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平成11年7月23日

第7回厚生科学審議会先端医療技術評価部会
・生殖補助医療技術に関する専門委員会の概要


○ 本日午後1時30分から午後5時00分まで、第7回厚生科学審議会先端医療技術評価部会・生殖補助医療技術に関する専門委員会が開催された。

○ まず、精子、卵子、受精卵の提供について、事務局が各委員の意見や前回の議論を踏まえて作成した議論のたたき台(資料1)をもとに議論を行った。

○ 次に、多胎・減数手術について、事務局が前回の議論を踏まえて修正した議論のたたき台(資料2)をもとに議論を行った。

○ 最後に、次回専門委員会は、有識者からのヒアリングを行うこととし、公開により開催することとした(8月下旬から9月中で日程調整)。

○ なお、本日の議事1の「精子、卵子、受精卵の提供について」において、AIDの実施の際には、HIVの感染等の予防策に万全を期すべきであるとの意見が出されたことから、厚生省としては、通知を発出し、AIDの実施の際のHIV感染等の予防を図る予定。


照会先:厚生省児童家庭局母子保健課
北島(内3173) 武田(内3179)
(代表)[現在ご利用いただけません]
(直通)03-3595-2544


(資料1)

(注)本稿は7月23日の厚生科学審議会先端医療技術評価部会・生殖補助医療技術に関する専門委員会において議論されたものである。同委員会においては来年10月を目途に最終的な意見をとりまとめる予定であり、本稿は今後の議論で変更される可能性がある。

多胎・減数手術について(未定稿)

1 生殖補助医療による多胎について

○ 生殖補助医療技術による多胎は、排卵誘発法(排卵誘発剤の使用)を原因とするものと、体外受精を原因とするものがある。排卵誘発法による多胎は、排卵障害による不妊症の治療として、卵胞の成熟・排卵を促すホルモン(ゴナドトロビン等)を投与することにより、多数の卵胞が同時に成熟・排卵し、複数組の精子と卵子が受精することによって生じる。一方、体外受精による多胎は、妊娠率を高めることを目的として、複数個の受精卵を子宮に移植することにより、それらが複数個着床することによって生じる。

○ 平成8年度厚生省心身障害研究「不妊治療のあり方に関する研究」(矢内原巧)によると、三胎については、体外受精を原因とするものが46.7%、排卵誘発法を原因とするものが43.2%、自然が8.5%、四胎については、体外受精を原因とするものが52.9%、排卵誘発法を原因とするものが41.2%、自然が3.9%、五胎については、体外受精を原因とするものが33.3%、排卵誘発法を原因とするものが66.7%、自然が0%となっている。

○ 多胎妊娠は近年、増加傾向にあり、平成8年度厚生省心身障害研究「多胎妊娠の疫学」(今泉洋子)によると、平成7年の多胎児の出産率を昭和43年と比較すると、双子は1.3倍、三つ子は4.7倍、四つ子は26.3倍と上昇している。これは、生殖補助医療技術の普及によることが大きいと思われる。

2 多胎妊娠の危険性

○ 多胎妊娠については、平成7年の日本産科婦人科学会周産期委員会報告によれば、胎児数が増加するにしたがって、出生体重が減少しており、双胎は2,153±703g、三胎は1,673±485g、四胎は1,203±359g、五胎は993±249g(平均±標準偏差)となっている。一方、流産率は胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は1.7%、三胎は2.4%、四胎は15.0%、五胎は15.0%となっており、四胎以上が特に高くなっている。

○ 22週以降の周産期死亡率(対出産1,000)は、胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は75.0、三胎は75.3、四胎は102.9、五胎は125.0となっている。後遺症害については、出生1年以上経過したものをみると、双子は4.7%、三つ子は3.6%、四つ子は10.2%、五つ子は30.8%となっており、特に四つ子以上が大きくなっている。後遺障害の内訳としては、脳性麻痺、精神発育障害、未熟児網膜症が多くなっている。

○ また、母体の合併症のり患率については、胎児数が増加するにしたがって上昇し、双胎は78.1%、三胎は84.1%、四胎は95.0%、5胎は100.0%となっている。

○ このように四胎以上の多胎妊娠については、母の合併症が増加し、児の予後が不良であるといえる。

3 減数手術

○ 減数手術は、多胎による妊娠・出産のリスクを回避するためや多胎児を育てることに対する負担の回避等を目的としてはじめられたものであって、多胎妊娠に際して、一部の胎児を子宮内において死滅させる手術のことである。一般的には、胎児の心臓に塩化カリウムを注入することなどによって行われる。

○ 減数手術の実施状況については、前出の「不妊治療のあり方に関する研究」の調査によれば、アンケート調査結果を得た195施設中、減数手術は87例行われている。実施施設数は15施設となっており、その多くは診療所である。

○ 減数手術は、母体内において胎児を死滅させる手術であるが、母体保護法の人工妊娠中絶の定義規定は、「人工妊娠中絶手術とは、胎児が、母体外において、生命を保続することのできない時期に、人工的に、胎児及びその附属物を母体外に排出することをいう」と定めていることから、母体保護法の定める術式に合致しない手術であるとの指摘がされている。

○ 減数される胎児の選び方について、障害の有無や男女により選別する例が諸外国でみられたことから倫理的な面での議論がなされるようになっている。

4 多胎・減数手術に対するこれまでの対応

○ 多胎・減数手術に対するこれまでの関係学会等の対応については、日本母性保護産婦人科医会は、平成5年、減数手術については、優生保護法(現母体保護法)上の人工妊娠中絶手術に該当せず、堕胎罪の適用を受ける可能性があるとの見解を公表している。

○ 日本産科婦人科学会は、平成8年2月に「多胎妊娠」に関する見解を公表し、生殖補助医療技術による多胎妊娠については、その防止を図ることでこの問題を根元から解決することを志向すべきとし、体外受精・胚移植においては移植胚数を原則として3個以内とし、また、排卵誘発に際してはゴナドトロピン製剤の周期あたりの使用量を可能な限り減量することを求めている。

5 生殖補助医療技術による多胎減数手術に関する基本的考え方

○ 胎児は人ではないが人の萌芽であり、その生命は尊重されなければならないことは言うまでもない。刑法の堕胎罪、母体保護法も胎児の生命の保護をその保護法益の一つとしている。

○ 生殖補助医療技術による多胎はある程度、防止することが可能である。 体外受精による多胎は、通常、子宮に移植する受精卵の数以上にはならず、3個以上の胚移植については、移植する受精卵の数を増やしても妊娠率はそれほど上がらないことが分かっている。また、受精卵をタイミングよく子宮に移植することにより、受精卵2個の移植でも相当の妊娠率が得られるという指摘もある。

○ 排卵誘発法による多胎についても、ゴナドトロピン製剤の使用法や周期あたりの使用量を可能な限り減量するなどの単一排卵率が高い排卵誘発法が開発されている。

○ こうしたことを踏まえると、生殖補助医療技術による多胎妊娠への対応は、多胎妊娠の防止により行われるべきであって、こうした防止の努力なくして多胎になった場合に減数手術により胎児の数を調整することは、胎児の生命の軽視といえ、認められるべきではない。

○ しかしながら、以下に述べるような多胎防止の措置を十分講じたとしても、現在の技術では、多胎を完全に防止することはできない。4胎以上の多胎妊娠は母の合併症が増加し、児の予後が不良であることを踏まえると、減数手術が許容される場合があると考えられる。

6 対応の方向性

(1)体外受精において対応すべきこと

○ 体外受精による多胎妊娠は、子宮に移植する受精卵の数を調整することにより、確実に調整することができる。前で述べたとおり、(1)四胎以上の多胎妊娠は母の合併症が増加し、児の予後が極めて不良であること、(2)3個以上の受精卵の移植による妊娠率はそれほど移植数により変わらないこと、(3)移植胚数は2個でも相当の妊娠率が得られることを踏まえると、体外受精の際、子宮に移植する受精卵の数は、原則として、2個、受精卵や子宮の状況によっては3個以内に制限することが適当である。

○ 体外受精を行うに際しては、受精卵を複数個移植することによる多胎妊娠の危険について、患者に十分に説明するとともに、十分な情報提供と相談を行い、患者の許容しうる胎児数について把握する必要がある。その結果、患者が双子の出産を許容せず、あくまで単体出産を望む場合には、移植する受精卵の数を1個とする、一方、三胎出産する確実な意志があって医学的にも三胎出産に耐えうると考えられる場合には、移植する受精卵の数を3個とするといった調整をリプロダクティブヘルス/ライツの観点を踏まえ、行う必要がある。

(2)排卵誘発法において対応すべきこと

○ 排卵誘発法については、多胎妊娠の危険があるばかりではなく、卵巣過剰刺激症候群を引き起こす可能性もあり、十分な技術を持った医師が慎重に実施する必要がある。

○ 排卵誘発法を行うに際しては、排卵誘発法による多胎妊娠の危険について、患者に十分に説明するとともに、十分な情報提供と相談を行い、患者が多胎妊娠を許容しない場合には、リプロダクティブヘルス/ライツの観点も踏まえ、それを使用すべきではない。

○ 排卵誘発法については、いまだ完全な多胎防止策が確立されていないことから、この分野の研究を行政、関係学会等が積極的に推進する必要がある。また、単一排卵誘発法の普及を図る必要がある。

(3)減数手術について

○ 減数手術については、母体保護法の人工妊娠中絶の定義規定に該当する術式ではないとの指摘があるが、減数手術は確かに母体内において胎児を死滅させるものであり、分娩と同時に母体外に排出されるといっても、それは人工的に排出されるとはいえず、また、優生保護法制定時に減数手術のような手術が想定されていないことを考えると、その指摘は適当であると考える。

○ 減数手術については、前述したとおり、原則としては、行われるべきではないため、母体保護法の改正により、人工妊娠中絶の規定を改める必要はないのではないか。なお、規定の解釈や見直しを含めて検討すべきとの意見もある。
○ しかしながら、多胎妊娠の予防措置を講じたのにも関わらず、やむを得ず多胎(四胎以上、やむを得ない場合によっては三胎以上)となった場合には、母子の生命健康の保護の観点から、実施されるものについては、認められうるものと考える。

○ 減数手術の適応と内容については母子の生命保護の観点から個別に慎重に判断すべきものと考える。

○ 減数に当たって障害の有無や男女等により選別を行うことは、倫理的な観点から、行われるべきではない。

○ 減数手術についても、塩化カリウムの投与を誤って母体に行う可能性があるなど危険を伴うものであることから、十分な技術を持った医師により行われる必要がある。

○ また、減数手術については、全部の胎児が失われる可能性があるなどの説明を十分行い、同意を得る必要がある。

7 行政、関係学会が行うべきこと

○ 以上述べたように、生殖補助医療技術による多胎妊娠の防止対策が、適切に実施され、減数手術の実施条件が厳格に守られるためには、行政又は学会において、これをルール化することが必要である。

○ 行政又は関係学会が、このような実施体制が整備されている医療施設を認定し、登録させ、これらの実施を登録医療施設に制限し、報告させるなど、これらのルールが適切に守られる体制を構築する必要がある。


(資料2)

精子、卵子、受精卵の提供について(たたき台)


I 実施条件等について

 各技術の是非については、IIで検討することとする。ここでは、各技術が是認された場合に考えられる実施条件について検討することとする。

1 対象者について

(1)対象者についての基本的な考え方

○ 妊娠は基本的には自然になされるべきではないか。生殖補助医療技術を用いるのは妊娠が自然になされることが不可能な場合に限るべきではないか。

○ また、親子関係は遺伝的な関係があることが基本ではないか。遺伝的な関係があることにより親子の顔かたち、体型、性格等が似ることが、親子の愛情の基本となるものと考えられるのではないか。このため、第三者から配偶子の提供については、いかなる方法によっても配偶子が得られず、かつ、自分とは遺伝的な関係がない子供であっても愛情と責任を持って養育できると思われる者に対して実施することに限るべきではないか。

○ アメリカ等では未婚の女性が精子提供を受け人工授精によって子供を設ける例があるが、子供の養育上、子供には両親がいることが望ましいのではないか。また、子供の法的地位は両親が法的な婚姻関係にあることを基本としており、婚姻制度については尊重する必要があるのではないか。

(2)国民の意識の動向

○ 厚生科学特別研究「生殖補助医療技術についての意識調査」(平成11年)における一般国民を対象とした調査では、夫以外の第三者が妊娠や出産に関わる技術について、患者がどのような場合に実施されるべきかとの問には、「効果的な方法がない者に限定すべき」と答えた者がもっとも多く43.9%であり、「希望すれば誰にでも実施してよい」は5.2%となっている。

○ また、同調査では、対象者として誰が適当かとの問には、「婚姻届を提出した夫婦」と答えた者が64.3%ともっとも多く、「自然に妊娠する可能性のない高齢者夫婦」は27.5%、「婚姻届は提出していないが事実上夫婦関係にあるカップル」は8.4%、「独身者」は3.5%となっている。

(3)各技術の対象者

○ 以上を踏まえると、各技術の対象者としては、

[AID]
・ 女性側に特に問題がなく、男性側に精巣機能が高度な障害を有しているなど精子を得ることができない問題がある場合、

[第三者の精子を用いた体外受精]
・ 男性側に精巣機能が高度な障害を有しているなど精子を得ることができない問題があり、かつ、女性側にも卵管閉塞などの問題がある場合、

[第三者の卵子を用いた体外受精]
・ 女性側に卵巣機能が廃絶しているなど卵子を得ることができない問題がある場合、

[第三者の受精卵を用いた胚移植]
・ 男性側に精巣機能が高度な障害を有しているなど精子を得ることができない問題があり、かつ、女性側も卵巣機能が廃絶しているなど卵子を得ることができない問題がある場合

であって、夫婦間の人工授精、体外受精等では妊娠・出産することができないことが確認された者とすることが適当ではないか。

○ また、対象者は法律的に結婚していることを条件とすべきではないか。一方で、不妊症ではなく、結婚したくはないが子供を産みたい女性については、父のない子どもを生み出すこと等の出生児への影響を考えると認めるべきでないのではないか。

○ さらに、対象者については、出生児を愛情と責任を持って養育できる者であるかどうか判断する必要があるのではないか。また、第三者の配偶子提供については、十分なインフォームドコンセントが必要であり、被提供者が配偶子提供による妊娠・出産を同意した場合には、その者と出生児には親子関係があることを明確化し、その者が出生児の養育を容易に放棄できないような制度的な仕組みを整える必要があるのではないか。

○ これらの技術を用いて妊娠・出産する女性については、妊娠・出産にかかる事故を防ぐためにも、生殖年齢を著しく超えた者については対象とすべきではないのではないか。

2 実施方法について

(1)性感染症の予防

○ 第三者から配偶子の提供を受けることに伴い、HIV等の性感染症に被提供者は感染する可能性があるため、以下の防止策を講じる必要があるのではないか。

[AID]
・ AIDを行う場合には、HIV等の感染を予防するため、医療機関において、精子提供者へのHIV等の検査についての十分なインフォームドコンセントとカウンセリングをした上で、次のことを実施する必要がある。
・ 精子提供を受ける前に精子提供者のHIVの抗体検査を実施し、陰性であることを確認する。
・ 提供された精子については、6か月間凍結保存し、再度、当該精子提供者のHIVの抗体検査を実施し、陰性であった場合に限り、当該精子を人工授精に用いる。
・ その他、人工授精に伴う感染症を予防するために必要な検査等を行う。

[第三者の精子を用いた体外受精]
・ 第三者の精子を用いた体外受精についても、AIDと同様の措置を講じる必要がある。

[第三者の卵子を用いた体外受精]

[第三者の受精卵を用いた胚移植]
・ AID及び第三者の卵子を用いた体外受精で述べた方法により得られた精子及び卵子を用いて行われる必要がある。

(2)提供者

○ アメリカ等においては、配偶子の被提供者が、提供者を選ぶことができる場合があるが、提供者を選択可能にすることは、商業主義に陥りやすく、出生児の特質等を選択することにつながり倫理的に問題があるため行われるべきではなく、提供者については匿名とすべきではないか。

○ ただし、出生児は被提供者の子として育てられることから、容易に被提供者の遺伝的な子ではないことを分からないようにするため、提供者の血液型は被提供者の血液型とあわせておく必要があるのではないか。

○ 近親者からの提供については、提供者と出生児との間で親子の情が生じるなど親子関係に問題が生じる可能性がある。しかしながら、この場合、被提供者にとっては、出生児と血のつながりがあるため提供を希望するのであり、その考えは理解できるのではないか。近親者からの提供を認める場合には、提供者、被提供者に関する十分なインフォームドコンセントやカウンセリングを実施するとともに、提供者と出生児は親子関係がないことを法的に明確にする必要があるのではないか。

○ 提供者については、前述した性感染症等の検査のほか、遺伝性疾患の検査や健康診断を実施する必要があるか。

○ なお、厚生科学特別研究「生殖補助医療技術についての意識調査」(平成11年)における一般国民を対象とした調査においては、夫以外の第三者が妊娠や出産に関わる技術について、被提供者が提供者をどのくらい知っているべきかとの問には、「ある程度知っているべき」と答えた者がもっとも多く26.9%であり、「まったく知らないでいるべき」は21.8%、「よく知っているべき」は20.6%となっている。

○ また、同調査では、被提供者と提供者との関係はどうあるべきかとの問には、「血縁関係であるかどうかにとらわれるべきではない」と答えた者が26.4%ともっとも多く、「血縁関係であってはならない」は20.2%、「血縁関係である場合に限定すべき」は7.8%となっている。

(3)配偶子の提供数

○ 1人の配偶子提供者が配偶子を提供する回数が多い場合には、同一の配偶子提供者を遺伝的父母とする子が多数出生し、それらが婚姻する可能性がある(近親婚の危険)。このため、1人の提供者の配偶子によって出生する子の数を5人までに制限するとともに、提供者や被提供者、出生児の情報を特定の機関が保管し、出生児が結婚する際、必要に応じて、当該出生児に情報提供することとすべきではないか。(諸外国の状況も考慮することが必要か。)

3 実施機関について

○ 第三者の配偶子提供については、個人情報の保存と保護、社会的信用の向上、カウンセリング体制を含む一定水準以上の生殖補助医療の提供を図る必要があるのではないか。

○ また、技術の十分でない医療機関やルールを遵守しない医療機関によって実施された場合、多胎妊娠、性感染症等の健康被害、出生児の法的な地位が不安定になる等の法的な紛争などを提供者、被提供者、出生児等に生じさせる可能性があるのではないか。

○ このため、適切に実施することが可能な医療機関を学会等が認定・登録し、これらの技術の実施をこれらの医療機関に限定する等の措置を講じる必要があるのではないか。

4 商業主義について

○ 優秀な提供者の配偶子を高額であっせんするケースが米国等ではみられるが、こうした提供者を選択可能な配偶子の売買は、配偶子は人ではないとはいえ人身売買的であり、また、被提供者による出生児の特質等の選択につながることから倫理的に問題があり、許されるべきではないのではないか。

○ 一方、配偶子の提供者に実費程度を支払わなければ、提供者が集まらないとの指摘があり、適正な費用の設定について検討する必要があるのではないか。

5 遺伝的な親を知る権利について

○ 出生児が成長過程で遺伝的な父母を知りたいと考える可能性がある。一方、配偶子の提供者は、被提供者や出生児に個人情報を知られたくない場合が多いと考えられる。

○ 厚生科学特別研究「生殖補助医療技術についての意識調査」(平成11年)における一般国民を対象とした調査においては、夫以外の第三者が妊娠や出産に関わる技術について、出生児が提供者を知る権利についてどうすべきかとの問には、「知らないでいるべき」と答えた者がもっとも多く33.2%である一方、「いつでも知る権利がある」は15.1%、「成人になったら知る権利がある」は11.6%、「婚姻年齢になったら知る権利がある」が9.7%となっており、いずれかの時点で知る権利があるとした者が36.4%となっている。

○ また、同調査では、提供者(第三者)と出生児はどのような関係にあるべきかとの問には、「第三者は子供と一切関係を持つべきでない」と答えた者が57.2%ともっとも多く、「第三者は子供について知る権利がある」は9.3%、「第三者は子供の親としての権利を持つ」は1.0%となっている。

○ 出生児の遺伝的な親を知る権利については、前で述べた近親婚の防止のためにも、婚姻する際には、本人の希望により、本人のみに対し認めてはどうか。このためには、配偶子の提供者の情報については、特定の機関が保管する必要があるのではないか。

○ 一方で、それによって、提供者に対し出生児の養育の義務が生じたり、出生児に相続の権利が生じたりすることがないよう法制的措置を講じる必要があるのではないか。

○ また、提供者の情報をどの程度まで通知すべきかや、提供者のプライバシーの保護に配慮した出生児への通知のしかたについて検討されるべきではないか。

6 出生児の法的地位について

(1)問題点

○ 出生児の法的地位は以下の通り不安定な面がある。

[AID・第三者の精子を用いた体外受精]
・ 民法は、妻が婚姻中に懐胎した子は夫の子と推定すると規定している。夫は子の出生を知った日から1年以内であれば子を嫡出否認できる。
・ AIDについては、夫の同意なく実施された場合には、嫡出否認が認められる地裁の例があり、この場合、現行法下では出生児の法的な父は存在しなくなる。
・ 一方、夫が同意してAIDが行われた場合には、嫡出否認できないと法務省は解釈している。
・ 通常、出生を知ってから1年以上経過後は嫡出否認ができなくなるが、妻が夫によって懐胎することが不可能な場合は嫡出推定が及ばなく、親子関係不存在の訴えを起こしうるとする判例があり、これがAIDによる出生児にも適用される可能性がある。

[第三者の卵子を用いた体外受精]
・ 母子関係については、分娩により当然発生するという判例がある。
・ しかしながら、民法は卵子提供による妊娠・出産を想定しておらず、卵子提供者からの認知の訴えや関係者からの親子関係不存在の訴えが生じうる。

[第三者の受精卵を用いた胚移植]
・ AID、第三者の精子・卵子を用いた体外受精で述べた問題と同様の問題が生じる。また、第三者の受精卵を用いた胚移植による出生児については、両親とは全く遺伝的なつながりのない子であり、養子と遺伝的には同様であるため、実子として取り扱うことが適当かとの議論がある。
(2)国民の意識の動向

○ 厚生科学特別研究「生殖補助医療技術についての意識調査」(平成11年、一般国民対象)では、AID、第三者の精子を用いた体外受精では、「夫と妻の実子とする」とした者は58.4%、「夫の養子、妻の実子とする」とした者は11.5%、第三者の卵子を用いた体外受精では、「夫と妻の実子とする」とした者は59.0%、「夫の実子、妻の養子とする」とした者は9.8%、第三者の受精卵を用いた胚移植では、「依頼者夫婦の実子とする」とした者は40.4%、「依頼者夫婦の養子とする」とした者は18.7%となっている。

(3)この問題についての考え方

○ 出生児については、法的な地位の安定を図るためにも配偶子の提供を受けた両親の嫡出子とする法制的措置を講じることが適当ではないか。この場合、一般の妊娠・出産による出生児と同様の取り扱いとするのか、特別養子制度のように、第三者の配偶子による出生児に特別の地位を与え、効果や戸籍上の表記は嫡出子と同様の扱いとするかについては検討が必要ではないか。

○ また、配偶子の提供者については、出生児と親子関係がないことを法的に明確にする必要があるのではないか。

7 出生児の心理や取り巻く環境への対応

○ 出生児が戸籍上の父母が遺伝的な父母ではないと分かったときに精神的ショック受ける可能性がある。

○ 第三者からの配偶子の提供を受けて出生したことが周囲の人に知られた場合に、出生児が偏見を持たれるおそれがある。

○ このため、出生児や配偶子提供を受けた両親に対しカウンセリングを行う体制を整備する必要があるのではないか。


II 各技術の実施の是非についての検討

1 国民の意識の動向

○ 厚生科学特別研究「生殖補助医療技術についての意識調査」(平成11年)の一般国民を対象とした調査によると、一般論として各技術を社会的に認めるべきかとの問には、以下の通り、AID、第三者の精子を用いた体外受精及び第三者の卵子を用いた体外受精については、「認めてよい」又は「条件付きで認めてよい」と答えた者が5割を超えている。

[AID]
・ 「認めてよい」とする者は10.8%、「条件付きで認めてよい」とする者は49.4%、「認められない」とする者は21.5%、「わからない」とする者は18.2%となっている。

[第三者の精子を用いた体外受精]
・ 「認めてよい」とする者は10.0%、「条件付きで認めてよい」とする者は48.2%、「認められない」とする者は23.0%、「わからない」とする者は18.8%となっている。

[第三者の卵子を用いた体外受精]
・ 「認めてよい」とする者は9.6%、「条件付きで認めてよい」とする者は49.6%、「認められない」とする者は22.1%、「わからない」とする者は18.7%となっている。

[第三者の受精卵を用いた胚移植]
・ 「認めてよい」とする者は7.8%、「条件付きで認めてよい」とする者は35.4%、「認められない」とする者は37.4%、「わからない」とする者は19.7%となっている。

2 委員の意見の傾向

○ 他の方法では挙児を望めない人がいるのであれば、その技術の利用を認め、子供を持つチャンスを与えるべきとの意見がある。この場合であっても、提供者である第三者や出生児に悪影響が出ないよう条件整備をする必要があるとしている。

○ 一方で体外受精については、社会的理解がまだまだ進んでいないため、夫婦間に限定して行うべきとの意見、第三者の卵子を用いた体外受精のように第三者に対する侵襲性が大きい技術は実施されるべきではないなどの意見がある。


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