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食品衛生調査会毒性部会・器具容器包装部会
合同部会の審議結果について

平成12年6月14日
厚生省生活衛生局食品化学課

 平成12年6月14日,食品衛生調査会毒性部会・器具容器包装部会合同部会が開催された。審議結果等は下記のとおりであった。
 部会の審議結果に基づき各都道府県,政令市及び特別区の衛生主管部(局)長あてに,別紙1のとおり当面,緊急措置として可塑剤としてフタル酸 ジ(2−エチルヘキシル)(DEHP)を含有する塩化ビニル(PVC)製手袋の食品への使用を避けるよう管下関係営業者に対して指導するよう食品化学課長名で本日付けで通知した。また,関係営業者団体等に対しても別紙2のとおり通知した。

I 食品衛生調査会毒性部会・器具容器包装部会での評価

1 平成11年度厚生科学研究の概要

(1)市販弁当1食からのDEHPの検出量 322μg〜4,306μg(平均1,768μg)
(2)定食1食からのDEHPの検出量 6.9μg〜177.1μg(平均40.0μg)
(3)病院給食1日分からのDEHPの検出量 27μg〜2,549μg(平均519μg)

2 平成12年1月に採取した市販弁当製造工程中の食材の検査結果

(1)塩化ビニル製手袋で箱詰め作業をした弁当からは,箱詰前の食材を大きく上回る濃度でDEHPが検出された。

(例) 調理直後 詰める直前 詰めた後
 米 不検出 166ng/g 8,990ng/g

(2)塩化ビニル製手袋を使用していない工場の製品及び手袋で直接触れずに器具を用いて詰められた食材はDEHPの検出量が低かった。

 (例) ポテトサラダ 303ng/g

(3)塩化ビニル製手袋で食材に接触する模擬実験の結果

 模擬実験において,DEHPの食材への移行が確認され,市販弁当中のDEHPのかなりの部分が塩化ビニル製手袋に由来することが認められた。

(4)その他のフタル酸エステル類について

 DEHP以外のフタル酸エステル類については,摂取量が相対的に低いことから,現時点で具体的な対策を講じる必要はない。

3 DEHPの耐容一日摂取量(TDI)

40〜140μg/kg/日
(体重50kgの人で2,000〜7,000μg/日)

(報告書における検出データは,弁当1食分でほぼTDIと同程度の量となる。)

II 今後の対応

(1) 緊急措置として,DEHPを含有する塩化ビニル製手袋の食品への使用を避けるよう関係営業者等に指導すること。(別紙1及びを参照)

(2)今後,食品衛生調査会で規格基準の改正を検討する。


照会先 厚生省生活衛生局食品化学課
課 長 内田 康策
担 当 池田 年仁(2483)
   井上陽一郎(2488)
TEL[現在ご利用いただけません]
   03-3595-2341(夜間直通)

(別紙1)

衛化第31号
平成12年6月14日

  都道府県
各 政令市 衛生主管部(局)長 殿
  特別区

厚生省生活衛生局食品化学課長

塩化ビニル製手袋の食品への使用について

 平成11年度の厚生科学研究等により市販弁当にフタル酸 ジ(2−エチルヘキシル)(以下「DEHP」という。)が検出され,当該物質の弁当への移行の主たる原因が塩化ビニル(以下「PVC」という。)製手袋であることが判明したところである。
 このDEHPの弁当への移行の調査(厚生科学研究等によるもの)結果の概要及び安全性評価の概要はそれぞれ別添1及び別添2のとおりであった。今回の問題の重要性を踏まえ,食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会(平成12年6月14日開催)において審議が行われた結果,当面,緊急措置として可塑剤としてDEHPを含有するPVC製手袋の食品への使用を避けることが望ましい旨の結論が得られた。
 ついては,本通知を参考に可塑剤としてDEHPを含有するPVC製手袋の食品への使用を避けるよう貴管下関係営業者に対して指導されたい。
  また,関係団体等に対しては別添3により緊急措置を要請したので了知されたい。


(別添1)

1 平成11年度厚生科学研究の概要

(1)市販弁当1食からのDEHPの検出量

 322μg〜4,306μg(平均1,768μg)

(2)定食1食からのDEHPの検出量

 6.9μg〜177.1μg(平均40.0μg)

(3)病院給食1日分からのDEHP検出量

 27μg〜2,549μg(平均519μg)

2 平成11年度食品等試験検査費研究報告の概要

(1) 平成12年1月に採取した市販弁当製造工程中の食材の検査結果

(1) PVC製手袋で箱詰め作業をした弁当からは,詰める直前の食材を大きく上回る濃度でDEHPが検出された。
(2) PVC製手袋を使用していない工場の製品及び手袋で直接触れずに器具を用いて詰められた食材は検出量が低かった。
(3) 未調理の段階でも103ng/gオーダーのDEHPが含有されている加工度の高い食材が弁当工場に搬入されていた。

(2) PVC製手袋で食材に接触する模擬実験の結果

 模擬実験において,DEHPの移行が確認された。
 移行濃度は消毒用アルコールの併用により上昇し,市販弁当中のDEHPのかなりの部分がPVC製手袋に由来すること,及びPVC製手袋によるDEHPが瞬時に高濃度で起こることが認められた。

(3)その他のフタル酸エステル類について

 DEHP以外のフタル酸エステル類については,摂取量が相対的に低いことから,現時点で具体的な対策を講じる必要はない。


(別添2)

DEHPの安全性評価について(概要)

(毒性影響における種差)

 DEHPの安全性評価においては動物の種による感受性の差が問題となる。げっ歯類においては,共通して肝臓及び精巣への影響が認められるが,カニクイザル等の霊長類では影響は認められていない。

(肝臓への影響)

 DEHPのげっ歯類の肝臓への影響として,ラット及びマウスの2年間の反復投与における肝腫瘍の発生が挙げられる。
 最近のIARC(国際がん研究機関)専門家会合における検討において,

(1) DEHPはペルオキシゾーム増殖作用を介するメカニズムで肝腫瘍を発生させること。
(2) マウス及びラットの発がん性研究においてペルオキシゾーム及び肝細胞の増殖が観察されたこと。
(3) DEHPに暴露したヒト肝培養細胞及び霊長類の肝臓でペルオキシゾームの増殖が認められなかった。
ことから,DEHPの発がん性の分類を従来のグループ2B(ヒトに対する発がん性があるかもしれない。)からグループ3(ヒトに対して発がん性があると分類できない。)に変更されている。

(精巣及び生殖毒性)

 DEHPに関するラット及びマウスの精巣毒性及び生殖毒性に関する多くの試験成績のうち明確な無毒性量(NOAEL)の得られている数少ない実績を見ると,まず,マウスによる生殖発生毒性試験(Lambら,1987)におけるNOAELは,生殖発生に関する明確な有害影響(胚致死,胎児の形質異常等)を指標として14mg/kg/dayである。
 次に比較的低用量のDEHPをラットに投与した時の影響を見た報告(Poonら,1997)におけるNOAELは,精巣の病理組織学的変化を指標として3.7mg/kg/dayである。
 ラットに低用量のDEHPを投与したもう一つの報告(Arcadiら,1998)については低用量でも精巣毒性が確認されているが,DEHPの投与量が不明で,毒性についても不明確であるなど報告に不備がある。

(内分泌かく乱性)

 フタル酸エステル類については,内分泌ホルモン様の作用及びそれに基づく生体障害の可能性が問われているが,フタル酸エステル類全般についてヒト乳がん細胞(MCF-7)を用いた試験報告ではDEHPは増殖活性が認められていない。また,酵母の系でも活性は認められていない。他方,MCF-7の増殖活性で見た別の報告によれば用量相関性の増加が認められており,その最低濃度は10μM(=3.9mg/kg)であった。
 その他のin vitro試験成績を含めて検討すると,DEHPにおける内分泌かく
乱の可能性の如何については今後の研究を待たなければならないが,in vitro試験から求められる最小作用濃度(10μM)でも,従来の精巣毒性で求められているNOAEL値に較べて著しく低用量とはいえず,さしあたり一般毒性についてはこれまでの毒性試験の評価方法で判断することは差し支えない。

(耐容一日摂取量(TDI))

 上記のような検討の結果として,DEHPのTDIについては,精巣毒性及び生殖毒性試験におけるNOAEL3.7mg/kg/day及び14mg/kg/dayから不確実係数100を適用して,当面のTDIを40〜140μg/kg/dayとすることが適当である。

(参考)DEHPに係る諸外国における安全性評価結果

(EUにおける評価)
 TDI:37μg/kg/day('98)(NOAEL 3.7mg/kg/day,精巣毒性:Poonら,1997,SF=100)

(英国における評価)
 TDI:50μg/kg/day('96)(NOAEL 5mg/kg/day,肝毒性:RIVM,1992,SF=100)

(デンマークにおける評価)
 TDI:5μg/kg/day('96)(NOAEL 5mg/kg/day,肝毒性:RIVM,1992,SF=1,000)

(米国における評価)
 NOAEL:約10mg/kg/day('99)
  (精巣毒性:Poonら,1997,生殖毒性:Lambら,1987)
 NOAEL 4mg/kg/day,NOAEL 14mg/kg/day

(別添3省略)

(別紙2)

衛化第32号
平成12年6月14日

社団法人 日本食品衛生協会会長
社団法人 日本惣菜協会会長
社団法人 日本炊飯協会会長
社団法人 日本弁当サービス協会会長
日本べんとう工業協会会長
社団法人 日本給食サービス協会会長
日本チェーンストア協会会長
社団法人 全国スーパーマーケット協会会長
社団法人 日本冷凍食品協会会長
日本生活協同組合連合会会長
日本セルフサービス協会会長
日本百貨店協会会長
殿

厚生省生活衛生局食品化学課長

塩化ビニル製手袋の食品への使用について

謹啓

 時下益々御清祥のこととお喜び申し上げます。
 日頃から食品化学行政に御理解及び御尽力いただき厚く御礼を申し上げます。
  さて,平成11年度の厚生科学研究等により市販弁当にフタル酸 ジ(2−エチルヘキシル)(以下「DEHP」という。)が検出され,当該物質の弁当への移行の主たる原因が塩化ビニル(以下「PVC」という。)製手袋であることが判明したところであります。
 このDEHPの弁当への移行の調査(厚生科学研究等によるもの)結果の概要及び安全性評価の概要はそれぞれ別添1及び別添2のとおりでありました。今回の問題の重要性を踏まえ,食品衛生調査会毒性・器具容器包装合同部会(平成12年6月14日開催)において審議が行われた結果,当面,緊急措置として可塑剤としてDEHPを含有するPVC製手袋の食品への使用を避けることが望ましい旨の結論が得られたところです。
 ついては,貴団体会員事業者に対して,本通知に基づき,可塑剤としてDEHPを含有するPVC製手袋の食品への使用を避ける御指導方よろしくお願い申し上げます。


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