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平成12年2月15日

平成10年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告
(要旨)

1.経緯

 標記病院モニター報告制度は、各種家庭用品に係る消費者の健康被害事例を継続的かつ広範に収集し、健康被害の実態を把握するとともに、家庭用品の安全対策を一層推進することを目的として、昭和54年より実施され、現在皮膚科領域8病院、小児科領域8病院の協力を得ている。また、平成8年度の報告から(財)日本中毒情報センターが収集した吸入事故等の情報も併せて収集することとした。今般、平成10年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。

2.概要

 本制度は、モニター病院(皮膚科、小児科各8施設)の医師が家庭用品等による健康被害と思われる事例(皮膚障害、小児の誤飲事故)について、また、(財)日本中毒情報センターが収集した家庭用品等による吸入事故等と思われる事例について、それぞれ厚生省に報告する方法により行っているものである。
 平成10年度の報告件数は、皮膚科237件、小児科747件、吸入事故等591件で合計1,575件であった。なお、死亡事例は報告されていない。

(1)家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)健康被害の概要
・原因家庭用品上位5品目は順に、洗剤が67件、装飾品が36件、ゴム手袋・ビニール手袋が25件、眼鏡が17件、時計バンドが15件、であった。
・患者の性別では、女性が171件(約72%)と大半を占め、特に20代の女性が74件と全体の約31%を占めた。これは例年と同様の傾向であった。
・障害の種類のうち主なものは、アレルギー性接触皮膚炎が118件、刺激性皮膚炎が49件、KTPP型*の手の湿疹が30件等であった。

*KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激によりおこる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。


(2)原因製品別結果と考察
(洗剤)
・洗剤に関する報告件数は67件(約26%)であった。
・製品の種別のうち主なものは、台所用洗剤が28件、洗濯用洗剤が23件等であった。
・障害の種類のうち主なものは、刺激性の皮膚炎が25件、KTPP型の手の湿疹が24件、湿潤型の手の湿疹が16件等であった。
・原液での使用など、不適切な使用法を避け、使用上の注意・表示をよく読んで正しく使用することが重要である。また、使用者の必要に応じて、保護手袋を装着することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も有効と思われる。

(装飾品)
・装飾品に関する報告件数は36件(約14%)であった。
・製品別の内訳のうち主なものは、ピアスが10件、ネックレスが9件、イヤリングが5件、指輪が3件、これらの複数が原因と考えられるものが6件であった。
・アレルギー性接触皮膚炎が障害報告事例の大半を占めた(約89%)。
・21件についてパッチテストが実施され、前年度同様ニッケルにアレルギー反応を示した例が13件と最も多かった。
・汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずすことが望ましい。また、ピアスは表皮より深部に接触する可能性が高く、初めて装着したり、種類を変更したりした際には、症状の発現に特に注意して使用する必要がある。症状が発現した場合には、専門医を受診するとともに、原因製品の装着を避け、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが必要である。

(ゴム、ビニール手袋)
・ゴム、ビニール手袋に関する報告件数は25件(約9.6%)であった。
・素材が判明したものの内訳は、ゴム手袋が12件、ビニール手袋が5件であった。
・ラテックスアレルギーは重篤な場合ショック症状に陥り、生命の危険を伴う恐れがあり、注意が必要である。既往歴があり皮膚障害が心配される場合には、別の素材の手袋に変更すること等の対策が必要である。
・製造者においては、ラテックス蛋白の含有量を低減する努力を引き続き行うことが重要である。

(時計バンド)
・時計バンドに関する報告件数は15件(約5.7%)であった。
・素材が判明したものの内訳は、革が3件、金属が2件、プラスチックが1件、であった。
・アレルギー性接触皮膚炎が障害報告事例の大半を占めた(約80%)。
・症状が発現した場合には速やかに別の素材のものに変更することが必要である。


(3)全般的な留意事項
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することにより接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療を受けることが必要である。
 また、毎年誤使用から障害が発生した事例が見受けられることからも、日頃から使用前には必ず注意書をよく読み、正しい使用方法を守ること、自己の体質について認識し、製品の素材について注意を払うことが大切である。

(2)小児における家庭用品等の誤飲事故に関する報告

(1)健康被害の概要
・誤飲事故の原因製品上位5品目は順に、タバコが368件、医薬品・医薬部外品が87件、金属製品が40件、プラスチック製品が34件、玩具と化粧品が26件であった。
・上位品目の全件数に占める割合の長期的傾向を見ると、変動はあるもののタバコの占める割合が依然として多かった。
・誤飲事故の発生は、午後5時から午後10時の間に多い傾向があり、全体の約47%がこの間に発生していた。


(2)原因製品別考察
(タバコ)
・タバコに関する報告件数は368件(約49%)で、小児科報告件数の約半数を占めていた。これは例年と同様の傾向であった。
・事故は6〜11ヶ月の乳児に発生が集中(約67%)しており、さらに12〜17ヶ月の幼児とあわせると、乳幼児で報告例の約94%を占めた。
・タバコや灰皿は乳幼児の手の届かないところに保管するなど、その取り扱いや置き場所には細心の注意を払うことが必要である。

(医薬品・医薬部外品)
・医薬品・医薬部外品に関する報告は87件(約12%)であった。
・誤飲事故は、各年齢層においてみられたが、特に1〜2歳児に多い傾向があった。
・誤飲事故の大半は、医薬品等の保管を適切に行っていなかった場合や、保護者が目を離したすきに発生していた。小児の医薬品の誤飲は症状が発現する可能性が高く、保管・管理に十分留意する必要がある。

(電池)
・電池に関する報告件数は23件(約3.1%)であった。
・6〜11ヶ月の乳児による事故が10件と半数を占めたが、12〜24ヶ月にわたっても報告が見られた。
・誤飲した電池の種類は、ボタン電池が20件と大半であるが、乾電池を誤飲した事例も3件あった。
・誤飲事故は、玩具で遊んでいるうちに電池の出し入れ口のフタが開き、中の電池が取り出されてしまったために起こっている事例が多かった。
・8ヶ月ぐらいになると親指と人差し指で小さなものを摘むことが可能になるので、保護者は注意が必要である。
・最近、幼児が遊ぶ玩具でもボタン電池等を使用したものが多くあり、製造業者はこれらの製品について、幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要である。
・また、保護者も、電池の出し入れ口のフタにある留め具等が機能しているか確認するとともに、未使用及び使用済の電池は子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管する等の配慮が必要である。

(食品)
・食品類に関する報告では、幸い重篤な症状を呈した事例はみられなかったが、あられの誤飲で一時気道がふさがれたと思われる事例や、ピーナッツの誤飲例も見られた。
・ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び堅さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤飲事故の原因となりやすい。また、このような食品は気道に入った場合摘出が困難であり、十分注意をする必要がある。乳幼児にそのまま食べさせることは禁忌とされている。平成5年度にはこれらによる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意する必要がある。


(3)全般的な留意事項
 乳幼児は、身の回りのあらゆるものを分別なく口に入れてしまうことから、保護者は子供の周囲の環境に気を付けなければならない。食品類であっても状況次第では危険なものになるということを認識する必要がある。
 重篤な事例に陥る可能性のあるものについて認識し、対象物品には特に注意を怠らないよう努めることが重要である。

(3)(財)日本中毒情報センターからの吸入事故等に関する報告

(1)健康被害の概要
・吸入事故等の原因製品上位5品目は順に、殺虫剤類(医療部外品も含む)が126件、洗浄剤が117件、漂白剤が64件、消火剤が44件、洗剤が26件であった。なお、本年度から眼に飛散した事例も集計に加えるようにしたため、前年度との単純な件数の比較はできない。
・主な製品形態は、エアゾール式の製品が217件(内トリガー式96件)、次いで液状の製品が188件等であった。
・性別の内訳では女性が311件と全体の約53%をしめた。
・年齢別の内訳では252件(約42%)が9歳以下の子供の事例であった。


(2)原因製品別考察
(殺虫剤)
・殺虫剤(医薬部外品を含む)に関する事例は、126件(約21%)であった。極端な大量使用や直接人体にかかってしまった例、燻煙後に換気をせずに室内に入った事例など、誤使用と思われる例も見られた。

(洗浄剤)
・洗浄剤に関する報告件数は117件(約20%)であり、そのうち最も多かったのが、次亜塩素酸系の製品で61件であった。
・風呂場やトイレのような密室で十分な換気をせずに使用した事例があった。また、酸性物質と混合し、塩素ガスを発生させてしまった事例も未だに6件みられた。塩素ガスは有毒であり、危険である。
・屋内で使用する際には、換気状況が良好であることを確認のうえ、適正量を使用することが重要である。

(漂白剤)
・漂白剤に関する報告件数は64件(約12%)であり、そのうち次亜塩素酸系の製品が41件と最も多かった。
・原液での使用や、適用量以上に使用した事例がみられ、また洗浄剤と同様、未だに酸性洗浄剤と混ぜて使用し塩素ガスを発生させてしまった事例も8件みられた。次亜塩素酸系の漂白剤と酸性洗浄剤との混合使用は非常に危険で、禁忌である。

(防水スプレー)
・防水スプレーに関する事例は16件(約2.7%)であった。
・昨年度までの報告の中には、同一業者が同一処方で製造した種々の製品による事故が多数報告されていた。毒性試験の結果これらは呼吸器障害を起こしやすい事が判明したため、現在は改良した製品が販売されている。
・今後、同様な事故事例を引き起こさないよう、製造者にあっては、有用性が確認された方法で製品の安全性を十分に確認することが重要である。
・使用の際には、屋外で風下に向かって使用すること、一度に大量使用をしないこと等の注意が必要である。


(3)全般的な留意事項
 今回も、子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。いたずらや誤飲など子供自身が原因を作った例もあったが、親のそばにいて子供だけが被害を訴える場合など、子供が小さく、大人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していないために健康被害を受けやすかった、と考えられる事例もあった。保護者は家庭用化学製品の使用や保管には十分注意するとともに、事業者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような方策を施した製品開発が重要である。
 事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者も日頃から使用前には必ず注意書をよく読み、正しい使用方法を守ることが重要である。未だ塩素ガスを発生させた事例が見られることからも、事業者にあっては、より安全性の高い製品開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起をし、適正使用方法の推進を図る必要がある。

3.おわりに

 家庭用品に起因する健康被害を防止するためには、消費者は製品情報に注意すること、事業者は製品の供給に先だって安全性の確認を十分に行い、安全な製品の供給に努めること、また、販売時には製品の適切な使用方法について、確実に消費者に伝わるよう努力することが必要である。
 最近、家庭用品の分野にも新しい製品が登場するようになり、使用の歴史が浅い化学物質を含有する製品も数多く開発されてきていることから、それらの安全性について引き続き注目していく必要がある。


照会先:厚生省生活衛生局企画課
    生活化学安全対策室
担 当:山本(2423),平野(2424)


平成10年度家庭用品に係る健康被害病院モニター報告


平成12年2月15日
厚生省生活衛生局企画課
生活化学安全対策室

はじめに

 技術の進歩や生活慣習の変化に伴い毎年新たな家庭用品が登場してきている。このことはまた、意に反して新たな健康被害が生じてくる可能性を有している。こうした現状の変化をモニターし迅速な対応を行うためのシステムを構築することは、健康被害の防止の観点から意義深いことである。家庭用品に係る健康被害病院モニター報告制度は昭和54年5月から実施され、今年で20年目を迎えることとなった。本制度の目的は、日常生活において使用している衣料品、装飾品や時計等の身の回り品、家庭用化学製品等による皮膚障害ならびに小児による誤飲事故等の健康被害について、専門家の診療を通じて最新の情報を収集することにより、健康被害の実態を把握・検討し、上記のシステムの一翼を担うことである。また、このシステムにより収集された情報を広く公開することにより、消費者・事業者にも注意や対策を喚起することも同時にその目的としている。平成10年度までの20年間に15,654件の健康被害事例が報告され、その結果は、家庭用品の安全対策に反映されている。
 本制度の実施に当たっては、モニター病院として皮膚科領域8病院(慶應義塾大学病院、堺市立堺病院、信州大学医学部附属病院、東京医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属病院、東邦大学医学部附属大森病院、名古屋大学大幸医療センター及び日本赤十字社医療センター)と小児科領域8病院(伊丹市立伊丹病院、川崎市立川崎病院、医療法人財団薫仙会恵寿総合病院、埼玉社会保険病院、東京医科大学附属病院、東京都立墨東病院、東邦大学医学部附属大森病院及び名古屋第一赤十字病院)の協力を得ている。
 また、平成8年度からは(財)日本中毒情報センターの協力を得、主に吸入事故等に関して同センターで収集した情報を提供していただくこととした。
 今般、平成10年度の報告を家庭用品専門家会議(危害情報部門)(座長:新村 眞人 東京慈恵会医科大学皮膚科教授)において検討し、その結果を以下のとおりとりまとめた。


報告結果

1.報告件数の変動について

 平成10年度の報告件数は1,575件であった。
 そのうち家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告は237件であり、報告件数は前年度(154件)より増加した。皮膚科領域においては、複数の家庭用品が原因と考えられた報告が含まれており、家庭用品の種類別の集計では、おのおの別個に計上しているため、のべ報告件数は261件となった。ここ5年間ののべ報告件数の推移をみると、最低が平成9年度の168件、最高が平成6年度と8年度の318件であり、その間増減の傾向は一貫していない。平成10年度の報告数は前年度比で約1.5倍の増加を示したが、前後の報告数の増減と比較すると変動の範囲内である。
 小児の家庭用品等の誤飲事故に関する報告は747件であり、報告件数は前年度(871件)より減少した。ここ5年間の推移を見ると最低は平成6年度の671件、最高は平成9年度の871件であり、前年度までは順次漸増していたが、平成10年度は多少減少した。
 また、(財)日本中毒情報センターに寄せられた家庭用品等に係る吸入等による健康被害の報告件数は591件であり、報告件数は前年度(376件)より増加した。件数については、幅広く被害情報を収集するという観点から、本年度より液が眼にはいるなどの眼の被害も集計に加えたためもあって単純な件数の比較はできない。
 なお、これらの健康被害は、患者主訴、症状、その経過及び発現部位等により家庭用品等によるものであると推定されたものであるが、因果関係が明白でないものも含まれている。

2. 家庭用品が原因と考えられる皮膚障害に関する報告

(1)原因家庭用品カテゴリー、種別の動向

 原因と推定された家庭用品をカテゴリー別に見ると、前年度同様、装飾品等の「身の回り品」の報告件数が最も多く93件で、次いで、洗剤等の「家庭用化学用品」が87件であった(表1)。
 家庭用品の種類別では「洗剤」が67件(約26%)で最も多く報告された。次いで「装飾品」が36件(約14%)、「ゴム手袋・ビニール手袋」が25件(約9.6%)、「眼鏡」が17件(約6.5%)、「時計バンド」が15件(約5.7%)、「ベルト」が10件(約3.8%)の順であった(表3)。
 報告件数上位10品目については平成9年度と比較すると、「洗剤」の報告件数がほぼ倍増し、「装飾品」、「ゴム・ビニール手袋」の報告件数も5割増となった。全体の報告件数も前年比でほぼ5割増となっているので、全体に対する割合としては「洗剤」が約6ポイント増、「装飾品」、「ゴム・ビニール手袋」は約0.5ポイント減であった(表3)。

「洗 剤」: 野菜、食器等を洗う台所用及び洗濯用洗剤
「洗浄剤」: トイレ、風呂等の住居用洗浄剤

 また、上位10品目の全報告件数に占める割合を長期的な傾向からみると、変動はあるものの「洗剤」と「装飾品」の割合が常に上位を占めており(図1)、平成10年度も同様の傾向を示した。

(2)各報告項目の動向

 患者の性別では女性が171件(約72%)と大半を占め、特に20代の女性が74件と全体の約31%を占めた。この傾向は前年度と同様であった。74件中41件はアレルギー性の接触皮膚炎で、さらに18件が金属アレルギーによるものであった。
 障害の種類としては、「アレルギー性接触皮膚炎」が118件(約50%)と最も多く、次いで「刺激性皮膚炎」49件(約20%)、「KTPP*型の手の湿疹」が30件(約13%)、「湿潤型の手の湿疹」が25件(約11%)、であった。それぞれ報告件数は増加しているが、全体に占める割合はほとんど変動していなかった。

*:KTPP(keratodermia tylodes palmaris progressiva:進行性指掌角皮症)
 手の湿疹の1種で、水仕事、洗剤等の外的刺激によりおこる。まず、利き手から始まることが多く、皮膚は乾燥し、落屑、小亀裂を生じ、手掌に及ぶ。程度が進むにつれて角質の肥厚を伴う。

 症状の転帰については、「全治」と「軽快」を合計すると166件(約70%)であった。なお、「不明」が60件(約25%)あったが、このように「不明」が多い理由としては、症状が軽快した場合、患者自身の判断で受診を打ち切り、途中から受診しなくなることがあるためと考えられた。

(3)原因製品別考察

1)洗剤

 平成10年度における洗剤に関する報告件数は67件(約26%)であった。報告件数は前年度34件(約20%)より増加し、全報告件数に対する割合も約6ポイント増加した(表3)。
 内訳をみると合成洗剤が原因となった例が多かったが、洗濯用石けんが原因となった例も2件見られた。原因製品の種類が判明しているものを用途別に見ると、台所用が28件、洗濯用が23件、両製品による事例が5件であった。
 洗剤が原因となった健康障害の種類は、刺激性の皮膚炎が25件(約37%)、KTPP型の手の湿疹が24件(約36%)湿潤型の手の湿疹が16件(約24%)であった。
 このなかには、希釈して使用するように記されている洗剤を、原液で使用するなど不適切な使用によって障害が引き起こされた例が認められた。皮膚障害を未然に回避するためにも適切な使用法を守ることが重要である。
 症状の発現には、化学物質たる洗剤成分と様々な人側の要因(皮膚の状態、洗剤の使用法・濃度・頻度、使用時の気温・水温等)が複合的に関与しているものと考えられる。基本的な障害防止策としては、使用上の注意・表示をよく読み、希釈倍率に注意する等、正しい使用方法を守ることが第一である。また、必要に応じて、保護手袋を着用することや、使用後保護クリームを塗ることなどの工夫も有効な対処法と思われる。それでもなお、症状が発現した場合には、原因と思われる製品の使用を中止し、早期に専門医を受診することを推奨したい。
◎事例1【原因物質:洗濯用洗剤】
患者 72歳 男性
症状 初診の半年前より両手指に痒み、落屑性紅斑が出現。特に掃除、水仕事をすると悪化する。
障害の種類 手の湿疹(湿潤型)
治療・処置 ステロイド剤外用

◎事例2【原因物質:台所用洗剤(コンパクト洗剤)】
患者 33歳 女性
症状 初診の約10年前より両手に落屑性紅斑が出現。2ヶ月前より症状が悪化。
障害の種類 手の湿疹(KTPP型)
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 慢性の手湿疹の悪化因子として洗剤による刺激性接触皮膚炎を併発したと考える。

2)装飾品

 平成10年度における装飾品に関する報告件数は36件(約14%)であった。前年度24件(約14%)と比較すると報告件数は増加していたが、全報告件数に対する割合はほぼ横這いであった(表3)。
 本年度も女性の報告例が多かったものの(34件)、昨年度は報告のなかった男性においても2件の報告例があった。
 原因製品別の内訳は、ピアスが10件、ネックレスが9件、イヤリングが5件、指輪が3件、これらの複数が原因と考えられるものが6件であった。
 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎が32件(約89%)と大半を占めた。原因となった素材は、少数の不明のものを除き金属であった。
 パッチテストを行っているものが21件報告された。その中では、前年度同様、ニッケルにアレルギー反応を示した例が13件と最も多かった(表2)。それについでコバルトで10件、金で9件、クロムで7件、水銀で4件等でパッチテストによりアレルギー反応が観察された。このパッチテストは同時に複数の金属について行われたが、ほとんどの場合、被験者は複数の金属に対して強弱の差はあるが、アレルギー反応を示していた。
 このような金属が原因の健康障害は、金属が装飾品より溶けだして症状が発現すると考えられる。汗を大量にかくような運動をする際には装飾品類をはずす等の気を配ることが望ましい。また、ピアスは耳たぶ等に穴を開けて装着するため、表皮より深部と接触する可能性が高い。初めて装着したり、種類を変えたりした際には、アレルギー症状の発現などに対して特に注意をはらう必要がある。また、症状が発現した場合には、原因製品の装着をさけ、装飾品を使用する場合には別の素材のものに変更することが症状の悪化を防ぐうえで望ましい。さらに、早急に専門医の診療を受けることを推奨したい。装飾品によりアレルギー反応が認められた場合には、眼鏡、金属の時計バンド、ベルト、ボタン等他の金属製品の使用時にも同様の注意を払う必要がある。
◎事例1【原因製品:ピアス】
患者 22歳 女性
症状 初診の約10ヶ月前ピアスをあけた。2週間前よりプラチナから金(18金)のピアスに変更したところ、耳朶に痒みを伴う紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎

<担当医のコメント>
 金のピアスに変更したころから耳朶に痒みを伴って紅斑を生じてきた。接触皮膚炎の原因は金であった。(パッチテストにより金+)


◎事例2【原因製品:ネックレス】
患者 24歳 女性
症状 初診約2週間前よりネックレスをつけるたびに首に痒みが出現した。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用とネックレスの使用中止を指示

<担当医のコメント>
 2年前に化粧品皮膚炎、ピアス皮膚炎の既往有り。1998年7月に金のネックレスを着用し、首に皮膚炎を発症した。金チオ硫酸ナトリウム0.5%白色ワセリンのパッチテストで小水疱を伴うアレルギー反応を、ニッケル、コバルトに紅斑、丘疹を認めた。金によるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。

3)ゴム、ビニール手袋

 平成10年度における報告件数は25件(約9.6%)であった。全報告件数に対する割合は、前年度(10%)とほぼ同じであった。素材別の内訳は、ゴム手袋が12件、ビニール手袋が5件、指サックによるものが2件、不明のものが7件であった(複数報告事例を含む)。
 障害の種類としては、アレルギー性の接触皮膚炎が14件(約56%)を占め、湿潤型手の湿疹が6件(約24%)で次いでいた。その他に刺激性皮膚炎(3件)、KTPP型手の湿疹(2件)、が報告された。
 前年、ゴム手袋に含まれるラテックス蛋白が原因となった接触蕁麻疹の症例が、初めて報告された。幸い、平成10年度は原因物質がラテックス蛋白質である重篤な障害事例は報告されなかった。しかしながら、ラテックスアレルギーは、時にはアナフィラキシー反応を引き起こし、重篤な場合にはショック症状に陥り、生命の危機を伴う恐れがあるものであり、注意が必要である。既往歴があり、ゴム・ビニール手袋による皮膚障害が心配される場合には、以前問題が生じたものとは別の素材のものを使うようにする等の対策をとる必要がある。また製造者において、製品中のラテックス蛋白の含有量を低減する努力が引き続き行われることが重要である。
 症状が発現した場合には、当該製品の使用を中止し、専門医を受診することを推奨したい。

◎事例1【原因製品:ゴム手袋】
患者 32歳 男性
症状 数年前より両手背に紅斑が出現。数ヶ月前よりゴム手袋を頻回に使用するようになって湿疹が悪化した。
障害の種類 手の湿疹(湿潤型)
治療・処置 ステロイド剤外用とゴム手袋の使用中止を指示

<担当医のコメント>
 ゴム手袋による接触皮膚炎であるが、パッチテスト等の検査は施行できなかった。

◎事例2【原因製品:ビニール手袋】
患者 59歳 男性
症状 初診6ヶ月前より両手、両前腕に痒み、紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗ヒスタミン剤内服、ステロイド剤外用とビニール手袋の使用中止を指示

<担当医のコメント>
 6ヶ月前から両手、両前腕に痒みを伴って、紅斑を生じていた。パッチテストの結果ビニール手袋が原因であった。ビニール手袋の使用を中止し、治療を行って治癒した。

4)時計バンド

 平成10年度における時計バンドが原因とされる皮膚障害の報告件数は15件(約5.7%)であった。前年度11件(約9.5%)と比較すると報告件数、全報告件数に対する割合ともに減少した(表3)。
 原因となった時計バンドの素材別内訳は、革3件、金属2件、プラスチック1件、素材の明らかでないものが9件であった。
 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎12件、刺激性皮膚炎2件、その他1件であった。
 これらの症状は皮膚と時計バンドの成分とが接触することにより発現するので、症状が発現した場合には、すみやかに別の素材のものに変更することにより被害を防ぐことができる。金属バンド等でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス等の他の金属製品の使用に際しても注意が必要である。また、革製の時計バンドで症状が発現した場合は、クロムによる金属アレルギーの恐れがあるので、金属バンドと同様、他の金属製品の使用時にも注意を払いたい。
◎事例1【原因製品:腕時計バンド(革製)】
患者 22歳 女性
症状 初診1年前より金属の時計バンドから皮革のバンドに変えたところ、バンドの着用部に湿疹が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用と革製バンドの変更を指示

<担当医のコメント>
 パッチテストを実地したところクロムでアレルギー反応を呈し、因果関係が推測された。現在チタンに変更し、皮疹の再燃は認めていない。

5)眼鏡

 平成10年度における眼鏡に関する報告件数は17件(約6.5%)であった。前年度14件(約8.3%)と比べると報告件数は増加していたが、全報告件数に対する割合は減少していた(表3)。
 また被害を発症した原因を見ると、フレームの金属部分によるもののほか、つるの先端部分(先セル)や鼻あて部分(ノーズパッド)のプラスチック素材に原因があると考えられる事例が4件あった。この中には報告例のように色素が原因となった例がある。また最近、プラスチック用着色剤として使用された既知の色素に加え、別の油溶性色素が新規アレルゲンとして複数確認された。
 障害の種類は、アレルギー性接触皮膚炎14件、刺激性皮膚炎3件であった。
 症状が発現した場合には、原因となった部分の素材を別のものに変更することが必要である。また、フレームの金属部分でアレルギー症状が発現した場合には、イヤリング、ピアス、ネックレス、時計バンド等の他の金属製品の使用にあたっても注意することが必要である。

◎事例【原因製品:眼鏡(耳にあたるつるの先端部分)】
患者 63歳 男性
症状 初診3年前より眼鏡を変えた後、両耳介部に紅斑が出現。徐々に拡大し、一部頭部にも拡大。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗アレルギー剤の内服、ステロイド剤外用、眼鏡の変更を指示

<担当医のコメント>
 患者の使用していた先セルを削ってパッチテストを施行したところ陽性反応(++)を認めた。一方透明のサンプルで陰性であったことより、色素による皮膚炎が疑われた。

6)その他
 その他、被害報告件数が多かったものにはベルト(10件、約3.8%)、洗浄剤(9件、約3.4%)、ナイロンタオル(8件、約3.1%)、下着(7件、約2.7%)、スポーツ用品(7件、約2.7%)等があった。
◎事例1【原因製品:ベルトの留め具】
患者 25歳 女性
症状 2週間前に臍部に痒みのある紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗アレルギー剤内服、ステロイド剤外用、バックルの使用中止を指示

<担当医のコメント>
 2週前から臍部を中心に痒みを伴って紅斑を生じていた。バックルの金属が皮膚に直接接触するためと判断し、バックルが皮膚に直接触れないように指導し、治癒した。
 原因はニッケル等であった。(パッチテスト Ni(++),Hg(+),Co(+),Pd(++))

◎事例2【原因製品:水泳用ゴーグル】
患者 27歳 女性
症状 初診2ヶ月前にスイミングスクールでゴーグルを使用後まもなく、眼瞼周囲に痒み、紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎

<担当医のコメント>
 2ヶ月前からスイミングスクールでゴーグルを使用していた。ゴーグル使用開始後まもなく、目の周囲に痒みを伴った紅斑を生じていた。ゴーグルの皮膚に接する部分でパッチテスト陽性を示した。

◎事例3【原因製品:肩パッド】
患者 56歳 女性
症状 初診2週間前に新しい洋服を着用したところ、肩パッドに一致して紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 ステロイド剤外用

<担当医のコメント>
 タール色素R-219、1-フェニルアゾ-2-ナフトール(PAN)による色素沈着型化粧品皮膚炎の既往有り。(1990年)
初診 : 1998年6月11日。
現病歴: 1998年5月下旬から6月上旬の約2週間、新しく購入したワンピースを着用したところ、肩パッドの当たる部位に一致して痒みを伴った紅斑、丘疹を生じた。
経過 : ワンピースの着用中止とステロイド剤外用により、7月2日色素沈着を残して皮膚炎は治癒した。
検査 : 肩パッド外側生地のパッチテストで軽度の紅斑を認めた。これをヘキサン、ヘキサン・クロロホルム、ヘキサン・メタノール、クロロホルム、クロロホルム・メタノール、メタノールの各溶媒で抽出して得られた抽出物を1%含有する白色ワセリンで再度パッチテストを施行したところ、クロロホルム、クロロホルム・メタノールの2溶媒で抽出した物質に陽性反応を認めた。この2物質は薄い青色と濃い青色を呈した。ガスクロマトグラフ質量分析によりクロロホルム溶出分には質量381、422、クロロホルム・メタノール溶出分には質量361、422の名称不明の染料が確認された。従って原因染料は質量422の青色染料と推定した。
 原因染料はDisperse Blue 106、Disperse Blue 124と類似した化学構造を有する。

◎事例4【原因製品:下着(ガードル、ブラジャー、ショーツ)】
患者 42歳 女性
症状 初診2ヶ月前から輸入品の下着を着用したところ、体幹、臀部に痒みのある紅斑が出現。
障害の種類 アレルギー性接触皮膚炎
治療・処置 抗ヒスタミン剤内服、ステロイド剤外用、下着の変更(輸入品から国産品に)を指示。

<担当医のコメント>
 2ヶ月前からブラジャーおよびショーツの接触する部位に痒み、紅斑、丘疹を生じるようになった。パッチテストではガードル、ブラジャー、ショーツが陽性で、原因と決定した。患者が使用していたメーカーから他社品に変更し治癒した。

◎事例5【原因製品:ナイロンタオル】
患者 23歳 女性
症状 発症時期は不明であるが、頚部、背部に色素沈着が出現。
障害の種類 ナイロンタオル皮膚炎
治療・処置 ナイロンタオルの使用中止を指示

<担当医のコメント>
 ナイロンタオルの過度の摩擦による皮膚炎/色素沈着は、皮膚科医にはよく知られているが、一般人には知られていないようで、依然として患者が後を絶たない。何らかの形での啓蒙が望まれる。

(4)全体について

 平成10年度の家庭用品を主な原因とする皮膚障害の種類別報告全237件のうち、118件はアレルギー性接触皮膚炎であった。このなかでも、装飾品、眼鏡、ズボンのボタン、ベルトの留め金、時計や時計バンドなどで見られた、金属アレルギーの占める割合が高かった。またこれに、洗剤・洗浄剤による刺激性皮膚炎、KTPP型・湿潤型手の湿疹、ゴム・ビニール手袋によるアレルギー性の接触皮膚炎や手の湿疹を加えると全報告例の7割近くがこれに該当していた。
 家庭用品を主な原因とする皮膚障害は、原因家庭用品との接触によって発生する場合がほとんどであり、家庭用品を使用することによって接触部位に痒み、湿疹等の症状が発現した場合には、原因と考えられる家庭用品の使用を極力避け、様子をみることが必要である。症状がおさまった後、再度使用して同様の症状が発現する場合には、同一の素材のものの使用は以後避けることが賢明であり、症状が改善しない場合には、専門医の診療をうけることが必要である。
 また、毎年使用法の誤りから障害が起こった事例が見受けられており、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることや、自己の体質について認識し、使用する製品の素材について注意を払うことも大切である。

 様々な家庭用品の使用による皮膚障害が報告されているが、洗剤の場合過剰使用やすすぎ不足などの誤用によって障害が発現することがあるので、適正な使用法を遵守するべきである。また、装飾品や手袋、時計バンド等であれば可能な限り材質を変更する等、原因となった家庭用品の使用を避けることが賢明である。特に金属アレルギーの場合、製品が異なっても原因となる金属が含まれている場合には、同様の障害が生じるため自らの既往歴に注意が必要である。やむを得ない場合は保護策を講じ、当該物品と皮膚との接触を避けるよう心がけることによって障害の防止、軽減が見込める。

2. 小児における家庭用品等の誤飲事故に関する報告

(1)原因家庭用品種別の動向

 小児の誤飲事故の原因製品としては、「タバコ」が368件(約49%)で最も多かった。次いで「医薬品・医薬部外品」が87件(約12%)、「金属製品」が40件(約5.4%)、「プラスチック製品」が34件(約4.6%)、「玩具」及び「化粧品」が26件(約3.5%)、「洗剤・洗浄剤」が25件(約3.3%)、「電池」が23件(約3.1%)、「乾燥剤類」が15件(約2.0%)であった(表4)。
 報告件数上位10品目までの原因製品のうち、上位2品目については、小児科のモニター報告が始まって以来変わっていなかった。その他では、プラスチック製品による被害の報告が漸増傾向にあると思われた。これについては今後の動向に注意が必要である。

(2)各報告項目の動向

 障害の種類については、悪心、嘔吐、腹痛、下痢等の「消化器症状」が認められたものが69件(約9.3%)と最も多かった。次いで咳、喘鳴等の「呼吸器症状」が認められたものが56件(約7.6%)となっていた。これらには複数の症状を認めた例も含んでいたが、全体として症状の発現がみられたものは136件(約18%)であった。本年度は幸い命が失われるといった重篤な事例はなかったが、「入院」、「転科」及び「転院」となったものが18件あった。それ以外は転帰が不明の1例を除き全て「帰宅」していた。
 誤飲事故発生時刻については、午後5時〜10時の間に発生件数が多い傾向にあった。この時間帯だけで353件(約47%:発生時刻不明を除く報告件数に対する%)の発生があった(図3)。
 誤飲事故発生曜日については、曜日間による差は特に見られなかった。

(3)原因製品別考察

1)タバコ

 平成10年度におけるタバコの誤飲に関する報告件数は368件(約49%)であった。前年度402件(約46%)と同様、依然全報告例の約半数を占めていた(表4)。その内訳を誤飲した種別で見ると、タバコ*224件、タバコの吸殻**128件、タバコの溶液***13件、タバコのフィルター等その他が2件となっていた。
 タバコを誤飲した年齢についてみると、ハイハイやつかまり立ちをはじめる6〜11ヶ月の乳児に報告例が集中しており、245件(約67%)にのぼった。これに12〜17ヶ月の幼児(88件)とあわせると約90%を占めた(図4)。この中には、保護者が近くに居ながら発生した事例も多くみられた。
 タバコの誤飲による健康被害を症状からみると、症状を訴えた57件中、消化器症状の訴えがあった例が35件と最も多かった。入院例も4件あったものの、幸いなことに特に重篤な事例はなく、ほとんどは受診後帰宅した。
 応急処置を行った事例は196件(約53%)あった。行った処置としては何も飲ませずに「吐かせた」及び「吐かせようとした」事例が、あわせて94件と最も多かった。
 タバコの誤飲事故の大半は、自分で動き回り始める1歳前後の乳幼児に集中してみられる。後期には動きも早くなり、両手で容器をもち飲水できるようにもなる。この時期を過ぎるとタバコの誤飲例は急激に減少することから、子供の保護者は、この年齢の時期には特別に、タバコ、灰皿及び灰皿に使用した飲料の空き缶等を子供の手の届く床の上やテーブルの上等に放置しないことなど、その取り扱いや置き場所に細心の注意を払うことが必要である。
* : 「タバコ」 : 未服用のタバコ
** : 「タバコの吸い殻」 : 服用したタバコ
***: 「タバコの溶液」 : タバコの吸い殻が入った空缶、空瓶等にたまっている液

◎事例1【原因製品:タバコ】
患者 9ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 テーブルの上にあった新しいタバコを食べた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 吐根シロップ
転帰 帰宅

◎事例2【原因製品:タバコ吸殻・溶液】
患者 7ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 母親が目を離した隙にタバコの灰皿から吸い殻、水を飲んだ。
来院前の処置 吐かせた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅

◎事例3【原因製品:タバコを浸した溶液】
患者 11ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 居間で空き缶に水を入れ灰皿にしていたところ、患児が飲んだ。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅

<担当医のコメント>
 飲物の缶を灰皿代わりにしてたばこの吸い殻を捨てることが時々あります。子供が気付かないで、あるいはジュースと間違えて飲んでしまう原因になります。自宅でも、車内でも、野外でもあり得ます。水溶液は特に危険ですからぜったい灰皿代わりにするのは止めましょう。

2)医薬品・医薬部外品
 平成10年度における医薬品・医薬部外品に関する報告件数は87件(約12%)であった。前年度112件(約13%)を下回った(表4)。症状の認められた21件中、10件について傾眠などの神経症状が認められた。入院を必要とした事例は6件あった。入院例は1件を除きいずれも保護者が注意をそらせている間に薬品を大量服用してしまった例であった。
 誤飲事故を起こした年齢についてみると、前年度同様各年齢層にわたっていたが、特に1〜2歳児にかけて多くみられていた(60件、約69%)。自らふたや包装をあけて薬を取り出せるようになるころが誤飲の危険が高いものと思われた。また、誤飲の発生した時刻は夕刻に高い傾向があり、家人が使用した後の薬の保管に注意が必要である。
 原因となった医薬品・医薬部外品の内訳は、一般感冒薬が9件で最も多かった。次いで殺虫剤、解熱鎮痛剤、がそれぞれ7件、循環器用薬5件、鎮咳去痰剤、抗ヒスタミン剤4件となっており、一般の家庭に常備されている医薬品・医薬部外品だけではなく、保護者用の処方薬による事故も多く発生していた。
 医薬品・医薬部外品の誤飲事故の大半は、医薬品の保管を適切に行っていなかった場合や保護者が目を離したすきに発生している。小児の医薬品の誤飲は、大量に誤飲したり、効力の強い薬を誤飲したりと、重篤な障害をもたらす恐れがある。家庭内での医薬品類の保管・管理には十分な注意が必要である。また、今年度1件みられたにとどまったが、自家製のホウ酸ダンゴは食品と間違えやすいことから、その使用にあたっては子供の目につかない場所や手の届かない場所に置くなどの配慮が必要である。
◎事例1【原因製品:風邪薬】
患者 2歳 女児
症状 低体温、意識障害
誤飲時の状況 風邪薬を服用していたが、さらに大人用風邪薬を一包飲んだ。胃洗浄して帰宅し経過観察中、低体温、傾眠傾向となった。
来院前の処置 なし
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄、点滴処置、保温
転帰 帰宅

◎事例2【原因製品:風邪薬(シロップ) 】
患者 2歳10ヶ月 女児
症状 眠気
誤飲時の状況 シロップタイプの風邪薬を70ml飲んだ。
来院前の処置 吐かせた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅

◎事例3【原因製品:ホウ酸ダンゴ 】
患者 11ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 ホウ酸ダンゴを食べた(自家製か不明)。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅

<担当医のコメント>
 医薬品の場合、錠剤等を家族が服用しているのをみて、子供はおいしいお菓子だと思って口にする可能性がある。又自家製ホウ酸ダンゴは食物と間違えやすく、保護者は保管、取扱いに十分注意する必要がある。

3)電池
 平成10年度の電池の誤飲に関する報告件数は23件(約3.1%)であった。前年度34件(約3.9%)と比較し若干減少したが、単独の原因としては依然軽視できない数であった(表4)
 誤飲事故を起こした年齢についてみると、6〜11ヶ月の幼児による事例が10件(約50%)で最も多かったものの、12ヶ月〜24ヶ月(2才)にわたってみうけられた。
 誤飲した電池の大半は、ボタン電池であった(20件)。また、乾電池を誤飲した事例も3件の報告があった。幼児や子供が遊ぶ玩具にボタン電池を使用した製品が多数出回っているが、誤飲事故は、幼児が玩具で遊んでいるうちに、電池の出し入れ口のフタが何らかの理由で開き、中の電池が取り出されてしまったために起こっている場合が多い。製造業者は、これらの製品について幼児が容易に電池を取り外すことができないような設計を施すなどの配慮が必要であろう。また、保護者は、電池の出し入れ口のフタが壊れていないか確認する必要がある。また、未使用及び使用済みの電池等は子供の目につかない場所や手の届かない場所に保管するなどの配慮が必要である。
◎事例【原因製品:ボタン型電池】
患者 11ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 ポケットゲームを持って遊んでいたが母親が気付くとふたが開いており、ボタン電池が1個なくなっていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間〜1時間30分未満
処置及び経過 X線検査で異物確認、摘出術実施
転帰 帰宅

<担当医のコメント>
 8ヶ月ぐらいの幼児では、親指と人差し指でボタン電池のような小さなものを摘むことが可能になるので保護者の注意が必要である。

4)食品
 幸い、本年度は食品類に関する報告では入院に至るような重篤な症状を呈した事例はみられなかった。しかしながら、あられの誤飲で気道が一時ふさがれたと思われる事例や、重篤な障害をまねく恐れのあるピーナッツの誤飲の例が見られた。ピーナッツや枝豆は、気道に入りやすい大きさ、形状及び堅さを有しているので、特に2歳未満の乳幼児においては、誤飲事故の原因となりやすい。しかもこのような食品は、気道に入ってしまうと摘出が困難であり、乳幼児にそのまま食べさせること自体禁忌である。平成5年度にはこれらによる死亡事故の報告もあり、保護者自身が十分に注意する必要がある。
 酒類については1件の報告があった。アルコール飲料の誤飲事故では循環器症状がみられることもあり、重篤な事故につながる可能性もあるので、子供に飲料を与える前には親が確認することも必要である。
 未だ本報告の調査例では報告がないが、過去にこんにゃくゼリーの誤飲による死亡事故が発生している。こんにゃくのようなものは、噛み切りにくく、いったん気道へ詰まってしまうと、重篤な呼吸器障害につながるおそれがある。食品とはいえ乳幼児等に与える際には、保護者はこのような点に十分に注意を払う必要がある。
◎事例1【原因製品:あめ】
患者 2歳 女児
症状 呼吸困難
誤飲時の状況 あめを食べていて急にうずくまり、手を口に入れて吐こうとした。
来院前の処置 逆さにして背中をたたいた
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査
転帰 帰宅

◎事例2【原因製品:あられ】
患者 2歳4ヶ月 男児
症状 呼吸困難、チアノーゼ
誤飲時の状況 あられを食べさせていて、大人が目を離した隙に飲み込んだ。
来院前の処置 指を口に入れて吐かせようとした、逆さにした
受診までの時間 30分未満
処置及び経過 X線検査
転帰 帰宅

5)その他

 代表的な事例だけではなく、家庭内・外にあるもののほとんどが子供の誤飲の対象物となる可能性があり、子供のいる家庭においては保護者の配慮が必要である。
 本年度灯油の誤飲例が報告されたが、これは肺に入ったり、場合によっては肺炎を引き起こし、重篤な症状となる恐れがある。固形物の誤飲の場合は誤飲製品が胃内まで到達すれば、いずれ排泄されると考えられることから問題はないとする向きもあるが、小型磁石が腸内壁に張り付き穿孔してしまったり、硬貨が胃内から排泄されない場合もあり、排泄の確認が必要である。
◎事例1【原因製品:磁石】
患者 1歳4ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 肩こり治療パッドを口にくわえていた。シールだけが残っていた。
来院前の処置 なし
受診までの時間 1時間30分〜2時間未満
処置及び経過 X線検査(胃内にあり)、磁石付きチューブで摘出
転帰 帰宅

<担当医のコメント>
 一度使って剥がした(使い古しの)ものを捨てないでいたために、捨てる前に台紙のシールからはずして磁石部分だけを飲んでしまった例です。中には腸にくっついてしまった例や、腸に穴があいて緊急手術になった例もあります。一度使って剥がしたものは、すぐに処分するように注意して下さい。

◎事例2【原因製品:ホチキスのしん】
患者 2歳1ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 母が食事中、子供がホチキスのしんを食べたと言った。見に行くと足下に散らばっていた。
来院前の処置 他院で腹部X線検査
受診までの時間 4時間〜6時間未満
処置及び経過 X線検査(胃の中に束になったホチキス)
転帰 帰宅

◎事例3【原因製品 ビー玉】
患者 6歳11ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 ビー玉を口に持っていっているうちに不意に飲み込んだ。
来院前の処置 吐かせた。排便の確認。
受診までの時間 12時間以上
処置及び経過 X線検査
転帰 帰宅

◎事例4【原因製品:シャンプー】
患者 9ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 部屋に置いてあった試供品のシャンプーを目を離した隙に破ってなめてしまった。
来院前の処置 母乳を飲ませた。
受診までの時間 2時間〜3時間未満
処置及び経過 なし
転帰 帰宅

◎事例5【原因製品:水銀体温計】
患者 2歳3ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 水銀体温計をかじった。
来院前の処置 口の中にあったものを掻き出した
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 X線検査(腹部に水銀)、下剤
転帰 帰宅

◎事例6【原因製品:消臭ジェル】
患者 11ヶ月 女児
症状 なし
誤飲時の状況 目を離した隙にテーブルの上の消臭ジェルを食べた。
来院前の処置 指で口の中のジェルを取った。
受診までの時間 30分〜1時間未満
処置及び経過 胃洗浄
転帰 帰宅

◎事例7【原因製品:灯油】
患者 1歳1ヶ月 男児
症状 なし
誤飲時の状況 ベランダにおいてあった灯油ポンプから飲んだ。口に灯油の臭い。
来院前の処置 口の中をふいた
受診までの時間 不明
処置及び経過 X線検査、胃内に薬剤注入、点滴
転帰 入院(2日)

<担当医のコメント>
 灯油は気管、肺にはいると重篤な肺炎を引き起こす。また吐かせるとその際に気管に入ってしまう可能性が高いので医療機関受診前にはけっして吐かせてはならない。

(4)全体について

 子供の誤飲事故の報告は、午後5時から午後10時までの間の家族の団らんの時間帯に半数近くが集中していた。保護者が近くにいる・いないに関わらず、乳幼児は、身の回りのものを分別なく口に入れてしまう。(本年度事故例中約41%で保護者はそばにいた。)乳幼児のいる家庭では、乳幼児の手の届く範囲には極力、口に入るサイズのものは置かないようにしたい。特に、歩き始めた子供は行動範囲が広がることから注意を要する。また、食品類であっても、気管に詰まるなど、状況次第では非常に危険なものになるということを保護者は認識し、子供の周囲の環境に気を付けなければならない。
 最近、製造物責任法の施行に伴い、様々な誤飲防止対策を施した製品が販売されているが、口に入る大きさの玩具等で子供が遊んでいるときには、そのものを誤飲する可能性が考えられる。また、兄弟と遊んでいる際に誤飲が発生していた事例も多く、兄弟が一緒にいるとはいえど、保護者は目を離さないように注意する必要がある。
 誤飲時の応急処置は、症状の軽減や重篤な症状の発現の防止に役立つので重要な行為であり、応急処置に関して正しい知識を持つことが重要である。
 なお、平成9年度には、(財)日本中毒情報センターにより、小児の誤飲事故に関する注意点や応急処置などを記した、啓発パンフレットが作成され、全国の保健所あて送付されている。

 小児による誤飲事故では、相変わらずタバコによるものが多い。タバコの誤飲事故は6ヶ月からの1年間に発生時期が集中しており、この間特段の注意を払うことにより被害の軽減がはかれるものと考えられる。また、医薬品の誤飲事故は症状が発現する可能性が高いので、小児の手の届かないところに管理するなど、特別の注意を払う必要がある。食品であってもピーナッツの誤飲のように気道を詰まらせ、重篤な事故になるものもあるので、これらの対象物品には注意を怠らないように努める事が重要である。

3.(財)日本中毒情報センターからの吸入事故等に関する報告

 (財)日本中毒情報センターは、一般消費者もしくは一般消費者が受診した医療機関の医師からのあらゆる化学物質による健康被害に関する問い合わせに応ずる機関である。毎年数万件の問い合わせがあるが、このうち最も多いのが幼少児のたばこの誤食で、これのみで年間6,000件に達する。
 この報告は、これら問い合わせ事例の中から、家庭用品等による吸入事故等に限定して、収集・整理したものである。医薬品や一部殺虫剤など法的には家庭用品ではないものも啓蒙と言う観点からこれを集計に加えている。本年度からは眼に誤って飛散したものも報告に加えた。

(1)原因製品種別の動向

 原因と推定された家庭用品等を種別でみると、殺虫剤類の報告件数が最も多く126件(約21%)であった。次いで洗浄剤が117件(約20%)、漂白剤が64件(約12%)、消火剤が44件(約8.5%)、洗剤が26件(約5.0%)、灯油が25件(約4.8%)、塗料が20件(約3.9%)、防虫剤、防水スプレーがそれぞれ16件(約3.1%)、ベビーパウダー14件(約2.7%)であった(表5)。
 製品の形態別の事例数では、「エアゾール式」が217件(その内トリガー式96件)、「液状」188件、「粉末状」94件、「固形」35件、「蒸散型」25件で、不明が31件あった。

(2)各報告項目の動向

 年齢から見ると、全報告数591件中、0〜9歳の子供の被害報告事例が252件と半数近くを占めていた。その他では30代をピークとしてその前後で報告例が多くなっていた。この傾向は前年度報告でも同様であった。年齢別報告数は製品によって偏りが見られるものがあり、全般的に子供の報告が一番多かったが、殺虫剤類や洗浄剤、漂白剤は30代にピークが見られ、塗料や防水スプレーでは年齢によるピークは見られなかった。
  性別では、女性が311件(約53%)、男性が216件(約37%)、不明が64件(約11%)で男女比は過去とほぼ同等であった。電話での問い合わせのため、被害者本人との直接のコンタクトがない場合も多々あり、被害者の性別不明例が多少ある。
 報告の問い合わせもとは、一般消費者からの問い合わせ事例が377件、受診した医療機関からの問い合わせ事例が214件であった。
 症状別に見ると、症状の訴えがあったものは313件(約53%)、なかったものは268件(約45%)、不明のものが10件(約1.7%)であった。症状の訴えがあった事例のうち、最も多かったのが、悪心、嘔吐、腹痛等の「消化器症状」を訴えたもので181件(約31%)であった。次いで、咳、喘鳴等の「呼吸器症状」を訴えたものが93件(約16%)、「神経症状」を訴えたものが85件(約14%)となっていた。平成9年度と比べて順位の変動はないが、神経症状を訴えた例の割合が増加していた。
 発生の時期から見ると、春から夏にかけて若干多い傾向があるが、これは平成9年度とは異なっていた。品目別では、殺虫剤類による被害が夏前後に多く、梅雨時期に漂白剤が、梅雨時期と年末に洗浄剤による被害が多かった。いずれも使用頻度が高まると思われる時期にその製品による被害が増えていた。曜日別にも解析を行ったが際だった特徴はなかった。時間別では午前10時前後が多めで、午前0時から午前7時までが少なくなっていた。

(3)原因製品別考察

1)殺虫剤・防虫剤

 殺虫剤(医薬部外品を含む)に関する事例は、126件であった。極端な大量使用や直接人体にかかってしまった例、燻煙後に換気をせずに室内に入った事例など、誤使用と思われる例も見られた。子供の近くで使用し、子供に影響が出た例もあり使用の際には注意が必要である。

2)洗浄剤

 洗浄剤に関する事例は、117件であった。そのうち最も多かったのは、次亜塩素酸系の製品によるものであった(61件)。そのうちの多くはトリガータイプのもので、閉め切った浴室で3本使用した例など、十分な換気をせずに使用している事例が多くみられた。被害を防ぐためには、屋内で使用する際、換気状況が良好であることを確認したうえで、適正量を使用しなくてはならない。また、塩素ガスを発生させてしまった例もいまだに6件見られた。次亜塩素酸系の洗浄剤や漂白剤と酸性物質との混合は猛毒の塩素ガスを発生させ危険である。「混ぜるな危険」の表示は徹底されてきてはいるが、まだなお消費者へ一層の注意喚起と啓蒙をはかる必要がある。

3)漂白剤

 漂白剤に関する事例は64件であった。このうち次亜塩素酸系が最も多く41件と大半を占めた。また酸性物質との混合により塩素ガスを発生させてしまった例も8例あった。原液を大量に使用した例もあり、適正使用の徹底をはかる必要がある。
 次亜塩素酸系の洗浄剤・漂白剤は、酸性の洗剤や洗浄剤との併用あるいは混合により猛毒の塩素ガスが発生する。塩素ガスの吸入は時には命を落とすこともあり、極めて危険である。酸性の洗剤や洗浄剤と混合してはならない。

4)防水スプレー

 防水スプレーに関する事例は16件であった。
 前年度までの報告の中に、同一業者が同一処方で製造した種々の製品による事故に関する報告が多数あった。当該製品について動物を用いた吸入毒性試験を実施したところ、これらの製品は、呼吸器障害を起こしやすい製品であると考えられたため、自主回収措置が講じられた。現在はこの点を改良した製品が販売されている。
 今回の報告では特定製品に偏った傾向は見られず、主に使用法の誤りが原因であると考えられた。防水スプレーを使用する時には、必ず、屋外で風下に向かって使用すること、短時間に大量使用をしないこと等の使用上の注意が必要である。

(4)全体について

 この報告は、医師や一般消費者から(財)日本中毒情報センターに問い合わせがあった際、その発生状況から健康被害の原因とされる製品とその健康被害について聴取したものをまとめたものである。したがって、一部の事例については、追跡調査を行っているが、大部分はその後の健康状態等の把握は行っていない。しかしながら、一般消費者等から直接寄せられるこのような情報は、新しく開発された製品を含めた各製品の安全性の確認に欠かせない重要な情報である。
 今回も子供の健康被害に関する問い合わせが多くあった。いたずらや誤飲など子供自身がその原因を作ってしまった例もあったが、親のそばにいて子供だけが被害を訴える場合など、子供は体が小さく、また成人よりも化学物質に対する防御機能が十分に発達していないため、健康被害を受けやすかったと考えられる事例もあった。保護者は家庭用化学製品の使用時やその保管方法に十分注意するとともに、事業者も子供のいたずらや誤使用等による健康被害が生じないような対策を施した製品開発に努めることが重要である。
 製品形態別では、噴霧式の製品による事故が多く報告された。噴霧式の製品は内容物が霧状となって空気中に拡散するため、吸入による健康被害が発生しやすい。使用にあたっては、換気状況を確認すること、一度に大量を使用しないこと等の注意が必要である。
 主成分別では、次亜塩素酸系の洗浄剤等による健康被害報告例が比較的多くみられた。次亜塩素酸系の成分は、臭いなどが特徴的で刺激性が強いことからも報告例が多いものと思われるが、使用方法を誤ると重篤な事故が発生する可能性が高い製品でもある。事業者においても、より安全性の高い製品の開発に努めるとともに、消費者に製品の特性等について表示等により継続的な注意喚起と適正な使用方法の推進をはかる必要がある。
 また、事故の発生状況をみると、使用方法や製品の特性について正確に把握していれば事故の発生を防ぐことができた事例も多数あったことから、消費者にあっては、日頃から使用前には必ず注意書きをよく読み、正しい使用方法を守ることが大切である。万一事故が発生した場合には、症状の有無にかかわらず、専門医の診療を受けることを推奨したい。

おわりに

 初めにも触れたように、現在のモニター報告は治療を目的に来院する患者から原因と思われる家庭用品について情報を収集するシステムである。特定の家庭用品による健康被害の報告の変動があれば、その情報の周知をはかり、当該物品による被害の拡大を防止すること、また、必ずしも容易ではないが、そこから原因となった化学物質を特定し、必要な対策をとることにより新たな健康障害を未然に防止することを目指している。また、(財)日本中毒情報センターに問い合わせのあった事例に関する情報は、主に電話によって収集されたものであり、医学的により詳細な内容を把握したり、予後を明確にすることは困難であるが、モニター病院で収集している以外の情報が消費者より直接寄せられており、家庭用品による健康被害をモニターする上で重要な役割を果たしている。
 本モニター報告も平成10年度で20回目となった。ここ数年、報告件数において上位を占める家庭用品の種類はほとんど変動していない。それだけ広く普及し、使用されているものでもあるのだが、引き続き注意の喚起と対策の整備を呼びかけ、注意により避けられる健康被害例を減少させるべく努めていく必要がある。また、消費者の清潔志向の高まりや利便性の追求から、抗菌剤を使用した家庭用品や、よりコンパクトな濃縮タイプの洗剤など、今までにない化学物質が身の回りに次々と普及してきており、新たな健康被害が生じていないかを引き続きモニターする事も本制度にかけられた役割である。
 昨今、危機管理と言うことが盛んに叫ばれているが、危機管理というものは常日頃の連絡体制を効率よく運営することにより十分なされ得ることであり、平時のそのシステムの構築こそが最も重要である。本制度がそれに答え得るよう今後とも継続・充実をはかっていきたい。


表1 年度別・家庭用品カテゴリー別皮膚障害報告件数

年 度
家庭用品
平成5年度 平成6年度 平成7年度 平成8年度 平成9年度 平成10年度
衣料品 22 11.6 37 11.6 36 13.1 45 14.2 6 3.6 27 10.3
身の回り品 73 38.4 117 36.8 101 36.9 110 34.6 76 45.2 93 35.6
家庭用化学製品 59 31.1 99 31.1 61 22.3 95 29.9 48 28.6 87 33.3
その他 35 18.4 65 20.4 76 27.7 68 21.4 37 22.0 53 20.3
不 明 1 0.5 0 0.0 0 0.0     1 0.6 1 0.4
合  計 190 100.0 318 100.0 274 100.0 318 100.0 168 100.0 261 100.0



表2 金属製品のパッチテスト結果

  Co Ni Cr Hg Au Ag Al Cd Cu Fe In Ir Mn Mo Pd Pt Sb Sn Ti Zn 品名 品名
1 ++   装飾品  
2 ?+       装飾品  
3     ?+   装飾品  
4 ++               装飾品  
5   ++                                 装飾品  
6 ?+ +++ ?+   装飾品  
7                                   装飾品  
8                                   装飾品  
9                                   装飾品  
10 ++ ++             装飾品  
11 ++ +++ ++                     装飾品  
12 ?+ ?+ ?+                                   装飾品  
13                                   装飾品  
14 ?+                                   装飾品  
15 ?+ ?+                                   装飾品  
16 ?+ ?+                                   装飾品  
17 ?+                 装飾品  
18       ?+       装飾品  
19 ?+         装飾品  
20                               装飾品  
21 ++ ++             装飾品  
22 ?+   ?+ ?+     ?+                 ?+   眼鏡  
23                   眼鏡  
24         眼鏡  
25 ++             眼鏡  
26 ?+ ?+         ?+     眼鏡  
27 ?+ ?+ ?+                                   眼鏡  
28   ++                                         ズボンの留め具  
29 ++             ズボンの留め具  
30 ++ +++                                       ズボンの留め具  
31 +++   ?+   ?+         ズボンの留め具  
32         ?+   ズボンの留め具  
33           ズボンの留め具 ベルトの留め具
34             ?+   ズボンの留め具 時計バンド
35 ?+       時計バンド  
36 ?+                                         時計バンド  
37 ?+ ?+     ?+       時計バンド  
38 ?+                                   時計  
39 ++       ++       ベルトの留め具  
40     ?+     下着  
41 ++ ?+       下着の留め具  

判定は72時間後で国際接触皮膚炎学会の基準による。空欄はパッチテストを行っていないもの。

[Co]コバルト [Ni]ニッケル [Cr]クロム [Hg]水銀 [Au]金
[Ag]銀 [Al]アルミニウム [Cd]カドミウム [Cu]銅 [Fe]鉄
[In]インジウム [Ir]イリジウム [Mn]マンガン [Mo]モリブデン [Pd]パラジウム
[Pt]白金 [Sb]アンチモン [Sn]錫 [Ti]チタン [ W ]タングステン
[Zn]亜鉛        

<参考> 国際接触皮膚炎学会の基準
- : 反応なし
?+ : 弱い紅斑
+ : 紅斑、湿潤、時に丘疹
++ : 紅斑、湿潤、丘疹、小水疱
+++ : 大水疱


表3 年度別・家庭用品による皮膚障害のべ報告件数。(上位10品目)

  平成8年度 平成9年度 平成10年度
1 洗剤 65 (20.4) 洗剤 34 (20.2) 洗剤 67 (25.7)
2 装飾品 56 (17.6) 装飾品 24 (14.3) 装飾品 36 (13.8)
3 ゴム・ビニール手袋 32 (10.1) ゴム・ビニール手袋 17 (10.1) ゴム・ビニール手袋 25 (9.6)
4 洗浄剤 17 (5.3) めがね 16 (9.5) めがね 17 (6.5)
5 めがね 14 (4.4) 時計バンド 14 (8.3) 時計バンド 15 (5.7)
6 時計バンド 11 (3.5) ナイロンタオル 10 (6.0) ベルト 10 (3.8)
7 ナイロンタオル 11 (3.5) 洗浄剤 8 (4.8) 洗浄剤 9 (3.4)
8 ベルト 8 (2.5) ベルト 7 (4.2) ナイロンタオル 8 (3.1)
9 下着 6 (1.9) 時計 6 (3.6) 下着 7 (2.7)
10 ブラジャー等 6 (1.9) スポーツ用品 5 (3.0) スポーツ用品 7 (2.7)
総数 318 (100.0) 168 (100.0) 261 (100.0)
*( )は総数に対する%


表4 年度別・小児の家庭用品等誤飲事故のべ報告件数(上位10品目)

  平成8年度 平成9年度 平成10年度
1 タバコ 395 (48.0) タバコ 402 (46.2) タバコ 368 (49.3)
2 医薬品・医薬部外品 106 (12.9) 医薬品・医薬部外品 112 (12.9) 医薬品・医薬部外品 87 (11.6)
3 玩具 38 (4.6) 玩具 54 (6.2) 金属製品 40 (5.4)
4 金属製品 37 (4.5) 金属製品 42 (4.8) プラスチック製品 34 (4.6)
5 電池 32 (3.9) 電池 34 (3.9) 玩具 26 (3.5)
6 化粧品 27 (3.3) 化粧品 31 (3.6) 化粧品 26 (3.5)
7 硬貨 26 (3.2) プラスチック製品 26 (3.0) 洗剤・洗浄剤 25 (3.3)
8 防虫剤類 25 (3.0) 洗剤・洗浄剤 24 (2.8) 硬貨 24 (3.2)
9 洗剤・洗浄剤 23 (2.8) 硬貨 23 (2.6) 電池 23 (3.1)
10 プラスチック製品 21 (2.6) 乾燥剤類 21 (2.4) 乾燥剤類 15 (2.0)
総数 823 (100.0) 871 (100.0) 747 (100.0)
*( )は総数に対する%


表5 年度別・家庭用品等吸入事故のべ報告件数(上位10品目)

  平成8年度 平成9年度 平成10年度
1 洗浄剤(住宅用・家具用) 79 (24.4) 殺虫剤類 62 (16.5) 殺虫剤類 126 (21.3)
2 殺虫剤類 58 (17.9) 洗浄剤(住宅用・家具用) 49 (13.0) 洗浄剤(住宅用・家具用) 117 (19.8)
3 洗剤(洗濯用・台所用) 36 (11.1) 消火剤 41 (10.9) 漂白剤 64 (10.8)
4 漂白剤 33 (10.2) 漂白剤 35 (9.3) 消火剤 44 (7.4)
5 家庭用農薬 10 (3.1) 防水スプレー 17 (4.5) 洗剤(洗濯用・台所用) 26 (4.4)
6 その他の洗剤・洗浄剤 10 (3.1) 防虫剤 12 (3.2) 灯油 25 (4.2)
7 塗料 9 (2.8) 消臭剤 10 (2.7) 塗料 20 (3.4)
8 防虫剤 6 (1.9) 塗料 10 (2.7) 防虫剤 16 (2.7)
9 灯油 5 (1.5) ベビーパウダー 9 (2.4) 防水スプレー 16 (2.7)
10 芳香剤 4 (1.2) 洗剤(洗濯用・台所用) 8 (2.1) ベビーパウダー 14 (2.4)
        静電気防止剤 8 (2.1)      
総数 324 (100.0) 376 (100.0) 591 (100.0)
*( )は総数に対する%


図1 家庭用品による皮膚障害報告件数比率の年度別推移(皮膚科)

図

図2 小児の家庭用品等誤飲事故報告件数比率の年度別推移(小児科)

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図3 時刻別誤飲事故発生報告件数(不明を除く)

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図4 年齢別誤飲事故報告件数(不明を除く)

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