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社会福祉分野における権利擁護を目的とした日常生活支援について


1 検討に当たっての基本的考え方

○ 本格的な少子・高齢化の進展、家庭機能の変化、障害者ができる限り地域社会において自立して生活できるようにすべきであるという理念の定着など、我が国の社会福祉を取り巻く状況は大きく変化してきた。

○ そのような中で、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者など、判断能力が不十分であるため、福祉サービスを十分活用できないという問題や、身の回りのことや金銭管理ができないなど危機的な状況で日常生活を送らざるを得ない事例が増大している。また、これらの者に対する家庭や施設の中での虐待、金銭的搾取など権利侵害が生じている事例も報告されている。

○ このため、本人の立場に立って、適切な福祉サービス等の利用を援助するとともに、必要に応じて日常生活上の金銭管理等の直接的なサービスをあわせて提供する支援システムが必要となっている。

○ 一方、社会福祉分野における最近の動向としても、介護保険法の制定、社会福祉基礎構造改革の検討などに見られるように、福祉サービスの利用については、個人の自立支援、利用者による選択の尊重などの観点から、個人が自らサービスを選択し、それをサービス提供者との契約により利用する制度を基本とする方向で見直しが図られつつあることから、利用者個人の尊厳を確保し、本人の立場に立って福祉サービスの利用援助を行う仕組みを同時に構築することが急務となっている。

○ こうした観点から、先の中央社会福祉審議会社会福祉構造改革分科会の中間報告においても、現在法務省で検討されている新しい成年後見制度の早期導入とあわせて、社会福祉の分野でも、成年後見制度の利用や各種のサービスの適切な利用を援助する制度の導入、強化を図るべきであるとの指摘が行われたところである。

○ このような状況を踏まえ、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等が権利を侵害されることなく、自らの能力に応じてできる限り地域で自立した生活を送れるように支援することを目的とした、社会福祉分野における権利擁護のための日常生活支援についてその基本的な制度の枠組みを検討していく必要がある。

○ すでに先駆的な社会福祉団体において、こうした者に対して日常生活の相談援助、財産管理などを行う取組が始まっているが、これらは、基本的には、契約に基づき、利用しやすい方法で、各種サービスの利用契約や金銭管理など本人が地域での生活を継続する上で重要となる行為を本人に代わって行う仕組みである。これらが今後とも適正かつ確実に実施されるために考え方を整理すべきいくつかの論点がある。

○ このため、本検討会では、以下のような主要な論点について、基本的な考え方を整理した。

2 各論点に関する基本的考え方

(1)社会福祉分野における日常生活支援と成年後見制度との関係について

○ 成年後見制度は、判断能力が不十分な成年者(痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等)を保護するための制度であり、現行民法上の禁治産・準禁治産制度及びこれを前提とする後見・保佐制度は今日では種々の観点から利用しにくい制度になっているとの指摘がされていることから、自己決定の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション等の新しい理念を踏まえた、柔軟かつ弾力的な利用しやすい制度に改めるべく、その見直しが検討されているところである。
○ 具体的な見直しの内容としては、
第一に、軽度の痴呆・知的障害・精神障害等の状態にある者を対象とし、保護の内容(代理権又は同意権・取消権の一方又は双方)及び対象行為の範囲の選択を当事者の申立てに委ねる新しい法定後見の類型として「補助」類型(「補助人」制度)を新設すること、
 第二に、自己決定の尊重及び保護方法の弾力化の観点から、本人が判断能力があるうちにあらかじめ任意後見人との間で一定の方式による契約を締結し、本人の判断能力が低下した時点で家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から任意後見人の代理権の行使が開始されるという公的機関の監督を伴う任意代理制度(任意後見制度)を創設すること、などである。
○ 以上のような法定後見、任意後見制度とも、財産管理及び身上監護に関する契約等の法律行為を援助の対象とし、家庭裁判所が法定後見人(補助人等)、法定後見監督人(補助監督人等)、任意後見監督人の選任等の形で関与する仕組みとなっている。
○ 一方、社会福祉分野においては、利用者ができる限り地域で自立した生活を継続していくために必要なものとして、簡便に利用できる、比較的軽微な法律行為を含む福祉サービスの利用援助やそれに付随した金銭管理等の援助の仕組みが求められている。同時に、信頼の置ける適正な制度運営の確保が求められている。
○ こうした簡便かつ信頼の置ける仕組みを構築するためには、以下のような配慮が必要である。
・ 本人又は代理人との委任契約(又は準委任契約)に基づき、こうした援助を提供する仕組みを構築すること

・ 援助の対象者としては、痴呆性高齢者、知的障害者、精神障害者等判断能力が不十分であることにより自己の判断で様々なサービスを適切に利用することが困難である者を基本とするが、援助の範囲は福祉サービスの利用援助等日常生活に必要不可欠な範囲に限定していくことにより、契約に当たり必要とされる判断能力も一定の程度であれば契約の有効性に関する問題が生じないような仕組みとすること

○ このような仕組みを全国あまねく整備することは、社会福祉分野における権利擁護のための裾野の広い日常生活支援を可能とすることはもとより、新しく導入される成年後見制度の利用の促進や、社会福祉関係者・団体が任意後見人又は法定後見人(補助人等)として業務を行う場合の基盤整備にも資するものと考える。

(2)法律上の位置づけについて

○ 本制度における援助は、実施主体が本人又は代理人と契約を締結することにより開始するが、この場合の契約とは、民法上の一般の任意代理の委任契約として整理することができる。
 なお、契約の締結等法律行為に関わる援助を行う場合には、本人又は代理人から代理権を授与されて実施することが、実施主体の援助の円滑な遂行、取引の相手方の保護の両面から必要であることから、委任契約の内容としては一定の事項についての代理権を含むものとすべきである。
○ また、福祉サービスの利用援助等利用者の権利擁護を目的とした各種相談援助を行う同制度については、その公的信頼性を高めるために、社会福祉事業法に明確に位置づけることにより、制度化を図り一定の税制上の優遇措置を受けられるようにするなど福祉関係者が取り組みやすくするとともに、一定の規制をかけることによりその適正な運営を確保する必要がある。

(3)契約締結に必要とされる判断能力の程度について

○ 本制度における援助は、実施主体が本人又は代理人と契約を締結することにより開始するものであるが、本人との契約に当たっては、本人がその契約の内容と結果を認識し判断する能力を有していることが必要となる。
○ 契約締結に必要とされる判断能力の程度は、判断能力の画一的な水準によって単純に評価すべきものではなく、対象となる特定の契約内容に照らして、その性格や効果を理解する能力があるかどうかを個々に評価していく必要がある。例えば、日常生活に密着したサービスの取引は不動産の処分や複雑な賃貸借契約を締結する場合のような判断能力は必要でないとされている。
○ 判断能力の評価が円滑に行われるか否かが本制度の利用しやすさに影響を与えることから、今後、制度の実施までに実施主体が利用しやすい判断能力の評価に関する統一的なガイドラインの作成に取り組む必要がある。この場合、病状や障害の程度などの医学的な要素のみならず、本人の日常生活の態様、本人の日常生活の状況に関する認識、援助の必要性についての認識、本人の意思決定とその信条・価値観とが整合性がとれているかどうかなど、社会的な要素を重視した評価基準を検討する必要がある。
○ 実施主体は、契約締結に当たって、本人の判断能力に疑義が生じた場合に慎重な手続きを担保するため、専門的見地から判断能力の有無を評価する「契約締結審査会」(医師、法律家、社会福祉士等で構成)を設けることとし、必要があればその判断を得て契約締結を行うことが必要である。
○ 初期相談や本人の判断能力の確認の中で、成年後見制度の活用が望ましいケースについては、成年後見開始の申立権者への連絡、任意後見契約への移行など成年後見制度との連携を十分図ることが必要とされる。

(4)援助の範囲について

○ 社会福祉分野における日常生活支援の仕組みにおいては、適切な福祉サービスの利用援助、当該利用料の支払い等付随した金銭管理の援助など、地域での生活を営むのに不可欠の援助を行うということを基本とすべきであり、重要な財産処分等については成年後見制度の活用で対応することが適当である。
○ 上記のことから、以下のものを援助の主要な内容として位置づけていく必要がある。
(1)福祉サービスの利用援助

・情報提供、助言
・手続きの援助(申込み手続きの同行・代行、契約締結)
・苦情処理制度の利用援助

(2)日常的金銭管理

・福祉サービス等の利用料の支払い
・一定額の預貯金の出し入れ
・通帳、権利証等の保管(定期預貯金通帳、有価証券、保険証書、不動産の権利証及び契約書、実印、銀行印等)
・公共料金、家賃の支払い
・年金、手当等の受領確認、受給手続きの援助
・就労収入、不動産収入の受領確認

○ また、利用者の生活状況や需要に応じて、以下のような援助についても検討すべきである。
(1)住宅改造、居住家屋の賃借の援助

・情報提供、助言
・手続きの援助(申込み手続きの同行・代行、契約締結)

(2)授産施設等への入所援助

・情報提供、助言
・手続きの援助(申込み手続きの同行・代行、契約締結)

(3)ヘルスケアサービス、軽微な医療行為の利用援助

・情報提供、助言
・手続きの援助(申込み手続きの同行・代行、契約締結)

(4)文化、レクリエーションに関するサービスの利用援助

・情報提供、助言
・手続きの援助(申込み手続きの同行・代行、契約締結)

(5)商品購入に関する簡易な苦情処理制度の利用援助

(6)住民票の届出、印鑑登録の代行

○ 各種サービスや苦情処理制度の利用援助又は日常的金銭管理を行う場合、本人の生活状況や心身の状態の変化、各種サービスの実施状況等を的確に把握することが重要であることから、契約に基づく援助内容に関連して、本人の日常生活の見守りも適宜行われることとなる。
○ 福祉サービスの利用援助については、例えば介護保険制度との関係では、要介護認定の申請の援助、要介護認定に関する調査に立ち会い本人の状況を正しく調査員に伝えること、居宅介護支援事業者(介護サービス計画作成事業者)の選択の援助、介護支援専門員の調査に立ち会い本人への説明や本人の状況を正しく介護支援専門員に伝えることなど本人の利益を代弁すること、契約の締結などを本制度における援助の内容とすべきである。
○ また、福祉サービスに関連する権利侵害に対しては、社会福祉基礎構造改革の中で、福祉サービスに関する苦情への対応や紛争解決を目的とした、施設内の苦情対応チームや第三者機関など重層的な仕組みを別途設けることが検討されていることから、本制度ではこうした制度に対し本人の立場に立って申し立てを行い、本人の利益を代弁するという役割を果たしていくべきである。
(5)適切な運営の確保について
○ 権利擁護を目的とした制度としての信頼性を高め、利用者にとって安心して利用できる仕組みとするため、実施主体ごとに外部有識者により構成される「運営監視委員会」を設置し、本制度の運営について第三者による客観的な監督を行う必要がある。
○ 社会福祉団体が代理人として契約者の権利擁護を目的として福祉サービスの利用援助を行う際に、当該団体がホームヘルプサービス等の直接的サービスをあわせて行っているとすれば、公正な選択や適正な監督が行われないのではないかという懸念が指摘されているが、こうした仕組みを設けることにより適切な運営を確保することができる。

(6)実施体制について

○ 福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理など個々の契約に基づき実施される援助については、できる限り利用者の身近な場において、相談窓口が設置されるとともに、直接的な援助活動を行う援助者(以下「生活支援員」という。)の配置が行われることが必要である。
○ 生活支援員は、活動の内容や本制度の今後の需要を考慮すれば、利用者の身近な地域で一定数の確保がされることが望ましいことから、あらかじめ権利擁護を目的とした日常生活支援に関する知識や技術について研修を受け、一定の要件を満たす者を基本とする必要がある。
○ なお、施設入所者に援助を行う場合、当該施設の職員を生活支援員として活用することについては、更に慎重に検討を進める必要がある。
○ 本制度の運営に当たっては、利用者の生活状況や需要を的確に把握し、本人の自立支援の観点から適切な援助計画を作成するとともに、生活支援員の業務の監督も行う専門職(以下「専門員」という。)を一定数確保することが不可欠である。この専門員については、社会福祉援助技術についての高度な専門性の基盤の上に権利擁護に関する高い意識が求められることから、社会福祉士などで一定の研修を受けた者をもって充てる必要がある。
○ 一方、契約締結審査会など専門家により構成される第三者的機関については、より効率的な運営に資する観点から、都道府県域を一つの圏域として設けるなどの工夫も必要である。
○ 上記のことから、例えば社会福祉協議会が本制度を実施する場合は別紙2のような運営体制をとることも考えられる。

(7)人材の養成・研修体制について

○ 本制度の中核となる専門員、生活支援員とも、本制度の目的である権利擁護についての理解とともに、実務を行うための高い資質と技能が求められる。
○ このため、資質の向上のために職能団体の協力の下に適切な養成・研修体制が設けられる必要があり、今後、具体的な研修課程等について更に検討を進める必要がある。また、これらの者の活動指針となりうる倫理綱領の作成についても検討する必要がある。

(8)その他

○ 利用者にとって利用しやすい、適切な契約書等諸様式の開発についても統一的に検討を進める必要がある。この場合、利用者保護の観点から、現在検討が進められている消費者契約法(仮称)の趣旨を踏まえた検討をすべきである。
○ また、本制度の信頼性を確保し、利用者が安心して利用できるようにするため、実施主体の業務執行上の事故等に対し危険を担保するための保険の仕組みの利用を確立する必要がある。


問い合わせ先
厚生省社会・援護局地域福祉課
担 当 山本(内2852)
電 話 (代) [現在ご利用いただけません]
    (夜間)03−3591−9862


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