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平成11年9月10日
生活衛生局食品保健課
I 報告について
1 概要
本日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、組換えDNA技術を応用して製造された7品種の食品について、別添のとおり、それぞれ「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下、「安全性評価指針」という。)に沿って安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行いました。
2 今回報告された食品及び食品添加物について
(1) 平成10年11月20日付厚生省発生衛第234号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品6品種、平成10年1月27日付厚生省発生衛第12号をもって諮問され、同日食調第7号をもって付議された食品3品種および食品添加物1品目、及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって諮問され、同日食調第87号をもって付議された食品2品種が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることを厚生大臣が確認することの可否について、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において審議された結果、本日付けで、それらのうち次の7品種の食品について、別添のとおりバイオテクノロジー特別部会の報告がありました。
ア | 対象品種 | なたね(WESTAR-Oxy-235) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社 | |
開発者 | RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ) |
イ | 対象品種 | わた(Bollgard with BXN Cotton) |
性質 | 害虫抵抗性及び除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Calgene Incorporated(米国) |
ウ | 対象品種 | てんさい(T120-7) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
エ | 対象品種 | とうもろこし(DLL25) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
オ | 対象品種 | とうもろこし(DBT418) |
性質 | 害虫抵抗性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
カ | 対象品種 | とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Monsanto Company(米国) |
キ | 対象品種 | なたね(PHY23) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
(2) また、次の食品3品種及び食品添加物1品目については、さらに検討が必要なことから、継続して審議されることとなりました。
ア | 対象品種 | 大豆(260-05系統) |
性質 | 高オレイン酸形質 | |
申請者 | デュポン株式会社 | |
開発者 | Optimum Quality Grains L.L.C.(米国) |
イ | 対象品種 | じゃがいも(ニューリーフ・プラス・ジャガイモ) |
性質 | 害虫抵抗性及びウイルス抵抗性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Monsanto Company(米国) |
ウ | 対象品種 | とうもろこし(CBH351) |
性質 | 害虫抵抗性及び除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
エ | 対象品目 | フィターゼ |
申請者 | ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社 | |
開発者 | Novo Nordisk A/S(デンマーク) |
(3) なお、次の食品1品種については、申請者の申し出に基づき、申請取り消しの手続きが必要となりました。
対象品種 | とうもろこし(TC676,TC678,TC680系統) |
性質 | 雄性不稔性 |
申請者 | パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社 |
開発者 | Pioneer Hi-Bred International,Inc.(米国) |
(4) これまでの審議経過は次のとおりです。
平成10年11月20日 | 食品衛生調査会に諮問、バイオテクノロジー特別部会に付議 |
12月1日 | バイオテクノロジー特別部会審議 |
12月8日 | 第1回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
平成11年 1月12日 | 第2回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
2月1日 | 第3回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
3月24日 | 第4回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
6月1日 | 第5回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
8月5日 | 第6回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 |
9月10日 | 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会開催 |
〃 | バイオテクノロジー特別部会報告 |
3 今後の予定
平成11年9月20日より毎週月水金に申請資料を社団法人日本食品衛生協会において公開します。
また、今回の部会報告に対しご意見がある方は、10月19日までに書面等にて食品保健課までおよせ下さい。
なお、今後さらに食品衛生調査会常任委員会での審議をふまえ、食品衛生調査会としての答申が行われる予定です。
II 次回申請等について
次回の「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」への適合に関する確認審査の申請受付は、平成11年10月29日までとします。
照会先:厚生省生活衛生局 松原 食品保健課長 担当者:木村、中村、根岸 (内線 2447、2453)
組換えDNA技術応用食品の一覧表(1)
ローヌ・プーラン油化アグロ社カノーラ (WESTAR-Oxy-235) |
モンサント社ワタ (Bollgard with BXN Cotton) |
アグレボ社てんさい (T120-7) |
|
申請者 | ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社 | 日本モンサント株式会社 | アグレボジャパン(株) |
開発者 | RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ) | Monsanto Company(米国) | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
新たに獲得された性質
挿入遺伝子 |
除草剤(オキシニル系)耐性
oxy遺伝子 |
害虫(オオタバコガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性
削除型cryIA(C)遺伝子 除草剤(ブロモキシニル)耐性
bxn遺伝子 |
除草剤(グルホシネート)耐性
pat遺伝子 |
選択マーカー 挿入遺伝子(供与体) |
抗生物質(カナマイシン等)耐性 nptII遺伝子(Escherichia coli由来) |
抗生物質(カナマイシン)耐性 nptII遺伝子(Escherichia coli由来) |
|
可食部分に発現する遺伝子産物と発現量 | 種子中に、oxyニトリラーゼ蛋白質 15ng/種子
油中にoxyニトリラーゼ蛋白質 |
綿実油中に、 削除型cryIA(C)蛋白質 検出限界以下 nitrilase蛋白質検出限界以下 NPTII蛋白質検出限界以下 |
精製糖中に、 PAT蛋白質検出限界以下(検出限界1.6ng/g) NPTII蛋白質検出限界以下 (検出限界0.35ng/g) |
諸外国での認可状況 | カナダ(1997年7月) | 米国(1998年1月) | 米国(1998年10月) |
組換えDNA技術応用食品の一覧表(2)
デカルブ社とうもろこし (DLL25) |
デカルブ社とうもろこし (DBT418) |
モンサント社とうもろこし (ラウンドアップレディー・トウモロコシ GA21系統) |
アグレボ社カノーラ (PHY23) |
||
申請者 | 日本モンサント株式会社 | 日本モンサント株式会社 | 日本モンサント株式会社 | アグレボジャパン(株) | |
開発者 | Dekalb Genetics Corporation(米国) | Dekalb Genetics Corporation(米国) | Monsanto Company(米国) | Plant Genetic Systems(ベルギー) | |
新たに獲得された性質 挿入遺伝子 |
除草剤(グルホシネート)耐性 bar遺伝子 |
害虫(アワノメイガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性 cryIA(C)遺伝子 除草剤(グルホシネート)耐性 bar遺伝子 pinII遺伝子 |
除草剤(グリホサート)耐性 mEPSPS遺伝子 |
除草剤(グルホシネート)耐性
bar遺伝子
|
|
選択マーカー 挿入遺伝子(供与体) |
抗生物質(カナマイシン)耐性 nptII遺伝子(Escherichia coli由来) |
||||
可食部分に発現する遺伝子産物と発現量 | PAT蛋白質 1.25±0.43ng/μg穀粒 |
cryIA(C)蛋白質43ng/g穀粒 PAT蛋白質6μg/g穀粒 pinII蛋白質及びbla蛋白質は、発現していない。 |
mEPSPS蛋白質 3.2μg/g(穀粒生組織重量) |
なたね油中に、PAT蛋白質検出限界以下(検出限界0.1ng/g) | |
諸外国での認可状況 | 米国(1996年3月) | 米国(1998年3月) | 米国(1998年2月) | カナダ(1995年8月) 英国(1995年9月) 米国(1996年4月) |
食 調 第 59 号
平成11年9月10日
食品衛生調査会 バイオテクノロジー特別部会 部会長 寺尾 允男 |
平成10年11月20日付厚生省発生衛第234号、平成10年1月27日付厚生省発生衛第12号及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって諮問された食品・食品添加物の安全性が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否については、組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会において審議してきたところである。
今般、分科会の検討結果を踏まえ、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において審議した結果を別記のとおり取りまとめたので報告する。
(別記)
1.審議経過
次の(1)から(3)に該当する食品・添加物の安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。)に適合していることの確認を行うことの可否について、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)において審議された。
部会においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、この分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。分科会は平成10年12月8日から平成11年8月5日の間に6回開催され、諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討を行った。
この分科会での検討結果を受け、平成11年9月10日に部会において審議をおこなった。
2.審議結果
(1) 次の食品7品種の審議内容の詳細については、別紙1〜7の報告書のとおりである。
ア | 対象品種 | なたね(WESTAR-Oxy-235) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | ローヌ・プーラン油化アグロ株式会社 | |
開発者 | RHONE-POULENC AGROCHIMIE(カナダ) |
イ | 対象品種 | わた(Bollgard with BXN Cotton) |
性質 | 害虫抵抗性及び除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Calgene Incorporated(米国) |
ウ | 対象品種 | てんさい(T120-7) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
エ | 対象品種 | とうもろこし(DLL25) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
オ | 対象品種 | とうもろこし(DBT418) |
性質 | 害虫抵抗性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Dekalb Genetics Corporation(米国) |
カ | 対象品種 | とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Monsanto Company(米国) |
キ | 対象品種 | なたね(PHY23) |
性質 | 除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
ア | 対象品種 | 大豆(260-05系統) |
性質 | 高オレイン酸形質 | |
申請者 | デュポン株式会社 | |
開発者 | Optimum Quality Grains L.L.C.(米国) |
イ | 対象品種 | じゃがいも(ニューリーフ・プラス・ジャガイモ) |
性質 | 害虫抵抗性及びウイルス抵抗性 | |
申請者 | 日本モンサント株式会社 | |
開発者 | Monsanto Company(米国) |
ウ | 対象品種 | とうもろこし(CBH351) |
性質 | 害虫抵抗性及び除草剤耐性 | |
申請者 | アグレボ ジャパン株式会社 | |
開発者 | Plant Genetic Systems(ベルギー) |
エ | 対象品目 | フィターゼ |
申請者 | ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社 | |
開発者 | Novo Nordisk A/S(デンマーク) |
(3) 次の食品1品種については、申請者の申し出に基づき、申請取り消しの手続きが必要とされた。
対象品種 | とうもろこし(TC676,TC678,TC680系統) |
性質 | 雄性不稔性 |
申請者 | パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社 |
開発者 | Pioneer Hi-Bred International,Inc.(米国) |
別紙1
カノーラWESTAR-Oxy-235
品種: | なたね(商品名:除草剤耐性カノーラWESTAR-Oxy-235) |
性質: | 除草剤(オキシニル系)耐性 |
申請者: | ローヌプーラン油化アグロ株式会社 |
開発者: | RHONE-POULENC AGROCHIMIE |
除草剤耐性カノーラWESTAR-Oxy-235(以下「 WESTAR-Oxy-235カノーラ」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。
1 申請された食品の概要
オキシニル系除草剤は、植物の光合成過程における電子の流れを遮断することにより植物の生育を阻害する。
WESTAR-Oxy-235カノーラは、オキシニル類を活性成分とする除草剤を加水分解するnitrilase蛋白質(ニトリル化合物を加水分解してアミド又はカルボン酸を生成させる酵素の総称)を発現するoxy遺伝子が導入されていることから、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育できる。
2 指針の適用の可否について
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、WESTAR-Oxy-235カノーラの安全性評価が指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、WESTAR-Oxy-235カノーラは、既存のカノーラと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主はなたねBrassica napus L.である。導入したoxy遺伝子は、土壌細菌Klebsiellapneumoniae subsp.ozaenaeに由来する。
oxy遺伝子が発現するnitrilase蛋白質の発現量は、種子1g中に15ngである。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ)の種子から得られたなたね(カノーラ)油は、食用油として多く消費されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
WESTAR-Oxy-235カノーラから得られたなたね(カノーラ)油は、主要構成成分(脂肪酸、トコフェロール、ステロール、不けん化物、アミノ酸組成)及び有害生理活性物質(グルコシノレート、エルカ酸)について、既存のなたね(カノーラ)と有意な差は認められていない。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
WESTAR-Oxy-235カノーラの食品としての使用方法は既存のなたね(カノーラ)と相違ない。なお、既存のなたね(カノーラ)との栽培上の相違は、オキシニル系除草剤の影響を受けずに生育することから、栽培期間中にオキシニル系除草剤が使用できる点のみである。
なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても、既存のなたね(カノーラ)と相違ない。
3 指針への適合性
WESTAR-Oxy-235カノーラの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請資料に関する以下の知見から、WESTAR-Oxy-235カノーラについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1) 組換え体の利用目的及び利用方法
WESTAR-Oxy-235カノーラには、オキシニル系除草剤を分解するnitrilase蛋白質を発現するoxy遺伝子が導入されているため、栽培期間中にオキシニル系除草剤が使用できる。
この点以外、その栽培方法、利用目的、方法は、従来のなたね(カノーラ)と変わらない。
(2) 宿主
なたね(カノーラ)の種子から得られたなたね(カノーラ)油は、食用油として多く消費されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なたね(カノーラ)のアレルギーは非常に稀である。有害生理活性物質(グルコシノレート、エルカ酸)の産生が知られている。
(3) ベクター
WESTAR-Oxy-235カノーラの作出には、合成プラスミドpRPA-BL-235が用いられている。
oxy遺伝子発現ユニットは、アグロバクテリウム法により当該カノーラに導入されている。
(4) 挿入遺伝子
1) 供与体
WESTAR-Oxy-235カノーラに導入されたoxy遺伝子は、前述2の(1)のとおり、土壌細菌Klebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
(5) 組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
別紙2
Bollgard with BXN Cotton
品 種: | わた(商品名:「Bollgard with BXN Cotton」) |
性 質: | 害虫(オオタバコガ等の鱗翅目昆虫)抵抗性、除草剤(ブロモキシニル)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Calgene Incorporated社 |
モンサント社わた(以下「Bollgard with BXN Cotton」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。
1 申請された食品の概要
わたは、米国では主にノースカロライナからカリフォルニアに広がる15の州で栽培され、およそ1300万エーカー(520万ha)を占める重要作物になっている。これらの地域では、オオタバコガ(cotton bolloworm,Heliocoverpa zea)等の鱗翅目の昆虫が主な害虫であり、栽培面積の約80%が被害を受けている。また、わたは雑草の影響を大きく受け、除草剤を使用しないわたの栽培は非常に困難な状況にある。
Bollgard with BXN Cottonは、特定の鱗翅目昆虫による食害に対する耐性を付与するcryIA(c)遺伝子内部配列(Bollgard with BXN Cotton 31807系統に導入されたcryIA(c)遺伝子内部配列は、Bacillus thuringiensis var. kurstaki HS-73株由来のCryIA(c)蛋白質から殺虫活性に不要なDNA領域を削除したトリプシン耐性CryIA(c)蛋白質領域をコードする。)及び除草剤ブロモキシニルの影響を受けない性質を付与するnitrilase蛋白質をコードするbxn遺伝子が導入されている。
2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、Bollgard with BXN Cottonの安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、Bollgard with BXN Cottonが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、Bollgard with BXN Cottonは、既存のわたと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主(遺伝子を導入する生細胞)はワタである。導入した遺伝子の供与体は、nitrilase蛋白質をコードするbxn遺伝子、トリプシン耐性CryIA(c)蛋白質をコードするcryIA(c)遺伝子内部配列、ネオマイシンフォスフォトランスフェラーゼII(NPTII蛋白質)をコードするnptII遺伝子(kanr遺伝子とも呼ぶ)である。nptII遺伝子は、E.coliのトランストランスポゾンTn5に由来し、植物にカナマイシン耐性を付与する。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
宿主(遺伝子を挿入する生細胞)は、Gossypium hirsutumに属する民間育成品種であるCoker130で、一般的に用いられているものである。わたは、繊維原料として実綿(綿毛のついた種子)から綿毛が、綿毛を分離した綿実(綿毛を分離した後の種子)から食用油及び油かすが生産される。このうち、ヒトが摂取するBollgard with BXN Cotton由来の食品は綿実油のみである。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
Bollgard with BXN Cotton系統の交配後代と、対象の交配親を比較するために種子中の主要構成成分(蛋白質、脂質、炭水化物、灰分、粗繊維、酸性デタージェントファイバー(ADF)、中性デタージェントファイバー(NDF)、水分及び熱量)、アミノ酸組成、脂肪酸組成、ゴッシポール量及びシクロプロペノイド脂肪酸量に関し、分析を行った結果、Bollgard with BXN Cottonと既存のわたとの間には生物学的に有意な差は認められなかった。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
Bollgard with BXN Cottonと従来のわたとの相違は、トリプシン耐性CryIA(c)蛋白質の発現により鱗翅目害虫の被害を受けずに生育でき、nitrilase蛋白質の発現によりブロモキシニルの影響を受けずに生育するのみである。以上の点を除けば、Bollgard with BXN Cottonの栽培方法は従来のわたと同じであり、食品としての利用方法についても全く変わりはない。
3 指針への適合性
Bollgard with BXN Cottonの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請資料に関する以下の知見から、Bollgard with BXN Cottonについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1) 組換え体の利用目的及び利用方法
Bollgard with BXN Cottonは、cryIA(c)遺伝子内部配列とbxn遺伝子が導入されているので、殺虫剤を散布せずに鱗翅目害虫を防除し、また収穫高を落とすことなくブロモキシニルを使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、方法は従来のわたと変わらない。
(2) 宿主
前述2の(2)のとおり、わたは主に綿実から生産される油を食用として利用しており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。わたは、有害生理活性物質であるゴッシポール、シクロプロペノイド脂肪酸が含まれているが、搾油工程で含有量は著しく減少する。わたのアレルギーは稀である。
(3) ベクター
Bollgard with BXN Cottonの作出に用いたプラスミドpCGN4084は、Agrobacterium tumefaciens由来の両境界型形質転換ベクターである。
pCGN4084にはbxn遺伝子、cryIA(c)遺伝子、nptII遺伝子およびこれらの発現を調節する遺伝子並びにgentr遺伝子が導入されているが、わたにはこれらのうち、gentr遺伝子は導入されなかったことをサザンブロット分析により確認している。
pCGN4084のサイズは21.5Kbpであり、その全ての遺伝子は特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まないことが確認されている。
(4) 挿入遺伝子
1) 供与体
Bollgard with BXN Cottonに導入された遺伝子の供与体は、それぞれcryIA(c)遺伝子内部配列が、Bacillus thuringiensis var. kurstaki HS-73株に由来し、bxn遺伝子がKlebsiella pneumoniae subsp. ozaenaeに由来し、nptII遺伝子がE.coliに由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
(5) 組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
I 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
別紙3
てんさいT120-7
品 種: | てんさい(商品名:リバティリンクてんさいT120-7) |
性 質: | 除草剤(グルホシネート)耐性 |
申請者: | アグレボジャパン株式会社 |
開発者: | Hoechst Schering AgrEvo GmbH |
除草剤耐性てんさいT120-7(以下「てんさいT120-7」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。
1 申請された食品の概要
てんさいT120-7は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっている酵素「glutamine synthetase(以下「GS」という。)」の活性を特異的に阻害するため、植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。しかし、てんさいT120-7には、PPTをアセチル化して不活性化させる酵素「phosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)」を発現するpat遺伝子(Streptomyces viridochromogenes由来)が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
また、てんさいT120-7には選択マーカー遺伝子として、抗生物質(カナマイシン等)耐性の性質を付与するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子(Escherichia coli(以下「E.coli」という。)由来)が導入されている。
2 指針の適用の可否について
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適応される。そこで、てんさいT120-7の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本てんさいが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、てんさいT120-7は、既存のてんさいと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主(遺伝子を導入する生細胞)はてんさいである。導入した遺伝子の供与体は、pat遺伝子がStreptomyces viridochromogenes Tu 494株(以下「S.viridochromogenes」という。)に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
てんさいは、その根部が砂糖の原料として幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。遺伝子供与体であるS.viridochromogenesについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
てんさいT120-7は、主要構成成分(水分、脂質、蛋白質、灰分、炭水化物、繊維、ミネラル)に関し、既存のてんさいと有意な差は認められていない。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
てんさいT120-7の食品としての使用方法は既存のてんさいと相違はない。なお、既存のてんさいとの相違は、前述1のとおり、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のてんさいと相違はない。
3 指針への適合性
てんさいT120-7の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。その結果、申請資料に関する以下の知見から、てんさいT120-7について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
前述1のとおり、てんさいT120-7には、PPTをアセチル化することでGSに対する阻害作用を消失させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のてんさいと変わらない。
(2) 宿主
前述の2の(2)のとおり、その栽培方法、利用目的、方法は、砂糖の原料として利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。有害生理活性物質の生産は知られていない。
(3) ベクター
てんさいT120-7の作出には、バイナリーベクターp0CA18/ACが用いられた。p0CAは、nptII遺伝子、pat遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子配列を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。p0CA18/ACの分子量は25.6kbpである。
p0CA18/ACに含まれるすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。p0CA18/ACの宿主としては、E.coliなどの細菌が知られているが、植物体ではこのプラスミドは伝達性をもたない。
p0CA18/ACのてんさい組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
(4)挿入遺伝子
1)供与体
てんさいT120-7に挿入された遺伝子の供与体は、前述のとおり、pat遺伝子がS.viridochromogenes、nptII遺伝子はE.coliである。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
別紙4
DLL25
品 種: | とうもろこし(商品名:「DLL25系統」) |
性 質: | 除草剤(グルホシネート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Dekalb Genetics Corporation |
とうもろこしDLL25系統について、開発者が行った安全性評価が「組換えDNA 技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の通りである。
1 申請された食品の概要
とうもろこしDLL25系統は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769 号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT 」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。
とうもろこしDLL25系統には、 PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「 PAT蛋白質」という。)を発現させる bar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布してもGSは阻害されず、植物は枯死せずに生育することができる。
なお、とうもろこしDLL25系統にはPAT蛋白質の発現に関連するもの以外の遺伝子は挿入されていない。
2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、とうもろこしDLL25系統の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、とうもろこしDLL25系統は、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
DLL25系統の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主はとうもろこし(デント種)であり、遺伝子供与体については、 bar遺伝子が土壌中のグラム陽性放線菌である Streptomyces hygroscopicusに由来する。
PAT蛋白質の発現量は穀粒総蛋白質 1μgあたり1.25±0.43ngであった。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なお、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は、植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素群の一つである。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
DLL25系統は、主要構成成分等(蛋白質、灰分、炭水化物、繊維質、水分等)に関し、既存のとうもろこしと同等である。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
DLL25系統の食品としての使用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの相違は、 PPTの影響を受けることなく生育することができることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。
(5) 指針適用の可否に関する結論
3 指針への適合性
とうもろこしDLL25系統の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請資料に関する以下の知見から、とうもろこしDLL25系統について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1) 組換え体の利用目的及び利用方法
DLL25系統には、PPTをアセチル化して不活化させる PAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のとうもろこしと変わらない。
(2) 宿主
とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範なヒトの食経験がある。アレルギー誘発性が数件報告されているが、有害生理活性物質の産生は知られていない。
(3) ベクター
DLL25系統の作出に用いられたpDPG165は、pUC19に由来する。pDPG165 に存在する全ての遺伝子はその機能が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。
pDPG165に伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域が、E. coliと数種のグラム陰性菌のみに限られている。なお、 pDPG165のとうもろこし組織への挿入には、パーティクルガン法が用いられている。
pDPG165はbar遺伝子及びこの発現を調整する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
なお、pDPG165には、E.coliにおいてアンピシリン耐性を付与するbla遺伝子が存在するが、この遺伝子はバクテリアプロモーターに制御されており、かつ、この遺伝子は切断されている。また、この遺伝子が植物体中では発現していないことが確認されている。
(4) 挿入遺伝子
1) 供与体
DLL25系統に導入されたbar遺伝子は、土壌中のグラム陽性放線菌であるS.hygroscopicus株に由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
5 組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6) 指針適合性に関する結論
指針に際し提出された資料に関する以上の知見からすると、DLL25系統については、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。
別紙5
DBT418
品 種: | とうもろこし(商品名:「DBT418系統」) |
性 質: | 害虫抵抗性、除草剤(グルホシネート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Dekalb Genetics Corporation |
とうもろこしDBT418系統について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次のとおりである。
1 申請された食品の概要
DBT418系統は、アワノメイガなど特定の鱗翅目害虫の食害を受けずに生育できるとともに、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769 号)」の影響を受けずに生育できる。
Bacillus thuringiensis subsp.kurstakiが産生する蛋白質(以下「b.t.k.蛋白質」という。)は、アワノメイガなど特定の鱗翅目の昆虫の消化管のみに存在する中腸上皮細胞の特異的受容体と結合して、陽イオン選択的小孔を形成する。その結果、消化プロセスが阻害され、その昆虫は死に至る。また、グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し,枯死する。
DBT418系統には B.thuringiensis subsp. kurstakiのcryIA(c)遺伝子が導入されているため、植物はアワノメイガなどの食害を受けずに生育することができる。また、選択マーカー遺伝子として、PPTをアセチル化して不活化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「 PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているため、グルホシネートを散布してもGSは阻害されず、植物は枯死せずに生育することができる。
なお、DBT418系統には、鱗翅目害虫であるススメガ幼虫(Manduca sexta)に対する抵抗性を付与し、また、セリンプロテアーゼインヒビターにより、様々な鱗翅目の害虫に対してcryIA(C)蛋白質の殺虫作用を高めるポテトpinII遺伝子が挿入されているが、不完全な形で挿入されており、発現していないことが確認されている。
2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、とうもろこしDBT418系統の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、とうもろこしDBT418系統は、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主はとうもろこし(デント種)であり、遺伝子供与体については、cryIA(c)遺伝子がB.thuringiensis subsp. kurstakiに由来し、bar遺伝子が土壌中のグラム陽性放線菌である Streptomyces hygroscopicusに由来し、pinII遺伝子がばれいしょ(Solanum tuberosum)に由来する。
CryIA(c)蛋白質及びPAT蛋白質の発現量は、穀粒総蛋白質 1gあたりそれぞれ 43ng、6μgであった。なお、PINII蛋白質は穀粒中では発現していない。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。なお、B.thuringiensis subsp.kurstakiについての食経験はないが、b.t.k.蛋白質については、b.t.k.蛋白質を基材とする生物農薬が長年日本を含む世界各国で安全に使用されてきた。また、S.hygroscopicusについても食経験はないが、bar遺伝子により産生されるPAT蛋白質は、植物、微生物及び動物に一般的に存在するアセチル化酵素の一つである。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
DBT418系統は、主要構成成分等(蛋白質、灰分、炭水化物、繊維質、水分等)に関し、既存のとうもろこしと同等であった。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
DBT418系統の食品としての使用方法は既存のとうもろこしと同等である。なお、既存のとうもろこしとの相違は、アワノメイガなど特定の鱗翅目害虫の食害を受けずに生育できる点と、 PPTの影響を受けることなく生育することができるため、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点である。
(5) 指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、DBT418系統については、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
とうもろこしDBT418系統の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請資料に関する以下の知見から、とうもろこしDBT418系統について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1) 組換え体の利用目的及び利用方法
DBT418系統には、 b.t.k.蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、植物はアワノメイガなどの食害を受けずに生育することができる。また、PPTをアセチル化して不活化させる PAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているため、GSが阻害されずに栽培期間中にグルホシネートが使用できる。この点以外、従来のとうもろこしと変わらない。
(2) 宿主
とうもろこし(デント種)は、食品としてコーン油や澱粉等に幅広く利用されており、広範なヒトの食経験がある。アレルギー誘発性が数件報告されているが、有害生理活性物質の産生は知られていない。
(3) ベクター
DBT418系統の作出に用いられたpDPG165はpUC19に由来し、pDPG320及びpDPG699はpBluescriptIISK(-)に由来する。pDPG165、pDPG320及びpDPG699に存在する全ての遺伝子はその機能が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。pDPG165、pDPG320及びpDPG699に伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域が、大腸菌と数種のグラム陰性菌のみに限られている。
なお、 pDPG165、pDPG320及びpDPG699のとうもろこし組織への挿入には、パーティクルガン法が用いられている。
pDPG165、pDPG320及びpDPG699には、それぞれbar遺伝子、pinII遺伝子、cryIA(c)遺伝子とその発現を調整する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。なお、pDPG165、pDPG320及びpDPG699には、大腸菌内においてアンピシリン耐性を付与するbla遺伝子が存在するが、この遺伝子はバクテリアプロモータに制御されていることから、植物体中では発現しないことが確認されている。また、pinII遺伝子も植物体中で発現していないことが確認されている。
(4) 挿入遺伝子
1) 供与体
DBT418系統に導入されたcryIA(c)遺伝子は、B.thuringiensis subsp.kurstaki 73-HD株に由来し、bar遺伝子は、土壌中のグラム陽性放線菌であるStreptomyces hygroscopicus株に由来し、pinII遺伝子は、ばれいしょ(Solanum tuberosum)に由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
5 組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
(6) 指針適合性に関する結論
指針に際し提出された資料に関する以上の知見からすると、DBT418系統については、指針に沿って安全性評価が行われていると判断できる。
別紙6
GA21
品 種: | とうもろこし(商品名:「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統」) |
性 質: | 除草剤(グリホサート)耐性 |
申請者: | 日本モンサント株式会社 |
開発者: | Monsanto Company |
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統(以下「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ」という。)について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の1から3のとおりである。
また、当該とうもろこしの挿入遺伝子のコピー数に関する資料に変更があったことについて、申請者から追加の資料が提出されており、その内容について検討した結果は次の4のとおりである。
1 申請された食品の概要
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国Chemical Abstract Service(CAS) 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、EPSPS蛋白質の活性を阻害する。その結果、ほとんどの植物は生育に必要なアミノ酸を合成できずに枯死する。しかし、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子を部分的に改変したmEPSPS遺伝子が挿入されており、このmEPSPS遺伝子はグリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現するので、グリホサートが散布されても枯死せずに生育することができる。
なお、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、mEPSPS蛋白質の発現に関連するもの以外の遺伝子は挿入されていない。
2 申請された食品が指針の適用範囲内であるか否かについて
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適用される。そこで、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本とうもろこしが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、既存のとうもろこしと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1)遺伝的素材に関する資料
宿主(遺伝子を導入する生細胞)はとうもろこし(デント種)である。
導入したmEPSPS遺伝子は、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。
mEPSPS蛋白質の発現量は、生組織重量1gあたり葉で118.7μg、穀粒では3.2μgである。
(2)広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
とうもろこし(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。
(3)食品の構成成分等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のとうもろこしと有意な差は認められていない。
(4)既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの食品としての使用方法は既存のとうもろこしと相違ない。なお、既存のとうもろこしとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。
なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のとうもろこしと相違ない。
3 指針への適合性
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請資料に関する以下の知見から、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシについて開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、グリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、栽培期間中にグリホサートが使用できる。この点以外、その栽培方法、利用目的、利用方法は従来のとうもろこしと変わらない。
(2)宿主
前述の2の(2)のとおり、とうもろこし(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。とうもろこしのアレルギーは非常に希であるほか、有害生理活性物質の産生は知られていない。
(3)ベクター
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの作出に用いられたプラスミドpDPG434は、大腸菌プラスミドpBluescript SK(-)の複製開始領域、pBluescript SK(-)のbla遺伝子を含む断片、大腸菌プラスミドpUC19に由来するlacZ遺伝子の一部からなるベクター領域に、mEPSPS遺伝子発現ユニットを連結したものであり、そのサイズは6,128bpである。
とうもろこし細胞中にはmEPSPS遺伝子発現ユニットのみが導入されている。すなわち、pDPG434からmEPSPS遺伝子発現ユニットを切ってとうもろこし細胞へパーティクルガン法で導入された。pDPG434のベクター領域は、遺伝子をとうもろこし細胞に導入する際に除去されており、このことはサザンブロット分析によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1)供与体
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入されたmEPSPS遺伝子の供与体は、とうもろこしである。
mEPSPS遺伝子は、とうもろこしに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。
2)挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
(5)組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
4 挿入遺伝子のコピー数について
平成10年10月に挿入遺伝子のコピー数について追加提出された資料について、検討を行った。
当初、挿入遺伝子は2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニットとNOS3'端末を欠くmEPSPS遺伝子配列が1カ所に挿入されているとされていたが、その後の詳細な調査により、前述の3の(4)の2)のaのとおり、削除型r-actプロモーターをもつ1コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、約3コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット、1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット及びイントロンを持たないr-actプロモーター断片が連結したものが1カ所に挿入されていることが確認された。
GA21とうもろこしはパーティクルガン法によりDNAを挿入しているので、複数コピーの遺伝子の挿入は当然おこりうる現象である。
一般に、挿入遺伝子のコピー数については、例えば、染色体の別々の位置に複数コピー挿入されている場合と、一カ所にタンデムにつながって挿入されている場合とでは、挿入遺伝子の分離比の問題等が違ってくるが、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの場合は後者に該当するので、分離比は1コピー入っている場合と同じである。また、挿入遺伝子が発現する蛋白質の量については、mEPSPS遺伝子を挿入したとうもろこしについて蛋白質の発現量を分析しているので、挿入遺伝子のコピー数に関する資料の修正が、安全性評価に必要となるその他のデータ(例えば栄養成分に関するデータ、発現する蛋白質の量や性質など)に直接影響するものではない。
別紙7
PHY23
品 種: | なたね(商品名:PHY23) |
性 質: | 除草剤(グルホシネート)耐性 |
申請者: | アグレボジャパン株式会社 |
開発者: | Plant Genetic Systems |
PHY23について開発者が行った安全性評価が、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合しているか否かについて検討した。その結果は次の1から3のとおりである。
1 申請された食品の概要
PHY23は、除草剤「グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)」の影響を受けずに生育できる性質が付与されている。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっている酵素「glutamine synthetase(以下「GS」という。)」の活性を特異的に阻害するため、植物は組織中にアンモニアが蓄積し、枯死する。しかし、PHY23には、PPTをアセチル化して不活化させる酵素「phosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)」を発現するbar遺伝子(Streptomyces hygroscopicus由来)が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
このため、除草剤は雑草の発芽後に最少量撒けばよいので、使用量・回数の削減ひいては環境の保全に資する。
PHY23は、雄性不稔遺伝子(花粉を作らせなくする性質をもつ。以下「barnase遺伝子」という。)とbar遺伝子とnptII遺伝子を導入したなたね(以下「MS1」という。)と既存の品種との交配種に、稔性回復遺伝子(雄性不稔性を回復させる性質を持つ。以下「barstar遺伝子」という。)とbar遺伝子とnptII遺伝子を導入したなたね(以下「RF2」という。)と既存の品種との交配種を交配させたハイブリッド種(F1雑種)である。なたねは自家受粉を主とする作物なので、雄性不稔、稔性回復の2つの性質を利用して、ハイブリッド種の簡便な作出を可能にした。
ハイブリッド種は、雑種強勢により、収量、均一性、環境に対する適応力に優れる。
また、PHY23には選択マーカー遺伝子として、抗生物質(カナマイシン等)耐性の性質を付与するNPTII蛋白質を発現させるnptII遺伝子(Escherichia coli(以下「E.coli」という。)由来)が導入されている。
なお、barnase遺伝子とbarstar遺伝子は、プロモーターの発現特異性により、可食部では発現しない。
2 指針の適用の可否について
指針は、既存のものと同等とみなし得る生産物を、食品・食品添加物として利用する場合に適応される。そこで、PHY23の安全性評価が指針に適合しているか否かについて検討する前に、まず、本なたねが指針の適用範囲内であるか否かについて、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
その結果、申請に際して提出された資料に関する以下の知見からすると、PHY23は、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断した。
(1) 遺伝的素材に関する資料
宿主(遺伝子を導入する生細胞)はなたね(カノーラ種)であり、他の遺伝子供与体は、bar遺伝子がStreptomyces hygroscopicus(以下「S.hygroscopicus」という。)に由来し、nptII遺伝子はE.coliに由来する。また、barstar遺伝子とbarnase遺伝子は、Bacillus amyloliquefaciens(以下「B.amyloliquefaciens」という。)に由来する。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲のヒトにおいて安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。E.coliはヒトの腸管内に存在する一般的な細菌である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
PHY23は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、炭水化物)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)に関し、既存のなたねと有意な差は認められていない。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
PHY23の食品としての使用方法は既存のなたねと相違はない。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及びハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある点である。なお、収穫時期、貯蔵方法、摂取部位、摂取量、調理加工方法においても既存のなたねと相違はない。
3 指針への適合性
PHY23の指針への適合性について、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。その結果、申請資料に関する以下の知見から、PHY23について開発者が行った安全性評価は、指針に適合していると判断できる。
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
PHY23には、PPTをアセチル化してGS不活化させるPAT蛋白質を発現する遺伝子が導入されているので、GSが阻害されずに、栽培期間中にグルホシネートが使用できる。さらに、ハイブリッド種であることから雑種強勢の利点がある。
この点以外、従来のなたねと変わらない。
(2) 宿主
前述の2の(2)のとおり、なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトにおいて安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。
(3) ベクター
PHY23の作出には、プラスミドpGV825に由来するpTTM8RE及びpTVE74REが用いられた。
pTTM8REはnptII遺伝子、bar遺伝子、barnase遺伝子及びこれらの発現を調節する配列を、pTVE74REはnptII遺伝子、bar遺伝子、barstar遺伝子とこれらの発現を調節する配列をそれぞれ含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。pTTM8REの分子量は8.2kbp、pTVE74REの分子量は8.1kbpである。
pTTM8RE及びpTVE74REに含まれるすべての遺伝子は、その機能が明らかになっており、既知の有害塩基配列を含まない。pTTM8RE及びpTVE74REに伝達性はなく、自律増殖可能な宿主域がE.coliと数種のグラム陰性菌のみに限られている。
pTTM8RE及びpTVE74REのなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
(4)挿入遺伝子
1)供与体
PHY23は、MS1と既存の品種との交配種に、RF2と既存の品種との交配種を交配させたF1雑種である。
前述の2の(1)のとおり、MS1に導入されたbar遺伝子はS.hygroscopicusに、nptII遺伝子はE.coliに、barnase遺伝子はB.amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。
同様に、RF2に導入されたbar遺伝子はS.hygroscopicusに、nptII遺伝子はE.coliに、barstar遺伝子はB.amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
b 性質に関する資料
c 純度に関する資料
d 安定性に関する資料
e コピー数に関する資料
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
e 宿主との差異に関する資料
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
h 組換え体の不活化法に関する資料
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
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