平成9年7月28日
平成9年7月24日付毎日新聞(夕刊)に掲載の「平成9年度厚生白書」に係る記事については、当省におけるエイズ対策の推進について国民に誤解を与える恐れがあり、内容に適正を欠くものであるので、別紙のとおり株式会社毎日新聞社編集局長及び読者室長あて抗議いたしましたのでお知らせいたします。
問い合わせ先 厚生省大臣官房政策課 電 話 (代)[現在ご利用いただけません] (直)03-3591-8963 担 当 辻(内2245)、香取(内2243)
平成9年 7月28日
厚生省大臣官房長
近藤 純五郎
平成9年7月24日付貴誌(夕刊)において、平成9年度厚生白書にかかる記事が掲載されましたが、
(1) 「菅厚相の謝罪、削除」、「「国の責任」1年限り?」という見出しや記事内容は、当該厚生白書が、年次報告の中で菅直人厚生大臣の謝罪と国の責任を明記するとともに、厚生省としての反省の姿勢を示した上で「医薬品による健康被害に対する反省」として再発防止のための改革について記述しているにもかかわらず、これに全く触れず、国民に誤解を与えるものであると言わざるを得ません。
(2) また、掲載された厚生白書に関する写真は、厚生大臣の謝罪に係る箇所が外されており、その内容に公正、公平を欠くものと考えられます。
したがって、誠に遺憾でありますので、以上の件について7月24日に口頭で抗議し、訂正を求めましたが、当方として納得がいく回答が得られませんでしたので、書面にて抗議いたします。また、読者、国民に対する信頼回復のため、訂正記事の掲載など適切な対応を要請します。
2.厚生省としては、エイズ問題の解決と今後の対策の推進について懸命に取り組んできたところであり、平成9年版厚生白書においては、今回の事件に対する深い反省の上に立ち、将来に向かって引き続き一層の取り組みを進めていかなければならない課題として、和解における国の誓約を踏まえた今後のエイズ対策の推進に焦点を当てるとともに、二度とこのような健康被害が起こらないようにするための対応について大幅に紙面を拡充して記述を行っているところである。
3 具体的には、
(1)年次報告において、「未提訴患者との和解の推進」について新たに一項を確保して記述を追加するとともに、
(2)年次報告に加えて特集記事を組み、今回の事件についての厚生省としての反省の姿勢を率直に示した上で、「医薬品による健康被害に対する反省」と題して、再発防止のための改革の方向について詳細に記述を行う、などしたところである。
4.こうしたことから、和解に至る経緯についてはある程度記述を要約し、「1996年2月16日に菅厚生大臣が原告弁護団に会い、国の責任を認めた上で謝罪した」旨の事実関係の記述は省略したところではあるが、「和解の際に取り交わされた確認書において、菅厚生大臣(当時)は、裁判所の所見を真摯かつ厳粛に受け止め、血友病患者のHIV感染という悲惨な被害を拡大させたことについて指摘された重大な責任を深く自覚し、反省して、患者及び家族の方々に深く衷心よりお詫びした」という、確認書における厚生大臣の謝罪と国の責任に関する記述をし、国としての事件に関する基本的な立場を明らかにしているところである。
この記述は、菅厚生大臣による謝罪と国の責任についての認識を当然に含んでいるものである。
5.従って、厚生白書の記載内容のごく一部のみを取り上げ、「国の責任一年限り」「菅厚相の謝罪、削除」といった見出しを付けて掲載されている今回の毎日新聞の記事は、明らかに事実を誤認したものであり、国民に大きな誤解を与えるものであると考えられる。
(1) 和解に至る経緯
我が国において報告されたHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者の累計は,1997(平成9)年2月末現在,4,028名であり,そのうち血液製剤によるものは1,872名である。また,エイズ(AIDS,後天性免疫不全症候群)の発症者(死者を含む)は,同じく全体で1,484名であり,そのうち血液製剤による者が641名である。
血友病治療のために使用していた血液製剤によりHIVに感染し,被害を被ったことに対する損害賠償請求訴訟が,国および製薬企業5社を被告として,1989(平成元)年5月に大阪で,同年10月に東京で相次いで提起され,大阪,東京両裁判所は,1995(平成7)年10月6日,和解勧告を行った。
和解勧告に当たって,両裁判所は所見を示した。東京地方裁判所は,当時,血液製剤を介して伝播されるウイルスにより血友病患者がエイズに罹患する危険性やエイズの重篤性についての認識が十分でなく,期待された有効な対策が遅れたため,血友病患者のエイズ感染という悲惨な被害拡大につながったこと,被告らは,原告らが被った甚大な感染被害を早急に救済すべき重大な責任があること,エイズの重篤な病態と被害者や遺族の心情に深く思いを致すとき,本件については一刻も早く和解によって早期かつ全面的に救済を図る必要があること,とした。
森井忠良厚生大臣(当時)は,裁判所の和解勧告の趣旨を重く受け止め,1995(平成7)年10月17日に和解の席に着くことを表明した。
1996(平成8)年3月7日には,裁判所から第2次和解案が示され,原告および国,製薬企業がこれを受け入れて,3月29日に和解が成立した。
(2) 和解および確認書の内容
和解の際に取り交わされた確認書において,菅直人厚生大臣(当時)は,裁判所の所見を真摯かつ厳粛に受け止め,血友病患者のHIV感染という悲惨な被害を拡大させたことについて指摘された重大な責任を深く自覚し,反省して,患者および家族の方々に深く衷心よりお詫びした。
また,サリドマイド,キノホルムの医薬品副作用被害に関する訴訟の和解で,薬害の再発防止を確約したにもかかわらず,再びこのような悲惨な被害をもたらしたことを深く反省し,その原因についての真相究明に一層努めるとともに,国民の生命,健康を守るべき重大な責務があることを改めて深く認識し,本件のような医薬品による甚大な被害を再び発生させることがないよう,最善,最大の努力を重ねることを確約した。
(3)未提訴患者との和解の推進
1996(平成8)年3月29日に和解が成立したのは,東京地方裁判所,大阪地方裁判所合わせて 118名の患者であり,和解に当たって取り交わされた確認書においては,未提訴者については提訴を待って証拠調べを実施した上,順次和解の対象とすることとされた。これを受けて,厚生省としても,未提訴患者との和解の推進に全力をあげて取り組んでおり,1996(平成8)年10月以降,和解のための提訴の呼びかけに関する依頼を,全国の血友病治療医師等に対し重ねている。
この結果,約1,800名から2,000名といわれる血液製剤による HIV感染者のうち,1997(平成9)年3月末現在,1,179名の患者(うち非血友病患者7名)が提訴し,このうち1,054名との和解が成立している。