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       平成7年度厚生科学研究費補助金(健康政策調査研究事業)

     阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり方に関する研究会

           研  究  報  告  書(概要版)

                                                平成8年4月

 I.本研究会の経緯と検討内容
1.本研究会の経緯
 災害時における救急医療のあり方を研究するため、厚生科学研究費補助金(健康政策
調査研究事業)による研究として、「集団災害時における救急医療・救急搬送体制のあ
り方に関する研究班」が平成6年1月から設置されていたところである。
 本研究会は、阪神・淡路大震災の教訓を生かすため、上述の研究班の構成員に加え、
新たに被災地の医療機関、医師会等の関係団体、建築、機器設備、情報通信、医薬品の
専門家の参加を得て、班の名称を「阪神・淡路大震災を契機とした災害医療体制のあり
方に関する研究会」としたものである。
 第1回会議を平成7年4月に開催して以来本年3月までに本委員会を10回、病院防
災マニュアル作成ガイドライン小委員会を3回開催した。その間、平成7年5月29日
に「震災時における医療対策に関する緊急提言」を、平成7年8月29日に「病院防災
マニュアル作成ガイドライン」を、平成8年2月26日に「広域災害・救急医療情報シ
ステム」及び「トリアージ・タッグの標準化」をすでに公表してきたところである。

2.本研究会の検討内容
 本研究会では、今回、震災時の初期救急医療活動を中心に検討を行ってきたが、被災
地となった場合の観点と被災地への支援という観点から、下記の課題について検討して
きた。
 ・災害時における医療確保のあり方
 ・災害時における情報ネットワーク
 ・災害時における広域搬送及び後方支援システム
 ・病院レベルの災害時対応マニュアル策定のためのガイドライン
 ・災害医療に関する研修・普及啓発のあり方
 また、下記の課題については、厚生省の他の研究班、もしくは検討会が検討してきた
が、本研究会と一定の情報交換を行い、整合性をとってきた。
 ・災害時の医薬品等の供給システム
 ・災害時における公衆衛生活動のあり方
 ・災害時におけるメンタルヘルスに関する方策
 ・災害時の遺体の検案のあり方

II.阪神・淡路大震災から得られた医療面での教訓
 人命の救援・救助にあたっての阪神・淡路大震災から得られた主な教訓としては、1
第一義的な調整・指令を行うべき県庁、市役所が被害を受け、通信の混乱が加わり、医
療施設の被害状況、活動状況といった情報収集が困難な状況となったこと、2医療搬送
ニーズに加え、消防・救援救助ニーズも同時にあり、合わせて道路の被害や被災者の避
難等で大変な混雑となったために、円滑な患者搬送、医療物資の供給が困難となったこ
と、3医療施設の施設自体は損壊を免れても、ライフライン(水道、電気、ガス等)が
破壊されたか、設備もしくは設備配管が損壊したため、診療機能が低下した医療機関が
多くみられたこと、4一部の医療機関では、トリアージの未実施のため、医療資源が十
分に活用されなかったこと、5阪神地域では大地震は起きないものと信じ、防災訓練や
備蓄等の事前の対策が不十分であったこと、6続々と現地に向かった救護班の配置調整
、避難所への巡回健康相談等が保健所で実施された場合が評価されたこと、7中長期的
には、PTSD対策、メンタルヘルス対策及び感染症対策、生活環境が重要な問題であ
ることが明かになったことなどが挙げられる。

III.災害時の医療確保の基本的考え方
1.医療確保の基本的考え方
 本研究会では、阪神・淡路大震災を契機として発足したこともあり、救援救助を担当
する者自身が被災する人口過密地域における大規模地震を想定しての初期救急医療の検
討を中心に行ってきたが、その際の医療確保のあり方の基本的な考え方については、以
下のとおり提言するものである。
 災害が発生した場合、最も重要なことは人命救助である。人命救助にあたって、被災
地内の医療機関は、自らも被災者となるわけであるが、被災現場において最も早く医療
救護活動を実施出来ることから、その役割は重要なものである。そして、地域の医療機
関を支援するために、相当数の病床を有し、多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の災
害時に多発する重篤救急患者の救命医療を行うために高度の診療機能を有するとともに
、地域の医療機関への応急用資器材の貸出し、自己完結型の医療救護チームの派遣機能
、傷病者等の広域搬送の機能を有する「地域災害医療支援拠点病院」を整備し、さらに
それらの機能を強化し、要員の訓練・研修機能を有する「基幹災害医療支援拠点病院」
を整備することが必要である。また、「災害医療支援拠点病院」は、人工透析患者、難
病患者等特定の医療を必要とする一部の慢性疾患患者にも対応出来ることが望まれる。
なお、地域の医療機関を中心とした災害医療システムの構築には医師会等の医療関係団
体のリーダーシップが期待される。
 また、災害時に迅速かつ的確に救援・救助を行うために、現行の救急医療情報システ
ムを拡充し、災害医療情報に関し、全国共通の入力項目を設定し、被災地の医療機関の
状況、全国の医療機関の支援申出状況を全国の医療機関、医療関係団体、消防機関や保
健所を含む行政機関等が把握出来る「広域災害・救急医療情報システム」の整備を行っ
ていくことが必要である。

(1)都道府県・市町村衛生主管部局に求められる役割
1地方防災会議等への医療関係者の参加
 防災計画において医療活動が真に機能するためには、都道府県・市町村が設置する地
方防災会議、若しくは災害医療対策関連会議に医療の専門家たる医療関係者の代表を参
加させることが望まれる。

2災害時における応援協定の締結
ア.広域応援体制の整備の必要性
 近隣都道府県・市町村間において相互応援協定の締結が必要であり、特に大都市を抱
える都道府県においては、ブロック内の複数の都道府県と締結(ブロックとは、当該都
道府県を中心にみた場合のものを独自に想定)が必要であり、さらに、人口過密地域に
おいては、ブロックを超えた都道府県間の協定の締結も考慮すべきである。
イ.自律的応援体制の整備の必要性
 一定の大規模地震等の大規模災害が発生した場合には、被災地では一定以上の被害が
起こっているものと推定し、個別の要請がなくても被災地へ向かうものとすることが必
要である。

3『広域災害・救急医療情報システム』の整備
 従来の「救急医療情報システム」は都道府県単位で完結しており、通常の救急医療に
限定した情報システムであったが、本研究会が今回提案する「広域災害・救急医療情報
システム」は、災害医療情報に関し、全国共通の入力項目を設定し、被災地の医療機関
の状況、全国の医療機関の支援申出状況を全国の医療機関、医療関係団体、消防機関や
保健所を含む行政機関等が把握可能な情報システムとし、災害時に迅速かつ的確に救援
・救助を行うことを目的とするもので、全都道府県に整備されることが必要である。

4災害時に備えての研修・訓練の実施
 医療関係者、行政関係者(保健所を含む)に対する研修の実施が必要である。研修内
容としては、初期救急医療のみならず、人工透析患者、難病患者等特定の医療を必要と
する一部の慢性疾患患者に対する医療、及び中長期的な課題である精神医療、メンタル
ヘルスについても考慮する必要がある。

5災害医療に関する普及啓発
 一般住民に対する救急蘇生法、止血法、骨折の手当法、トリアージの意義、メンタル
ヘルスなどに関する普及啓発を実施することが必要である。
 また、その際には、医学的な内容のみならず、災害発生時の電話の輻輳、優先電話の
存在、交通渋滞の問題に関する普及啓発も実施することが望まれる。

6災害医療支援拠点病院の整備
 相当数の病床を有し、多発外傷、挫滅症候群、広範囲熱傷等の災害時に多発する重篤
救急患者の救命医療を行うために高度の診療機能を有するとともに、地域の医療機関へ
の応急用資器材の貸出し、自己完結型の医療救護チームの派遣機能、傷病者等の広域搬
送に対応出来る「地域災害医療支援拠点病院」を整備し、さらにそれらの機能を強化し
、要員の訓練・研修機能を有する「基幹災害医療支援拠点病院」を整備することが必要
である。
 「地域災害医療支援拠点病院」については二次医療圏毎に1か所以上、「基幹災害医
療支援拠点病院」については各都道府県毎に1か所整備することが必要である。

(2)保健所に求められる役割
 災害医療は平常時の救急医療と異なり、医療機関と消防機関のみで対応出来るもので
はない。医師会、歯科医師会、薬剤師会、看護協会、病院団体、医薬品関係団体、医療
機器関係団体、日本赤十字社等の医療関係団体、災害医療支援拠点病院等の医療機関、
消防機関、警察機関、精神保健福祉センター、市町村等の関係行政機関、水道、電気、
ガス、電話等のライフライン事業者、衛生検査所・給食業者等の医療関連サービス事業
者、自治会等の住民組織など様々な関係機関・団体との連携が重要となる。そのため、
日常からその連携を推進するため、その連絡の場を保健所が設置することが望まれる。
 災害現場に最も近い所の保健医療行政機関である保健所において、自律的に集合した
救護班の配置調整、情報の提供等を行うことが適当である。そのため、被災地内の保健
所は、管内の医療機関や医療救護班を支援する観点から、定期的に保健所において情報
交換の場を設けるとともに、自律的に集合した医療救護班の配置の重複や不均等がある
場合等には配置調整を行うことが必要である。

(3)医療機関に求められる役割
 被災地内の医療機関は、自らが被災者となっている面もあるが、被災現場において最
も早く医療救護を実施出来ることから、その役割は重要なもので、外部からの支援を受
けながら、被災地における災害医療の担い手として機能することが期待される。
 「病院防災マニュアル作成ガイドライン」に沿って、各医療機関の実情に応じた防災
マニュアルの作成が望まれ、保健所にもそのマニュアルを提供することが望まれる。さ
らに、作成した防災マニュアルにしたがって、実際に防災訓練を実施することが望まれ
る。また、地方自治体等が実施する防災訓練への参加ということも重要である。

(4)消防機関に求められる役割
 「広域災害・救急医療情報システム」を利用することにより、傷病者の搬送ニーズを
把握することが望まれる。
 応急手当等に関する普及啓発活動を行い、災害時においても国民1人1人が適切に対
処出来るよう、消防機関においてもこのような普及啓発を推進することが必要である。

(5)自衛隊その他の行政機関に求められる役割
 自衛隊は、災害時において都道府県知事の要請があれば、災害救援に出動することと
なっているが、その連絡先等の手続きや提供出来る救援内容等について、各地方公共団
体に広く周知されることが望まれる。
 災害医療に関する普及啓発が様々な機会を通じて実施されることが期待され、例えば
、中学校や高等学校等の教育のカリキュラムの中にもこれらを組み込むことが望まれる
。
 また、平時は医療とは直接関連しない環境の整備にあたっても、災害医療を想定して
整備がなされることが期待される。例えば、災害医療支援拠点病院など災害医療の支援
拠点を結ぶ道路網の耐震性の強化、医療機関周辺の臨時ヘリポートや救護所の設営が可
能となる広場の確保、さらに、学校、公民館など救護所となりうる建物の耐震診断の推
進が望まれる。

(6)国に求められる役割
 国は、本研究会が提言する災害医療体制のあり方を踏まえ、施設整備、設備整備等を
通じ、その体制整備を図るべきである。また、災害発生に備え、必要な支援を実施出来
るよう、医療関係行政機関・医療関係団体と搬送関係行政機関、情報関係行政機関等と
が十分連携を図るべきである。

2.災害時の搬送システムのあり方
(1)搬送システムの基本的考え方
1傷病者の搬送
 傷病者の搬送については、一義的には消防機関の救急車が期待されるが、それでは賄
い切れない場合には、病院所有の救急車、自家用車等が考えられる。その中で、道路の
被害や被災者の避難等で陸路が大混乱した場合には、空路、海路等の活用が期待され、
特にヘリコプターによる広域搬送は非常に有用と考えられている。ヘリコプターによる
広域搬送に際しては、救急車による搬送業務との円滑な連携が必要となるので、ヘリコ
プターの利用にも消防機関の活躍が期待される。
 具体的には、医療機関が「広域災害・救急医療情報システム」、またはそのフェイル
・セイフとしての119番通報により患者の転送要請を行えば、救急車やヘリコプター
等により広域搬送を含む患者搬送がなされるようにする必要がある。なお、ヘリコプタ
ーについては、消防・防災ヘリコプターに加え、自衛隊、警察庁及び海上保安庁所有の
ヘリコプターとの連携を図ることが望まれる。また、地域によっては、病院又は民間所
有のヘリコプターの活用も検討されることが期待される。

2医療救護スタッフの搬送
 大規模災害発生直後においては、災害医療支援拠点病院等の医療救護スタッフが、各
都道府県の緊急消防援助隊と連携して被災地で活動するため、ヘリコプター等で搬送さ
れることが期待される。

3医薬品等の医療用物資の輸送
 医薬品等の医療用物資の輸送については、一義的には医療用物資の供給元が車両によ
り行うことが適当である。

(2)ヘリコプターによる広域搬送
 ヘリコプターを利用した広域搬送は、「傷病者の搬送」、「医療救護スタッフの搬送
」、「医薬品等の医療用物資の輸送」のいずれにも活用できるが、特に重症患者の被災
地外への搬送において活躍することが期待される。その場合には、被災地と被災地外の
ヘリポートを有する災害医療支援拠点病院等との間をピストン輸送する方法が有用であ
ろう。
 しかしながら、ヘリコプターの運用にあたっては、陸路以上に航空域の輻輳が問題と
なるため、災害時の運用方法について、緊急輸送関係省庁(消防庁、防衛庁、警察庁及
び海上保安庁)において早急に検討されることが望まれる。

3.災害医療に関する外国からの支援
 本研究会は、政府間の医療スタッフの支援申し入れに関しては、米国等の先進国にお
ける例からも厚生省防災業務計画の方針(「医療スタッフについては、被災者との日本
語による意思疎通が困難である等の問題があるため、国内の他の地域からの派遣により
対応することを基本とするが、災害の規模が著しく大規模である場合、治療について外
国にしかない特殊な知見を必要とする場合等には、必要に応じ、自己完結的に活動でき
る外国からの医療スタッフを受け入れるものとする。」)は妥当なものと考える。また
、民間団体間の支援申し入れに関してそれぞれの団体の責任において受け入れる場合に
ついても、受入れ団体は、決して被災地へ負担をかける支援でないことを十分確認して
から受入れるべきであろう。

4.災害時におけるメンタルヘルスのあり方
 災害時においては身体に対する医療が注目されるが、精神科医療も同様に重要である
ことは当然である。精神保健施策に関しては、地域の技術的な中核機関として設置され
ている精神保健福祉センターが、その機能を発揮することが期待される。また、地域の
医療機関と連携するために、精神病院協会や精神神経科診療所協会との連絡を密にする
ことが必要である。

5.災害時における死体検案のあり方
 発災後可能な限りすみやかに、法医学の修練を積んだ医師が専従的に確保され、これ
らの者が一本化されて検案業務を行うことができるような体制を平素から構築しておく
ことが求められる。
 なお、発災直後には法医学の修練を積んでいない一般の臨床医が死体検案を行う事態
も想定されるため、同様に一般臨床医に対する災害医療に関する研修充実の一環として
死体検案についてのマニュアルを作成しておくことが望ましい。また法医学の修練を積
んだ医師の全国的な応援体制のありかたについてもさらに検討しておく必要がある

6.災害医療に関する教育・研修、普及啓発のあり方
 諸外国の教育・研修を考慮に入れ、我が国のそれを考えてみると、医学的知識の違い
から医療関係者と一般市民の2種類のプログラムを作る必要がある。また、研修期間は
2日間程度、また受講者は40名程度による実施が現実的と考えられるが、実施主体毎
に研修対象者・数、研修期間、時間配分等についてきめ細かく検討されることが必要で
ある。

NO2に続く


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