まえがき

「2005〜2006年 海外情勢報告」は、諸外国の労働情勢及び社会保障情勢全般に関する情報を整理・分析し、広く提供することを目的として、毎年、厚生労働省においてとりまとめ、公表しているものです。今回の報告では、「諸外国における高齢者雇用対策」を特集として紹介しています。

我が国における1年間の出生数は、1970年代前半には、約200万人でしたが、近年は100万人程度で推移しています。合計特殊出生率も、1971年(昭和46年)の2.16から2005年(平成17年)には1.26となっています。この結果、我が国の65歳以上人口は、2005年(平成17年)10月時点で2,567万人となり、我が国総人口に占める割合は、20.1%となるなど、少子高齢化が急速に進んできています。今後、労働力人口は、2004年(平成16年)と比較して、2015年(平成27年)までに、全体として、約110万人の減少が見込まれています。そのような中で、我が国の経済活力を維持していくためには、高い就労意欲を有する高齢者が長年培った知識と経験を活かし、社会の支え手として活躍していく社会が求められています。

このため、我が国では、高年齢者雇用安定法が改正され、高年齢者が少なくとも年金支給開始年齢(男性の年金支給開始年齢にあわせた男女同一の年齢)までは働き続けていくことができるよう、2006年(平成18年)4月から事業主の方々に「高年齢者雇用確保措置」を講じていただいています。

人口の高齢化は、我が国のみならず、EU諸国をはじめ、アメリカなど欧米先進諸国でも進行しています。これらの国々では、今後、社会保障制度の支え手の中心となる働く世代が相対的に減少するなかで年金や医療等の社会保障支出が増え続け、一人あたりの負担も増大することが予想されています。こうしたことから、多くの国で年金、介護、医療、税制等を含めた社会経済システムの見直しが必要となっています。ここでは、いろいろな取り組みのなかでも、ひとりでも多くの高齢者に働いてもらうことにより社会保障制度の支え手を増やす方策の現状や方向性について各国の状況を調査しています。

このような取り組みの中では、高齢者が労働市場の中で不利な扱いを受けないようにする制度としてアメリカの年齢差別禁止法が昔から有名です。最近の動きではEUの多くの国が従来の早期引退促進から高齢者就業促進に大きく舵を切ったことが注目されます。

こうした国々の取り組みは、我が国の今後の対応を考える上で大変参考になります。そこで、EU、イギリス、ドイツ、フランス及びアメリカを対象として、高齢者雇用対策について調査を実施しました。

報告の後半では、欧米、アジア諸国の労働情勢及び社会保障情勢を紹介しております。諸外国の雇用情勢を概観いたしますと、アメリカでは景気拡大のテンポが緩やかとなっているものの、雇用情勢は底堅く推移しています。イギリスでも、景気の回復が続く中で雇用情勢も堅調に推移しています。フランス、ドイツでは、景気は回復基調にあり、失業率は高水準で推移しているものの低下傾向にあるなど、雇用情勢は徐々に好転してきています。アジア諸国も多くの国では好調を維持しています。

社会保障の分野では、アメリカで現在、賦課方式の1階建てである公的年金を2階建てに再編し、その2階部分を確定拠出型のものとする改革案が昨年来検討されています。イギリスでは年金の支給開始年齢を遅らせ支給額を賃金スライドに移行させることが検討されています。ドイツでは年金支給開始年齢の引き上げが閣議決定されたほか、新たな育児手当である両親手当が2007年から導入されました。

今回の報告が、読者の皆様が海外の労働・社会保障情勢について理解を深める上で参考になれば、幸甚に耐えません。

2007年3月

厚生労働省大臣官房総括審議官 松井一實


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