00/03/27 生殖補助医療技術に関する専門委員会(第13回)議事録 厚生科学審議会先端医療技術評価部会 生殖補助医療技術に関する専門委員会                (第13回)                 議事録 厚生省児童家庭局母子保健課 厚生科学審議会先端医療技術評価部会 生殖補助医療技術に関する専門委員会(第13回)議事次第 日 時 平成12年3月27日(月) 13:30〜16:30 場 所 厚生省 第3会議室 1 開 会 2 議 事 (1)精子、卵子、受精卵の提供等について (2)その他 3 閉 会 〔出席委員〕                                    中 谷 委員長   石井(ト)委員  石井(美)委員  加 藤 委 員 高 橋 委 員 辰 巳 委 員 田 中 委 員  丸 山 委 員  矢内原 委 員 吉 村 委 員 ○武田主査  定刻になりましたので、ただいまから、第13回厚生科学審議会先端医療技術評価部会 生殖補助医療技術に関する専門委員会を開催いたします。  本日は大変お忙しい中、先生方にお集まりいただきましてありがとうございます。  本日は委員の先生方、全員御出席をいただいております。  それでは、議事に入りたいと思います。中谷委員長、議事進行よろしくお願いいたし ます。 ○中谷委員長  きょうは暖かくて大変いい陽気ですけれども、花粉症の人は大変でございます。私も 花粉症か何かわからないのですけれども、のべつ鼻汁が出て大変お見苦しくて申しわけ ありません。風邪気味でもございますので、うまく議事の進行ができますかどうか、ど うぞ皆様の御協力をお願いいたします。  議事に入ります前に、事務局から本日の資料の確認をお願いいたします。 ○武田主査  それでは資料の確認をさせていただきたいと思います。  クリップでとめてある資料でございますが、1枚目は「議事次第」でございます。  次に、2つ目の資料、資料1とナンバーを振ってある資料でございますが、こちらは 前回も提出させていただきましたが、今回の議事1の「精子、卵子、受精卵の提供につ いて(たたき台)」でございます。本日は5番の「遺伝的な親を知る権利について」か ら御議論いただくことになっております。  次に参考資料1とナンバー振ってある資料でございますが、その後、インターネット で寄せられた国民の方からの御意見でございます。  次に机上配付資料でございますが、以前、当委員会におきまして福武先生から日弁連 の議論ということで御報告いただきましたが、それが日弁連で取りまとめられまして、 本日公表されております。日弁連から厚生大臣あてに提言を正式にいただきまして、母 子保健課にも御報告いただいております。この説明につきましては、日弁連から、先生 たちの御要望があれば、次回以降御説明したいという申し出もありましたので、その辺 もきょう御協議いただければと思っております。それが資料1、資料2、日弁連の「生 殖補助医療技術に関する法的規制に関する提言」の資料でございます。  最後に先生方にお配りしている資料が、前回の当委員の「議事録」でございます。  資料は以上でございますが、中谷先生から、黄色い冊子で、産婦人科の世界の『医学 の進歩と医の倫理』を回覧するように申しつけいただいておりますので、どうぞ御回覧 いただくようお願いいたします。  それから、高橋先生から、今ちょっとコピーをしておりますが、日母の方の中絶に関 する母体保護法改正に関する提言のコピー、それから、生殖補助医療技術に関する施設 の管理の資料をいただいておりますので、そちらもお配りいたしますのでごらんいただ きたいと思います。以上でございます。 ○中谷委員長  それでは、先ほどの武田主査からのお話にもありましたように、今回は前回第12回の 継続ということでございますので、議事1の「精子、卵子、受精卵の提供等について」 に入りたいと思います。資料1に、「精子、卵子、受精卵の提供についての(たたき 台)」が示されておりますので、それをごらんになりながらでも結構でございますが、 どうぞ御活発の御意見を承りたいと思います。 ○丸山委員  前回4まで終わったということで、きょうは5からということなんですか。 ○中谷委員長  まだ議論が尽くされてなくて、この点はどうかという点がおありでしたら、おっしゃ ってくださって結構ですが、何か丸山委員から。 ○丸山委員  最初からもう一回逐次やるのかなと思いまして、それだけなんですが。 ○中谷委員長  一応前回の継続という形で考えておりましたけれども、加藤委員何か。 ○加藤委員  日弁連の資料が結構わかりやすくておもしろいですね。 ○丸山委員  始める前に今配られた資料の御説明をいただいたらいかがでございましょうか。 ○中谷委員長  どの資料ですか。 ○丸山委員  日母の提言ともう一つ。 ○田中委員  日産婦の理事会の資料ですね。 ○高橋委員  理事会資料、これは吉村先生が御存知じゃないでしょうか。 ○中谷委員長  そうですね。 ○吉村委員  これは倫理委員会で出ました資料ですが、「生殖補助医療の実施施設の設備条件と実 施医師の要件について」、要するに実施施設の具備すべき要件を一応決めたということ です。登録の方法、審査の方法を具体的に書いてあるものでございます。実施医師に関 しても要件がなかったのですが、実施医師の要件を設けたということです。  具備すべき施設の要件に関しましてはもう少し詳しいものがあるのですけれども、こ れは理事会に出された資料でありまして、医師にはどのような経歴が必要であり、施設 はどういうものを具備してなくてはいけないか、というようなことを決めた要件が一応 倫理委員会から理事会に出されたということで、参考資料程度で問題ないと思います。 ○中谷委員長  これは日本産婦人科学会で決定されたわけですか。 ○吉村委員  まだ理事会に出されただけで、今度、先生、学会でやるのですね。 ○矢内原委員  そうですね。 ○高橋委員  会告に出す。 ○吉村委員  会告というか、お知らせになると思うんです。 ○中谷委員長  そうしますと、今までこういう条件を満たしてないけれども、既に登録し実施してお られる施設等ありました場合はどうなるのですか。 ○吉村委員  今、再登録を全部やり直しておりまして、資料を見ながら再審査してオーケイだとか オーケイでないとかというふうになるだろうと思います。 ○中谷委員長  既に登録実施している機関はそのまま認めるというわけではないんですね。 ○吉村委員  はい。 ○中谷委員長  わかりました。それでは、高橋委員から日母の関係を。 ○高橋委員  きのう(26日)日母の全国代議員会が開かれまして、そこでお配りしましたこの「日 本母性保護産婦人科医会提言 女性の権利を配慮した母体保護法改正の問題点−多胎減 数手術を含む−」が審議されました。  以前、先生方に、ほぼ同じような内容のものを配付して御参考にしていただきました が、その中で、このたび新しく変えたところは、例えば2ページ「配偶者の同意」とい うところがありますが、前は「最終的には女性本人の意思を優先するのが望ましい」、 そういった希望的な言葉を入れて表現していたのですが、それを「優先する」と、すっ きりした表現にしてあります。そういうところが変わったところで、内容は同じだと思 います。 ○中谷委員長  妊娠12週以上の人工妊娠中絶の適応条項についても同じですか。 ○高橋委員  同じです。 ○田中委員  未成年の場合は両親の同意ということですね。 ○吉村委員  「配偶者の同意」の(4)ではないんですか。 ○高橋委員  そうですね。「親権者あるいは法定代理人の人工妊娠中絶に関する同意を必要とす る。」 ○田中委員  15歳以上であればよろしいわけですか。 ○高橋委員  ここのところで、18歳とか15歳とかいろいろ議論があったのですが、最終的には15歳 臓器移植の場合と同じ年齢で決められております。 ○中谷委員長  人工妊娠中絶の傾向から申しますと、一時に比べて随分減ってはいますが、10代の場 合は数が増えているんですよね。 ○高橋委員  そうですね。 ○中谷委員長  そういう意味で問題になるわけですが、15歳未満ということは14歳までなんですけれ ども、この場合は親権者、法定代理人の同意を必要とするということで。 ○田中委員  15歳以上であれば、本人の意思があればいいということですね。 ○石井(ト)委員  何か法的な事故でくくるというのであれば、民法での婚姻年齢は16歳ですね。 ○中谷委員長  そうですね。 ○石井(ト)委員  もう一つは、実態として、田中先生がおっしゃっていましたけど、いろいろと問題で すよね。年齢的には10代といえどもローティーンですから。 ○田中委員  15歳というと中学3年ですか。 ○石井(ト)委員  そうです。 ○田中委員  中学生の妊娠、時どきありますから、高校1年ぐらいですか。ふらっと来て依頼を受 けたら処置していいわけですね。 ○高橋委員  高校1年生からですね。これはあくまで提言であって、母体保護法は議員立法でつく られている法律ですので、これは議員立法の形でお願いすることになると思います。そ の段階でまた訂正はあるのではないでしょうか。 ○中谷委員長  15歳という年齢はもともとは遺言可能年齢というので15歳以上、それがもとで臓器移 植の方もそれになったわけですけれども。 ○矢内原委員  何か根拠があるんですか、15歳の。 ○高橋委員  臓器移植の年齢が15歳。 ○中谷委員長  それにならったわけですか。 ○高橋委員  そうです。 ○母子保健課長  IIIの「妊娠12週以上の人工妊娠中絶の適応条項」、これも以前のものと変わりまし たよね。「社会的理由」とされていたのを一切落としておられます。 ○高橋委員  そうですね。公開討論会を開いたときに、いろいろな団体から厳しい注文や声が寄せ られました。「社会的理由」でどんどん手術をされるのでは困るという表現の抗議のよ うな意見も出されまして、それで一部変えたところがあると思います。 ○中谷委員長  比較法的に見ても12週というのはあれですけれども、大体日本の経済的事由というの がひっかかったので、社会的事由であればというのを認めるのが一般のような気がしま すけれども、それも何も要らないのですね。 ○高橋委員  或る団体の方からは、社会的理由といって手術するのはけしからんと言って大騒ぎに なったのです。経済的理由よりも社会的理由で抹消されていくのは耐えられないという ような抗議がその場でありまして、会場が一時騒然となるようなやじが飛んだこともあ りました。 ○石井(美)委員  胎児条項を入れることに対する反対だったと思ってました。 ○中谷委員長  それなら理解できるんですか。 ○石井(美)委員  胎児条項はあの時点では削除されていて、それにかわって社会的理由が使われること に対する危惧は言われていたと思うのですが、そんなに強い反対があったという印象は ありませんでした。この案を限定的に読めば、今より中絶ができなくなるということで 女性団体から今度逆に反対があるのではないでしょうか。 ○中谷委員長  胎児条項とか着床前診断などになりますと、かなり問題になるだろうと思いますけれ ども、そうでなければ、私はそういうものを認めるのは余り問題が多いようには…。 ○高橋委員  当初の提言には胎児条項が盛ってあったのです。しかし反対が非常にありまして、公 聴会のときには胎児条項は取ったのです。さらにいろいろな抗議が文書で寄せられてき まして、このような形で提言しようということに、きのうの代議員会で承認されまし た。あとは厚生省の方に。 ○加藤委員  これをまともに守ったら、ほとんど適応例はなくなるのではないですか。 ○高橋委員  どうでしょうか。 ○石井(美)委員  12週以前にかなり限られるのではないですか。 ○丸山委員  12週未満ということになりますと、羊水診断で出生前診断ができなくなるというか、 出生前診断は出生を選択することもあり得るということでなされていますけど、現実に は中絶を選ぶ人も少なくないような状態で、これだと絨毛だと辛うじてできるというこ となのでしょうか。羊水だとできない。 ○吉村委員  羊水はできないですね。 ○丸山委員  これで現場は動くものなんですか。 ○吉村委員  この「母体の健康を著しく害する」というところに全部入れるんですか。 ○丸山委員  母体の健康の概念としてWHOの広めの概念を挙げられてますので、ここでおさめる ということでよろしいのでしょうか。 ○吉村委員  先生、前の案では「社会的理由により」というのが入っていましたね。 ○高橋委員  「社会的」は入っていました。 ○吉村委員  「経済的」も入っていましたか。 ○高橋委員  入っていました。 ○母子保健課長  経済的要素として社会的。 ○吉村委員  社会的ですね。私が言っているのは1次提案、前の提案では「社会的理由」でした か。 ○高橋委員  そうです。 ○中谷委員長  精神的及び社会的。 ○石井(ト)委員  健康の概念をWHOの定義では、身体的、精神的、社会的というような感じになりま すが、例えば分娩だけ見ますと、合併症を持った方だとか、そういう方には妊娠継続す ることによって、母体に著しく害があるという形でとらえますね。ですから、健康の概 念を含めるということになるとかなり厳しいという感じがします。 ○加藤委員  これは結局人工妊娠中絶の理由として、今までの「経済的」とか「社会的」とかとい う言葉を取り去るかわりに、スピリチュアルな理由でという言葉を加えたのと同じこと になるのではないでしょうか。 ○高橋委員  とりようによってはそうかもしれません。 ○田中委員  実際は羊水診断がかなり行われているということは、異常があれば中絶したいという のが前提だと思います。異常があっても産みたいという方は羊水診断しないのが現状で すから、羊水を採って結果を早く知りたいという方の希望は、これからも患者の選択の 1つとして必要なことと思います。これをごく少数の反対意見があるがために、それを できなくするのは間違っていると思います。いつも思うんですが、着床前診断にしても 何にしても、反対意見があっても当然のことと思います。ただ、反対する人の意見が、 学会ないしは法的なものをつくる人の意見を変えるまで、どうしてもそこまで力がある のか、また、なぜそうなるか全く理解できないです。反対する人の立場は尊重しますが 受けたいという人が治療を受けなくなる、禁止されるということは、現場の人間として 全く理解できないです。  どうして自分たちがそういう子を産みたくないという患者さんの希望を禁止すること ができるのか、それを聞きたいですね。そういう人たちが目の前にいて、学会の規制で 検査ができませんということはとても言えません。多分黙ってやるようになると思いま す。言葉の上でのそういうやりとりはあっても、本質的には何も変わらないような気が します。もっと強く言ってどうなんでしょうか。  世界的に見て、羊水診断を禁止するような国は多いのでしょうか。異常があった場合 には、中絶をやってはいけませんよということが一般的なこととして受け止められてい る国というのはあるのでしょうか。どうでしょうか。 ○中谷委員長  よくわかりませんけれども、これは日母の提言ですから、日母の提言として、この専 門委員会のワーキンググループの方たちに中間の提言、また最終的な報告書をまとめる ときの提言はまた別ですから、そのワーキンググループの方たちで、また十分に検討い ただいたらよろしいのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。それでよろ しいでしょうか。                (「はい」の声あり) ○中谷委員長  どうもありがとうございました。  それでは、丸山委員から、前回の続きというのはどうもという御意見があったんです ね。 ○丸山委員  前回の続きで5番目から順次進めたらいかがと思うんですけれども。 ○中谷委員長  よろしいですか。 ○石井(美)委員  今は是非については論じてはいないのですね。後で論じるのですね。 ○中谷委員長  どうぞ、御自由に御発言いただきたいと思います。いかがでしょうか、どなたでも、 石井美智子委員いかがですか。 ○石井(美)委員  遺伝的な親を知る権利を保障する必要はあると考えます。これは遺伝的な親が法的な 親にならないという場合に遺伝的な親を知る権利だと思います。それをどうやって確保 するかというのは大変難しい問題で、1つは知りたいときに知ることができるというこ とがあります。親が子供にそういう形で生まれたことを知らせなくてはいけないという ことまでは言えないだろうと思います。子供が何らかの形で、自分がそういう形で生ま れたことを知ったときに知ることができるということを保障するという形にとどまる。 それでもどこまで知らせるのか。実名、どこのだれかまでを知らせる必要性があるのか どうかという点は、そこまで保障してしまうと提供者が得られないのではないか。  実際に提供者がいないと、今度はお金で提供してもらうという形の提供者確保という 形になってしまう可能性がある、それよりは、アイデンティティーまでは知らせない形 で提供者を確保するという兼ね合いを考える必要が出てくるのかもしれない。基本的に は提供者のすべての情報がわかる方がよいだろうとは思いますけれども。 ○中谷委員長  ほかの国は匿名性がかなり認められているし、ある程度オープンにしても本当に特定 できるような形での生物学的な親を知らせることはしないわけですが、日本の場合は親 族間の提供を歓迎するのがありますね。これはほかの国にはなく日本の特徴ですね。そ うなりますとはっきりとした生物学的な親、ドネーションの場合のドナーはわかります ね。だけど、その場合に、ドナーは子供との間には法的な親子関係はないということを 確立しないといけないわけで、だからドナーから、自分の提供した配偶子によって生ま れた子に対し、自分が親だよ、と言うことはできないということは確保されなければい けないと思いますが、そのほかの点ではいかがでしょうか。  日本では妹さんの卵子を提供してもらい、夫との胚をつくって体外受精で生まれたと いう御報告がありましたね。そういう場合に非常に複雑な関係があると思いますが、委 員の先生方は親族間のそういうドネーションを歓迎されますか。根津さんはそれをやっ てらっしゃるわけですが、一般的にどうなんでしょうか。日本は非常に特徴的でほかに はまずないことです。 ○加藤委員  いろんな理由があるわけでしょう。少しでも血のつながりがある親子の方がいいとい う考え方で、例えば養子縁組する場合でも親戚関係の人から養子縁組をする、そういう 考え方のつながりでということがありますね。  もう一つは、今みたいに、例えば提供者のプライバシーが十分保護されないという状 況になると、よほどよく事情を知っていて、同情してくれる人でなければ提供者がいな いという事情もあると思うんですね。必ずしも血縁から提供者を得るという考え方が血 のつながりを求めるという考え方と結びつくとは限らないのではないか。妹さんが提供 した場合でも生まれた子供に対しては自分が本当の親だということを知らせてほしくな いという気持ちで提供している可能性はかなり高いと。 ○中谷委員長  実態はわかりませんのでね。 ○加藤委員  事実上はわかりませんけれども、提供した人が、自分がこの子の親であるということ は知られたくないという気持ちで提供しているのだとすると、その気持ちを保護する必 要はあるのではないかと思います。 ○中谷委員長  それならいっそ養子という形にした方がいいのではないかとも考えられますけれども ね。 ○加藤委員  養子だとだれの実子だとすぐわかるんですね。 ○石井(美)委員  普通の養子の場合は、実親も法律上の親ですので誰が実親であるかは戸籍上わかりま す。特別養子の場合は実親は法的には親ではなくなりますが、戸籍をたどることで誰が 実親であるかを知ることはできます。 ○中谷委員長  特別養子の場合は別です。 ○加藤委員  例えば近親婚を避けるために本当の親を知りたい、あるいは重大な遺伝病の疑いがあ って、そのために親の病歴を知りたいといった特別な意味があった場合にのみ情報を提 供するという可能性も考えられるわけですね。一般的な意味で知る権利があるというの ではなくて、特別な重大な利害が絡んでいる場合に限って知る権利が発生するという考 え方もあり得ると思うのですけど。 ○中谷委員長  そうですね。 ○石井(美)委員  そうしますと情報開示は家庭裁判所等が関与して理由がある場合に認める。 ○加藤委員  だれが認めるかはまた次に問題になりますけれどもね。 ○中谷委員長  それを管理というか、許認可の機関というものがどうか、産婦人科学会がいいのか日 母がいいのか、全く独立の公的な機関がいいのかということはこの委員会で検討してい かなければならない問題だろうと思います。 ○矢内原委員  今の前提は、例えば親戚であっても知られたくないというのが前提ですよね。逆に言 えば、知ってしまって、提供者は少なくとも知っているわけですね。 ○加藤委員  提供者でも、あの子がおれの提供だということは知らないのでしょう。 ○矢内原委員  親戚の場合。 ○加藤委員  親戚の場合はそうですね。 ○矢内原委員  知らないということを前提にしていますけれども、最も知りやすい相手ですよね。少 なくとも提供者は目の前にそれが育っていくのを知るチャンスはすごく大きいわけです ね。それの方が全く知らないでいるより、匿名性という意味では保たれるし、知っては いけないということを守るのは非常に無理なのではないか。その子供に知らしめないこ とは難しいと思うんです。  確かにドナーはきっといなくなると思いますが、当然知ってしまうことを前提にしな いと、親族からの提供ということはあり得ないと私は思います。 ○吉村委員  「遺伝的な親を知る権利」という5番目の項目ですが、ここにおいては恐らく3つの 権利がいろんな意味で交錯してくると思うんですね。子供から見ると出自を知る権利。 非配偶者から体外受精を受ける親としては、それをやったことを知られたくないという 権利がありますね。もう一つは、ドナーに関しては、私がドナーであるということを知 られたくないというドナーの匿名性の権利、この3つが兼ね合ってくるということです ね。  遺伝的な親を知る権利はその3つを考えていかないと、例えばこういうときにはこち らが優先するとか、こういうときにはこちらが優先するということを考えていかないと ただ単に子供が知りたいから知らせていいという問題ではないような気がするのですが どうでしょうか。 ○田中委員  吉村先生の意見に私は賛成です。聞いていますと、子供の出自を知る権利とドナーの プライバシーを守る権利がイーブンのように聞こえます。すなわち知る権利と守る権利 が同じウェイトなのでしょうか。私は匿名性が守られなければドネーションは成り立た ないと思います。ですから原則的には匿名性を優先して、医学的に緊急な事態が発生し た場合、例えば病気が蔓延するとか、第三者に危害が及ぶ場合にのみ、ドナーのオリジ ンがわかるというのはいいんですが、いかなる場合にも子供に出自を知る権利があると なりますと提供者がいなくなると思います。  この治療が成り立っていく上には匿名性を守るということを患者さんに強く保障して あげないと提供は期待できないと思います。 ○中谷委員長  今は世界的な傾向として、生物学的な親を知る権利を法律で保障している国もあるし 法律にはしなかったけれども、判例上それを憲法裁判所の判例で認めているというよう な時代ですから、今の御議論だと通用しないのではないかと私は思います。 ○田中委員  そうすると場合によっては、ドナーに対して、あなたがたのプライバシーは100 %守 れませんよと言わなければいけませんよね。インフォームド・コンセントとるときに。 ○中谷委員長 それはインフォームド・コンセントできちんと。 ○田中委員 当然ですね。 ○中谷委員長 はい。 ○田中委員 そういう人はなかなかいないと思うんですよ。いいですよ、どういう状況あっても、 私は名乗りをあげていいですよという人はいないのではないですか。 ○石井(美)委員 法的には親として責任は問われない。 ○田中委員 そうですね。 ○矢内原委員 だから、かえって数が大きいのではないかと思うんですね。 ○中谷委員長 もう一つは、卵子の提供の場合でも、排卵誘発剤を使った場合は、余分な卵子があり ますよね。それをシェアリングということはお考えになっていますか。 ○吉村委員 考えているのですが、ただ、理論的には、例えば20個採れました。だから5個は要り ませんから、これはボランティアで寄付しましょう。そういうふうにして皆さんお考え になるのですが、現実面として、例えばその患者さんが受けた場合に、私は20個も採れ たのだから5個あげますよという方は私は現実面としておられないと思います。 ○中谷委員長  そうですか。 ○吉村委員  それはなぜかと申しますと、例えば20個のうち10個受精しました。受精したら、それ は自分の胚で御主人と受精させているわけですから、それは他人には使えませんよね。 最終的に10個を何回かに分けて移植したけれども、やはり妊娠しませんでしたといった 場合に、ああ、あの5個を残しておいたら必ず妊娠したかもしれないと思われるのが普 通の患者さんだと思うんです。だからそのシェアは難しいのではないかと思います。た だ、それができるようになるためには、ある程度未受精卵の凍結がうまくいくようにな って、1回の周期の卵子を使って妊娠できたと。そしたら、妊娠しましたから、この残 りの卵はあげますよと言って、未受精卵を凍結したのを融解して他人に使っていただく 方はたくさんおられると思うんです。 ○加藤委員  その技術開発の見込みというのはないんですか。 ○吉村委員  今少しずつできていますけど、なかなか難しい。10年ぐらいたつとできるかもしれま せん。 ○中谷委員長  イギリスでは卵の提供ですが、排卵誘発剤を使ったときに、使うのが3個か2個だか ら、余分のものは提供してくだされば、生殖補助医療の医療費を減額するか、あるいは お金をそれ以上に出すというので選択をさせるというようなことが提案されているんで すが・・・・・・。 ○吉村委員  私は本当にそういうことができれば非常にいいと思うんですが、現実面として、患者 さんが余剰卵として認識できる状況、つまり妊娠するまで余剰卵だったと言い切ること は非常に難しいのではないかと思うんです。ですから、それは欲張りの話なのかもしれ ないけど、せっかく採取した自分の卵ですから、自分の受精のために使いたい。それま で不妊でずっと3〜4年ないし5年悩んできた人が、自分が妊娠するかどうかわからな いのに卵あげますよということは、女性として、そういうことができるのかなというの が私は非常に疑問なのですが。 ○石井(美)委員  そもそも20個も採卵できるような誘発剤の使い方というのには問題はないのですか。 ○吉村委員  そういうことはないと思います。多のう胞性卵巣症候群の人だったら、20個採れても それは別に20個採れたからいけないとか、そういう問題ではないと私は思います。若い 方は多数の卵を採取できますし、高年齢の方は4個ぐらいしか採れないし、それは年齢 的なファクターもあります。20個採れるから、そもそも排卵誘発はおかしいのではない か、ということは当たってないと私は思います。 ○矢内原委員  排卵誘発でなくて妊娠させようというときにはなるたけ少なく、だけど、体外受精の ときにはなるたけたくさん、1回で済みますから採っておいてあげようと。あと胚を凍 結しておいてあげましょうということです。 ○吉村委員  普通の体外受精するための手段でなかったら、20個も発育させる、そういうやり方は まずいですよ。それは先生のおっしゃるとおりだと思いますけれども。 ○中谷委員長  例えば、20個排卵があったとしますと、その後、排卵誘発剤を使用することはできな いんですか。 ○吉村委員  そんなことないです。 ○中谷委員長  だから、そのときはそのときで処理するという可能性があるように、私には思われる んですけれども。 ○田中委員  その話は、この前、Bourn Hallの先生が来られたとき、最後におっしゃいましたね。 ボーナス制度とかなんかおっしゃってました。そのシェアリングの話は私は可能性ある と思います。というのは、自分のとれた卵を少しボランティアとして誰かにあげてくだ さいと言っても誰も賛同しないでしょう。しかし、例えば治療費を全部カバーします と。あなたの治療費を、20個採れて中から5個提供した場合、その方があなたの治療費 をカバーすると言えば交渉が成立すると思うんですけど。 ○中谷委員長  イギリスでその提案があるわけです。 ○加藤委員  幾らぐらいカバー。 ○田中委員  その人の治療費全額持てばいい。 ○加藤委員  全額というと、例えば幾らぐらいになるんですか。 ○田中委員  当院では20万です。大体日本が平均が30万ぐらいでしょう。30万全部カバーすると言 えば、提供卵を確保することは可能でないかと思います。 ○中谷委員長  死体から採った卵子を提供してもらうとか、あるいは中絶胎児の卵巣の未成熟卵を提 供してもらうよりはるかにいいですよね。 ○田中委員  前者の話は医学的にまだめどが立ってないと思います。卵子の場合は。 ○丸山委員  出自を知る権利に戻ってよろしいですか。 ○中谷委員長  ほかに。 ○丸山委員  石井美智子委員の、出自を知る子の権利を認めるべきだという御意見ですね。実質的 な根拠はどのあたりにあるんですか。 ○石井(美)委員  実質的な。 ○丸山委員  あるいは理念的というか、先ほどもちょっとおっしゃったかと思うんですが、もう少 し具体的に。 ○石井(美)委員  基本的にその人の人格のよりどころとして、自分の出自を知ることが必要であるとい う考え方に立って、その子供にはオリジンを知る権利があるということだと思います。 ○丸山委員  その際に遺伝的な親を出自に求めるというか、出産の親では不十分だということです か。 ○石井(美)委員  出産の親だけではなくて、どの程度かわかりませんけれども、遺伝が個人の形成にお いては影響する部分があるとすれば、子供がそれについて知りたいと思うことは否定で きないのではないか。どうやって生まれたかを親は子に知らせなければいけない義務が あるかということが問題になってしまう。 ○丸山委員  それも肯定されるのですか。 ○石井(美)委員  なかなかそこは肯定しにくい・・・・・・。 ○丸山委員  ARTによって生まれたのだよというのを言う義務というか、聞かれたら答えるんで すかね。 ○石井(美)委員  法的な義務とまでは言えないのではないでしょうか。それは親の育て方の問題になる という気もしますけれども。 ○丸山委員  そこを固く守秘すれば、出自を知る権利は発動されないということになりますか。ど うしても親が子供の出自、あるいは配偶子提供によって生まれたということを教えたく ない。そして提供者の個性というか属性も知らせたくないということであれば。 ○石井(美)委員  そうですね。ただ、子供が成人してから、自分はどうやって生まれたのだろうかとい うことをいろいろ調べていくうちにわかる可能性はありますね。すべての子供が逆に疑 問を持つのかもしれません。自分はどうやって生まれたのかということを。イギリスな どでは生殖補助医療技術で生まれたかどうかと、当局に聞いて知ることは保障される。 そういう形になれば、親が知らせなくても知ることになるかもしれません。 ○矢内原委員  子供が自分のオリジン、遺伝的なルーツを知りたいという疑問が起こったりなんかす るのは普通では起こりませんよね。私はおやじと似ていると言われればそうかなと思う けれども・・・・・・。 ○加藤委員  似てますよ(笑)。 ○矢内原委員  そうでなければなかなか思わないと思うんですね。実際に私は一番頻度が起こる可能 性があるのは、夫婦の離婚のときに、その問題が起こるのではないかと思うんです。そ のときに初めて子供の引き取りを拒否するというような親が出てくる、そういう頻度の 方が多くなるのではないでしょうか。 ○丸山委員  深刻な構図ですね。 ○矢内原委員  実際にAIDで生まれて、離婚で子供の引き取りを拒否した父親のケースを知ってい ますけど、やっぱりそれはそこで明らかになっちゃうんですね。ですから今の場合の頻 度のことを考えたら、一番離婚だとか何か不測の事態が起こったときではないか。  もう一つは、AID同士または提供者同士の近親婚ということをすごく心配されてい ますけれども、それは本当に数は少ないと思いますね。 ○中谷委員長  そうだと思いますね。ただ、遅発性の遺伝性疾患といいますか、ああいうもののキャ リアの場合はいろいろ問題がありそうですね。あるいはデュシェンヌ型の筋ジストロフ ィーなどの場合は、母親はそれはないと、父親についてはわからないわけだけれども、 どうして自分がそういうものを持って生まれたかというようなことで疑問に思うことが あるかもしれないし、大体出自を知る権利といいますか、そういうものを認めるのは、 ドイツではスウェーデンのように法律化しないで、憲法裁判所のたくさん同じような判 決があるんですけれども、それがあるのに対して、ある有数の学者が言うのには、こん なことを問題にするのはユダヤ狩りと同じではないか。出自みたいなものを知ること自 体がおかしいではないかということを言う人もいますけれども、本当にいろんな問題が ここにはかかわってきます。 ○加藤委員  16分の1ユダヤ人とか8分の1ユダヤ人とかという概念がありますからね。 ○中谷委員長  ありますね。 ○矢内原委員  もう一つは、これも自分が経験したというか聞いた話なんですが、全く血のつながり のない親子があって、子供に隠していた場合、親が一番最近心配しているのは何かとい ったら自分がけがをしたときなんだそうです。血液型は合わせてあるにしても、当然今 の方法で言うと、かなり親子鑑定というのは遺伝子的にできますから、そういうもので 明らかになってしまうのではないか。自分がけがをしないように気をつけて子供を育て るんですね。ある意味で余計な心配といったらおかしいですけれども、いろいろな問題 が出てくる。  根本的に、私は日本の中で匿名性や非匿名性ということの大もとというのは、こうい うART自身が一般国民にまだある偏見の目を持って見られているということだと思う んですね。例えば、私がAID児といって出てこないでしょう、日本では決して。です から、生殖医療の先進国でないということと、今までのヒアリングの中でよく勉強させ ていただいたのは日本の文化なんですね。要するに儒教思想と仏教の話は非常におもし ろかったんですけれども。 ○中谷委員長  加地さんの話も強烈でしたね。 ○矢内原委員  なるほどなと思いましたし、患者さんの動きを見ていても、何となくアンケートの中 でも実際の自分の持っている患者さんでも、治療を受けることに対する市民権を持って いる。周りもそれを特別な目で見る。ですから、その辺のところのプロパガンダという か熟度がまだみんなにないと思うんですね。ただ、全く匿名性にしてしまう以外に方法 はないのか。 ○加藤委員  子供の出自を知る権利は認めない方がいいということになるわけですか。 ○矢内原委員  いや、それは記録としてとっておいて、何かのときにはルーツをたどれば、子供は知 る権利は当然あると思います。ただ、逆に提供者の方は、提供したという記憶はあって も、そこで法律的に親としての義務を全く放棄して、遺伝的な親としても、つまりすべ ての親の権利や義務を放棄してしまう、それはないんですよということでプロテクトし てあげれば。 ○加藤委員  知る権利といっても、例えば近親婚にならないかどうかという場合には、あの人が提 供者ですということを知る必要ないわけですよね。このお2人は近親婚にはなりません ということをチェックしてもらえばそれで済むわけで、だから、その場合にはあくまで 近親婚を回避する権利があるとは言えるけれども、親の固有名詞を知る権利があるとは 言えなくなるわけですね。  だから、一番もとになるのは、この親を知る権利という中身は一体何なのか。本当に あの人ということまで知らなければいけないのか、それとも近親婚を避ける権利や重大 な遺伝病の連関について知る権利があるというふうに言えるのかによって、提供すべき 情報の内容も違ってくると思います。 ○中谷委員長  その意味では実施・医療者側の方のインフォメーションといいますか、インフォーム ド・コンセントの内容が確保されなければいけないことになるのでしょうね。 ○吉村委員  先生が言ってみえる出自を知る権利というのはそういうものではないんでしょう。 ○石井(美)委員  そうですね。 ○吉村委員  近親婚とか遺伝的な情報が得られるためのものではない。 ○石井(美)委員  それも1つはあるかもしれないけれども、それだけで足りるかどうか。 ○加藤委員  全然そういうことと無関係に、私は本当の父親知りたいと言ったら、それは知る権利 があるということになりますね。石井さんの親を知る権利からすると。 ○吉村委員  そういうことの方が強いのではないですか。 ○石井(美)委員  今の基本的な考え方はそうです。 ○吉村委員  私は出自を知る権利は保障していくことは大事なことだと思う考えなんですけれども 果たして出自を知る権利は何の権利か。皆さん方もマスコミの方もよく出自を知る権利 ということをよくおっしゃいますが、はたしてどういうようなことなのか。漠然と僕の 親だれなのか、だれでも知りたいですよね。そういうイメージなのか。あるいは先生が さっきおっしゃったような遺伝的な情報や近親婚を避けたいとか、近親婚というのはほ とんどあり得ないだろうと思うんですけれども、そういうことなのか。これはどういう 権利なのかということが我々にもわからないと、これがいいとか悪いとかということを 何となく言えなくなってくる。 ○矢内原委員  仮にその人が自分が配偶子の提供を受けて、君は生まれたんだということを仮に知っ たとしますね。そのときには知りたいと思いますか、母をたずねてでなくて、精子をた ずねて何千里というのはあり得ると思いますか。 ○吉村委員  それは非常に感能的というか、そういうものなんです。 ○矢内原委員  感情的。 ○吉村委員  感能的というのが正しいな。 ○石井(美)委員  情緒的な。 ○加藤委員  感情プラス本能。 ○高橋委員  私は吉村先生の意見に賛成です。出自を知る権利を認めても、登録のときに住所や名 前書いておいても、その後、十何年後に住所は変わっているのでフォローは実際はでき ないです。私たちが治験で薬の治療効果、3年後の副作用を調べようと思っても3年た つと3分の1はわからないです。市役所に行って、どこに移ったかを探し出すのは大変 な苦労です。ましてやそのときにドナーが住所と名前を適当に書いた場合、実際に探し 出せないことも少なからず出てくる。私も出自を知る権利は認めても、十何年後は果た してどこまで確定できるか非常に疑問だと思います。 ○辰巳委員  NHKの「地球法廷」のホームページだったと思うんですけど、そこで自分がAID によって生まれたということがわかって、その人たちが出している意見として2人の意 見が載っていたんです。1人は自分が何者かどうかわけがわからない。ぜひ、だれが親 なのかを知りたい。もう一人は、自分が乳がんの保因者ではないか、すごく心配ですと それを知りたい。だから人によって考え方が随分違うのだろうと思います。 ○中谷委員長  私はこういういろんな問題は、生殖補助医療がクライアントといいますか、子供を欲 しいと考えているカップルの期待に応えるだけではなくて、それによって独立別個の人 格を持った子供が生まれるということ。それについて医療者がどれだけ配慮をすること ができるのか。どれだけ医療を求めてきたカップルに説明をすることができるのかとい うことに帰するのではないかと思うんです。  だから、それについての御認識をきちんとしていただければ、ここにいらっしゃる委 員の方はみんなすごい先生方だから何も問題はないけれども、登録しているのが 500施 設かなんかありますよ。そこのお医者さんたちが、みんなそれについてきちんとした認 識をお持ちかどうか、具体的にそこが問題になるのではないかと思いますけれども、そ ういう点を含めて、日母か産婦人科学会の会告かなどで、登録のし直しを今度なさると おっしゃるから、そのときの要件として掲げられれば、大分よくなるような気はします けれども、いかがなんでしょうか。 ○石井(美)委員 先ほど矢内原先生が引き取りを拒否した事件のことをおっしゃったんですけれども、 差し支えなかったら、どのような事件で、どうなったのかをお話しいただけませんでし ょうか。引き取り拒否の事件というのは私初めて伺ったので。 ○吉村委員 引き取りをしたいという事件はよくありましたけど。 ○矢内原委員 引き取りをしたという症例は。 ○吉村委員 離婚をしたときに、その場合の判例は、両方が自分の子供だと言って欲しがったわけ ですね。 ○加藤委員 それは普通ですね。 ○矢内原委員 それは御主人の方が、自分の精子の子ではないからと言って引き取りを拒否した。 ○加藤委員 それは法廷で争われてそういうことになったという意味なんですか。それともそうい うことが事実上にあった。 ○矢内原委員 これはプライベートの話ですから、どこの判例であったかは。 ○中谷委員長 法廷で争われたのは1件だけありました。ただし離婚関連ではなく、不妊夫婦が夫婦 間の人工受精・体外受精を繰り返し行っても成功せず、妻が他人の精子の提供を受けて 妊娠・出産したが、ドネーションについて夫の同意を得ていなかったことから夫が嫡出 子否認の訴えを提起し、勝訴したという事例です。 ○吉村委員  それはありましたね。 ○中谷委員長  それはありましたけれども、それ以外にはないですね。 ○石井(美)委員  AIDで生まれて、離婚後に父と母と親権を争った争った事件は公表されていますけ れども。 ○吉村委員  ありますね。 ○石井(美)委員  同意した夫が拒否して問題になった事件は私知らないものですから。 ○吉村委員  私も知らなかったので、えっと思ったんですけど。 ○加藤委員  それは法廷には出てないわけでしょう。 ○矢内原委員 法廷に出てないんだろうと思います。 ○石井(美)委員  法廷に出なくても、どういう事件か。 ○吉村委員  私はあるだろうと思いますよ。それを我々は知らないだけで。 ○矢内原委員  これから私は増えてくると思います。今までの方法ではAIDしか決定する方法がな かったけれども、これからは培養試験をやって、精子の提供で生まれるとか、いくらで も方法が開発されているから、吉村先生の調査と、次に本当に自分の子供ができた症例 でないわけだから、それができたときに、その兄弟の間に本当に差別なく子供に接せら れるかどうかというのはすごく疑問だと思います。いずれその後の問題は出てくると思 います。 ○中谷委員長  親権の過程では日本は非常に独特なんですね。ほかでは結局AIDですけれども、子 供が生まれて、そのとき当然に出産した母親の夫が自分の子として受け入れてやってい たけれども、だんだん大きくなってくると、自分とは似ても似つかぬ子供になってしま う。そうするとこれはやっぱりおれの子じゃないというので、父子関係不在の訴え、あ るいは嫡出子否認の訴えかなんか出しまして、みんな夫が勝訴しているわけです。日本 ではそれはないようですね。 ○加藤委員  日本で実際そういうのを裁判にかけたら夫の勝訴というのはあるんですか。 ○中谷委員長  いや、ないと思います。 ○吉村委員  この前の症例は、妻が勝訴したということはないですか。 ○石井(美)委員  親権は母に認めましたが、父親は同意した夫とは判示してます。 ○吉村委員  具体的にこういった匿名性をある程度守りながら、出自を知る権利を保障していくこ とになると、先ほど高橋先生がおっしゃったように、かなりのずっと登録もして、ちゃ んとその人がどこへ行ってどういうふうになったかということをキャッチしていかなけ ればいけない。 ○石井(美)委員  そこまでは必要ないのではないでしょうか。提供の時点でどこのだれだったかがきち んと残っていれば。 ○吉村委員  それが出自を知る権利で、それでよろしいんですか。例えば、どこへ行ったかわから なくてもいいわけですか。 ○石井(美)委員  住所をたどっていくことによってわかるはずである。 ○吉村委員  意外とそれは結構大変です。例えばがん登録なんかのときでも、登録でその人が15年 後にどうなったか、10年後にどうなったかと見つけ出すというのはね。 ○加藤委員  石井先生はそこまで保障する必要はないとおっしゃっているんでしょう。 ○石井(美)委員  と私は思います。 ○加藤委員  出生時に栃木県の何とか市にいた吉村だれべえであるということがわかれば、それで 十分なんで、あとは御当人が調べたければ調べるし。 ○石井(美)委員  住所氏名だけではなく、どういう人であるかが本人に会いに行かなくてもわかる最大 限の情報を確保しておくということだと思います。 ○吉村委員  その程度だったら普通の機関でもできるかもしれないですね。ただ、私はずっとたど ったいかなくてはいけないということであるならば、とてもじゃないけれども、民間の 医療機関では無理だと思います。 ○矢内原委員  スウェーデン、70年間というのは国家がそれを持っているんですか。 ○中谷委員長  医療施設。 ○矢内原委員  その施設がですか。70年続くという、例えば個人的な場合だったら、医療施設という のは非常に難しい。 ○中谷委員長  その子供が成長して判断力がついたときに申請すれば、それに答えるということです から。 ○矢内原委員  いや、保存する側です。 ○中谷委員長  カルテ保存義務はそれだけあるということですね。 ○矢内原委員  例えば、私が自分の医院を持っていてつぶれたとしますと、医院が消滅するわけです ね。そのときにその記録はどこに、もうそこにないからいいんですか。 ○中谷委員長  しようがないでしょうね。 ○加藤委員  それはどこかの医院に預けるとか。 ○中谷委員長  国がそれをちゃんと保障しなければならないようになってますから。 ○矢内原委員  そこなんです。根津先生がもし子供の引き取りを拒否することがあったら、おれが育 てると。おれがだめだったら女房に言っておくと。女房がだめだったら娘、娘がだめだ ったら、娘が5人もいるから、次々に、その孫にまでいくかもわかりませんけれども、 仮にの話ですよ。1人の他人、ある意味では他人ですね、自分の患者でも。もしそれが 一番世話のかかる子であった場合には、家庭の中では我が子でも大変なのに、そういう のは非常に非現実的な、男の見栄じゃないけど、開き直りの言い方だと思ったんです ね。それは実際に書いてありましたから。ですから何か公的な機関が匿名性にするよう な、記録を残すにせよ、継続するところでないと無理ではないか。 ○中谷委員長  そうだと思いますね。 ○矢内原委員  スウェーデンの場合の70年間というのは、国家が置いておくのか、国家でなければで きない。 ○中谷委員長  それが個人的な追跡ができないような場合には国の方で支援をするというふうになっ ていますからね。 ○矢内原委員  慶應義塾大学が消滅したときにはどうなるの。 ○吉村委員  慶應義塾大学が消滅したらなくなりますけど、これは今から20年、30年たってもだれ だということは今はわかります。この5年前からすべてずっとわかるようにしました。 裁判所が、もしだれですかと聞かれたら、これは提示しなくてはいけないですね。保障 はできているんですけど、ただ、このときに問題なのは、ドナーさんに対して、あなた そういうときには出自を知る権利があって行使されることがありますよということをま だ言ってないんです。 ○石井(美)委員  言ってないのですか。 ○矢内原委員  言ったら出す人がいなくなってしまう。 ○加藤委員  だまされたということになるわけだ。 ○吉村委員  それは言ってないです。 ○田中委員  私たちもそれは言いません。プライバシーは守られますと言います。 ○吉村委員  ドナーの匿名性は優先しますということは現実面においては事実ですから、ドナーに 対してはドナーの匿名性。患者さんに対しても、あなたは絶対にドナーを知らせること はできません。しかし、そこにおいては出自を知りたいと思うのは子供ですから、要す るに全くそれとは関係ないクライアントでない子供ですから、これから先考えていかな くてはいけないなと。そういうことがあると、ドナーはまず10分の1ぐらいに減ってし まうのでしょうね。10分の1やってくれるかどうか。 ○中谷委員長  スウェーデンでは1983年に人工受精法ができて子供の出自を知る権利が保障された後 提供者が随分減って一時大変だったですからね。 ○矢内原委員  AIDを行う場合に夫婦の承諾書を取っていますね。 ○吉村委員  もちろん。 ○矢内原委員  そのときに、例えば奥さん側の両親は知っているにせよ、御主人側の両親や兄弟はど こまで知っている人が多いんですか。ほとんど知ってますか。 ○吉村委員  相談者というところでしかそれはわからないんですけれども、夫の両親は知っている ことが多いです。妻の両親は知らないことの方が多いです。 ○矢内原委員  そうですか。 ○吉村委員  しかし、そういう統計はとっていませんのでわかりませんが、だれに相談をしました か、複数回答してください、というときに、妻の両親は非常に少ないです。無精子症の 人の御両親には知らせていることが多い。 ○矢内原委員  逆かと思った。 ○吉村委員  ただ、受け入れる側の出自を知る権利に関しては、99%大体認めないという感じです ね。AIDをしたことを知らせてほしくない。知らせるべきだという人は1%ぐらいだ ったと思いました。 ○矢内原委員  田中先生のところはたくさんAIDやっていらっしゃいますね。それで御本人たちだ けの問題なのか、それを周りに隠したがりますか。 ○田中委員  体外受精ですか。 ○矢内原委員  はい。 ○田中委員  半分以上は知られたくないと思っている。 ○矢内原委員  例えば、先生が、体外受精で生まれた子供、全員集合で、ブリンスデンさんみたいに 写真を撮りたいと言ったときに、堪忍してくれという方が多いです。そういうことされ たことないと思いますけど、仮に。 ○田中委員  経験ないですが、ただ、私たち機関紙として病院の中に「フォーラム」という新聞を つくっているんです。そこに「赤ちゃん紹介の欄」があり、そこに生まれた赤ちゃんの 写真を載せたいと思って頼むんです。写真を載せていいですかと。そのときに、○○ち ゃんと苗字をつけずに、出身地は他県にするのであれば大抵写真出してくれます。苗字 を出すとなると、半分ぐらい写真は拒否されますね。病院の中だけの私的な機関紙でも そのくらいですから、ましてやみんなの前で写真撮ったり、集まってくれとなるとどう でしょう。信頼関係にもよるでしょうけど、半分ぐらいはでも来るのではないか。辰巳 先生どうですか。 ○辰巳委員  やっぱり皆さん知られたくないんじゃないか。 ○田中委員  知られたくない気持ちは根底には非常にあると思いますね。 ○矢内原委員  多胎妊娠でよく入院してくる患者さんたちがこぞって言うことは「自然ですから」と か、こっちが何も伺わないのにそういうことをおっしゃるんですね。これだけ多胎がA RTによって増えてくるということになると、そうじゃないということを主張するとい うことは、逆に言えば、そうである人が否定をして隠していることになりますね。最近 その辺のところの、患者さんたち側に立ったときに、もう少し公なものにならないかな ということを思いますね。 ○辰巳委員  患者さん自身にとっては体外受精はすごく一般的なものとして、10年ぐらい前などに 比べるととらえられていますね。だけど、一般の人ということになると全然違うように 思います。 ○田中委員  保険が適用になると変わってくると思いますね。一般診療として、保険適用になれば 変わるような気がするんですね。何とか保険を適用になるように厚生省もやってもらえ ると助かるんですけれどもね。 ○中谷委員長  これだけ少子化が進みますと可能性があるかもしれませんね。 ○田中委員  少子化が緩和されるんでしょうか。 ○加藤委員  少子化対策のお金入れてもらう。 ○中谷委員長  少子化対策として生殖補助医療は私は発展すると思うんですね。 ○田中委員  一番いい少子化対策だと思う。 ○中谷委員長  第一、少子化で養子縁組ができないでしょう。養子に出す子がいないわけですよ。だ からどうしても生殖補助医療にすがらなければいけないわけですから。 ○加藤委員  そういう問題もあるのだ。 ○中谷委員長  そういうことを考えていかないと、今人口問題が大変ですからね。 ○吉村委員  今まだ具体的にはないんですけど、厚生省は御存じかどうかわからないですが、山口 県と秋田県は地方自治体が不妊の治療を受けるのに5万円位を提供しているところがあ りますよね。 ○矢内原委員  多胎内援助、三つ子以上は。 ○吉村委員  山口県と秋田県。だから1回体外受精受けても5万円は補助してもらえる。そんなこ とを地方自治体の中でやっているところがあります。特に過疎の県なんていうのは、一 生懸命そうやって、子供を増やすことは大切なことなのかもしれないです。 ○加藤委員  横浜なんていうのは別に過疎ではないんだけれども、横浜市は少子化対策の予算を大 分使ったはずですよね。 ○中谷委員長  そうですね。 ○石井(ト)委員  社会的に熟していくということだと思います。決して隠すことではないという意識改 革しなければいけないと思います。過去を振り返りますと双子がすごく卑しいものとし て隠していました。ですから、一方を里子に出すことがよく行なわれていました。男女 の双子ですと「畜生腹」とも言われていました。きんさん・ぎんさんの登場によって、 人々の意識が変わってきました。  そういうことがありますので、公的に認めてあげるということが、社会を熟させると いうことになると思います。 ○中谷委員長  でもそれだけに簡単に施設を開設し、そして未熟なお医者さんがそういう医療を担当 するようになると、それはまた大きな問題になりますから、そういう意味では、どこか でガイドラインみたいなものをきちんと確定して、かつ生まれた子供も法的な地位を確 定する必要があるような気がしますが、子供の地位は別に問題ないですね。御夫婦で出 産したという届けを出せば、戸籍においては何も。 ○石井(美)委員  夫婦間の体外受精でということですね。 ○中谷委員長  ええ。 ○石井(美)委員  それは何ら問題はないです。 ○中谷委員長  問題ないですよね。ただ、私スウェーデンで人工授精法というのができて、その後、 体外受精法というのができましたけれども、その同じ委員会が法案をつくっているんで すけれども、人工授精までは、これは神の過誤といいますか手落ちで、そういう不妊と いうのがあったから、それを補整するのにAIDまではいいと。だけれども、体外受精 という形でそういうことをやるのは神の誤りの補整を超えるものだから認められない、 そういう報告書を読みまして、へえと思って考えたことがありましたけれども、そうい う意味で、日本で最初は体外受精についてはたしかドネーション認めなかったんですよ ね。 ○吉村委員  ドネーションといいますと。 ○中谷委員長  精子の提供。 ○吉村委員  そうですね。 ○中谷委員長  夫婦間だけに限っていましたよね。AIDを認めて、どうして体外受精のときにはそ ういうドネーションを認めないのか、これはおかしいじゃないのと思っていましたけれ ども、スウェーデン式の考え方によれば、それも意味があるのかなと今は思いますけれ ども。 ○加藤委員  神様の意思を勝手に忖度してはいけないとは思わなかったんですね(笑)。 ○石井(ト)委員  話は戻りますが、6ページにかなり問題提起を盛られて書いてありますが、提供者の 情報が、ここでどこまで意見統一をしたらよいのかと思います。石井美智子先生がおっ しゃる人格権か、アイデンティティーまで求める情報を提供するのか、遺伝的な近親婚 や遺伝疾患ということに対してのみ情報を提供するのかということですが、どうなんで しょうか。アイデンティティーとはその人が特定できるところまで提供するという意味 に入るのですか。遺伝的な範疇に含まれると解釈してはいけないのでしょうか。 ○石井(美)委員  遺伝的に・・・・・・。 ○石井(ト)委員  私は情報提供するときは、遺伝的なところだけで十分だと思うんですよね。 ○石井(美)委員  遺伝的な病気の情報ということですか。 ○石井(ト)委員  アイデンティティーを求める、アイデンティティーというのが今ちょっとよくわから ないんです。人格権ということは、要するに特定の人まで教えるということですね。名 前、年齢、どこに住んでいたとか、そういうところまで教えることなんですか。先ほど 「人格権」という言葉使いましたけれど。 ○石井(美)委員  最大認める考え方に立てばそこまでいくと思います。最近の傾向はアイデンティテ ィーのところまで認めるという方向なのではないか。人格権、子供の福祉のためにどこ まで必要かということについて確信がないのですけれども、自分が精子提供卵子によっ て生まれたということになれば、どのような人、それはどこで生まれ、どんな育ち方を して、どうして自分の卵子を提供したのか、そこまで知りたいということにはなるだろ うと思いますけれども。 ○中谷委員長  医療でそういう資料みたいなものはあるんですか。 ○吉村委員  いや、そこまでは・・・・・・。 ○矢内原委員  精子じゃない、卵子だから。 ○吉村委員  卵子に関してはちょっと。ただ、先生、今おっしゃったけど、遺伝的なこととかそう いうことはまた物すごく問題多いんじゃないですか。 ○石井(美)委員  問題というのは。 ○吉村委員  遺伝的な、例えば、デュシェンヌ型の筋ジストロフィーをどうするかとか、そんなこ とを言い出したら大変なことになると思います。着床前、遺伝子診断ですらできないん ですよ。そんなもの調べますなんていったら、とんでもないことになるんじゃないです か。  だから、私が言っているのは、先生が先ほどおっしゃった遺伝的な情報とか、近親婚 はわからない。これは絶対にゼロかといったら、そうじゃないですから。これは私はわ かるんですけど、あとは要するに漠然とだれの子なんだというのを知りたいと。私、さ っき感能的と言ったんだけど、そういう日本語あるかどうか、感覚的な本能的なものと いう感じでね。そういうものではないんですか、先生。 ○加藤委員 自分自身を知る権利というのがもしあったとして、自分自身を知る権利というのは、 それがある特定な合理的な目的や利益に奉仕する場合に限り認められるものではなくて たとえ、その目的が不合理なものであったとしても認めるというのが、それは恐らく自 分自身を知る権利という概念が成り立つとしたら、そういう性質のものだろうと思うん ですね。 一方では、合理的に自分自身の健康だとか自分の子孫の健康だとかを維持する権利と いうのがあって、その場合にはさっき言った遺伝的な疾患の問題が絡んでくると思うん ですね。今、子供が出自を知る権利があるというふうに考えられたときに、不合理な目 的まで含んで自己自身を知る権利を認めるという方向に多分いっているだろうと思うん ですね。ですから、そのときに合理的な目的に限って認めるというのはおかしいので、 例えば、おれはどう考えても、どんな人間から生まれたか知りたくて、それを知らなけ れは眠れないという人がいた場合、いや、おまえには知らせられないなんていうのはお かしいということになると思うんですよ。 ○中谷委員長  丸山委員いかがですか。 ○丸山委員 おっしゃることはわかるんですけど、制度的にそういう権利を保障するところまでは 要らないのではないかと思うんですが、合理的な理由で利益が得られるから知らせると いうのもあるし、人格権に基づいて、利益がなくても、ともかく知りたいというのがあ ればというのがいまひとつ、そこまで保障しなければならないのかなという感じがする んですね。 また、絶対的な人格権に基づくものではないことになるんですけど、後見的なパター ナリスティックな観点からいっても、知って幸せになれるのか疑問も感じますね。 それから、医学的な面だと近親婚が問題になるのは、常染色体で劣性遺伝だけですか X連鎖は関係ない、それでよろしいんですか。 ○吉村委員  そんなことないです、関係ありますよ。 ○丸山委員  近親婚ですよ。 ○吉村委員  近親婚ね。 ○丸山委員  近親婚だと常染色体は劣性だけじゃないんですか。 ○吉村委員  近親婚だとそうですね。 ○丸山委員  それなら以前吉村先生に申し上げたことなんですけど、自分がARTで生まれたかも しれないと考える方は、将来の配偶者と遺伝子検査を受けていただいて、遺伝病などが 関わらない無難なところで遺伝的に共通の親から生まれたのかどうか調べて近親婚を防 止すればいいのではないかなと思うんですけど。 ○加藤委員  結婚する前に調べてみたら結婚できないというのは。 ○丸山委員  結婚する前に、皆さん遺伝子検査しましょうというのがちょっと抵抗があるんですけ れどもね。ですけど、近親婚防止のために限定すれば、許されるのではないかという考 えも一方にある。私の場合、出自を知る権利を認めたくないというのが強いということ も背後にあると思うんですけれども、出自を知る権利がそんなに強いものか、ここの皆 さんの意見だったら認める方が多いみたいなんですか。そうですね。 ○中谷委員長  イギリスでありましたよね。双方とも生殖補助医療によって生まれた子らしいという ので、好きになって、それで調べたら、やっぱり提供者が同じだったというので結婚あ きらめたという実例はありましたね。 ○吉村委員  それは小説の世界ではなくて。 ○中谷委員長  小説の世界でなくて。 ○吉村委員  それは問題だ。 ○田中委員  私はそういうドネーションを受ける患者さんには、前もって、もしもそういう将来不 安な気持ちあるのだったらやってはいけないと言います。将来、親子鑑定が今よりもっ と簡単になって、何かのときにわかってしまうようなことをおそれるのであれば、顔が 似てないだとか、そういうことを気にするのだったらやめた方がいいと言います。  だからドネーションの治療を受ける夫婦には、いずれ妊娠の経緯がある程度わかって も構わないという気持ちは持っていてほしいと思うんですね。問題は生まれてくる子供 がそれを知るかどうかの問題ですね。私は例えば、その子供が病気になるとしますね。 それが今の医学では到底予測できないものが出てくる可能性は十分あると思うんです。 前もってのチェックは完全にはできないですからね。ARTというのはこんなものであ ると、治療受ける人もドネーションの場合は100%のものは期待できないわけですから。  ですから私は最初からドネーションとはこういうものであるということをしっかり話 しています。もしも嫌だったらしなければいいんですし、私は子供の出自の権利をとい うことは余り気にしないというか、そういうことは余り言わない方がいいのではないか と思います。そうしないと、我々が今からやろうとしている治療は多分現実的にはでき なくなると思いますので。 ○石井(美)委員 それはそうです。ただ、親は話してますけれども、生まれる子供は話しているわけでは ないですね。 ○田中委員 子供が知ったら言えばいいじゃないですか。“お父さん、お母さんは子供が産みたかっ たけど、病気でできなかったんだから、ある立派な方から精子または卵をもらってでき たんだよ。おまえは私達の子供だよ”と、それでだめですか。 ○石井(美)委員 それで子供の福祉として足りると言えるならばいいのですけれども。 ○田中委員 私はそれで十分と思いますね。 ○石井(美)委員 そう思うかどうかですね。今、子供の権利条約などでも子供の出自を知る権利を保障す る、という考え方になっています。普通の子には保障されている。しかし人工的につく る子供についてはそれは保障されない。それでよいのかどうかということを私たちは考 えなくてはいけない。子供が幸せに育つ可能性が高いし、それを保障するような仕組み を考えるから、一部の権利が多少少なくなったとしても、社会的に制度的に認められる のだと言えるならば、私は構わないと思いますけれども、きちんとほかの子供に保障さ れているものが保障されなくなるということは考えておく必要はあると思うのです。 ○田中委員  先生がおっしゃっている、ほかの子供の出自を知る権利というのは普通の戸籍上の夫婦間に生まれた子供ですか、そういう意味でしょう。 ○石井(美)委員  はい。 ○田中委員  今度の場合は、戸籍上の夫婦でできないから治療があるわけですよね。そこで生まれ てきた子供は違うような気がします。子供が欲しいと願う夫婦の権利もありますよね。 その親の権利も保障してあげないといけないと思います。子供の権利条約ができた背景 には、子供が十分な親からの保証が得られず、幸福な生活が望めないような子供が世界 中にたくさん存在したからだと思います。そのような環境の中の子供の権利、自分の親 は一体誰なのか、自分は両親に育ててほしい、という権利の要求は理解できます。しか し現在問題としている不妊治療の結果生まれてくる子供とこのような子供とを、同等と 考えるべきなのでしょうか。 ○中谷委員長  今、石井美智子委員が言われたように、子供の権利条約の7条の1項だったと思いま すけれども、子供が自分の本当の親から育てられ、そして保障される権利を持つという ような規定がたしかあったと思うんですね。 ○吉村委員  そのときの規定は、遺伝的な親の・・・・・・。 ○矢内原委員  本当の親というのはどういう。 ○中谷委員長  いつか最高裁判所の裁判官と法務省の図書館でお会いしまして、こういう規定があり ますけど、AIDの場合はどうなんでしょうね、と言ったら、そんなこと全く考えたこ とがなかった、と言われましたんですけれどもね。 ○石井(ト)委員  それは出自を知る権利ではなくて、子供の立場から言うと、養育された親、あるいは 親にかわるものですから、そういう形で愛されて養育される権利という意味だと思いま す。 ○加藤委員  戸籍のない国なんかありますよね。例えば、難民なんかになった場合に、子供は自分 のごくナチュラルな意味でのお父さん、お母さんがわからなくなってしまう場合がある わけですね。そういう場合にもちゃんと子供にかわって調べてあげられるとか、そうい うことは含まれるのではないでしょうか。 ○吉村委員  もう一回確認しておきますけど、法的にこの子供はこの親の子であるというふうにし て、新しい法律ができたとしますよね。子供の地位保全はできた上においても、この出 自を知る権利はまた別の権利としてあるという理解でいいんですよね。 ○石井(美)委員  そうだと思います。法的な親の決定ということとは別の問題。外国では、そういう権 利を保障するべきだと言って、今現在は親を知ることのできない子供が運動を起こした り、また遺伝上の親を探し歩いているという現実があるのです。それを無視してよいか だと思います。 ○吉村委員  そうするとそれはやっぱり本能的なものではないですか、人間として。 ○石井(美)委員  そうかもしれません。 ○吉村委員  要するに、そういう遺伝的なものというよりは。私はそういうものも大事だと思うん ですよ。 ○石井(美)委員  子供を持ちたいというのも、ある意味では本能ですから。 ○吉村委員  そうです。ある人からとってみれば、子供なんて要らないという人もいるわけですか ら。そういうものでありますから、保障はするという点においては、どうやって保障す るかが問題でありますね。 ○加藤委員  基本的には子供には自分の出自を知る権利があると思うんですけれども、でも、それ はいろんな意味で、家族の中での子供の位置だとか考えると必ずしもそれを知ることが 子供自身にとっていいとは限らない場合もいっぱいあるわけですね。 ○吉村委員  いっぱいありますね。 ○加藤委員  ですからボタンを押せばすぐわかるというのではなくて、いろんな事情を斟酌して、 どうしてもそれでも知りたいか、おまえ、ばかだな、というやつには、それまでする拒 否はしないというので、かなり重い扉を開けないとわからないような仕掛けをつくって も、それは差し支えないんじゃないでしょうか。 ○石井(美)委員  ただ、それにはすごくコストがかかります。 ○加藤委員  そうですね。 ○石井(美)委員  それを覚悟して制度をつくるということになりますね。 ○加藤委員  どのくらいコストがかかるんですか。 ○石井(美)委員  わかりません。 ○加藤委員  イギリスでは全部中央機関が登録しているんでしょう。 ○中谷委員長  中央機関で登録している。 ○加藤委員  そのコストはどのくらいなんでしょうか。係員も要るでしょうし。 ○中谷委員長  何かありましたね。費用について、どれくらいかかったか、このごろの報告書にはそ れは出ていますね。 ○加藤委員  そのコストは税金から取るのですかね。それともAIDから受けた人から記録管理料 というのを取るのですかね。 ○中谷委員長  施設からです。 ○石井(美)委員  税金ももちろん使う。管理システム、中央管理システムが必要になるでしょうね。 ○吉村委員  それをやると、ドナーをちゃんと匿名性で集めてこなければいけないし、ドナーに対 しても保護しなくてはいけないし、そうなるととても1施設ではドナーを確保すること は不可能ですね。 ○加藤委員  その場合でも、申請がありさえすれば、すぐドナーの固有名詞がパッと出ちゃうとい うふうにはしないで、ある一定の条件がついた場合に、よくよくのことでなければド ナーの固有名詞はオープンにできないといったことにしていいのではないでしょうか。 ○中谷委員長  イギリスの場合、ドナーについては、精子については余り問題はないけれども、年齢 はちゃんと制限しているんですね。卵子についてはかなり費用を払っていたんですね。 それを今度は実費だけにするということで決めて、去年あたりからそれをやっているよ うです。今度幾らかかっているかというのを調べて持ってきましょうか。 ○丸山委員  どういう情報が知らされるんですか。石井美智子委員の出自を知らされる権利という のは、固有名詞の氏名と生年月日などが知らされるのですか。提供当時のイメージだっ たら、写真なんかが一番いいような気もするんですが、そういうのは認めないんでしょ うね。 ○加藤委員  イギリスでは人種にそのときに開示されるのでしょうかね。つまりアイルランド系イ ギリス人だとか、あるいはアイルランド系イギリス人とロシア人の混血だとか。 ○中谷委員長  アメリカだと提供の施設がありますが、それには全部国籍と皮膚の色がどうで、目の 色がどうで、髪の色がどうでということが全部あって、それに基づいて注文するわけで すから。 ○加藤委員  手配書と同じような内容になるんですね。 ○丸山委員  慶應大学では、もし出自についての情報を提供するということに制度的になったら何 が提供できるんですか。 ○吉村委員  名前、当時の年齢、住所の提供もちろんできますけど、それは知らせるかどうか知り ませんよ。 ○丸山委員  生年月日も。 ○吉村委員  生年月日も。 ○加藤委員  名前と住所以外の情報で、名前と住所は知らせないという条件になったときに、あと は年齢ぐらいしか意味がないんですか。 ○吉村委員  精子の数と年齢です。 ○丸山委員  名前と生年月日あれば、がん登録みたいに、やる気があればかなりフォローできます ね。 ○吉村委員  うちの場合はほとんどできるんじゃないでしょうか。大体わかってますから、どこに いるかは。会いに行こうと思えば会いに行けます。 ○中谷委員長  会ったという例はありますか。 ○吉村委員  そんな例は聞いたことないです。 ○石井(美)委員  今までは教えてはいないのですね。 ○吉村委員  全然教えてないです。そんなこと聞きに来る方もお見えにならないですけど、少なく とも。 ○石井(美)委員  結婚のときに問い合わせがあって答えたとか。 ○吉村委員  十何年前の場合にはわからないですけど、私になってからはないですね。私のところ へ聞きに来たのは。 ○加藤委員  精子提供者連続殺人事件はまだ起こってないですね(笑)。 ○吉村委員  それは起こってないですね。 ○丸山委員  石井さんの意見だと会いに行っても構わないということになるんですか。 ○石井(美)委員  そうですね。 ○石井(ト)委員  提供者の権利を考えたら、そこまでやらられたらやっぱり迷惑ですよね。ただ、そこ は守らなければいけないと思います。 ○中谷委員長  写真は撮ってないですね。 ○吉村委員  撮ってないです。 ○石井(美)委員  そうするときには提供者に、将来子供が訪ねてくるかもしれないということを説明し て承諾の上で提供していただくことになるでしょうね。 ○加藤委員  身長とか体重とかそういうのはとってあるんですか。 ○吉村委員  とってありません。 ○石井(美)委員  養子の場合には名前を知らせなくても、外国にはそういう情報は知らせる例もありま すね。 ○吉村委員  ただ、これはだれだということがわかるようにしてあるだけで、これは出自を知る権 利を守るための権利としてしているわけではないですから、これはだれだということが 将来30年後か40年後に必要がある場合に備えてしているだけであって、今はドナーの匿 名性が完全に勝っているわけですから。 ○中谷委員長  egg donationについても、提供者の。 ○吉村委員  egg donationは日本ではやってないのでわからないですけれども。 ○丸山委員  そういう情報は後の開示のために残しておいて、当面の依頼者夫婦には知らせないの ですね。 ○吉村委員  はい、絶対に。それを前提にしないと、受けないことになっていますから。 ○丸山委員  依頼者夫婦に知らせるんだったら、エクセレンスみたいな精子バンクみたいのがあり ますね。 ○吉村委員  そうです。 ○石井(美)委員  選択でなくて、提供を受けた後でこういう人からの提供でしたということを知らせる ので、好きに選ぶのではない。 ○丸山委員  それは選択じゃなくて。 ○加藤委員  くじ引いたようなものだ。 ○石井(美)委員  そうです。 ○吉村委員  それも知らせないです。 ○石井(美)委員  親が知る必要性はないですね、子供に知らせる必要はあっても。 ○吉村委員  そうですね。 ○矢内原委員  その点、品質保証みたいな(笑)、保証書ではないですけれども、そういう時代にな る可能性はない、商業化の前に。 ○加藤委員  あるんじゃないですか。実際問題、特に報酬を出すことになると、報酬出して、変な 遺伝子買ってきたら、嫌だということになるのではないでしょうかね。 ○矢内原委員  ということは、お医者さんもまた保険が増えますね。訴えられる。 ○高橋委員  必ずしもいい子ができるとは保証はできないですね。 ○吉村委員  それはできないです。 ○高橋委員  私の経験ですが、AIDで妊娠・出産した方で、後で子供を連れてきたのが2人いま した。その方々は私に親を知りたいと言ってきたのではなくて、「私はこの子の親は、 私の心の中ではAIDを受けた先生をイメージして親と思っています」と、そういう言 い方をしていました(笑)。これはなかなか複雑です。いろんなタイプがあると思いま す。  いろいろなケースがあるのですから、登録して、先生のおっしゃったような、名前と 住所と年齢とかを書き置いて、そこまでの出自を教えるだけで、それ以上は何ともでき ないのではないかと思います。 ○吉村委員  大体AIDを受ける人はそういう人が多いですね。 ○高橋委員  そうですね。イメージを描いているのですよ、親のイメージの対象は医師のことが多 いです。 ○吉村委員  20歳ぐらいとか25歳ぐらいになったときに、どういうふうになったかということは調 査してみたいと思っています。 ○中谷委員長  今まで慶應でやってこられて、出自を知る権利といいますか、お子さんの方から何か 要望があったことはありましたか。 ○吉村委員  前の飯塚先生の時代に何か言ってきた方はいるということは聞いたことあるんですけ ど、私はそういう経験ないですね。飯塚先生は1例か2例あると。 ○中谷委員長  とてもいい子だから、兄弟が欲しいから、またといって頼まれた例はありましたよ ね。 ○吉村委員  そういうのは多いです。前と同じドナーでやってくれということは非常に多いです。 ○矢内原委員  多いだろうね。 ○吉村委員  それはできませんと言います。それはやっぱり10人以上になっちゃっているとできな いですよね。3年後ぐらいにやっぱり来られますから、できる子は1年ぐらいで10人ぐ らいすぐできちゃいますから、そうするとそのドナーにはやめてもらうということにな るとできないですね。そういう点もあります。 ○加藤委員  だれにでもよく似ている人はドナーに適しているんですね(笑)。 ○吉村委員  父親に統計とってみてわかったことはだんだん似てくるそうですよ。みんなそう言い ますよ。人間というのは、遺伝的なものだけが、父親ではないんですよ。やっぱり一緒 に生活することの方が大切であって、だんだん私に似てきまして安心していますとか、 そういう意見の方が圧倒的に多いですね。 ○加藤委員  言葉遣いだとか。 ○矢内原委員  安心するということはやっぱり似てほしいんですね。 ○吉村委員  似てほしいですよ。でも見ているとそういう気持ちになってくるんじゃないですか。 ○田中委員  それは私も感じます。 ○吉村委員  だから一番初めの産まれたときの心配はそれですよ。おれの顔に似ているのかと、み んなそれは第一に不安に思われていますよ。 ○矢内原委員  やっぱり隠す。 ○吉村委員  隠すのはほとんど。自分からしゃべる人は、 100人いたら1人いるかもしれませんけ ど。 ○中谷委員長  今までの御議論の中で、生殖補助医療によって生まれたお子さんの出自を知る権利に ついてはいろいろ御議論がありましたけれども、ドナーとお子さんとの間の法的な親子 関係がないということも法律的に規定する必要がありますか。 ○吉村委員  やるということが前提であるならば絶対必要だと思います。それがないとだめだと思 うんです。私は反対してますからあれですけど、もしやるということになったら。その 辺ははっきりしていただかないとやる方としては困ってしまいます。法的な規定ができ ない以上はできないと思いますけど。 ○石井(美)委員  夫がいて、夫が父となって、提供者は父ではない。 ○吉村委員  そういうことです。 ○石井(美)委員  夫の同意がなかった場合が万一起きたとき、この前の事件のような・・・・・・。 ○吉村委員  それはもう論外ですね。 ○石井(美)委員  その場合でも提供者は父にはならない。 ○吉村委員  そうですね。 ○石井(美)委員  父のない子になる。 ○吉村委員  ええ。 ○田中委員  そういうふうにしておいてもらわないと、ドナーは頼めないですね。 ○中谷委員長  補助医療の場合においては、依頼者・クライアントのインフォームド・コンセントと いいますか、それはきちんとおとりになるわけでしょう。 ○吉村委員  AIDに関してはとっています。 ○中谷委員長  だから、あの事例の場合はそれがなかったんですか。 ○田中委員  御夫婦の場合してないんじゃないですか。 ○吉村委員  基本的にインフォームド・コンセントとってないんじゃないですかね。 ○中谷委員長  夫がサインしてなかったというんですね。 ○吉村委員  そういうことはしなくやっていたんじゃないでしょうか。 ○矢内原委員  仮にサインをしてたら、法的にサインは有効なんですか。 ○中谷委員長  有効なんでしょうね。 ○矢内原委員  我々が病院に入院するときに、いかなることがあっても、手術のときに、同意書とり ますね。あれは全く法律には無効なんですか。 ○中谷委員長  あれは意味がないです。 ○丸山委員  それは法原則に反して、公序良俗に反しているから。 ○矢内原委員  今度の場合はどうして有効なんですか。 ○丸山委員  それほど公序良俗に反していることが明らかでないからじゃないですか。 ○石井(美)委員  そういう同意に、法的な効力を認める法律をつくろうということではないですか。 ○吉村委員  同意書で、例えばAIDに対して○○○○と御両親がサインしますね。あれは法的に は何文書になるんですか。 ○矢内原委員  同意書。 ○吉村委員  同意書という法的な・・・・・・。 ○丸山委員  類型があるわけではないんですが。 ○吉村委員  あるわけではないんですか。 ○丸山委員  ないといって、いいでしょう。 ○丸山委員  その同意書の内容が社会的に是認できるかできないかで、今の場合は微妙なところで すよね。ですから明らかに無効ということにはもちろんならないですけど、先ほどおっ しゃった、いかなる過誤あっても一切責任は負いませんというのは、現在の法原則では 許されないということで、内容が公序良俗に反しているので無効ということです。だか ら内容次第です。 ○吉村委員  今の手術に関する同意書なんていうのは、もう一回やり直さないとだめだということ ですか。 ○丸山委員  そういう文書は意味がない。 ○吉村委員  意味がない。 ○矢内原委員  いくらあっても意味がない。 ○石井(美)委員  同意は必要ですね。一切責任を問いませんというような条項が無効なので(笑)。た だ、同意で親であることを処分できるかどうかということ自体は問題になると思いま す。法的な親子関係というのは意思によって処分できるものでは必ずしもないのです。 ○吉村委員  全然ない。 ○石井(美)委員  提供者が法的に親になることは全くないということは明文によらなければ言えないと 思います。 ○中谷委員長  ドイツの1983年の判例だと、夫婦間でAIDによって子供をつくるということについ ての契約書があったんですよ。契約書があったけれども、生まれてから夫の方が嫡出子 否認、嫡出子否認の中立期限は日本では1年間に限定されていますが、ドイツでは2年 間だそうです。2年以内に嫡出子否認の訴えを起こしたんですね。そしたら、夫の嫡出 子否認の権利は憲法上保障されているものであって、夫婦間の私的な契約書によって、 その効力が変更されるわけではないというので、夫の子ではないという判断出たんです ね。1983年の4月7日だったと思いますが、ドイツ連邦通常最高裁判所の判決で。 ○矢内原委員  夫の子ではないというふうに。 ○加藤委員  血統主義に対して法律が味方したみたいな印象を受けますね。 ○中谷委員長  父親というか夫が認めた場合は。 ○丸山委員  AIDの話で、法的な地位の話に戻ってよろしいですか。 ○中谷委員長  どうぞ。 ○丸山委員  精子の提供を受けて、妻が妊娠してできた子供は夫婦の実子であるというふうに定め る規定を設けた場合、逆にドナー側に奥さんがいて、奥さんに卵巣・子宮がなくて、ド ナー夫婦で自然には妊娠・出産できない。そのような場合に、今の依頼人の妻に卵子提 供の代理母になってもらうという形で子供をつくってもらうことは認めないということ と直結しますのでしょうか。さっきのAIDの場合に生まれた子はAIDを依頼した両 親の実子であるとすると、その反射的効果として卵子提供の代理母を認めないというこ とになるでしょうか。 ○石井(美)委員  AIDを逆に使うということですね。 ○丸山委員  そうそう。 ○田中委員  特別養子縁組するのでしょう、その場合は。産んだ者が母親であるのだったらば、そ こで特別養子縁組さえすればいいんですね。 ○丸山委員  養子の手続をかませればいいわけですか。 ○石井(美)委員  養子としなくても、イギリスのような特別な手続で親子関係をつくるという方法があ る。 ○丸山委員  手続をかませればやり得るということですか。 ○石井(美)委員  そうですね。 ○矢内原委員  代理母の場合のそのときの契約書は有効なんですか。 ○丸山委員  これもまた微妙な問題で(笑)、これからどういう制度をつくるのかによるのだと思 います。 ○中谷委員長  イギリスなんかだと代理母の出産というのは認めないけれども、代理母の産んだ子供 は現実に生まれている場合はどうするかというと、裁判所で嫡出の子とする、そういう 認定をするんですね。 ○吉村委員  先生、それはホストマザー。 ○中谷委員長  そうです。 ○丸山委員  代理母で自動的に依頼人夫婦の実子であるというような制度はないんでしょうね。代 理母のおなかから生まれた子が、依頼人の女性とその配偶者の実子であるという制度は 考えづらいのですね。 ○石井(美)委員  依頼人が実母にはならない。父親の方は実の父親だけれども、母は養子縁組をする。 ○丸山委員  養子なんですね。 ○田中委員  アメリカではそうです。 ○中谷委員長  1973年の法律ですよね。ペアレンテージ・アクト。 ○石井(美)委員  養子縁組ができるかどうかはまた1つの問題だと思います。 ○田中委員  ベビーM事件では拒否したわけですね、産んだ後に。 ○石井(美)委員  引き渡しを。 ○田中委員  裁判所は提供したクライアントの方にある。そのときは母親は。 ○石井(美)委員  母親は当事者になっていないんです。父親と代理母との監護権争いです。 ○田中委員  ただし、渡さなければいけないという判決ですよね。 ○石井(美)委員  父親の方に監護権を認めたけれども、代理母も母親であることは認めているわけです ね。 ○田中委員  そうですか。 ○石井(美)委員  ええ。判決では、だから母親が子供に会う権利も認めていたと思います。 ○田中委員 そうなんですか。知らなかった。 ○丸山委員  そんなこと言ったら、また問題があります。 ○中谷委員長  丸山委員からの引き続きの。 ○丸山委員  AIDの場合は、依頼者夫婦の実子であるとしても構わないというか、するのがいい か悪いかはまた御議論あると思いますけど。 ○石井(美)委員  構わない。 ○丸山委員  ですね。 ○石井(美)委員  親は依頼者夫婦にしないとAIDを認める意味がないと思います。 ○丸山委員  嫡出子なんですね。 ○石井(美)委員  嫡出子。 ○丸山委員  みなしじゃなくて嫡出子。 ○吉村委員  とする。 ○石井(美)委員  はい。 ○吉村委員  第三者の卵子に関しても同じですね。 ○石井(美)委員  認めるならそうですね。 ○吉村委員  そうですね。母親の場合は何ていうんですか。 ○石井(美)委員  嫡出子は同じですね。 ○吉村委員  母親に対して嫡出子。 ○石井(美)委員  嫡出子は父の関係も母の関係も同じです。 ○吉村委員  そうですか。 ○石井(美)委員  はい。 ○吉村委員  それは受精卵を受けたときも同じですね。 ○石井(美)委員  そうですね。 ○吉村委員  クライアントである夫婦が。 ○石井(美)委員  認めるということはそういうことだと思います。認めるかどうかは置いておいて。 ○吉村委員  法的地位に関してはすっきりといきますね。当然それをやらなくちゃいけないという ことですから、もし認めるとするならば。 ○石井(美)委員  認めるとするならばそう思います。 ○矢内原委員  生まない権利を放棄するということでしょう。 ○吉村委員  ドナーは。 ○矢内原委員  それをはっきりしておけばいい。 ○吉村委員  ドナーも権利を放棄するということも入るわけでしょう。親としての権利、義務を放 棄する。 ○丸山委員  先ほどのに戻って恐縮なんですが、子供の出自を知る権利は時間をかけましたけど、 ドナー側の子供に対してかかわる権利については詳しく議論しなかったんですが、併せ てこの問題ともかかわりますので。 ○石井(美)委員  法的な親ではないとしても、子供の成長を知りたいという親の権利があるのかどう か。 ○辰巳委員  ドナーは自分の子供が生まれたということを知っているのでしょうか。 ○石井(美)委員  知らないでしょうね。 ○吉村委員  知らないです。 ○辰巳委員  知らないですね。でも10人になりましたということは言うんですか。 ○吉村委員  必要以上になりました。もう君はいいです、それは言います。 ○中谷委員長  もしこういうものを法律でずっと詰めていきますと、その法律で言うところの父親と は、母親とはという定義規定みたいなものを置くんですよね。 ○矢内原委員  そういう法律をつくるのにどのくらいかかるんですか。 ○中谷委員長  イギリスは90年の法律ですからね。 ○矢内原委員  法案を真剣に考えて、そういう法律をつくって、国が定める。 ○中谷委員長  イギリスだと1984年ぐらいからずっと準備してまして、そして案をつくって、ウォー ノク・レポートかなんかが基本になって。 ○矢内原委員  90年だったんですか、6年ですか。 ○中谷委員長  90年の11月1日ですか、公布されて、施行されたのが90年の11月3日からだったと思 います。 ○丸山委員  我が国の場合、成年後見法は構想からどれぐらいでできたんですか。 ○石井(美)委員  法務省の方にお答えいただきたいと思います。 ○法務省  議論が始まったのは平成7年ですから。研究会立ち上がったのが平成7年で、平成11 年2月で法制審議会に。 ○丸山委員  それが法案ですね。 ○法務省  大体4年ぐらいです。 ○吉村委員  これも4年ぐらいかかるんですか、やるとすると。 ○石井(美)委員  それは進め方次第。 ○丸山委員  早い方ですね、成年後見法は。 ○法務省  非常に早いです。法制審自体も2年しかかかってないです。 ○吉村委員  出生時の法的地位とドナーの権利とかそういうことに関する法に関して、そんな難し いことはあるんですか。例えば、ドナーは権利というと、提供者として提供した段階で 親としての権利義務を放棄するとか、例えば、それにしますね。クライアントである夫 婦が親であるということを保障する。それが主に2つの項目てすよね。それがやっぱり 3年も4年もかかるんですか。 ○矢内原委員  匿名であるということが前提でしょう。 ○吉村委員  匿名であるということがもちろん前提です。 ○加藤委員  作文そのものは一晩でできるんじゃないですか。 ○吉村委員  そうですか。 ○中谷委員長  それは先生方のワーキンググループの方たちの御力次第じゃないですか。 ○吉村委員  3年も4年もかかるものですか。一般に法律的なことというのはそういうことなんで すか。 ○石井(美)委員  民法を改正するとなると、そう簡単なことではないという気がします。そもそも嫡出 否認の現行のものに問題がある。今おっしゃったように、全く別の法律で、民法の解釈 適用について一定の制約を加えるような法律は今まではないのではないでしょうか、親 子関係について。だから、そういうものができるかどうかということ自体がわからない です。 ○吉村委員  民法というものはそういうものを全然予想もしてなかったわけだし。 ○石井(美)委員  そうです。 ○吉村委員  ということは、そういう法律ができるまでは、先生のお考えはやらない方がいいと思 われますか。それともそういうことを考えつつ、同時進行形でやることもできるという お考えですか。 ○石井(美)委員  難しい。早急に法律をつくるという方がよいと思います。 ○中谷委員長  先生方入っていらっしゃるわけですからね。丸山委員と石井美智子委員。 ○石井(美)委員  話が少しずれてしまいますが、先週の終わりのころに、辰巳先生が、配偶者の提供に よる生殖補助医療というのは、治療ではないと思っているというような発言をされまし た。 ○辰巳委員  不妊治療ですね。 ○石井(美)委員  ええ。 ○辰巳委員  生殖補助医療技術を用いた養子縁組。 ○石井(美)委員  その辺をもう少し、お医者さんとして、お二人の意見が分かれたので伺いたいですけ れども。 ○吉村委員  非配偶者間のでしょう。 ○石井(美)委員  ええ。 ○辰巳委員  この間も申し上げましたが、2人のカップルの子供をつくるのを助けるのが不妊治療 だと私はそういうふうに理解しています。全くそれだけなんです。 ○石井(美)委員  養子縁組としては認められる。 ○辰巳委員  それはそれで別の話だと思っていますし、それをだめというわけでは全然ないです。 ○石井(美)委員  御自身はおやりにならない。 ○辰巳委員  今のところやっていないし、これから先も多分やらないと思いますが、でも、これは 今公言はしません。わかりません。今いらっしゃる患者さんの中で、そういうふうな技 術を用いざるを得ない人がたくさんいらっしゃるので、そういう状況になって、また非 常に基盤もしっかりして、そういうことができるような状態で、いいというふうに判断 するようになるかもしれませんけど、現在のところは先々行うようなことは考えていま せん。 ○中谷委員長  何かその点について、田中委員と御意見が分かれたんですか。 ○田中委員  辰巳先生の意見は、同じ治療する医者として私と全く異質とは思いません。1つは置 かれている環境が私と彼とちょっと違うからです。彼は1人でやっている。私は複数の 医師、4人、かなり自分の責任が負える範囲が割と狭いんです。第三者のものを使った 治療は非常に気を使って非常にストレスがあります。ですから、そういう部分が、今、 辰巳先生が言われたことの裏にあると思うんです。やりたくないというよりも、やりた くても管理運営上できないというのが本音だと思います。私も1人だったら、手を出さ ないと思います。 ○中谷委員長  辰巳先生、そういう治療の場合は、一般の生殖補助医療よりも医療費は高くなるんで すか。保険は適用されませんよね。 ○辰巳委員  はい。余り想定しなかったですけれども、それは高くなるのでしょうか。 ○田中委員  そんなにならないんじゃないですか。 ○辰巳委員  先生おっしゃるように手間と責任がすごいだろうなと思います。それが大変だからや らないというわけでもないと思うんですけれども、やはり2人の間の子供をという方だ けで、非常に多くの患者さんが来られますので、今のところ、それに限定してやってい るというふうな感じです。 ○中谷委員長  一般的には1回20万円ぐらいと考えてよろしいですか。 ○辰巳委員  体外受精は最初から最後までいって32万ぐらいです。体外受精などのARTですが、 我々の感覚ではARTがそんな特殊な医療という感じではなくて、普通の治療があり、 普通の配偶者間人工授精があり、その次のステップとして体外受精がある。不妊治療の 1つの延長で、ARTというのが特殊だとはちっとも思いません。ただ、非配偶者の精 子や卵子を使うというのはまた全然違うことだと思いますね。  AIDと配偶者間のIVFを比べれば、配偶者間のIVFの方がずっと、普通の治療 だと思っています。非配偶者間のAIDに関しては大分違ったレベルの治療だと思って います。 ○石井(美)委員  ありがとうございました。治療の面はともかくとして、今、辰巳先生がおっしゃった 養子という点では、実子なのか養子なのかということは考えなくてはいけない問題だろ うと思います。養子も嫡出子です。 ○辰巳委員  そういう問題で言っているのではなくて、要するに2人の間の実子をつくるというレ ベルの治療が不妊治療の原則。だから、精子の悪い人、卵子の悪い人いろんな人がいま す。もちろん精子のいい人と卵子のいい人の子供をつくるのはすごく簡単なんですけれ ども、何か問題があるわけで、それを何とか解消してあげて、2人の間の子供をつくる というのが不妊治療だと理解しています。 ○高橋委員  そうすると先生の今のお考えは、産婦人科学会の会告にプラスAIDの治療を認める という考えですね。 ○辰巳委員  そこで次、養子縁組ということになりますと、これは他人に対して侵襲を加えない範 囲で行うべきだろうなと思うので、だから非配偶者間の精子を使った体外受精までい い。 ○高橋委員  そこまでですね。 ○辰巳委員  ただし、他人に侵襲を与えるところは手を出さない方が、そこまではいかない方がい いんじゃないか。どこかで線を引かなくちゃいけないわけで、この会の全体の流れから いくと、卵子の提供はオーケイと。しかし代理母とかサロゲートホストは多分だめとい うふうな全体の雰囲気ではないかなと思うんで、そこで線を引かなくちゃいけないわけ ですね。どこで線を引くのかというと、他人に侵襲を与えないところということでAI D・非配偶者間の精子を体外受精まではオーケイ、そういうふうに考えています。 ○中谷委員長  不妊のカップルにとっては御自分たちのもので妊娠したいわけですよね。ドネーショ ンを得ないでね。その場合に、ICSI(顕微授精)の問題がありますね。顕微授精に よって生まれるお子さんがこのごろは非常に多いわけですよね。だけどICSIによっ て生まれた子供には、要するに弱い精子を使っているために身心に障害を持つというの は・・・・・・。 ○辰巳委員  この間も先生おっしゃっていましたが、そういう文献、精子ができなくなるという因 子が次の世代に伝わるという可能性はあると思うんですけれども、ICSIで生まれた 子供自身が身心的に弱いというデータは見たことがないんですけれども。 ○中谷委員長  イギリスにあります、きょう持ってきましたけど。 ○辰巳委員  そうですか。また、先生、ぜひ見せてください。 ○中谷委員長  統計がありまして、そういう場合は・・・・・・。 ○吉村委員  身心というのは精神的発達。 ○中谷委員長  精神と身体と両方。 ○吉村委員  両方ですか。 ○矢内原委員  おととしのジュチャクのとき、野田先生のときにエドワードが質問をして、シンガ ポールのヌーさん、彼がこういうこともあるからと言って表を出したんです。そしたら エドワードが出てきて、これはまだ例数が少ないから、一例ひっくり返れば唯一なくな るよと言って、だからデータはあると思いますね。だからICSIのまずい例。 ○中谷委員長  きょうデータ持ってきてますから、コピーしてお持ち帰りを。 ○辰巳委員  常識的にそういうふうな状態、それが一般的な話ということにはなってない。 ○中谷委員長  怪しいということであって、ロングタイムで検査を続けているところだということな んですけれども。 ○田中委員  当院ではICSIで 6,000人ぐらい赤ちゃん生まれているんですけれども、私達に関 してはそういうデータはありません。 ○中谷委員長 日本にはないです。 ○田中委員 毎年、日産婦には膨大なデータが報告されていますから、調査すればデータは出ると 思います。確かにヨーロッパは奇形率がすごく高いようです。日本と下手すると1桁違 うようなデータ出るんですけれども、本来なら受精するはずのない弱い精子をICSI で無理に妊娠させたから、子供に弱いいろんな遺伝的なものが伝播するということがよ く言われますが、まだその辺の因果関係ははっきりしたことがわかってないのでは。私 は結論を出すのは早いような気がします。 ○中谷委員長  はっきりはしないでしょうね。 ○矢内原委員  その点は、込みで外国はやっている、やらないからとか、それは関係なく。 ○田中委員  関係ないと思いますね。 ○吉村委員  田中先生もおっしゃったんですけど、生まれてたかだか20年なんですよ。顕微授精や り出して8年。私たちはほかのところでデータをとっているんですけど、身体的な発育 はほとんど変わらないんです。ただ精神的な発育に関しては、親が大事にしすぎるとい うところから甘えの構造がちょっとあるというようなことは出ているんです。それは5 歳〜6歳までぐらいをとっているんですけど、それはあるんですが、それが有意とは言 えません。しかし、これもたくさんやっているとわからないですね。だから医学的に問 題が明らかになるようなものは出てないと思うんですけど、甘えの構造というのは結構 体外受精児にはあるというのが事実です。 ○矢内原委員  全般的に言える。 ○吉村委員  全般的に言えることですから、4歳とか5歳ぐらいに。でも、それは問題となるほど の問題ではないような気がしますけれども、ただ、まだこれはわからないですね。 ○田中委員  関係ない話していいですか。辰巳先生が言われた夫婦間のものを使ってやるのが不妊 症の治療とおっしゃった。言葉どおりいくと、クローンは夫婦間のものになるといえま す。だんなの体細胞と奥さんの卵であれば、これは夫婦間ですよね。 ○丸山委員  遺伝的には「間」がないんじゃないですか。 ○田中委員  ありません。ただ、今は全くクローンがいいとか何とかそういう話をしているのでは なくて、多分これから何十年後かの先には、基礎実験で現在問題とされている薬が問題 なしと解明されれば、クローンが治療に応用される可能性はゼロではないと思います ね。もし、それが同時系がたくさんやられて認められてくればですね。だから、非常に 確率は低いと思いますけど、1つの方向性として、クローンは今の時代に抹殺されてな くなるものではないような気がしますね。ひょっとすると、10年後、20年後もう一回再 認識されるかもしれない。それは想像できないようなことかもしれないですけど、ちょ っとそういうふうに思います。 ○中谷委員長  高久先生に言わせると10年はかからない、5年ぐらいで可能だろうというふうに言わ れていますよね。言われてから2年ぐらいたっているから、あと3年ぐらいで可能にな るのでしょうかね。 ○石井(美)委員  今度の法律で、個体の産生は禁止する。 ○中谷委員長  禁止ですね。 ○辰巳委員  まもなく、細胞質だけ借りるというふうなことも行われる、核移植するということも 行われる。その様なドネーションが行われるようになるかもしれません。 ○加藤委員  同性愛者の実子というのができるので、厄介な問題起こりますよね。 ○中谷委員長  ドネーションを行えば同性愛の場合でも簡単にできますよね。 ○丸山委員  無性生殖か有性生殖かという違いが大きいんじゃないですか。 ○田中委員  そうですね。その差がなくなってくる可能性がありますね。有性生殖、無性生殖、結 果がもし一緒であればですね。 ○丸山委員  クローンの場合は無性ですよね。一方の形質をそのまま受け継ぐんですね。 ○田中委員  そうです。 ○丸山委員  混ぜ合わせるというところが我々の生殖だったので。 ○田中委員  ただ、哺乳動物以外ではそうやってできている固体がたくさんあるわけですね。これ はわかりませんね。ただ、可能性は私は将来的にゼロではないと思いますね。 ○加藤委員  哺乳動物以外は自然的性転換なんてしょっちゅう起こっているわけですからね(笑)。 ○矢内原委員  同性愛者の話が出ましたけれども、日本ではまだレズビアンやホモのカップルという ものの法的なものは何もないわけですね。社会的な認知はどういう方向になっています か。いずれなりますか。 ○中谷委員長  どうでしょう。 ○田中委員  『ヒューマン・リプロダクション』の3月号にレズビアンの不妊治療というのが載っ てましたね。 ○中谷委員長  そうですか。 ○矢内原委員  カナダの判例では負けているんですよね。それから、体外受精の会告やったときに、 外国系の新聞社の質問がそれだったんですね。なぜ夫婦間でなければいけないかと。同 性ですかと聞いたら、いや、レズビアンだったと。AIDということじゃない。 ○中谷委員長  アメリカだったら、そういう商業的なあれがありますから、注文して未婚の女性でも 妊娠・出産はできるわけですよね。そういう親がいて、生まれた子が大変いいからとい って、兄弟が欲しいといって、また同じ精子バンクに注文して、それで兄弟が生まれた という。 ○矢内原委員  同じ精子を注文できるんですね。 ○中谷委員長  精子バンクごとに、提供者一覧表(値段付き)がありますから。 ○矢内原委員  ランクが。 ○中谷委員長  ええ。 ○丸山委員  それで、同性婚が制度化されていれば、同性愛者の実子嫡出子が認められるわけです ね。 ○中谷委員長  そういうことですね。 ○丸山委員  同性婚を認めた州がありましたね。 ○石井(美)委員  そうですね。単身者でもできるので、問題は2人が親になれるかどうかということで すね。 ○中谷委員長  そういうことですね。 ○矢内原委員  いずれ、そういう時代が来ます。 ○石井(美)委員  是非を論じるには、何を根拠として線引きをするのかということをはっきりする必要 があると思います。 ○丸山委員  論点の最後のところですね、是非。 ○吉村委員  倫理学的に申しますと、AIDが認められている以上は、卵子による非配偶者間の体 外受精受精まではいっちゃいますね。 ○加藤委員  リスクがどれだけ大きいかということは倫理的な判断ではありませんからね。 ○石井(美)委員  他人を害するということは、倫理の問題ですね。 ○加藤委員  それはそうです。 ○辰巳委員  他者危害に対してオール・オア・ナッシングか、程度によっては認められるのか。 ○加藤委員  相手が承諾していれば、それはどんなリスクでもいいということになるのかどうかと いうことですね。 ○吉村委員  例えば、倫理学から見て、辰巳先生のような非配偶者間の体外受精の精子だけ許しま しょうと、卵子は許しませんと。いろいろ医学的な問題点が多く、他者危害の点が問題 点となり得ると。 ○加藤委員  前回も伺いましたけれども、それは整合的なのではないかと思いましたね。 ○吉村委員  それは倫理的には問題ですか。 ○加藤委員  つまり生体肝移植などの場合には、レシピエントの側の患者の生死がかかっている と。卵子を採り出すというのと肝臓を採り出すというのとどっちがリスクが大きいかと いえば、肝臓の方が大きいのではないかと私は言ったわけだけれども、しかし、その結 果、人が死ぬか生きるかという問題が違うのではないかと辰巳先生がおっしゃったわけ ですね。だから、不妊治療の場合に、生体肝移植ほど高い治療効果が認められないとい うことになれば、そこに違いが出るのもあり得ると思うんですね。  ただ、今まではともかく提供者が承諾すれば、提供者それ自身の身体・生命にかかわ るようなリスクではなくて、そして提供者が承諾すれば、それは卵子であろうと肝臓で あろうと同じに考えていいというのが大枠の考え方だろうと思います。 ○吉村委員  生体肝移植の場合にはドナーがわかっているわけですよね。 ○加藤委員  ええ。 ○吉村委員  この場合はドナーは匿名になるということですね。生体肝移植の場合には商業主義は 全くないですね。 ○加藤委員  今のところないですね。 ○吉村委員  今のところないですね。卵子に関しては商業主義というのは避けられないですよね。 ○石井(美)委員  避けられない。 ○吉村委員  避けられなくても集めていただけるというのだったらいいんですけれども。 ○矢内原委員  出産のリスクはどのように一般的には考えるんですか。 ○加藤委員  特にないんじゃないですか。出産は大昔からありますからね。だから出産のリスクは 原因となる行為の段階でリスクはあっても皆わかっているという。 ○矢内原委員  出産のリスクというのは、例えば採卵のリスク、排卵誘発剤を使って卵を採るリスク と、比較じゃなくて、リスクある、なしということであるならば、一般に行われている ことだから。 ○加藤委員  例えば貸し腹などの場合には、引き受けた人自身が子供を産むという新しいリスクを 自分の子供でないために引き受ける形になるわけですよね。だから、その場合に、今ま でですとリスクの程度は生死にかかわりがあるようなものは別としても、そうでない限 りはかなり過激なリスクであっても、当人の同意があればいいという考え方だろうと思 うんですね。ただ、それがいろんな程度によって、判断が分かれてくるというふうにな るのかどうかというのは、まだそんな判断はしっかりできているわけではないだろうと 思います。 ○中谷委員長  この後、貸し腹についての問題が出てきそうですね。 ○加藤委員  そうですね。 ○矢内原委員  根本的にも安全であろうと、生理現象の1つとして出産ということ自体は。 ○加藤委員  そう考えられればですね。例えば肝臓の提供だって、提供者にとって生死にかかわる ようなリスクがあれば、それは認められるかどうかというのは大きな問題ですよね。 ○中谷委員長  丸山委員何か。 ○丸山委員  線引きの議論がどうなるのかしらと思っているのですが。 ○矢内原委員  加藤先生の御意見を伺っていると線引きはないなと思った。 ○加藤委員  ただ、英米流の功利主義の考え方からすると、生体肝移植の場合でもレシピエントの リスクとドナーの利益を相殺して考えれば、全体として利益の方が大きいと、そういう ふうに考えるわけですよね。 ○吉村委員  ということは、ドナーの利益の方がまさっているということですね。 ○加藤委員  ドナーというか、レシピエントの利益の方がまさっている。 ○吉村委員  レシピアントの利益の方が、ごめなさい。 ○加藤委員  だから、その場合には利益の比較考量の結果、より大なる利益が得られるからという ことが正当化の理由になるわけですね。それは必ずしも、いつもそういうふうには使わ れてないと思うんですよ。1つひとつの個別的なリスクについての同意というのは、じ ゃあ、こんな大きな利益があるんだから、あんた同意しなさいよと言えるかというとそ れは言えないわけですよね。ですから、その結果としてみての利益が大きいということ は条件ではあっても、大きな利益が得られるのだから、あなたは同意しなさいとは言え ないんですよね。  ですから、同意については、結果の利益がどれだけあるかということとは独立に、私 にとっての利益ということで考えていいわけで、だから、提供者の側はそれがどんな大 きな利益になろうとも拒絶する権利があるわけですよね。その場合には単純な功利主義 ではないかと思うんですよ。 ○矢内原委員  そこは生殖医療と大きな違いなんですけど、これも私自身が経験した出産にまつわる 話なんですけれども、奥さんが白血病だったんですね。出産してはいけないと言われて いた。ところが2人は話し合って、避妊をやめて子供をつくることをしたんです。実際 に妊娠をした。昔でしたから万難の準備をして出産に臨んだんですけれども、お母さん は出血死、子供は元気。  その後にどういうことが起こったかというと、これは記録に残していいかどうかわか らないんですけれども、奥さん側の親戚から亭主は袋だだきにされた。だけど夫婦2人 は命がけで次の世代をつくりたかったわけですね。この場合の利益と不利益は一体だれ がどういうふうに判断するんですか。 ○加藤委員  だから御当人としてみれば、たとえ母体が高いリスクを負ったとしても、なおかつ子 供をつくることの利益があるというふうに御夫婦は考えたわけですね。しかし、奥様の 側の親戚としてみれば、子供を産むためにうちの娘を殺すなんてとんでもない亭主だと いうことになったわけですよね。その場合には子供を持つことの利益というのは一般的 には言えないわけですね。  ですから功利主義というのは、一般的には比較考量できない利益を考量するという間 違いをしょっちゅう冒しうるわけですよね。 ○矢内原委員  仮に裁判社会のアメリカみたいに、こういうときに奥さん側の両親なり親戚が御主人 が訴えたとしますね。それは判例になって残って、それが前例になるんですか。 ○中谷委員長  その判例というのが、またいろいろ問題ですよね。 ○丸山委員  訴えることはだれでもできますけど、勝てない。当事者が同意して決断してなさった ら、それで終わりだと思います。 ○石井(美)委員  一般的に考えれば、そういう夫婦が不妊治療を求めたときに、不妊治療が認められる かという話になるのだと思います。個別のところまで、ここでは判断する必要はなくて 一般論としてどういう人に治療を認めるかという基準の問題だと思います。個別にどう するかということは、個別の医療者と患者との話し合いの中で決定される事柄だろうと 思います。 ○矢内原委員  委員の先生方はそれぞれの分野の中でいろいろな事例などを目の当たりにしていると 思うんですけど、医師も同じなんですね。それぞれ、それぞれの経験に基づいた1つの 見解をみんな持っておられると思うんですね。不妊の治療に関して、患者さんが望むも のをどういう形で与えて、それがどういうふうになっていくかというのが想像がつかな いことがたくさんある。今まで話したような話はきっと一生に1つあるかないかの問題 であって、でも1回それを目撃して目の前に起こったときには、即インプリントされて 自分の医師としての価値観になると思うんです。  そういうことが客観的に1つ線引きという形で、どういう形で進めていったらいいの か、どういうディスカッションがこれから出てくるのか、本当に想像がつかなくなった のでちょっと伺ったんです。極端な例ですね。 ○加藤委員  例えば、ある何かを許容しても、それは法律的に禁止しないという意味なので、その 場その場でもって、私は嫌だという人に向かってやれと言っているわけではありません から、法律的には一種の許容基準を決めているわけですよね。だから個別的にはあくま で御当人は、受ける、受けないの自由は認めるわけですから、その辺はどこまで許容し ていいかという議論だろうと思いますけど。 ○矢内原委員  出産というのは、私は女性が命をかけてやっていることだと思うんですね。それでも 子供が欲しいんだという母親の気持ちはわかったと同時に、出産というのは女性が命を かけているべきことだという印象を持ったんですね。それは今までずっと続いているし 産婦人科医としての1つのポリシーの中に入っていますね。もらい子の話も精子の提供 余りAIDはやったことがないのでわかりませんけれども、これから遭遇していく、提 供や代理母や貸し腹ということ自体の中に、そういう過去の体験が多分皆さんそれぞれ 違うのはそういうところにあるのだと思うんです。  ですから辰巳先生の言うことすごくよくわかるし、吉村先生の言うこともわかるんで すけれども、前から申し上げているのは、人の生殖は何かと。2人の子供という辰巳先 生の意見はすごくよくわかるんですね。2人の子供だったら産むというステップを別に 持っていけば遺伝子的にも貸し腹が一番いいんです。だから、そこには線は引けないの ではないかと。代理母なぜいけないのかということになってしまうんですね。それをい つも私は申し上げているつもりだったんですけれども。だけど、一方、こういう技術が あって、こういうふうに安全になってきたのだから、それを与えてあげるのは、これは 医療側の1つの国民に対する義務ではないか。 ○加藤委員  一般論としては、お2人から自然な形で出産するのがいいというのは当たり前という か当然のことなんですよね。ただ、どうしてもそういう条件では子供ができない人の子 供をつくりたいという気持ちが不健全だとは思えないんですよね。だから、そういうの に対して、ある一定の条件があれば、なるべく許容してあげた方がいいのではないかと いうことですけれどもね。 ○矢内原委員  そうすると一族という儒教的な思想から考えると、父親の家系、または女房の家系と いうものの遺伝子が少しでも入った方というのが人間的な気持ちとしてわかりますよ ね。 ○加藤委員  おかしいのは儒教社会というのは養子認めていたんですね、日本では。 ○矢内原委員  この間の話だと、韓国では今の養子制度でも親戚でなければいけないんですよね。 ○加藤委員  そうですね。条件があるでしょう。 ○矢内原委員  ある人は、昔ですから子供をつくることがどうしてもできないから、あなたには子供 ができませんと。御主人は、自分の精子はちゃんとしているんですけれども、自分の女 房でなければ産んでほしくないという人がいた。もらい子をしたいと。孤児院みたいの があって、どういう手続をとるかわからないんですけれども、そのとき私に、先生、行 って、その子を見てくださいと言うんですね。あなた方の子供なんだから、あなた方行 きなさいと言ったら、いや、先生、お医者さんなんだから一緒に行ってくださいと。昔 ですからどこへ行ったか忘れましたけれども、子供がたくさんいたんですね。そのとき に子供を自分が抱いて、先生抱いてみてくださいと。それで私は怒ったんですね。品物 じゃないよと。そういうことで、これがいい、あれがいいと言っている限り、あなた方 には子供を持つ資格がありませんと、非常にそのときに怒った記憶があります。  それは自分の体験で、ちょうど私は長男を亡くした後だったもので、すごくそのこと の印象が強かったんです。ですから、それぞれの体験を持った人が、一般のこういう議 論で、また、これからの生殖医療を国家が決めていくことに本当に自分に資格があるか ななんて反省をしていますね(笑)。 ○石井(美)委員  そう言われてしまうと・・・・・・。 ○矢内原委員  皆さん正しい、私に聞こえるのはみんな正しいけど、やっぱり皆さん違う。 ○吉村委員  いろんな意見があってもいいと思うんですけど、最近の不妊のカップルというのは、 私は10年前と随分変わってきたような感じがするんですね。例えばAIDに依頼されて 来られる方は、御主人が精子がない方しか私たちはやらないんですけど、最近この5年 から3年ぐらいは顕微授精が非常に行われるようになってきたんですね。顕微授精5回 やったから、できないからAIDをしてくれという感覚。私はもう疲れたとおっしゃる わけですね。だから御主人が精子があるにもかかわらず顕微授精を何回やってもできな いからAIDしてくださいよと。そういう感覚が、ちょっと不妊の患者さんも変わって きているのではないか。一部では非常に不妊を悩み、医者は何をしているんだと怒られ る人もちろんおられるんですけれども、40歳以下のカップルも随分昔とは違ってきたの ではないか。  それはあくまでもそういう手段があるなら、昔だったら、どんなことをしてまでも、 御主人の精子で何回やってでもやろうというようなところがあったんだけれども。 ○加藤委員  顕微授精が先に技術開発されていたら、恐らくこれはまことに見事な我が家の家系の 現象であると。 ○吉村委員  安易なAIDを望まれるカップルも現実面として出てくる。 ○石井(美)委員  夫の方もAIDを求めるのですか。 ○吉村委員  夫の方はしぶしぶそれでいいという。奥様から言っていた方には絶対AIDは許可し ないように最近しています。こういうものが許されてくるような状況になると、意外と 簡単に第三者の精子による体外受精というのも、顕微授精も余りやらないでこういうふ うになっていくだろうと。卵子に関しても、あなたの場合、38で、卵のとれ方も少ない し、もらいましょうか、といって体外受精する。それは患者自身も、すべてとは言いま せん。少数の方にはそういう方が増えてくるのではないか。  私が一番印象的だったのは、鷲見さんの最後にいろんなことを言っている言葉です よ。代理母は、要するにペット感覚というのが現実面として結構あるんですよ。実際に おなかを痛める。赤ちゃんがだんだん大きくなって、そして産むというのが女性の本能 だと思うんですが、鷲見さんも嘆いておられたけれども、そういうのがなくなっていく のではないかと。片や妊娠しておなかか大きくなっているのに旅行を繰り返して夫婦で 楽しんでいると。その子供をもらえばいいという感覚とか、一部の方にはそういう感覚 も出てきている。  そういうようなことも、この非配偶者間の体外受精を考えていく上においても、医学 的な面ももちろん大変なことありますけれども、その辺も社会的な問題になり得るので はないかと私は思うんです。 ○辰巳委員  この1カ月ぐらいの間に、うちの外来に来られた早発卵巣不全の疑いが強くて、その うち、卵子提供が必要となるかもしれない患者さん8人ぐらいに、皆さんに、もしこう いうふうな技術が許可されるようになったら受けますか、ちょっと教えてくれますかと いうようなことを聴きましたら、「すぐに利用したい」という人はだれもいらっしゃい ません。「親がそういうふうなことを言って最近言っています」という方が1人。「近 親者の卵子だったら考えてもいい」というのが2人。早発卵巣不全の方でもすぐに他人 の卵子をというふうに考える人は余り多くないのではないか、私はそういうふうな印象 を持っています。 ○田中委員  辰巳先生の意見は多分それは治療暦が短いからだと思います。早発閉経をホルモン検 査で診断できても、その後ホルモン治療を1〜2年繰り返すのが一般的です。かねがね 希望でも、まずはやってみる。そして腹腔鏡下の卵巣生検で原始卵胞が見当たらない。 これでは何をやっても妊娠は不可能と言われ、本当の自分の病体を認識する。そしてど うしても赤ちゃんが欲しいならば卵をもらうしかない、という結論に達するわけです。 最初からだれだって第三者のものを欲しいという人はいないと思います。  矢内原先生、吉村先生、辰巳先生のお話は、産婦人科の医者の中でも代表する意見だ と思います。ただ、私の意見も代表する意見だと思って聞いてほしいんですけど、私は 第三者の配偶子の提供は必要だと思います。実際に長年治療されて、十何年という方も 我々は見ていますし、そういう方のお子さんが欲しいという現実を目の前にしますと、 やはりこれは治療として認めていただきたいというのが本心です。確かにそういう簡単 に第三者のものを使ってという危惧の念をお持ちの方もおられますが、そうじゃない産 婦人科医もいるということをぜひ頭の中へ入れておいていただきたい。 ○加藤委員  提供者との関係で非常に商業化というか、実費といっても、事実上実費ではなくて、 商品化に近いような影響が出てくるということについては、先生はどうお考えなんです か。 ○田中委員  私はやはり先回言いましたように、20〜30万というお金ですね。これは希望者の数が 増えれば避けられないと思います。1人、2人であれば、家族とか友達でいいと思うん ですけど、将来的にこの治療を継続していく上では匿名のドナーが必要だと思います。 その場合に無償で卵をどうぞ使ってくださいとおっしゃる方は非常に少なくて、やはり 20〜30万ぐらいのお金を実費としてあげるということは必要ではないかと思います。 ○加藤委員  今まで医療の世界では、例えば、血液にしても検体にしても、ともかく人間の体は商 品化しないというかなり一般的な傾向があったと思うんですね。ところが最近エンブリ オーニックステームセルの開発なんかでも、血液などでも遺伝子調査をするのに、アメ リカではいわば情報をすべて提供するけれども、そのかわりお金をもらうという、サン プルが商品化されて転売もされているという状況になってきているんですね。そうする と身体の商品化というのがいろんなレベルで進んできているんですね。  例えば商品化とは逆方向で、無償提供型がどこかで進んでいて、そのバランスをとっ ていくというのではなくて、すべてを商品化していくという傾向はちょっと危ないので はないかなという気もするんですけれどもね。 ○田中委員  理想はやはりボランティア精神で、いいですよという方がたくさん出てきていただけ ればね。イギリスのボランティアベースも崩れかけていますよね。長い目で見ると、余 りきれいごとばかりではなくて、そういう部分も最初から頭の中へ入れておいた方がい いのではないでしょうか。 ○石井(美)委員  商業主義が避けられないならば、やめるというのも1つの判断だと思います。 ○田中委員  商業主義と言えますか。私が思っている商業主義というのは、アメリカみたいにトッ プモデルの卵は幾らだとか、ノーベル賞受賞者とか、 100mを何秒で走る人が幾らとい うランクがありますよね。こういうのを商業主義だと思うんです。そうではなくて、気 持ちとしてはいいですよと。ただ、それだけの負担をこうむるので、それに見合うだけ のものを払うということは私は商業主義に入らないと思っています。 ○石井(美)委員 若い女の子がアルバイトとして、月に20〜30万もらえるとすれば。 ○加藤委員 15歳の少女がね(笑)。 ○石井(美)委員 と考えるとかなりの金額ですね。 ○田中委員 それに見合うだけのリスクは負うと思いますよ。 ○石井(美)委員 十分な判断能力のない人を利用することになる危険性はないですか。 ○田中委員 それはあるでしょう。 ○高橋委員 商業主義という言葉ですが、一体幾らまでの支払いなら商業主義・商品化であって、 謝礼はどの程度までが謝礼という。そういう1つの定義はないと思います。図書券だっ たら謝礼であってお金であれば商業主義とか、そういう規準がないとするとやはり嫌で あれば拒否することになるのではないかと思います。ただ、常識の範囲というのが1つ ありますね。どこまでが常識か、これも非常に難しい。  先生は20万とおっしゃっていますが果してそれでよいのか、それを厳密に議論すると やはり血縁関係がよいとなって元に戻ってしまう。あるいは特別な友人関係。これはあ る程度コンセンサスというのでしょうか、そういうので決めておいて、或る程度の謝礼 をプラスするという形で決めた方がよい。 ○矢内原委員 そうすると匿名性は崩れますね。 ○田中委員 そういうことになります。 ○高橋委員 私は匿名は、インフォームド・コンセントがしっかりしていれば、ある程度崩れても 仕方ないと思っています。ましてや後で出自を知る権利とかいろいろなものがかみ合っ てきますとね。 某私立病院でIVFで妊娠・出産した方で、自分から名乗り出て本を書いた人もおり ます。中には顕示欲が非常に強くて、スター的な、何か脚光浴びるのが好きという人も いますし、テレビに出た方もいます。こういう方法で夫婦間で子供をつくったが、私は これだけ努力した。これをみんなに知らせたい、そういう方もいます。  ですから、必ずしも異なる規制だけでなく、ケース・バイ・ケースで考えざるを得な い。 ○中谷委員長  精子の提供については、慶應では今1万人とおっしゃってましたね。 ○吉村委員  はい。 ○中谷委員長  その程度なら、別に商品化というのは余り考えてないと思いますが、卵子については 20万ぐらいですか。 ○吉村委員  アメリカは大体2,500ドルですね。5,500ドルが一番高いところで、その辺の幅はあり ます。だから、田中先生がおっしゃった20万〜30万というのは、特に高い値段ではない ような気がしますけれどもね。 ○高橋委員  15歳の子供にとっては20万は高額な金額なんです。エリートのコースの女性の方だっ たら、20万はとんでもない、100万だというかもしれませんし、どこまでも謝礼というの は難しいですよ。 ○中谷委員長 ですから非常にその辺のところが難しいわけでして、恐らくここで御意見が一致する ことにはならないだろうと思うんですね。  時間がそろそろなんですけれども、結局はワーキンググループで、精子、卵子、受精 卵の提供について、たたき台をつくっていただくことになっていますが、それは矢内原 委員、吉村委員、丸山委員、石井美智子委員ということになっていますが、加藤委員に もぜひ入っていただいて。 ○加藤委員  私はほかの仕事がいっぱいあるので委員には無理だと思います。 ○中谷委員長 委員でなくていいですから、アドバイスをしていただきたいというふうに思います。 ○加藤委員 アドバイスというには、どこにも属してない人間という感じですよね。法律家でもな ければ。 ○中谷委員長 日程については事務局で調整をお願いをいたしますので、よろしくお願いいたしま す。  それから先ほどお目にかけました「産婦人科の世界」の本ですけれども。             (「産婦人科の世界」の本紹介) ○中谷委員長  ほかに何か御発言、石井トク委員どうぞ。 ○石井(ト)委員  ワーキンググループの方にお願いしたいのですけど、先ほど矢内原先生もおっしゃい ましたが、妊娠・分娩というのは必ずしも自然というとらえ方は間違っています。本当 に命をかけているという言葉で先生がおっしゃいましたが、まさにそうなんです。妊娠 経過中は母体に適応するように体が変化しますけど、それはリスクの状態にあるわけで す。さらに出産というのはそれ以上にリスクが加わります。また胎児が大きくなってき ますと、それに伴って母と子の母子関係という精神的な問題も生じてきますので、そう いう側面をぜひ考えておいていただきたいなと思います。 ○中谷委員長  課長の方から何か。 ○母子保健課長  1点だけお願いしたいのですが、きょう日弁連の方からの参考資料を先生方にお配り いたしましたが、これをいただいた際に、もし御希望があれば、この委員会に説明に伺 いますよという申し入れがされましたので、どういう委員会の御結論になるか、もし来 ていただくということであれば、御連絡いたします。 ○吉村委員  聞いた方がいいと思いますけど。 ○母子保健課長  そうであれば、御連絡いたします。いつごろがよろしいでしょうか。 全体会議の次回がいつになるかわかりませんが、ワーキンググループで案をつくってい ただいたのを次回全体で御議論いただくというようなスケジュールなんですが、そのと きに合わせておいでいただきますか。 ○吉村委員  全体会の方がいいと思いますけれども。 ○母子保健課長  別な機会にお願いすることにいたしましょうか。ワーキンググループの議論とは別な ときですね。次々回ぐらいにしましょうか。 ○中谷委員長  前の方がいいです。 ○吉村委員  前の方がいいです。 ○母子保健課長  わかりました。では次回にしましょうか。お話しいただいてワーキンググループやり ますか。                 (次回日程調整) ○母子保健課長  基本的に一番手は4月1木曜日ということでお願いすることにして、万が一そこがだ めな場合には、18日の加藤先生の時間を伺った上で、場合によっては18日の火曜日午後 遅い時間からということでお願いするかもしれません。田中先生には申しわけありませ ん。その2つの案で、日弁連にお願いしてお話をいただいて、次回はそういうことでお 願いいたします。 ○石井(美)委員  その次の日程も。                (次々回日程調整) ○母子保健課長  6月6日3時〜6時ということでお願いいたします。  ワーキンググループの先生方、日程だけ調整させていただければと思います。事務局 からはそういうことです。ありがとうございました。 照会先:児童家庭局 母子保健課 03−3503−1711(代表) 椎葉(内線:3173) 小林(内線:3178)