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(9−1−I)
実績評価書
平成14年9月

政策体系 番号  
基本目標 高齢者ができる限り自立し、生きがいを持ち、安心して暮らせる社会づくりを推進すること
施策目標 老後生活の経済的自立の基礎となる所得保障の充実を図ること
I 公的年金制度の安定的かつ適正な運営を図ること
担当部局・課 主管課 年金局年金課
関係課 年金局数理課、運用指導課


1.施策目標に関する実績の状況

実績目標1 公的年金給付が老後生活に役に立つこと
(実績目標を達成するための手段の概要)
 公的年金制度は、社会全体が連帯し、収入のある現役期に保険料を納付して収入が得られなくなった高齢者を支え、高齢期に収入が得られなくなったときに、かつて高齢者の生活を支えた貢献の度合い(個々人の現役期の保険料納付の実績)に応じて、その時の現役世代が納付する保険料に支えてもらうという考え方を基本として組み立てられている。
 いわば、社会全体での世代間扶養に保険料納付という自助努力を組み合わせた仕組みであり、この仕組みにより、個々人の現役時代の暮らしぶりを反映させつつ、その時々の現役世代の賃金や物価水準に応じた年金給付を可能としている。
 老後生活の基礎的な費用を賄う基礎年金を全国民共通の給付として保障するとともに、被用者に対しては、退職後に賃金収入がなくなることに配慮して、報酬比例の年金を支給することにより、高齢者の生活の基本部分を支えている。被用者の場合、夫婦の基礎年金と報酬比例年金を合わせて現役世代の手取り年収のおおむね6割の水準になるよう制度設計されている。
 老齢年金を受給し始める時点で、過去の報酬を現在の価値に再評価して年金額が計算されることになっている(賃金再評価)。また、物価スライドにより、実質的な水準が維持されている。(平成13年度においては、前年12年の消費者物価指数の変動が0.7%の減となり、国民年金法等の規定どおりの扱いでは前々年の11年の0.3%減分とあわせて1.0%の引下げが必要となったが、社会経済情勢にかんがみ、物価スライドを行わず年金額を据え置くための特例措置がとられた。)
(評価指標)
モデル年金額(月額)
H9 H10 H11 H12 H13
230,983円 同左 同左 238,125円 同左
(備考)
モデル年金は、被用者について標準的な被保険者像を想定し、その被保険者が世帯として得られる年金を示したものであり、年金水準を設定したり、制度的に保障される年金の姿を端的に示す際に標準として用いられる概念である(資料参照)。
実績目標2 公的年金の財政が安定していること
(実績目標を達成するための手段の概要)
人口構成や社会経済情勢の変化に伴う様々な要素を踏まえ、少なくとも5年に一度、新たに被保険者数・年金受給者数、年金給付費等の推計を行い、将来の財政見通しを作成する(財政再計算という)とともに、必要な制度改正を行っている。
 直近の財政再計算は平成11年に実施され、将来に向けて給付総額の伸びを抑え、将来の保険料負担を負担可能な水準(現在の欧州諸国と同水準の年収の2割程度)に抑えることを内容とした制度改正が平成12年に行われ、施行されている。
(評価指標)
積立度合(厚生年金 )
H9 H10 H11 H12 H13
5.4 5.3 5.3 5.2
(評価指標)
積立度合(国民年金 )
H9 H10 H11 H12 H13
2.6 2.8 2.9 3.0
(評価指標)
最終保険料率(厚生年金)
H9 H10 H11 H12 H13
年収の
(@)19.8%
(A)21.6%
(評価指標)
最終保険料(国民年金)
H9 H10 H11 H12 H13
月額
(@)18,500円
(A)25,200円
(備考)
積立度合とは、前年度末に保有する積立金が、国庫負担を含めた実質的な支出総額の何年分に相当しているかを表す指標である。
平成13年の積立度合は、実績が未確定である。
最終保険料(率)は、平成11年財政再計算による。数値は、(@)基礎年金の国庫負担割合2分の1の場合、(A)基礎年金の国庫負担割合3分の1の場合である。
実績目標3 公的年金積立金について、基本ポートフォリオを適切に管理するとともに、適切な情報開示を図ること
(実績目標を達成するための手段の概要)
公的年金積立金について、基本ポートフォリオを適切に管理することについて
年金資金運用基金について、時価による資産構成割合に係る基本ポートフォリオ(平成20年度までは移行ポートフォリオ)からの乖離状況を毎月把握し、乖離許容幅を超えて乖離している場合には、その範囲内に収まるように資産構成割合の変更を行うなどにより基本ポートフォリオ(移行ポートフォリオ)の達成を目指す。
適切な情報開示を図ることについて
運用状況について報告書を作成し、報告書の配布、年金資金運用基金のホームページへの掲載などを行っている。
(評価指標)
年度末の各資産の構成割合と移行ポートフォリオの乖離幅
H9 H10 H11 H12 H13
評価欄参照
ディスクローズの充実(回数)
1回 1回 1回 1回 4回
(備考)
平成13年度から厚生労働大臣による自主運用が開始され、新たな運用指針による運用となったため、平成13年度からの管理状況を記載している。なお、平成12年度までは年金積立金全額を旧資金運用部(現財政融資資金)に預託することが義務付けられており、また、旧年金福祉事業団による資金運用事業も旧資金運用部からの借入金を原資として行われていたものであり、厚生労働大臣による自主運用の仕組みとは全く異なるものであった。
基本ポートフォリオは、長期的に維持すべき資産構成割合として厚生労働大臣が社会保障審議会の審議を経て定めており、旧資金運用部への預託金全額が償還される平成20年度末に達成することとしている。それまでの間は、厚生労働大臣が毎年度、同審議会の審議を経て年度末に到達すべき移行ポートフォリオを定めている。
移行ポートフォリオについては運用資産全体(年金資金運用基金の運用資金と財政融資資金への預託金の合計)の移行ポートフォリオと、年金資金運用基金の移行ポートフォリオ(市場運用部分)を厚生労働大臣が策定している。


2.評価

(1) 実績目標の達成状況の評価
実績目標1 公的年金給付が老後生活に役に立つこと
有効性 「国民生活基礎調査」(2001年)によれば、高齢者世帯(65歳以上のみで構成するか、又はこれに18歳未満の未婚の者が加わった世帯)の所得に占める公的年金等の割合は平均すると6割を超えている。また、「家計調査」(2001年)では、無職の高齢者夫婦世帯においては実収入236,288円中公的年金等社会保障給付の収入は199,305円となっており、無職の高齢者夫婦の世帯の家計は、平均的に見ると厚生年金のモデル年金の水準(238,125円)にほぼ匹敵する社会保障給付を主な収入として営まれている。このように、今日、公的年金制度は高齢期の生活の基本部分を支えるものとして重要な役割を担っている。
実績目標2 公的年金の財政が安定していること
有効性 平成11年の財政再計算以後、現役世代の人口が頭打ちとなっていることや景気が低迷していることを受けて、被保険者数は頭打ちとなっている一方で、高齢者人口の増加により受給者数は着実に増加している。このような状況の中で、厚生年金の財政状況は、平成11年度以来保険料引上げが凍結されていることも影響し、保険料収入と国庫負担で給付に必要な費用を賄うことができず、積立金からの運用収入も給付に充てている状況が続いている。
 平成11年財政再計算では、次期財政再計算時に保険料引上げを再開し、段階的に年収の2割程度の水準まで引き上げていくことで長期的な年金財政の収支の均衡を図っているが、近年の年金財政の状況は長期的に安定して年金制度を運営していくために、保険料の引上げの再開が不可欠であることを示しているといえる。
 また、平成14年1月に新しい将来推計人口が発表されたが、再計算の前提をこの新しい推計に置き換えた場合の年金財政の見通しについては、最終的な保険料水準が、高位推計で約0.5割程度、中位推計で約1.5割程度、低位推計で約2.5〜3割程度上昇することが見込まれている。
 このような年金制度をとりまく厳しい状況を踏まえ、平成16年に財政再計算を行い、将来にわたって安定した年金制度を構築するための制度改正に取り組むこととしている。
 なお、平成13年度に実施した年金額の据置きの特例措置に伴う財政影響は、国民年金・厚生年金の給付費ベース(予算ベース)で2,678億円となっているが、この財政影響については、長期的な年金財政に影響を及ぼさないよう、特例法附則において、次期財政再計算までに給付額やスライド規定の見直し等について検討を行い、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとしている。
実績目標3 公的年金積立金について、基本ポートフォリオを適切に管理するとともに、適切な情報開示を図ること
有効性  
公的年金積立金について、基本ポートフォリオ(移行ポートフォリオ)を適切に管理することについて
 平成13年度末の年金資金運用基金分の資産構成割合は以下のとおりであり(C)、すべての資産クラス(国内債券、国内株式等)が移行ポートフォリオ(A)の乖離許容幅(B)の範囲内に収まっており、適切に管理が行われた。

表

 また、年金資金運用基金分の資産構成割合が上記のようになったため、平成13年度末の運用資産全体分の資産構成割合は以下のとおりとなり(F)、すべての資産クラスが移行ポートフォリオ(D)の乖離許容幅(E)の範囲内に収まった。

表

適切な情報開示を図ることについて
 運用結果のディスクローズの回数は、旧年金福祉事業団時代は年1回であったが、自主運用開始後の平成13年度からは、それに加えて第1〜第3四半期の各四半期末の運用状況の速報値の公表を行うこととし、年4回とした。
 なお、平成13年度においては、年1回のディスクローズの内容についても、より一層の情報開示を推進し、従来の運用機関別運用資産額、運用機関別運用実績、運用機関別運用手数料についての詳細な開示に加えて、各月ごと、各資産クラスごとの資金配分・回収状況についても、新たに公表を行うなどの取組を行った。

(2) 施策目標の達成状況と総合的な評価
現状分析  公的年金の給付は、実績目標1の評価にあるように高齢期の生活の基本部分を支えるものとして重要な役割を担っている 。
 また、実績目標2の評価のとおり、平成11年に財政再計算が実施された結果、制度の長期的な安定を図る制度改正が平成12年に行われ、施行されているが、再計算の前提を平成14年1月に発表された新しい将来人口推計に置き換えた場合には、最終的な保険料水準が、高位推計で約0.5割程度、中位推計で約1.5割程度、低位推計で約2.5〜3割程度上昇することが見込まれている状況にある。
施策手段の適正性の評価  公的年金制度は、世代間扶養を基本とする社会保険方式によって運営されているが、このような仕組みは、世界の主要国でもほぼ例外なく採用されており、今日、長期間にわたる経済社会の変動に対応し、広く国民の老後の生活を確実に保障できる合理的な仕組みであると評価している。
 保険料の負担と年金の受給が長期間にわたるため、社会経済の変動に対応して長期的な制度の安定、給付と負担の均衡を確保することが重要であり、これまで、財政再計算を少なくとも5年に1度行うとともに必要な制度改正を行い、年金制度が長期的に安定し老後の所得保障機能を果たし続けることができるよう努めてきたところである。
 急速に少子・高齢化が進行することが見込まれている我が国においては、将来世代の保険料負担が急激に上昇し過度なものとならないようにすることが重要であり、一定の積立金を保有し、その運用収入を給付に充てて将来世代の保険料負担が過度なものとなるのを避けることは合理的である。
 この年金の積立金の運用に関しては、より小さなリスクで効率的に収益を上げることができるよう、長期的に維持すべき資産構成割合(基本ポートフォリオ)を定め、それを忠実に達成するという運用方法を採用しており、長期的な観点からの運用の方法としては合理的なものである。
総合的な評価  5年に1度の財政再計算や年金積立金の適切な長期運用により、今日、公的年金制度は、老後生活の経済的自立の基礎となる所得保障として国民生活に不可欠な役割を果たしている。
 しかしながら、急速な少子・高齢化の進行や厳しい経済金融情勢、雇用の流動化、女性のライフスタイルの多様化など、公的年金制度をとりまく環境は大きく変化している。
 このような状況に対応し、平成16年に行う次期年金制度改正に向けて、社会全体での世代間扶養を基本とする社会保険方式に適切な国庫負担を組み合わせる方式の下で、恒久的な改革を目指す方向で、国民に開かれた議論を行って、持続可能な年金制度を構築することが必要である。


3.政策への反映方針

 平成16年の次期年金制度改正に向けて、世代間扶養(社会全体での仕送り)を基本とする社会保険方式を維持しつつ適切な国庫負担を組み合わせる方式の下で、恒久的な改革を目指す方向で国民的議論を行う。


4.特記事項

(1)学識経験を有する者の知見の活用に関する事項
平成14年1月より、社会保障審議会年金部会で平成16年の年金制度改正に向けた検討を開始。
基本ポートフォリオ(移行ポートフォリオ)は、厚生労働大臣が社会保障審議会(年金資金運用分科会)に諮問した上で策定。
年金資金運用基金においては、経済・金融・年金資金運用について高い見識を持つ投資専門委員の意見を聴いた上で、資金の管理運用業務が行われている。

(2)各種政府決定との関係及び遵守状況
特になし

(3)総務省による行政評価・監視等の状況
特になし

(4)国会による決議等の状況(警告決議、付帯決議等)
特になし

(5)会計検査院による指摘
特になし


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