおっしゃった点も考慮に入れながら今後御議論願 うことになると思います。ほかにどなたかどうぞ。 ○丸山委員 今の範囲なんですが、やはり疫学的研究に限定するというふうに理解していたんです が、そうではございませんか。集団対象の健康問題の原因あるいは傾向、対策でこの研 究実施機関が単数複数は関係なくて人を相手にする疫学的手法についての研究ですね。 そういうふうに理解していたんですが、いかがでございますか。 ○高久委員長 ここで決めても良いのではないですか。私はむしろ最初に申し上げたように、多くの 人からサンプルを取るなり情報を集めるなどして行う疫学的研究に絞った方がやり易 い。例えばがんの治療なども多施設で薬の治験ではなくて色々とやっているクリニカル トライアルがたくさんあると思いますが、それも全部この専門委員会の議論に入れると なると丸山先生にもお気の毒ではないか。時間的な問題もありすので、絞った方がまと まりやすいのではないか。6月までにまとめるとすれば、どうですか。 ○事務局 事務局といたしましては、疫学的手法を用いた研究ということになりますと、例えば 今、例に挙がりました抗がん剤の有効性を調べる研究というのはまさしくケース・コン トロール・スタディでございますから、疫学的手法を用いた研究であるというふうにな るんだろう。それで、介入があるかないかというのもそれは疫学的研究であろうという ふうに考えておりまして、ここで複数の機関と単一の機関というふうに書きましたのは 今回生命倫理への配慮、広く申し上げますと倫理問題ということで考えておりまして、 その骨格をなすものの一つに個人情報の保護という問題がどうしても出てまいる。個人 情報の保護という観点から考えますと、複数の機関で実施するがゆえに情報が機関を超 えて行来をする。一つの機関で実施されるのであれば、それは個人情報の保護という観 点から見ますと、いわゆる一般的な治療行為と診断行為、医療行為と非常によく似た問 題で、医療行為で包含されるような問題が研究に包含されるんだろうと思いますけれど も、複数であるがゆえに発生してくる問題というのをどうしても議論の中で御議論願わ ないといけない点であろうというふうに考えております。 そういう観点から申し上げまして、疫学的手法を用いた研究等というふうになってお りますが、疫学的手法を用いた研究と、あとは残りますのは統計解析をしないような症 例報告というようなものがあるのではなかろうかと考えておりまして、研究に附随する 問題につきましては疫学的手法を用いた研究、特に例えばがん登録研究でございますと か、コホート研究でありますとか、こういうものを御検討いただくことによってほかの 先ほど御指摘のあった抗がん剤の有効性を比較するようなケース・コントロール・スタ ディにも適用できるのではないかと考えておった次第でございます。もちろんこの委員 会の中でその範囲を明確化した上で検討を進めるということでございますれば、我々と してこの範囲でなくてはいけないという考え方を持っておりませんが、事務局としての 考え方は以上のとおりでございます。 ○高久委員長 わかりました。どうぞ、青木委員。 ○青木委員 大変重要なことでありますので一言発言させていただきますが、やはり疫学的手法と いうことになりますとかなり広い範囲になりますので、今のお話を聞きますと、それは 原則でございまして、この委員会ではまず特定のものを取り扱うということにして、例 えば今、寺田先生の言われたゲノムだとか、いわゆる治験は除いてはいかがでしょう か。 ○高久委員長 治験は除くのですね。 ○青木委員 そして、将来は個々の問題について取り扱うかどうかは別に協議をするというわけで す。今、言われているのは地域がん登録やコホート研究といういわゆるモデル的なもの について限定してはと思います。期間もございますので。そして後で問題が起きました らそのときに整合性を図りながら拡大するという方向でいかがかと思いますが。 ○高久委員長 この専門委員会ではありませんが、垣添先生がつくられたミレニアムにおけるゲノム 研究の倫理的な問題を取り扱った時に、この問題は必ずしもミレニアムにおけるゲノム 研究の指針だけではなくもっと広い範囲の研究を対象にする必要があるという事になっ たという経緯があります。青木委員がおっしゃったように地域がん登録とか、コホート 研究などを中心とした指針をつくって、その議論の中で寺田委員がおっしゃった研究ま で広げられるかどうかということを御議論願う。そのときの状況に応じて最終的に広げ てもいいし、無理なようならば範囲を限定して、もっと広げる場合には今回できたもの を元にしてもう一回別な指針をつくる。 ですから、最初は対象を限定したものをつくる。事務局の方はそれでも良いですね。 そういうふうにさせていただいて、時間の許す範囲でもう少し広い範囲のものまで含め るようになれば、それはそれで報告書の中に入れていけば良いと考えていますので、よ ろしくお願いします。 それでは、次に今後の委員会の審議のために関係する分野の現状などを説明していた だくことになっておりますので、議題の2の「疫学研究の現状等について」、これは事 務局の方から資料の2を瀬上さんよろしくお願いいたします。 ○統計情報部保健社会統計課保健統計室  瀬上室長 保健統計室長の瀬上でございます。それでは、疫学的手法を用いた研究等 における個人情報保護のために疫学の現状について、特にがん登録など、疫学的調査の 政策面から見た必要性について御報告申し上げたいと存じます。 食生活や環境中には発がん物質と疾病危険因子や抑制因子が数多く存在すると考えら れておりますが、疫学はこれらの因子を理論的に明らかにし、公衆衛生や予防医学へ貢 献することが期待されてまいりましたし、今後も大きな期待が寄せられているところで あります。そこで、初めにこれまでの疫学調査による成果が政策面でどのような寄与を してきたかを振り返らせていただければと存じます。資料2の1ページ目の初めに第1 段目でございます。これまでも数多くの成果があるのではないかと思われますが、その 中から代表的なものを幾つか御紹介いたします。 昭和38年に第3次悪性新生物実態調査報告書が出されております。それに先立ちまし て昭和30年以来行われておりました第1次、第2次と悪性新生物の実態調査によりまし て、がん患者の死亡数や発生数に地域差のあることが指摘されておりましたので、この 第3次調査では胃がんの手術後の患者とその他の疾病で入院されていた患者とを比較す る症例対照研究によりまして発病要因や地域差の推定が行われていたところでありま す。 この3回の調査研究の結果に基づきまして、昭和40年には政務次官会議ががん対策5 本柱を決定いたしました。それまでごく一部の市町村で行われていました公費による胃 がん、子宮がん検診を拡大して実施していくことになったところであります。 続きまして第2段目であります。昭和54年に第4次悪性新生物実態調査報告書が出さ れております。地域がん登録を用いた調査であります。胃がん及び子宮がんについて、 検診によるなどの受診動機別の生存率を中心に検討がなされたものであります。早期発 見早期治療が生存率を高めているということを初めて実証いたしました。市町村検診で 検診受診者数が増大する中でがん死亡者数も増加し続けまして、市町村の財政負担も増 大していましたことから、検診は効果がないのではないかという社会的失望感もあった 中で、この検診の早期発見が効果的であり、検診実施率がある一定以上の地域では死亡 率も低下してきているという発見は大きな意味を持ったところであります。 また、別の研究で行われていましたX線被爆による発がん等の危険率の増大可能性と 早期がん発見率の向上に関する年齢別の比較検討からの結論も踏まえまして、昭和57年 の老人保健法の制定に際し、がん検診を40歳以上で導入するという老人保健事業の制度 化が行われたところであります。 時間の関係がありますので飛びまして第4段目、平成8年のがん検診の評価のための 横断調査報告書によりますと、検診による発見者と他疾患で受診した医療機関での発見 者との間の生存率の違いが改めて全国的に検討されたところでございます。胃がん及び 子宮がんについてはその有用性が再度証明されまして、第4次調査の結果が追認された ところでありますが、肺がんについてはその結果が証明されませんでした。そこで、肺 がん対策に関しては現行の肺がん検診に頼ることなく、1次予防に重点を移すことを検 討するべきであるとの指摘になったわけでありますが、これを受け平成11年には健康日 本21計画の中にたばこ分野が設定されたところであります。 以上、簡単にがん対策との関係で厚生省が行ってまいりました疫学調査について御紹 介いたしましたところですが、これ以外にも次ページに紹介しております九州大学によ る久山町コホートなど、がんの発生率や治療法別生存率を研究しているチームがたくさ んあるわけでございます。 資料2の2ページをお開きいただいたところでございますが、続きましてがん以外の 主な疫学調査と行政的対応について御紹介させていただきます。第1段目であります。 昭和21年以来、現財団法人放射線影響研究所では広島及び長崎の被爆者12万人について その後の疾病発病状況を長期間にわたって観察する縦断研究を行っているところであり ます。この調査と当初に算定しております個々の被爆者の推定被爆線量調査とのリン ケージによりまして、被爆線量とがん循環器疾患の発病との関係を研究しております。 この研究から被爆線量と白血病を中心としたがんの発病に関係があることが明らかとさ れました。この詳細な結果はチェルノブイリ原発事故など、世界各地の原子力発電所の 事故における被爆者対策や被爆防止措置に活用されてまいりましたほか、アインシュタ インやラッセルなどによる宣言にも引用され、核兵器の削減にも影響を与えたところで あります。最近ではドイツにおけるチェルノブイリ事故を契機に、環境による国民の健 康影響を測定することを目的として、がん登録を全国的に再開させるための連邦法の制 定にこの調査が大きな影響を与えたということであります。 第2段目は先ほど簡単に説明いたしました久山町調査でありますが、第3段目に飛ば せていただきます。昭和36年に報告のございました厚生省成人病基礎調査報告書及び脳 卒中発生要因に関する疫学調査報告書では、行われました追跡調査により食塩過剰摂取 たんぱく質、動物性死亡の摂取不足、重労働などの生活環境により起因すると推定され た高血圧が脳卒中の多発の背景因子であるということが明らかにされたところです。こ の結果、昭和57年の老人保健法制定によりまして、先ほど申し上げました老人保健事業 でございますが、この中に基本健康診査が導入されることとなったところであります。 最下段に飛ばせていただきます。平成3年にはNomuraによりましてハワイ在住日系米 人男性の追跡調査を用いた発見が報告されております。日本人に特に胃がんが多いこと と、胃がん患者の胃壁粘膜中にヘリコバクター・ピロリ菌が感染している例が多いとい う病理学的な研究を受けて企画された研究で、日系米人5,908 人が健康診断を受けた後 20年にわたり追跡して健康観察が行われてきていることに着目したものであります。観 察継続期間中の1967年から70年に全員から採取され、冷凍保存されていました血清を用 いまして、過去にヘリコバクター・ピロリ菌に感染した場合に高くなります血清中の抗 体価を測定し、これと89年までに発生報告のありました胃がん罹患情報等をリンクさせ た研究でコホート内患者対照研究と呼ばれるものによる発見でございます。この研究に より、胃粘膜にピロリ菌が感染することが将来的に胃がんを発生させる危険性を高めて いるということが明らかになったところであります。 このように、疫学研究は国民にとりまして有用な研究成果を提供してきております。 その活用の仕方を分類いたしますと、疾病の発生率や死亡率を明らかにすること、疾病 の発生危険因子、抑制因子を推定すること、原因不明の疾病等に対する健康危機管理及 び感染源、汚染源の推定に用いられること、これはこれまでもイタイイタイ病やカネミ オイル事件、腸管出血性大腸菌の事件など、こうしたものに疫学検討チームが組織され そのチームの個人情報を収集解析して疾病の全体像を明らかにし、要因解明のために迅 速な活動をしてきたところからも明らかでございます。更に、さまざまな要因から成る 事象への判断根拠の提供ということにも使われているところでございます。 さまざまな疫学研究で原因と考えられます要因が複合的であると推定された場合、疫 学的研究を構築するためにどのような対応が必要であるかについて簡単に御紹介いたし ます。3ページをお開きいただきたいと思います。 御参考までに、いろいろと世間で話題になりましたワインと健康についてを一つの例 といたしまして、異論もあろうかと思いますが、疫学的研究の構築についてのイメージ をお持ちいただければ幸いと思います。問題とされますのは1行目にあります健康の維 持増進または長寿のために現在心筋梗塞にかかっていない人にワインを飲むことを推奨 するべきか否か。また、その場合どのくらい飲むように進めればよいのかというような 問題がありました。各種先行して独立に行われた研究によりまして、次の科学的三段論 法が成り立つわけでございます。 最初の箱に書いてありますように、活性酸素というものの問題、また抗酸化物質が活 性酸素の発生を抑制するという話、そしてワインはポリフェノールという抗酸化物質が 豊富だということ、よってワインは心筋梗塞の予防に効果的であると、このような科学 的三段論法が成り立つわけでございますが、果たしてこれが本当かどうかということで す。 そこで傍証を得るため、動物実験と記述疫学研究を行う必要があるわけです。左側、 ワインを飲ませたラットでは実験的な梗塞のサイズが小さくなったということが明らか になりました。また右側、週2杯以上飲む人と飲まなかった人とを7年間追跡研究いた しますと、心筋梗塞の発生がお酒の種類に関わらずお酒を2杯以上飲んでいる人の方が 発症危険度が小さかったという研究があります。それで、これらを合わせますと、ワイ ンが心筋梗塞に予防的に働くことが何となくわかるわけでございますが、果たしてその 推奨を行うほど確定的でしょうか。否でございます。 また、このごろワインの効果を疑問視する研究も幾つか出てきたところです。そこで 更なる研究が必要になってまいります。その研究と申しますのは最下段です。飲酒習慣 のほか、食習慣、運動習慣、疾病管理状況を含む他の心筋梗塞の予防因子と考えられる 要因の影響度について定量的に調べることのできる調査が必要です。また、第2にワイ ンや他のお酒が発症に関連する他の病気との関連によりますワイン、飲酒の利益と損失 の比較研究も必要となってくるわけでございます。これらの研究の結果を見なければ、 心筋梗塞予防のためにワイン飲酒を社会的に推奨するということは私どもとしてはでき ないわけでございます。このため必要となるのは、こうした作業仮説を立てて行う追跡 研究または比較対照研究によります疫学調査、これを更に行わなければ、当初の問題を 解決し、行政的に断を下すということにはならないのではないかということでありま す。身近な例を1つ、わかりやすいものを例にとって話させていただきました。 近年、高齢者人口が増加したものの、脳卒中などの致死的疾患の予防効果によりまし て膵臓がんのような難治性の悪性新生物が増加してきております。こうした疾患への最 適な治療の在り方を含めた予防対策を講じていくためには、適切に企画された疫学調査 がなお必要となってまいるものと思っております。以上でございます。 ○高久委員長 どうもありがとうございました。今の御説明に何か御質問がおありでしょうか。 今のお話では今までの調査の結果とその影響を御説明いただいたわけですが、時間の 関係もありますので、それでは引き続きまして疫学の学術的意義ということで田中委員 から御説明いただきます。 ○田中委員 東京医科歯科大学の田中でございます。日本疫学会の理事長を務めさせていただいて おる関係上、疫学的手法、つまり疫学方法論についてお話させていただきたいと思いま す。医系でない委員の方のために、スライドで具体例を示しながらお話ししてみたいと 思います。 しかしながら、これは医学部学生に約90分授業の10コマで話していることを15分でと いうことでございますので、非常に苦しいところでありますが、よろしく御了承願いた いと思います。それでは、スライドをお願いいたします。 疫学という学問は、本質的には人間集団を対象といたします。つまり、個人を本質的 には対象とするものではございません。人間集団を対象とするもので、健康に関連した 状況、事象、具体例で一番ポピュラーなものは要するに疾病であります。その疾病の分 布と、それを規定している因子を追及する学問であります。それで、その成果は先ほど の説明もありましたように健康増進、疾病の予防、早期発見早期治療あるいは明日から 介護保険が施行されますが、その介護等に応用されるものであります。憲法第25条第2 項では公衆衛生の向上及び増進に国家は務めなければならないとございますが、その公 衆衛生の向上と増進に関する科学的根拠を与えるものでございます。 それで、疫学方法論を私はこの疫学のサイクルというもので示してあります。このサ イクルを循環させることによって原因不明の病気の原因を追及する学問であると狭義に は定義してあります。 まずそのサイクルの第1段階、記述疫学と最近疫学会では定義しておりますが、別に 記載疫学ということも言われることがあります。これは、疫学的仮説設定の糸口をつか むというものであります。これは分布を記載しておるということです。どういうことか といいますと人間の特徴、例えば性、年齢別、場所の特徴、例えば国別、都道府県別、 時の特徴、つまり年代別あるいは季節別あるいは日間別に疾病頻度を記載するというの が記述疫学でございます。どういうことかということですが、我が国で循環器疾患の疫 学的研究が本格的に実施されたのは昭和35年ごろでございます。つまり、高度成長時代 に入るというころであります。これは横軸に年齢、縦軸に対数に返還してございますが 人口10万単位の脳卒中の死亡率であります。ですから、これは人間の特徴について記載 してございます。また、国別でありますから場所の特徴について記載しておるというこ とであります。アメリカ及び西ヨーロッパ諸国は対数グラフ上で直線的に増加していっ ておりますが、日本のみが弓なりになっております。つまり、40、50、60といういわゆ る働き盛りの人に非常に高い。このころは抜群に世界第1位の死亡率を誇っておったわ けでありますし、死因の第1位を占めておったわけでございます。こういったところか らヒントとしまして、こちら側はいわゆる白人でございますから、遺伝的な素因の差が 示唆されるわけでございますし、もう一つはこのころは非常に食生活を中心とした環境 要因の差が大きかったわけですから、そういったものを仮説設定の糸口につかんだわけ でございます。 一方、虚血性心疾患はヨーロッパ、アメリカは弓なりにこのようになっておるんです が、日本だけが非常に低く直線的に伸びており、先ほどと逆になっておるわけでありま す。こういったところから、循環器疾患の疫学と予防は日本には脳卒中に比重が置かれ た起源がここにございます。 もう一つ、都道府県別に、すなわち場所の特徴について脳卒中の死亡率が記載されま した。このときに、日本は面白いことにほぼ単一民族国家であるにもかかわらず、こう いう東北地方に多く瀬戸内海地方に低いという地域差が認められたわけであります。で すから、単一民族国家の中で地域差があるということは、この当時は遺伝要因よりも環 境要因の方が大きく寄与しているだろうと、そういう糸口をつかんだわけでございま す。それが記述疫学と言われるものでございます。これは、横軸に年代が書いてござい ます。それで、縦軸に脳卒中の死亡率であります。これは、要するに時の特徴について 記述されているわけであります。日本はこのように抜群の世界第1位でしたが、ドラマ チックに下がってきたわけです。それで、これは広い意味の予防対策であります。効果 であるだろうと、このように評価にも使えるという例でございます。 これは、虚血性心疾患の年次推移を見たものであります。欧米諸国は非常に高いんで すが、このように減少傾向があります。日本は低く、かつこのように減少傾向を示して おります。脳卒中が激減しましたし、その一方、虚血性心疾患の増加をもたらさなかっ た。こういったことが、日本が平均寿命世界第1位になった一つの原因がございます。 これだけではもちろんございませんが。 一方、この増加しておる国がございます。チェコ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマ ニア、あるいはポーランド、つまり東ヨーロッパ諸国は西ヨーロッパ、アメリカ、日本 と趣きを異にしています。もしこういうことがわかれば、直ちに心筋梗塞の予防対策を しなければならないというようなことがわかってくるわけでありますし、またどうして 増加しておるのかといったことを糸口として探っていくということになるわけでござい ます。これが記述疫学と言われるものであります。 ここのところを今お話ししたわけですが、そういった糸口をつかんだ上で科学的にこ の仮説を設定することになります。多くの設定の仕方がございますが、主として機能的 な推理に属する演繹的法と機能法と仮説設定法がございますが、主として機能法に属す るプロセクショナルスタディで疫学的仮説が設定されることが比較的多いようでござい ます。その一例がこれでございます。これは1960年ですが、横軸に高血圧の頻度、こう いった地域の血圧測定が行われて高血圧者が何%いるかを見たわけです。そして、こう いった人たちの24時間蓄尿によりおしっこを集めまして食塩摂取量の推定が行われ、そ の平均値がプロットされたわけであります。非常にきれいな正相関であります。つまり 食塩摂取量の平均値の高い地域ほど高血圧の頻度が高い。こういったところから、食塩 の過剰摂取が高血圧の原因の一つであるかもしれないという仮説が立てられたわけでご ざいます。 次は、そういう仮説がいろいろ立てられてきますと、今度は分析疫学というので仮説 が検定されるわけでございます。大きく2つございますが、1つが先ほどから出ており ました患者対照研究、現在では症例対照研究という言い方もしております。これはどう いう研究かといいますと、もう既に病気になられた方についてその容疑要因を持ってお る人、病気になられた方がAプラスC人おらますと、その容疑要因は当然病気になった わけですから、過去にこの要因Xというのは暴露されているわけですから、過去に翻っ て原因を探し求めるという研究であります。それで、AプラスC人の患者さん中、A人 の方がそういう要因暴露があった。それで、その病気でない方がコントロールの対象と いうわけであります。それで、BプラスD人の人が対照群として選ばれ、そして過去に 翻ってB人暴露されていたということで、AプラスC分のAとBプラスD分のBが比較 されるという研究でございます。 一番典型的なものがサリドマイドの妊娠初期の服用と、いわゆる四肢障害による奇形 児の発生でございます。いわゆる四肢障害児を生んだかどうかというのはカルテをもっ て調べているわけです。そして、その生んだ母親の更に妊娠初期の服薬状況を調べるわ けですね。そして、サリドマイドを飲んだかどうかを調べたわけです。そうしますと、 四肢障害児を生んだ母親の妊娠初期のサリドマイド服用が非常に多かったといったこと で、サリドマイドと四肢障害との因果関係が推理されたわけであります。もしこのとき にそういったカルテ閲覧、あるいは文書によるインフォームド・コンセントをとってい て、それが時間的に1年、2年と過ぎていくことになれば、非常に多くの犠牲者が生ま れたことだろうと思います。こういった健康危機管理的なことには即座に対応していく 必要があるのではないかと思われるわけです。それが一つの患者対照研究の典型例であ ります。 それで、先ほどから話題になっておりますコホート研究というのがございます。これ が分析疫学の中で先ほどの症例対照研究よりも優れた研究であります。それは因果関係 を論ずるときには必ず原因は結果よりも、すなわち疾病発生よりも先に作用していると いう時間的順序の成立が重要でございます。この研究はそれが言えるわけでございま す。つまり、先に容疑要因の調査を行います。そして、持っている人と持っていない人 に分けて長期的に観察していき、一定期間内にどれぐらいの人がこの疾病に罹患してい るかを見る研究でございます。すなわち、AプラスB人中A人が疾病に罹患する。人間 の場合は複雑でございまして、その要因に暴露されていなくても起こってくることがあ ります。すなわちCプラスD分のCに起こってくるわけでして、その比を見ることによ って原因の推理を行うわけでございます。この比のことを相対危険もしくは相対危険 度、リスク比と呼んでおるわけでございます。 そのときにいろいろ容疑要因の調査をしまして、どういう人から疾病が起こってくる かを見ていかなくてはなりませんし、またその観察集団から変質していく人もあります から、住民登録を閲覧せざるを得ません。また、その当該研究の病気以外で死亡してい く方もありますので、死亡個票等を照合していかざるを得ません。それで、今度は自分 の研究目的としておる疾病、罹患者を正確に把握しなくてはなりません。がんの場合は これががん登録という形でやられているわけですが、脳卒中の場合には非常に細かくて 申しわけございませんが、死亡個票の閲覧あるいは医師からの届出、あるいは保健婦か らの届出、そして住民組織もつくられておりまして、地方の場合ですと隣りの方が例え ば脳卒中、これは脳卒中の例ですが、脳卒中になったかどうかを知っていますから住民 の保健組織が届けてくれるということもやっていただきましたし、また救急車の出動記 録を閲覧する。それから、国民保険のレセプトを閲覧するということで脳卒中の疑いが ある人を拾っていくということにしておるわけであります。 ちなみに、我が国の脳卒中の疫学的研究、すなわちコホート研究では、数千人の人を 10年間追い駆けていくということをやっておりますから、非常に労が要るわけですが、 脳卒中でも1年間に1,000 人の中から1人ないし2人しか起こってこないんです。です から、もしも1人の漏れが起こってきますと非常に結果が誤ったことに起こってくるわ けですので、こういった情報源をきっちり見ていって罹患者を把握していくという努力 をしておるわけでございます。 それで、これは私のフィールドでございますが、そういったことをやる上においてこ ういう市役所、住民の組織、医師会、病院あるいは保健所、そして私どもの研究機関と いうところがこういったことをやっていくというコンセンサスを得てやっております。 それで、当然毎年毎年集団検診をしていきますから、住民とこの実施者側との間におい て、集団レベルではありますが、医師患者関係が成立するように努力していっておりま す。だから、個人的には健康の増進に役立つことをしておるわけです。また、この疫学 的な成果につきましては健康教育等でお話ししていくということで地域へは還元してい っております。そういったことをやってきておるのが我が国の脳卒中の疫学的研究の特 色でございます。 これは、ちょっと英語で申しわけないんですが、アメリカのボストン郊外にあるフラ ミンガムというところで、やはりこれも数千人の人が国家レベルでずっと追跡していっ たわけであります。それで、これはグリーンが30代ですが、横軸はコレステロールで す。それで、縦軸が冠動脈性心疾患の罹患率です。このようにコレステロールが上がる につれて増加していきます。これは赤が40歳代の人です。このように増加しています。 これも20年の追跡をされたわけであります。その結果から、コレステロールは心筋梗塞 の予知因子である。コレステロールを下げようということがこの成果に基づいて行われ たわけであります。 一方、日本は脳卒中の研究をしたわけでして、これは血圧とコレ ステロールと肥満と脳卒中との関わりを見たわけであります。それで、非常に血圧が収 縮期血圧であれ、拡張期血圧であれ、増加していくにつれて脳出血、脳梗塞の罹患率が 上がっていく。こういったことがわかってきたわけでありますので、そういった成果を 受けて皆さん方に、40歳以上になれば職場であれ地域であれ血圧測定を受けられるよう になり、そして高い場合には高圧薬の服薬あるいは生活習慣の改善等が積極的にやられ ていったわけです。ですから、こういった一地域のデータでありますが、先ほどの久山 町も含めて各地域で行われてきたデータも同じような動向が出てきたわけです。そうい ったことで、現在恐らくこの恩恵に浴しておるのは40歳以上の数千万人以上の人で、現 実に血圧の治療を受けておられる方は一千万もおられるのではないかと思われます。そ ういった科学的根拠をつくったのが疫学コホート研究であるということでございます。 もう一つ、先ほどヘリコーバクター・ピロリと胃がんとの関わりに書いてございまし たコホート内症例対照研究というのがございます。これは、採血をした後に残ってくる 血液あるいは最近では場合によっては遺伝子があります。それで、血液から血しょうを 取りますとその上澄みとして白血球が血餅として残ってきますから、それを研究のため に寄附してくださいという形で保存をしてきたのは事実であります。 しかし、そのときに何のために何をするかということは言えないわけです。と申しま すのは、疫学は原因不明の病気の原因を追及するからであります。ちなみに、善玉コレ ステロールとして有名なHDLコレステロールというのがございますが、あれはフラミ ンガムで血清が保存されておったわけですね。そして、心筋梗塞になられた方とそうで ない方についてHDLコレステロールが調べられたわけです。それで、この血液採血は 心筋梗塞になる前に採血されておりますから時間的順序が成立するわけですね。それで 血清中のHDLコレステロールと心筋梗塞の間に非常にきれいな逆相関が生まれたわけ で、それが一気に世界じゅうに広がっていったわけであります。それで、HDLコレス テロールを高くする方法として運動や、あるいは適度な飲酒ということも言われており まして、禁煙といったことも関連しているといったことで、積極的にHDLコレステ ロールが上がるような成果になっていったわけであります。すなわち、世界じゅうにそ ういったことが発信されていったということでございます。 しかしながら、コホート研究の場合に、例えば血圧が高いと脳卒中になるといっても いろいろな要因は考慮しておりますが、血圧を高くするほかのものが新犯人である可能 性があるわけです。だから、この要因であると断定するには介入研究ということが必要 になってまいります。 しかし、これは当然倫理的な配慮が非常に重要でありますから、きちんとした介入研 究というのはなかなか世界各地でも実施し難い面がありますし、非常に貴重でありま す。介入研究というのは因果関係をデフィニットということのできる研究でございま す。これは例えば一定基準に該当する高血圧患者さんを集めて、ここで無作為にした介 入群と対象群に分けて、そして例えばですが、ここでは減塩教育指導をする、ここはし ない、ここが非常に問題であります。それで、その介入群と対象群について食塩摂取量 の変化や血圧の変化を両群で比較しますし、長期的には脳卒中発生時に差があるかどう かということをやれば、この食塩と高血圧あるいは脳卒中との因果関係が確実になると いう研究になるわけでございます。 そういった典型的な例で、アメリカの他因子介入試験というのがございます。これは 約30万人の人の血圧を測り、そしていわゆる軽症高血圧、140 から160 ぐらいの血圧の 人を1万2,000 人に絞りました。そして2群に分けまして、これもランダム配置といっ てくじ引きで2群に分けました。それで、あなたは軽症でありますが高血圧です。当局 はあなたの面倒を見ます。血圧の薬をあげますし、またいろいろ指導をしますからいら してください。もう一つの群の人については、あなたは血圧は軽症でありますが高いで す。しかし、当局では面倒を見切れません。見ませんが、研究には御協力くださいとい うことを1万2,000 人の人から得たんですね。それで、その結果、これを見てもらった らわかりますように、これはそういうきちんとした治療でなくて自由にしていただいた グループです。それに対して、各施設が一生懸命降圧薬の服薬と生活の指導をしたわけ です。そして、10.5年間待った結果、こちらが心筋梗塞、脳卒中あるいはがん、合計の 死亡も低かったという成果が出た結果、現在では軽症の高血圧の人に対しても降圧薬の 服薬をしていくということをやられたわけです。これは一つの臨床試験的ですが、1万 2,000 人の人についてやっていった。もちろんインフォームドコンセントはやられてい ますが、こういった結果が介入研究の一つの典型例であります。そういった研究を重ね て、例えば先ほど申しましたコレステロールと虚血性心疾患の関わりをこのように疫学 的成果、こちらは促進し、こちら側は抑制する、そういったことを整理して、そしてこ の疾病の発生に至る過程を解明していって、こういった矢印を遮断することによって予 防になりますし、こういった矢印を加速することによって予防につながっていくといっ たものが疫学でございます。 ちょっと5分ほど延長してしまいましたが、疫学の指標、つまり疫学方法論について 紹介させていただきました。 ○高久委員長 田中先生、どうもありがとうございました。今の田中委員からの御説明について何か 御質問はおありですか。またいろいろ議論の中で御質問をしていただければと思いま す。次に議題の4の「個人情報の保護に関する国内外の状況について」ということで堀 部委員からよろしくお願いします。先ほど少し遅れてこられましたが、堀部委員は中央 大学法学部の教授をされておられますので御紹介いたします。 では、堀部先生よろしくお願いします。 ○堀部委員 中央大学法学部の堀部です。今日、3時からの会議はほかと部分的に重なっていたも のですから少し遅れて参りまして申しわけありませんでした。 今日の資料の4に「我が国における個人情報保護システムの在り方について(中間報 告)」というのがありますので、それをごらんいただきたいと思います。この資料4は かなり大部なものでありますが、その概要を御説明し、またいろいろ御質問等をいただ ければと思います。 大きく4つの部分から成っています。1ページ目の高度情報通信社会推進本部個人情 報検討部会の下にIの「はじめに」というのがありますが、これが6ページまでありまし て、次に7ページにIIとして「個人情報保護システムの基本的考え方」ということで、 これまたかなりのページになっておりますが15ページまであります。16ページからIIIと しまして「個人情報保護システムの在り方」ということで、これが22ページまでありま す。最後の23ページがIVで「今後の進め方等」となっています。 まず「はじめに」のところに戻っていただきまして、最初のところでは背景というこ とで、情報化の進展との関わりで個人情報保護、プライバシー保護の必要性が出てきて いるということを書いています。 2ページ目にいきまして、個人情報保護検討部会の設置の経緯でありますが、これは 高度情報通信社会推進本部という全閣僚が構成メンバーになっています推進本部があり まして、本部長は内閣総理大臣です。1994年(平成6年)8月に設置されました。そこ でプライバシーについて検討をしたことがありまして、それを受けて昨年の7月から個 人情報保護検討部会というのが開かれています。その背景になっていますのが2ページ の下の方の3の「個人情報保護を巡る内外の状況」です。3ページにいきましてここで はOECD、経済協力開発機構の中でどの程度個人情報保護法が制定されているかを見 ていますけれども、現在OECDの加盟国が29か国ありまして、その中で昨年の1月現 在ですと27か国で法律ができているという状況があります。それを分類してみますと、 第1は一つの法律で国・地方公共団体等の公的部門、民間企業等の民間部門の双方を対 象とするオムニバス方式、国際会議などでこのような表現が出てきてますが、それが第 1です。 第2としますと、公的部門、民間部門とをそれぞれ別の法律で対象とするセグメント 方式があります。 また、第3にそれぞれの部門につきまして特定の分野で保護措置を講ずるという、セ クトラル方式のものがあります。  ヨーロッパではオムニバス方式の法律が一般的でありまして、セクトラル方式のもの はアメリカに見られます。各国それぞれの対応の仕方をしてきていますけれども、1970 年代に法律をつくった国の中には、保護措置を非常に強く打ち出すところと、個人デー タ、個人情報の国際的な流通を重視する立場とがありまして、その後の方で使っている 言葉で言うと保護と利用のバランスをどうとるのかということをOECDで1978年から 検討しまして、1980年に「プライバシー保護と個人データの国際流通についての理事会 勧告」が採択されました。 その附属文書の第2部の中に8つの原則があります。3ページの中ほどにAからHまで 書いておきましたが、第1が収集制限の原則、第2がデータ内容の原則、第3が目的明 確化の原則、第4が利用制限の原則、第5が安全保護の原則、第6が公開の原則、第7 が個人参加の原則、第8が責任の原則であります。この原則は先進国の間ではほぼ同じ ような考え方がとられていまして、そのうちヨーロッパではこのOECDの原則等も踏 まえながら新たな動きが出てまいりました。これは1990年にEU指令提案が出されまし て、それが1995年に採択されまして、3年以内にEU機構の15か国でそれぞれ法律の制 定、または既に法律を制定しているところは法律の改正をすると、こういうことが義務 づけられました。それにのっとりまして、各国がそれぞれ対応をしているところであり ます。 4ページにいきまして、(4)で我が国ではどうかということになりますと、1988年 昭和63年に「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法」が 制定されました。この法律の制定の準備をしました研究会にも参加いたしましたが、こ の法律は公的部門としまして国の行政機関の電子計算機処理に係る個人情報の保護を目 的にしています。これは先ほどの分類からしますとセグメント方式ということになりま す。地方公共団体は早いところですと1975年、昭和50年に条例を制定するところが出て きていまして、昨年の4月現在で都道府県では23ですが、市区町村も含まして全部で 1,529 の団体(8つの一部事務組合がこの数字には入っています)で個人情報に関する 条例が制定されております。しかし、これは全自治体の46%強にすぎません。 民間につきましては、部分的に法律はありますけれども、全体をカバーするような法 律はありませんで、むしろ関係省庁で私が関係したもので言えば通産省、郵政省、それ から大蔵省は直接は表に出てきておりませんが、大蔵省も研究会のオブザーバーに入り まして一緒に議論しながらまとめた金融関係のもの等があります。そういうところでそ れぞれ自主的に対応するという方法をとってきています。 そうした内外の状況を踏まえまして、4ページの下の方の4の「個人情報を保護する に当たって考慮すべき視点」ということで、ここではまず第1に保護の必要性と利用面 等の有用性のバランスということを書きました。この辺りは議論の経過の中でいろいろ なことがありまして、むしろ保護を書けばいいのであって利用のことまで書く必要はな いという意見もありましたが、私は座長を務めましたけれども途中で座長私案を出しま して、その段階でも、この保護と利用のバランスということを入れています。 5ページの中ほどの(2)では、今、技術革新が非常に著しいものですから、これと の関係でさまざまな対応をしていくとなりますと、柔軟なシステムの構築を目指す必要 があるというようにいたしました。 5ページの(3)で「国際的な論議との整合性」というのがありまして、これはOE CDとの関係で日本はOECDの有力なメンバーでもありますし、現在私はOECDの 情報セキュリティー・プライバシーに関する作業部会の副議長を務めていますが、日本 としてOECDとの関わりで何らかの対応をしなければならないということもありま す。それとともに、EUの先ほど言いました指令ではアデクエート・レベル・オブ・プ ロテクションをとっていない国に対しては情報を送ってはならないという規定を各国の 法律に設けるというようなこともありまして、それにどう対応するのかということもあ ります。  7ページで個人情報保護システムの基本的考え方としまして個人情報保護の目的など を掲げました。8ページの2で「保護すべき個人情報の範囲」、ここも随分議論があっ たところですが、紙に一枚一枚書いてある個人情報、今日の座席表なども個人データが 出ているわけですけれども、こういうものも全部保護の対象にすべきだという意見、そ れに対して電算処理のものだけでいいではないかという意見、いろいろあります。紙一 枚一枚のものまで対象にすべきであるとしますと、カルテ一枚一枚まで対象にすべきだ ということにもなります。 9ページにいきまして、個人情報保護のために確立すべき原則としまして、ここが疫 学的研究との関係でも問題になるところですけれども、まず全体として個人情報の保有 者ということで、国も地方公共団体も民間も関わります。国立の研究機関、地方自治体 の研究機関、民間の研究機関、それぞれ関わってくるわけですが、その保有者の責務と して(1)から(5)まで5つ掲げました。そのうちの(1)がこの9ページの四角の 中にあるところでして、個人情報の収集であります。収集目的を明確にするとか、収集 目的の本人による確認ですとか、適法かつ公正な手段による収集、本人以外からの収集 というのは原則として制限する、例外もあるということを書いていますが、こういうこ とにいたしました。 以下、項目だけ申しますと、10ページの四角の中の(2)は「個人情報の利用等」が ありますし、(3)で「個人情報の管理等」、11ページにいきまして(4)で「本人の 開示等」というようにしています。更に12ページの(5)で「管理責任及び苦情処理」 を掲げました。  先ほど申し上げましたOECDの原則、あるいはEUの指令の中に原則という形では 書かれていませんけれども、こういう原則を一般的に確立するとしますと、個別の領域 との衝突が生じます。今まで疫学研究というのは言ってみれば縦の流れであったもの、 我々の研究もそうですが、それを個人情報という横の線を引いてみる、あるいは団子の 串でもいいのですが、それを刺してみると、いろいろなところで衝突が起こってきま す。 それは13ページに少し書いておいたところなのですが、最初はこの辺りの調整を座長 私案の段階ではかなり重視したつもりです。個人情報保護を強調される立場からします と、余りここで調整あるいは例外を設けるべきではないと、こういう意見もかなり強く ありまして、ここはいろいろなところで座長私案よりも後退しているという指摘を受け ているところでありますけれども、研究と関係するところで言いますと13ページの下の 方のイのところですが、これは個別法等の規定のない分野につきましては先ほどの (1)から(5)の基本原則のそれぞれについて具体的にどのような支障が生ずるかを 検討した上で憲法上の考え方等を踏まえつつ、それぞれの分野における個人情報の利用 の程度と保護の現状のバランスをも考慮しながら、各原則の適用除外の要否等について 法制的に検討する必要があるということで、1つは報道・出版でこれは憲法21条、学 術・研究としまして第23条を掲げました。憲法ではほかにもいろいろなことが出てまい ります。先ほど田中先生が挙げられた公衆衛生ですね。憲法25条に規定がありますけれ ども、そういうものをどうするのかという議論もいたしましたが、ここでは「など」と いうことでとどめています。疫学的研究というのは学術研究なのか、例えばがん登録を 事業として行うのはここに入るのか入らないのか、こういう議論も今後出てくるかと思 いますが、何らかの調整をする必要があることは認識しております。 そういう問題がありますが、16ページに飛びましてIIIとして「個人情報保護システム の在り方」ということで、ここでは基本法というものを制定してはどうか。基本法とい いますのは日本では教育基本法というのが最初ですが、十幾つかの基本法というのがあ ります。それで、従来の基本法と全く同じかどうかというのは更に検討しなければなり ませんが、例えば刑罰を規定して個人情報の不適正な取扱いを処罰するというような形 のものは個別の分野では考えられますけれども、この基本法ではそこまでは考えにくい のではないか。一方、罰則を入れるべきだという意見もあります。基本法という非常に ソフトなものを考えて、全体として個人情報保護というのはどうあるべきなのかという いわば政策を明確にする、原則を明確にするということを念頭に置いています。 ヨーロッパ、アメリカと比べて日本の場合にプライバシー保護の意識、個人情報保護 の意識というのはどうしても低いものですから、全体としてインフラに当たるようなも のであると考えていただいても結構ですし、あるいは個人情報の議論をする際の全体を 覆う一種のアンブレラといいますか、傘みたいな形のものがあると考えることもできま す。 次に個別法という言い方もしますが、18ページに掲げましたのは、これまで既に関係 省庁で議論になっているところでして、信用情報分野、医療情報分野、電気通信分野な どと書きました。信用情報分野と電気通信分野は私が座長で検討をしていますのでどう いうことが議論になっているかということはよく承知しておりますが、医療情報分野は 厚生省の大臣官房政策課で医療、福祉、介護などを含めて検討をしたことはありますけ れども、その後の検討の状況はよく承知しておりません。ここをどうするのかというの もひとつ議論のあるところかと思います。 20ページを見ていただきますと、5として「自主規制」で何らかの対応をするという ようなこともあります。  こういうように基本法、個別法、自主規制、それから地方公共団体は地方公共団体で それぞれ対応していただくということになるわけですが、どうしても法的な側面で更に 専門的に検討をする必要があるということで、23ページのIVの「今後の進め方等」では 「法制的な観点からの専門的な検討のための体制の整備」ということで、今年の1月に 9人の法律家中心の個人情報保護法制化専門委員会というのが設けられまして、現在検 討をしているところです。先日も大島先生、田中先生、櫻井先生においでいただきまし ていろいろ意見を伺ったところです。私はそれと併置されています個人情報保護検討部 会の座長で、法制化専門委員会の方にも出席して、これまでの経緯等について説明をし ています。 この法制化専門委員会は6月ごろまでに中間取りまとめをしまして公表し、パブリッ ク・コメントを求めるという予定になっています。それを踏まえて、夏には法律の要綱 案のようなものをつくることになるかと思います。小渕総理が法制化専門委員会に来ら れてあいさつをしたところでは、政府としては来年の通常国会に法案を出したいという ことでありますので、法制化専門委員会の検討が終わりますと政府として法案の作成に 関わるいうことになるのではないかと思います。  他のさまざまな重要な価値、利益とどうしても衝突するところは先ほどのようなこと で出てまいりますので、その調整をどうするのかというのは法律の条文を書く上でもか なり重要な論点になってくるかと思いますし、厚生省でこういう形で検討を始めたとい うこともそれとの関係で非常に重要な意味を持っていると思います。 申し上げたいことはほかにもいろいろありますが、また御質問等をいただきましてそ れにお答えしたいと思います。 ○高久委員長 どうもありがとうございました。今、何か御質問おありでしょうか。 ○大島委員 堀部先生がお話になったことで再度確認なんですが、13ページのところで「学術・研 究など」というところについてでございますが、私どもが関係している府県での地域が ん登録や、あるいは田中先生が先ほどお話になりました自治体でのフィールドでの循環 器疾患の登録事業ですね。調査事業は学術研究の側面もありますが事業としての側面も ございますので、これらは純粋に学術・研究というよりは公衆衛生の向上というような くくりで述べられることかと思うのですが、EU指令での除外規定なども考えますと、 憲法25条との関係でここに公衆衛生の向上というようなことも是非私としては入れてほ しいという気持ちがあるのですが、今後個人情報保護基本法の制定というところではそ の辺はいかがになっていくのでございましょうか。もちろんそこは法制化専門委員会で 御検討になることでございますが。 ○堀部委員 大島先生が言われたように事業ではありますけれども、例えば報道・出版も公共放送 を除けば営利事業ですね。そういう営利事後でもそこに憲法で保護されなければならな いような価値があれば、それは憲法で保護されます。憲法学では基本的人権というのは 自然人、個人に保障されたものであって、営利企業体などには適用があるにしても直接 的ではないという議論等もありますが、広くはそういう事業であっても憲法上保護され ると考えています。 25条を入れるかどうかというのは、今日は来ておりませんが安冨委員からそういう御 発言もありました。それを入れていきますといろいろなことが出てきて、この段階でそ れを全部列挙するのがいいのかどうか、疫学研究の重要性は瀬上室長からも前にヒアリ ングで伺っていますし、そのときも神奈川県の場合の例なども私は関係していて知って おりますのでいろいろ念頭にありましたが、こういうところでとりあえずは読めるので はないかというふうに思いました。今後、更に議論はいろいろとあるかと思います。 ○高久委員長 ありがとうございました。時間の関係がありますので、次の資料の5に基づきまして 「生命倫理の観点からみた疫学研究の課題について」ということで、丸山先生よろしく お願いします。 ○丸山委員 私の方は1枚のレジュメなんですが、それを使って少し説明させていただきたいと思 います。時間の関係もありますので簡単に済ませたいと思います。 臨床医学の研究も疫学的手法の研究も含めて、両方に適用される生命倫理の原理の方 をAで書いています。プリンシプルズの方です。それから、それを具体化したものとし てノームをBとして書いております。その辺りから説明していきたいと思います。 基本的な、根本的な原理として倫理原理が4つ挙げられることが多うございます。 最初が、人に対する敬意であります。これは自己決定権の尊重と一言で言ってしまう こともできるものであります。自己決定できる人についてはそれを尊重すればいい。で きない人については、例えば子どもとか精神障害者あるいは一時的に意識を失っている 人については、人としてそういう人を保護しようというのがこの原理から求められると ころであります。それで、自己決定できる人については自分の価値観に従って判断し、 その判断に従って行動している場合には他者に対して害を及ぼさない限りは、周りの者 はそれを尊重しなければならないというようなところが基本的なところで、それにプラ スそういうことができない人については保護をしようというものであります。この原理 が下のノームの方でどう働くかというと、主としてインフォームドコンセントの理論に なるんですが、それに限られないというのは後で少し触れたいと思います。 2つ目の原理が危害を加えないこと。ノンマレフィセンスであります。これは医療の 原理としては昔から強くうたわれてきましたところで、患者あるいは被験者に危害を加 えてはならないということです。 3番目はビネフィセンス、私は利益と訳しております。生命倫理の方は善行というふ うな訳を付けていらっしゃいますけれども、ちょっと宗教的というか、私はその訳をと っておりません。患者、被験者の利益になるようなことをしなければならないというこ とです。特に医学研究の場合には、個人的な利益プラス将来の社会に役立つ知識を獲得 するという社会的な利益も忘れてはならないということになります。 それから、4番目の原理としましてはジャスティス、これを正義と訳すのがいいかど うか、少し迷いますけれどもいいんじゃないかと思っております。具体的な内容としま しては、人に対して公正でフェアな扱いをしようというのがその内容になります。 このジャスティスの観念は幾つかに分けて説明されます。その1つが絶対的正義とい うもので、例えば無実の者に刑罰を加えることは許されないというようなものでありま す。それとともに相対的な原理もありまして、他の者との関係で同じような者は同じよ うに扱う、違う者は違うように扱うというものがございます。その中で医療では配分的 正義ということが中心になる。これは、利益が出る場合は利益を享受できる者が限定さ れているときにどういうふうに配分するか。あるいは、今度負担をだれかが負わなけれ ばならないときにだれがその負担を負うかというようなことを問題にするものでござい ます。 配分的正義の利益の側面の例としましては、利用できる医療資源が限られているとき にどういう基準で配分するのが正しいかというようなことがございます。レジュメに書 きましたように必要性とか、その人の社会的価値、これは今の考えでは問題だろうと思 いますけれども、あるいは資力、先着順、抽選とか、そういう基準でどれがいいんだろ うかというものを考えるものです。それから、配分的正義が負担の側面で考えるときは どういう基準で、例えば研究の被験者を選択するのがフェアなのかというふうな例を挙 げることができます。被験者として一定の人を対象にする必要は特にはないんだけれど も、それらの人を使うのは容易であるとか、そのような人を対象にすると実験がやりや すいというだけで選択するというのはこれまであったんですが、そういうのは概して望 ましくない。特に研究によって得られる成果、その利益を受ける人を被験者とすること ができるのに全く利益を受ける可能性のない者を被験者とするようなことがあってはな らない。被験者と受益者との間にある程度の相関関係が求められるということがござい ます。 それから相対的正義の問題としてはもう一つ、補償的正義というものがございます。 公共の目的とか利益のために被験者として負担を背負った者が事故に遭った場合、どう いう補償を与えるのが公正なのかという問題でございます。 以上の4つの根本的な原理をある程度具体的なノームにするのがその後であります。 これは少し時間が掛かりますから(1)(2)(3)というのはもう省略したいと思い ます。適正な研究計画、研究者で研究はしなければならないというのが(1)(2)で す。それから、利益と不利益との両方のバランスを保たなければならないというのが (3)です。それから(4)について、あるいは(5)について少し詳しく見ていきた いと思います。 4番目はインフォームド・コンセントであります。インフォームド・ コンセントを支える原理というのは、先ほど出てきました人に対する敬意というもので あります。人はそれ自体、目的であって、手段、道具とされてはならない。原則はそう なのです。手段、道具とされるときは必ず本人の自発的な同意が必要とされる。たとえ 当該措置や行為によって本人や社会が大きな利益を受けるということがあっても、本人 に説明してその同意を得ていないとその措置、行為を行うことは非倫理的になるという ものであります。 それから(5)は先ほど述べました被験者の公平な選択で、配分的正義のところで述 べましたように、受益をする者と被験者として負担を受ける者とある程度の対応関係が 求められるということでございます。 (6)の補償は先ほど触れましたし、(7)のプライバシーと個人情報については堀 部先生の方から詳しい御説明がございましたので省略したいと思います。 こういうのが医療、医学研究における基本的な倫理原理あるいは倫理規範ということ になります。このような原理、規範の適用において、臨床医学研究と疫学研究ではやや 対応が異なっているように思います。その背後に何があるのだろうかというふうに考え たのが・なんですけれども、ICの要件等にどう影響するんだろうかということを次に 見ていきたいと思います。 まず第1は被験者の数的側面であります。個人に焦点を定めて研究を行うのが臨床医 学研究、集団に焦点を定めるのが疫学研究というふうに分けていいんだろうと、まだよ く勉強しておりませんけれども考えております。間違っていたらまた御訂正いただきた いと思います。 それから手法ですけれども、疫学研究の方は介入はないわけではない。先ほどの田中 先生の御説明にもありましたが、ないわけではないのですが、観察研究の比重の方が高 いのではないかということです。それに対して、臨床医学の研究の方は介入研究の占め る割合が高い。 それから3番目に危険についてでありますけれども、Bの手法との関係もありまして 疫学研究では危険が小さいものが多いのに対して、臨床医学研究は危険が大きいものも 含まれ得るというふうに違いがあると思います。これらのものが倫理原則にどう影響す るか、今後ここで勉強させていただいてガイドラインの策定に使わせていただきたいと 思います。 最後に1つ、最近少しこういうところの勉強をしまして感じたところを、 テンタティブな形でありますけれども述べさせていただきたいと思います。それは疾病 登録についてなんですが、レジュメは何もないんですけれども、疾病登録は基本的には 本人同意が必要だというふうに考えております。がん登録は同意なくなされているよう なんですけれども、私自身は望ましい在り方としましては難病ですね。特定疾患の治療 研究事業における医師の診断書、臨床調査個人票でありますけれども、その研究利用に ついて書面での同意取得が平成11年度より求められております。あのようなものが望ま しい在り方として考えられるのではないかというふうに思っております。 もっともこの特定疾患治療研究事業ではこの同意書が医療費公費負担の申請書の裏に 付いていたり、そうでなくても申請時に同時に提出するものとされておりまして、同意 しないと公費負担を受けられないよ、公費負担が認められないよという印象を与えてい ることがあります。これは不適切であるというふうに思いますけれども、臨床調査個人 票の自分のデータを見た上でそれがどのように使用されるか説明され、その上で同意を 与えるという平成11年度以降のやり方はモデルとされてよいのではないかと思います。 がん登録において同意がとられない理由として、全数調査の必要性に加えて病名告知 が行われていないことが挙げられておりますけれども、特定疾患の中にはALSとかハ ンチントンコレアなど、がんに劣らない深刻な病気が含まれております。そういうこと を考えるのと、同じことをがん登録でやれないことはないんじゃないかというふうに考 えております。 以上、とりあえず医学、医療研究における基本的な原理原則と疫学研究について多少 考えましたところを述べさせていただきました。 ○高久座長 どうもありがとうございました。今の丸山委員のお話についてどたなか御質問をどう ぞ。 ○大島委員 このBの4番のところでインフォームド・コンセントについて、先生はたとえ大きな 利益が得られることであっても人は資産、道具とされるべきでないのでインフォーム ド・コンセントは必須であるというお考えをお示しになったわけですけれども、先ほど の堀部先生のこの中間報告では個人情報の利用と保護の必要性のバランスとおっしゃっ ているわけですね。私は、このバランスという考え方はこの3番のところで利益と不利 益の良好なバランスというのが挙がっていますが、インフォームド・コンセントは絶対 侵してはならない倫理規範であるということになりますと、後の議論が非常に難しいと ころが出てくるかとは思うんですけれども、そのバランスといった場合、つまり個人の 情報、自己の情報をコントロールするという意味でのプライバシーを損なうということ を一つの不利益と考えて、利益との間でバランスをとるという考え方は先生はおとりに ならないわけでございますか。 ○丸山委員 この3番目のところのバランスというのは個別的な不利益でありまして、そこではと らないんですけれども、インフォームド・コンセントにつきましては疫学の場合は先ほ どもちょっと出ておりますが集団相手ということがありますのて、そのとり方の調整は あるかなというふうに思います。あるいは、同意がとられなくても非常に研究の内容が 社会に周知されているということであれば、それを社会的な同意というふうに見る余地 もあるかと思いますが、そういうふうに周知されていても自分は嫌だ、対象とされるの は嫌だという人については、やはり対応を考えないといけないかなというように考えて おりますので、その辺りは全数調査の理念と衝突するとどう考えるのかなと今、検討と いうか、考えているところです。 ○大島委員 そうすると、先ほど先生はインフォームド・コンセントについては重要なことで侵し てはならないということでしたが、必ずしもそうではなくてまだ調整の余地があるとい うふうに考えてよろしいんですか。 ○丸山委員 ですから、厳格な意味でのインフォームド・コンセントをすべての場合にというのは 難しいかもしれないんですが、とにかく人に対しては何をやっているというのを把握し てもらって、異議が出ない、あるいは賛同してもらうということは必要じゃないか。そ れを確保する仕組みが取られておれば、狭い意味での説明同意の要件、個別的な説明同 意の要件は満たされなくてもいい場合があるかもしれない。まだよくわからないんです が、そういうふうに思っています。 ○高久委員長 具体的なことについては今後いろいろと今後議論をしていただくことになると思いま す。確かに難病のときにはいろいろな調査をやりました。特に患者さんのデータを集め るということを随分やりましたから当然インフォームド・コンセントは必要だと思いま す。ただ、こういう種類の患者さんが何人いてというのまでは要らないかなとは思って いました。例えば、食道がんが何人いて胃がんが何人いてという数を集めるだけで。そ ういう統計もやはりインフォームド・コンセントは要るのですか。単なる統計ですね。 例えば難病でもALSの人が日本で何人発生をした。あるいはほかの難病が何人いると いうデータはずっと出ておりますが、そこまではインフォームド・コンセントは要らな いんでしょうね。あなたの病名をワン・オブ・ゼムとして報告しますよということにつ いては要らない。 ○丸山委員 アイデントファイヤーが付いていないものについてはインフォームド・コンセントの 必要はないですけれど、がん登録の場合、当初個人識別というか、アイデントファイ ヤーを付けて登録されますので、その点をどう考えるべきかということはあります。 ○高久委員長 いろいろ御議論はあると思いますが、今日は主として勉強会というような形になりま した。最初に申し上げましたように丸山委員の方でワーキンググループをつくっておま とめいただきまして、その案についてまたいろいろ御議論願いたいと思います。 事務局から報告があるというふうに聞いていますので、どうぞ。 ○事務局 初めに、先ほどの御議論の中で厚生省は個別例外分野における法案対応をどう考えて いるのかよくわからないという御指摘がありましたが、何がしかの形で少なくとも医療 情報保護をきちんとする法律が必要だろうという認識をしております。昨年の12月でし たでしょうか、患者情報が固有名詞付きで売り買いされているという新聞報道が出され ておりましたが、ああいった問題に対して患者情報がきちんと守られるための法律的な 対応、ただ一方におきましては統計あるいはこういった調査物の関係で厳格な利用と、 先ほど堀部先生からお話がありましたように適切な利用のために基本法の枠の中で許さ れる範囲と、基本法でできない範囲がどのくらいあるのかないのかといったこともなが めながら個別法対応でそれぞれの法律、個別の現在厚生省で所管しております保健婦助 産婦看護婦法ですとか資格法的なもの、あるいは箱物的なところで対応すれば済むのか 基本的な一本の法律が必要になるのかということを両方にらみながら検討を進めている という状況でございます。したがって、今回こういう審議会、専門委員会を設けさせて いただきましたのは、そういった問題も一応念頭に置いてどういうところにその軸足を 置いたらいいのかということを御議論いただければと思っております。 それで、連絡でございますけれども、第2回の専門委員会の開催でございますが、4 月中旬を考えております。また、3回目以降の日程につきまして、先ほど冒頭に申し上 げましたように配布しております日程調査表に御都合のよい日時をお書きいただきまし て4月5日までに事務局でございます厚生科学課に御提出をお願いいたしたいと思って おります。その結果、委員の先生方の日程を調整させていただきまして、後日開催につ きまして御案内させていただきたいと思っております。事務局の方からの連絡は以上で ございます。 ちょうど時間になりましたので、第1回目の専門委員会を終わらせていただきます。 田中委員、堀部委員、丸山委員、御発表をどうもありがとうございました。次回からも よろしくお願いいたします。ありがとうございました。 (了) 問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課 担 当 宮本(内線3804) 電 話 (代表)03-3503-1711 (直通)03-3595-2171