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21世紀初頭に向けての在宅医療について

1.はじめに

○ 我が国は欧米諸国と比べ短期間のうちに少子・高齢の長寿社会へと進み、 疾病構造については感染症中心から慢性疾患中心へと変わってきている。
在宅における要介護老人等の状況についてみれば、平成7年度約170万 人から平成17年度においては約250万人へ増加すると推計され、また、 病気や障害を有している患者の多くはできるだけ地域・家庭において日常生 活を送ることを望んでいる。さらに、患者・国民の医療に対する要求は多様 化しており、医療や医療関連サービスについては快適性を含むサービスの質 の高さや患者個々人に合ったものを選択できるサービスの種類と量が求めら れている。

○ 在宅医療における施策としては、昭和56年に診療報酬上自己注射指導管 理料が新設されて以来、診療報酬上自己腹膜潅流など種々の在宅医療技術の 導入や訪問看護ステーションの創設が行われた。平成4年には医療法におい て在宅医療が法律上明らかにされ、平成6年には健康保険法において在宅医 療が療養の給付として法律上位置づけられるなど、在宅医療について様々な 施策が講じられてきた。

○ 目下、介護保険制度の創設が予定されており、これによって在宅介護の基 盤整備が促進され、今後顕在化してくる在宅医療への要請にも対応できるよ うその提供体制の整備が急務となっている。

○ しかしながら、在宅医療の質・量及びその提供体制は国民の要請に応える だけのものに至っているとは言い難い状況にある。
このため、本検討会は、今後適切な在宅医療が提供できるよう、在宅医療 の在り方及び在宅医療関連サービスの活用策について検討するため、平成8 年12月に設置され、計7回にわたる審議を行ってきた。この度、以下のと おり意見のとりまとめを行った。

2.今後の在宅医療の基本的考え方

○ 大多数の国民は、病気に罹患してもできる限り住み慣れた地域・家庭にお いてその家族とともに生活し、通常の社会生活を送ることを希望している。
在宅医療の目的は、このような患者の希望を実現するため、主として患者 宅における適切な医療提供を通じて、可能な限り患者の精神的・肉体的な自 立を支援し、患者とその家族のQOL(生活の質)の向上を図ることにある といえる。

○ 在宅医療は、現状では入院医療と比較すれば必ずしも医療管理上十分とい えない面があるが、医療において患者のQOLの維持・向上の観点は大変重 要であるため、在宅医療の医療管理上の問題を解決していくなど在宅医療に 対する行政や医療従事者側の積極的な取組みが必要な時期にきている。

○ 在宅医療の取組みに当たり、その提供体制を早急に確立するだけでなく、 入院医療においても、急性期リハビリテーションの充実をはじめとした診療 機能を高め患者が在宅医療に速やかに移行できる医療機関内の診療体制を確 立することが重要である。

○ こうした取組みを通じて、慢性疾患患者に対する医療提供体制については、 従来の「入院医療を中心とした医療提供体制」から「在宅患者を支援する医 療も重視した医療提供体制」へと転換させ、さらに、このような医療提供体 制を定着させるためには、在宅医療が地域・家庭等一般社会の中で実践され ることに鑑み、その体制を一般社会のシステムの中に組込んでいくことが必 要である。

○ 医療提供に当たっては、在宅患者の多様な要求に効率的かつ適切に対応するため、医師自身が関与できるところまでで終わりといういわゆる「医師自 己完結型医療」でなく、適確な診療計画の下に薬剤師、看護婦等の各職種の 独自性を尊重したかかりつけ医によるチーム医療の展開が求められている。

○ 一方、患者とその家族は、在宅療養に精神的、肉体的及び経済的不安や負 担を感じているケースも多い。
在宅医療の目的を達成するためには、在宅医療に適合した医療提供体制及 び医療保険制度の整備に加え、患者とその家族の生活面をも含む支援システムの充実が不可欠である。

○ 在宅患者の療養を継続させていくためには、医療分野だけでなく、福祉や 医療関連サービス等他の分野との連携による総合的な対応が必要であり、こ れを可能とする福祉施設の充実等他の分野の体制整備が必要である。また、 患者を取り巻く地域社会、産業社会の理解と協力も重要である。

○ 在宅医療に携わる関係者は患者自身も含めて多数・多岐にわたっており、 患者を中心とした関係者の密接かつ自覚的な連携による効率的なシステムの 構築が在宅医療推進の重要な鍵になる。

○ 以上の点を踏まえ、本検討会は今後の在宅医療の在り方及び在宅医療関連 サービスの活用策について検討する。

3.今後の在宅医療の方向

(1)患者が在宅医療を主体的に選択できるための体制整備

(1) 適切な在宅医療を提供できる医療機関の確保と医療情報の提供の推進

○ 在宅医療については、地域の診療所や中小病院の医師・歯科医師が積極的 に取り組むことが期待されるが、在宅医療を担う医師・歯科医師は、「治療 一辺倒の医療」ではなく「患者のQOLに配慮した医療」を追求することが 必要である。このため、いわゆる「医師自己完結型医療」ではなく「保健・ 医療・福祉等の関係者からなる連携」による対応が求められており、特にか かりつけ医・かかりつけ歯科医としての医師・歯科医師の意識改革が必要である。
また、在宅医療を適切に実施できる医療機関は充足されておらず、このような医療機関の増加が期待されている。このためには、在宅医療を適切に実 施できる医療従事者を育成していくことが必要である。

○ 医療従事者の卒前・卒後教育において、更に一層その内容を充実させ、在 宅医療に必要な知識・技術を修得させるのみならず、在宅医療の目的や意義 を十分認識させることが必要である。特に、医師、歯科医師については、臨 床研修施設群の中に在宅医療を積極的に実践している診療所や病院を加える など、臨床研修において在宅医療に関する臨床技術について学ぶ機会を与え ることが必要である。また、薬剤師についても、実務実習・研修を通じて、 末期医療における麻薬の取扱いをはじめとする在宅医療に必要な知識・技術 を体得することが望まれる。
また、生涯教育等においても、医療従事者が最新の在宅医療の知識・技術 について研修できる場を設けることが必要である。

○ なお、現状においては在宅医療はその知識・技術の体系化が必ずしも十分 図られておらず、学問として未だ確立しているとは言い難い。このため、よ り適切な在宅医療を実践するため、いわゆる「在宅医療学」が関係学会等の 努力によって速やかに確立されることを期待したい。

○ 患者が医療機関を選択する際、どの医療機関でどのような在宅医療が実施 されているのかといった情報が必要となる。しかしながら、現状では患者に 対して必ずしも在宅医療に関する情報が十分提供されているとは言い難い。
このため、住民に身近な地方自治体、医療関係団体、保険者等において、 地域住民へ適切な医療情報の提供の推進を図るとともに、在宅医療に関する 広告についても、正確性と客観性を担保できる事項についてはその表示が可能となるよう検討する必要がある。

(2) 医療・福祉等患者の相談に全般的に対応できる体制の整備

○ 患者の在宅療養に関わる関係職種、人員は多岐多様にわたり、その相互の 密接な連携が必要であるということは従来から言われてきたところである。 しかし、医療分野については医師が在宅医療全般にわたる診療計画の策定 ・管理と医療従事者間の調整を担うことになるが、患者の立場に立てば医療 の問題にとどまらず、対患者との関係で各種サービスの総合的な相談・調整 の役割を果たす者の存在が必要である。

○ この役割は、在宅療養全般にわたる保健・医療・福祉及び関連サービスに ついて、患者とその家族の意向の下、患者にとって必要なサービスを総合的 に設計し、実際のサービスの提供者を調整し、在宅療養進行中に患者・家族 に発生する様々な要求に対して的確に対応することである。

○ こうした患者とのサービスの相談・調整の機能は、在宅医療の分野におい て必ずしも明確に認識されておらず、また、かかりつけ医機能を有した診療 所や病院、訪問薬剤管理指導を行う薬局、訪問看護ステーション、在宅医療 関連サービス事業者等の様々な主体者がサービスの相談・調整の機能をどの ように果たし得るものか今後の検討課題である。

(3) 在宅医療の適切な導入

○ 在宅医療の導入の判断は医師の医学的判断に基づくものであり、その判断 の主たる根拠は患者の医学的条件によっているが、患者の希望や在宅医療に 関する理解力あるいは家族の協力等人的条件、在宅療養が可能な家屋かある いは良好な衛生環境かといった居住環境条件等を加味して判断することが必 要である。

○ 患者が在宅医療を適切に選択できるよう、医師は在宅医療の導入のための 判断条件を明確化して、患者に分かりやすく説明することが必要である。
その際、在宅医療の内容・実施上の体制等について、後に患者とその家族 が再度確認することができるよう文書や図解等を活用した説明が望まれる。

○ 一方、患者においては、在宅医療を選択するに当たり、在宅医療の目的・ 意義及び自己管理の重要性をよく理解し、医療に積極的に参画して、自ら健 康的な生活を維持していくという自覚を持つことが肝要である。こうした観 点から、在宅医療について国民の理解が深まるよう、関係者による意識啓発 が必要である。

○ 在宅医療への移行後、患者の全般的な医学管理については医師によってい るが、安全で良質な在宅医療を提供するために、かかりつけ医による在宅医 療全般にわたる診療計画を予め策定するとともに、関係する医療従事者にお いてもその計画に基づき医療提供に関する計画を予め策定することが必要で ある。これによって、患者の治療目標及び医療従事者各々の役割分担等につ いて関係者間で共通の認識を保持しておくことが必要である。
また、計画策定後必要に応じて、診療の実施状況を評価し、診療計画等を 見直すことが必要である。
かかりつけ医等は、患者とその家族も医療チームの一員であるとの認識から、患者とその家族に診療計画等を開示又は提供し、これにより、患者とそ の家族はその診療計画の目標等について十分理解しておくことが必要である。

(4) 在宅患者への在宅医療支援体制の整備

ア かかりつけ医・かかりつけ歯科医機能の普及・定着

○ 在宅医療の推進に当たっては、かかりつけ医の役割は大きく、患者にふさ わしい在宅医療が提供されるよう、かかりつけ医は医療チームのとりまとめ 役としての役割を果たすことになる。

○ かかりつけ医は、患者のQOLの維持・向上のために予防的視点からも診 療に当たるとともに、患者のみならず患者の介護に当たる家族の健康管理に ついても配慮するなどプライマリ・ケアの実践が求められる。

○ かかりつけ歯科医は、患者を担当するかかりつけ医との連携を密にし、在 宅患者に対する歯科治療のみならず、口腔ケアの継続的な管理の観点からの 取組みが求められる。

○ 在宅患者の医療上の多様な要求に適切に対応するためには、かかりつけ医 はその専門外の分野について対応できる医師や歯科医師と連携したグループ 診療を実践することが効果的であり、これによって、在宅患者の継続的な療 養が可能となる。

○ また、在宅における医薬品使用・保管の安全確保の観点から、患者とその 家族への薬剤師による服薬指導、医薬品の保管管理等についての情報提供及 び医薬品等の使用に伴う副作用等についての情報収集は重要であるため、か かりつけ医・かかりつけ歯科医は、薬剤師と連携して在宅医療を進めること が必要である。このため、薬局においても、かかりつけ薬局として在宅医療 への積極的な取組みが求められる。

○ かかりつけ医が適切な診療計画を立てるためには、医療関係団体、福祉関 係団体、地方自治体等が協力して、必要な情報を相互に提供できる体制を整 えるとともに、このような連携が確固としたものになるよう関係者間の信頼 関係の構築が不可欠である。

イ 在宅患者の不安に対応できる緊急時のシステムの確立

○ 患者が在宅療養を継続するためには、患者とその家族が在宅療養において 安心感を持つことが大切である。
このため、在宅患者が医療上不安を持った場合いつでも相談でき、医療機 関等が患者に対して速やかに対応できる体制づくりが必要である。

○ 24時間対応可能な支援体制としては、グループ診療の推進、かかりつけ 医と患者相談を常時受付ける訪問看護ステーションや在宅介護支援センター との連携体制づくりなどが望まれる。
その際、かかりつけ医は在宅患者の急性増悪等緊急時に適切に対応できるよう、予め再入院時の病床の確保に努めておくことが必要である。このため、 診療所の場合は病院との連携体制を予め確保しておく必要があり、特に、地 域医療支援病院の役割は大きい。

○ また、在宅医療機器・機材が故障時に速やかに対応できるよう、医療機関 又は在宅医療関連サービス事業者等において相談窓口及び対応手順を予め設 け、患者に緊急時の対応を示しておく必要がある。

○ 緊急時、医療機関等が対応するまでの間は、患者とその家族自身ができる だけ応急処置を行うことが望ましく、患者とその家族は困った状況に至った 場合の対応を平素からかかりつけ医による療養指導や研修等を受けて予め習 熟しておくことが望ましい。

ウ 訪問看護ステーションの充実等

○ 診療所や中小病院において、在宅医療を推進していくためには、医療機関 との連携を念頭においた訪問看護ステーションやホームヘルパーステーショ ン等の整備を推進していくことが重要である。
患者の利便の向上と医療提供の効率性の観点から、訪問看護ステーション においては、介護職員の配置やホームヘルパーステーションとの一体的整備 等連携の緊密化を推進すべきである。

○ 訪問看護を推進する上で、患者宅において看護婦による気管カニューレの 交換など個別具体的指示を必要とする医行為に関して、適切な実施を確保す るため、その標準的な作業手順について早急に検討すべきである。併せて、 静脈注射の取扱いについても検討すべきである。また、訪問リハビリテーシ ョンについても、理学療法士・作業療法士に必要な標準的な作業手順につい て早急に検討すべきである。

○ 訪問看護ステーションの看護婦が訪問した際に、医師の指示の下、速やか に必要な医療材料や衛生材料を提供できるよう、訪問看護ステーションにお けるその診療報酬上の取扱いについて検討すべきである。併せて、薬局にお いても医師の指示に速やかに対応することがきるように同様の措置について 検討すべきである。

○ 在宅患者の口腔ケアに適切に対応できるよう、口腔ケアの技能の更なる向 上や適切な提供の在り方等歯科保健の充実について検討する必要がある。

エ 患者・家族への教育・研修の充実

○ 適切な在宅医療の水準を確保するため、医療従事者がより安全で良質な在 宅医療を提供していくのは当然のことであるが、日常生活にわたり在宅医療 について最も注意を払える立場にあるのは患者とその家族であり、その役割 を重視して、患者とその家族への教育や研修を充実することによって、その 自己管理力を高めていくことが重要である。

○ このように、適切な在宅医療の水準を確保するためには、患者とその家族 が在宅医療に必要な知識・技術を有していることが必要となる。
このため、医療関係団体等の協力を得つつ、保険者を始めとした関係者に よる患者・家族向け手引きの作成・普及と患者・家族向け在宅医療研修の実 施が必要となる。研修の場としては、市町村保健センターや保健所等の活用 が考えられる。
なお、厚生省において在宅医療の一部の分野に関する患者・家族用及び医 療従事者用手引きが既に作成されており、これらが診療の場や研修の場にお いて活用されることを期待する。

(5) 在宅医療関連サービス事業の推進

○ 在宅医療関連サービス事業者においては、医療機関から在宅患者の要求に 関する情報を得ることが多いが、「患者のQOLに配慮した医療」という視 点から、特に在宅患者の介護分野を含めた在宅支援といった領域で患者側に 発生する多様な要求に対応するため、一層の努力と創意工夫が求められてい る。
また、在宅医療関連サービス事業者が、在宅患者の要求を的確に満たすた めには、医療機関、訪問看護ステーション、薬局との連携が重要である。

○ 現状では、在宅医療関連サービス事業者が薬局の経営を行うことが可能と なっているが、今般、政府の規制緩和推進計画に基づき指定訪問看護事業へ の企業の参入が予定されている。これにより、在宅医療関連サービス事業者 等において、訪問看護と在宅医療関連サービスとの一体的な展開が可能とな り、在宅患者の多様な要求への対応が可能となる。

○ 医療提供に付随したサービスについては、医療機関との連携の下、患者の 状況に応じ、注射薬、医薬品、衛生材料及び在宅医療機器等が円滑に患者の 下に届くよう、安全性を確保しつつ、患者の立場に立った、効率的な提供シ ステムを検討すべきである。
また、かかりつけ医・かかりつけ歯科医の在宅診療の支援(在宅診療機器 のレンタル等)といった分野への積極的な取組みも必要である。

○ 在宅医療関連サービス事業者には、生活支援サービス[ 給食(治療食等) ・食材サービス、患者搬送サービス、入浴サービス、ホームヘルプサービス、 緊急通報サービス等 ]への積極的な取組みが期待されるほか、患者、その家 族、医療従事者の情報交換の場を支援するといった新しい事業の展開が考え られる。

○ 安全で良質な在宅医療関連サービスを提供するためには、良質な人材の確 保が必要であり、在宅医療関連サービス事業者自身において適切な研修の実 施が不可欠である。
また、事業者自身による安全衛生管理の徹底等品質管理の積極的な取組み も必要である。このため、品質管理の標準的な作業手順を作成すべきである。
さらに、患者や医療機関等が在宅医療関連サービスを安心して選べるよう に、サービスの内容は勿論、品質に関する客観的かつ正確な情報について患 者等に提示又は公開を行うべきである。

(2)在宅医療推進のための技術開発

(1) 在宅医療の新技術等の開発の推進

○ 在宅患者が継続的な療養を可能とするためには、患者とその家族が使いや すく、安全で、故障が少なく耐久性のある、できる限り小型の在宅医療機器 ・機材が開発される必要がある。

○ また、訪問診察の際、在宅において、医療従事者が使いやすく、安全で、 持ち運びやすい、小型の検査・治療・処置用医療機器・機材の開発を推進し ていくことも必要である。
現状では、在宅医療機器の部品は互換性がない場合が多いため、在宅医療 の推進に支障を来している。このため、故障時に医療機関等が速やかに修理 等の対応ができるよう、メーカー間における部品の互換性が確保される機器 の開発が望まれる。

○ 自己腹膜潅流や酸素療法の技術が導入され、当該患者が在宅での療養が可 能となったように、在宅医療が可能となる新医療技術(医薬品開発を含む) 開発を積極的に進めていくことが必要である。

(2) 遠隔医療の推進

○ 遠隔医療の活用によって、患者宅において、かかりつけ医は診察する際に 画面を介して自ら又は専門医よる診療支援を得て治療に当たり、また、看護 婦等は医師・歯科医師の遠隔指示の下で診療の補助を適切に実施できるなど、 効率的で質の高い在宅医療の提供が期待される。
このため、遠隔医療技術の研究開発を進め、そのシステムの普及を図る必 要がある。

(3) 情報通信技術を活用した処方せん(電子処方せん)等の活用

○ ファクシミリや電子メール等情報通信技術を活用した処方せんの発行や訪 問看護指示書等の取扱いについては、患者とその家族の利便や効率的な在宅 医療の提供が図れるという観点から、現状では処方した医師・歯科医師の確 認の問題があるが、それらに関する電子的な認証技術の開発状況等を踏まえ て、今後見直すことが必要である。

(4) 医療情報の共有化と患者プライバシーの保護

○ 在宅医療の実施に当たっては、在宅医療等を提供する関係者間での患者情 報の共有化が必要である。現状では、連絡帳、電話、ファクシミリ等を活用 して様々に関係者間で連携をとっているが、今後は、情報通信技術を活用し て患者情報の一元的管理を行い、必要に応じて医療従事者等がその情報を活 用できる体制を整備していくことが望ましい。その活用に際しては患者のプ ライバシーの保護が遵守される必要があるため、そのための技術開発が急務 である。

(3)在宅医療推進のための環境整備

(1) 医療計画に基づく計画的な体制整備

○ 住み慣れた地域社会の中で患者の在宅医療の要求を充足させるため、二次 医療圏ごとに必要な在宅医療が提供される体制の整備を進めることが必要で ある。
現状では、医療計画上在宅医療を取り上げている都道府県は少ない。
このため、医療法改正を受け、医療計画作成指針の改定に際して、在宅医 療に関する事項の記載を義務化し、都道府県において計画的にその体制整備 を図っていくことが必要である。医療計画の立案に際しては、老人保健福祉 計画や介護保険事業計画との整合を図ることが必要である。

(2) 患者負担の在り方

○ 在宅医療における患者負担については、入院医療との均衡を図るという観 点から、治療上必要なサービスであって在宅医療として医療上適切なものに ついては公的医療保険の給付の適用範囲とすることを基本に、検討すべきで ある。

○ また、患者のQOLの向上の観点から、患者が自己にふさわしいサービス を自由に選択できるように、公的医療保険で給付しないサービスに対しては 民間保険の活用等が考えられる。

(3) 居住環境の整備等

○ 患者が住み慣れた自宅で在宅療養が可能となり、それが継続できるために は、良好な衛生環境の下、手すりの取付けや段差解消等住宅改修あるいは福 祉用具の活用などによる居住環境の整備を推進することが必要である。

○ 患者の社会活動の機会の拡大を図るため、職場や学校等において患者への 理解と在宅医療患者に対する療養への配慮が望まれる。

(4) 在宅医療廃棄物の処理方式の確立

○ 在宅医療に伴い患者宅から排出される廃棄物の中には感染性廃棄物が含ま れており、今後在宅医療の普及に伴いその排出量が増大することが考えられ る。
現状では、市町村によっては在宅医療廃棄物の取扱いが異なっており、在 宅医療に係る感染性廃棄物の適切な処理方式について早急に検討する必要が ある。

(4)在宅医療の類型別提供体制の整備

○ 在宅医療について敢えて分類すれば、「看護や介護が中心の在宅医療」、 「患者自ら医療技術を用いる在宅医療」及び「在宅末期医療」の3類型に分類 され、適切な在宅医療を推進していくためにはそれぞれの類型の特性に応じ た在宅医療の提供体制を整備していくことが必要である。

○ 「看護や介護が中心の在宅医療」については、主に予防や生活面を重視し た在宅医療が大切であるため、患者に身近な診療所等と連携をとり訪問看護 や訪問リハビリテーションを主とした医療提供が必要である。その際、患者 の状態に応じてデイ・ケア、診療所におけるショートステイや在宅福祉サー ビスを利用できる体制づくりが重要である。
特に、老人性痴呆患者については、在宅において24時間の対応が必要と なる場合が多くなるため、在宅福祉サービスとの連携を図ったサービス提供 体制づくりが大切である。

○ 「患者自ら医療技術を用いる在宅医療」については、患者の自己管理を支 援し予防を重視した医学的管理が大切であるため、患者に身近な診療所等に よる医療提供が必要である。しかしながら、現在必ずしも在宅酸素療法等を 適切に実施できる医療機関自体が多くなく、これを実施できる医療機関の増加が期待されている。
当面、患者が受診している医療機関が遠方にある場合は、その医療機関は 一般的な医学的管理と緊急時の往診について、患者に身近な診療所等との連 携を構築することも必要である。
医療機関と在宅医療機器・機材等を供給する在宅医療関連サービス事業者 等と密接な連携体制をつくる必要がある。

○ 「在宅末期医療」については、疼痛等症状の緩和や緊急の症状の変化への 対応及び生活面を重視した在宅医療が大切であるため、24時間対応可能な 患者への支援体制の下、患者に身近な診療所等と連携をとり精神的ケアを重 視した訪問看護その他の医療提供が必要である。併せて、在宅支援施設とし ての緩和ケア病棟の整備やホームヘルプサービス等を利用できる体制づくり が重要である。
特に、診療所医師等における疼痛管理技術の普及とともに、麻薬を取り扱 うことのできる薬局の確保が必要である。
また、家族が患者の症状に対して適切な処置や緊急時の対応をある程度実 施できることが必要であるため、医療従事者による家族への十分な療養指導 等が重要である。

4.おわりに

○ 今後の在宅医療の推進について、患者の視点に立って提言を行った。
この内容は広範、多岐にわたり、多くの諸官庁の担当部局に関係している が、行政、特に厚生省においてはこれら課題に積極的に取組むことを切望す るものである。しかし、行政の対応だけでは十分解決できない問題もあり、 医療関係者及び国民各層が在宅医療の意義を認識し、それぞれの自覚と努力 の下に在宅医療に係る体制の整備を図り、21世紀の高齢社会が真に国民生 活の豊かさを実感できるような社会になることを期待したい。



21世紀初頭に向けての在宅医療について

−報告書概要−

1.経緯

○ 介護保険制度の創設が予定され、在宅介護の基盤整備が促進されることに なるが、在宅医療の質・量及びその提供体制は国民の要請に応えるだけのものに至っているとは言い難い状況。
このため、在宅医療の推進に関する本検討会が平成8年12月に設置され、 今後適切な在宅医療が提供できるよう、在宅医療の在り方及び在宅医療関連 サービスの活用策について計7回にわたって審議。

2.今後の在宅医療の基本的考え方

○ 在宅医療の目的は、主として患者宅における適切な医療提供を通じて、可 能な限り患者の精神的・肉体的な自立を支援し、患者とその家族のQOL (生活の質)の向上を図ること。

○ 慢性疾患患者に対する医療提供体制については、「在宅患者を支援する医 療も重視した医療提供体制」へと転換させることが必要。

○ 医療提供に当たっては、適確な診療計画の下に薬剤師、看護婦等の各職種 の独自性を尊重したかかりつけ医によるチーム医療の展開が必要。

○ 在宅医療の目的を達成するためには、在宅医療に適合した医療提供体制及 び医療保険制度の整備に加え、患者とその家族の生活面をも含む支援システ ムの充実が不可欠。

○ その際、医療分野だけでなく、福祉や医療関連サービス等他の分野との連 携による総合的な対応が必要。

○ 患者を中心とした関係者の密接かつ自覚的な連携による効率的なシステム の構築が在宅医療推進の重要な鍵。

3.今後の在宅医療の方向

(1)患者が在宅医療を主体的に選択できるための体制整備

(1) 適切な在宅医療を提供できる医療機関の確保と医療情報の提供の推進
○ 在宅医療については、地域の診療所や中小病院の医師・歯科医師が積極的 に取り組むことを期待。
在宅医療を適切に実施できる医療機関の増加及び医療従事者の育成が必要。
「在宅医療学」の確立が必要。
○ 住民に身近な地方自治体や医療関係団体等において、地域住民へ医療情報 の提供の推進。
在宅医療に関する広告については、正確性と客観性を担保できる事項につ いてはその表示が可能となるよう検討。

(2) 医療・福祉等患者の相談に全般的に対応できる体制の整備
○ 保健・医療・福祉にわたり総合的な相談・調整の役割を果たす者の存在が 必要。
診療所、在宅医療関連サービス事業者等の様々な主体者がサービスの相談 ・調整の機能をどのように果たし得るものか今後の検討課題。

(3) 在宅医療の適切な導入
○ 医師は在宅医療の導入のための判断条件を明確化して、患者に分かりやす く説明。
○ 一方、患者においては、医療に積極的に参画して、自ら健康的な生活を維 持していく自覚が重要。関係者による意識啓発が必要。
○ かかりつけ医等は、診療計画等を策定し、患者とその家族に診療計画等を 開示又は提供し、これにより、患者とその家族はその診療計画の目標等につ いて十分理解しておくことが必要。

(4) 在宅患者への在宅医療支援体制の整備
ア かかりつけ医・かかりつけ歯科医機能の普及・定着
○ かかりつけ医は医療チームのとりまとめ役の他、プライマリ・ケアの実践 者。
○ かかりつけ歯科医は、口腔ケアの継続的な管理の観点からの取組みが必要。
○ 在宅医療においてグループ診療が効果的。
○ 医薬品使用・保管の安全確保の観点から、薬局においても、かかりつけ薬 局として在宅医療への取組みが必要。
○ かかりつけ医が適切な診療計画を立てるためには、医療関係団体、福祉関 係団体、地方自治体等が協力して、必要な情報を相互に提供できる体制を整 備。

イ 在宅患者の不安に対応できる緊急時のシステムの確立
○ 在宅患者が医療上不安を持った場合いつでも相談でき、医療機関等が患者 に対して速やかに対応できる体制づくりが必要。
グループ診療の推進等24時間対応可能な支援体制の整備。特に、かかり つけ医を支える地域医療支援病院の役割は大きい。
○ 患者とその家族も平素からかかりつけ医による療養指導や研修等を受けて 緊急時の対応を予め習熟。

ウ 訪問看護ステーションの充実
○ 患者の利便の向上と医療提供の効率性の観点から、訪問看護ステーション においては、介護職員の配置やホームヘルパーステーションとの一体的整備 等連携の緊密化を推進すべき。
○ 看護婦や理学療法士・作業療法士に必要な標準的な作業手順について早急 に検討すべき。併せて、看護婦による静脈注射の取扱いについて検討。
○ 訪問看護ステーションや薬局において医師の指示の下に必要な医療材料や 衛生材料を提供できるよう、その診療報酬上の取扱いについて検討。
○ 在宅患者の歯科保健の充実について検討。

エ 患者・家族への教育・研修の充実
○ 適切な在宅医療の水準を確保するため、患者やその家族の役割を重視して、 患者とその家族への教育や研修の充実によってその自己管理力を高めていく ことが重要。

(5) 在宅医療関連サービス事業の推進
○ 在宅医療関連サービス事業者においては、特に在宅患者の介護分野を含め た在宅支援といった領域で、一層の努力と創意工夫が必要。
○ 政府の規制緩和推進計画を踏まえ、在宅医療関連サービス事業者は訪問看 護と在宅医療関連サービスとの一体的な展開と在宅患者の多様な要求への対 応が可能。
○ 医療提供に付随したサービスについては、医療機関との連携の下、安全性 を確保しつつ、患者の立場に立った、効率的な提供システムを検討。
また、かかりつけ医・かかりつけ歯科医の在宅診療の支援といった分野へ の取組みも必要
生活支援サービスへの積極的な取組みが期待されるほか、患者とその家族 等の情報交換の場を支援するといった新しい事業の展開。
○ 在宅医療関連サービス事業者自身において適切な職員研修の実施が不可欠。 また、品質管理の標準的な作業手順を作成すべき。
さらに、在宅医療関連サービス事業者は、サービスの内容は勿論、品質に 関する客観的かつ正確な情報について患者等に提示又は公開を行うべき。

(2)在宅医療推進のための技術開発

(1) 在宅医療の新技術等の開発の推進
○ 在宅患者が継続的な療養を可能とするためには、患者・家族や医療従事者 が使いやすく、小型等の在宅医療機器・機材の開発の推進が必要。
○ 在宅医療が可能となる新医療技術(医薬品開発を含む)開発の積極的な推 進。

(2) 遠隔医療の推進
○ 遠隔医療技術の研究開発を進め、そのシステムの普及を図る。

(3) 情報通信技術を活用した処方せん(電子処方せん)等の活用
○ ファクシミリや電子メール等情報通信技術を活用した処方せんの発行や訪 問看護指示書等の取扱いについては、電子的な認証技術の開発状況等を踏ま えて今後見直すことが必要。

(4) 医療情報の共有化と患者プライバシーの保護
○ 情報通信技術を活用して患者情報の一元的管理体制を整備。患者のプライ バシーの保護のための技術開発が急務。

(3)在宅医療推進のための環境整備

(1) 医療計画に基づく計画的な体制整備
○ 医療計画において在宅医療に関する事項の記載を義務化し、計画的にその 体制整備を図る。その際、老人保健福祉計画や介護保険事業計画との整合を 図ることが必要。

(2) 患者負担の在り方
○ 在宅医療における患者負担については、入院医療との均衡を図るという観 点から、治療上必要なサービスであって在宅医療として医療上適切なものに ついては公的医療保険の給付の適用範囲とすることを基本に、検討すべき。
○ 保険給付でカバーできないサービスに対しては民間保険の活用等。

(3) 居住環境の整備等
○ 良好な衛生環境の下、住宅改修や福祉用具の活用などによる居住環境の整 備の推進。
○ 患者の社会活動の機会の拡大を図るため、職場や学校等において患者への 理解と在宅医療患者に対する療養への配慮。

(4) 在宅医療廃棄物の処理方式の確立
○ 在宅医療に係る感染性廃棄物の適切な処理方式について早急に検討。

(4)在宅医療の類型別提供体制の整備

○ 在宅医療は、「看護や介護が中心の在宅医療」、「患者自ら医療技術を用 いる在宅医療」、「在宅末期医療」の3類型に分類され、それぞれの類型の 特性に応じて在宅医療の提供体制を整備。



(別紙)

在宅医療の推進に関する検討会委員名簿

(五十音順)

  青柳 俊 日本医師会常任理事
  石川 誠 近森リハビリテーション病院長
  宇都木 伸 東海大学法学部教授
  熊本 一朗 鹿児島大学医学部医療情報管理学講座教授
  小林 孟史 日本患者・家族団体協議会事務局長
  佐藤 智 ライフケアシステム代表幹事
  谷川 栄一 セコム株式会社在宅医療事業部担当部長
  中西 敏夫 日本薬剤師会常務理事
  中山 憲治 ケアマーク株式会社代表取締役社長
  藤岡 道治 日本歯科医師会常務理事
  舩橋 光俊 国民健康保険中央会常務理事
  前田 憲志 名古屋大学大幸医療センター長
座長 松田 朗 国立医療・病院管理研究所所長
  森田 孝 帝人在宅医療東京株式会社代表取締役社長
  山崎 摩耶 日本看護協会常任理事
  山田美和子 前全国社会福祉協議会高年福祉部長


 問い合わせ先 厚生省健康政策局総務課
    担 当 関山(内2513)
        厚生省健康政策局指導課医療関連サービス室
    担 当 高井(内2586)
    電 話 (代)[現在ご利用いただけません]

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