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1.概要
ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について、環境庁の中央環境審議会並びに厚生省の生活環境審議会及び食品衛生調査会において合同で検討が行われてきたが、6月21日(月)に報告書がとりまとめられる。
2.報告書の結論
○当面のTDIを4pg/kg/日とする。
(参考)
○耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)は、人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重 1kg当たりの1日当たり摂取量。
○ダイオキシンのTDIは、平成2年のWHO専門家会合で10pg/kg/日とされ、我が国でも、平成8年に厚生省の研究班が10pg/kg/日とした。環境庁の検討会は、平成9年に健康リスク評価指針値として5pg/kg/日を示した。
○平成10年5月のWHO専門家会合では、「TDIは1〜4pg/kg/日とし、4pg/kg/日を当面の最大耐容摂取量、究極的な目標としては摂取量を1pg/kg/日未満に削減が適当」とした。
○これを踏まえ、我が国でも、環境庁と厚生省が共同で見直し作業を行ってきた。
*10年6月 | 厚生省は、生活環境審議会及び食品衛生調査会の下に「ダイオキシン類 健康影響評価特別部会」を設置 |
11年1月 | 環境庁と厚生省で共同で検討するため、上記特別部会と「中央環境審議会環境保健部会ダイオキシンリスク評価小委員会」との合同会合を開催 |
3月 | ダイオキシン対策推進基本指針で、3か月以内にTDIを見直すとした |
6月 | 3回の合同会合と、7回のワーキンググループ会合を経て、結論に至る |
<照会先> 厚生省生活衛生局企画課 室 長 平山一男(内線2421) 課長補佐 阿部重一(内線2415) 課長補佐 高橋俊之(内線2420) 室長補佐 山本 史(内線2423) 環境庁企画調整局環境安全課環境リスク評価室 室 長 上田博三(内線6340) 室長補佐 牧谷邦昭(内線6341)
ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI: Tolerable Daily Intake)は、ダイオキシンによるヒトの健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で重要な指標となるものであり、世界保健機関(WHO)や各国において科学的知見に基づき設定されている。
我が国においても、これまで環境庁及び厚生省において、ダイオキシンのTDIあるいは健康リスク評価指針値を設定し、現在の汚染状況がヒトの健康に及ぼす影響の評価の指標、ダイオキシン対策の指標等として活用してきた。
このような状況の中、1998年(平成10年)5月、WHOの欧州地域事務局及び国際化学物質安全性計画(IPCS)により、専門家会合(以下「WHO専門家会合」)が開催され、ダイオキシンのTDIの見直しが行われた。
我が国でも、環境庁及び厚生省が専門家会合を組織し、その合同会合(中央環境審議会環境保健部会ダイオキシンリスク評価小委員会及び生活環境審議会・食品衛生調査会ダイオキシン類健康影響評価特別部会)において、TDIの見直しを行うこととした。さらに、本年3月30日、ダイオキシン対策関係閣僚会議において「ダイオキシン対策推進基本指針」が策定され、その中でこのTDIの見直しを3ヶ月以内に行うこととされた。
本報告書は、1998年(平成10年)のWHO専門家会合での議論を可能な限り詳細に分析・評価した上で、新たな知見を加えてダイオキシンのTDIについて検討したものである。
(注)本報告書における用語法
(1)1990年(平成2年)のWHO欧州地域事務局専門家会合
世界保健機関(WHO)欧州地域事務局が開催した1990年(平成2年)の専門家会合は、当時得られていた知見を評価した結果、ダイオキシン類の一種である2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)を用いて実施されたラットの2年間投与試験(Kocibaら,1978)の低用量で認められた体重増加抑制、肝障害などを指標とし、ラットに毒性を示さなかった投与量1ng/kg/日(無毒性量;NOAEL)に不確実係数(100)を適用し、2,3,7,8-TCDDの耐容一日摂取量(TDI)として、10pg/kg/日の値を提案した1)。
(2)我が国におけるTDI等の設定
我が国においても、1996年(平成8年)、厚生省の「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班」は、WHOの算定方式に基づき、ダイオキシンの科学的知見を検討した結果、上記のラット2年間投与試験に加え、ラット三世代生殖試験において認められた子宮内死亡、同腹児数の減少、生後の体重増加抑制などから、無毒性量を 1 ng/kg/日と判断し、不確実係数(100)を適用することにより、当面のTDIを、2,3,7,8-TCDDとして、10pg/kg/日と提案した3)。
(3)1998年(平成10年)のWHO専門家会合における見直し
ダイオキシンの健康影響については、1990年(平成2年)以降においても、国際的に様々な調査研究が実施・継続されてきた。このため、WHO欧州地域事務局及び国際化学物質安全性計画(IPCS)は、1990年以降集積された新しい科学的知見に基づきTDIを見直すため、1998年(平成10年)5月、専門家会合をジュネーブ(スイス)にて開催した。本会合では、ダイオキシンに関する発がん性及び非発がん性の影響、小児への影響、体内動態、作用メカニズム、ダイオキシンによる暴露状況など広範な分野について、新しい科学的知見をもとに議論が行われた。
(1)通常レベルの暴露
(1) 欧米諸国
(2) 日本
(2)事故による暴露及び職業暴露
事故による暴露や職業暴露により、通常レベルよりはるかに高い暴露を受けることがある。
(1) 事故による暴露
(2) 職業暴露
(1)事故による中毒や職業的暴露の影響
ヒトに対する影響についての知見が得られているのは、事故による中毒や職業暴露の事例であり、代表的なものは、次のとおりである。
(1) 2,4,5-T等製造作業者等における暴露の影響
(2) セベソの工場災害による暴露の影響
(3) ベトナム戦争の退役軍人における暴露の影響
(4) 油症患者における暴露の影響
(2)通常レベルの暴露
食事等による通常レベルの暴露において明らかな健康影響を示す知見は報告されていない。
ダイオキシン類には多くの同族体が存在するが、毒性試験には、主に、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDを被験物質として用いている。
(1)発がん性
実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの発がん性については、Kocibaらがラットの試験により、100ng/kg/日(2年間の連続投与)の投与量で、肝細胞がんの発生を観察、報告している60)(表1の番号23)が、その他に、マウスやラットを用いた長期試験で甲状腺濾胞腺腫、口蓋・鼻甲介・舌及び肺の扁平上皮がん、リンパ腫の誘発が、ともに、投与量71ng/kg/日(2年間の連続投与)(表1の番号22)において認められている61)。
(2)肝毒性
肝毒性としては、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの上昇やポルフィリン症、高脂血症等の生化学的変化に加え、病理学的には肝細胞の肥大や脂質代謝異常などが観察されている。
(3)免疫毒性
免疫毒性に関連する試験において、2,3,7,8-TCDD は動物に胸腺萎縮や細胞性及び体液性免疫異常を引き起こし、ウイルス感染に対する宿主抵抗性や抗体産生能の抑制も認められている64)(表1の番号15)。また、母ラットへ投与すると、児動物に遅延型過敏反応の抑制65)や抗体産生能の抑制66)がみられている(表1の番号12)。これらの影響は、単回投与で投与量100 ng/kg以上から発現しており、明確な用量依存性が認められている。
(4)生殖毒性
生殖毒性試験では、母動物よりも胎児及び出生後の児動物への影響が強く現れ、妊娠中及び授乳中の投与により、以下のような影響が発現する。
(1) 児の口蓋裂、水腎症等
(2) 児の雌性生殖器系への影響
(3) 児の雄性生殖器系への影響
(4) その他
(5)その他
ラットにおいて薬物誘導酵素(CYP1A1)の誘導が1 ng/kgの投与量で認められており77)、また、マウス肝臓においては同様の影響が1.5ng/kgで認められている78)(表1の番号1、5)。
(1)経口摂取と吸収
ダイオキシン類は、消化管、皮膚及び肺から吸収されるが、吸収の程度は、同族体の種類、吸収経路及び媒体により異なる。
(2)体内での分布
ダイオキシン類を実験動物に経口投与した場合、主に血液、肝、筋、皮膚、脂肪に分布していく。特に肝及び脂肪に多く蓄積される87,88)。分布はダイオキシン類の同族体により、また、用量により異なる。
(3)代謝・排泄
一般にダイオキシン類は代謝されにくく90〜93)、肝ミクロゾームの薬物代謝酵素によりゆっくりと極性物質に代謝される。また、代謝には大きな種差がある94)。代謝物としては水酸化代謝物や硫黄含有代謝物が検出されている95)。代謝物の多くは抱合を受け、尿あるいは胆汁中に排出される94)。また、2,3,7,8-TCDDあるいはその代謝物と蛋白や核酸との共有結合はほとんど見られない96)。
(4)母子間の移行
ダイオキシン類は胎児へ移行するが、胎児の体内濃度が母体より高くなるとの報告はない98)。また、ダイオキシン類は母乳中に分泌されるので、乳汁を介して新生児に移行する99)。
(5)体内負荷量
一般に、化学物質による毒性発現は、一日当たりの暴露量よりも血中濃度や体内に存在する量(体内負荷量)に依存している。
ダイオキシン類の毒性のメカニズムは、十分に解明されている段階に至ってはいないものの、ダイオキシン類による様々な毒性発現に共通するメカニズムとして、アリール炭化水素受容体(arylhydrocarbon receptor、以下Ahレセプター)との結合が指摘されている100)。
(1)Ahレセプターを介した毒性
ダイオキシン類の主たる毒性である肝臓や胸腺への毒性及び発生毒性が、Ahレセプターを持たないマウスでは観察されないという試験結果が得られており101,102)、これらの毒性は、細胞内にあるAhレセプターという蛋白を介して発現するものと考えられている。
(2)Ahレセプターを介さない毒性
ダイオキシン類による毒性のうちにはAhレセプターを介さないと考えられるものも認められているが107)、そのような毒性発現はAhレセプターを介する場合よりも高用量の暴露で生じるとされている。
(1)ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物
ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の同族体210種の総称である。また、PCBのなかにも平面型の分子構造を有し、ダイオキシン類似の毒性作用を持つものがあり、コプラナーPCBと呼ばれている。
(2)毒性等価係数(TEF)
上記物質の毒性発現は共通の作用機構として、Ahレセプターを介するメカニズムが考えられ、個々の同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした、毒性等価係数(TEF:ToxicEquivalency Factor )を用いて表わす方法が用いられている。
(3)毒性等量(TEQ)
ダイオキシンは、通常は混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシンの毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent)として表わすことができる。国際的には、TEQで表された数値により、ダイオキシンの毒性が評価されている。
(4)最新のTEFによるTEQの算出
現時点では、多くの研究により概ね適正であると支持されていることから、1997年にWHOで再評価された最新のTEF108)をもとにTEQを算出してダイオキシン類及びコプラナーPCBの暴露評価に用いることが妥当である。
2.TDIを巡るこれまでの経緯の概要
WHOがTDIの設定に用いたこの方法は、根拠とするデータの選択等について部分的な変更が加えられている場合もあるが、米国以外の各国の関係行政機関による規制値等の設定に際し、基本的な方式として取り入れられてきた。
なお、米国環境保護庁(EPA)では、ダイオキシン類の健康影響に関して、WHOと異なる概念である実質安全量(VSD)を用いた評価を行っている2)。
また、1997年(平成9年)、環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会」は、Kocibaらのデータを根拠とするWHOの算定方式を採用しながらも、算定に当たってアカゲザルの試験データを勘案し、ダイオキシン類の健康リスク評価指針値(ダイオキシン類に係る環境保全対策を講ずるに当たっての目安となる値であり、ヒトの健康を維持するための許容限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい水準としてヒトの暴露量を評価するために用いる値)を、5 pg/kg/日とした4)。
その結果、毒性試験の結果をヒトにあてはめるに当たって、投与量を直接用いるのではなく、体内負荷量(body burden )に換算してあてはめる考え方を導入した。その上で、最も低い体内負荷量で毒性がみられた毒性試験の結果に基づいて算定した数値をヒトの最小毒性量とみなし、この値に不確実係数(10)を適用し、TDIを1〜4pgTEQ/kg/日とした。
WHOの最終報告書概要によれば、現在の先進国における暴露状況が、2〜6pgTEQ/kg/日のレベルであると述べた上で、この暴露レベルにおいても微細な影響は生じているかもしれないが、現時点では明確な毒性影響の発現は報告されておらず、また、観察されている影響についても他の化学物質の影響が否定できないことから、1〜4 pgTEQ/kg/日が当面の耐容できる値であると考察している。その上で、結論として、4 pgTEQ/kg/日を当面の最大耐容摂取量( maximal tolerable intake on a provisional basis )とし、究極的には摂取量が1 pgTEQ/kg/日未満となるよう努めるべき、と記されている。
3.暴露の状況
(3) 母乳中のダイオキシン
厚生省の食品調査(1997年度(平成9年度)、マーケットバスケット方式)では、ダイオキシン類への暴露は0.96pgTEQ/kg/日となっており、また、3種類のコプラナーPCBを含めると2.41pgTEQ/kg/日である6)。なお、飲料水からの暴露はほとんど無視できるほど小さい。
大気からのダイオキシン類の暴露量は、1997年度に環境庁及び地方公共団体が実施したモニタリング調査結果7)の平均値0.55pgTEQ/m3をもとに、1997年度ダイオキシンリスク評価検討会報告書4)等の試算方法に準じて計算すると、0.17pgTEQ/kg/日である。また、コプラナーPCBについては、現状ではデータが少ないが、1997年度の環境庁の調査結果8)における濃度範囲は0.044〜0.026pgTEQ/m3であり、ダイオキシン類の濃度に比べて低いため、12種類のコプラナーPCBを加えても、暴露量は0.17pgTEQ/kg/日と変わらない。
土壌からの暴露量は、全国的な土壌中濃度の現状、土壌の摂取量や土壌中ダイオキシン類の吸収率等必要な情報が必ずしも十分でなく、正確な推定が困難であるが、環境庁調査(1997年度)9)をもとに、土壌中のダイオキシン類の濃度を20pgTEQ/g、コプラナーPCBの濃度を2.2 pgTEQ/gとすると、ダイオキシン類の暴露量は0.0022〜0.019 pgTEQ/kg/日程度、12種類のコプラナーPCBを加えた暴露量は0.0024〜0.021 pgTEQ/kg/日程度が見込まれる。
これらの各経路からの暴露量を合計すると、ダイオキシン類で1.15pgTEQ/kg/日程度、コプラナーPCBを加えると2.60pgTEQ/kg/日程度が日本人の平均的な暴露量と考えられる。(図1)
このような暴露の結果として、人体の残留レベルは体脂肪中に10〜30pgTEQ/g脂肪(体重では2〜6 ngTEQ/kgに相当)になっていると考えられる5)。このレベルも主要工業国と同程度である。
一方、母乳中のダイオキシン濃度は過去20年間で低下しているという報告がいくつかの国でなされており、我が国においても、厚生科学研究による大阪府の保存母乳サンプルの調査結果では、1973年から1996年の間にダイオキシン類及び3種類のコプラナーPCBで半分以下に低減している。(図2)
食品のPCB汚染による中毒が、日本(1968年)及び台湾(1978年)において発生している。いずれも熱媒体として用いられたPCBとともに、極少量のダイオキシン類が食用油に混入したことによると言われている13,14)。
廃棄物焼却に伴う、ダイオキシン類への労働者の過剰暴露の事例としては、欧米での顕著な事例の研究が見当たらないが、最近我が国において行われた大阪府能勢町の廃棄物焼却施設に関連した調査では、比較的高い値が示されている16)。
4.ヒトに対する影響
油症においては、面皰、毛孔の著明化、眼脂の増加、皮膚の色素沈着、爪の変形着色、クロルアクネ(塩素ざ瘡)などの所見が認められた。
なお、1968年から1990年の間の調査では、男子において肝がんによる死亡の有意な増加がみられるが、知見として確立するためには、今後の更なる研究が必要との報告がある59)。
通常生活における暴露のうち、特に、母乳経由のダイオキシン暴露による乳児の健康影響、あるいは胎児期における胎内暴露による健康影響については、いくつかの国で免疫系及び甲状腺機能などに関する研究が進められている。
また、母乳哺育については、乳児の身体的発育や神経発達への有益な影響なども示されており、WHOの今回の専門家会合の議論においても、母乳中のダイオキシン濃度を下げるための努力が必要であるとしつつ、母乳推進の立場をとることに変更はなかった。
5.実験動物における影響
なお、発がんメカニズムについては、遺伝子傷害性を検出するための複数の試験系で陰性の結果が得られ、マウスやラットを用いる二段階発がんの試験系でプロモーション作用が証明されている15)。
マウスへの10 ng/kgの単回投与により、ウイルス感染性が増大するとの報告があるが、用量依存性は示されていない63)(表1の番号3)。
Faqiら(1998)の試験では、母ラットに交配2週間前から離乳まで皮下投与を行ったところ、低用量群(25 ng/kgを初回投与後、5ng/kg/週を投与)以上で精巣中の精子細胞数が用量依存的に減少している(表1の番号7)ほか、高用量群では血清中テストステロン濃度低下、精巣の組織学的変化等が認められている71)。
Mablyら(1992c)の試験においても、妊娠15日に母ラットに投与したところ、低用量(64 ng/kg)群で児動物の精巣中の精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数の減少、精巣上体重量低下、精巣上体尾部重量低下等が認められている72)(表1の番号11)。なお、児動物が成長した後の生殖能については、対照群と比べ有意な差は認められていない。
Grayら(1997a)によれば、投与量200ng/kg(妊娠15日の母ラットへ単回投与)で精巣上体精子数減少、精巣上体尾部精子数減少、陰茎亀頭重量低下、包皮分離遅延などが、800 ng/kg投与群で射精精子数の減少が生じている73)(表1の番号14)。
また、同じ研究機関において実施されたアカゲザルの試験では、母動物に投与(妊娠7ヶ月前から離乳期まで、0.15ng/kg/日)した場合の児動物に学習行動テストの成績の低下が観察されている76)(表1の番号8)。
また、マーモセットにおいてリンパ球構成の変化が0.3ng/kg及び10ng/kgの投与量で認められている79,80)(表1の番号2、4)。
ウサギにおいてクロルアクネが4.0ng/kgの投与量で認められている81)(表1の番号6)。
6.体内動態
爆発事故などでは、ヒトは上記の3経路からダイオキシン類を吸収するが、日常生活では、ダイオキシン類の総摂取量の90%以上は経口摂取による。
経口摂取での2,3,7,8-TCDDの吸収率は、植物油に溶かした場合は90%に近いが82,83)、食物と混和した場合は50〜60%82)、汚染された土壌からの吸収は、土壌の種類により大きく異なるが、植物油に溶かして投与した場合の約半分あるいはそれ以下である84〜86)。
なお、消化管吸収には動物種間に大きな差は認められていない。
2,3,7,8-TCDDの肝と脂肪との分布比には種差が認められるものの、その他は特に大きな種差あるいは系統差は認められていない。
なお、血清中TCDD量は脂肪組織中の濃度と広い濃度範囲で良く対応している89)。
ダイオキシン類は主に糞中に排出され97)、尿中への排泄は少なく、排泄速度には種差が大きい。ラットやハムスターの消失半減期は12〜24日、モルモットで94日、サルで約1年であった。ヒトに2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合の半減期は5.8年、9.7年であった。また、ベトナム参戦兵士での血清中半減期は7.1年、8.7年、11.3年であった4)。
したがって、ダイオキシン類のように、高い蓄積性を有し、体内からの消失半減期に著しい種差の認められる化学物質のヒトにおける毒性を、毒性試験の結果に基づいて評価する場合には、動物での投与量や摂取量を、そのままヒトに当てはめることは必ずしも適切ではない。
7.毒性のメカニズム
また、ダイオキシン類がAhレセプターに結合すると、さらにいくつかの蛋白と共同して、遺伝子の発現を変化させることが明らかにされており、その結果として多様な毒性が引き起こされるとされている103)。
ダイオキシン類とAhレセプターの親和性は、動物の種及び系統によって違いがあり104)、WHOの専門家会合においても、ヒトのAhレセプターとダイオキシン類との親和性は、ダイオキシンに対する感受性の低い系統のマウスのレベルに近いとの議論がされている。この点が、ヒトはダイオキシン類の毒性に対して感受性の低い種であるとみなす根拠となっている105,106)。
なお、ダイオキシン類による発がん性は直接的に遺伝子を傷つけるのではなく、他の発がん物質による発がん作用を促進するいわゆるプロモーション作用によるとされている。
ダイオキシン類の発がん作用や内分泌かく乱作用に対するAhレセプターの関与の詳細なメカニズムについては、なお今後の研究を待たねばならないが、ダイオキシン類がAhレセプターと結合することが毒性発現のうえで重要な位置を占めていることは明らかである。
8.毒性等価係数(TEF)と毒性等量(TEQ)
WHO等においては、TEFは、長期毒性、短期毒性、生体内(in vivo )及び試験管内(in vitro)の生化学反応についての試験結果を同族体間で比較して設定されている。TEFは、従来、その数字の改良がなされてきており、今後の新たな科学的知見によっては、さらに新たな数字に改善されるべきものである。
なお、現在、毒性があるものとしてTEFが与えられているのは、表2のとおり、PCDDが7種、PCDFが10種、コプラナーPCBが12種である。
No. | 動物種 | 生物影響 | LOEL又はLOAEL | 体内負荷量 ng/kg |
ヒト暴露レベル** pg/kg/day |
文献 | *** | |
ng/kg | 投与条件* | |||||||
1 | ラット | P450酵素誘導 | 1 | po,単回投与 | 0.86 | 0.44 | Van den Heuvel ら(1994) | 1 |
2 | マーモセット | リンパ球構成の変化 | 0.3 | sc,1回/週,24週 その後1.5ng/kg/週,12週 |
9 | 4.56 | Neubertら(1992) | 1 |
3 | マウス | ウイルス感染性増大 | 10 | po,単回投与, 7日後に感染処置 |
9 | 4.56 | Burlesonら(1996) | 1 |
4 | マーモセット | リンパ球構成の変化 | 10 | sc,単回投与 | 10 | 5.06 | Neubertら(1990) | 1 |
5 | マウス | P450酵素誘導 | 1.5 | po,5回/週,13週, | 20 | 10.13 | DeVitoら(1994) | 1 |
6 | ウサギ | クロルアクネ | 4.0 | 皮膚塗布,5/週,4週 | 22 | 11.14 | Schwetzら(1973) | 1 |
7 |
ラット |
精巣中の精子細胞数低下 |
25 |
母獣にsc,単回投与後, sc5ng/kg/週,離乳まで投与 初回投与後2週間目に交配開始 |
27 |
13.67 |
Faqiら(1998) |
1 |
8 | サル | 学習行動テスト成績の低下 | 0.151 | 母獣に混餌,20.2ヶ月 | 29 | 14.69 | Schantz & Bowman(1989) | 1 |
9 | サル | 子宮内膜症 | 0.15 | 混餌,4年 | 40 | 20.26 | Rierら(1993) | 1 |
10 | ラット | 肛門生殖突起間距離短縮 | 12.5 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 43 | 21.77 | Ohsakoら(1999) | 1 |
11 | ラット | 精巣中の精子細胞数低下 | 64 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 55 | 27.85 | Mablyら(1992) | 1 |
12 | ラット | 免疫毒性 | 100 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 86 | 43.55 | Gehrsら(1997) | 1 |
13 | ラット | 生殖器形態異常 | 200 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 86 | 43.55 | Grayら(1997) | 2 |
14 | ラット | 精巣上体精子数の低下 | 200 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 86 | 43.55 | Grayら(1997) | 2 |
15 | マウス | 免疫毒性 | 100 | トウモロコシ油溶解,ip,単回投与 | 100 | 50.64 | Narasimhanら(1994) | 1 |
16 | サル | 出生児死亡率増加 | 0.76 | 混餌,4年 | 202 | 102.3 | Bowmanら(1989) | 1 |
17 | ラット | 出生児体重の低下 | 400 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 344 | 174.2 | Mablyら(1992) | 1 |
18 | サル | クロルアクネ | 1000 | 混餌,po,9回(4匹),単回投与(12匹) | 500 | 253.2 | McNulty(1985) | 1 |
19 | ラット | 腎形成異常 | 500 | sc,単回投与 | 500 | 253.2 | Courtneyら(1971) | 1 |
20 | ラット | 出生児死亡率増加 | 1000 | po,単回投与 | 860 | 435.5 | Grayら(1997) | 1 |
21 | ラット | 成長遅延 | 1000 | トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 | 860 | 435.5 | Bjerke&Peterson(1994) | 1 |
22 | マウス | 発ガン | 71.4 | po,2回/週,104週 | 979 | 495.7 | NTPNo.209(1982) | 1 |
23 | ラット | 発ガン | 100 | 混餌,2年 | 1,710 | 865.8 | Kocibaら(1978) | 1 |
24 | ハムスター | 出生児体重の低下 | 2000 | 母獣にpo(未確認),単回投与 | 1,720 | 870.8 | Schuepleinら(1991) | 1 |
25 | マウス | 水腎症 | 3000 | トウモロコシ油溶解,po,30週 | 2,580 | 1,306 | Coutureら(1990) | 1 |
24 | ラット | EGFRのdown regulation | 125 | トウモロコシ油溶解,po,30週 | 3,669 | 1,858 | Sewall(1993) | 1 |
25 | ラット | 発ガンプロモーション | 125 | トウモロコシ油溶解,po,30週 | 3,669 | 1,858 | Maronpotら(1993) | 1 |
*: | po(経口投与) sc(皮下投与) ip(腹腔内投与) |
** : | ヒトでの半減期7.5年、吸収率0.5として定常状態の時の一日摂取量を計算した。 ヒト一日摂取量=(body burden×ln2)/(T1/2×吸収率) |
***:1: | 原著の投与方法から体内負荷量を計算(ゲッ歯類では混餌では吸収率を50%、トウモロコシ油で経口投与では86%として計算)。 |
2: | 体内負荷量は妊娠16日及び21日での測定値から計算(Hurst ら, personal communication) |
化合物名 | TEF値 | |
PCDD (ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン) |
2,3,7,8-TCDD 1,2,3,7,8-PeCDD 1,2,3,4,7,8-HxCDD 1,2,3,6,7,8-HxCDD 1,2,3,7,8,9-HxCDD 1,2,3,4,6,7,8-HpCDD OCDD |
1 1 0.1 0.1 0.1 0.01 0.0001 |
PCDF (ポリ塩化ジベンゾフラン) |
2,3,7,8-TCDF 1,2,3,7,8-PeCDF 2,3,4,7,8-PeCDF 1,2,3,4,7,8-HxCDF 1,2,3,6,7,8-HxCDF 1,2,3,7,8,9-HxCDF 2,3,4,6,7,8-HxCDF 1,2,3,4,6,7,8-HpCDF 1,2,3,4,7,8,9-HpCDF OCDF |
0.1 0.05 0.5 0.1 0.1 0.1 0.1 0.01 0.01 0.0001 |
コプラナーPCB | 3,4,4',5-TCB 3,3',4,4'-TCB 3,3',4,4',5-PeCB 3,3',4,4',5,5'-HxCB 2,3,3',4,4'-PeCB 2,3,4,4',5-PeCB 2,3',4,4',5-PeCB 2',3,4,4',5-PeCB 2,3,3',4,4',5-HxCB 2,3,3',4,4',5'-HxCB 2,3',4,4',5,5'-HxCB 2,3,3',4,4',5,5'-HpCB |
0.0001 0.0001 0.1 0.01 0.0001 0.0005 0.0001 0.0001 0.0005 0.0005 0.00001 0.0001 |
TEF:
ダイオキシン類あるいはダイオキシン類似化合物には多種類の化合物があり、それぞれの毒性の強度は異なる。このため、通常は多種類の混合物であるダイオキシンの毒性を把握するために、2,3,7,8-TCDDの毒性の強度を1として、個々の化合物の毒性強度を表した数値。
TDI: | Tolerable Daily Intake(耐容一日摂取量) |
PCDD: | Polychlorinated dibenzo-p-dioxin(ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
2,3,7,8-TCDD: | 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin (2,3,7,8-テトラクロロ(4塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
PeCDD: | Pentachlorodibenzo-p-dioxin (ペンタクロロ(5塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
HxCDD: | Hexachlorodibenzo-p-dioxin (ヘキサクロロ(6塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
HpCDD: | Heptachlorodibenzo-p-dioxin (ヘプタクロロ(7塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
OCDD: | Octachlorodibenzo-p-dioxin (オクタクロロ(8塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン) |
PCDF: | Polychlorinated dibenzofuran (ポリ塩化ジベンゾフラン) |
TCDF: | Tetrachlorodibenzofuran (テトラクロロ(4塩化)ジベンゾフラン) |
PeCDF: | Pentachlorodibenzofuran (ペンタクロロ(5塩化)ジベンゾフラン) |
HxCDF: | Hexachlorodibenzofuran (ヘキサクロロ(6塩化)ジベンゾフラン) |
HpCDF: | Heptachlorodibenzofuran (ヘプタクロロ(7塩化)ジベンゾフラン) |
OCDF: | Octachlorodibenzofuran (オクタクロロ(8塩化)ジベンゾフラン) |
Co-PCB: | Coplanar polychlorinated biphenyl(コプラナーポリ塩化ビフェニル) |
EPA: | United States Environmental Protection Agency(米国環境保護庁) |
VSD: | Virtually Safe Dose(実質安全量) |
TEQ: | Toxic Equivalent(毒性等量) *ダイオキシン類のそれぞれの同族体の毒性を2,3,7,8-TCDDに換算して合計したもの |
2,4,5-T: | 2,4,5-Trichlorophenoxyacetic acid |
I-TEF: | International Toxic Eqivalency Factor(国際毒性等価係数) |
Ahレセプター: | Arylhydrocarbon receptor(アリール炭化水素受容体) *細胞質に存在し、ダイオキシン類のような芳香族炭化水素と特異的に結合し、その結合により、毒性影響が発現するとされている蛋白質 |
NOAEL: | No Observed Adverse Effect Level(無毒性量) *その投与量までは、毒性影響が現れない投与量 |
LOAEL: | Lowest Observed Adverse Effect Level(最小無毒性量) *投与物質による毒性影響が現れる最小の投与量 |
LOEL: | Lowest Observed Effect Level(最小影響量) *投与物質による影響が現れる最小の投与量 |
ng: ナノグラム(1グラムの10億分の1の量、10−9グラム)
pg: ピコグラム(1グラムの1兆分の1の量、10−12グラム)
1) | WHO Summary Report of "Consultation on Tolerable Daily Intake from Food of PCDDs and PCDFs" (1991) EUR/ICP/PCS 030(S) 0369n |
2) |
US.EPA.:Health assessment document for 2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin (TCDD) and related compounds. (1994) EPA/600/bp-92/001a,b,c |
3) | 厚生省:ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究・中間報告書 (平成8年6月) |
4) | 環境庁:ダイオキシンリスク評価検討会報告書 (平成9年5月) |
5) |
Executive Summary Report of "Assessment of the health risks of dioxins: re-evaluation of the Tolerable Daily Intake (TDI) (1999) |
6) | 厚生省:平成9年度食品中のダイオキシン類等汚染実態調査報告(平成10年10月28日) |
7) | 環境庁:平成9年度地方公共団体等における有害大気汚染モニタリング調査について(平成10年12月22日) |
8) | 環境庁:平成9年度有害大気汚染物質モニタリング調査結果について(平成10年7月16日) |
9) | 環境庁:平成9年度ダイオキシン類の総合パイロット調査結果について(平成10年10月23日記者発表資料) |
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平成10年
5月 | WHO専門家会合にて、ダイオキシンのTDIが見直される。 |
6月29日 | 我が国のTDIの見直しを行うため、厚生省の生活環境審議会及び食品衛生調査会に、ダイオキシン類健康影響評価特別部会を設置し、第1回を開催。 |
11月16日 | 中央環境審議会環境保健部会を開催し、ダイオキシンリスク評価小委員会の設置を決定 |
平成11年
1月28日 | 第1回合同会合 (環境庁及び厚生省がTDIの見直しを共同で検討するため、環境庁の上記小委員会と、厚生省の上記特別部会の合同会合を開催することとした。)
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2月24日 | 第1回ワーキンググループ会合 | ・既存文献の詳細検討 |
3月12日 | 第2回ワーキンググループ会合 | |
3月28日 | 第3回ワーキンググループ会合 | |
3月30日 | 政府のダイオキシン対策関係閣僚会議で、ダイオキシン対策推進基本指針が決定。この中で、TDIの見直しは、3か月以内に結論を得ることとされた。 | |
4月 7日 | 第4回ワーキンググループ会合 ・TDIの算出についての考え方の整理等について |
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4月14日 | 第2回合同会合 ・TDIの算出についての考え方の整理等について |
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5月12日 | 第5回ワーキンググループ会合 | |
5月24日 | 第6回ワーキンググループ会合 ・各種毒性試験の結果の評価及びTDIの算定について |
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6月 4日 | 第7回ワーキンググループ会合 ・報告書案について |
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6月21日 | 第3回合同会合 ・報告書案について |
*同日、中央環境審議会環境保健部会、食品衛生調査会常任委員会を開催。
1.はじめに
耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)は、ダイオキシンによる健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で、重要な指標。本報告書は、最新の知見をもとに、ダイオキシンのTDIについて検討した。
2.これまでの経緯
1990年 (平成2年) |
WHO欧州地域事務局専門家会合報告書 | TDIは、10pg/kg/日 |
1996年 (平成8年) |
厚生省ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班 | TDIは、10pg/kg/日 |
1997年 (平成9年) |
環境庁ダイオキシンリスク評価検討会 | 健康リスク評価指針値として5pg/kg/日 |
1998年 (平成10年) |
WHO欧州地域事務局・国際化学物質安全性計画(IPCS)専門家会合 | TDIは1〜4pgTEQ/kg/日。当面の最大耐容摂取量は4pgTEQ/kg/日。究極的に1pgTEQ/kg/日未満に低減。 |
3.暴露の状況 4.ヒトに対する影響
暴露の状況 | ヒトに対する影響 | |
通常レベルの 暴露 |
・欧米諸国:2〜6pgTEQ/kg/日 ・日本: 2.6pgTEQ/kg/日 (いずれもコプラナーPCBを含む) ・母乳中のダイオキシン濃度は過去20年間で2分の1以下に低下。 |
明らかな健康影響を示す知見は報告されていない。 |
事故による高用量の暴露 | ・タイムズビーチ(米国)、セベソ(イタリア)等 ・化学工場内での職業暴露 |
高用量の暴露で、がん死亡率の上昇、クロルアクネ(塩素ざ瘡)等 |
5.動物実験における影響
6.体内動態
(1)経口摂取と吸収 | 消化管、皮膚及び肺から吸収。 |
(2)体内での分布 | 血液、肝、筋、皮膚、脂肪に分布。 特に肝、脂肪に多く蓄積。 |
(3)代謝、排泄 | 代謝されにくい。 主に糞中に排出。排泄速度には種差が大きい。 |
(4)母子間の移行 | ダイオキシン類は胎児に移行するが、胎児の体内濃度が母体より高くなることはない。 母乳を介して新生児に移行する。 |
7.毒性のメカニズム
・ダイオキシンの毒性は、細胞内のAhレセプターという蛋白との結合を介して発現。
・ヒトはダイオキシンの毒性に対して感受性の低い種とみなされている。
・ダイオキシンの発がん性は、遺伝子傷害性でなく、他の発がん物質による発がん作用を促進するプロモーション作用による。
・Ahレセプターを介さない毒性もあるが、高用量の暴露で生じる。
8.毒性等価係数(TEF)と毒性等量(TEQ)
(1)毒性等価係数(TEF: Toxic Equivalency Factor):
(2)毒性等量(TEQ: Toxic Equivalent):
(3)現時点では、1997年のWHOの最新のTEFを用いることが適当。
9.TDIの算定
(1)基本的な考え方(WHOが採用したものと同じ)
(2)各種毒性試験における体内負荷量
影 響 | 動物試験による体内負荷量 | 評 価 |
(1)薬物代謝酵素 誘導 |
0.86ng/kg(ラット) 20 ng/kg(マウス) |
投与に対する生体の適応反応とみなされる。 |
(2)リンパ球の 構成変化 |
9ng/kg(マーモセット) 10ng/kg(マーモセット) |
高用量において、低用量での影響とは逆の構成比変化。 |
(3)クロルアクネ (塩素ざ瘡) |
4.0ng/kg(ウサギ) | 局所的な暴露の影響であり、体内負荷量の算定は不適当。 また、ヒトの知見を優先採用。 |
(4)免疫毒性 | 86ng/kg(ラット) 100ng/kg(マウス) |
毒性影響と認められる。免疫系は複雑であり、今後、複数の指標を用いた詳細な検討が必要。 |
(5)雄性生殖器系 への影響 |
児動物の精巣内精子細胞数等の減少が、27ng/kg以上、55ng/kg以上、86ng/kg以上で観察されたとする報告あり。 しかし、688ng/kgでも観察できなかったとの報告もある。 射精精子数の減少は425ng/kgで観察された。 受胎率低下は860ng/kgでも有意差認められず(以上ラット) |
雄性生殖器系への影響については、影響の発現と体内負荷量のレベルの関係が評価指標、試験項目、実施機関により相違するので、影響を発現させる最低の体内負荷量は、特定の数値を採用するよりも、複数の実験結果の総合評価により決められるべき。 |
(6)子宮内膜症 | 40ng/kg(アカゲザル) | 試験の信頼性が不十分。 |
(7)学習行動テスト 成績低下 |
29〜38ng/kg(アカゲザル) | 訓練で回復可能な軽度なもの。 行動学的検査のみの評価。 |
(8)雌性生殖器 形態異常 |
86ng/kg(ラット) | 毒性影響であり、用量依存性、試験の信頼性等あり。 |
(3)ヒトの一日摂取量の算定方法
(4)不確実係数の決定
(5)TDIの決定
10.おわりに
(1)TDIの意義と留意点
(2)今後の対策
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