発生動向の分析結果
図7 HIV感染者及びAIDS患者の国籍、感染経路別年次推移
図10 HIV感染者及びAIDS患者の感染経路、国籍、性別の居住地の分布
図11 HIV感染者及びAIDS患者報告数のブロック別年次推移
平成10(1998)年報告例の主な内訳
1998年には、HIV 感染者(以下HIVと省略)422件、AIDS患者(以下AIDSと省略)231件が報告された。感染経路別では、性的接触による感染(HIVの74.1%、AIDSの64.9%)が(図1)、国籍・性別では、日本国籍男性(HIV 61.8%、AIDS 68.4%)が多数を占めた(図2)。また、感染地別では、日本国籍例の大半が国内感染(HIV 75.1%、AIDS 65.5%)で(図3)、居住地別では、東京とその他の関東甲信越ブロックからの報告が大半を占め(HIV 74.6%、AIDS 74.5%)、近畿ブロックがそれに次いだ(HIV 12.1%、AIDS 8.2%)。
HIVの年間報告数は前年を上回ったが(+25)、AIDSはエイズ動向調査開始以来初めて減少(-19)に転じた。HIVの増加は、日本国籍例の増加によるもので、感染経路別では同性間の性的接触と不明、性別では男性、感染地別では国内感染と不明、地域別では、北海道・東北、関東・甲信越ブロック(東京を除く)、及び近畿ブロックが増加した。外国国籍のHIVはむしろ減少したが、それは女性例の減少によるものであった。AIDSにおいては、日本国籍例の同性間感染が増加したのを除けば、性別、感染地別、居住地別のほぼ全ての区分で減少した(以上表1)。
図1. HIV及びAIDSの感染経路の分布(1998年報告例)
図2. HIV及びAIDSの国籍・性別の分布 |
図3. HIV及びAIDSの感染地の分布 |
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平成10(1998)年12月31日までの累積報告例の内訳
1998年12月31日までの累積報告件数は、HIV 2913件、AIDS 1286件であり、この他に1998年7月13日時点の集計として、凝固因子製剤による感染例HIV1434例、AIDS631例が全国調査によって確認されている。凝固因子製剤による感染例以外の感染経路別構成は、HIVでは、異性間の性的接触48.1%、同性間の性的接触24.3%、静注薬物濫用1.4%、母子感染1.4%、その他1.8%、不明24.5%であり、AIDSでもほぼ同様であった(以上表2、図4)。国籍・性別構成は、HIVでは日本国籍男性45.9%、日本国籍女性8.9%、外国国籍男性13.9%、外国国籍女性31.2%であり、AIDSでは、それぞれ66.3%、5.7%、19.9%、8.2%であった(以上表2)。
. HIV及びAIDSの感染経路の分布(1998年までの累積)
HIV及びAIDSの動向 (凝固因子製剤による感染例を除く)
HIVの年間報告件数は1992年のピーク後減少したが、1995年以降一貫して増加傾向にある。AIDSの年間報告件数は1997年までは増加を続けたが、1998年に初めて減少に転じた(以上表3-1)。HIVの増加は、日本国籍男性例の増加によるもので、他の国籍・性別区分では過去5年間、横這いないし減少傾向にある。AIDSは、外国国籍男性において近年横這いであることを除けば、他の国籍・性別区分ではいずれも減少した(以上表3-1、図6)。
また、今回初めて、国籍を世界地域区分別に分類して動向を検討したが、HIV、AIDSともに、日本国籍例以外では、南・東南アジアがもっとも多く、ラテンアメリカ、サハラ以南アフリカがそれに次ぎ、いずれの区分でも過去5年間、報告数はほぼ横這いに推移しており、日本国籍以外の報告例の割合は、HIV、AIDSともに平成10(1998)年で約30%程度であるが、過去5年間、HIVでは漸減傾向、AIDSでは30-35%の範囲でほぼ一定している(以上表3-2)。
感染経路別にみると、日本国籍例のHIVでは、同性間の性的接触と感染経路不明例が増加を続けているが、異性間の性的接触は微増にとどまった。外国国籍のHIVではいずれの感染経路区分も減少ないし横這いである。AIDSでは、日本国籍例の同性間の性的接触と外国国籍例の感染経路不明例が過去5年間増減を繰り返しているが、それ以外では、横這いないし減少傾向にある(以上表4、図7)。感染経路不明例の割合は、HIVでは、例年外国国籍例の40%前後を占めているが、日本国籍例でもその割合は年々増加し、平成10(1998)年には、約16%に達した。AIDSでは、感染経路不明例の割合は近年ほぼ安定しているが、その割合は、外国国籍例で50%以上、日本国籍例でも20%を越える(以上表4)。年齢分布は、HIVでは国籍にかかわらず、男性では25-34歳、女性では20-29歳にピークが見られるが、AIDSでは、日本国籍男性で45-49歳と特に高い以外は、25-34歳にピークがある(以上表6-2)。また、感染地別では、HIVにおいて、日本国籍男性の国内感染例と感染地不明例が増加を続けていること、外国国籍男性の国内感染が増加傾向にあることが注目されるが、それ以外の区分ではほぼ横這いの状況が続いている(以上表7、図8)。AIDSでは、日本国籍男性の国内感染例の増加が平成10(1998)年に初めて止まり、それ以外の区分では、横這いないし減少傾向にある(以上表7)。居住地別では、日本国籍男性のHIVで、関東・甲信越ブロック(東京都を除く)及び近畿ブロックにおける増加傾向が続いているが、北海道・東北ブロックでの平成10(1998)年の急増も注目される。それ以外のHIVの国籍・性別区分やAIDSでは、ブロックによって若干の増減はあるが安定した傾向は認められない(以上表8)。
(1)国籍・性別のHIVの動向
日本国籍男性:異性間と同性間の性的接触がほぼ同数(534 v.s 618)で報告件数の大半(86.1%)を占めている。平成10(1998)年には、同性間の性的接触と感染経路不明例が増加した(以上表5、図9)。異性間の性的接触は、年齢のピークが30-34歳、国内感染が大半(62.5%)を占める(以上表9-1)。国内感染例の割合は近年緩やかに増加しつつある。居住地別では、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が44.6%、東京都が32.4%で、年間報告数は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)と東海ブロックで減少し、東京都と近畿ブロックで増加傾向にある(以上表9-1)。一方、同性間の性的接触では、25-29歳に年齢のピークがあるが、平成10(1998)年における30-34歳の年齢層の急増が注目される。国内感染の割合が高く(81.7%)、過去3年間は90%を越えている(以上表9-2)。東京都が55.3%、関東甲信越ブロックが23.0%を占め、異性間に比べ東京都の割合が大きいが(図10)、東京都が平成10(1998)年にやや減少する一方、関東甲信越ブロック(東京都を除く)と近畿ブロックでは最近の増加が認められる(以上表9-2)。感染経路不明例が増加しつつあり、平成10(1998)年に17.2%に達した(以上表5)。
日本国籍女性:異性間の性的接触が、増減しつつも緩やかに増加している(以上表5、図9)。年齢のピークは25-29歳で、感染地の大半はほぼ一貫して国内(72.7%)であり、居住地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が39.4%、東京都が28.2%を占め(以上表9-3、図10)、日本国籍男性に比べると、地域的に分散する傾向がある(以上表9-3)。感染経路不明例は、例年数例にとどまり増加傾向は見られない(以上表5)。
外国国籍男性:異性間の性的接触が同性間の性的接触の約1.6倍で、いずれも1996年までは緩やかに増加を続けてきたが、その後横這いないしやや減少している(以上表5、図9)。異性間の性的接触の年齢のピークは、30-34歳、感染地は海外が大半(63.4%)であるが、国内感染も16.9%存在する。居住地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)と東京都がほぼ同数で、計74.6%を占める(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触は、年齢のピークが25-29歳とやや若く、海外感染が主である(43.3%)が、国内感染例が増加しつつあるのが注目される。66.7%が東京都に集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。
外国国籍女性:異性間の性的接触が、1992年に大きなピークを示した後減少し、過去4年間ほぼ横ばいの状態にある(以上表5、図9)。年齢のピークは、20-24歳ともっとも若く、感染地は海外感染と不明が多いが、国内感染も16.9%存在する。居住地は、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が67.5%、東京都が21.1%を占める(以上表9-6、図10)。感染経路不明例は、数、年次推移ともにほぼ異性間の性的接触に近い(以上表5)。
(2)国籍・性別のAIDSの動向
日本国籍男性:異性間の性的接触が増加を続けていたが、1998年に減少に転じた。同性間の性的接触は過去5年間40件前後でほぼ横ばい状態にある(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは45-49歳、感染地は、1994年までは海外感染が主であったが、1995年以降は国内感染が主となった。累計では国内感染は53.0%を占める。居住地は、累計で関東甲信越ブロック(東京都を除く)が47.8%、東京都が25.9%を占める(以上表9-1、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは40-44歳で、感染地は、国内が中心(68.5%)でその傾向は1991年以降一貫している。居住地は東京都が中心で55.6%、関東甲信越ブロック(東京都を除く)が24.4%を占める(以上表9-2、図10)。感染経路不明例が21.0%存在する(以上表5)。
日本国籍女性:異性間の性的接触は、1995年以来、年間約10件と横ばいで(以上表5)、年齢のピークは25-34歳、国内感染が主(58.7%)で、居住地は相対的には関東甲信越ブロック(東京都を除く)に多い(34.8%)が、比較的全国に分散している(以上表9-3、図10)。感染経路不明例が26.0%存在する(以上表5)。
外国国籍男性: 異性間の性的接触が1992年以来優位で、1996年まで増加を続けたが、1997年以来減少傾向にある。同性間の性的接触は年間数例にとどまっている(以上表5)。異性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(68.2%)で、東京都、関東甲信越ブロック(東京都を除く)に70.5%が集中している(以上表9-4、図10)。同性間の性的接触では、年齢のピークは30-34歳、海外感染が主(53.8%)で、東京都に64.1%が集中している(以上表9-5、図10)。感染経路不明例が44.5%存在する(以上表5)。
外国国籍女性:異性間の性的接触と感染経路不明例がほぼ同数を占める(以上表5)。異性間の性的接触の年齢のピークは25-29歳、主な感染地は海外(41.7%)、居住地は関東甲信越ブロック(東京都を除く)が中心で64.6%を占める(以上表9-6、図10)。
図10. HIV及びAIDSの感染経路別、国籍別、性別の居住地の分布
都道府県別の報告件数
HIVは過去3年間、関東・甲信越ブロックではほぼ横這いに推移しているが、近畿ブロックでは増加が続いている。AIDSはほぼ全てのブロックで1998年に減少した(図11)。人口10万対の累積報告件数は、全国ではHIV 2.31(表10-1)、AIDS 1.02(表10-4)である。人口10万対報告件数の多い都道府県の上位5つは、日本国籍例の場合、HIVでは、東京都、千葉県、茨城県、神奈川県、埼玉県(表10-2)、AIDSでは、東京都、茨城県、千葉県、栃木県、神奈川県(表10-5)で、外国国籍例の場合、HIVでは、茨城県、長野県、山梨県、東京都、栃木県(表10-3)、AIDSでは、茨城県、山梨県、長野県、東京都、栃木県である(表10-6)。
HIV |
AIDS |
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AIDS報告における指標疾患の分布
日本国籍と外国国籍のAIDSの累計報告数(925と361)を分母として、各指標疾患の分布を見ると、分布は両国籍群で類似しており、ニューモシスチス・カリニ肺炎が40%前後ともっとも多く、カンジダ、HIV消耗性症候群が10%台を占める。両群では活動性結核に差が認められ、日本国籍例では、6.7 %であるのに対し、外国国籍例では、13.6%とほぼ2倍になっている(以上表11)。
病変死亡の動向
これまでに570例の病変報告が寄せられ、近年日本国籍男女で病変死亡例数の減少が認められる(以上表12)。減少は年齢に偏りなく生じている(以上表13)。
報告年と診断年の比較
日本国籍の HIV及び外国国籍のHIVとAIDSについては、例年95%以上が診断年と同じ年内に報告されているが、日本国籍のAIDSで95%を下回る年がしばしば見られる(以上表14)。
まとめ
(1)HIVの報告件数は日本国籍の男性で、異性間と同性間の性的接触による報告例を中心に依然増加が続いている。
(2)AIDSの報告数は、サーベイランス開始以来初めて減少に転じた。
(3)外国国籍例が、最近のHIV及びAIDSの年間報告数の30%前後を占め、東南アジア、ラテンアメリカの順に多い。
(4)感染経路は、HIV、AIDSとも性感染が大半で、静注薬物濫用や母子感染によるものはいずれも1%以下にとどまっている。感染経路不明例が外国国籍例の半数近くにのぼり、日本国籍のHIVでも最近増加傾向にある。
(5)性感染の感染地は、日本国籍例の場合HIV、AIDSいずれも大半が国内であり、居住地は、関東・甲信越ブロックに集中しているが、同性間の性的接触による感染例はとりわけ東京都に集中している。
(6)ブロック別では、近畿ブロックからの最近の報告数の増加が注目される。