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平成9年9月17日

食品衛生調査会食中毒部会
食中毒サーベイランス分科会の検討概要

本日、食品衛生調査会食中毒部会食中毒サーベイランス分科会が開催され、食品媒介の寄生虫疾患対策等について、別添のとおり、検討結果のとりまとめが行われた。
検討結果の主な内容については次のとおりである。


I. 食品媒介の寄生虫疾患対策について

1 はじめに

最近、かつて経験することのなかった原虫による集団発生が、国内外で発生し大きな話題となった。
食品衛生上、当面の対策が必要な寄生虫としては、

イ)全国的に発生が多いもの、あるいは近年増加傾向にあるもの。
ロ)海外では発生が多く日本でも増加が懸念されるもの。
ハ)発生は多くなくとも、重篤な被害が出る恐れのあるもの。
が考えられ、具体的には次のとおりである。

1)原虫類

クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ、ジアルジア、赤痢アメーバ
2)蠕虫類
(1)生鮮魚介類により感染するもの
 アニサキス、旋尾線虫、裂頭条虫、大複殖門条虫、横川吸虫、顎口虫
(2)その他の食品(獣生肉等)により感染するもの
 肺吸虫、マンソン孤虫、有鉤嚢虫、旋毛虫
なお、この他にも食品媒介して感染する寄生虫は多種多様であることが知られている。

そこで今回専門家の参加を得て、これら食品媒介の寄生虫疾患について検討を行い、当面のとるべき対策について以下の結論を得た。


2 当面とるべき対策

以上の現状及び評価を踏まえ、当面、次の対策をとることが必要である。

(1)国民及び関係者への安全な喫食方法等についての普及啓発

寄生虫に関する正しい知識及び現在知られている寄生虫疾患と食品との関係につい ての普及啓発が必要である。

(2)食品からの検出法の確立(主として原虫類)

原虫類のうち、特に、諸外国において食品との関連が疑われているもの、及び水系 感染例が多数発生しており二次汚染等、今後食品と関連する可能性が強いもの、とい った観点から、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ、ジアルジア及び赤痢アメ ーバの食品からの検査法の確立が必要である。

(3)寄生虫の知識や食品からの検査法に関する研修の実施

自治体職員に、寄生虫に関する知識および食品からの検出技術の向上に関する研修 が必要である。

(4)国内外での食品の寄生虫汚染の実態および当該疾患の発生状況について情報把握

食品からの検出方法が確立された後、食品汚染実態調査を実施すべきである。また、国内外の文献調査に引き続き努めるとともに、患者の発生状況の把握に向けた調査研究を進めるべきである。

(5)その他

米国においてラズベリー汚染が原因と考えられるサイクロスポーラ集団感染事例で は、その後、HACCPに基づく生産段階での衛生管理が実施されている。我が国において も、水源の汚染実態を踏まえ、生食用野菜・果実等の汚染の可能性を考慮して、栽培 段階における衛生的な水の使用等,対策のあり方を検討すべきである。


II.細菌性食中毒の発生状況等

1.腸管出血性大腸菌O157

(1) 発生状況
本年の腸管出血性大腸菌O157による食中毒等の発生状況は、9月16日現在、 有症者累計1,234名、うち死者3名である。

(2) DNAパターン分析
前回の食中毒サーベイランス分科会(平成9年7月10日)以降に判明した腸管出 血性大腸菌O157のDNAパターン分析結果をみると、有症者数10名以上の集団 発生(岡山市、千葉県、群馬県)で各々のDNAパターンは一致した。また、岡山市 の事例については、昨年発生した広島県(東城町)及び福岡県(福岡市)の集団発生 事例と同一のパターンを示した。

2.その他

(1) 発生状況
本年4月1日以降9月11日現在、食中毒処理要領の対象とされたエルシニアエンテ ロコリチカO8、カンピロバクタージェジュニ/コリ、サルモネラエンテリティディ ス、腸管出血性大腸菌(O157以外)、ボツリヌス菌による有症者累計はそれぞれ 0名、1,480名、4,056名、270名、0名である。

(2) サルモネラエンテリティディスのファージ型別分析
昨年までと本年の2人以上(家庭内事例も含む)の集団発生におけるファージ型( PT)の傾向を比較すると、PT1及びPT4がそれぞれ40%程度を占め、昨年ま でと同様の傾向がみられていることが明らかとなっている。


平成9年9月17日

食品衛生調査会食中毒部会
食中毒サーベイランス分科会

I. 食品媒介の寄生虫疾患対策について

1 はじめに

最近、かつて経験することのなかった原虫による集団発生が、1994年 8月に神奈川県平塚市、1996年 6月に埼玉県越生町(クリプトスポリジウム症)、1997年 4月に米国(サイクロスポーラ症)などで発生し大きな話題となった。また、食品媒介の蠕虫による疾患についても、近年の生鮮食料品の流通手段の革新に伴う流通域の拡大により、今後の多発が懸念される。(別紙1)
寄生虫疾患に関する正確な患者数は不明であるが、食品衛生上、当面の対策が必要な寄生虫としては、

イ)全国的に発生が多いもの、あるいは近年増加傾向にあるもの。
ロ)海外では発生が多く日本でも増加が懸念されるもの。
ハ)発生は多くなくとも、重篤な被害が出る恐れのあるもの。
が考えられ、具体的には次のとおりである。

1)原虫類

クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ、ジアルジア、赤痢アメーバ
2)蠕虫類
(1)生鮮魚介類により感染するもの
 アニサキス、旋尾線虫、裂頭条虫、大複殖門条虫、横川吸虫、顎口虫
(2)その他の食品(獣生肉等)により感染するもの
 肺吸虫、マンソン孤虫、有鉤嚢虫、旋毛虫
なお、この他食品媒介の寄生虫疾患として別紙2に掲げるものが知られている。

そこで今回専門家の参加を得て、これら食品媒介の寄生虫疾患について検討を行い、以下の結論を得た。


2 食品を媒介した寄生虫の感染様式等

食品を媒介して感染する寄生虫は多種多様であり、寄生虫の種類によってそれぞれ生活環が異なっているが、食品と寄生虫との結び付きについては、大きく次の二つの場合に分けて考えることができる。ひとつは原虫類のシスト(嚢子)や蠕虫類の虫卵のように食品を外部から汚染することでその食品が感染源となる場合、もうひとつは特定の種類の魚介類や家畜・動物が寄生虫の中間宿主となっていて、それらの魚や肉の中の幼虫が感染源となる場合である。


3 食品を媒介とする寄生虫疾患の発生状況等

1)原虫類

(1)クリプトスポリジウム
本原虫は、1984年に米国で発生した集団感染を契機に下痢症の病原体として認知された。患者は激しい下痢にみまわれるが、臨床的には他の下痢症との区別は容易でない。一般的に、健常者では自然治癒するが、小児や免疫不全者においては、下痢が長期化して著しい体力の消耗を来すおそれがある。本症の治療薬はない。
本症は患者あるいは患畜の糞便で汚染された水や食物を媒介して経口感染し、小児を中心とした下痢症あるいは旅行者下痢症の1つとして数えられている。また、欧米では水道水に汚染が及んだ事例が数多く報告されており、1993年の米国ミルウォーキーの事例では感染者は推定で400,000人を超えている。
食物を媒介した事例としては、1993年と1996年に米国でアップルサイダーが原因とされた事例が報告されている。推定患者はそれぞれ160名と11名で(別紙3−1、3−2)、前者の例では患者家族への二次感染も報告されている。また、1995年には米国ミネソタ州でチキンサラダが疑われた事例(推定患者数15名)が発生している(別紙4)。さらに、英国等で行われた2年間にわたる下痢患者の原因調査でおよそ2%(12095名)がクリプトスポリジウム症と診断され、そのうちの9%(102名)は生牛乳が原因食ではないかと推測された報告もある(別紙 5)。
わが国でも1994年(別紙6−1)と1996年(別紙6−2)に飲料水を媒介した大きな集団感染を経験し、合わせて約9,500名の患者が出ている。その他の事例は散発的な報告にとどまっている(別紙7)。
(2)ジアルジア
ジアルジアは世界的に分布しており、特に、熱帯・亜熱帯においては主要な下痢性疾患の病原体となっている。先進国においても、スラム等の不衛生な地域では本症の流行をみるが、一般には旅行者下痢症としての発症例が多い。その他、託児所における集団発生や、男性同性愛者間での感染も見られる。
主な症状は下痢及び腹痛で、下痢は脂肪便(ジアルジア性下痢)であることが多い。自然治癒する場合が多いが、放置すると吸収障害に至ることもある。一般健常者では不顕性感染で終わる事例も少なくない。
わが国においては、第2次大戦直後の時点では国民の5〜10%が感染していたが、その後減少した。近年、米国においては水道水に汚水が混入し本原虫による集団感染事例が1965年から1984年の間に90件あり、23,776名の患者が発生している(別紙8)。本原虫は汚染された飲料水の他に、汚れた手や食器、生野菜等を媒介して感染することも知られている。
食品を媒介し、感染したの事例としては、米国で、不顕性感染の子供のおむつを替えた後で、食品に触れたために汚染が広がった例(別紙9)、従業員食堂で不顕性感染者に調理された生野菜を媒介して27名が感染した例(別紙10−1)、16名が参加したピクニックで不顕性感染者が作ったサラダを媒介して13名が感染した例(別紙10−2)がある。また、本原虫に感染したレストラン従業員が作った氷を媒介として27名が感染した例(別紙10−3)も報告されている。
(3)サイクロスポーラ
本症は新しく見つけられたもので、1994年に病原体名が正式に決定された(別紙11)。本原虫に感染すると長期にわたる激しい下痢を呈する。患者の便中に排出されたオーシストが感染性を持つまでには外界で一定期間の発育が必要であり、成熟したオーシストを経口的に取り込むことにより感染が成立する。従って、クリプトスポリジウムなどの原虫とは異なり人から人への接触感染は起こらない。エイズ患者においても感染が認められているが、有効な治療薬があるために本原虫による死者は報告されていない。
本症の集団感染は1996年に米国及びカナダで相次いで報告され、推定を含め1465名の患者の発生をみており(別紙12)、1997年も引き続き集団感染が見られている(別紙13)。米国CDCの疫学調査結果によればいずれもグアテマラまたはチリから輸入されたラズベリーが感染を媒介したものとして疑われている(別紙14-1、14-2)。このため、米国FDA、CDCの協力の下グアテマラのラズベリー生産農家はHACCPを導入した生産段階での使用水等の衛生管理を行っている(別紙15)。
わが国における発症例としては4例が指摘されているが、食品との関連性は不明である。
(4)赤痢アメーバ
世界的に見た赤痢アメーバ症は相当の数にのぼることが指摘されている(別紙16)。
本症の感染は患者の糞便により汚染された食品や水を経口的に取り込むことにより感染する。本原虫は、盲腸部から結腸にかけて潰瘍性の病巣を形成するいわゆるアメーバ性赤痢あるいは非赤痢性アメーバ性大腸炎等の腸アメーバ症および肝臓など他の臓器に膿瘍を形成する腸管外アメーバ症が知られている。
本症はわが国にも古くから存在し、1950年頃においては年間500例ほどの届け出があったが、1970年代においては、年間10例前後にまで減少している。しかし、1980年代後半以降になると、再び年間100〜150例が発生しており、増加の傾向を示してきている(別紙17−1)。その原因としては食品や飲料水による感染よりも男性同性愛者間での性感染、障害者施設内での感染、あるいは輸入感染症が考えられている(別紙17−2)。
2)蠕虫類

(1)生鮮魚介類により感染するもの

(1)アニサキス
種々の海産魚介類等の生食に起因する。我が国におけるアニサキス症の発生報告は 1980年〜1994年の間に約26,000例にのぼり、1年間に少なくとも2,000〜3,000名のアニサキスによる急性胃腸炎患者があると推定されている(別紙18−1)。1980年までその発生が報告されていなかった沖縄県においても、生鮮魚介類の空輸が始まった時期以後、本症の発生が報ぜられるようになった(別紙18−2)。
従来は散発事例が多かったが、最近では、1988年の千葉県鴨川市でカタクチイワシを媒介とした延べ62名の発生例(別紙19−1)や、1991年1月から3月までの間に山口県萩市で、アニサキス症確定患者90名、疑アニサキス症患者44名の発生があった発生例(別紙19−2)のような集団発生例が報告されている。
また、千葉県における前例に関連して同地域で水揚げされたカタクチイワシについて調査したところ年間を通じて3〜10%の割合でアニサキスが検出された(別紙20−1)。なお、輸入サケ・マス類からもアニサキスが検出されているが、冷凍処理(-20℃、24時間以上)されていないものは感染源となる可能性がある(別紙20−2)。
(2)旋尾線虫
主としてホタルイカの躍り食いや、内蔵付き未冷蔵のものの刺身という新しい食習慣により発生したものである。1980年代半ば頃より次第に増加し現在までに本虫が原因の皮膚爬行症32例、腸閉塞20例、眼寄生1例の報告がある。
一時期ホタルイカの内蔵付き生食が危険であることが指摘され、生産者が自主的に冷凍処理後出荷したこともあり、1995年には本症の報告が激減した。しかしながら最近になって発生報告が首都圏からも現れている(別紙21-1、別紙21−2)。
(3)裂頭条虫
サケ・マス類に寄生する裂頭条虫類の幼虫を摂取することで感染する。症状は比較的、軽微であり、無症状のものが多いが、下痢、腹痛などの症状を呈することもある。
1970年代以前は北陸、東北、北海道に限局されていたが流通手段の革新に伴う流通域の拡大により首都圏や、西日本でもサケ・マス類の生食が行なわれるところとなり近年増加の傾向にある。発生報告は1970年以降、全国で1,200例を超える(別紙22)。
また、特にサクラマスの寄生率は30%と高率であり(別紙22)、冷凍処理のない輸入冷蔵サケが感染源となる可能性が指摘されている(別紙23)。
(4)大複殖門条虫
本虫はヒトへの感染源が特定されておらず、イワシ、カツオ等の海産魚の生食によると推定され、小腸で発育し成虫は最大で10mにもなることがあるが、患者は本虫の感染をその自然排虫によって知ることが多い。ほとんどは下痢、腹痛などの消化器症状にとどまる。
我が国における感染報告は約200例である(別紙24−1)。1996年、静岡県内で1年間に46例もの症例が発生した。原因は生シラス(マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの稚魚の総称)が疑われている(別紙24−2)。
(5)横川吸虫
アユ、シラウオ等の淡水魚の生食により感染する。無症状であることが多いが、多数寄生した場合は下痢、腹痛を起こすこともある。
最近、浜名湖周辺の河川で行なわれた調査報告によれば、1993年から1996年までに捕獲したアユ437尾のうち横川吸虫幼虫が検出されたものは161尾(37%)であった(別紙25−1)。この調査は、依然として我が国のアユは横川吸虫の幼虫を高率に保持しており自然界で横川吸虫の生活環が維持されていることを示している。
わが国での感染者数を約15万人と推定する報告がある(別紙25−2)。
(6)顎口虫
本虫の感染によって腹部、胸部、腰背部に痒みや痛みを伴う移動性の皮膚腫脹(皮膚爬行症)をおこし,治療は現在においても虫体摘出以外に知られていない。
我が国においては感染報告数は1911年から1990年までの間に3,133名にのぼるがその大部分は1946年から1965年の間に発生し原因は雷魚の生食によるものであった。当時、
雷魚の生食が危険であることが広く喧伝され、1970年代前半にはその患者は激減したが、1980年頃より韓国、中国及び台湾から輸入されたドジョウを生食(「踊り食い」)することが一部で流行し皮膚爬行症を起こす顎口虫症(約5年間に90例)、その後、ヤマメ等の生食による顎口虫症(1992年現在12例)、日本産のドジョウやナマズの生食による顎口虫症(1992年現在3例)も報告された(別紙26)。
(2)その他の食品(獣生肉等)により感染するもの

(1)肺吸虫
モクズガニやサワガニ等淡水産のカニの生食、不完全加熱調理又は調理器具等の二次汚染により感染幼虫を摂取する経路と、幼虫に感染したイノシシの生肉を摂取することにより感染する経路がある。血痰、胸水、気胸を起し、時に脳などへの異所寄生により重篤な疾患となる場合がある。近年では、我が国での発生事例のうち4〜 5割は九州地方に発生しているとも推定され(別紙27)、この地方におけるイノシシ肉の生食の食習慣が関与していると考えられる。

(2)マンソン孤虫
ヘビ、カエル、トリ等の肉に寄生している幼虫をこれらの肉を刺身により摂取することにより感染し、体内各部に移動性の腫瘤を形成し種々の症状を起こす。幼虫の寄生部位は皮下織が最も多いが、眼瞼、頭蓋骨、脊髄又は心嚢に寄生し、重篤な症状を示した例もある。
本症の発生報告は全国にわたり1971年から1992年までに、199例をかぞえる(別紙28)。
(3)有鈎嚢虫
成虫である有鈎条虫は広く世界に分布し、本症は、主に有鈎条虫卵の付着した食品の摂食により感染し、各種臓器に有鈎嚢虫の腫瘤を形成する。症状は重篤で、嚢虫が脳、脊髄または眼球に寄生すると痙攣、意識障害、麻痺、精神障害などを起こすことがある。
我が国における有鈎嚢虫症は1908年の初発例以来389例を数えていて、その多くが沖縄での発生である(別紙29−1)。
近年、輸入キムチが原因として疑われれている報告がある(別紙29−2)。
(4)旋毛虫
本虫は成虫がほとんどの哺乳類に寄生することができ、成虫から生み出された幼虫は同一宿主の筋肉に移行して待機する。この宿主筋肉が他の動物に摂食されたとき新たな感染がおきる。従って本虫の感染を予防するには獣肉の生食を避ける事が重要である(別紙30)。
さらに、筋肉中の本虫皮嚢幼虫は食品媒介寄生虫の中では例外的に低温に抵抗性があり、-30℃で6ヶ月冷凍の肉によって感染した例もある。
本症は大量の幼虫が筋肉中に寄生することにより起こり、重症の場合は、貧血、全身浮腫、心不全、肺炎等を併発し死亡することがある。
日本での集団感染例としては、1975年(15名、青森県)、1979年(12名、北海道)1982年(60名、三重県)の3事例で、いずれもクマ肉の生食が原因で起きている(別紙31−1)。
1975年から1994年までにヨーロッパでは馬肉による9事例の集団感染が発生し2,600人以上の患者が発症し、1985年のフランスの事例では642名の患者のうち5名が死亡した(別紙31−2)。
4 評価

(1)全体的事項

食品媒介の寄生虫疾患については、食品衛生に携わるものを含め国民に十分な関心と必要な知識や技能があるといえず、このことが必要な対策をとる上での問題となりうる。
寄生虫疾患については、最近新興感染症として注目されているもの(クリプトスポリジウム等の原虫)や、従来より我が国で発生しているもの(アニサキス等)があるが、患者発生状況や食品汚染状況については不明な点が多い。

(2)原虫

我が国においては、食品媒介の原虫感染症はほとんど報告されていない。しかし、今後、原虫に汚染された食品が流通する可能性も考えられ、これにより、免疫低下状態にある者等が感染する場合や、健常者であっても赤痢アメーバに感染した者の場合、重篤な症状を呈するおそれもある。
一方、食品中からの検出技術が確立していないものが多く、また、食品汚染実態が不明である。

(3)蠕虫

我が国において、食品媒介の蠕虫感染症は多くの事例が知られており、患者数も多いと推定されているものの、無症状な者や症状の軽微な者が多い。しかし、アニサキス、旋毛虫、旋尾線虫、有鈎嚢虫、マンソン孤虫等は重篤な疾患を引き起こす可能性がある。
寄生虫自体は充分な冷凍処理で旋毛虫の一部を除き、ほとんどが死滅し、十分加熱すれば、すべて死滅する。しかし、安全な喫食習慣のない人々が生食等により様々な寄生虫感染症に罹患しており、特に、イノシシ、クマ等の獣肉やは虫類等を生食(刺身での喫食)した場合、この感染の危険性が高い。

5 当面とるべき対策

以上の現状及び評価を踏まえ、当面、次の対策をとることが必要である。なお、食習慣や食生活は時代的、地域的に多様であり、具体的な対策は現状に即したものとなるよう配慮する必要がある。

(1)国民及び関係者への安全な喫食方法等についての普及啓発

寄生虫に関する正しい知識及び現在知られている寄生虫疾患と食品との関係についての普及啓発が必要である。具体的には、生鮮野菜等については、調理・喫食前によく洗浄すること、魚介類・肉類については、充分な冷凍または加熱することが重要である。特に、イノシシ、クマ、は虫類等の生食による感染事例があることから、これらの生食の危険性を広く国民に周知する事が必要である。
一方、医療関係者に対しても、寄生虫疾患の診断・治療方法について、輸入寄生虫病薬物治療の手引き(平成7年厚生省「熱帯病治療薬の研究開発班」)等の普及をはかる必要がある。また、患者診察時に喫食状況の聞き取り等診断に必要な事項や免疫低下状態にある者等への指導方法等に関して周知する必要がある。

(2)食品からの検出法の確立(主として原虫類)

食品からの原虫類の検出方法は未だ確立していない。このため、原虫類のうち、特に、諸外国において食品との関連が疑われているもの、及び水系感染例が多数発生しており二次汚染等、今後食品と関連する可能性が強いもの、といった観点から、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ及びジアルジアの食品からの検査法の確立が必要である。
また、赤痢アメーバについては限られたリスクグループ内での性感染症として注目されているが、我が国においても、食品関係従事者による食品汚染の危険性に配慮して、感染経路解明及び疫学調査に利用できる検査法の確立を進める必要がある。

(3)寄生虫の知識や食品からの検査法に関する研修の実施

自治体職員に寄生虫に関する知識および食品からの検出技術の向上に関する研修が必要である。

(4)国内外での食品の寄生虫汚染の実態および当該疾患の発生状況について情報把握

現時点では、食品媒介の寄生虫の汚染実態や当該疾患の発生状況が十分に把握されていないことから、食品からの検出方法が確立された後、食品汚染実態調査を実施すべきである。また、国内外の文献調査に引き続き努めるとともに、患者の発生状況の把握に向けた調査研究を進めるべきである。

(5)その他

米国におけるラズベリー汚染が原因と考えられるサイクロスポーラ集団感染事例では、その後、HACCPに基づく生産段階での衛生管理が実施されている。我が国においても、水源の汚染実態を踏まえ(別紙32)、生食用野菜・果実等の汚染の可能性を考慮して、栽培段階における衛生的な水の使用等、対策のあり方を検討すべきである。


II.細菌性食中毒の発生状況等

1.腸管出血性大腸菌O157

(1)発生状況
本年の腸管出血性大腸菌O157による食中毒等の発生状況は、9月16日現在、有症者累計1,234名、うち死者3名である。(別紙33)
なお、本年の有症者数10名以上の集団発生は、6月に岡山県市内の病院(有症者数171名)、7月に千葉県の保育園(有症者数25名)及び兵庫県の保育園(有症者数23名)、8月に群馬県の飲食店(有症者数15名)がある。また、O157感染症による死者は3月の横浜市における6歳の女子(O157感染が強く疑われる事例)、7月の奈良県における81歳の女性及び岩手県における70歳代の男性である。
(2)DNAパターン分析
前回の食中毒サーベイランス分科会(平成9年7月10日)以降に判明した腸管出血性大腸菌O157のDNAパターン分析結果をみると、有症者数10名以上の集団発生(岡山市、千葉県、群馬県)、各々のDNAパターンは一致した。また、岡山市の事例については、昨年発生した広島県(東城町)及び福岡県(福岡市)の集団発生事例と同一のパターン(Ia、I、I)を示した。(別紙34)

2.その他

(1)発生状況
本年4月1日以降9月11日現在、食中毒処理要領の対象とされたエルシニアエンテロコリチカO8、カンピロバクタージェジュニ/コリ、サルモネラエンテリティディス、腸管出血性大腸菌(O157以外)、ボツリヌスによる有症者累 計はそれぞれ0名、1,480名、4,056名、270名、0名である。(別紙35)

(2)サルモネラエンテリティディスのファージ型別分析
昨年までの2人以上(家族内事例も含む)の集団発生におけるファージ型(PT)の傾向をみると、PT1が1992年に32%(35/110)に増加し、その後も平均40%を 占め、PT4は1990年より平均40%という高い検出率を占めていた。また、1991年に29%(17/58)を占めていたPT34がその後減少傾向を示したほか、1995年にはPT5が一過的に14%を占め、PT8が少ないながらも毎年検出されていた。
本年(8月31日現在)は、PT1及びPT4がそれぞれ46%(18/39)、38%(15/39)を占め、昨年までと同様の傾向がみられていることが明らかとなっている。(別紙36)
資料1 食品を介して国内での感染と考えられる症例数
大西健児:東京都立墨東病院感染症科
資料2 食品によって媒介される寄生虫疾患について
川中正憲:国立感染症研究所寄生動物部扁形動物室
資料3-1 An outbreak of cryptosporidiosis from fresh-pressed apple cider.
(Millard PS et al.JAMA Nov 23:1592-1596,1994.(Published erratum appears in JAMA 1995 Mar 8;273(10):776))
資料3-2 Outbreaks of Escherichia coli O157:H7 infection and cryptosporidiosis associated with drinking unpasteurized apple cider--Connecticut and New York, October 1996.
(MMWR Morb Mortal Wkly Rep 46(1):4-8, 1997.)
資料4 Foodborne Outbreak of Diarrheal Illness Associated with Cryptosporidium parvum --- Minnesota.
(MMWR 45(36): 783- 784,1996.)
資料5 Cryptosporidiosis in England and Wales: prevalence and clinical and epidemiological features.Public Health Laboratory Service Study Group.
(Br Med J 300:774-777, 1990.)
資料6-1 汚染された水道水によるクリプトスポリジュウム症の集団発生・埼玉
(羽賀道信ら、病原微生物検出情報 17-9、1996)
資料6-2 クリプトスポリジュウムによる集団下痢症発生事例−−神奈川県
(黒木俊郎、病原微生物検出情報 15-11、1994)
資料7 水系感染クリプトスポリジウム症の集団発生と環供水の汚染防止対策の必要性
(井関基弘、日獣会誌 50:375-379, 1997。)
資料8 Waterborne giardiasis in the Unite States 1965-84
(C.F.Craun, The Lancet, Aug. 30, 1986 , 513)
資料9 An outbreak of foodborne giardiasis.
(Osterholm MT et al.;N Eng J Med., 304(1):24-28,1981.)
資料10-1 Food borne giardiasis in a corporate office setting.
(Mintz ED,et al. J Infect Dis.,167(1):250-253,1993.)
資料10-2 A food-borne outbreak of Giardia lamblia.
(Petersen LR,et al. J Infect Dis.,157(4):846-848, 1988.)
資料10-3 Restaurant-associated outbreak of giardiasis.
(Quick R,et al. J Infect Dis.,166(3):673-676,1992.)
資料11 A New Coccidian Parasite(Apicomplexa:Eimeriidae)
(Ortega.Y.R.et al.J.Parasitol 625-629, 1994.)
資料12 An outbreak in 1996 of cyclosporiasis associated with imported raspberries. The Cyclospora Working Group.
(Herwaldt BL,et al. N Eng J Med, 336(22):1548-1556, 1997.)
資料13 Outbreak of Cyclosporiasis --- Northern Virginia-Washington, D.C.- Baltimore, Maryland, Metropolitan Area, 1997.
(MMWR 46(30): 689-691, 1997.)
資料14-1 Update: Outbreaks of Cyclosporiasis.
(MMWR 46(23): 521-523, 1997.)
資料14-2 サイクロスポーラ症の集団発生、1997-米国
(CDC-MMWR 病原微生物検出情報 18-7、1997)
資料15 An outbreak in 1996 of cyclosporiasis associated with imported raspberries. The Cyclospora Working Group.
(Herwaldt BL,et al. N Eng J Med, 336(22):1548-1556, 1997.)
資料16 Amebiasis.
( Infections of the Gastrointestinal Tract Chapter 70 Reed Sharon L.et al. Raven Press Ltd.N.Y.1065-1080:1995)
資料17-1 図説 人体寄生虫学 第5版
(吉田幸雄 改訂 1996、p19)
資料17-2 我が国における赤痢アメーバの感染実態
(奥沢英一ら 病原微生物検出情報 14-8、1994)
資料18-1 日本におけるAnisakidosisの発生状況の解析
(石倉 肇、臨床と研究、72巻5号、1995)
資料18-2 沖縄県におけるアニサキス症について
(川平 稔ら、Clin. Parasitol, vol.2, 123-127; 1991)
資料19-1 千葉県鴨川市及び周辺地域において発生したアニサキス症、即時型アレルギー様症状を伴った集団発生例
(安藤由記夫ら、寄生虫学雑誌、41、81、1992)
資料19-2 魚介類寄生のアニサキスに起因する胃腸障害について
(神田千瑞枝ら、日本獣医師会雑誌、46、8、704、1993)
資料20-1 アニサキス症の集団発生を見た千葉県鴨川市周辺地域において水揚げされたカタクチイワシの寄生虫学的並びに疫学調査
(加藤佳子ら、寄生虫学会誌 41, 5 425-430)
資料20-2 輸入用食用鮮サケ等の寄生虫感染に関する考察について
(新妻 淳ら、食品衛生研究、46、5、51-59、1996)
資料21 旋尾線虫幼虫による皮膚爬行症の1才半女児例
(大滝倫子ら、西日皮膚、59、598-600、1997)
資料21-2 わが国の寄生虫症の現状
(藤田紘一郎 藤沢薬品工業「感染症」 Vol.25 NO.2 1995.3)
資料22 我が国における日本海裂頭条虫の存在とその患者発生状況
(影井 昇、 病原微生物検出情報 14-7、1994)
資料23 輸入魚介類における寄生虫実態調査と安全性の検討について
(丸山文一ら、全国食監協研究会、1997年9月)
資料24-1 わが国における大複殖門条虫症患者発生の現状
(影井 昇、病原微生物検出情報、15-3、1995)
資料24-2 静岡県に多発した大複殖門条虫
(記野秀人 静岡県寄生虫研究会第2回総会、1997年9月)
資料25-1 浜名湖周辺河川における横川吸虫のセルカリア、メタセルカリアの寄生状況
(相浦仁美ら、予防医学ジャーナル、325、16-19、1997)
資料25-2 Copntrol of Foodborne trematode infections
( WHO Technical Report series 849, 114- 1995, )
資料26 わが国における顎口虫症
(安藤勝彦、皮膚臨床、84、4、517-526、1992)
資料27 予研製肺吸虫症診断用皮内反応抗原の過去10ヶ年の供給状況...
(川中正憲ら、Clin. Parasitol, Vol.7, 101-103; 1996)
資料28 我が国におけるマンソン孤虫症患者発生の現状
(影井 昇、 病原微生物検出情報 15-4、1995)
資料29-1 日本における有鉤嚢虫症について
(荒木恒治、Clin. Parasitol, Vol.5 , 12 - 24; 1994)
資料29-2 輸入キムチが原因と思われる有鈎嚢虫症の一例
(永倉貢一ら、 病原微生物検出情報 16-5、1996)
資料30 Trichinosis Surveillance, United States, 1987-1990
(J.B. McAuley et al. MMWR, Vol .40, No.SS-3, 35-42, 1991)
資料31-1 トリヒナ(旋毛虫)について
(大林正士、食品衛生研究、Vol.33, 7-18; 1983)
資料31-2 Recent news on trichinosis: Another outbreak due to horsemeat consumption in France in 1993
(Dupouy-Camet J. et. al. Parasite, 1994, 1, 99-103)
資料32 全国94調査水源水域における検査状況一覧表
厚生省生活衛生局水道環境部水道整備課
資料33 平成9年腸管出血性大腸菌O157による食中毒等発生状況
厚生省生活衛生局食品保健課
資料34 O157 DNA解析結果表
国立感染症研究所
資料35 食中毒処理要領の別表に定める病因物質による食中毒の発生状況(平成9年4月以降)
厚生省生活衛生局食品保健課
資料36 Salmonella Enteritidis ファージ型分布
国立感染症研究所

(別紙略)

 問い合わせ先 厚生省生活衛生局食品保健課
        堺 食品保健課長
    担 当 新木(内2444)、中山(内2450)、津村(内2447)
    電 話 (代)[現在ご利用いただけません]

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