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平成10年10月28日

平成10年度特定疾患治療研究事業における対象疾患の追加について


 いわゆる難病の治療研究を促進するため、ベーチェット病などの40疾患を対象として、医療費の自己負担分を補助しているところであるが、特定疾患対策懇談会の意見に基づき、平成10年12月1日から、新規疾患として「亜急性硬化性全脳炎」、「バッド・キアリ( Budd-Chiari)症候群」及び「特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)」を追加することとした。


照会先:厚生省保健医療局
    エイズ疾病対策課
担 当:加藤(内2353)
    三丸(内2355)
電 話:代表 [現在ご利用いただけません]
    直通 3595-2249

(資料1〜2)


1 亜急性硬化性全脳炎について

(定義)

 亜急性硬化性全脳炎(SSPE Subacute Sclerosing Panencephalitis)は、麻疹が治癒した後、長い潜伏期(5―10年後)の後に発症する中枢神経系が侵襲される病気で、比較的緩徐に進行する(これを亜急性という)脳疾患である。

(疫学)

 年間発症率は全年齢人口の100万人に1人、15歳未満人口の100万人に数人といわれている。1985年頃まではわが国で年間10例以上の発症が報告されていたが、麻疹に対するワクチン(予防接種)の普及により最近は年間数例報告されるにとどまっている。発症年齢は5歳から12歳で約80%を占め、男女比は1.6:1と男子に多く報告されている。

(病因)

 SSPEは麻疹ウイルスの脳内持続感染が原因と考えられいるが、このウイルスは脳内で変異し、通常の麻疹ウイルスとはやや異なった性質を持つようになり、SSPEウイルスと呼ばれている。どのように持続感染が起こり発病するのかは、よく分かっていない。

(症状)

第一期:精神状態の変化(注意力、集中力低下、無口、自閉、拒絶症、活動過多、性格変化、行動異常、学業成績低下、記憶力低下、知能低下、言語緩慢、傾眠)

第二期:一期の症状が進行するとともに二期へ移動。運動刺激症状(痙攣発作、転倒発作、失立発作、ミオクローヌス)、言語障害、運動麻痺症状が少しずつ加わる。尿便失禁も加わる。

第三期:精神活動はさらに低下し、ミオクローヌスは強くなり、不随意運動が現れる。言語障害、運動麻痺症状が目立ってくる。皮質盲が現れ筋緊張が亢進する。

第四期:強い刺激に反応する程度の意識状態になる。ミオクローヌスは強く、不随意運動がみられる。無動無言に近く、歩行、経口摂取は不可能。筋硬直、除脳肢位をとり、進行すると除皮質肢位をとる。発汗、流涎、高熱が見られてくる。

第五期:昏睡。ミオクローヌスは消失する。麻痺は極度に達し、筋緊張は低下してくる。

 以上の経過をたどり死亡する。

(治療)

 根本的治療法はまだ無い。免疫賦活剤であるイノシプレックスの内服と、インタフェロンの髄腔、脳室内への投与が広く行われており、その併用が一時的に症状の軽減、生存期間延長に有効とされている。

(予後)

 以前は1―2年で死亡するといわれていたが、今は1―12年となっている(平均6.4年)。


2 バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群について

(定義)

 肝臓から流れ出る血液を運ぶ肝静脈か、あるいはその先の心臓へと連なっている肝部下大静脈の閉塞によって、肝臓からでる血液の流れが悪くなり門脈圧が上昇し、門脈圧亢進等の症状を示す疾患をいう。腫瘍による肝静脈や下大静脈の閉塞例は、通常本症には含めない。

(疫学)

 有病率は人口100万あたり2.4人、年間発病率は人口100万人あたり0.34人と推定されている。男女比は1.6:1と男性にやや多い。平均発症年齢は、男性36歳、女性47歳。

(病因)

 肝静脈あるいは肝部下大静脈の先天的な血管形成異常、後天的な血栓等が原因として考えられているが、原因不明のものが約70%を占めており、はっきりとしたことはよくわかっていない。

(症状)

 門脈圧亢進により脾腫、食道・胃静脈瘤、腹水などの症状がでる。脾機能亢進による貧血、静脈瘤破裂による吐血、下血等の症状が見られることもある。その他の症状としては腹壁の静脈の怒張、下腿浮腫などがある。

(治療)

 肝静脈、肝部下大静脈による症状および門脈圧亢進による症状の改善が治療目標となる。具体的には、前者に対しては、諸検査で血栓が確認されれば、血栓を予防したり、溶解させるために抗凝固療法を行う。また病態に応じては、狭窄部のバルーンカテーテルによる狭窄部拡張術や、閉塞・狭窄を直接解除するような手術を行う。
 後者に関しては、食道・胃静脈瘤に対する専門的処置を行う。

(予後)

 バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群は発症形式により急性型と慢性型に分けられる。急性型は一般に予後不良であり、腹痛、嘔吐、急速な肝腫大及び腹水にて発症し、1―4週間で肝不全により死の転帰をたどる重篤な疾患であるが、本邦では極めて稀である。一方、慢性型は80%を占め、多くの場合は無症状に発症し、次第に下腿浮腫、腹水、腹壁皮下静脈怒張を認める。このような場合、食道・胃静脈瘤からの出血のコントロールが重要である。


3 特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)について

(定義)

  器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こした疾患である慢性肺血栓塞栓症のうち、肺高血圧型とはその中でも肺高血圧症を合併し、臨床症状として労作時の息切れなどを強く認めるものをいう。

(疫学)

  本邦における急性例及び慢性例を含めた肺血栓塞栓症の発生頻度は、欧米に比べて少なく、米国の約1/10とされている。

(病因)

  本症の正確な発症機序はいまだ不明である。静脈血栓の素因としては、アンチトロンビンIII欠乏症やプロテインCおよびS欠乏症などの先天性凝固異常症、抗リン脂質抗体症候群などが知られているが、素因の明らかでない症例も含め、血栓が溶解されずに残存する機序が病因として重要とされている。

(症状)

  本症に特異的な臨床症状はない。労作時の息切れはもっとも高頻度に見られ、反復を繰り返す症例(反復型)では急性肺血栓塞栓症に類似した突然の呼吸困難、胸痛を主訴とすることが多い。一方、反復の明らかでない潜伏型に属する例では、徐々に労作時呼吸困難が増強してくることが多い。このほか、動悸、咳そう、失神などもみられ、肺高血圧の進行により右心不全症状をきたすと、腹部膨満感や体重増加、下腿浮腫などがみられる。

(治療)

  内科的治療法としては、長期間の抗凝固療法に加え、再発予防の意味で下大静脈フィルターの留置も有効とされる。また、低酸素血症が著明な症例も多く、在宅酸素療法を含めた長期酸素吸入療法の併用および右心不全の軽減のため、利尿剤の投与なども行われる。本症は、労作時の息切れなどが強いため、日常生活が大きく制限されるばかりではなく、その予後も不良であり積極的治療が必要となる。内科的療法にても改善が得られない場合には、外科的治療(肺血栓内膜摘除術)の適応を検討する。本手術は、高度の技術を要する手術であることから、設備の整った施設において本法に熟達した心臓血管外科医により行われることが望ましい。

(予後)

  本症の予後は肺高血圧の程度と良く相関し、肺動脈平均圧30mmHg以下の症例は10年生存率100%となっている。一方、肺動脈平均圧が30mmHgを超える症例では、以前の報告では5年生存率30%と極めて不良であったが、最近では在宅酸素療法、抗凝固療法の普及もあって5年生存率50-60%と改善している。


特定疾患治療研究対象疾患一覧

NO.1

疾患名 実施年月
ベーチェット病 昭和47年 4月
多発性硬化症 昭和48年 4月
重症筋無力症 昭和47年 4月
全身性エリテマトーデス
スモン
再生不良性貧血 昭和48年 4月
サルコイドーシス 昭和49年10月
筋萎縮性側索硬化症
強皮症、皮膚筋炎及び多発性筋炎
10 特発性血小板減少性紫斑病
11 結節性動脈周囲炎 昭和50年10月
12 潰瘍性大腸炎
13 大動脈炎症候群
14 ビュルガー病
15 天疱瘡
16 脊髄小脳変性症 昭和51年10月
17 クローン病
18 難治性の肝炎のうち劇症肝炎
19 悪性関節リウマチ 昭和52年10月
20 パーキンソン病 昭和53年10月
21 アミロイドーシス 昭和54年10月
22 後縦靭帯骨化症 昭和55年12月
23 ハンチントン舞踏病 昭和56年10月
24 ウィリス動脈輪閉塞症 昭和57年10月
25 ウェゲナー肉芽腫症 昭和59年 1月
26 特発性拡張型(うっ血型)心筋症 昭和60年 1月
27 シャイ・ドレーガー症候群 昭和61年 1月
28 表皮水疱症(接合部型及び栄養障害型) 昭和62年 1月
29 膿疱性乾癬 昭和63年 1月
30 広範脊柱管狭窄症 昭和64年 1月

NO.2

疾患名 実施年月
31 原発性胆汁性肝硬変 平成 2年 1月
32 重症急性膵炎 平成 3年 1月
33 特発性大腿骨頭壊死症 平成 4年 1月
34 混合性結合組織病 平成 5年 1月
35 原発性免疫不全症候群 平成 6年 1月
36 特発性間質性肺炎 平成 7年 1月
37 網膜色素変性症 平成 8年 1月
38 クロイツフェルト・ヤコブ病 平成 9年 1月
39 原発性肺高血圧症 平成10年 1月
40 神経線維腫症 平成10年 5月
41 亜急性硬化性全脳炎 平成10年12月
42 バッド・キアリ(Budd-Chiari)症候群
43 特発性慢性肺血栓塞栓症(肺高血圧型)


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