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「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否に関する食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会報告について

平成11年9月10日
生活衛生局食品保健課

I 報告について

1 概要

 本日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、組換えDNA技術を応用して製造された7品種の食品について、別添のとおり、それぞれ「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下、「安全性評価指針」という。)に沿って安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行いました。

2 今回報告された食品及び食品添加物について

(1) 平成10年11月20日付厚生省発生衛第234号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品6品種、平成10年1月27日付厚生省発生衛第12号をもって諮問され、同日食調第7号をもって付議された食品3品種および食品添加物1品目、及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品2品種が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることを厚生大臣が確認することの可否について、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において審議された結果、本日付けで、それらのうち次の7品種の食品について、別添のとおりバイオテクノロジー特別部会の報告がありました。

対象品種 なたね(WESTAR-Oxy-235)
性質 除草剤耐性
申請者 ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社
開発者 RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ)

対象品種 わた(Bollgard with BXN Cotton)
性質 害虫抵抗性及び除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Calgene Incorporated(米国)

対象品種 てんさい(T120-7)
性質 除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ)

対象品種 とうもろこし(DLL25)
性質 除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Dekalb Genetics Corporation(米国)

対象品種 とうもろこし(DBT418)
性質 害虫抵抗性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Dekalb Genetics Corporation(米国)

対象品種 とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統)
性質 除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Monsanto Company(米国)

対象品種 なたね(PHY23)
性質 除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Plant Genetic Systems(ベルギー)

(2) また、次の食品3品種及び食品添加物1品目については、さらに検討が必要なことから、継続して審議されることとなりました。

対象品種 大豆(260-05系統)
性質 高オレイン酸形質
申請者 デュポン株式会社
開発者 Optimum Quality Grains L.L.C.(米国)

対象品種 じゃがいも(ニューリーフ・プラス・ジャガイモ)
性質 害虫抵抗性及びウイルス抵抗性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Monsanto Company(米国)

対象品種 とうもろこし(CBH351)
性質 害虫抵抗性及び除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Plant Genetic Systems(ベルギー)

対象品目 フィターゼ
申請者 ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社
開発者 Novo Nordisk A/S(デンマーク)

(3) なお、次の食品1品種については、申請者の申し出に基づき、申請取り消しの手続きが必要となりました。

対象品種 とうもろこし(TC676,TC678,TC680系統)
性質 雄性不稔性
申請者 パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社
開発者 Pioneer Hi-Bred International,Inc.(米国)

(4) これまでの審議経過は次のとおりです。

平成10年11月20日 食品衛生調査会に諮問、バイオテクノロジー特別部会に付議
12月1日 バイオテクノロジー特別部会審議
12月8日 第1回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
平成11年 1月12日 第2回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
2月1日 第3回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
3月24日 第4回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
6月1日 第5回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
8月5日 第6回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議
9月10日 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会開催
〃   バイオテクノロジー特別部会報告

3 今後の予定

 平成11年9月20日より毎週月水金に申請資料を社団法人日本食品衛生協会において公開します。
 また、今回の部会報告に対しご意見がある方は、10月19日までに書面等にて食品保健課までおよせ下さい。
 なお、今後さらに食品衛生調査会常任委員会での審議をふまえ、食品衛生調査会としての答申が行われる予定です。


II 次回申請等について

 次回の「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」への適合に関する確認審査の申請受付は、平成11年10月29日までとします。


照会先:厚生省生活衛生局
    松原 食品保健課長
担当者:木村、中村、根岸 (内線 2447、2453)


組換えDNA技術応用食品の一覧表(1)

  ローヌ・プーラン油化アグロ社カノーラ
(WESTAR-Oxy-235)
モンサント社ワタ
(Bollgard with BXN Cotton)
アグレボ社てんさい
(T120-7)
申請者 ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社 日本モンサント株式会社 アグレボジャパン(株)
開発者 RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ) Monsanto Company(米国) Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ)
新たに獲得された性質

挿入遺伝子
(供与体)

除草剤(オキシニル系)耐性

oxy遺伝子
(Klebsiella Pneumoniae subsp.ozaenae由来)

害虫(オオタバコガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性

削除型cryIA(C)遺伝子
(Bacillus thuringiensis var.
kurstaki HS-73株由来)

除草剤(ブロモキシニル)耐性

bxn遺伝子
(Klebsiella pneumoniae subsp.ozaenae由来)

除草剤(グルホシネート)耐性

pat遺伝子
(Streptomyces viridochromogenes Tu 494株由来)

選択マーカー
挿入遺伝子(供与体)
  抗生物質(カナマイシン等)耐性
nptII遺伝子(Escherichia coli由来)
抗生物質(カナマイシン)耐性
nptII遺伝子(Escherichia coli由来)
可食部分に発現する遺伝子産物と発現量 種子中に、oxyニトリラーゼ蛋白質
15ng/種子

油中にoxyニトリラーゼ蛋白質
検出下限値以下
(0.2ng/10mg以下)

綿実油中に、
削除型cryIA(C)蛋白質
検出限界以下
nitrilase蛋白質検出限界以下
NPTII蛋白質検出限界以下
精製糖中に、
PAT蛋白質検出限界以下(検出限界1.6ng/g)
NPTII蛋白質検出限界以下
(検出限界0.35ng/g)
諸外国での認可状況 カナダ(1997年7月) 米国(1998年1月) 米国(1998年10月)


組換えDNA技術応用食品の一覧表(2)

  デカルブ社とうもろこし
(DLL25)
デカルブ社とうもろこし
(DBT418)
モンサント社とうもろこし
(ラウンドアップレディー・トウモロコシ
GA21系統)
アグレボ社カノーラ
(PHY23)
申請者 日本モンサント株式会社 日本モンサント株式会社 日本モンサント株式会社 アグレボジャパン(株)
開発者 Dekalb Genetics Corporation(米国) Dekalb Genetics Corporation(米国) Monsanto Company(米国) Plant Genetic Systems(ベルギー)
新たに獲得された性質

挿入遺伝子
(供与体)

除草剤(グルホシネート)耐性

bar遺伝子
(Streptomyces hygroscopicus)

害虫(アワノメイガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性

cryIA(C)遺伝子
(Bacillus thuringiensis subsp.kurstaki)

除草剤(グルホシネート)耐性

bar遺伝子
(Streptomyces hygroscopicus由来)

pinII遺伝子
(ばれいしょ Solanum tuberosum

除草剤(グリホサート)耐性

mEPSPS遺伝子
(トウモロコシから単離したEPSPS遺伝子を部位特異的突然変異させたもの)

除草剤(グルホシネート)耐性

bar遺伝子
(Streptomyces hygroscopicus由来)

雄性不稔(雄性不稔ナタネ MS1)
barnase遺伝子
(bacillus amyloliquefaciens)
稔性回復(稔性回復ナタネ RD2)
barstar遺伝子
(bacillus amylolipuefaciens)
 (MS1×従来種)×(RF2×従来種)
 =交配種(PHY23)
PHY23は除草剤耐性のみ獲得

選択マーカー
挿入遺伝子(供与体)
      抗生物質(カナマイシン)耐性
nptII遺伝子(Escherichia coli由来)
可食部分に発現する遺伝子産物と発現量 PAT蛋白質
1.25±0.43ng/μg穀粒
cryIA(C)蛋白質43ng/g穀粒
PAT蛋白質6μg/g穀粒
pinII蛋白質及びbla蛋白質は、発現していない。
mEPSPS蛋白質
3.2μg/g(穀粒生組織重量)
なたね油中に、PAT蛋白質検出限界以下(検出限界0.1ng/g)
諸外国での認可状況 米国(1996年3月) 米国(1998年3月) 米国(1998年2月) カナダ(1995年8月)
英国(1995年9月)
米国(1996年4月)


食 調 第 59 号
平成11年9月10日

食品衛生調査会
 委員長 寺田 雅昭 殿
食品衛生調査会
バイオテクノロジー特別部会
部会長  寺尾 允男


「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」
に適合していることの確認を行うことの可否に関する部会報告書

 平成10年11月20日付厚生省発生衛第234号、平成10年1月27日付厚生省発生衛第12号及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって諮問された食品・食品添加物の安全性が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否については、組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会において審議してきたところである。
 今般、分科会の検討結果を踏まえ、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において審議した結果を別記のとおり取りまとめたので報告する。


(別記)
1.審議経過

 次の(1)から(3)に該当する食品・添加物の安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。)に適合していることの確認を行うことの可否について、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)において審議された。

(1) 平成10年11月20日付厚生省発生衛第234号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品5品種。
(2) 平成10年1月27日付厚生省発生衛第12号をもって諮問され、同日食調第7号をもって付議された食品3品種および食品添加物1品目。
(3) 平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品2品種。

 部会においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、この分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。分科会は平成10年12月8日から平成11年8月5日の間に6回開催され、諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討を行った。
 この分科会での検討結果を受け、平成11年9月10日に部会において審議をおこなった。

2.審議結果

(1) 次の食品7品種の審議内容の詳細については、別紙1〜7の報告書のとおりである。

対象品種 なたね(WESTAR-Oxy-235)
性質 除草剤耐性
申請者 ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社
開発者 RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ)

対象品種 わた(Bollgard with BXN Cotton)
性質 害虫抵抗性及び除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Calgene Incorporated(米国)

対象品種 てんさい(T120-7)
性質 除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ)

対象品種 とうもろこし(DLL25)
性質 除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Dekalb Genetics Corporation(米国)

対象品種 とうもろこし(DBT418)
性質 害虫抵抗性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Dekalb Genetics Corporation(米国)

対象品種 とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統)
性質 除草剤耐性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Monsanto Company(米国)

対象品種 なたね(PHY23)
性質 除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Plant Genetic Systems(ベルギー)

(2) 次の食品3品種、食品添加物1品目については、さらに検討が必要なことから、審議を継続することとされた。
対象品種 大豆(260-05系統)
性質 高オレイン酸形質
申請者 デュポン株式会社
開発者 Optimum Quality Grains L.L.C.(米国)

対象品種 じゃがいも(ニューリーフ・プラス・ジャガイモ)
性質 害虫抵抗性及びウイルス抵抗性
申請者 日本モンサント株式会社
開発者 Monsanto Company(米国)

対象品種 とうもろこし(CBH351)
性質 害虫抵抗性及び除草剤耐性
申請者 アグレボ ジャパン株式会社
開発者 Plant Genetic Systems(ベルギー)

対象品目 フィターゼ
申請者 ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社
開発者 Novo Nordisk A/S(デンマーク)

(3) 次の食品1品種については、申請者の申し出に基づき、申請取り消しの手続きが必要とされた。

対象品種 とうもろこし(TC676,TC678,TC680系統)
性質 雄性不稔性
申請者 パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社
開発者 Pioneer Hi-Bred International,Inc.(米国)


別紙1
カノーラWESTAR-Oxy-235

報 告 書

品種: なたね(商品名:除草剤耐性カノーラWESTAR-Oxy-235)
性質: 除草剤(オキシニル系)耐性
申請者: ローヌプーラン油化アグロ株式会社
開発者: RHONE-POULENC AGROCHIMIE

 除草剤耐性カノーラWESTAR-Oxy-235(以下「 WESTAR-Oxy-235カノーラ」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。

1 申請された食品の概要

 オキシニル系除草剤は、植物の光合成過程における電子の流れを遮断することにより植物の生育を阻害する。
 WESTAR-Oxy-235カノーラは、オキシニル類を活性成分とする除草剤を加水分解するnitrilase蛋白質(ニトリル化合物を加水分解してアミド又はカルボン酸を生成させる酵素の総称)を発現するoxy遺伝子が導入されていることから、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育できる。

2 指針の適用の可否について

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、WESTAR-Oxy-235カノーラの安全性評価が指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、WESTAR-Oxy-235カノーラは、既存のカノーラと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主はなたねBrassica napus L.である。導入したoxy遺伝子は、土壌細菌Klebsiellapneumoniae subsp.ozaenaeに由来する。
 oxy遺伝子が発現するnitrilase蛋白質の発現量は、種子1g中に15ngである。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 なたね(カノーラ)の種子から得られたなたね(カノーラ)油は、食用油として多く消費されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラから得られたなたね(カノーラ)油は、主要構成成分(脂肪酸、トコフェロール、ステロール、不けん化物、アミノ酸組成)及び有害生理活性物質(グルコシノレート、エルカ酸)について、既存のなたね(カノーラ)と有意な差は認められていない。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラの食品としての使用方法は既存のなたね(カノーラ)と相違ない。なお、既存のなたね(カノーラ)との栽培上の相違は、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育することから、栽培期間中にオキシニル系除草剤が使用できる点のみである。
 なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても、既存のなたね(カノーラ)と相違ない。

3 指針への適合性

 WESTAR-Oxy-235カノーラの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請資料に関する以下の知見から、WESTAR-Oxy-235カノーラについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1) 組換え体の利用目的及び利用方法

 WESTAR-Oxy-235カノーラには、オキシニル系除草剤を分解するnitrilase蛋白質を発現するoxy遺伝子が導入されているため、栽培期間中にオキシニル系除草剤が使用できる。
 この点以外、その栽培方法、利用目的、方法は、従来のなたね(カノーラ)と変わらない。

(2) 宿主

 なたね(カノーラ)の種子から得られたなたね(カノーラ)油は、食用油として多く消費されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なたね(カノーラ)のアレルギーは非常に稀である。有害生理活性物質(グルコシノレート、エルカ酸)の産生が知られている。

(3) ベクター

 WESTAR-Oxy-235カノーラの作出には、合成プラスミドpRPA-BL-235が用いられている。
 oxy遺伝子発現ユニットは、アグロバクテリウム法により当該カノーラに導入されている。

(4) 挿入遺伝子

1) 供与体

 WESTAR-Oxy-235カノーラに導入されたoxy遺伝子は、前述2の(1)のとおり、土壌細菌Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来する。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラのゲノム中に組み込まれたpRPA-BL-150a由来の挿入DNAはCaMV35S(カリフラワーモザイクウィルスの35S RNAプロモーター)/oxy/nosから構成されている。挿入されたDNAのサイズは、約4kbp である。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料

 oxy遺伝子は、nitrilase蛋白質を発現させ、オキシニル系除草剤を無毒化し、オキシニル系除草剤の除草効果を妨げる。

c 純度に関する資料

 挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラとその後代におけるサザンブロッティング分析により、挿入遺伝子が安定して維持されていることが確認されている。

e コピー数に関する資料

 挿入DNA は、1コピーのoxy遺伝子発現ユニットが1カ所に挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 nitrilase蛋白質の発現量は種子中で14.5ng/種子、葉中で21ng/mgである。また、種子から得られた油中では、nitrilase蛋白質は検出下限値(0.2ng/10mg)以下である。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラには、抗生物質耐性マーカー遺伝子は挿入されていない。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 挿入DNA にはnitrilase蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、nitrilase蛋白質のみである。

(5) 組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

 WESTAR-Oxy-235に導入された性質は、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育できる点のみであり、その機序は前述1のとおりである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

(1) 食経験に関する資料
 oxy遺伝子の供与体であるKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeは、ヒトの直接の食物源ではないが、自然界に広く分布しており、また、nitrilase蛋白質は自然界に広く分布している。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 nitrilaseが、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 nitrilase蛋白質を、人工胃液・人工腸液にそれぞれ反応させ、SDS-PAGEで電気泳動し、ウェスタンブロッティング分析した結果、nitrilase蛋白質は酵素で分解されやすいことが確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性
 nitrilase蛋白質の酵素活性は、加熱により消失するとともに、抗原性も失われることが確認されている。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 本カノーラから得られた油中には、nitrilase蛋白質は存在しない。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 nitrilase蛋白質について、既知のアレルゲンとの構造相同性検索を行った結果、相同性は認められなかった。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 本カノーラから得られた油中には、nitrilase蛋白質は存在しない。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 データベース検索の結果、nitrilase蛋白質と既知の毒素の間に相同性は認められなかった。また、マウスを用いたnitrilase蛋白質の急性強制経口投与試験の結果、有害な影響は見られなかった。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 nitrilase蛋白質は、オキシニル系除草剤に対し、特異性を示す。

e 宿主との差異に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラは、種から得られた油の主要構成成分(脂肪酸、トコフェロール、ステロール、不けん化物)及び油かす粉末中のアミノ酸組成並びに有害生理活性物質(グルコシノレート、エルカ酸)に関し、既存のなたね(カノーラ)と有意な差は認められなかった。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラは、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラの生存、増殖能力は、非組換え品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラは、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたね(カノーラ)を枯死させる従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラは、カナダにおいて、1997年7月に食品としての安全性が確認された。なお、現在、米国及び豪州に申請中である。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 WESTAR-Oxy-235カノーラと既存のカノーラ(なたね)との栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にオキシニル系除草剤が使用できるか否かの点であり、他の点では同等である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
 WESTAR-Oxy-235カノーラの製法及び管理方法については、既存のカノーラ(なたね)と同様である。


別紙2
Bollgard with BXN Cotton

報 告 書

品 種: わた(商品名:「Bollgard with BXN Cotton」)
性 質: 害虫(オオタバコガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性、除草剤(ブロモキシニル)耐性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Calgene Incorporated社

 モンサント社わた(以下「Bollgard with BXN Cotton」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。

1 申請された食品の概要

 わたは、米国では主にノースカロライナからカリフォルニアに広がる15の州で栽培され、およそ1300万エーカー(520万ha)を占める重要作物になっている。これらの地域では、オオタバコガ(cotton bolloworm,Heliocoverpa zea)等の鱗翅目の昆虫が主な害虫であり、栽培面積の約80%が被害を受けている。また、わたは雑草の影響を大きく受け、除草剤を使用しないわたの栽培は非常に困難な状況にある。
 Bollgard with BXN Cottonは、特定の鱗翅目昆虫による食害に対する耐性を付与するcryIA(c)遺伝子内部配列(Bollgard with BXN Cotton 31807系統に導入されたcryIA(c)遺伝子内部配列は、Bacillus thuringiensis var. kurstaki HS-73株由来のCryIA(c)蛋白質から殺虫活性に不要なDNA領域を削除したトリプシン耐性CryIA(c)蛋白質領域をコードする。)及び除草剤ブロモキシニルの影響を受けない性質を付与するnitrilase蛋白質をコードするbxn遺伝子が導入されている。

2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、Bollgard with BXN Cottonの安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、Bollgard with BXN Cottonが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、Bollgard with BXN Cottonは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主(遺伝子を導入する生細胞)はワタである。導入した遺伝子の供与体は、nitrilase蛋白質をコードするbxn遺伝子、トリプシン耐性CryIA(c)蛋白質をコードするcryIA(c)遺伝子内部配列、ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼII(NPTII蛋白質)をコードするnptII遺伝子(kanr遺伝子とも呼ぶ)である。nptII遺伝子は、E.coliのトランストランスポゾンTn5に由来し、植物にカナマイシン耐性を付与する。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 宿主(遺伝子を挿入する生細胞)は、Gossypium hirsutumに属する民間育成品種であるCoker130で、一般的に用いられているものである。わたは、繊維原料として実綿(綿毛のついた種子)から綿毛が、綿毛を分離した綿実(綿毛を分離した後の種子)から食用油及び油かすが生産される。このうち、ヒトが摂取するBollgard with BXN Cotton由来の食品は綿実油のみである。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 Bollgard with BXN Cotton系統の交配後代と、対象の交配親を比較するために種子中の主要構成成分(蛋白質、脂質、炭水化物、灰分、粗繊維、酸性デタージェントファイバー(ADF)、中性デタージェントファイバー(NDF)、水分及び熱量)、アミノ酸組成、脂肪酸組成、ゴッシポール量及びシクロプロペノイド脂肪酸量に関し、分析を行った結果、Bollgard with BXN Cottonと既存のわたとの間には生物学的に有意な差は認められなかった。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonと従来のわたとの相違は、トリプシン耐性CryIA(c)蛋白質の発現により鱗翅目害虫の被害を受けずに生育でき、nitrilase蛋白質の発現によりブロモキシニルの影響を受けずに生育するのみである。以上の点を除けば、Bollgard with BXN Cottonの栽培方法は従来のわたと同じであり、食品としての利用方法についても全く変わりはない。

3 指針への適合性

 Bollgard with BXN Cottonの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請資料に関する以下の知見から、Bollgard with BXN Cottonについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1) 組換え体の利用目的及び利用方法

 Bollgard with BXN Cottonは、cryIA(c)遺伝子内部配列とbxn遺伝子が導入されているので、殺虫剤を散布せずに鱗翅目害虫を防除し、また収穫高を落とすことなくブロモキシニルを使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、方法は従来のわたと変わらない。

(2) 宿主

 前述2の(2)のとおり、わたは主に綿実から生産される油を食用として利用しており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。わたは、有害生理活性物質であるゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸が含まれているが、搾油工程で含有量は著しく減少する。わたのアレルギーは稀である。

(3) ベクター

 Bollgard with BXN Cottonの作出に用いたプラスミドpCGN4084は、Agrobacterium tumefaciens由来の両境界型形質転換ベクターである。
 pCGN4084にはbxn遺伝子、cryIA(c)遺伝子、nptII遺伝子およびこれらの発現を調節する遺伝子並びにgentr遺伝子が導入されているが、わたにはこれらのうち、gentr遺伝子は導入されなかったことをサザンブロット分析により確認している。
 pCGN4084のサイズは21.5Kbpであり、その全ての遺伝子は特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まないことが確認されている。

(4) 挿入遺伝子

1) 供与体

 Bollgard with BXN Cottonに導入された遺伝子の供与体は、それぞれcryIA(c)遺伝子内部配列が、Bacillus thuringiensis var. kurstaki HS-73株に由来し、bxn遺伝子がKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来し、nptII遺伝子がE.coliに由来する。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 わたのゲノム中にcryIA(c)遺伝子内部配列、bxn遺伝子及びnptII遺伝子が導入されている。

b 性質に関する資料

 cryIA(c)遺伝子内部配列は、殺虫活性のあるトリプシン耐性CryIA(c)蛋白質をコードする。本蛋白質は、標的昆虫の中腸上皮の受容体と特異的に結合し、生体膜に陽イオン透過性小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され、標的昆虫は死に至る。
 bxn遺伝子は、nitrilase蛋白質をコードする。nitrilase蛋白質は、除草剤ブロモキシニル(3,5,-dibromo-4-hydroxybenzonitrile)のニトリル基を加水分解して除草活性を持たない3,5,-dibromo-4-hydroxybenzoic acidに変換する。
 nptII遺伝子は、NPTII蛋白質をコードする。NPTII蛋白質は、ATPを利用してネオマイシン及びカナマイシンなどの抗生物質をリン酸化することで不活化することから、NPTII蛋白質を産生する細胞は、これらの薬剤に耐性となる。

c 純度に関する資料

 プラスミドpCGN4084に含まれる遺伝子は塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、わたに導入されている遺伝子は、それらの特性が明らかになった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 Bollgard with BXN Cotton31807系統の自殖後代のT2及びT6世代及び同系列の後代交配種のサザンブロット分析により、それらのバンドパターンは同一であることが確認されている。

e コピー数に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonには、cryIA(c)遺伝子内部配列が1コピー、bxn遺伝子が1コピー、nptII遺伝子が1コピー導入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 トリプシン耐性CryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質の発現量は、それぞれ、種子で2.5ppm、0.25ppm、2.5ppm、葉で10ppm、1ppm、1ppmであった。なお、ヒトが消費する精製油中には、いずれの蛋白質も検出されなかった(検出下限値1.3μg protein/g oil)。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

 nptII遺伝子により発現するNPTII蛋白質は、すでに厚生省の食品としての指針適合の確認をうけているインガード・ワタや、ニューリーフ・ジャガイモに導入されているもので、加熱、人工胃液・腸液により、速やかに分解される。なお、人が食用とする油では、NPTII蛋白質は除去されている。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 サザンブロッティング分析により、Bollgard with BXN Cottonに導入されている外来のオープンリーディングフレームは、cryIA(c)遺伝子内部配列、bxn遺伝子及びnptII遺伝子のみであることが確認されている。

(5) 組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonに導入された性質は、特定の鱗翅目昆虫に対する抵抗性及びブロモキシニル耐性の性質を獲得した点のみであり、その機序は前述1のとおりである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

(1) 供与体の生物の食経験に関する資料
 Bacillus thuringiensis var. kurstaki 、Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeは、ヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

(2)遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 CryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質のそれぞれについて、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 ウェスタンブロット分析の結果から、CryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質は人工胃液により急速に分解されることが確認されている。また、NPTII蛋白質は人工胃液・腸液により分解される。

イ 加熱処理に対する感受性
 CryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質は、加熱により酵素活性が消失することが加熱実験により確認されている。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 わた種子中のCryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質は、前述3(4)2)fのとおり、2.5ppm、0.25ppm及び2.5ppmである。
 なお、綿実油中の各蛋白質の検出量は全て検出限界以下である。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 挿入遺伝子産物であるCryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められない。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 精油中にCryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質は検出されない。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 前述(3)のとおり、挿入遺伝子の発現する蛋白質は、人工胃液・腸液、加熱処理に対する感受性がある。また、CryIA(c)蛋白質のマウスを用いた急性毒性試験において、何ら有害な影響は示されていない。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 CryIA(c)蛋白質、nitrilase蛋白質及びNPTII蛋白質は基質特異性を持ち、その基質となりえる化合物又は分子はわた種子中に存在しない。

e 宿主との差異に関する資料

 前述の2の(3)のとおり、主要構成成分(蛋白質、脂質、炭水化物、灰分、粗繊維、酸性デタージェントファイバー(ADF)、中性デタージェントファイバー(NDF)、水分及び熱量)、アミノ酸組成、脂肪酸組成及び有害生理活性物質(ゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸量)の分析の結果、Bollgard with BXN Cottonは、既存のわたと同等であった。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonの外界における生存・増殖能力は、鱗翅目昆虫に抵抗性を示す点及びブロモキシル耐性を示す点を除いて、既存のなたねと同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonの生存・増殖能力は親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonは、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、わたを不活化する従来の方法によって不活化される。

I 諸外国における認可・食用等に関する資料

 米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行われていた、Bollgard with BXN Cottonの食品としての安全性に関する協議を1998年1月に終了した。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonと既存のわたとの栽培方法の違いは、特定の鱗翅目昆虫に抵抗性を示す点及びブロモキシニルが使用できる点のみである。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 Bollgard with BXN Cottonの製法及び管理方法については、既存のわたと同様である。


別紙3
てんさいT120-7

報 告 書

品 種: てんさい(商品名:リバティリンクてんさいT120-7)
性 質: 除草剤(グルホシネート)耐性
申請者: アグレボジャパン株式会社
開発者: Hoechst Schering AgrEvo GmbH

 除草剤耐性てんさいT120-7(以下「てんさいT120-7」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。

1 申請された食品の概要

 てんさいT120-7は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっている酵素「glutamine synthetase(以下「GS」という。)」の活性を特異的に阻害するため、植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。しかし、てんさいT120-7には、PPTをアセチル化して不活性化させる酵素「phosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)」を発現するpat遺伝子(Streptomyces viridochromogenes由来)が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
 また、てんさいT120-7には選択マーカー遺伝子として、抗生物質(カナマイシン等)耐性の性質を付与するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子(Escherichia coli(以下「E.coli」という。)由来)が導入されている。

2 指針の適用の可否について

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適応される。そこで、てんさいT120-7の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本てんさいが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、てんさいT120-7は、既存のてんさいと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主(遺伝子を導入する生細胞)はてんさいである。導入した遺伝子の供与体は、pat遺伝子がStreptomyces viridochromogenes Tu 494株(以下「S.viridochromogenes」という。)に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 てんさいは、その根部が砂糖の原料として幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。遺伝子供与体であるS.viridochromogenesについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 てんさいT120-7は、主要構成成分(水分、脂質、蛋白質、灰分、炭水化物、繊維、ミネラル)に関し、既存のてんさいと有意な差は認められていない。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 てんさいT120-7の食品としての使用方法は既存のてんさいと相違はない。なお、既存のてんさいとの相違は、前述1のとおり、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のてんさいと相違はない。

3 指針への適合性

 てんさいT120-7の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。その結果、申請資料に関する以下の知見から、てんさいT120-7について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

 前述1のとおり、てんさいT120-7には、PPTをアセチル化することでGSに対する阻害作用を消失させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のてんさいと変わらない。

(2) 宿主

 前述の2の(2)のとおり、その栽培方法、利用目的、方法は、砂糖の原料として利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。有害生理活性物質の生産は知られていない。

(3) ベクター

 てんさいT120-7の作出には、バイナリーベクターp0CA18/ACが用いられた。p0CAは、nptII遺伝子、pat遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子配列を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。p0CA18/ACの分子量は25.6kbpである。
 p0CA18/ACに含まれるすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。p0CA18/ACの宿主としては、E.coliなどの細菌が知られているが、植物体ではこのプラスミドは伝達性をもたない。
 p0CA18/ACのてんさい組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。

(4)挿入遺伝子

1)供与体

 てんさいT120-7に挿入された遺伝子の供与体は、前述のとおり、pat遺伝子がS.viridochromogenes、nptII遺伝子はE.coliである。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 てんさいT120-7のゲノム中に組み込まれたNPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(PNos/nptII/T'ocs)、及び、PAT蛋白質産生に関与する遺伝子(PCaMV35S/pat/T'CaMV35S)には、有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料

 bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSに対する阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
 nptII遺伝子は、NPTII蛋白質を発現させ、カナマイシン等のアミノ配糖体系抗生物質を不活化させる。

c 純度に関する資料

 挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 挿入遺伝子の遺伝的安定性と発現する蛋白質の発現安定性が解析され、少なくとも2世代にわたり正常なメンデルの分離が確認されている。また、様々な環境における栽培においても、挿入遺伝子は安定して発現している。

e コピー数に関する資料

 挿入DNA断片は、1コピー挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 nptII遺伝子によりコードされるNPTII蛋白質の発現量は、てんさい根部において22ng/gであった。
 また、bar遺伝子によりコードされるPAT蛋白質は、てんさい根部において90ng/gであった。なお、精製糖中においてはいずれも検出下限値(PAT:1.6ng/g、NPTII:0.35ng/g)以下であった。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

(1)遺伝子及び遺伝子産物の特性に関する資料
 前述のとおり、nptII遺伝子により発現するNPTII蛋白質は、カナマイシン等のアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化して不活化する。このNPTII蛋白質は、加熱、人工胃液・腸液により速やかに分解される。

(2)遺伝子及び遺伝子産物の摂取に関する資料
 てんさい糖加工工程において蛋白質が除去されている。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 外来のオープンリーディングフレームは、NPTII蛋白質、PAT蛋白質の発現に係わるもののみであり、このことはサザンブロット分析により確認されている。

(5)組換え体

a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

 てんさいT120-7に導入された性質は、グルホシネートの影響を受けない点とカナマイシン耐性を付与された点のみであり、その機序は前述1のとおりである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

(1)供与体の生物の食経験に関する資料
 S.viridochromogenesのヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。

(2)遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 PAT蛋白質、NPTII蛋白質のそれぞれについて、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3)遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 ウェスタンブロット分析及び酵素活性試験の結果から、NPTII蛋白質及びPAT蛋白質は人工胃液及び人工腸液により急速に分解されることが確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性
 PAT蛋白質、NPTII蛋白質は、加熱により酵素活性が消失することが加熱実験により確認されている。

(4)遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 糖蜜または精製糖中に蛋白質は検出されないことが確認されている。かりに、PAT蛋白質が検出下限量含まれているとして、日本人の一日一人当たりのてんさいの平均摂取量4.8gに基づいて計算すると、加工損失がないとしてPAT蛋白質の予想摂取量は1.9〜7.7ngとなる。

(5)遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 蛋白配列データバンク(Swiss Prot,PIR及びHIV)を用いた構造相同性検索と、アレルゲンエピトープ相同性検索を行った結果、挿入遺伝子産物であるNPTII蛋白質、PAT蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められない。

(6)遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)に基づいて計算すると、PAT蛋白質の一日蛋白質摂取量に対する割合は、0.00000001%以下である。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 PAT蛋白質は、人工消化液を用いた実験で速やかに分解される他、加熱によっても不活性化されることが確認されている。また、データベースにより338のタンパク毒素との検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。また、PAT蛋白質を含む飼料を用いたラットの反復経口投与試験の結果、悪影響は認められていない。
 以上のことから、これら蛋白質が毒性影響を持つとは考えられない。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 PAT蛋白質は基質特異性を持ち、その基質となり得る化合物または分子はてんさい中には存在しない。

e 宿主との差異に関する資料

 前述の2の(3)のとおり、主要栄養成分(水分、脂質、蛋白質、灰分、炭水化物、繊維、ミネラル)の分析の結果、てんさいT120-7は既存のてんさいと同等であった。
 なお、生育期にグルホシネートを散布したてんさいT120-7におけるグルホシネートの分析を行った結果、平均残留量は0.3ppm以下であった。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 てんさいT120-7の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点を除いて、既存のてんさいと同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 てんさいT120-7の生存・増殖能力は、親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 てんさいT120-7は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、てんさいを不活化する従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行われていた、てんさいT120-7の食品としての安全性に関する協議を1998年10月に終了した。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 てんさいT120-7と既存のてんさいとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグルホシネートが使用できる点のみであり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 てんさいT120-7の製法及び管理方法については、既存のてんさいと同様である。


別紙4
DLL25

報 告 書

品 種: とうもろこし(商品名:「DLL25系統」)
性 質: 除草剤(グルホシネート)耐性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Dekalb Genetics Corporation

 とうもろこしDLL25系統について、開発者が行った安全性評価が「組換えDNA 技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の通りである。

1 申請された食品の概要

 とうもろこしDLL25系統は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769 号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT 」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。
 とうもろこしDLL25系統には、 PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「 PAT蛋白質」という。)を発現させる bar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布してもGSは阻害されず、植物は枯死せずに生育することができる。
 なお、とうもろこしDLL25系統にはPAT蛋白質の発現に関連するもの以外の遺伝子は挿入されていない。

2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、とうもろこしDLL25系統の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、とうもろこしDLL25系統は、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
 DLL25系統の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主はとうもろこし(デント種)であり、遺伝子供与体については、 bar遺伝子が土壌中のグラム陽性放線菌である Streptomyces hygroscopicusに由来する。
 PAT蛋白質の発現量は穀粒総蛋白質 1μgあたり1.25±0.43ngであった。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なお、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は、植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素群の一つである。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 DLL25系統は、主要構成成分等(蛋白質、灰分、炭水化物、繊維質、水分等)に関し、既存のとうもろこしと同等である。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 DLL25系統の食品としての使用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの相違は、 PPTの影響を受けることなく生育することができることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。

(5) 指針適用の可否に関する結論

3 指針への適合性

 とうもろこしDLL25系統の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請資料に関する以下の知見から、とうもろこしDLL25系統について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1) 組換え体の利用目的及び利用方法

 DLL25系統には、PPTをアセチル化して不活化させる PAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のとうもろこしと変わらない。

(2) 宿主

 とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範なヒトの食経験がある。アレルギー誘発性が数件報告されているが、有害生理活性物質の産生は知られていない。

(3) ベクター

 DLL25系統の作出に用いられたpDPG165は、pUC19に由来する。pDPG165 に存在する全ての遺伝子はその機能が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
 pDPG165に伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域が、E. coliと数種のグラム陰性菌のみに限られている。なお、 pDPG165のとうもろこし組織への挿入には、パーティクルガン法が用いられている。
 pDPG165はbar遺伝子及びこの発現を調整する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
 なお、pDPG165には、E.coliにおいてアンピシリン耐性を付与するbla遺伝子が存在するが、この遺伝子はバクテリアプロモーターに制御されており、かつ、この遺伝子は切断されている。また、この遺伝子が植物体中では発現していないことが確認されている。

(4) 挿入遺伝子

1) 供与体

 DLL25系統に導入されたbar遺伝子は、土壌中のグラム陽性放線菌であるS.hygroscopicus株に由来する。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 DLL25系統のゲノム中に組み込まれた pDPG165由来の挿入DNA (CaMV35Sプロモーター/bar/Tr7の3'末端部分、bla遺伝子の一部及びlacZ領域)は、約3〜3.5kbp である。なお、有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料

 bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、この酵素がグルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。

c 純度に関する資料

 挿入DNA に含まれる遺伝子は、bar遺伝子とbla遺伝子の一部のみであり、その特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
 グルホシネート処理に対する耐性形質については、少なくとも4世代に渡り安定して発現している。

e コピー数に関する資料

 挿入DNA がDLL25系統では1ヶ所に1コピー挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 PAT蛋白質の発現量は穀粒総蛋白質 1μgあたり1.25±0.43ngであった。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

 DLL25系統には、bla遺伝子が挿入されているが、切断されているため、検出可能な蛋白質を生成しない。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 挿入DNA には、PAT蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが完全な形で含まれており、pDPG165由来の遺伝子によって発現する蛋白質は、 PAT蛋白質のみである。

5 組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

 DLL25系統に新たに導入された性質は、グルホシネートの影響を受けずに生育できる点のみである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

 指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。

(1)供与体の生物の食経験に関する資料
 bar遺伝子の供与体は、土壌中のグラム陽性放線菌であるS.hygroscopicusであり、ヒトによる直接の食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素の一つである。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 PAT蛋白質がアレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 人工胃液・人工腸液により PAT蛋白質は急速に分解され、抗原性が失われることが確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性
 PAT蛋白質は加熱により変性し、酵素活性が消失したことが確認されている。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 日本人のPAT蛋白質の一日予想最大摂取量は、日本人の「その他の穀類」の平均摂取量1.9g(国民栄養の現状、1996年)をDLL25系統から全量摂取し、加工損失が全くないと仮定した場合、0.01026mgである。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 データベースに登録されている全ての蛋白質について検索を行った結果、 PAT蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められない。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 PAT蛋白質の一日予想最大摂取量は、日本人の一日平均蛋白質摂取量 79.5g(国民栄養の現状、1996年)の0.000012905%となる。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

(1) PAT蛋白質と既知の毒性物質との構造相同性の比較
 データベースの検索の結果、 PAT蛋白質と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。

(2) PAT蛋白質を用いたラット反復投与経口毒性試験
 マウス10匹に体重1kgあたり2,500mgのPAT蛋白質を経口投与したところ、1匹の雄にわずかな体重減少と糞便の不足が観察され、残り9匹のマウスでは体重の増加が見られたが、これらは、PAT蛋白質の投与による影響ではないことが確認されている。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 PAT蛋白質の基質特異性は高く、その基質となり得る化合物または分子はとうもろこし中に存在しない。

e 宿主との差異に関する資料

 主要栄養成分の分析の結果、DLL25系統と既存のとうもろこしとは同等であった。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 DLL25系統の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点を除いて親品種と同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 DLL25系統の生存・増殖能力の制限に関しては、親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 物理的防除(耕耘)や化学的防除(グルホシネート以外の感受性のある除草剤の散布)などのとうもろこしを不活化する従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 DLL25系統について、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)から食品及び飼料としての安全性の確認を1996年3月に得ている。フランス、イギリスに対しては申請中である。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 DLL25系統と既存のとうもろこしとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除に除草剤グルホシネートが使用できる点であり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 DLL25系統の製法及び管理方法については、既存のとうもろこしと同様である。

(6) 指針適合性に関する結論

 指針に際し提出された資料に関する以上の知見からすると、DLL25系統については、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。


別紙5
DBT418

報 告 書

品 種: とうもろこし(商品名:「DBT418系統」)
性 質: 害虫抵抗性、除草剤(グルホシネート)耐性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Dekalb Genetics Corporation

 とうもろこしDBT418系統について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。

1 申請された食品の概要

 DBT418系統は、アワノメイガなど特定の鱗翅目害虫の食害を受けずに生育できるとともに、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769 号)」の影響を受けずに生育できる。
 Bacillus thuringiensis subsp.kurstakiが産生する蛋白質(以下「b.t.k.蛋白質」という。)は、アワノメイガなど特定の鱗翅目の昆虫の消化管のみに存在する中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して、陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され、その昆虫は死に至る。また、グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し,枯死する。
 DBT418系統には B.thuringiensis subsp. kurstakiのcryIA(c)遺伝子が導入されているため、植物はアワノメイガなどの食害を受けずに生育することができる。また、選択マーカー遺伝子として、PPTをアセチル化して不活化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「 PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているため、グルホシネートを散布してもGSは阻害されず、植物は枯死せずに生育することができる。
 なお、DBT418系統には、鱗翅目害虫であるススメガ幼虫(Manduca sexta)に対する抵抗性を付与し、また、セリンプロテアーゼインヒビターにより、様々な鱗翅目の害虫に対してcryIA(C)蛋白質の殺虫作用を高めるポテトpinII遺伝子が挿入されているが、不完全な形で挿入されており、発現していないことが確認されている。

2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、とうもろこしDBT418系統の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、とうもろこしDBT418系統は、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主はとうもろこし(デント種)であり、遺伝子供与体については、cryIA(c)遺伝子がB.thuringiensis subsp. kurstakiに由来し、bar遺伝子が土壌中のグラム陽性放線菌である Streptomyces hygroscopicusに由来し、pinII遺伝子がばれいしょ(Solanum tuberosum)に由来する。
 CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の発現量は、穀粒総蛋白質 1gあたりそれぞれ 43ng、6μgであった。なお、PINII蛋白質は穀粒中では発現していない。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なお、B.thuringiensis subsp.kurstakiについての食経験はないが、b.t.k.蛋白質については、b.t.k.蛋白質を基材とする生物農薬が長年日本を含む世界各国で安全に使用されてきた。また、S.hygroscopicusについても食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は、植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素の一つである。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 DBT418系統は、主要構成成分等(蛋白質、灰分、炭水化物、繊維質、水分等)に関し、既存のとうもろこしと同等であった。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 DBT418系統の食品としての使用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの相違は、アワノメイガなど特定の鱗翅目害虫の食害を受けずに生育できる点と、 PPTの影響を受けることなく生育することができるため、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。

(5) 指針適用の可否に関する結論

 申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、DBT418系統については、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。

3 指針への適合性

 とうもろこしDBT418系統の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請資料に関する以下の知見から、とうもろこしDBT418系統について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1) 組換え体の利用目的及び利用方法

 DBT418系統には、 b.t.k.蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、植物はアワノメイガなどの食害を受けずに生育することができる。また、PPTをアセチル化して不活化させる PAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているため、GSが阻害されずに栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のとうもろこしと変わらない。

(2) 宿主

 とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範なヒトの食経験がある。アレルギー誘発性が数件報告されているが、有害生理活性物質の産生は知られていない。

(3) ベクター

 DBT418系統の作出に用いられたpDPG165はpUC19に由来し、pDPG320及びpDPG699はpBluescriptIISK(-)に由来する。pDPG165、pDPG320及びpDPG699に存在する全ての遺伝子はその機能が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。pDPG165、pDPG320及びpDPG699に伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域が、大腸菌と数種のグラム陰性菌のみに限られている。
 なお、 pDPG165、pDPG320及びpDPG699のとうもろこし組織への挿入には、パーティクルガン法が用いられている。
 pDPG165、pDPG320及びpDPG699には、それぞれbar遺伝子、pinII遺伝子、cryIA(c)遺伝子とその発現を調整する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。なお、pDPG165、pDPG320及びpDPG699には、大腸菌内においてアンピシリン耐性を付与するbla遺伝子が存在するが、この遺伝子はバクテリアプロモータに制御されていることから、植物体中では発現しないことが確認されている。また、pinII遺伝子も植物体中で発現していないことが確認されている。

(4) 挿入遺伝子

1) 供与体

 DBT418系統に導入されたcryIA(c)遺伝子は、B.thuringiensis subsp.kurstaki 73-HD株に由来し、bar遺伝子は、土壌中のグラム陽性放線菌であるStreptomyces hygroscopicus株に由来し、pinII遺伝子は、ばれいしょ(Solanum tuberosum)に由来する。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 DBT418系統のゲノム中に組み込まれた pDPG165、pDPG320及びpDPG699由来の挿入DNA (bar遺伝子、pinII遺伝子及びcryIA(c)遺伝子)は、それぞれ約0.55、1.51、1.85kbpである。なお、有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料

 cryIA(c)遺伝子は b.t.k.蛋白質を発現させ、アワノメイガなどの食害を受けずに生育することができる。また、bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、この酵素がグルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。

c 純度に関する資料

 挿入DNA に含まれる遺伝子は、cryIA(c)遺伝子、bar遺伝子、pinII遺伝子、bla遺伝子の一部のみであり、その特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 DBT418系統に導入されたcryIA(c)遺伝子及びbar遺伝子については、少なくとも8世代に渡り安定して発現していることが確認されている。

e コピー数に関する資料

 挿入DNAは、DBT418系統では2コピーの完全なcryIA(c)遺伝子、1コピーの完全なbar遺伝子と1コピーの断片、不完全なpinII遺伝子断片、3コピーの完全なbla遺伝子と3コピーの完全なColE1複製起点が挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の発現量は、穀粒総蛋白質1gあたりそれぞれ 43ng、6μgであった。なお、pinII遺伝子及びbla遺伝子は穀粒中では発現していなかった。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

 DBT418系統には、bla遺伝子が挿入されているが、切断されているため、検出可能な蛋白質を生成しない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
 挿入DNAには、CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが完全な形で含まれており、pDPG165、pDPG320及びpDPG699由来の遺伝子によって発現する蛋白質は、CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質のみである。

5 組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

 DBT418系統に新たに導入された性質は、アワノメイガなどの食害を受けずに生育できる点及びグルホシネートの影響を受けずに生育できる点のみである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

 指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。

(1)供与体の生物の食経験に関する資料
 cryIA(c)遺伝子の供与体であるB.thuringiensis subsp. kurstakiは、食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。また、bar遺伝子の供与体である土壌中のグラム陽性放線菌であるS.hygroscopicusは、ヒトによる直接の食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素の一つである。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 人工胃液によりCryIA(c)蛋白質は急速に分解され、抗原性は失われることが確認されている。また、人工胃液・人工腸液により PAT蛋白質は急速に分解され、抗原性は失われることが確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 日本人の「その他の穀類」の平均摂取量1日1人当たり1.9g(国民栄養の現状、1996年)をDBT418系統から全量摂取、加工損失が全くないと仮定した場合、CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の日本人の一日予想最大摂取量は、最大でそれぞれ0.000081mg、0.0114mgである。
(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 データベースに登録されている全ての蛋白質について検索を行った結果、CryIA(c)蛋白質並びに PAT蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められない。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の一日予想最大摂取量それぞれ0.000081mg、0.00114mgは、日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5gの0.000000102%、0.00000143%となる。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

(1) PAT蛋白質と既知の毒性物質との構造相同性の比較
 データベースの検索の結果、CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質と既知の毒性物質との間に相同性は認められない。

(2) CryIA(c)蛋白質ならびにPAT蛋白質を用いたラット反復投与経口毒性試験
 マウス10匹に体重1kgあたり5,000mgのCryIA(c)蛋白質を経口投与したところ、1匹が投与ミスにより死亡したが、残り9匹のマウスでは体重の増加が見られた。また、2,500mgのPAT蛋白質を経口投与したところ、1匹の雄にわずかな体重減少と糞便の不足が観察されたが、残り9匹のマウスでは体重の増加が見られた。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の基質特異性は高く、その基質となり得る化合物又は分子はとうもろこし中に存在しない。

e 宿主との差異に関する資料

 蛋白質、精油、繊維質、灰質、水分、でん粉、アミノ酸等の組成は、DBT418系統と既存のとうもろこしとで同等であった。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 DBT418系統の外界における生存・増殖能力は、アワノメイガの食害を受けずに生育する点及びグリホシネートに耐性を示す点を除いて親品種と同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 DBT418系統の生存・増殖能力は、親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 物理的防除(耕耘)や化学的防除(グルホシネート以外の除草剤の散布)など、とうもろこしを不活化する従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 DBT418系統について、米国においては、米国食品医薬品局(FDA)から食品としての安全性の確認を1997年3月に得ている。また、カナダでは1997年4月に食品としての安全性の確認を得ている。なお、EC、メキシコ、アルゼンチンに対しては申請準備中である。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 DBT418系統と既存のとうもろこしとの栽培方法の唯一の違いは、殺虫剤を散布しなくともアワノメイガの食害を受けずに生育する点及び生育期の雑草防除に除草剤グルホシネートが使用できる点であり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 DBT418系統の製法及び管理方法については、既存のとうもろこしと同様である。

(6) 指針適合性に関する結論

 指針に際し提出された資料に関する以上の知見からすると、DBT418系統については、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。


別紙6
GA21

報 告 書

品 種: とうもろこし(商品名:「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統」)
性 質: 除草剤(グリホサート)耐性
申請者: 日本モンサント株式会社
開発者: Monsanto Company

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統(以下「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の1から3のとおりである。
 また、当該とうもろこしの挿入遺伝子のコピー数に関する資料に変更があったことについて、申請者から追加の資料が提出されており、その内容について検討した結果は次の4のとおりである。

1 申請された食品の概要

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国Chemical Abstract Service(CAS) 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、EPSPS蛋白質の活性を阻害する。その結果、ほとんどの植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯死する。しかし、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子を部分的に改変したmEPSPS遺伝子が挿入されており、このmEPSPS遺伝子はグリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現するので、グリホサートが散布されても枯死せずに生育することができる。
 なお、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、mEPSPS蛋白質の発現に関連するもの以外の遺伝子は挿入されていない。

2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1)遺伝的素材に関する資料

 宿主(遺伝子を導入する生細胞)はとうもろこし(デント種)である。
 導入したmEPSPS遺伝子は、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。
 mEPSPS蛋白質の発現量は、生組織重量1gあたり葉で118.7μg、穀粒では3.2μgである。

(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 とうもろこし(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。

(3)食品の構成成分等に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のとうもろこしと有意な差は認められていない。

(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの食品としての使用方法は既存のとうもろこしと相違ない。なお、既存のとうもろこしとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。
 なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のとうもろこしと相違ない。

3 指針への適合性

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請資料に関する以下の知見から、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、グリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、利用方法は従来のとうもろこしと変わらない。

(2)宿主

 前述の2の(2)のとおり、とうもろこし(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。とうもろこしのアレルギーは非常に希であるほか、有害生理活性物質の産生は知られていない。

(3)ベクター

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの作出に用いられたプラスミドpDPG434は、大腸菌プラスミドpBluescript SK(-)の複製開始領域、pBluescript SK(-)のbla遺伝子を含む断片、大腸菌プラスミドpUC19に由来するlacZ遺伝子の一部からなるベクター領域に、mEPSPS遺伝子発現ユニットを連結したものであり、そのサイズは6,128bpである。
 とうもろこし細胞中にはmEPSPS遺伝子発現ユニットのみが導入されている。すなわち、pDPG434からmEPSPS遺伝子発現ユニットを切ってとうもろこし細胞へパーティクルガン法で導入された。pDPG434のベクター領域は、遺伝子をとうもろこし細胞に導入する際に除去されており、このことはサザンブロット分析によって確認されている。

(4)挿入遺伝子

1)供与体

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入されたmEPSPS遺伝子の供与体は、とうもろこしである。
 mEPSPS遺伝子は、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。

2)挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 mEPSPS遺伝子発現ユニットは、[r-act5,]-[OTP]-[mEPSPS]-[NOS3']から構成されている。
 r-actには、mEPSPS遺伝子発現ユニットを植物細胞中で機能させるために必要なプロモーターと第1イントロンを含んでいる。植物細胞中でmEPSPS蛋白質が働く場所は葉緑体である。芳香族アミノ酸の生合成経路が存在する葉緑体にこのmEPSPS蛋白質をうまく移行させるためには最適葉緑体輸送ペプチドが必要であるので、mEPSPS遺伝子の5'末端にOTPを連結している。
 このmEPSPS遺伝子発現ユニットをパーティクルガン法によってとうもろこし細胞に導入した結果、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシのゲノム中に、削除型r-actプロモーターをもつ1コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット(削除型r-act/OTP/mEPSPS/NOS3')、約3コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPS/NOS3')、1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPSの一部)及びイントロンを持たないr-actプロモーター断片が連結したものが1カ所に挿入されたことが確認されている。挿入されたDNAのサイズは、16kbp前後と推測され、既知の有害塩基配列は含まれていないことが確認されている。

b 性質に関する資料

 mEPSPS遺伝子は、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するmEPSPS蛋白質を発現することにより、グリホサートの除草効果を妨げる。

c 純度に関する資料

 挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシを6世代に渡り戻し交配し、各世代のグリホサートに対する耐性の有無を調べることにより、mEPSPS遺伝子の分離の実測値と期待値をカイ二乗検定した結果、有意差が見られず、またサザンブロット分析によりmEPSPS遺伝子が6世代目においても確認されており、mEPSPS遺伝子が単一の優性遺伝子として安定して後代に存在していることが示された。

e コピー数に関する資料

 前述aのとおり。削除型r-actプロモーターをもつ1コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、約3コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット及びイントロンを持たないr-actプロモーター断片が連結したものが、1カ所に挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 mEPSPS蛋白質の発現量は、5カ所の圃場から採取した試料をELISA法を用いて分析した平均値として、生組織重量1g あたり葉で118.7μg 、穀粒では3.2μg である。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、抗生物質耐性マーカー遺伝子は挿入されていない。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 外来のオープンリーディングフレームは、mEPSPS蛋白質の発現に係るもののみであり、このことはサザンブロット分析により確認されている。

(5)組換え体

a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみであり、その機序は前述1のとおりである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

(1) 食経験に関する資料
 mEPSPS遺伝子の供与体であるとうもろこしは広範囲のヒトにおいて長期にわたる食経験があるが、そのアレルギーは非常に希で、原因となるアレルギー誘発物質も特定されていない。mEPSPS遺伝子は、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。この遺伝子によりコードされるmEPSPS蛋白質とEPSPS蛋白質とのアミノ酸配列の同一性は99.3%以上である。

(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 EPSPS蛋白質類が、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 mEPSPS蛋白質を人工胃液・人工腸液それぞれに反応させ、SDS-PAGEで電気泳動し、ウェスタンブロット分析した結果、mEPSPS蛋白質は、人工胃液・人工腸液により急速に分解され、1分未満で免疫反応性が完全に消滅することが確認されている。

イ 加熱処理に対する感受性
 とうもろこし粉を食品として摂取する際の加工工程を模倣し、177℃30分加熱したものをELISA分析した結果、mEPSPS蛋白質のレベルは、78%消滅したことが確認されている。

(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの穀粒1g中にはmEPSPS蛋白質が3.2μg発現しており、日本人の一日一人あたりのとうもろこしの最大平均摂取量2.3g(国民栄養の現状、1997)をラウンドアップ・レディー・トウモロコシに置き換えて計算すると、日本人のmEPSPS蛋白質の一日予想摂取量は、加工損失が無いと仮定して最大7.36μgとなる。

(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 mEPSPS蛋白質と既知のアレルゲンとの構造相同性を検索するため、78の食物アレルゲンを含む 219の既知アレルゲンをデータベースより抽出して解析した結果、mEPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が8つ以上同一であるアレルゲンはなく、mEPSPS蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 mEPSPS蛋白質の一日予想摂取量は7.36μgであり、これは、日本人の一日一人当たりの平均蛋白質摂取量81.5g(国民栄養の現状、1997)の0.000009%である。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 mEPSPS蛋白質の毒性影響について、データベース検索を行った結果、mEPSPS蛋白質と既知の毒素の間に相同性は認められなかった。
 mEPSPS蛋白質は人工胃液・人工腸液により急速に分解され、1分未満で免疫反応性が完全に消滅することが確認されていることから、mEPSPS蛋白質が活性を保ったまま吸収される可能性は極めて低い。
 マウスを用いたmEPSPS蛋白質の急性強制経口投与試験の結果、最大投与量45.6mg/kgまで投与しても有害な影響は認められなかった。この投与量は、体重50kgの日本人mEPSPS蛋白質予想摂取量7.36μgの30万倍に相当する。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 mEPSPS蛋白質のシキミ酸経路に対する影響を調べるため、この経路の生成物である芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)のレベルについて、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシと非組換え体対象を比較したところ、これら芳香族アミノ酸に有意な差は認められなかった。
 EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。

e 宿主との差異に関する資料

 前述の2(3)のとおり、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のとうもろこしと有意な差は認められなかった。
 なお、生育期にグリホサートを散布したラウンド・アップ・レディー・トウモロコシの種子を用いてグリホサートの分析を行った結果、グリホサートの平均残留量は、0.006ppm であり、1992年に厚生省が設定したとうもろこしのグリホサートについての残留基準値0.1ppmを下回った。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの圃場試験は米国及びヨーロッパで延べ76カ所以上で行われているが、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの、生存、増殖能力は非組換え品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、とうもろこしを枯死させる従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、米国において、1998年2月に米国食品医薬品局(FDA)により食品としての安全性が確認された。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシと既存のとうもろこしとの栽培方法の相違は、生育期の雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点のみであり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの製法及び管理方法については、既存のとうもろこしと同様である。

4 挿入遺伝子のコピー数について

 平成10年10月に挿入遺伝子のコピー数について追加提出された資料について、検討を行った。
 当初、挿入遺伝子は2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニットとNOS3'端末を欠くmEPSPS遺伝子配列が1カ所に挿入されているとされていたが、その後の詳細な調査により、前述の3の(4)の2)のaのとおり、削除型r-actプロモーターをもつ1コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、約3コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット及びイントロンを持たないr-actプロモーター断片が連結したものが1カ所に挿入されていることが確認された。
 GA21とうもろこしはパーティクルガン法によりDNAを挿入しているので、複数コピーの遺伝子の挿入は当然おこりうる現象である。
 一般に、挿入遺伝子のコピー数については、例えば、染色体の別々の位置に複数コピー挿入されている場合と、一カ所にタンデムにつながって挿入されている場合とでは、挿入遺伝子の分離比の問題等が違ってくるが、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの場合は後者に該当するので、分離比は1コピー入っている場合と同じである。また、挿入遺伝子が発現する蛋白質の量については、mEPSPS遺伝子を挿入したとうもろこしについて蛋白質の発現量を分析しているので、挿入遺伝子のコピー数に関する資料の修正が、安全性評価に必要となるその他のデータ(例えば栄養成分に関するデータ、発現する蛋白質の量や性質など)に直接影響するものではない。


別紙7
PHY23

報 告 書

品 種: なたね(商品名:PHY23)
性 質: 除草剤(グルホシネート)耐性
申請者: アグレボジャパン株式会社
開発者: Plant Genetic Systems

 PHY23について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の1から3のとおりである。

1 申請された食品の概要

 PHY23は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
 グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっている酵素「glutamine synthetase(以下「GS」という。)」の活性を特異的に阻害するため、植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。しかし、PHY23には、PPTをアセチル化して不活化させる酵素「phosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)」を発現するbar遺伝子(Streptomyces hygroscopicus由来)が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
 このため、除草剤は雑草の発芽後に最少量撒けばよいので、使用量・回数の削減ひいては環境の保全に資する。
 PHY23は、雄性不稔遺伝子(花粉を作らせなくする性質をもつ。以下「barnase遺伝子」という。)とbar遺伝子とnptII遺伝子を導入したなたね(以下「MS1」という。)と既存の品種との交配種に、稔性回復遺伝子(雄性不稔性を回復させる性質を持つ。以下「barstar遺伝子」という。)とbar遺伝子とnptII遺伝子を導入したなたね(以下「RF2」という。)と既存の品種との交配種を交配させたハイブリッド種(F1雑種)である。なたねは自家受粉を主とする作物なので、雄性不稔、稔性回復の2つの性質を利用して、ハイブリッド種の簡便な作出を可能にした。
 ハイブリッド種は、雑種強勢により、収量、均一性、環境に対する適応力に優れる。

 また、PHY23には選択マーカー遺伝子として、抗生物質(カナマイシン等)耐性の性質を付与するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子(Escherichia coli(以下「E.coli」という。)由来)が導入されている。
 なお、barnase遺伝子とbarstar遺伝子は、プロモーターの発現特異性により、可食部では発現しない。

2 指針の適用の可否について

 指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適応される。そこで、PHY23の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本なたねが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
 その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、PHY23は、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。

(1) 遺伝的素材に関する資料

 宿主(遺伝子を導入する生細胞)はなたね(カノーラ種)であり、他の遺伝子供与体は、bar遺伝子がStreptomyces hygroscopicus(以下「S.hygroscopicus」という。)に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。また、barstar遺伝子とbarnase遺伝子は、Bacillus amyloliquefaciens(以下「B.amyloliquefaciens」という。)に由来する。

(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料

 なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。

(3) 食品の構成成分等に関する資料

 PHY23は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、炭水化物)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)に関し、既存のなたねと有意な差は認められていない。

(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料

 PHY23の食品としての使用方法は既存のなたねと相違はない。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及びハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある点である。なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のなたねと相違はない。

3 指針への適合性

 PHY23の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。その結果、申請資料に関する以下の知見から、PHY23について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。

(1)組換え体の利用目的及び利用方法

 PHY23には、PPTをアセチル化してGS不活化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。さらに、ハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある。
 この点以外、従来のなたねと変わらない。

(2) 宿主

 前述の2の(2)のとおり、なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。

(3) ベクター

 PHY23の作出には、プラスミドpGV825に由来するpTTM8RE及びpTVE74REが用いられた。
 pTTM8REはnptII遺伝子、bar遺伝子、barnase遺伝子及びこれらの発現を調節する配列を、pTVE74REはnptII遺伝子、bar遺伝子、barstar遺伝子とこれらの発現を調節する配列をそれぞれ含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。pTTM8REの分子量は8.2kbp、pTVE74REの分子量は8.1kbpである。
 pTTM8RE及びpTVE74REに含まれるすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。pTTM8RE及びpTVE74REに伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域がE.coliと数種のグラム陰性菌のみに限られている。
 pTTM8RE及びpTVE74REのなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。

(4)挿入遺伝子

1)供与体

 PHY23は、MS1と既存の品種との交配種に、RF2と既存の品種との交配種を交配させたF1雑種である。
 前述の2の(1)のとおり、MS1に導入されたbar遺伝子はS.hygroscopicusに、nptII遺伝子はE.coliに、barnase遺伝子はB.amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。
 同様に、RF2に導入されたbar遺伝子はS.hygroscopicusに、nptII遺伝子はE.coliに、barstar遺伝子はB.amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。

2) 挿入遺伝子

a 構造に関する資料

 MS1のゲノム中に組み込まれたpTTM8REの挿入DNAすなわちNPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(PNos/nptII/3'ocs)、PAT蛋白質産生に関与する遺伝子(PSsuAra/tp/bar/3'g7)及び雄性不稔発現に関与する遺伝子(PTA29/barnase/3'nos)にも、RF2のゲノム中に組み込まれたpTVE74REの挿入DNAすなわちNPTII蛋白質産生に関与する遺伝子(PNos/nptII/3'ocs)、PAT蛋白質産生に関与する遺伝子(PSsuAra/tp/bar/3'g7)及び稔性回復発現に関与する遺伝子(PTA29/barstar/3'nos)にも有害塩基配列は含まれていない。

b 性質に関する資料

 nptII遺伝子は、NPTII蛋白質を発現させ、カナマイシン等のアミノ配糖体系抗生物質を不活化させる。
 bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
 barnase遺伝子は、プロモーターの調節により花粉形成に係わるタペート細胞中で、一本鎖RNA分子を加水分解する酵素(リボヌクレアーゼ)を発現し、花粉の形成を妨げ、雄性不稔性を付与する。barstar遺伝子は、barnase遺伝子産物であるリボヌクレアーゼの阻害物質を発現し、稔性回復性を付与する。

c 純度に関する資料

 挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。

d 安定性に関する資料

 挿入遺伝子の遺伝的安定性と発現する蛋白質の発現安定性が解析され、MS1においては少なくとも4世代、RF2においては少なくとも3世代にわたる正常なメンデルの分離が確認されている。また、様々な環境における栽培においても、挿入遺伝子は安定して発現している。

e コピー数に関する資料

 挿入DNA断片は、1コピー挿入されている。

f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料

 barnase遺伝子、barstar遺伝子は、プロモーターの発現特異性により、種子においては発現しない。
 bar遺伝子によりコードされるPAT蛋白質は、種子において総蛋白質中0.002%の量がELISA法で検出された。

g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料

(1)遺伝子及び遺伝子産物の特性に関する資料
 前述のとおり、nptII遺伝子により発現するNPTII蛋白質は、カナマイシン等のアミノ配糖体系抗生物質をリン酸化して不活化する。このNPTII蛋白質は、加熱、人工胃液・腸液により速やかに分解される。

(2)遺伝子及び遺伝子産物の摂取に関する資料
 NPTII蛋白質により不活化されるアミノ配糖体系抗生物質カナマイシンは細菌性赤痢や腸炎ビブリオ等による食中毒に対し経口投与薬、静注薬として用いられるが、NPTII蛋白質はヒトの食用形態であるなたね油中より除去されていること及び摂取されても速やかに分解されることから、経口投与されたカナマイシンが不活化されることは考えにくい。

h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料

 外来のオープンリーディングフレームは、NPTII蛋白質、PAT蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質の発現に係わるもののみであり、このことはサザンブロット分析により確認されている。

(5)組換え体

a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料

 PHY23に導入された性質は、グルホシネートの影響を受けない点、カナマイシン耐性を付与された点及び雄性不稔性遺伝子(barnase遺伝子)と稔性回復遺伝子(barstar遺伝子)を利用したF1雑種であることにより雑種強勢の性質を獲得した点のみであり、その機序は前述1のとおりである。

b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料

(1)供与体の生物の食経験に関する資料
 S.hygroscopicusのヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌であり、また B.amyloliquefaciensはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。

(2)遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
 PAT蛋白質、NPTII蛋白質、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質のそれぞれについて、アレルギー誘発性を有するということは報告されていない。

(3)遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料

ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
 ウェスタンブロット分析及び酵素活性試験の結果から、NPTII蛋白質及びPAT蛋白質は人工胃液及び人工腸液により急速に分解されることが確認された。また、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質は人工胃液により分解されることが確認された。

イ 加熱処理に対する感受性
 PAT蛋白質、NPTII蛋白質、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質は加熱により酵素活性が消失することが加熱実験により確認された。

(4)遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
 なたね種子中のNPTII蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質の検出量は検出限界以下であった。PAT蛋白質は種子中の可抽出蛋白質中にELISA法で0.002%検出された。
 なたね油中の各蛋白質の検出量は全て検出限界以下であった。日本人のなたね油の一日平均摂取量を8gとすれば、なたね油中に検出限界値の蛋白質が存在すると仮定すると、日本人の一日一人当たりの予想摂取量はNPTII蛋白質及びPAT蛋白質が0.8ng、barnase蛋白質とbarstar蛋白質が8ngである。

(5)遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
 蛋白配列データバンク(Swiss Prot,PIR及びHIV)を用いた構造相同性検索と、アレルゲンエピトープ構造相同性検索を行った結果、挿入遺伝子産物であるNPTII蛋白質、PAT蛋白質、barnase蛋白質、barstar蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。

(6)遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
 日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)のうち、その45%が植物性であるが、上記(4)の予想摂取量と比較しても、総摂取蛋白量の有意な部分を遺伝子産物が占めるとは考えられない。

c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料

 PAT蛋白質、NPTII蛋白質、barstar蛋白質及びbarnase蛋白質は人工消化液を用いた実験で速やかに分解される他、加熱によっても不活性化されることが確認されている。また、データベースの検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。種子及び非可食部分(葉、茎等)を用いたウサギの飼育実験の結果、悪影響は認められていない。
 以上のことから、これら蛋白質が毒性影響を持つとは考えられない。

d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料

 NPTII蛋白質、PAT蛋白質、barstar蛋白質はそれぞれ基質特異性を持ち、その基質となり得る化合物または分子はなたね中には存在しない。また、barnase蛋白質は一本鎖RNA分子を非特異的に加水分解するが、プロモーターの制御により、発現は雄しべの生成開始時期におけるタペート細胞に限定される。

e 宿主との差異に関する資料

 前述の2の(3)のとおり、主要栄養成分(蛋白質、脂質、油分、炭水化物)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)の分析の結果、PHY23は既存のなたねと同等であった。
 なお、生育期にグルホシネートを散布したPHY23におけるグルホシネートの分析を行った結果、残留量は0.05ppm以下であり、厚生省が設定したなたねのグルホシネートについての残留基準値0.30ppmを下回った。

f 外界における生存・増殖能力に関する資料

 PHY23の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点とカナマイシン耐性を示す点を除いて、既存のなたねと同等であった。

g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料

 PHY23の生存・増殖能力は、親品種と同等であった。

h 組換え体の不活化法に関する資料

 PHY23は、物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたねを不活化する従来の方法によって不活化される。

i 諸外国における認可・食用等に関する資料

 米国においては、米国食品医薬品局(FDA)との間で行われていた、PHY23から作出されたなたね油の食品としての安全性に関する協議を1996年4月に終了した。また、カナダ厚生省の承認は1995年8月に、英国の農業水産食品省の承認は1995年9月にそれぞれ得られている。

j 作出・育種・栽培方法に関する資料

 PHY23と既存のなたねとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグルホシネートが使用できる点とF1雑種であることで雑種強勢の利点がある点のみであり、他の点では同等である。

k 種子の製法及び管理方法に関する資料

 PHY23の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。


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