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          医薬品市販後安全性確保のための具体的改善策

                                                   平成8年5月15日
                                                   市販後調査検討会

  医薬品の市販後安全対策は、これまで順次充実強化が図られてきたところであり、現
在は昭和54年の薬事法改正で法制化された再審査制度、再評価制度及び副作用報告制
度に基づき進められている。また、平成5年からは、薬務局長通知に基づく医薬品の市
販後調査の実施に関する基準(GPMSP)が適用され、製薬企業(医薬品製造業者及
び医薬品輸入業者)の実施する市販後調査の適正化が図られている。
  今般、厚生省においては、ソリブジンによる副作用問題等を契機に、治験から承認審
査、市販後に至る一貫した総合的な安全対策を推進するため、安全性確保対策検討会及
び医薬品適正使用推進方策検討委員会においてその方策を検討し、今国会に薬事法等の
改正案を提出しているところである。その改正案では市販後の安全対策として、製薬企
業のGPMSPの遵守や副作用情報の収集・報告の法制化等が提案されている。
  また、一方、平成3年より、日・米・EU三極医薬品承認審査ハーモナイゼーション
国際会議(ICH)が組織され、市販後対策も含めた医薬品規制の国際的な調和の促進
が図られている。
  本検討会は、上述した薬事法等の改正や国際的な対応等も踏まえて、今後の市販後安
全性確保のために必要な具体的事項について、その改善策を検討するため、昨年12月
に設置され、以来鋭意検討を重ね、今回以下のような意見の取りまとめを行った。
  この中間とりまとめを行うにあたって、今後は市販後調査ガイドライン(新医薬品等
の再審査の申請のために行う使用の成績等に関する調査方法に関するガイドライン)の
見直しやGPMSPのうち特に市販後に実施する臨床試験に関する具体的な問題等につ
いてさらに議論を深めていく必要があると考えている。

 1 医薬品の市販開始直後の集中的な安全性確保対策について

 ・ 医薬品の市販後、特に市販開始直後の安全性確保のために、製薬企業は市販後調
  査管理部門と開発部門等の関連部門との間の緊密な連携を保ち、開発から市販後ま
  での一貫した安全性確保のための社内体制の整備に努めるべきである。

 ・ 新医薬品の市販開始直後の集中的な安全性確保対策のために、製薬企業は医療機
  関・薬局に対して新医薬品の安全性情報を十分に提供することが重要である。具体
  的な方策として、従来の添付文書、製品情報概要に加えて、使用上の注意を分かり
  易く解説した文書「使用上の注意の解説(仮称)」を、新医薬品の納入にあたり医
  療機関・薬局に対し提供することが必要である。

 ・ 新医薬品については、適正使用の推進を図るため、製薬企業は例えば承認後3年
  間は毎年、再審査のために実施する使用成績調査、副作用自発報告、海外の情報等
  の内容をとりまとめて医療機関・薬局に情報提供すべきである。なお、これらの情
  報提供が宣伝活動とならないよう注意すべきである。

 ・ 新医薬品については、医薬品の特性や治験時までの安全性等の情報に応じて必要
  な場合に、製薬企業は、市販後の副作用の集中的なモニタリング等を実施すること
  が重要である。なお、厚生省が製薬企業に対しモニタリング等の実施を指示するに
  あたっては、この実施を承認条件とする等、文書で明確に行うことが必要である。
   また、厚生省においても審査部門と市販後対策部門との更に緊密な連携を図るこ
  とが重要である。

 ・ 厚生省においては、適正かつ効率的な副作用情報の収集、評価等を行うために、
  製薬企業が行う厚生省への副作用報告について、未知と既知の副作用を峻別すると
  ともに、既知の副作用については報告様式の簡素化を図るべきである。


2 市販後調査におけるICHとの国際的ハーモナイゼーションについて

 1) 医薬規制国際用語集(MEDDRA)について

  ・ 副作用名、疾患名等の国際的な整合性を図ることを目的とした医薬規制国際用
   語集については、我が国では平成9年以降の利用が検討されているところであり
   、安全性情報の国際的な相互利用の促進に資する観点から、その早期利用の推進
   を図るべきである。

  ・ 医薬規制国際用語集が我が国において効果的に利用されるためには、用語の管
   理や日本語又は英語への読み替え等の業務が重要であり、今後、医師・歯科医師
   ・薬剤師等の専門家、製薬業界、厚生省等の協力体制の下で進められるようなシ
   ステムを検討すべきである。

 2) 副作用症例報告について

  ・ 副作用症例報告のためのデータ項目等の標準化がICHの場で検討されており
   、我が国においても、それらとの整合性を図るとともに、その際、副作用の重篤
   度、重症度の定義についても国際的な整合性に配慮すべきである。

 3) PSUR(定期的安全性最新報告)について

  ・ 現在、我が国において再審査期間中に義務付けられている新医薬品等の使用の
   成績等に関する年次報告については、今後、ICHで検討されているPSURと
   の整合性を図り、新たに安全性定期報告(仮称)とし、その制度の運用の強化を
   図るべきである。

  ・ 安全性定期報告を導入するに当たっては、以下の事項を考慮する必要がある。
    a. 報告の起算日は国際誕生日(当該医薬品が世界のいずれかの国で最初に承認
    された日)とする。
    b. 報告間隔は、国内での承認後、最初の2年間は半年毎、その後再審査期間中
    は1年毎とする。
    c. PSURの諸外国の安全性に関する規制措置等の情報を反映させる。
    d. 製薬企業は、PSURの企業中核安全性情報(CCSI)を踏まえ、自主的
    に使用上の注意の改訂を適宜実施すべきである。また、その結果を、安全性定
    期報告の際に厚生省に報告する必要がある。

   ・ 再審査終了後も、PSURを厚生省に報告するシステムを検討すべきである。ま
   た、厚生省においてはこの情報を再評価等に活用すべきである。


3 市販後調査ガイドラインについて

 1) 使用成績調査について

  ・ 使用成績調査は、新医薬品が実際の医療現場で使用された様々な背景を有する
   症例を広範に収集するものであるが、耐性菌の影響が考えられる抗生物質等特別
   な場合を除き原則として安全性に焦点を当てて調査を実施すべきである。また、
   その際、可能な限りバイアスのかからない方法で症例を収集すべきである。さら
   に、調査票については、医療機関の協力を得やすい簡略な内容とするよう見直す
   べきである。

  ・ 使用成績調査における調査症例数の設定は、医薬品の特性等に応じて検討すべ
   きである。また、症例の収集の時期については、従来、経年的な調査を求めてい
   たが、抗生物質等特別な場合を除き、市販開始直後の適切な時期に集中して実施
   することも可能である。

 2) 特別調査について

  ・ 特別調査として、
   a. 治験での情報が少ない小児、妊産婦等の特別な背景を有する患者で使用され
    た症例をレトロスペクティブに収集する調査
   b. 使用成績調査等から何らかの問題点が得られた場合等に、仮説を立て、それ
    を検証するために行う試験

   が実施されている。製薬企業においては、適正使用に資するために必要な特別調
   査を積極的に実施し、また、その結果を再審査申請資料に反映させるべきである
      。

  なお、市販後調査ガイドラインについては、以上の観点も踏まえて、改正薬事法の
 施行までの間に、別途、具体的な検討を行う必要がある。


4  医薬品の市販後調査の実施に関する基準(GPMSP)の改訂とその適切な運用に
 ついて

 1) 市販後調査管理責任者の責務について

  ・ 市販開始直後の安全性確保を図るため、開発から市販後までの一貫した取り組
   みが重要であり、そのため市販後調査管理責任者の役割をGPMSPに明確化す
   べきである。

 2) 市販後に実施する調査、試験について

  ・ 市販後に実施する調査、試験については、GPMSPにおいて以下のような考
   え方で定義することが適当である。
    調査: 日常の診療範囲の中で安全性、有効性等を把握し、問題点を検出する
         ために行うもの
    試験: 日常の診療範囲を超える検査、処置や侵襲を伴うもの、あるいは割付
       等により治療・検査を規定するもので、仮説を検証するために行うもの

  ・ 市販後に実施する調査、試験は医薬品の適正使用の推進に資するものに限るべ
   きであり、また、信頼性、科学性、倫理性の高い調査、試験の実施を確保するた
   めGPMSPで規制すべきである。さらに、これらの調査、試験の結果は全て再
   審査、再評価、副作用対策に活用されるべきである。また、以上のような観点か
   ら、従来の調査、試験のI、IIの区分は見直すべきである。

  ・ 市販後に実施する試験に関し、GPMSPに以下の規定を設けることを検討す
   べきである。
     a. 患者のインフォームドコンセント取得を義務化する。
    b. 臨床試験の適否を審査する委員会(IRB等)による試験実施の承認を義
     務化する。
     c. 使用する薬剤は、試験の目的、実施方法に応じていわゆる白箱等で行うか
     否かを判断するべきである。
     d. 治験と同様に製薬企業内の監査実施体制を整備する必要がある。
    e. 当該医薬品等により健康被害が発生した場合の補償のために、あらかじめ
          、必要な方策を講じておく。

  ・ なお、試験を実施した医療機関を製薬企業がモニタリング及び監査することに
   ついても、その実施可能性を検討すべきである。

  ・ 市販後に調査、試験を実施する場合、企業は医療機関と文書による契約が必要
   である旨GPMSPに規定すべきである。

 3) 製薬企業が共同販売する場合の市販後調査について

  ・ 製薬企業が共同販売(プロモーションのみを提携する場合も含む)する場合、
   企業間で十分な連携を図りつつ、同じレベルの市販後調査が確保できるようGP
   MSPに規定を設けるべきである。

 4) 市販後調査における市販後調査業務受託機関(CRO)、卸売一般販売業の役割
  について

  ・ 企業の市販後調査の一部(データ入力、集計、解析等)が市販後調査業務受託
   機関に委託されて実施されているが、市販後調査業務受託機関においても製薬企
   業と同じレベルの市販後調査が実施されるよう、今後指導していく必要がある。
  ・ 卸売一般販売業については、現行の薬事法に基づき医療機関・薬局への医薬品
   情報の提供に努めることとされているが、今回の薬事法改正案で更に医療機関・
   薬局からの情報の収集に努めることと規定されることとなる。卸売一般販売業は
      、製薬企業と連携を図りつつ、本来の卸売り機能の一環として医療機関・薬局へ
      の情報の提供等において一定の役割を果たすべきである。


5 市販後調査の円滑な実施について

 ・ 市販後調査を円滑に進めるためには、医療機関及び患者の理解と協力を得ること
  が必須である。そのため、厚生省及び製薬企業は、医療機関に対して受託規定の整
  備を働きかけるとともに、医師、歯科医師、薬剤師等の医療関係者に対し、市販後
  調査の重要性についての啓発活動を行い、また、使用成績調査結果等の安全性情報
  を迅速かつ的確に提供する必要がある。さらに、医療機関及び患者が市販後調査に
  協力した場合に、具体的なメリットを享受できる方策も今後検討すべきである。

 ・ 医薬品の適正使用を推進するため、製薬企業は医療機関に対し医薬品情報の提供
  に努める一方、医療機関においても、安全性等の医薬品情報の収集、評価、伝達等
  を適切かつ迅速に行う必要がある。これらの医薬品情報管理業務(DI業務)は、
  薬剤部(科)が中心となって実施することが重要であり、また、副作用情報の収集
    、評価にあたっても、チーム医療の中で薬剤師が一定の役割を果たすよう医療機関
    内の体制を整備する必要がある。

 ・ 医薬分業の進展に伴い、薬局においては、医薬品の適正な使用のため、患者に対
  し必要な情報を提供するとともに、服薬状況や副作用等の患者情報の把握に努め、
  必要な場合、医師、歯科医師等に情報提供することが重要である。また、薬局は、
  スイッチOTC等の市販後調査に積極的に協力すべきである。


6 医薬品の有用性評価基準について

 1) 薬剤疫学的試験の評価について

  ・ 再審査期間中に薬剤疫学的試験が実施されている医薬品については、延命効果
   等が確認された場合には、その試験結果を効能・効果へ反映することを検討すべ
   きである。なお、効能・効果への反映については、医薬品の特性や試験結果等を
   踏まえて個々に検討されるべきであるが、結果の取扱い基準を予め定めておく必
   要がある。一方、延命効果等が認めらなかった場合や悪影響が認められた場合の
   取扱いについては今後、更なる検討が必要である。

 2) 再評価について

  ・ 今後、再評価は医薬品の有効性、安全性及び品質の問題が提起された場合に迅
   速かつ的確に対応するため、臨時再評価を中心に実施する必要がある。その際、
   医薬品の有効性、安全性及び品質について下記の様な場合、速やかに中央薬事審
   議会で再評価指定するか否かを検討するなど、より客観的で迅速な再評価に努め
   るべきである。

    a. 有効性
     ・ 諸外国で製造・輸入承認が取り消され若しくは販売が停止された場合
      ・ 国内外の学会報告、文献報告或いは安全性定期報告等の知見から改めて有
     効性の評価の必要性が示唆された場合
    ・ 臨床評価ガイドラインが新たに設定され、改めて有効性の評価の必要性が
     ある場合
    b. 安全性
      ・ 諸外国で製造・輸入承認が取り消され若しくは販売が停止された場合
    ・ 緊急安全性情報を出した場合
      ・ 国内外の学会報告、文献報告或いは安全性定期報告等の知見から改めて安
     全性の評価の必要性が示唆された場合
    ・ 臨床評価ガイドラインが新たに設定され、改めて安全性の評価の必要性が
     ある場合
    c. 品質
      ・ 国内外の学会報告或いは文献報告等の知見から改めて品質の評価の必要性
     が示唆された場合

  ・ 再評価指定においては、再審査と同様に試験等の実施期間を含めた資料提出期
   限を設定すべきである。資料提出期限は試験等の内容に応じた適切な期間とすべ
   きである。

  ・ 経口剤の一層の品質確保のために、溶出試験規格の未設定の医薬品について、
   優先度の高いもの(例:有効量と中毒量の近いもの、徐放製剤等)から、再評価
   を行うことによって規格を整備すべきである。

      問い合わせ先 厚生省薬務局安全課
      担 当 松田、田中(内2750)
            電 話 (代)[現在ご利用いただけません]


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