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平成12年12月27日
1.経緯
標記病院モニター報告制度は、各種家庭用品に係る消費者の健康被害事例を継続的かつ広範に収集し、健康被害の実態を把握するとともに、家庭用品の安全対策を一層推進することを目的として、昭和54年より実施され、現在皮膚科領域8病院、小児科領域8病院の協力を得ている。また、平成8年度の報告からは(財)日本中毒情報センターが収集した吸入事故等の情報も併せて収集している。今般、平成11年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。
2.概要
本制度は、モニター病院(皮膚科、小児科各8施設)の医師が家庭用品等による健康被害と思われる事例(皮膚障害、小児の誤飲事故)について、また、(財)日本中毒情報センターが収集した家庭用品等による吸入事故等と思われる事例について、それぞれ厚生省に報告する方法により行っているものである。
平成11年度の報告件数は、皮膚科180件、小児科797件、吸入事故等569件で合計1,546件であった。なお、死亡事例は報告されていない。
(1)家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告
(2)小児における家庭用品等の誤飲事故に関する報告
(3)(財)日本中毒情報センターからの吸入事故等に関する報告
3.おわりに
家庭用品に起因する健康被害を防止するためには、消費者は製品情報に注意すること、事業者は製品の供給に先だって安全性の確認を十分に行い、安全な製品の供給に努めること、また、販売時には製品の適切な使用方法について、確実に消費者に伝わるよう努力することが必要である。
ここ数年、報告件数において上位を占める家庭用品の種類はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。また、消費者の清潔志向の高まりや利便性の追求から、抗菌剤を使用した家庭用品や、よりコンパクトな濃縮タイプの洗剤など、今までにない化学物質が身の回りに次々と普及してきており、新たな健康被害が生じていないか、特に注意すべき事例は無いか等、引き続きモニターしていくことも本制度にかけられた役割である。最近、家庭用品の分野にも新しい製品が登場するようになり、使用の歴史が浅い化学物質を含有する製品も数多く開発されてきていることから、それらの安全性について引き続き注目していく必要がある。
照会先 厚生省生活衛生局企画課 生活化学安全対策室 室 長:川原 章(2421) 補 佐:吉田 淳(2423) 技 官:平野英之(2424) 電話代表:[現在ご利用いただけません]
平成12年12月27日
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室
はじめに
技術の進歩や生活慣習の変化に伴い毎年新たな家庭用品が登場してきている。これらの製品の安全性については事前に十分考慮されるべきものではあるが、当初は想定し得なかった新たな健康被害が生じてくる可能性は常に存在する。健康被害防止の観点から、現状の変化をモニターし迅速な対応を行うためのシステムを構築することは意義深いことであろう。その為の制度の一つとして、家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度が昭和54年5月から実施されており、今年で21年目を迎えた。本制度により、日常生活において使用している衣料品、装飾品や時計等の身の回り品、家庭用化学製品等による皮膚障害ならびに小児による誤飲事故等の健康被害について、医師の診療を通じて最新の情報が収集されている。また、報告された健康被害の実態は専門家により検討され、その結果は広く公開されている。これにより、健康被害の情報収集と、消費者・事業者への注意や対策の喚起を行ってきているところである。平成11年度までの21年間に17,200件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されてきている。
本制度の実施に当たっては、モニター病院として皮膚科領域8病院(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学大幸医療センター及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域8病院(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、埼玉社会保険病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の協力を得ている。
また、平成8年度からは(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故及び眼の被害等に関して同センターで収集した情報を提供していただいている。
今般、平成11年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。
報告結果(総括)
報告件数の変動について
平成11年度の報告件数は1,546件であった。
そのうち家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告は180件であり、報告件数は前年度(237件)より減少した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因としてあげられている報告については、家庭用品の種類別の集計ではおのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は209件となった。ここ5年間ののべ報告件数の推移をみると、最低が平成9年度の168件、最高が平成8年度の318件であり、その間増減の傾向は一貫していない。平成11年度の報告数は前年度比の約76%に減少したが、前後の報告数の増減と比較すると変動の範囲内である。
小児の家庭用品等の誤飲事故に関する報告は797件であり、報告件数は前年度(747件)よりわずかながら増加した。ここ5年間の推移を見ると最低は平成10年度の747件、最高は平成9年度の871件であった。
また、(財)日本中毒情報センターに寄せられた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は569件であり、報告件数は前年度(591件)に比べてわずかながら減少した。件数については、幅広く被害情報を収集するという観点から前年度より液が眼にはいるなどの眼の被害も集計に加えたため、平成10,11年度の報告数は8,9年と比較して多くなっている。
なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品等によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。
1. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告
(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向
原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、洗剤等の「家庭用化学製品」が78件でもっとも多く、次いで装飾品等の「身の回り品」が73件であった(表1)。
家庭用品の種類別では「洗剤」が58件(27.8%)で最も多く報告された。次いで「装飾品」が38件(18.2%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が14件(6.7%)、「時計バンド」が9件(4.3%)、「めがね」が8件(3.8%)、「下着」と「ベルト」が7件(3.3%)の順であった(表2)。
前年度と比べると「家庭用化学製品」と「身のまわり品」の順位が逆転していたが、これは「身のまわり品」に分類されている品目の報告数が減少(眼鏡(17→8)や時計バンド(15→9)等)したことを受けたものと思われる(表1)。
報告件数上位10品目について平成10年度と比較すると、「洗剤」は報告件数は減少したが全体に対しての割合は1ポイント増加し、「装飾品」は報告件数が2件増え、全体に対する割合も4ポイント増加した。「ゴム・ビニール手袋」の報告件数は25件から14件に減少し、全体に対する割合も3ポイント減少した(表2)。
注 | 「洗 剤」: | 野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤 |
「洗浄剤」: | トイレ、風呂等の住居用洗浄剤 |
上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向からみると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成11年度も同様であった。
(2)各報告項目の動向
患者の性別では女性が132件(73.3%)と大半を占めた。20代の女性は49件と全体の27.2%を占めた。前年度と比べると4ポイントほど減少しているが、依然として最も高い割合を占めた。この49件中26件はアレルギー性の接触皮膚炎で、さらに13件が金属アレルギーによるものであった。
障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が94件(45.0%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」38件(18.2%)、「KTPP*型の手の湿疹」が23件(11.0%)、「湿潤型の手の湿疹」が19件(9.0%)、であった。それぞれの報告件数は若干減少していたが、全体に占める割合はほとんど変動していなかった。
手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激によりおこる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。
症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると117件(65.0%)であった。なお、本年も「不明」が42件(23.3%)あった。だいたい2割程度の転帰不明報告数が例年続いているが、これは、症状が軽快した場合に受診者が自身の判断で途中から通院を打ち切っているためと考えられた。
(3)原因製品別考察
患者 | 36歳 男性 |
症状 | 幼少時よりアトピー性皮膚炎あり。平成3年頃から皮疹が全身に広がり悪化。その後も増悪・寛解を繰り返す。 |
障害の種類 | 刺激性皮膚炎 |
パッチテスト | 洗濯用洗剤(±(本邦基準)),刺激性反応 |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> 通常は陰性の濃度である0.5%洗濯用洗剤のテストで刺激性反応を認めた。 アトピー性皮膚炎でバリアー機能が低下し刺激に対する閾値を低くしているためと考えられる。 |
患者 | 34歳 女性 |
症状 | 1ヶ月前より右手掌を中心に落屑が出現。左手掌にも徐々に拡大し、亀裂を伴うようになった。 |
障害の種類 | 手の湿疹(KTPP型) |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> 季節や水仕事の頻度が増えたことも要因としてあげられるが、洗剤の1回使用量も多く、不適切な使用による皮膚障害と思われる。 |
患者 | 26歳 女性 |
症状 | 金属のピアスをすると痒くなってくることがある。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
パッチテスト | 金(+) |
治療・措置 | ピアスの使用中止 |
<担当医のコメント> 金のアレルギーによる接触皮膚炎である。発汗する時期に金製品が直接皮膚に接触しないよう心がけると同時に、金製の義歯を口の中に使用しないよう注意が必要。 |
患者 | 27歳 女性 |
症状 | ネックレスをつけた後、同部位に一致して頸部に紅斑、落屑、浮腫を生じた。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
パッチテスト | ニッケル(+),水銀(+),コバルト(+) |
<担当医のコメント> ニッケルアレルギーによる接触性皮膚炎である。発汗するときにニッケルを含む金属アクセサリーを直接皮膚に接触させるような着用の仕方をさけること。衣服の上につけるのなら大丈夫と考えられる。 |
患者 | 66歳 女性 |
症状 | 1年以上前から両手指、ことに指先に落屑、亀裂あり。治療を受けたが治癒しない。 |
障害の種類 | 手の湿疹(湿潤型) |
パッチテスト | ゴム手袋(表,裏)(+,+),チウラムミックス(+),メルカプトミックス(+) |
治療・処置 | ステロイド剤外用,ゴム手袋使用中止を指示 |
<担当医のコメント> ゴム手袋を着用して清掃作業をしていたが、1年以上前から手背、指等に落屑性紅斑を生じた。ステロイドを外用したり、ハンドクリームを使用したりしていたが、軽快せず受診。ゴム手袋による接触性皮膚炎を考えてパッチテストを実施したところ、ゴム手袋は表、裏とも陽性を示したが、他の洗剤、クレンザー成分は陰性であった。ゴムの手袋を使用を中止し、ステロイド外用、プラスチック手袋への切り替えで治癒した。 |
患者 | 46歳 女性 |
症状 | 20年前から手の湿疹あり。半年前から悪化。仕事の時はビニール手袋をしている。 |
障害の種類 | 手の湿疹 |
パッチテスト | ビニール手袋1(表,裏)(++,+),ビニール手袋2(表,裏)(+,+) |
治療・処置 | ステロイド剤内服,外用 |
<担当医のコメント> ビニール手袋の接触皮膚炎である。原料、可塑剤の検査は未施行。ラテックス手袋だけでなく、ビニール手袋による障害も決して少なくはない。かなり重症だったため、ステロイド剤内服を必要とした。 |
患者 | 56歳 男性 |
症状 | 約15年前から時計の革バンド、カメラの革ベルト、革のかばんなどに触れるとかぶれるようになった。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
パッチテスト | ニッケル(+),クロム(+?) |
治療・処置 | ステロイド剤外用と革製バンドの変更を指示 |
<担当医のコメント> 革製品の接触皮膚炎で、クロムに陽性反応を認めたが、使用革製品がクロムでなめしてあるのかは不明である。染料の可能性はテストしていないため不明である。 |
患者 | 62歳 男性 |
症状 | 5日前から両耳介後面上部から側頭部の眼鏡の耳にあたるつるの先端部分(先セル)に接触する部位に、軽度に痒みを伴う湿潤した紅斑を生じてきた。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
パッチテスト | 先セル,Disperse Orange(+),Disperse Blue3,R-225(++) |
治療・処置 | 抗アレルギー剤の内服、ステロイド剤外用、眼鏡フレームの変更を指示 |
<担当医のコメント> 5日前から眼鏡を掛けると両耳介後面上部から側頭部の眼鏡の耳にあたるつるの先端部分(先セル)に接触する部位に紅斑を生じ、痒みを伴うようになった。パッチテストを行ったところ、先セルを削ったものと染料に陽性。先セルの染色に使用されている染料が原因と推定。 |
患者 | 57歳 女性 |
症状 | 新しい下着を1日前に着たところ痒み、紅斑。ブラジャーが当たっているところはさけている。 |
障害の種類 | 刺激性皮膚炎 |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> 刺激性皮膚炎であり、原因の可能性として繊維処理剤が考えられる。新しい下着を着るときには洗ってから着ること。 |
患者 | 23歳 女性 |
症状 | 5年ほど前からへそ周囲に痒みのある皮疹出現。近医で外用剤を処方されるが軽快せず放置していた。ベルトはいつも同じものを付けていた。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
パッチテスト | ニッケル(+?) |
治療・処置 | 抗アレルギー薬内服、ステロイド剤外用、バックルの使用中止を指示(皮膚への直接の接触を避ける) |
<担当医のコメント> ニッケルアレルギーによる接触皮膚炎である。バックル部分が直接皮膚につかないように着用することが必要である。また、発汗が激しいときにはシャツを通して起こる可能性もあるので使用を避けること。 |
患者 | 66歳 女性 |
症状 | 水泳でゴーグル着用。接触部位(両こめかみ)に1週間ほど前から爪甲大の浸出性紅斑が現れ、痒みを伴う。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> ゴーグルは黒い色のゴム製。目の周りは出来ずにこめかみの部分に出現したゴム手袋を使用しても皮疹は出現しない。ゴーグルに使用されている合成ゴム(クロルプレンゴム)が原因と推定される。 |
患者 | 60歳 男性 |
症状 | 数日前にゴルフに行ってから両手掌に紅斑が出現し、徐々に拡大。基本的に両手袋を着用するが、直接グリップを握ることもある。 |
障害の種類 | 手の湿疹(湿潤型) |
パッチテスト | ゴルフのグリップ(+?),クロム,コバルト(+) |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> 手掌、手指屈側の主としてグリップに接触する部位に一致して皮疹があったため、ゴルフグリップによるアレルギー性接触皮膚炎を疑った。パッチテストではグリップが72時間後に +? であり、その後の判定は追えなかったが、クロムで陽性を示したため関係していると考えた。 |
患者 | 19歳 女性 |
症状 | 7日前から左手首に痒みのある紅斑。その2日前から2日間左手首にお香の匂いのする数珠を朝から夕方までつけていた。以後は使用をやめている。 |
障害の種類 | アレルギー性接触皮膚炎 |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> 9日前より左手首に朝から夕方まで数珠(小型)をしていた。7日前に、その部位に一致して痒みを伴って紅斑を生じたので以後数珠はしていないが、紅斑は治癒せず、受診した。外用ステロイド剤の塗布で7日後には治癒した。数珠は木製でお香の匂いがしたが、木の種類は不明。 |
患者 | 32歳 女性 |
症状 | アロマオイル5〜6滴をバケツにたらし足浴した。ヒリヒリ感あり。翌日に両下腿下方に紫紅色斑出現。 |
障害の種類 | 化学熱傷 |
治療・処置 | ステロイド剤外用 |
<担当医のコメント> バケツ等にたらして使うと水面に膜を作ってしまう。皮膚に直接オイルが接触するとよくないので、使用書の注意を守って使用すること。 |
(4)全体について
平成11年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全180件のうち、94件はアレルギー性接触皮膚炎であった。このなかでも、装飾品、眼鏡、ズボンのボタン、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた金属アレルギーが約4割を占めた。ここ数年上位4品目の内容は変わっておらず、これらで全体の半数以上を占めていた。
家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどである。家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用は極力避けることが望ましい。故意、もしくは気付かずに原因製品の使用を継続すると、症状の悪化をまねき、後の治療が長引く可能性がある。
症状がおさまった後、再度使用して同様の症状が発現するような場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。
また、使用法の誤りから障害が起こった事例も依然見受けられており、これらの被害を避けるためにも、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。
2. 家庭用品等に係る小児の誤飲事故に関する報告
(1)原因家庭用品種別の動向
小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が360件(45.2%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が122件(15.3%)、「玩具」が56件(7.0%)、「金属製品」が43件(5.4%)、「プラスチック製品」が37件(4.6%)、「洗剤・洗浄剤」が27件(3.4%)、「電池」が24件(3.0%)、「硬貨」が23件(2.9%)、「化粧品」が19件(2.4%)、「食品」が13件(1.6%)であった(表4)。
報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変わっていなかった。その他では、プラスチック製品の誤飲の報告が漸増傾向にある可能性があるので、これについては引き続き今後の動向に注意が必要である。
(2)各報告項目の動向
障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが79件(9.9%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが41件(5.2%)となっていた。これらには複数の症状を認めた例も含んでいたが、全体として症状の発現がみられたものは141件(17.7%)であった。本年度も幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが26件あった。それ以外はほとんどが「帰宅」となっていた。
誤飲事故発生時刻については、例年同様午後5時〜10時の間に発生件数が多い傾向にあり、この時間帯の合計は432件(55.9%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)であった(図3)。
誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。
(3)原因製品別考察
* : | 「タバコ」 | :未服用のタバコ |
** : | 「タバコの吸い殻」 | :服用したタバコ |
***: | 「タバコの溶液」 | :タバコの吸い殻が入った空缶、空瓶等にたまっている液 |
患者 | 11ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | タバコに歯形があり1cmほど欠けていた。周囲にも葉が散乱。 |
来院前の処置 | 茶を飲ませた |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | 胃洗浄(タバコの葉あり) |
転帰 | 帰宅 |
<担当医のコメント> 11ヶ月の症例。この月齢では室内の素早い移動が可能になり、まず口に入れる時期である。特にタバコ誤飲は防げるはずの事故なので気を付けておく必要がある。 |
患者 | 6ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 母親が目を離した隙に床にあったタバコの灰皿から吸殻を口に入れていた。 |
来院前の処置 | 水を飲ませ口内を洗った |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳5ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | ジュースの残りにタバコの吸い殻を捨てていたところ、ストローで飲んだ。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 3〜4時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳9ヶ月 男児 |
症状 | 目がうつろ |
誤飲時の状況 | タンスの引き出しに入っていた薬を3歳の兄と共に取り出して飲んだ。錠剤が散乱。口の中にもあり。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | X線検査,胃洗浄,点滴 |
転帰 | 入院(2日) |
患者 | 2歳1ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 冷蔵庫からシロップタイプの風邪薬を出して15mlくらい飲んだ。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | GOT,GPT検査,吐根シロップ,胃洗浄 |
転帰 | 入院(3日) |
患者 | 8ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | おもちゃを床にたたきつけて壊し飛び出した電池を口の中に入れた。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 1.5〜2時間未満 |
処置及び経過 | X線検査で異物確認 |
転帰 | 帰宅、翌日X線検査で結腸内に降りたのを確認 |
患者 | 1歳3ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 兄にもらったあめを飲み込んだら「うーっ」といって直後に泣いた。 |
来院前の処置 | 逆さにして背中をたたいた |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳8ヶ月 女児 |
症状 | チアノーゼ、意識障害 |
誤飲時の状況 | 兄がグミキャンディーを与えた。突然チアノーゼが出現し、ぐったりして反応が無くなった。徐々に反応改善。 |
来院前の処置 | 口の中に手を入れ出そうとした |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | X線検査 |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳9ヶ月 男児 |
症状 | ふらふらしていて息が酒臭い |
誤飲時の状況 | 水割りの焼酎をおいたまま電話に出ている間に一気に飲んだ。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | 点滴 |
転帰 | 帰宅 |
また、食品ではないが、食品の付属物や関連器具による誤飲例も下記のように見られている。
患者 | 7ヶ月 男児 |
症状 | 咳、喘鳴、軟口蓋に直径3cm大のセロファンが張り付いていた |
誤飲時の状況 | 咳き込みが続き、遊んでいた周りにセロファンのくっついたお菓子があった。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 2〜3時間未満 |
処置及び経過 | なし(セロファン除去) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳4ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | ケーキに同封されていた保冷剤(ゼリー状)の内容物を食べているところを兄が発見。 |
来院前の処置 | 牛乳を飲ませる |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | 胃洗浄 |
転帰 | 帰宅 |
<担当医のコメント> 保冷剤の種類によっては人体に有害なものがあり、注意が必要である。 |
患者 | 3歳3ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | シリカゲルをあめと間違えて食べた。 |
来院前の処置 | 牛乳を飲ませ吐かせようとした(吐かず) |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳10ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | ヨーグルトを食べていてプラスチックのスプーンのかけらを飲んでしまった。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(異常なし) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳4ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 磁石で遊んでいて飲み込んだ。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(胃内に直径1cmの磁石) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 3歳4ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 硬貨を食べたといって泣いた。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | X線検査(胃内にあり) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 3歳11ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | パチンコ玉をなめたり、しゃぶったりする間に飲み込んだ。 |
来院前の処置 | 吐かせようとした(吐かず) |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(パチンコ玉あり) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 11ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | クリップが散乱していてその上で遊んでいた。目を離している間に口の中に入れた。 |
来院前の処置 | なし。 |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(胃内にあり) |
転帰 | 帰宅 |
<担当医のコメント> 11ヶ月の症例。この月齢では指先で小さなものをつまめるようになるため口にはいるような大きさのものは手の届くところに置かないようにする必要がある。 |
患者 | 4歳5ヶ月 男児 |
症状 | 腹痛 |
誤飲時の状況 | 2,3日前におもちゃのボーリングの玉を飲んだらしい。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 12時間以上 |
処置及び経過 | X線検査(S状結腸付近に球形の陰影) |
転帰 | 帰宅(3日後排泄確認) |
患者 | 8歳 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 救急箱から水銀体温計を取り出しくわえていた。気付いたときには折れていて水銀が無くなっていた。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(異物無し) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳9ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 豆電球をかみ砕いて直径5mmくらいの破片を飲んでしまった。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分〜1時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(異常なし) |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳8ヶ月 女児 |
症状 | 呻声 |
誤飲時の状況 | 母親が目を離している隙にアクリル塗料をストローで6ml吸った。 |
来院前の処置 | 水を飲ませて吐かせた |
受診までの時間 | 1.5〜2時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳3ヶ月 男児 |
症状 | 悪心・嘔吐、機嫌悪い |
誤飲時の状況 | 薬用液体せっけんで遊んでいた。コップに少し出して飲んでしまった。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 1歳3ヶ月 男児 |
症状 | 嘔吐(急性胃腸炎による症状と思われる) |
誤飲時の状況 | 衣類用洗剤のふたをなめていた。昼過ぎ朝食を吐いた。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 6〜12時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳9ヶ月 女児 |
症状 | 嘔吐 |
誤飲時の状況 | シャボン玉液を誤って吸ってしまった。 |
来院前の処置 | 牛乳を50mlぐらいのませた。 |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 3歳2ヶ月 男児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 漂白剤(2〜3倍希釈)でコップを漂白中に液を飲む。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | 胃洗浄 |
転帰 | 帰宅 |
患者 | 2歳1ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | トイレタンクの上の芳香洗浄剤(固形)を便器のふたを閉めて登り食べた。 |
来院前の処置 | 口内を洗ったり拭いたりした。 |
受診までの時間 | 30分未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
<担当医のコメント> 高いところにあるからと安心出来ない。踏み台になるものは沢山あるので注意が必要である。 |
患者 | 3歳4ヶ月 男児 |
症状 | 気分不快 |
誤飲時の状況 | 玄関で母親を待っている間に灯油ポンプの先を口にくわえていた。1ccくらい飲んだと推定。 |
来院前の処置 | 水、ジュースを飲ませた。 |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | X線検査(肺異常なし)、採血、点滴 |
転帰 | 帰宅 |
<担当医のコメント> 灯油は肺への吸引が危険であり、咳もひどくないこともあって重症化して気付くこともある。灯油ポンプは絶対子供の手に触れるような状態で置かないこと。 |
患者 | 8ヶ月 女児 |
症状 | なし |
誤飲時の状況 | 植物活力剤のチューブを口にしていた。半分がなくなっていた。 |
来院前の処置 | なし |
受診までの時間 | 1〜1.5時間未満 |
処置及び経過 | なし |
転帰 | 帰宅 |
(4)全体について
小児による誤飲事故は相変わらずタバコによるものが多く、発生時間も午後5時から午後10時までの間の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中しているという傾向が続いている。タバコの誤飲事故は6ヶ月からの1年間に発生時期が集中しており、この間特段の注意を払うことにより被害の軽減がはかれるものと考えられる。また、医薬品の誤飲事故はむしろこれよりも高い年代での誤飲が多い。症状が発現する可能性が高いものなので特別の注意を払う必要がある。食品であってもそのものが気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、のどにはいるような大きさ・形をした物品には注意を怠らないように努める事が重要である。
保護者が近くにいても、乳幼児はちょっとした隙に、身の回りのものを分別なく口に入れてしまう。(本年度事故例中約40%で保護者はそばにいた。)また、保育所等、子供を預かっているような施設で起こった誤飲の報告数は少数で、このことからも、誤飲をする可能性があるものを極力子供が手にする可能性のある場所に置かないことが最も有効な対策であることが伺い知れる。乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。事例にあるように2歳くらいになれば踏み台を利用することもある。
誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
なお、平成9年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した、啓発パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。
3.家庭用品等が原因と考えられる吸入事故等に関する報告
(財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のタバコの誤飲で、これのみで年間約6,000件に達する。
この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故及び眼の被害に限定して、収集・整理したものである。医薬品や一部の殺虫剤など法的には家庭用品ではないものも、啓発と言う観点から、これを集計に加えている。
(1)原因製品種別の動向
全症例数569例中、原因と推定された家庭用品等を種別でみると、前年度と同様、殺虫剤類の件数が最も多く145件(25.5%)であった。次いで洗浄剤(住宅用・家具用)が120件(21.1%)、消火剤が58件(10.2%)、漂白剤が52件(9.1%)、洗剤(洗濯用・台所用)が19件(3.3%)、接着剤が17件(3.0%)、消臭剤が16件(2.8%)、灯油が13件(2.3%)、防虫剤、芳香剤、防水スプレーがそれぞれ10件(1.8%)の順であった(表5)。
製品の形態別の事例数では、「エアゾールタイプ」が211件(その内トリガータイプ*92件)、「液状」183件、「粉末状」108件、「固形」37件、「蒸散型」18件、その他(ゼリー状)が1件で、不明が11件であった。
(2)各報告項目の動向
年齢から見ると、0〜9歳の子供の被害報告事例が236例と半数近くを占め、前年度と同様、最も多かった。その他では30代が多く、次いで20代、50代の順で、前年度報告と比較すると、40代が減少していた。年齢別症例数は製品によって偏りが見られるものがあり、殺虫剤類や洗浄剤(住宅用・家具用)、漂白剤は30代にピークが見られ、消火剤は0〜9歳の子供が多く、次に10代であった。防水スプレーでは成人例がほとんどであった。
性別では、女性が293件(51.5%)、男性が223件(39.2%)、不明が53件(9.3%)で男女比は過去とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、記載漏れがあり、被害者の性別不明例が多少存在する。
健康被害の問い合わせ者は、一般消費者からの問い合わせ事例が354件、受診した医療機関等医療機関関係者からの問い合わせ事例が215件であった。
症状別に見ると、症状の訴えがあったものは311件(54.7%)、なかったものは250件(43.9%)、不明のものが8件(1.4%)であった。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもので165件(29.0%)であった。次いで、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたものが91件(16.0%)、「神経症状」を訴えたものが80件(14.1%)となっていた。平成10年度と比べて順位や、割合はほとんど変動していない。
発生の時期から見ると、夏(7,8,9月)に若干多い傾向がある。品目別では、殺虫剤類による被害が夏前後に多く、梅雨時期と年末に漂白剤、洗浄剤(住宅用・家具用)による被害が多かった。いずれも使用頻度が高まると思われる時期にその製品による被害が増えていた。曜日別にも解析を行ったが際だった特徴はなかった。時間別では午前10時〜12時、午後3時〜5時が多めで、午前0時から午前6時までが少なくなっていた。前年度と比較して、際だった変化はなく、生活活動時間に比例している。
(3)原因製品別考察
患者 | 37歳 女性 |
状況 | ムカデ駆除のため散布中、顔面にかかり吸入した。 |
症状 | 頭痛、嘔気、寒気 |
処置・転帰 | 胸部X線撮影に異常なし。吐き気止め、消炎鎮痛薬処方。 外来処置のみ |
患者 | 60歳 女性 |
状況 | 前日に使用した部屋を掃除した際、吸入した。 |
症状 | 嘔吐、発汗 |
患者 | 58歳 女性 |
状況 | 6畳間の窓を開放してエアコンに使用し、吸入した。 |
症状 | 嘔気、顔面蒼白、呼吸困難 |
処置・転帰 | 酸素吸入により改善。 |
患者 | 2歳 女児 |
状況 | 遊んでいて間違って眼にかけてしまった。 |
症状 | 充血 |
処置・転帰 | 軟膏、目薬処方。翌日に改善。 |
患者 | 30歳 女性 |
状況 | 浴槽にお湯を入れながら漂白剤を300mL注いだ。初め換気をしていなかったが、すぐに換気をした。 |
症状 | 耳の痛み、口の中の違和感。 |
処置・転帰 | 受診して検査したが異常なし。症状は翌日に改善。 |
患者 | 50歳 女性 |
状況 | トイレで次亜塩素酸系製品と塩酸含有製品の2剤を同時に使用し、発生したガスを吸入。 |
症状 | 嘔気 |
処置・転帰 | 入院(1日)し、酸素吸入。 |
患者 | 25歳 男性 |
状況 | 6畳間を閉めきって1本(312g)全てを使用。 |
症状 | 嘔気、呼吸困難、悪寒、発熱 |
処置・転帰 | 胸部X線像に異常陰影あり、化学性肺炎と診断。入院(11日)加療。 |
患者 | 34歳 男性 |
状況 | 窓は開放していたが、1本(420mL)を使用し、少し吸入した。 |
症状 | 直後より咳、徐々に呼吸困難。 |
処置・転帰 | 肺炎と診断。入院(9日)加療。 |
患者 | 5歳 女児 |
状況 | 子供が倒して部屋中に飛び散った。 |
症状 | 発熱、悪心、嘔吐、頭痛。 |
処置・転帰 | 外来処置のみ(吐き気止め坐薬、解熱鎮痛坐薬処方)。 |
患者 | 62歳 女性 |
状況 | スプレーしながらアイロンがけをしていた。 |
症状 | 使い始めて直ぐに咳、その後呼吸苦、前胸部痛、発熱 |
処置・転帰 | 外来処置のみ。 |
患者 | 11カ月 男児 |
状況 | やぶって粉が飛び散り、眼にも入った。 |
症状 | 目やに、咳 |
患者 | 10カ月 女児 |
状況 | 前日に顔の前でひっくり返した。 |
症状 | 翌日、呼吸する際に音がする |
患者 | 50歳 女性 |
状況 | 廃油処理剤を入れた油を、再度加熱した。煙が発生し吸入した。 |
症状 | 呼吸困難 |
(4)全体について
この報告は、医師や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。したがって、一部の事例については、追跡調査を行っているが、大部分はその後の健康状態等の把握は行っていない。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
今回も前年度同様子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。いたずらや誤飲など子供自身がその原因を作ってしまった例もあったが、親のそばにいて子供だけが被害を訴える場合など、子供は体が小さく、また成人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していないため、健康被害を受けやすかったと考えられる事例もあった。保護者は家庭用化学製品の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、製造者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
製品形態別では、エアゾールタイプの製品による事故が多く報告された。エアゾールタイプの製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、製品の種類や成分にかかわらず吸入し、眼に対する健康被害が発生しやすい。使用にあたっては、換気状況を確認すること、一度に大量を使用しないこと等の注意が必要である。
主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害報告例が相変わらず多くみられた。次亜塩素酸系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。事業者においては、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起と適正な使用方法の推進をはかる必要がある。
また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例や、わずかな注意で防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、専門医の診療を受けることを推奨したい。
おわりに
はじめにも触れたように、現在のモニター報告は治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品について情報を収集するシステムである。特定の家庭用品による健康被害の報告の変動があれば、その情報の周知をはかり、当該物品による被害の拡大を防止すること、また、必ずしも容易ではないが、そこから原因となった化学物質を特定し、必要な対策をとることにより新たな健康障害を未然に防止することを目指している。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、医学的により詳細な内容を把握したり、予後を明確にすることは困難であるが、モニター病院で収集している以外の情報が消費者より直接寄せられており、家庭用品による健康被害をモニターする上で重要な役割を果たしている。
本モニター報告は平成11年度で21回目となった。ここ数年、報告件数において上位を占める家庭用品の種類はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。また、消費者の清潔志向の高まりや利便性の追求から、抗菌剤を使用した家庭用品や、よりコンパクトな濃縮タイプの洗剤など、今までにない化学物質が身の回りに次々と普及してきており、新たな健康被害が生じていないか、特に注意すべき事例は無いか等、引き続きモニターしていくことも本制度にかけられた役割である。
昨今、危機管理と言うことが盛んに叫ばれているが、危機管理というものは常日頃の連絡体制を効率よく運営することにより十分なされ得ることであり、平時のそのシステムの構築こそが最も重要である。本制度がそれに応え得るよう今後とも継続・充実をはかっていきたい。
年 度 家庭用品 |
平成6年度 | 平成7年度 | 平成8年度 | 平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | ||||||
衣料品 | 37 | 11.6 | 36 | 13.1 | 45 | 14.2 | 6 | 3.6 | 27 | 10.3 | 24 | 11.5 |
身の回り品 | 117 | 36.8 | 101 | 36.9 | 110 | 34.6 | 76 | 45.2 | 93 | 35.6 | 73 | 34.9 |
家庭用化学製品 | 99 | 31.1 | 61 | 22.3 | 95 | 29.9 | 48 | 28.6 | 87 | 33.3 | 78 | 37.3 |
その他 | 65 | 20.4 | 76 | 27.7 | 68 | 21.3 | 37 | 22.0 | 53 | 20.3 | 34 | 16.3 |
不 明 | 1 | 0.6 | 1 | 0.4 | ||||||||
合 計 | 318 | 100.0 | 274 | 100.0 | 318 | 100.0 | 168 | 100.0 | 261 | 100.0 | 209 | 100.0 |
平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | |||||||
1 | 洗剤 | 34 | (20.2) | 洗剤 | 67 | (25.7) | 洗剤 | 58 | (27.8) |
2 | 装飾品 | 24 | (14.3) | 装飾品 | 36 | (13.8) | 装飾品 | 38 | (18.2) |
3 | ゴム・ビニール手袋 | 17 | (10.1) | ゴム・ビニール手袋 | 25 | (9.6) | ゴム・ビニール手袋 | 14 | (6.7) |
4 | めがね | 16 | (9.5) | めがね | 17 | (6.5) | 時計バンド | 9 | (4.3) |
5 | 時計バンド | 14 | (8.3) | 時計バンド | 15 | (5.7) | めがね | 8 | (3.8) |
6 | ナイロンタオル | 10 | (6.0) | ベルト | 10 | (3.8) | 下着 | 7 | (3.3) |
7 | 洗浄剤 | 8 | (4.8) | 洗浄剤 | 9 | (3.4) | ベルト(バックル含む) | 7 | (3.3) |
8 | ベルト | 7 | (4.2) | ナイロンタオル | 8 | (3.1) | スポーツ用品 | 6 | (2.9) |
9 | 時計 | 6 | (3.6) | 下着 | 7 | (2.7) | 時計 | 5 | (2.4) |
10 | スポーツ用品 | 5 | (3.0) | スポーツ用品 | 7 | (2.7) | 洗浄剤 | 4 | (1.9) |
総数 | 168 | (100.0) | 261 | (100.0) | 209 | (100.0) |
Co | Ni | Cr | Hg | Au | Ag | Al | Cd | Cu | Fe | In | Ir | Mn | Mo | Pd | Pt | Sb | Sn | Ti | W | Zn | 他 | 品 名 | |
1 | + | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | |||
2 | - | ++ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | ||||
3 | - | - | - | ++ | ++ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | ||||
4 | + | ++ | + | 装飾品 | |||||||||||||||||||
5 | + | 装飾品 | |||||||||||||||||||||
6 | + | ++ | ++ | +? | - | 装飾品 | |||||||||||||||||
7 | - | + | + | - | - | 装飾品 | |||||||||||||||||
8 | - | + | +? | - | - | 装飾品 | |||||||||||||||||
9 | +? | +? | +? | - | +? | +? | - | - | - | +? | - | - | - | - | +? | +? | - | - | - | - | - | 装飾品 | |
10 | + | + | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | - | - | - | - | + | 装飾品 | |
11 | +? | - | +? | - | + | - | - | +? | +? | - | - | - | + | - | - | - | - | + | - | - | + | 装飾品 | |
12 | + | + | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | |
13 | +? | - | +? | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | +? | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | |
14 | +? | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | - | - | - | - | + | 装飾品 | |
15 | - | - | + | +? | - | 装飾品 | |||||||||||||||||
16 | ++ | ++ | - | - | 装飾品 | ||||||||||||||||||
17 | + | + | +? | +? | + | 装飾品 | |||||||||||||||||
18 | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品 | |||||
19 | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | + | - | - | 装飾品 | |||||||||
20 | + | + | - | - | - | - | - | +? | - | - | + | + | - | - | - | + | 装飾品 | ||||||
21 | ++ | ++ | - | - | - | - | - | ++ | - | - | + | - | - | - | - | + | 装飾品 | ||||||
22 | + | + | + | +? | - | 装飾品,腕時計 | |||||||||||||||||
23 | +? | - | +? | - | ++ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | + | 装飾品,めがねのつる | |
24 | ++ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | +? | 装飾品,下着の留め金 | |
25 | ++ | ++ | ++ | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 装飾品,時計バンド | ||||
26 | + | + | - | - | - | + | - | - | - | - | - | - | + | 眼鏡 | |||||||||
27 | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | 眼鏡 | |||||
28 | + | + | - | - | - | - | - | - | - | +? | - | - | - | - | +? | - | + | - | - | - | + | 眼鏡 | |
29 | + | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | バックル | |||||||||
30 | - | +? | - | - | - | - | - | バックル | |||||||||||||||
31 | - | ++ | - | - | - | - | - | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | バックル,ジーンズのボタン | |||||
32 | - | + | - | - | - | 腕時計 | |||||||||||||||||
33 | - | + | - | - | - | - | - | + | - | 時計バンド,肩掛けベルト(革) | |||||||||||||
34 | +? | + | +? | + | +? | - | - | - | - | +? | - | - | - | - | +? | + | - | + | - | - | - | 革製品 | |
35 | + | - | + | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | - | スポーツ用品 | ||||
36 | +? | - | +? | - | - | - | - | - | +? | - | - | +? | - | - | - | +? | - | - | 楽器 | ||||
37 | - | ++ | - | - | - | - | - | +? | + | - | - | - | - | + | - | - | ジーンズボタン | ||||||
38 | - | - | + | + | 金属製玩具 |
[Co]コバルト | [Ni]ニッケル | [Cr]クロム | [Hg]水銀 | [Au]金 | ||||
[Ag]銀 | [Al]アルミニウム | [Cd]カドミウム | [Cu]銅 | [Fe]銀 | ||||
[In]インジウム | [Ir]イリジウム | [Mn]マンガン | [Mo]モリブデン | [Pd]パラジウム | ||||
[Pt]白金 | [Sb]アンチモン | [Sn]錫 | [Ti]チタン | [ W ]タングステン | ||||
[Zn]亜鉛 |
- | : | 反応なし |
+? | : | 弱い紅斑 |
+ | : | 紅斑、湿潤、時に丘疹 |
++ | : | 紅斑、湿潤、丘疹、小水疱 |
+++ | : | 大水疱 |
平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | |||||||
1 | タバコ | 402 | (46.2) | タバコ | 368 | (49.3) | タバコ | 360 | (45.2) |
2 | 医薬品・医薬部外品 | 112 | (12.9) | 医薬品・医薬部外品 | 87 | (11.6) | 医薬品・医薬部外品 | 122 | (15.3) |
3 | 玩具 | 54 | (6.2) | 金属製品 | 40 | (5.4) | 玩具 | 56 | (7.0) |
4 | 金属製品 | 42 | (4.8) | プラスチック製品 | 34 | (4.6) | 金属製品 | 43 | (5.4) |
5 | 電池 | 34 | (3.9) | 玩具 | 26 | (3.5) | プラスチック製品 | 37 | (4.6) |
6 | 化粧品 | 31 | (3.6) | 化粧品 | 26 | (3.5) | 洗剤・洗浄剤 | 27 | (3.4) |
7 | プラスチック製品 | 26 | (3.0) | 洗剤・洗浄剤 | 25 | (3.3) | 電池 | 24 | (3.0) |
8 | 洗剤・洗浄剤 | 24 | (2.8) | 硬貨 | 24 | (3.2) | 硬貨 | 23 | (2.9) |
9 | 硬貨 | 23 | (2.6) | 電池 | 23 | (3.1) | 化粧品 | 19 | (2.4) |
10 | 乾燥剤 | 21 | (2.4) | 乾燥剤 | 15 | (2.0) | 食品類 | 13 | (1.6) |
総数 | 871 | (100.0) | 747 | (100.0) | 797 | (100.0) |
平成9年度 | 平成10年度 | 平成11年度 | |||||||
1 | 殺虫剤類 | 62 | (16.5) | 殺虫剤類 | 126 | (21.3) | 殺虫剤類 | 145 | (25.5) |
2 | 洗浄剤(住宅用・家具用) | 49 | (13.0) | 洗浄剤(住宅用・家具用) | 117 | (19.8) | 洗浄剤(住宅用・家具用) | 120 | (21.1) |
3 | 消火剤 | 41 | (10.9) | 漂白剤 | 64 | (10.8) | 消火剤 | 58 | (10.2) |
4 | 漂白剤 | 35 | (9.3) | 消火剤 | 44 | (7.4) | 漂白剤 | 52 | (9.1) |
5 | 防水スプレー | 17 | (4.5) | 洗剤(洗濯用・台所用) | 26 | (4.4) | 洗剤(洗濯用・台所用) | 19 | (3.3) |
6 | 防虫剤 | 12 | (3.2) | 灯油 | 25 | (4.2) | 接着剤 | 17 | (3.0) |
7 | 消臭剤 | 10 | (2.7) | 塗料 | 20 | (3.4) | 消臭剤 | 16 | (2.8) |
8 | 塗料 | 10 | (2.7) | 防虫剤 | 16 | (2.7) | 灯油 | 13 | (2.3) |
9 | ベビーパウダー | 9 | (2.4) | 防水スプレー | 16 | (2.7) | 防虫剤 | 10 | (1.8) |
10 | 洗剤(洗濯用・台所用) | 8 | (2.1) | ベビーパウダー | 14 | (2.4) | 芳香剤 | 10 | (1.8) |
静電気防止剤 | 8 | (2.1) | 防水スプレー | 10 | (1.8) | ||||
総数 | 376 | (100.0) | 591 | (100.0) | 569 | (100.0) |
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