有効性・安全性に関する統計用語集

ケースコントロール試験 Case control study

 後ろ向き調査ともいわれ、患者群と非患者群につき、原因と思われる因子を有するか否かを調査し、疾患の発生と原因と思われる因子の関係を調べるものである。例えば、症例群(乳癌患者群)と対照群(非乳癌患者群)において、経口避妊薬(OC)の使用の有無を過去にさかのぼって(レトロスペクティブに)調査する方法である。すでに発生した疾患を対象群として選択できるので、比較的まれな疾患の調査にとりわけ効率はよいが、情報を過去にさかのぼって調査するので種々の偏りが避けられない。リスクは、通常「オッズ比」(後述)で示される。

コホート試験 Cohort study

 前向き調査とも呼ばれ、原因と考えられる因子の有無によって構成された2つの群を長期間追跡し、因子ありの群が因子なしの群に比べ、ある疾患に罹る危険性が大きいか否かを観察するものである。例えば、最初からOCを使用している女性群と使用していない女性群で、将来、調査対象である疾患(例:乳癌)に罹患する率がどれくらい異なるかを前向きに(プロスペクティブに)追跡していく方法である。ケースコントロール試験と異なり結果は直接的で明らかにされるが、非常に多数の患者と長い調査期間を要する。リスクは、通常「相対リスク」(後述)で示される。

相対リスク(Relative risk)とオッズ比(Odds ratio)

 OCの使用者と非使用者の罹患者数(例:乳癌患者数)が下表の場合を例に相対リスクとオッズ比を説明する。

  ある疾患 合 計
あ り な し
OC使用 あ り A+B
な し C+D

 OC使用者での発症率は p=A/(A+B)、OC非使用者での発症率は p=C/(C+D) となり、2つの発症率の比p/p相対リスクといい、OC非使用者群に比べOC使用者群では何倍高く(あるいは低く)なるかを表す。一方、OC使用者の疾患オッズは p=A/B、OC非使用者の疾患オッズは p=C/Dであり、OC非使用者群と比べた場合の、OC使用者群の疾患オッズの比 p/pを、オッズ比という。発症率が低い場合、オッズ比と相対リスクは近似した値を示す。

(相対リスク=A/(A+B)×(C+D)/C ≒ A/B×D/C=オッズ比)
この事からオッズ比は相対リスクの近似値(推定値)として用いられる。
 OC使用群における相対リスクあるいはオッズ比が 1より大きいということは、OCの使用により当該疾患の発症が増加したことを示し、逆に 1より小さいということは、当該疾患の発症が減少したことを示している。さらに、この値(リスク)が統計学的に有意であるか否かについては、その信頼区間(CI)が 1を挟まなければ、統計的に有意であることを示している。(参照:信頼区間)

 相対リスク、オッズ比の数字の意味:例えば、OC使用者で乳癌あるいは子宮頸癌の相対リスクが1.24であることは次のような意味である。

  子宮頸癌あるいは乳癌
OC非使用人口10万人中の発症者数 10人
上記10万人がOCを使用した場合の発症者数 10×1.24 = 12.4人
(人口10万人あたり2.4人増加する)

補正

 例えば、OC使用群と非使用群で乳癌発症率を比較する場合、OC使用群に乳癌の家族歴を有する人が多い場合、OC使用群で乳癌発症のリスク(相対リスク又はオッズ比)が高くなることが考えられる(乳癌の家族歴を有する場合、乳癌が発症しやすいと考えられている)。このような場合、両群で乳癌の家族歴の違いを考慮したリスクの計算を行う必要があり、これを補正という。

信頼区間(Confidence interval CI)

 例えば、相対リスク又はオッズ比は、通常 「1.2 (95%CI:0.5〜1.5)」と表示され、(  )内はその値のばらつきの95%の範囲を示し、これを信頼区間として表示している。乳癌発症リスクとOC使用との関係を例にとると、「OC非使用者における乳癌発症リスク」に対する「OC使用者における乳癌発症リスク」の比を検討することになる。
 もし、「OC使用者とOC非使用者のそれぞれの乳癌発症リスクは同じである」とすると、相対リスクまたはオッズ比は「1」となる。一方、「OC使用者とOC非使用者のそれぞれの乳癌発生リスクは異なる」とすると相対リスクまたはオッズ比は「1より大きい:OC使用者のリスクは非使用者のリスクより大きい」あるいは「1より小さい:OC使用者のリスクは非使用者のリスクより小さい」となる。したがって、相対リスクまたはオッズ比の信頼区間が「1」を含む場合は、「OC使用者とOC非使用者のそれぞれの乳癌発症リスクは同じである」ことを積極的に否定することはできなくなり(同じ、ということではない)、「1」を含まない場合は、「OC使用者とOC非使用者のそれぞれの乳癌発症リスクは同じである」ことを否定することになる(つまり、OC使用者の乳癌発症リスクは非使用者に比べて小さい又は大きい)。


表1相対リスク又はオッズ比図

95%信頼区間の95%の意味:例えば、今回の試験では相対リスクの推定値は1.24であったが、同じような試験を繰り返した場合、前回と同じ推定値が出るとは限らない。しかし、同様の試験を多数回繰り返し、その都度95%信頼区間を求めると、多数の信頼区間の内、95%は真の値を含む。

χ検定

 2つの質問項目間(例えば、OC使用の有無と乳癌発症の有無)の関連について検討する際の検定方法の一つである。

傾向性の検定

 例えば、タバコの本数が増えるにつれて、肺癌の発症が増加する傾向がみられるかどうかについて検定する方法である。


〔主な参考資料〕

・医学統計学ハンドブック:丹後 俊郎・宮原 英夫 朝倉書店 1995
・臨床試験データの統計解析:広津 千尋 廣川書店 1996
・医学への統計学:古川 俊之・丹後 俊郎 朝倉書店 1994
・新版看護学全書 統計学:柳井 晴夫ら メディカルフレンド社 1996