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クリプトスポリジウム等原虫類総合対策について

平成9年10月8日

○ 本日12時より開催された厚生省健康危機管理調整会議において、別添のとおり「クリプトスポリジウム等原虫類総合対策」が決定された。

○ 厚生省としては、国民の健康と福祉を守り、増進を図るため、今後、本総合対策に沿って、水道安全対策、食品保健対策、感染症対策、救急医療対策等、厚生省全体としてクリプトスポリジウム等原虫類対策に取り組むこととしている。



クリプトスポリジウム等原虫類総合対策について

1.総合対策の必要性

○ 我が国では、最近、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラといった原虫による新たな感染症の脅威が生じている。

○ 特にクリプトスポリジウムは塩素消毒に対し耐性があり、昨年、埼玉県越生町で多数の感染症被害が生じたため、厚生省としては暫定対策指針を策定し、緊急的対策を講じたところである。

○ しかしながら、その後も日本各地で水道原水中の検出事例がみられることから、さらに対策を講じる必要がある。

○ 対策に当たっては、水道安全対策のみならず、排出源対策、食品保健対策、感染症対策、救急医療対策等、関係部局が多岐にわたっていることから、厚生省全体として総合的な取り組みを行う。

2.主な対策

(1) 厚生省として、以下の観点から全省的に取り組む。なお、この総合対策は、今後、新たな科学的知見の集積等を踏まえ、随時改訂する。

○ 調査・監視体制の充実・強化…水道原水・浄水、食品の簡易迅速な検査方法の開発、検査体制の強化等
○ 水源保全、排出源対策…し尿処理施設等からの原虫の排出抑制
○ 水道安全対策の強化…浄水処理の徹底等
○ 食品保健対策の強化…生食食品を始めとする食品の衛生管理の強化等
○ 感染症対策の強化…治療法についての情報収集、医療機関への周知
○ 発生時対策の確立…救急医療・医療協力体制の整備、二次感染の防止等
○ 普及啓発・情報提供の強化…国民、特に免疫力低下者(HIV感染者等)への情報提供等

(2) また、本年8月、環境庁、建設省、農林水産省に呼びかけて設置した関係省庁連絡会により、連携して対策を推進する。

(参考1)

クリプトスポリジウム等原虫類総合対策の概要

(参考2)

クリプトスポリジウム等原虫類による汚染の現状

1.集団感染の事例

(1) 平成6年8月に、神奈川県平塚市の雑居ビルの受水槽がクリプトスポリジウムにより汚染され、約460人が集団感染。

(2) 平成8年6月に、埼玉県越生町において、我が国で初めて、水道水を介してのクリプトスポリジウムによる集団感染が発生。
越生町人口約13,800人のうち、約8,800人が発症。

2.水道水源における検出状況

平成9年度に行った、全国94水道水源水域、282地点での調査の結果、クリプトスポリジウム及びジアルジアの検出結果は以下のとおり。

(1) クリプトスポリジウム

6水源水域 8地点で検出(陽性率 2.8%)

(2) ジアルジア

16水源水域 24地点で検出(陽性率 8.5%)

3.海外の集団発生事例

(1) クリプトスポリジウム

(1) 1993年、米国で、水道水を介した集団感染が発生。感染者は推定で40万人。
(2) 1993年及び1996年、米国で、食物(清涼飲料水)を介した集団感染が発生。推定患者はそれぞれ160名、11名。

(2) サイクロスポーラ
1997年、米国で、グァテマラ産等の木苺を介した集団感染が発生。

(参考3)

原虫類感染症の状況

1.クリプトスポリジウム症

○ クリプトスポリジウムは、胞子虫類に属し、腸管系に寄生する原虫である。環境中では「オーシスト」と呼ばれる嚢包体の形(大きさは4〜6μm)で存在し、増殖することはないが、「オーシスト」が人間の他、牛、ネコ等多種類の動物に経口的に摂取されると、消化管の細胞に寄生して増殖し、そこで形成された「オーシスト」がふん便とともに体外に排出され感染源となる。また、「オーシスト」は塩素に対して極めて強い耐性がある。

○ クリプトスポリジウムに感染すると、腹痛を伴う水様性下痢が3日から1週間程度続く。健康な人の場合は免疫機構が働き自然治癒するが、感染に対する抵抗力が低下しているHIV感染者等については重篤になる。また、現在のところクリプトスポリジウムについての有効な治療薬は見つかっていない。

○ 海外においては、1993年、米国ミルウォーキー市で水道水を介して約40万人が感染した事故例が報告されている。
 国内においては、1994年(平成6年)8月、神奈川県平塚市の雑居ビルの受水槽水が汚染し約460人が感染した。また、平成8年6月、埼玉県越生町において、水道水を介して約 8,800人が感染する大規模な集団下痢症が発生した。

2.ジアルジア症

○ ジアルジアは、鞭毛虫綱に属し、腸管系に寄生する原虫である。ジアルジアの嚢子(長径8〜12μm、短径5〜8μm)は、クリプトスポリジウムと同様に環境変化に抵抗性を有するが、塩素耐性についてはクリプトスポリジウムに比べて低いといわれており、我が国の水道施設における塩素消毒の実態から、現在のところ、有効に殺菌されていると考えられる。
 嚢子が人間に経口的に摂取されると、小腸の上部付近に寄生・増殖し嚢子がふん便とともに体外に排出され新たな感染源となる。イヌ等の動物に寄生した場合も同様に体内で増殖しふん便とともに排出されるが、人間への感染性については明確ではない。

○ ジアルジアに感染すると、主に下痢、腹痛を来すことが多いが、この他に食欲不振や腹部膨満感などを訴えることがある。健康な人の場合は、不顕性感染で終わる事例も少なくないと推定されている。なお、治療薬としてはメトロニダゾール、チニダゾール等がある。
(注) メトロニダゾール、チニダゾールについては、ジアルジアに対する有効性は指摘されているが、効能としては承認されていない。

○ ジアルジアは世界的に広く分布しており、特に熱帯・亜熱帯において主要な下痢性疾患の病原体となっており、先進国においてもスラム等の不衛生な地域では流行をみることがある。
 我が国においては、第2次大戦直後には国民の5%から10%が感染していたが、その後水道の普及とともに減少し、現在においては、水道水を介した感染例の報告はない。

3.サイクロスポーラ症

○ サイクロスポーラは近年発見された原虫で、1994年に病原体名が正式に決定された。本原虫は胞子虫類に属し、オーシストは8〜10μmで、クリプトスポリジウムよりも大型の原虫である。

○ サイクロスポーラは小腸に感染し、潜伏期間は平均1週間。感染すると長期にわたる激しい下痢を呈する。その他の症状としては、食欲減退、体重減少、胃腸症状、微熱等である。クリプトスポリジウムに比べ、症状は類似しているが、症状が数週間持続すること、高頻度で再発が見られるという特徴がある。

○ 患者の便中に排出された「オーシスト」が感染性を持つまでには外界で一定期間の発育が必要であり、成熟した「オーシスト」を経口的に取り込むことにより感染が成立する。従って、クリプトスポリジウムなどとは異なり、人から人への接触感染は起こらないと言われている。HIV感染者においても感染が認められているが、有効な治療薬(トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤等)があり、本原虫による死者は報告されていない。
(注) トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤については、サイクロスポーラに対する有効性は指摘されているが、効能としては承認されていない。

○ 本症の集団感染は1996年に米国及びカナダで相次いで報告され、推定を含め1,465名の患者の発生をみており、1997年も引き続き集団感染が報告されている。
 米国CDCの疫学調査結果によれば、いずれもグアテマラまたはチリから輸入されたラズベリーが感染を媒介したものとして疑われている。このため、米国FDA、CDCの協力の下、グアテマラのラズベリー生産農家は危害分析重要管理点方式(Hazard Analysis and Critical Control Points :HACCP)を導入した生産段階での使用水等の衛生管理を行っている。
 我が国においては、数件の散発例が指摘されているが、食品との関連性は不明である。

問い合わせ先 厚生省大臣官房厚生科学課
      (健康危機管理調整会議事務局)
    担当 岡本(内3806)、坂本(内3804)
    電話 (代)[現在ご利用いただけません]
       (直)03-3595-2171



クリプトスポリジウム等原虫類総合対策

I はじめに

1.対策の緊急性

○ かつて我が国で猛威をふるった寄生虫による疾患については、戦後、生活環境の改善や各種寄生虫対策の強力な実施により激減し、既に過去のものとなったと思われてきた。

○ しかし、世界的には、本年、デンバーサミットにおいて、橋本首相が提唱したように、多くの国で寄生虫による健康被害が発生しており、国際的にもその対策が強力に進められなければならない状況にある。

○ 我が国においても、近年、国際交流の進展や輸入食品の増大等を背景として、新たな原虫類による感染症が出現するなど、寄生虫による疾患は決して過去のものとはなっていない。

○ 中でも、昨年、我が国でも大規模な感染事例を発生させた原虫クリプトスポリジウムは、我が国の水道水の安全確保対策の主流である塩素消毒に対し極めて強い耐性を持ち、一度水道水に侵入すれば広範囲に被害が発生するおそれがあるなど、水道水の安全性・信頼性を根底から揺るがした。

○ このクリプトスポリジウムは、従来、日本国内には生息していなかったと考えられているが、最近の調査では、既に国内に定着している傾向が見られることから、早急な対策の強化が必要である。

○ また、かつて我が国でも患者が発生していたジアルジアについては、水道における塩素消毒により不活性化されており、近年、患者の発生はない。しかしながら、ある程度の塩素耐性を有しており、依然として我が国の環境中に存在することから、感染の危険は去っていないものとして、警戒を続ける必要がある。

○ さらに、米国等においては、木苺類や生鮮野菜を媒介としたサイクロスポーラ下痢症の事例が発生している。幸いにして我が国においては、国内でのサイクロスポーラ感染事例はわずかに数例が指摘されているのみであるが、輸入食品が大幅に増加している現状から見れば、対岸の火事として到底座視できるようなものではない。

○ 感染症等を引き起こす原虫類を始めとする寄生虫は数多く存在し、それぞれに的確に対応していかなければならないが、ここでは、水系感染症として大規模な感染が発生し、塩素消毒に依存した従来の水道水質管理手法のみでは対応に困難があり、特に免疫力低下者等に対する危険性が指摘されているクリプトスポリジウム症、また水道施設での塩素消毒により集団発生は防止されていると思われるが原虫が若干の塩素耐性を有し注意が必要なジアルジア症、さらに、輸入食品の増大によって我が国への侵入が懸念されるサイクロスポーラ症について、緊急に講じるべき対策を検討することとする。

2.総合対策の必要性

○ これらの新興・再興の原虫類による感染症対策については、水道行政や食品保健行政において、積極的な対策を講じることは当然に必要である。

○ しかしながら、例えば、クリプトスポリジウムについては、水道行政において集団発生を防止するための必要な措置を講じ対策を推進しているところであるが、水道行政だけで対応しきれるものではなく、水道水源の安全性確保のためのし尿処理・廃棄物処理行政、食品の衛生管理に係る食品保健行政、二次感染防止等の感染症対策としての側面やHIV感染者等の免疫力低下者対策、治療研究など保健医療行政、大規模発生時の救急医療対策などの医療行政、さらには高齢者や幼児などのいわゆる健康弱者の安全確保など、広く厚生行政全般にわたる取組みを強化する必要があり、国民の健康と福祉を守り、増進することをその責務とする厚生省がその総力を挙げて取り組まなければならない。

○ さらに、発生源対策等の観点から、畜産行政、河川・下水道行政、環境行政などを担当する各省庁や地方公共団体などと協力して対応していくことも不可欠であり、この面でも厚生省が中心となって取組みを進めていかなければならない。

○ このような観点から、今後、厚生省として取り組むべき対策について総合的に取りまとめ、国民の皆様にお示しするとともに、これらの対策を強力に推進していくこととする。

II 現状

1.原虫類感染症の状況

(1) クリプトスポリジウム症

○ クリプトスポリジウムは、胞子虫類に属し、腸管系に寄生する原虫である。環境中では「オーシスト」と呼ばれる嚢包体の形(大きさは4〜6μm)で存在し、増殖することはないが、「オーシスト」が人間の他、牛、ネコ等多種類の動物に経口的に摂取されると、消化管の細胞に寄生して増殖し、そこで形成された「オーシスト」がふん便とともに体外に排出され感染源となる。また、「オーシスト」は塩素に対して極めて強い耐性がある。

○ クリプトスポリジウムに感染すると、腹痛を伴う水様性下痢が3日から1週間程度続く。健康な人の場合は免疫機構が働き自然治癒するが、感染に対する抵抗力が低下しているHIV感染者等については重篤になる。また、現在のところクリプトスポリジウムについての有効な治療薬は見つかっていない。

○ 海外においては、1993年、米国ミルウォーキー市で水道水を介して約40万人が感染した事故例が報告されている。
国内においては、1994年(平成6年)8月、神奈川県平塚市の雑居ビルの受水槽水が汚染し約460人が感染した。また、平成9年6月、埼玉県越生町において、水道水を介して約 8,800人が感染する大規模な集団下痢症が発生した。

(2) ジアルジア症

○ ジアルジアは、鞭毛虫綱に属し、腸管系に寄生する原虫である。ジアルジアの嚢子(長径8〜12μm、短径5〜8μm)は、クリプトスポリジウムと同様に環境変化に抵抗性を有するが、塩素耐性についてはクリプトスポリジウムに比べて低いといわれており、我が国の水道施設における塩素消毒の実態から、現在のところ、有効に殺菌されていると考えられる。
嚢子が人間に経口的に摂取されると、小腸の上部付近に寄生・増殖し嚢子がふん便とともに体外に排出され新たな感染源となる。イヌ等の動物に寄生した場合も同様に体内で増殖し糞便とともに排出されるが、人間への感染性については明確ではない。

○ ジアルジアに感染すると、主に下痢、腹痛を来すことが多いが、この他に食欲不振や腹部膨満感などを訴えることがある。健康な人の場合は、不顕性感染で終わる事例も少なくないと推定されている。なお、治療薬としてはメトロニダゾール、チニダゾール等がある。
(注) メトロニダゾール、チニダゾールについては、ジアルジアに対する有効性は指摘されているが、効能としては承認されていない。

○ ジアルジアは世界的に広く分布しており、特に熱帯・亜熱帯において主要な下痢性疾患の病原体となっており、先進国においてもスラム等の不衛生な地域では流行をみることがある。
我が国においては、第2次大戦直後には国民の5%から10%が感染していたが、その後水道の普及とともに減少し、現在においては、水道水を介した感染例の報告はない。
(3) サイクロスポーラ症

○ サイクロスポーラは近年発見された原虫で、1994年に病原体名が正式に決定された。本原虫は胞子虫類に属し、オーシストは8〜10μmで、クリプトスポリジウムよりも大型の原虫である。

○ サイクロスポーラは小腸に感染し、潜伏期間は平均1週間。感染すると長期にわたる激しい下痢を呈する。その他の症状としては、食欲減退、体重減少、胃腸症状、微熱等である。クリプトスポリジウムに比べ、症状は類似しているが、症状が数週間持続すること、高頻度で再発が見られるという特徴がある。

○ 患者の便中に排出された「オーシスト」が感染性を持つまでには外界で一定期間の発育が必要であり、成熟した「オーシスト」を経口的に取り込むことにより感染が成立する。従って、クリプトスポリジウムなどとは異なり、人から人への接触感染は起こらないと言われている。HIV感染者においても感染が認められているが、有効な治療薬(トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤等)があり、本原虫による死者は報告されていない。
(注) トリメトプリム・スルファメトキサゾール合剤については、サイクロスポーラに対する有効性は指摘されているが、効能としては承認されていない。

○ 本症の集団感染は1996年に米国及びカナダで相次いで報告され、推定を含め1,465名の患者の発生をみており、1997年も引き続き集団感染が報告されている。
米国CDCの疫学調査結果によれば、いずれもグアテマラまたはチリから輸入されたラズベリーが感染を媒介したものとして疑われている。このため、米国FDA、CDCの協力の下、グアテマラのラズベリー生産農家は危害分析重要管理点方式(Hazard Analysis and Critical
Control Points :HACCP)を導入した生産段階での使用水等の衛生管理を行っている。
我が国においては、数件の散発例が指摘されているが、食品との関連性は不明である。

2.対策の現状

(1) 我が国での水源等汚染状況

○ 平成9年、全国94水道水源水域(282地点)の調査を実施(平成9年3月〜7月採水)した結果は次のとおりであり、クリプトスポリジウム等は我が国の環境中に広範囲に生息・定着しつつあることが懸念されている。
・クリプトスポリジウム 6水源水域 8地点で検出(陽性率2.8%)
・ジアルジア 16水源水域24地点で検出(陽性率8.5%)

(2) 原虫検出の困難性

○ 原虫の検査については、「水道におけるクリプトスポリジウム暫定対策指針」(平成8年10月、厚生省水道環境部。以下「暫定対策指針」という。)において、水道水に関するクリプトスポリジウムのオーシストの検出のための暫定的な試験方法を定め、都道府県の職員に対する研修を実施している。

○ しかしながら、現在の検査法では、濃縮等の行程が煩雑で、一定の回収率を確保するためには相当の熟練を要し、また大量の水の中から1個、2個のオーシストを見いだすことになるため、研修受講者であってもクリプトスポリジウムか否かの確定が難しく、誤検出報告による混乱事例すらある。

○ また、サイクロスポーラを検出できる専門家は、我が国では極めて少ない状況にある。

(3) これまでに講じた対策

○ クリプトスポリジウムについては、平成8年6月、埼玉県越生町での発生を契機として、厚生省は、まず、水道分野において同年10月、緊急に暫定対策指針を定め、全国の水道事業者に対して予防対策などを指示した。

○ また、全国94水源水域282地点の水道水源における原虫調査を実施し、これらの調査研究結果や新たな知見を基に、平成9年8月より「水道におけるクリプトスポリジウム等病原性微生物対策検討会」(以下、「検討会」という。)において暫定対策指針の見直しを行うなど、対策の強化方策について検討中である。

○ また、食品保健分野では、本年9月の食品衛生調査会において、寄生虫対策全般について検討し、必要な対策に着手したところである。

○ また、本年8月、HIV感染者等免疫力の低下した者に対し、クリプトスポリジウムの感染防止対策について周知を図ったところである。

○ さらに、厚生省において、環境庁、建設省及び農林水産省に呼びかけ、関係省庁連絡会を設置し(本年8月)、環境行政、河川・下水道行政及び畜産行政などとも連携を図っているところである。

III 今後推進すべき対策

今後、クリプトスポリジウム等の原虫による感染症を防止するため、次のような対策を強力に推進する。

1.調査・監視体制の充実・強化

(1) 水源等の調査

(1) 水道原水・浄水の検査体制の強化

○ 水道原水中のクリプトスポリジウム等の全国的な存在状況については、その概況を調査したが、今後も測定法の開発を進めるとともに、全国の水道事業体等による測定の結果について集約・解析を行う。

○ クリプトスポリジウム等原虫の検査は、現状では高度な技術を要するが、国立公衆衛生院、国立感染症研究所を中心とした学識経験者で研究班(「水道水を介して感染するクリプトスポリジウム及び類似の原虫性疾患の監視と制御に関する研究班」(以下「研究班」という。))が発足しており、迅速で容易かつ正確な検査方法の開発及び改良等を行う。

○ また、これまで水道事業者等を対象に1〜3週間程度の研修が行われているが、未熟な検査担当者の検査による混乱を生じている例もあることから、検査方法の改良及び開発の動向を見据えつつ、研修体制を今後検討する。

○ 汚染源と水道水源汚染の因果関係などについても研究班により検討していく。

(2) 食品検査体制の強化

○ 今後、対策を検討し、被害を未然に防止するため、食品からの検出技術の確立を図るとともに、これを踏まえ、これまでの患者発生状況や環境中の生態等から汚染が疑われる食品の汚染実態を調査する。

○ 食品中からの検出方法を確立する必要があるため、本年度の厚生科学研究として、水からの検出方法に関する研究と緊密に連携をとりながら、食品からの原虫の検出方法を早急に確立する。特に液状食品以外の分離濃縮技術を中心に検討し、さらに、食品からの分離濃縮後の同定方法について、検出感度の向上を図るため、PCR法(Polymer-ase Chain Reaction,ポリメラーゼ連鎖反応法)の導入等の可能性を検討する。

○ 食品衛生対策を担う自治体職員や検疫所職員の原虫に対する知識や技術を普及するため、水道事業者等への研修等の連携を図りつつ、以下の研修を行う。

・原虫に関する一般的な知識に関する研修
平成9年12月、自治体職員等に対してクリプトスポリジウム等の原虫に関する一般的な知識の普及を図る。
・原虫に関する検出技術の研修
食品からの検出方法が確立された後、自治体職員等への研修を実施するとともに、あわせて、一般国民、食品営業者への知識の普及を図る。

(3)感染者の検査体制の強化

○ 人への検査(検便)については、平成9年度新興・再興感染症研究事業により、クリプトスポリジウムの診断治療に関する情報収集分析等の総合的な対応に関する研究を緊急に実施する。

(2) 患者発生状況の把握

○ 監視体制に関しては、クリプトスポリジウムとジアルジアについて、検査法の開発と普及の状況を踏まえながら体制の整備を検討し、さらに現在行っている感染症対策の見直しの中で、その位置づけを検討する。

(3) 牛等のり患状況の把握

○ クリプトスポリジウムは、ほ乳類のふん便に含まれて排出されるため、関係省庁連絡会を通じて、そのり患状況等に関する情報把握に努める。

2.水源保全・排出源対策の強化

関係省庁連絡会における情報交換を通じ、畜産対策、下水道、し尿処理等汚染源の実態を踏まえた対策について検討し、各省庁と連携して対策を推進する。
特に厚生省においては、次のような対策を推進する。

(1) し尿処理対策

し尿処理施設におけるクリプトスポリジウム及びジアルジアの排出状況、存在状況を調査することにより、施設内における病原性微生物の消長を把握し、排出抑制策を検討する。

(2) 家畜ふん尿対策

家畜ふん尿について、処理実態や処理施設からの飛散、流出のおそれを調査し、家畜ふん尿の河川等への流出防止対策等について検討を行う。

(3) 浄化槽対策

浄化槽内の病原性微生物の消長、制御手法についての調査研究とともに、クリプトスポリジウム対策として有効な膜処理型合併処理浄化槽の普及を推進するために必要な調査研究を推進する。

(4) とちく場対策

とちく場に搬入される生体牛の糞便内の保有実態や、とちく場排水・汚泥中のオーシストの残留実態について調査を行い、その結果を踏まえて対策を検討する。

3.水道安全対策の強化

○ 水道計画の策定に当たってはクリプトスポリジウム等対策も含めて、良好な水道水源の確保計画を立てるとともに、関係省庁連絡会等において、水道水源保全対策の推進を働きかけ原水水質の改善を図る。

○ また、クリプトスポリジウムによる汚染のおそれのある浄水場においては、浄水処理(膜ろ過、急速ろ過、緩速ろ過)を適切に行い、常時濁度を0.1 度以下に維持するよう対策を推進しているが、なお未対応の施設については対応の徹底を図る。

○ 平成9年8月に設置した検討会により、浄水場におけるクリプトスポリジウム対策技術(除去、不活化)の検討を進め、これらを踏まえて暫定対策指針を見直すとともに、世界保健機関(WHO)の動向を踏まえ、水道水質基準等の強化を検討する。

○ 原虫類の除去に有効な膜処理技術の導入を推進するために、平成9年度から導入した膜処理施設の整備に対する国庫補助制度の活用を推進する。

4.食品保健対策の強化

(1) 生食食品の取扱いにおける衛生管理の徹底

我が国の水源の汚染実態を踏まえ、生食用野菜・果実等の栽培段階における衛生的な水の使用等の対策のあり方につき適切な対応を図るよう農林水産省に要請しており(平成9年9月22日付で通知)、今後、農林水産省と協力して対策を検討していく。

(2) ミネラルウォーター対策

食品衛生法第7条に基づく「ミネラルウォーターの製造方法の基準」により、
(1) 加熱等の殺菌、除菌を行うこと、
(2) 未殺菌、未除菌の場合は、原水は鉱泉のみとし、病原性微生物に汚染されないこと、
が規定されているが、国内では、未殺菌未除菌のミネラルウォータ−は製造されていない。
また、加熱以外の殺菌、除菌方法として、
A ろ過
B 紫外線殺菌
C オゾン殺菌
の3つの方法のいずれかまたは組合せによる処理が行われているが、ろ過を行っていない場合のクリプトスポリジウムの死滅効果については今後検討を進める必要がある。そこで、国内製造業者に対してクリプトスポリジウムに関する注意喚起を行うとともに、クリプトスポリジウムの死滅効果等、ミネラルウォーターの衛生確保に関して調査研究を進める。
さらに、国際基準を策定する国連食糧農業機関−世界保健機関・合同食品規格委員会(コーデックス,CODEX)において、現在、ビン詰め飲料水の衛生規範の策定作業が進められていることから、クリプトスポリジウム対策を念頭においた衛生規範となるよう我が国から具体的な意見を提案することとする。

(3) 地下水を大量に使用する食品製造施設対策

各都道府県等においては、地下水を使用した食品の衛生を確保するため、水道法に基づく水質基準に準拠した地下水の基準を策定し、地下水を大量に使用する食品製造施設の営業を許可する際には、地下水が当該基準に適合していることを確認している。また、許可後も定期的に当該施設の監視を行い、地下水が当該基準に適合するよう指導している。
地下水を使用して製造される食品のさらなる衛生確保のため、各都道府県等に対し、今後ともこれら営業施設における衛生管理の徹底について周知徹底を図るとともに、当該営業施設への指導実態等を踏まえて必要な対策を検討する。

5.感染症対策の強化(診断・治療)

(1) 治療等の情報提供
診断・治療に関しては、日本国内外の知見・情報を整理し、まとめていくとともに、平成9年度新興・再興感染症研究事業にて、クリプトスポリジウム等に関連する緊急研究を実施することとしている。それらの状況を勘案しつつ、収集した情報の臨床現場等への普及に努める。

(2) 医療機関における対策

上記の研究の結果、有効と判断される治療法について、医療関係団体の協力を得ながら、医療機関等への周知を行う。

6.発生時対策の確立

(1) 原因究明

集団発生時に、水道調査や食品調査等と連携した速やかな原因究明がなされるよう、適切な発生時対応について、厚生省健康危機管理調整会議において関係課間の調整を図る。
また、汚染原因の究明においては、関係省庁とも連携を図る。

(2) 救急医療・医療協力体制

○ 患者が多数発生した場合の医療機関、医療スタッフの確保等について、災害時と同様の観点から対策を講ずる。特に、患者の多くが乳幼児、小児となることを想定して医療体制を整える。
○ 救急搬送については、救急医療情報システムを活用するとともに、患者が多数発生した場合を想定し、消防部局と連携を図りながら広域搬送体制を整える。

(3) 二次感染防止

二次感染防止については、患者等に適切な指導がなされるように、医療従事者への必要な情報の普及を図る。

(4) 水道安全対策

○ 平成9年8月に設置した病原性微生物、水道及び公衆衛生の専門家で構成される検討会を活用し、水道施設での緊急的対応を支援する専門家を現地に派遣する等、初動対応を強化する。

○ クリプトスポリジウム等が発生した場合、
・ 水道利用者への広報・飲用指導の徹底
・ 給水停止等の措置
・ 水道事業者等及び都道府県の関係部局の連携
により、安全な飲料水、生活用水を確保を図るなど応急対策を徹底する。

○ 応援給水のための連絡管の整備、その他の水道事業者間の連携や代替水源の確保についての指導を強化する。

(5) 食品保健対策

現在、諸外国において食品が原因として疑われる原虫性疾患が発生した場合、同一食品の輸入実態の調査、輸入時における関係営業者への加熱等の衛生管理の指導等を実施している。今後、発生時には、以下の対策をとる。

(1) 国外発生時

諸外国における食品汚染等の情報収集を実施し、関係営業者への指導等を実施する。
なお、食品中からの検出方法の確立の後、食品の検査等を必要に応じて実施する。検査結果等に応じて、輸入時における検査の強化、関係営業者への指導、注意喚起等を行う。

(2) 国内発生時

食中毒事件として原因究明、原因食品の除去等を実施する。
・ 食中毒事件としての原因究明
・ 原因食品の流通防止対策
・ 汚染が疑われる食品(原因食品類似食品)の監視強化
・ 国民や関係者への注意喚起 等

7.普及啓発・情報提供の強化

(1) 免疫力低下者等への指導

HIV感染者、臓器移植者、がん患者で抗がん剤を服用している者など免疫不全状態にある者に対しては、クリプトスポリジウムの予防に関する情報が適宜提供される必要がある。
このため、厚生省では、平成9年8月にHIV感染者をはじめとする免疫不全患者に対する情報提供について、都道府県宛通知するとともに厚生省ホームページに予防に関する情報を掲示したところである。
今後、我が国におけるクリプトスポリジウムの検出状況や医学的技術の進歩を踏まえて、適宜必要な情報を提供していく。

(2) 感染症に関する一般国民向け啓発

国民への啓発活動をすすめるため、研究の成果等については、インターネット等を活用して、広く国民へ情報提供を行う。
また、検疫所においても海外渡航者に対し、クリプトスポリジウム等について、その感染予防のための情報提供を行う。

(3) 水道に関する一般国民に向けた情報提供

水道に係るクリプトスポリジウム等に対する対策については、暫定対策指針や水源等汚染状況をインターネット等を活用して広く情報提供しているが、今後とも新たな研究成果等については、同様に情報提供を行っていく。

(4) 食品に関する一般国民に向けた情報提供

インターネット等を活用し、自治体、関係者、国民へ広く関連情報を提供する。

IV 終わりに

クリプトスポリジウム等については、その検出方法、発生源の実態等について十分に明らかになっていない面があるものの、原水中での検出事例が現にみられる実態に鑑み、対策を早急に講じる必要があり、今回、現時点での総合的な対策としてとりまとめたものである。
今後さらに、新たな科学的知見を集積し、施策の見直しを行っていくことが必要である。



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