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第2節 アメリカにおける情報通信技術革新と雇用

 情報通信技術革新の先進国であるアメリカでは、情報通信技術革新の影響が経済全体にみられ、また、雇用も増加した。ホワイトカラーも増加しているが、解雇率は上昇し、雇用の安定性は低下している。情報通信技術革新に対応した雇用対策として連邦政府は学習機会の提供を行い、また、情報通信技術の活用による職業紹介等のネットワークづくりを行っている。

 (進展する情報通信技術革新)

○ アメリカの1990年代の実質国内総生産は、1992年に増加に転じ、1997年以降は前年比4%を超え、2000年は同5%と大幅な伸びを示した。これは消費や投資に占める情報通信技術関連の割合の上昇など情報通信技術革新に支えられたものである。

○ 情報通信技術関連産業の雇用者は1980年から2000年の期間に1.74倍と大きく増加した(非農業事業所雇用者の伸びは1.49倍)。情報通信技術関連職業の雇用者は、1994年以降、全職種を上回る増加率を示している(第14図)。

○ 1990年代において、資本の情報化率の進展に伴い、労働生産性の上昇や物価上昇率の低下の動きがみられる。アメリカの雇用者数は1990年代に大きく増加していることから、技術革新の進展に伴う雇用創出効果が雇用削減効果よりも大きかったと考えられる。

 (雇用が増加する一方、解雇率も高まったホワイトカラー)

○ ホワイトカラーは1991年に減少した以外は毎年増加しており、管理職についても同様に増加している。1990年から2000年の10年間で、ホワイトカラーで約1,300万人、うち管理職で約490万人増加した(第15図)。

○ 他方、企業が組織改革を継続的に実施する中で、個々のホワイトカラーの雇用の安定性はむしろ低下している。事業所の閉鎖や仕事量の減少、仕事自体の廃止などによって離職を余儀なくされた者の「解雇率」は、1990年代に入って管理職や事務職などホワイトカラーでの高まりが顕著となり、景気回復後も引き続き高い解雇率がみられた(第16図)。雇用が増える中で解雇率が高まった背景には、雇用の創出と削減を同時に行っている企業が多いことがある。

○ 解雇されて2年後の就業状態をみると、再就職率は8割と、より雇用情勢の厳しかった1990年代初めの時期よりも改善しているが、高齢者層や、比較的学歴の低い層では就職率が低く、再就職後の賃金が低下する者が相対的に多くなっている。

 (情報通信技術革新と賃金格差)

○ 学歴間の年間平均賃金の格差(男性)をみると、傾向的に拡大しており、1999年では大卒等卒業者の賃金は、高卒者の2.08倍、高校中退者の2.85倍となっている(第17図)。これは、学歴別のコンピュータ保有率の傾向と一致している。保有率の差は人種間、所得階層間でもみられ、格差の固定や拡大につながる懸念があることから、コンピュータ等の機器を活用できるか否かが所得面の格差を生じるという、いわゆるデジタル・ディバイドが大きな問題となっていると考えられる。

 (雇用対策としての学習機会の提供)

○ 教育水準が就職機会を左右するアメリカでは、生涯にわたる学習機会の提供を重視している。初等・中等教育ではコンピュータの設置やインターネットへの接続などを進めている。また、1998年8月に制定された労働力投資法に基づき、情報通信技術関連人材の育成を進めている。

○ コミュニティーカレッジも情報通信技術関連人材の育成に大きな役割を果たしている。

○ アメリカ労働省は、インターネット上で求人・求職者双方に労働市場の情報を提供する「米国職業キット(America's Career Kit)」を開設し、求人要件と求職者の技能におけるミスマッチの解消を図っている。

 (OECD諸国における情報通信技術革新の状況)

○ OECD諸国において、情報通信技術関係の分野は、国内総生産に占める比重は依然小さいものの、経済的な重要性は増加してきており、各国で情報通信技術革新が進んでいる。


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