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ホームレスの自立支援方策について


平成12年3月8日

ホームレスの自立支援方策に関する研究会



ホームレスの自立支援方策について(要旨)

1 ホームレス問題の現状
(背景・要因等)
○ ホームレス問題は、その時代における社会問題が複合的に絡み合って生じる一つの貧困問題で、今日新たな形で出現
○ この問題は、仕事、家族、住居の問題が複合的に絡み合い、病気やけが、アルコール依存症、借金問題などが複雑に関係
○ 日雇労働の減少、リストラ、会社倒産等による失業者の増加
○ 家族の支援が得られにくく、失職により一般社会の中から孤立

(ホームレスの現状)
○ 全国のホームレスの概数は、約2万人(H11.10月現在)で、大都市部を中心に増加(地方の主要都市や大都市近郊市にも広がり)
○ 長期の野宿生活による健康状態の悪化
○ 平均年齢は50歳代半ばで男性が中心(最近では若年層のホームレスや女性、家族のホームレスが一部にみられる)
○ 公園等公共空間での生活で地域住民との摩擦が生じかねない

2 自立支援を進めるための課題
 ホームレスに対する自立支援は、ホームレス自身が地域社会の一員として
社会生活が送れるようにすることが基本であり、ホームレスのニーズに応
た施策の推進が必要
○ ホームレス個々のニーズを把握するために総合的相談・支援体制の確立
○ 近年の経済・雇用情勢及びホームレスの過去の職歴等から雇用先に制約があるめ、多様な就労先の確保
○ 疾病等を有する者に対する保健医療対策等の一層の充実
○ 自立能力に乏しいホームレスに対する社会福祉施設への入所等既存制度での十分な対応や生活保護制度の適切な運用
○ 宿所提供施設の拡充と併せ、多様な居住場所の確保
○ 行政及び民間支援団体、地元自治会等を含め地域全体で支援する体制・仕組みの構築

3 ホームレス自立支援事業の効果的な進め方
(1) 総合的な相談・指導体制の確立
 自立支援事業を効果的に進めるためには、ホームレス個々のニーズに応
じたアセスメントが重要であり、福祉事務所を中心として、保健所、公共
職業安定所等の関係機関や社会福祉施設等との連携による総合的な相談・
指導体制の確立が必要
○ 相談機能を十分発揮させるために、経験豊富な人材の確保と職員体制の整備に合わせ、研修等による職員の資質向上
○ 民間支援団体等との連携・協力による福祉事務所等の窓口への誘導
○ 福祉事務所、保健所等関係機関が連携した積極的な街頭相談の実施
○ 街頭相談における地域のNPOや民間支援団体等との連携・協力

(2) 自立支援事業の効果的な実施
 平成12年度から実施される「ホームレス自立支援事業」の効果的な運
営の観点から次のことに十分に留意
○ ホームレスの就労支援を行うために宿所や食事の提供とともに、定期的な入浴や下着類の支給等、日常生活が送れるよう十分に配慮
○ 定期的な健康診断など十分な健康管理
○ 利用者の個々の状況に応じた自立支援プログラムの策定及び積極的な就労支援
○ 地域社会の中で生活するための社会常識や生活習慣等を身に付けるための指導援助
○ 就労するために必要な住民登録、職業斡旋、求人開拓及び住居の確保や自立阻害要因を取り除くための指導援助
○ 利用期間中に就職できなかった者に対する処遇の確保
○ センター周辺の清掃活動など地域との交流促進及び民間支援団体、地元自治会、関係機関等との意見交換
○ 自立支援事業について、情報交換、研究協議等を行うため、全国的なネットワークを構築




(別 紙)

ホームレス自立支援事業の概要

事業の目的

 自立支援センターの利用者に対して、宿所及び食事を提供するとともに、健康診断、生活相談・指導及び職業相談・斡旋等を行うことにより、利用者の就労による自立を促進

利用対象者

 就労意欲のある者、稼働能力がある者、就労意欲を助長する必要がある者等

利用者へのサービス

 宿所、食事の提供や定期的な入浴、下着類の支給等、日常生活に必要なサービスの提

<利用期間中の主な処遇>
○ 定期的な健康診断による健康管理
○ 就労支援のための住民登録及び親族との交流促進
○ 利用者の生活状況、健康状態等に応じた自立支援プログラムの策定
○ 支援プログラムに基づく積極的な就労支援
○ 利用者の借金問題等自立阻害要因の除去
○ 地域社会における社会常識や生活習慣等の習得
○ 低廉な賃貸住宅の募集情報の提供等住居確保のための援助
○ 未就職者に対する福祉事務所との連携(再び路上に戻らないように)

<職員体制>
○ 施設長、生活相談指導員、嘱託医、看護婦、事務員及び職業相談員(公共職業安定所から派遣)

<福祉事務所の役割>
○ 未就職者及び傷病等の理由により自立が困難な者への相談・援助

<地域社会との連携>
○ 地域の清掃活動等地域住民との交流促進
○ NPOや民間支援団体、自治会、関係機関等を含めた意見交換
○ 自立支援事業についての情報交換、研究協議などホームレス問題に関する全国的なットワークの構築

(注)本事業は地方公共団体が実施主体となり、国は施設整備費及び運営費を補助(平成12年度予算案 約9億円、8か所−1,300人分)


ホームレスの自立支援方策について


第1 はじめに

○ 我が国では、近年の経済・雇用情勢等を背景として、大都市部を中心に、公園、河川敷等で野宿生活を送っているホームレスが増加して、大きな社会問題となっている。
○ こうした現状を踏まえ、ホームレス自身も地域住民も良好な環境の中で暮らせる地域社会とするために、国、地方公共団体が一体となって、雇用、福祉、住宅等各分野にわたって総合的に取り組む必要がある。
○ 政府においては、関係省庁及び関係地方公共団体で構成する「ホームレス問題連絡会議」を設置し、その対応策を検討した結果、平成11年5月26日に「ホームレス問題に対する当面の対応策」が取りまとめられたところである。
○ 本研究会においては、平成11年7月以来9回にわたり、この当面の対応策の主要な柱である「総合的な相談・自立支援体制の確立」を中心に議論を行ってきたところである。具体的には、ホームレス問題の背景・要因、欧米諸国のホームレス事情、自立支援事業の効果的な進め方及びホームレスの自立支援を進める上での課題などである。
○ このまとめは、ホームレス問題の現状、ホームレスの自立支援を進めるための課題及びホームレス自立支援事業の効果的な進め方の三項目に分け整理しており、その内容は次のとおりである。
 なお、このまとめが今後のホームレスの自立支援を進める上で参考とされ、各種施策が推進されることによって、ホームレス自身が地域社会の一員として社会生活が送れることを切望するものである。

第2 ホームレス問題の現状

1 背景及び要因等
○ ホームレス問題は、その時代における社会問題が複合的に絡みあって生じているものであるが、これは過去にも繰り返し現れた一つの貧困問題であり、近年の経済・雇用情勢等を背景として、今日また新たな形で出現している。
○ ホームレス問題は、1)仕事の問題(会社の倒産等により安定職にあった者が失職るあるいは日雇・住み込み等不安定職の失職の2タイプがある)、2)家族の問題(離婚、実家とのトラブル、虐待、家出等)、3)住居の問題(家賃の滞納による立ち退き、住み込み先の喪失等)が複合的に絡みあって生じている。更にその中に、アルコール依存症、病気やけが、借金などの問題が含まれることもある。
○ 仕事の問題から見ると、ホームレスとなる直前職として一番割合の高いのが建設土木業の日雇労働であるが、近年それらの業種は技能工的なものを除き機械化が進み、あまり人手を必要としなくなったことで、日雇労働市場の求人数の落ち込みが激しくなっている。
また、日雇労働者の平均年齢は50歳前後であり、現状では45歳を超えると求人数が少なくなり、その傾向が更に強まるなか、高年齢層の者が仕事に就くことが困難な状況となっている。
○ 近年、雇用構造の変化により、安定職であった常用労働者の終身雇用体制が揺らぎ、日雇や住み込みなど従来からの不安定労働市場も縮小しているため、従前は安定職を喪失しても不安定職が受け皿となっていたものが、そのクッションが小さくなったために安定職から直接路上に出てくる例もみられる。
○ 家族の問題から見ると、現在の我が国のホームレスは50歳代の中高年齢層の男性が中心で、結婚歴がないかあるいは結婚歴があっても離婚等をしている者が多いため家族の支援が得られにくく、更に仕事を失うことによって、一般社会の中から孤立してしまう傾向にある。
○ 最近では、何らかの理由により家を失ったり、家賃の滞納による立ち退きや夫の暴力からの逃避などにより、女性や家族のホームレスが一部にみられるようになっている。
○ 住居の問題から見ると、老朽化した低廉な家賃のアパート等が建替により家賃が高くなり、不安定収入層の者がアパート等を借りにくい状況もみられる。
また、簡易宿所も建替等により宿泊代が上昇した一方で、日雇労働の賃金の低下や就労日数の減少等により、宿泊代と賃金のバランスが崩れ、継続した簡易宿所での生活が困難な状況になっている例も多い。
○ 社会保障は職域と地域などの関連が重視される部分が多いことから、職域も地域も持たないホームレスが、一般の社会施策から抜け落ちる恐れがあると考えられる。

2 ホームレスの現状
○ ホームレスの全国的な状況については、平成11年10月末現在で20,451人となっており、前回調査(平成11年3月)の16,247人に比して大幅な増加をみせている。ホームレスの増加は、地方の主要都市や大都市近郊の市にも広がりをみせているが、主として大都市部を中心に増加している。
○ ホームレスの平均年齢は50歳代の半ばで高齢者も相当数含まれており、また、野宿生活が長期化していることに伴い、衛生状態の悪化や栄養状態が十分でないことなどにより結核の罹患者が発生したり、疾病等により健康状態が悪化している者が多くなっている。この中にはアルコール依存症、精神に障害を有する者等も含まれている。
○ 大阪では、90年代の経済不況により急激にホームレスが増加し、日雇労働者の寄せ場であるあいりん地域から全市的な広がりを見せており、都市公園や生活公園等の公共空間にもホームレスが入り込み、地域住民との摩擦が発生しやすい状況となっている。また、東京においても、河川敷や公園等を中心にホームレスが増加しており、地域住民との摩擦が発生しやすい状況となっている。
○ 最近では、若年層のサービス業従事者等からホームレスとなっている例も一部にみられ、従来のタイプとは異なったホームレスの出現を予想させる。また、女性や家族のホームレスも一部にみられる。
○ ホームレスの中には、一旦病院や福祉施設に入院(入所)し、退院(退所)後において定住先を持てずに再び路上に戻る例も少なくない。

3 欧米諸国におけるホームレス事情

イギリス

○ イギリスにおけるホームレス問題は、複合原因説が大体合意を得ており、住宅法の中でホームレスの定義やその対策の法的根拠を示している。
ホームレスの現状としては、1991年のピーク時で約145,000人(イングランドのみ)、1995年で約121,000人と減少傾向にあるが、ティーンエイジャーのホームレスについては増加傾向にあり、雇用、家族問題、ドラッグ等の問題がクローズアップされている。
(注)イギリスにおけるホームレスの定義
1)占有できる住居を持っていない状態にある世帯の一員
2)家があってもそこに立ち入れない場合、住むことが許されていない車両や船で生活している場合、家があってもそこに継続的に住む理由を持っていない場合
3)28日以内にホームレスになる可能性のある場合
○ イギリスの地方政府においては、ホームレスに対し、1)助言と情報を無料で提供する、2)優先的なニーズを持つホームレスに対して、住宅手当と実際に住居を得るための援助を行う義務を負っており、この期間は2年で更に継続が可能である
しかし、住宅が不足しているために恒久的な住宅に移れず、ホステル等の臨時施設に住んだり、路上に出るなどの問題があり、住宅の確保と保健・福祉サービス、就労援助など総合的な支援が必要となっている。
○ 近年では、首都ロンドンを中心とした野宿者対策が重点課題として取り上げられ、1)「社会的排除」を防止するため、住宅、保健、雇用などを含めたサービスが受けられるよう戦略全体を調整する責任を持つ省を定め、2)これを監督するための内閣委員会を設立し、年1度の報告義務を設ける、3)全体目標として2002年までに野宿者の数を3分の2まで減らす、4)予防のために、刑務所・保護観察サービスの改善、退役軍人へのサービスの改善等を行う、5)雇用への援助を集中的に行う等が強調されている。

アメリカ

○ アメリカでは、1987年に作られたスチュワート・マッキーニ法により、連邦政府が法的根拠とホームレスの定義を示している。
マッキーニ法では、ホームレスに対するプログラムを策定し、それに補助金を出す仕組みとなっており、社会とホームレスの相互責任の原則を強く打ち出している。

(注)アメリカにおけるホームレスの定義
1)夜間において定まった住居がない者
2)一時的宿所(シェルター、福祉ホテルなど)に泊まっている者
○ ニューヨークでは1994年にホームレス支援計画を策定し、具体的な改革の内容、目標、実施計画をつくり、その方向で施策を行っている。
その内容は、1)路上や公共の場所にいるホームレスに対する相談支援(アウトリーチ)、2)アセスメントシェルターで家族は10日以内、単身者は90日以内に行うアセスメント、3)特別な援助を必要とするホームレスに対するサービスの強化、4)雇用と職業訓練を関連させた経済的自立への援助、5)援助を受けると同時に責任も果たすという相互責任の原則、6)恒久的な支援ができるよう住宅供給の機会を増加させる等が挙げられている。
また、実施計画には、アウトリーチ、サービスプログラムの策定、住宅取得の援助等が盛り込まれている。
○ 各種施策においては、民間団体や非営利団体の果たす役割が大きい。

フランス

○ フランスでは、住宅問題を抱えた者を施策の対象とし、その数は、ホームレスが20〜40万人(個人の自治的住居に居住していない者、施設入所者を含む)、住宅最低限基準に満たない住宅の居住者が200万人で計220〜240万人と言われている。
しかし、宿泊所や一般的住居入居を待機する「一時的住宅」が普及しており、長期の野宿生活者はほとんどいない。
○ ホームレスだけの制度は隔離につながることを理由に、ホームレス対策についての単独法はなく、住宅対策、失業対策、生活扶助等の一般対策において取り組む形で進められている。生活扶助(RMI)は25歳以上であれば、民間認可団体、福祉事務所に住所登録さえすれば、支給が行われている。
さらに、民間アソシエーション(貧困援助団体)が早くから地道に活動しており、それがホームレス対策の改善につながっている。
○ 1998年7月に「反排除基本法」が制定され、その中で各省庁に横断的に施策の責任を担う部局を設置し、目標を立てることによってどれだけの問題を解決するか、そして目標未達成の責任はその部局が負うことを明確に示した。
また、トラス(TRACE)という国庫補助雇用を新しく設置し、ソーシャルワーカーが福祉領域に限らず、雇用政策、住宅政策においても援助を行っていくこととしている。
さらに、課題としては、宿泊施設からノーマルな住居への入居と、補助雇用から一般的雇用の確保が挙げられる。


第3 ホームレスの自立支援を進めるための課題

○ ホームレス問題については、ホームレス自身が地域社会の一員として社会生活が送れるよう支援することが基本であり、そのためには、ホームレス個々のニーズに応じた支援プログラムが用意される必要がある。こうした観点から、総合的な相談・支援体制の確立が重要な課題である。
○ ホームレスの自立支援は就労による自立を目標とするものであり、その意味では、「ホームレス自立支援事業」の果たす役割は大きいと考える。しかし、近年の経済、雇用情勢及びホームレスの過去の職歴等からすると、就労先の確保は厳しい状況にあり、また、雇用職種は自ずと限定されることが予想される。このため、現行の雇用施策のほか、福祉工場等に類似する福祉的就労の場など多様な就労先の確保方策も検討する必要がある。更に、ホームレスが現在持っている資格や技術を活用するための再訓練、新たな資格を取得するための支援方策を検討することも必要である。
○ ホームレスの多くは、長期の野宿生活による衛生状態の悪化や栄養状態が十分でないことなどにより、結核罹患者や何らかの疾病を抱える者など健康状態が悪化している者が多く、その中にはアルコール依存症や精神に障害を有する者等が含まれている。
 このため、保健所における結核検診や結核罹患者への服薬等の指導並びにアルコール依存症、精神に障害を有する者等に対する巡回指導や各種相談等を積極的に行うとともに、無料低額診療施設の積極的な活用など対応の強化を図る必要がある。
○ 高齢や疾病等の理由により自立能力に乏しいホームレスに対しては、社会福祉施設への入所等既存の施策での対応を図るとともに、一般社会生活から逃避している者などへの対応も検討する必要がある。
 また、長期の野宿生活により体力が低下しているホームレスに対する緊急的な対応として、福祉施設等の活用によりホームレスを一時的に入所させ、健康診断や食事の提供等により、体力の回復を図るといったことも、有効な方策の一つと考えられる。
○ 急迫状態にあるホームレスに対しては、現在でも生活保護制度により必要な対応がなされているが、ホームレスの現状に鑑みて、今後も引き続き適切な運用を検討することが必要である。
○ ホームレスの自立を考えるときに、仕事の問題に加え、居住場所の確保が大きなウエートを占めることになる。
 現在でも、生活困窮者が無料又は低額な料金で利用できる宿所提供施設があるが、これらの施設の拡充とあわせ、多様な居住場所の確保方策についても検討する必要がある。
○ ホームレスの自立を支援する上で、ホームレスに最も身近な地域の社会福祉協議会、民生委員や、NPO、ボランティア団体等との連携・協力が不可欠であり、行政及び民間支援団体、地元の自治会等を含め地域全体で支援する体制・仕組みを構築することが必要であると考える。


第4 ホームレス自立支援事業の効果的な進め方

1 総合的な相談・指導体制の確立
○ ホームレスに至る要因としては、会社の倒産や日雇労働の減少等による失業、離婚・虐待・家出等の家族問題、病気やけがなどによるものであるが、これらホームレスの自立支援を考えるときに、個々のニーズに応じたアセスメントが大変重要である。
○ ホームレスのニーズを的確に捉えるためには、総合的な相談体制を確立する必要があるが、現行制度等の状況から考えれば、福祉の第一線機関である福祉事務所がその中心的な役割を果たすのが現実的であると考える。
 また、相談内容に応じて保健所、公共職業安定所等関係機関や社会福祉施設等との連携を図る必要がある。
 さらに、福祉事務所がその相談機能を十分に発揮するために、経験豊富な人材の確保と職員体制の整備に合わせ、研修等による職員の資質の向上を図る必要がある。
○ 福祉事務所の相談機能を十分に生かすためには、福祉事務所の窓口そのものの敷居が高くならないよう工夫する必要があり、そのためには、民間支援団体等の協力を得て福祉事務所の窓口に誘導する方策も検討する必要がある。
○ 福祉事務所においては、ホームレスの窓口相談に加え、保健所等関係機関と連携した街頭相談等を積極的に行い、ホームレス個々の状況に応じて、自立支援事業の利用の促進を図るとともに、既存制度の十分な活用を図ることも必要である。また、街頭相談においては、地域の実情に応じて、ホームレスに身近に接しているNPOや民間団体等の協力を得ることも必要である。
 さらに、自立支援事業の利用対象者の相談に当たっては、自立支援センターが協力できる仕組みも別に考える必要がある。
○ 一定の収入を得ながら公園等で野宿生活を送っているホームレスに対しては、地域社会の一員として社会生活が送れるよう、積極かつ継続的な相談援助を行う必要があり、そのために福祉事務所等に特別なチーム(体制)を設けることも一つの方策である。

2 自立支援事業の効果的な実施
 ホームレス自立支援事業は、ホームレスを一定期間宿泊させ、健康診断、生活相談・指導及び職業相談・斡旋等を行うことにより、就労による自立を目指すことを目的として、平成12年度から実施されるものであるが、事業の効果的な運営の観点から、次のことに留意する必要がある。

(1) 利用対象者
○ 自立支援事業の目的からすると、利用対象者は就労意欲がある者又は稼働能力があると思われる者が中心であるべきと考えるが、ホームレスの現状を考えると、利用対象者については就労意欲を助長する必要がある者等、ある程度柔軟な対応が必要と考えられる。

(2) 利用の決定
○ 相談業務の中核を担う福祉事務所長が決定するのが適当であるが、利用の決定に当たっては、センターとの十分な協議、連携が必要と考えられる。

(3) 利用期間
○ 利用期間は、個々の状況に応じて弾力的に考える必要があるが、この事業は生活施設ではないことから、むやみに長期にならないよう留意する必要がある。

(4) 利用者へのサービスの内容
○ センターにおいては、ホームレスの就労支援を行うため、宿所や食事を提供するとともに、定期的な入浴や下着類の支給等により日常生活が送れるよう十分に配慮する必要がある。

〈入所時の対応〉
1) 健康診断
○ 長期の野宿生活により健康状態が悪化している者が多いため、入所後は速やかに健康断を行い、健康状態を確認する必要がある。
○ 入所時に治療が必要な場合は、福祉事務所と連携を図り、生活保護の医療扶助により通院させるなどの配慮が必要である。
○ 利用者の中には、アルコール依存症、精神に障害を有する者や結核に罹患している者等が少なくないことから、保健所等関係機関と十分な連携を図り、必要な援助を行う必要がある。

2) 面接相談
○ 入所時には、生活環境の変化により不安を抱く者が多く、社会生活への復帰を図るための様々な相談に応じる必要がある。
○ 入所時に生活状況等を把握し、就労支援のための住民登録を速やかに行えるよう助言する必要がある。
○ 入所時に親族の状況を把握するとともに、日頃より親族からの援助が得られるよう必要な助言を行う必要がある。
○ 利用者の年金・雇用保険等の状況を十分に把握し、活用されていない社会保障資源について活用するよう助言する必要がある。

3) 入所時のガイダンス
○ 共同生活を円滑に行うため、入所時に、飲酒の禁止、門限時間、その他共同生活を行う上で必要な事項についてガイダンスを行う必要がある。

4) 自立支援プログラムの策定
○ 自立支援のための処遇を効果的に進めるため、利用者の生活史及び生活状況や健康状態等を十分に把握した上で、自立支援プログラムを策定する必要がある。

〈利用期間中の支援〉
1) 健康管理
○ 定期的に嘱託医及び看護婦による健康医療相談を行うなど、利用者の健康管理に十分留意する必要がある。
○ 利用期間中、治療が必要な場合は、福祉事務所と連携を図り、生活保護の医療扶助により通院させるなどの配慮が必要である。

2) 生活相談及び指導
○ 自立支援プログラムに基づき、早期の自立に向けた指導援助を積極的に行う必要がある。
○ 就労支援については、職業相談員と生活相談指導員がチームを組み、特に就労意欲を向上させるための各種相談、指導等を十分に行う必要がある。
○ 利用者の中には、借金問題を抱えている者が少なからずいることから、必要に応じて無料法律相談につなげるほか、裁判所の破産宣告の申立手続等の助言を行うなど、自立を阻害する要因を取り除くための指導援助を行う必要がある。
○ 利用者の中には、長期の野宿生活により社会生活を送ることが困難な者や就労意欲が低下している者も多いため、社会生活への復帰や就労意欲を高めるための様々な指導援助を十分に行う必要がある。
○ 利用者が再び路上に戻らないよう日頃より将来の自立に備えて、地域社会の中で生活するために必要な社会常識や生活習慣を身につけるための十分な指導援助を行う必要がある。

3) 職業相談及び斡旋
○ 就労意欲に問題がある者に対しては、職業相談員と生活相談指導員がペアを組み緊密な連携のもとに就労支援を行う必要がある。
○ 就職の際の保証人について、親族等の援助が得られない場合に対し、センターとして一定の仕組みをつくっておく必要がある。
○ 職業斡旋を行う場合は、求人者に対し求職者の状況を十分に伝えた上で求人開拓を行うなど、センターと求人者との信頼関係の維持に十分配慮する必要がある。

4) 就職決定者等への支援
○ 社会生活に順応するために必要な社会常識や生活習慣を身につけるための指導援助を行う必要がある。
○ 就職直後においては、定期的にセンターの相談員が訪問し、各種相談に応じることによって、継続的な就労ができるよう支援する必要がある。

5) 就職決定者等の住居の確保
○ 住居の確保の際の保証人について、親族等の援助が得られない場合に対し、センターが一定の仕組みをつくるとともに、住居の確保に当たっては、地域社会の理解が得られるよう、センターが一定の役割を果たしていく必要がある。
○ 就職決定者の就労が継続できるよう、福祉事務所等との連携を図り、宿所提供施設の確保や公的賃貸住宅を含めた比較的低廉な家賃の賃貸住宅に係る募集情報の提供等を行い、独立した住居が持てるよう十分配慮する必要がある。

6) 就職未決定者(期間満了者)への対応
○ 就労等による自立に至らなかった者については、利用期間中の処遇内容等を福祉事務所に報告し、福祉事務所はその後の処遇について検討を行い、再び路上に戻ることのないよう十分に配慮する必要がある。
○ 利用者が就職できなかった理由等について、詳細な分析を行うことにより、今後の事業運営に生かす必要がある。

7) 退所の取り扱い
○ 共同生活の秩序を著しく乱す者、身元を明かさず就労支援が困難な者及び積極的な就職活動を行わない者等に対しては、適切な指導、指示等を行い、それに従わない場合には、速やかにその状況を福祉事務所に報告し、退所を検討する必要がある。
○ 利用期間中に傷病等の理由により就労支援等が困難な場合は、速やかにその状況を福祉事務所に報告し、退所を検討する必要がある。

(5) センターの建物設備・職員体制
1) 建物設備
○ センターには、事務室、相談室(生活相談室・職業相談室)、保健室、居室、浴室、洗濯室、教養娯楽室等必要な設備を設ける必要がある。

2) 職員体制
○ センターには、施設長、事務員、生活相談指導員、嘱託医、看護婦、職業相談員(公共職業安定所からの派遣)等事業運営に必要な職員を配置する必要がある。
○ 生活相談指導員については、様々な問題を抱える利用者の日常生活上の不安の解消や自立に向けての指導援助等、重要な役割を担っていることから、経験豊富な職員の確保に十分配慮する必要がある。

(6) 福祉事務所の役割
○ センター利用者が一定の就職努力を行ったにも関わらず就職できなかった場合においては、支援センターとの連携を図り、必要な援助を行う必要がある。
○ センター利用者が傷病等の理由により就労による自立が困難となった場合には、福祉事務所は利用者本人の状況を確認の上、必要な援助を行う必要がある。
○ センター利用者が管理規程違反等により退所を命じられた場合には、福祉事務所は支援センターでの処遇状況の報告を求め、退所者本人との面接を行うことにより、必要な援助を行う必要がある。

(7) 関係機関・地域社会との連携
○ ホームレス問題への対応は、福祉部局のみの取り組みだけではなく、公園などを管理する公共施設管理部局や、感染症予防面で保健医療部局等との連携が図られるよう、全庁的な取組体制の確立が重要である。
○ この事業に対し地域社会の理解が得られるよう、例えば、センター利用者がセンター周辺の公園や道路の清掃活動等を行うことにより地域住民との交流を深め、地域に密着したセンターとしての役割を果たしていくことも必要である
○ ホームレスに身近に接することの多いNPOや民間支援団体との定期的な情報交換を行うとともに、センター職員、地元自治会、関係機関、民間支援団体等を含めた協議会を設けることによって、様々な意見交換を行うことも必要と考える。
○ 各都市におけるホームレスの状況はそれぞれ異なるが、自立支援事業を行う施設での支援プログラムや相談体制のあり方等についての情報交換、研究協議等を行うため、関係者、関係団体の参加を得て、ホームレス問題に係る全国的なネットワークを構築することが必要である。


「ホームレスの自立支援方策に関する研究会」委員

(敬称略、五十音順)
氏 名 役 職 名 等
(座長)
阿 部 志 郎
横須賀基督教社会館館長
岩 田 正 美 日本女子大学社会福祉学科教授
上久保 忠 社会福祉法人神奈川県匡済会常務理事
竹 村 毅 産業医科大学顧問
長谷川 匡 俊 淑徳大学学長
森 田 洋 司 大阪市立大学文学部教授
吉 村 靫 生 社会福祉法人大阪自彊館理事長

(問い合わせ先)
 厚生省社会・援護局地域福祉課  担当:難波、奥出(内線2855)  電話:[現在ご利用いただけません](代表)     03−3595−2615(ダイヤルイン)


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