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「治験を円滑に推進するための検討会」報告書について(概要)


1 経緯等

○医薬品の開発における臨床試験(治験)の実施に当たっては、倫理性、科学性及び信頼性の確保が必要であることから、平成元年に局長通知により、「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP:Good Clinical Practice)」を定めた。その後、治験のより一層の適正な実施と国際的な調和を図るため、その内容を見直すとともに、薬事法に基づく省令による基準として治験依頼者、治験実施医療機関等に遵守を義務づけることとし、平成10年4月から新たなGCPが施行されたところである。

○新GCPの導入により、被験者への文書による説明と同意の取得、より適正な治験の実施のための治験審査委員会の機能強化、治験事務局の設置、治験依頼者のモニタリング及び監査の受け入れ等が義務付けられた。今後、我が国で倫理性、科学性及び信頼性の確保された治験を実施していくためには、被験者の積極的な治験参加を求めていくための体制を整備していくこと、及び治験実施医療機関内の治験実施体制を整備していくことが緊急の課題となっているところである。

○我が国の現状としては、これらの対応が不十分であることから治験の停滞が生じているとの指摘がなされている。治験の停滞は、新医薬品の開発に支障を来すとともに、臨床研究の推進に影響を与える等、国民の保健医療福祉の向上を図る上での大きな問題となり得るものである。

○以上の状況を踏まえ、治験を円滑に推進するための具体的な方策について検討するため、本検討会が平成10年2月に設置された。以後9回にわたり検討を重ね、今般報告書として取りまとめられた。

2 報告書の概要

 被験者の治験参加を求めていくための体制整備及び治験実施医療機関内の治験実施体制整備という課題に対する対応を具体的に示した。

(1)被験者の参加を得るための施策

○行政機関、関係団体、医療機関等による治験の意義等についての積極的な広報活動の実施
○医療機関、治験依頼者等による、治験の対象とする疾病名、問い合わせ先等を挙げたポスター掲示、チラシの配布等の被験者募集のための情報提供活動の推進
○被験者の外来診療を主に行う部門の設置、予約診療の活用、相談体制の整備等の被験者に対する診療体制の整備の促進
○治験終了後においても被験者に治験薬を継続提供できる取扱いの活用
○治験参加に伴う物心両面の種々の負担を勘案した、社会的常識の範囲内における費用の支払いによる被験者の負担の軽減

(2)医療機関の体制整備のための施策

○医療機関の施設の充実、治験を行う資質を有する医師等の確保
○医療機関内の各関係部門の理解と協力の推進による治験実施体制の確立及びそのための医療機関どうしの連携の促進
○治験を担当する医師等に係る教育・研修の充実
○治験を担当する医師を支援する治験コーディネーターの育成及び研修修了者の活用
○治験審査委員会の機能の強化のための医療機関間の連携等の検討の推進
○人員・場所の確保による治験事務局機能の強化・効率化の推進
○診療所が活用できる治験審査委員会の整備、治験事務業務への対応等による診療所医師の治験参加の推進

「治験を円滑に推進するための検討会」委員名簿

○印:座長

  伊賀 立二 (東京大学医学部教授・医学部附属病院薬剤部長)
  井部 俊子 (聖路加国際病院副院長・看護部長)
上田 慶二 (東京都立多摩老人医療センター院長)
  梅田 昭夫 (日本歯科医師会副会長)
  大島 博幸 (東京医科歯科大学医学部教授)
  岡谷 恵子 (日本看護協会常任理事) (平成10年7月以降)
  高橋 美智 (日本看護協会常任理事) (平成10年6月まで)
  黒川 清 (東海大学医学部長)
  小泉 明 (日本医師会副会長) (平成10年6月以降)
  森岡 恭彦 (日本医師会副会長) (平成10年5月まで)
  下山 正徳 (国立名古屋病院長)
  高久 史麿 (自治医科大学学長)
  高橋 則行 (日本薬剤師会副会長)
  土屋 文人 (帝京大学医学部附属市原病院薬剤部長)(平成10年12月以降)
  北澤 式文 (慶應義塾大学医学部教授・薬剤部長)(平成10年11月まで)
  中野 重行 (大分医科大学教授)
  永山 治 (日本製薬工業協会会長) (平成10年6月以降)
  藤澤友吉郎  (日本製薬工業協会会長) (平成10年5月まで)
  西岡久寿樹 (聖マリアンナ医科大学教授)
  三輪 亮寿 (弁護士)
  矢崎 義雄 (東京大学医学部教授)
  吉田 尚 (東京都立駒込病院長)


問い合わせ先
厚生省医薬安全局審査管理課
代表:[現在ご利用いただけません]
内線:2775(望月)


「治験を円滑に推進するための検討会」報告書

1 はじめに

○医薬品の開発の最終段階においては、患者等を対象とした臨床試験(治 験)による薬物の臨床的な評価が必要不可欠であり、ここで収集された 資料等に基づき医薬品の製造又は輸入のための承認申請が行われる。この治験の実施に当たっては、被験者の人権と安全について十分な配慮がなされることを前提として、治験の科学的な質と成績の信頼性が確保されていることが必須となる。このような観点から策定された基準が「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP:Good Clinical Practice)」であり、我が国においては、平成元年に薬務局長通知による行政指導として最初のGCPが定められた。その後、治験のより一層の適正な実施、更には欧米との間でGCPの国際的調和を図る観点から、平成6年10月に設置された「医薬品安全性確保対策検討会(座長 森 亘 氏)」の検討等を経て、GCPの内容を改定するとともに、平成8年6月の薬事法改正によりGCPの根拠規定を整備し、治験を依頼する製薬企業(以下「治験依頼者」という。)のみならず治験を実施する医療機関(以下「実施医療機関」という。)及び治験を担当する者に対して、その遵守を義務付けることとなった。基準の内容については、平成9年3月に 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令(平成9年厚生省令第28号)」により定められ、平成10年4月から全面施行されている。

○この新しいGCPは、被験者となるべき者に対する治験に関する文書に よる説明と同意の取得、治験総括医師制度の廃止、治験依頼者の責任範囲の拡大と強化、治験審査委員会の機能の充実、治験責任医師の責任と業務の明確化、実施医療機関における治験事務局の強化などの特徴を有しており、治験における倫理性と科学性のより一層の確保を図ることを目的としたものであるが、他方で新GCPの導入により、我が国において治験の停滞が生じているとの指摘がなされている。

○我が国の治験の停滞は、新医薬品の開発に支障を来すとともに、承認申請データの国際化が進む中で、治験について専ら海外の被験者に依存するという批判を招くおそれがあるのみならず、我が国の医療技術の進歩に不可欠な臨床研究の推進にも影響を与えるものであり、国民の保健医療福祉の向上を図る上で、大きな問題となり得るものである。

○今後我が国で、倫理性、科学性及び信頼性の確保された治験を実施していくためには、被験者の積極的な治験参加を求めていくための体制を整備していくこと、及び実施医療機関内の治験実施体制を整備していくことが緊急の課題となっている。

○このような状況を踏まえ、本検討会は、我が国において、今後治験を円滑に推進していくため、具体的提言を行うことを目的として、医薬安全局長の私的検討会として設けられたものである。平成10年2月の設置以来、平成11年6月まで9回にわたり検討会を開催し、この間、医療機関において治験を実施するに当たって不可欠な治験コーディネーターの養成策の検討、医療機関における治験実施体制の調査、国民一般向けの治験に関する普及啓発のためのビデオの作成などを行ってきたが、今般、本検討会の活動のまとめとして、治験を推進するに当たっての具体的な方策について、これまでの検討を踏まえ提言を行うものである。

○提言については、大きく被験者に係る分野及び医療機関に係る分野の2 分野に分け、「被験者の参加を得るための施策」として5項目、また、「医療機関の体制整備のための施策」として5項目について意見をまとめた。

2 提言

(1)被験者の参加を得るための施策

ア.国民の治験に対する理解の促進

○治験は医療の進歩のために欠くことができないものであるが、自らが進んで心身の負担を背負うことに対する不安感、抵抗感があり、その意義が国民の間で広く理解されているとは言えない状況にある。また、不適正な治験にかかる事件の発生もあり、治験に対し、悪い印象を招いてきている面もあると考えられる。
○治験への参加は、被験者本人にとって治療面での有益性が期待されるものであるが、他方で治験への参加に伴う種々の負担を進んで引き受けるというボランティア活動、いわば「創薬(そうやく)ボランティア」(新薬を創る上で必要不可欠な治験に貢献するボランティア)という側面も有すると考えられることから、治験の推進に当たっては、治験の意義、内容等について、国民の十分な理解を得ていく必要がある。
○このため、行政機関、学会等関係団体、製薬関係団体等において、マスコミの理解も得ながら、国民向けに積極的な広報活動を行うことが望まれる。
○また、実施医療機関においても、例えば、本検討会で作成した一般向け普及啓発ビデオや日本製薬工業協会の作成したパンフレット(「くすり」と「治験」)等のわかりやすい媒体を適宜活用し、待合い室等におけるビデオの放映、パンフレットの配布及びポスターの掲示、さらには医薬品に関する講習会の開催等、幅広い広報活動を行うことが望まれる。

イ.被験者募集のための情報提供活動

○患者の中には、治験薬の効果に期待を持ち、治験の参加に積極的な意思を有する者も多いと考えられる。しかしながら、現時点における個々の治験の実施に当たっての被験者への情報提供活動としては、一部の実施医療機関が、医療機関内において、ポスターの掲示、チラシの配布等を行ってきている程度である。また、個別の治験について、治験依頼者による情報提供は行われておらず、国民が個々の治験の情報に触れる機会はほとんどないものと考えられる。
○制度上、医療法では、医療機関による医業等に関する広告が規制されており、治験については、医療機関外において広告することができないこととされている。他方、薬事法においては、治験薬の商品名を特定しない範囲で治験薬につき情報提供を行うことは可能であると考えられる。
○今後、実施医療機関においては、GCPの規定に基づき、治験審査委員 会において、その内容、情報提供の方法等について審議・承認を受けた 上で、例えば、治験の対象とする疾病名、当該医療機関内の連絡先等を挙げる等の情報提供を、実施医療機関内外において必要に応じて行うべきである。
○また、治験依頼者においても、同様に、例えば、製薬企業名及びその連絡先、治験の対象とする疾病名等を挙げ、情報提供を行うなど、積極的に取り組んでいくことが望まれる。
○その他学術団体等関係団体、患者団体等も、独自に個々の治験に関する情報提供を行うことも考えられる。
○なお、医療法の広告規制の緩和については、現在医療提供体制の見直しの中の一つの課題として関係の審議会等において検討が進められているが、治験に関する情報提供についても、積極的に見直されることが期待される。
ウ.被験者に対する診療体制の整備

○被験者に対する診療は、多くは日常の診療の中で行われていると考えられるが、一部の実施医療機関においては、被験者を対象に、より専門的に対処し、又は対処していく意向を有している。

○被験者として治験に参加してもらうためには、被験者の人権保護に十分 に配慮しながら、実施医療機関内の環境整備を行っていくことが望まれる。
 例えば、
(1)被験者の外来診療を主に行う治験センターや治験診療部門の設置
(2)被験者への予約診療の活用
(3)治験に関する問い合わせ、被験者の治験中の不安等に適切に応えるための相談体制の拡充と相談室等の設置
(4)被験者への来院日の確認のための連絡等、被験者に対する適切な働きかけ
等が考えられるが、これらを含め各実施医療機関において、診療体制全体の整備、向上を図っていく中で、治験に係る診療の充実方策について工夫していくことが望まれる。

エ.治験終了後の治験薬の継続提供

○被験者が治験に参加した結果、他の方法で代替できない大きな効果が認められた場合には、当該被験者が治験薬の継続的な使用を希望することがある。
○従来、承認申請については、治験が終了してから行われることとされていたが、平成10年12月に、治験薬の承認申請後に当該薬物の安全性及び有効性に関する更なる情報の収集を目的とした治験を継続実施することを許容する取扱いが示された(注1)。
○被験者、治験を担当する医師及び治験依頼者が共に治験という制度の中で当該治験薬の使用の継続を希望する場合には、被験者であった者が引き続きこのような治験に参加することで治験薬を使用することが可能になるので、上記取扱いの活用を図ることが望まれる。

注1:

平成10年12月1日 医薬審第1061号 厚生省医薬安全局審査管理課長通知「医薬品の承認申請後の臨床試験の実施の取扱いについて」

オ.治験参加に伴う負担の軽減

○治験に参加することは、被験者にとって新しい治療を先んじて受ける機会を得る可能性があるという利点がある一方、治験薬の有効性及び安全性の観察のため、より多くの来院、検査等が必要となることから、時間的な拘束、交通費の負担増をはじめとして、治験参加に伴い、物心両面における種々の負担が発生することも否定し得ない。

○一部の実施医療機関においては、被験者の種々の負担を勘案し、当該治験に参加することにより生じた負担を軽減するため、一定の金銭が支給されている(注2)。また、同様の目的から、金銭以外のものとしてタクシーチケット、食券等が支給されている例もある。

○基本的に被験者が治験に参加することは、被験者の善意という要素によるものではあるが、治験参加により生じる被験者の負担につき、実際にかかった費用を勘案しつつ、治験審査委員会の承認を得た上で、社会的常識の範囲内において適切な金銭等の支払いが考慮されることが適当である。

○こうした金銭等の支払い方法については、受託研究費の一部として積算し、治験依頼者から実施医療機関を介して被験者に支払うことが原則と考えられる。なお、実施医療機関が治験依頼者から金銭等を一時的に預かり、被験者に支払う方法もあり得ようが、このような方法による場合においては、個人情報の保護や金銭等の管理の面で誤解や問題が生じないよう、治験依頼者及び実施医療機関において管理責任体制を明確にする必要がある。

注2:

例えば、一部の医療機関(約200施設)の現状をみると、外来における治験について、一来院当たり約3、000円から約10、000円(平均約7、000円)が支給されているとの報告がある。

(2)医療機関の体制整備のための施策

ア.医療機関内の治験実施体制の確立、治験を担当する医師及び歯科医師 の資質の向上等

○適正な治験が実施されるためには、実施医療機関において、施設面の充実とともに、治験を行う資質を有する医師及び歯科医師の確保を図り、治験を専門に行えるような治験センターや治験診療部門を設置する等、実施医療機関内の体制整備を図っていくことが重要である。
○このためには、実施医療機関の長が中心となって、各関係部門の理解と協力を得ることにより、医療機関内における治験実施体制を確立していく必要がある。また、治験推進協議会等を活用し、実施医療機関が相互に情報交換を積極的に行うことを通じて、治験実施体制の整備に努めていくことが望ましい。
○治験を適切に実施していくためには、医師及び歯科医師の治験に関する教育の充実が重要である。一部の大学においては、臨床薬理学講座又は臨床疫学講座を設置し、臨床評価のための教育研究の充実が図られており、また、独自に医師に対し治験に関する研修を行っている学術団体等もみられる。今後さらに、卒前教育等における臨床薬理学及び臨床疫学の教育の充実や治験に関する研修の推進を図ることが重要である。
○治験を担当する医師及び歯科医師、さらに他職種も含め、治験に積極的に参加するための動機付けも必要と考えられることから、各実施医療機関において、治験に関わる業績の評価、研究費の効果的な配分等を工夫する必要がある。

イ.治験コーディネーターの育成・確保

○治験コーディネーターについては、平成9年度厚生科学研究「新GCP普及定着総合研究」報告書において、「治験コーディネーターは、直接的には治験責任医師を支援する業務を行う。つまり医薬品の臨床試験実施過程において、とりわけ被験者と治験との調整を行い、治験の倫理性、科学性を保証するための活動を行う。」と定義されているところであり、GCPで規定される「治験協力者」としての役割を担うものとして位置付けられる。
○その活動は、被験者への対応、データの管理、治験依頼者によるモニタリング及び監査への対応等、治験全般に深く関わるものであり、実施医療機関において治験を円滑に進めるに当たって極めて重要な役割を果たすものである。また、治験コーディネーターによる被験者への適切な対応は、被験者にとって、治験に参加することの大きな利点となっているとの報告もあるところである。
○治験コーディネーターは、すでにいくつかの実施医療機関において配置されており、また、配置の方向で検討している実施医療機関もある。国立の医療機関においては、平成11年度に国立大学では6名、国立病院では4名が定員化されている。しかしながら、治験コーディネーターの配置はいまだ十分なものではなく、定員化の拡充等が求められる。
○治験コーディネーター養成のための研修については、平成10年度から、社団法人日本看護協会、社団法人日本病院薬剤師会、財団法人日本薬剤師研修センター、文部省等が実施しており、さらに平成11年度には厚 生省も当該研修を予算化した。
○実施医療機関にあっては、これら治験コーディネーター養成研修や各種学会における講習・講演会等を最大限に活用し、その養成及び確保を図ることが望ましい。
○また、研修修了者を有効に活用できるような実施医療機関内部の体制整 備が必要であり、各実施医療機関において、治験コーディネーターの所属及び配置、治験事務局との関係等、最も有効な活動を行うための検討が必要である。
○治験コーディネーターに関する理解は広まってきているものと考えられるが、今後更にその業務の範囲を明確にすることにより、治験コーディネーターの意義について一層の理解を求めていく必要がある。また、治験コーディネーター相互の連携を図っていくことも望まれる。
○現在は薬剤師や看護婦の職種の者が治験コーディネーターとなっている場合が多いが、その専門性が十分に評価され、ふさわしい処遇がなされるべきである。

ウ.治験審査委員会の機能の強化

○GCPにおいては、原則として実施医療機関に治験審査委員会を置くことが求められており、治験について倫理的及び科学的観点から十分に審議を行うこととされている。
○現在各実施医療機関においては、GCPに則った治験審査委員会の体制が整ってきてはいるが、今後さらに審議内容の充実を図るためにも、例えば実施医療機関が共同で活用できる治験審査委員会の設置、治験審査委員会相互の連携のあり方等について、検討を進めるべきものと考えられる。

エ.治験事務機能の強化・効率化

○GCPにおいては、実施医療機関に、治験事務局及び治験審査委員会を置く場合にあっては治験審査委員会事務局を設置することが義務付けられた。治験の事務を司る部門には、治験依頼者との連絡調整、文書管理、治験依頼者によるモニタリング及び監査への対応、医療機関内の連絡調整及び連携等、治験を円滑に実施するための多くの業務の実施が期待されており、実施医療機関における治験事務機能の強化・効率化が不可欠である。
○このため、実施医療機関においては、必要な人員の確保とともに、モニタリング及び監査への対応等も含めた治験に係わる事務を適切に行うための場所や設備の確保が重要である。また、個人情報の保護につき万全を期すため、絶えずそのための体制を検証していく必要がある。

○なお、米国ではSMO(Site Management Organization)が実施医療機関の事務等の受託機関として発展しつつある。SMOとは、実施医療機関側が自らの判断により事務機能等を委託する機関である(SMOは、治験依頼者側が自らの治験の依頼及び管理に係る業務の一部を委託する開発業務受託機関(CRO:Contract Research Organization)と異なる別の機関である。)。実施医療機関においては、今後、こうしたSMOの活動状況も勘案の上、自らの責任において、これを適宜適正に活用していくことも考えられる。

オ.診療所医師の治験参加

○現在、健康な志願者を対象としたいわゆる第I相試験や薬物動態の調査等の臨床薬理試験を除き、診療所における治験はほとんど行われていないと考えられる。

○米国では、診療所において治験が積極的に実施されてきているとの報告 もある。

○対象疾患によっては、診療所医師が治験に関与することにより、被験者の参加を得る上で、より円滑な治験の実施が期待できることも考えられる。地域医療支援病院と診療所の連携の強化等病診連携の推進、都道府県医師会等関係団体の活用等による診療所医師の治験への参加も考慮されるべきである。

○このためには、診療所が活用できる治験審査委員会の整備、事務的業務の対応等の環境整備が必要である。また、SMOが事務機能等を担える場合はその適切な活用も考えられる。

3 おわりに

○有効性が高くかつ安全な新医薬品の開発は、国民の保健医療福祉の向上 のために欠かせないものであり、そのためには、新しいGCPに基づく倫理性、科学性及び信頼性の確保された治験の実施が必要不可欠である。今後治験を円滑に実施していくためには、治験依頼者、実施医療機関双方において、新しいGCPに則った体制の整備を推進する中で、国民が被験者として進んで治験に参加できるような環境整備が必要である。

○このためには、治験の意義や必要性に関して国民一般に幅広い理解を求めていくと同時に、特に治験を実施する医療機関においては、被験者が安心して治験に参加できるような体制を整備していくことが急務である。なお、治験実施計画書が科学的に妥当であり、治験結果が適切に評価される必要があり、そのためには臨床評価ガイドラインの整備等を併せて進める必要がある。

○さらに視野を広げてみると、適正な治験の実施に当たっての基本的な考え方は、単に新医薬品の開発に適用されるばかりでなく、我が国の臨床研究一般のあり方にも共通しているものと考えられる。すなわち、臨床研究の質的向上を目指した努力が、医療従事者のみならず、関係者すべてに求められていると考えなければならない。

○今回の提言を踏まえ、我が国の治験の体制整備が促進され、新しいGCPのもと、より良い治験が円滑に実施されることを切に希望するものである。



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