平成10年9月
原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会最終報告
目 次
1.はじめに
2.検討の経緯
3.施設に関する基本的考え方と既存施設との関係について
4.施設の名称について
5.祈念館に掲げる銘文について
6.平和祈念・死没者追悼のあり方について
7.被爆関連資料・情報の収集及び利用について
8.国際協力及び交流について
9.「被爆関連資料・情報の収集及び利用」と「国際協力及び交流」の具体的な事業について
10.管理運営方法について
11.おわりに
(参考)
原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会委員名簿
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- 国として、原子爆弾(以下「原爆」という。)による死没者に対する追悼の意を表し、永遠の平和を祈念するとともに、原爆の惨禍に関する世界中の人々の理解を深め、被爆体験を後代に継承することを目的とする「原爆死没者追悼平和祈念館」(以下「祈念館」という。)を、被爆地である広島及び長崎に設置することを前提として、その準備のための検討が今日まで進められてきた。
- 本報告は、こうした検討経過を踏まえ、今日までに得られた結論に基づき、祈念館のあり方を以下のとおり提言するものである。
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- 昭和60年に厚生省が実施した「原子爆弾被爆者実態調査」の一環として、「死没者調査」の結果が平成2年5月に公表されたことを契機に、国の原爆死没者に対する弔意の表し方についての検討が政府内で開始された。
- 平成3年度から、原爆被爆に関する調査研究啓発事業、地域等における慰霊事業に対する補助事業及び原爆死没者慰霊のための施設の設置についての検討等が実施されたが、それらの中で本検討会に深く関係するものは以下のとおりである。
- (1)原爆死没者慰霊等施設基本構想懇談会における検討
- 平成3年5月、原爆死没者を慰霊し、永遠の平和を祈念するための施設の基本理念、内容等について幅広く検討を行うため、厚生省に設置されたのが当懇談会である。
- 10回の審議、広島、長崎及び沖縄の現地視察並びに専門委員会における5回の検討を経て、平成5年6月に報告書が取りまとめられた。
- その中では、施設設置の基本理念として、すべての原爆死没者に対する恒久的な慰霊・追悼の場を設け、併せて原爆被害の悲惨な状況を世に伝え、世界の恒久平和を訴えるために、「慰霊の場」、「資料・情報の継承の拠点」及び「国際的な貢献を行う拠点」と呼ぶべき三つの機能を持たせることが適切とされた。
- (2)原爆死没者慰霊等施設基本計画検討会における検討
- 前記報告書を受け、さらに施設建設の基本計画について幅広い観点から検討を行う場として、平成5年7月に当検討会が設置された。
- 8回の審議を経た後、平成7年2月に基本計画報告書が取りまとめられ、その中で、施設の性格、具体的構成、管理運営方法、既存施設との機能・役割分担並びに広島及び長崎両施設それぞれの特性についての提言がなされた。また、施設名を「原爆死没者追悼平和祈念館」とすることが最も相応しいとする考え方が示された。
- (3)原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の成立
- その間、平成6年12月には、「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(以下「被爆者援護法」という。)が成立し、恒久の平和を念願し、原爆による死没者の尊い犠牲を銘記する旨の前文とともに、第41条では「平和を祈念するための事業」が規定された。衆議院厚生委員会は、この法律案の採決に際し、政府に対して、「原爆死没者慰霊等施設のできるだけ早い設置を図るとともに、被爆者及び死没者の遺族の共感が得られる施設となるよう努める」べき旨の附帯決議を行っている。
- (4)本検討会における検討経過
- こうした経緯を経て、祈念館のより具体的な開設準備を行うため、平成7年11月に本検討会、すなわち、「原爆死没者追悼平和祈念館開設準備検討会」(以下「検討会」という。)が設置された。
- 検討会では、これまでの経緯及び被爆者援護法の精神を踏まえ、設置の理念、理念の銘文化、広島及び長崎の両施設それぞれが持つべき機能、施設の設計、平和祈念・死没者追悼のあり方、被爆関連資料・情報の収集及び利用方法、国際協力及び交流の内容、施設の管理運営方法、既存の関連諸施設の機能との調整・分担・連携等について幅広く検討を行い、今日に至っている。
- その間、平成8年2月には、「原爆死没者追悼平和祈念館(広島)の基本設計に際して留意すべき事項」を取りまとめ、同年12月には、広島に設置すべき祈念館の施設設計に関する基本的な考え方を了承した。さらに、平成9年6月には、「原爆死没者追悼平和祈念館(長崎)の基本設計に際して留意すべき事項」を取りまとめた。
- また、検討会では、祈念館を後代にわたって国民の共感と支持が得られる施設とするためには、広く国民の意見を聴くことが重要であるとの観点から、平成9年6月に、広島に設置する祈念館の検討状況及び方向性について中間報告を取りまとめ、公表するとともに、平成9年10月には広島で、平成10年1月には長崎で、それぞれ検討会を開催し、その折りに直接、地元や被爆者団体からの意見を求めた。
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- (1)施設設置の基本的考え方
- 祈念館は、国として、原爆死没者の尊い犠牲を銘記して追悼の意を表すとともに、永遠の平和を祈念し、併せて、原爆の惨禍に関する全世界の人々の理解を深め、その体験を後代に継承するための施設として、初めて設置されるものである。
- 祈念館は、原爆の投下により多数の尊い生命が奪われた広島及び長崎の地に設置するものとし、これまでの懇談会及び検討会からの提言を踏まえ、「平和祈念・死没者追悼」、「被爆関連資料・情報の収集及び利用」並びに「国際協力及び交流」の三つの機能を持つ施設とする。
- 広島及び長崎の祈念館は、それぞれの地域性を考慮し、機能において特徴ある施設とすることが適当である。すなわち、上記三つの機能のうち、「平和祈念・死没者追悼」については、両祈念館共通の主たる機能と位置づけ、広島では「被爆関連資料・情報の収集及び利用」を、また、長崎では「国際協力及び交流」を、それぞれの特徴としながら相互に協力し、連携していくことが必要である。
- (2)既存の関連諸施設との関係
- 祈念館の建設について検討する過程で、既存の関連諸施設との関係、とりわけ、新しい施設を造る意義は何か、機能が重複するのではないか等について、再三議論を行ってきた。
- まず、原爆死没者を追悼し、永遠の平和を祈るという最も基本的な目的及びそれに直接関係する「平和祈念・死没者追悼」機能は、祈念館と既存施設との間に共通する普遍的なものであるが、祈念館は、国が、国として、このような意思を表し、施設を造るという点が既存の施設にはない最も大きな特色であり、当然、そこには国が核兵器の廃絶への努力を誓うという意義も含まれている。
- 「被爆関連資料・情報の収集及び利用」と「国際協力及び交流」の両機能は、原爆の惨禍を広く世に示し、被爆体験を後に伝えるために必要な具体的事業を展開するためのものと位置づけられる。祈念館においては、これらの分野で既に個々に行われてきた諸事業の内容と、その果たしてきた役割をよく認識した上で、これまで十分に行われていなかった事業、これまでに達成された個々の事業のさらなる総合化、国でなければできない事業、そして、これからの時代に求められる事業を、新たに実施していく必要がある。
- 広島に設置される祈念館の特徴として位置づけられる、「被爆関連資料・情報の収集及び利用」については、既存の資料館が原爆死没者の遺品等、主として被爆した「もの」を通して原爆被爆の実相を伝え、平和を訴えているのに対し、祈念館では、原爆死没者や遺族等の手記、体験記等を収集し、利用に供することにより、主として被爆した人々の「こころとことば」によって原爆被爆の実相を伝え、平和を訴えようとするものである。
- また、長崎に設置される祈念館の特徴として位置づけられる、「国際協力及び交流」については、既存の施設で収集されてきた被爆に関する様々な情報や知見、さらには原爆死没者や遺族等の体験と思いを広く海外にも拡げ、被爆の実相を世界に伝え、諸外国との連携を図ることにより、世界平和の実現に資する機能の一層の充実を図ろうとするものである。このような作業は将来、祈念館が既存各施設共通の窓口となり、例えば、放射線関連医療に関して言えば、国際組織の頭脳的中心となる可能性も秘めている。
- 祈念館が、これらの機能を発揮することにより、既に行われている他事業との連携・補完が可能となり、全体として、平和祈念と原爆死没者の追悼という普遍的な目的の実現に資することは明白である。
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- 祈念館を設置する広島の「平和記念公園」及び長崎の「平和公園」は、それぞれ「広島平和記念都市建設法」及び「長崎国際文化都市建設法」(何れも憲法第95条に基づく地方特別法により、住民の投票を経て成立)に基づいて整備されたものであり、公園内には多数の祈念碑や慰霊碑のほか、「広島平和記念資料館」、「長崎原爆資料館」等が設置されている。また、広島の当該地区には、世界遺産である原爆ドームが存在している。
- 祈念館はこのような地を選び、設置される予定であることから、各祈念館の名称については、両公園内における既存施設との差異が明らかになるよう留意する必要がある。
- また、祈念館が国によって設置される施設であることを明示することが好ましく、それぞれ「国立広島原爆死没者追悼平和祈念館」、「国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館」とすることが適当である。
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- 祈念館は、「日本国憲法」の世界平和を訴える前文並びに「被爆者援護法」の前文及び同第41条の精神を基本理念として設置するものである。
- このような設置理念を銘文化し、それを祈念館に掲げることについては、広島及び長崎の地元被爆者団体等からの強い要望・意見にも応えるべく、種々検討を行ってきた。
- その一環として、広島及び長崎で開催した検討会においても、地元や被爆者団体等から直接意見を求め、それらに基づいてさらに慎重な検討を行った結果、設置理念の精神を簡潔に表した文章を「国立」を冠した施設名とともに、銘板として祈念館に掲げることが適当であるとの結論に達した。
- 両祈念館に掲げる銘文の文言については、その根底にある基本理念が共通なものであれば、文章表現は必ずしも同一でなくてもよいとすることで意見の一致をみた。
- 以上の経緯を踏まえた、それぞれの銘文案は以下のとおりである。
- 広島に設置する祈念館の銘文
原子爆弾死没者を心から追悼するとともに、その惨禍を語り継ぎ、広く内外へ伝え、歴史に学んで、核兵器のない平和な世界を築くことを誓います。
国立広島原爆死没者追悼平和祈念館
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- 長崎に設置する祈念館の銘文
昭和20年(1945年)8月9日午前11時2分、長崎市に投下された原子爆弾は、一瞬にして都市を壊滅させ、幾多の尊い生命を奪った。たとえ一命をとりとめた被爆者にも、生涯いやすことのできない心と体の傷跡や放射線に起因する健康障害を残した。
これらの犠牲と苦痛を重く受け止め、心から追悼の誠を捧げる。
原子爆弾による被害の実相を広く国の内外に伝え、永く後代まで語り継ぐとともに、歴史に学んで、核兵器のない恒久平和の世界を築くことを誓う。
国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
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- 「平和祈念・死没者追悼」は、最も重要な機能であり、従って、両祈念館とも、例えば、入館者が、一日中ゆっくりと厳かな雰囲気の中で静かに死没者に思いを致し、祈り、そして平和について深く思索することができるような空間とすべきとの結論が得られた。
- 平和祈念・死没者追悼のあり方については、先の中間報告において幾つかの選択肢を示したところである。中間報告発表の前後、特に、原爆死没者の氏名を壁に刻むことを望む意見が多く出されたことから、その可能性の有無についても慎重に検討を重ねた。
- その結果、中間報告でも示したような、原爆死没者そのものの定義、氏名の把握、氏名不詳者・氏名秘匿者・秘匿希望者の取扱い等、種々の問題があり、いわゆる刻名として氏名そのものを来館者の目に触れるような形で表現することは、極めて困難であるとの意見が強く、次のような二つの方法を併用することにより、惨禍の大きさを量的に表現するとともに、遺族の申し出に基づき、死没者名を記しておくことが適当であるとの結論に至った。
- (1)原爆被害の甚大さを表すことが、刻名を望む大きな理由の一つとなっていることから、手形や人型等の象徴を用いて、原爆死没者の数を示すこととする。
- 使用する原爆死没者の数については、これまで各種の調査により様々な推計が行われているが、流動的な人口、被災による資料の消失、被爆当時の混乱・地域社会の壊滅等のため、正確な数は不明である。何れの調査を使用すべきか検討した結果、昭和51年に広島市及び長崎市が国際連合に提出した、「国連への要請書」の中に示されている推計値を用いることとし、昭和20年12月末までの数字であることを明示した上で、広島にあっては、14万人(±1万人)、長崎にあっては、7万人(±1万人)とするのが適当であるとの結論に至った。
- なお、原爆死没者の中には、多数の外国人も含まれていることや、昭和21年以降も多くの人々が被爆の後障害に苦しみ、そのために亡くなっていることも重要であることから、それらの説明を加え、被害の甚大さを表すと同時に、原爆被害の特殊性についても、併せて明らかにしておくことが必要である。
- また、原爆死没者の中には、氏名不詳者も少なからぬ数を占めていることにも思いを致し、このような死没者にこそ、国として、弔意を捧げるものであることを忘れてはならない。
- (2)遺族等の心情に配慮し、遺族の申し出があれば、原爆死没者の氏名及び写真(遺影)を登録する。その上で、これらを簡単な操作により検索できるようなシステムを祈念館内に設置し、閲覧に供する。
- この平和祈念・死没者追悼のための空間の整備に当たっては、被爆後半世紀を超える歳月を経て、あらためて、ここにこのような施設を建設することの意義をかみしめ、将来にわたり、歴史上の理解と評価が得られるよう、その永続性と普遍性を十分考慮しなければならない。
国立の施設である以上、特定の宗教色を排し、厳かな雰囲気の中で、入館者がその思想、信条を超えて、原爆死没者に思いを致しながら、平和について深く思索することができるよう工夫することが必要である。
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- 広島の祈念館に特徴的な役割と位置づけられる、「被爆関連資料・情報の収集及び利用」については、原爆の惨禍を世界の人々に知らせ、また、被爆者・被災者・遺族の体験を後代に継承するため、原爆被爆に関する様々な情報を収集、整理、分析・研究し、求めに応じて、それらを提供することができる機能整備が必要である。
- 既存の資料館や図書館、研究機関等においても、既にある程度、原爆被爆に関する様々な分野の資料・情報が整理・蓄積され、各施設の設置目的に応じ、一般若しくは関係者に対し提供されている。
- 従って、祈念館の機能整備に当たっては、可能な限りこれらを包括することも重要であるが、これまでに例のない、被爆者等の体験に焦点を当てた資料群を造り上げて、独自の情報発信機能を整備することが必要である。
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- 原爆被爆という、人類未曾有の悲惨な体験を有する我が国は、再びこのような惨禍が繰り返されることがないようにとの深い願いのもとに、世界唯一の原爆被爆国として、核兵器の廃絶を全世界に向けて訴え続けてきた。
- こうした中で、長崎の祈念館の特徴的な役割と位置づけられる、「国際協力及び交流」は、核兵器の廃絶を願う被爆国民の「思い」と原爆被害の実態を、世界各国の人々により強く伝えるための手段ととらえることが出来る。
- また、こうした経験、知識は、将来起こりうる原爆以外の不慮の放射能障害に対しても、何らかの意義を有するものと考えられる。
- この国際協力及び交流の機能の整備に当たっても、既に広島及び長崎、その他で行われている数多くの事業があることを忘れず、独自のものを打ち立てる必要がある。特に、過去の資料を中心とした活動に止まらず、将来を見渡しての有用性が求められる。
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- 両祈念館それぞれに特徴的な機能と位置づけられる、「被爆関連資料・情報の収集及び利用」と「国際協力及び交流」は、観念的には互いに全く別の機能であるかのように映るが、具体的・個別的に事業内容を検討してみると、分離することが困難な面が多い。
- 一例を挙げれば、原爆死没者や遺族等の体験や思いを国の内外に対し、世代を超えて伝えていくにしても、手記、体験記等を収集・整理することとともに、それらを国内外に発信する必要があり、両者を画然と区別して、前者を広島で、後者を長崎でとすることも不自然である。
- こうした場合、個々の事例によっては、「被爆関連資料・情報の収集及び利用」の機能だけでなく、当然、「国際協力及び交流」の側面も念頭において、具体的な事業内容を考える必要がある。
- 従って、各祈念館の運営に当たっては、両機能を截然と切り離して考えるのではなく、むしろ、「平和祈念・死没者追悼」の普遍的な目的の下に一体的に捉えることが重要であり、その上で、両祈念館が適切な役割分担をするとともに、相互に協力し、補完し合う必要がある。
- また、両祈念館では、入館者は基本的に共通のサービスを受けることができるように、また、一方が他方の窓口にもなりうるように工夫するべきである。例えば、主として広島の祈念館で収集・整理されることになる被爆体験記は、長崎の祈念館を介しても閲覧することができるようにするといった措置も必要と思われる。
- このような観点から、現在の時点で考えうる祈念館の事業を整理してみると、主として次のような整備が適当と考えられる。
- (1)被爆者・家族・友人一人ひとりの被爆体験の収集・整理・継承
- これまでに、数多くの被爆者や家族等が、原爆被爆の悲惨な体験や死没者への思い、平和を希求する願いを、体験記、手記、日記、書簡、追悼記等様々な形で綴り、本・冊子の形にまとめられ、公表されたものも少なくない。しかし、これらの資料を総合的に収集・把握・分析し、被爆者一人ひとりの体験や思いを、個々人のレベルで検索し、手にすることができる機能は未だに整備されていない。
- このため、公開可能な被爆体験記等をできる限り収集・保管し、これらに込められた様々な情報やメッセージを分析し、データベースとして整理することにより、被爆者の氏名や属性、各地の被爆時の状況等、個別の多種多様な目的や求めに適った体験記の検索・提供を行う。
- また、原爆がもたらす“大量の人的・物的損害”、“地域社会と家族の崩壊”、“瞬間的・全面的な破壊と長期的・持続的な被害”、“心理的・精神的打撃”等々の複合的な被害の実相を、被爆者及び近縁者たち自らの言葉(体験と思い)を組み合わせながら明らかにする。
- 一方、平和のための学習、平和関連の研修会及び講演会等にも、既存事業との協調の下に、その十分な活用を図るべきである。その際、原爆被爆に関する基礎的な事項についての解説は、被爆者一人ひとりの体験とともに、大いに効果的であると考えられる。
- (2)被爆関連資料情報ネットワークの構築による総合案内
- 上記(1)に加え、何処にどのような資料が存在し、どのような形での利用が可能なのかを把握し、このような情報を提供することも重要である。
- そのために、各機関が有する資料や情報そのものを祈念館に収集することを目指すのではなく、各機関との連携のもとに、それぞれが保有する資料(データベース、ホームページ、利用案内等を含む)に関する情報の把握に努める。その上で、インターネット等を通じて祈念館に照会があれば、必要な資料情報の存在個所やその入手方法を提供するといった被爆関連資料情報のネットワークを整備する必要がある。
- その一環として、原爆放射線による障害につき、これまで各機関に分散、蓄積されている医療データを総合的・一元的に提供しうるよう整備することは、海外の研究者や学生等に対しても極めて有用であり、この点を念頭に置いた事業の取り組みに努めるべきである。
- また、単なる情報交換の域を超えて、祈念館が国内外の研究機関や大学間での被爆医療分野における交流の橋渡しを行うことも重要である。この役割を果たすためには、国内外における人材の派遣、受け入れ等の照会にも対応できるよう、関係団体との連携を図りつつ、そのような情報のネットワーク作りを行う必要がある。国際シンポジウムの開催等も、海外への情報発信とともに、海外からの情報の収集に役立つであろう。
- (3)以上の(1)及び(2)の機能が十分に発揮されるためには、図書室、会議室、各種研修室等が必要であるが、その時々の利用目的及び人数等によって、柔軟に対応できるように工夫する必要がある。また、国が原爆被爆関係資料の収集・整理及び保管・提供システムの検討を目的として、平成3年度から実施している原爆死没者慰霊等調査研究啓発事業や、原爆死没者慰霊等事業(地域の被爆者団体が行う慰霊式典、死没者を悼む出版物の刊行事業等に対する助成)の成果を十分に活用していく必要がある。
- 祈念館の国際的な情報発信機能を向上させるために、適宜外国語での情報提供を行うことは当然である。また、国内外の原爆被爆関係研究者の便宜を計るため、施設内で研究・分析できるようにする必要があるが、特に「国際協力及び交流」を特徴的な役割とする長崎の祈念館においては、外国からの訪問や照会への対応、具体的な事業の実施に支障をきたさぬよう配慮した取り組みを行うべきである。
- なお、祈念館が保有する資料・情報の中で、個人情報保護の観点から利用に制限を加える必要があるものについては、「情報保護規定」を設け、適切な保管・活用を図るとともに、他の機関が保有する資料情報の取扱いについても、各保有機関の許可・了承のもとに情報を提供することが必要である。
- 代表的な資料については、その点字化や音声の利用を考慮する必要がある。
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- 祈念館は、国が設置するものであるが、完成後は国が直接運営するよりも、既存の地元関連施設と密接な連携を図りうる、国以外の機関が運営に当たることが適切である。
- 祈念館の設置趣旨からしても、祈念館で展開される活動は、持続的に円滑かつ柔軟に行われなければならない。そのためには、原爆被爆に関する知識に精通した人材を確保・養成することが必要であり、日常的に被爆者や遺族と接しながら、その心情を十分に理解しつつ、関連施設との密接な連携のもとに、平和関連事業を実施している地元の公益法人に、その運営を委託することが適当であると考える。
- なお、両祈念館の運営及び活動については、密接な連携のもと、計画的かつ有効に、事業の推進を図ることが求められる。このため、開設後は、両者間の整合を図るという観点から、実際の事業内容等の検討に際して、運営企画委員会ともいうべき機関を設置することが望ましい。また、国は、祈念館の維持管理及び事業運営に要する経費の財政負担等、設置主体としてその果たすべき役割を将来にわたって担うものとする。
- 具体的な管理運営の方法については、国の財政状況や管理運営の受託者側の事情等も考慮する必要があることから、詳細は今後の検討に委ねることとするが、現時点での検討会としての考え方を次に述べる。
- 〇 運営概要について
- (1) 開館形態
- ア.入場料、利用料金
- 国が、原爆死没者を追悼し、恒久の平和を祈念するために設置する施設であるので、通常の利用に当たって入場料を徴収することは、不適切である。
- 資料・情報機能における検索、複写等のサービス提供については、国立国会図書館等の他施設の事例を参考にしながら、実費負担を求めるのが適切である。
- イ.開館日、開館時間
- 「原爆死没者慰霊等施設基本計画報告書」では、年間300日程度とする、との提言がなされているが、広島の平和記念資料館及び長崎の原爆資料館にそれぞれ近接しており、相互の機能連携も必要であることから、それぞれの形態や実情に合わせて今後検討されたい。
- (2) 組織構成
- 管理運営のための組織構成(組織体制、人員、職種構成、勤務体制)は、開館日数や開館時間という条件と、祈念館における情報提供サービス等、個々の事業活動の内容に基づいて今後検討する必要がある。しかし、人員配置の規模等によって、自ずから、祈念館で実施可能な事業の範囲・内容が限定されてしまうという面もあるので、検討会として気付いた、特に留意すべき点を次に述べておく。
- ア.原爆の惨禍に関する国民の理解を深め、その体験を継承するための情報提供を行うためには、専門的な知識を有する人材の確保・養成が必要であること。
- イ.祈念館が、持続的に機能し続けるためには、資料の単なる整理、展示や電子機器等による固定的な情報提供に留まらず、新たな情報を創り出し、発信する能力を備えなければならない。このためには、絶えざる資料収集、収集資料の分析や再整理等の作業を継続的に行い、その成果を、展示や出版、ホームページへの掲載等の方法により発信するために十分な人的体制が必要であること。
- ウ.祈念館の施設の維持管理に関する、警備、清掃、機器の保守点検等の業務については、外部業者への委託とし、一般的な受付・案内等、必ずしも専門的な知識や技能を要しない業務については、非常勤職員を配置するなど、効率的な体制づくりを行う必要があること。
- エ.各職員の勤務時間や年次有給休暇の取得を十分に考慮し、適正な人員配置が必要であること。
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- 祈念館の設置については、これまでに多くの論議がなされてきたが、原爆死没者の尊い犠牲を銘記し、世界の恒久平和を祈念することは、国民共通の思いであり、本祈念館こそ、その国民共通の思いを国として具現するための施設である。
- 祈念館が、意義ある施設として、将来永きにわたり、被爆者や遺族を始めとする幅広い人々の共感と支持を得るためには、被爆の惨禍を繰り返さないようにするためのメッセージを、国内外に向かい、世代を超えて発信し続けることが必要であり、その建設は、ことの終わりではなく、始まりであると考える。また、このような経験と知識は、将来、社会学、医学等の発展にも広く、何らかの貢献をなしうる可能性がある。
- もとより、祈念館の設置は、被爆者に対する施策展開の経緯や国民世論を踏まえて、政府が立案したものであるが、本報告書は、地元の被爆者を始めとする国民の意見を十分踏まえながら、種々鋭意なる検討を行い、取りまとめた結論である。検討会として、本報告書に基づく祈念館の早期建設と、円滑かつ持続的な事業展開を強く希望する次第である。
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| (50音順) |
| 秋 信 利 彦 | ((株)中国放送取締役テレビ局長) |
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| 伊 東 壮 | (日本原水爆被害者団体協議会代表委員) |
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| 小 泉 勝 | (長崎原爆資料館長) |
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| 重 松 逸 造 | ((財)放射線影響研究所名誉顧問) |
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| 原 敏 隆 | (長崎市原爆被爆対策部長) |
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| 船 山 忠 弘 | (長崎放送(株)役員室業務役) |
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| 松 浦 洋 二 | (広島市社会局長) |
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| 三 宅 吉 彦 | (広島市市民局理事) |
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(座長)
| 森 亘 | (日本医学会会長) |
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- 検討経過
第1回 平成7年11月21日 |
| 第12回 平成9年10月2日 |
第2回 平成7年12月14日 |
| 第13回 平成9年10月30日 |
第3回 平成8年1月29日 |
| 第14回 平成9年11月21日 |
第4回 平成8年2月15日 |
| 第15回 平成10年1月14日 |
第5回 平成8年3月15日 |
| 第16回 平成10年2月18日 |
第6回 平成8年4月24日 |
| 第17回 平成10年4月6日 |
第7回 平成8年12月11日 |
| 第18回 平成10年5月28日 |
第8回 平成9年2月13日 |
| 第19回 平成10年6月25日 |
第9回 平成9年4月16日 |
| 第20回 平成10年7月21日 |
第10回 平成9年5月28日 |
| 第21回 平成10年9月10日 |
第11回 平成9年6月23日 |
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照会先
厚生省保健医療局企画課
電話番号[現在ご利用いただけません]