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有料老人ホーム等のあり方に関する検討会

報 告 書

平成10年6月19日


〈 目 次 〉

1 はじめに

2 有料老人ホームに係る課題及び施策の基本的方向
(1)有料老人ホームに係る現行制度の課題
(2)介護保険制度の導入と残された課題
(3)適切な選択を確保するための条件整備の必要性
(4)有料老人ホームに対する行政関与の基本的あり方

ア)表示、契約、情報開示
イ)入居一時金の保全等
(1) 入居一時金の現状とその評価
(2) 倒産の場合に対応した返還金の保全等の仕組み

3 有料老人ホーム類似施設の実態と行政関与の対象とすべき施設の範囲
(1)類似施設の考えられるタイプ及び類似施設の実態調査結果の考察
(2)有料老人ホーム類似施設に対する行政関与の必要性

(1) 分譲住宅にサービスを付加したもの
(2) 別事業者がサービスを提供するもの
(3) 高齢者以外も入居対象とするもの
(4) 定員9人以下のもの
(3)有料老人ホームの定義・範囲の見直し

4 高齢者住宅施策との連携と役割分担のあり方

5 有料老人ホーム協会等のあり方
(1)有料老人ホーム協会のあり方
(2)紛争・苦情の処理について

6 おわりに



1 はじめに

○我が国の高齢化が急速に進む中で、高齢者の老後の生活の場の一つとしての有料老人ホームの重要性は今後益々高まっていくと考えられる。このため、昨年12月19日には、利用者の適切な選択を確保する上で必要な情報の開示をより一層進めること等を目的として、有料老人ホーム設置運営指導指針等が改正され、有料老人ホーム運営の一層の適正化を図ることとされた。

○また、平成12年4月より施行される介護保険法においては、有料老人ホームが提供する介護サービスは在宅サービスの一つとして介護保険給付の対象に位置づけられることとなった。

○有料老人ホームにあっては、設置者と入居者との契約に基づき入居者の負担で居住の場と食事その他のサービスが提供されるものであるが、近年、表示と実態とに乖離がみられ不当表示のおそれのある事例があったほか、万が一ホームが倒産をした場合に入居者の保護をいかに図るかといった課題がある。さらに、有料老人ホームに類似する施設が増加してきている中で、これにどのように対応すべきかという課題が生じている。

○一方で、行政改革委員会最終意見(平成9年12月12日)に代表されるように、規制緩和を推進し自己責任に基づく自由な活動の実現や市場機能の最大限の発揮等を目指しつつ、情報開示の徹底や、消費者保護のために必要なシステムづくりを進めていくことが求められている。

○また、地方分権推進委員会第2次勧告(平成9年7月8日)では、有料老人ホームの設置者に対する報告徴収、立入検査等の監督上必要な措置は都道府県の自治事務とし、厚生大臣の権限行使は緊急の必要がある場合に限定することとしている。

○本検討会では、以上のような有料老人ホームを取り巻く諸条件の変化を踏まえ、高齢者が安心して生活できる多様な居住の場の確保を図ることを目指して、有料老人ホームに関する問題への対応にとどまらず、より幅広い視野から有料老人ホームに関する今後の施策の基本的方向性について検討を行った。


2 有料老人ホームに係る課題及び施策の基本的方向

(1)有料老人ホームに係る現行制度の課題

○有料老人ホームについては、平成2年の老人福祉法改正により行政指導の徹底を図るため事後届出から事前届出制に変更されるとともに、有料老人ホーム協会が法律上位置付けられた。このように、現在の有料老人ホームに対する行政の関与は、許認可により規制することなく、行政指導、民間事業者による質の向上のための自主的な取組みの促進、政策融資により育成を図っていくという枠組みの下で行われている。

○この事前届出制は、基本的には届出必要事項が整っていれば受理される性格のものである。

○従来、厚生省では有料老人ホーム設置運営指導指針により、施設の規模及び構造設備、職員配置、サービス、事業収支計画、利用料、契約内容、情報開示等について一定の基準を示し都道府県による行政指導を求めてきたが、多岐にわたる事項について細かな基準への適合を求めるものとなっているものの、その性格は強制力のない行政指導である。他方、こうした行政の裁量による行政指導についてはできる限りその範囲を縮小し、真に必要な事項については法律に基づく基準とすることが求められている。

○また、近年、有料老人ホームの定義には該当しないが、施設形態やサービス提供内容などが有料老人ホームに極めて類似したいわゆる類似施設が数多くみられるようになってきている。その背景には、高齢者の多様な要望に応えるという側面とともに、有料老人ホームに対する行政指導を厳格にするほど、行政の関与を嫌って有料老人ホームには当たらない類似の形態で事業を行うものが増えるという側面もあると推測され、有料老人ホームの定義・範囲そのものが現状に合わなくなってきていると考えられる。

(2)介護保険制度の導入と残された課題

○介護保険制度の施行によって、有料老人ホームのうち介護を行うものが介護給付の対象となるためには、特定施設入所者生活介護の人員・設備・運営基準を満たした上で都道府県知事の指定を受けることが必要となる。

○この指定によって、介護給付の対象施設としての適否の観点からは一定の水準を担保できることとなるが、介護保険法の目的からして、介護サービスの提供に係ること以外の事項については行政は関与し得ないという限界がある。

○特に、入居一時金については、その多くが居住費用であり、介護サービスの提供とは関係が少ないため、指定基準に取り入れることはできないと考えられる。

○一方、健康型有料老人ホームに代表される介護を行わない施設については、特定施設入所者生活介護の対象となり得ないため、介護保険法上の行政の関与は及ばない。

(3)適切な選択を確保するための条件整備の必要性

○高齢者がどこに住まい、どのようなサービスを受けるかについては、高齢者自らの選択と責任に委ねられている。高齢者の要望はそれぞれ多様であり、このような要望に応えることができる多様な居住の場を確保するためには、民間事業者の創意工夫を最大限活かすことが重要である。

○規制緩和の推進は、事業者、消費者双方の自己責任に基づく自由な活動と競争を実現することを目指しており、高齢者も例外なく自己の責任において判断し行動することが求められることになる。

○しかし、利用者である高齢者の特性を考えると、自己責任の原則だけでは、十分な対応ができない場合も少なくないと思われる。

○このため、まず、自己責任に基づく利用者の適正な選択を可能とするための基礎的な条件が整えられなければならない。

○表示や契約などに関しては、一般的な消費者保護の観点から、不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)による規制に加えて、現在経済企画庁の国民生活審議会で検討されている消費者契約法(仮称)でルールが整備されることが期待される。

○その上で、意思能力の低下という高齢者の特性を考慮すれば、現在法務省で検討されている成年後見制度の早期実現が望まれる。また、身体能力の低下に関しては、介護保険制度の導入により、施設・在宅を問わず本人の選択に基づき標準的な介護サービスが提供される仕組みが整うことで、一定の社会的条件整備がなされると考えられる。

○これらを前提として、有料老人ホームに関してさらに行政が関与すべき事項は何かが検討されなければならない。

(4)有料老人ホームに対する行政関与の基本的あり方

○有料老人ホーム及び類似施設のうち、何らかの行政関与が必要と考えられる形態のものについては、まず、行政として少なくともそれらの施設の現状を把握しておくことが必要である。

○その上で、利用者の適切な選択の確保や、高齢者の特性を考えた利用者の保護のために、有料老人ホームに関して最低限担保すべき事項については、強制力をもってその徹底を図るよう、法律に基づく規制とすることが適当である。規制とすることが特に必要と考えられる事項を例示すれば、利用者の適切な選択に必要なサービス内容や居室の広さなどについての表示、契約、情報開示に関する事項、また、倒産があっても入居者が生活を継続できるようにするための入居一時金の保全等に関する事項が挙げられる。

○これらの規制のほか、有料老人ホームにおける入居者の処遇が不当なものとならないよう、行政がホームに対し報告の徴収や立入検査を行い、必要がある場合には改善を命令できるようにしておくことが不可欠である。

○規制を行う場合にあっても、有料老人ホームの全てに対し一律の規制を課すのではなく、規制を行う趣旨・目的に照らして、規制の対象となる施設の範囲及び規制内容を考えるべきである。

○また、地方分権の推進の観点からは、行政の関与の主体は都道府県等の地方公共団体を基本として考えるべきであり、国は制度的枠組みを構築し法律で最低限の基準を定めるなどの役割を担うことが適当である。

ア)表示、契約、情報開示


○近年、公正取引委員会等から、いくつかの有料老人ホームに対し、表示と実態の乖離がみられ、不当表示のおそれがあるとの指摘がなされている。このため、広告やパンフレット等における表示の内容が、契約内容及び処遇やサービスの実態と異なることによって利用者に誤解を与えたり、不当に期待を抱かせたりすることがないよう、広告表示の適正化を図る必要がある。

○有料老人ホームが設置者と入居者との契約を基本とする以上、入居契約書又は管理規程において、ホームの責任で提供するサービスの内容、入居者が居住する場所やその権利の内容及びこれらに要する費用、契約解除の条件などが明記されるべきである。

○特に、契約内容のうち重要な事項について、入居希望者に対し契約前に十分な説明を行うことは、事業者の義務とすることが必要である。

○さらに、利用者の適切な選択に必要な情報が十分に提供されるよう、契約書、重要事項説明書等が公開され、さらに、求めに応じ経営・財務状況を知らせることが重要である。併せて、会計処理の方法を利用者に理解しやすいものとするよう事業者が自主的に取り組むことが望まれる。

○なお、以上の各事項については、平成9年12月19日の有料老人ホーム設置運営指導指針等の改正により、一層の徹底を図ることとされたところであるが、その実施状況を見極めつつ、こうした指導指針に基づく行政指導という行政関与のあり方についても見直していく必要がある。

イ)入居一時金の保全等

(1) 入居一時金の現状とその評価

○有料老人ホームにおける入居一時金の現状をみると、平成9年7月1日現在、有料老人ホームの総数286のうち、その8割にあたる228施設が入居一時金をとっており、その平均額は2,582万円である。個々のホームの入居一時金額は100万円以下のものから1億円を超えるものまで大きなばらつきがあり、1,000万円以下のものは50施設、500万円以下では30施設、うち100万円以下のものも9施設ある一方、5,000万円を超えるものも22施設ある。

○多くの有料老人ホームにおいて採用されている入居一時金方式については、終身利用型のいくつかの例について算定方法等を分析した結果、賃貸住宅や分譲住宅と比べても不当に高額なものとは言えず、一定の合理性が認められるものと考えられ、入居者にとっても、家賃相当額の一括前納による総支払額の低減、長生きをした場合の家賃支払い増加リスクの回避といった利点を持つと思われる。

○こうした利点等があるとはいえ、入居一時金の額は一般の高齢者にとって高額なものが少なくなく、終身年金保険の活用や、月払いの併用による入居一時金額の低減など、高齢者の意向や資産等の状況の多様性に対応した多様な費用の支払方法を検討し、入居者の選択の幅を広げていくことが、有料老人ホーム事業者に求められる。

(2) 倒産の場合に対応した返還金の保全等の仕組み

○入居一時金方式については、万が一ホームが倒産をした場合に、高額な入居一時金を支払った入居者は居住の場を失うばかりでなく、返還金さえも受け取れず、生活の継続すら困難になるおそれがあるため、その利点を考慮しつつも、倒産の場合に備えた返還金の保全等の措置を適切に講じることが必要である。

○現行の有料老人ホーム設置運営指導指針では、着工時において相当数の入居見込者が確保されていない場合には、十分な入居者を確保し安定的な経営が見込まれるまでの間については、入居一時金の返還金債務について銀行保証等を付すことを求めている。

○しかしながら、銀行保証については、銀行の自己資本比率規制などを背景として、近年銀行が保証の引き受けを避ける傾向が強く、保証をする場合でも従来より高い料率の保証料が要求される現状の下では、入居一時金をとる全てのホームに銀行保証を義務付けることは必ずしも現実的ではない。

○また、入居一時金方式の場合の返還金の算定方式が各ホームにより自由に設定されておりそれぞれ多様である現状や、多くのホームで入居から一定期間を経過した後は返還金がなくなることを考えれば、銀行保証だけで倒産に対する十分な備えになるとは言い難い。

○このため、現在全国有料老人ホーム協会の事業として行われている入居者基金制度を、加入者数の拡大によりその安定性を高めつつ、全ての有料老人ホームが加入可能な制度として充実・再構築するなど、利用者が安心して入居できるよう現行制度を抜本的に改革することも考えられる。

○この場合、入居者基金の保証料は最終的に入居者の負担となることから、入居一時金をとる全てのホームに加入を強制するか、加入はホームごとの任意選択制とした上で、加入したホームには加入している旨を表示させることとするかについては、さらに検討が必要である。

○また、倒産とは別の問題として、入居一時金を支払って入居してしまえば、短期間で退去をしようとしても、多くのホームで一時金のうち1割を超える部分(初期償却分)が返還されない定めとなっていることが、出ていきにくい要因となっているとの指摘がある。

○こうした問題に着目し、体験入居期間を延長することや、入居後の一定期間はホームを見極めるための試行的居住期間としてその間は初期償却を行わない方式を導入するなど、入居しやすい工夫を行うことが有料老人ホーム事業者に望まれる。



3 有料老人ホーム類似施設の実態と行政関与の対象とすべき施設の範囲

○高齢者の増加と要望の多様化を背景として、近年、各種業種からの参入とともに、有料老人ホームに類似しつつもこれに該当しない多様な施設が増えてきている。高齢者に多様な居住の場とサービスの組み合わせの選択肢を提供するという観点からは、こうした施設の増加は評価すべきことである。

○しかし一方で、届出の対象にもなっていないこれら類似施設については、利用者から有料老人ホームとの違いが判別しにくいなどの問題があるほか、表示、契約や入居一時金の保全等の必要性などの点において有料老人ホームと同様の問題が内包されている。このため、利用者の保護を図るため最低限担保すべき事項については、有料老人ホームと同様に行政が関与する方向で検討されるべきである。

(1)類似施設の考えられるタイプ及び類似施設の実態調査結果の考察

○老人福祉法において、有料老人ホームとは「常時10人以上の老人を入所させ、食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設であつて、老人福祉施設でないもの」と定義されており、この定義からみて、有料老人ホームに該当しないものとしては、(1)分譲住宅にサービスを付加したもの、(2)別事業者がサービスを提供するもの、(3)高齢者以外も入居対象とするもの、(4)定員9人以下のもの、のようなタイプに分類できる。

○有料老人ホーム類似施設についての実態把握調査の結果をみると、上記4タイプのいずれでも、食事提供を行うものが9割以上あり、食事提供と併せて介護サービスを行うものでも6割〜9割近くを占めている。また、分譲以外のタイプで、入居一時金その他の名目で入居時に100万円以上の額をとる施設が約6割を占め、500万円以上の額をとる施設は約3分の1となっている。

○上記の結果をみると、有料老人ホーム類似施設には、提供するサービス内容や費用支払方法等において有料老人ホームと大きな違いがないものが多く、これらの施設についても有料老人ホームと同様の行政の関与を行うことについて、検討する必要がある。

(2)有料老人ホーム類似施設に対する行政関与の必要性

(1) 分譲住宅にサービスを付加したもの

○マンション等の集合住宅の分譲と一体的に生活支援サービス提供契約が組み合わされたもので、いわゆる分譲型有料老人ホームなどがこれに該当する。

○これについては、住居の所有権が入居者に移る形態のものにまで行政が関与する必要があるか、あるいは、一戸建等の持家の居住者に在宅サービス事業者が個別にサービスを提供する形態との違いは何か、という検討課題がある。

○入居者が取得する権利が所有権であり賃借権等の利用権とは本質的に異なるという権利の相違に着目する観点と、居住とサービスが一体的に提供されるという有料老人ホームとの実態的な同質性に着目する観点と、どちらを重視すべきかによって、対応の考え方が変わってくる。

○こうした施設に入居する高齢者は、住居の所有権を取得することよりも、生活支援サービスが一体的に提供されることにより安心して日常生活を継続できる点を重視して選択しているものと思われ、この点に重きを置くならば、分譲型のものについても有料老人ホームに準じた行政の関与が必要となる。
(2) 別事業者がサービスを提供するもの

○終身利用権や賃借権方式の居住施設で生活支援サービスの全部又は一部を住居提供事業者とは別の事業者が提供するものである。

○老人福祉法における有料老人ホームの定義の解釈では、施設設置者が食事提供やその他のサービス提供を別の事業者に委託して行っている場合には、設置者自らが提供しているものとして取り扱っている。委託関係にもない類似施設の場合の住居提供事業者とサービス提供事業者との関係には、提携契約関係にあるもの、サービス提供事業者を斡旋・紹介するのみなど、いくつかの形態が考えられる。両者がどのような関係にある場合に、サービス提供に関してどちらの事業者にどのような法的責任が問えるかが、一つの論点となる。

○仮に住居提供事業者にはサービス提供に関する責任がないと明確に判断できる関係にあるならば、全く別の事業者がサービスについて契約責任を負い提供するという一般的な在宅サービスの提供形態に過ぎないと解釈されるため、有料老人ホームと同様の観点からする行政関与の必要はないと考えられる。

○しかし、契約相手となる事業者が複数である点以外は、居住とサービスが一体的に提供されるという点で有料老人ホームと何ら違いはないため、両事業者の間に何らかの契約関係が見られ、入居者に対し居住の場と生活支援サービスを一体的に提供しているとみなせるものについては、有料老人ホームと同様のものとして行政関与が必要な範囲に含めることが適当と考えられる。
(3) 高齢者以外も入居対象とするもの

○入居及び生活支援サービス提供の対象を高齢者のみに限定していないものである。

○若年者も含め誰でも入居できる施設であれば、下宿や寮と基本的に違いがなく、また、他世代と混ざって高齢者が居住するならば、外部の目が届きにくい閉鎖性・密室性の問題もほぼ生じないと判断されるため、行政が関与する必要は少ないと考えられる。
(4) 定員9人以下のもの

○定員が9人以下のものとしては、老人下宿や高齢者共同生活施設などが想定されるが、これらに対して行政が関与する必要があるかについては、いくつかの考え方がある。

○小規模であっても、閉鎖性・密室性の危険は大規模なものと同様にあるいはそれ以上にあるため、小規模な施設についても行政が関与すべきとする考え方がある。

○また、個人的に高齢者を引き取って面倒をみているようなものや、高齢者同士が集まって共同生活を営んでいるようなものについてまで行政が関与する必要はないとする考え方がある一方、小規模な施設であっても、業として行っているものについては行政が関与すべきとする意見もある。

○こうしたことから、定員9人以下の施設については、どのような事項について、いかなる観点から行政の関与が必要なのかということと併せて、さらに検討を行う必要がある。

(3)有料老人ホームの定義・範囲の見直し

○以上のような類似施設の出現などの今日的課題を踏まえれば、有料老人ホーム類似施設のみならず、有料老人ホームそのものの定義・範囲、さらにはその名称についても、改めて検討を行うことが必要となろう。

○その際には、民間活動に対する行政関与を極力減らしていくという規制緩和の流れの中で、健康な高齢者のみを入居対象とする有料老人ホームに対してまで行政関与が必要なのかといった視点も必要である。

○昭和38年制定の老人福祉法において有料老人ホームの定義を定めた際の考え方によれば、「給食は不可欠で、自炊設備を有するだけでは、有料老人ホームではない。けだし、このような規制を加える必要があるのは、食事、睡眠、入浴、娯楽等日常生活全般にわたり主として設置者によって生活管理が行われており、かつ、設置者にその責任を期待できるものに限られるからである。」とされている。

○高齢者の増加及び多様な施設の増加という現実を踏まえ、どのような日常生活上の世話を行う施設に対し行政の関与が必要なのかという観点から考えると、日常生活の継続に不可欠な世話の提供を委ねるもの、すなわち、食事の提供と介護等の生活支援サービスの提供を行うものに限定することが考えられる。

○したがって、有料老人ホームの新たな定義・範囲としては、居住の場と上記のような生活支援サービスを一体的に提供するもの、とすることが適当であると考えられる。この考え方によれば、従来有料老人ホームとして届出及び行政指導の対象となっていた健康な高齢者しか居住させないような施設は、社会通念上高額な入居一時金をとらない限りは、行政関与の対象から除外して差し支えないと思われる。

○こうした限定をすることは、有料老人ホーム類似施設にまで行政関与の対象を拡大する一方で、行政関与の必要性が低いものに対する関与については廃止する、という観点からも必要である。


4 高齢者住宅施策との連携と役割分担のあり方

○建設省では、平成10年度から高齢者向け優良賃貸住宅制度を創設し、バリアフリー仕様及び緊急時の対応を備え、一定の基準を満たすものとして都道府県知事が認定した民間事業者等による高齢者向け賃貸住宅に対し助成を行うことにより、その供給を促進することとしている。この高齢者向け優良賃貸住宅では、供給主体の判断により食事提供や介護サービス等を組み合わせることができることとされている。

○このほか、従来より、バリアフリー仕様の公共賃貸住宅において生活援助員によるサービスの提供を行うシルバーハウジングなど、高齢者を対象とした住宅が供給されてきているが、こうした住宅へのサービスの付加により、住宅と有料老人ホームとの差が小さくなってきており、利用者にとって、それぞれの機能や役割の違い、さらには全体としての体系が分かりにくくなってきている。

○こうした現実や類似施設の増加も踏まえ、有料老人ホームに係る施策と高齢者住宅施策との連携及び役割分担を明確にしていくことが求められており、両者がどのように連携し、あるいは役割分担をしていくかについて、さらなる検討が行われ、法整備を含め高齢者向けの居住施策が総合化、体系化されることが期待される。


5 有料老人ホーム協会等のあり方

(1)有料老人ホーム協会のあり方

○昨年、公正取引委員会より、全国有料老人ホーム協会に対し、入居ガイドにおける表示の適正化等が求められた。協会では、これを受け、必要表示事項を策定し入居ガイドの表示の適正化を図ったほか、理事に消費者や入居者の代表を含める、会議記録等の情報を公開する等の運営の改善に努めてきており、今後も引き続き、運営の公平性・透明性の確保を図っていくことが期待される。

○行政による関与を必要最小限としていく中で、行政関与の対象とならない部分について、いかに利用者の要望に合致した質の高いものが提供されるかは、多分に事業者の自主的な努力に負うところとなるため、事業者団体の定める指針等の自主規制は今後益々重要になると考えられ、この分野で全国有料老人ホーム協会の果たすべき役割は大きい。

○しかし、全国有料老人ホーム協会は、有料老人ホームの事業者の会費によって運営される自主的団体であることから、その機能・役割としては、業界としての自主的な指針等の策定、事業者に対する指導や相談助言、職員研修、広報などに重点を置くべきである。全国有料老人ホーム協会は入居者の保護に責任があることは言うまでもないが、利用者の保護を一方の契約当事者である事業者の団体のみに期待することには自ずと一定の限界があると考えられ、むしろ、有料老人ホームにおける紛争や苦情ができる限り生じないようにするための入居者に対する啓発や情報提供、苦情処理などに取り組むことが期待される。

○なお、協会への加入は任意であり、全ての有料老人ホーム事業者が加入していないことからも、協会の影響力には一定の限界があることに留意しなければならない。同時に、事業者団体による自主規制が、団体の会員以外の事業活動や事業への新規参入を阻害することがないようにすることが必要である。

○また、現在、全国有料老人ホーム協会の事業として運営されている入居者基金制度については、全ての有料老人ホームが加入可能な制度として別の機関に移すことも含めて充実・再構築することも考えられる。

(2)紛争・苦情の処理について

○有料老人ホームにおける紛争や苦情の円滑な解決を図るためには、運営懇談会を積極的に活用するなどにより、まずホームと入居者との話し合いを十分に行うことが重要である。

○さらに、有料老人ホーム事業者と入居者との紛争や苦情の処理、有料老人ホームに対する独自の評価、利用者に対する消費者教育などを行うための第三者的立場にある組織・機関が必要であるとの考え方がある。

○こうした第三者機関を設けるとした場合に、具体的にどのような組織とすべきかについては、いくつかの考え方がある。入居者の団体とする案や、消費者による自主的な団体とする案があり、さらには、既存の消費者団体にその役割を期待することも考えられるが、どのような組織であれ、実効あるものとするためには、業界に対しどの程度の影響力を持てるかが鍵であり、消費者が強い発言力を持てるようにしていくこと、それに対し行政がいかなる支援を行えるかが検討課題である。

○さらに、より現実的なこととして、第三者機関の運営財源の問題があり、行政から公費を投入すれば行政が直接行っていることと大きな違いがなくなり、他方、そのほかに有効な財源が期待できないことから、第三者機関の機能・役割及び構成員の問題と合わせた十分な検討が必要である。

○また、第三者機関を有料老人ホームのためだけに独立して設け・運営することは、対象施設数の少なさから考えて現実的でなく、当面は、介護保険施設も含めた高齢者向けサービス全体、あるいは、広く消費者問題を扱う組織の業務の一部として行わせることが適当であるとの考えもある。

○以上のようにいろいろな考え方があるが、利用者保護の観点から、実効性のある苦情処理体制を確立する必要がある。


6 おわりに

○以上述べてきたとおり、本検討会では、類似施設を含めた有料老人ホームに対する今後の施策のあり方について検討を行い、その結果をとりまとめた。

○我が国が本格的な高齢社会を迎える中で、高齢者が安心して生活できる多様な居住の場を確保することは、介護保険制度の本格的実施による介護サービスの提供と併せ、高齢者の生活の基礎を支える極めて重要な政策課題であり、高齢者向けの居住施策全体の体系化も視野に入れつつ有料老人ホームに関する新たな施策を構築することは喫緊の課題である。

○このため、成年後見制度や消費者契約法(仮称)も視野に入れて、有料老人ホームに対する行政の関与の具体的なあり方について、法整備も含め今後速やかに検討することが望まれる。

○その際、有料老人ホームに関する課題は、単に従来からの福祉行政の領域にとどまるものではなく、住宅問題や消費者問題等多岐にわたるものである。したがって、有料老人ホームに対する行政の関与についても、その全てを厚生省ないしは地方公共団体の福祉担当部局が所管するのではなく、広告・表示を含めた消費者利益の確保については公正取引委員会や消費者行政担当部局、施設の建築計画や構造設備については建設省や住宅・建築担当部局等、多くの行政分野との有機的・横断的な連携及び役割分担に留意しなければならない。


有料老人ホーム等のあり方に関する検討会メンバー

〈五十音順〉

阿部 恂 (有料老人ホーム入居者、元社会保障制度審議会委員)

池田敏史子 (シニアライフ情報センター事務局長)

犬伏由利子 (消費科学連合会副会長)

小谷 直道 (読売新聞社編集局次長)

島田 和夫 (東京経済大学経済学部教授)

清水 鳩子 (主婦連合会会長)


○ 袖井 孝子 (お茶の水女子大学生活科学部教授)

園田真理子 (明治大学理工学部建築学科講師)

対馬 徳昭 (全国在宅介護事業協議会会長)

野村 豊弘 (学習院大学法学部教授)

堀 勝洋 (上智大学法学部教授)

三田 道弘 (全国有料老人ホーム協会前理事長※)

村田 幸子 (NHK解説主幹)


○は座長

※ 平成10年5月26日まで理事長

【オブザーバー】

岡本 圭司 (建設省住宅局住宅整備課長)


( 参 考 )

有料老人ホーム等のあり方に関する検討会 開催経緯

第1回 2月16日(月)10:00−12:00 特別第一会議室

(現行制度及び有料老人ホームの現状等)

第2回 3月25日(水)10:00−12:00 別館共用第13会議室

(入居一時金を巡る問題及び有料老人ホーム協会の概要等)

第3回 4月20日(月)14:00−16:00 共用第7会議室

(有料老人ホーム類似施設の実態調査結果及び関連施設の概要等)

第4回 5月22日(金)10:00−12:00 共用第7会議室

(検討の論点について自由討議)

起草委員会 6月3日(水)10:00−12:00 共用第21会議室

(起草委員による報告書案の作成)

第5回 6月5日(金)10:00−12:00 共用第7会議室

(報告書案について討議)

第6回 6月19日(金)10:00−12:00 特別第一会議室

(検討会報告書とりまとめ)

照会先
 老人保健福祉局老人福祉振興課
 担 当 課長補佐 林田 康孝
 TEL 代表[現在ご利用いただけません](3932)


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