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平成9年9月17日
本日、食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会が開催され、食品媒介の寄生虫疾患対策等について、別添のとおり、検討結果のとりまとめが行われた。
検討結果の主な内容については次のとおりである。
I. 食品媒介の寄生虫疾患対策について
1 はじめに
最近、かつて経験することのなかった原虫による集団発生が、国内外で発生し大きな話題となった。
食品衛生上、当面の対策が必要な寄生虫としては、
1)原虫類
そこで今回専門家の参加を得て、これら食品媒介の寄生虫疾患について検討を行い、当面のとるべき対策について以下の結論を得た。
2 当面とるべき対策
以上の現状及び評価を踏まえ、当面、次の対策をとることが必要である。
(1)国民及び関係者への安全な喫食方法等についての普及啓発
(2)食品からの検出法の確立(主として原虫類)
(3)寄生虫の知識や食品からの検査法に関する研修の実施
(4)国内外での食品の寄生虫汚染の実態および当該疾患の発生状況について情報把握
(5)その他
II.細菌性食中毒の発生状況等
1.腸管出血性大腸菌O157
2.その他
平成9年9月17日
I. 食品媒介の寄生虫疾患対策について
1 はじめに
最近、かつて経験することのなかった原虫による集団発生が、1994年 8月に神奈川県平塚市、1996年 6月に埼玉県越生町(クリプトスポリジウム症)、1997年 4月に米国(サイクロスポーラ症)などで発生し大きな話題となった。また、食品媒介の蠕虫による疾患についても、近年の生鮮食料品の流通手段の革新に伴う流通域の拡大により、今後の多発が懸念される。(別紙1)
寄生虫疾患に関する正確な患者数は不明であるが、食品衛生上、当面の対策が必要な寄生虫としては、
1)原虫類
そこで今回専門家の参加を得て、これら食品媒介の寄生虫疾患について検討を行い、以下の結論を得た。
2 食品を媒介した寄生虫の感染様式等
食品を媒介して感染する寄生虫は多種多様であり、寄生虫の種類によってそれぞれ生活環が異なっているが、食品と寄生虫との結び付きについては、大きく次の二つの場合に分けて考えることができる。ひとつは原虫類のシスト(嚢子)や蠕虫類の虫卵のように食品を外部から汚染することでその食品が感染源となる場合、もうひとつは特定の種類の魚介類や家畜・動物が寄生虫の中間宿主となっていて、それらの魚や肉の中の幼虫が感染源となる場合である。
3 食品を媒介とする寄生虫疾患の発生状況等
1)原虫類
(1)生鮮魚介類により感染するもの
(1)全体的事項
食品媒介の寄生虫疾患については、食品衛生に携わるものを含め国民に十分な関心と必要な知識や技能があるといえず、このことが必要な対策をとる上での問題となりうる。
寄生虫疾患については、最近新興感染症として注目されているもの(クリプトスポリジウム等の原虫)や、従来より我が国で発生しているもの(アニサキス等)があるが、患者発生状況や食品汚染状況については不明な点が多い。
(2)原虫
我が国においては、食品媒介の原虫感染症はほとんど報告されていない。しかし、今後、原虫に汚染された食品が流通する可能性も考えられ、これにより、免疫低下状態にある者等が感染する場合や、健常者であっても赤痢アメーバに感染した者の場合、重篤な症状を呈するおそれもある。
一方、食品中からの検出技術が確立していないものが多く、また、食品汚染実態が不明である。
(3)蠕虫
我が国において、食品媒介の蠕虫感染症は多くの事例が知られており、患者数も多いと推定されているものの、無症状な者や症状の軽微な者が多い。しかし、アニサキス、旋毛虫、旋尾線虫、有鈎嚢虫、マンソン孤虫等は重篤な疾患を引き起こす可能性がある。
寄生虫自体は充分な冷凍処理で旋毛虫の一部を除き、ほとんどが死滅し、十分加熱すれば、すべて死滅する。しかし、安全な喫食習慣のない人々が生食等により様々な寄生虫感染症に罹患しており、特に、イノシシ、クマ等の獣肉やは虫類等を生食(刺身での喫食)した場合、この感染の危険性が高い。
5 当面とるべき対策
以上の現状及び評価を踏まえ、当面、次の対策をとることが必要である。なお、食習慣や食生活は時代的、地域的に多様であり、具体的な対策は現状に即したものとなるよう配慮する必要がある。
(1)国民及び関係者への安全な喫食方法等についての普及啓発
寄生虫に関する正しい知識及び現在知られている寄生虫疾患と食品との関係についての普及啓発が必要である。具体的には、生鮮野菜等については、調理・喫食前によく洗浄すること、魚介類・肉類については、充分な冷凍または加熱することが重要である。特に、イノシシ、クマ、は虫類等の生食による感染事例があることから、これらの生食の危険性を広く国民に周知する事が必要である。
一方、医療関係者に対しても、寄生虫疾患の診断・治療方法について、輸入寄生虫病薬物治療の手引き(平成7年厚生省「熱帯病治療薬の研究開発班」)等の普及をはかる必要がある。また、患者診察時に喫食状況の聞き取り等診断に必要な事項や免疫低下状態にある者等への指導方法等に関して周知する必要がある。
(2)食品からの検出法の確立(主として原虫類)
食品からの原虫類の検出方法は未だ確立していない。このため、原虫類のうち、特に、諸外国において食品との関連が疑われているもの、及び水系感染例が多数発生しており二次汚染等、今後食品と関連する可能性が強いもの、といった観点から、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ及びジアルジアの食品からの検査法の確立が必要である。
また、赤痢アメーバについては限られたリスクグループ内での性感染症として注目されているが、我が国においても、食品関係従事者による食品汚染の危険性に配慮して、感染経路解明及び疫学調査に利用できる検査法の確立を進める必要がある。
(3)寄生虫の知識や食品からの検査法に関する研修の実施
自治体職員に寄生虫に関する知識および食品からの検出技術の向上に関する研修が必要である。
(4)国内外での食品の寄生虫汚染の実態および当該疾患の発生状況について情報把握
現時点では、食品媒介の寄生虫の汚染実態や当該疾患の発生状況が十分に把握されていないことから、食品からの検出方法が確立された後、食品汚染実態調査を実施すべきである。また、国内外の文献調査に引き続き努めるとともに、患者の発生状況の把握に向けた調査研究を進めるべきである。
(5)その他
米国におけるラズベリー汚染が原因と考えられるサイクロスポーラ集団感染事例では、その後、HACCPに基づく生産段階での衛生管理が実施されている。我が国においても、水源の汚染実態を踏まえ(別紙32)、生食用野菜・果実等の汚染の可能性を考慮して、栽培段階における衛生的な水の使用等、対策のあり方を検討すべきである。
II.細菌性食中毒の発生状況等
1.腸管出血性大腸菌O157
2.その他
資料1 | 食品を介して国内での感染と考えられる症例数 大西健児:東京都立墨東病院感染症科 |
資料2 | 食品によって媒介される寄生虫疾患について 川中正憲:国立感染症研究所寄生動物部扁形動物室 |
資料3-1 | An outbreak of cryptosporidiosis from fresh-pressed apple cider. (Millard PS et al.JAMA Nov 23:1592-1596,1994.(Published erratum appears in JAMA 1995 Mar 8;273(10):776)) |
資料3-2 | Outbreaks of Escherichia coli O157:H7 infection and cryptosporidiosis associated with drinking unpasteurized apple cider--Connecticut and New York, October 1996. (MMWR Morb Mortal Wkly Rep 46(1):4-8, 1997.) |
資料4 | Foodborne Outbreak of Diarrheal Illness Associated with Cryptosporidium parvum --- Minnesota. (MMWR 45(36): 783- 784,1996.) |
資料5 | Cryptosporidiosis in England and Wales: prevalence and clinical and epidemiological features.Public Health Laboratory Service Study Group. (Br Med J 300:774-777, 1990.) |
資料6-1 | 汚染された水道水によるクリプトスポリジュウム症の集団発生・埼玉 (羽賀道信ら、病原微生物検出情報 17-9、1996) |
資料6-2 | クリプトスポリジュウムによる集団下痢症発生事例−−神奈川県 (黒木俊郎、病原微生物検出情報 15-11、1994) |
資料7 | 水系感染クリプトスポリジウム症の集団発生と環供水の汚染防止対策の必要性 (井関基弘、日獣会誌 50:375-379, 1997。) |
資料8 | Waterborne giardiasis in the Unite States 1965-84
(C.F.Craun, The Lancet, Aug. 30, 1986 , 513) |
資料9 | An outbreak of foodborne giardiasis.
(Osterholm MT et al.;N Eng J Med., 304(1):24-28,1981.) |
資料10-1 | Food borne giardiasis in a corporate office setting.
(Mintz ED,et al. J Infect Dis.,167(1):250-253,1993.) |
資料10-2 | A food-borne outbreak of Giardia lamblia.
(Petersen LR,et al. J Infect Dis.,157(4):846-848, 1988.) |
資料10-3 | Restaurant-associated outbreak of giardiasis.
(Quick R,et al. J Infect Dis.,166(3):673-676,1992.) |
資料11 | A New Coccidian Parasite(Apicomplexa:Eimeriidae)
(Ortega.Y.R.et al.J.Parasitol 625-629, 1994.) |
資料12 | An outbreak in 1996 of cyclosporiasis associated with imported raspberries. The Cyclospora Working Group. (Herwaldt BL,et al. N Eng J Med, 336(22):1548-1556, 1997.) |
資料13 | Outbreak of Cyclosporiasis --- Northern Virginia-Washington, D.C.- Baltimore, Maryland, Metropolitan Area, 1997. (MMWR 46(30): 689-691, 1997.) |
資料14-1 | Update: Outbreaks of Cyclosporiasis.
(MMWR 46(23): 521-523, 1997.) |
資料14-2 | サイクロスポーラ症の集団発生、1997-米国
(CDC-MMWR 病原微生物検出情報 18-7、1997) |
資料15 | An outbreak in 1996 of cyclosporiasis associated with imported raspberries. The Cyclospora Working Group. (Herwaldt BL,et al. N Eng J Med, 336(22):1548-1556, 1997.) |
資料16 | Amebiasis. ( Infections of the Gastrointestinal Tract Chapter 70 Reed Sharon L.et al. Raven Press Ltd.N.Y.1065-1080:1995) |
資料17-1 | 図説 人体寄生虫学 第5版 (吉田幸雄 改訂 1996、p19) |
資料17-2 | 我が国における赤痢アメーバの感染実態 (奥沢英一ら 病原微生物検出情報 14-8、1994) |
資料18-1 | 日本におけるAnisakidosisの発生状況の解析
(石倉 肇、臨床と研究、72巻5号、1995) |
資料18-2 | 沖縄県におけるアニサキス症について (川平 稔ら、Clin. Parasitol, vol.2, 123-127; 1991) |
資料19-1 | 千葉県鴨川市及び周辺地域において発生したアニサキス症、即時型アレルギー様症状を伴った集団発生例 (安藤由記夫ら、寄生虫学雑誌、41、81、1992) |
資料19-2 | 魚介類寄生のアニサキスに起因する胃腸障害について (神田千瑞枝ら、日本獣医師会雑誌、46、8、704、1993) |
資料20-1 | アニサキス症の集団発生を見た千葉県鴨川市周辺地域において水揚げされたカタクチイワシの寄生虫学的並びに疫学調査 (加藤佳子ら、寄生虫学会誌 41, 5 425-430) |
資料20-2 | 輸入用食用鮮サケ等の寄生虫感染に関する考察について (新妻 淳ら、食品衛生研究、46、5、51-59、1996) |
資料21 | 旋尾線虫幼虫による皮膚爬行症の1才半女児例 (大滝倫子ら、西日皮膚、59、598-600、1997) |
資料21-2 | わが国の寄生虫症の現状 (藤田紘一郎 藤沢薬品工業「感染症」 Vol.25 NO.2 1995.3) |
資料22 | 我が国における日本海裂頭条虫の存在とその患者発生状況 (影井 昇、 病原微生物検出情報 14-7、1994) |
資料23 | 輸入魚介類における寄生虫実態調査と安全性の検討について (丸山文一ら、全国食監協研究会、1997年9月) |
資料24-1 | わが国における大複殖門条虫症患者発生の現状 (影井 昇、病原微生物検出情報、15-3、1995) |
資料24-2 | 静岡県に多発した大複殖門条虫 (記野秀人 静岡県寄生虫研究会第2回総会、1997年9月) |
資料25-1 | 浜名湖周辺河川における横川吸虫のセルカリア、メタセルカリアの寄生状況 (相浦仁美ら、予防医学ジャーナル、325、16-19、1997) |
資料25-2 | Copntrol of Foodborne trematode infections ( WHO Technical Report series 849, 114- 1995, ) |
資料26 | わが国における顎口虫症 (安藤勝彦、皮膚臨床、84、4、517-526、1992) |
資料27 | 予研製肺吸虫症診断用皮内反応抗原の過去10ヶ年の供給状況... (川中正憲ら、Clin. Parasitol, Vol.7, 101-103; 1996) |
資料28 | 我が国におけるマンソン孤虫症患者発生の現状 (影井 昇、 病原微生物検出情報 15-4、1995) |
資料29-1 | 日本における有鉤嚢虫症について (荒木恒治、Clin. Parasitol, Vol.5 , 12 - 24; 1994) |
資料29-2 | 輸入キムチが原因と思われる有鈎嚢虫症の一例 (永倉貢一ら、 病原微生物検出情報 16-5、1996) |
資料30 | Trichinosis Surveillance, United States, 1987-1990 (J.B. McAuley et al. MMWR, Vol .40, No.SS-3, 35-42, 1991) |
資料31-1 | トリヒナ(旋毛虫)について (大林正士、食品衛生研究、Vol.33, 7-18; 1983) |
資料31-2 | Recent news on trichinosis: Another outbreak due to horsemeat consumption in France in 1993 (Dupouy-Camet J. et. al. Parasite, 1994, 1, 99-103) |
資料32 | 全国94調査水源水域における検査状況一覧表 厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課 |
資料33 | 平成9年腸管出血性大腸菌O157による食中毒等発生状況
厚生省生活衛生局食品保健課 |
資料34 | O157 DNA解析結果表 国立感染症研究所 |
資料35 | 食中毒処理要領の別表に定める病因物質による食中毒の発生状況(平成9年4月以降) 厚生省生活衛生局食品保健課 |
資料36 | Salmonella Enteritidis ファージ型分布 国立感染症研究所 |
(別紙略)
問い合わせ先 厚生省生活衛生局食品保健課 堺 食品保健課長 担 当 新木(内2444)、中山(内2450)、津村(内2447) 電 話 (代)[現在ご利用いただけません]
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