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平成11年5月18日
1.経緯等
今後の厚生科学研究の在り方について、昨年3月より厚生科学審議会において議論が行われていたところ、5月10日の総会における論議を踏まえ、本日、別添のとおり答申された。
2.厚生科学審議会委員(50音順) ○:会長 △:会長代理
飯田 経夫 | 中部大学大学院経営情報学教授 | |
石井 威望 | 東京大学名誉教授 | |
△ | 内山 充 | (財)日本公定書協会会長 |
大石 道夫 | (財)かずさDNA研究所長 | |
大塚 栄子 | 北海道大学名誉教授 | |
軽部 征夫 | 東京大学国際・産学協同研究センター長 | |
岸本 忠三 | 大阪大学学長 | |
木村 利人 | 早稲田大学人間科学部教授 | |
柴田 鐵治 | (株)朝日カルチャーセンター社長 | |
曽野 綾子 | 作家 | |
竹田 美文 | 国立感染症研究所長 | |
寺田 雅昭 | 国立がんセンター総長 | |
○ | 豊島 久真男 | (財)住友病院病院長 |
船越 正也 | 朝日大学学長 | |
茂木 友三郎 | (株)キッコーマン社長 | |
矢崎 義雄 | 国立国際医療センター病院長 |
照会先:厚生省大臣官房厚生科学課 唐沢(3814)、岡本(3806)、白石(3807) (代表)[現在ご利用いただけません] (直通)03-3595-2171
I 厚生科学の意義
○ 21世紀に向け、疾病の成因の解明、革新的治療法の開発など厚生科学の一層の発達が人類の福祉と経済社会の発展に大きく貢献するものと期待されている。厚生科学は健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学であり、その推進は、これまで経験したことのない新たな問題の可能性に配慮しつつ、人間と社会に対する広い視野、あたたかい心と高い倫理観、深い洞察に基づいて行われなければならない。
II 厚生科学研究のこれまでの推進状況
○ 昭和61年に発足した厚生科学会議において昭和63年、平成5年に策定された厚生科学研究に関する中期的な研究計画に基づき、これまで研究が推進。また、平成8年には政府全体の「科学技術基本計画」も閣議決定。
III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化
○ 21世紀に向け、厚生科学研究を取り巻く状況は、個体レベル、社会レベル、地球レベルのそれぞれにおいて大きく変化。
IV 新たな変化に対応して求められる研究領域
1 健康科学研究の推進
2 少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進
3 根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用
4 健康への脅威の対応と生活の安全の確保
5 画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保
6 厚生科学の国際的展開
V 今後の厚生科学研究の推進方策
1 今後の厚生科学研究推進の基本的考え方
(1)健康科学研究の推進
基礎研究の成果をより安全かつ早期に医療現場に展開するため、基礎から臨床までを視野に入れた健康科学研究の推進及び両者の橋渡しを行う研究の推進が重要。
(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進
根拠に基づく医療(EBM)等の考え方に基づき、新技術及び既存技術について、客観的な評価を加えた上で医療現場への普及及び国民への情報提供を行うことが重要。また、このような実証的な考え方は他分野でもその活用が必須。
(3)厚生科学研究を総合的に推進するための法制面も含めたシステムの検討
厚生科学研究の基盤強化のためには、疾病等の個人情報や医療機関等からの情報の集積が必要。このため、個人情報を保護しつつ共同活用を図るために必要なシステムを検討。
(4)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備
生殖医療や遺伝子治療等の高度先端医療技術の進展に伴い、科学技術と社会との調和を図るため、社会的、倫理的観点からのガイドラインの検討など研究実施体制の整備が重要。
2 今後の厚生科学研究の推進方策
(1)研究企画・評価、研究費の配分及び研究組織
(2)新たな分野の人的資源の養成・確保
(3)研究支援体制の整備と研究資源の確保
(4)研究成果の公開と知的所有権の保護
ホームページ等の活用による研究成果の公開推進及び研究者への啓発や研究評価における特許の位置づけの明確化など知的所有権保護を推進。
(5)社会的、倫理的観点からの研究実施体制の整備
(6)健康危機管理の推進
国際的にも化学物質、微生物等によるテロリズム(バイオテロリズム等)に対する健康危機管理体制の整備の重要性が指摘されており、地域における体制の整備、国と関係機関との連携等について、技術面、法制面を合わせた検討が必要。
(7)厚生科学研究に対する理解と協力
研究成果の享受と研究のための情報提供は表裏一体であり、医療や科学技術の向上と透明性の確保の観点から、国民の厚生科学研究に対する理解の促進、啓発、情報発信等に努めることが重要。
平成11年5月18日 厚生科学審議会
I 厚生科学の意義
II 厚生科学研究のこれまでの推進状況
III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化
1.個体レベル
2.社会レベル
3.地球レベル
1.健康科学研究の推進
3.根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用
4.健康への脅威の対応と生活の安全の確保
5.画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保
6.厚生科学の国際的展開
1.今後の厚生科学研究推進の基本的考え方
2.今後の厚生科学研究の推進方策
○ 20世紀は偉大な科学技術の世紀であり、その飛躍的な進展は、人類に大きな福音をもたらし、我が国の人々は健康で豊かな生活を享受できるようになった。21世紀に向け、2003年を到達目標とするヒトゲノム解析に続き、各遺伝子の機能を解明する研究の推進により、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病を含む多くの疾病の成因や病態生理が遺伝子レベルから解明されるとともに、その情報を基盤として病態に的確に対応する治療法の開発や、分子設計による創薬、さらには再生医学を用いた革新的治療法の開発が期待される。また、近年の画像処理技術等の向上により、診断法の進歩も著しい。今後、厚生科学の一層の発達が、途上国も含めた人々の福祉の向上と経済社会の発展に大きく貢献するものと期待されている。
○ 厚生科学とは、医学、歯学、薬学、看護学、栄養学、獣医学、数学、工学、経済学、社会学等の幅広い関連諸科学の手法を用いて、健康増進、公衆衛生と福祉水準の向上、疾病の原因解明、予防・診断・治療の向上、生活・労働環境の安全性の確保を目指した研究及び開発を行う科学である。厚生科学は、健康で自立と尊厳を持った生き方を支援する科学であり、その推進は、人間と社会に対する幅広い総合的な視野を持ち、あたたかい心と高い倫理観、深い洞察に基づいて行われなければならない。一方、諸科学の進歩は、人類に文明の恩恵を与える反面、これまで経験したことのない健康危害や倫理的問題、地球環境問題などを引き起こす可能性があることにも留意しなければならない。また、生命科学の発達は、生命や身体を操作可能なものとすることにより、今までの人間観の転換をも迫っている。今後、厚生科学に求められるものは、新たな問題に対して十分配慮し、医学・医療に対する国民の信頼感と満足度を向上させ、尊厳のある生活に貢献するものでなければならない。
II 厚生科学研究のこれまでの推進状況
○ 本審議会の前身ともいうべき厚生科学会議は、厚生科学全般にわたる研究の基本戦略を策定するとともに、これに基づく将来に向けての重点研究課題の設定等を目的に昭和61年11月に発足し、厚生科学研究振興のための中長期的基本戦略、将来にわたる重点研究課題、厚生科学研究の評価のあり方等の問題に関して討議を行い、これまで、「厚生科学研究の基盤確立とブレイクスルーのために」(昭和63年9月)、「研究評価の基本的あり方」(平成元年8月)、「厚生省におけるヒトゲノム研究の推進について」(平成3年10月)、「遺伝子治療臨床研究に関するガイドライン」(平成5年4月)、「厚生科学研究の大いなる飛躍をめざして ー新たな重点研究分野の設定と推進ー 」(平成7年8月)、「厚生科学と健康被害防止のための行政のあり方 ー薬害エイズ問題から何を学ぶかー 」(平成8年6月)等の報告がなされた。
○ 平成9年4月には、厚生科学会議を発展させた形で、厚生省所管行政における科学技術に関する重要事項を調査審議するために、本審議会が設置され、さらに、厚生科学研究の企画、評価に関する事項を審議するための研究企画部会と、生殖医療、遺伝子治療臨床研究などの先端医療技術の評価に関する事項を審議するための先端医療技術評価部会が設けられた。これまで、研究企画部会での検討に基づき、「厚生科学研究に係る評価の実施方法に関する指針」(平成10年1月)の答申がなされた。また、先端医療技術評価部会においては、平成9年11月には、がん遺伝子治療臨床研究作業委員会、平成9年12月には、ヒト組織を用いた研究開発の在り方に関する専門委員会、平成10年10月には、生殖補助医療技術に関する専門委員会及び出生前診断に関する専門委員会をそれぞれ設置し、部会での検討に基づき、「手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について」(平成10年12月)の答申がなされるなど、最近の先端医療をめぐる動きに対応している。このほか、厚生科学研究費補助金についても、平成10年度には、競争的な研究環境を形成するため、原則公募型とするとともに、研究の大型化に対応するため、研究事業をそれまでの34から18に集約した。
○ また、政府全体においても、我が国の科学技術の厳しい現状や国民の科学技術離れ等を踏まえ、平成7年には、科学技術基本法が成立し、同法に基づいて平成8年に、新たな研究開発システムの構築、研究開発基盤の整備、研究開発投資額の拡充等を内容とする「科学技術基本計画」を閣議決定した。さらに、平成9年には、科学技術会議で「ライフサイエンスに関する研究開発基本計画」が策定され、特に国が取り組む領域として、脳、がん、発生等を掲げ、生体システムとゲノム等の基礎的生体分子に着目した研究開発を選定した。
III 厚生科学研究を取り巻く状況の変化
○ 厚生科学研究を取り巻く状況は、21世紀に向けて大きく変化しており、遺伝子や細胞といったミクロレベルから地球全体といったマクロレベルまでの様々なレベルで次のような変化が生じている。
1.個体レベル
○ 近年、生命科学の進歩は著しく、遺伝子領域では、ヒトゲノムの解析が2003年(あるいは2001年)にも一応完了するといわれ、今後、幅広い分野での疾病構造の解明、発病予測、診断・治療法の開発等において更に大きな貢献が期待される。
○ 他方、遺伝子治療、生殖医療や発生工学的手法による細胞・臓器移植の新しい展開等とともに、科学技術と個人の生命観や諸制度との間に、法的、社会的、倫理的な問題が発生している。
○ 情報処理技術を活用した画像処理等の医療機器の発達により、非侵襲的で正確な診断・治療法の発展への期待が高まっている。
○ 長寿社会における健康の意味や尊厳ある生活とはどういうものかが問われており、要介護者、高齢者などの生活の質(QOL)の維持向上について、関心が高まっている。
2.社会レベル
○ 高齢者人口の急増、出生率の低下など少子高齢化に伴って、信頼できる効率的な医療、年金、福祉の社会保障制度の構築や、予防、治療、リハビリテーション、地域ケアを含む保健・医療・福祉システムについて、その包括的・効率的な構築が求められている。
○ 情報化の進展等、職場環境を含め社会環境の急速な変化により、心の健康の問題や、青少年を中心に深刻な社会問題となりつつある薬物乱用について、治療法の確立等が求められている。
○ 患者の人権を保護し、妥当、適切な医療を提供するために、インフォームド・コンセントの普及定着を図っていくとともに、根拠に基づく医療(Evidence Based Medicine:EBM)を推進していくことが求められている。このため、その基礎となる疾病情報の収集や蓄積及び国民に対する正しい情報の提供について関心が高まっている。
○ ゲノム創薬等に基づく次世代医薬品や人工臓器等の画期的医療用具の研究開発を進めることは、その成果を社会全体に還元することにより、医学・医療の進歩への貢献はもとより、次世代産業の創出も含め、今後の我が国の産業経済の発展、活性化を図ること(科学技術創造立国)にもつながることから、大きな期待が寄せられており、知的所有権の保護などの対応が求められている。
○ 毒物混入事件、食中毒や自然災害のみならず、国際的に化学物質や微生物を用いたテロリズム(バイオテロリズム等)などへの対処についても関心が高まっており、感染症、医薬品、飲料水等を始めとする様々な分野において健康危害が発生した場合に備え、迅速・的確な健康危機管理体制の整備の必要性が高まっている。
3.地球レベル
○ 国際交流の活発化等により、エボラ出血熱、コレラ、マラリア、HIV/AIDS、腸管出血性大腸菌(O157等)感染症など新興・再興感染症による健康への脅威が増大している。また、医療の進展に付随して、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性結核菌などの問題も発生しており、新たな感染症対策が求められている。
○ ダイオキシン類、内分泌かく乱化学物質等の環境問題による健康影響が懸念されており、地球規模で取り組むべき課題となっている。
○ また、我が国の国際的地位の向上に伴い、内分泌かく乱化学物質の研究や大量化学物質の規制、医薬品等の許認可についての国際基準作成への参画等国際協調や、発展途上国に対する保健医療、水道、社会保障制度等の面での技術協力等国際貢献の推進が求められている。
IV 新たな変化に対応して求められる研究領域
1.健康科学研究の推進
○ 創造性に富み、かつ疾病の克服を視野に入れた基礎的な研究を引き続き推進するとともに、基礎研究の成果を臨床応用につなぐための基礎研究と臨床研究の橋渡しを行う研究(トランスレーショナル・リサーチ)の推進が重要である。
○ 産学官の連携を確保するとともに、臨床研究について国民の理解を得る必要があり、そのためには、被験者の積極的依頼方策の検討や、患者が安心して協力できる仕組みが重要である。
(1)健康科学としての生命科学研究の推進
(2)生活の質(QOL)の向上
2.少子高齢化社会への対応とノーマライゼイションの推進
○ 少子化、長寿化、人口減少化及び価値観の多様化等が21世紀社会に及ぼす影響をより正確に把握し、包括的・効率的な保健・医療・福祉システムの構築や社会保障制度の構造改革に関する政策に資する研究の推進が重要である。
○ 少子高齢化に対応し、高齢者の健康の維持に資する生理的老化の研究、老年病や痴呆の原因解明、予防・治療法の開発を目指した老年病学、老人医学の研究及び女性の生涯にわたる健康支援対策、児童の心身にわたる健全育成対策に関する研究の推進が重要である。
○ 介護保険制度の導入に伴うリハビリテーション技術の効率的な利用、高齢者、障害者の安全な生活及び自立、社会参加の促進のための各種福祉器具等の開発と評価に関する研究を推進していくことが重要である。
3.根拠に基づく医療(EBM)等の推進と情報技術の活用
(1)臨床疫学研究の推進
(2)根拠に基づく医療(EBM)等の推進及び情報技術の活用
4.健康への脅威の対応と生活の安全の確保
(1)新興・再興感染症への対応
(2)食の安全の確保
(3)新たな化学物質問題や環境問題への対応
5.画期的な医薬品及び医療機器等の開発と安全性の確保
○ 医薬品、医療機器等の安全性の向上を目指し、副作用の発生を防止、低減する方法等の研究を推進するとともに、特に、ゲノム情報に基づいた病態に的確に反応する画期的な新作用機序医薬品等の開発が必要である。また、上市後の医薬品の副作用防止策の徹底、とりわけ薬剤疫学の普及などの適切な安全性確保に関する研究の推進が重要である。また、薬物依存の形成や中毒性精神病の発現の機序について、分子レベルで解明する研究も重要である。
○ 骨、皮膚等の他者からの提供組織の利用や、本人の正常組織部分等の利用により、損傷部位や機能不全に陥った臓器を修復していく、いわゆる再生医学が期待されている。これは、医療と創薬、医用工学の特質を併せ持つものであり、倫理性、有効性、安全性の確保のための制度的検討が重要である。また、副作用が少なく、安定的供給にも寄与することが期待される人工血液や、人工臓器及び超微細技術を活かしたマイクロマシンなどを応用した高度先端治療機器の臨床応用に向けた開発や研究も重要である。
○ 医薬品、医療機器の研究開発については、産学官の連携の確保、知的所有権の保護、ベンチャー企業の育成等長期的視野に基づいた投資戦略が必要であり、また、円滑な臨床試験のための基盤整備・体制充実が必要である。こうした研究開発の成果は、医療、福祉水準の向上と我が国経済の活性化に貢献するものである。
6.厚生科学の国際的展開
○ 長寿科学や新興・再興感染症分野の技術、水処理に関係する技術など、リヨンサミットで提唱された世界福祉構想の精神を生かした発展途上国に対する国際貢献が重要である。また、国内外の研究者の積極的受け入れ制度の検討等により、発展途上国も含めた諸外国と我が国の研究者との交流を一層推進することが重要である。
○ 医薬品、医療機器及び食品等については、制度の国際的調和への積極的な関与の推進とそれに対応した国内規制、規格及び評価方法の整備が重要である。
○ ダイオキシン類や内分泌かく乱化学物質など化学物質の安全性評価については、経済協力開発機構(OECD)、世界保健機関(WHO)などの場を活用し、各国分担による共通の指標、規格、基準及びデータを作成・利用していくことが重要である。
○ 疾病関連遺伝子の解析、ゲノム創薬、遺伝子治療研究等の分野は、次世代の治療技術開発として、各国による激しい競争下にあり、このため、我が国においても、これらの基礎となるヒトゲノム解析及びその関連先端科学研究分野に関し、知的所有権保護のための検討が必要である。
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