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平成10年度

食品の表示のあり方に関する検討報告書


平成11年3月5日


厚生省
食品衛生調査会 表示特別部会

照会先 生活衛生局食品保健課 代表:[現在ご利用いただけません] 内線:2452

目  次

I 食品の表示に関する検討背景

【1】 食品の表示に関する検討背景

【2】 表示特別部会の設置


II 現在までの議論整理及び提言

【1】 総論的事項

1 食品の表示の考え方及び枠組みについて
2 表示対象食品の範囲について
3 表示事項の必要性について
4 表示の方法について

【2】 各論事項

1 注意喚起等の表示について

(1)いわゆる栄養補助食品および難消化性糖質の過剰摂取に関する現状
(2)いわゆる栄養補助食品および難消化性糖質の過剰摂取の表示に関する今後のあり方

2 アレルギー物質における食品表示について

(1)アレルギー物質に関する食品表示の現状
(2)アレルギー物質に関する表示の今後のあり方

3 原材料の表示について

(1)原材料表示の現状
(2)原材料表示に関する今後のあり方

4 原産国または国内産地の表示について

(1)原産国等の表示の現状
(2)原産国等の表示に関する今後のあり方

5 遺伝子組換え食品に対する表示について

(1)遺伝子組換え食品に対する表示の現状

ア. 我が国の現状
イ. 国際的な動向
(2)遺伝子組換え食品の表示に関する今後のあり方

6 その他の表示について

(1) 製造所固有記号について

ア 製造所固有記号表示の現状
イ 製造所固有記号に関する今後のあり方
(2) 器具・容器包装における表示基準の設定について
ア 器具・容器包装表示基準の現状

 1) 国内の現状
 2) 諸外国の状況

イ 食品衛生法上の表示の義務化に関する今後のあり方

III 報告書をまとめるに当たって



I 食品の表示に関する検討背景

【1】 食品の表示に関する検討背景

○ 食品衛生法に基づく食品の表示は、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与することを目的に、公衆衛生の見地から行われてきたところである。

○ 食品衛生法上の規定によれば、公衆衛生の観点からすべての食品に必要がある場合には表示を義務付けることが可能であるが、現在定められている表示の基準では、表示の義務付けがなされているのは、容器包装に入った加工食品が中心であり、容器包装に入っていない食品、農産物や魚介類などの加工食品以外の食品については、原則として表示の義務付けがなされていない。また表示内容についても、一部の食品を除いて原材料表示等の義務付けはなされていない。

○ しかしながら、現行の表示基準を定めた当時からみると、食品の製造・流通形態が大きく変化しており、健康危害の発生を防止するために消費者、行政が必要とするすべての情報について、適切な表示の義務付けが必ずしもなされていないのではないかとの指摘がある一方、規制緩和の観点から、表示についてはできる限り自主的な取組に任せるべきであるとの意見もある。また、近年の国際化の動向、整合性を十分に踏まえた対応についても重要となってきており、これらを踏まえた表示対象食品の範囲や表示の項目等、表示基準の全般的な見直しが必要となってきている。

【2】 表示特別部会の設置

○ これらの点に鑑み、今般、食品衛生調査会に食品の表示のあり方全般を検討する「表示特別部会」を設置し、表示による食品衛生上必要な情報提供のあり方等について、再検討することとした。当部会においては、食品衛生法の目的である健康危害の防止という観点から、今後の食品表示のあり方について提言等を行うこととする。


II 現在までの議論整理及び提言

【1】 総論的事項

1 食品の表示の考え方及び枠組みについて

○ 従来より、食品の表示については様々な観点から制度の整備が行われてきた。
 食品衛生法においては、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止するため、また万一の被害の発生に対して原因究明及び被害の拡大防止といった行政対応を迅速・適切に行うために、一定の表示基準を定めている。また、不当景品類及び不当表示防止法(景表法)では、虚偽や誇大な表示が行われると企業間の公正な競争が阻害され、消費者が商品を適正に選択できなくなることから、商品の内容や取引条件が誤認されるおそれがある表示を禁止している。さらに、事業者間で相互に虚偽や誇大な表示を用いないことを約束し、相互に監視する公正競争規約の制度を定めている。そして、農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)においても、一般消費者の選択の観点から食品の表示制度の整備が行われている。

○ 今後の食品の表示のあり方について検討するに当たっては、上記のような既存の考え方及び枠組みを再度整理し、かつ、近年の食品の表示制度を取り巻く状況の変化等に対する理解を深めるため、以下に述べる論点について十分な議論が必要である。

ア 従来、「消費者は弱者」と捉えた上で、消費者保護目的での行政的な制度の整備が重要視されてきたが、近時の消費者行政の方向性としては、「弱者としての消費者像」から「自律・自立を志向する消費者像」への転換を示しつつある。しかし、事業者と消費者との間の「情報の非対称性」(情報の量・評価能力の程度の差)の問題が残され、両者のバランスをとる必要があり、表示は消費者の選択にとって不可欠なものであることから、食品の表示は、必ずしもすべて両当事者の自由に任せられるものではないとの指摘もある。
 したがって、消費者と事業者との商品取引関係をどの程度尊重すべきか、また行政がどの程度制度を整備すべきかについての検討が必要である。

イ 食品の購入・使用・摂取に関連して消費者が被りうる生命・健康に対する危険は、事後救済という救済手段では、現状回復を図ることがしばしば困難であり、ときに広範囲に危害を及ぼすこともある。したがって、商品を選択する段階で、食品に起因する健康危害を防止できるという意味で、食品の表示制度について、どの程度の整備をおこなうべきかの検討が必要である。

ウ 「消費者が選択をするに当たって必要かつ十分な情報が与えられることが望ましい。」また「消費者は、意志決定をなし得るに必要な適切な表示を求める権利があり、事業者はそれを提供する義務がある。」という考え方があることを踏まえ、企業による当該情報の提供を義務付けることが必要・適切か否か、つまり、表示をすることによりどのような健康危害が防止されるのか、そうした義務付けを行うことが健康危害の防止にとって有効な方法か、健康危害の大きさが表示の義務付けを必要とする程度のものかなどについての検討が必要である。

エ 食品に関する情報提供の手段は表示だけではなく、また表示という手段は、そのスペース等限られた部分が多いことから、消費者の啓発・教育も含め、表示だけではない消費者への情報提供のあり方についても検討が必要である。

○ 食品の表示制度は複数存在することから、事業者や消費者にとってよりわかりやすいものとなるよう、関係省庁と一層の連携を確保し、調和のとれたものとしていくことが必要である。
 さらに、これらの制度を統一的な枠組みにより実施することの是非については、引き続きそれぞれの観点から制度の整備を行うことの必要性や、統一的に実施した場合の長所及び短所等について、必要に応じて関係省庁との連携を図りつつ、幅広い視点から十分な議論が必要である。

○ 国際化の一層の進展に伴い、FAO/WHO合同食品規格委員会(コーデックス委員会)を中心とした国際機関等における表示を含む国際規格の制定等への対応が重要となってきている。我が国としても、これら国際機関において合意された基準等を、迅速かつ的確に国内制度に反映させていく必要がある。また、こうした国際会議の場において、必要に応じて我が国としての基本的考え方を明確に主張していくことが望まれる。


2 表示対象食品の範囲について

○ 食品衛生法においては、厚生大臣は、公衆衛生の見地から、販売の用に供する食品等に対し、表示に関する必要な基準を定めることができることとなっており、これらの表示の基準が定められた食品等について、基準に合致した表示がなされる。

○ 食品の表示基準が定められている食品としては、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令においては、乳、乳製品及びこれらを主原料とする食品、また食品衛生法施行規則においては、清涼飲料水、食肉製品、冷凍食品、かんきつ類等、容器包装に入れられた加工食品が規定されている。

○ 表示すべき事項は、食品等の種類によっても異なるが、基本的なものとしては、名称、消費期限又は品質保持期限、製造所又は加工所所在地(輸入業者営業所所在地)、製造者、加工者又は輸入者の氏名、名称、保存の方法等があげられる。

○ またこのほかには、食品の種類によってそれぞれ、添加物を含む食品については添加物を含む旨、使用基準がある食品については使用方法、冷凍食品については加熱等の必要性、放射線を照射した食品についてはその旨等が定められている。

○ 近年、ますます多様な加工食品が市場に出回っており、消費者に対し、適切な表示による情報提供を行っていく必要性が高まっている。一方、従来、技術的な問題等から表示対象とされてこなかった簡易な加工食品やばら売り食品についても、表示基準を定めることができるか否かについて、表示方法等の問題を含めて、今後、さらに検討することが必要である。


3 表示事項の必要性について

○ 食品の選択に当たっては、長年にわたる文化とも言うべき食習慣によって、安全性を含めた判断がなされていることから、健康危害の防止を目的とした表示に関しては、当該食品の健康への影響の程度について常識的に判断ができる場合、あるいは健康危害を防止するために保存・調理方法等に配慮する必要性について一般的に判断ができる場合には、基本的に表示を義務付ける必要はないと考えられる。

○ しかし、健康危害の発生防止の観点から行われる食品衛生法による表示規制については、近年の高度な加工食品や新開発食品、また市場に流通して比較的時間経過の少ない食品にあっては、消費者がその特性を十分に理解していない場合があり、不十分な知識が健康危害の発生に結びつくことがあるため、こうした点を十分考慮して、表示の必要性について判断していかなければならない。


4 表示の方法について

○ 食品衛生法における表示方法については、邦文で、その商品を購入し使用する者が読みやすく理解しやすいような用語により正確に記載することとされており、表示場所についても、容器包装を開かないでも見ることができるように、容器包装の見やすい場所に記載することとされている。

○ 消費者にとっては、選択に資する情報はなるべく表示されることが望ましい。しかし、消費者が接する情報量が多くなり、その選択が困難になってきていることに加えて、表示スペースの限られた小包装の商品が増えているのが現状である。
 表示を義務付ける事項を選定する場合には、必要とされる情報を整理し、より重要なものから優先して表示することが必要である。

○ 高齢社会の到来を踏まえ、あらゆる年齢、能力の人に対応した建造物等に用いられる絵文字表示(ユニバーサルデザイン表示)などが採用される方向にあるが、食品の表示においても、より一層、高齢社会に対応した活字の大きさやスペース、色、表示場所など見やすさに配慮するとともに、表示方法のルール化についてもその必要性を含め、今後、さらに検討する必要がある。

【2】 各論事項

1 注意喚起等の表示について
− いわゆる栄養補助食品及び難消化性糖質の過剰摂取に対する注意喚起表示について−

(1)いわゆる栄養補助食品及び難消化性糖質の過剰摂取に関する現状

ア いわゆる栄養補助食品の現状

1)我が国の現状

○ 規制緩和推進計画及びOTO本部決定に基づき、食品に対する消費者の意識の変化、各国間の制度の違いを考慮して、平成8年度はビタミン、平成9年度はハーブ類を対象として、そのいくつかについて食品としての流通を認めることとしており、平成10年度中には、ミネラルについても、同様の取扱いをすることとしている。この食薬区分の見直しに伴い、いわゆる栄養補助食品といわれるものが、国内において流通するようになってきている。

○ いわゆる栄養補助食品とは、ビタミン、ミネラル等を抽出し、カプセル等の形状にしたものであり、我が国においては、いわゆる栄養補助食品に関する法令等による明確な定義は存在しない。このため、上記決定に基づき、栄養補助食品を新しいカテゴリーとすることや、適切な摂取方法等についての注意表示について検討することとしている。

○ 通常、人体に必要な栄養は、日々の食事から摂るのが理想的な形であるが、特に近年、食生活の変化や特別な身体的、生理的状況などから、食生活からだけでは必要な栄養素が得られない場合も出てきており、いわゆる栄養補助食品は、そのような場合に不足しがちな栄養素を補うという役割を担うものであると考えられる。

○ なお、栄養補助食品に係る注意喚起としては、米国において、ビタミンAと奇形発現等の関係において、妊娠前3ヶ月から妊娠初期3ヶ月までにビタミンA補給剤を10,000IU/day以上継続摂取した女性から出生した児に、奇形発現率の増加が認められると推定される疫学的知見が学術誌に報告されたことから、平成7年12月に、ビタミンA含有健康食品が、過剰摂取されることのないよう必要な表示を行う等、関係営業者の指導を行うことを含めた、ビタミンAの摂取の留意点等について、各都道府県等に通知されている

2) 国際的な動向

○ コーデックス委員会では、現在、「ビタミン及びミネラルの栄養補助食品のガイドライン案」の作成作業を行っており、栄養成分の含有量や、表示については、一日推奨摂取量、注意喚起表示、摂取方法等に関する検討が行われている。

○ 米国及び欧州における規制状況

a.米国における規制
 栄養補助食品・健康教育法が施行されており、ビタミン、ミネラル、ハーブ、アミノ酸等を成分とし、タブレットやカプセル等の形状にしたものを栄養補助食品として定義し、表示に関しては、製造業者が根拠をもつ範囲において認めている。

b.欧州における規制
 欧州主要国では、ビタミン及びミネラルについてはRDA(一日摂取参照量)と関連させて食品と医薬品を区別している。また、ハーブ類については各国様々であるが、医薬品として規制を行っているものもある。

イ 難消化性糖質の現状

○ エリスリトール等の難消化性糖質は、糖アルコールの一種で、ブドウ糖を原料にした発酵法などの方法で生産されている甘味料であるが、その甘味は砂糖に近く、また生体内でエネルギーとして利用されることがほとんどないため、いわゆるノンカロリーの甘味料として、最近これを使用する食品が増えている。

○ しかし、ほとんど消化されないことから、大量に摂取すると緩下作用を示すことが知られているが、例えばエリスリトールの場合、緩下作用の無作用量は、動物実験の結果等から約0.66g/kg程度とされており、体重50kgの人で約33g、体重30kgの子供で約20g、またはそれを超える摂取で下痢等が発生する可能性が生じる。

○ したがって、このような性質をもつ物質を含有する食品について、過剰摂取に対する何らかの表示の有無の検討が課題となっている。


(2)いわゆる栄養補助食品および難消化性糖質の過剰摂取の表示に関する今後のあり方

○ 食品の過剰摂取に起因する健康危害は、概ね、以下の3つに分類することができると考えられる。

(1) いわゆる栄養補助食品の過剰摂取による健康危害
 妊娠初期の女性がビタミンAを過剰摂取することにより奇形発現率が増加する等の、ある種のビタミン、ミネラル等のいわゆる栄養補助食品を過剰摂取することにより、重篤な健康危害を生じることがある場合

(2) 難消化性糖質の過剰摂取による健康危害
 新たな食品素材として開発されたエリスリトール等の難消化性糖質の過剰摂取により、生理的に緩下作用を示す場合
(3) その他食品の過剰摂取による健康危害
 その他食品、例えば冷たい牛乳を多量に摂取することにより、緩下作用を生じる場合

○ これらに対する表示のあり方については、以下のように考えられる。

1) いわゆる栄養補助食品について

○ いわゆる栄養補助食品の表示については、大別すると、例えばカルシウムでは骨を丈夫にするというような表示あるいは1日の推奨摂取量といった健康増進のための栄養強調表示と、脂溶性ビタミン等のように、これ以上摂ると危険であるといった過剰摂取に関する注意喚起表示の2つの表示が考えられる。

○ いわゆる栄養補助食品の表示のうち、有効性や摂取方法等の栄養強調表示は、基本的に栄養学的見地から検討されるべきものであることから、今後は栄養改善法に基づき、公衆衛生審議会の健康増進栄養部会において審議を行うこととする。

○ しかしながら、脂溶性ビタミン等の過剰摂取の害に対する注意喚起表示等については、食品衛生上の危害発生防止の観点から、引き続き当表示部会で検討することとする。

○ したがって、いわゆる栄養補助食品の表示については、当面2つの審議会に分かれて審議されることになるが、同じ食品の表示についての議論でもあることから、公衆衛生審議会の健康増進栄養部会の議論と当部会の議論を、今後とも緊密な連携のもとに進めていくよう配慮する必要がある。

2) 難消化性糖質について

○ 緩下作用は、難消化性糖質に限られた作用ではなく、様々な食品で大量摂取等することにより発生することから、難消化性糖質のみ注意喚起表示を義務表示とすることは、他の食品との関係からバランスを欠くと考えられる。

○ 難消化性糖質は、甘味料として使用されているが、通常の砂糖等の甘味料と味のみでは区別がつかないこと、その使用が普及して日がまだ浅く、消費者に十分認識されていないため名称を表示しただけでは難消化性糖質であるかどうかが判別し難いこと、また、物質毎に緩下作用を発現する量がそれぞれ異なることから、目安となる量を表示する必要がある。

○ 以上から、難消化性糖質を一定量以上含む食品の注意喚起表示には、「お腹が緩くなることがある」等の表示のためのガイドライン等を示し、関係業界の自主的な対応とするとともに、物質毎に最大無作用量(最小作用量)を決め、摂取の目安となる量を示すことが必要である。

3) その他過剰摂取により健康危害が知られている食品について

○ これまで経験的に過剰摂取すると緩下作用を示すことが知られている食品は数多くあるが、これらの食品については、個人が今までの食品を摂取した経験に基づき過剰摂取を避けていると考えられ、また、個人差や形態により作用の発現が大きく異なることから、用量等を特定して注意喚起を行うことは困難である。

○ したがって、これらの食品については、基本的に注意喚起表示を行う必要はないと考えられる。


2 アレルギー物質に関する食品表示について

(1)アレルギー物質に関する食品表示の現状

1)我が国の現状

○ 現在、食品衛生法においては、食品中のアレルギー物質についての表示は、義務付けられていない。

○ しかし、厚生科学研究による過去10年間の国内文献調査によれば、身体的に重症となるアナフィラキシーショック症状を呈した例として、そば、小麦、えび、貝、ゼラチン、牛乳、キウイ、さくらんぼ、ももが挙げられるほか、その他重症にいたらないまでもアレルギー性の症状を呈したことがある食品として、肉類では鶏卵、鶏肉、豚肉、牛肉、穀類では米,大麦、山芋、豆類ではくるみ、大豆、魚介類ではさば、いわし、さけ、ひらめ、たら、あわび、いか、甲殻類ではかに、果物ではりんご、野菜ではトマト、セロリ、にんじん、その他として、はちみつ等が示唆されている。

2)国際的な動向

○ コーデックス委員会の食品表示部会においては、包装された食品であってアレルギー物質を含めた過敏症を惹起することが知られている以下の8種の原材料を含む食品については、その旨を表示すべきことを規定する案が、すでに合意されており、平成11年6月に採択される予定となっている。

(1) グルテンを含む穀類及びその製品
(2) 甲殻類及びその製品
(3) 卵及び卵製品
(4) 魚及びその製品
(5) ピーナッツ、大豆及びその製品
(6) 乳・乳製品(ラクトースを含むもの)
(7) 木の実及びその製品
(8) 亜硫酸塩を10mg/kg以上含む食品

○ 欧米における状況

 厚生科学研究による最近の欧米各国の表示制度に関する調査によれば、米国、カナダ、フランスでは、食品中アレルギー物質について原材料名表示の形で表示を義務化している。一方、イタリア、スイス、ノルウェー、スウェーデンでは、食品中にアレルギー物質が含まれる場合、その旨を任意に表示している。


(2)アレルギー物質に関する食品表示の今後のあり方

○ 食品中のアレルギー物質については、健康危害の発生防止の観点から、これらを含有する食品に対し、表示を義務付ける必要がある。

○ アレルギー疾患を有する者は、一般に自らどのような種類のアレルギー物質で症状を誘発するか認識していることから、敢えてアレルギーの警告表示の形をとらなくとも、健康危害の防止を行うことができると考えられる。

○ 表示方法については、これら食品中のアレルギー物質のポジティブリストを作成する方法、原材料名表示で対応する方法等が考えられる。このうち、どのような方法が適当かについては、今後、さらに検討する必要がある。

○ 食品中アレルギー物質によるアレルギーの発症に関しては個人差が大きく、摂取した食品中のアレルギー物質の量と健康危害の有無及び症状の関係について十分には解明が進んでいないことから、義務表示をするに当たり表示をする食品中アレルギー物質の含有量による基準を定めるか否かについては、今後、さらに検討する必要がある。

○ また食品の容器・包装に表示する場合には、その表示面積など物理的な限界もあることから、近年進展の著しいインターネットをはじめとした様々な情報関連技術を活用し、表示を含む個別の食品に関する情報が容易に入手できるシステムを構築することについても、今後、さらに検討する必要がある。


3 原材料の表示について

(1)原材料表示の現状

○ 食品衛生法やJAS法、景表法のいずれの法律においても、原材料又は原材料の一部の表示が規定されている。

○ 食品衛生法では、缶詰、食肉、ハム類、ソーセージ類、ベーコン類、加工乳及び乳製品の一部について主要な原材料等の表示を義務付けている。

○ JAS法、景表法において基準が設けられた品目については、一括して表示すべき事項の中に原材料があり、使用したすべての原材料を表示することになっている。

○ コーデックス委員会の一般基準または一般ガイドラインでは、包装された食品の原材料は原則として義務表示となっている。

(2)原材料表示に関する今後のあり方

○ 表示が望ましい具体的な事例としては、特定個人に健康危害を引き起こす可能性のあるアレルギー物質や乳糖などを含有する食品、また過剰に摂取すると健康危害を引き起こす可能性のある難消化性糖質(エリスリトール等)を含有する食品などが考えられる。

○ 現に近年、食品原料に起因するアレルギー物質等による健康危害が散見されることから、消費者がこうした危害を未然に防止することを目的として商品選択を可能にすることが必要であり、そのためには原材料表示を義務付ける必要がある。

○ 表示方法については、いわゆるJAS法、景表法における表示ばかりでなく、コーデックス委員会の一般基準または一般ガイドラインなどの国際的な表示方法も参考にしながら、食品衛生法における表示方法のあり方を、今後、さらに検討する必要がある。


4 原産国または国内産地の表示について

(1)原産国等の表示の現状

○ コーデックス委員会の一般基準または一般ガイドラインでは、包装された食品において、省略すると消費者に誤解を与える場合には、表示が必要であるとしているが、食品衛生法に基づく表示基準においては、現在、義務表示を行っている事項はない。

(2)原産国等の表示に関する今後のあり方

○ 貝類や食肉にあっては、食中毒予防の観点からのモニタリング等にもかかわらず、万一、食中毒事件等が発生した場合、生産海域表示等があれば、迅速に遡り調査が行えるとともに、被害の拡大防止対策が有効に立てられることから、国内外を問わず生産海域あるいはと畜場の名称等の表示を義務付ける必要がある。

○ 例えば、小型球形ウイルス(SRSV)に汚染されたカキを原因として食中毒が発生した場合等には、迅速に当該カキの採捕海域までの行政的な対応が行えるとともに、被害の拡大防止に資することが期待できる。


5 遺伝子組換え食品に対する表示について

(1)遺伝子組換え食品に対する表示の現状

ア. 我が国の現状

○ 遺伝子組換え食品に対する表示を求める声が高まり、この件に関する意見書や要望書が出されている。また国会の場でも議論されているが、結論は出されていない。

○ 食品表示問題懇談会遺伝子組換え食品部会(農林水産省)において、消費者の選択の観点から遺伝子組換え食品の流通実態を踏まえた表示のあり方について検討中である。

イ. 国際的な動向

1)コーデックス委員会食品表示部会における進捗状況

○ バイオテクノロジーを利用して得られた食品の表示については、昨年より議論がなされ、現段階においては、下記の2つの案について議論がなされているところであるが、結論は出ていない。

ア 従来の物と組成、栄養素、用途に関して実質的に同等でない場合には表示を行うこととし、栄養素の含量が従来の物と大きく違う場合は栄養素を、貯蔵、調整、調理の方法が従来の物と大きく違う場合は使用方法を表示する。

イ 次のいずれかに当てはまる場合には表示する。
(1) 遺伝子組換え生物であるかそれを含むすべての食品
(2) 遺伝子組換え生物により製造されているが、これを含まない食品で、自然な変動を考慮の上で十分な分析の結果、従来食品と異なると判断される場合
(3) 従来食品にはない何らかの物質が存在し、それが一部の人の健康にとって影響がある場合、また倫理的な問題の原因となる可能性のある場合

2)各国の取り組み状況

(1) 米国,カナダ
○ 既存の食品と比較して著しい成分変化があったり、アレルギーの誘発などの健康リスクが増加する場合等を除き、表示の義務付けは必要ないとしている。

(2) EU

○ 昨年5月より新規食品規則が施行され、以下の場合は表示が必要となったが、これに該当する食品は、現在のところEU域内で流通していない。

ア. 組成、栄養素、用途等に関して従来のものと同等でないもの
イ. 従来のものよりアレルギーを誘発しやすいなど特定の人々の健康にとって影響があるもの
ウ. 動物遺伝子が用いられること等によって倫理的な問題が生じるもの
エ. 野菜や果物等、生きた遺伝子組換え細胞を含む食品


(2)遺伝子組換え食品の表示に関する今後のあり方

○ 遺伝子組換え食品の表示に関する意見を総括すると、概ね、以下のようになる。

ア 表示を必要とする意見:

(1) 遺伝子組換え食品についてはその安全性について不安を抱く消費者が食品を購入する際、消費者自身の価値観に基づく判断により、選択が可能となるよう表示が必要である。

(2) 現在得られる科学的知見には限界がある。したがって、こうした食品により将来起こりうる予期せぬ影響が潜んでいる可能性は完全に否定できないことから、予防的観点から表示が必要である。

イ 表示は必要ないとする意見:

(1) 現在厚生省が行っている安全性の評価は、現在の科学的知見に基づき、既存の食品と同程度に安全であることを確認しようとするものである。
 したがって、安全性の観点からは、こうした確認がなされた食品に遺伝子組換え食品である旨を表示する必要はない。

(2) こうした食品に安全性の観点からの表示が必要ということであれば、遺伝子組換えでない既存の食品であっても安全性の観点から何らかの表示をさせない限り規制のバランスを失うこととなる。

○ 安全性が確認された食品の表示については、現時点での結論は出ていないが、この問題の関心の高さや安全性の評価に対する理解が十分に得られていないことに鑑み、今後、さらに検討する必要がある。

○ また、遺伝子組換え技術により特定の栄養成分を高めるなど、栄養性等について改変された食品についても、公衆衛生上の観点から新たに栄養性等に関する表示が必要であるかについて、さらに検討する必要がある。なお、その際には、遺伝子組換え技術が用いられていない一般の栄養性等に特性を有する食品の表示との整合性について配慮する必要がある。

○ 一方、安全性について既存の食品と同程度と見なし得ない食品の場合は、現在のところ市場に出されていないことから、直ちに何らかの対応をとる必要はないが、将来こうした食品が出現する可能性が否定できないことから、今後、現行の安全性評価指針の適用範囲等その内容を見直す必要性について検討するとともに、公衆衛生上の観点からの新たな表示制度が必要かどうかについても、さらに検討する必要がある。

○ 現在のところ、遺伝子組換え食品であるか否かを確実に判定する検査方法は開発されていない。検査方法の確立が表示義務を課すための前提条件となるわけではないが、遺伝子組換え食品について消費者の間に不安がある現状においては、表示の信頼性を確保することが求められることから、検査方法等の技術的事項についての研究を推進する必要がある。

○ なお、遺伝子組換え食品に関しては、遺伝子組換え技術に対する一般国民の理解度により、社会的受容(パブリックアクセプタンス)が大きく左右されることから、遺伝子組換え食品の安全性やその技術について、今後とも広く一般国民へ情報提供するとともに、消費者、企業、行政等関係者による意見交換をする場を設けるなど、相互理解に努める必要がある。


6 その他の表示について

(1) 製造所固有記号について

ア 製造所固有記号表示の現状

○ 製造所所在地、製造者氏名の表示については、次の場合において、予め厚生大臣に届け出た製造所固有の記号の記載による例外的な表示方法が認められている。

(1) 製造所所在地の代わりに製造者の住所をもって記載する場合
(2) 製造所所在地及び製造者の氏名の代わりに販売者の住所及び氏名をもって記載する場合

○ 製造所固有記号の届出は、前項の(1)の場合には製造者の住所地を管轄する都道府県を、一方、前項の(2)の場合には製造所の所在地を管轄する都道府県をそれぞれ経由するため、製造者の住所地と製造所の所在地が異なる場合にあっては、都道府県はその全容を把握することが困難となる。
 このため、国に対し状況を照会する場合が生じるが、国には年間約1万5千件の届出があり、国における迅速な照会対応には限度がある。

イ 製造所固有記号表示に関する今後のあり方

○ 製造所固有記号に対する照会については、製造者名、製造所所在地を販売業者に問い合わせれば済むことから制度そのものを廃止するのがよいとの意見がある一方、照会に対し速やかに回答できるシステムを構築し対応を図るべきであるとの意見もある。

○ これらの意見については、制度自体の必要性に関する議論を深めることが不可欠との考えから、今後、さらに検討する必要がある


(2) 器具・容器包装における表示基準の設定について

ア 器具・容器包装表示基準の現状

1) 国内の現状

○ 食品衛生法においては、公衆衛生の見地から、販売の用に供し、若しくは営業上使用する器具または容器包装に、規格若しくは基準が定められた場合には、必要な表示の基準を定めることができることになっているが、現状では、表示の基準を定めてはいない。

○ なお、他の法令として、家庭用品品質表示法第3条の規定に基づく合成樹脂加工品品質表示規程により、「原料として使用する合成樹脂の種類、取扱い上の注意等」については合成樹脂加工品に表示すべき事項とされており、また、製造業者ではないが、表示者については、「表示した者の氏名又は名称、住所及び電話番号」、または「通商産業大臣の定めるところによりその承認を受けた番号」により表示に付記すべきことが遵守事項として定められている。

2) 諸外国の状況

○ 諸外国においても公衆衛生の見地から食品用器具・容器包装への表示義務を課しているとの情報は承知していない。

○ コーデックス委員会においても、器具・容器包装の表示義務は定められておらず、また、米国においても同様に、器具・容器包装への義務付けはされていない。

イ 食品衛生法上の表示の義務化に関する今後のあり方

○ 食品用器具・容器包装における原材料等の義務表示に関しては、諸外国や国際機関においても行われておらず、また食品そのものに由来する食中毒とは異なり、食品用器具・容器包装そのものによってヒトの健康に重大な影響を与えるとの明確な知見もないことから、表示の義務化の必要性は一般に低いものと考えられる。
 しかしながら近年、一部のプラスチック製食品用器具・容器包装の原材料等についての内分泌かく乱作用の疑いが指摘されているところであり、その作用の有無、種類、程度等については未解明な点も多いことから、これらについての調査研究を積極的に推進していくことが重要である。
 また、内分泌かく乱作用に関する調査結果についても、国民に的確に提供する必要がある。


III 報告書をまとめるに当たって

○ この報告書は、当表示特別部会において、主に健康危害の防止という観点から、食品における表示のあり方全般について検討を行った結果、一定の方向性が得られた事項について、その方向性や今後さらに検討すべき課題を取りまとめたものである。

○ 本報告書において、一定の方向性が得られた事項については、食品衛生行政の的確かつ迅速な対応を図るためにも、細部についての詳細な検討を経て、できる限り速やかに実施を図るべきである。

○ なお、今後さらに検討する必要があるとされた継続課題については、引き続き当部会において、主に健康危害の防止という観点から、表示の持つ意味をも含めて総合的に検討していくこととする。


食品衛生調査会 表示特別部会委員名簿

  粟飯原景昭 大妻女子大学 家政学部教授
  五十嵐 脩 お茶の水女子大学 教授
  大井 玄 国立環境研究所長
  小沢理恵子 日本生活協同組合連合会くらしと商品研究所所長代理
  熊谷 進 国立感染症研究所 食品衛生微生物部長
  小林 修平 国立健康・栄養研究所長
  杉 伸一郎 株式会社イトーヨーカ堂常務取締役食品事業部長
  竹中 勲 京都産業大学 法学部教授
  寺尾 允男 国立医薬品食品衛生研究所長
戸部満寿夫  財団法人日本公定書協会 理事
  豊田 正武 国立医薬品食品衛生研究所 食品部長
  細谷 憲政 茨城県健康科学センター長
  村上 紀子 女子栄養大学 教授
  山崎 幹夫 千葉大学 名誉教授
  和田 正江 主婦連合会 副会長

(五十音順、○は部会長)


表示特別部会の開催状況

第1回 平成10年 9月11日(金)

・表示特別部会設置の趣旨、全般議論

第2回 平成10年10月 1日(木)

・参考人の意見聴取

第3回 平成10年10月26日(月)

・論点整理(案)の検討及び論点の検討(1)

第4回 平成10年11月11日(水)

・論点の検討(2)

第5回 平成10年11月30日(月)

・論点の検討(3)及び現在までの議論整理

第6回 平成10年12月15日 (火)

・中間報告書(案)の検討

第7回 平成11年 1月21日(木)

・報告書のまとめの検討

第8回 平成11年 3月 5日(金)

・報告書(案)の検討

* 食品の表示に関する一般意見を、平成10年8月27日より9月30日まで、中間報告書に対する一般意見を、12月18日より平成11年1月14日まで、それぞれ約1ヶ月間、公募した。


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