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平成10年9月29日
生活衛生局食品保健課
食品化学課
I 報告について
1 概要
本日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会は、組換えDNA技術を応用して製造された3品種の食品及び1品目の食品添加物について、別添のとおり、それぞれ「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下、「安全性評価指針」という。)に沿って安全性評価が行われていると判断する旨の部会報告を行いました。
2 今回報告された食品及び食品添加物について
(1) 平成10年1月27日付けで、組換えDNA技術を応用して製造された6品種の食品及び2品目の食品添加物が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることを厚生大臣が確認することの可否について厚生大臣より食品衛生調査会あて諮問され、同日、バイオテクノロジー特別部会あて付議されたところですが、本日付けで、それらのうち次の3品種の食品及び1品目の食品添加物については、別添のとおりバイオテクノロジー特別部会の報告がありました。
ア | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
なたね(MS8) 除草剤耐性及び雄性不稔性 アグレボ ジャパン株式会社 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
イ | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
なたね(RF3) 除草剤耐性及び稔性回復性 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
ウ | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統) 除草剤耐性 日本モンサント株式会社 Monsanto Company(米国) |
エ | 対象品種 申請者 開発者 |
α−アミラーゼ ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社 Novo Nordisk A/S(デンマーク) |
ア | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
なたね(HCN19) 除草剤耐性 アグレボ ジャパン株式会社 Hoechst Schering AgrEvo GmbH(ドイツ) |
イ | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
なたね(PHY23) 除草剤耐性 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
ウ | 対象品種 性 質 申請者 開発者 |
とうもろこし(CBH351) 害虫抵抗性及び除草剤耐性 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
エ | 対象品種 申請者 開発者 |
フィターゼ ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社 Novo Nordisk A/S(デンマーク) |
(3) なお、平成8年10月24日に諮問され、継続審議となっていた3品種の食品(パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)、株式会社東食から申請された除草剤耐性とうもろこし(DLL25)及び害虫抵抗性とうもろこし(DBT418))についても引き続き継続審議となりました。
(4) これまでの審議経過は次のとおりです。
平成10年 | 1月27日 | 食品衛生調査会に諮問、バイオテクノロジー特別部会に付議 |
2月 2日 | バイオテクノロジー特別部会審議 | |
2月 2日 | 第1回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
3月23日 | 第2回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
4月27日 | 第3回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
6月 5日 | 第4回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
7月14日 | 第5回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
8月 6日 | 第6回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
9月14日 | 第7回組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会審議 | |
9月29日 | 食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会開催 | |
〃 | バイオテクノロジー特別部会報告 |
3 今後の予定
平成10年10月5日より毎週月水金に申請資料を社団法人日本食品衛生協会において公開します。 また、今回の部会報告に対しご意見がある方は、10月28日までに書面等にて食品保健課までおよせ下さい。
なお、今後さらに食品衛生調査会常任委員会での審議をふまえ、食品衛生調査会としての答申が行われる予定です。
II 次回申請等について
次回の「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」への適合に関する確認審査の申請受付は、平成10年10月31日までとします。
照会先:厚生省生活衛生局 田中 食品保健課長 担当者:得津、井関、渋谷(内線 2447、2451) 東、宇山(食品化学課、内線 2483、2486)
食調第73号
平成10年9月29日
食品衛生調査会
食品衛生調査会
バイオテクノロジー特別部会
部会長 寺尾 允男
平成10年1月27日付厚生省生衛第12号をもって厚生大臣より諮問され、同日付食調第7号をもって付議された食品・食品添加物及び平成8年10月24日付厚生省生衛第883号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否については、組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会において審議してきたところである。
今般、分科会の検討結果を踏まえ、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会において更に審議した結果、下記の食品3品種及び食品添加物1品目について別記のとおり取りまとめたので報告する。
記
1 | 対象品種 性 質 申 請 者 開 発 者 |
なたね(MS8) 除草剤耐性及び雄性不稔性 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
2 | 対象品種 性 質 申 請 者 開 発 者 |
なたね(RF3) 除草剤耐性及び稔性回復性 アグレボ ジャパン株式会社 Plant Genetic Systems(ベルギー) |
3 | 対象品種 性 質 申 請 者 開 発 者 |
とうもろこし(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統) 除草剤耐性 日本モンサント株式会社 Monsanto Company(米国) |
4 | 対象品種 申 請 者 開 発 者 |
α-アミラーゼ ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社 Novo Nordisk A/S(デンマーク) |
別記
平成10年1月27日、厚生大臣から食品衛生調査会に対し、食品6品種(除草剤耐性とうもろこし1品種、害虫抵抗性・除草剤耐性とうもろこし1品種、除草剤耐性なたね2品種、除草剤耐性・雄性不稔性なたね1品種、除草剤耐性・稔性回復性なたね1品種)及び食品添加物2品目(α−アミラーゼ、フィターゼ)の安全性評価が「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「安全性評価指針」という。)に適合していることの確認を行うことの可否について諮問がなされ、同日、食品衛生調査会バイオテクノロジー特別部会(以下「部会」という。)に付議された。
部会においては、詳細な検討を行うため、専門家で構成された「組換えDNA技術応用食品等の安全性評価に関する分科会」(以下「分科会」という。)を設置し、この分科会における検討をもとに、さらに部会において審議を行うこととした。
分科会は、平成10年2月2日から平成10年9月14日の間に7回開催され、諮問された食品及び食品添加物の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討を行った。
また、この分科会は、平成8年10月24日付厚生省生衛第833号をもって厚生大臣より諮問され、同日食調第75号をもって付議され継続審議となった食品3品種の安全性評価が安全性評価指針に適合しているかどうかの検討も行った。
この分科会での検討結果を受け、平成10年9月29日に部会において審議した結果、今般、別紙1〜4のとおり、食品3品種と食品添加物1品目について報告をとりまとめた。
また、アグレボジャパン株式会社から申請された除草剤耐性カノーラ2品種(HCN19、PHY23)及び除草剤耐性・害虫抵抗性とうもろこし(CBH351)、パイオニア ハイブレッド ジャパン株式会社から申請された害虫抵抗性とうもろこし(MON809)*、株式会社東食から申請された害虫抵抗性とうもろこし(DBT418)*及び除草剤耐性とうもろこし(DLL25)*、ノボノルディスクバイオインダストリー社から申請された食品添加物(フィターゼ)については、さらに検討が必要なことから、審議を継続することとされた。(*印については再継続の扱い。)
別紙1
アグレボジャパン株式会社から申請された除草剤耐性・雄性不稔性なたね(MS8)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否についてアグレボジャパン株式会社から申請された除草剤耐性・雄性不稔性なたね(開発者:プラント・ジェネティック・システム社。)(以下「MS8」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。
1 申請された食品の概要
MS8は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)の影響を受けずに生育できる。
グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
MS8には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
また、MS8は、やくの発育を阻害する雄性不稔遺伝子(以下「barnase遺伝子」という。)の導入により雄性不稔性の形質を獲得しており、稔性回復遺伝子であるbarstar遺伝子を導入したなたね(RF3)との交配により稔性が回復し、自家受粉が可能になる。
2 指針の適用の可否について
MS8の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に分布している非病原性の微生物である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
MS8は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート))に関し、既存のなたねと同等であった。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
MS8の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及び、雄性不稔性を有していることから他家受粉によるハイブリッド種作成の母本として利用できる点である。
(5) 指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、MS8については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
(2) 宿主
なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。
(3) ベクター
MS8の作出に用いられたpTHW107は、pGSV1に由来する。
pTHW107に含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pTHW107は、自律増殖可能な宿主域がE.coli及びAgrobacterium tumefaciensのみに限られている。
なお、pTHW107のなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pTHW107はbar遺伝子、barnase遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子を含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1)供与体
MS8に導入されたbar遺伝子は、S.hygroscopicusに、barnase遺伝子は、B. amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
MS8のゲノム中に組み込まれたpTHW107の挿入DNAすなわちPAT蛋白質産生に関与する遺伝子(PSsuAra/bar/3'g7)及び雄性不稔発現に関与する遺伝子(PTA29/barnase/3'nos)に有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
barnase遺伝子は一本鎖RNA分子を加水分解する酵素リボヌクレアーゼをコードする。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
MS8において、遺伝的安定性と発現安定性が解析され、少なくとも3世代にわたる正常なメンデルの分離が確認されている。また、様々な環境における栽培においても、挿入遺伝子は安定して発現している。
e コピー数に関する資料
挿入遺伝子は、bar遺伝子及びbarnase遺伝子がそれぞれ1コピー挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
種子中における挿入遺伝子に由来する産物の発現量については、bar遺伝子が発現するPAT蛋白質は0.69μg/g(ダブルサンドイッチELISA法)検出された。
barnase遺伝子の発現はやくのタペート細胞に限られており、種子中はbarnase遺伝子産物は検出されない。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
抗生物質耐性マーカーは導入されていない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、PAT蛋白質及びbarnase蛋白質の発現に係わるオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、PAT蛋白質及びbarnase蛋白質だけである。
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
MS8に導入された性質は、グルホシネートの影響を受けない点及びやくの発育を阻害して雄性不稔性を獲得した点である。
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1)供与体の生物の食経験に関する資料
S.hygroscopicusのヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。また B.amyloliquefaciensはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(2)遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
PAT蛋白質及びbarnase蛋白質のそれぞれについて、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3)遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
PAT蛋白質は人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。また、barnase蛋白質は人工胃液中で、酵素活性が消失した。
イ 加熱処理に対する感受性
PAT蛋白質は加熱により変成し、酵素活性が消失した。また、barnase蛋白質は加熱により酵素活性が消失した。
(4)遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
なたね油中のPAT蛋白質及びbarnase蛋白質の検出量については、PAT蛋白質は比色分析法で検出限界(0.0025μg/g)以下、ELISA法で検出限界(0.0001μg/g)以下、barnase蛋白質は比色分析法で検出限界(0.0001μg/g)以下であった。日本人のなたね油の一日平均摂取量を8gとして、それぞれの蛋白質の比色分析法での検出下限値を仮に遺伝子産物の最大推定値とすると、日本人の一日予想摂取量はPAT蛋白質が0.020μg、barnase蛋白質が0.008μgとなる。
(5)遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
データベースに登録されている全ての蛋白質について構造相同性検索を行った結果、PAT蛋白質及びbarnase蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6)遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
PAT蛋白質及びbarnase蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)のうち、その45%が植物性であるとすると、総蛋白摂取量に対する遺伝子産物の割合は、0.000000022〜0.000000056%となる。
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
データベースの検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。ラットを用いたPAT蛋白質の反復投与経口毒性試験及びMS8の後代種であるMS8RF3を用いたウサギの飼育実験の結果、悪影響は認められていない。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
PAT蛋白質は基質特異性は高く、その基質となり得る化合物または分子はなたね中には存在しない。
e 宿主との差異に関する資料
主要栄養成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)の分析の結果、既存のなたねと同等であった。
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
MS8の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点及び雄性不稔の形質を示す点を除いて、既存のなたねと同等であった。
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
MS8の生存・増殖能力は、既存のなたねと同等であった。
h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたねを不活化する従来の方法によって不活化される。
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
カナダ厚生省の確認が1997年3月に得られている。
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
MS8と既存のなたねとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグルホシネートが使用できる点と雄性不稔である点であり、他の点では同等である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
MS8の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。
(6) 指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、MS8は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
別紙2
アグレボジャパン株式会社から申請された除草剤耐性・稔性回復性なたね(RF3)に係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否についてアグレボジャパン株式会社から申請されたなたね(開発者:プラント・ジェネティック・システム社。)(以下「RF3」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。
1 申請された食品の概要
RF3は、除草剤グルホシネート(商品名:バスタ、農林水産省:農薬登録番号15769号)の影響を受けずに生育できる。グルホシネートの有効成分であるphosphinothricin(以下「PPT」という。)は、植物の窒素代謝により生成したアンモニアを無毒化する役割をもっているglutamine synthetase(以下「GS」という。)の活性を特異的に阻害するため、その散布により植物は組織中にアンモニアが蓄積し枯死する。
RF3には、PPTをアセチル化して不活性化させるphosphinothricin acetyltransferase(以下「PAT蛋白質」という。)を発現させるbar遺伝子が導入されているので、グルホシネートを散布しても枯死せずに生育することができる。
また、RF3は、稔性回復遺伝子(以下「barstar遺伝子」という。)を導入したナタネ(以下「RF3」という。)であり、雄性不稔遺伝子であるbarnase遺伝子を導入したナタネ(以下「MS8」という。)との交配によりその稔性を回復させることができる。
2 指針の適用の可否について
RF3の指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
なたね(カノーラ種)から得られる油は、食用油として幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。また、S.hygroscopicusについては、ヒトの食経験はないが、土壌中に分布している非病原性の微生物である。B.amyloliquefaciensについてはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
RF3は、主要構成成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート))に関し、既存のなたねと同等であった。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
RF3の食品としての使用方法は既存のなたねと同等である。なお、既存のなたねとの相違は、グルホシネートの影響を受けることなく生育できることから、栽培期間中にグルホシネートが使用できる点及び、MS8の稔性を回復させる性質を獲得した点である。
(5) 指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、RF3については、既存のなたねと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
RF3の指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(2) 宿主
なたね(カノーラ種)は、食品として食用油に利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。エルシン酸及びグルコシノレートのような有害生理活性物質の生産が知られているが、それらに関する情報は十分に得られている。
(3) ベクター
RF3の作出に用いられたpTHW118は、pGSV1に由来する。
pTHW118に含まれるすべての遺伝子は、その特性が明らかになっており、既知の有害な塩基配列を含まない。pTHW118は、自律増殖可能な宿主域がE.coli及びAgrobacterium tumefaciensのみに限られている。
なお、pTHW118のなたね組織への挿入には、アグロバクテリウム法が用いられている。
pTHW118はbar遺伝子、barstar遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子をそれぞれ含んでおり、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4)挿入遺伝子
1)供与体
RF3に導入されたbar遺伝子は、S.hygroscopicusに由来し、RF3に導入されたbarstar遺伝子は、B. amyloliquefaciensにそれぞれ由来する。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
RF3のゲノム中に組みこまれた pTHW118の挿入DNAすなわちPAT蛋白質産性に関与する遺伝子(PSsuAra/bar/3'g7)及び稔性回復発現に関与する遺伝子(PTA29/barstar/3'nos)には有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
bar遺伝子はPAT蛋白質を発現させ、グルホシネートの有効成分であるPPTをアセチル化し、GSの阻害作用を不活化する結果、グルホシネートの除草効果を妨げる。
barstar遺伝子はbarnase遺伝子(barnase遺伝子は一本鎖RNA分子を加水分解する酵素リボヌクレアーゼをコードする遺伝子)産物であるリボヌクレアーゼの阻害物質をコードする。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、それら遺伝子の特性も明らかとなっている。また、宿主に導入された遺伝子はこれら特性等が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
RF3において、遺伝的安定性と発現安定性が解析され、少なくとも3世代にわたる正常なメンデルの分離が確認されている。また、様々な環境における栽培においても、挿入遺伝子は安定して発現している。
e コピー数に関する資料
挿入遺伝子は、1コピーのbar遺伝子及び2コピーのbarstar遺伝子が挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
種子中における挿入遺伝子に由来する産物の発現量については、bar遺伝子が発現するPAT蛋白質が0.69μg/g(ダブルサンドイッチELISA法)検出された。
barstar遺伝子は、やくのタペート細胞中に限られており、種子中はbarstar遺伝子産物は検出されない。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
抗生物質耐性マーカーは導入されていない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNAには、PAT蛋白質、barstar蛋白質の発現に係わるオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、PAT蛋白質、barstar蛋白質だけである。
(5)組換え体
a 組換えDNA操作により新たに獲得された性質に関する資料
RF3に導入された性質は、グルホシネートの影響を受けない点及びMS8の稔性を回復させる性質を獲得した点である。
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1)供与体の生物の食経験に関する資料
S.hygroscopicusのヒトの食経験はないが、土壌中に広く分布している非病原性の微生物である。また B.amyloliquefaciensはα-アミラーゼの工業生産に利用されている。
(2)遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
PAT蛋白質、barstar蛋白質のそれぞれについて、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3)遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
PAT蛋白質は人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。また、barstar蛋白質は人工胃液中で、活性が消失した。
イ 加熱処理に対する感受性
PAT蛋白質は加熱により変成し、酵素活性が消失した。また、barstar蛋白質は加熱により活性が消失した。
(4)遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
なたね油中のPAT蛋白質及びbarstar蛋白質の検出量については、PAT蛋白質は比色分析法で検出限界(0.0025μg/g)以下、ELISA法で検出限界(0.0001μg/g)以下、barstar蛋白質は比色分析法で検出限界(0.0001μg/g)以下であった。日本人のなたね油の一日平均摂取量を8gとして、それぞれの蛋白質の比色分析法での検出下限値を仮に遺伝子産物の最大推定値とすると、日本人の一日予想摂取量はPAT蛋白質が0.020μg、barstar蛋白質が0.008μgとなる。
(5)遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
データベースに登録されている全ての蛋白質について構造相同性検索を行った結果、PAT蛋白質、barstar蛋白質と既知のアレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6)遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
PAT蛋白質及びbarstar蛋白質の一日予想摂取量は、日本人の一日平均蛋白質摂取量79.5g(国民栄養の現状、1995)のうち、その45%が植物性であるとすると、総蛋白摂取量に対する遺伝子産物の割合は、0.000000022〜0.000000056%となる。
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
データベースの検索の結果、遺伝子産物と既知の毒性物質との間に相同性は認められなかった。ラットを用いたPAT蛋白質の反復投与経口毒性試験及びRF3の後代種であるMS8RF3を用いたウサギの飼育実験の結果、悪影響は認められていない。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
PAT蛋白質、barstar蛋白質はそれぞれ基質特異性は高く、その基質となり得る化合物または分子はなたね中には存在しない。
e 宿主との差異に関する資料
主要栄養成分(蛋白質、灰分、油分、粗繊維)及び有害生理活性物質(エルシン酸、グルコシノレート)の分析の結果、既存のなたねと同等であった。
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
RF3の外界における生存・増殖能力は、グルホシネートに耐性を示す点及び、MS8との交配によりその稔性を回復させる点を除いて、既存のなたねと同等であった。
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
RF3の生存・増殖能力は、既存のなたねと同等であった。
h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、なたねを不活化する従来の方法によって不活化される。
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
カナダ厚生省の確認が1997年3月に得られている。
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
RF3と既存のなたねとの栽培方法の違いは、生育期の雑草防除にグルホシネートが使用できる点と稔性回復性をもつ点であり、他の点では同等である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
RF3の製法及び管理方法については、既存のなたねと同様である。
(6) 指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、RF3は指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
別紙3
日本モンサント株式会社から申請されたトウモロコシ(ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統)に係る「組換えDNA 技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について日本モンサント株式会社から申請されたトウモロコシ(商品名:「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ GA21系統」。以下「ラウンドアップ・レディー・トウモロコシ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討した。
1 申請された食品の概要
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、除草剤「グリホサート(商品名:ラウンドアップ、一般名:N-ホスホノメチルグリシン、農林水産省:農薬登録番号14360号、米国登録:CAS 登録番号:1071-83-6、38641-94-0)」の影響を受けずに生育できる。
グリホサートは、植物や微生物に特有の芳香族アミノ酸合成経路(シキミ酸経路)中の酵素の一つである、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸合成酵素(以下「EPSPS 蛋白質」という。)と特異的に結合し、その活性を阻害する。そのため、散布によりほとんどの植物は必須芳香族アミノ酸が合成できずに枯死する。
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシはグリホサート存在下でも機能するmEPSPS蛋白質を発現させる遺伝子が導入されているため、グリホサートを散布しても植物は枯死せずに生育することができる。
2 指針の適用の可否について
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針適用の可否については、指針の第1章第3(1)〜(4)に従って申請資料の検討を行った。
(2) 広範囲なヒトの安全な食経験に関する資料
トウモロコシ(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。
(3) 食品の構成成分等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のトウモロコシと有意な差は認められなかった。
(4) 既存種と新品種の使用方法の相違に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの食品としての使用方法は既存のトウモロコシと同等である。なお、既存のトウモロコシとの栽培上の相違は、グリホサートの影響を受けずに生育することから、栽培期間中にグリホサートが使用できる点のみである。
(5) 指針適用の可否に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見からすると、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、既存のトウモロコシと同等とみなし得るものと考えられ、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの指針への適合性については、指針の別表2(付表を含む。)に従って申請資料の検討を行った。
(2) 宿主
トウモロコシ(デント種)は、主に飼料用として利用されるが、食品としてもコーン油や澱粉等の製造に幅広く利用されており、広範囲なヒトの安全な食経験がある。トウモロコシのアレルギーは非常に希であるほか、有害生理活性物質の産生は知られていない。
(3) ベクター
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの作出に用いられた pDPG434は、主としてpBluescript SK(-)に由来する。pDPG434に存在する全ての遺伝子は、その特性が明らかとなっており、既知の有害塩基配列を含まない。pDPG434は大腸菌にアンピシリン及び他のβラクタム環を持つ抗生物質に対する抵抗性を付与するbla遺伝子をプラスミド構築の際に利用しているが、遺伝子導入の際に除去している。また、pDPG434は伝達を可能とする配列は含まず、複製開始領域は大腸菌中での自律増殖を可能とするが、植物中では増殖できない。
なお、pDPG434のトウモロコシ細胞への導入には、パーティクルガン法が用いられている。
pDPG434には、mEPSPS遺伝子及びこれらの発現を調節する遺伝子領域が含まれており、これらが予想された順序で正しく配列されていることがプラスミド制限酵素分析等によって確認されている。
(4) 挿入遺伝子
1) 供与体
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入されたmEPSPS遺伝子は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。
2) 挿入遺伝子
a 構造に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシのゲノム中に組み込まれたpDPG434由来の挿入DNAは2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPS/NOS3')と1コピーの不完全なmEPSPS遺伝子発現ユニット(r-act/OTP/mEPSPSの一部)が連結したもので、挿入されたDNAのサイズは、最大でも9.1kbp 未満である。なお、既知の有害塩基配列は含まれていない。
b 性質に関する資料
mEPSPS遺伝子は、mEPSPS蛋白質を発現させ、グリホサート存在下でも阻害を受けずに機能するため、グリホサートの除草効果を妨げる。
c 純度に関する資料
挿入DNAに含まれる遺伝子は、塩基配列が全て決定されており、その特性も明らかになっている。また、宿主に導入された遺伝子は、それらの特性が明らかとなった遺伝子のみである。
d 安定性に関する資料
挿入DNA は、6世代目においても安定に維持されている。
e コピー数に関する資料
挿入DNA は、2コピーのmEPSPS遺伝子発現ユニットとNOS3'末端を欠くmEPSPS配列が1カ所に挿入されている。
f 発現部位、発現時期、発現量に関する資料
mEPSPS蛋白質の発現量は生組織重量1g あたり葉で118.7μg 、穀粒では3.2μg である。
g 抗生物質耐性マーカーの安全性に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシには、抗生物質耐性マーカー遺伝子は挿入されていない。
h 外来のオープンリーディングフレームの有無とその転写や発現の可能性に関する資料
挿入DNA にはmEPSPS蛋白質の発現に係るオープンリーディングフレームのみが含まれており、挿入DNAによって発現する蛋白質は、mEPSPS蛋白質のみである。
(5) 組換え体
a 組換えDNA 操作により新たに獲得された性質に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシに導入された性質は、グリホサートの影響を受けずに生育できる点のみである。
b 遺伝子産物のアレルギー誘発性に関する資料
指針の別表2付表2に従って申請資料の検討を行った。
(1) 食経験に関する資料
mEPSPS遺伝子の供与体であるトウモロコシはヒトの長期にわたる食経験があるが、そのアレルギーは非常に希で、原因となるアレルギー誘発物質も特定されていない。mEPSPS遺伝子は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS遺伝子をクローニングし、部位特異的突然変異により改変を加えたものである。この遺伝子によりコードされるmEPSPS蛋白質とEPSPS蛋白質とのアミノ酸配列の同一性は99.3%以上である。
(2) 遺伝子産物がアレルゲンとして知られているかについてに関する資料
mEPSPS蛋白質及びEPSPS蛋白質類が、アレルゲンとしてアレルギー誘発性を有するということは報告されていない。
(3) 遺伝子産物の物理化学処理に対する感受性に関する資料
ア 人工胃液・人工腸液に対する感受性
mEPSPS蛋白質は、人工胃液・人工腸液により急速に分解され、抗原性が消失した。
イ 加熱処理に対する感受性
mEPSPS蛋白質の酵素活性は、加熱により消失するとともに、抗原性も失われることが確認されている。
(4) 遺伝子産物の摂取量を有意に変えるかに関する資料
日本人のmEPSPS蛋白質の一日予想摂取量は、日本人のトウモロコシの平均摂取量2.3g(国民栄養の現状、1997)をラウンドアップ・レディー・トウモロコシに置き換えて計算すると、加工損失が無いと仮定して7.36μgである。
(5) 遺伝子産物と既知の食物アレルゲンとの構造相同性に関する資料
アレルゲンの構造相同性検索の結果、78の食物アレルゲンを含む 219の既知アレルゲンがデータベースより抽出された。しかし、mEPSPS蛋白質と隣接したアミノ酸配列が8つ以上同一であるアレルゲンはなく、mEPSPS蛋白質と既知アレルゲンとの間に相同性は認められなかった。
(6) 遺伝子産物の一日蛋白摂取量の有意な量を占めるかに関する資料
mEPSPS蛋白質の一日予想摂取量7.36μgは、日本人の一日平均蛋白質摂取量81.5g(国民栄養の現状、1997)の0.000009%である。
c 遺伝子産物の毒性影響に関する資料
データベース検索の結果、mEPSPS蛋白質と既知の毒素の間に相同性は認められなかった。また、マウスを用いたmEPSPS蛋白質の急性強制経口投与試験の結果、有害な影響は見られなかった。
d 遺伝子産物の代謝経路への影響に関する資料
mEPSPS蛋白質はグリホサートに耐性を持つ以外は、トウモロコシに元々含まれているEPSPS蛋白質と機能的に同等である。EPSPS蛋白質はホスホエノールピルビン酸(PEP)及びシキミ酸-3-リン酸(S3P)と特異的に反応する。PEPとS3P以外にEPSPS蛋白質と反応することが知られているのはS3P類似体であるシキミ酸のみである。EPSPS蛋白質とシキミ酸の反応性は、EPSPS蛋白質とS3Pの反応性のおよそ200万分の1にすぎない。したがって、シキミ酸が植物体内で EPSPS蛋白質と反応することはない。
e 宿主との差異に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは、主要構成成分(蛋白質、総脂質、灰分、酸性デタージェントファイバー、中性デタージェントファイバー、炭水化物、水分)、アミノ酸組成、及び脂肪酸組成に関し、既存のトウモロコシと有意な差は認められなかった。
なお、収穫されたトウモロコシの種子中のグリホサートの平均残留量は、0.006ppm であり、1992年に厚生省が設定したトウモロコシのグリホサートについての残留基準値0.1ppmを下回った。
f 外界における生存・増殖能力に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの圃場試験は米国及びヨーロッパで延べ76カ所以上で行われているが、生存、増殖能力に関し非組換え品種と同等であった。
g 組換え体の生存・増殖能力の制限に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの、生存、増殖能力は非組換え品種と同等であった。
h 組換え体の不活化法に関する資料
物理的防除(耕耘)や化学的防除(感受性を示す除草剤の散布)など、トウモロコシを枯死させる従来の方法によって不活化される。
i 諸外国における認可・食用等に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシについて、米国において、1998年2月に米国食品医薬品局(FDA)により食品としての安全性が確認された。
j 作出・育種・栽培方法に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシと既存のトウモロコシとの栽培方法の唯一の違いは、生育期の雑草防除にグリホサートが使用できるか否かの点であり、他の点では同等である。
k 種子の製法及び管理方法に関する資料
ラウンドアップ・レディー・トウモロコシの製法及び管理方法については、既存のトウモロコシと同様である。
(6)指針適合性に関する結論
申請に際して提出された資料に関する以上の知見から、ラウンドアップ・レディー・トウモロコシは指針に沿って安全性評価が行われていると判断した。
別紙4
ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社から申請されたα−アミラーゼに係る「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」に適合していることの確認を行うことの可否について
ノボノルディスクバイオインダストリー株式会社から申請されたα−アミラーゼ(商品名「BSG−アミラーゼ」、以下「BSG−アミラーゼ」という。)について、「組換えDNA技術応用食品・食品添加物の安全性評価指針」(以下「指針」という。)に適合した安全性評価がなされているか否かについて検討し、以下のような結果を得た。
1 申請された食品添加物の概要
BSG−アミラーゼは、食品添加物の酵素の一つとして、でんぷん糖、発酵アルコール、パン等の製造過程に使用される。
Bacillus licheniformis を宿主とし、 pUB110 をベクターとして用いて、Bacillus stearothermophilus のα−アミラーゼ合成遺伝子を挿入した組換え体を培養し、効率的にα−アミラーゼを生産するものである。
2 指針の適用の可否について
BSG−アミラーゼについては、α−アミラーゼとしての特性(分子量、至適温度、至適pH、反応特異性)を有することを示す資料の検討を行い、既存の食品添加物であるα−アミラーゼと同等とみなし得るものと考えられる。また、BSG−アミラーゼについては、組換え体自体は食品に含有されない。以上の点から、BSG−アミラーゼについては、指針の適用範囲内であると判断できる。
3 指針への適合性
BSG−アミラーゼの指針への適合性については、指針の第2章第1〜第3及び第3章第1に従って申請資料の検討を行った。
(1)組換え体等の製造方法
(1)組換え体の利用目的及び利用方法
Bacillus stearothermophilus のα−アミラーゼ合成遺伝子をpUB110をベクターとして用いて、Bacillus licheniformis に導入することにより、α−アミラーゼを効率的に生産する。生産されたα−アミラーゼは、食品添加物の酵素の一つとして、でんぷん糖、発酵アルコール、パン等の製造過程に使用される。
(2)宿主
Bacillus licheniformis CA63株より紫外線照射、N - メチル - N' - ニトロソグアニジンで誘導し、胞子形成能を欠失した突然変異株DN2717株を使用している。DN2717株は、嫌気的生育、硝酸還元、でんぷんの分解等の検査項目について、Bacillus licheniformis 基準株 ATCC14580株と比較検討した結果、Bacillus licheniformis と同定されている。Bacillus licheniformis は、土壌中や食品中に存在しているものであり、「国立予防衛生研究所病原体等安全管理規定」、米国国立衛生研究所(NIH)の「DNA分子組換えに関する研究のガイドライン」(以下「NIHガイドライン」という。)等でも非病原性の、最も危険性の少ない微生物として分類されている。また、マウスの腹腔内に単回投与した結果、LD50は、0.8×1011cells/kg体重超であった。
(3)ベクター
Staphylococcus aureus の薬剤耐性菌から得られたプラスミドpUB110は、制限酵素による切断地図、塩基配列が明らかにされており、既知の有害塩基配列を含まないことが示されている。また、NIHガイドライン等で pUB110は、Bacillus subtilisを宿主とする場合、伝達性に乏しく、安定に定着することが認められているが、Bacillus licheniformis を宿主とする場合については、特に記載はない。なお、pUB110は、カナマイシン及びブレオマイシン系抗生物質耐性の形質を与える遺伝子を含む。
(4)導入遺伝子関連
a.供与体
組換え体に導入されるα−アミラーゼ合成遺伝子は、Bacillus stearothermophilus DN1792株に由来する。Bacillus stearothermophilus は、「組換えDNA実験指針」においてP1レベル(設備等に関し最も簡素なレベル)の封じ込め対象に分類されており、また国立予防衛生研究所の「病原体等安全管理規定」においてバイオセーフティーレベル1(ヒトに疾病を起し、或は動物に獣医学的に重要な疾患を起す可能性のないもの)として分類されている。
b.導入遺伝子
Bacillus stearothermophilus DN1792株に由来するα−アミラーゼ合成遺伝子(1.9kb)、Bacillus stearothermophilus に由来するプロモーター遺伝子(176bp)、Bacillus amyloliquefaciens に由来するプロモーター遺伝子 (326bp) を含むプラスミド (5.9kb) が pPL1117として導入される。この導入遺伝子の塩基配列は明らかにされており、既知の有害塩基配列は含まれていない。
(5)組換え体
組換え体は、α−アミラーゼ産生性及びカナマイシン耐性を新たに獲得する。組換え体をマウスの腹腔内に単回投与した結果、LD50は、1.4×1011cells/kg体重超であった。
また、組換え体の外界における増殖性については、(1)栄養培地上の増殖試験では、22℃での増殖は良好だが、16℃では生育が遅く、10℃では増殖しない、(2)塩化ナトリウムを加えた飲料水中では、20℃では増殖せず、14日間生存し、10℃では増殖せず、6日間以上の生存もない、(3)滅菌した土壌中では、20日間で生菌数が108個/gから106個/gに減少したことが示されている。
生産過程で酵素より分離される組換え体は、煮沸し、pH11に1時間保つことにより不活性化される。
(2)組換え体以外の製造原料及び製造器材
(1)マスターセルバンクの作成及びその管理方法
マスターセルバンクは、組換え体より選択した生産菌株を培養し、複数のバイアルに封入したものであり、微生物汚染のないこと、生菌数が適切であること等の品質確認をした後、−80℃で凍結保存される。生産にあたっては、マスターセルバンクからワーキングセルバンクを作成し、微生物汚染のないこと、生菌数が適切であること等の品質確認の検査後、培養を行っている。
(2)製造工程
組換え体を前培養したものを発酵槽で培養してBSG−アミラーゼを産生させた後、除菌し、安定化させ製品化する。なお、発酵原料は、120〜125℃で45〜90分間の滅菌処理が行われたものである。
(3)生産物の精製
生産菌の培養物はケイソウ土を用いたろ過、限外ろ過、除菌ろ過の精製工程を経て、組換え体等不純物が除去され製品化される。本製品は、不純物含量、抗菌活性等を規定したFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)の食品加工用酵素の規格及び米国FCCの規格に適合している。
(1)組換え体の混入を否定する資料
組換え菌体が混入していないことは、組換え菌体のカナマイシン耐性及びアミラーゼ産生性を利用して、カナマイシンを含む培地で菌体の生育の可否及び澱粉を含む培地でのアミラーゼの産生性により確認している。
また、生産物中に組換え体由来のDNAが混入していないことは、ドットブロットハイブリダイゼーション法により確認したところ、検出されなかった(検出限界は10μg/ml)。
(2)製造に由来する不純物の安全性に関する資料
BSG−アミラーゼについては、ラットを用いた13週間の反復投与試験、変異原性試験等が行われている。具体的には、ラットを用いた強制経口投与(0.24、1.20及び 6.00g/kg/day)による13週間の反復投与では、6.00g/kg 投与群において、胃壁の肥厚、胃腺の鉱質化等が認められている。無毒性量は、1.20g/kg/dayと考えられている。また、復帰突然変異試験並びにヒト培養リンパ球及びマウスリンパ腫細胞での染色体異常試験は、陰性と認められている。
(3)含有量の変動により有害性が示唆される常成分の変動に関する資料
BSG−アミラーゼは、精製タンパク質であり、有害成分は認められなかった。
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