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平成12年9月29日

第4回雪印乳業食中毒事故対策本部会議の結果について

 本日17時から標記対策本会議を開催し、その検討結果は下記のとおりですのでお知らせします。

< 報告事項 >

1.乳処理施設の一斉点検最終取りまとめについて(資料1)
2.雪印食中毒事件に係る厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議調査結果(中間報告)について(資料2)


照会先:厚生省生活衛生局
    松 原 食品保健課長
担 当:塚本 (内線2445)
    高 谷 乳肉衛生課長
担 当:滝本(内線2473)


乳処理施設の一斉点検最終取りまとめについて


1 全国乳処理施設一斉点検に基づく改善状況について

 平成12年7月3日付け及び平成12年7月17日付け厚生省生活衛生局長通知により、全国120自治体に対し、所管の乳処理施設(747施設)の一斉点検の実施を指示し、その結果については平成12年7月24日に公表したところであるが、衛生管理上の指導を行った施設(561施設)について、下表のとおり改善が確認された。

指 導 内 容 総 数 7月24日までに
改善済または
7月中に改善予定
8月中を目途に
改善予定
改善が確認
された施設
手洗浄に関する記録の実施 461(61.7%) 348(46.6%) 113(15.1%) 461
洗浄に関する作業手順書の作成・実施 430(57.6%) 304(40.7%) 126(16.9%) 430
洗浄方法の検証及び改善 77(10.3%) 63( 8.4%) 14( 1.9%) 77
施設・設備等の改善 41( 5.5%) 29( 3.9%) 12( 1.6%) 41
製品の衛生的取扱い 16( 2.1%) 14( 1.9%) 2( 0.3%) 16
機器設備の衛生管理 9( 1.2%) 7( 0.9%) 2( 0.3%)
総合衛生管理製造過程の変更承認申請、変更届の提出 5( 0.7%) 5( 0.7%) 0( 0%)
その他 43( 5.8%) 34( 4.6%) 9( 1.2%) 43
*( )内は、点検施設数(747施設)に対する割合

2 脱脂粉乳製造施設の調査結果について

 平成12年8月23日付厚生省生活衛生局乳肉衛生課長通知により、全国17の自治体に対し、所管の脱脂粉乳製造施設(全国42施設(雪印大樹工場を除く))において、平成11年1月以降に製造された脱脂粉乳について、製造過程中停電等の事故により微生物の増殖及び耐熱性毒素の産生を招くような不適切な温度管理が行われた事例の有無について調査を指示したが、その結果は以下のとおりであった。

(1)雪印の脱脂粉乳製造施設を除く脱脂粉乳製造施設(35施設)について、該当する事例は無し。

(2)雪印大樹工場を除く雪印の脱脂粉乳製造施設(7施設)について、該当する事例は無し。


雪印乳業食中毒事件の原因究明調査結果について
(中間報告)


平成12年9月

雪印食中毒事件に係る
厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議

1 経緯

 雪印乳業(株)大阪工場(以下「大阪工場」)製造の「低脂肪乳」等を原因とする食中毒事件は、平成12年6月27日に最初の届出がなされて以降、9月8日現在、有症者数は14,849名に達し、近年、例をみない大規模食中毒事件となった。
 大阪市は、有症者の調査、大阪工場の立入検査等を実施し、当該工場製造の「低脂肪乳」について、6月28日に製造自粛、回収、事実の公表を指導し、6月29日に本事件の発生を公表、6月30日に回収を命令した。
 厚生省は、患者発生が近隣府県市に及んだため、6月30日に大阪市に職員を派遣して関係府県市担当者会議を開催し、同工場が総合衛生管理製造過程の承認施設であったため、7月1日に大阪市と合同で立入検査を行った。
 7月2日、大阪府立公衆衛生研究所が「低脂肪乳」から黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンA型を検出したことから、大阪市はこれを病因物質とする食中毒と断定し、大阪工場を営業禁止とした。
 7月10日、大阪市は、有症者の調査、大阪工場への立入検査等の結果に基づき、中間報告(資料1)をとりまとめ、公表した。
 また、7月2日以降、大阪府警が業務上過失傷害の疑いで捜査を開始していたが、8月18日に「低脂肪乳」等の原料に使用されたと思われる大樹工場製造の脱脂粉乳(4月10日製造)からエンテロトキシンA型を検出した旨を大阪市に通知した。
 北海道は、大阪市の調査依頼及び厚生省の指示を受けて、8月19日から同工場の調査を行い、8月23日に当該脱脂粉乳の製造に関連した停電の発生、生菌数に係る基準に違反する脱脂粉乳の使用等について公表した。

2 発症状況及び喫食状況調査結果

(1)発症状況

 大阪市の保健所及び保健センターに届け出られた有症者3,567名のうち、大阪市に在住する者は、乳幼児や中高齢の女性を中心に3,511名(資料2−1)であり(以下「大阪市在住有症者」とする。)、このうち、1,272名が受診し、79名が入院した。
 これらの大阪市在住有症者のうち、3,488名は、急性胃腸炎症状である下痢、腹痛、嘔吐、嘔気のうち、1以上を呈したが、他の23名は発熱、発疹等を呈し、消化器症状はなかった(資料2−2)。
 また、これらの3,488名の有症者の潜伏期間別の分布をみると、12時間未満が2,429名(69.6%)と最も多く、不明742名(21.3%)、12時間以上24時間未満213名(6.1%)、24時間以上104名(3.0%)の順であった(資料2−3)。

(2) 喫食状況

ア 製品別喫食状況
 大阪市在住有症者3,511名の喫食した製品別の分布をみると、「低脂肪乳」2,763名(78.7%)、「毎日骨太」639名( 18.2%)、「カルパワー」33名(0.94%)、「特濃」2名(0.06%)、「コーヒー」47名(1.33%)、「フルーツ」1名(0.03%)、「のむヨーグルト毎日骨太」16名(0.46%)、「のむヨーグルトナチュレ」10名(0.28%)であった。
 また、これらの大阪市在住有症者のうち、2,499名については喫食した製品の品質保持期限が報告されており、その範囲は、5月29日から7月12日であった(資料2−4)。
 なお、製品の出荷量から回収量を差し引いた数量から1人当たり200ml喫食したと仮定して算出した推定喫食者数に対する発症率は、「低脂肪乳」0.582%、「毎日骨太」0.055%、「のむヨーグルト毎日骨太」0.008%、「のむヨーグルトナチュレ」0.004%、「コーヒー」0.004%、「カルパワー」0.002%、「特濃」0.000%、「フルーツ」0.000%であった(資料2−5)。

イ 喫食状況の検討
 「低脂肪乳」に係る有症者数の急増は、品質保持期限6月28日以降の「低脂肪乳」喫食の有症者の増加に起因していることから、「大阪市在住有症者のうち、品質保持期限が6月28日以降の「低脂肪乳」を喫食し、黄色ブドウ球菌の食中毒症状の可能性が高い、喫食後12時間未満に何らかの消化器症状を呈した者」1,402名について、品質保持期限別喫食状況をみると、6月30日が666名(47.5%)、7月2日が444名(31.7%)であった。
 この1,402名の主な症状は、下痢が1,106名(78.9%)、嘔気又は嘔吐が1,047名(74.7%)であった(資料2−6)。

3 検査結果

(1)有症者の糞便等(資料3−1)

 糞便135検体、吐瀉物7検体及び胃洗浄液1検体について、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型及びその産生遺伝子を含む。)、セレウス菌(下痢型毒素を含む。)及びサルモネラ属菌等の食中毒菌の検査を行った結果は以下のとおりだった。

ア 糞便
 135検体中18検体から黄色ブドウ球菌(うち5検体がB型毒素産生性)が検出されたほか、76検体中3検体からウエルシュ菌、76検体中1検体から病原大腸菌、75検体中1検体から病原ビブリオ、35検体中1検体からカンピロバクターを検出し、病原大腸菌及びウエルシュ菌を同時に検出したものが1検体あった。
 エンテロトキシンA型について21検体、毒素産生遺伝子について4検体、セレウス菌下痢型毒素について4検体の検査は、いずれも陰性であった。

イ 吐瀉物及び胃洗浄液
 吐瀉物7検体及び胃洗浄液1検体については、吐瀉物1検体からエンテロトキシンA型非産生性黄色ブドウ球菌を検出した。

(2) 製品(資料3−2)

 「低脂肪乳」300検体、「のむヨーグルト毎日骨太」36検体、「コープのむヨーグルト」19検体、「のむヨーグルトナチュレ」48検体、「毎日骨太」56検体、「成分無調整牛乳」40検体、「まろやか低脂肪乳」19検体、「カルパワー」16検体、「コーヒー」35検体について、一般細菌数、大腸菌群、黄色ブドウ球菌(エンテロトキシンA型及びその産生遺伝子を含む。)、セレウス菌(下痢型毒素を含む。)及びサルモネラ属菌等の食中毒菌の検査を行った結果は以下のとおりだった。
 また、製品検査では、少数の検体から食中毒菌等が検出されているが、これは有症者の飲み残し品のほか、未開封品であっても大阪工場への回収品など冷蔵で保存されていない検体も含まれていることが理由と考えられ、冷蔵保存されていたと考えられる未開封品については、エンテロトキシンA型検出以外の食品衛生上の問題はなかった。
 なお、製品及び原材料のエンテロトキシンA型の定量値は、回収率を補正した値であり、定量試験は、大阪府立公衆衛生研究所、大阪市立環境科学研究所、和歌山市立衛生研究所及び大分県衛生環境研究センターで実施され、他の機関では定性試験が実施された。

(注)大阪工場では、飲料乳について品質保持期限は充填日プラス7日で表示(表示:00.6.30)しているが、1日の最終充填ロットについては、プラス8日(表示:00.7.1.)としている。

ア 「低脂肪乳」
 品質保持期限が6月28日から7月4日までの間の「低脂肪乳」(表示:00.6.28、00.6.29.、00.6.30、00.7.1、00.7.2.、00.7.2、00.7.3.、00.7.3、00.7.4.;6月21日、23日、24日、25日、26日充填)からエンテロトキシンA型が0.05ng/mlから1.6ng/mlの範囲で検出され、このうち6月30日は79検体中61検体(77.2%)、7月2日は97検体中82検体(84.5%)と陽性率が高く、0.4ng/ml以上検出したのも6月30日及び7月2日の両日が品質保持期限のもののみであった。
 また、エンテロトキシンA型の産生遺伝子は、「低脂肪乳」161検体中118検体(73.3%)検出され、品質保持期限6月30日からは36検体中28検体(77.8%)、7月2日からは47検体中45検体(95.7%)、7月3日からは15検体中15検体(100%)から検出され、「成分無調整牛乳」の37検体中9検体(24.2%)を対照として比較しても検出率が高かった。

イ 発酵乳
 品質保持期限が7月13日及び7月14日(表示:00.7.13、00.7.14;6月29日、30日充填)の「のむヨーグルト毎日骨太」からそれぞれ3検体中2検体、5検体中5検体エンテロトキシンA型が検出された。
 また、品質保持期限が7月12日、7月13日、7月14日(表示:00.7.12、00.7.13、00.7.14;6月28日、29日、30日充填)の「のむヨーグルトナチュレ」からそれぞれ6検体中1検体、4検体中1検体、8検体中5検体エンテロトキシンA型が検出された。発酵乳のエンテロトキシンA型の検出値は0.05ng/mlから0.2ng/mlの範囲であった。
 なお、黄色ブドウ球菌はいずれの検体からも検出されなかった。

ウ 上記以外の加工乳、発酵乳、牛乳、乳飲料、クリーム類等他の製品
 品質保持期限6月30日の「毎日骨太」が1検体、定性試験で陽性とされたが、他の製品については黄色ブドウ球菌及びエンテロトキシンA型いずれも検出されなかった。

(3) 施設・設備の拭き取り(資料3−3)

 「低脂肪乳」の製造が中止された後の6月30日の立入検査時に拭き取った「低脂肪乳」に関係した施設設備(脱脂粉乳溶解機、調合タンク(T71)の内部、バランスタンク内部等)の計16検体について、大腸菌群、セレウス菌、黄色ブドウ球菌の検査を実施した。第2調合室の溶解機下床面・バタースライサー下床面、溶解機上蓋、バランスタンク内部等7検体から大腸菌群が検出された。
 7月2日に営業禁止を命じた以後の7月5、6、15日に実施した拭き取り検査では、生乳受入室、第1・2調合室、タンク逆止弁、充填室、パイプ関係等123検体について一般細菌数、大腸菌群、セレウス菌、黄色ブドウ球菌の検査を実施した。T15(未殺菌「毎日骨太」)逆流防止弁内部及びT1−T2 間上部バルブC50三方コック内部から、いずれも増菌培養で黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンB型産生菌と毒素非産生菌が検出された。

(4) 原材料(資料3−4)

 6月30日の立入検査時に在庫の脱脂粉乳011008 ABC1検体、無塩バター00815 ACG,00728 ABC2検体、ストレージタンクT51内未殺菌ミックス2検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、無塩バター00728 ABCから増菌培養で下痢型毒素産生性セレウス菌が検出された。また、未殺菌ミックスから増菌培養でエンテロトキシンB型産生性黄色ブドウ球菌が検出された。
 7月5日に収去した脱脂粉乳10検体、発酵飲料粉5検体、特粉S3 11検体、SPパウダー2検体、ドモビクタス(ホエー粉)7検体、無塩バター5検体、雪印北海道フレッシュクリーム3検体、バターミルク粉2検体、フローズンクリームチーズ1検体及びカルミンML1検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、脱脂粉乳011214-BA ABC1検体から増菌培養で毒素非産生性の黄色ブドウ球菌が検出され、特粉S3 00925-AA AIF1検体及びドモビクタス7検体から増菌培養でセレウス菌が検出された。
 7月3日から26日にかけて採取したストレージタンク等タンク内の未殺菌ミックス、未殺菌成分無調整用生乳、殺菌済コーヒー、発酵前サンプル保管品、発酵調合室タンク内容物等76検体について、セレウス菌、黄色ブドウ球菌及びこれらの毒素産生性の検査をしたところ、未殺菌成分無調整用生乳(T7)2検体、未殺菌生乳(T5、T11)2検体、未殺菌回収コーヒー(T42)1検体から直接又は増菌培養で毒素非産生性の黄色ブドウ球菌が検出された。未殺菌生乳(T5、T11)2検体については、直接及び増菌培養でエンテロトキシンB型産生性黄色ブドウ球菌が検出された。
 また、黄色ブドウ球菌は検出されなかったが、エンテロトキシンA型が発酵乳の回収タンクT7(「のむヨーグルト毎日骨太」専用、6月28日サージアップ(充填前のタンクに投入すること)分、30日充填と同じもの)、T8(「のむヨーグルトナチュレ」専用、6月29日サージアップ分、30日充填と同じもの)の内容液からそれぞれ0.1ng/ml、サージタンク 内容液についてはT35(品質保持期限7月14日、6月30日充填「のむヨーグルトナチュレ」)から0.2ng/ml、T40(充填せず)から 0.1ng/ml、T42(品質保持期限7月14日、6月30日充填「のむヨーグルト毎日骨太」)から0.4ng/mlそれぞれ検出された。
 大樹工場で4月10日に製造され、大阪工場でも使用されたと思われる脱脂粉乳の保存サンプルを大阪府警が押収し、大阪府立公衆衛生研究所に鑑定依頼していたところ2検体(011007 ACQ)から4ng/gのエンテロトキシンA型が検出された。

注 検査の方法(資料3−5)

4 施設調査結果

(1) 原材料の使用状況(資料4−1)及び製品検査結果との整合性の検討

 製品の検査の結果、「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」からエンテロトキシンA型が検出されているが、これらの共通の原材料は、脱脂粉乳のみである。

ア 発酵乳
 発酵乳等の原材料の調合を行う第1調合室の使用記録には、国産脱脂粉乳が毎日使用されていたにもかかわらず、使用ロットが記録されているのは2、3日に1回程度であった。
 国産脱脂粉乳は、還元乳タンクで溶解されて還元乳として、発酵乳の発酵ベース等に使用されていた。6月20日から6月28日までにサージアップされた発酵乳に使用された還元乳の原材料となった脱脂粉乳のロットが記録により確認できたのは、23日使用の011007 ACQ及び26日使用の011012 ABCであった。
 一方、製品検査においてエンテロトキシンA型が検出された製品に使用された還元乳が調製された還元乳タンクT6には、23日に脱脂粉乳011007 ACQが使用されており、この還元乳は、
○ 6月25日に発酵タンクT19に送られて、品質保持期限7月11日の「コープのむヨーグルト」
○ 6月25日に発酵タンクT11に送られ、、品質保持期限7月12、13、14日の「のむヨーグルトナチュレ」、品質保持期限7月11、12、13日の「のむヨーグルト毎日骨太」
○ 6月26日に発酵タンクT20に送られ、品質保持期限7月11、 12日の「コープのむヨーグルト」
○ 6月26日に発酵タンクT12に送られ、品質保持期限7月14日の「のむヨーグルト毎日骨太」
に使用された。
 これは、製品検査において、品質保持期限7月12、13、14日の「のむヨーグルトナチュレ」、7月13、14日の「のむヨーグルト毎日骨太」からエンテロトキシンA型が検出されたこと及び6月28日に調合されたサージタンクT42内の充填前の製品からエンテロトキシンAが検出したことと整合する。
 また、同じ6月23日調合の還元乳タンクT6の還元乳を使用したにもかかわらず、品質保持期限7月11、12日の「のむヨーグルト毎日骨太」及び「コープのむヨーグルト」からエンテロトキシンA型が検出されなかった理由は、前者については、別の発酵タンクで発酵されたベースミックスと混合したのち充填され、希釈されたことが原因と考えられ、後者については検査数が11日分2検体、12日分3検体と少ないことも原因と考えられる。
 なお、品質保持期限7月14日の「のむヨーグルトナチュレ」、サージタンクT35及びT40の充填前の製品からエンテロトキシンA型が検出されているが、これらに使用された脱脂粉乳のロットは、記録からは確認できなかった。しかし、25日にロット不明の脱脂粉乳を原材料とした還元乳タンクT4の還元乳がこれらの製品等に共通に使用されていたことが確認され、当該還元乳に脱脂粉乳011007 ACQが使用されていたと考えられた(資料4−2)。
イ 「低脂肪乳」
 製品の検査では、前述のとおり品質保持期限6月28、29日(表示:00.6.28、00.6.29.;6月21日充填)、品質保持期限6月30日(表示:00.6.30;6月23日充填)、品質保持期限7月1、2日(表示:00.7.1、00.7.2.;6月24日充填)、品質保持期限7月2、3日(表示:00.7.2、00.7.3.;6月25日充填)、品質保持期限7月3、4日(表示:00.7.3、00.7.4.;6月26日充填)の「低脂肪乳」からエンテロトキシンA型が検出された。
 このうち、大阪市において検査されたものについては、期限表示の詳細が確認されており、製造工程を遡ることで確認が可能である。
○ 品質保持期限6月30日(表示:00.6.30;6月23日充填)の「低脂肪乳」については、29検体中23検体(検出範囲0.05ng/ml〜1.6ng/ml)からエンテロトキシンA型が検出されており、これはストレージタンクT52内で6月22日に調合された際、使用された脱脂粉乳がエンテロトキシンA型に汚染されていたことによると考えられる(同じ日に充填されたもう1つのストレージタンクであるT53由来の製品からは不検出。)。また、品質保持期限7月1日(表示:00.7.1;6月24日充填)から1検体検出(0.05ng/ml)しているのは、同じストレージタンクT52で調合されたものがT54由来のものと混合され、6月24日に充填されたためか、23日の回収乳が使用されたためと考えられる。
 品質保持期限7月2日(表示:00.7.02.;6月24日充填)から13検体中11検体(0.05ng/ml〜1.6ng/ml)からエンテロトキシンA型が検出されているが、これはストレージタンクT51で6月24日に調合された際、使用された脱脂粉乳がエンテロトキシンA型に汚染されていたためと考えられる。このストレージタンクT51で調合された「低脂肪乳」は、サージタンクT64、T33を経由して品質保持期限7月2日(表示:00.7.02;6月25日充填)にも使用されており、28検体中20検体から0.05ng/mlから 0.8ng/mlの範囲でエンテロトキシンA型が検出された原因と考えられる。
○ 品質保持期限7月3日(表示:00.7.03.;6月25日充填)から0.1ng/ml検出した原因は、T53での調合の際、前日充填のT51調合の「低脂肪乳」からの回収乳を1割程度使用したためと考えられる。さらに、品質保持期限7月3日(表示:00.7.03;6月26日充填)から11検体中5検体から0.05ng/mlから0.2ng/mlのエンテロトキシンA型が検出しているのも、このT53調合の「低脂肪乳」を翌日に繰り越して充填したためと考えられる。
○ 品質保持期限7月4日(表示:00.7.04.;6月26日充填)から0.1ng/ml検出した原因については、6月25日に充填された回収乳を使用したためと考えられる。
 一方、脱脂粉乳011007 ACQからエンテロトキシンA型が検出されているが、「低脂肪乳」については、6月25日に当該ロットがサージタンクT53に原料として使用されたことが第2調合室の記録から確認され(資料4−3)、T53で調合された「低脂肪乳」からエンテロトキシンA型が検出された原因の一つとも考えられる。
 また、脱脂粉乳011007ACQは、大阪工場に6月20日に278袋搬入されたことが大阪鉄道倉庫の伝票により確認された(資料4−4)。6月20日から30日の間の脱脂粉乳の使用記録をみると、大阪工場倉庫に搬入後5日以内に使用される傾向にあり、脱脂粉乳011007ACQが6月21日から6月25日の間の5日間に使用されたとすれば、上記製造過程とも整合する。
 なお、品質保持期限6月28日及び29日(表示:00.6.28、00.6.29.;6月21日充填)の低脂肪乳からもエンテロトキシンA型が1検体ずつ検出されている原因については、記録から確認できなかったが、大阪工場に搬入された当日に脱脂粉乳011007ACQがストレージタンクT53での調合に一部使用されたと考えられる。
ウ その他
 「毎日骨太」(品質保持期限6月30日)からもエンテロトキシンA型が1検体でのみ検出されているが、原因は確認できなかった。

 以上のことから6月20日から25日の間に大阪工場で使用され、かつ、6月22日の調合に5,263kg、6月24日の調合に2,281kg使用された脱脂粉乳に相当量含まれ、本食中毒の原因となりうる脱脂粉乳の単一のロットは011007ACQ以外にはないと考えられた。

(2)製造工程

ア 製造ラインの共用
 クリーム類の製造ラインは専用であるが、他の製品については、調合室、ストレージタンク、殺菌機、サージタンク、充填機、回収乳タンクが共用される。例えば、第1調合室では「特濃」、「コーヒー」、「フルーツ」のミックス、発酵乳の還元乳が調合され、第2調合室では「低脂肪乳」、乳飲料の「毎日骨太」、「カルパワー」のミックスが調合される。しかし、「低脂肪乳」と発酵乳の製造ラインについては共用されるところはない。
イ 仮設ホースの使用
 大阪工場におけるホースの使用は、原料乳の受入れをはじめ回収乳タンクT41から回収乳タンクT46、T47に回収乳を送り込む際、屋外での調合作業時に移動式脱脂粉乳溶解機との接続、再製乳の調合室への引込みなど各所で使用されていた。仮設ホースは、合成樹脂製で長さ2mから数10mのものまであり、作業内容、状況に応じて使い分けていた。
ウ 屋外における調合作業
 ストレージタンクにおけるミックスの最終成分調整のために行われ、成分濃度が高い場合には冷却水を、低い場合には移動式脱脂粉乳溶解機(80L)を使用して脱脂粉乳溶解液をストレージタンクに投入していた。実施頻度は前者が毎日、後者は月2回程度だった。
エ 再製品の使用
 製造後出荷されずに冷蔵庫に残った製品及び出荷後発注ミス等により返品された製品を原料として再利用する場合と日付ミスや漏れ等の工程中にトラブルが発生した製品を冷蔵庫に保管し再利用する場合がある。

(3)衛生管理

ア 貯乳タンク内の温度管理
(ア) タンク内の乳温を7℃以下で保存し、48時間以内に使用する旨の基準が総合衛生管理製造過程の申請書類に記載されていたが、回収乳タンクについては記載されていなかった。
(イ) 平成12年6月14日から27日までの「サージタンク・配乳タンク・繰越管理記録」を確認したところ、「特濃」及び「コーヒー」の未殺菌ミックスについては、7.3 〜10.4℃の間で乳温が7℃を超え、その回数はそれぞれ10回及び9回であった。
(ウ) 乳飲料である「毎日骨太」の回収乳について、乳温が10℃を超えた記録は6月17日の12℃があったが、「調合・工程管理記録」では使用時の乳温が6℃であった。
(エ) 「低脂肪乳」の未殺菌ミックス及び殺菌ミックスが翌日に繰り越された場合の乳温については問題は見られなかった。
(オ) 低脂肪乳の調合に使用されていた回収乳について乳温が10℃を超えた記録は6月17日の12℃があったことから、ストレージタンク内の最終成分調整後の乳温を「牛乳・加工乳検定表」で確認したが、記録の記載が不明瞭で確認できなかった。「調合・工程管理記録」では、その回収乳使用時の乳温が6℃であり、そのタンク内の前日及び翌日の乳温はそれぞれ3.4℃及び3.5℃であった。
(カ) 発酵乳について平成12年6月14日から29日までの「調合−計量−サージアップ管理表」及び「タンク温度チェック表」を確認したところ、エンテロトキシンA型が検出された発酵乳が調合された23日以降の記録において、6月24日のナチュレ及び毎日骨太用ベースの調整タンクT13、T17の温度がそれぞれ20.0℃、16.0℃だったが、これは聞き取り調査から当日発酵乳の製造がなかったため冷却はされていたもののタンク内の攪拌が行われず、かつ温度測定時に攪拌を行ってから測定するところをそのまま測定したためである(25日の当該ベースを使用したサージタンク内の充填前の製品サンプル保管品及び製品からエンテロトキシンA型は検出されていない。)。
(キ) 6月26日以降のATBバルクスタータータンクT29の温度が11.9〜13.9℃と10℃を超えていたが、これは聞き取り調査からタンクのチルド水の循環が悪かったためである(当該バルクスターターを使用した「のむヨーグルトナチュレ」及び「のむヨーグルト毎日骨太」用ベースからエンテロトキシンA型は検出されていない。)。
 調整タンクT13及びT17、バルクスタータータンクT29については「調合−計量−サージアップ管理表」の検査記録からも問題はなかった。
イ 洗浄
(ア) CIP
 タンク、ライン、充填機、プレート式殺菌機については、コンピュータ制御により全自動でCIPを行うが、第1調合室及び第2調合室における還元乳ライン及びバターラインについてはそれぞれ手動でCIPラインを作成しており、6月14日から27日までの「CIP記録表」、「第1調合循環洗浄記録」、「第2調合循環洗浄記録」、「プレート管理記録表」を確認したところ、記録上適正な頻度で実施されていた。
(イ) 手洗浄
(1) 逆止弁
 中性洗剤でブラシを用いて手洗浄し、水または温水で濯ぐこととしており、洗浄結果については「清掃洗浄点検計画表」に記載されるが、6月の「清掃洗浄点検計画表」では、実施頻度が週1回であるにもかかわらず最長で21日間洗浄されていなかった逆止弁もあった。
(2) 仮設ホース
 第1調合室では、洗剤を用いて手洗浄することとされていたが、使用後水洗のみのものもあった。ローリー受入ホースの一部の洗浄記録以外に仮設ホースの洗浄記録は確認できなかった。
(3) 移動式脱脂粉乳溶解機
 タンクに温水(温度は不明)を貯めたのち、アルカリ粉末洗剤を入れ、循環洗浄を行う(約15分)。その後、洗浄水を捨て、温水を入れてブローしながら循環させる。フェノールでアルカリ反応を確認する場合がある。蓋をして保管する(屋外)。作業手順書に洗浄方法が規定されているが、洗浄記録はなく、大阪工場の従業員からの聞き取りでは、実際に適正な洗浄がなされていたかは確認できなかった。
(4) 移動式再製乳タンク
 アルカリ洗剤でブラシを使用して手洗浄し、水または温水で濯ぎ、蓋をして外部に保管する。

7 関連事例の調査結果

(1) 神戸市

ア 神戸工場製品による有症苦情
(ア) 原材料として脱脂粉乳を使用している製品による苦情は380件届け出られ、このうち、大樹工場製脱脂粉乳を使用していた可能性のある期間の製品による苦情は310件であるが、苦情品や製品の検査により、エンテロトキシンが検出されなかったことが確認された品質保持期限の製品による有症苦情の件数を除くと、33件であった。
 苦情内容を症状別に検討すると、エンテロトキシンA型による食中毒の主徴である嘔吐又は嘔気は26.8%にとどまり、下痢は92.3%にのぼる。これはエンテロトキシンA型感受性の高い小児においても同様の傾向が見られる。
(イ)神戸工場製品による苦情は、すべて大阪工場製品による食中毒が報道されて以降に届けられたものであり、報道による心理的影響及び固有記号表記による消費者の混乱といった影響も大きいと思われる。
イ 大樹工場製造の脱脂粉乳の使用状況及び製品への推定毒素量
(ア) 大樹工場製造の脱脂粉乳は、010928-AC ACQロットが1,250kg、011007-BA ACQロットが800kg入荷しているが、使用記録があるのは011007-BA ACQロット476kgのみである。
(イ) 使用されたことが判明している製品について、調合割合から製品中の毒素量を推定すると、最大でも0.090ng/mlとなり、発症に必要なエンテロトキシンA型量を100ngとすると、当該製品を1,111ml摂取しなければ発症しない。使用記録のない
 1,574kgについては、6月19日から30日までに調合されたいずれかの製品に使用されたと考えられる。010928-AC ACQロット1,250kgについては、北海道の検査でエンテロトキシンA型が検出されていないロットのものであり、汚染されていないと仮定して製品中の毒素量を推定すると、最大で0.162ng/mlとなり、当該品を617ml摂取しなければ発症しない。当該脱脂粉乳が4ng/g汚染されていたと仮定すると、最大で0.388ng/mlとなり、257mlの摂取で発症も考えられる。この場合、特定のロットの製品について顕著な苦情があるはずであるが、このような事実はない。
ウ 検査結果
 苦情品24件、未開封製品37件及び原材料15件について行政検査を行っているが、エンテロトキシンは一切検出されていない。

 以上のことから、神戸工場製品による苦情を、汚染された脱脂粉乳を使用したことによる食中毒であると判断することは困難である。

(2) 福岡市

 福岡工場においては、本年6月9日大樹工場の脱脂粉乳011007ACQ40袋を乳飲料製造に使用したが、当該製品に係る苦情は報告されなかった。これは、他の調合タンク由来の原材料と混合され、エンテロトキシンA型が希釈されたためと考えられる。

8 まとめ

(1) 本食中毒事件の主たる病因物質は、多くの有症者の潜伏期間が短く、嘔吐又は嘔気、下痢を主徴としていること、多くの有症者が喫食した低脂肪乳から黄色ブドウ球菌の産生するエンテロトキシンA型が検出されていることから同毒素と判断される。

(2) 主たる原因食品については、雪印乳業(株)大阪工場で製造された「低脂肪乳」に加えて、エンテロトキシンA型が検出された「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」も疑われる。

(3) 雪印乳業(株)大阪工場の調査の結果、同社大樹工場で製造されたエンテロトキシンA型に汚染された脱脂粉乳が「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」及び「のむヨーグルトナチュレ」に使用されたことが確認又は推定されたことから、本脱脂粉乳が本食中毒の主たる原因であったと判断される。

(4) 本脱脂粉乳の使用が確認できない「低脂肪乳」、「のむヨーグルト毎日骨太」、「のむヨーグルトナチュレ」、「毎日骨太」、「カルパワー」、「特濃」、「コーヒー」、「フルーツ」を摂取した有症者も報告されているが、その原因となりうる病因物質は確認できなかった。

(5) 本食中毒調査の過程において明らかとなった大阪工場におけるずさんな衛生管理も要因として否定できない。

(6) 今後は本食中毒の主たる原因となった大樹工場での脱脂粉乳のエンテロトキシンA型による汚染メカニズムの解明が再発防止の観点から必要である


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