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今後の精神保健福祉施策について


平成11年1月14日

公 衆 衛 生 審 議 会

目 次

1 はじめに

2 基本的な施策の方向

3 当面講ずるべき具体的措置等について

(1)精神障害者の人権に配慮した医療及び福祉サービスの提供について
(2)医療の確保対策について
(3)社会復帰対策について
(4)保護者について
(5)関係機関の役割分担について
(6)その他

4 今後早急に検討すべき事項について

5 精神保健福祉法の見直しに関する審議状況

6 公衆衛生審議会精神保健福祉部会委員名簿


1 はじめに

○ 精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」という。)については、精神障害者の人権に配慮した適正な医療を確保するとともに、精神障害者の社会復帰の促進を図るという観点から、昭和62年、平成5年、平成7年と改正が行われた。

○ また、平成5年の障害者基本法の改正、平成7年の「障害者プラン」の策定、平成8年の障害保健福祉部の創設など、精神障害者を含む障害者全体の保健福祉施策をめぐる体制も充実してきている。

○ 平成5年の「精神保健法等の一部を改正する法律」の附則第2条において、改正法の施行後5年を目途として、改正後の精神保健法の規定の施行の状況及び精神保健を取り巻く状況を勘案して見直しを行うこととされており、当該見直しを実施するために昨年3月に公衆衛生審議会精神保健福祉部会に「精神保健福祉法に関する専門委員会」を設置し、同年9月に当審議会に「精神保健福祉法に関する専門委員会報告書」(以下「専門委員会報告書」という。)が報告された。

○ 本審議会においては、10月以降、専門委員会報告書を検討材料に、今後の精神保健福祉対策について審議を重ねた結果、専門委員会報告書の基本的な方向については了解が得られたものの、具体的な施策については、一部修正を要した事項や引き続き議論を必要とすると考えられる事項があった。

○ 本審議会においては、精神保健福祉施策について、当面講ずるべき改善措置等を明らかにした。政府においては、本意見書の趣旨に沿って、今後、所要の措置を講ずることが必要である。


2 基本的な施策の方向

○ 精神障害者問題は、国民全体で取り組まなければならない重要かつ身近な問題であるが、未だに精神障害者に対する社会的偏見は根強く、そのような偏見を除去する施策が求められるなど、地域における精神保健福祉施策は一層の充実が求められている。

○ また、新規入院患者の平均在院日数は、短期化しつつあるが、長期入院患者を中心として、その社会復帰を推進していく必要がある。
 さらに、精神病院(精神病床を有する病院を含む。以下同じ。)や社会復帰施設は地域偏在が著しくなっており、各地域での取り組みを推進する必要がある。

○ このため、施策の推進に当たっては、精神障害者の人権に十分に配慮することを前提に、精神障害者のノーマライゼーションを推進するために、身近な地域において総合的な保健医療福祉サービスを受けることができる体制を整備していくことが必要であり、特に以下の事項に留意するべきである。

○ 第1に、精神障害者の人権に配慮した医療及び福祉の充実を図るため、入院患者や施設入所者の適切な処遇の確保や、強制入院等の手続における客観性の確保、人権擁護のための規定に違反した際の対応の在り方などについて見直しを行うこと。

○ 第2に、緊急時における精神科医療の体制を確保するため、精神科医療機関の体制整備を図るとともに、治療の必要性が判断できない精神障害者への医療を保障するための措置を講じること。
 併せて、精神障害者に治療を受けさせる義務を負っている保護者が高齢化している実情や、成年後見制度の見直しの動きなどの社会情勢の変化を踏まえ、保護者制度の在り方について見直しを行うこと。

○ 第3に、福祉施策の一層の推進を図るため、精神障害者社会復帰施設の整備を引き続き進めるほか、在宅の精神障害者に対する生活支援のための制度を創設すること。この在宅福祉施策については、身近なところで取り組まれるべきであり、市町村を中心とする体制を整備する必要がある。


3 当面講ずるべき具体的措置等について

(1)精神障害者の人権に配慮した医療及び福祉サービスの提供について

ア 医療保護入院の要件について明確化し、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院の必要があり、精神障害により入院の必要性が、ほとんど理解できないと精神保健指定医が判定したものとすること。

イ 精神病院の任意入院患者の約半数近くが閉鎖処遇の実情にあるが、入院制度の趣旨を踏まえ、任意入院患者は開放処遇とすることとする。しかし、任意入院患者の病状が悪化した時など、その治療上やむを得ない場合に限り、閉鎖処遇を行えることとすること。
 このような場合を含め、閉鎖処遇の手続及び概念を明確にするため、精神保健福祉法第37条第1項に定める処遇の基準として位置付けること。
ウ 改善命令等に従わない精神病院に対する業務停止処分を設けること。
エ 精神障害者社会復帰施設については、その他の社会福祉施設と同様に、運営や入所者の処遇に関する基準や、基準に違反した場合の規定を設けること。
オ 精神医療審査会については、その事務局についてもできる限り独立性を確保することが望ましいが、当面は精神保健福祉士等の専門職種が配置され、体制が整っている精神保健福祉センターに精神医療審査会の事務を行わせることとすること。
 その際、精神医療審査会の適正な審査を確保するため、精神医療審査会の合議体において病院調査が必要と判断される場合には、審査会が精神病院への報告徴収を行えることとすること。
カ 地域の特性に応じた精神医療審査会の審査体制を確保するため、委員数の上限を撤廃すること。
キ 任意入院患者の退院制限や、隔離・拘束時の指示等を行った際の精神保健指定医の診療録記載義務と同じく、医療保護入院等における精神保健指定医の判定等その他の指定医の職務についても、医師法による診療録記載義務の対象とならない事項(当該判定を行った理由等)について診療録記載義務を課すこと。
 なお、その際には精神保健指定医の職務遂行上、過度の負担が生じないよう配慮すること。
ク 精神保健指定医は、その勤務する病院において精神保健福祉法上不適切な処遇がある場合に、処遇の改善が図られるよう管理者に報告することとすること。
ケ 精神保健指定医が、精神保健福祉法違反等を行った場合の処分として、指定の取消し処分に加え、精神保健指定医の職務停止処分を新設すること。

(2)医療の確保対策について

ア 緊急時に対応した医療体制を確保するために、医療計画に規定する救急医療体制の中で、精神科救急医療体制の確保についても明記するなど、その体制整備を行うこと。また、同時に国公立病院等については、救急医療機関としての役割を民間病院とともに担うほか、これらの民間病院等を支援する病院としての役割を果たすこと。
イ 保護者に治療を受けさせる義務を担保するため、治療の必要性が判断できない精神障害者の診察・移送に関する仕組みを設けることについて検討すること。
ウ 仮入院制度については、診断能力の向上により制度創設当時の課題は解消されたと考えられること。また、現状においては、患者の人権を侵害するおそれもあることから、これを廃止すること。
エ 措置入院患者の受入れを行う指定病院について、その機能にふさわしい基準に見直すこと。この際、地域的なバランスに配慮すること。
 また、国公立病院については、措置入院の積極的な受け入れを行うこと。
オ 国立病院・療養所については、再編成・合理化の基本指針に基づき、精神科救急への対応、薬物依存や合併症を有する患者への対応に重点を置いていくこと。
カ なお、精神病床をその機能に着目して病棟単位で区分することについては、医療提供体制の見直しに関係する事項であり、別途当審議会で検討を行うこと。

(3)社会復帰対策について

ア 地域で生活する精神障害者のうち、知的障害者や高齢者と同様に、生活能力が不十分な精神障害者を支援するため、精神障害者訪問介護事業(ホームヘルプサービス)を創設すること。

イ 精神障害者短期入所事業(ショートステイサービス)を法定化するとともに、地域で生活する精神障害者が必要な場合に社会復帰施設を利用できる体制を整備していくこと。

ウ また、精神障害者訪問介護事業、精神障害者短期入所事業及び既存の精神障害者地域生活援助事業(グループホーム)などの在宅福祉サービスについては、市町村を実施主体として位置付けること。

エ 社会復帰施設については、施設数が少ないことやサービスに求められる専門性が高いことなどの問題があることから、当面は都道府県を実施主体とし、各障害者保健福祉圏域ごとのバランスのとれた整備を行うこと。

オ 精神障害者のニーズを尊重しつつ、適切なサービスの利用につなげるため、精神障害者介護等支援事業(ケアマネジメント)に取り組むこと。

カ 地域で生活する精神障害者の相談援助を行う拠点である精神障害者地域生活支援センターを、精神障害者社会復帰施設として位置付けること。

キ 小規模作業所については、社会福祉事業法の見直しの中で、通所授産施設の規模要件等の引き下げが検討されていることから、その検討結果を踏まえ、小規模作業所の社会復帰施設への移行を推進すること。

ク 障害者の活動・福祉的就労については、授産施設等の果たす役割が大きいが、一般企業での雇用へ円滑に移行するために、雇用施策との連携を強化する必要がある。
 このため、授産施設等から一般企業への円滑な移行の支援や、就労している精神障害者に対する生活面での支援と職場定着のための支援との連携等の措置を講じること。

(4)保護者について

ア 精神障害者の自己決定を尊重するため、任意入院患者及び通院患者等自らの意思によって医療を受けている期間は、保護者の保護義務を軽減すること。

イ 保護者の義務のうち、自傷他害防止のための監督義務を廃止すること。

ウ 成年後見制度の見直しに併せ、後見人のほか、保佐人(仮称)についても保護者となることとするほか、市町村による成年後見人の申立ての制度を設けること。

(5)関係機関の役割分担について

 精神保健福祉施策にかかる都道府県等関係機関においては、今後以下のような役割分担の下に施策を推進すること。

ア 都道府県・政令指定都市(本庁)においては、精神障害者の保健福祉施策の企画立案や都道府県障害者計画の策定、指定病院の指定等の業務を引き続き行うこと。
 また、引き続き措置入院の決定・解除や精神病院の指導監督等、精神障害者に対する保健医療施策の責任主体としての役割を果たすこと。
 なお、精神障害者の福祉施策については、市町村の役割を強化する必要があるが、社会復帰施設については障害者保健福祉圏域ごとの整備目標が策定されているため、当面は都道府県・政令指定都市が実施主体としての役割を実施すること。

イ 精神保健福祉センターは、各地域における精神障害者保健福祉に関する技術的な中核であり、極めて重要な機関であるが、その役割を強化するために、精神保健福祉センターの名称を弾力化し、当該機能を有する機関を置くこととすること。
 また、都道府県の行うべき事務のうち、通院医療費の公費負担の判定や精神障害者保健福祉手帳の交付に際しての、技術的判定等の技術的業務及び精神医療審査会の事務については、新たに精神保健福祉センターが行うこととすること。
 さらに、引き続き専門性の高い分野に係る相談援助(児童精神保健、薬物依存等)や、保健所・市町村に対する技術支援を行うこと。

ウ 保健所は、精神保健相談や訪問指導といった精神保健サービスの実施機関として、引き続きその専門性に着目した事務を行うこと。
 また、国民の心の健康(メンタルヘルス)に対し、適切な相談援助を行うことが求められており、各保健所で心の健康に関する相談や、心の健康づくりを推進すること。
 さらに、新たに市町村レベルで行う福祉サービス等に対する精神保健面からの技術的支援を行うことを明確にするとともに、市町村が行う福祉サービスの利用に係るあっせん・調整に関する広域的調整を行うこととし、市町村及び福祉関係機関と一体になって、精神障害者の社会復帰及び、その自立と社会経済活動への参加を促進すること。

エ 精神障害者の福祉的な支援については、地域に密着して取り組まれるべきであることから、市町村は新たに以下の業務を行うこととすること。
(1) 在宅福祉サービスの提供体制を整備すること。
(2) 精神障害者に対する福祉サービスの、利用の援助を実施する体制を整備すること。
(3) 精神障害者に対する通院医療費の公費負担や、精神障害者保健福祉手帳の申請の窓口業務を行うこと。
 また、一つの市町村では対応が困難な各種のサービスが、面的・計画的に整備されるよう、都道府県の支援の下、障害保健福祉圏域による広域的なサービス提供体制の整備を推進すること。
 上記の業務を市町村等に新たに行わせるに当たって、十分な準備期間を置くとともに、特に市町村職員の研修等必要な技術的支援を行うこと。

(6)その他

ア 近年大きな社会問題となっている薬物依存者について、その福祉施策の充実を図るため、覚せい剤慢性中毒者についても他の薬物依存と同様に、精神疾患と同じ取扱いをすることが必要である。このため、覚せい剤慢性中毒者を精神保健福祉法の対象外とするものではないことに留意しつつ、精神保健福祉法第44条を削除する。


4 今後早急に検討すべき事項について

ア 精神障害者の定義については、個別の疾患名を例示する方法の是非を含め、種々検討を行ったが、関係学会等の動向を踏まえながら、その在り方について引き続き検討を行うこと。

イ 現在「長期入院患者の療養の在り方に関する検討会」の中で、長期入院患者のうち、集中的な入院治療よりも、リハビリテーション、介護サービスのニーズが高い者の処遇について検討しているが、その結果を踏まえ当審議会で検討を行うこと。

ウ 精神医療にかかる情報公開の推進方策について検討していくこと。


5 精神保健福祉法の見直しに関する審議状況

開催日時 審議内容
平成10年3月4日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・精神保健福祉法に関する専門委員会の設置を決定
平成10年3月23日
精神保健福祉法に関する専門委員会
・精神保健福祉法の見直しを行う経緯等について
・専門委員会の検討事項の整理
平成10年3月27日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・専門委員会の検討事項の確認
平成10年4月8日
精神保健福祉法に関する専門委員
・精神障害者の定義について
平成10年4月23日
精神保健福祉法に関する専門委員
・医療保護入院について
平成10年5月13日
精神保健福祉法に関する専門委員
・医療保護入院について
平成10年5月26日
精神保健福祉法に関する専門委員会
・精神障害者の処遇について
・精神障害者に対する法律扶助について
・精神病院に対する指導監督について
平成10年6月10日
精神保健福祉法に関する専門委員会
・社会復帰施設の指導監督について
・精神医療審査会について
・精神保健指定医について
平成10年6月25日
精神保健福祉法に関する専門委員
・福祉施策の推進について
・市町村の役割等について
平成10年7月8日
精神保健福祉法に関する専門委員会
・触法精神障害者対策について
・応急入院について
・仮入院、仮退院について
平成10年7月27日
精神保健福祉法に関する専門委員会
・精神病床のあり方について
・医療法関係規定について
・精神保健福祉センターのあり方について
平成10年8月20日
精神保健福祉法に関する専門委員
・専門委員会報告書(案)について
平成10年9月7日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・専門委員会報告書について
平成10年10月7日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・精神保健指定医の指定について
・専門委員会報告書について
平成10年11月18日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・関係団体からの意見について
・精神科救急、人権確保等について
平成10年12月17日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・精神科救急について
・意見具申案について
平成11年1月7日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・都道府県等関係機関の在り方について
・意見具申案について
平成11年1月14日
公衆衛生審議会精神保健福祉部会
・意見具申案について


6 公衆衛生審議会精神保健福祉部会委員名簿

(座 長)
・ 笠原 嘉   
名古屋大学名誉教授
・ 相澤 宏邦 宮城県立精神保健福祉センター所長
・ 井上 新平 高知医科大学精神医学教室
・ 大熊由紀子 朝日新聞社論説委員
・ 岡上 和雄 (財)全国精神障害者家族会連合会保健福祉研究所長
・ 紀内 隆宏 全国知事会事務総長
・ 北川 定謙 埼玉県衛生部参事
・ 吉川 武彦 国立精神・神経センター精神保健研究所所長
・ 窪田 暁子 東洋大学社会学部教授
・ 小池 清廉 京都府立洛南病院院長
・ 融 道男 東京医科歯科大学名誉教授
・ 冨永 清次 全国町村会理事
・ 新田 勇 (株)東芝顧問
・ 藤井 黎 全国市長会副会長
・ 藤原 靖 徳島県徳島保健所長
・ 古谷 章惠 (社)日本看護協会理事
・ 牧 武 (社)日本精神病院協会副会長
・ 町野 朔 上智大学法学部教授
・ 三浦 勇夫 (社)日本精神神経科診療所協会理事
・ 宮坂 雄平 (社)日本医師会常任理事
・ 谷中 輝雄 (福)全国精神障害者社会復帰施設協会会長
・ 渡邊冨美子 人権擁護委員

(計 22名、五十音順)


照会先 
障害保健福祉部精神保健福祉課 内線3056


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