第9章 労働移動と転職
我が国の労働移動は、1960年代・70年代前半と比べると、90年代は水準が低い。転職希望は若年者を中心として長期的に高まっているが、実際の転職は景気動向に大きく左右される他、就業形態の多様化や経済のサービス化にも影響される。 産業間再配分については新規学卒者の果たす役割が大きい。転職については前に従事していた産業と同じ産業に移動する傾向があるほか、移動が双方向あるため、配分への寄与は小さい。地域間の労働移動は減少傾向にある。 個人レベルの転職の成否についてみると、専門的な知識や能力をもっている者は、その能力を活かすことで転職に成功する可能性が高くなるが、中高年にとっては転職の成功は難しい。 |
(これまでの労働移動の傾向)
我が国の労働移動率をみると、1960年代から70年代前半まで高水準であったが、1973年の第1次石油ショック後経済成長率が低下するとともに労働移動は少なくなった。バブル期に若干増加したものの、バブル崩壊後は再び低水準となった。1994年を底に労働移動は増加傾向にある(第42図)。
転職入職率も労働移動率と同じような動きをしている。転職入職率をパートと一般労働者についてみると、一般労働者では安定的に推移しているのに対し、パート労働者の転職入職率は一般労働者に比べて高く、上昇傾向にあり、全体の転職入職率の上昇にも寄与している(第43図)。
勤続年数は、長期化している(第44表)。この理由として、50歳以上の中高年層で勤続年数が長くなっていること、勤続年数の長い中高年層が雇用者全体に占める割合が高くなっていることがある。
転職に影響を与える要因として景気動向があり、高度成長期やバブル期に転職入職率が高水準であったのは経済が活発で労働需要が高水準であったためである。90年代後半以降転職入職率の上昇傾向がみられているのは、就業形態の多様化や経済のサービス化によるものと考えられる。
(労働移動の実態)
産業間再配分については新規学卒者の果たす役割が大きい。転職者については前に従事していた産業と同じ産業に移動する傾向があるほか、移動が双方向あるため、配分への寄与は小さい(第45表)。今後は、産業構造の変化が見込まれるが、サービス業への新規学卒者の配分の増加や転職による産業内配分の増加の可能性がある
職種間労働移動についても同じ職業間で移動する傾向がある。最近では専門的・技術的職業従事者が増加し管理的職業従事者が減少しているが、専門的・技術的職業従事者については、新規学卒者が給源として大きな役割を果たしている。
地域間労働移動は減少傾向にある(第46図)。
(個人レベルでの転職の成否)
個人レベルの転職の成否についてみると、専門的な知識や能力をもっている者は、その能力を活かすことで転職に成功する可能性が高くなるが、中高年にとっては転職の成功は難しい。また、中途採用者の採用の決定要因をみると、職務経験や熱意・意欲を重視する傾向が強い。