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第7章 過剰雇用と潜在失業


 雇用情勢の厳しさは、失業だけをみていても十分には分からない面もある。こうした観点から、しばしば、過剰雇用や潜在失業の存在が指摘される。これらの存在は雇用情勢をみる上で参考になる。しかし、その一方で、その把握には限界があることも事実である。特に過剰雇用は、推計方法によりその数値は大きく変動する。また、過剰雇用のすべてがすぐに雇用調整されるわけではない。一時的に過剰な雇用を抱えることも、経済的には合理的な行動である。また、潜在失業は、我が国に多いといわれるが、その多くが、家庭を犠牲にしない範囲で働ける仕事があれば働くという、比較的緊要度の低いものであることに留意しておく必要がある。


(失業とは何か)

 失業者は、(1)仕事がなくて調査期間中に少しも仕事をしなかった、(2)仕事があればすぐに就くことができる、(3)仕事を探す活動や事業を始める準備をしていたの3つの条件を満たす者と定義されており、ILOが定める基準に沿ったものとなっている。
 ILOが定める基準に準拠した定義をとる国の間にも若干の相違があり、例えば、アメリカと日本では求職活動の期間、求職活動の結果待ちの者の扱いなどの点で異なっている(第33表)。なお、直近ではアメリカ定義に合わせた方が日本の失業率は低くなる。


(過剰雇用)

 経済情勢が変動する中で、企業が必要とする労働者と現在雇用している労働者との間に、量的または質的な差が生じることとなり、この差が過剰雇用と考えられる。過剰雇用については民間のシンクタンク等から様々な推計が出ているが、推計方法や、推計期間の取り方によって大きく異なる。仮に雇用調整関数を用いて過剰雇用を試算すると、113万人あるいは52万人となるなど推計期間の取り方で幅がある(第34表)。いずれにしても過剰雇用の計測を客観的に行うことは事実上不可能であり、推計結果は参考程度にとどめるべきである。
 企業が過剰雇用を抱える理由として、日本の労働市場が柔軟性に欠け、解雇等をしにくい状況にあるためとの議論がある。しかしながら、人材育成にかかる費用などが解雇に伴い埋没費用となること、従業員の企業に対するモラールが低下することなど企業側にもマイナスの面があり、過剰雇用を抱えることは経済合理性にかなっている面がある。
 過剰雇用のすべてが失業につながるわけではないが、長期にわたって需要の回復が見込めない場合などでは、過剰雇用を抱えるコストは大きくなり、大幅な雇用調整につながる可能性がある。
 雇用過剰感と失業率との相関関係をみると、あまり相関はみられない。また同一産業において、雇用過剰感が高まったからといって失業率は必ずしも上昇していない。これは、雇用過剰感の高まりがすぐに解雇へ結びつくわけではないためと考えられる。
 企業の雇用過剰感をみると、雇用形態では正社員、年齢では50歳台が高くなっている。年齢や部門間で雇用過剰感や雇用の将来見込みが異なっていることから、企業内における職種転換が重要である。


(潜在失業について)

 失業の実態をみるには、仕事に就きたいと思っているが適当な仕事がないという理由から、仕事を探すことをやめる潜在失業を考慮することが重要との議論がある。日本は国際的にみて潜在失業が多いとの推計結果が多いが、景気が良い時にも一定数の潜在失業が存在していることに留意が必要である。
 潜在失業の属性、実態をみると、女性、パート希望者が多く、また直近一か月に求職活動を行っている者が少ないことなどから、家庭との両立が可能な仕事がないから仕事をしていない者が多いものと考えられる(第35表)。潜在失業というよりも潜在的に就業意欲をもった「潜在労働力」といった方が適切であり、失業問題というよりも就業促進対策の範疇と考えられる。


(多様な失業の指標)

 アメリカ労働省労働統計局では失業者の深刻度や労働力の有効活用の観点からU1〜U6までの6指標を公表している。日本のU指標を試算すると、アメリカよりも非自発的失業者を考慮した失業率(U2)は低いものの、労働力の有効活用の観点からの指標(U5、U6)は高くなっており、この指標は最近高まっている(第36図)。



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