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平成11年5月18日

「21世紀に向けた今後の厚生科学研究の在り方について」(答申)について


1.経緯等

 今後の厚生科学研究の在り方について、昨年3月より厚生科学審議会において議論が行われていたところ、5月10日の総会における論議を踏まえ、本日、別添のとおり答申された。

2.厚生科学審議会委員(50音順) ○:会長 △:会長代理

  飯田 経夫 中部大学大学院経営情報学教授
  石井 威望 東京大学名誉教授
内山 充 (財)日本公定書協会会長
  大石 道夫 (財)かずさDNA研究所長
  大塚 栄子 北海道大学名誉教授
  軽部 征夫 東京大学国際・産学協同研究センター長
  岸本 忠三 大阪大学学長
  木村 利人 早稲田大学人間科学部教授
  柴田 鐵治 (株)朝日カルチャーセンター社長
  曽野 綾子 作家
  竹田 美文 国立感染症研究所長
  寺田 雅昭 国立がんセンター総長
豊島 久真男  (財)住友病院病院長
  船越 正也 朝日大学学長
  茂木 友三郎 (株)キッコーマン社長
  矢崎 義雄 国立国際医療センター病院長


照会先:厚生省大臣官房厚生科学課
    唐沢(3814)、岡本(3806)、白石(3807)
    (代表)[現在ご利用いただけません]
    (直通)03-3595-2171


21世紀に向けた今後の厚生科学研究の在り方について
−厚生科学審議会答申(要旨)−


I 厚生科学の意義

○ 21世紀に向け、疾病の成因の解明、革新的治療法の開発など厚生科学の一層の発達が人類の福祉と経済社会の発展に大きく貢献するものと期待されている。厚生科学は健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学であり、その推進は、これまで経験したことのない新たな問題の可能性に配慮しつつ、人間と社会に対する広い視野、あたたかい心と高い倫理観、深い洞察に基づいて行われなければならない。


II 厚生科学研究のこれまでの推進状況

○ 昭和61年に発足した厚生科学会議において昭和63年、平成5年に策定された厚生科学研究に関する中期的な研究計画に基づき、これまで研究が推進。また、平成8年には政府全体の「科学技術基本計画」も閣議決定。


III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化

○ 21世紀に向け、厚生科学研究を取り巻く状況は、個体レベル、社会レベル、地球レベルのそれぞれにおいて大きく変化。


IV 新たな変化に対応して求められる研究領域

1 健康科学研究の推進

○ 疾病の克服を視野に入れた基礎研究、基礎研究の成果を臨床応用につなぐための研究。
○ 健康科学としての生命科学研究及び生活の質の維持向上の観点からの研究。

2 少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進

○ 社会保障制度の構造改革に関する政策に資する研究及び高齢者、障害者の自立と社会参加促進のための研究。
○ 老人医学の研究、女性の健康支援及び児童の健康育成対策に関する研究。

3 根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用

○ 根拠に基づく医療(EBM)の基礎となる臨床疫学研究及び医療・技術の有効性、有用性の評価に関する研究。
○ 疫学情報の蓄積・利用の推進とプライバシーの保護に関する研究及び保健医療、介護、福祉、健康危機管理等に関する情報システムの整備に関する研究。

4 健康への脅威の対応と生活の安全の確保

○ 新興・再興感染症及び寄生虫疾患等に関する研究。
○ 新技術を応用した食の安全に関する研究及びダイオキシン等新たな化学物質問題、環境問題等に対応するための研究。

5 画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保

○ ゲノム情報に基づいた新作用機序医薬品等の研究や倫理性、有効性、安全性の検討の下での再生医学に関する研究及び医薬品等の安全性確保に関する研究。

6 厚生科学の国際的展開

○ 厚生科学による国際貢献、研究者の国際交流及び制度・基準等の国際的調和の推進。


V 今後の厚生科学研究の推進方策

1 今後の厚生科学研究推進の基本的考え方

(1)健康科学研究の推進

 基礎研究の成果をより安全かつ早期に医療現場に展開するため、基礎から臨床までを視野に入れた健康科学研究の推進及び両者の橋渡しを行う研究の推進が重要。

(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進

 根拠に基づく医療(EBM)等の考え方に基づき、新技術及び既存技術について、客観的な評価を加えた上で医療現場への普及及び国民への情報提供を行うことが重要。また、このような実証的な考え方は他分野でもその活用が必須。

(3)厚生科学研究を総合的に推進するための法制面も含めたシステムの検討

 厚生科学研究の基盤強化のためには、疾病等の個人情報や医療機関等からの情報の集積が必要。このため、個人情報を保護しつつ共同活用を図るために必要なシステムを検討。

(4)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備

 生殖医療や遺伝子治療等の高度先端医療技術の進展に伴い、科学技術と社会との調和を図るため、社会的、倫理的観点からのガイドラインの検討など研究実施体制の整備が重要。

2 今後の厚生科学研究の推進方策

(1)研究企画・評価、研究費の配分及び研究組織

(1)研究企画・評価の充実
 戦略的研究分野の適切な設定など研究企画の充実及び計画に基づく定期的な評価の実施が重要。

(2)研究目的等に応じたグラント型研究とプロジェクト型研究の活用
 研究目的、行政ニーズ等に応じ、グラント型研究(研究者の応募による小規模研究)とプロジェクト型研究(大型の組織的な研究)をその特性を生かしつつ活用。研究費執行の柔軟な対応について検討。

(3)NIH等を参考とした国立研究機関等の改革強化及び他の研究機関との連携・交流の推進
 大型・長期の研究分野においては、国立試験研究機関や国立高度専門医療センター等を拠点として位置づけ、厚生行政と一体となった役割を果たすべき。その際、米国のNIH(国立健康研究所)等を参考とし、他機関とも連携しつつ、集中的、集学的な研究が実施できるような組織強化が重要。

(2)新たな分野の人的資源の養成・確保

(1)新分野の研究者及び研究支援者の養成確保
 生命倫理学、生物統計学、臨床疫学及び医療経済学等の分野の専門家やリサーチ・ナース、リサーチ・ライブラリアン、臨床試験コーディネーター等の研究支援者及び実験動物の管理者などの人材の養成・確保が重要。

(2)若手研究者の支援
 若手研究者の任期付採用やポストドクターの活用による人材の流動性確保など研究者の経済的基盤の確保と資質向上を図ることが重要。

(3)研究支援体制の整備と研究資源の確保

(1)疫学情報等の活用の在り方に関する制度的な検討と基盤の確立
 EBMに基づく医療・介護サービス等の質の向上のためには、各種統計情報や研究者個人の蓄積した長期にわたる疫学研究情報等を公共財として共同利用していくことが重要であり、がん等の疾病登録システムの在り方、国立病院・療養所のネットワーク等の検討と活用が必要。

(2)電子医学図書館機能の充実
 我が国における過去の臨床研究の成果に関し、その集積と解析を行う電子医学図書館機能の充実について検討が必要。

(3)研究資源の提供基盤の充実
 ヒト由来遺伝子、細胞、病原体及び特殊実験動物等を収集、保存、提供するリサーチリソースバンク機能の充実など研究資源の提供基盤の充実が重要。

(4)研究成果の公開と知的所有権の保護

 ホームページ等の活用による研究成果の公開推進及び研究者への啓発や研究評価における特許の位置づけの明確化など知的所有権保護を推進。

(5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備

(1)審査準則の制定と自主審査体制の充実
 安全性等がある程度確立し普及した遺伝子治療臨床研究については、迅速な取組みが行えるよう、国において審査準則を制定し、審査事項等の標準化を図ることにより、現行の個別審査から自主審査の充実への切り替えを図ることが必要。その際、新規あるいは症例の少ない治療法の取扱い等について、引き続き本審議会で検討。##また、現在、枠組みが設けられていない生殖医療、クローニングなどの新技術の応用については、政府全体の立場からの検討の動向も踏まえつつ、引き続き本審議会で検討。

(2)インフォームド・コンセントの徹底と情報の公開等
 遺伝子治療や生殖医療技術等の実施に当たっては、患者に対するインフォームド・コンセントの徹底と情報の適切な公開を進めていくことが重要であり、併せて研究者等に対する倫理観や法知識の教育・研修が必要。

(3)被験者に対するインフォームド・コンセント、プライバシーの保護等
 新しい診断・治療法の研究におけるランダム化比較対照試験等に関し、被験者に対するインフォームド・コンセント、プライバシーの保護等被験者が安心して協力できるような体制の整備が重要。

(6)健康危機管理の推進

 国際的にも化学物質、微生物等によるテロリズム(バイオテロリズム等)に対する健康危機管理体制の整備の重要性が指摘されており、地域における体制の整備、国と関係機関との連携等について、技術面、法制面を合わせた検討が必要。

(7)厚生科学研究に対する理解と協力

 研究成果の享受と研究のための情報提供は表裏一体であり、医療や科学技術の向上と透明性の確保の観点から、国民の厚生科学研究に対する理解の促進、啓発、情報発信等に努めることが重要。


平成11年5月18日 厚生科学審議会

21世紀に向けた今後の厚生科学研究の在り方について(答申)


I 厚生科学の意義
II 厚生科学研究のこれまでの推進状況
III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化

 1.個体レベル
 2.社会レベル
 3.地球レベル

IV 新たな変化に対応して求められる研究領域

 1.健康科学研究の推進

(1)健康科学としての生命科学研究の推進
(2)生活の質(QOL)の向上
 2.少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進

 3.根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用

(1)臨床疫学研究の推進
(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進及び情報技術の活用

 4.健康への脅威の対応と生活の安全の確保

(1)新興・再興感染症への対応
(2)食の安全の確保
(3)新たな化学物質問題や環境問題への対応

 5.画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保

 6.厚生科学の国際的展開

V 今後の厚生科学研究の推進方策

 1.今後の厚生科学研究推進の基本的考え方

 2.今後の厚生科学研究の推進方策

(1)研究企画・評価、研究費の配分及び研究組織
(2)新たな分野の人的資源の養成・確保
(3)研究支援体制の整備と研究資源の確保
(4)研究成果の公開と知的所有権の保護
(5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備
(6)健康危機管理の推進
(7)厚生科学研究に対する理解と協力

おわりに


I 厚生科学の意義

○ 20世紀は偉大な科学技術の世紀であり、その飛躍的な進展は、人類に大きな福音をもたらし、我が国の人々は健康で豊かな生活を享受できるようになった。21世紀に向け、2003年を到達目標とするヒトゲノム解析に続き、各遺伝子の機能を解明する研究の推進により、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病を含む多くの疾病の成因や病態生理が遺伝子レベルから解明されるとともに、その情報を基盤として病態に的確に対応する治療法の開発や、分子設計による創薬、さらには再生医学を用いた革新的治療法の開発が期待される。また、近年の画像処理技術等の向上により、診断法の進歩も著しい。今後、厚生科学の一層の発達が、途上国も含めた人々の福祉の向上と経済社会の発展に大きく貢献するものと期待されている。

○ 厚生科学とは、医学、歯学、薬学、看護学、栄養学、獣医学、数学、工学、経済学、社会学等の幅広い関連諸科学の手法を用いて、健康増進、公衆衛生と福祉水準の向上、疾病の原因解明、予防・診断・治療の向上、生活・労働環境の安全性の確保を目指した研究及び開発を行う科学である。厚生科学は、健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学であり、その推進は、人間と社会に対する幅広い総合的な視野を持ち、あたたかい心と高い倫理観、深い洞察に基づいて行われなければならない。一方、諸科学の進歩は、人類に文明の恩恵を与える反面、これまで経験したことのない健康危害や倫理的問題、地球環境問題などを引き起こす可能性があることにも留意しなければならない。また、生命科学の発達は、生命や身体を操作可能なものとすることにより、今までの人間観の転換をも迫っている。今後、厚生科学に求められるものは、新たな問題に対して十分配慮し、医学・医療に対する国民の信頼感と満足度を向上させ、尊厳のある生活に貢献するものでなければならない。

II 厚生科学研究のこれまでの推進状況

○ 本審議会の前身ともいうべき厚生科学会議は、厚生科学全般にわたる研究の基本戦略を策定するとともに、これに基づく将来に向けての重点研究課題の設定等を目的に昭和61年11月に発足し、厚生科学研究振興のための中長期的基本戦略、将来にわたる重点研究課題、厚生科学研究の評価のあり方等の問題に関して討議を行い、これまで、「厚生科学研究の基盤確立とブレイクスルーのために」(昭和63年9月)、「研究評価の基本的あり方」(平成元年8月)、「厚生省におけるヒトゲノム研究の推進について」(平成3年10月)、「遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」(平成5年4月)、「厚生科学研究の大いなる飛躍をめざして ー新たな重点研究分野の設定と推進ー 」(平成7年8月)、「厚生科学と健康被害防止のための行政のあり方 ー薬害エイズ問題から何を学ぶかー 」(平成8年6月)等の報告がなされた。

○ 平成9年4月には、厚生科学会議を発展させた形で、厚生省所管行政における科学技術に関する重要事項を調査審議するために、本審議会が設置され、さらに、厚生科学研究の企画、評価に関する事項を審議するための研究企画部会と、生殖医療、遺伝子治療臨床研究などの先端医療技術の評価に関する事項を審議するための先端医療技術評価部会が設けられた。これまで、研究企画部会での検討に基づき、「厚生科学研究に係る評価の実施方法に関する指針」(平成10年1月)の答申がなされた。また、先端医療技術評価部会においては、平成9年11月には、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会、平成9年12月には、ヒト組織を用いた研究開発の在り方に関する専門委員会、平成10年10月には、生殖補助医療技術に関する専門委員会及び出生前診断に関する専門委員会をそれぞれ設置し、部会での検討に基づき、「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について」(平成10年12月)の答申がなされるなど、最近の先端医療をめぐる動きに対応している。このほか、厚生科学研究費補助金についても、平成10年度には、競争的な研究環境を形成するため、原則公募型とするとともに、研究の大型化に対応するため、研究事業をそれまでの34から18に集約した。

○ また、政府全体においても、我が国の科学技術の厳しい現状や国民の科学技術離れ等を踏まえ、平成7年には、科学技術基本法が成立し、同法に基づいて平成8年に、新たな研究開発システムの構築、研究開発基盤の整備、研究開発投資額の拡充等を内容とする「科学技術基本計画」を閣議決定した。さらに、平成9年には、科学技術会議で「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が策定され、特に国が取り組む領域として、脳、がん、発生等を掲げ、生体システムとゲノム等の基礎的生体分子に着目した研究開発を選定した。

III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化

○ 厚生科学研究を取り巻く状況は、21世紀に向けて大きく変化しており、遺伝子や細胞といったミクロレベルから地球全体といったマクロレベルまでの様々なレベルで次のような変化が生じている。

1.個体レベル

○ 近年、生命科学の進歩は著しく、遺伝子領域では、ヒトゲノムの解析が2003年(あるいは2001年)にも一応完了するといわれ、今後、幅広い分野での疾病構造の解明、発病予測、診断・治療法の開発等において更に大きな貢献が期待される。

○ 他方、遺伝子治療、生殖医療や発生工学的手法による細胞・臓器移植の新しい展開等とともに、科学技術と個人の生命観や諸制度との間に、法的、社会的、倫理的な問題が発生している。

○ 情報処理技術を活用した画像処理等の医療機器の発達により、非侵襲的で正確な診断・治療法の発展への期待が高まっている。

○ 長寿社会における健康の意味や尊厳ある生活とはどういうものかが問われており、要介護者、高齢者などの生活の質(QOL)の維持向上について、関心が高まっている。

2.社会レベル

○ 高齢者人口の急増、出生率の低下など少子高齢化に伴って、信頼できる効率的な医療、年金、福祉の社会保障制度の構築や、予防、治療、リハビリテーション、地域ケアを含む保健・医療・福祉システムについて、その包括的・効率的な構築が求められている。

○ 情報化の進展等、職場環境を含め社会環境の急速な変化により、心の健康の問題や、青少年を中心に深刻な社会問題となりつつある薬物乱用について、治療法の確立等が求められている。

○ 患者の人権を保護し、妥当、適切な医療を提供するために、インフォームド・コンセントの普及定着を図っていくとともに、根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)を推進していくことが求められている。このため、その基礎となる疾病情報の収集や蓄積及び国民に対する正しい情報の提供について関心が高まっている。

○ ゲノム創薬等に基づく次世代医薬品や人工臓器等の画期的医療用具の研究開発を進めることは、その成果を社会全体に還元することにより、医学・医療の進歩への貢献はもとより、次世代産業の創出も含め、今後の我が国の産業経済の発展、活性化を図ること(科学技術創造立国)にもつながることから、大きな期待が寄せられており、知的所有権の保護などの対応が求められている。

○ 毒物混入事件、食中毒や自然災害のみならず、国際的に化学物質や微生物を用いたテロリズム(バイオテロリズム等)などへの対処についても関心が高まっており、感染症、医薬品、飲料水等を始めとする様々な分野において健康危害が発生した場合に備え、迅速・的確な健康危機管理体制の整備の必要性が高まっている。

3.地球レベル

○ 国際交流の活発化等により、エボラ出血熱、コレラ、マラリア、HIV/AIDS、腸管出血性大腸菌(O157等)感染症など新興・再興感染症による健康への脅威が増大している。また、医療の進展に付随して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性結核菌などの問題も発生しており、新たな感染症対策が求められている。

○ ダイオキシン類、内分泌かく乱化学物質等の環境問題による健康影響が懸念されており、地球規模で取り組むべき課題となっている。

○ また、我が国の国際的地位の向上に伴い、内分泌かく乱化学物質の研究や大量化学物質の規制、医薬品等の許認可についての国際基準作成への参画等国際協調や、発展途上国に対する保健医療、水道、社会保障制度等の面での技術協力等国際貢献の推進が求められている。

IV 新たな変化に対応して求められる研究領域

1.健康科学研究の推進

○ 創造性に富み、かつ疾病の克服を視野に入れた基礎的な研究を引き続き推進するとともに、基礎研究の成果を臨床応用につなぐための基礎研究と臨床研究の橋渡しを行う研究(トランスレーショナル・リサーチ)の推進が重要である。

○ 産学官の連携を確保するとともに、臨床研究について国民の理解を得る必要があり、そのためには、被験者の積極的依頼方策の検討や、患者が安心して協力できる仕組みが重要である。

(1)健康科学としての生命科学研究の推進

○ 生命科学の分野では、ヒトゲノム解析の進展等急速に技術革新が進行しており、がん、循環器疾患、精神・神経疾患、リウマチ等の自己免疫疾患、アレルギー疾患及び感染症等の本態・発症機構を解明し、予防・診断・治療法を開発していくことが、引き続き重要である。

○ 疾病関連遺伝子の解明、遺伝子の発現形態であるタンパク質の解析と機能解明に基づいたゲノム創薬等の分野は、次世代の医薬品開発の分野として注目されている。同時に個々人の病気へのかかりやすさを遺伝子レベルで診断し、予防を個別化するとともに、遺伝子レベルで疾病を治療する遺伝子治療研究分野は、次世代の治療法として注目が集まっている。また、遺伝子治療における国内でのベクターの開発や安全性のチェックなどの基盤整備が重要である。

○ 遺伝情報に基づき、疾病予防を目指した生活習慣の改善、予防医薬品、特定保健用食品(いわゆる機能性食品)の開発等の研究を推進していくことが重要である。一方、個々人のゲノム情報の集積・活用に当たっては、プライバシーと人権の保護を図っていく必要がある。

(2)生活の質(QOL)の向上

○ 生活の質(QOL)の維持・向上の視点から、食生活、運動、喫煙等の生活習慣に関連する疾患(生活習慣病)に関する行動科学的・社会科学的研究や、難聴、耳鳴り、視力低下等の感覚器の障害や失禁など、生活の質(QOL)を低下させる疾患等に関する研究の推進及び評価が重要である。また、患者の立場に立った医療の一層の推進を図る上で、治療効果のみならず満足度の評価研究等を含む医療技術評価研究の推進が重要である。

○ 末期医療における苦痛の緩和及び在宅ターミナルケア等の研究やストレス、心身症、うつ病等の複雑・高度化する現在の精神保健に関する問題に対応した研究の推進が重要である。

2.少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進

○ 少子化、長寿化、人口減少化及び価値観の多様化等が21世紀社会に及ぼす影響をより正確に把握し、包括的・効率的な保健・医療・福祉システムの構築や社会保障制度の構造改革に関する政策に資する研究の推進が重要である。

○ 少子高齢化に対応し、高齢者の健康の維持に資する生理的老化の研究、老年病や痴呆の原因解明、予防・治療法の開発を目指した老年病学、老人医学の研究及び女性の生涯にわたる健康支援対策、児童の心身にわたる健全育成対策に関する研究の推進が重要である。

○ 介護保険制度の導入に伴うリハビリテーション技術の効率的な利用、高齢者、障害者の安全な生活及び自立、社会参加の促進のための各種福祉器具等の開発と評価に関する研究を推進していくことが重要である。

3.根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用

(1)臨床疫学研究の推進

○ 臨床研究領域では、ヒトにおける長期間の観察やランダム化比較試験を行う疫学研究の充実が、根拠に基づく医療(EBM)の基礎をつくるものとして重要である。
○ 医療行為・技術の有用性や有効性を評価する医療技術評価研究を医療上、医療経済上の優先度の高いものに対して進めることが重要である。

(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進及び情報技術の活用

○ 医療関係者が、最新の確立された医療サービス提供を行う根拠となる、簡便に利用でき、かつ、随時更新されていくデータベースシステム及び情報ネットワークの整備と利用の促進が重要である。また、医療を安全に提供するための手法や、提供される医療サービスの質を維持・向上させるための管理手法等に関する研究の推進が重要である。

○ 疫学情報等の提供と利用は、医療関係者のみならず広く国民に関わるものであり、情報の保存、加工、蓄積、応用の方面からの推進が重要である。その場合、国民の生命や健康等の情報を取り扱う特殊性から、改ざん防止、プライバシーと人権の保護及び公共性の確保のための研究が不可欠である。

○ 保健・医療・福祉政策の総合的評価指標として、健康寿命や障害調整生存年(Disability Adjusted Life Years:DALYs)等が提起されており、世界保健機関(WHO)などと協力しつつ、こうした総合的評価の研究を推進することが重要である。

○ 保健・医療・福祉分野における情報化を積極的に推進することが必要であり、特に、在宅医療、へき地医療の向上に資する情報システムや、障害者の社会参加、介護保険の円滑な実施等を支援するためのケアマネジメント等に関する情報システムの研究及び整備が重要である。また、地理情報システム(Geographic Information System:GIS)を活用した保健・医療・福祉の地理的情報データベースや、健康危機管理を円滑に実施するための緊急時の情報ネットワークの構築のための研究の推進が重要である。

4.健康への脅威の対応と生活の安全の確保

(1)新興・再興感染症への対応

○ 新型インフルエンザ、クリプトスポリジウム症など新しく対応を迫られている感染症や寄生虫疾患に対する迅速診断法の開発及び発生情報を的確に把握・分析し、対策を行うための疫学等の研究の推進が重要である。また、HIV/AIDSや多剤耐性結核菌など再興感染症に対する新たなワクチンや治療薬等の開発に関する研究の推進が重要である。

○ 医原性疾患ともいうべきメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)による感染症などの実態把握や院内感染対策の開発、化学療法剤の使用適正化等に関する研究の推進が重要である。

○ 動物が自然宿主の場合の疾患については、動物由来経路も念頭においた疫学や検査法の開発を関係省庁と連携して推進することが重要である。

(2)食の安全の確保

○ 食の安全の一層の確保を図るため、予測微生物学を用いた食品の微生物学的リスク評価に関する研究や、食品中化学物質の様々な健康影響に関する研究、また、これらを踏まえた最適な行政手法の選択に資する研究の推進が重要である。

○ 高度化・多様化が著しいバイオテクノロジーを応用した食品の安全性評価に関する研究や、食品中アレルギー物質によって人体に重篤な影響を与えるアナフィラキシー・ショックなどの食物アレルギーの発症機序の解明、実態把握等の研究の推進が重要である。

(3)新たな化学物質問題や環境問題への対応

○ 適正規制科学(レギュラトリー・サイエンス)の考え方に基づき、生活環境や職場環境における微量化学物質暴露について、安全性の分析・評価法の確立、及びダイオキシン類、内分泌かく乱化学物質等の分析・評価技術や排出低減技術の開発の推進が重要である。

○ リサイクル技術に関する研究や資源循環型社会経済システムへの転換等の政策を支援する研究及び環境への負荷の少ない適切な廃棄物処理技術に関する研究の推進が重要である。

○ 水源水質の悪化、水道施設の老朽化などに対応し、安全で良質な水道水を適切なコストで安定的に供給するための新たな水処理技術や水道施設の質的改善に関する技術等の研究の推進が重要である。

5.画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保

○ 医薬品、医療機器等の安全性の向上を目指し、副作用の発生を防止、低減する方法等の研究を推進するとともに、特に、ゲノム情報に基づいた病態に的確に反応する画期的な新作用機序医薬品等の開発が必要である。また、上市後の医薬品の副作用防止策の徹底、とりわけ薬剤疫学の普及などの適切な安全性確保に関する研究の推進が重要である。また、薬物依存の形成や中毒性精神病の発現の機序について、分子レベルで解明する研究も重要である。

○ 骨、皮膚等の他者からの提供組織の利用や、本人の正常組織部分等の利用により、損傷部位や機能不全に陥った臓器を修復していく、いわゆる再生医学が期待されている。これは、医療と創薬、医用工学の特質を併せ持つものであり、倫理性、有効性、安全性の確保のための制度的検討が重要である。また、副作用が少なく、安定的供給にも寄与することが期待される人工血液や、人工臓器及び超微細技術を活かしたマイクロマシンなどを応用した高度先端治療機器の臨床応用に向けた開発や研究も重要である。

○ 医薬品、医療機器の研究開発については、産学官の連携の確保、知的所有権の保護、ベンチャー企業の育成等長期的視野に基づいた投資戦略が必要であり、また、円滑な臨床試験のための基盤整備・体制充実が必要である。こうした研究開発の成果は、医療、福祉水準の向上と我が国経済の活性化に貢献するものである。

6.厚生科学の国際的展開

○ 長寿科学や新興・再興感染症分野の技術、水処理に関係する技術など、リヨンサミットで提唱された世界福祉構想の精神を生かした発展途上国に対する国際貢献が重要である。また、国内外の研究者の積極的受け入れ制度の検討等により、発展途上国も含めた諸外国と我が国の研究者との交流を一層推進することが重要である。

○ 医薬品、医療機器及び食品等については、制度の国際的調和への積極的な関与の推進とそれに対応した国内規制、規格及び評価方法の整備が重要である。

○ ダイオキシン類や内分泌かく乱化学物質など化学物質の安全性評価については、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)などの場を活用し、各国分担による共通の指標、規格、基準及びデータを作成・利用していくことが重要である。

○ 疾病関連遺伝子の解析、ゲノム創薬、遺伝子治療研究等の分野は、次世代の治療技術開発として、各国による激しい競争下にあり、このため、我が国においても、これらの基礎となるヒトゲノム解析及びその関連先端科学研究分野に関し、知的所有権保護のための検討が必要である。

V 今後の厚生科学研究の推進方策

1.今後の厚生科学研究推進の基本的考え方

 今後、厚生科学研究を効果的に推進する上で、次の基本的考え方が重要である。

○ 第1は、基礎から臨床までを視野に入れた健康科学研究の推進である。
 研究室で発見・発明された研究成果を、より安全かつ早期に、臨床の場に展開できるようにしていく必要がある。このため、基礎研究及び臨床研究の推進とともに、基礎研究と臨床研究の橋渡しを行う研究の推進が重要である。

○ 第2は、根拠に基づく医療(EBM)等の推進である。
 根拠に基づく医療(EBM)の考え方に基づき、新たに開発された技術のみならず、既存の技術についても客観的な評価を加え、医療現場に普及させるとともに、国民への情報提供を行うことは、医療の質的な向上に資するばかりでなく、医療に対する信頼感の確保と満足度の向上のために重要である。また、このような実証的な考え方を適正規制科学等の分野においても、一層活用していく必要がある。

○ 第3は、厚生科学研究を総合的に推進するため、法制面も含めたシステムの検討である。
 厚生科学研究の基盤を強化するためには、疾病等の個人情報や医療機関等からの情報を集積することが必要であり、そのためには情報の保護や共同活用など厚生科学研究推進の環境整備に関する総合的なシステムの整備について、法制面も含めて検討すべきである。

○ 第4は、社会的・倫理的観点からの研究実施体制の整備である。
 生殖医療や遺伝子治療等の高度先端医療の進展に伴い、科学技術と社会との調和を図るため、社会的・倫理的観点からのガイドラインの作成など研究実施体制の整備が重要である。

2.今後の厚生科学研究の推進方策

(1)研究企画・評価、研究費の配分及び研究組織

○ 厚生科学を推進していくためには、戦略的研究分野の適切な設定や研究体制の整備を行う研究企画と、そのための組織が重要である。また、研究分野(事業)と研究機関毎に中長期的研究計画を策定し、定期的な研究評価を行うことが重要である。

○ グラント型研究(研究者の応募による小規模研究)とプロジェクト型研究(大型の組織的な研究)を、研究の目的・領域や行政ニーズに応じた政策研究としてそれぞれの特性を生かして活用すべきである。また、研究費の執行に当たり、対象期間や費目について柔軟な対応が図れるよう検討することが必要である。

○ グラント型研究では、国立試験研究機関等、大学、民間の研究者からの幅広い公募を基本とし、課題の重要性や科学的創造性と研究者の遂行能力等の評価により、最適な研究計画を選択することが重要である。

○ プロジェクト型研究など大型の組織や長期にわたる研究が必要な分野では、国立機関として存続する国立試験研究機関や国立高度専門医療センター及び独立行政法人に移行する高度専門医療施設等を明確な目的と使命を持つ研究拠点施設として位置づけることにより、その基盤の強化を図るとともに、研究者の能力を最大限引き出すため、適切な研究評価とそれに伴う柔軟な人事配置を行い、責任ある研究を推進する体制を確保すべきである。その際、米国のNIH(National Institutes of Health:国立健康研究所)等を参考とし、大学や他の研究機関との連携を図りつつ集中的、集学的な研究が実施できるよう、研究組織の改革強化を図ることが重要である。

○ 国立試験研究機関、国立高度専門医療センター及び国立病院・療養所は、政策医療とそのネットワークを推進・活用しながら、疾患データベースの整備、治験の実施、健康危機管理機能など、厚生行政と一体となって役割を果たしていくべきである。

○ 幅広い視野から総合的に厚生科学研究を進めていくためには、大学、地方自治体及び民間の研究機関と国の研究機関との連携や研究者の交流等を推進することが重要である。

(2)新たな分野の人的資源の養成・確保

 厚生科学研究を積極的に推進するためには、次のような人材の計画的な養成・確保が重要である。

(1)新分野の研究者
○ 今後、厚生科学研究を進める上で不可欠な新分野の研究者の養成確保の推進が重要である。特に、生命倫理学、生物統計学、臨床疫学及び医療経済学等の分野の専門家の人材養成が必要であり、国立試験研究機関等もこの観点から取組みの強化を図ることが必要である。

(2)研究支援者
○ また、臨床現場における看護の視点からの臨床研究支援者(リサーチ・ナース)、過去の臨床研究の成果の集積と提供を行う専門家(リサーチ・ライブラリアン)、臨床試験コーディネーター(Clinical ResearchCoordinator:CRC)等人材供給の少ない分野においては、養成と教育を組織的に行うことが必要である。また、実験動物等の飼育、繁殖、管理や特殊な機器の管理・操作といった試験研究を支える業務を担う人々の適正な確保も重要である。

(3)若手研究者
○ 若手研究者等の任期付採用や博士号取得直後の研究者(ポスト・ドクター)の活用による人材の流動性を確保するとともに、研究費配分や採用・昇格の各段階に公募などの競争的環境を取り入れ、研究者の経済的基盤の確保と資質向上を図ることが重要である。

(3)研究支援体制の整備と研究資源の確保

(1)疫学情報等の活用の在り方に関する制度的な検討と基盤の確立
 今後、根拠に基づく医療(EBM)に基づいて医療・介護サービス等の質の向上を図るためには、適切な情報の共有及びその活用が重要である。このため、各種統計情報、研究者個人の蓄積した長期にわたる疫学研究情報等を公共財として共同利用していく観点から、以下の事項について、推進及び検討が必要である。

○ 疾病研究の推進の観点から、個人情報の保護との整合性を考慮した疾病登録システムの検討を行う必要がある。また、国際的に保健・医療・福祉情報を協力して集積・分析する可能性のあることを想定し、その場合の個人情報の保護に関する国際的な調和の確保が必要である。

○ 国立試験研究機関並びに国立高度専門医療センター及び高度専門医療施設を頂点とする国立病院・療養所の政策医療ネットワークや大学、地方自治体、民間医療機関との連携のもと臨床研究の基盤となる疾患データベースの構築を推進する必要がある。

○ 個人情報を扱う医療情報については、特に、情報機器や情報システムに対するセキュリティー体制と個人情報保護の制度的な検討が必要である。

(2)電子医学図書館機能の充実
○ 根拠に基づく医療(EBM)の推進の観点から、医療行為・技術の有用性や有効性について評価を進めることが重要である。我が国における過去の臨床研究の成果に関し、その集積と解析を行う電子医学図書館機能の充実について、コクランライブラリーを参考としつつ、検討する必要がある。

(3)研究資源の提供基盤の充実
○ 研究の信頼性向上と効率化に向けて、共通基盤となる研究資源の確保と研究手段の向上が必要である。このため、ヒト由来遺伝子、細胞及び組織並びに特殊実験動物、病原体、標準物質及び標準検体等を、収集、保存及び提供するリサーチリソースバンク機能の充実及びその他の研究資源の開発を省庁間、官民及び国際間の連携を図り、進めていく体制を整備することが重要である。

(4)研究成果の公開と知的所有権の保護

○ 学会や学術誌に発表された研究成果を行政の科学的根拠として積極的に利用することが重要である。また、国民の啓発のためのインターネットの活用やシンポジウム等を通じた研究成果の公開が重要である。

○ 研究成果を知的所有権として保護するため、研究者に対する啓発活動や研究評価における特許取得の位置づけの明確化など知的所有権の取得に向けた動機付けを高めるとともに、リエゾン機能(研究成果から知的財産を見出し、権利化するとともに、企業に技術移転させ、事業化に結びつける機能)を果たす仕組みを設けるべきである。また、産学官連携に関するルールを明確化しつつ、その取組みを推進することが重要である。

(5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備

○ 生殖医療や遺伝子診断・治療など生命科学の進歩による新技術の出現に伴って、これまで経験したことのない社会的、倫理的課題が発生している。社会と科学技術の調和を図る観点から、臨床研究における被験者の権利の尊重及び研究を進める上での倫理性確保がこれまで以上に重要である。

(1)審査準則の制定と自主審査体制の充実
○ 現在、遺伝子治療臨床研究については、各研究機関の自主審査に加え、本審議会及び文部省において各研究機関の臨床研究計画の個別事前審査を実施している。今後、こうした研究に基づいた治療法の普及が予想されることから、ある程度普及した遺伝子治療臨床研究については、迅速に行えるよう、国において倫理面も含めた審査準則を制定し、各研究機関に設置されている倫理委員会の委員構成、審査事項等の共通化を図ることにより、現行の個別審査から自主審査の充実への切り替えを図ること等の検討が必要である。その際、新規あるいは症例の少ない治療研究の取扱い及び各研究機関で自主審査が適切に行われたかどうかを評価する仕組みを設けること等について、引き続き本審議会で検討を行うべきである。

○ また、現在、遺伝子治療臨床研究については上述のような枠組みが設けられているが、生殖医療技術、クローン技術、ヒトゲノム解析、ヒト胚性幹細胞(ES細胞)作成などの新しい技術の応用については、枠組みが設けられていない。クローン技術等については、現在、政府全体の立場から法制面の問題も含めた検討が行われているところであるので、こうした検討の動向も踏まえつつ、このような技術に関して、どのような枠組みを設けたらよいのか審査準則等の在り方等も含めて、引き続き本審議会で検討を行う必要がある。
(2)インフォームド・コンセントの徹底と情報の公開等
○ こうした審査体制の充実とともに、遺伝子治療や生殖医療技術の実施等に当たっては、患者の人権を保護するためのインフォームド・コンセントの徹底と情報の適切な公開を進めていくことが重要であり、併せて、研究者や研究補助者に必要な倫理観や法知識について教育・研修を行うことが必要である。

○ 新しい診断・治療法の研究においては、ランダム化比較試験等の臨床研究も多用されることから、被験者に対するインフォームド・コンセントの確保、プライバシーの保護等を図るとともに、新薬に関する臨床試験も含めて被験者の募集のための情報提供活動を推進し、被験者が安心して協力できるような体制を整備することが重要である。

(6)健康危機管理の推進

○ 国際的に化学物質、微生物等による健康危機に対応した管理体制の整備の重要性が指摘されており、地域における保健所を中心とした体制の整備や、地方衛生研究所の役割、国及び国のブロック機関と医療機関、医師会等の専門職能団体及び地方自治体との連携等について、技術面、法制面を合わせた検討を行うとともに、健康危険情報を収集するための国際的なネットワークの構築が必要である。

(7)厚生科学研究に対する理解と協力

○ 研究成果の享受と研究のための情報提供は表裏一体であり、蓄積された疾病情報等は最終的には国民に還元され、医療や科学技術の向上と透明性の確保に資することとなるものである。このため、厚生科学研究の推進には、国民の厚生科学研究に対する理解と協力が不可欠であり、個人情報保護の法制面での整備とともに、研究等に対する理解の促進、啓発、情報発信等に努めることが重要である。

おわりに

○ 以上、本報告書においては、先行する本審議会の報告や他機関によって提言されている事項については、できるかぎり重複を避けることとし、21世紀に向けた今後の厚生科学研究の重点領域とともに、研究体制の整備・施策について提言したところである。なお、本報告書に掲載されている研究領域については、あくまでも例示であり、本報告書に記載されていない研究領域が重要でないという意味ではないことに留意されたい。

○ 今後は、本審議会において引き続き検討を行うとともに、政府においては可能なものから速やかに具体化のための取組みを進められたい。


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