特集: 諸外国における若年者雇用・能力開発対策

 はじめに
 現在、我が国の社会は、少子高齢化という人口構造の急激な変化の下、情報化、国際化、消費社会化が進行し、家庭、学校、職場、地域など若者を取り巻く環境にも大きな影響が及んでいる。こうした中で、近年の厳しい雇用情勢は、若年期という人生の中の重要な時期に安定的な雇用の場を失うことで職業能力を身につける機会や、若者と社会との円滑なつながりを失わせている。若者の完全失業率は、改善の兆候が見られるものの、依然として高水準であり(2005年は15〜24歳層で8.7%)、若年層の雇用情勢は厳しい状況にある。また、近年、フリーターや、働いておらず、教育も訓練も受けていないいわゆるニート1と呼ばれる若年無業者が増加している。
 このような状況が続けば、若者の職業能力の蓄積がなされず、中長期的な競争力・生産性の低下といった経済基盤の崩壊はもとより、不安定就労の増大や生活基盤の欠如による所得格差の拡大、社会保障システムの脆弱化、ひいては社会不安の増大、少子化の一層の進行等深刻な社会問題を惹起しかねない。そこで、2003(平成15)年6月に「若者自立・挑戦プラン」が、2004(平成16)年12月には同プランの実効性・効率性を高めるための「若者の自立・挑戦のためのアクションプラン」が相次いで策定され、若年失業者等の増加傾向を転換させるべく積極的な取組みが行われている。さらに、2005年9月には「若者の人間力を高めるための国民宣言」2が発表され、経済界、労働界、教育界、マスメディア、地域社会、政府が一体となった若者の人間力を高める国民運動が展開されているところである。
 今後、若年者雇用対策を展開していく中で、我が国に先んじて若年者雇用問題に直面してきた国々の経験は参考になると思われる。例えば、ドイツでは、ワイマール時代から、企業訓練と職業学校との二元的な職業教育・訓練制度(いわゆる「デュアル・システム」)を確立し、継続させてきた。こうした職業教育・訓練制度は、若年失業率を低位に抑え、早期に多くの卒業生を仕事に就かせることに成功してきたとも評価されている。また、イギリスにおいては、若者を「福祉から就労へ」移行させることを目指し、パーソナル・アドバイザーによる相談や一定の就業等プログラムへの強制参加を内容とする「若者向けニューディール」を1998年に導入した。さらに、2000年からは、いわゆるニート化を防止するため、地域に置かれるネットワークによるアドバイス及びガイダンスを主たる内容とするコネクションズ・サービスを開始している。このほかにも先進諸国を中心に、若年者雇用問題の解決を図るために、多様かつ創造的な取組みが実施されているところである。
 そこで、特集部分では、早くから若年者雇用問題に直面しているアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、カナダ、オーストラリアのほか、国際機関や近年成長著しいアジア諸国における若年者雇用・能力開発対策を調査した。

 諸外国における若年者雇用・失業情勢
(1) 人口の動向
  a  若者(15〜24歳)の人口の推移
 第二次世界大戦以降、各国ではベビーブームを背景に、若者の人口の増加が続き、日本を除くほとんどの国において1980年代にピークを迎えた。その後、ほとんどの国では少子化の進行に伴い、若者の人口は減少に転じている(図1)。

図1  若者(15〜24歳)の人口の推移(1985年=100)

図1 若者(15〜24歳)の人口の推移(1985年=100)
資料出所: UN “World Population Prospects : The 2004 Revision”

  b  生産年齢人口(15-64歳)に占める若者(15-24歳)の人口の割合の推移
 生産年齢人口に占める若者の人口の割合の推移を見ると、1970年代以降、若年人口が相対的に見て急激に低下していることが分かる。こうしたことから、各国では、生産年齢人口の高齢化が進展していることが伺える(図2)。

図2  生産年齢人口(15-64歳)に占める若者(15-24歳)の人口の割合の推移

図2 生産年齢人口(15-64歳)に占める若者(15-24歳)の人口の割合の推移
資料出所: UN “World Population Prospects : The 2004 Revision”

(2) 教育水準の動向
 次に、若者の教育水準の動向について見る。
 図3をみると、ドイツを除き、各国とも高等教育を修了する若者の割合が上昇していることが分かる。

図3  高等教育修了者(tertiary attainment)割合の推移(25-34歳)

図3 高等教育修了者(tertiary attainment)割合の推移(25-34歳)
資料出所: OECD “OECD Factbook 2005 Economic, Environmental and Social Statistics”

(3) 失業の動向
 上記(1)及び(2)で見てきたとおり、若者の人口は絶対数においても相対的割合においても減少傾向にあり、近年は若者の高学歴化が進展している。こうした要因は、若年労働者に労働市場において有利な状況をもたらしているとも思える。
 しかしながら、次に見るように、若者の失業率は、他の年代を大きく超える水準で推移しており、厳しい状況に置かれている。
  a  若年失業率の推移
 若者(15〜24歳)の失業率は、1973年のオイルショック以降上昇し、80年代後半にいったんは低下したものの、90年代に入って再度上昇した。その後、90年代後半に低下したものの、その後は若干上昇している。近年では、ほとんどの国で10%を超えているが、国によって水準は異なっている。例えば、ドイツでは高い時期でも10%程度にとどまっているのに対し、フランスでは20%を超える水準に達している(図4)。

図4  若年失業率の推移

図4 若年失業率の推移

  b  他の年代との比率の推移
 次に、若年失業率を25〜64歳の失業率と比較すると、ほとんどの国において若年失業率は相対的に見て極めて高い水準になっていることが分かる。若年失業率は、ドイツを除き、25〜64歳の失業率の2倍前後又は2倍を超える水準にあり、イギリス及び韓国に至っては3倍を超えている。
 近年の傾向を見ると、比率は緩やかな上昇傾向にある。イギリスの上昇傾向は特に顕著であり、1980年代末には1.5倍程度であったものが、その後10年程度で比率は2倍(25〜64歳の3倍)になっている。
 このように、ドイツを例外として、ほとんどの国において、若者は他の年代に比べて失業しやすい傾向にあることが分かる(図5)。

図5  25-64歳の失業率に対する若年失業率の比率の推移

図5 25-64歳の失業率に対する若年失業率の比率の推移

  c  若者の失業期間
 次に、若者(15〜24歳)の失業期間についてみる。ドイツ、フランスといった大陸諸国は失業期間が長い傾向があり、4〜5割が失業期間6か月以上となっている。これに対し、北米諸国(アメリカ及びカナダ)は失業期間が比較的短く、失業期間6か月以上の者は1〜2割程度である。イギリス及びオーストラリアは、これらの中間に属する(図6)。

図6  失業期間による若年失業者の内訳(2004年)

図6 失業期間による若年失業者の内訳(2004年)

  d  属性による比較
 学歴別の若年失業率を見ると、各国とも、学歴が低いほど失業率は高くなっており、若者の中でも、とりわけ低学歴層が労働市場において不利な立場に置かれていることが分かる(表3)。

表3  学歴別若年失業率(2003年)
(%)
  アメリカ イギリス オーストラリア カナダ ドイツ フランス 韓国 日本
後期中等教育未満 20.1 30.6 18.8 21.0 12.6 30.2 13.2 22.7
後期中等教育 10.8 10.5 8.5 11.6 10.3 17.4 9.8 11.4
大学以外の高等教育 9.5 - 10.5 8.0 - 15.6 8.4 6.6
高等教育(大学又は大学院) 5.0 6.1 8.7 9.1 - 19.5 8.5 7.2
13.0 11.5 12.3 13.8 11.2 21.2 9.6 10.2
資料出所: OECD “Labour Market Statistics - INDICATORS”

(4) 就業の動向
  a  若年就業率の動向
 若者(15〜24歳)の就業率の動向についてみる。アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリアといったいわゆる英語圏諸国では、若年就業率は50%以上と比較的高い水準を維持している。これに対し、ドイツ、フランスといった大陸ヨーロッパ諸国や韓国では、長期的に見てゆるやかな低下傾向にあり、とりわけフランスでは30%を切る低い水準にある(図7)。
 こうした違いが生じている背景としては、後者では近年急速に高学歴化が進展したことが考えられる。また、前述の通り、フランスでは若者の失業率が非常に高く、若者が労働市場に入ることが難しいことが影響しているものと考えられる。

図7  若年就業率の推移

図7 若年就業率の推移
資料出所: OECD “Labour Market Statistics - INDICATORS”

  b  若年無業者の動向
 次に、若年無業者の動向についてみる。
 近年、我が国において、いわゆるニート(NEET)と呼ばれる若年無業者の増加が指摘されている。イギリスにおいて、こうした若者の存在が取り上げられるようになったのは、教育、訓練及び雇用のいずれの活動にも従事していないことから、支援が非常に難しく、放置すれば長期的失業や青年犯罪などの問題が起こりやすく、社会的なコストの増大も懸念されるからである。
 もっとも、こうした若者を国際的に比較する資料は整備されていないことから、ここでは学生でなく、かつ就業していない者(Not in education and not employed)についてみる。表4のように、いずれの国においても、教育、雇用のいずれの活動にも従事していない若者が少なからず存在していることがわかる。各国とも、年齢階級が高いほうが無業者の割合も高く、20-24歳層で15%前後、25-29歳層で15%以上が無業者となっている。

表4  若年無業者の推移

(%)
  1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
アメリカ 15-19歳 7.8 7.3 7.4 7.0 7.5 7.0 -
20-24歳 17.8 14.4 15.1 14.4 15.6 16.5 -
25-29歳 17.0 15.4 15.7 15.8 17.7 17.4 -
イギリス 15-19歳 - - - 8.0 8.2 8.6 9.4
20-24歳 - - - 15.4 14.8 15.3 15.3
25-29歳 - - - 16.3 16.0 16.0 16.3
オーストラリア 15-19歳 9.9 8.8 7.4 6.8 7.6 7.0 6.8
20-24歳 16.9 16.0 14.5 13.3 13.9 13.2 13.3
25-29歳 21.5 19.2 18.5 19.0 17.2 17.8 17.6
カナダ 15-19歳 7.3 7.4 7.1 7.0 6.1 6.5 6.7
20-24歳 17.2 16.5 14.6 14.2 14.4 14.0 13.2
25-29歳 21.1 18.3 17.3 16.3 15.7 16.7 15.6
ドイツ 15-19歳 - 3.4 4.5 5.7 5.1 4.7 4.7
20-24歳 - 15.0 16.7 16.9 16.4 15.9 15.6
25-29歳 - 17.7 18.2 17.5 18.0 17.4 18.4
フランス 15-19歳 2.5 3.1 3.3 3.3 3.4 3.4 14.0
20-24歳 17.5 16.5 17.5 14.1 13.4 14.4 15.5
25-29歳 21.0 22.1 21.4 18.6 18.3 18.2 18.8
資料出所: OECD "Education at a Glance 2005"

 諸外国における若年者雇用・能力開発対策
 これまで、諸外国における若年者雇用の動向についてみてきた。
 まず、各国とも、1970年代のオイルショック以降、若年失業率が上昇しており、現在も10%を上回る高水準にある。また、失業期間をみると、欧州大陸系諸国を中心に、6か月又は1年以上の長期にわたる者の割合が高くなっている。また、低学歴層の失業率が高くなっており、労働市場において不利な立場に置かれていることが分かる。さらに、各国とも、教育、雇用のいずれの活動にも従事していない若者が少なからず存在している。こうした状況を改善するため、各国ではさまざまな若年者雇用・能力開発対策が実施されている。
 そこで本稿では、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、カナダ及び韓国について、(1)若者のキャリア形成及び就職支援、(2)困難な状況にある若者に対する施策及び(3)就業機会を拡大するための施策について調査した。また、近年成長著しいアジア諸国(中国、シンガポール、インドネシア、マレーシア及びタイ)についても同様に調査を行った。さらに、各国の取組みを支援する国際機関等の取組みについても調査を行った。

(1) 国際機関等における取組み
 国際労働機関(ILO)によると、若者(15-24歳)の失業率は、1993年から2003年までの10年間に、11.7%から14.4%という高水準に達しており、約8,800万人に上る若者が仕事を持たない状況にある。さらに、25歳以上の失業率と比較すると、若年失業率は3.5倍にも達しており、若者は相対的に見ても厳しい環境に置かれていることがわかる。また、仕事の質という面においても厳しい状況にあり、世界の若者の大部分がインフォーマル経済3で働いているとされている。こうした若年労働者は、多くの場合劣悪で不安定な労働条件の下で、社会的な保護を受けずに働いている。
 こうした状況を踏まえ、近年、多くの国際機関において、若年者雇用問題に対する取組みが強化されている。
 ILOは、世界の労働問題を取り扱う国際機関としての取組みの第一歩として、若者が置かれた状況を正確に把握するため、2004年8月に、”Global Employment Trends for Youth”を取りまとめた。
 また、若年者雇用問題については、経済、労働市場、社会背景等の違いがあるものの、各国とも共通する課題を有している。そこで、問題意識や対処方針、ベストプラクティスに関する情報を共有することが有益である。こうしたことから、様々な枠組みで国際会議が開催されている。いわゆるG8諸国は、1年に1回程度「G8労働大臣会合」を開催し、若年者雇用問題を含む雇用対策について意見交換を行い、基本方針を確認している。ILOは、総会や地域会合等において若年者雇用を議題として取り上げて議論を重ね、各国政労使やILOの役割を整理している。また、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットで採択された「ミレニアム宣言」では、「全ての地域の若者にディーセント4かつ生産的な仕事を得る真の機会を与えるような戦略を策定し実施することを決意する」として、世界が若年者雇用対策について優先的に取り組む姿勢を明らかにした。これは、その後の「国連ミレニアム宣言を実現するためのロードマップ」で具体化され、若年者雇用ネットワーク(YEN)の創設に結びついている。
 欧州連合(EU)では、加盟国の若年者雇用対策について調査・分析を行うとともに、さらに進んで、機関としての雇用戦略(指針)を策定し、加盟国における実施状況をフォローアップするなどしている。
 こうした国際社会における取組みは今後一層強化される方向にある。

(2) 各国における取組み
  a  若者のキャリア形成及び就職支援
  (a) 学校教育5
 各国で共通して実施されているのは、教育カリキュラムの中に職業教育及び職業体験を組み込むというものである。こうした施策は、早い段階から若者に仕事に関する基礎知識を身につけさせ、職業意識の形成を支援することにより、将来の労働市場への参入の準備をさせようとするものである。

表5  学校における職業教育・職業体験
アメリカ
 キャリア・アカデミー(Career Academy)
 低学力など問題を抱える生徒向けの特別の学習コースを学校内に設け、職業教育及び一般教養科目の系統的学習などを行う。
 コーポラティブ(コオペラティブ)教育(Cooperative Education)
 主に12年生(日本における高校3年生)を対象とした、有給の職場実習型の教育であり、学校での職業教育と並行して行われる。コーポラティブ(コオペラティブ)教育の経験が単位となったり、学位授与の要件になったりする。
 テックプレップ(Tech-Prep)
 中等教育の最後の2年間と準学士資格取得可能な高等教育機関における2年間の教育を結合させ、4年一貫教育として位置づける教育制度である。この特徴から「2+2」制度とも呼ばれる。当該4年間で、専門的職業教育科目と、数学・自然科学・情報技術科目の双方の履修が義務付けられる。
イギリス
 仕事関連学習(Work Related Learning)
 イングランドの基幹段階4(第10、11学年。日本の中学生程度に相当)の生徒のカリキュラムに組み込まれる。キャリア教育、勤労体験や学習支援などの様々な活動が行われている。
ドイツ
 普通教育における職業指導
 ハウプトシューレ(基幹学校)では職業活動体験は生徒の義務になっている。レアルシューレ(実科学校)、ギムナジウムでは希望者による任意になっている。職業体験の分野は、レストラン、郡役所、旅行代理店、運送会社、動物保護施設など多岐にわたっている。
(注) ハウプトシューレ、レアルシューレ及びギムナジウムは、いずれもグルントシューレ(日本の小学校に相当)修了後に入学する中等教育機関。ハウプトシューレは修了後に就職して職業訓練を受ける者が主として就学する。レアルシューレは、修了後に上級専門学校など全日制の職業学校に進学する者や、就職する者が主として就学する。ギムナジウムは、上級学校への進学を目指す生徒が主に就学する。
 各種職業学校
 各種の職業学校があり、上級学校非進学者の多数が進んでいる。
 職業学校(Berufsschulen )
 パートタイムの職業学校。「デュアルシステム」の学校側における担い手である。9〜10年の義務教育を終えた者が入学する。日本の工業高校、商業高校に相当。
 職業専門学校(Berufsfachschulen ;BFS)
 フルタイムの学校。学業期間は1年以上となっている。義務教育を終えた者が入学できる。実務的な職業訓練を修了していない者に対して、職業訓練の機会を与える。生徒の約6割が女性である。日本の工業高校、商業高校に相当。
 専門学校(Fachschulen :貿易・技術学校)
 デュアルシステムでの職業訓練を修了した者又は数年間の職業実務経験を終えた者が入学者対象となっている学校。高等職業教育(例:修士、技術資格者水準)を授与することを目的にしている。日本の専門学校に相当。
フランス
 交互教育(Alternnance)
 産学の連携により、中等教育の後期課程又は高等教育において、学校での教育と職場での訓練を交互に行うことにより、実際の職場で必要な能力を身につけさせ、若者の能力の向上と就職を促進する。
 大学付設職業教育センター(IUP)
 1991年度から、企業の要求に即した人材の育成を目指し、大学付設職業教育センター(IUP)が、全国の主要大学に設置された。全教育期間の3分の1を企業実習に充てている。修了者には大学4年修了で取得できる免状と同格の「高度技術者マスター」の免状が授与される。
カナダ
 夏期就業体験(Summer Work Experience)
 夏季の短期就労経験を探す高校生又は大学生に対し、求人情報提供、カウンセリング指導等を実施、夏季求人の募集・採用を行う事業主には賃金助成を行う。
オーストラリア
 職業教育訓練(VET)
 職業教育訓練体系を総称して、VET(Vocational Education and Training )という。
 職業教育訓練とは、義務教育を修了した者を対象にした職業教育・訓練のことである。1996年からは、学校の外にいる者(早期退学者など)もこれに参加できることとなった。実施主体としては、大学、TAFE(下記参照)、私立職業高校、普通高校があるが、現在はTAFEが中心となっているとされる。
 職業教育訓練高等専修学校(TAFE)
 高校から大学初級程度までを1つにした職業教育(学校)で、高等教育である。
 全学生が同じ年数を在籍する必要はなく、コースつまり取得技能別に修学年限が異なり、修学時に授与される資格も学生により異なる。対象としている学生の進路先職種は、病院関連職種、観光業、建設業など様々であるが、具体的な職業に関連したものである。入学の困難さは、TAFEに対応する高等教育機関と同じか、やや低い程度といわれる。大学とTAFEとでは、領域がお互いにオーバーラップしている。TAFEを行う個々の機関は、州により異なり、短大(colleges )、研究所(institutes )といった名称となっている。
韓国
 進路・職業指導の強化
 進路・職業指導に関し、次のような改革を行っている。
 小中高在学生には、授業に進路・職業教育の内容を反映させる。職場見学、経験のため、多様なプログラムを制作・普及し各学校に活用できるよう奨励する。
 大学生には、インターンシップ制度等を活用し、企業実習を充実させる。各大学に対しては、進路・職業科目を編成するよう協力を要請する。
 インターンシップ制度
 1999年に失業中の高卒者及び大卒者の職場体験プログラムとして導入された。2001年12月、高卒・大卒(予定)者に職場体験の機会を提供するための「青少年職場体験プログラム」が導入され、制度が拡充された。さらに、2004年2月末から大学3年生後期、4年生前期在学生を対象に6か月間のインターンシップ制度を実施している。
 2+2プログラム
 中等教育から高等教育への接続を円滑に進めることなどを目的とし、職業訓練専門高校での最後の2年間のカリキュラムを、パートナーとなった職業大学の最初の2年間のカリキュラムと接続するものである。
 カナダでは、このほかに、大卒以上の学歴を持つ者が専門分野に関連する企業で職場体験活動を行うことにより高度な技術を身につけるとともに、就職のきっかけを作り、その分野における指導的立場になることを支援するプログラム(キャリア・フォーカス)が実施されている。

  (b) 職業訓練
 いずれの国も、若者を対象にした職業訓練プログラムが制度化されている。注目すべきは、ほとんどの国において、職業訓練に、教育、雇用を一体化させた訓練プログラム(養成訓練制度(apprenticeship)等)が導入されていることである。国により違いがあるものの、典型的なこれらのプログラムに参加する若者は、資格取得を目指し、企業の職場で実践的な指導、訓練を受けつつ働き、賃金(又はこれに相当する手当)を受け取り、定期的に教育機関等でその職業に係る理論や一般教養を学ぶこととなる。このうち、もっとも長い歴史を有し、広範囲に実施されているのが、ドイツのデュアルシステムである。

表6  養成訓練制度その他の職業訓練制度
アメリカ
 登録養成訓練制度(Registered Apprenticeship)
 職場での職業訓練(OJT)と職場外での教育を組み合わせた教育訓練を行うことにより専門職労働者及び熟練工を養成することを目指す実習制度である。
イギリス
 養成訓練制度(Apprenticeship)
 事業主の下で働きながら訓練を受け、資格取得や技術の習得などを目指す。若者向けのものとしては、対象年齢や取得する資格のレベル等に応じ、次の4種類がある。
(1) 養成訓練(Apprenticeship)
(2) 上級養成訓練(Advanced Apprenticeship)
(3) E2E(Entry to Employment)
(4) 若年養成訓練(Young Apprenticeship)
ドイツ
 職業養成訓練制度(Ausbildung )=デュアルシステム(Duallensystem
 若者を主対象に、企業がその職場で実施する職業訓練と、職業学校等の教育機関での学習とを同時に行い、良質な若年技能労働者を養成するものである。実施主体は事業主と職業学校である。ドイツの若者の職業生活への移行に際し、長期にわたって主柱を任っている。
 職業養成訓練のためには、事業主は養成訓練生との間で職業養成訓練契約を結び職業養成訓練を施す。
フランス
 養成訓練制度(Apprentissage)
 義務教育を終了した16〜25歳の若者等を対象に、体系的な職業訓練を一部は企業内で、一部は養成員訓練センター(CFA)において保証し、教育機関における理論教育等と企業実習の組み合わせによる教育訓練により職業資格の取得を目指す。
 熟練契約(Contrat de Professionnalisation)
 16〜25歳の若者及び26歳以上の求職者を対象として、期間の定めのない契約又は6か月から12か月、最長24か月の有期限契約を結ぶ。被雇用者となった者は、職業訓練機関又は職業訓練を行う企業と訓練協定を結び、職業訓練を受けながら、社会で通用する資格取得や就職・再就職を可能とする。
カナダ
 養成訓練(Apprenticeship)
 職場における職業訓練(OJT)とそれに関連した職場外での教育を組み合わせた教育訓練を行うことにより熟練工を養成することを目的としている。
オーストラリア
 新養成訓練(New Apprenticeship
 職種に限定がほとんどなく、年齢制限はない。養成訓練期間、(修了者に与えられる)資格などは、一律に固定されたものではない。
 新養成訓練として実施できる形式は、(1)オンJT(事業主の職場内で事業主により行われる職業訓練)、(2)オフJT(事業主の職場外で行われる職業訓練)、(3)オンJTとオフJTの組み合わせ、のいずれの形式でも可能である。
 新養成訓練は、訓練生、事業主(、登録訓練機関(RTO))の(三者間)契約で成立する。
韓国
 2+1プログラム
 学校で2年間学習した後、残りの1年間をOJT契約によって企業で働きながら学ぶ。

  (c) 起業支援
 多くの調査対象国では、若者の起業を支援するため、資金提供等の施策が講じられている。例えば、ドイツでは、失業(求職)者で自営を行い失業状態から脱却しようとする者に対して、政府が金銭的な支援を行う制度がある(「私の株式会社」(Ich AG イッヒアーゲー))。
 また、多くの国では、学校教育において、起業に関するカリキュラムを取り入れるなど、「起業文化」の育成も行われている。

  (d) 情報提供をはじめとする就職支援
 教育段階から職場定着に至る若者のキャリア形成及び就職支援を効果的に行うため、各国は、若者向けのさまざまな就職支援を行っている。1か所でさまざまな相談支援を受けることができるワンストップ・サービスを導入しているところもある。また、近年では、ウェブサイトによる情報提供も充実してきている。

表8  情報提供をはじめとする就職支援
アメリカ
 O*NET(Occupational Information Network Online)
 インターネット上で公表されている(http://online.onetcenter.org)職業に関する総合的なデータベースで、求職者が自分の経験や能力を活かせる職業を検索することができる。
 WIA若年プログラム(WIA Youth Fomula-Funded Grant Programs)
 アメリカにおける公共職業安定所であるワンストップ(キャリア)センター(One-Stop [Career]Center)と提携した地方公共団体等で実施される14〜21歳の就職困難者のニーズに沿った各種の就職や進学のための支援に対して給付金を提供するプログラムである。
イギリス
 コネクションズ・サービス(Connexions Service)
 13-19歳のすべての若者に対して、パーソナル・アドバイザーが学習から進路に関わる悩み、薬物やアルコールなどの問題に至るまで幅広い相談や情報提供を継続的に行う。主としてニート対策として位置付けられている。
 イギリス政府ポータルサイト(Directgov)−若者(Young People)−
 イギリス政府サイト内の項目であり、学生に役立ち、学生が興味を持ちやすい様々な情報が盛り込まれている。また、サイトを見て教育や就職などに興味を持った者が支援や訓練を受けられるように、各種ページとリンクしている。
ドイツ
 仕事に関する博物館
 バーデン-ヴュルテンベルク州のマンハイムには、州立の「技術と労働の博物館」がある。同館では、繊維技術、機械工業の発達、自動車製造、化学と電気技術、エネルギー、鉄道と道路、技術と医学の7領域の技術史をコンセプトに、働く人々の生活と技術を体験・見聞できるよう展示が工夫されている。
 バイエルン州ミュンヘンにある「ドイツ博物館」は、農業、鉱業、航空工学から、鉄道、機械、宇宙に至るまで、ドイツの科学技術を若い世代に引き継ぎ、学ばせるための博物館である。
 これらの施設では、若者を含め、人々が職業に対する具体的なイメージを持つことができるよう工夫がなされている。
 職業情報センター(BIZ)
 各所の公共職業安定所に付属されたセンター。若者を顧客の中心に、職業養成訓練や学業、継続訓練などについて相談・情報提供を行っている。
フランス
 しごと館(Cite des metiers)
 職業選択の参考となる情報、(職業)訓練の検索、職業生活の転換(転職)・求職に関する情報、体験機会の提供等の機能を有し、常時、予約なして個別相談を受けられ、無料の就職フォーラム等に参加することができる。
 地域ミッションセンター及び受入・情報・指導常設センター(PAIO)
 社会的生活・職業訓練への参入に向けて個別指導を行うため、専門のカウンセラーを配置し、適職発見支援、求人情報の提供、求人企業との個別面接の機会提供、求職活動指導等様々な支援を行う。社会的生活・職業訓練への参入に向けて個別指導を行うため、専門のカウンセラーを配置し、適職発見支援、求人情報の提供、求人企業との個別面接の機会提供、求職活動指導等様々な支援を行う。
 このほか、「国立教育・職業情報機構(ONISEP)」、「青少年情報・資料センター(CIDJ)」、「青年情報センター(CIJ)」、「進路情報・指導センター(CIO)」及び「職業訓練推進・資料・情報センター(CARIF)」がさまざまな情報提供を行っている。
韓国
 総合職業体験館(JOB WORLD)
 職業情報提供を通じて、若者が職業観を確立することを支援するため、日本にある「私のしごと館」も参考に、総合職業体験館(JOB WORLD)の設立・運営を計画している。

  b  困難な状況にある若者に対する施策
 2で見たとおり、若者の中には、社会人としてのスタートにおいて不利な立場に置かれている者が少なからず存在している。こうした若者は、失業や無業に陥りやすく、いったん失業等すると、労働市場への再参入が困難になる。そこで、各国とも、こうした困難な状況にある若者をターゲットにした施策を実施している。
  (a) 若者に対する義務付け
 まず、失業給付を受給する若年失業者に対し、一定の就労等の義務を課すことで、勤労経験を積ませ、早期に労働市場に参入できるようにする施策を実施している国がある。

表9  若者に対する義務付け
イギリス
 若者向けニューディール(New Deal for Young People)
 18〜24歳までの若者で、6か月以上失業状態にあり、求職者給付を受給している全ての者に対し、パーソナル・アドバイザーを付けて行われる就職支援である。参加を拒否した場合、求職者給付(失業給付)の受給資格を失う。
 まず、最長4か月にわたる就職相談と集中的な求職支援サービスを受ける。その期間中に仕事を見つけられなかった若者は、求職活動の傍ら地方公共団体やボランティア部門における短期就労、フルタイムの教育や訓練等への参加を義務付けられる。
ドイツ
 労働機会提供(1ユーロジョブ)
 各種給付を受領しつつ、早期に就職しない者を労働市場へ参加させるために導入された制度で、労働習慣がなくなった長期失業に対して、僅少ながら手当を与えて就業経験をさせ、失業状態から脱却することを目的としている。失業給付IIを受給する25歳以下の若年失業者がこれを拒否すると、最悪の場合、失業給付の全額の支給が停止される。
オーストラリア
 相互義務(Mutual Obligation
 放置していると長期失業者になるおそれのある者について、就労習慣を維持させ、コミュニティとの関係を改善させることで、そうした者の雇用される可能性を向上させることを目的に、一連の活動に参加させる制度である。18〜49歳の「新出発手当」(失業者に対して、政府から支払われる給付)の受給者等は、パートタイム就労、ワークフォーザドール事業、ボランティアの仕事、グリーンコーアの仕事、ジョブパスウェープログラム、コミュニティの仕事体験、新養成訓練事業などの活動に参加することを義務付けられる。参加しない場合は受給している給付が制限される。

  (b) 教育・訓練の機会の提供
 次に、失業等の状態にある若者は、多くの場合、企業が必要としている技能を身につけていないため、容易に就業できない。そこで、各国は、こうした若者に対して、教育・訓練の機会を提供している(就業機会の提供についてはc(b)参照)。

表10  教育・訓練の機会の提供
アメリカ
 ジョブ・コア(Job Corps)
 経済的に不利な立場にある無職の青少年等に対し合宿訓練を実施し、規律と技能・知識を習得させる教育・職業訓練を実施する米国最大規模の若者に対する教育・職業訓練プログラムである。
イギリス
 若者向けニューディール(New Deal for Young People)
 18〜24歳までの若者で、6か月以上失業状態にあり、求職者給付を受給している全ての者に対し、パーソナル・アドバイザーを付けて行われる就職支援である。参加を拒否した場合、求職者給付(失業給付)の受給資格を失う。
 まず、最長4か月にわたる就職相談と集中的な求職支援サービスを受ける。その期間中に仕事を見つけられなかった若者は、助成金付きの就職やボランティア部門における短期就労、フルタイムの教育や訓練等への参加を義務付けられる。
ドイツ
 職業準備年(BJV)
 個人的・家庭の経済的・社会的理由によって義務教育を辞めた、又は授業についていけない者で、職業訓練を受ける(職業養成訓練生になる)機会を得られない者を対象にした制度である。
 フルタイムの職業教育を行う。生徒は、BJVを行うことで職業学校における修学義務を果たしたことと認められ、またハウプトシューレの卒業単位にも充当できる。
 職業基礎学習年(BGJ)
 職業学校でのプログラム。(1)1年間のフルタイムの授業か、(2)1年間のパートタイムの授業(同時にパートタイムでの事業所における職業訓練)である。
 対象となるのは、主にハウプトシューレの修了を予定している若者(職業教育義務がある)で、職業養成訓練生としての雇用の場を見つけられなかった者である。
 その者が職業養成訓練生になった場合に事業主の許で行ったであろう養成訓練を、国が提供する。
フランス
 雇用支援契約(CAE)
 長期失業者等の社会参入の難しい者を一時的に公共部門(地方自治体の組織、公的サービス提供法人等非営利団体)で雇用することを通じて社会参加を支援。雇用主が国と結ぶ契約には、職業訓練を行うことを入れることが強く推奨されている。
 熟練契約(Contrat de Professionnalisation)
 16〜25歳の若者及び26歳以上の求職者を対象として、期間の定めのない契約又は6か月から12か月、最長24か月の有期限契約を結ぶ。被雇用者となった者は、職業訓練機関又は職業訓練を行う企業と訓練協定を結び、職業訓練を受けながら、社会で通用する資格取得や就職・再就職を可能とする。
韓国
 職業訓練、政府委託訓練
 大卒未就職者などを対象とし、就業が有望な部門(プログラミング、ウェブ関連、観光通訳等)の職業訓練が実施される(訓練期間は1か月〜1年)。
 政府委託訓練は、非進学、中途退学若者を対象に、製造業などの人手不足部門の技能職の育成を目的として、機械設計製作、情報通信設備、溶接、室内建築、機械装備などの優先職種の職業訓練を行う。

  (c) 就職等に関する相談支援
 失業又は無業の状態にある若者は、就職をはじめ、さまざまな悩みを抱えている場合が多い。また、そもそも就業意欲が低い場合もある。こうした若者に対して、さまざまな形で相談支援が行われている。

表11  就職等に関する相談支援
アメリカ
 WIA若年プログラム(WIA Youth Fomula-Funded Grant Programs)
 アメリカにおける公共職業安定所であるワンストップ(キャリア)センター(One-Stop [Career]Center)と提携した地方公共団体等で実施される14〜21歳の就職困難者のニーズに沿った各種の就職や進学のための支援に対して給付金を提供するプログラムである。
イギリス
 若者向けニューディール(New Deal for Young People)
 18〜24歳までの若者で、6か月以上失業状態にあり、求職者給付を受給している全ての者に対し、パーソナル・アドバイザーを付けて就労の可能性などについて話し合い、相談結果に合った支援を受けることができる制度である。
 コネクションズ・サービス(Connexions Service)
 13-19歳のすべての若者に対して、パーソナル・アドバイザーが学習から進路に関わる悩み、薬物やアルコールなどの問題に至るまで幅広い相談や情報提供を継続的に行う。主としてニート対策として位置付けられている。
ドイツ
 職業相談・紹介サービス向上の取組み
 25歳未満の若者に、(1)職を与える(紹介する)、(2)職業養成訓練の機会を与える、(3)就労等の機会を与えるべく、公共職業紹介機関において、(若年)求職者一人一人にオーダーメードの指導・助言を与えることを重視する観点から、ケースマネジャー式の職業指導の体制整備の導入が図られた。現在は若者75人に1人のケースワーカーを配置することとされている。
フランス
 社会生活参入契約(CIVIS)
 16〜25歳で低水準の資格しかもたない若者を対象として、若者と国の間で契約を交わし、就職計画の実現に向けた行動の内容を規定し、個人指導も含めた就業支援を行う。
 TRACEプログラム
 学位や職業資格を得ないままに学業を終えた若者等、最も就職が困難な若者が対象。同一の相談員が、社会参入の道筋を立て、求職活動と職業訓練に関してアドバイスする。各地域において、地域ミッションセンター(ML)と受入れ・情報・オリエンテーション常設センター(PAIO)とが、各地域のTRACEプログラムの運営委員会を主宰し、関係者間の調整にあたる。

 このほか、失業者等を対象として、「ニュースタート(PAP-ND)」「雇用復帰支援計画(PARE)」が実施されている。また、地域ミッションセンター(Missions Locales)及び受入・情報・指導常設センター(PAIO)では、社会生活・職業生活への参入に向けた個別指導等が行われている。
カナダ
 スキル・リンク(Skills Link)
 高校中退者など就職困難な若者にアドバイザーをつけ、個々の職業能力などを評価したうえで、若者自身に就業実行計画を作成させ、計画に沿った就職支援及び職場定着支援を実施する。
オーストラリア
 ジョブパスウェイプログラム(Jobs Pathway Program
 政府と契約した「プロバイダー」がプログラム実施主体となり、一人一人の個人に対応した「オーダーメード」型助言を若者に対して与える。プロバイダーは、情報提供、今後の人生設計選択のオプションに係るガイダンス、次の教育・訓練機会、雇用に係る支援などを行う。2006年度からはユースパスウェイプログラム(YPP)に改称。
韓国
 個人別総合就業支援サービス(Youth Employment Service)
 若者を教育水準、失業期間等の特性と能力によって細分化して、長期失業者等の配慮を要する若者に対して、個人別総合就業支援サービスの導入推進を行う(イギリスのニューディール政策と類似)。2006年に試行事業を実施予定。

  c  就業機会を拡大するための施策
 a及びbは、主として労働力の供給主体である若者自身に対するサービスを内容とする施策である。こうした施策の実施により、若者の職業意識を涵養し、エンプロイアビリティを高め、就業可能性を高めていくことが期待されている。
 しかしながら、いかに職業能力を高め、潜在的な雇用可能性を高めたとしても、受け皿となる就業ポストが少なければ、結果として若者の就業機会は限られたものになってしまう。
 そこで、各国とも、労働市場の需要サイドに働きかけて、若者の雇用機会を拡大するための施策を実施している。
  (a) 最低賃金、社会保険料等に関する施策
 各国では、若者向けの最低賃金を通常よりも低く設定したり、一定の要件の下に企業が負担する社会保険料を引き下げる等の措置により、企業の労働費用負担を軽減し、若者への労働需要を喚起する施策を展開している。

表12  最低賃金、社会保険料等に関する施策
アメリカ
 若年労働者に対する最低賃金の特例(連邦レベル)
 20歳未満の労働者に対しては、勤務開始から90日間は、4.25ドル/時の最低賃金が適用される。90日経過後、又は労働者が20歳になった時点で、通常労働者の最低賃金である5.15ドル/時が適用される。
イギリス
 若年労働者に対する最低賃金の特例
 若者の最低賃金については、他の年齢層より低い金額が適用されている(16-17歳:3.00ポンド/時間、18-21歳:4.25ポンド/時間。22歳以上(通常労働者)は5.05ポンド/時間)。
フランス
 若年労働者に対する最低賃金の特例
 17歳以下の者については、最低賃金額を、入職後6か月に達するまでは、17才未満の者については20%、17才の者について10%、それぞれ減額することができる。また、養成訓練契約による訓練生は、年齢と訓練期間に応じて、最低賃金額を22〜75%減額することができる。
 雇用主の社会保険料の減免等
 熟練契約や雇用支援契約(CAE)、企業における若年者雇用契約などの特別な雇用契約の促進策として、契約を結んだ事業主に対して、社会保険負担の軽減や補助金の支出が行われる。

  (b) 直接的雇用創出策
 公的部門を中心に、多くは臨時雇用の形で若者を雇い入れることにより、雇用の場を提供している。

表13  直接的雇用創出策
イギリス
 若者向けニューディール(New Deal for Young People)
 最長4か月のカウンセリング等にもかかわらず仕事を見つけられなかった者について、これらの者を雇い入れる事業主への助成金支給や、地方公共団体・ボランティア部門での短期就労などといった形の雇用を提供している。
ドイツ
 労働機会提供(1ユーロジョブ)
 各種給付を受領しつつ、早期に就職しない者を労働市場へ参加させるために導入された制度。労働習慣がなくなった長期失業者に対して、僅少ながら手当を与えて就業経験をさせ、失業状態から脱却させることを目的としている。公的福祉部門での就労となることが多い。なお、失業給付IIを受給する25歳以下の若年失業者がこれを拒否すると、最悪の場合、失業給付の全額の支給が停止される。
 雇用創出策(ABM)
 東部ドイツ地域において、失業者が多数発生した事態などに対応するため、1990年代初頭から多く行われるようになった公的雇用。文化財清掃など、既存の民業を圧迫しない事業を主に市町村などの公的機関が起こし、その事業に失業者を受け入れさせて就労させ、「賃金」を支払うもの。
フランス
 若年者雇用計画
 公共性の高い新たなサービスの提供及び若者の雇用の促進を目的として、地方公共団体・各種公共団体が、過去に就労経験のない18歳以上25歳以下の求職者等を雇用することを支援するものである。当該雇用した団体に対しては、国から5年間にわたり最低賃金の80%相当(社会保障分も含む)の補助金が支給されていたが、2002年以降は補助金が廃止された。
 企業における若年者契約(Contrat Jeune en Enterprise)
 16−22歳の若者等が、全国商工業雇用連合(UNEDIC)に加盟する企業又は事業所とフルタイム又はパートタイムでの期間の定めのない雇用契約(CDI)を結ぶと、国が事業主に助成金を支給する。2005年4月以降に契約した事業主に対する国の援助は、原則としてフルタイムの者一人当たりはじめの2年間月150ユーロ、3年目は月75ユーロとなっている。

 このほか、雇用支援契約(CAE)、熟練契約等が実施されている。
オーストラリア
 ワークフォーザドール(WFD)
 失業者に対して、(1)就労の経験をさせ、(2)自信を付けさせ、人との付き合い能力を高め、働く動機を高め、(3)コミュニティにとって意義のある各種プロジェクトに貢献する、などの機会を提供することを目的に実施されている。
 各地方自治体等が、当該地方自治体等の利益となる事業を実施する際に、失業者をそのプロジェクトに雇用する。
 この事業に参加すると、相互義務(上記b(a)参照)を果たしたことになる。
 グリーンコーア(Green Corps
 連邦政府が若者を対象として実施・運営する若年者開発事業で、17〜20歳の若者に対して、環境保全、自然保護・整備、遺跡保護等のプロジェクトに参加させることで、訓練機会を与えるものである。この事業に参加すると、相互義務を果たしたことになる。
 運営主体は、オーストラリア(環境)保護ボランティア信託で、各プロジェクトは州、地方自治体、各種NPOで共同して行われることが多い。

  d  GDPに占める若年者雇用対策費の割合の推移
 OECDが若者のみを対象とした雇用対策費のGDPに占める割合を発表している。それによれば、フランスが若年者雇用対策費に大きな比重を割いている一方、アメリカ、カナダ等のGDPに対する若年者雇用対策費の割合は、低くなっている。

表14  GDPに占める若年者雇用対策費の割合
(%)
  アメリカ イギリス オーストラリア カナダ ドイツ フランス 韓国 日本
2001 0.03 0.12 0.08 0.02 0.08 0.43 0.02 -
2002 0.02 0.13 - - 0.1 0.4 0.02 0.01
 資料出所: OECD Employment Outlook2004"Public expenditure and participant inflows in labour market programmes in OECD contries"
 注  アメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ及び日本は会計年度の数値。

(3) まとめ
 これまで、各国の施策について、項目ごとに概観してきた。教育制度、雇用慣行、社会的背景などが異なっていることから、一口に若年者雇用対策と言っても、重点を置く施策については、それぞれ異なっている。
 しかしながら、各国の施策の展開にはいくつかの点において共通する方向性が認められる。
 まず、各国ともに若者の職業訓練を重視しているという点である。しかも、ほとんどの国において、雇用や教育とリンクした形で訓練の場を提供している。このように、雇用や教育とリンクした形で職業訓練を実施することについては、(1)実際の職場で訓練を行うことで産業界のニーズに即した人材育成を図ることができる、(2)教育から職場へのスムーズな移行を支援することができるといったメリットがあるものと考えられる。
 次に、職場体験又は就業経験プログラムを導入している点である。これには、大きく分けて二つのアプローチがある。一つは、学校教育課程の中で、職場体験を積ませるという方法である。これは、教育課程に在籍しているときから仕事に触れることで、教育段階から職場定着に至る過程を円滑に進めることを目的としていると考えられる。具体的には、アメリカ、イギリス、フランス、カナダなどで実施されている。もう一つのアプローチは、学校を卒業(場合によっては中退)した失業者や無業者に対して、就業経験を促す方法である。これは、さらに二つのアプローチに分けられる。一つ目は、対象者に対し、就業等のプログラムに参加しなければ給付を削減・停止する等の措置により間接的に参加を強制する方法である。イギリスの若者向けニューディールがこれに当たる。同様又は類似の施策が、オーストラリア等でも取り入れられている。二つ目は、職業訓練とセットで提供することにより、就業経験の付加価値を高め、失業者や無業者を誘導する施策である。フランスでは、特殊雇用契約という形で広く実施されている。
 最後に、相談援助のためのパーソナル・アドバイザーを配置して相談に当たるなど、若者個々人のニーズに応じたきめ細かな対応を行っているという点である。一口に若者といっても、その背景や抱えている問題はそれぞれ異なっている。基礎学力が足りない者、職場における技能が不足している者、進路を十分に検討できない者など、さまざまな若者に対し、パーソナル・アドバイザー等が、それぞれの必要性に応じたメニューを提示し、教育、訓練、就職計画を立て、実行していくというアプローチを多くの国が採用している。こうした取組みは、いわば、若年者雇用対策のあり方として、顧客重視型のサービスを目指しているということができよう。

 今後の課題
 我が国をはじめ、アジア諸国においては、近年、これら先進諸国の取組みを参考に、さまざまな施策の導入を図っている(ドイツのデュアルシステム等)。こうした施策は、一定の評価を受けているものの、グローバル化や産業構造の変化等に伴い、さまざまな課題に直面していることも事実である。また、これら先進諸国の若年失業率がなお高水準にある現状にかんがみれば、必ずしも十分な成果を挙げているとは言い切れないであろう。こうした中で、今後、各国がどのような形で若年者雇用対策に取り組んでいくかが注目される。




1  ニートは、1999年にイギリスの内閣府が作成したBridging the Gapという調査報告書がその言葉の由来となっており、いわゆる「学校に通っておらず、働いてもおらず、職業訓練を行っていない者」(Not in Education, Employment or Training)のことを通称している。
2  平成17(2005)年9月15日、「若者の人間力を高めるための国民会議」において取りまとめられた。「若者の人間力を高めるための国民会議」とは、若者の働く意欲を喚起し、能力を育み高めるため、若者自身はもとより、経済界、労働界、教育界、地域社会、政府等の関係者により構成される会議である。
3  ILO事務局は、インフォーマル経済の例示として、露天商、靴磨き、ごみ収集人、家事使用人などを挙げている。さらに、インフォーマル経済の特徴として、法律上及び規制上の枠組みの下で認知されていないか若しくは保護を受けていないこと、それゆえ、そこで働く労働者や起業家が高度に脆弱な立場に置かれていることを挙げている。詳細については、ILO事務局『Report VI Decent work and the informal economy』International Labour Conference 90th Session 2002を参照。
4  ILOは、労働政策において、ディーセント・ワークという目標を提唱している。「人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」をいう。ILOは、「すべての人々にディーセントな仕事の機会を確保すること」を目指して、(1)仕事の創出、(2)仕事における基本的人権の保障、(3)社会保障などの社会保護の拡充及び(4)仕事における民主的参加と対話の推進を4つの戦略目標として定めている(ILO駐日事務所資料による。)。
5  ここでは主として職業教育や職業経験など、何らかの形で仕事に関係する施策を中心に調査を行った。

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