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1 経緯等
医療技術評価の我が国における利用等について検討してきた「医療技術評価の在り方に関する検討会」の報告書が平成9年6月にとりまとめられ、医療技術評価(Health Technology Assessment)についての総括的な報告がなされた。
医療技術評価を推進するためには、具体的に日本の医療現場でどのような形で医療技術評価を推進していけば良いのか等を検討することに加え、その成果が医療の現場で有効に活用され得ることを検証することが重要である。そこで、この医療技術評価の成果を臨床の現場で利用する「根拠に基づく医療」(Evidence Based Medicine:以下「EBM」という。)について検討し、その普及及び推進等、特にEBM推進の一方策である診療ガイドラインの策定についても検討することを目的として、本検討会が平成10年6月に設置さた。以後計6回にわたり検討を重ね、今般、報告書として取りまとめられた。
検討会委員(五十音順) ○印:座長
青柳 俊 | (日本医師会常任理事) | |
岩崎 榮 | (日本医科大学常務理事) | |
垣添 忠生 | (国立がんセンター中央病院長) | |
猿田 享男 | (慶應義塾大学医学部長) | |
○ | 高久 史麿 | (自治医科大学学長・日本医学会副会長) |
仲村 英一 | (医療情報システム開発センター理事長) | |
長谷川敏彦 | (国立医療・病院管理研究所医療政策研究部長) | |
久繁 哲徳 | (徳島大学医学部衛生学講座教授) | |
廣井 良典 | (千葉大学法経学部助教授) | |
福井 次矢 | (京都大学医学部附属病院総合診療部教授) | |
宮城征四郎 | (沖縄県立中部病院長) | |
矢崎 義雄 | (東京大学医学部教授) |
2 主な内容
(1) EBMの推進
EBMとは、「診ている患者の臨床上の疑問点に関して、医師が関連文献等を検索し、それらを批判的に吟味した上で患者への適用の妥当性を評価し、さらに患者の価値観や意向を考慮した上で臨床判断を下し、自分自身の専門技能を活用して医療を行うこと」であり、実践的な手法である。
EBMを推進することにより、最新かつ最適な情報に基づく治療法等を、経験の浅い医師や医学雑誌等の情報の入手が難しい遠隔地に勤務する医師等を含め、全ての診療の場で容易に活用できる効果が期待されている。また、患者にとっても治療法等の拠り所となる科学的な根拠が明示されるため、自分の病気を十分に理解し、治療法等を選択することが可能となる。このことはインフォームドコンセントの実践にも役立つと考えられる。
(2) 治療ガイドラインの作成・普及
医療技術評価の成果を医療現場で利用する具体的な方法として、米国では医療政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research:AHCPR)より医療技術評価の結果に基づき、医療技術の使用に関する基準や指針が記された診療ガイドラインが作成され、広く公開されている。
診療ガイドラインには、治療ガイドライン、診断ガイドライン、疾病予防のためのガイドラインなど多くが存在する。本検討会では、我が国において診療ガイドラインを作成する場合、まず着目すべき基準として、(1)患者の多さ、(2)その疾患の重篤度、(3)社会的な関心となる問題であるかを取り上げ、さらに、患者・家族が利用することも考慮し、これらのガイドラインのうち、特に患者の関心の高い治療に力点を置いたガイドライン(以下「治療ガイドライン」という。)を作成するのが望ましいと考えた。
さらに、各国における医療技術評価の対象優先順位決定法を参考として、委員自らがパネリストとなり、治療ガイドラインの対象疾患の優先順位を決定した。この優先順位の上位4疾患を特に挙げると
(3) 総合的推進に向けての調整
米国では医療政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research:AHCPR)、米国医師会、米国保険者協会が共同で構築した米国ガイドライン情報センター(National Guideline Clearinghouse:NGC)が、英国ではNational Coordinating Centre for Health Technology Assessment等の調整機関が存在する。医師技術評価はその国の社会的背景とも密接に関連しているため、我が国にも独自の調整機能が設置されることが望ましい。
(4) 臨床研究の推進並びに国民の理解及び協力
EBMに必要な科学的な根拠となる知見は欧米を中心とする外国からの研究結果が多く、日本人に最適であるとは言い難い研究結果も散見される。日本独自の臨床研究の結果を重視すべきであるが、現在のところ日本において、患者の転帰等を追いかけた大規模な臨床研究はあまり行われていない。この理由は患者の理解と協力が得られない点にもある。
新しい治療法を確認するための臨床研究を実施するにあたっては、患者に利益だけでなく、予測を超えた不利益をもたらすこともあり得ることを十分に説明した上で、安全性、倫理性に配慮した試験計画書に従って進められる必要がある。
このような研究により各疾患ごと、病気の進展度合ごと等に日本人に最適な治療法が確立されていき、医療の向上が行われる。また、このような知見により、患者にとっても十分な説明、納得のいく医療を受けることができるようになるので、安全性、倫理性に配慮された臨床研究に主体的に参加することが望まれる。
このような臨床研究の結果の情報は先進国である日本からも発信されるべきものであり、他の国々でも利用可能な情報となる。
また、政府としても、国際的な視点で臨床研究を促進するための体制を整備すべきである。
(5) 情報ネットワークの必要性
信頼できる科学的な根拠を提供する手段として現在、最も参考となるのは、イギリス等を中心に進められているコクラン共同計画である。これはイギリスの国民保健サービス(National Health Service)の一環として、科学的信頼度の高い研究を中心に、世界中の臨床研究結果を収集、選別、総合評価を行い、常にそれを更新している。このようなデータベースに関して、入力の分類や要約を行う方法の開発、適切かつ簡易な検索方法の開発及び人材の確保も検討していく必要がある。
(6) 今後
今回は医療技術評価の利用及びEBMの具体的な支援策となりうる治療ガイドラインの作成について検討を行い、その他EBM全体についても広範囲に検討を行った。
今後は、電子図書館、治療ガイドライン以外の診療ガイドライン等についても将来的な展望を踏まえて具体的に検討する必要がある。
照会先:厚生省健康政策局 研究開発振興課 医療技術情報推進室 野上、奈良岡(内2589)
平成11年3月23日
1 はじめに
3 EBMについて
7 おわりに
医療資源を効率的に活用し、医療の質と患者サービスを向上させる手段として、欧米で導入されている医療技術評価の我が国における利用等について検討を行った「医療技術評価の在り方に関する検討会」の報告書が平成9年6月にとりまとめられた。この中で、医療技術評価(Health Technology Assessment)の定義、医療技術評価の位置づけとその関連領域、医療技術評価の現状、我が国における医療技術評価の利用、医療技術評価の推進に向けて取り組むべきことについて等、医療技術評価についての総括的な報告がなされた。
医療技術評価を推進するためには、日本の医療現場でどのような形で医療技術評価を推進していけば良いのか、どのような対象を選び出すか、優先順位をどのように付けるか、などを具体的に検討し、その成果が医療の現場においても有効に活用され得ることを検証することが重要である。そこで、医療技術評価の成果を臨床現場で利用することのできる「根拠に基づく医療」(Evidence Based Medicine:以下「EBM」という。)について検討し、さらにその普及および推進等、EBM推進の一つの方策である診療ガイドラインの策定についても検討することを目的として、平成10年6月に本検討会が設置された。以後6回にわたり検討を重ねてきた内容をとりまとめたので、今般、報告書としてこれを公表する。
注1) | EBMは「根拠に基づく医療」と訳されることが多く、1991年、カナダのマクマスター大学のG.H.Guyattが初めて使用した。その後、同じマクマスター大学のD.L.Sackett(現オックスフォード大学)らのワーキンググループがEBMの概念を整理展開した。 |
EBMは次の3要素を統合するものと考えられる。
すなわち、EBMとは、「診ている患者の臨床上の疑問点に関して、医師が関連文献等を検索し、それらを批判的に吟味した上で患者への適用の妥当性を評価し、さらに患者の価値観や意向を考慮した上で臨床判断を下し、専門技能を活用して医療を行うこと」と定義できる実践的な手法である。
(2) EBMの実践手順
EBMの実際の手順は次の5段階に分かれる。即ち、
注2) | 医学分野最大の文献データベース。 米国国立医学図書館(NLM)が作成する医学文献の検索システム。 |
注3) | 英国の国民保健サービス(National Health Service)の一環。 現在、この計画をもとに、コクラン共同プロジェクトとして、同様のEBM関連の動きが米国、オーストラリア等世界的に急速に展開している。 科学的信頼度の高い研究を中心に、世界中の臨床試験を収集した上で、科学的に信頼しうる研究のみを選別し、これらの選別された試験データをまとめて総合評価を行い、常にその総合評価を更新している。 これらの多くの総合評価を、医師等医療関係者や医療政策決定者、さらには患者に届けている。 その対象は薬物治療・手術・予防・リハビリテーションなど多岐の医学領域にわたっており、インターネットやCD-ROMを介して情報提供している。 |
これら以外にも、原著論文を臨床疫学的な視点から科学的に評価を行い、信頼できる文献のみを収載した2次的医学情報雑誌があり、このような雑誌からも最新の情報を入手することができる。これらの媒体により、既に評価を受けた文献を活用することは、臨床医自身が文献の信頼性を評価する手間を省くことができるため、臨床現場での対応に忙しい各臨床医がEBMを行うのに有用と考えられる。このような情報処理機器及びシステムの発展により、今後のEBMの推進を支えることができると考えられる。
「(3)得られた文献の妥当性を自分自身で評価する」ためには、各臨床医が臨床疫学と生物統計学の基礎的な知識を修得していることが必要である。これらの知識をもとに検索で得られた文献について、たとえば治療では、対象がランダムに割り当てられているか(ランダム化比較試験《Randomized Controlled Trial:RCT:注4》)、試験に参加した対象が全て解析されているか等、科学的な信頼性を自分自身で評価する。
注4) | 現在、各治療法の有効性を最も科学的に評価する方法とされているものの一つ。 評価対象である治療法を乱数表等によりランダムに患者に割り当て、患者を追跡調査し長期予後を比較検討することにより、治療法がどのような場合に、より効果を発揮するのかを明らかにするものである。 |
「(4)文献の結果を目の前の患者に適用する」とは、例えば、文献結果から得られた知見をそのまま、目の前の患者に適用してよいか、病態生理の差、個々の患者の価値観や期待と合致するかなどについて、患者に対してインフォームドコンセントを得た上で判断することである。
「(5)自らの医療を評価する」とは、自分が行っている診断や治療が本当に科学的な根拠や患者の価値観に基づいているかを検討することである。つまり、今まで述べてきた4つの各手順について、実際に実行されているか、その質の高さを批判的に評価し、その結果を臨床行為に役立てていくことである。その方法としては、チェックリストを用いた自己評価や、同僚による審査などの外部評価がある。
これら5段階の手順を意識的に行って、はじめてEBMが実践されていることになる。
(3) EBMの特徴
近年、EBMの推進が急速に図られている最大の理由は、「利用可能な最善の科学的な根拠」の活用の増大にある。今までも、医師は大学での教育、卒後の研修、教育及び医学雑誌等を通じた学習を通して最善の科学的な根拠の把握に努めてきたが、その把握できる情報量には自ずと限界があった。一般内科医が自分の専門領域の最新知識を常に得ていくためには、毎日19の医学論文を忙しい日常診療の合間に読み続けなければならないと言われており(Davidoff F,Sackett Dら:Evidence based medicineより)、その論文数の多さのため、自分自身の専門領域の最新の知識、科学的な根拠になりうると思われる情報全てを把握することは困難であった。
近年の情報科学技術の目覚ましい発展によって、膨大で読書不可能な量の科学論文の情報処理を行うことが可能となり、臨床医が科学的な根拠に関する情報を求める場合、その検索が短時間で且つ大量の情報を対象に実行できるようになった。さらに、このような情報を安価に入手するための手段として情報機器が近年急速に普及してきたことも大きな要因である。
また、患者の健康改善や満足度等を評価することに主眼を置いたランダム化比較試験が開発され、その50年の歴史の中で、多くの研究結果が蓄積された(特に1980年代以降多く実施されるようになり近年、その結果が多数発表されるようになってきた)。さらに複数のランダム化比較試験を統合するメタ・アナリシス(meta-analysis:注5)の手法も1960年代から研究が開始され、1980年代に方法論が確立し一般に広まり、1990年代に日常臨床への適用が行われるようになった。このように科学的な根拠となる妥当性の高いデータが、ランダム化比較試験を筆頭に多く蓄積されるようになり、臨床医は外部から最善の科学的な根拠を得ることが可能となった。
注5) | ある特定の課題に関する複数のRCTの結果を統計的に一つにまとめる方法。この手法により研究結果の信頼性を更に高めることができる。 |
しかし、このように研究領域及び社会資本の整備等の大きな環境変化があったものの、根幹となるEBM自体の概念は特に新しいものではない。EBMは個々の患者から得られた知見を集団のデータとして定量的に表すことの重要性、及び臨床医が疾病の病態生理のみでなく社会的背景をもっと考慮すべきであるという臨床疫学の考え方が発展したものといえる。
(4) EBMの効果
EBMを推進することにより患者の健康結果が改善されることが報告されている。経験の浅い医師や医学雑誌等の情報の入手が難しい遠隔地に勤務する医師等を含め、全ての診療の場で、最新かつ最適な情報に基づく治療法等を容易に活用できることにより患者の健康結果が改善される効果が期待されている。
治療法等の選択の難しい疾患の場合においても、EBMを推進することを通じ、科学的な根拠つまり最新かつ最適な情報に基づく治療法等を容易に活用できることとなり、結果として患者の健康結果の改善に役立つことが考えられる。また、高血圧のような患者数の多い一般的な疾患でも、血圧の管理が難しい患者が相当程度おり、これらに対して患者の特性を踏まえた診療を行うことができる。このように国民の受ける医療レベルの向上が見込まれ、ばらつきのない診療結果が期待されるため、患者の受ける医療の公平性を保障することとなる。このように患者側としては、いつでもどこでも最新かつ最適な情報に基づく医療が受けられる。加えて、個々の患者にとっても、治療法等の拠り所となる科学的な根拠が明示されるため、自分の病気を十分に理解し、治療法等を選択することが可能となる。このことは、インフォームドコンセントの実践にも役立ち、医療の透明性を高め、患者と医師等との間の信頼を構築する上でも重要である。
また、特に慢性疾患の場合は、治療過程への患者の主体的な参加が重要な柱となることから、このように患者が自分の病気を十分理解し、患者参加が容易になることは、治療効率の改善という点においても大きな意味をもつものと考えられる。
(5) 診療ガイドラインの位置づけ
医療技術評価の成果を医療現場で利用する具体的な方法として、米国では米国厚生省に設置された医療政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research:AHCPR)より医療技術評価の結果に基づき臨床診療指針(clinical practice guideline:以下「診療ガイドライン」という。)(資料1)が作成され広く公開されている。この診療ガイドラインには医療技術の使用に関する基準や指針が記されており、その技術の選択、使用に関しての、臨床医を初めとする医療関係者における意思決定を支援するための情報が提供されている。
このような診療ガイドラインは、各臨床医が忙しい日常診療において即座に参考とすることができ、EBMの実践に役立てることができる。診療ガイドラインは日常診療で行われる診療の大多数の症例に対して参考となるが、この診療ガイドラインをそのまま適用するだけでは不十分であり、各患者の特性に沿うように柔軟性を持った利用が求められる。
我が国において診療ガイドラインを作成する場合には、対象の選択方法として様々な考え方があると思われるが、本検討会ではまず着目すべき基準として、(1)患者の多さ、(2)その疾患の重篤度、(3)社会的な関心となる問題であるか、を取り上げた。さらに、このような診療ガイドラインには、疾患別ガイドライン、治療ガイドライン、診断ガイドライン、疾病予防のためのガイドラインなど多く存在するが、本検討会では、診療ガイドラインを患者・家族も利用することに着目し、特に患者の関心の高い治療に力点を置いた疾患ごとのガイドライン(以下「治療ガイドライン」という。)を作成することが望ましいものと考えた。
このような治療ガイドライン作成において留意すべきことは以下のとおりである。
本検討会では、各国における医療技術評価の対象優先順位決定法を参考として、委員自らがパネリストとなり、治療ガイドラインの対象疾患の優先順位を決定した。まず、優先順位基準項目として
(1)健康改善 | (治療ガイドラインの有効性) |
(2)患者数 | (健康改善を受ける患者数) |
(3)費用対効果 | (治療ガイドラインによる費用対効果の改善) |
(4)標準化 | (治療のばらつきの減少) |
1位 | 本態性高血圧 |
2位 | 糖尿病 |
3位 | 喘息 |
4位 | 急性心筋梗塞及びその他の虚血性心疾患 |
5位 | 白内障 |
6位 | 慢性関節リウマチ(脊椎除く) |
7位 | 脳梗塞 |
8位 | 腰痛症 |
9位 | 胃潰瘍 |
10位 | くも膜下出血及びその他の脳出血 |
4 医療技術評価とEBMの総合的推進について
(1) 行政、医師会、学会等、それぞれの取り組み
我が国においてまだ定着していない医療技術評価とEBMの推進を図るためには、各分野においてそれぞれの団体が連携を図りつつ、推進活動を行うことが重要であると考えられる。
(2) 総合的推進に向けての調整
このように各分野ごとにその立場に立った医療技術評価とEBMの推進に取り組むことが考えられるが、効率的に医療技術評価とEBMを推進していくためには各分野ごとの取り組みを調整する機関も重要である。
5 EBM推進のための環境整備について
(1) 臨床研究の推進
EBMを推進するためには、医療現場で使われる科学的な根拠を創ることと科学的な根拠を整理し伝えることを支援すべきである(図1)。
(2) 情報の収集・評価・伝達
(3) EBMを支える医療環境整備
EBMを推進するには、医学的な情報等を系統的に収集、蓄積、作成する必要があることは既に述べているが、我が国においては、現在、これらの必要な情報のデータベース等が整備されておらず、これらの基盤となる環境の整備が必要である。このような環境整備の一環として、病名や医療行為等の用語や分類の標準化を進める必要がある。この場合、統計的に利用しやすい分類とすべきであり、その場合にはWHOの疾病分類ICD-10等を基に標準化作業を行うことが望ましいと考えられる。
医療の質を向上させるEBMを医療現場に普及するためには、EBMについての正しい理解を医療従事者及び患者の両方に持ってもらうことが重要である。EBMの実施を支援する治療ガイドラインを広く提示するなどEBM関連領域を含めて効率的かつ効果的に普及・啓発を行っていく方策を検討していく必要がある。この場合、医師会等関連団体の協力が不可欠であることに留意するとともに、普及・啓発手段としては昨今普及しているインターネットを利用することを考慮すべきである。
学会においても主催する講習会・シンポジウム、認定医に対する生涯教育等の機会を利用して普及・啓発に努力すべきである。
卒前、卒後教育においては、医療技術評価及びEBMを行うのに必要な臨床疫学、臨床判断学、臨床経済学及びそれらの基礎となる疫学、統計学を修得させるプログラムを実施する必要がある。また、卒後教育を行う指導医にEBMを行う方法論を教育していくことも重要である。さらに、これらのEBMに関連する卒前、卒後教育の内容や指導者を評価するシステムが確立され教育に対する評価が高まれば、EBMの普及を促進することができると考えられる。
今後は、EBMについて、その概念の普及・啓発等を進めていくとともに、実際の医療現場でのEBMの実践につながる普及方策の検討が望まれる。また、医療技術評価の推進については、これがある程度普及するまでは、厚生省が中心となって、疾患ごとの治療ガイドラインの作成を推進するなどの施策を展開していく必要がある。
同様に医師会においても医療技術評価の必要性が認識されており、医療提供者の立場として医師会が学会等と協力し、治療ガイドラインの作成、EBMの普及・啓発を行っていくことが期待される。
米国では医療政策研究局(Agency for Health Care Policy and Research:AHCPR)、米国医師会、米国保険者協会が共同で構築した米国ガイドライン情報センター(National Guideline Clearinghouse:NGC)が、英国ではNational Coordinating Centre for Health Technology Assessment等の調整機関が存在する。医療技術評価はその国の社会文化的背景とも密接に関連しているため、我が国にも独自の調整機関が設置されることが望ましい。現在、我が国は急速に少子高齢化する社会に対応する保健医療の在り方を検討することが求められており、保健医療分野において評価すべき課題は山積している。これらの課題に対して医療提供者、専門家、行政そして患者の立場を調整し、医療技術評価を総合的に行う組織機能が必要である。医療技術評価はその目的上、医療の中身そのものに関連するものであり、医療技術評価を基に様々な施策を行うためには関係者の間の調整が必要となる。諸外国の現状、政策、研究結果をも踏まえ、調整を行う組織機能の設置が我が国においても望まれる。
科学的な根拠を創り出すために、現在の病態生理中心の研究を患者を対象としたランダム化比較試験のような研究へ移行させることが必要となる。疾病予防、診断、治療等に対する有効性の評価を行うことができる研究を実施すべきである。
このような臨床研究は、個々の医療機関だけで行われるのではなく、厚生省特定疾患調査研究班のように、特定の課題に関し体系立て全国的に連携し実施することも重要である。この場合、大規模な国際共同研究への参画なども視野に入れるべきであり、検査基準等の国際化に対応した研究も推進されるべきである。
また、得られた研究結果自身をレビューするための研究も重要となる。この点については、研究結果を第三者の研究者が評価することは日本の研究風土に馴染まない面もあると言われるところであり、今後、研究者自身の意識改革が重要である。
このような臨床研究は患者が対象とされるので国民の理解・協力が必要である。研究目的、治療計画、得られる結果等についてインフォームドコンセントを十分に行い、患者の求めに応じて十分な説明を行うなど、国民が臨床研究に主体的に協力できるように臨床医は積極的に努力すべきである。また、政府としても臨床研究の実施を支援するために、国際的連携も視野に入れた臨床研究を促進するための体制を整備すべきである。
このような雑誌から、短時間で信頼できる情報を収集することが可能となる。日本でもこのように既存の評価を体系的に整理した雑誌が発刊されることにより、簡便に信頼できる科学的な根拠を臨床医が入手できるようになる。
しかし、実際の臨床現場で生じる疑問に対し、全てランダム化比較試験を行うことができるとは限らない。そのような場合には、厳密な研究計画の下で行われたコホート研究、症例対照研究等からも信頼性の高い研究結果が得られる。つまり科学的な根拠は、ランダム化比較試験やメタ・アナリシスに限定されるものではない。このような医学関連の研究結果を全て収集し、必要な評価を批判的に行い選別をした上で、体系的なレビューが行われた情報のデータバンク、電子図書館等を将来的には構築することが必要であると考えられる。この電子図書館にアクセスすることにより、医師等、患者を問わず短時間で必要な情報が検索できることがEBMを大きく推進することになるであろうと予測できる。
このようなデータベースに情報を入力する場合、その分類や要約を行う方法の開発、人材の確保も検討していく必要がある。一つ一つの科学論文に関して適切に整理分類を行う司書(ライブラリアン)の働きが重要であり、このような職種の育成が必要である。
また、医療現場で医師や看護婦等が医療技術評価の成果を利用したり、自らの診療の過程や結果等について評価を行うためには、電子カルテ等の情報技術を活用した道具を開発・発展・普及する必要がある。これらの整備のため、国は研究及び法制度上の問題点の整理を進める必要がある。
順位 | 疾 患 |
1 | 本態性高血圧症 |
2 | 糖尿病 |
3 | 喘息 |
4 | 急性心筋梗塞及びその他の虚血性心疾患 |
5 | 白内障 |
6 | 慢性関節リウマチ(脊椎除く) |
7 | 脳梗塞 |
8 | 腰痛症 |
9 | 胃潰瘍 |
10 | くも膜下出血及びその他の脳出血 |
11 | アレルギー性鼻炎 |
12 | アルコール依存症 |
13 | 肺結核 |
14 | アトピー性皮膚炎 |
15 | 胃の悪性新生物 |
16 | 急性上気道感染(急性咽頭炎、急性扁桃炎等除く) |
17 | 慢性閉塞性肺疾患 |
18 | 急性咽頭炎及び急性扁桃炎 |
19 | 中耳炎 |
20 | 神経症 |
21 | 慢性肝炎 |
22 | 急性気管支炎及び細気管支炎 |
23 | 膀胱炎 |
24 | 胆石症 |
25 | 肝硬変 |
26 | 躁鬱病 |
27 | 変形性関節症及び類似症 |
28 | 慢性副鼻腔炎 |
29 | 屈折及び調節の障害 |
30 | 気管、気管支及び肺の悪性新生物 |
31 | 四肢の骨折 |
32 | B型肝炎以外のウィルス肝炎 |
33 | 結膜炎 |
34 | 急性鼻咽頭炎 |
35 | 老年期及び初老期の器質性精神病 |
36 | 胃炎及び十二指腸炎 |
37 | 接触皮膚炎及びその他の湿疹 |
38 | てんかん |
39 | 椎間板損傷 |
40 | 角膜炎 |
41 | 脊椎症及び類似の障害 |
42 | 慢性及び詳細不明の腎不全 |
43 | 感染症と推定される下痢及び胃腸炎 |
44 | 麦粒腫及びさん粒腫 |
45 | 精神分裂病 |
46 | 四肢以外の骨折 |
47 | 軟部組織障害 |
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