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厚生省・環境庁同時発表

ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について

1.概要

 ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について、環境庁の中央環境審議会並びに厚生省の生活環境審議会及び食品衛生調査会において合同で検討が行われてきたが、6月21日(月)に報告書がとりまとめられる。

2.報告書の結論

○当面のTDIを4pg/kg/日とする。

・TDIの算定の基本的考え方は、WHO専門家会合と同じものを採用。

・各種動物試験の結果を総合判断し、86ng/kgをTDIの根拠とする体内負荷量とし、この値から人の一日摂取量を求め、不確実係数10を適用して算出。

・WHOでは、当面、現在の先進諸国での暴露量が耐容しうると考えられることから、4pg/kg/日を最大の耐容摂取量とし、究極的には1pg/kg/日未満に低減することを目標としており、我が国でも現在の暴露量は耐容しうると考えられる。

・なお、いくつかの動物実験では、体内負荷量86ng/kg以下の水準でも微細な影響が認められており、今後とも調査研究が必要。


(参考)

○耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)は、人が一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される体重 1kg当たりの1日当たり摂取量。

○ダイオキシンのTDIは、平成2年のWHO専門家会合で10pg/kg/日とされ、我が国でも、平成8年に厚生省の研究班が10pg/kg/日とした。環境庁の検討会は、平成9年に健康リスク評価指針値として5pg/kg/日を示した。

○平成10年5月のWHO専門家会合では、「TDIは1〜4pg/kg/日とし、4pg/kg/日を当面の最大耐容摂取量、究極的な目標としては摂取量を1pg/kg/日未満に削減が適当」とした。

○これを踏まえ、我が国でも、環境庁と厚生省が共同で見直し作業を行ってきた。

*10年6月 厚生省は、生活環境審議会及び食品衛生調査会の下に「ダイオキシン類 健康影響評価特別部会」を設置
11年1月 環境庁と厚生省で共同で検討するため、上記特別部会と「中央環境審議会環境保健部会ダイオキシンリスク評価小委員会」との合同会合を開催
3月 ダイオキシン対策推進基本指針で、3か月以内にTDIを見直すとした
6月 3回の合同会合と、7回のワーキンググループ会合を経て、結論に至る


<照会先>
厚生省生活衛生局企画課
 室 長 平山一男(内線2421)
 課長補佐 阿部重一(内線2415)
 課長補佐 高橋俊之(内線2420)
 室長補佐 山本 史(内線2423)
環境庁企画調整局環境安全課環境リスク評価室
 室 長 上田博三(内線6340)
 室長補佐 牧谷邦昭(内線6341)


ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について


平成11年6月

中央環境審議会環境保健部会
生活環境審議会
食品衛生調査会

目 次

1.はじめに

2.TDIを巡るこれまでの経緯の概要

(1)1990年(平成2年)のWHO欧州地域事務局専門家会合
(2)我が国におけるTDI等の設定
(3)1998年(平成10年)のWHO専門家会合における見直し

3.暴露の状況

(1)通常レベルの暴露
(2)事故による暴露及び職業暴露

4.ヒトに対する影響

(1)事故による中毒や職業暴露
(2)通常レベルの暴露

5.実験動物における影響

(1)発がん性
(2)肝毒性
(3)免疫毒性
(4)生殖毒性
(5)その他

6.体内動態

(1)経口摂取と吸収
(2)体内での分布
(3)代謝・排泄
(4)母子間の移行
(5)体内負荷量

7.毒性のメカニズム

(1)Ahレセプターを介した毒性
(2)Ahレセプターを介さない毒性

8.毒性等価係数(TEF)と毒性等量(TEQ)

(1)ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物
(2)毒性等価係数(TEF)
(3)毒性等量(TEQ)
(4)最新のTEFによるTEQの算出

9.TDIの算定

(1)基本的考え方
(2)各種毒性試験における体内負荷量
(3)TDIの算定根拠となる動物の体内負荷量
(4)ヒトの体内負荷量
(5)ヒトの一日摂取量の算定
(6)不確実係数の決定
(7)TDIの決定
(8)従前のTDIの算定方法との相違

10.おわりに

(1)TDIの意義と留意点
(2)今後の対策の推進


1.はじめに

 ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI: Tolerable Daily Intake)は、ダイオキシンによるヒトの健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で重要な指標となるものであり、世界保健機関(WHO)や各国において科学的知見に基づき設定されている。
  我が国においても、これまで環境庁及び厚生省において、ダイオキシンのTDIあるいは健康リスク評価指針値を設定し、現在の汚染状況がヒトの健康に及ぼす影響の評価の指標、ダイオキシン対策の指標等として活用してきた。
 このような状況の中、1998年(平成10年)5月、WHOの欧州地域事務局及び国際化学物質安全性計画(IPCS)により、専門家会合(以下「WHO専門家会合」)が開催され、ダイオキシンのTDIの見直しが行われた。
 我が国でも、環境庁及び厚生省が専門家会合を組織し、その合同会合(中央環境審議会環境保健部会ダイオキシンリスク評価小委員会及び生活環境審議会・食品衛生調査会ダイオキシン類健康影響評価特別部会)において、TDIの見直しを行うこととした。さらに、本年3月30日、ダイオキシン対策関係閣僚会議において「ダイオキシン対策推進基本指針」が策定され、その中でこのTDIの見直しを3ヶ月以内に行うこととされた。

 本報告書は、1998年(平成10年)のWHO専門家会合での議論を可能な限り詳細に分析・評価した上で、新たな知見を加えてダイオキシンのTDIについて検討したものである。

(注)本報告書における用語法

・「ダイオキシン類」とは、ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(PCDD)及 びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)を言う。
・「ダイオキシン」とは、ダイオキシン類に加え、コプラナーポリ塩化ビフェニ ル(コプラナーPCB)を含めたものを言う。


2.TDIを巡るこれまでの経緯の概要

(1)1990年(平成2年)のWHO欧州地域事務局専門家会合

 世界保健機関(WHO)欧州地域事務局が開催した1990年(平成2年)の専門家会合は、当時得られていた知見を評価した結果、ダイオキシン類の一種である2,3,7,8-テトラクロロジベンゾ−パラ−ジオキシン(2,3,7,8-TCDD)を用いて実施されたラットの2年間投与試験(Kocibaら,1978)の低用量で認められた体重増加抑制、肝障害などを指標とし、ラットに毒性を示さなかった投与量1ng/kg/日(無毒性量;NOAEL)に不確実係数(100)を適用し、2,3,7,8-TCDDの耐容一日摂取量(TDI)として、10pg/kg/日の値を提案した1)
 WHOがTDIの設定に用いたこの方法は、根拠とするデータの選択等について部分的な変更が加えられている場合もあるが、米国以外の各国の関係行政機関による規制値等の設定に際し、基本的な方式として取り入れられてきた。
 なお、米国環境保護庁(EPA)では、ダイオキシン類の健康影響に関して、WHOと異なる概念である実質安全量(VSD)を用いた評価を行っている2)

(2)我が国におけるTDI等の設定

 我が国においても、1996年(平成8年)、厚生省の「ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班」は、WHOの算定方式に基づき、ダイオキシンの科学的知見を検討した結果、上記のラット2年間投与試験に加え、ラット三世代生殖試験において認められた子宮内死亡、同腹児数の減少、生後の体重増加抑制などから、無毒性量を 1 ng/kg/日と判断し、不確実係数(100)を適用することにより、当面のTDIを、2,3,7,8-TCDDとして、10pg/kg/日と提案した3)
 また、1997年(平成9年)、環境庁の「ダイオキシンリスク評価検討会」は、Kocibaらのデータを根拠とするWHOの算定方式を採用しながらも、算定に当たってアカゲザルの試験データを勘案し、ダイオキシン類の健康リスク評価指針値(ダイオキシン類に係る環境保全対策を講ずるに当たっての目安となる値であり、ヒトの健康を維持するための許容限度としてではなく、より積極的に維持されることが望ましい水準としてヒトの暴露量を評価するために用いる値)を、5 pg/kg/日とした4)

(3)1998年(平成10年)のWHO専門家会合における見直し

 ダイオキシンの健康影響については、1990年(平成2年)以降においても、国際的に様々な調査研究が実施・継続されてきた。このため、WHO欧州地域事務局及び国際化学物質安全性計画(IPCS)は、1990年以降集積された新しい科学的知見に基づきTDIを見直すため、1998年(平成10年)5月、専門家会合をジュネーブ(スイス)にて開催した。本会合では、ダイオキシンに関する発がん性及び非発がん性の影響、小児への影響、体内動態、作用メカニズム、ダイオキシンによる暴露状況など広範な分野について、新しい科学的知見をもとに議論が行われた。
 その結果、毒性試験の結果をヒトにあてはめるに当たって、投与量を直接用いるのではなく、体内負荷量(body burden )に換算してあてはめる考え方を導入した。その上で、最も低い体内負荷量で毒性がみられた毒性試験の結果に基づいて算定した数値をヒトの最小毒性量とみなし、この値に不確実係数(10)を適用し、TDIを1〜4pgTEQ/kg/日とした。
 WHOの最終報告書概要によれば、現在の先進国における暴露状況が、2〜6pgTEQ/kg/日のレベルであると述べた上で、この暴露レベルにおいても微細な影響は生じているかもしれないが、現時点では明確な毒性影響の発現は報告されておらず、また、観察されている影響についても他の化学物質の影響が否定できないことから、1〜4 pgTEQ/kg/日が当面の耐容できる値であると考察している。その上で、結論として、4 pgTEQ/kg/日を当面の最大耐容摂取量( maximal tolerable intake on a provisional basis )とし、究極的には摂取量が1 pgTEQ/kg/日未満となるよう努めるべき、と記されている。


3.暴露の状況

(1)通常レベルの暴露

(1) 欧米諸国

 通常生活における暴露のほぼ90%以上は食事を通じて生じ、なかでも肉や乳製品等の動物性食品が主要な摂取源である。主要な工業国での調査によれば、一般にダイオキシン類と呼ばれているポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の暴露量は、1〜3 pgTEQ/kg/日とされる。なお、ダイオキシン類と同様な性質を有するコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)を加えると、2〜6 pgTEQ/kg/日とされている5)

(2) 日本

 我が国での平均的な暴露量は、欧米諸国のレベルとほぼ同程度ないし低いレベルにある。
 厚生省の食品調査(1997年度(平成9年度)、マーケットバスケット方式)では、ダイオキシン類への暴露は0.96pgTEQ/kg/日となっており、また、3種類のコプラナーPCBを含めると2.41pgTEQ/kg/日である6)。なお、飲料水からの暴露はほとんど無視できるほど小さい。
 大気からのダイオキシン類の暴露量は、1997年度に環境庁及び地方公共団体が実施したモニタリング調査結果7)の平均値0.55pgTEQ/mをもとに、1997年度ダイオキシンリスク評価検討会報告書4)等の試算方法に準じて計算すると、0.17pgTEQ/kg/日である。また、コプラナーPCBについては、現状ではデータが少ないが、1997年度の環境庁の調査結果8)における濃度範囲は0.044〜0.026pgTEQ/mであり、ダイオキシン類の濃度に比べて低いため、12種類のコプラナーPCBを加えても、暴露量は0.17pgTEQ/kg/日と変わらない。
 土壌からの暴露量は、全国的な土壌中濃度の現状、土壌の摂取量や土壌中ダイオキシン類の吸収率等必要な情報が必ずしも十分でなく、正確な推定が困難であるが、環境庁調査(1997年度)9)をもとに、土壌中のダイオキシン類の濃度を20pgTEQ/g、コプラナーPCBの濃度を2.2 pgTEQ/gとすると、ダイオキシン類の暴露量は0.0022〜0.019 pgTEQ/kg/日程度、12種類のコプラナーPCBを加えた暴露量は0.0024〜0.021 pgTEQ/kg/日程度が見込まれる。
 これらの各経路からの暴露量を合計すると、ダイオキシン類で1.15pgTEQ/kg/日程度、コプラナーPCBを加えると2.60pgTEQ/kg/日程度が日本人の平均的な暴露量と考えられる。(図1)
 このような暴露の結果として、人体の残留レベルは体脂肪中に10〜30pgTEQ/g脂肪(体重では2〜6 ngTEQ/kgに相当)になっていると考えられる5)。このレベルも主要工業国と同程度である。
(3) 母乳中のダイオキシン
 母乳を飲む乳児の一日摂取量は、諸外国のデータによれば体重当たりにすると成人と比較して大きく、我が国での最近の調査によれば、平均的にはダイオキシン類で概ね60pgTEQ/kg/日程度である10)
 一方、母乳中のダイオキシン濃度は過去20年間で低下しているという報告がいくつかの国でなされており、我が国においても、厚生科学研究による大阪府の保存母乳サンプルの調査結果では、1973年から1996年の間にダイオキシン類及び3種類のコプラナーPCBで半分以下に低減している。(図2)

(2)事故による暴露及び職業暴露

 事故による暴露や職業暴露により、通常レベルよりはるかに高い暴露を受けることがある。

(1) 事故による暴露

 地域的な事故汚染例として、米国・タイムズビーチの汚染やイタリア・セベソにおける化学品工場爆発事故等が知られている。セベソにおいては、2,3,7,8-TCDDの血清レベルは最大56,000pgTEQ/g脂肪であり、Aゾーン(高汚染地域)及びBゾーン(中汚染地域)でのそれぞれの中央値は450pgTEQ/g 脂肪及び126pgTEQ/g脂肪である12)
 食品のPCB汚染による中毒が、日本(1968年)及び台湾(1978年)において発生している。いずれも熱媒体として用いられたPCBとともに、極少量のダイオキシン類が食用油に混入したことによると言われている13,14)

(2) 職業暴露

 職業暴露の事例としては、2,4,5-トリクロロフェノール(2,4,5-TP)及びその誘導体の合成と使用にかかわる化学工場内での2,3,7,8-TCDDの暴露による中毒例が知られている。これらの事例の疫学調査において高濃度暴露労働者の血中2,3,7,8-TCDD濃度のレベルを推定すると、140〜2,000pgTEQ/g脂肪とされている15)。この推計値は通常人口集団の血中レベルの10〜100倍である。
 廃棄物焼却に伴う、ダイオキシン類への労働者の過剰暴露の事例としては、欧米での顕著な事例の研究が見当たらないが、最近我が国において行われた大阪府能勢町の廃棄物焼却施設に関連した調査では、比較的高い値が示されている16)

注) ダイオキシンの毒性等量は、I−TEF(1988)、WHO−TEF(1993)、WHO−TEF(1997)など用いる毒性等価係数により 若干異なるが、本文中には各引用文献に記載されていた毒性等量をそのまま 表記している。


4.ヒトに対する影響

(1)事故による中毒や職業的暴露の影響

 ヒトに対する影響についての知見が得られているのは、事故による中毒や職業暴露の事例であり、代表的なものは、次のとおりである。

(1) 2,4,5-T等製造作業者等における暴露の影響

 農薬の一種である2,4,5-T 等の製造業者におけるダイオキシン類への暴露は、主として2,4,5-T 製造工程での工場災害に起因している。工場災害事例に共通して認められた非がん症状は、クロルアクネ(塩素ざ瘡)の発生である17〜22)。クロルアクネ以外の非がん症状としては種々の症状が記述されているが19,23〜36)、工場災害事例に共通して指摘されている症状は乏しい。工場災害事例あるいは撤布作業に伴って暴露を受けた集団での全がん死亡率の上昇が報告されており37〜42)、報告例によっては部位別に呼吸器がん40〜42)、非ホジキンリンパ腫40〜42)、軟部組織肉腫39,40,43,44)等の発生率の上昇が観察されている。

(2) セベソの工場災害による暴露の影響

 工場災害に起因するダイオキシン類暴露が一般住民に及んだセベソの住民において、最も顕著に認められた非がん所見は、クロルアクネで、ことに子供に多く観察された45〜50)。0〜14歳児におけるクロルアクネ発生頻度は、地区別にみた2,3,7,8-TCDDの汚染レベルと対応していた48,49)。災害の発生した1976年から1991年に至る追跡調査では、Aゾーンに比して汚染レベルはやや低いが被災者数の多いBゾーンにおいて、災害10年以後に発生したがんについて解析すると、男子(直腸がん、リンパ造血系のがん及び白血病)、女子(消化器がん、胃がん、リンパ造血系のがん及び多発性骨髄腫)ともに各種部位別でのがん死亡の増加が認められた51,52)。また暴露レベルの高いAゾーンの住民で、1977年4月(災害9ヶ月後)から翌年12月までの間に出産をみた74例では、出産児の性は女子に偏っていた53)

(3) ベトナム戦争の退役軍人における暴露の影響

 ベトナム戦争でオレンジ剤(2,4,5-T が主成分)の撤布に従事した米国退役軍人を対象にした調査によれば、糖尿病等糖質代謝障害と2,3,7,8-TCDD暴露との関連性が指摘された54)。死因としては帰還後1年間に自動車事故、自殺等の事故の増加が指摘されたが、それ以降の死亡パターンは一般人口と変わらなくなった55〜57)

(4) 油症患者における暴露の影響

 1968年(昭和43年)に、福岡、長崎両県を中心に発生した油症では、原因となった米ぬか油及び患者の血液や脂肪組織から、PCBとともに極少量のダイオキシン類が検出された58)
 油症においては、面皰、毛孔の著明化、眼脂の増加、皮膚の色素沈着、爪の変形着色、クロルアクネ(塩素ざ瘡)などの所見が認められた。
 なお、1968年から1990年の間の調査では、男子において肝がんによる死亡の有意な増加がみられるが、知見として確立するためには、今後の更なる研究が必要との報告がある59)

(2)通常レベルの暴露

 食事等による通常レベルの暴露において明らかな健康影響を示す知見は報告されていない。
 通常生活における暴露のうち、特に、母乳経由のダイオキシン暴露による乳児の健康影響、あるいは胎児期における胎内暴露による健康影響については、いくつかの国で免疫系及び甲状腺機能などに関する研究が進められている。
 また、母乳哺育については、乳児の身体的発育や神経発達への有益な影響なども示されており、WHOの今回の専門家会合の議論においても、母乳中のダイオキシン濃度を下げるための努力が必要であるとしつつ、母乳推進の立場をとることに変更はなかった。


5.実験動物における影響

 ダイオキシン類には多くの同族体が存在するが、毒性試験には、主に、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDを被験物質として用いている。

(1)発がん性

 実験動物に対する2,3,7,8-TCDDの発がん性については、Kocibaらがラットの試験により、100ng/kg/日(2年間の連続投与)の投与量で、肝細胞がんの発生を観察、報告している60)(表1の番号23)が、その他に、マウスやラットを用いた長期試験で甲状腺濾胞腺腫、口蓋・鼻甲介・舌及び肺の扁平上皮がん、リンパ腫の誘発が、ともに、投与量71ng/kg/日(2年間の連続投与)(表1の番号22)において認められている61)
 なお、発がんメカニズムについては、遺伝子傷害性を検出するための複数の試験系で陰性の結果が得られ、マウスやラットを用いる二段階発がんの試験系でプロモーション作用が証明されている15)

(2)肝毒性

 肝毒性としては、グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼの上昇やポルフィリン症、高脂血症等の生化学的変化に加え、病理学的には肝細胞の肥大や脂質代謝異常などが観察されている。

(3)免疫毒性

 免疫毒性に関連する試験において、2,3,7,8-TCDD は動物に胸腺萎縮や細胞性及び体液性免疫異常を引き起こし、ウイルス感染に対する宿主抵抗性や抗体産生能の抑制も認められている64)(表1の番号15)。また、母ラットへ投与すると、児動物に遅延型過敏反応の抑制65)や抗体産生能の抑制66)がみられている(表1の番号12)。これらの影響は、単回投与で投与量100 ng/kg以上から発現しており、明確な用量依存性が認められている。
 マウスへの10 ng/kgの単回投与により、ウイルス感染性が増大するとの報告があるが、用量依存性は示されていない63)(表1の番号3)。

(4)生殖毒性

 生殖毒性試験では、母動物よりも胎児及び出生後の児動物への影響が強く現れ、妊娠中及び授乳中の投与により、以下のような影響が発現する。

(1) 児の口蓋裂、水腎症等

 生殖毒性試験においては、高用量の連続投与(投与量として500 ng/kg/日から)の2,3,7,8-TCDD の投与によって、ラットに腎形成異常67)、マウスに口蓋裂や水腎症が引き起こされる67,68)ことが報告されている(表1の番号19、25)。母動物よりも次世代への影響が強く発現し、ラットでの繁殖性試験では、次世代以降に受胎率の低下が認められている69)

(2) 児の雌性生殖器系への影響

 妊娠15日に母ラットに2,3,7,8-TCDDを単回投与した場合には、雌児動物における生殖器の形態異常が、投与量200 ng/kg(表1の番号13)からみられている70)

(3) 児の雄性生殖器系への影響

 妊娠ラットに2,3,7,8-TCDDを投与した場合には、児動物における精巣中の精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数減少、射精精子数減少などが認められたとされている。
 Faqiら(1998)の試験では、母ラットに交配2週間前から離乳まで皮下投与を行ったところ、低用量群(25 ng/kgを初回投与後、5ng/kg/週を投与)以上で精巣中の精子細胞数が用量依存的に減少している(表1の番号7)ほか、高用量群では血清中テストステロン濃度低下、精巣の組織学的変化等が認められている71)
 Mablyら(1992c)の試験においても、妊娠15日に母ラットに投与したところ、低用量(64 ng/kg)群で児動物の精巣中の精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数の減少、精巣上体重量低下、精巣上体尾部重量低下等が認められている72)(表1の番号11)。なお、児動物が成長した後の生殖能については、対照群と比べ有意な差は認められていない。
 Grayら(1997a)によれば、投与量200ng/kg(妊娠15日の母ラットへ単回投与)で精巣上体精子数減少、精巣上体尾部精子数減少、陰茎亀頭重量低下、包皮分離遅延などが、800 ng/kg投与群で射精精子数の減少が生じている73)(表1の番号14)。

(4) その他

 アカゲザルを用いた試験では、母動物に4年間投与し、投与開始後10年の時点において0.15 ng/kg/日で子宮内膜症の発生率と重篤度が有意に増加したとの報告がある74)(表1の番号9)。しかし、この試験には、飼育条件を含めた技術面の不備が指摘されている75)
 また、同じ研究機関において実施されたアカゲザルの試験では、母動物に投与(妊娠7ヶ月前から離乳期まで、0.15ng/kg/日)した場合の児動物に学習行動テストの成績の低下が観察されている76)(表1の番号8)。

(5)その他

 ラットにおいて薬物誘導酵素(CYP1A1)の誘導が1 ng/kgの投与量で認められており77)、また、マウス肝臓においては同様の影響が1.5ng/kgで認められている78)(表1の番号1、5)。
 また、マーモセットにおいてリンパ球構成の変化が0.3ng/kg及び10ng/kgの投与量で認められている79,80)(表1の番号2、4)。
 ウサギにおいてクロルアクネが4.0ng/kgの投与量で認められている81)(表1の番号6)。


6.体内動態

(1)経口摂取と吸収

 ダイオキシン類は、消化管、皮膚及び肺から吸収されるが、吸収の程度は、同族体の種類、吸収経路及び媒体により異なる。
 爆発事故などでは、ヒトは上記の3経路からダイオキシン類を吸収するが、日常生活では、ダイオキシン類の総摂取量の90%以上は経口摂取による。
 経口摂取での2,3,7,8-TCDDの吸収率は、植物油に溶かした場合は90%に近いが82,83)、食物と混和した場合は50〜60%82)、汚染された土壌からの吸収は、土壌の種類により大きく異なるが、植物油に溶かして投与した場合の約半分あるいはそれ以下である84〜86)
 なお、消化管吸収には動物種間に大きな差は認められていない。

(2)体内での分布

 ダイオキシン類を実験動物に経口投与した場合、主に血液、肝、筋、皮膚、脂肪に分布していく。特に肝及び脂肪に多く蓄積される87,88)。分布はダイオキシン類の同族体により、また、用量により異なる。
 2,3,7,8-TCDDの肝と脂肪との分布比には種差が認められるものの、その他は特に大きな種差あるいは系統差は認められていない。
 なお、血清中TCDD量は脂肪組織中の濃度と広い濃度範囲で良く対応している89)

(3)代謝・排泄

 一般にダイオキシン類は代謝されにくく90〜93)、肝ミクロゾームの薬物代謝酵素によりゆっくりと極性物質に代謝される。また、代謝には大きな種差がある94)。代謝物としては水酸化代謝物や硫黄含有代謝物が検出されている95)。代謝物の多くは抱合を受け、尿あるいは胆汁中に排出される94)。また、2,3,7,8-TCDDあるいはその代謝物と蛋白や核酸との共有結合はほとんど見られない96)
 ダイオキシン類は主に糞中に排出され97)、尿中への排泄は少なく、排泄速度には種差が大きい。ラットやハムスターの消失半減期は12〜24日、モルモットで94日、サルで約1年であった。ヒトに2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合の半減期は5.8年、9.7年であった。また、ベトナム参戦兵士での血清中半減期は7.1年、8.7年、11.3年であった4)

(4)母子間の移行

 ダイオキシン類は胎児へ移行するが、胎児の体内濃度が母体より高くなるとの報告はない98)。また、ダイオキシン類は母乳中に分泌されるので、乳汁を介して新生児に移行する99)

(5)体内負荷量

 一般に、化学物質による毒性発現は、一日当たりの暴露量よりも血中濃度や体内に存在する量(体内負荷量)に依存している。
 したがって、ダイオキシン類のように、高い蓄積性を有し、体内からの消失半減期に著しい種差の認められる化学物質のヒトにおける毒性を、毒性試験の結果に基づいて評価する場合には、動物での投与量や摂取量を、そのままヒトに当てはめることは必ずしも適切ではない。


7.毒性のメカニズム

 ダイオキシン類の毒性のメカニズムは、十分に解明されている段階に至ってはいないものの、ダイオキシン類による様々な毒性発現に共通するメカニズムとして、アリール炭化水素受容体(arylhydrocarbon receptor、以下Ahレセプター)との結合が指摘されている100)

(1)Ahレセプターを介した毒性

 ダイオキシン類の主たる毒性である肝臓や胸腺への毒性及び発生毒性が、Ahレセプターを持たないマウスでは観察されないという試験結果が得られており101,102)、これらの毒性は、細胞内にあるAhレセプターという蛋白を介して発現するものと考えられている。
 また、ダイオキシン類がAhレセプターに結合すると、さらにいくつかの蛋白と共同して、遺伝子の発現を変化させることが明らかにされており、その結果として多様な毒性が引き起こされるとされている103)
 ダイオキシン類とAhレセプターの親和性は、動物の種及び系統によって違いがあり104)、WHOの専門家会合においても、ヒトのAhレセプターとダイオキシン類との親和性は、ダイオキシンに対する感受性の低い系統のマウスのレベルに近いとの議論がされている。この点が、ヒトはダイオキシン類の毒性に対して感受性の低い種であるとみなす根拠となっている105,106)
 なお、ダイオキシン類による発がん性は直接的に遺伝子を傷つけるのではなく、他の発がん物質による発がん作用を促進するいわゆるプロモーション作用によるとされている。
 ダイオキシン類の発がん作用や内分泌かく乱作用に対するAhレセプターの関与の詳細なメカニズムについては、なお今後の研究を待たねばならないが、ダイオキシン類がAhレセプターと結合することが毒性発現のうえで重要な位置を占めていることは明らかである。

(2)Ahレセプターを介さない毒性

 ダイオキシン類による毒性のうちにはAhレセプターを介さないと考えられるものも認められているが107)、そのような毒性発現はAhレセプターを介する場合よりも高用量の暴露で生じるとされている。


8.毒性等価係数(TEF)と毒性等量(TEQ)

(1)ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物

 ダイオキシン類は、ポリ塩化ジベンゾーパラージオキシン(PCDD)及びポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の同族体210種の総称である。また、PCBのなかにも平面型の分子構造を有し、ダイオキシン類似の毒性作用を持つものがあり、コプラナーPCBと呼ばれている。

(2)毒性等価係数(TEF)

 上記物質の毒性発現は共通の作用機構として、Ahレセプターを介するメカニズムが考えられ、個々の同族体のそれぞれの毒性強度を、最も毒性が強いとされる2,3,7,8-TCDDの毒性を1とした、毒性等価係数(TEF:ToxicEquivalency Factor )を用いて表わす方法が用いられている。
 WHO等においては、TEFは、長期毒性、短期毒性、生体内(in vivo )及び試験管内(in vitro)の生化学反応についての試験結果を同族体間で比較して設定されている。TEFは、従来、その数字の改良がなされてきており、今後の新たな科学的知見によっては、さらに新たな数字に改善されるべきものである。

(3)毒性等量(TEQ)

 ダイオキシンは、通常は混合物として環境中に存在するので、摂取したダイオキシンの毒性の強さは、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和した毒性等量(TEQ:Toxic Equivalent)として表わすことができる。国際的には、TEQで表された数値により、ダイオキシンの毒性が評価されている。

(4)最新のTEFによるTEQの算出

 現時点では、多くの研究により概ね適正であると支持されていることから、1997年にWHOで再評価された最新のTEF108)をもとにTEQを算出してダイオキシン類及びコプラナーPCBの暴露評価に用いることが妥当である。
 なお、現在、毒性があるものとしてTEFが与えられているのは、表2のとおり、PCDDが7種、PCDFが10種、コプラナーPCBが12種である。


9.TDIの算定

(1)基本的考え方

 耐容一日摂取量(TDI)は、長期にわたり体内に取り込むことにより健康影響が懸念される化学物質について、その量まではヒトが一生涯にわたり摂取しても健康に対する有害な影響が現れないと判断される一日当たりの摂取量である。
 ダイオキシンについては、その体内動態、毒性メカニズム等を考慮すると、TDIの算定に当たっては、以下の(1)から(4)の考え方に基づくことが適当である。なお、この考え方は、WHOの専門家会合が採用した方針と同じものである。

(1)遺伝子傷害性が無いとの判断

 ダイオキシンは、直接的な遺伝子傷害性を有しないとの判断から、TDIの算出には、無毒性量(NOAEL)あるいは最小毒性量(LOAEL)に、不確実係数を適用する方法を用いる。

(注)遺伝子傷害性がある物質の場合は、いかにわずかな量であっても、健康影響を生じさせる可能性は、理論上ゼロにならない。そのため、それ以下では健康影響を生じないと考えられる摂取量は設定できない。すなわち、健康影響が懸念される境目となる閾値が存在しないとされる。このため、例えば、どの程度摂取すれば、人口100万人当たりにがん発生を何人増加させるかを理論的に計算し、この影響が極めて小さい値であれば、実質的には安全であるとする考え方がとられる。
 これに対し、遺伝子傷害性が無い物質の場合は、適切に実施された試験において毒性が観察されなかった摂取量(無毒性量)あるいは、毒性が観察された最小の摂取量(最小毒性量)に基づいて、ヒトに対して健康影響を生じない摂取量(暴露量)を設定する方法が国際的に繁用されている。

(2)体内負荷量への着目

 ダイオキシンのように蓄積性が高く、かつその程度に大きな種差がみられる物質については、影響との関連をみるためには、一日当たりの摂取量よりも体内負荷量に着目する方が適当である。

(注)蓄積性の高い物質は、長期間継続的に一定量を摂取し続けると、当初は、代謝・排出量を上回って吸収されることにより蓄積量が高まるが、蓄積量が高まるにつれて代謝・排出量が高まり、体内に存在する量(体内負荷量)は摂取量に対応する一定水準で平衡状態に達する。
 一般的に化学物質による毒性発現は、体内に存在する量に依存しているが、蓄積性の高い物質の毒性を評価するためには、どの程度の量を継続的に摂取し続ければ、その体内負荷量が毒性を発現する量に到達するかが重要となる。
 また、ダイオキシンは、体内からの消失半減期の動物間の種差が大きいため、毒性試験で得られた結果をヒトにあてはめる場合には、投与量ではなく、体内負荷量に着目し、動物で健康影響が生じる体内負荷量を試験で求め、ヒトの場合にどの程度の量を継続的に摂取すればその体内負荷量に達するかを求めることが適切である。

(3)試験データの評価

 各種毒性試験について、評価指標とした反応の毒性学的意義、用量依存性、試験の信頼性と再現性等を考慮の上、最低レベルの体内負荷量で毒性反応が認められた試験をTDI算定の対象とする。

(注)ダイオキシンについては、多数の毒性試験の結果が報告されているが、その中には動物に認められた反応に毒性学的意義がないと判断されるものや、反応自体には毒性としての意義はあるが、試験の信頼性、再現性が十分でないものも含まれている。これらの試験結果は毒性の定量的評価を行う根拠としては不適切である。従って、TDIの算出根拠として採用するための試験結果の選択には、慎重な検討が必要である。

(4)不確実係数の設定

 毒性試験の結果からヒトにおけるTDIを算定する際には、被験物質に対する感受性についてのヒトと動物の種差及びヒトの間での個体差、毒性試験の信頼性と妥当性等の不確実な要因が算定値に大きな影響を及ぼすので、実際の算定に当たり、それぞれの要因を慎重に検討して適切な係数(不確実係数)を設定し、不確実性を補償する手段がとられる。
 ダイオキシンのように生体に及ぼす影響が著しく多様で、影響の発現に大きな種差と系統差がみられる物質の場合には、毒性評価における不確実係数の意義は特に重要である。

(注)通常、種差及び個体差についての不確実係数は、体内動態及び作用メカニズムに関する知見に基づいて設定される。毒性試験の信頼性と妥当性については、試験条件、用量依存性及び評価に用いた影響の毒性学的意義等が重要な要因である。

(2)各種毒性試験における体内負荷量

 ダイオキシンについては、主として、最も毒性の強い2,3,7,8-TCDDを被験物質として多くの毒性試験が行われている。
 1990年以降に報告された各種の毒性試験の中から、それぞれについて、反応を引き起こす極めて低い用量についてのデータを集め、それらに対応する体内負荷量を求めた(表1)。
 この表1は、WHO専門家会合以降の新たな文献による試験等も取り入れてあるが、基本的にはWHO専門家会合が評価対象とした毒性試験は全て含んでおり、その意味で、WHOにおける評価と整合しているものである。
 なお、今回調査した各種試験においては、適切な無毒性量(NOAEL)のデータがほとんどないため、TDI算定には最小毒性量(LOAEL)のデータを用いた。
 また、体内負荷量については、信頼できる実測データがあるものについてはこれを採用し、その他は、文献的知見に基づき推計した計算値を採用した。

(注)Grayらの試験結果等一部のデータについては、WHO専門家会合において体内負荷量が示されているが、その算出方法が公表されていないため、今回、特に、そのWHO専門家会合に数値を提出したアメリカ合衆国環境保護庁(EPA)の研究者を訪問し、それが実測値であることを確認した。
 また、WHO専門家会合において示された体内負荷量の値のうち、一部については、毒性反応を調べた際の投与条件と異なる条件下での体内負荷量であることを確認したため、当該値を採用せずに、計算値を採用した。

(3)TDIの算定根拠となる動物の体内負荷量

 上記の各種毒性試験の結果、特に低いレベルの体内負荷量で影響が認められている試験結果を、その毒性学的意義、用量依存性、試験の信頼性、試験の再現性等を考慮の上、TDI算定の根拠データとしての妥当性について慎重に検討した。

(1) 酵素誘導を生じた試験結果

 ラットにおいて薬物代謝酵素(CYP1A1)の誘導が0.86ng/kgの体内負荷量で認められており65)、また、マウス肝臓においては同様の影響が20 ng/kgで認められているが78)、これらは、2,3,7,8-TCDD投与に対する毒性反応というよりは、むしろ生体の適応反応とみなすことが妥当である(表1の番号1、5)(5(5)参照)。

(2)リンパ球構成の変化を生じた試験結果

 マーモセットにおいてリンパ球構成の変化が9ng/kg及び10ng/kgの体内負荷量で認められているが(表1の番号2、4)、これらの影響に関しては、高用量において、低用量とは逆のTリンパ球サブセットの構成比変化の影響が認められているため、低用量で認められている影響をそのままヒトへあてはめることは不適当である(5(5)参照)。

(3)クロルアクネ(塩素ざ瘡)を生じた試験結果

 ウサギにおいて投与量4.0ng/kg(皮膚塗布)により、クロルアクネ(塩素ざ瘡)を生じる試験結果があるが81)、これは局所的な暴露による影響を示したものであり、これをもとに体内負荷量を算出するのは適当でないと考えられる(表1の番号6)(5(5)参照)。
 また、クロルアクネについてはヒトの知見が得られているため、TDI算出に当たっては、ヒトの知見を優先して採用する。なお、ヒトにおいてクロルアクネが認められている最小の体内負荷量のレベルは、95 ng/kgであるとされている11)(4(1)参照)。

(4)免疫毒性を生じた試験結果

 遅延型過敏症の抑制を指標としたラットにおける児動物の免疫毒性が体内負荷量86ng/kgで認められ65)(表1の番号12)(Gehrsら,1997)、抗体産生の抑制を指標としたマウスの親動物に対する免疫毒性が100ng/kgで認められている64)(表1の番号15)。これらの知見には、用量依存性も認められていることから、2,3,7,8-TCDDの影響と考えられる。
 一方、免疫毒性のうち、Burlesonら(1996)が10ng/kgでウイルス感染性が増大したとする試験63)(表1の番号3)については、用量依存性が得られておらず、ダイオキシンの影響として評価を行うには不十分である(5(3)参照)。
 なお、免疫系は多数の細胞群と可溶性因子からなる非常に複雑なネットワークであることから、免疫系への影響については、今後、複数の指標を用いた詳細な検討が必要と考える。

(5)雄性生殖器系への影響に関連する試験結果

 低い体内負荷量で影響が認められる精子形成関連の試験結果として、Faqiら(1998)、Mablyら(1992c)、Grayら(1997a)などの報告があり、27ng/kg以上(Faqiら、1998)、55ng/kg以上(Mablyら、1992c)、86 ng/kg以上(Grayら、1997a )の体内負荷量で児動物の精巣内精子細胞数の減少、精巣上体尾部精子数の減少などの変化が認められている71〜73)(表1の番号7、11、14)。
 これらの変化は毒性影響とみなしうるが、一方、体内負荷量のレベルと影響発現との関係については、雄性生殖器系への影響に関する他の試験結果との間に十分な整合性がみられていない。即ち、射精精子数への影響はこの体内負荷量のレベルでは認められず、425 ng/kgのレベルで発現すると報告されており73)、児動物の受胎率については、860 ng/kgのレベルでも対照群との間に統計学的な有意差が認められていない72)。さらに、Mablyらの試験と同じ条件で実施された国立環境研究所における試験によると、精巣内の精子細胞数及び精巣上体尾部精子数については、688 ng/kgの体内負荷量においても影響がみられなかったが、肛門生殖突起間距離の短縮が43ng/kgのレベルで認められている62)(表1の番号10)(5(4)(3)参照)。
 このように雄性生殖器系への影響については、影響の発現と体内負荷量のレベルとの関係が評価指標、試験項目あるいは実施機関により相違するので、影響を発現させる最低の体内負荷量は特定の試験による数値を採用するよりも、関連のある複数の試験結果の総合評価により決められるべきと判断される。

(6)子宮内膜症、児動物の学習能力低下に係る試験結果

 アカゲザルに対して40 ng/kgの体内負荷量で子宮内膜症の発生率の増加を観察した試験74)(表1の番号9)については、飼育条件を含めた技術面の不備が指摘されていることから、これを直接TDIの算定の出発点とするには、試験の信頼性が不十分であるとされている。
 また、同じ研究機関において、アカゲザルについて体内負荷量29〜38ng/kgで児動物に学習行動テストの成績低下が認められているが76)、この低下は訓練により回復可能な軽度のものとも考えられる(表1の番号8)。また、行動学的検査のみの評価であり、神経化学的、解剖学・組織学的検査等はなされていない。(5(4)(4)参照)。

(7)雌性生殖器形態異常を生じた試験結果

 ラットの雌児に生殖器形態異常(表1の番号13)を認めた試験70)は、毒性影響の観点から意義があり、かつ、用量依存性、試験の信頼性等についても適切と判断される。
 この試験では、ラットの妊娠15日に2,3,7,8-TCDDを投与し、妊娠16日の体内負荷量を実測したところ97 ng/kgであり、妊娠21日の体内負荷量の実測では76 ng/kgであったものである。妊娠16日から21日の間に発生学的に臨界期があるとされることから、両時期における測定値の中間的な値をとって86 ng/kgの数値を臨界期における体内負荷量とすることとする(5(4)(2))。

(4)ヒトの体内負荷量

 ダイオキシンによる毒性発現の種差と体内負荷量の関係についての系統的な調査研究の報告はないが、既存の毒性試験と疫学的調査結果を総合すると、毒性影響を引き起こすための体内負荷量の値について、ヒトと動物との間で大きな相違はないと考えられる。1998年のWHO専門家会合においても同様の議論がなされている。以上の観点に立って、毒性試験において何らかの毒性影響を生じさせる最小の体内負荷量は、ヒトに対しても毒性影響を及ぼす最小の体内負荷量であるとする考え方を評価に適用することとした。

(5)ヒトの一日摂取量の算定

 ヒトが生涯暴露により、この体内負荷量に達するために必要な一日摂取量を推計するために、WHO専門家会合において採用されたものと同一の次の計算式を用いる。

計算式図

(6)不確実係数の決定

 毒性試験データから推測されたヒトとしてのLOAELに基づいて、ヒトでのTDIを算出するためには、不確実性を補償するため、不確実係数を適用することが必要である。その係数としては、次の要因を考慮し、WHO専門家会合が用いた数値と同じく、10とすることとした。

ア TDI算出の根拠となる数値として、NOAELの代わりにLOAELを用いていること。
イ ヒトの最小毒性量の算出に際して、体内負荷量を用いているので、上記(4)の議論から、体内動態に起因する種差の要素は、考慮しなくて良いこと。
ウ ヒトが実験動物よりもダイオキシンに対する感受性が高いとする明確な知見はなく、むしろ、Ahレセプターとの親和性に関する研究など、ヒトの方が感受性が低いとみられるデータは存在すること。
エ 毒性発現のヒトにおける個体差に関する知見が不足していること。
オ ダイオキシンの同族体ごとの半減期についての知見が不十分であること。

(7)TDIの決定

(1)TDIの算定根拠とする体内負荷量の選択

 各種毒性試験における体内負荷量と影響発現との関係は、図3に示す通りであるが、これらのうちで明らかに毒性とみなされる影響を評価指標としている試験についてみると、(3)での議論のごとく、影響の発現が示される最も低い体内負荷量の値は、雌性生殖器の形態異常を示した事例を含め、概ね86 ng/kg前後に存在する。より低い体内負荷量で影響が認められた試験もあるが、用量依存性、試験の信頼度と再現性、影響の毒性学的な意義を総合的に勘案すると、これらの試験での個々の数値は、ヒトの健康影響の指標とするためには、信頼性が相対的に低く、十分でないと考えられる。
 このため、TDIの算定根拠とする体内負荷量は、特定の試験に基づく特定の数値によるよりも、検討した試験結果の総合評価によって決められるべきであると考えに立って、(3)での議論を踏まえて、その値を概ね86ng/kgとするのが適当であると判断する。

(2)WHO欧州地域事務局専門家会合の報告

 WHO欧州地域事務局専門家会合は、各種の毒性試験の結果から、TDIの値を1〜4pg TEQ/kg/日の範囲として示しつつ、先進国における一日摂取量が2〜6 pgTEQ/kg/日であり、微細な影響が先進国の一般住民の一部に起こっているかもしれないが、報告されている微細な影響が明白な悪影響と考えられないこと、また、認められた影響についてはダイオキシン以外の化合物が関与しているという疑いもあることから、当面、この水準が耐容しうるものとして、4 pgTEQ/kg/日を最大耐容摂取量と考え、究極的な目標としては、ヒトの摂取レベルを1 pgTEQ/kg/日未満に低減していくことが適当だとしている。
 我が国においても、WHO専門家会合の結論と同様、当面、現在の暴露状況は耐容しうる範囲のものと考えられる。

(3)結論

 ダイオキシンのヒトに対する健康影響については、未解明の面が残されているが、既存の科学的知見を対象とした論議を踏まえ、2,3,7,8-TCDDとして、86ng/kgの体内負荷量の値に対応するヒトの1日摂取量43.6pg/kg/日に不確実係数の10を適用した数値を根拠に、コプラナーPCBを含め、4pgTEQ/kg/日を当面のTDIとすることが適当である(図4)。
 なお、一部の毒性試験においては、86 ng/kg以下の体内負荷量のレベルで微細な程度の影響が認められていることから、それらの毒性学的意義を含め、今後とも、調査研究を推進していくことが重要である。

(8)従前のTDIの算定方法との相違

 平成2年のWHO、平成8年の厚生省研究班の報告書では、毒性試験の無毒性量に不確実係数を直接に適用して、ヒトのTDIを求めているが、平成10年のWHO報告書と本報告書では、毒性試験の投与量そのものではなく、体内負荷量の数値をTDI算定の根拠としている。
 従来より毒性試験の結果からヒトのTDIを求める際には、100の値を標準とする不確実係数が経験的に適用されている。近年実施されているリスクアセスメントにおいては、種差及び個体差に関する不確実係数の設定に当たり、被験物質の体内動態及び作用メカニズムに関する科学的知見を導入して、ヒトへの適用に見合った値を推測する方法が用いられるようになった。本報告書においても、ダイオキシンの体内動態と作用メカニズムに関する研究知見を取り入れて、不確実係数に10を設定している。
 なお、従前の評価に当たっては、長期間の連続投与試験の結果を対象としていたが、今回の評価では、ダイオキシンの主要な毒性がAhレセプターとの結合を介して発現することを前提とし、体内負荷量を用いることにより、単回投与及び短期間投与の試験結果をヒトの長期微量暴露にあてはめることが可能となり、その結果、用量反応の指標として、生殖毒性試験等における感度の高い多種類の健康影響指標を考慮できることとなったものである。


10.おわりに

(1)TDIの意義と留意点

(1)一生涯の暴露に対する指標であること

 TDIの一般的な意義として留意すべきことは、TDIは、生涯にわたって連日摂取し続けた場合の健康に対する影響を指標として算出された値であるということである。
 したがって、一生涯の間に一時的に摂取量がTDIを多少超過することがあったとしても、長期間での平均摂取量がTDI以内ならば、健康を損なうものではないことを意味する。

(2)最も感受性の高い時期における毒性を指標とした数字であること

 本報告書で示したTDIの算出に際して留意すべき点としては、ダイオキシンの毒性試験において最も感受性が高いと考えられる胎児期における暴露による影響を指標としたものである。したがって、ヒトの集団全体に対する評価としては、より安全サイドに立ったものと見なすことができる。
 ちなみに、例えば、発がん性などの影響の発現については、より高い暴露により起こるものである。

(3)不確実係数を適用した数字であること

 本報告書のTDIは、毒性試験の結果に不確実係数を適用し、ヒトと動物との感受性の差や個人差等も織り込んだものとなっている。

(4)食事と母乳

 ダイオキシンへの暴露は、大部分が食品からのものであり、食品の種類によって、汚染状況が異なることも事実であるが、それぞれの食品の持つ栄養素の重要性や、体への良い影響も考慮し、バランスの取れた良い食生活を送ることが重要である。
 また、母乳を介して乳児が取り込むダイオキシンの影響については、継続して研究を行う必要があるが、母乳哺育が乳幼児に与える有益な影響から判断し、今後とも母乳栄養は推進されるべきものである。WHOの専門家会合においても、同様の結論が得られている。なお、わが国の母乳中のダイオキシン濃度は、過去20年程度の間に半分以下に低下しているという調査結果もある。

(5)ダイオキシン汚染濃度の低減

 我が国においては、現在の国民の平均的な一日摂取量は、2.6pgTEQ/kg/日程度である。また、母乳中のダイオキシン濃度が低下していることから、暴露量は低減してきていると考えられる。
 さらに、政府のダイオキシン対策推進基本指針によれば、廃棄物焼却施設等からの排出削減対策等の推進により、今後4年以内に、平成9年に比べダイオキシンの排出量を約9割削減することとしており、環境中のダイオキシン濃度は、一層の低下が期待できる。

(2)今後の対策の推進

(1)ダイオキシン対策の推進

 我が国の現在のダイオキシンへのヒトの暴露状況は、今回のTDIと比べて十分に低いとはいえないことから、食物連鎖中のダイオキシンを減少させ、ヒトの体内負荷量を低減させるため、環境への排出を削減することが必要である。
 また、ダイオキシンは、有用目的のために生産される化学物質ではなく、生物にとって有害で無益なものであるから、将来的には、摂取量をできる限り少なくしていくことが望ましいことは言うまでもない。
 国、地方公共団体、事業者、一般国民を含め、あらゆる関係者が、ダイオキシンの環境への排出削減に向けた取組みを推進していくことが何より重要である。

(2)今後の調査研究の必要性

 今回のTDIは、ダイオキシンに関する既存の主要な科学的知見を基に算出された当面のものである。
 ダイオキシンの人体影響については、未解明な部分が多く、今後とも、引き続き、毒性試験や人体への影響調査等各種の調査研究を推進することが重要である。
 WHO専門家会合報告書でも、TDIについては、5年後程度を目途に再検討するとしており、我が国における今後の調査研究の進展や、WHOの検討状況を踏まえながら、改めて検討していくことが適当である。


図



図


表1 ダイオキシンに関する各種毒性試験の結果一覧

No. 動物種 生物影響 LOEL又はLOAEL 体内負荷量
ng/kg
ヒト暴露レベル**
pg/kg/day
文献 ***
ng/kg 投与条件*
1 ラット P450酵素誘導 1 po,単回投与 0.86 0.44 Van den Heuvel ら(1994) 1
2 マーモセット リンパ球構成の変化 0.3 sc,1回/週,24週
その後1.5ng/kg/週,12週
9 4.56 Neubertら(1992) 1
3 マウス ウイルス感染性増大 10 po,単回投与,
7日後に感染処置
9 4.56 Burlesonら(1996) 1
4 マーモセット リンパ球構成の変化 10 sc,単回投与 10 5.06 Neubertら(1990) 1
5 マウス P450酵素誘導 1.5 po,5回/週,13週, 20 10.13 DeVitoら(1994) 1
6 ウサギ クロルアクネ 4.0 皮膚塗布,5/週,4週 22 11.14 Schwetzら(1973) 1
7 
 
ラット 
 
精巣中の精子細胞数低下 
 
25 
 
母獣にsc,単回投与後,
sc5ng/kg/週,離乳まで投与
初回投与後2週間目に交配開始
27 
 
13.67 
 
Faqiら(1998) 
 
1 
 
8 サル 学習行動テスト成績の低下 0.151 母獣に混餌,20.2ヶ月 29 14.69 Schantz & Bowman(1989) 1
9 サル 子宮内膜症 0.15 混餌,4年 40 20.26 Rierら(1993) 1
10 ラット 肛門生殖突起間距離短縮 12.5 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 43 21.77 Ohsakoら(1999) 1
11 ラット 精巣中の精子細胞数低下 64 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 55 27.85 Mablyら(1992) 1
12 ラット 免疫毒性 100 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 86 43.55 Gehrsら(1997) 1
13 ラット 生殖器形態異常 200 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 86 43.55 Grayら(1997) 2
14 ラット 精巣上体精子数の低下 200 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 86 43.55 Grayら(1997) 2
15 マウス 免疫毒性 100 トウモロコシ油溶解,ip,単回投与 100 50.64 Narasimhanら(1994) 1
16 サル 出生児死亡率増加 0.76 混餌,4年 202 102.3 Bowmanら(1989) 1
17 ラット 出生児体重の低下 400 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 344 174.2 Mablyら(1992) 1
18 サル クロルアクネ 1000 混餌,po,9回(4匹),単回投与(12匹) 500 253.2 McNulty(1985) 1
19 ラット 腎形成異常 500 sc,単回投与 500 253.2 Courtneyら(1971) 1
20 ラット 出生児死亡率増加 1000 po,単回投与 860 435.5 Grayら(1997) 1
21 ラット 成長遅延 1000 トウモロコシ油溶解,母獣にpo,単回投与 860 435.5 Bjerke&Peterson(1994) 1
22 マウス 発ガン 71.4 po,2回/週,104週 979 495.7 NTPNo.209(1982) 1
23 ラット 発ガン 100 混餌,2年 1,710 865.8 Kocibaら(1978) 1
24 ハムスター 出生児体重の低下 2000 母獣にpo(未確認),単回投与 1,720 870.8 Schuepleinら(1991) 1
25 マウス 水腎症 3000 トウモロコシ油溶解,po,30週 2,580 1,306 Coutureら(1990) 1
24 ラット EGFRのdown regulation 125 トウモロコシ油溶解,po,30週 3,669 1,858 Sewall(1993) 1
25 ラット 発ガンプロモーション 125 トウモロコシ油溶解,po,30週 3,669 1,858 Maronpotら(1993) 1

*: po(経口投与) sc(皮下投与) ip(腹腔内投与)
** : ヒトでの半減期7.5年、吸収率0.5として定常状態の時の一日摂取量を計算した。
 ヒト一日摂取量=(body burden×ln2)/(T1/2×吸収率)
***:1: 原著の投与方法から体内負荷量を計算(ゲッ歯類では混餌では吸収率を50%、トウモロコシ油で経口投与では86%として計算)。
2: 体内負荷量は妊娠16日及び21日での測定値から計算(Hurst ら, personal communication)


表2 ダイオキシン類及びダイオキシン類似化合物の毒性等価係数(TEF):
1997年におけるWHOの再評価によるもの

  化合物名 TEF値
PCDD
(ポリ塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン) 
2,3,7,8-TCDD
1,2,3,7,8-PeCDD
1,2,3,4,7,8-HxCDD
1,2,3,6,7,8-HxCDD
1,2,3,7,8,9-HxCDD
1,2,3,4,6,7,8-HpCDD
OCDD
1
1
0.1
0.1
0.1
0.01
0.0001
PCDF
(ポリ塩化ジベンゾフラン)
2,3,7,8-TCDF
1,2,3,7,8-PeCDF
2,3,4,7,8-PeCDF
1,2,3,4,7,8-HxCDF
1,2,3,6,7,8-HxCDF
1,2,3,7,8,9-HxCDF
2,3,4,6,7,8-HxCDF
1,2,3,4,6,7,8-HpCDF
1,2,3,4,7,8,9-HpCDF
OCDF
0.1
0.05
0.5
0.1
0.1
0.1
0.1
0.01
0.01
0.0001
コプラナーPCB 3,4,4',5-TCB
3,3',4,4'-TCB
3,3',4,4',5-PeCB
3,3',4,4',5,5'-HxCB
 
2,3,3',4,4'-PeCB
2,3,4,4',5-PeCB
2,3',4,4',5-PeCB
2',3,4,4',5-PeCB
2,3,3',4,4',5-HxCB
2,3,3',4,4',5'-HxCB
2,3',4,4',5,5'-HxCB
2,3,3',4,4',5,5'-HpCB
0.0001
0.0001
0.1
0.01
 
0.0001
0.0005
0.0001
0.0001
0.0005
0.0005
0.00001
0.0001

TEF:
ダイオキシン類あるいはダイオキシン類似化合物には多種類の化合物があり、それぞれの毒性の強度は異なる。このため、通常は多種類の混合物であるダイオキシンの毒性を把握するために、2,3,7,8-TCDDの毒性の強度を1として、個々の化合物の毒性強度を表した数値。


図


図


(参考) 省略語一覧

TDI: Tolerable Daily Intake(耐容一日摂取量)
PCDD: Polychlorinated dibenzo-p-dioxin(ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
2,3,7,8-TCDD: 2,3,7,8-Tetrachlorodibenzo-p-dioxin
(2,3,7,8-テトラクロロ(4塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
PeCDD: Pentachlorodibenzo-p-dioxin
(ペンタクロロ(5塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
HxCDD: Hexachlorodibenzo-p-dioxin
(ヘキサクロロ(6塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
HpCDD: Heptachlorodibenzo-p-dioxin
(ヘプタクロロ(7塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
OCDD: Octachlorodibenzo-p-dioxin
(オクタクロロ(8塩化)ジベンゾ−パラ−ジオキシン)
PCDF: Polychlorinated dibenzofuran
(ポリ塩化ジベンゾフラン)
TCDF: Tetrachlorodibenzofuran
(テトラクロロ(4塩化)ジベンゾフラン)
PeCDF: Pentachlorodibenzofuran
(ペンタクロロ(5塩化)ジベンゾフラン)
HxCDF: Hexachlorodibenzofuran
(ヘキサクロロ(6塩化)ジベンゾフラン)
HpCDF: Heptachlorodibenzofuran
(ヘプタクロロ(7塩化)ジベンゾフラン)
OCDF: Octachlorodibenzofuran
(オクタクロロ(8塩化)ジベンゾフラン)
Co-PCB: Coplanar polychlorinated biphenyl(コプラナーポリ塩化ビフェニル)
EPA: United States Environmental Protection Agency(米国環境保護庁)
VSD: Virtually Safe Dose(実質安全量)
TEQ: Toxic Equivalent(毒性等量)
*ダイオキシン類のそれぞれの同族体の毒性を2,3,7,8-TCDDに換算して合計したもの
2,4,5-T: 2,4,5-Trichlorophenoxyacetic acid
I-TEF: International Toxic Eqivalency Factor(国際毒性等価係数)
Ahレセプター: Arylhydrocarbon receptor(アリール炭化水素受容体)
*細胞質に存在し、ダイオキシン類のような芳香族炭化水素と特異的に結合し、その結合により、毒性影響が発現するとされている蛋白質
NOAEL: No Observed Adverse Effect Level(無毒性量)
*その投与量までは、毒性影響が現れない投与量
LOAEL: Lowest Observed Adverse Effect Level(最小無毒性量)
*投与物質による毒性影響が現れる最小の投与量
LOEL: Lowest Observed Effect Level(最小影響量)
*投与物質による影響が現れる最小の投与量

ng: ナノグラム(1グラムの10億分の1の量、10−9グラム)
pg: ピコグラム(1グラムの1兆分の1の量、10−12グラム)


参 照 文 献


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ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)についての審議経過
(厚生省生活環境審議会・食品衛生調査会、環境庁中央環境審議会)


平成10年

5月 WHO専門家会合にて、ダイオキシンのTDIが見直される。
6月29日 我が国のTDIの見直しを行うため、厚生省の生活環境審議会及び食品衛生調査会に、ダイオキシン類健康影響評価特別部会を設置し、第1回を開催。
11月16日  中央環境審議会環境保健部会を開催し、ダイオキシンリスク評価小委員会の設置を決定

平成11年

1月28日 第1回合同会合
(環境庁及び厚生省がTDIの見直しを共同で検討するため、環境庁の上記小委員会と、厚生省の上記特別部会の合同会合を開催することとした。)
・環境庁及び厚生省におけるこれまでの取り組み
・WHO専門家会合におけるTDIの見直し
・今後の進め方(ワーキンググループの設置)
2月24日 第1回ワーキンググループ会合 ・既存文献の詳細検討
3月12日 第2回ワーキンググループ会合
3月28日 第3回ワーキンググループ会合
3月30日 政府のダイオキシン対策関係閣僚会議で、ダイオキシン対策推進基本指針が決定。この中で、TDIの見直しは、3か月以内に結論を得ることとされた。
4月 7日 第4回ワーキンググループ会合
 ・TDIの算出についての考え方の整理等について
4月14日 第2回合同会合
 ・TDIの算出についての考え方の整理等について
5月12日 第5回ワーキンググループ会合
5月24日 第6回ワーキンググループ会合
 ・各種毒性試験の結果の評価及びTDIの算定について
6月 4日 第7回ワーキンググループ会合
 ・報告書案について
6月21日 第3回合同会合
 ・報告書案について

*同日、中央環境審議会環境保健部会、食品衛生調査会常任委員会を開催。


ダイオキシンの耐容一日摂取量(TDI)について(概要)

(環境庁中央環境審議会環境保健部会、厚生省生活環境審議会、
食品衛生調査会 報告書概要 平成11年6月)

1.はじめに

 耐容一日摂取量(TDI:Tolerable Daily Intake)は、ダイオキシンによる健康影響を未然に防止する観点から的確な対策を講じる上で、重要な指標。本報告書は、最新の知見をもとに、ダイオキシンのTDIについて検討した。

図

2.これまでの経緯

1990年
(平成2年)
WHO欧州地域事務局専門家会合報告書 TDIは、10pg/kg/日
1996年
(平成8年)
厚生省ダイオキシンのリスクアセスメントに関する研究班 TDIは、10pg/kg/日
1997年
(平成9年)
環境庁ダイオキシンリスク評価検討会 健康リスク評価指針値として5pg/kg/日
1998年
(平成10年)
WHO欧州地域事務局・国際化学物質安全性計画(IPCS)専門家会合 TDIは1〜4pgTEQ/kg/日。当面の最大耐容摂取量は4pgTEQ/kg/日。究極的に1pgTEQ/kg/日未満に低減。


3.暴露の状況  4.ヒトに対する影響

  暴露の状況 ヒトに対する影響
通常レベルの
暴露
・欧米諸国:2〜6pgTEQ/kg/日
・日本: 2.6pgTEQ/kg/日
(いずれもコプラナーPCBを含む)
・母乳中のダイオキシン濃度は過去20年間で2分の1以下に低下。
明らかな健康影響を示す知見は報告されていない。
事故による高用量の暴露 ・タイムズビーチ(米国)、セベソ(イタリア)等
・化学工場内での職業暴露
高用量の暴露で、がん死亡率の上昇、クロルアクネ(塩素ざ瘡)等


5.動物実験における影響

(1)発がん性
(2)肝毒性
(3)免疫毒性
(4)生殖毒性(形態異常、生殖器系への影響等)
(5)その他


6.体内動態

(1)経口摂取と吸収 消化管、皮膚及び肺から吸収。
(2)体内での分布 血液、肝、筋、皮膚、脂肪に分布。
特に肝、脂肪に多く蓄積。
(3)代謝、排泄 代謝されにくい。
主に糞中に排出。排泄速度には種差が大きい。
(4)母子間の移行 ダイオキシン類は胎児に移行するが、胎児の体内濃度が母体より高くなることはない。
母乳を介して新生児に移行する。


7.毒性のメカニズム

・ダイオキシンの毒性は、細胞内のAhレセプターという蛋白との結合を介して発現。

・ヒトはダイオキシンの毒性に対して感受性の低い種とみなされている。

・ダイオキシンの発がん性は、遺伝子傷害性でなく、他の発がん物質による発がん作用を促進するプロモーション作用による。

・Ahレセプターを介さない毒性もあるが、高用量の暴露で生じる。


8.毒性等価係数(TEF)と毒性等量(TEQ)

(1)毒性等価係数(TEF: Toxic Equivalency Factor):

・ダイオキシンの個々の同族体の毒性の強さを、最も毒性の強い2,3,7,8-TCDDを1として表した係数。

(2)毒性等量(TEQ: Toxic Equivalent):

・多数の同族体の混合物として存在するダイオキシンの毒性の強さを、各同族体の量にそれぞれのTEFを乗じた値を総和して表した値。

(3)現時点では、1997年のWHOの最新のTEFを用いることが適当。

・現在、毒性があるものとしてTEFが与えられているのは、PCDDが7種、PCDFが10種、コプラナーPCBが12種


9.TDIの算定

(1)基本的な考え方(WHOが採用したものと同じ)

ア.ダイオキシンの毒性が、直接的な遺伝子傷害性が無いとの判断から、TDIの算出には、無毒性量(NOAEL)あるいは最小毒性量(LOAEL)に、不確実係数を適用する方法を用いる。

イ.ダイオキシンのように蓄積性が高く、かつその程度に大きな種差がみられる物質については、影響との関連をみるためには、一日あたりの摂取量よりも、体内負荷量(body burden)に着目する方が適当である。

ウ.各種毒性試験において評価指標とした反応の毒性学的意義、用量依存性、試験の信頼性、試験の再現性等を考慮の上、最低レベルの体内負荷量で毒性反応が認められた試験を、TDI算定の対象とする。

エ.動物実験の結果から人におけるTDIを算定する際には、不確実性をもった様々な要因が算定値に大きな影響を及ぼすので、不確実係数を設定。

(2)各種毒性試験における体内負荷量

影 響 動物試験による体内負荷量 評 価
(1)薬物代謝酵素
誘導
0.86ng/kg(ラット)
20 ng/kg(マウス)
投与に対する生体の適応反応とみなされる。
(2)リンパ球の
構成変化
9ng/kg(マーモセット)
10ng/kg(マーモセット)
高用量において、低用量での影響とは逆の構成比変化。
(3)クロルアクネ
(塩素ざ瘡)
4.0ng/kg(ウサギ) 局所的な暴露の影響であり、体内負荷量の算定は不適当。
また、ヒトの知見を優先採用。
(4)免疫毒性 86ng/kg(ラット)
100ng/kg(マウス)
毒性影響と認められる。免疫系は複雑であり、今後、複数の指標を用いた詳細な検討が必要。
(5)雄性生殖器系
への影響
児動物の精巣内精子細胞数等の減少が、27ng/kg以上、55ng/kg以上、86ng/kg以上で観察されたとする報告あり。
しかし、688ng/kgでも観察できなかったとの報告もある。
射精精子数の減少は425ng/kgで観察された。
受胎率低下は860ng/kgでも有意差認められず(以上ラット)
雄性生殖器系への影響については、影響の発現と体内負荷量のレベルの関係が評価指標、試験項目、実施機関により相違するので、影響を発現させる最低の体内負荷量は、特定の数値を採用するよりも、複数の実験結果の総合評価により決められるべき。
(6)子宮内膜症 40ng/kg(アカゲザル) 試験の信頼性が不十分。
(7)学習行動テスト
成績低下
29〜38ng/kg(アカゲザル) 訓練で回復可能な軽度なもの。
行動学的検査のみの評価。
(8)雌性生殖器
形態異常
86ng/kg(ラット) 毒性影響であり、用量依存性、試験の信頼性等あり。

(3)ヒトの一日摂取量の算定方法

ヒトが生涯暴露により、この体内負荷量に達するために必要な一日摂取量を、WHOと同じ計算式で求める。

(4)不確実係数の決定

様々な要因を考慮し、WHOと同じく10とした。

(5)TDIの決定

・各種試験の結果を総合的に判断し、概ね86ng/kg前後をTDIの算定根拠とする体内負荷量とする。

・WHO専門家会合も、TDIを1〜4pg/kg/日としつつ、当面、現在の先進諸国の暴露量が耐容しうるものと考えられることから、4pg/kg/日を最大の耐容摂取量とし、究極的には1pg/kg/日未満に低減していくことを目標としており、我が国でも、当面、現在の暴露状況は耐容しうる範囲のものと考えられる。

・以上から、当面の間のダイオキシンのTDIは、86ng/kgの体内負荷量から、ヒトの一日摂取量を求め、不確実係数の10を適用し、4pgTEQ/kg/日とすることが適当。

・なお、いくつかの動物実験において、体内負荷量86ng/kg以下のレベルでも微細な影響が認められており、今後とも調査研究を推進。


10.おわりに

(1)TDIの意義と留意点

(1)TDIは、生涯にわたって摂取し続けた場合の健康影響を指標とした値であること。
 →従って、一時的に多少超過しても健康を損なうものではない。

(2)今回のTDIは、最も感受性が高い胎児期の暴露の影響を指標としたこと。
 →従って、人の集団全体に対する評価としては、より安全サイドに立っている。ちなみに、発がん性等は、より高用量の暴露で起きるもの。

(3)不確実係数を適用した数字であること。
 →感受性の差など個人差等も織り込んだものとなっている。

(4)ダイオキシンの暴露は大部分が食事によるものだが、それぞれの食品の持つ栄養素の重要性等も考慮し、バランスの取れた食生活が重要。
 母乳から乳児が取り込むダイオキシンの影響については、なお研究が必要だが、母乳哺育の有益な影響から母乳栄養は推進されるべきとされる。

(5)母乳中のダイオキシン濃度が過去20年程度の間に半分以下に低下していることからわかるように、我が国のダイオキシン暴露量は低減してきたと考えられる。
 さらに、政府では、今後4年以内にダイオキシンの総排出量を9割削減することとしており、環境中のダイオキシン濃度は今後一層低下が期待。

(2)今後の対策

(1)ダイオキシン対策の推進
・我が国の現在の暴露状況は、今回のTDIと比べて十分に低いと言えないことから、環境への排出を削減することが必要。
・ダイオキシンは生物にとって有害で無益なものであるから、将来的には、摂取量をできる限り少なくしていくことが望ましい。
・あらゆる関係者が、排出削減に向けた取り組みを推進することが重要。

(2)今後の調査研究の必要性
・今回のTDIは、既存の科学的知見を基に算出された当面のもの。
・ダイオキシンの人体影響については、未解明な部分が多く、各種の調査研究の推進が重要。
・今後の調査研究の進展や、WHOの再検討の状況を踏まえながら、改めて検討していくことが適当。


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