(9−1−I)
実績評価書
平成17年8月

政策体系 番号  
基本目標 高齢者ができる限り自立し、生きがいを持ち、安心して暮らせる社会づくりを推進すること
施策目標 老後生活の経済的自立の基礎となる所得保障の充実を図ること
I 持続可能な公的年金制度を構築すること
担当部局・課 主管部局・課 年金局総務課
関係部局・課 年金局総務課首席年金数理官室、年金課、国際年金課、数理課


1.施策目標に関する実績の状況
実績目標1 国民年金及び厚生年金保険について、給付と負担の均衡を適切に保つとともに、積立金の適切な管理・運用等を図ること
(実績目標を達成するための手段の概要)
 公的年金制度は、現在の高齢者に対する年金給付を、現在の現役世代が支払う保険料で賄うという、世代と世代の支え合いの考え方に基づき成り立っている。
 この考え方のもと、終身にわたって高齢者の生活の基本部分を支え、賃金や物価等の上昇など、長期間の社会経済の変動に対応して実際に価値のある年金を支給する機能を果たしている。
 平成16年2月に国会に法案提出し、同年6月に成立した「国民年金法等の一部を改正する法律(平成16年法律第104号)」(平成16年年金制度改正法)では、将来の現役世代や企業の負担が過重なものとならないよう最大限配慮し、
 (1) マクロ経済スライドによる給付の調整
 (2) 基礎年金の国庫負担割合の引上げ
 (3) 積立金の活用
とともに、年金保険料について上限を設定した上で段階的に引き上げていく措置を一体的に行うこととした。また、従来の財政再計算に代わるものとして、少なくとも5年に1度の財政検証を行うこととした。同法による制度改正は、平成16年10月より8段階に分けて実施されることとなっており、随時関係政省令の制定を行い、着実かつ円滑な施行を図る。
 年金積立金を活用した福祉還元事業については、民間における類似事業の普及などの状況を踏まえ、徹底した見直しを行う。大規模年金保養基地については、平成17年7月末現在で、10基地及び1基地の一部の譲渡を行った。年金住宅融資事業については、平成17年1月末日をもって、新規の貸付申込を終了した。
 年金積立金の運用については、被保険者の利益のために安全かつ効率的に行うこととしている。年金資金運用基金における運用については、時価による資産構成割合と移行ポートフォリオとの乖離状況を把握し、乖離許容幅を超えている場合には、その範囲内に収まるように資産構成割合を変更することなどにより、年度末における移行ポートフォリオの達成を図る。
(評価指標)
マクロ経済スライドによる給付水準調整(累積スライド調整率)
H12 H13 H14 H15 H16
(参考指標)
物価スライド調整率

(0%)

(0%)

(0%)

(-0.9%)

(-0.3%)
(評価指標)
財政再計算との乖離状況(積立金)
         
・厚生年金 実績 (兆円) 175.9 175.4 174.1 174.6
財政再計算結果 177.2 181.3 184.9 171.3 167.5
・国民年金 実績 11.7 11.7 11.4 11.7
財政再計算結果 12.1 12.4 12.5 11.3 11.0
(評価指標)
年度末における各資産の構成割合と移行ポートフォリオの乖離幅


13年度移行ポートフォリオ

14年度移行ポートフォリオ

15年度移行ポートフォリオ

16年度移行ポートフォリオ
(評価指標)
年金積立金の運用実績(実質的な運用利回りの実績)


2.22%

1.34%

5.18%

(参考指標)
財政再計算上の実質的な予定運用利回り(年金積立金全体)


0.98%

0.96%

1.98%

(備考)
 「マクロ経済スライドによる給付水準調整(累積スライド調整率)」については、現在までにマクロ経済スライドが発動されておらず、給付水準調整は行われていない。数値は年金局年金課調べ。
 「財政再計算との乖離状況(積立金)」については、実績は財政再計算と比較できるようにした数値であり、平成16年度の数値は集計中。また、財政再計算結果は、平成14年度までは11年再計算結果、平成15年度以降は16年再計算結果である。数値は年金局数理課調べ。
 「年度末における各資産の構成割合と移行ポートフォリオの乖離幅」と「年金積立金の運用実績」については、平成13年度から厚生労働大臣による自主運用が開始されたため、同年度から評価を行っている。なお、平成12年度までは、法律上、年金積立金の全額を旧資金運用部(現在の財政融資資金)に預託する義務が課されており、旧年金福祉事業団は、旧資金運用部からの借入金を原資として資金運用事業を行っていた。
 基本ポートフォリオ(長期的に維持すべき資産構成割合)は、旧資金運用部への預託金が全額償還される平成20年度末までに達成することとしている。また、それまでの間は、毎年度末に達成すべき資産構成割合(移行ポートフォリオ)を定めることとしている。なお、これらのポートフォリオについては、平成17年度までは社会保障審議会の審議を経て厚生労働大臣が、平成18年度以降は新設の年金積立金管理運用独立行政法人が定めることとされている。
 移行ポートフォリオは、運用資産全体の移行ポートフォリオ(年金資金運用基金の運用資金と財政融資資金への預託金の合計)と年金資金運用基金の移行ポートフォリオ(市場運用部分)について作成している。
 長期的にみると年金給付費は概ね名目賃金上昇率に連動して増加することとなるため、運用収入のうち賃金上昇率を上回る分が、年金財政上の実質的な収益となる。このため、運用実績の評価の際には、収益率(名目運用利回り)から名目賃金上昇率を差し引いた「実質的な運用利回り」の実績と、財政検証(財政再計算)が前提としている「実質的な予定運用利回り」を比較することが適当である。両者の平成16年度の数値は集計中。
 なお、「年度末における各資産の構成割合と移行ポ−トフォリオの乖離幅」及び「年金積立金の運用実績」は、厚生年金保険及び国民年金における年金積立金運用報告書等による。
実績目標2 国際化の進展への対応を図ること
(実績目標を達成するための手段の概要)
 国際的な人的交流の活発化に伴い、主に海外勤務者について、(1)自国と勤務先国の両国の年金制度等に二重適用となり保険料が二重払いとなる、(2)滞在期間だけでは勤務先国の年金受給資格期間を満たすことができない等の理由により保険料が掛け捨てとなる、といった問題が生じていることから、これらの問題の解決を図るために、諸外国との間で社会保障協定を締結することとしている。
(評価指標)
社会保障協定の締結状況
H12 H13 H14 H15 H16
(備考)
 評価指標は、社会保障協定を締結(署名)した国の数の累計であり、年金局国際年金課調べ。
 これまで社会保障協定を締結した国は以下のとおり。
 平成10年度  ドイツ
 平成11年度  イギリス
 平成15年度  米国、韓国
 平成16年度  フランス、ベルギー
実績目標3 公的年金制度について年金数理的観点等から検証すること
(実績目標を達成するための手段の概要)
 公的年金各制度の財政状況について、それぞれ毎年度の報告を受ける。また、財政再計算時における検証を行う。
(評価指標)   H12 H13 H14 H15 H16
公的年金各制度の保険料率(各年度4月現在) 厚生年金 17.35% 17.35% 17.35% 13.58% 13.58%
国共済 18.39% 18.39% 18.39% 14.38% 14.38%
地共済 16.56% 16.56% 16.56% 12.96% 12.96%
私学共済 13.3% 13.3% 13.3% 10.46% 10.46%
公的年金各制度の平均年金月額
(老齢・退年相当)
 老齢基礎年金分含む
厚生年金 17.6万円 17.3万円 17.2万円 17.0万円
国共済 22.0万円 21.7万円 21.6万円 21.3万円
地共済 23.5万円 23.2万円 23.1万円 22.8万円
私学共済 22.1万円 21.6万円 21.5万円 21.2万円
公的年金各制度の年金扶養比率 厚生年金 3.57 3.33 3.17 3.00
国共済 1.89 1.85 1.81 1.76
地共済 2.32 2.24 2.16 2.09
私学共済 5.98 5.65 5.60 5.34
公的年金各制度の総合費用率 厚生年金 17.9% 18.8% 19.8% 17.3%
国共済 20.9% 21.5% 22.1% 17.4%
地共済 16.1% 16.7% 17.5% 14.4%
私学共済 13.8% 14.3% 14.2% 11.3%
(備考)
 毎年度、年金局総務課首席年金数理官室において前々年度の公的年金制度の財政状況について報告を受けており、その実績を掲載した。(公的年金制度の保険料率以外の評価指標については、平成17年7月時点で、平成16年度の数値の報告を受けていない。)
 年金扶養比率とは、一人の老齢・退職年金受給者を何人の被保険者で支えているかを表す財政指標である。
 総合費用率とは、ある年度の実質的な支出のうち、保険料拠出によって賄う部分(国庫・公経済負担を除いたもの)が、その年度の標準報酬総額に対してどのくらいの比率になっているかを表す財政指標である。


2.評価

(1) 現状分析
現状分析
 公的年金は高齢者世帯の収入の7割を占めるとともに、国民の4人に1人が年金を受給しているなど、国民生活において欠くことのできないものとなっている。近年では、少子高齢化の急速な進行などにより、制度改正を行わなければ大幅な赤字財政に陥る状況にあった。
 少子高齢化の進行の中で将来世代の保険料負担が急激に上昇して過重なものとならないよう、一定の積立金を保有し、その運用収入を活用することで将来世代の負担を軽減することが不可欠である。年金積立金の運用は、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うため、国内債券を中心としつつ、株式を一定程度組み入れた分散投資の考え方に基づき行っているところである。
 年金積立金を活用した福祉還元事業については、民間における類似事業の普及などの事業を取り巻くニーズの変化や、年金給付の原資である保険料財源を年金給付以外に使うことに対する厳しい批判もある。
 国際的な人的交流が活発化し、企業間の国際競争が激しさを増す中で、社会保障協定の締結により、日本と外国の保険料の二重払い等の問題の解決を図ることが緊急の課題となっており、協定締結による在外日系企業の負担の解消及び波及効果として今後の対日直接投資の推進に寄与することから、経済団体等関係各方面より、人的交流の多い各国との間で速やかに協定を締結することが求められている。

(2) 評価結果
政策手段の有効性の評価
 改正を行わなかった場合には厚生年金の保険料率で25.9%、国民年金の保険料で29,500円まで上昇する保険料水準を、平成16年年金制度改正法によりそれぞれ18.3%、16,900円(平成16年度価格)まで抑制した。
 また、制度改正により、年金財政の収支差は平成17年度単年度で1兆円、平成20年度までの累積で約8兆円改善される見込みであり、平成22年度までに年金財政が黒字化することが見込まれる。
 年金積立金の運用については、長期的な観点から、安全かつ効率的に行うため、基本となるポートフォリオを定め、これを維持するように行うこととしている。
 平成16年度末の年金資金運用基金分の資産構成割合は以下のとおりであり(C)、すべての資産クラス(国内債券、国内株式等)が移行ポートフォリオ(A)の乖離許容幅(B)の範囲内に収まっており、適切に管理が行われた。
  国内債券 国内株式 外国債券 外国株式 短期資産
移行ポートフォリオ(A) 56% 20% 10% 14% 0%
乖離許容幅(B) ±5% −5% −5% −5%
年度末の資産構成割合(C) 54.99% 21.21% 9.89% 13.91% 0.01%
 平成16年度に締結(署名)されたフランス及びベルギーとの間の協定については、両国とも平成18年度中の協定発効を予定しているが、協定発効後、フランスにおける企業駐在員については年間110億円程度、ベルギーにおける企業駐在員については年間40億円程度の社会保険料の負担軽減が見込まれる。
政策手段の効率性の評価
 平成14年1月に設置された社会保障審議会年金部会では、月1〜2回のペースで制度全般にわたる検討を加えた。その間、全国8カ所で年金対話集会を開催し、26回に及ぶ議論を経て、平成15年9月に意見書を取りまとめた。その後、年金部会意見書や平成15年9月に発表された「坂口試案」等を踏まえ、厚生労働省案を策定し、与党との調整を経て、平成16年2月に年金改革関連法案の閣議決定を行った。年金改革関連法(平成16年年金制度改正法)は、平成16年6月に成立し、同年10月1日より順次施行に移されている。
 平成16年度における資金配分については、移行ポートフォリオよりも低い資産構成割合となっている資産には資金を多く配分する一方、移行ポートフォリオよりも高い資産構成割合となっている資産には資金を配分せず、又は少なく配分するなどにより、なだらかに移行ポートフォリオを達成した。
 社会保障協定については、フランスとの間で平成12年6月に当局間協議を開始し、平成14年9月から平成16年10月までの間に5回の政府間交渉を経て、平成17年2月に署名に至った。ベルギーとの間では平成13年11月に当局間協議を開始し、平成15年10月から平成16年9月までの間に3回の政府間交渉を経て、平成17年2月に署名に至った。これらの協定については、日本がこれまでに締結した協定と比較しても短期間で締結までに至っている。
総合的な評価
 公的年金制度については、平成16年年金制度改正法による制度改正によって持続可能なものになったが、なお、今後の産業構造、雇用構造の動向に十分対応できるのか、また公的年金の一元化を目指すべきではないかとの議論もある。加えて、同法に明記された基礎年金国庫負担割合の2分の1への引上げに取り組む必要があるほか、パート労働者への厚生年金の適用の見直しについても、同法において、5年後を目途に総合的な検討を行い、必要な措置を講ずる旨の検討規定が設けられている。
 このため、今後、社会保障制度全体について、税や保険料等の負担と給付のあり方を含め一体的に見直しを図ることと併せ、公的年金制度を巡る様々な課題についても、これと整合性を図りつつ、検討していく必要がある。
 年金積立金の運用は、国内債券を中心としつつ、株式を一定程度組み入れた分散投資の考え方に基づき行っている。平成16年度末の年金資金運用基金分の資産構成割合は、すべての資産クラスが移行ポートフォリオの乖離許容幅の範囲に収まっており、適切に管理が行われたと判断できるため、目標を達成したと考えられる。
 経済団体等を中心に協定締結の要望の強かったフランス及びベルギーとの間の社会保障協定が締結に至ったことは評価できる。引き続き在留邦人数が多く経済団体等からも協定締結の要望のあるカナダ、オーストラリア等との間でできるだけ早期に協定を締結できるよう努力していくこととしている。
評価結果分類 分析分類
(2) (2)


3.特記事項
(1) 学識経験を有する者の知見の活用に関する事項
 ポートフォリオは、厚生労働大臣が社会保障審議会年金資金運用分科会に諮問した上で策定。
 年金資金運用基金においては、経済・金融等について高い見識を持つ投資専門委員の意見を聴いた上で、管理運用業務が行われた。
(2) 各種政府決定との関係及び遵守状況
特になし。
(3) 総務省による行政評価・監視等の状況
特になし。
(4) 国会による決議等の状況(警告決議、付帯決議等)
特になし。
(5) 会計検査院による指摘
特になし。

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